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リザリカ

 篠塚ひろむ氏の漫画原作のアニメ作品「わがまま☆フェアリー ミルモでポン!」より、アニメオリジナルキャラクター「ワルモ団」の二次創作小説です。
 誰にも弱音を吐かないリーダーに元気になってほしい、黄色い彼の子供だましな一つの計画。

※※以下の注意書きを必ず読んでください※※

◇【登場人物】メインはイチローとゴロー。二人しか出ません。
◇一応、原作に沿った話ですが今回は擬人化前提です(重要)
◇6/16が語呂合わせで「無重力の日」とのことだったので、ぼーかりおどP様のVOCALOID楽曲「1/6-out of the gravity-」【http://www.nicovideo.jp/watch/nm6971638】をベースにした作品となっています。そのため、タイトルや本編の節々に歌詞から引っ張ってきた表現が見受けられます。インスピレーションを受けただけなので歌が100%合致しているかというと微妙ですのであしからず。
◇ほんのりイチロー×ゴローっぽいCP要素を含んでいます。におわせる程度ですが、苦手な人はご注意を。
◇全体的に盛大なねつ造とキャラ崩壊があります(※擬人化前提ゆえのねつ造描写があります)
◇時系列はダアクがいる頃(アニメ本編でいえば「ごおるでん」辺り)のつもりです。

 注意書きから少しでも嫌な予感がした方はそっとこのページを閉じましょう。
「何でも来い‼」な心優しいお方はどうぞゆっくりしていってくださいませ。

 おれはドジで、どんくさくて、抜けているかもしれない。
 でも、こんなおれでも思うんだ。お前を支えたいって。お前の重荷を外せたらって。何の取り得も無いおれだけど、出来ることなら何だってしたい。それで、お前が少しでも楽になれたらって思うから。
 ひょっとしたら、おれの勝手なエゴかもしれない。大きなお世話かも、お節介かもしれない。でも、それでも、おれはお前の支えになりたいんだ。お前はいつもおれを支えてくれてるから。背中をそっと押してくれるから。この気持ちがたとえ、おれの自分勝手や自己中心な正義だったとしても、おれは(こいねが)う。
 お前の重荷が軽くなりますように、と。


◇◇◇
 「……ね、ねぇイチロー!」
 「ん?」
 胡坐をかいて本を読んでいたイチローの目の前に、正座して目線を合わせる。膝に手を乗っけて、居住まいを正す。話しかけると、イチローは顔を上げてこっちを見た。お互いの視線がかちりと合う。
 「あ、その、えっとな……」
 「何だゴロー。何用だ?」
 おれを見るイチローの表情はいつも通り、冷静で掴み所の無い印象。特に目立って変わったところは無いようだ。けれど、いつもは鋭い光を湛えた赤い瞳が、今日は何となく陰っている気がする。
 普段より力強さが失せた瞳でも、しかしイチローに見つめられると緊張してしまう。その目力に背筋がしゃんとする。ワルモ団として一緒にいる時間はかなり長いけど、未だに慣れないな。いや、今はそれで緊張している場合ではない。おれは喉につかえそうだった言葉を吐き出した。
 「あ、あのさ!今からちょっと出かけないか?」
 「今からか?」イチローはきょとんとして、壁時計に目をやった。
 時刻は夜の10時頃。少なくとも出かける時間ではないのは明白だ(早寝なジローはもう寝てしまっている。夜更かし大好きなサブローやシローはまだ起きているはずだ)。
 だけど、それがいいんだ。あまり人が出歩かない時間帯だからこその、おれの小さな計画。むしろ、こういう時間でないと。
 「もう遅いではないか。良い子も悪い子もいい加減寝る時間だぞ」
 「いやいや、おれたち子供じゃないから。お酒の飲める大人だからね?」
 真顔のイチローに思わずツッコミを入れると、イチローは「冗談だ」とくすくす笑った。時々イチローは真顔でさらっと冗談を言う。良くも悪くも物事を信じやすいおれは、彼の冗談に振り回されることも珍しくない。
 「まあ、俺はどのみちまだ起きているつもりだったから構わんぞ。たまには夜の散歩も悪くないし」
 そう言って、イチローは読んでいた本にしおりを挟んだ。その時に見えた本の題名から、かなり専門的な魔導書だと何となく分かった。そのぶ厚さたるや半端ではなく、まるで辞書みたいだ。おれにはとてもではないが読めそうにない。
(イチロー、真剣なんだな……ダアク様の為に)そう思うと、改めてイチローに憧憬の念を抱く。
 「……ゴロー、行くのだろう?何をしてるのだ?」
 なんて取りとめの無いことを考えているうちに、イチローはいつの間にか羽織を着て準備を整えていた。
 「あ……!ご、ごめんごめん」
 慌てて立ち上がろうとした……その時、不意に足に違和感を覚えた。じーんと痺れるような、何とも言いがたい独特の痛み。おれは立ち上がれず、(うめ)き声と共に前のめりに手を付いてしまった。
 「……どうした?」
 「うう……足……痺れちゃった……」
 「……お前、正座が苦手なら胡坐にしておけば良かったろうに」
 「た、確かに……」
 失敗したなあ。おれが乾いた笑いで誤魔化すと、イチローもやれやれと笑った。そして、そっと手を差し伸べて立ち上がるのを支えてくれた。あちゃあ、早速情けないところを見せてしまった。今日はおれがリードすると決めてたのに。
 ……いや、ここでめげたらダメだ。大事なのは、出かけた後、だからな。


◇◇◇
 ゴローの足の痺れも治まった頃、俺はゴローに連れられて夜の町へと繰り出した。
 昼間は車通りの多い道路も、この時間帯だとすっかり静かだ。家の灯りもちらほらとしか点いておらず、強いて明るいのは等間隔に設置された街灯くらい。こうして二人並んで歩いていても、すれ違う人間はほとんどいなかった。静まり返った夜の世界で、聞こえるのは俺とゴローの、間隔のずれた足音だけ。
 「……ところでゴロー」歩き始めて数分後、俺は隣の連れに声をかけた(この時の連れはむしろ俺の方なのだが)。
 「どこに行くか決まっているのか?」
 「もちろん!……って言っても大した場所じゃないけどな」
 「ふむ……お前の行く所というのが少しばかり想像できんのだがな」
 どこへ行くつもりなのだ?と問いかけると、ゴローは悪戯を企む子供のように笑って、口元に人差し指を当てた。
 「行ってからのお楽しみ!ってことで内緒!」
 「ほう……内緒にするほどの場所なのか。さぞかし良い所なのだろうな……?」
 珍しいゴローの振る舞いに驚いた反面、そんな彼をからかってやろうという悪戯心が芽生えた俺は、にやりと笑んで茶々を入れる。
 「えっ、いや、その、た、大した場所じゃないってば!そんなハードル上げるようなこと言わないでよう……」
 いつになく得意げにしていたゴローの表情は、それだけであっけなく崩れた。素直にあたふたと慌て始めた姿がおかしくて、くすくす笑い交じりに「冗談だ」と言ってやると、ひとまずほっとしたようだった。全く、毎度のことながらからかい甲斐のある奴だ。叩けば鳴るどころか、軽くつつくだけでも充分すぎるくらい鳴ってくれるのだから。
 まあ、兎にも角にも、どこへ行こうと構わない。ゴローの選りすぐった場所だ、少なくとも外れは無いだろう。これは本心だとも。
 「遠いのか」
 「そんなでもないよ。でも折角だし、ちょっと急ごっか!」
 ゴローは無邪気な笑みを見せると、俺よりも一歩前へ出た。そのまま俺の手を握り、優しく引いて歩きだした。
 「お、おい、ゴロー、そんなに急ぐことでもあるまい?」
 「いいからいいから!ほら、早く行こうよイチロー!」
 「全く……仕方の無い奴め」
 呆れつつも、俺はゴローの手が導くままに歩幅を合わせて歩いてやった。


◇◇◇
 どれくらい歩いただろう、ようやく目的地に到着した。
 「ゴロー、ここは……?」
 「うん。ちょっとした塔、だよ」
 きょとんとしているイチローに、おれは笑ってみせた。
 そこは、町のはずれにある小さな塔。昼間、景色の良さそうな日に人間たちがこの塔をエレベーターで昇り、眺めを楽しんでいたのを見たことがあった。本来は何の目的のためにある塔なのかおれもよく分かっていないんだけど、恐らくは展望目的の塔だろう。目測だけど、ざっと五階建てのビルくらいの高さはあるように思える。
 「どうしてここに?」
 「まだ秘密っ。この塔のてっぺんに昇ったら教えるよ」
 「もう閉まってるではないか」
 かれこれもう夜中だ。入り口のドアは固く閉じているのは至極当然のこと。けれど、おれは声を上げて笑った。
 「あははっ、イチローってば忘れたの?おれたち、飛べるじゃないか。こんなに夜遅い、しかも町はずれなら人も見てないから大丈夫だよ」
 さ、行こう!と一言、おれは地面を軽くトンッと蹴った。真上にジャンプした状態から、魔力を使ってふわりと宙に浮く。イチローも続いて地を蹴り、おれと並んだ位置に浮かんだ。
 おれたち妖精の姿は基本的には人間には目視されることはない。ただ、それは一般の人間に限った話で、妖精を相棒に持つ人間は例外だ。そんな人間に、おれたちが今から塔を登ろうとする姿を見られると都合が悪い。が、さっきも言ったように今は真夜中。しかもおれたちのいる場所は人の集中する町の中心から外れたところにある。そんな限定した人間に見られる可能性の方が低いだろう。
 「中のエレベーターは使えないけど、これなら塔の上まで行けるだろ?」
 「まあな……」
 「最上階まで行ったら、そこからこっそり中に入ってもいいし」
 「……ゴロー、お前意外とやんちゃなのだな。もう少し大人しいかと思っていたぞ」
 「え、そうかな?」
 やんちゃって、サブローやシローのことを言う気がするけどなあ。おれは小首を傾げた。
 「まあいい。だが中に入らずとも、どこか腰掛けられるようなスペースがあるだろうさ」
 「そうだね。じゃあ、確かめに行こう」
 うむ、と頷くイチロー。おれは少し先行して塔の上を目指した。ちらりと振り向くと、イチローもやや遅れて付いてきている。そうして、二人で夜の涼しい空をゆったりと上昇する。
 (ああ……いよいよか……)
 しばらくすると無性にドキドキしてきた。塔を昇るほどに、その緩やかな動きと反比例して胸の鼓動は少しずつ速まっていく。
 どうしたんだろう。もうすぐ計画の佳境に入る期待だろうか。それとも、イチローと面と向かって話す緊張だろうか。或いは、上手く伝えられなかったら、引かれたらどうしようという不安だろうか。
 ただはっきり言えるのは、イチローと並んで飛んでいなくて良かった、ということ。もし彼が隣にいたら、きっとおれの鼓動が速まったことに、表情で気付かれてしまっただろう。ひんやりと冷たい風が、頬をなぶっていくのがやたらはっきりと感じられた。

 雲を抜けて昇っていくと、程なくして塔の上部まで辿り着いた。最上階と思われるそこが展望台スペースなのだろう。設けられたそこはガラス張りになっており、塔の体を取り巻くようにぐるりと一周、円形に出っ張った形をしていた。人間たちはエレベーターでここにやってきて、内側からガラス越しに景色を眺めるのだろう。
 尤も、今のおれたちにとってこの造りは丁度いいベンチのようなものだった。この張り出した所の上に座れそうだ、と判断したおれは、少し下で控えていたイチローに大丈夫そうだと頷く。イチローはそれに頷き返して、すいっと上昇してきた。
 「ここ、よさそうじゃない?」
 「ああ。お(あつら)え向きだな」
 ふわりと、ゆっくりそこに降り立って腰掛ける。イチローはおれの隣に同じく座った。
 そうして見た景色におれは思わず声を上げた。暗い暗い夜の町並み。そこに点々と灯っている家の灯り。橙、白、黄色、温かな印象の光があちらこちらでぼんやりと光っているのだ。
 「意外といい眺めだな」
 「だねぇ。おれもここまでいい景色だとは思わなかったよ。こんなに高いと、風がひんやりして気持ちいいね」
 「ふふ、そうだな」
 イチローが少しだけ笑った。良かった、どうやら気に入ってくれたらしい。
 「何だか星空を見下ろしてるように見えない?」
 「言われてみればそうだな。家の灯りが星のように見える」
 「でしょ?―――それにさ、こうして高い所にくると、ちょっぴり軽くなった気がしない?体も、心も」
 「……え?」
 不思議そうな顔をしたイチローを、おれは真っ直ぐ見つめる。彼と目を合わせると緊張するけれど、今度はどもらないで続けた。
 「イチロー、最近元気無いよな?実をいうとさ、おれ……見たんだ、たった独りでダアク様にお叱りを受けてたお前を」
 おれの言葉に、イチローは面食らっているようだった。少し視線を泳がせてから、俯いて力無く微笑み、困ったように頭を掻いた。
 「………全く、参ったなぁ。見られていたのか」


◇◇◇
 ――――事のきっかけは数日前。
 その日おれは偶然にもダアク様のおわす部屋の前を通りかかり、そこの扉が開いているのに気が付いた。ついでに、部屋から聞こえてきたダアク様とイチローの話し声にも。
 いけないと分かっていながらも、つい部屋を覗いてしまった。そこには只々(こうべ)を垂れるイチローの後ろ姿と、怒りも露わなダアク様がいた。聞き耳を立ててみると、どうやらイチローはワルモ団全体のここ最近の失態についてお叱りを受けているらしかった。
 確かに最近のおれたちは特にアクミやラットに遅れを取っていたし、大きなヘマも目立った。それがとうとうダアク様の逆鱗に触れてしまったのだろう。
 皆の許に戻ってきた彼は至って普段通りの調子で、ダアク様から受けた話を淡々と告げていた。でも、たった独りでダアク様のお叱りを受けていたんだ、いくらイチローでも相当応えただろう。五人一緒なら軽くなるだろう悩みや辛さも、独りだけではきっと重くのしかかるに違いない。もしおれがイチローだったらと考えると、耐えられない。おれは心身ともにそこまで頑丈ではないから、すぐに押し潰されそうだ。
 そんなおれとは違って、イチローは気丈な人だ。滅多なことではへこたれない。あの時も平気そうな顔をしていた……けれど、その赤い瞳はどう見ても疲れきって暗く陰っていた。正直言って鈍いおれでも分かったんだから、イチローの心労はかなりのものだろう。
 にも関わらず、やっぱりイチローは強かった。頑として弱音一つ吐かなかった。おれが心配して声をかけても、「大丈夫だ、何でもないから気にするな」って笑うだけだった。

 その笑顔がほんの少しだけど引きつっていたの、おれ、気づいてたんだよ?
◇◇◇



 「俺としたことが、部屋のドアを閉め忘れたのだな。しかし、それでも立ち聞きは感心せんな?」
 「う……ごめんなさい……でも、イチローの声がしたから気になっちゃって……」
 「まあいい、聞いてしまったものは仕方ないさ。それで、質問の答えだが……」
 しょぼんとするおれを慰め、イチローが続けた。
 「重ねて言うが、心配はいらん。俺はこの通り元気だぞ。これくらいで音をあげているようでは、ダアク様のお眼鏡にかなうことなど不可能だ。失態が続いているのは俺の監督不行き届きのせいだからな……俺がお叱りを受けるのは当然のことさ」
 そう言って、イチローは笑った。
 それを見た瞬間、何かが電流のようにおれの内側を走った。

 「心配いらない」?「この通り元気」?
 そう言うくせに、だったら何で……そんなに苦しそうな笑顔なんだよ……?

 「……イチロー、嘘も大概にしてくれよ……」
 気が付くと、おれはイチローの手を自分の両手で包み込んでいた。
 「おれはイチローじゃないから、イチローがどれくらい苦しいとか、悲しいとか、全部は分かんない。でも……イチローが無理してるんだってことは分かるよ」
 イチローはどこか戸惑ったような表情だった。おれの言葉が意外だったのかもしれない。それでも、おれの言葉は遮ることなく聞いていてくれた。
 「あのな、おれがイチローをこの塔の、それもてっぺんに連れてきたのは、はっきりいうと子供だましでしかないんだ。でも、イチローがどんどん黒い沼の深みにはまって、沈んでいく気がして……ほっとけなくって……だから、少しでもイチローの気持ちを楽にしたいって思ったんだ」
 あれ……どうしたんだろう、頬が熱い。鼻の頭がツンとしてきた。少しずつイチローの顔が歪んでいく。水彩絵の具が滲んでいくみたいに。
 「そしたら、一つだけ思いついたことがあったんだ。考えたくせに、結局は子供だましにしかならなかったけど……ちょっとでも意味が伝わったらいいなって、思って。おれ、言葉だけじゃ上手く伝えられないから……」
 そこから先は言葉が出なかった。思いつかなかっただけではなく、喉が詰まってしまったのだ。肩も少し震えてきた。おかしいな、上空とはいえあんまり寒くないはずなのに。
 「………ふふふっ」
 ふと、イチローが笑った。おれの手を、今度はイチローの温かな手が包み込み返す。
 「子供だまし、か。確かに誰かにとってはそうかもしれんな。だが、俺はゴローらしいと思うぞ」
 「おれ、らしい?」首を傾げると、イチローは頷いた。
 「飾ろうと、格好付けようとせず、お前らしい発想で得た案を考えた末に実行する。そんな飾らなさ、丁寧さ、あるいは素直さがお前らしいと思ったのだ」
 温かいその手が、今度はおれの顔に伸びた。そして、親指が目尻を優しく拭う。
 「……そうかな……的外れじゃないかな……?」
 「俺は少なくともそうは思わん」
 「おれの言いたいこと、こんなんじゃ分かんないでしょ」
 「的を射た答えは分からんが……お前が俺を元気付けようとしていることはしっかり伝わったぞ」
 イチローはいつもの優しい声で、喋り方で、笑顔でそう言った。
 それを聞いて、見て、おれは自然に頬が緩んでいくのが分かった。さっきより、イチローの瞳から陰りが失せている気がした。



 ―――――この空をどんどん上に昇っていくと、いつかは辺りが真っ暗な世界になるらしい。
 ジローが教えてくれたことだ。その世界を、人間たちは「宇宙」と呼んでいて、辺り一面に星の海が広がっているのだという。その星の海の中では、おれたち妖精ですら飛ぶ力を使わなくても体が浮いてしまうらしい。その「宇宙」という場所では、体の重さまでもが1/6になってしまうからなんだって。そんなことを教えてもらったのと、イチローがダアク様のお叱りを受けていたのを見たのは、ほぼ同じ時期だった。
 おれが一つだけ思いついたこと。それは、イチローを物理的に高い所へ連れていくことだった。
 本当は、その「宇宙」という場所に連れていきたかった。そこにいけば、イチローの抱えた辛いコトも悲しいコトも、体の重さごと軽くしてあげられる気がしたから。でも、もちろんそんな大掛かりなことは、今のおれにはできっこない。だからせめて、“重力”のはたらく地上よりも上へ連れていきたかったんだ。



 「ゴロー」イチローがおれを呼んだ。何?と答えようとしたら、急に視界が暗くなり、次いでよく知った匂いと体温を感じた。抱きしめられたんだ、そう理解するのに少しかかってしまった。
 「え、え、えっと……イチロー……?」
 (やぶ)から棒にそんなことされたものだから、一気に頬が熱くなった。
 「……ありがとな。少し……心が軽くなったよ」
 あわあわしていると、イチローの声が近くで聞こえた。何だかその声は震えていた気がした。泣いてるの?そう思って顔を上げたけど杞憂だった。そこには、見慣れた穏やかな微笑み。元気を失っていた赤い瞳が、元の力強い光を取り戻しているのがはっきりと分かった。
 「……えへへ……うん、良かった……」
 ほっとした。この意味が、少しでも伝わってくれたから。イチローが少しでも元気になってくれたから。ありがとうって言ってもらえたから。
 胸がふわりと温かくなる。安心したらまた目が潤んできた。ああもう、おれも疲れてるのかな。
 「おいおい、何を泣いているのだ?」
 「な、泣いてないよ」
 「目が潤んでるぞ。相変わらずゴローは泣き虫だなあ」
 「違うってば~……」
 慌てて目をごしごしやった。拳の裏がしっとりしていたのはきっと気のせいだ。うん、そうさ、気のせいだもん。
 おれを抱きしめたまま、イチローが声を上げて笑っていた。その様子が楽しそうで、だからおれもつられてへへへっと笑った。



 子供だましでしかない、おれのたった一つの小さな計画。
 普通の人からすれば、あまりにちゃちで取るに足らないものかもしれない。でも、そんなちっぽけなものでも、お前の辛さや悲しみが少しでも軽くなったなら、おれはそれだけで充分だ。充分報われる。
 でもね、いつか実現できる日がくるのなら、おれは絶対にお前を「宇宙」って場所に連れていきたい。今までお前が、おれや皆の代わりに抱えてきてくれたものを、そこで軽くしてあげたいから。
 ……なんて、ちょっぴり理想が高いかな。それとも、夢を見すぎかな。言ったらイチロー、きっと笑っちゃうよね。だから、これはおれの秘密にしておくよ。



 イチローに抱きしめられたまま眼下に見える景色を見つめる。
 夜の闇の中、この十数分で家の灯は少し減っていた。でも何故だろう、今はこの暗闇と星のような(あかり)が、心なしかさっきよりも優しくなった気がした。おれの視線を追うように、イチローもこの闇夜を、町の灯を見下ろす。そのまま二人きり、地上に広がる小さな「宇宙」を眺めていた。

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 ワルモ団SS第2弾はイチローとゴローの短編でした。お楽しみいただけたでしょうか。
 こちらも七年前にぴくしぶに公開した作品です。もちろん加筆修正済みです。当時からさほど乱れていないとはいえ、ぴくしぶに上げたものはかなり読みにくい上にやはり稚拙な部分は否めないので……( ˘ω˘)

 当時、6/16が「無重力の日」と知ったきっかけはさすがに忘れてしまいましたが、当時にしてはなかなかいい所に目をつけられたのではと改めて思います。もちろん、ぴったりな曲を知っていた幸運も大いにあります。
この語呂合わせを考えたどこかの誰かさん、神曲を作ってくださったぼーかりおどP様、改めて本当にありがとうございます……!!

 ここからは例によって個人的な妄想語りになります。スルー推奨。
 ダアクに従っていた頃のワルモ団は、特にリーダーであるイチローはさぞや苦労だらけだったと思ってます。
 五人が力を合わせたら「アクミより強い」とダアク本人からも評価されているにも関わらず「頭が悪すぎる」せいでいわば全員宝の持ち腐れ状態なことも。作戦自体の筋は悪くないのに何かと邪魔が入って上手くいかないことも(メタいことを言うと悪役の悪事に邪魔が入る・アクシデントが起きるのはある種のおやくそくなのですが)。
 そしてワルモ団は、アクミやラットと違って団体なので、ワルモ団の失敗=リーダーの監督不行き届き扱いになる可能性も無いわけではありません。アニメ本編でイチローだけがお叱りを受けている描写は特にありませんでしたが、まあこれは二次創作なので……()
 きっと時にはイチロー一人だけが呼び出されて、他の四人分の失態も合わせてガチで怒られたこともあったのではなかろうか。そして、イチローはきっとそんな憂いを他の皆の前ではおくびにも出さないんだろうな。でも、時に鋭い着眼点を見せるゴローなら、イチローの隠しきれなかったほころびも察知できるのではなかろうか。けれど不器用な彼が思いつく励まし方は……というところまで考えて、前述の「無重力の日」に引っ掛けてしまおう。そう思ってできた作品だったと記憶しています。
 要するに「1/6-out of the gravity-」がイチゴロソングに聴こえてしまったわけです。何て単純。
 
 当方イチジロ推しですが、イチゴロも密かに好きです。書けて満足でした。

 長くなりましたが、それではこの辺で。また別の作品でお会いしましょう。

1/6

「いつか、重力の外へ連れて行くよ」

  • 小説
  • 短編
  • 青年向け
更新日
登録日 2020-04-12

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work