優秀高場
第一話 とある記者の疑問
蠱毒
”代表的な術式として『医学綱目』巻25の記載では「ヘビ、ムカデ、ゲジ、カエルなどの百虫を同じ容器で飼育し、互いに共食いさせ、勝ち残ったものが神霊となるためこれを祀る。この毒を採取して飲食物に混ぜ、人に害を加えたり、思い通りに福を得たり、富貴を図ったりする。人がこの毒に当たると、症状はさまざまであるが、「一定期間のうちにその人は大抵死ぬ」と記載されている”
出典Wikipedia
私がこの言葉を知ったのは、とある学校の噂話を聞いて、編集長に取材の許可を求めた時だ。
その学校は、全国的に見ても優秀な学校だ。有名大学だけではなく、海外の大学への進学の実績も多数ある。それだけなら、優秀な学校だなで終わるのだが、この学校には全国から有名企業の子息や議員先生の子息だけではなく、もう今はほぼ居なくなってしまった暴力組織の子息も受け入れている。金さえ積めば入られる学校なのに、進学率がとんでもなく高いのだ。
そして、昨今では珍しい男子校で、全寮制なのだ。独自のカリキュラムで”上流社会”での立ち居振る舞いまで完璧に教え込まれる。
しかし、学校は調べられる事が少なすぎる。対外的に公表している情報が少ないのだ。
学校法人である事から、登録されている情報は見る事ができる。しかし、理事長から始まって教師は当然だが用務員や寮長まで、学校に関わっている全員が”卒業生”で構成されているのだ。
確かに、OBを優遇して採用する学校は多い。有名市立大学系の学校では特にその傾向が強い。
学校に質問状を出したら期限内にすごく丁寧な文章で、優秀な卒業生を雇い入れるのがそんなにおかしなことですか?と返されてしまった。
それだけではなく、学校で雇い入れた人たちは、跡継と期待されている人物なので、人脈作りや他の就職先よりは有利に働く事ができるという判断で、学校に就職を決めたとまで書かれていた。丁寧に、教師のプロフィール付きでだ。
そうそうたるメンバーだ。本人の事は知らなくても、バックボーンを見ると話を聞きに行くのに躊躇するのには十分だ。上司に問い合わせても許可が出るとは思えない。
なぜ、私がこの学校の事を調べようと思ったかだが、私の幼馴染がこの学校を卒業後に人が変わってしまったからだ。
確かに小学校からこの学校に入っている。彼との思い出は、小学校に上がる前まで、それ以降のと大学卒業してから出会うまでで合計20年間以上も会っていない期間があったが、本当に別人になっている。彼は、確かにとある議員の息子だ。しかし、子供の頃は母親と一緒に居て、父親の事は”怖いおじさん”程度にしか思っていなかったはずだ。
大学を卒業した彼に会ったのは偶然だった。父親の秘書をしていた。私は、記者になっていた。そして、彼の父親の取材に同行していた彼に遭遇した。
確かに見た目は大人になっている。幼い時の雰囲気もまとっている。
しかし、根本的に違うのだ。
私は、直感で彼が”別人”になってしまったと思った。事実、彼は私の事も、母親の事も、そんな昔の事は忘れたと話した。私には、彼が別人の様に思えてならない。子供の時の癖が一つも出てこないのだ。あの粗野だった彼がここまで洗練した動きができるのか?方言は?子供にだけ解る言葉遊びは?
見れば見るほど、話をすればするほど、疑問しか出てこなかった。
いろいろな噂話を耳にする。
1学年は多くても100名前後で、必ず飛び抜けて一人だけ秀才が現れるという話だ。この噂話も別に不思議な事ではない。どこの学校でも、学校の教育方針にバッチリと適合すれば、秀才は産まれるだろう。この学校でおかしな所は、”毎年必ず|一|人|の《・》|秀|才”が産まれる事なのだ。
そして、秀才を含めて、卒業生はそれまでの事が嘘のように従順になったり、過去の話を極力嫌って、過去付き合いが有ったであろう人たちから離れていくようだ。人によっては、食べ物の好みが変わってしまう事もあったようだ。アレルギーで食べられなかった物が食べられるようになっていたという話もあった。
調べれば調べるほどに、よくわからない。
100名の生徒のうち、一人の秀才が産まれて、99名が外見以外は別人になっている。
秀才も、卒業年度によって分野が違っている。そして、天才と呼ばれるような人が一人も産まれていないのだ。こんな不自然な状況が、設立以来30年以上続いているようなのだ。
編集長にその話をすると一冊の本が渡された。二十四史の13番目。隋書だ。その中ある「畜蠱」について書かれている部分を読んでおけと言われた。
読んだ後の私の感想は、そんな馬鹿な・・・だった。
学校が実行しているのは、100名の生徒の集合知を一人に集める事なのか?
残された生徒は?99名の生徒はどうなった?
性格が変わった?好みが変わった?別人の様になった?
否定しようと思って考えれば考える程、当てはまってしまう。
集合知だから、天才ではない。集合知だから、肉体的な秀才ではなく知識ベースの秀才になっている。集合知だから、学年によって違っている?
でもどうやって?
理事長や学園長の経歴を調べると、2人とも変わった所は一つだけだ。
ベトナム戦争当時に、医療団として、韓国軍と一緒に行動していた事があるだけだ。ベトナム戦争で、戦争の悲惨さを知り、子供の教育を行う事に目覚めたとなっている。何か違和感を覚えるが、事実なのだろう。
彼らが何かをやっているのは間違い無い。
「佐々木」
「はい。なんでしょうか?編集長」
「あの学校の取材な」
「はい」
「|ストップ《圧力》が掛かった」
編集長は指で上を指す。
「社長ですか?」
「もっと上だ」
そりゃぁダメだ。
議員なら、うちの会社が折れる事は無いだろうが、それで圧力が掛かったという事は、|金主である可能性が高い。うちの会社の|金主は特殊な人たちで構成されていて、表に出ていない。そこに圧力をかけられると言うのはよほどのことだろう。
正直、学校の秘密くらいで|ストップ《圧力》がかかるとは思っていなかった。
「調べた資料を出しておけよ」
「え?いいのですか?」
「あぁ取引材料にできるかもしれないからな」
「わかりました」
「無理しなくていいからな」
「はい!編集長の言い方ですと、週末までに用意しろって事ですね」
「そのくらいにあると助かる」
「はい。かしこまりました」
今は木曜日だから、約一日あると考えていいのだが・・・。今日徹夜だな。
「徹夜まではしなくていいからな。取材メモやインタビューの草案でいいぞ?記事にするわけではないからな」
「え?あっ。わかりました」
終電では帰れって事だな。まとめと、私の感想を添えておこう。
”うぅーん!”
なんとかまとまったかな。
時刻を見ると、22時30分を回った所だ。以前住んでいた、都内なら終電までまだまだ時間があるが、地方都市ではそろそろ動かないと終電にまにに合わない。慌てて、資料を編集長にメールして、メモや取材で使った手書きの資料や切り抜きに関しては、まとめて編集長にわたすことにする。ポスト状になっている物で、編集長が持っている鍵で取り出す仕組みになっている場所に入れておく。
持ちビルではないが、6階建てのビルの上から4階がうちの会社が借りている。
エレベータを待っていると、私が居る5階を通り過ぎて6階に上がっていった。6階は、役員やお偉方がいる階なので、一緒にはなりたくない。なりたくないが、もう下のボタンを押してしまっている。
エレベータが下がってきた。
”ん?誰も乗っていない?”
開いたエレベータには誰も乗っていない。
おかしいな?6階には、許可された人と一緒じゃないとダメなはずだよな?
6階のボタンは押せなくなっていて、カードキーで認証を通さないとダメなのだ。
まぁ誰かが荷物でも取りに来たのだろう。
気にしてもしょうがないから、さっさと帰る事にしよう。今日は、5階では私が最終だったので、鍵を守衛に預けて帰る事になる。
エレベータは節電という事で、この時間になるとかなり暗くなっていて、奥が少し光っている程度だ。
階のパネルも行ける階だけが光っている。1階を押して、閉まるボタンを押す。
少しだけ”ヌルっと”した手触りがして気持ち悪かった。
エレベータは3階で一度止まった。ドアが開くが、誰も乗り込んでこない。上に行くのを見て、諦めて階段で移動したのだろう。
エレベータを降りて、守衛さんがいる場所まで移動する。
「お!今日は、お嬢が最終か?」
「おじさん。お嬢は辞めてくださいよ」
「すまん。すまん。はい。鍵は確かに預かった。ここにサインしてくれ」
「はい」
私がサインした横におじさんが判子を押して、時間を書き込む。
「そう言えば、おじさん。天上階、誰かお客さん?」
「ん?お前さん以外もう誰もいないぞ?」
「え?」
「どうした?」
「ううん。なんでもない。3階の人も遅くまでいたのですね」
「3階?」
「うん」
「お嬢。ちょっと疲れていないか?|3《・》|階|は《・》|空|室だぞ?来週、お前さん達が引っ越すのだろう?」
「え?だって、エレベータ・・・」
「何かの勘違いじゃないのか?」
おじさんはエレベータの移動記憶を見せてくれた。
このビルは、言えばログをこうして見せてくれる。
確かに、エレベータは1階から5階まで直通で来て、5階から1階に向けて一度も止まらないで来ている。
そして、奥の監視カメラの映像は、私が最終だった5階は当然だが、3階も6階も真っ暗な映像が流れている。赤外線カメラの映像でも誰も居ない事が確認できている。
「・・・。そうみたいだね。温めていた記事がダメになっちゃって気分が落ち込んでいたのかもしれない」
「そうか、気落ちするなよ」
「うん!大丈夫。違うスクープを狙うよ!」
「おぉさすがはお嬢。スクープが取れたら、おごってもらおうかな」
「いいですよ!出前のお寿司でも差し入れしますよ」
「そりゃぁ楽しみにしておくよ。気をつけて帰れよ」
「はぁーい。お疲れ様」
「あぁお疲れ様」
本当に私の勘違いだったのだろうか?
3階で開いたときに、何かが腐った匂いと一緒に血のような匂いがしたけど、あれも気のせいだよね。
”やば。終電!”
時間的にはまにあいそうだが、少し急ぎ足で駅まで移動する。
明かりがついていて少しホッとする。
”イタっ!”
ん?誰かにぶつかった?
左手に違和感がある。左手を見る。
え?
なにこれ?
なんで?
え・・・??
第二話 全寮制の男子校
俺は高校生になった。学校は、小学校から同じ顔ぶれで物珍しさはない。
俺の学校は、小学校から全寮制だ。
普通の学校と違うのが、長期休みでも地元に帰る事が殆どない。小学校の頃は、寂しくて泣くやつも居たが、中学校にあがると学校の寮に居たほうがいいと思えてくる。
俺たちは、世間で言う”上流階級”の子息だ。議員の息子なんて当たり前で、世界的に有名な企業の会長の息子(庶子)なんかも当たり前のようにいる。俺は、とある大学の理事長を務める父親の3番目の息子になる。
それで、なんで皆がこの寮が”楽”だと思えるのかというと、この寮は父親たちや実家からの資金で成り立っている。
それに卒業生からの寄付金もすごい金額になっているようで、好きな物。欲しい物がなんでも手に入る。さすがに小学生の時はダメだったが、女が欲しいと言えば、女さえも用意される。男が好きという奴も居て、その場合でも依頼を出せば用意されるのだ。
食事も遊び道具も女も好きにできる。実家では、3番目の息子なんてスペアのスペア程度にしか思われていない立場だ。小学校に上がる前に、父親に会った時も、会ったのも一瞬でよく覚えていない。母親なんて顔も思い出せない。家に来ていたメイドの娘(後で知ったのだが、腹違いの妹)とはよく遊んだ記憶がある。その程度の家にいるよりも、好きな事ができる場所にいる事を望むのは当然のことだろう。
小学生のときには、4人部屋だったのだが、中学生からは一人部屋になる。
高校からは寮の場所が変わると説明されている。防音がしっかりしていて、今の部屋の2倍の広さがあるらしい。そこには、女を囲い込んでも大丈夫だと言われている。俺は、奴隷のような女を頼んでいる。
リストが来て、その中から選べという事だ。他にも、希望者がいるかもしれないので、早い者勝ちとなるらしい。身の回りの世話をさせて、下の世話をさせる女が手に入るのだ。
俺の身の回りを世話する女は、処女の日本人を要求した。どこかの児童養護施設で育ったらしい奴で無口だ。
犯した時にも何も言葉を発しない。乱暴にしても同じだ。どんな理不尽と思える命令にも唯々諾々と従うだけだ。
奴隷には首輪をつける事になっていて、首輪で俺の持ち物だと識別ができるようになっている。
この寮に居る限り金を使う必要もない。
本当に天国のような所だ。
高校一年の一学期が終わった。
同学年が集められた。なんでもできる学校だが、教師の命令は絶対なのだ。殴られる事もある。だからというわけではないが、教師に逆らう奴は居ない。最初に逆らった奴が居るが、すぐに従順になる。俺は、最初から教師には逆らわない。そのかわり、奴隷に暴力を振るって気分を紛らわす事にしている。ストレスは溜める物ではなく発散するものなのだ。
俺ではなくが、同級生で奴隷を数人ほど殺している奴もいる。しかし、警察が来る事もなく逮捕される事も寮から追い出される事もない。ただ、処理のために暫くは奴隷の手配がされなくなったり、要求した物が届くまでに時間がかかるようになる。
世の中、上流階級の子息には優しく甘くできているようだ。
俺達はこの学校で人の使い方を学べばいいという事だ。勉強も自分が好きな事を伸ばせばいい。中学までは通り一遍の授業が行われたが、高校に入ってからは、何か一つでも飛び抜ければ問題ないと説明された。
どんな事でもよくて100名の中でトップを取れる物があれば要求を叶えられるという事だ。
二学期からは、毎月、自分がトップを取れるであろう試験を申請して、試験が行われる。トップの項目の数だけ要求ができるようになるという事だ。
全員が違う事を考えれば、100個の試験が行われる事になる。誰かが申請して、学校が認めた物がテストとなって行われる。自分がトップになれる試験を考える必要があるのだ。
俺は幸いな事に記憶力には自信があった。
記憶力を必要とするテストが多い事もあり、俺はトップを3つ取る事ができた。ようするに、2人からトップを奪い取ったのだ。
3学期が終わる頃には、この学校でもカーストが形成されてきた。
俺のように優秀な者は、配下を持つ事ができた。自然とそういう風になっている。配下の者を使って、俺がトップを取りやすそうな試験を作っていく。そして、俺がトップをとって、配下たちに還元する。配下からは、要求が必要がない項目を取らせて、俺に貢がせる。このサイクルが出来上がっていく。
俺の派閥は、配下7名の中堅だ。一番大きい所は、配下22名だ。次に配下13名が続いて、配下12名が居て、俺の配下7名だ。次は、配下5名で、それ以下は2人でつるんでいたり、3名でつるんでいるだけの奴らだ。
二年に上がる時に、また引っ越しが行われる。
今度は、大きな敷地内にいくつかの建物が立てられている場所だ。
派閥ごとに建物が選べるという事だ。
俺は、最大派閥の奴に請われて。一緒の寮に入る事になった。
数は、そのまま力になる。
俺達が入った寮は、キャパは50名の一番大きな所だ。派閥の人数は、配下29名。俺と奴を足しても、31名だ。大きな部屋が二部屋独立してあるのも気に入っている。
ナンバー2とナンバー3が手を組んだ場合に、人数はナンバー1を超える配下25名となる。そのために、ナンバー1は、俺か次の派閥を引き入れなければならなかった。
俺の次の派閥は5名しかしない。これでは、配下27名にしかならない自分たちを入れても29名だ。これでは、俺がナンバー2と3の派閥に合流したら力関係が逆転してしまう。13と12と7で配下33の派閥が出来上がる。自分たちを数えると、36名になるからだ。
ナンバー1は、頭の切れる男だ。
俺を引き入れる事で、数の差を最小限に抑えようとした。
俺が参加した事で、31名の派閥になる。
ナンバー2と3は、ナンバー5を引き入れたとしても、配下30名で合計33名となる。しかし、ナンバー5は、派閥には参加しないで、小さな6名用のログハウスで独自路線を貫くようだ。
このような体制ができた事で、俺達の派閥への参加も増えてきた。
そして、高校二年の二学期が始まった。
長期休みが必要ない学校なので、一年を3つに区切って学期を作っているだけだ。4月始まりで、8月からが2学期だ。
ここで事件が発生した。
ナンバー1の配下の一人が失踪したのだ。
俺達も手伝って探すが、敷地内から外に出られない事から、他の派閥に拉致監禁されているのではないかという事になった。そして、数日後にナンバー2と3の所から配下が一人ずつ失踪した。
ナンバー2と3は、俺達が拉致監禁したと見ているようだ。この情報を持ってきたのは、泡沫派閥の者で俺が買収した者だ。簡単に言えばスパイだ。相手が考えている試験内容を先に知る事ができれば、俺達の誰かがそれを覚えれば相手にダメージを与える事ができる。
また数日後に、学校側から情報が伝えられた。
3人の生徒の死亡が確認されたという事だ。殺害方法は集団暴行だという事だ。そして、不思議な内容が通知される。
生徒が属していた派閥の者一名に生徒が持っていた物を引き継ぐという事だ。物の中に知識という項目が入っていた。一人が相続する事になるようだ。スパイからの情報が入って、ナンバー3は自分が相続する事にしたようだ。
そしてナンバー3が学校から指定された場所に赴いて帰ってきたら、死んだ生徒が得意だった物理学を習得していたのだ。やり方は本人も解っていなかったようだ。ただ、学校側から指定された飲み物を摂取して、少し身体がだるいなと思ったら、今まで苦手だった物理学が解けるようになっていたということだ。
この話がスパイから伝えられると、ナンバー1は自分で相続する事に決めたようだ。ナンバー2も同じ様にした。
3名が死んだ事で、試験が減るかと思ったが、減らなかった。最期に出した試験が継続されると発表された。
派閥の数が減っても、俺達の力関係はさほど変わりがないという事だ。
そして、殺害方法が詳細に発表された。
ナンバー1配下はナンバー5の奴らに拉致監禁されて殺された。殺害の理由は、配下のメンバーが、ナンバー5の奴隷を施設内で犯したのが原因だ。ナンバー2と3の配下を殺したのは、ナンバー1の配下の一部とナンバー5の配下だ。スパイを介して繋がっていたようだ。
すぐに、ナンバー2と3から抗議が来るが、ナンバー1は黙殺した。これ以上何か言ってきたら全面攻撃に出ると脅しをナンバー5に告げて自然と声が耳に入るようにした。ナンバー5がナンバー1の配下を殺した事に関しては、ナンバー1と5で同意をとっていたようだ。
形式的には、ナンバー1がナンバー5を使って配下を殺させた様にも見える。
ナンバー2と3は、この件を使って配下の揺さぶりを仕掛けてきた。ナンバー1は追い込まれて居た。自分で武装し始めたのだ。自分の身は自分で守るかのようになっている。ナンバー1の配下は、そんなトップには頼れないと、逃げ出そうとするが、配下の一人で逃げ出す派のトップが粛清された事で声が小さくなった。
代わりに、俺に武装を要求して欲しいと依頼する様になった。
俺は、ナンバー1の配下の要求を聞き入れて、全員分の武装・・・銃・・・を用意した。ただし、弾の数は少なくした。俺に銃口を向けられても困るし、戦いになるとどうなるかわからないからだ。弾は試験の後で要求してもらう事になった。
三学期が始まる一つ前の試験のときに、ナンバー2が何者かに殺害された。遺産は、ナンバー3が引き継いだ。
三学期に入ってからすぐの試験で、ナンバー1が配下の者に殺害された。配下の者は、そのままナンバー5の下に参加して、ナンバー1の遺産を持参金代わりにしたのだ。
ここで、完全に派閥が崩れ去った。
誰かが自分の命を狙っている。そんな状況が作られてしまったのだ。
俺も学年のトップを争う一人になっている。
こうなってみてはっきりと解る。夜寝るのが怖い。一人でいるのが怖い。2人以上になるのが怖い。
いつ殺されるのか?誰が味方で、誰が敵なのか?配下の者たちはいるが、いつ裏切っても不思議ではない。俺を殺して、俺から全てを奪えば、そいつが翌日からトップの一人になれる。
全員が敵なのか?
奴隷も抱けなくなっている。落ち着かない。ナンバー2は、奴隷だけを複数抱えて部屋で籠城したのだが惨殺された。犯人は、ナンバー5の配下の者だ。殺害方法は公表されていないのだが、ナンバー2の遺産を引き継いで、ナンバー1になったのがそいつだから間違いないだろう。しかし、そいつも翌日にナンバー5によって殺害された。
俺は、相対的にナンバー3か4になれるように調整している。
上になった者と形だけでも同盟を結ぶ事を繰り返している。俺は生きて卒業する。
100名居た同級生も、昨日で43名まで減っている。いや、昨日俺が殺した奴がいるから、42名だろう。
3年生に上がってすぐに学校から宣言がなされた。
学校から卒業できるのは一人だけだと。それから、3年生の授業と試験は全て学校側が決定するという事だ。
上流社会で必要になるマナーや言葉遣い。所作やお茶や芸事まで試験は多岐に渡った。
今までの知識が一切役立たない。これらの事に精通していた奴らも居たが、すでに誰かに吸収されている。そいつらを殺して知識を奪うしか無い。殺す方法を考えると同時に、学校が出してくる試験内容に関しても覚えていなかればならない。
3年生の試験からは、学校側が指定する人数しか次のテストが受けられない。処分されるのだ。殺して奪うには、リスクがあるが、殺さなければ覚えるしか無い。覚える自信がない者は殺して奪う。その知識を持っている事を隠しながら生活して生き残るために殺しと勉強を行い続ける。
ここではそれが当たり前だ。
俺達は選ばれた者たちで、上流社会の者たちだ。弱い者から搾取してなにが悪い。命さえも同じだ。
でも、俺は三年の2学期が始まるのを知る事が出来なかった。
殺されてよかったとは思わないけど、なんか疲れたのも事実だ。負け惜しみではない。俺は疲れたのだ。
第三話 学校の噂
「どうだ?」
「今年の出来ですか?」
「そうだ」
「芳しくないですね。まだ始まっていません」
「そうか、派閥は?」
「出来ています」
「仕掛けろ、女からは情報が抜き取れているか?」
「もちろんです。全員分の遺伝子情報はいつものように入手しています」
「それは重畳」
「はっ!それで今回はオーダーはなしですか?」
「あぁ自然に任せろ」
この学園では、生徒になんでも与えて、教師に逆らえない状況を作る事から始める。
100名を家畜にする事から始める。大体の家畜が、中学生になるくらいで雌を求める。種族の指定や処女性を求める場合もあるが問題ない。どうせ、わからないのだ。心を壊してしまっているので、奴ら餓鬼に判断できる状況にはない。
それにしても、理事長達は本当に恐ろしい事を考える。
生徒たちを1ヶ所に集めて殺し合いをさせて、一人に知識を集中させる。実際に残った一人は心が壊れるが、いろいろな知識をもった秀才が出来上がる。そして、死んでしまった生徒の遺伝情報を、発展途上国や孤児に治療としてあたえて、整形を繰り返して、別人を作ってしまう。
その程度で親が騙せるとは思えないが、この学校では小学校から高校卒業まで親にはモニター越しにしか会えない。そして、自分たちを上流階級や選民だと思っている馬鹿な親は子供をアクセサリーの一つ程度にしか思っていない。
高校を卒業するときには、別のカリキュラムでマナーや勉強を教え込まれた、整形済みの子供達を自分の子供として喜んで迎える。
どうせ、長男の予備の予備程度にしか思っていないものが、優秀になって帰って来て、長男を支える様になるのだから、学校の評判もうなぎのぼりに良くなっていく。
「そうだ。あの女性の記者はどうした?」
「担当は私ではありません」
「そうか、誰に・・・。あぁ奴隷にしたのだったな」
「はい。今頃、薬で調教している頃です」
「わかった。始末は任せる」
「はっ」
「男は?」
「いつもどおりに処理しました」
「男は困るよな。あまり食べる所も無いからな」
「まったくですね。それに脂肪か筋肉だけで餌にもなりませんからね」
---
「編集長」
「なんだ?」
「佐々木の奴を知りませんか?」
「佐々木?そんな奴居たか?」
周りを見るが、誰しもが同じような反応だ。
学校の事を調べていたのは間違いない。週明けから姿を見ていない。週末には居たはずだ。
何をふざけていると思っても、編集長だけではなく、部員の全員が同じ反応だ。俺の方がおかしいのか?
いやそんな訳はない。確かに、佐々木が学校の事を調べていた。編集長から、蠱毒と言われる呪殺があると教えられていた。
佐々木が言っていた事が気になった。気になったが、皆が知らないのならこれ以上ここで調べる事は出来ない。
俺はひとまず家に帰る事にした。
荷物が届いている。
佐々木の癖のある字だ。俺宛に何か送られてきている。
内容を読んだ。
こんな事が行われているとは思えない。
100人から1人に知識を集める。
集合知の子供を作成して、残り99人はどうなったのか?全員に関して調べる事が出来なかったらしいが、卒業生は有名なので、卒業生と同世代の財閥の子供や関係者を当たってみたら、あの学校に入った人間|全|て《・》が人が変わったかのようになっている。
ただし、小学校から高校までの間に会った事がある者が皆無で有るために、皆がそんなものだろうと考えているという異常な状態だとまとめられている。そして、取材を”上から”の指示で止められた事。編集長に言われて記事をまとめた事が書かれている。
奴が消えた夜の事も書かれていた。
6階まで上がったエレベータ。3階で止まったエレベータ。
そして、人が変わってしまったかのような編集長。
俺は、明日辞表を提出する事を決めた。
---
「理事長」
「なんだ?」
「今年の卒業生が決まりました」
「それはよかった。予想通りか?」
「いえ、オッズとしてはかなり高いほうです」
「ほぉ・・。これは、皆様に喜んでいただけるかもしれないな」
「はい。販売も好調です」
「それはよかった。一枚1,000万円するビデオが完売するか?」
「はい。残りあと僅かです」
「そうかぁそうかぁそれはよかった。彼らの生活も無駄ではなかったのだな」
---
「おい。能美!能美!」
誰だよ。
後ろを振り向くと知った顔だ
「なんだ。官僚様かよ。出版社をクビになった三流以下の俺に何のようだよ」
「お前が、あの学校の事を調べていると聞いて情報を持ってきた旧友をそんな風にいうのだな」
旧友はそういって笑ったのだが、俺の経験からいうとかなり危ない橋を渡った事になる。
「大丈夫なのか?」
「ん?あぁ俺の派閥は、あの学校が属している派閥とは逆だからな」
「そうなのか?」
「そうだよ。だから気にするな。でも記事にはできないぞ?」
「かまわない」
「そうか、それなら、この資料を読んで見ろ」
そう言って、旧友から渡された資料はかなりの分量がある。
実際にその場で読めるような代物ではない。
「わかった」
「あぁでも、これ以上は突っ込むなよ。ヤブから蛇程度なら俺でもなんとかなるけど、ヤブを突いて毒虫を大量に発生させられたら対処できないからな」
「肝に銘じておくよ」
旧友に礼を述べてからその場を後にした。
資料は、佐々木のメモにあった事とそれほど違いはない。
違ったのは、佐々木が調べても出てこなかった理事長と学長の詳細な経歴が書かれていた事だ。
そして・・・
理事長と学長は、すでに死亡した事になっている。
いくら調べても状況がわからなかったわけだ。
ベトナム戦争で産み落とされた認知される事がない、ライダイハンやアメラジアンを救済する団体を作って現地活動をおこなっていて、現地団体が某国からの圧力で潰されてから、日本で学校を作って、優秀な生徒を送り出す学校になっていった。
理事長と学長は、学校を作った後もベトナムと日本を行き来していて、その途中でテロにあって殺された事になっている。
死んでしまった者が作っている、秀才を作る工場?
救済された子どもたちがどこにいるのか?
性格が変わってしまった99名と秀才になった1名。
存在が消された佐々木。性格や雰囲気が変わってしまった編集長たち。
佐々木の伝言にあった事実。
3階で何が行われていたのか?6階に止まったエレベータには誰が乗っていたのか?
一つの建物に入れられた100名の子どもたち、一人になるまで競い合わせた結果。一人の秀才が産まれる。
そんな事が有っていいのか?許されるのか?
佐々木のメモに残されていた。蠱毒。毒虫を殺し合わせるのではなく、高校男子を殺し合わせる。そして、勝ち残った者が神童となる。
人間の子供で同じ事をおこなっているのか?
そんな馬鹿なという感情が溢れてくるが、否定できない俺が存在する。
蠱毒
”代表的な術式として『医学綱目』巻25の記載では「ヘビ、ムカデ、ゲジ、カエルなどの百虫を同じ容器で飼育し、互いに共食いさせ、勝ち残ったものが神霊となるためこれを祀る。この毒を採取して飲食物に混ぜ、人に害を加えたり、思い通りに福を得たり、富貴を図ったりする。人がこの毒に当たると、症状はさまざまであるが、「一定期間のうちにその人は大抵死ぬ」と記載されている”
出典Wikipedia
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「理事長」
「いいですよ。泳がせましょう」
「かしこまりました」
「それよりも、来期の生徒たちの準備はできているのですか?」
「問題ありません。100名の生徒が揃っています」
「そうですか」
「理事長。来期から開始される秀才工場ですが、要望が入っております」
「わかりました。できるだけその要望には答えてあげなさい」
「かしこまりました」
「それで要望は?」
「銃は使わないで、毒物を多用してほしいそうです」
「わかりました。それでは、校舎Bの方がいいですよね。生物兵器が眠っていますよね?」
「かしこまりました」
「ふふふ。楽しみですね」
「はい」
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「能美!」
「お!これは優秀な官僚様。お呼び立てして申し訳ない」
「それはいい。それでなんだ?」
「あぁ」
能見は周りをキョロキョロしてからため息を付いた
「ここ暫く監視されているような感じだったけど、今日は無いと思ってな。お前じゃないよな?」
「俺が?そんな権限なんて持っていないぞ」
「そうだよな。お前がそんな危ない橋を渡るとは思えないからな」
「そうだな。危ない橋は中学の時と同窓会だけで十分だ」
「そうだな」
中学の時の話と同窓会の話はタブーになっている。
こういう話はあいつの方が得意なのだけどな。
「それでなんだ?」
「あぁ悪い。今日田舎に戻ろうと思ってな」
「そうか、帰るのか?」
「あぁ」
久しぶりに東京で地元の匂いを感じるやつだったけど仕方がない。
奴は東京にいるべきではない。
俺は奴の死亡記事は読みたくない。
もう友達が殺される状況を感じたくない。
「能美!」
「なんだよ!」
「桜は向こうにいるのだろう?俺が会いたがっていたと伝えてくれ!」
「わかった。俺も、桜には会いに行くつもりだからな」
優秀高場