統合失調症/無意識の研究(5.Brain Chatterのメカニズム)

起きている時に見る夢

統合失調症に関し「自分の中の他人」等、様々な体験談が記録され、出版されている。しかし患者の聞く「声」をリアルタイムで探知し、内容を把握して記録する試みや調査・研究がないのは不思議である。あるいはMRI等が更に発展すれば良いのかも知れない。

患者Aは、Brain Chatter(幻聴)の起きる際、右耳に金属の耳かきを挿入すると、耳かきが共鳴して外にまで響くのを発見し、これは右耳を鳴らす物理現象であり、元凶はエス(無意識)に違いないと考えた。また(a)一見論理的なメッセージ(但し全て嘘)と(b)短い言葉やフレーズの単純な繰り返し、の2種類に分かれる事を発見し、原因を左右の脳半球の特性に求め(a)は論理的な左脳、(b)は音楽的な右脳が源であると推測した。

以下は男性を想定し、観察や症状から構築した仮説である。[文中の「E」は意識(Ego)、「I」は無意識(Id)の略号]


1.  エスの敵愾心

エスは人間の精神の一部を構成し、自我と「一心同体」であり、自我に協力すべき存在なのに言語化した途端に敵対的になるが、理由は次の通り。
 
(1)若い頃から身体運動や会話・思考を含め、周囲から認知可能な活動は全て自我主導であり、エスは生殖機能を司るものの、基本的に身体の恒常性や平衡感覚を保つ地味な存在で「縁の下の力持ち」である。

エスは自分が自我に対して劣位の存在であると意識し、これを「上下関係」あるいは「階級社会」と捉え、日頃から面白くないと思っているに違いない。しかもそれが10年、20年と続く結果、ストレスや鬱屈感が累積するのだろう。

(2)思春期の頃、声変わりや異性への関心の高まりの形で、エスはプレゼンスを示すが、これが徐々に進み、人間は大人に成長するのだろう。エスは、生殖活動を担うところ、暫くそのプロセスが面白いだろうが、身体が完成する20歳くらいになると、エスは「性への目覚めは実現したものの、エスとしてこれ以上、外界に存在感を示す事は困難。自我の様に、随意筋を動かす事は出来ないし、会話・思考等の言語活動にも従事出来ない」と限界を知り、落胆するのだろう。

(3)大人になると、自我は身体の恒常性を保つエスの存在を理解せず、頭部や身体へのスキンシップを伴うケアや気遣いを怠り、ろくろく気分転換もせずに目的指向的に仕事や勉強にまい進しがちとなる。そこでエスは縁の下の力持ちなのに感謝されないと感じ、欲求不満が鬱積してしまう。

(4)身体の恒常性を保つ能力を持つエスは、特に静止状態で筋肉運動に従事していない場合、心拍数、血圧、体温、アドレナリン等の分泌を不自然に操作し、当人の存在感を過度に高めたり低めたりする事が出来る。存在感を高める目的は、不必要に目立ち、小さな事で興奮する「気違い」の演出であり、逆に存在感を低めるのは、(声が小さく、物を言わない)自己表現力のない無防備な人間を演出し、周囲のイジメを招く事だろう。

(5)エスは言語活動に関し、迷走神経を使う事により微妙に関与可能である。そこで脳の左右の言語野に立ち入り、うまく言葉を操れないものだろうかと画策。そして言語化に成功した場合、エスは鬱屈した感情を一気に爆発させる。この時に起きるのが、統合失調症の陽性症状だろう。

(6)その際にエスの駆使するのが、自我の思考をリアルタイムで察知する能力である。自我の思考プロセスを瞬時に読み取り、その動きを遅滞なくフォロー出来る事を利用し、周囲の人間がそれに反応し、悪口を言っているかの印象を与え、当人を苦悩に追い込もうとする。

(7)エスは自我との「上下関係」を逆転させて覇権を確立し、長年不可能だった自己実現を図ろうとする。

エスが自我に対する覇権確立に成功した場合、エス主導の行動パターンとなろうが、今度は、エスが人間社会の現実に晒される結果、向精神薬等を用いて対抗しようとする医者や家族・同僚を含め、世間がすっかり怖くなり、人間との関わりを避けるのだろう。これが陰性症状かと思われる。


2.無声メガホン

(1)Brain Chatter発生の前兆として執拗にイジメを受ける事があろうが、原因として当人のエスから周囲の人間(のエス)に対して悪意に満ちたメッセージが伝達されている可能性があり、これを「無声メガホン」と呼ぶ。多くの場合、エスは使い慣れた右脳を活用し、可聴領域外の音波を発すると考えられる。

(2)その際にエスの利用するのが、自我の思考をリアルタイムで察知する能力である。自我の思考プロセスを瞬時に読み取れるので、エスは、それを利用しながら周囲の人間を的確に挑発し、当人を苦悩に追い込もうとする。

(3)無声メガホンは当人に聞こえないので、エスが周囲にメッセージを送っている事に気づかないし内容も理解出来ない。

(4)無声メガホンとBrain Chatterは二者択一であり、エスが両方同時に従事する事は出来ない。当人が複数の言語を話す場合、エスは無声メガホンの際、日本語以外の言語を使用する可能性がある。

(5)エスは無声メガホンに悪口を混ぜがちなので周囲の人間のエスが察知し、不快感を表現しやすい。周囲から捨て台詞の様な言葉を呼ぶ場合、これは「幻聴」ではなく「実聴」だろう。

(6)当人は周囲の空気が非友好的/攻撃的と感じても、原因を自分に求めるので卑屈になりやすい。人間関係を維持するのが困難になり、逃避行動に陥りがちとなる。

(7)「イジメ」との関連性

この様に多くの場合、「イジメ」は無声メガホンで本人のエスが手引きするのが原因。集団がイジメを認めたがらないのは集合的無意識の働きであり、暗黙の了解があるからだろう。 

(8) 対応策

(ア) 事情が許せば(特に右耳の)周囲の空気を切り、かき混ぜてしまう。
(イ) 目線を左に向けて意識を右脳に入れ、エスが活用するのを阻む。⇒ (I,E)

(ウ)無声メガホンの伝播経路を塞ぐため、耳栓を使用する。
(エ)自己体罰(頬や耳の周囲を狙い、拳や平手ではたく)等

(オ)集合的無意識に働きかけ、エス抑制に協力してもらう。(後述)


3.Brain Chatter(幻聴)


(1)自我は、通常、左右の脳半球間を速いスピードで往来しつつ四肢の運動を指令し、言語活動や思考に従事する。しかしボーッとし、片方の脳半球に沈潜する場合、エスは「意識の左右運動」を妨害し、自分の地歩を築こうとする。

(ア)左右の随意筋を操作し、作業や運動に従事している場合、双方の脳半球を駆使するので、エスは侵入困難。図示すれば(E,E)の状態だろう。

(イ)身体を動かさず静止状態で、思考や会話、読書、記述等の言語活動に従事する場合、左脳を偏重する為、エスは右脳に侵入可能。(E,I)

(ウ)作業や運動、周囲の人間との交流に関わらず、ボーッと不活発な場合、エスは左脳に侵入可能。(I,E)

(2)エスが右脳に居座る場合、右脳にアクセス困難となり、周囲の人間との交流が困難となろう。エスが左脳に居座る場合、左脳にアクセス困難となるが、多くの場合、主たる言語野は左脳にあるため、言語障害が発生しがち。

(3)エスは左右の言語野にアクセスして発話し、周囲には察知不能な言語的メッセージを本人に送り始める。これがBrain Chatter(幻聴)である。こうしてエスは「起きている時に見る夢」を演出する。本人は、エスの言葉に関し、周囲の人間の言葉かと誤解する。
 その際、エスは、自我の思考をリアルタイムで察知する能力を利用して、当人の痛い所を突く様な悪口を混ぜ、苦悩に追い込もうとする。すると当人は、周囲の声と誤解して不信感を抱き、反発し、怒りや敵愾心を露わにするだろう。

(ア)エスは、ブローカ野を活用して声帯を微妙に振動させ、言語メッセージを発生させる。これは骨振動を発生させ、耳を経由する外部音声と混じり合い、混然一体としてウェルニッケ野に到達する。

(注)PETスキャン(ポジトロン断層法撮影)を用いた研究によれば、幻聴の最中、脳の言語野が活性化する由。(Current Psychiatry,2005年4月号)

(イ)ウェルニッケ野でBrain Chatterが解析される結果、本人は「声」が周囲の人間から来るものと誤解してしまう。

(4)次の段階で、患者は「声」の主が周囲の人間ではなく、未知の存在である事に気づく。そのショックは多大であり、驚嘆し、自失呆然として言動・行動が麻痺してしまう。

「周囲から電磁波が出ており、強く感じる」と訴えるケースが多いらしいが、先祖の霊、神仏等の超自然現象、宇宙人、あるいはITを使った陰謀に説明を求めがちとなる。

また不可思議な現象に夢中になるので、周囲の人間が声をかけ、忠告しても耳を貸さない。日々の生活や仕事にも上の空となり、「幽霊」に夢中で聞き入ってしまう。

(5)エスの使用する脳の部位次第で、Brain Chatterに特徴が出よう。

(ア) (I,E) の状態で左半球 (論理脳)から

 一応、論理の連鎖の形を取り、人間関係や社会について特定の見方を提示しがち。但し虚言や作り話の集大成であり、真に受けてはならない。聞き続けていると世界観が屈折する。

(イ) (E,I) の状態で右半球 (音楽脳)から

特定フレーズや言葉の繰り返しとなり、論理的連鎖はなく、ナンセンスに近い。

(ウ)小脳

決まり文句の様なフレーズの繰り返し。小脳の辺りを叩くと止む模様。

(エ)コーラス

エスは、小脳を利用して言葉やフレーズの繰り返しで本人を翻弄する。この「コーラス」を背景としながら、同時に左右の言語野から別のメッセージを送る場合、四面楚歌ばりの恐ろしい効果が生まれるだろう。

(6)エスは、多くの場合、本人の意志や意向に対する反対意見を執拗に述べる。その結果、本人は買い物を含め、選択の場面で考えが纏まらない。意思決定・決断不能となり、エスに聞き入り、その場に立ち尽くし、動きが凝り固まる。

(7)エスは虚言を続けながら、周囲の人間の悪口を言い、医者を含め人間不信を招こうとする。また時として冗談を言い、これが周囲から原因不明に見える「空笑」を招く。

(8)エスは意思能力を奪った上、言う事に従わせようとする。その結果、行動パターンは変則的かつ予測不可能となる。また目に見えぬ「指導者」が現れたストレスも手伝い、多くの場合、放浪癖が現れるだろう。行き先を告げぬまま外出し、帰宅せず、行方不明となり得る。

(9)エスはBrain Chatterを使い、極力身体を動かさない様に仕向け、また動かす場合、ゆっくりとしたスローモーションを奨励する。こうして左右の脳半球間の連絡を劣化させていく。もって脳内活動を制限し、男性の場合、一度に1つの脳半球しか使用できない傾向が、増々ひどくなる。部屋にひきこもる癖が定着する。

(10)Brain Chatterと無声メガホンに関し、エスは同時に従事できないので、何れかを選択せざるを得ない。

(11)左右の眼の向く方向が微妙に異なる、或いは片方の眼をつむる現象が起きるが、エスが、片方の眼から入る視覚情報を制限するのだろう。

例えば自我を右眼に依存させ、左脳に沈潜するように仕向ける。すると本人は言語的・論理的な世界に没頭する。右脳が空席となるので、エスが占拠し、右側の言語野からBrain Chatterする基本形である。(E,I)

(12)エスは、自我の左右の言語野へのアクセスを阻止し、言語系統の完全支配を試みる。会話を試みる際、発音困難を招く。これが「言語滅裂」であり、ひどい時には言語障害となろう。

また言葉への自信を失うので、筆記・執筆する際に文章が理解可能か否か入念に確認する様になり、句読点(、)過剰になりがちである。

(13)明け方の早い時間にエスが大騒ぎし、早い時間に叩き起こすことが多々ある模様だが、当日の午前中に重要な会合・約束・予定等のある場合が多いと見られる。エスは人間同士の対話や交流を嫌うので、睡眠不足に陥らせて体調不良を招き、特に午前中の会合や約束を中止させようとするのだろう。


4.以心伝心


(1)統合失調症の症状として「思考が周囲に伝わってしまう」と感じる事(考想伝播/思考伝播)が知られているが、これは当人(自我)の声にならぬフラストレーションや叫び、ぼやきが周囲の人間のエスに伝わる現象であり、ここでは「以心伝心」と呼ぶ事とする。

(2)以心伝心の起きる原因は、言葉の連鎖で考え事をする場合、それに合わせて声帯が微妙に震えてしまう事であり、その震えをまるで音声の様に周囲の人間が察知する事だろう。従って耳の良い人が察知しやすい、と推測される。

(3)帰国子女の場合など、電車の車内等で日本語以外の言語で何か静かに念じると、周囲の外国人に伝わり反応を呼ぶ模様であり、言語の識別を伴う現象と見られる。

(4)以心伝心は、自我の想念が周囲のエスに伝わる点でエスの「無声メガホン」と良く似ており、同じ経路を辿るのかも知れない。精神病患者の周囲では集合的無意識が顕在化するので、周囲が当人を注視し、警戒するきっかけとなろう。

(5)周囲の人間から「以心伝心」とエスの流す「無声メガホン」とは恐らく識別不能であり、双方とも自我が発信源と誤解されがちだろう。他方、エスは無声メガホンで周囲を挑発するだろうから、これを察知した場合、当人から「これはエスの仕業だ。エスに懲罰を!」と周知徹底する必要があろう。

(6)動物実験

 以心伝心に関しては、犬、猫、鳥などの動物を相手に音声以下のwhisperingで「ワンワン」「ニャーニャー」「トートー」等と念じると反応を呼ぶ場合があり、この事から自分の考えが周囲に伝わるのは決して幻想ではなく、しかも耳が人間以上に敏感な動物に伝わるからには、声帯の微妙な震えが伝わるものと推察できる。

(7)電話実験(「無声メガホン」対「以心伝心」)

(ア)家族や親せき等、親しい間柄の相手との電話中、会話の途切れた瞬間を狙い、エスは無声メガホンで話し相手のエスに言語メッセージを伝達する場合があり、突然、話し相手の雰囲気が変わったりする。

(イ)その際には耳の周辺等、頭部を拳で小突くと、エスが怯むらしく、無声メガホンが止み、話がしやすくなる。

(ウ)また電話で「以心伝心」を使い、念じる形で「エスの悪さを懲らしめて欲しい」旨、メッセージを送ると、話し相手(のエス)に通じ、自分のエスに対して制裁が加えられ、怯むだろう。(女性は男性と比べて感受性が鋭いので、話し相手が女性の場合、特段に成立しやすいだろう)

(8)Zoom 会議

コロナ新型感染症の蔓延と共に、直接的な会合を避けるためZoom 会議が流行りであるが、ここでも電話の場合に準じて「以心伝心」や「無声メガホン」が働き、特に(PC画面に顔の映される)講演者やホストとの間でさりげない交流が成立する模様である。

マイクのミュートが解除されていると、何も言わず思考するだけで本当に発言したかの様に発言ランプがつく事があるし、要すれば講演者やホストに向けた「以心伝心」メッセージが伝達可能と考えられる。

またエスがZoom 会議を利用し「無声メガホン」で悪戯している事が疑われる場合にはPCのマイクをミュートにし、またマイクに繋がる(音声を拾う)差込口をテープ等で塞ぐべきだろう。すると以後、相手の表情や態度が目に見えて変化したりする。

(Zoom 会議では電話と違い相手の表情が観察できるので実験可能であり「以心伝心」や「無声メガホン」の存在が確認できよう)

(9)コミュニケーションの手段

 統合失調症の発症により「以心伝心」が起きる様になった場合には、これを積極的に活用し、周囲との静かな交流とコミュニケーションを実現させるべきだろう。
すなわち町で見知らぬ人間の真っただ中にあっても、以心伝心を活用すれば躊躇することなく周囲に挨拶し、天気を話題にし、相手の健康を気遣い、相手のファッションを褒める等、積極的に声をかける事が可能になり、発散しながら周囲に溶け込む強力な縁となろう。これは健常者には使えない技かも知れず、大いに利用すべきだろう。


5.言語化したエスの問題点

エスは言語化すると「邪念」と化すところ、次のとおり。

(1)犬や猫が長年、人間と暮らしていると、平気で立って歩き、自分を人間と錯覚する様だが、エスも言語化すると、言葉を操って本人や周囲にメッセージを発信出来る事から、ペットと同様に自分を人間と錯覚するらしい。そして本来、エスが、人間の一部の機能を担う精神的な「器官」に過ぎない事を忘れ、新たに備わった「人間っぽい」言語能力を発揮し、思わず自己主張してしまう。

(2)幼児性

(ア)人間が発達する過程で左右の脳半球を繋ぐ脳梁は、思春期から徐々に発達し、左右の連絡が良くなると共に思考が成熟し、大人になるとされる。そして同時に異性を意識する青春が始まるのである。

(イ)生殖機能が備わると共に、エスが左右の脳半球の言語野にアクセスし、当人の思考や言動に影響を及ぼす様になる。ここで端境期の年齢を13歳と仮置きすると、エスは13歳以降、発声・発話に参画し、特に異性への関心を表明する様になるのである。

(ウ)エスがこの様な形で登場するのと同時期に「声変わり」が起こり、不安定期を経て声が深くなるが、結果的にエスの声も自我の声も、同じ大人の声に収れんしていくので、聞き分けることはできず、外部から識別不能である。すると自我、エス双方が介在するにも拘わらず、当人に宿る精神は一つしかなく、統一されているとの印象を与える結果となる。

(エ)患者の年齢をPとし、これよりも若いN歳の時にBrain Chatterが発生したとする。自我が驚嘆し、麻痺するのを良いことに、エスは左脳にもアクセスし、論理思考を試みるだろう。その年数を(P-N)年と概算する。

(オ)この病気の場合、患者は性的に成熟している場合が多く、13歳には達していよう。するとエスが人間的思考を経験した年数は(P-N)なので、エスの精神年齢は、13+(P-N)歳と近似できよう。

(カ)外国で現地語を自然に身につける子供は、悪口雑言から覚える傾向があるだろうが、鬱屈したエスも同様であり、自我に対するメッセージの中で、悪口雑言をたくさん混ぜがちとなり、しかも犯人が周囲の人間であるとの誤解を招こうとするだろう。

(キ)しかしエスの言語能力獲得当時、P=Nなので精神年齢は13歳。そんなエスの言うことに左右され、従ってはならないのである。

(3)知的限界

(ア)男性的な脳の場合、自我が左右の脳半球を同時に活用できないのと同様に、エスもまた、左右の脳半球を同時に活用する事は出来ない。反対側の脳半球に自我が宿るからである。その帰結としてエスが左脳に宿る場合、正しい文法や言葉の用法にこだわり、それを前提にした形式論理を重んじる。従ってナンセンスやトンチを理解せず、積極的にこれを嫌う。

(イ)人間的に成熟した思考は、額の部分に当たる前頭連合野(いわゆる人間脳)を駆使する事と関係が深いが、エスは人間脳にアクセス出来ないため、学習にも制約と限界があり、いくら年月を経てもバランスの取れた世界観を築けない。

(4)痛みを理解しない

(ア)エスは頭頂葉の体性感覚野にもアクセス出来ず、痛みの感覚が理解できない。風邪による喉の痛み、歯痛、腰痛等、体調不良のため医者に行こうとしても、エスとして不都合を感じず、これを拒もうとする性癖がある。

(エスは全ての科目の医者が嫌い。診察・治療・投薬により身体に張り巡らされたエスの連絡網への悪影響を恐れるのだろう)

(イ)エスは他人の痛みも理解・共感不能であり、世界観が軽薄で屈折しがち。善意や慈愛を全て排し、常にシニカル(マキアヴェリズム的)な見方をするのでメッセージの内容は暗く、陰湿で悪魔的。

(5)自律神経失調症

エスがBrain Chatterに専念すると、身体の恒常性(血糖値、水分、血圧、体温を含む)の維持機能が狂い、自律神経失調症になりやすいが、エスはこの機能を逆用し、体調不良を起こして自我を委縮させるのだろう。

一つの典型的な症状は体温の低下であり、夏なのにコートを着てしまう等、過剰な装いに帰結してしまう。エスがBrain Chatterに興じると体温の恒常性維持をサボる結果となり、体温が下がるのだろう。

更にエスの気まぐれで行動パターンを不健康で無防備にし、免疫力を削いで病気に追い込むこともできよう。(酔ってあらぬ場所で寝て風邪をひかせる等)

(6)異性へのこだわり

 男性の場合、エスは、生殖機能への拘りを見せ、特に女性への関心を高めようとする。他方、室内に居て、あまり運動しないライフスタイルを奨励し、人との接触を阻もうとする。つまりオタクで「女性的」な行動パターンを強いようとするものであり、ユング学派が、女性性(アニマ)と呼称するのは、このためか。

(7)付随的な問題

(ア) 音楽を忌避

音楽鑑賞や歌や演奏等の音楽活動は、本人の注意をBrain Chatterから反らし、気分転換と共に右脳支配を回復する縁となるので、エスはこれを嫌い、邪魔するだろう。

(イ) 味覚の邪魔

舌には二重の機能があり、味覚の器官であると共に発音(滑舌)の縁でもある。然るにエスがBrain Chatterする際には、声帯と共に発音のため、微妙に舌を使うものと見られる。このため食べ物を丁寧に味わう行為は本人が意識的に舌を動かす事に繋がり、エスのBrain Chatterの邪魔となる。従ってエスは本人が食事の際、丁寧に食べ物を味わう事を嫌い、極力これを排除しようとする。

更に推測すれば、うまみ成分の重要な根源とされるグルタミン酸は神経伝達物質であり、左右の脳半球の繋がりを助けるところから、エスはこれを嫌い、うまみ成分の多い食事を避けるものと見られる。


6.下剋上


Brain Chatter及び無声メガホン能力を獲得したエスは、透明人間性を利用し「完全犯罪」のつもりで奇人変人を演出する。当人の思考を邪魔して決断を妨げ、「ノム、ウツ、カウ」にのめり込ませる。奇妙な動作を繰り返させる等。エスの究極の目的は、自我を委縮させて覇権を築く事だろう。

(1)エスは、当人を悪口や甘言で動揺させ、苦悩と破滅に追い込もうとするが、目的は自我とエスの「上下関係」を逆転させて覇権を確立する事。

エスはこの「上下関係」に対する不満が長年蓄積し、ストレスや鬱屈感が溜まるのだろう。これを言語化した途端に爆発させるのが「陽性症状」。

エスが覇権を確立し、エス主導の生活となった場合、今度はエスが社会の荒波に晒される結果、世間が怖くなり、人間との関わりを避けようとする。これが「陰性症状」だろう。

(2)周囲から聞こえてくる話声に関し、エスは(ウェルニッケ野を駆使し)根拠なく悪口と誤解する様に操作する。

(3)エスは睡眠中に大騒ぎし、明け方の早い時間に睡眠を奪い、体調不良を招く。特に午前中の会合を直前にキャンセルさせ、対話や交流から遮断し、信用失墜を図る。


7.集合的無意識(エス集合)の活用


 個々の人間の精神は、意識たる「自我」と無意識たる「エス」から構成され、人間の集団には、エスの集合体である「集合的無意識」が併存する。患者αを含む4人(α、β、γ、δ)の集団を想定すれば、次の通り。

(1)無声メガホン

 言語化したエス/ I(α)は、可聴領域外の静かなメッセージで、自我/ E(α)の悪口をエス集合に流す。このメッセージは、エス集合[I(β)、I(γ)、I(δ)]に浸透するが、自我 E(α)は察知せず、気づかない。

(2)エス集合の健在化

 エス集合が「無声メガホン」のメッセージに反応する結果、周囲の3人(β、γ、δ)は、個人(α)を睨む態度を取り、言葉や態度が攻撃的となる。このため個人αは、周囲に異様な空気を感じ、排他性やイジメの被害に遭う体験をするだろう。

(3)対抗措置(以心伝心)

 これに対抗するには、静かな念力で「以心伝心」のメッセージをエス集合に流し、悪さをする自分のエス、すなわちI(α)に制裁を加える様、強く懇願すれば、強く叱責し、制裁して貰う事ができる。
 この様に患者は、エスを抑えるため、エス集合に訴えるべきである。このためには集団に帰属し、グループ行動を心掛け、自分のエスを抑えるよう、メンバーの支援を積極的に求めるべし。


8.空気が読める


 以上、無声メガホンや以心伝心を含め患者から周囲へと情報の洩れる現象を論じてきたが、逆にこの様なチャネルの「開設」により患者が周囲の「空気」を読み、発想やアイデアを察知する(受信する)能力が備わる側面があろう。
この場合もエスが介在し、恐らくは周囲の自我⇒周囲のエス⇒患者のエス⇒患者の自我、との順番で情報が流れるに違いない。

(1)例えば聖書等に登場する預言者には様々な解釈が可能だろうが、中には統合失調症の患者や生来のBrain Chatterの持ち主が混じる可能性があろう。この様な人物は、周囲の空気を拾うのが上手な側面があり、またBrain Chatterを通じて、新たなアイデアが浮かぶ場合があり、新たな着想の源泉となり得よう。

(2)この様な特殊能力者(autistic savant等)の存在は古くから知られており、例えば米国の連邦捜査局(FBI)には、犯罪捜査で協力する特殊能力者がいると言われる。既成概念に捕らわれないアイデアに長けた場合があり、統合失調症患者の社会復帰・参画に関しては、特殊能力の可能性にも着目すべし。


9.患者の性格は2通り


Brain Chatterの成立に関し復習すれば、自我が何等かの理由で片方の脳半球(A)に沈潜し、もう片方(B)にプレゼンスを示さず、その状態が長時間続く場合、エスは脳半球(B)に自分の地歩を築くべく、脳梁を介した意識(自我)の左右運動の妨害を試みる。そして終に脳半球(B)の言語野にアクセスし、そこからBrain Chatterを開始する、とのプロセスを描いて来た。

然るにエスが主として左右どちらの脳半球を確保してBrain Chatterするかにより、患者の性格は二通りに分かれるだろう。

(1) 左脳集中型

エスは、意識の左右運動を阻みながら右脳を確保してしまう。このため自我は左脳に籠り、言語的・論理的思考の連鎖に追い込まれがちで、人によっては研究者タイプになるだろう。人間的交流に積極性を示さず、周囲の「空気」も読みにくい。その理由は、エスが右脳を自分の領域と考えて自我のアクセスを阻む事であり、患者は左脳中心のライフスタイルに追い込まれる。

(2) 右脳集中型

エスは、意識の左右運動を阻みながら左脳を確保してしまう。このため自我は左脳を活用すべき言語的・論理的思考から遠ざけられ、右脳中心のライフスタイルに追い込まれる。論理的・分析的思考が不得手となるので人間関係を重視し、周囲の「空気」に合わせようとする。空間認識中心なので運動・スポーツを好み、また美術・音楽にも適性があり得て、社交的。その理由は、エスが左脳へのアクセスを阻む事であり、感覚的で浮薄になりがちかも知れない。


10.環境的条件


(1)先進国・多民族国家

統合失調症は工業化が進み、安定的で裕福な先進国で罹患率が高いと認識されている。安定的で豊かな環境では、精神的弛緩や集中力低下が起こりやすい上、自分の存在意義に悩む場合もあり、エスの付け入る隙が生じやすいのだろう。

この分野の研究を先駆けたフロイト(オーストリア)やユング(スイス)もこの様な国の出身者であり、しかも両国とも多民族国家である。

(2)移動と移住

また統合失調症発症の原因として「移動」や「移住」に着目せざるを得ない。現地で如何に溶け込み、社会に受容されるかとの問題に直面するからである。

(a)帰国子女

若い年代に外国で現地教育を受けた場合には、帰国後、価値観・世界観、宗教の不一致等の生じる可能性があり、集合的無意識との関係が難しくなり得る。これが「逆カルチャーショック」だろう。

特に個人主義的傾向の強い(集合的無意識の弱い)新世界の国で教育され、精神的に「解放」された場合、日本の様な保守的な母国への帰国後、歴史や伝統に由来する行動・言動上の制約を理解できず、適応まで苦労が多い。自我とエスとの間で、選ぶべき行動パターンに見解の相違のある場合、事態は更に深刻だろう。

(b)海外旅行

特に海外への観光旅行の場合、毎日、美術館・博物館を含め観光スポットにて明確な目的意識もないまま毎日を過ごす場合、飽きるのみならず情報過多となり、知的考察を加える事を怠るだろう。

言葉が通じず、表札や説明書きさえ理解できない場合、知的刺激は皆無に等しくなり、理解困難な3D映画を見ている様に思考停止となる。すると左右の脳半球から自我の存在感が低下し、エスからアクセス可能となり、統合失調症の環境が整うだろう。従って言葉の通じない先進国への観光旅行は、明確な目的のない限り、精神衛生上、要注意か。


(参考)伝播の要因

I. 無声メガホンによる「感染」

 統合失調症を患う人物(A)が周囲にいる場合、そして当該患者Aのエス(無意識)の醸し出す「無声メガホン」が管理出来ていない場合、周囲の人間(B)はそれに晒される結果、一時的なりとも精神異常を来たす可能性があろう。

この様な「無声メガホン」に継続的に晒される場合、Bのエス(無意識)は挑発され続け、Aのエスに比肩する言語能力を求め始めるだろう。そして脳の中で探索を始め、言語野に到達してしまう場合、統合失調症を発症するのである。この経路による病気の伝播は遺伝的要因に依存せず、誰でも統合失調症を発症しうる一つの原因と考えられよう。

しかるに患者は向精神薬の服薬、あるいは左右の耳への耳栓等で無声メガホンを管理し、家族や同居人、また周囲の人間を守る必要がある。

II. 遺伝の可能性

統合失調症に関しては誰でもなり得るのかも知れないが、仮に罹患しやすい体質が遺伝する場合、女系遺伝が疑われよう。ついては性染色体に関し、父親を(X₁Y)、母親を(X₂X₃)とし、母親に要因がある場合につき分析すれば次のとおり。

1. X₂、X₃の双方に要因のある場合、子供全員に継承されよう。

2. X₂、X₃のどちらか一方に要因がある場合、問題のある方をX₃とする。

(1)子の世代
息子ならC(X₂Y)かD(X₃Y)、娘ならE(X₁X₂)かF(X₁X₃)の4通りとなり、2分の1の確率で問題のX₃が受け継がれていく。

(2)孫の世代
X₃を受け継いだ男性Dと女性Fに関し、子供が出来た場合、次のとおり。

(ア)男性D(X₃Y)

(a)男の子が生まれた場合、継承されるのはYだけであり、X₃はもはや継承されないので、問題解消。

(b)女の子が生まれた場合、必ず問題のX₃を引き継ぐだろう。

以上から世襲制で男系の場合、仮にX₃が婚姻の過程で入ってきても、孫の世代には必ず解消されるだろう。

(イ) 女性F(X₁X₃)

(a)男の子が生まれた場合、2分の1の確率でX₃が継承される。
(b)女の子が生まれた場合も、同様に2分の1の確率でX₃が継承される。

従って母親(X₂X₃)の場合と同様の分布でX₃が継承される。世襲制で女系の場合、X₃がなかなか解消されない悩みがあるだろう。

III. 遺伝的な無謬性の問題

統合失調症を発症する要因として、遺伝的な要因がなくても、周囲の無声メガホンが原因で発症する場合があろう。例えば同居人が患者であれば、例え血縁関係がなくても、無声メガホンに常に晒される事により発症する危険があろう。

遺伝的な分析が、多少なりとも意味を持つのは、結婚前に発症した場合であり、結婚して出産した場合には、種々の可能性を勘案しながら最も適当な対処方法を探る事となろう。

結婚前に症状のない場合には、当人が因子キャリアか否か判然としないまま結婚し、子供に因子を継承する場合があろう。しかも結婚後、ずっと無症状で推移すれば、仮に子供が統合失調症を発症しても、遺伝的な要因があるのか否か、俄かに判断できない。

おそらく「無症状キャリア」は世の中に沢山おり、その人たちも環境次第で充分発症する可能性があろう。従って「誰はキャリアだけど誰なら大丈夫」との識別は、あまり意味ないのかも知れない。(「DNA因子」がなければ発症しないかと言うと保証の限りでない)従ってむしろ日頃のストレス管理に意を用いるべきだろう。

遺伝的な無謬性を求めてもあまり意味はなく、今では良い薬もあり、今後とも医療は大きく進歩していくだろう。だから第1印象で健康体と見られるならその点を評価すべきであり、過度に神経質になっても意味はない。

統合失調症/無意識の研究(5.Brain Chatterのメカニズム)

統合失調症/無意識の研究(5.Brain Chatterのメカニズム)

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登録日
2020-04-05

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