クリスマスの夜に

空 由佳子

クリスマスの夜に

ちょっとけしからんイラストを描き上げると同時に、そこまでけしからなくないですが、まあまあけしからん話を思いつきましたので、そっと置いておきます。
ハヤブサさん×シュバルツさんのBL要素を含みます。
きつい表現はありませんが、片方が全裸で、キス描写はあります。
楽しめそうな方は、どうぞお楽しみ下さいませ~

クリスマスの夜に

シュバルツ・ブルーダーは窓際から動かなかった。
外は暗く、ただ夜の帳がそこにあるだけであったが、少し離れた通りは、華やかに彩られているのが見てとれた。

そう、今日はクリスマスイブ。

街は大切な人たちと楽しむ夜のために、彩られていた。

「ドモンたちに、プレゼントが渡せて良かったね」
キョウジ・カッシュが微笑みながら入ってきたが、シュバルツは振り返らなかった。

「ああ」

返事はするが、視線は相変わらず、窓の外に固定されていた。

「シュバルツ……」

キョウジは苦笑しながら彼の方に歩み寄る。

「ハヤブサが、心配?」

横に並び立つと同時に声をかけたら、顔色を変えたシュバルツが振り返っていた。

「し、心配しているわけじゃない!! ただ、約束の日になっても帰ってこないし、連絡もないから、少し怒っているだけだ!!」

(それを心配している、と、言うんじゃないのか?)
キョウジはそう思ったが、口には出さなかった。

「そうか………」

キョウジは軽く相づちを打つと、シュバルツと同じように視線を外に向けた。

「心配しなくても大丈夫だよ。ハヤブサがシュバルツを置いて、死ぬわけないもの」
「………………」

キョウジは明るく慰めを言ってみるが、シュバルツが無反応であったため、その気遣いは滑りこけた。少し面白くないキョウジは、シュバルツをさらにつついてみることにした。

「もしかしたら、浮気しているだけかもだよ? ほら、今日はクリスマスイブだし」

「………!」
シュバルツは少し目を見開いたが、すぐにその面に寂しそうな笑みを浮かべた。

「浮気しているなら良いんだ。元気で、笑っていてさえ居てくれたら───」

「シュバルツ……」

「ただ、連絡がない。それだけが心配で……」
そう言いながら、シュバルツは深いため息をついていた。
実際自分は構わなかった。
「飽きた」
と、言われて捨てられようとも、追い払われようとも───
元々、自分は人と共に生きる資格のないアンドロイドなのだ。
ハヤブサが望めば、自分はいつでも身を退く覚悟があった。

「うーん………」

キョウジはポリポリと頭を掻いていたが、やがて、ポン、と、柏手を一つ打った。

「じゃあシュバルツ、ハヤブサが嫌でも連絡を取りたくなるように、手を打ってみない?」

「えっ?」
きょとんとするシュバルツに、キョウジは悪戯っぽく微笑みかけた。

「まあ私に、任せてよ」


リュウ・ハヤブサは、戦場の真っ只中にいた。

血と硝煙と、屍の臭いに囲まれて、自身も何時しか深い傷を負っていた。
この戦場から脱出する術も、早々に失っていた。すなわち、後はもう、絶望的な消耗戦しかない。

(シュバルツ……心配しているのだろうな……)
空を見ながら、ハヤブサは深いため息をついていた。
予定では、もう少し早くこの戦場から抜けるつもりで居たのに。

シュバルツと、連絡を取る手段はある。
だけど今、連絡を取ってしまったら、きっと自分は泣いてしまう。最悪、別れの言葉を口に出してしまいそうだった。

(死にたくない)

色々諦められなくて、浅ましい未練にがんじがらめな自分を自覚する。
全く以て滑稽だった。
自分はいつから、こんな弱い人間になってしまったのだろう
『龍の忍者』である以上、自分はいつでもその骸を、路傍の石のように晒す覚悟があったはずなのに。

その時。

ブ、ブ……

懐に仕舞い込んでいた携帯が、僅かばかり振動する。

「?」

いつもなら無視するその振動。
だが何故か強烈に呼ばれたような気がして、ハヤブサは携帯を取り出していた。

着信したのはメール。
差出人はキョウジ・カッシュ。

(キョウジ……! どうしたんだ……?)

あわててメールを開くと、「クリスマスプレゼントだよ」という言葉と共に、こんな写真が添えられていた。

「!? !?」

ハヤブサは添えつけられた写真を、5、6回見返す。

裸にリボンを巻き付けられた愛おしいヒト。
羞恥故なのか、その頬が微かに上気し、瞳が涙に濡れているように見える。
薄く開かれた唇から、「ハヤブサ……」と、呼び掛けられているような気がした。

(シュバルツ……! こんな格好をして待っているのか……!? 俺のために………!?!?)

帰らなければ

強く思った。

こんなところで戦っている場合ではない。怪我をしている場合ではない。

今すぐ
今すぐ帰らなければ!!

その刹那

龍の咆哮が辺り一体に響き渡っていた。


「………これでよし、と………」

メールを送信し終えたキョウジがにっこりと振り替える。

「……本当にこんなことで、ハヤブサが連絡してくるのか?」

ベッドの上では裸の上に、全身にリボンを巻かれたシュバルツが、起き上がって呆れたようにキョウジを見ている。

「来るでしょ。これだけやって来なかったら、もう恋人とか言う資格もないよね」

「や、ハヤブサの方にも連絡したくてもできない理由があるかもしれないし」

キョウジの辛辣な物言いに、シュバルツは若干引き気味に答える。
それにしても、裸にリボンだけ、という格好はかなり恥ずかしい。シュバルツは個人的に、早いとこ服が着たくて仕方がなかった。
だが、それをしようとしたら、キョウジが綺麗に結ってくれたリボンの花をほどかなくてはならなくなる。それを少し勿体ないと感じるシュバルツは、何となく身動きがとれずに居た。

「あ、あの……キョウジ………?」

「何? シュバルツ」

「そ、そろそろ着替えても良いか……? この格好はさすがに」

「もうちょっと待ってシュバルツ」
そう言いながらキョウジは、手元の腕時計を見る。
「え?」
「もしかしたら、後もう少しで………」
「?」
「3………2………1………」

ドオン!!!

大音量と共に、家が激しく揺れる。

「な、何だ!?」
「はぁい! 開いてるよ!」
驚くシュバルツに対して、キョウジは冷静に対応する。

バン!!

乱暴な音と共に、開け放たれるドア。それと同時に龍の忍者が家に飛び込んできた。

「は、ハヤブサ!?」

 驚くシュバルツを、龍の忍者は喰い入るように見つめる。
 写真と同じ姿なのを確認してから、ハヤブサは靴を脱ぎ、まっすぐにシュバルツの居るベッドになだれ込んできた。

「あ……! んぅっ!」

 口を開く間もなく、ハヤブサに唇を奪われる。熱い舌が口内に侵入し、その口腔を蹂躙した。

「んっ! んんっ!!」

 そばにキョウジがいるこの状況で、このまま色々してしまうわけにはいかないので、シュバルツは必死に抵抗を試みる。だが、キョウジのリボンで両手を戒められているうえに、龍の忍者が本気で押さえつけにかかっている膂力に、抗い切れるはずもなく。

「ん………ふ………」

 シュバルツの力が完全に抜けきったところで、ハヤブサはようやく、愛おしいヒトの唇を解放したのだった。

「シュバルツ……」

「……………」

 トロン、とした表情を浮かべて、身体を小さく震わせる愛おしいヒト。ハヤブサはそのさまに満足し、さて続きを、と、身を乗り出した瞬間、背中を誰かにつつかれた。

「?」

 少し冷静さを取り戻していた龍の忍者は、突いてきた主に鋭い視線を向ける。その先に、愛おしいヒトと同じ顔をした人がいたから、ハヤブサはかなり驚いてしまった。

「キ、キョウジ!? いたのか!?」

「ごめんね、ハヤブサ。このまま出ていこうかな、と、思っていたんだけどね……」
 キョウジは苦笑しながらハヤブサに応える。

「怪我………治さないと」

「あ?」

 キョウジの指摘通り、ハヤブサの身体のあちこちからは、まだ血が流れ出ている状況だった。
「まず、手当てをしようか。続きはそれから、ということで」
「う………!」
 キョウジの正論に、ハヤブサはぐうの音も出ない。ハヤブサが仕方なさそうにベッドから身を起こすと、シュバルツもおずおずと身を起こしてきた。

「そ、それじゃあキョウジ、ハヤブサ……私は着替えてきてもいいかな」

「ええっ!?」

 それを聞いた龍の忍者が、この世の終わりのような表情をする。一瞬にして顔色が悪くなり、出血量が一気に増えだした。

「わ~~! 待って待って! シュバルツ! 着替えちゃだめだ!!」

「え………!」

「しばらく辛抱しててよ。ハヤブサの手当てが終わったら、着替えてもいいからさ」
 キョウジの言葉に、龍の忍者も首を盛大に縦に振っている。
「う………!」
 結局シュバルツは、ベッドの上から身動きできないまま、そこに座りなおす羽目になてしまったのだった。

「……………」

 治療が続けられている間、ハヤブサはずっと、シュバルツの方を見つめている。

「……………」
 こんな、いろんなところが隠しきれていないあられもない恰好を見つめられて、シュバルツの方は嫌でも羞恥が煽られてしまう。ハヤブサから恥ずかしそうに瞳をそらし、頬を赤く染め上げている姿が、ハヤブサをさらに煽り立てているのだ、という事実にシュバルツは気づけない。
(うう………早く終わってくれないかな………恥ずかしい…………)
嫌がらせのような一時だと感じているシュバルツとは裏腹に、ハヤブサは、至福の一時を堪能していた。
(はぁ〜〜〜綺麗可愛い尊い……! 頑張って帰ってきてよかった……! 頬を染めて恥じらっている姿がまた何ともエ)
その後ろでキョウジは苦笑しながらハヤブサの治療を続けていた。
(これだけの傷を負って………よく帰って来れたな………逆に感心する……)
対ハヤブサのカンフル剤の効き目の凄さに、呆れる他ない。

何はともあれ死ななくてよかった。

キョウジは、心の底からそう思った。


「………はい、終わったよ。後は、ごゆっくり」

 キョウジがそう言って、ハヤブサの背をポン、と、叩く。
「キョウジ、お前はどうするんだ?」
 ハヤブサの問いかけに、キョウジはにこっと微笑みながら答えた。

「弟のところに顔を出すよ。夕飯に呼ばれていたんだ」

「キョウジ………」
 そう、弟の家にクリスマスプレゼントを渡しに行ったときに、夕飯に誘われていたのは事実だ。いろんな意味でレインとドモンの邪魔をしたくなかったから、その時は一度断ったのだが。
「まだ夜の七時半だし、ちょろっと顔を出すぐらいなら邪魔にならないだろう。行ってくるよ」
 
「そうか……」

 キョウジの言葉に、ハヤブサとシュバルツの二人ともが、申し訳なさそうな顔をした。その二人の様が面白くて可愛らしいから、キョウジはフッと微笑んでいた。

「ごゆっくり」

 キョウジはそう言うと、部屋から出て行ったのだった。


「………家で写真を撮ったのは間違いだったな。今度するときは、ラブホテルかどっかにしよう」
 キョウジはそう言いながら、夜の街へと歩き出す。そうすれば、少なくとも自分の目的地は保障されているわけなのだから。
(これからどうしようか……。コンビニで軽く何かを買って……)
 この先の予定をいろいろ考えている最中に、目の前から見慣れた人物が歩いてきたから、キョウジは思わず足を止めていた。

「ど、ドモン!?」

「兄さん!?」

 ドモンの方も少し意外であったらしく、素っ頓狂な声を上げていた。

「どうしたんだよ兄さん!? こんな時間に─────」
「それはこっちのセリフだ! どうしたんだドモン!? こんな時間に一人で────」

 互いの問いかけに、先に応えたのはドモンの方だった。

「ごめん、兄さん……。いろいろ考えたんだけど、やっぱり家族皆で過ごしたいと思って………」
「え………」

「ほら………せっかくの、クリスマスイブだし……」

 そう言ったまま口ごもり、下を向いてしまうドモン。キョウジはその面に、ふっと優しい笑みを浮かべた。

「分かったよドモン……。ちょうどお前の家に行こうとしていたところだし、お邪魔させてもらってもいいかな?」
「本当!? 兄さん!」
 キョウジの言葉に、ぱぁっと明るい笑みを浮かべるドモン。素直に可愛らしいと思った。
「じゃあ、行こうか、ドモン」
「うん……! あ、だけどシュバルツは?」
 弟は律儀に、もう一人の兄の姿を探す。
「ん? シュバルツにも来てほしかったか?」
 キョウジの問いかけに、弟はぷっと頬を膨らませた。
「当たり前だ! シュバルツも大事な『兄さん』じゃないか!」
「それもそうだな」
 弟のもっともな言い分に、キョウジも苦笑するしかない。しかし、シュバルツは今取り込み中だ。大事な大事な取り込み中……。

「すまないな……。シュバルツにはちょっと大事な用を頼んでいて、それが終わらないと来れないと思うよ」

「クリスマスにか? 兄さん一体何の用を頼んだんだよ!?」

 ブラックだな、と、言う目線で弟に見つめられるから、キョウジは本当に苦笑するしかない。

「いいじゃないか。その用事が終わったらお前の家に来るように言っておくから……。それでいいだろう?」

「まあ……兄さんにとって、それが大事な用事だったら……仕方がないけど………」

 唇を尖らせるドモンだが、何となく納得をしたように頷くと、キョウジの腕をつかんできた。

「じゃあ兄さん、行こう! 師匠も俺の友人も、みんな来ているんだ!」

「えっ? 大人数がそろっているのか!?」

 驚くキョウジに構わずに、ドモンはぐいぐいとその腕を引っ張った。
 弟曰く、皆がそろっているのに兄だけがいない。その状況に耐えられなかったようなのだ。

「行こう! 皆がそろうことなんて、滅多にないんだから!」
 明るく笑う弟に、キョウジもまんざらでも無い笑みを浮かべる。
 皆が幸せになる日が一日でもあるなら────この人生は、捨てたものでもないのかもしれない。
 キョウジはそんなことを思いながら、弟と共にその足を進めていた。


 そのころシュバルツは、龍の忍者に死ぬほど愛されていたのだが、それはまた別のお話───


               【了】

クリスマスの夜に

いかがでしたでしょうか?
クリスマスだから、たまには夢のようなお話も良いですよね、と、思いつつ

クリスマスの夜に

ハヤブサさん×シュバルツさんのBL要素がある短編小説です。 クリスマスの夜の、ちょっとしたお話

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