(2021年完)TOKIの世界譚 龍神編サイドストーリー2『ある雨神の日記』

(2021年完)TOKIの世界譚 龍神編サイドストーリー2『ある雨神の日記』

雨神として存在するカエルの神さま達のお話。
ほのぼの目指します。
人間が足を踏み入れない場所には人間の知らないことがある……。

一話、真冬に目覚めた雨神

この世界は無駄に広い。
狭い島国日本でさえ、人間が踏み入れていない場所もある。
神聖な場所とされている場合ももちろんあり、そこに住んでいる神々の事はだいたい知らない。
これは日本の中にある、小さな名もなき島のお話。
現在は一月。雪が深く積もり、風の甲高い音が雪を巻き上げている。肌に刺すような冷たさに、活発的だった動物達の気配はない。
深く積もった雪のさらに下、地中深くで冬眠中の生き物が、何を思ったか起きてしまった。
姿形はヒトにそっくり。しかし、パーツや目がヒトとはどこか違った。小人のような小ささで、目が丸くてかわいく、頭に簑傘を被り、なぜか羽織袴姿。
性別は男の子のようだ。
「あぁー! 春か!? 春が来た!」
少年姿の彼は寝ぼけた顔で地上用の通路を勢いよく上る。
しかし上った先は雪で覆われており、彼を幻滅させた。
「……深い雪で外に出られない。まだ春じゃない……」
少年は落ち込んでいるかと思ったが、今度は雪をかきだしはじめた。
「そういえば、いつも冬眠してしまう故に雪景色を見ていなかったな。もう一度寝る前に見ておこう」
少年は雪をかき分けなんとか地上へたどり着いた。雪のトンネルを抜けた先は美しくも寂しい真っ白の世界だった。青空の色もどこか澄んでいるように感じる。寝ていたからわからなかったが、今はお昼で快晴のようだ。
「……わあ……一面真っ白だ」
吹雪いていたのか木々にも大量の雪が垂れ下がっていた。
しばらく雪景色をのんびり眺めていたが、少年はくしゃみをして凍りつくような寒さに気がついた。
「さっぶ……へっくち!」
再びくしゃみをして凍える空気から逃れようと元来た道を戻ろうとしたが、おいしそうな匂いが鼻をかすめたため立ち止まった。
「……いい匂い? 皆、寝ているのではないのか?」
少年は訝しげに匂いのする方へ歩いていった。
しばらく雪の森を歩いていると何かが燃える音が聞こえてきた。
「焚き火だ……」
雪をかき分けて少年はそっと雪の影から先を覗いた。
「……誰だろ……?」
覗いた先でカエルのフードを被った少女が焚き火で何かを煮ていた。焚き火には鍋が置かれている。おいしそうな匂いは鍋からした。
「……お腹がすいたな……」
少年は小さく呟きながら少女の背中を見据える。少女は嬉々とした顔で鍋から何かをお椀に注ぎ、うまそうに食べ始めた。
「うう……なんだかわからぬがうまそうだ」
「あんたも食べる?」
「え!?」
独り言が聞こえてしまったのか少女がこちらを振り向いてお椀を差し出していた。
「……い、いいのか?」
「いいよ! 皆寝ててつまんないとこだったから! あ、あたしはカエル! よろしく!」
カエルと名乗った少女は少年にお粥の入ったお椀を渡した。
「お粥だ! ……この草はなんだ? ……あ、俺はカエルで雨神だ。アメって呼んでくれ」
「ほー、雨神ねー、じゃあ、あたしと同じだわ。てか、あんた、ちっさいね! あ、それとこの草は七草だよ!」
「七草?」
少年アメは首を傾げながらお粥を見つめる。お粥には様々な草が入っていた。大根とカブらしきものもある。中身を確認してから湯気越しに、再度目をカエルの少女に向けた。
カエルは人間の子供くらいの大きさ、アメは生まれたての赤子くらいの大きさだ。
「七草を知らない!? あー、この島の雨神は皆冬眠するの?」
「冬眠するぞ。カエルだからな。元は」
「あたしもカエルから神様になったけど冬眠はしないなあ! 時間の無駄じゃん! 雪は楽しいよ!」
「どこが……?」
アメはうんざりしたように呟いた。アメが一番嫌いなのは冬だ。寒くて寂しくて静かすぎる。
「……いーからそれ食べて! 冷めちゃうよー」
カエルはアメが持つお椀を指差した。アメは慌ててお粥をすする。
「……うま……」
「うまいっしょ! 冬の醍醐味はあったかいご飯!! かまくら作りだって楽しいんだから! 凍った川でスケートも楽しい!」
「……」
無垢に微笑むカエルをアメは驚きの表情で見つめていた。
……こんなの初めてだ。冬は暗くて寂しいだけだと思っていた。彼女はその常識を壊している。
破天荒だ……。
だが……なぜだろう。興味を惹かれてしまう。
「……もっと、もっと教えてくれ」
「いいよ! 町の話もしてあげよっか? クリスマスと正月は冬の盛大なパーティー! 新年を祝ったりするのさ」
「へぇ……」
カエルの話す内容はどれも興味深いものだった。
アメは自分の考えが変わるほどにこの少女に興味を抱いていた。

しばらくカエルと話したアメは雪だるまを作ってみたり、雪合戦をして遊んだ。
「冬は……こんなに楽しかったのか……」
「楽しかったっしょ? でももうおしまい!」
カエルは満面の笑みのまま、手を軽く叩いた。
「おしまいなのか?」
「うん! そろそろ吹雪が来る。さすがに吹雪の中じゃ遊べないよねー!」
「吹雪……」
そういえばなんだか風が強くなってきているように思えた。
雲行きも怪しい。
「じゃね!」
カエルは軽く手を振るとどこかへと去っていった。
「……」
アメはひとり取り残され、呆然と揺れる木々を見据えていた。
やがて雪がちらつき始め、異様な寒さが襲ってきた。アメは身の危険を感じ、慌ててねぐらへと戻って行った。
雪のトンネルをくぐり、土と雪で穴を塞いでモグラの棲み家のような部屋に入った。部屋の隅には布団が敷いてあり、アメはとりあえずその布団の中に入る。
目を閉じて先程の少女を思い浮かべた。
彼女は不思議な雨神だった。
また会えるだろうか?
アメは強い眠気と共に、甲高い風の音を聞きながらそんなことを思った。
暗い穴の中、アメは再び眠りについた……。

二話 人間の心とは


はっと再び目が覚めた。
生まれたての赤子くらいの身長しかない人型の男神アメは寝床から這い出た。
「もう春かもしれぬ! 出遅れた!」
アメはぼうっとしていた意識をこちらに呼び戻し、慌てて土の扉を掘る。掘った先は雪の壁だった。
「まだ、春じゃないのか……」
落ち込んだアメが再び寝床に戻ろうとした刹那、あの少女が頭に浮かんだ。
……彼女はいるだろうか?
吹雪は去った。だからいるはずだ。
と、アメは期待を胸にカチコチの雪を、尖った石で削り始めた。
なんとか穴が開き、外に這い出る。
以前よりも雪が少ないような気がしたが、まだ寒くてしっかり冬だ。風は穏やかで天気は快晴。
太陽が雪に反射してとてもきれいだった。
「……きれいだな」
アメはありきたりな感想をつぶやきながら少女を探す。
木々をかき分けて先に進むと緑色のカエルのフードが見えた。
「……いた!」
カエルのフードを被った少女はオレンジ色のスカートをはためかせながら雪だるまを作っていた。
「やあ! 寝ていたんじゃないの?」
少女神カエルは輝かしい笑顔でアメに手を振ってきた。
「あ……いや、起きてしまってな……。まだ冬なのか?」
「まだ冬だよ! 今の時期は節分とかバレンタインとかあるよ!」
「なんだそれは」
アメは知らない単語にまたも気分が高まるのを感じた。
「知らない? そっかあ! 寝てるんだもんねー」
「ああ……」
「教えたげる! 節分は鬼に豆投げる行事、バレンタインはチョコをあげるイベントだよ!」
「はあ……。豆投げた後にチョコあげるのか。妙だな。アメとムチ的なやつなのか?」
カエルの簡略した伝え方により、アメはさらにわからなくなっていた。
「チョコ嫌いの鬼にチョコあげたらムチムチだね!」
「鬼はチョコが嫌いなのか?」
カエルの発言によりアメは内容が全くわからなくなってしまった。カエルは嬉々とした表情で笑う。
「さあ? それは知らない。人それぞれだし」
「まあな」
アメは相づちを打ちながら、カエルが作る雪だるまが完成するのを眺めた。
「鬼って人の心にいる負の感情だと思うんだよね。だから、負の感情が人によって違うと思うんだよね」
カエルが雪だまを大きな雪だまの上にのせ、つぶやいた。
「ほう……」
「結局、豆を投げて気分を軽くするだけで、元々鬼がいる人は鬼がいると思う」
「人間の感情だからか?」
「うん。まあ、とはいえ、厄除けみたいな霊的な感覚で豆をまくのが普通だよ」
カエルは木のお椀を雪だるまの頭に乗せ、木の スプーンを目に突き刺して、木のフォークを口に突っ込んだ。
目鼻口には頑張っても見えない謎のだるまが完成した。スプーンが雪だるまに直角に刺さっているため、目から何かが出ているように見える。
「目から光線出してるみたい」
カエルはひとり愉快に笑っていた。
「人それぞれの負の感情とは……。そういう負の性格ならばかわいそうだな。性格がそうならもう、それは鬼ということになる」
アメが小さくつぶやいた時、カエルが雪だるまに色をつけようと提案してきた。
「じゃん! ブルーハワイの液!」
「……かき氷にするのか?」
「違うよ! 色をつけるのに使うの! こうやって……バーン!」
カエルはコップ一杯のブルーハワイの液を雪だるまにぶっかけた。
当然これで青く染まるわけはなく、雪だるまの頭が少し青くなっただけだった。
「ありゃ……足らなかったか」
「赤ならば頭から血を流してる、かわいそうなだるまになるな」
「まあ、いいや!」
カエルは手をパンパンと叩くと腰を伸ばし始めた。
「なあ、負の感情とはどういう所で育つと思う?」
アメはストレッチしているカエルにそんな問いを投げかけてみた。
「……例えば……自分の大切なものがなくなった時、爆発的に育つかな」
「大切なもの……」
「なんでもいいよ。大切にしていたモノでも心でもなんでも、それが踏みにじられたり、誰かのせいでなくなったりした時に感情ある生き物は怒るよ。他人じゃなくて自分がなくしても、自分に対して憎悪したりするんだ」
「そうか」
アメは揚々と語るカエルを見上げる。
「その憎悪や悔しさ、諦め、怒りが鬼を産む」
「鬼を産むのか?」
「うん。暴行や暴言に変わるから……暴れる鬼。そうするとね、周りから鬼に食われていって皆不幸になるんだ。比喩だけど間違いないでしょ?」
「ああ……」
カエルはさらに語る。
「そうすると『不幸を産んだ原因』があちこちを不幸にすることによってまた、『不幸を産んだ原因』にでかい不幸が戻ってくる。そのスパイラルから抜け出すには自分が何かの出口を見つけなきゃならない。そう、生きる意味だったり、声をかけてきた周りの者達の言葉の意味をわかろうとしたり、自分が明るくなったり、近くにある大切なものに気がついたり……。つまりは多方面からモノを見れるようになること。それが鬼をやっつけるのに必要だとあたしは思うのさ」
「落ち込んだ人には酷な内容だな。それができたら苦労しない」
「……そう、皆そう思ってる。だから『自分ばっかり不幸になる』のさ。泣くのはいいよ。でもそこから立ち上がるか、立ち上がらないかが重要なんだ。この世の中、自分が立ち上がらなきゃ助けてくれる人なんていないんだよ。一生辛くて悲しいままさ。そしてまた周りが鬼に食われていくの、繰り返し。この世界に意味なんてない。だから無理して生きることもないけどさ、死ぬとしたら死ぬ前に考えてみて、『後ろめたい何か』があるなら死なないで楽しく生きる事を選択した方が幸せになれる」
「……深いな。俺にはよくわからない」
アメは抜けるような青空を見上げた。
「わかんないなら別にいいよ。あたしも思ったことを言っただけだからさ」
カエルは雪を積み重ねて今度はカマクラを作っている。
「チョコをあげる方面は?」
アメはカエルを手伝いながら尋ねた。
「バレンタインは愛情!」
「愛情?」
雪を積み重ねながら輝かしい笑みを向けるカエル。
「本当は好きな男にチョコをあげるみたいだけど、日本は関係ないね。愛情があればなんだっていいのさ」
「ふむ」
アメは興味深そうに頷いた。
「好きな人にチョコをあげるなんて素敵だよねー。でもさ、義理チョコはあげる意味ないよねー。愛情ないし」
「義理でチョコをあげることもあるのか?」
「あるよー。愛情がないのにお世話になりましたみたいな感じであげるの。相手も返さなきゃいけないみたいになるから愉快じゃないね。元々のバレンタインから離れてるし」
カエルは積み上げた雪を手で固めている。アメも真似して固め始めた。
「なるほど」
「ねー。意味ないっしょ?……よし、できた」
カエルが雪山を掘り始め、だんだんカマクラに近くなってきていた。
「カマクラー!」
穴を掘り、人が中に入れるくらいになってからカエルは中でくつろぎ始めた。
「おお……すごいな。中に入れる」
アメもお邪魔して中に入る。
「意外にあたたかいな」
「でしょ?あったかいよねー!愛情もきっとこれくらいあたたかいはず」
「ふむ。……しばらくここにいてもいいか?」
「どうぞ」
アメはカマクラ内の不思議なあたたかさに興味がわいた。
「冬眠していたらわからなかったな……」
「まあ、そんなもんだよ!常識も。地球内の常識が宇宙では全然違うかもしれないし。ところで、あんたの仲間ってこの島にどんだけいるの?」
カエルはどこからか葉を沢山持ってきて地面に敷いた。
「ああ……えーと……あと三神だな」
「三神かあ。冬眠中?」
「ああ」
敷いた落ち葉の上にカエルは寝転がると「会ってみたいなあ」とつぶやいた。
「春になれば会える」
アメも腰をかけ、外を眺めながら答えた。カマクラの外は太陽により眩しいくらいに輝いていた。
「春になればか」
「ああ」
しばらくカエルとアメは一緒にいた。

三話ホワイトデーとイチゴ

鳥の鳴き声が聞こえ、春の訪れを感じさせるような柔らかい風が通りすぎる。雨神のアメは雪がすっかり溶けたので元気よく外へと飛び出した。
時期は三月である。
ねぐらは土の中にあり、盛り上がった土の山に扉がついていた。
まあ、土の中に家があるので、実は扉を開けなくても、どこからでも掘れば帰ることができたりする。
この扉から先は霊的空間(別次元)になっており、人間が住むような家具もちゃんとある、しっかりしたおうちが広がっていた。
「春だ!」
とりあえず、そう叫んだアメは生え立ての雑草達を眺めながら歩きだした。森の木々にはまだ葉がついていない。
「カエルはいるかな?」
アメは春になった高揚感から鼻唄を口ずさみつつ、少女の雨神、カエルを探した。
よく考えれば彼女は謎が多い。
この島ではない所から来たという。雨神は日本各地にいるので珍しいわけではないが、なぜ、この島に来たのかがわからない。
しばらく森をさ迷っていると、上から声がかかった。
アメは反射的に上を見上げた。
「やあ!」
「あ!」
見上げた先で、木の枝に座るカエルがこちらに向かって手を振っていた。
「これ、あげる!」
会って突然にカエルは大きな葉っぱに包まれた何かを、アメに向かい落としてきた。
「え!! おっとっと……」
アメは慌てて包まれたものを受けとる。
「開けてみて」
カエルはひらりと木の枝から飛び降りて地面に着地すると、にんまりと笑った。
アメは眉を寄せつつ葉っぱの包みをほどく。
「……? これは……クッキーか?」
「そう。クッキー! ドングリで作ったの」
包みを開くと四枚のいびつなクッキーが縦に並んでいた。
「ほお、ドングリのクッキーか。渋みがうまいとか聞いたことがあるな」
「で、それを私にちょうだい!」
カエルは何を思ったのかアメに向かい、手を差し出してきた。
「……? よくわからぬが……はい」
アメは困惑しながら、葉っぱの包みごとカエルの手ひらに置いた。
「ありがと!」
「……何をさせられたのだ? 今……」
眉を寄せ、首を傾げるアメにカエルは堂々と言い放つ。
「ホワイトデーやってみたかった!」
「なんだそれは……」
アメは呆れた声をあげた。
「ホワイトデーだよ! ホワイトデー! 男の子が女の子にバレンタインデーのお返しをするんだよ!」
「はあ……。しかし、俺はカエルから何ももらっておらぬぞ?このあいだ言っていたチョコの話だろう?」
「真冬にお粥あげたじゃん!」
「ずいぶん前だな!!」
どうやら、ただ、ホワイトデーの行事がやってみたかっただけのようだ。深い理由はなさそうである。
「あ、食べる? クッキー」
「うちに来ればお茶くらいは出すが……」
「お! じゃあいくー!」
会話はあっという間にティーブレイクタイムとなり、アメはカエルを連れて家へと帰っていった。
盛り上がった土部分についている扉から中に入り、土でできた階段をくだる。
「ほー、こうなってるのか!」
この階段部分は洞窟のようになっており、階段を抜けると部屋にたどり着く。
土の壁でできた一部屋に入ると、アメはカエルを食卓の椅子に座らせて、奥にある台所でお湯を沸かし始めた。土の中にある部屋なのに、水道があるのはなんなのか。
細かいことを気にしないカエルは気にも止めずに、足を軽く振りながらお茶ができるのを待った。
「またせたな。乾燥させた葉から作ったお茶だ」
「おー! ちゃんとしたティーだ!」
二人はクッキーとお茶で楽しくおやつを食べた。
「楽しそうじゃん。いいねぇ。ワカイってさ」
ふと、二人ではない声がした。
どこか大人っぽい女の声。
「む。この声は」
アメは声の主に覚えがあるのか、姿を探す。
「ここだよ。あたしに気づかないくらい夢中だったんだねぇ」
声はテーブルから少し離れた棚(たな)付近から聞こえた。
目線をそちらに向けると棚と壁の隙間から、アメと同じくらいの身長の少女が飛び出してきた。
少女は眠そうな目をしており、アメ同様に格好が奇抜だった。全体的に赤い。赤のツインテールにピンクのパーカーに赤いスカートだ。おまけに赤いカエルの帽子を被っている。
「イチゴか」
「勝手にジャマした」
赤い少女イチゴは嬉々と笑うと、余った椅子に座った。
「誰?」
「ほら、前に仲間がいるといっただろう? あれだ」
カエルが首を傾げていたので、アメは軽く答えた。
「つまりこの島の雨神なわけだね!」
カエルは興味津々にイチゴを見ていた。ちなみに、この島の雨神には鍵をかけるという習慣はないようだ。アメの家にイチゴがいてもアメは驚くそぶりは見せない。
「ふーん。あんた、この辺に住んでる雨神じゃあなさそうだねぇ。あたしはイチゴさ。あんたの素性がよくわからないから、仮でよろしくって言っておくよ」
「ほーい。私はカエル! よろしくっ!」
イチゴの挨拶にカエルは微笑みながら答えた。
「ところで……」
イチゴの声かけにアメとカエルは同時に首を傾げた。
「イチゴ狩りが新型ウィルスによって中止になっているそうだね」
「突然なんだ……」
アメはイチゴの発言がわからず、呆れた目を向けた。
「あれ? 知らないのかい? 新型のウィルスが人間達を襲っているそうだよ。だから、イベントもやらないんだとさ」
「なんだそれ! 怖い!」
イチゴの言葉にカエルは過剰に怯えた。彼女の頭の中では変な化け物が人間を食っているのだろうか。
「ああ、お年寄りにかかると、かなり危険なウィルスらしいよ」
「お年寄りか……。最年長の雨神がまずいな……」
アメは先程とは変わって眉を寄せ始める。
「神にもうつる可能性はあるのかね?」
「頭から食われたりするの!?」
カエルはさらに怯えた。
「頭から食われるのか?」
アメまで顔を曇らせる。
「え? 嘘……頭から食われんのかい?」
なぜか発言者のイチゴまで怯え始めた。イチゴは風の噂で聞いただけなのでウィルスがなんだかわかっていなかった。
「と、とにかくだね、熱に弱いらしいのさ。後は、人間達は自衛のためにアルコールとかマスクとか買ってるようだよ」
「頭から食われんのに?」
カエルの不安げな顔にイチゴも顔を青くする。
「お、おいしくなくなるんじゃないかい?と、とりあえず、お酒ってアルコールだったはずだからお酒飲んで自分をまずくしとくかい?」
イチゴは震える声を出しながら、棚をまさぐりお酒を取り出してきた。
「……あ、それは……長老のお酒……」
アメが控えめにつぶやく。
「長老がお酒好きなのって、このためだったのかねぇ……」
「さあ?」
イチゴの言葉にアメとカエルは同時に首を傾げた。
「あーあー、あたしはイチゴが食べたいよ……。春と言えばイチゴだろう?」
イチゴはお酒の入ったツボをため息混じりに見据えた。
「ああ、そういえば、イチゴ。ウィルスとやらは熱に弱いとか言っていたな。イチゴをジャムにしたらどうだ? それを温かいまま食べるのだ」
なんだか外れた意見を真面目に話すアメ。そう、ここにいる皆はウィルスが何なのかを知らない。
「ああ! それはいいじゃないか! 好きなイチゴを沢山食べられて、さらにウィルスとやらを撃退できるじゃないか! アメ、よく考えたねぇ」
イチゴは外れた意見を丸々鵜呑みにしていた。
「ウィルスって結局なに?」
「ウィルスは……よくわからないが、害だよ。それでいいじゃないか」
カエルの発言にイチゴは意気揚々と答える。
「まあ、いっか!」
カエルもなぜか納得。
お茶を飲み終えたイチゴとカエルはお酒を置きっぱなしのまま、野イチゴ狩りへ出かけたのだった。
「……なんというか、仲良くなったのか? 女の子はわからん。とりあえず、自分をまずくしておくか」
アメはひとり頭を抱えつつ、ツボに入ったお酒を自衛のために一口だけ飲んでおいた。
本当は意味がないのだが、そんな事を彼らが知るよしもない。

……しかし……カエルは外部から来ているのではないのか?
なぜ、ここから出たことのないイチゴのが外に詳しいのだ。
カエルは何しにここに来たのだろう?

四話 エイプリルフールと桜

春の暖かな風が頬をかすめていく。現在は四月。今年は暖かくて桜が早く咲いた。雨神のアメは小さな体を揺らしながら桜の下でお花見の準備をしていた。
「はあ、暖かくなったものだ。桜がきれいだな。風が桜をどんどん持っていってしまうのが悲しいのだが」
「やっほー!」
ふとのんきな声が響いた。この声は聞き覚えがある。
「カエルだな」
「せーかい!」
アメの背後から声をかけていたのはアメよりも身長の高いカエルという少女だった。
「これから花見をするんだがどうだ?」
「花見? いいね! 一緒にやりたい!」
カエルは飛び跳ねながら、舞う桜の花びらを一枚一枚掴もうとしている。
「そんな簡単には掴めないぞ」
「何言ってるの? 私は全日本カエル競技一位だよ!」
カエルはアメにふんぞり返りながら得意気に言った。
「なんだ……それは……」
「トビハネはセカイイチさ! 名高いカエル達との一戦! 莫大な優勝賞金! 私はそのすべてを持っている!」
眉を寄せたアメにカエルは意気揚々と語った。
「おお! なんかよくわからんがすごいのだな!」
「何話してんだあ? けけけけ」
アメが目を輝かせ始めた時、アメとは違う男の声がした。
「ん? 誰?」
カエルが声のした方を向くと紫色の毒々しい色合いをした少年がこちらを見ていた。目付きの悪い少年だが、アメと同じくらいの身長であり、なんだかお人形みたいでかわいい。紫色のカエル帽子にダボダボのジャージのようなものを着ている。
「ああ、キオビか。……彼はキオビという名前の雨神で仲間だ」
アメはカエルに仲間を紹介した。
「黄色くないのにキオビなの? ムラサキじゃないの? おもしろ!」
「一応、キオビヤドクカエルから神になったのさあ。ムラサキだけどなあ! けけけー!」
愉快なキオビは躍りながらカエルに握手をした。
「けけけー!」
カエルも真似して踊る。
「なあ、キオビも花見するか?」
「いいねえ。桜だあ! 桜あ! けけけー!」
キオビは愉快に躍りながら手を叩き始めた。
「うわあ! おもしろい! 私もー! けけけー!」
カエルも真似を始める。ふたりが楽しそうにしているのをアメは不満そうに見ていた。
なんだかわからないが、カエルが他の男と楽しそうにしているのが気に入らない。なぜだかはわからない。
「桜を見よ! 桜を! それから山菜のおひたしを作ってきた。早く食べよう」
アメはふたりのダンスをいったん止めると竹の葉っぱに乗せられた菜の花などのおひたしを、たまたまあった切り株の上に置いた。
「わあ! おいしそう!」
「だなあ。けけけー!」
ふたりはすぐにおひたしを食べ始めた。
「おー! 上手い!」
「だなあ。けけけー!」
カエルもキオビも愉快に笑いながら桜を見上げる。
「はあ、きれい。ところで、君はさ、私のこと好きなの? 間に入ってきちゃったりして」
カエルは唐突にアメに尋ねた。
「え……」
アメは口に含んでいた山菜を咀嚼するのをやめる。なんだかよくわからない。もやもやはするのだが。
「好きか嫌いかとの二択ならば好きだな」
アメは少し頬を染めてつぶやくように言った。
「そっか! 私はアメのこと大好き! 愛してるよ!」
「ぶっ……」
カエルがさらりと当たり前のように言ったのでアメは山菜を吹き出してしまった。
「まことか?」
アメは眉を寄せつつ、緊張した顔で尋ねる。
「けけけー! 今日はあれだなあ!」
カエルが返答する前にキオビが口を挟んできた。
「なんだ? 今は大事な……」
「エイプリルフール!」
「は?」
カエルが呪文のような言葉を発し、アメは口をパクパク動かしていた。
「だからエイプリルフールだよ!」
「ん?」
カエルが手を広げてアメを見るが、アメにはなんだかわからなかった。
「知らないの? 嘘をついていい日なのさ!」
「嘘か……。知らなかった。では、嘘をついているのも嘘なのか?」
「ん?」
アメの言葉に今度はカエルが首を傾げた。
「嘘をついたのも嘘なのか? つまり本当なのか?」
「けけけー! わけわかんねぇ! わけわかんなくなってきたあ!」
キオビは愉快そうに笑い始めた。
「う、うーん……ま、まあ、とにかく、桜を見ようか!」
カエルは返答に困り、花見を再開させた。
それを眺めながらアメは首を傾げる。
……カエルよ。どこまでが嘘だったのだ?
……あの言葉は嘘なのか?

あのお花見から三日が経過した。
アメは散りゆく桜を眺めつつ、近くの川沿いを歩いていた。透明度の高い川は心地よい水音をたてながらゆっくりと流れている。
アメは大きな岩によじ登り、川を確認した。
「ふむ。今年は雪が多かったからか、水かさが増えている気がするな」
そんなことを言いつつ、岩に座り込み、作ってきた握り飯を取り出す。
「今度はひとり花見だ」
岩の近くには大きな桜の木があった。アメは毎年、この桜で、ひとり花見をするのが習慣になっていた。
「……ひとり花見か……」
毎年やっているのだが、なんだか今年は微妙にさみしい。
「やっほー!」
ふと、よく聞く少女の声が響いた。
「この声は!」
アメは顔を明るくして声の主を探した。カエルデザインのフードを被った少女が桜の木をよじ登っていた。
「カエル! ……ん?」
よく見ると、カエルの上にはキオビがいた。キオビはカエルよりも一段上にある枝に座っていた。
「キオビもいたのか……」
「ケケー! 元気だったかあ?」
キオビは陽気に笑うと、岩に向かって軽く跳んできた。
「む!」
アメが身構えると、キオビは笑いながら握り飯に手を伸ばしてきた。
「食べたいのか?」
「ケケー! 花見したいー! ケケー!」
キオビは前回同様、不気味なダンスをしながらアメに愛嬌ある顔を向ける。
「……仕方ない。ほら」
アメはやや不機嫌そうに握り飯の乗っている葉っぱをかざした。
「あー! 私も食べるー!!」
上の方でカエルの声がした。
「では降りてくるのだ」
アメは若干の胸の高鳴りを感じつつ、カエルに声をかける。
「やったー!」
カエルはすぐさま桜の木から岩に向かって飛ぼうとした。しかし、飛ぼうとした刹那、カエルは足を踏み外してしまった。
「あっ! やばっ!」
落下するカエルに顔を青くするキオビとアメ。
「キオビ! おにぎり持ってろ!」
アメは素早くキオビにおにぎりを押し付けると、カエルに向かって高く飛んだ。
「カエル!」
「ん? お! アメ!」
アメは自分よりも大きいカエルを抱き抱えると、危なげに岩に着地した。
「おっとっと……」
アメがふらつくとキオビが背中で止めてくれた。
「大丈夫か? ケケー!」
「ありがとう。キオビ」
アメはカエルを危なげに岩に下ろす。
「あー、びっくりした! ふたりともありがとう!」
カエルははにかみながらお礼を言った。
「怪我してないか?」
「してない。してない。アメちゃん優しいね! そういうとこ好きー」
何気ないカエルの発言に、アメは顔を真っ赤にしていた。
「うっ……」
言葉を詰まらせたアメが言葉を続けようとしたが続かなかった。
……嘘ではないよな? 今日もエイプリルフール……とか。
「アメちゃん、大丈夫?」
カエルが不安げに顔を覗きこんでいたので、アメは慌てて首を縦に振った。
「大丈夫! 大丈夫!」
「青春かもしれないぞぉ! ケケー!!」
キオビは再び愉快に踊り始めた。
「あ! 私も!」
カエルもキオビと共に踊り始めるが、三人乗ると岩も狭い。カエルはまたも足を滑らせた。
「ぎゃあ!」
「危ない!」
今度はキオビとアメが同時に手を掴み、カエルは落ちずに済んだ。
「いやあ……ごめん、ごめん。……ほんと、ありがとう」
「はあはあ……びっくりした……」
アメは早くなる心音を聞きながら、小さくため息をついた。
「もう、いっそうのこと下で花見をしないかあ? ケケー!」
キオビは握り飯を持ったまま、さっさと下に飛び降りてしまった。
「あ! 握り飯! ……はあ、仕方ない。皆で花見するか。また」
「そうしよう! いやあ、色々とごめんねー!」
カエルの苦笑いを見つつ、アメは先程の質問をしてみた。
「なあ、今日はエイプリルフールか?」
「はあ? 毎日エイプリルフールだったらやだよ」
「そうか」
カエルの答えにアメはどこか満足そうに頷いた。
桜はもう散りかけている。
桜の花の寿命は短い。

五話 よしのぼりとこいのぼり

五月に入り、とたんに暑くなった。空は濃い青色になり、木々も緑になってきた。鳥もかしましく鳴くようになる。
「それで、虫も現れる!」
簑傘に羽織袴姿の雨神アメは額の汗を拭いつつ、虫の観察に全力を注いでいた。
「だんごむしだ! 丸々してるな、お前」
アメは川の近くにある石をどかし、だんごむしを発見した。
「おお! 目の前にはてんとう虫! バッタもいるではないか!」
ちなみに、彼はかえるから雨神になったようだが、虫は食べない。
顔を緩ませたアメはさらに、虫を探す。
「ねー、ねー、虫より川に入ろうよ!」
ワンピースの裾をまくって、足踏みしながら、野性的に川の水を辺りに撒き散らしていた少女、カエルが口を尖らせてアメを見ていた。
「川は入ったらまだ、寒いだろう?」
「そんなことないさ! 川にも生き物いるよ! ほら! いたよ! よしのぼりー!」
カエルは近くの岩の下を指差し、アメに来るように促した。
「おお! よしのぼりか!」
アメも嬉々とした顔で、カエルの元へ向かった。
「そーっと来なよ!」
「さっきまで、足踏みしていたヤツに言われたくない」
ふたりはいがみ合いながら岩の下を覗き、よしのぼりの姿を確認すると、笑いあった。
「よしのぼりで思い出したのじゃが……」
ふと上から男の声が降ってきた。
「ん?」
首を傾げつつ、ふたりは同時に岩の上を見上げる。
岩の上にアメに似た雨神があぐらをかいて座っていた。カエルを模した帽子にマントのような布を肩にかけ、眠っているかのように細い目をこちらに向けている。
「ああ! 長老! こんにちは」
「ちょーろー?」
カエルが首を傾げる中、彼の姿を確認したアメが慌てて挨拶をした。
「ああ、こんにちは。私は長老。ここに住んで一番長い雨神じゃ」
長老とやらはカエルに自己紹介をしたようだ。長老と言っているが、外見はアメと変わらない。
「へぇー、なんのかえる?」
「私はモウドクフキヤカエル。ヤドクカエルの一種じゃ」
「猛毒!?」
カエルは後退りするが、長老は愉快に笑っていた。
「大丈夫じゃ。毒はもっておらん故」
「あー、びっくりした。あ、でさ、さっき言っていた、よしのぼりで思い出すってなに?」
カエルは一通り驚いた後、一番最初に長老が言っていた事を思いだし、尋ねた。
「ああ、それはズバリ、こいのぼり!」
「こいのぼり!?」
長老の言葉にアメとカエルは同時に声を上げた。アメはどうやら違う方面を思い浮かべているようだが……。

「こいのぼりって、恋がのぼるってことか? つまり、成功すると!」
アメの発言に長老は首を傾げた。
「ん? ちょっと何言ってるかわからんのじゃが、鯉がのぼるのは間違いないぞい」
長老の言葉に、今度はアメが首を傾げる。お互い噛み合わない。
「じゃあ、長老! こいのぼり、作る?」
カエルは長老の手を取ると、満面の笑みで尋ねた。
「おー、いいのぉ! どう作るか?」
「葉っぱで作る?」
長老とカエルが仲良く話しているのを見て、アメはやや頬を膨らませた。
「恋は作るものではなかろう」
「それが、鯉は作れるんだよ」
噛み合わないアメとカエルは、噛み合わない会話をしながら、葉っぱを選ぶ。
「葉で恋が作れるわけ……待てよ。相手に届きそうなものなら作れそうだ」
「……?」
突然、去っていったアメにカエルは眉を寄せたが、追うことはしなかった。
しばらくして、カエルと長老は試行錯誤をし、枝に葉っぱを巻き付けて、こいのぼりを作った。
しっかり、目や鱗も描かれている。
「わーい! できたー!」
「まあ、本当は赤とか青とかなんじゃが……全部みどりになったのぉ。かえるらしくて良き良き」
カエルと長老が手を取り合って喜んでいるところへ、アメが慌てて戻ってきた。
「はあ、はあ……お、俺もできたぞ!」
「え? どれ? みせてー!」
期待のこもった目のカエルに、アメは頬をやや赤く染めながら作ったものを差し出した。
「こ、これだ!」
「……!?」
アメが差し出したものはハート型に結わいてあるレンゲの冠だった。
「え……えー……と……」
「気持ちだ」
アメは得意気に鼻を鳴らすと、レンゲの冠をカエルに押し付けた。
「あ……、ありがと」
カエルの顔は困惑していたが、顔は上気していた。単純に照れくさかったのだ。
「青春じゃのー! いいのぉー!」
そんな二人を眺めながら、長老はひとり、上機嫌だった。

六話 ジメジメなキノコ狩り

ジメジメした梅雨に入った。
アジサイが美しく咲いている。葉っぱの上ではカタツムリとナメクジが競争していた。
静かな雨音が、かえる達を元気にさせる。
しかし、カエルから雨神になったアメは、喜んで跳び跳ねるわけでもなく、青い顔で、木の中にあるおうちを走り回っていた。
「なんということだ!! うちにキノコが生えるなんて!!」
一、二本ならかわいいものだったが、数十本以上束になって、元気に生えてきた。しかも、だんだん大きくなっていく。
「なんのキノコだか知らぬが、迷惑ぞ!!」
現在、アメはキノコがどこに生えたか確認作業中である。
「ああー! 布団にも生えてる! 台所にもー!! にょきにょきしおってー! 女の子が遊びに来たら、ドン引きされてしまう!! いますぐ、収穫……あ、いや、除去しなければ」
アメがキノコに向かおうとした刹那、扉が思い切り開き、金色の髪の少女雨神、カエルが遊びに来た。
「こんちはー!」
「ぎゃー!!」
アメがキノコを隠そうとするが、隠せるわけもなく、カエルに見られてしまった。
「うー……わぁ……。いつからリフォームしたの? 部屋のテーマは……キノコの王国とか? あ、それとも栽培中?」
「は、はは……」
カエルの言葉にアメは苦笑いをした。
「ああ、そうか! キノコ狩りだ! ちょっと時期が違うけど、最近、秋みたいな涼しさだったから、キノコ狩りで儲けようとしてるんでしょ!」
「え……」
カエルは嬉々とした顔でアメを見た。
「あー……あ、ああ! その通りだ。室内の遊びを考えていてな……。皆で遊べるかなって家を改造したんだ」
「やっぱり! 今日はね、さっきそこら辺で出会った、コバルトヤドクカエルのコバルトちゃんと一緒に来たんだよ」
カエルはアメを全く疑わず、嬉しそうに一人の女の子を部屋に入れた。
「こ、コバルトか」
アメの視界に青い女の子が映った。青いおしゃれなかえる型の帽子を被り、かえるがデザインされたワンピースを着ている。
「ど、どうも……」
コバルトと呼ばれた少女は、恐る恐るアメの部屋を覗いた。
「コバルトは……遊びに来たのか?」
「こないだ借りた、ジャムに使わせてもらったビンを返しに来たの……。ついでにお茶を飲ませてもらおうかなって……」
コバルトはもじもじしている。
「な、なるほど……いいのだが、台所にキノコが生えてて……そのー……」
アメが言葉を探していると、カエルが元気よく、言葉を続けた。
「キノコ狩りして、食べられるキノコでキノコ料理やろ!!」
「なっ……」
アメの顔色は悪かったが、カエルは満面の笑みを浮かべ、アメの部屋へと上がり込んで行った。

「さあ、収穫だよ! カゴちょうだい!」
カエルが心底楽しそうにアメにカゴを要求した。
「か、カゴ……!? あ、ああ……」
アメは植物のツルで作ったカゴを、カエルに渡す。
「もう一個ある?」
「もうひとつ……ああ、これ」
アメは辺りを見回して、食材が入ったカゴを渡した。
「トマトとかに、一回外に出てもらってと……」
カエルは中の食材を全部出すと、机に置いてから、カゴをコバルトに持たせる。
「……これは……」
「キノコ狩りしよ!」
「え……ちょっと……カエルちゃん……」
カエルはコバルトを引っ張ると、部屋の奥まで進んでいった。
「そっちは大量にキノコが……」
アメの苦笑をよそに、カエルは目を輝かせていた。
「ヒラタケだ!! シイタケもある!!」
「え? シイタケ!? なんで?」
カエルとコバルトは同時に驚きの声を上げる。
「ベニテングダケだ! こっちはホコリダケ!! めっちゃブナハリダケ!!」
机の足には大量に白いキノコが生えていた。普通ではありえない光景だ。
「赤いのはドクがありそうだけど……この白いのは食べられそう? それよりも……アメとキノコ料理食べられるなんて、幸せ……」
コバルトが頬を染めている横で、カエルは嬉々とした顔で、白いキノコのブナハリダケを収穫していた。
「ブナハリダケは高級品だよ! たしか! お! こっちはアンズダケ!? ポルチーニまであるじゃん! すげー!!」
「……俺は、君がそんなにキノコに詳しいことに、驚くぞ……」
アメはあきれた声を上げた。
「シメジみたいなのとか……エノキみたいのもあるのね……。でもなんか……おっきいのもあるわ……」
コバルトは控えめにカエルの背中を叩いた。
「ん?」
「なんか……おっきいのが……」
「わあ! あれはニオウシメジ!」
「あわわ! やっぱり臭いか?」
アメはカエルの言葉に慌てた。
部屋がキノコ臭いと思ったらしい。
「ん? 臭くないよ? とりあえず、収穫……おもっ!」
ニオウシメジは大きく、おそらく米俵くらいの重さはありそうだ。
「ほら、手伝って! 皆!」
カエルの掛け声に、コバルトとアメが慌ててキノコの収穫を手伝った。
結果、かなりのキノコが狩られ、アメの部屋はスッキリした。
しかし、なぜ、生育環境が違うキノコが発生したかはわからない。
「雨神の変な能力が発動したのかもねー」
雨神達はしばらくしてから、キノコの生えていた椅子に腰掛け、キノコ汁と焼きキノコを食べていた。
「アメの焼いたキノコ、おいしい……わ」
「そ、そうか? ありがとう。焼いただけなんだがな……」
「塩、ふってくれた……うれしいな」
コバルトは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「コバルトのキノコ汁も最高にうまいぞ」
「……!!」
アメの笑顔を見たコバルトは、さらに頬を赤く染め、焼いたハナビラダケを食べた。
「ほぉー……」
カエルはアメとコバルトを交互に見ると、不気味に笑った。
コバルトの方はアメを気になっていて、アメはなんとも思ってなさそう。
「春だねぇ」
「いや、今は梅雨だ」
カエルの発言に首を傾げたアメは、真面目に返答する。
「……これは……ツユでもあるけど、シルでもある……なんて……」
コバルトがキノコ汁に向かい、ひときわ小さく、だが自信満々につぶやいた。しかし、カエルとアメの複雑な表情を見るや、顔を真っ赤にして「……忘れてほしいの」と両手で顔を覆った。
「青いかえるなのに、真っ赤になってる!!」
カエル達は大声で笑った。

梅雨でジメジメしているが、楽しいキノコパーティーとなったようだった。

七話 ひやむぎvsそうめん

七月になった。
蒸し暑い日が続く。
こんなに暑い中、この島に住む、かえるの雨神達は暑苦しい喧嘩をしていた。
「ひやむぎ!」
「そうめん!」
島に住む、かえる達は半々にわかれて戦っていた。
「そうめんがいいー! 細いのが喉ごしいいじゃん!」
「いやいや、ひやむぎだ! 喉ごしを楽しむならひやむぎ!」
かえるフードを被っているカエルと、編み笠に和装のアメは議論を戦わせている。
「あたしもそうめん! ぜったいそうめん!」
「わ、わたし……は、ひやむぎのが……」
赤いかえるイチゴと、青いかえるコバルトも無駄なにらみ合い。
「ケケー! そうめん! そうめん食べたい! ケケー!」
「まいったのぉー、私はひやむぎじゃ……」
紫なのに黄色のかえるキオビと、一番長く存在する雨神、長老も意見が割れていた。
「……、ところでさ、なんでひやむぎかそうめんの争いしてんの? 私、途中から入ったから全くわからないんだけど」
ふと、カエルが額の汗をぬぐいながらアメに尋ねた。
「知らずに意見していたのか……」
「カエルちゃんははじめてじゃな。教えてあげようぞ」
アメが呆れた声を上げ、長老が説明を始めた。
「えー、毎年この時期は、七夕があるじゃろ? 七夕はひやむぎを食べる習慣が我々にはあって……」
「ひやむぎじゃない! そうめんさね!」
こちらの話を盗み聞きしていたイチゴが声を張り上げるが、長老は苦笑いで話を続ける。
「はは……えーと、この時期になると、大陸から麺が届くのじゃよ。私が知り合いの神に食べられる分だけ頼んでるんじゃが、ひやむぎとそうめんのハーフアンドハーフがなぜか受け入れてもらえなくて、どっちの麺を多めにするか争っているんじゃ……」
「ああ、それで。でも、そうめんがいいよ。そうめん多めにしよ!」
カエルは納得したが、そうめんの部分は譲れないらしい。
「うむ……じゃがこれでは、話が終わらぬ。どうしたものか」
「ディベートするのは?」
「は? でぃ……」
カエルの発言に長老は首を傾げた。
「ディベートだよ! さあ、やろ!」

と、いうことで、カエルが決めたディベート大会が始まった。
木で作った椅子を木の机のまわりに並べ、雰囲気が出るように葉っぱで書類も作った。
「よし! 完璧」
「では、でぃべぃとを始めるかの? おい、どうするのじゃ?」
長老がアメ達を一通り見回してから、カエルにそっとささやいた。
「ひやむぎ派、そうめん派にわかれて椅子に座る! それから良いところと悪いところの意見を出しあって、最終的な結論を出す!」
「ほぅ、なるほど。皆、わかったかの? それぞれ意見を出し合うのじゃ!」
身振り手振りで説明するカエルに、深く頷いた長老はひやむぎ派から意見を聞いていくことにした。
「ふむ。では、俺から。ひやむぎは太い。喉ごしがより楽しめ、お腹がいっぱいになる」
アメが一番早く意見を出した。
「え、えっと……私はアメが好き……だから」
次にコバルトが控えめに意見を言う。
「アメが好きだからって、理由にならないと思うさねぇ……」
と、いうことで、カエルが決めたディベート大会が始まった。
木で作った椅子を木の机のまわりに並べ、雰囲気が出るように葉っぱで書類も作った。
「よし! 完璧」
「では、でぃべぃとを始めるかの? おい、どうするのじゃ?」
長老がアメ達を一通り見回してから、カエルにそっとささやいた。
「ひやむぎ派、そうめん派にわかれて椅子に座る! それから良いところと悪いところの意見を出しあって、最終的な結論を出す!」
「ほぅ、なるほど。皆、わかったかの? それぞれ意見を出し合うのじゃ!」
身振り手振りで説明するカエルに、深く頷いた長老はひやむぎ派から意見を聞いていくことにした。
「ふむ。では、俺から。ひやむぎは太い。喉ごしがより楽しめ、お腹がいっぱいになる」
アメが一番早く意見を出した。
「え、えっと……私はアメが好き……だから」
次にコバルトが控えめに意見を言う。
「はは、アメが好きだからって、理由にならないと思うさねぇ……」
イチゴは腕を組んで楽しそうに笑う。
「私も発言するのじゃ。ひやむぎは太い故に薬味が良く絡み、汁も多めに口に含めるぞい」
長老は自信満々に答えた。
「では、次、あたしらの番! そうめんは細いから、喉ごしがいいさね! ひやむぎよりかは、するんと口に入るんだい! それに、盛り付けが天の川みたいできれいだよ。細いから川みたいに盛り付けら れる」
イチゴが腰に手を当ててふんぞり返った。
「ちょっと上品に見えるよね!」
カエルもイチゴに笑いかける。
「細いから汁がよく絡む! ケケケー!」
キオビも楽しそうに手を叩いていた。
「待ってくれ! 今、皆の意見を聞いて思ったのだが……」
キオビが答えた後、アメが慌てて手を上げた。
「なあに?」
「けっこう意見がかぶってないか?」
アメの言葉に一同は首を傾げた。
「汁がよく絡む、喉ごしがいい、両方ともの意見だ」
「あー」
アメの言葉に今度は頷く一同。
「じゃあ、どうするのさ? 似たような意見ばっかり集まるじゃないかい」
イチゴは呆れた顔でカエルを仰いだ。
「検証してみるのは、いかがだろーか!!」
「検証って、実際にやる? ケケー!」
カエルが満面の笑みで一同を見回し、キオビが楽しそうに答えた。
「ほー、検証か! おもしろい」
アメも頷き、皆、試したい欲求にかられはじめた。
「よーし! では、そうめん、ひやむぎ半々に……って、やや!?」
長老が何かに気がつき、止まる。
「長老……、どうしたの……?」
なりゆきを見ていたコバルトが控えめに尋ねた。
「いや、なんか……まあ、よい! そうしよう!」
長老が結論を出し、この戦いはあっけなく幕を閉じた。

※※

しばらくして……
「あー、ひやむぎもいい!」
「そうめんにも喉ごしがあるだと!」
「ケケー!」
「うんまっ! 正直どっちでもいいや」
「……アメがそうめん、食べてる……。私も、そうめん好き……。アメも……好き」
竹にそうめんと冷水を入れ、木のお椀で出汁をすする一同。
「検証は正しかったのぅ」
長老は一言つぶやき、満足そうに頷く。
少しして落ち着いてきた頃、皆は気がついた。
「これって、そうめんとひやむぎのハーフアンドハーフじゃん!!」

八話 八月の花火大会

八月中頃になった。
急に、汗ばむどころではないくらいの暑さになり、カエル神のアメは一日中川付近にいた。
以前、雨神の少女カエルとよしのぼりを探した川だ。梅雨が長かったおかげか、水は干上がってはいない。
水は冷たいが、姦(かしま)しく鳴くセミがさらに暑さを盛り上げる。
「暑い……」
アメは木が垂(しだ)れて影になる場所で、川に足をつけながら、頭に川の水をかけている。
「暑くて死にそうだ。逃げ水が見える……いや、これは本当の川か……。蜃気楼なのかなんなのかわからん……」
アメは暑すぎて、本物の川かどうかすらわからなくなっているらしい。
「やっほー!」
ふと、この暑いなか、やたらと元気な声が聞こえた。
「あー……カエル。暑すぎてまいったな……」
雨神カエルはかえるフードを被ったワンピース姿の女の子だ。
「あっついねー! どうなってんだろ? 気候! あ、そういえばさ、今日、神力使った花火大会やるんでしょ!」
「ああ、自分の神力を空に打ち上げる行事だな。……ふむ、たしかに今日だ」
アメはしみじみ、もう花火の時期かと思った。
「それってさ、夜やるの? 花火だから、夜だよね?」
カエルはなんだかそわそわしながら尋ねてきた。
「ああ、皆、持ち味の神力、色があるから、夜空のが映えるのだ。何をそわそわしている?」
「あ、アメはヤドクカエルから神になったわけじゃないよねー?」
カエルの問いにアメは軽く笑って答えた。
「俺はマダラヤドクカエルだ。だから、みどりだ」
「皆ヤドクカエルかあ……」
「カエル?」
やたらとため息をついているカエルを アメは首をかしげ、見据えた。
「あ、いや、なんでも……」
「カエルも神力を長老に渡してみるか? 神力を長老にあげると打ち上げてくれる」
「いやあ……あたしは……実は……」
なんだか言葉を濁すカエルにアメは眉を寄せた。
「どうした?」
「あー、えっと……な、なんでもないよ」
「まあ、見に来るだけでも良いのだが」
アメの言葉にカエルははにかんだ。
「あ、ミンミンゼミが鳴いてる! もう夏も終わりだね。日本の、人間の子供の夏休みが終わる時期だよ」
「……そうなのか?」
アメには人間の子供の夏休みがいつなのか知らない。
「もう、夏休みが終わるんだよ」
カエルはミンミン鳴くセミの声を聞きながら、川の水を蹴った。
夕方になりつつある、青空に水滴が飛ぶ。
次第にヒグラシも鳴き始め、カナカナと夕方を誘い始めた。
「……もう、隠せないかもしれないな……雨の神が竜神に変わって行っていること……。もう、外に仲間がいないことを。私に神力がないことを」
カエルは岩で横になっているアメをせつなげに見つめた。

日も落ちて、やや涼しくなった。
夏の虫が鳴いている。
雨神達が河原に集まり始めた。
この川で花火大会が行われるようだ。皆、川魚を焼いて、おいしそうに食べている。お祭り騒ぎだ。
「ついに始まるな。カエル。カエルの神力、楽しみだぞ」
アメがうちわと川魚を持ってカエルの近くに腰かけた。
「う、うん……」
カエルはひどく暗い顔をしていた。
「……? どうしたのだ? 具合が悪いのか?」
「え、えーと……その……」
カエルが言葉を詰まらせた刹那、真っ赤な花火が美しく輝きながら広がった。
「お、あれはイチゴのだ」
アメが花火を指差して笑う。
「あたしのー!! かっこいいだろー!」
イチゴの元気な声がカエルにも届く。
「……純粋な神力だ……。きれいだなあ」
次は青い花火が上がる。
「あれはコバルトだ」
控えめな青い花火が夜空に消えた。続いて陽気な黄色い花火が上がる。
「あれはキオビ? 紫じゃないんだ」
カエルは少しおもしろくなり、笑った。
「ところで……カエルはどんな神力を……」
アメに問われ、カエルは固まる。
「……一体どうした? 今日はなにかおかしいな?」
「……たぶん、もう隠せないから……言うとね……」
カエルは言う決心をし、唾を飲み込んだ。
「あたしは……神じゃなくて、神の使いなんだ……」
カエルの言葉を聞いてアメが今度は固まる。
「でも……雨神なのではないのか?」
アメの言葉にカエルは首を横に振った。
「本土……わね、竜神が雨の神もやってるんだ。あたしは……竜神の神格の内の、『雨神』の部分の使いなんだ。『竜神』の方の神格はカメが使いなんだよ」
「……」
「だからね、あたし、神力……ないんだ」
カエルが苦しそうにつぶやくのと、緑色の花火が上がるのが同時だった。
「それでね、ある日、雲の中で純粋な雨神の神力を感じたの。今の……みどりの花火みたいな……。だから、純粋な雨神に会ってみたくなって来たんだ。ごめんね、期待はずれで」
「……いや、そんなことはないぞ」
アメはカエルの背中をさする。
「……これを言うとね、今の関係が崩れちゃう気がして。あたしは神の使いなだけだから、皆より下なんだよ。皆みたいに雨を呼ぶ力も、今はないんだ。あたしができるのは、純粋な雨神の神力と会話をして、雲を借りるだけ。竜神のはもらえない」
「上下の問題に関しては関係ない。上下は元々なかっただろう。神は区別をしただけだ。名称をつけただけで、下に見ようとは思ってない。もちろん、俺達も。むしろ、気づけなくてすまなかった。変わらず楽しんでくれ。花火はまだ上がる」
「アメ……ありがと」
カエルは目にわずかに涙をためると、アメに微笑んだ。
アメは顔を赤くするとカエルに花火を見るように促した。
そこからカエルはいつも通りになり、イチゴと川魚の奪い合いをしたり、キオビとダンスを踊ったり、コバルトと青い花火を見上げたりして楽しそうだった。

……しかし……

アメは思う。

外では雨神がいないのか……。
なぜ、この地域にのみいる?
他にもいるのか?
カエルは神力がないと言っていたが、神力のようなものを感じるのはなぜなのか……。

まだまだ疑問は残る。

九話 秋雨

「おお。なんだか突然涼しくなったな……」
蝉と冷たい風が共存している、季節の移り変わり、アメは外を散歩していた。まだ、秋は来ない。
「やっほー! アメ!」
川沿いを歩いていると、岩の上にカエルがいた。おいしそうなおにぎりを広げている。
「アメも食べる? 気持ちいい風が吹いているからピクニックしてる」
「おお! いいな!」
アメは喜ぶと、カエルの横に飛んで行った。
「秋が来たって感じだね!」
「そうだな……」
カエルはアメに握り飯を渡すと、空を仰いだ。澄んだ秋の空が蝉の声と重なり、なんだか変な感じだ。
「ねぇ、そろそろさ、冬眠な感じなの?」
カエルがなんだか言いにくそうにアメに尋ねた。
「……寒くなったらな」
「そっか。なんで、かえるでもないのに冬眠するの? 神でしょ?」
「冬は雪であり、雨が呼ばれることはまずない。そう言われている故、冬は寝る」
「……でもさ、雪が降らない地域は雨なんだよ?」
カエルはおにぎりを頬張りながらアメを見る。
「そうなのか? ここから出たことはない故、わからぬ」
アメもおにぎりを口に放りながら答えた。
「……なんでヤドクカエルからできた神が集まっているのかもわからないの? 不思議な島ー」
「わからぬ。わからぬが消えていないところからすると、どこかで信仰されているのかもしれぬ」
「ふーん」
カエルは再び、空を見上げる。
知らぬ間に雲が空を覆っていた。
「あれ?」
「秋雨(しゅうう)がきた秋黴雨(あきついり)か?」
「あきついり?」
カエルはアメに目を向ける。
「秋の長雨のことだ」
「ちょ、ここの雨神の誰かが呼んだの?」
「この雰囲気は……コバルトだ。まだ早いだろう……」
動揺するカエルにアメは呆れた顔をした。
するとすぐに、近くでコバルトの声がした。
「……カエルちゃん、ちょっと……イチゴと遊んでいてくれないかな?」
「あれ? コバルトじゃん。なにしてんの?」
岩影にいたコバルトを見つけたカエルはにこやかに笑った。
「あ、えっと……アメと仲良くしすぎな気がして。雨を降らせてみようかなって」
「そう? ま、いいや、雨降りそうだけどさ、おにぎり食べる?」
「食べたい……」
コバルトは岩をよじ登り、アメとカエルの間に座った。
「コバルト、まだ雨には早いぞ……」
「そ、そうかな……。じゃあ消すね……」
アメに言われてコバルトは慌てて雨雲を消した。
「そうやって簡単に消せるの?」
カエルの言葉にコバルトはきょとんとした顔を向けていた。
「うん。だって、私が出したやつだから……」
「へぇ! すごいね」
カエルは素直に感動した。
「……カエルは、外から来たんだよね? 外はどんな感じなの?」
コバルトは無邪気に尋ねてきた。
「うーん……龍神が雨を降らせてるかな……」
「龍神が?」
コバルトが続きを聞こうとすると、アメがやんわり止めた。
しかし、カエルがアメをさらに手で制した。
「うん。外にはかえるの雨神はたぶんいない。私はね、雨神の使い。かえるは雨の使いなだけ」
「……え……。……でも、カエルには神力があるよ?」
「……え?」
コバルトの発言にカエルは驚いてしまった。その横でアメはなんとなく頷いていた。
「なんだって? あたしに神力が?」
カエルはおにぎりを飲み込んでから、慌てて尋ねた。
「うん……」
コバルトは小さく頷き、アメにも目配せをした。
「ああ、カエルは神なのではないか?」
アメも困惑しながらカエルを見る。
「じゃ、じゃあ待って! 私、なんの神?」
「……なんの神? なんだろう?」
カエルの問いにアメとコバルトは首をかしげた。
「じゃあ、わかった! なんの神にみえる?」
カエルは頭を抱えながら、違う質問をした。
「うーん。カエルの神とか……」
「!?」
コバルトの発言にカエルは固まった。
「なにそれ?」
「いや、わからないよ……。なんの神かって聞くから……答えたんだけど」
コバルトは困った顔のまま、アメをみる。
「うむ……なんの神なのか、この後半期で調べてみるか?」
アメの言葉にカエルは大きく頷いた。
「いいかも!」
「では、まずどこから調べるか……」
アメが考えていると、コバルトが口を挟んできた。
「特殊能力あったりとか……するかも」
「特殊能力か。カエル、何かやってみてくれ」
アメの無茶ぶりにカエルは眉を寄せた。
「何かって……なに?」
「高跳びの神とかかもしれぬ。運動の秋だしな。飛んでみろ」
アメに頷いたカエルはジャンプしてみた。普通より高くは飛べるが、神かどうかはわからなかった。
「もしかしたら……泳ぎの神かも。泳いでみたら……?」
コバルトは目の前の川を指差してつぶやくように言った。
カエルは頷くとそのまま飛び込み、しこたま泳いでみた。
しかし、神かどうかはわからなかった。
「カエルって平泳ぎ速いんだね……」
「速いだけだったね!」
コバルトに笑いかけるカエル。
だんだんと楽しくなってきた。
「じゃあ、次は……かけっこ!」
コバルトとカエルは無駄に走り始めた。
「……おいおい……。なにしている……。運動の秋なのか?」
結局、この日はなんの神かはわからず、運動会となった。
夕方になり、再び雲行きが怪しくなっていた。沈む夕日にアキアカネが飛んでいく。
「……これは長老の……まだ早くないのか?」
次第にゴロゴロと雷が鳴り始める。アメは慌ててカエルとコバルトに叫んだ。
「おい! 秋雨がくるぞ」
きっと、今夜からしばらくは雨かもしれない。
これからカエルはなんの神なのか探すことになる。

十話ハロウィンとオバケ

寒くなってきた。葉は色づき、ひらひらと落ちていく。たまに冷たい風が吹くが、日中はまだあたたかい。
「もしかすると、あたし、お化けの神とかかも!」
アメの隣で声をあげたのはカエルだった。現在はお昼時。落ち葉を払った岩の上にふたりは座っている。いつもの川の側の岩だ。
「……なんだ? お化けの神?」
アメは突然叫んだカエルに驚きつつも、なんとか言葉を返す。
現在カエルは自分の神力がなんなのか、探している最中だ。
「ハロウィンだよ!」
「ん? なんだそれは」
アメはなんだかわからず、首をかしげた。
「ああ、えーとね、おばけだぞーって感じ! で、おかしもらう」
実際にカエルもよくわかってはいなそうだ。
「すまん。全くわからんのだが、饅頭をあげる感じでいいのだろうか?」
ハロウィンを全く知らないアメはカエルが発した「おかし」という単語に反応したようだ。
「饅頭? まあ、まんじゅう大好きだけど、『とりっぽいか、とーなめんとか』にはなんか違う!」
本当は「トリックオアトリート」なのだが、カエルの中では「鳥っぽいかトーナメントか」になっているらしい。
「鳥っぽい……どういうことだ」
「わからないけど、これ言うとおかしくれる」
カエルは自慢げに頷いた。
「お化けの神とは?」
「ハロウィンはお化けとかカボチャとか魔女とかの格好をして家をまわってお菓子をもらう日なんだ。だから、私、もしかすると、お化けの神なんじゃないかなって思って」
「……よくわからんが、お化けとやらになってみるか?」
アメの言葉にカエルは顔を輝かせると、「うん!」と何度も頷いた。

 カエルはお化けになってみることにした。とりあえず、材料を集める。
 そこら辺に落ちていたドングリやきのみ、葉っぱを沢山拾ってきた。
 「えーと、きのみと葉っぱ、ドングリとかでお化けっぽくなれるかな?」
 「んー……どういうのか、映像が浮かばんが、怖くすればいいのか?」
 「うんうん! そんな感じで!」
 楽しそうなカエルを見つつ、アメは頭を悩ませ、粘着性のあるきのみをノリ代わりにして落ち葉にドングリをくっつけてみた。
 「うんうん。ドングリを目にしよう! いっぱいつける!」
 「いっぱい!?」
 小さな葉っぱをノリ代わりのきのみで貼り付け、大きくし、さらにその大きくなった葉っぱにドングリを沢山貼り付ける。
 「こ、こんな感じか……? ずいぶんと不気味になったな……」
 葉っぱでお面をつくり、そこにドングリを貼り付けるというてきとうな感じだが、この面を被って走っていたら、おそらく怖い。
 「いいね! よし! 皆の家、まわってくる!」
 「……。心配すぎるな。俺もいく……」
 うきうきで去っていくカエルをアメは慌てて追いかけた。
 「鳥っぽいか、トーナメントか!!」
 「ぎゃーっ!!」
 遠くの方でカエルの声とイチゴ達の悲鳴が上がる。
 「間に合わなかったか」
 アメは息をあげながら追い付くと、走り回るカエルと逃げ回るイチゴ達を眺めていた。
 一通り騒いだあと、アメとカエルは、イチゴに投げつけられた粉々のクッキーをつまみながら、それぞれつぶやいた。
 「うーん。やっぱ、私、お化けの神じゃないや」
 「で、結局、ハロウィンとは……」

十一話、冬眠前の11月

 だいぶん寒くなってきた。
 時期は十一月の終わり。
 カエル以外の神々は冬眠の準備を始めていた。カエルは冬眠しないので、現在は暇である。
 しかたなくカエルはアメのおうちで冬ごもりの準備を眺めていた。
 「もう、皆寝ちゃうの?」
 「もう少ししたらな」
 「そっかあ……」
 木の中にあるおうちの掃除をしながら、アメは寂しそうな顔をしているカエルを横目で見た。
 「まあ、もう少し、起きているが」
 「やった!」
 アメの言葉でカエルはにんまりと笑った。アメはカエルに元気が戻ったので冬ごもりの準備を進める。今やっているのは掃除だ。
 後は机や家具にホコリよけの布を被せる。
 アメがせっせと片付けなどをしていると、長老が慌てた様子で家に入ってきた。
 「!? ちょ、長老?」
 あまりに突然にドアが開いたので、カエルとアメは肩を跳ねあげて驚いた。
 「大変じゃあ!!」
 長老はカエルとアメの服を掴むと青ざめながら外へと連れ出した。
 「ち、長老! なんだ!?」
 「えー? なになに? 怖い!」
 アメとカエルは混乱しながら、とりあえず叫んだ。
 雪がちらつく外に出ると、イチゴやキオビもいた。
 「あれ? お前達……」
 「あー、大変じゃあ! って呼び出されたのさ」
 「ケケー」
 イチゴとキオビも呼び出されたようだが、理由はわからないようだ。
 長老はカエルとアメをイチゴ達の横に並ばせると、必死な顔で叫んだ。
 「コバルトがいないのじゃ!」
 「え……?」
 アメ達は一瞬固まった。
 「だからの、コバルトがおらん! もう冬になるというのに、家にずっとおらんのじゃ」
 「冬の準備をしてんじゃないの?」
 イチゴが眉を寄せつつ、空を仰いだ。雪が少しだけちらついている。これくらいでは雪は積もらない。
 「十一月中、一度も見ておらん。お前達、誰か彼女を見たか?」
 アメ達はお互い確認し合うように見合うが誰も見ていないようだった。
 「そういえば、会ってはないな。ケケー」
 キオビが代表で答えた。
 「……まさか、蛇に……。『龍神』に……」
 長老がつぶやいた一言にカエルの眉が跳ねた。
 「龍神? 蛙は蛇に食べられる話はよく聞くけど、蛙神が龍神に食べられる話は聞かないよ?」
 「……ああ、いやなんでも……」
 長老はごまかしたが、カエルは聞き逃さなかった。
 「雨神の力が龍神に食われてるってこと? 長老、知っていたの? それでコバルトが消えたかもって焦ってる?」
 カエルは長老に矢継ぎ早に質問する。長老は冷や汗をかきながら口を閉ざした。

 「いや……それは……ワシは……その」
 長老の歯切れが悪いので、カエルは首を傾げた。
 「どうしてそこはハッキリしないの?」
 カエルが眉を寄せていると、アメが突然カエルに頭を下げた。
 「すまん。カエル!」
 「え? なに?」
 「長老にカエルの神力のことを話したのだ。だから、『コバルト』の他に長老も知っている……」
 アメは申し訳なさそうに頭を下げた。
 「なあんだ。話しただけか。あたしはてっきり、龍神に力を取られているって知っているのかと……あ……」
 カエルは言ってから後悔した。イチゴとキオビが戸惑いながらこちらを見ていたからだ。
 「どういう……ことなんだい?」
 イチゴはすかさず尋ねてきた。
 彼らは本当に外の話を知らないようだ。
 「……まさか……」
 カエルはイチゴとキオビの不安そうな顔を見て、ある仮説にたどり着いてしまった。
 ……あたしがこの話を持ちかけてしまったから、普遍であったこの島の時間を進めてしまったのか?
 外の内容がこれほどまでに入って来ないのはなかなかに異常だ。
 彼らの島はもしかすると、なんらかの結界で守られていたのかもしれない。
 「な、なんでもないよ! 気にしないで……」
 「……実はな……」
 カエルが何事もなかったかのように振る舞う中、長老が口を開いた。視線が長老に向く。
 「実は、ワシが外の内容を遮断し、結界を張って島を神格化させたのじゃ。データが変わらぬように。……知っておったよ。外では龍神が雨神になっていること、我々がある一地域のみに信仰されていること。毎年、そうめんをある海岸線まで取りに行くのは、結界の綻びを確かめるため、そして龍神に会うため……」
 「龍神に会うため?」
 アメ達は目を見開いたまま、長老の話を聞いている。
 「我々は特殊な雨神じゃ。ヤドクカエルから選ばれた神。人々はそのおもしろさに惹かれ、参拝客があとをたたない。単純にその地域に蛙好きの芸術家がいて、美しいヤドクカエルを広めようと雨神として祭ったのが始まりじゃ。故、我々は龍神に雨神の力を取られていると思われてはならないのじゃ。自分を疑えば神力データも不安定になる。そういう常識は神から始まる事もあるのじゃよ。我々は蛙神が『自分達は本当に雨神なのか』と疑うことを恐れているのじゃ。データが変わると消えてしまうからの。龍神に会うのは雨神のデータ照合と確認のためじゃ」
 「……そうだったの? あたし、余計なことしたんだね」
 カエルは一通り聞いてから下を向いた。アメ達は慌ててカエルの背中をさする。
 「コバルトが消えた原因はなんだ? ケケー」
 キオビが皆の代わりに質問した。長老は迷いながら唸った。
 「実際にはわからんのじゃが……我々の常識が非常識になり、データが不安定になって消えてしまったのではないかと疑っておる……」
 「それはないんじゃないかい? コバルトはアメ一本で、他をまるで考えられないヤツだよ?」
 イチゴは困惑しながら長老に答えた。
 「ま、まあ、細かい話は良い! とりあえず、探そうぞ!」
 アメが声を上げたので、一同は捜索方面に頭を持っていった。

最終話雪原の滝

 雪が降る中、カエル達はコバルトを探す。あれから二週間が経過した。雪は吹雪に変わり、何度も捜索を断念していた。
 たまたまの晴れで久々に捜索に出たカエル達は雪の多さに悪戦苦闘しながら、夕方近くまで捜索を続けた。
 しかし……
 見つからず、日が傾いた頃に一同はアメの家付近に集まってきた。
 「見つからん……」
 「……イチゴは?」
 カエルが帰ってきた面々を見回すと、イチゴが帰ってきていなかった。
 「いない……」
 「まずいのぉ……イチゴもまさか」
 長老は青い顔でイチゴを探すが、近くにはいないようだった。
 「……あたしのせいで消えたの?  イチゴー! 返事してよー!」
 カエルは半泣きでイチゴを呼ぶが、生物のいなくなった雪原に声が響いただけだった。
 「カエル、落ち着け。あれから二週間近く探しているが見つからんということは、探している場所が悪いのだ。カエルのせいで消えたとは思えん」
 「適切な冬眠をしないと、死ぬ……ケケー……」
 キオビは度々、夜も捜索に出かけていたようだ。眠っていないのか、疲れた顔をしている。
 「キオビ、ごめんね。なんとかしないと……」
 カエルは焦っていた。去年の冬、雪が降っていたのは確認したが、冬のはじまりにこんなに雪が降るとは思っていなかった。
 他の蛙神達は冬眠しているため、雪とのつきあい方がわからない。
 「カエル、島の反対側に行ったことはあるかの?」
 「……ないかも。大きな滝があって危なそうだから寄っていなかった。だいたい、あっちは友達がいないでしょ」
 カエルは以前、島に来た当初に少し散策をしていた。そこで、かなり長い距離の崖(がけ)と滝を見つけたのだ。
 「あそこは結界の切れ目じゃ。人間は主に龍神を川に例えた。川のくねりが龍に見えるからじゃ」
 「ん? うちらは蛙(かえる)だよね?」
 突然によくわからないことを言い始めた長老にカエルは首を傾げる。
 「つまり、何が言いたいかと言うと、あの滝の先は我らの結界ではなく、龍が住んでおるのじゃ」
 「驚いた! この島、龍神もいたの!?」
 「ああ。たまに結界の管理をしに、戻ってくるだけなのじゃが。夏の時期、そうめんを受け取りにいくのはそいつからじゃ。海神(わだつみ)でもある故、海岸線でも良く出会うのじゃがな。その龍神に会いに行ってくれぬか? おそらくこの時期は冬休み。テーマパーク『竜宮』の社員も冬休みをもらっているはずじゃ」
 長老はその龍神が関与していると思ったようだ。
 「テーマパーク『竜宮』とは、なんだ?」
 アメが眉を寄せつつ、長老に尋ねた。
 「高天原にある、龍神が経営している神の娯楽施設じゃ」
 アメはこの島以外のことはわからない。故に、そういうものがあることにとても驚いた。
 『竜宮』に関しては他作品の「TOKIの庶民記」や、「TOKIの世界書」などでも記述している。
 「そんな場所があるのか……」
 「その龍神が怪しい? ケケー!」
 キオビも龍神が怪しいと思ったようだった。
 「……疑ってはいかんが、今年は多々、結界がほころんだ。何か知っている可能性はあるのじゃ」
 「わかった! 行ってみる!」
 カエルは深く頷いたが、アメが慌てて止めた。
 「ま、待て! 雪が深い! 危険すぎるぞ」
 「でも、行かないと」
 「もう日が暮れる!」
 「明日、吹雪くかもしれないから、今から行く!」
 「雪は危険だ!」
 カエルとアメはお互い退かずに言い合いを始めた。
 「いっきに蛙神が結界を越えるのは危険じゃ。ワシは残らねばならん」
 二人の言い合いを割るように長老が入り込んだ。
 「キオビは神力がやや低下しておる。結界付近に連れていくのは危険じゃ」
 「ケケー……」
 キオビの返答を聞き流しながら、長老はアメとカエルを仰いだ。
 「危険だが、行ってくれないか」
 長老に言われ、カエルは顔を引き締め、アメは複雑そうにうつむいた。
 「アメは行く必要はないぞい。消えてしまうかもしれぬ故」
 「では、カエルひとりで行かせろというのか!」
 長老の言葉にアメは頭を抱えた。
 「……アメもいくのかえ?」
 「……いく」
 長老に問われ、悩んでいたアメは結局、カエルと行くことにした。

 夕暮れ、アメとカエルは龍神に会いに雪をかきわけながら歩き出した。
 「アメ、ごめんね……」
 「かまわん。俺も落ち着かなかったからな」
 雪はなかなかに深い。小柄なアメは腹あたりまで雪がきていた。
 「あたしが抱えるよ」
 カエルはアメの二倍くらい身長が高い。アメは渋っていたが、仕方なくカエルの背中に飛び乗った。
 「ヤドクカエルってちっさいし、軽いねー」
 「歩けるか?」
 「余裕だよ」
 カエルはアメを背負いながら雪の中を飛んでいく。
 しばらく雪のみの、さみしい森を進んだ。
 「雪でよくわからんが、たしか……ここから先、かなりの下り坂だ」
 アメはカエルを心配に思いながら、道すじを教えた。
 「かなりの下り坂? ラッキー!」
 「……え? 滑るし、危ないだろう」
 カエルは思ったよりも楽観的だった。アメは眉を寄せる。
 「滑るのを利用するんだよ。アメ、雪はね、思ったよりも楽しいんだよ。遊び方もいっぱいあるの!」
 「……?」
 アメはいったん、地面に下ろされた。カエルはそのまま森を眺め、太めの枝二本と細めの枝五本、そして植物の枯れたつるを長めに持ってきた。
 「これでなにをする?」
 疑問がいっぱいのアメにカエルは微笑み言った。
 「ソリを作るんだよ」
 「……そり?」
 カエルは太めの枝二本を平行に置き、細い枝五本を等間隔に、太い枝と直角に置いた。
 そしてそれを枯れてしなるようになったつるで結わいて固定する。先端の、一番目の細い枝に残りのつるを巻き付けてブレーキ兼ハンドルを作った。
 イメージは子供が遊ぶソリだ。
 太めの枝二本を下側にし、ハンドルのつるを操作して頑丈さを確かめたカエルは、満足してアメを振り返った。
 「できた! ソリ!」
 「……これはどういう……」
 アメは雪の遊びをまるで知らない。いまだによくわかっていないようだ。
 「まあまあ、ちょっと乗って」
 カエルはアメをソリの後ろに乗せた。
 「乗り物か」
 「そう! あ、ここから坂か」
 カエルはアメを乗せたまま、平坦の雪道を少し歩いた。少し歩くと、アメの言った通りに長い坂道があった。山をひとつ降りる勢いの坂だった。連日の寒さからか、やや凍っている部分もある。
 「さあ、実践!」
 カエルがアメを乗せたままソリを押しまくる。坂道をかけおり、スピードが出たあたりで空けておいた前の席に飛び乗った。
 「おお!?」
 「アメ、振り落とされないようにあたしに捕まって!」
 坂道の角度が急だからか、ソリはすごい速さで坂を滑り降りていく。
 「たのしー! はやーい!」
 「は、速すぎやしないか?」
 ソリはさらに加速し、雪の丘をかけ下りていく。すごく長いソリ滑りだ。カエルとアメはどこまでも行ける気がした。
 その時、ふとカエルの脳内にある言葉が通りすぎた。
 ……どこまでも進める。
 だけど、いつかは「帰る」。
 「……かえ……る」
 カエルが何かに気づきそうになった刹那、アメが叫んだ。
 「おい! カエル! 目の前、崖(がけ)だ! 止まれ!」
 「え……?」
 カエルが我に返ると、ソリはまっすぐ坂をくだり、目の前の谷底へ向かって飛び出していた。
 「崖!?」
 ソリがバラバラになって暗い谷底へと落ちていく。カエルとアメも同様に、ソリから投げ出され、暗くなりつつある夜空へ舞った。
 「か、カエル!」
 アメが空を必死で泳ぎながら、カエルの手を掴んだ。
 掴んでも意味はなく、二人は重力に逆らえず、そのまま暗い谷底へと落下していった。
 「……川だ……」
 カエルの瞳に谷底を流れる川が映った。雪に負けず、凍らずに流れ続けている。
 その後、自分達が落ちている事に気がつき、カエルは叫んだ。
 「ギャアアア!」
 「こ、これは……まいった」
 川の流れる音が聞こえてきた。
 川底が見えてしまった。
 もう、終わりだと思った直後、突然に不思議な風が吹いた。
 カエルとアメは舞い上がり、何かの上に落ちていた。
 「いてて……」
 わけわからない現象が起きる中、カエルとアメは辺りを見回す。視界に入ったのは緑の鱗に立派なツノ、動物の毛並みのような立派なヒゲだった。
 そして、星の輝く夜空へと「それ」は舞い上がっていた。
 「……龍だ……」
 カエルがつぶやき、アメが驚く。
 「龍だと!」
 「あー、あー、うるせー。耳元で騒ぐな」
 龍が突然に話し出した。
 「す、すまぬ」
 会話ができることに目を丸くしたアメは、とりあえずあやまった。
 龍は蛇のように体をくねらせると、先ほど、カエル達がソリで滑っていた方とは逆の崖へ、カエルとアメを下ろした。
 「わりぃな。お前らがソリで滑ってた方には結界があっていけねーの」
 龍は軽い調子で話しかけると、本来の神の姿になった。
 人型の、目付きの悪い青年だ。頭になぜかシュノーケルのゴーグルをつけ、黒地に金の龍が描いてある着物を片肌脱ぎにしている。
 黄緑の短髪はどことなくパイナップルの葉っぱにも見える。
 「えー……」
 「あ? ああ。俺様は流河龍神(りゅうかりゅうのかみ)。リュウって呼べや」
 リュウと名乗った龍神は得意気に胸を張った。
 「リュウ……川……。……あ!」
 カエルがようやく気がつき、叫んだ。
 「あんた、結界の境目にいる龍神! 長老の話で出た!」
 「ん? ああ、結界の境目に一応住んではいるが」
 「普段は竜宮にいて、たまにこちらに帰ってくるんでしょ」
 「なんで、知ってんだよ……」
 リュウはあきらかに困惑していた。結界内にいる蛙神が龍神のことを知っているとは思えなかったからだ。
 「あたしは外から来たから順応できるけど、アメは……」
 カエルはそこまで言ってから、疑問に気がついた。
 「……待って。あたし、なんで蛙神の結界抜けたの? リュウが入れないなら、あたしも……」
 「……まあ、なんだかわからねーけど、うちに来いよ。夜はさみぃぜ」
 リュウに言われ、カエルとアメは戸惑いつつ、リュウの家に行くことにした。確かにだいぶん寒い。
今夜、また雪が降りそうだ。

 リュウは再び龍になると、カエルとアメを乗せ、飛び立った。
 川を逆流するようにのぼると、目の前に滝があった。
 リュウはまっすぐその滝へと突っ込んでいった。
 「ちょっ……滝!」
 「あの先が俺様の家だ」
 リュウは躊躇わずに滝を割るように中に入り込んだ。滝の裏側に道があり、鳥居と小さなやしろがあった。人間がここに龍神を祭ったのか?
 鳥居ややしろを作るのはだいたい人間だ。
 リュウは人型に戻ると、カエルとアメを滝の裏側にある洞窟に下ろした。
 「こんなとこ、人間が来れるの?」
 カエルが尋ねる。
 「来れるぜ。蛙神がいる向う側は森が深すぎて人間が行くことはないが、こちらは観光地だぜ。この洞窟は横道から来れるんだぜ」
 リュウは少し歩いた先で、わかれた道を指差した。観光客用か、見慣れた多言語の看板がある。
 「ほー……」
 カエルが頷く横でアメは首を傾げていた。気にもしていなかった世界を見ているので、世界の広さを感じていた。井の中の蛙。
 まさにそれか。
 「……やはり、コバルトとイチゴは変化を知り、消えてしまったのか?」
 「あ? 何言ってんだ?」
 アメの発言にリュウが眉を寄せた。
 「いや、我々は龍が雨神を名乗っていることを知らなかったのだ。それを知ってしまったことにより、我々のデータが変わり、消えてしまったのではないかと考えているのだ」
 「そんな、データが変わるくらい影響受けるか? んー、やつらなら……」
 リュウは歩きながら、軽くはにかんだ。
 「やつらならって、知ってるの!?」
 カエルが早歩きになりながら、興奮気味に尋ねた。
 「知ってるというか、ほら……」
 リュウは明かりが灯るやしろの前に立つと、引戸を開けた。
 「あー! カエルとアメ!」
 開けたと同時に甲高い少女の声が聞こえた。
 「えぇ!?」
 声を聞き、さっきまで探していたふたりの姿を確認したカエルとアメは白目を向くくらい驚いた。
 やしろの中でこたつに入りながらイチゴとコバルトが鍋をつついていた。
 「あ……アメ……」
 探していたはずのコバルトがアメを見つけて顔を赤くし、もじもじしている。
 「ほぅ……青い嬢ちゃんはこのサムライっぽい男が好きなのかい。いいじゃねぇか。俺様も誰かに妬かれてみたいぜ」
 リュウはいじらしくアメを見ると、靴を脱がせてふたりをやしろ内に押し込んだ。
 「とりあえず、鍋がある。皆で食おうぜ! へへっ」
 「待って? どういうこと?」
 カエルが尋ねるが、気がついたらアメと共にこたつに入れられていた。
 「ほれ」
 リュウが器に盛った、野菜たっぷりの鍋を疑問いっぱいの顔で食べつつ、カエルとアメはイチゴとコバルトを見た。
 ふたりはどこも怪我をしておらず、弱ってもいなかった。
 「あったかい! うまーい!」
 「冬に食べたのは、カエルからもらったあの粥だけだったな。美味!」
 カエルとアメはだんだんと顔をほころばせていった。
 「じゃなくて! え? だからどういう……」
 カエルは我に返ると、再びリュウを仰いだ。
 「あー、わーったよ! 説明する。まず、青い嬢ちゃんだが、嬢ちゃんは秋頃にお化けになるために、木の実やら葉っぱやらを取りに出掛けたらしい。俺様はよくわからん」
 リュウはコバルトに目を向ける。
 「あ……うん。ほら、カエルが、アメと仲良く仮面みたいの作ってたでしょ……。あれを作ればアメと遊べるかなって……」
 コバルトはカエルにもじもじしながら答えた。
 「……仮面? あ、ハロウィン! あたしはお化けの神かもって試していた時期だ!」
 「あー、あれは怖かったねぇ……」
 カエルが叫び、イチゴがあきれた。
 「で、嬢ちゃんは仮面を作る材料を広範囲に念入りに探していた時に、足を滑らせて谷底に落ちた。で、崖の岩壁に泣きながらしがみついていたわけだ。女の子の筋力でよくあそこにしがみついていたなあと後から笑い話だが、当時は焦ったぜ。たまたま、俺様が竜宮からこっちに戻ってきていて、青い女の子が泣きながらくっついていたから、慌てて救助した。救助したら気を失ったから家で看病してたわけ」
 「え? それだけだったの!」
 カエルが安堵と驚きを同時に出す。
 「うん……皆を困らせてごめんね……。気がついた後に、どうせならここで冬を越してみようと思ったの……。そしたら……」
 「あたしがねぇ」
 コバルトの言葉を引き継ぐように、今度はイチゴが声を上げた。
 「コバルトを探しに遠出したらさ、雪で下が見えなくて、谷底にねぇ。雪が振ってる時期に外歩かないからさ」
 イチゴは含み笑いをしながら鍋の野菜をとって口に含んだ。
 「青い嬢ちゃんから『仲間の声がした』って聞いたから、川辺を捜索していたら赤い嬢ちゃんが泣きながら岩壁にくっついてて、慌てて救出したわけだ。蛙界では谷底に落ちるのがブームなのか、危ないだろと赤い嬢ちゃんを叱ったら、『違う、コバルトを探しているんだ』と。いやあ、最近の女の子はなかなか筋力あるんだなあ。俺様、びっくりしたぜ」
 「は、はあ……」
 抜けた返事をしたカエルとアメを見据え、リュウは続ける。
 「で、お前らよ。ソリで楽しそうに滑ってきやがって! 全員グルであぶねーことやる悪ガキ集団かと思って、ちょっとお仕置きしてやろうかと思ったが、どいつもこいつも青い嬢ちゃん探していたのな」
 「あはは……」
 なんとも抜けた真実を知り、カエルとアメはひきつる笑みを向けた。
 「……皆が無事ならば、早く帰らなくては。長老とキオビが……」
 アメがつぶやいた刹那、外から悲鳴が聞こえた。
 「あああ!」
 「……たく、またかよ」
 リュウはため息をつきながら、ひとり外へと出ていった。
 アメ達が顔を見合わせていると、げっそりした顔の長老とキオビがやしろに入ってきた。
 長老とキオビは先程のカエル達のように驚き、なんとなく鍋をつつき、落ち着いた。
 「で、長老達は待っていなかったの?」
 「カエルとアメが行ってから、心配になりすぎてな……。やはり呼び止めようと、すぐに慌てて追いかけたら、後ろからキオビが走ってきていてな、坂道に気づかずにつまずいて、ワシにぶつかり、コロコロ、そのまま崖にホールインワンじゃ」
 「あー……それは災難……」
 カエルが長老に苦笑いを向けていると、
 「ケケー……ちょっと疲れたー」
 キオビはこたつに深く入り、そのまま寝てしまった。
 「皆、私を……探していたの? ありがとう。それと、ごめんなさい……」
 「しかし、無事で良かった」
 カエルはへなへなとこたつ机に突っ伏した。
 「ところで……カエルは何の神かわかったの?」
 コバルトは恐る恐るカエルを仰いだ。カエルは眉を寄せると首を横に振る。
 「わからない。結局、コバルト探してて忘れてたよ」
 「なんだ、お前、なんの神かわからないのかよ?」
 リュウはカエルをまじまじと見つめ、軽く笑った。
 「わからないよ……神力はあるっぽいんだけどさあ」
 「案外、無事かえるのご利益だったりしてな」
 リュウが冗談で言った言葉にカエル達は固まった。
 「え……あ、いや……わりぃ、冗談っぽい雰囲気じゃねーか」
 リュウは慌てて声を被せたが、アメが生真面目に身を乗りだし叫んだ。
 「たぶん、それだ!」
 「あのな、俺様は冗談で……」
 リュウが戸惑う中、イチゴも声を上げる。
 「絶対それだよ! ねぇ!」
 「これは確信に変わりそうじゃ」
 「ケケー……」
 キオビがすやすや寝ている中、一同は拳を高く突き上げて喜んでいた。
 「いや……だから……」
 「無事かえる……。日本語のダジャレ……。日本人はそういうの好きだよね。アリだわ……」
 カエルも真面目な顔をしてリュウを仰ぐ。
 「わ、わからねぇが、どっかの神社で三匹のカエルの銅像があってな、お金がかえる、無事かえる、若かえるってのが……ま、まあ、蛙ってのは幸運の象徴なんだ。子宝も蛙のご利益さ。いっぱい産むだろ? 蛙は」
 「……」
 カエルは開いた口がふさがらなかった。もしかすると、自分はすごい神なのではないかと思ったからだ。
 「あたし、福の神か……」
 「よいではないかの? 福の神! ワシらも福の神になりたいのぉ……。ちっぽけな島の雨神ではなく……」
 長老がカエルの肩をポンと叩いた。
 「うらやましがる前に、今、人間界は疫病に悩まされている。蛙神がいることを知ったら、勝手に神力変わるぜ。福かえるとか、厄かえるとか。だから、気がついたら勝手に変わってんじゃね?」
 「……そうか。では、我々の神社を調べてみることにするのじゃ。電話を借りるぞい。ちなみに神社はこの島にはない。人が住む地域にあるのじゃ」
 長老は早口で語りながら、リュウの部屋のすみにあった黒電話で、神々の歴史を管理する神に電話をかけた。 
 「な、なんじゃと!」
 しばらく通話していた長老は電話を切ってから慌てて皆の元へと帰ってきた。
 「な、なに?」
 「どうしたのだ?」
 カエルとアメが心配する中、長老は重い口を開いた。
 「結界はもう意味はない。我々は違う神になったようじゃ。案の定、この一年で我々の神力に変な力がプラスされておった。人間界のテレビとやらで、我々の神社がやたらと放送されているようじゃが、例の『かえる』ダジャレの神力が多数、我々のデータを書き換えていっているらしいのぉ。つまり、人間が勝手に能力をプラスしておるわけじゃな」
 「なんと!」
 長老は息を吐くと、今度はカエルを見た。
 「おぬしも……龍(雨神)の使いから、変な風に抜き出されているようじゃ。ダジャレじゃな。我々と同じ神というわけじゃ」
 「疫病で、変な風に神力が変わったのかあ。人間界の疫病だから、素直に喜べないけど、皆と同じになれたのは、嬉しいかも」
 カエルは皆を見て微笑んだ。
 「では、俺も無事かえるのような神になったわけだ。ふむ、そう言われると、冬なのに眠くないな
……」
 アメが納得しつつ、首を傾げる。
 「たぶん、あたしと同じになったからだよ! 神力が!」
 カエルが胸を張る中、イチゴが口を開いた。
 「ほら、だいぶん前に新型のウィルスの話、したじゃないかい? あのウィルス、冬に活発みたいなんだよ。人間の疫病はこのウィルスなんだ。だから、今年の冬は『厄かえる』の願いが多くて、あたしらは眠れなくなっているんじゃないかい? 冬に呼ばれない雨神とは違うねぇ」
 「そういうことか」
 アメは納得し、深く頷いた。
 「……と、とりあえず……鍋食べちゃいます?」
 消える、消えないとアメ達が騒いでいる理由もよくわかっていないコバルトが、呑気に鍋を勧める。
 「まあ、皆、無事だった上、消えないこともわかり、ワシはもうよいわ」
 長老は安堵の表情を浮かべ、鍋を再び食べはじめた。
 「ああ、酒あるぜ。長老さん」
 リュウが棚から日本酒を取り出し、鍋の横に置く。
 「ほっほ。これはこれは」
 長老はさらにほころんだ顔になると、勝手にリュウと晩酌を始めた。
 「あーあー、良く飲むなあ」
 カエルは呆れつつ、談笑する長老とリュウを見ていた。
 「ねぇ、この際だからハッキリさせとくけどさぁ、恋模様はどんな感じなんだい?」
 イチゴがアメ、コバルト、カエルをそれぞれ見回し、鋭く尋ねた。
 「えっ……」
 三人は一瞬止まったが、やがてコバルトが小さく声を出す。
 「わ、わたしは……アメが……好き」
 「お、俺は……カエルが好きだ……コバルト、すまぬ」
 コバルトに答えるようにアメはあやまった。
 「え? えー! 全然知らなかった」
 最後に驚きの声を上げたのはカエルだった。
 キオビはすやすや寝ている。
 「……い、いいの……。これから、アメをわたしに振り向かせる……から」
 コバルトは全くあきらめておらず、アメに宣言し、アメは軽くはにかんだ。
 「ま、まあ、あたしはちょっとキオビが気になるかな……。アメは友達な感じで……。なんかごめん」
 カエルが内容をさらに混ぜ込み、すやすや寝ていたキオビは叩き起こされることになった。
 「けけぇ……」
 キオビはボケッとしたまま、誰が好きか聞かれ、「コバルト」と答えてしまった。内容はさらに絡み合い、一同は情報の整理に追われることとなる。
 「青春だねぇ」
 ひとりほくそ笑むイチゴは、この混ぜ込まれた内容を楽しんでいた。
しばらくすると、一同は「お互いを振り向かせよう」ということで一致し、そこから楽しげに談笑を始めたのだった。

 蛙達は冬眠せずとも良くなった。初めて出会った龍神とも仲良くなり、結界も消えた。
 彼らは縁起物。
 これからも沢山の福を呼ぶに違いない。
 
 
 そしてまた、春がくる……。
 
  

(2021年完)TOKIの世界譚 龍神編サイドストーリー2『ある雨神の日記』

(2021年完)TOKIの世界譚 龍神編サイドストーリー2『ある雨神の日記』

雨神として存在するカエルの神さま達のお話。 ほのぼの目指します。 人間が足を踏み入れない場所には人間の知らないことがある……。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-01-20

CC BY-NC-ND
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  1. 一話、真冬に目覚めた雨神
  2. 二話 人間の心とは
  3. 三話ホワイトデーとイチゴ
  4. 四話 エイプリルフールと桜
  5. 五話 よしのぼりとこいのぼり
  6. 六話 ジメジメなキノコ狩り
  7. 七話 ひやむぎvsそうめん
  8. 八話 八月の花火大会
  9. 九話 秋雨
  10. 十話ハロウィンとオバケ
  11. 十一話、冬眠前の11月
  12. 最終話雪原の滝