TOKIの庶民記『あるカエルの物語』(R2年執筆)

ごぼうかえる

TOKIの庶民記『あるカエルの物語』(R2年執筆)
  1. 一話、真冬に目覚めた雨神
  2. 二話 人間の心とは

雨神として存在するカエルの神さま達のお話。
ほのぼの目指します。
人間が足を踏み入れない場所には人間の知らないことがある……。

一話、真冬に目覚めた雨神

この世界は無駄に広い。
狭い島国日本でさえ、人間が踏み入れていない場所もある。
神聖な場所とされている場合ももちろんあり、そこに住んでいる神々の事はだいたい知らない。
これは日本の中にある、小さな名もなき島のお話。
現在は一月。雪が深く積もり、風の甲高い音が雪を巻き上げている。肌に刺すような冷たさに、活発的だった動物達の気配はない。
深く積もった雪のさらに下、地中深くで冬眠中の生き物が、何を思ったか起きてしまった。
姿形はヒトにそっくり。しかし、パーツや目がヒトとはどこか違った。小人のような小ささで、目が丸くてかわいく、頭に簑傘を被り、なぜか羽織袴姿。
性別は男の子のようだ。
「あぁー!春か!?春が来た!」
少年姿の彼は寝ぼけた顔で地上用の通路を勢いよく上る。
しかし上った先は雪で覆われており、彼を幻滅させた。
「……深い雪で外に出られない。まだ春じゃない……」
少年は落ち込んでいるかと思ったが、今度は雪をかきだしはじめた。
「そういえば、いつも冬眠してしまう故に雪景色を見ていなかったな。もう一度寝る前に見ておこう」
少年は雪をかき分けなんとか地上へたどり着いた。雪のトンネルを抜けた先は美しくも寂しい真っ白の世界だった。青空の色もどこか澄んでいるように感じる。寝ていたからわからなかったが、今はお昼で快晴のようだ。
「……わあ……一面真っ白だ」
吹雪いていたのか木々にも大量の雪が垂れ下がっていた。
しばらく雪景色をのんびり眺めていたが、少年はくしゃみをして凍りつくような寒さに気がついた。
「さっぶ……へっくち!」
再びくしゃみをして凍える空気から逃れようと元来た道を戻ろうとしたが、おいしそうな匂いが鼻をかすめたため立ち止まった。
「……いい匂い?皆、寝ているのではないのか?」
少年は訝しげに匂いのする方へ歩いていった。
しばらく雪の森を歩いていると何かが燃える音が聞こえてきた。
「焚き火だ……」
雪をかき分けて少年はそっと雪の影から先を覗いた。
「……誰だろ……?」
覗いた先でカエルのフードを被った少女が焚き火で何かを煮ていた。焚き火には鍋が置かれている。おいしそうな匂いは鍋からした。
「……お腹がすいたな……」
少年は小さく呟きながら少女の背中を見据える。少女は嬉々とした顔で鍋から何かをお椀に注ぎ、うまそうに食べ始めた。
「うう……なんだかわからぬがうまそうだ」
「あんたも食べる?」
「え!?」
独り言が聞こえてしまったのか少女がこちらを振り向いてお椀を差し出していた。
「……い、いいのか?」
「いいよ!皆寝ててつまんないとこだったから!あ、あたしはカエル!よろしく!」
カエルと名乗った少女は少年にお粥の入ったお椀を渡した。
「お粥だ!……この草はなんだ?……あ、俺はカエルで雨神だ。アメって呼んでくれ」
「ほー、雨神ねー、じゃあ、あたしと同じだわ。てか、あんた、ちっさいね!あ、それとこの草は七草だよ!」
「七草?」
少年アメは首を傾げながらお粥を見つめる。お粥には様々な草が入っていた。大根とカブらしきものもある。中身を確認してから湯気越しに、再度目をカエルの少女に向けた。
カエルは人間の子供くらいの大きさ、アメは生まれたての赤子くらいの大きさだ。
「七草を知らない!?あー、この島の雨神は皆冬眠するの?」
「冬眠するぞ。カエルだからな。元は」
「あたしもカエルから神様になったけど冬眠はしないなあ!時間の無駄じゃん!雪は楽しいよ!」
「どこが……?」
アメはうんざりしたように呟いた。アメが一番嫌いなのは冬だ。寒くて寂しくて静かすぎる。
「……いーからそれ食べて!冷めちゃうよー」
カエルはアメが持つお椀を指差した。アメは慌ててお粥をすする。
「……うま……」
「うまいっしょ!冬の醍醐味はあったかいご飯!!かまくら作りだって楽しいんだから!凍った川でスケートも楽しい!」
「……」
無垢に微笑むカエルをアメは驚きの表情で見つめていた。
……こんなの初めてだ。冬は暗くて寂しいだけだと思っていた。彼女はその常識を壊している。
破天荒だ……。
だが……なぜだろう。興味を惹かれてしまう。
「……もっと、もっと教えてくれ」
「いいよ!町の話もしてあげよっか?クリスマスと正月は冬の盛大なパーティー!新年を祝ったりするのさ」
「へぇ……」
カエルの話す内容はどれも興味深いものだった。
アメは自分の考えが変わるほどにこの少女に興味を抱いていた。

しばらくカエルと話したアメは雪だるまを作ってみたり、雪合戦をして遊んだ。
「冬は……こんなに楽しかったのか……」
「楽しかったっしょ?でももうおしまい!」
カエルは満面の笑みのまま、手を軽く叩いた。
「おしまいなのか?」
「うん!そろそろ吹雪が来る。さすがに吹雪の中じゃ遊べないよねー!」
「吹雪……」
そういえばなんだか風が強くなってきているように思えた。
雲行きも怪しい。
「じゃね!」
カエルは軽く手を振るとどこかへと去っていった。
「……」
アメはひとり取り残され、呆然と揺れる木々を見据えていた。
やがて雪がちらつき始め、異様な寒さが襲ってきた。アメは身の危険を感じ、慌ててねぐらへと戻って行った。
雪のトンネルをくぐり、土と雪で穴を塞いでモグラの棲み家のような部屋に入った。部屋の隅には布団が敷いてあり、アメはとりあえずその布団の中に入る。
目を閉じて先程の少女を思い浮かべた。
彼女は不思議な雨神だった。
また会えるだろうか?
アメは強い眠気と共に、甲高い風の音を聞きながらそんなことを思った。
暗い穴の中、アメは再び眠りについた……。

二話 人間の心とは

はっと再び目が覚めた。
生まれたての赤子くらいの身長しかない人型の男神アメは寝床から這い出た。
「もう春かもしれぬ!出遅れた!」
アメはぼうっとしていた意識をこちらに呼び戻し、慌てて土の扉を掘る。掘った先は雪の壁だった。
「まだ、春じゃないのか……」
落ち込んだアメが再び寝床に戻ろうとした刹那、あの少女が頭に浮かんだ。
……彼女はいるだろうか?
吹雪は去った。だからいるはずだ。
と、アメは期待を胸にカチコチの雪を、尖った石で削り始めた。
なんとか穴が開き、外に這い出る。
以前よりも雪が少ないような気がしたが、まだ寒くてしっかり冬だ。風は穏やかで天気は快晴。太陽が雪に反射してとてもきれいだった。
「……きれいだな」
アメはありきたりな感想をつぶやきながら少女を探す。
木々をかき分けて先に進むと緑色のカエルのフードが見えた。
「……いた!」
カエルのフードを被った少女はオレンジ色のスカートをはためかせながら雪だるまを作っていた。
「やあ!寝ていたんじゃないの?」
少女神カエルは輝かしい笑顔でアメに手を振ってきた。
「あ……いや、起きてしまってな……。まだ冬なのか?」
「まだ冬だよ!今の時期は節分とかバレンタインとかあるよ!」
「なんだそれは」
アメは知らない単語にまたも気分が高まるのを感じた。
「知らない?そっかあ!寝てるんだもんねー」
「ああ……」
「教えたげる!節分は鬼に豆投げる行事、バレンタインはチョコをあげるイベントだよ!」
「はあ……。豆投げた後にチョコあげるのか。妙だな。アメとムチ的なやつなのか?」
カエルの簡略した伝え方により、アメはさらにわからなくなっていた。
「チョコ嫌いの鬼にチョコあげたらムチムチだね!」
「鬼はチョコが嫌いなのか?」
カエルの発言によりアメは内容が全くわからなくなってしまった。カエルは嬉々とした表情で笑う。
「さあ?それは知らない。人それぞれだし」
「まあな」
アメは相づちを打ちながら、カエルが作る雪だるまが完成するのを眺めた。
「鬼って人の心にいる負の感情だと思うんだよね。だから、負の感情が人によって違うと思うんだよね」
カエルが雪だまを大きな雪だまの上にのせ、つぶやいた。
「ほう……」
「結局、豆を投げて気分を軽くするだけで、元々鬼がいる人は鬼がいると思う」
「人間の感情だからか?」
「うん。まあ、とはいえ、厄除けみたいな霊的な感覚で豆をまくのが普通だよ」
カエルは木のお椀を雪だるまの頭に乗せ、木のスプーンを目に突き刺して、木のフォークを口に突っ込んだ。
目鼻口には頑張っても見えない謎のだるまが完成した。スプーンが雪だるまに直角に刺さっているため、目から何かが出ているように見える。
「目から光線出してるみたい」
カエルはひとり愉快に笑っていた。
「人それぞれの負の感情とは……。そういう負の性格ならばかわいそうだな。性格がそうならもう、それは鬼ということになる」
アメが小さくつぶやいた時、カエルが雪だるまに色をつけようと提案してきた。
「じゃん!ブルーハワイの液!」
「……かき氷にするのか?」
「違うよ!色をつけるのに使うの!こうやって……バーン!」
カエルはコップ一杯のブルーハワイの液を雪だるまにぶっかけた。
当然これで青く染まるわけはなく、雪だるまの頭が少し青くなっただけだった。
「ありゃ……足らなかったか」
「赤ならば頭から血を流してる、かわいそうなだるまになるな」
「まあ、いいや!」
カエルは手をパンパンと叩くと腰を伸ばし始めた。
「なあ、負の感情とはどういう所で育つと思う?」
アメはストレッチしているカエルにそんな問いを投げかけてみた。
「……例えば……自分の大切なものがなくなった時、爆発的に育つかな」
「大切なもの……」
「なんでもいいよ。大切にしていたモノでも心でもなんでも、それが踏みにじられたり、誰かのせいでなくなったりした時に感情ある生き物は怒るよ。他人じゃなくて自分がなくしても、自分に対して憎悪したりするんだ」
「そうか」
アメは揚々と語るカエルを見上げる。
「その憎悪や悔しさ、諦め、怒りが鬼を産む」
「鬼を産むのか?」
「うん。暴行や暴言に変わるから……暴れる鬼。そうするとね、周りから鬼に食われていって皆不幸になるんだ。比喩だけど間違いないでしょ?」
「ああ……」
カエルはさらに語る。
「そうすると『不幸を産んだ原因』があちこちを不幸にすることによってまた、『不幸を産んだ原因』にでかい不幸が戻ってくる。そのスパイラルから抜け出すには自分が何かの出口を見つけなきゃならない。そう、生きる意味だったり、声をかけてきた周りの者達の言葉の意味をわかろうとしたり、自分が明るくなったり、近くにある大切なものに気がついたり……。つまりは多方面からモノを見れるようになること。それが鬼をやっつけるのに必要だとあたしは思うのさ」
「落ち込んだ人には酷な内容だな。それができたら苦労しない」
「……そう、皆そう思ってる。だから『自分ばっかり不幸になる』のさ。泣くのはいいよ。でもそこから立ち上がるか、立ち上がらないかが重要なんだ。この世の中、自分が立ち上がらなきゃ助けてくれる人なんていないんだよ。一生辛くて悲しいままさ。そしてまた周りが鬼に食われていくの、繰り返し。この世界に意味なんてない。だから無理して生きることもないけどさ、死ぬとしたら死ぬ前に考えてみて、『後ろめたい何か』があるなら死なないで楽しく生きる事を選択した方が幸せになれる」
「……深いな。俺にはよくわからない」
アメは抜けるような青空を見上げた。
「わかんないなら別にいいよ。あたしも思ったことを言っただけだからさ」
カエルは雪を積み重ねて今度はカマクラを作っている。
「チョコをあげる方面は?」
アメはカエルを手伝いながら尋ねた。
「バレンタインは愛情!」
「愛情?」
雪を積み重ねながら輝かしい笑みを向けるカエル。
「本当は好きな男にチョコをあげるみたいだけど、日本は関係ないね。愛情があればなんだっていいのさ」
「ふむ」
アメは興味深そうに頷いた。
「好きな人にチョコをあげるなんて素敵だよねー。でもさ、義理チョコはあげる意味ないよねー。愛情ないし」
「義理でチョコをあげることもあるのか?」
「あるよー。愛情がないのにお世話になりましたみたいな感じであげるの。相手も返さなきゃいけないみたいになるから愉快じゃないね。元々のバレンタインから離れてるし」
カエルは積み上げた雪を手で固めている。アメも真似して固め始めた。
「なるほど」
「ねー。意味ないっしょ?……よし、できた」
カエルが雪山を掘り始め、だんだんカマクラに近くなってきていた。
「カマクラー!」
穴を掘り、人が中に入れるくらいになってからカエルは中でくつろぎ始めた。
「おお……すごいな。中に入れる」
アメもお邪魔して中に入る。
「意外にあたたかいな」
「でしょ?あったかいよねー!愛情もきっとこれくらいあたたかいはず」
「ふむ。……しばらくここにいてもいいか?」
「どうぞ」
アメはカマクラ内の不思議なあたたかさに興味がわいた。
「冬眠していたらわからなかったな……」
「まあ、そんなもんだよ!常識も。地球内の常識が宇宙では全然違うかもしれないし。ところで、あんたの仲間ってこの島にどんだけいるの?」
カエルはどこからか葉を沢山持ってきて地面に敷いた。
「ああ……えーと……あと三神だな」
「三神かあ。冬眠中?」
「ああ」
敷いた落ち葉の上にカエルは寝転がると「会ってみたいなあ」とつぶやいた。
「春になれば会える」
アメも腰をかけ、外を眺めながら答えた。カマクラの外は太陽により眩しいくらいに輝いていた。
「春になればか」
「ああ」
しばらくカエルとアメは一緒にいた。

TOKIの庶民記『あるカエルの物語』(R2年執筆)

TOKIの庶民記『あるカエルの物語』(R2年執筆)

雨神として存在するカエルの神さま達のお話。 ほのぼの目指します。 人間が足を踏み入れない場所には人間の知らないことがある……。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-01-20

CC BY-NC-ND
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