ある少年の憂鬱の記録
まず、これを読んでくれているリア友へ。
一年間ありがとう。
これからネットで繋がっている人も、繋がりが途絶える人にも言っておきたいが定期的に覗きに来て欲しい。
次の小説も書くつもりだ。
そしてネッ友へ。
読んでくれてありがとう。
これがやりたいことのひとつでもあるのでこれからも拙い僕の文章をよんでくれると嬉しい。
その場しのぎのロッケンロール
6月から7月にかけて憂鬱な気分を紛らわす為に
ずっとロックンロールを聴いていた。
そこまでロックンロールが好きという訳ではないからよくわからないけれどもジャカジャカと楽器を鳴らしている人間を想像すると少し魅力的に感じたし、無駄なほど誇張された音が脳を掻き乱した。
憂鬱な気分の出処なんて考えたってわからないから、その場しのぎのロックンロールだった。
茹だるような中で授業を聞くのは辛いものだった。
そもそも授業を聞くこと自体つまらないので僕はどうしようもなかった。
ロックンロールの歌詞の意味のわからない一節を授業中にノートに書いたりして遊んでいた。
ロックンロールは励みにはならないが精神の処方箋としてはどんな精神安定剤とか向精神薬よりも勝るんじゃないかと思った。
声
この話に入る前にまだ言って置かなければならないものがある。
どこからともなく鳴り響く声のことだ。
近所の騒音とか家族が喧しいとかそんなことじゃないのだ。
僕はその声と格闘している訳でもなければ服従している訳でもなく、ただ単に共存しているような心地で毎日を過ごしていた。
しかしある程度その声に乗っ取られているのかもしれない。
もしかすると脳が僕と別に喋っているのかもしれないし、なにかの拍子で意識が僕の中にもうひとつ紛れ込んでしまったのかもしれない。
その声は今の所は僕に話しかけたこともないし僕を導いたような試しもない。
もしかすると僕のことに気づいていないのかもしれないし、興味がないだけなのかもしれない。
.......
時々声に乗っ取られたような感覚に陥ることがある。
何故か、よく考えてみれば文章を書くのも、なにか思索をするものその声だった。
その声は僕の考えたことを反芻しているだけではないのかと思って意味を汲んでみようと声にひたすら文章を書かせたことがある。
僕が呆然としている時に、声は喋り続け手が動きだした。
みるみる文章は生み出されていき、脳内の声が喋るのと同時にそれは進行して言った。
声はよく聞き取れなかった。しかし煩いような気がした。声がしている、それだけは確実にわかっていた。
煩い感覚が続いた後、目の前に現れた文章を読んでみることにした。
「滑らかな世界に跋扈する知的生命とその実存について。関係性と現象とを鵜呑みにしたその知的生命が生産を止める日まで君はサイケデリックの酩酊の渦中にあることを気付かないだろう。君と世界は垂直なのだ.......」(文章は延々と続く)
僕がこのような思考をできる訳がなかった。
唖然とした。
この声はどこから来て何をしているのだろう。
僕のなかで考えるのは不毛ではないのか。
しかし恐怖とか言ったものはすぐに消え、また日常に戻ったような気がした。
平穏と並行する生活へ僕は消えていった。
平凡へ没入する
.......テストは97位。学年は200人である。
いつもとなにも変わらない順位にうんざりしていた。
変化は僕の中の何かを変えてくれると思うが、
恒常的なものになにも感じないでいた。
上がるのが多分人生にとっては好ましいが落ちても別に構わなかった。
例の声はしている。うるさいな、もう慣れたけど。
この結果を受け止めることもできないまま感傷的になりながら授業を聞いていた。
休み時間になった。
学校にいる時に自分のためになる時間は休み時間くらいしかないと感じていた。休み時間の為に学校に来ている様なものだ。
学校に、休みに来ているのではないのか。
僕のクラスには頭の良いグループとそうでないグループがある。
公立の中学校だしやはり精神の発達とかそういったのは差異があるだろう、と思っていた。
僕はどちらかというもそうでない方の人間だったが、そうでない方の人間を見下していたので良いグループの方に紛れ込みそこで話す数人の話にしがみついていた。半分振り落とされていたことは自虐の限りである。
会話はいつも難解だったがそれでいて優越感と、
満たされているような感じがした。
ただそれだけだった。
声もその時には聞こえなくなった。そのグループは僕を入れて4人で構成されていた。
青谷君が言う。「運命はあるだろ....」話し合いの口火を切るのはいつも彼だった。彼はナルシストのような感じがした。
特に頭のよくないグループに属する人間にたいして傲慢だったが人間関係のやりくりは上手く交際関係の回数はいざ知らず。背が高く、どこか女性的で美形だった。
前髪が長く、目にかかっている。
「運命なんて思考停止の言い訳じゃないか」この中で最も勉強のできる椎名君が言う。
彼は全てに対して批判的な人間で毒はあるがどこか軟弱だった。眼鏡をかけて、本が好きで一見内向的だった。青谷が誰彼と付き合うことに毎度愚痴を言った。
「君はなんにも考えていないの」霧嶋さんが言う。
グループ唯一の女性でこの中では最も落ち着いていた。小柄でクラスでは落ち着いているのも相関して目立たない存在だった。自分からは話しかけないので、いつも霧嶋さんの近くで議論が展開されていた。この中では最も聡明で複雑な文章と語彙力の持ち主であり、生粋の文系だった。
恋愛や恋とは無縁そうだった。つまらないと切り捨てていたし、何よりも人間に興味が無さそうだった。話をしててもどこか理論にしか踏み込んでこない。徹底的な合理主義者のような気がした。
「そうじゃないだろ。考えているさ、でも閃きがなにから来ているかわからないだろう。
僕らはレールの上で導かれているといっても過言ではない」
「つまんないね。嫌いだ。詭弁だ、詭弁。」
「どこが詭弁だね、いってごらんよ」
僕を除く3人は同じくどこか自信家であって、どこか不安そうで、しかもどこか満たされていなかった。
この会話の情熱は満たそうとする向上心から来ているのか、それとも興味ある分野が他の人とは違うだけで淡々と世間話のような会話なのかよくわからないが僕とはある意味の懸隔があるような感覚がした。
憧憬も感じていたが、こうなりたいとは思わなかった。思った時もあったかもしれないが、今は思わない。
ただ見上げるだけで、自然な状態でいる彼らを僕は自然な状態で眺めていた。ただ、それだけだった。
小さい子供のような、そんな淡く小さなぬくもり
なんという材質でできているのだろう。
待合室で床を見ながらふと思った。
声は依然として頭の中で騒ぎ立てていた。
いやその煩わしさが増したとしても、その反対だったとしても今の僕にはわかるまい。
というかそんなことどうだっていいのだ。
声は僕ではないと思っていたが、ふとすると僕なのかもしれないとも思った。
前述の通り、夜眠れない訳でもないし、何も害はない。
まぁしかし憂鬱は憂鬱だったし変容もない日常の中で暮らすのも退屈だったから病院を受診した。
僕は体が弱い方ではないのでなんの病院もめったに受診しなかった。
それに親とどこかへ行くというのも久しぶりで小さい子供みたいだと思った。
さて、小さい頃はこの声は聞こえていたのか、すこし思い出して見ようと思ったが僕は小さい頃のことを確かに思い出せる程覚えてはいなかった。
記憶にどこかで境界みたいなものがあって途切れているのかも知れないし、所々亀裂が入っているのかもしれない。
さぞ小さい頃は幸せだったろうな。
わからないけれど、記憶はないが過去は美化するものだ。
そういえば乃井という友達がいたような気がする。
彼がどこに住んでいたかも分からなかったし聞きもしなかった。
どういう人間だったかも忘れたし覚えているものは名前くらいだ。
彼もいつの間にか消えた。
ほんとうはいなかったのかもしれないと解釈するのも可能だった。実際そうしても、しなくてもなにも代わり映えしなかった。
そういった色褪せた、もはや朽ち果てた記憶は沢山あったが同じようなものだった。
その時の僕は"僕でなかったのかもしれない"のだった。
結果はそれなりだった。
薬も貰ったには貰った。憂鬱な気分がこれを飲むだけで吹き飛ぶのは不思議だが、卑怯なような気がして服用しようという気持ちにはならなかった。
憂鬱は自分のものだったし、もはや自分ですらあった。
内的価値をみなおすような、そんな無意味と
日々は過ぎている。
病院に行った夏休みを飛び越して、気温は日々下がりつつある。
僕は特に変化しない日常を過ごしているし、変わらぬ人々と触れ合っている。
もうすぐテストがあるが一大事でもなんでもない。
僕にはとっては過ぎ行くものであってそれなりに勉強するがたいしてなんとも思ったことは無い。
生活のことも変わらないので、特に思うことはなかった。
休み時間に今日も議論が展開される。
しかし彼らにとっては議論ですらなく、単なる世間話のようなものなのかもしれない。
そんな彼らは十分に強いと思うし、日々語る内容も進んでいっているし強くなっているような気がした。
具体的になにをとかはよくわからないが、知識量は増えていっている。
この前も霧嶋さんはカントを共有していたし、青谷君は読む本が変わった。
椎名君も哲学自体には乗り気でなかったような気がするが、以前より関心を持っているような気はした。
「俺らは結局どこに向かってんのだろうな」
と青谷君。
「神の視点か。それとも宗教か。そんなことをやっている訳じゃないだろ」
椎名君が返す。
「内的な煩悶をしているだけだったら面白いよね」
「フム、深遠だな...」
「深遠ではなく滑稽」
といって霧嶋さんははにかんだ。
君たちは強くなっている、と言おうと思ったが言い返されそうだし何しろ僕は彼らを煽ててもなにも良くも悪くも思われないことをしっていた。
直感的なことだった。それは無意味だった。
僕は神の視点なのかもしれないが、それは無意味だった。
僕は、僕自身は強くなっているとも弱くなっているとも思わなかった。普遍的な日常に、不変的な精神を付き添わせているだけだ。
憂鬱は憂鬱として増していく感覚があった。
不変を力無く嘆くも、憂鬱のせいなのかもしれないし変化とやらに愛想を尽かしたからなのかもしれない。
僕にとって不変が悪いことであるのは十分に理解していたがどうすれば変わるかもわからなかった。
議論は別の話題に移っていた。
「知は力なりってどういう意味なんだ。よくわからん」椎名くんが言った。
「何故さ。知識があれば強いに決まってる」
青谷くんは言う。
「知識では人を殺せないよね」と霧嶋さんが言った。
冗談のつもりらしいと察した。
霧嶋さんが何かを断言するような口調に違和感を覚えたからだ。
「強いって君は言ってたけれど、強いってなに」
と続けざまに言った。
「強いってのは力さ」
「では力ってなに 」 .......。
「力を、強さを肯定できるの。
良い事のように語っているし君が知識を増やしていることは知っている。でもそれって良いことなのかな。別に私の思索なだけだけど、内的価値をとっぱらったら面白そうだよね」「啓蒙かな....」といって霧嶋さんは黙り込んだ。
僕は感化されたように不変に対する内的価値をとり除くような試みをした。しかし不変に糸くずほどの価値など感じなかった。
不変は安寧のなかにあるが、僕には憂鬱しかない。
前後関係が狂っているのか。まぁいいだろう。
弱さ
知が力であり、力が強さであるなら弱さとはどうなのだろうかと僕は考えた。
弱さは何で、弱さはどこへいくのだろう。僕をどこへ連れてゆくのだろう。
憂鬱が鳴り止まないまま弱さについて考えていると、僕は、弱くなってしまうのではないかと思った。もう既に弱いのかなと思った。
答えが出ないまま、その日は過ぎ去って行った。
しばらくそのままだった。
僕には難しすぎてわからないような気がしていたし、ひょっとすると弱さはすぐそこにあるものなのかもしれないとも思った。
風に吹かれるだけの、日々は冬休みになった。
憂鬱は日々増してきた。
薬の服用量も増えた。
終業式の日。憂鬱のことを霧嶋さんにだけ打ち明けたら「それは希死念慮というものではないの」と言われた。
僕は希死念慮の意味を尋ねた後に
死にたいとは思えないし、死ぬまでの動機がない。
と答えた。
霧嶋さんは困ったようにしていた。聞いたのに罪悪感があった。専門外のことを尋ねるのは良くない気がしていた。
なんでもかんでも黙り込んで必死に考えるのだ。
確かに霧嶋さんは丁寧だったが、優しいのとは別なような気がしていた。
僕の感覚に理論など無いし、霧嶋さんの理解出来る範疇にないのはわかっていた。
これが弱さなのかと思った。
僕は弱さを抱えているだけなのだ。
正に感覚はコンプレックスだった。そんな感覚を僕は憎悪した。
憂鬱という自分は感覚なので説明がつかない。
感覚に生きているのは非常に劣等のような気がした。
自覚を、したような気がした。
弱さ。弱さ。
日々、憂鬱は増していく。
肯定と同じような解放は必ず〇〇で終わる
12月の年が明けないくらいの頃だった。
僕の母親の実家は海の近くで潮風の匂いがする所にあり、家に着くなり海鮮をご馳走された。
憂鬱はまだあり、祖母、祖父に見られないところで規定量を越える薬を飲んだ。
夜。田舎の夜はなによりも静かだった。まさに草木が眠っていた。
僕は憂鬱が増すと寝込んでしまった。
だから体は夜が朝だと勘違いして目がきっかりと開かれている。
一人スマホと憂鬱と共に海を見に行った。
波の音がざぶんざぶんとしている。
なにもない、空虚の園であった。
遠くで光る灯台が綺麗だった。
上を見ると素晴らしい程の星が散りばめられている。
浄化は感じなかったが、なにかが僕を規定しこういうものだと定義づけたような気がした。
自然の中で僕は僕としてはっきりしたのだった。
声が聞こえた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
弱さだった。
憂鬱も自分も声も感覚も不変も僕の弱さだったんだと気づいた。
弱さは肯定すればいいんだ。
弱さを肯定する方法は知らなかった。でも、僕は肯定できるような気がした。誰も納得しない、でもそんな独善的な肯定で良かった。
青谷君は強さを肯定できなかったのだった。そのまま不変でいたのであった。優越感に思った。その方法を今から実践する.......!
霧嶋さんに電話をかけた。
深夜3時。霧嶋さんは起きていた。
「なに....」
と霧嶋さんはいった。浜辺だったので電波が悪く所々聞こえづらかったりしたが構わなかった。
喜びがそれを上回ったのであった。
「霧嶋さん!弱さは肯定すればよかったんだ。
はははは。僕は見つけたよ!答えを!君が見つけられなかったものだよ!」
.......。
あはははははははは。
あははははははははは。
希死念慮だった。
声が聞こえた。
「量的な概念を絶対性とするのは非常に申し分ないプロセッサであってアメンホテプの倫理に停止する」
冷たい感覚を興奮がすぐに押し込めた。
「見違えた甲斐があったな。石高。このまま生き残ればいい。そうした時に犬は唄うのだろうね。高らかに。外的な創出だと思うけどな」
徐々にくるしくなってくるのも喜びからか、紛れた。
「神聖と秩序の間で線文字Aは踊り狂うだろう。貴様と量子の間に産出された大君はなんだったであろうか。アナクロニズムに定理を80年重ねた先に、スプリングコートとFAKEのタッチング。
憂慮せよ潺湲は渦巻きテレポーテーションが完成する。瀟洒な君と近づく雨の独立は常に1時なのである。存在との結合で散逸構造はマクロな義務を起こし始める。常軌を虚栄した」
「死ね死ね死ね.......」
ある少年の憂鬱の記録