彩花の呟き
有希との約束
・目の前の事実に過剰に意味付けしないこと。
・安易に抽象化しないこと。
・自分を責めないこと。
・誰も裁かないこと。
「“あっけらかん”としていること!」
ひとりぼっちの意味
がんばることは好きでしょう?
だって誰かが認めてくれるって、いつか報われるはずだって、幻想を抱いているんでしょう?
ひとりぼっちの意味って
誰にも知られずにひとりで泣くこと
泣けない気持ちを誰にも言わずに抱えること
満身創痍で戦う姿も誰にも気にとめられないこと
スカーレットちゃん
小さい頃、家に2つの着せ替え人形があった。
ひとつは新しい、モダンで綺麗なリカちゃん人形、
もうひとつは何十年も前の時代遅れな不格好の、汚いスカーレットちゃん。
私はいつもスカーレットちゃんで遊んだ。
本当はリカちゃん人形の方がずっと好きだったけれど、
スカーレットちゃんを自分と重ねて、見捨てることが出来なかった。
私が誰のことも見捨てることが出来ないのは、誰かのことを見捨てていつか自分も同じように誰かに見捨てられることを覚悟できないから。
初めから誰にも拾われてないのに滑稽だ。
恋の名を借りて
私が、私をこれ以上攻撃しないように、誰か私を守って欲しい。
誰でもいいんだ。
そうして私は、優しくされて好きになって、冷たくされて嫌いになって、
また大切にしてくれる「風」の人に恋をする。
他人の上澄みの、一番綺麗な部分しか見たくない人間が、自分の暗く、汚い部分を受け入れて欲しいなんて、なんて自己中で厚かましいんだろう。
本当に自分を大事にできるのは、親きょうだいでも友達でも恋人でもなくて、自分自身だけなのに。
私はとっくの昔に私自身を見捨ててしまった。
本当に苦しい時に誰かが助けてくれるなんて、酷い幻想だ。
叶うはずのない期待を抱き続けて、裏切られ続けて、時々どうしようもなく疲れてしまう。
本物と偽物
暴力からも、与え続けられる毒からも、あの子を守らなければいけなかった。
誰かに必要とされてると思い込むことで、無理やり息をしている。
許されない存在の宿命。
あの子はいつでも本物で、私はいつでも偽物だ。
偽物の人間が、偽物の愛で、見返りを求めるなんて、おこがましいね。
傷だらけの私の体は、とても醜い。
生きて、必死で呼吸してるのが馬鹿みたいだ。
愛の限界
私は居場所が無くなるのが怖い。
居場所ってただで与えられるものじゃなくて、自分で努力して守り続けないといけないものだから。
だから必死でがんばるの。
努力して、能力を認められて、居場所を得て、それを失わないように努力し続ける。
走り続けて気付いたのは、誰も私自身のことなんて見ていない。
みんな能力しか見ていない。誰でも、AIでも替えのきく、能力。
能力を発揮しなければ、居場所はない。止まって休む場所なんてない。
頑張ってないと嫌われちゃうから、嫌われたら酷い目に合うから、酷い目に合うと苦しいから、でももうがんばるのも苦しい。
揺れる
神も、立派な人の発言も、関わりを持った人たちも、論理も、光や音や匂い、温度や質感も私を裏切る。
自分の心の中も分からない。
心なんてないかもしれない。
確かに信じていいものなんてない。
私が厚い信仰を持っていたり、
心の底から人を愛することができたり、
scienceに陶酔できたり、
その時々の快楽の中で何にも気付かず泳ぎ続けることができたら、
良かったのに。
ある世界の死
世界からの暴力に慣れた頃、私は内側から壊れ始めた。
明日が来ないことより、明日が来ることの方がずっと怖い。
過去も未来も関係なく、ただただ、いまの痛みに耐えられない。
「明日が来ない」なんてとても喜ばしいことじゃないか。
こんなに広い世界のどこにも、私は希望を見つけられなかった。自分の中も空っぽで。
何かを知るということは、今まで自分が信じていた世界が死ぬということだ。
私はふとした拍子に落ちてしまいそのまま戻ってこられなかった人たちを知って、
私の信じていた希望が残されていた世界は死んでしまった。
救済
私の感じている痛みを、誰かに知ってほしかった。
それは何の役にも立たない。
知ってもらったところで痛みは減らない。
知られたところで、他の人が幸せに世界を生きる助けにならない。
ただ、私の中の痛みは確かに存在していることを叫んでいる。
私の生きるための必死の取組みは、世間では努力の名も苦労の名ももらえなくて、
「まず自分自身の怠惰と甘さを認めないといつまでたってもそのままだよ。」
という言葉に、そのままって言うのは「苦しいまま」だと思って、
怠けてはいけない、甘えてはいけないともがき、さらに苦しみに溺れていった。
生きることは徹底的に苦しくて
何百回、何百種類の試みも実を結ばず
疲れて休む場所もなく
故障して動きが歪になり
削ぎ落ちて見た目が不気味になり
何もかも忘れ、誰からも忘れられる。
私が一刻も早く終わることだけが、救い。
名無しで透明の私と、私を忘れていく人
私の苦しみは、人々には認められない。
名前のないもの、目に見えないものはみんな存在しないのと同じだと思っている。
「あなたに苦しみなんてない、ただの甘えだ。」
そう言って去って行った人がいた。
あの人がもし、この先の人生で私と同じような苦しみを抱えたら、その時は私に想いを馳せてくれるだろうか。
そんな悪いことを考えた。ごめんなさい。さみしかったんだ。
でも私はこの苦しみの辛さを知っているから、私はあの人のことが好きだから、
あの人が死ぬまでこんな苦しみを知ることがないよう、私のことを忘れてしまうよう、祈ります。
今日という日は耐えられない
physicalもmentalも脆弱だけれど病名はもらえない無能な大人が
支配者によってなんとかその日のユーモアを確保して息をする。
どこでどのように生きれば苦しまずに済むの?
私はもう大人で、
誰かの手を借りながらでも立たなきゃいけなくて、
でももう誰の手を借りても立ち上がれない。
休みたい。どこかで、どこでもいいから、休ませてほしい。
休めないなら死にたい。
もう二度と動かなくなってもいい。
罪と罰
「大丈夫?」に対する私の返答はいつも「大丈夫」一択だった。
私は分かっていた。
彼女は私の状態を伺い知りたいのではない。
彼女は自らの安心のため、免責のため、私に「大丈夫」を要求しているのだ。
「だってこの子が自分で大丈夫だって言ったから…」
もし「大丈夫じゃない」なんて言えば、何でちゃんと寝てなかったの?何で私を困らせるの?の糾弾が始まった。
それはじきに私の中で、何で私は健康でいられないの?何で私は生まれてきてしまったの?に変わった。
大人になって、世間で「大丈夫じゃない」人達が受ける扱いを目にしたり、耳にするたびにやっぱりそうなんだと確信した。
「大丈夫じゃない」ことは罪で、そんな罪を犯せば糾弾という罰を受ける。
どんなに具合が悪くても、どんなに心がボロボロでも、私は「大丈夫」しか喋れなくなった。
魂に植えられたバオバブ
私は彼女が嫌いだ。
なぜなら彼女の残酷な行いによって私の生きていくために必要な精神機能の広範囲が損なわれたからだ。
そしてその女に私は、外見も中身もよく似ている。
彼女は私の魂に、生きることに対する根本的な罪悪感を植え付けた。
その罪悪感を長い年月をかけて私が育て、魂本体はすっかり無くなってしまった。
「苦しい」と「すごく苦しい」の間を行ったり来たりするだけの20年間。
なんて無意味で無価値でバカバカしいのだろう。
嫌いな世界
私に何もしてくれない、この世界のために、私はせっせっと働くのだ。
努力をしなければ、ゆっくりと首を絞められる。
努力をすれば、早く溺れる。
私の人生なんて精神の破滅に向かって一方通行であるのに、どうしてだらだらと生き恥を晒してしまったのだろう。
浮力消失の閾値
言葉も対話も共感も、もはや力を持たなかった。それらが事態の好転に役立つ段階はとうに越していた。
私はもう何も見えないし聞こえない。
私の話す言葉も表現する形も誰にも届かない。
死に向かうことでしか今を生きられない。
水中をある深さ以上沈んでいくと、浮力が働かなくなる。
水は重くまとわりつき、重力に導かれるまま、水圧に押し潰されるまま、落ちていく。
水上の世界は視界の中で狭まっていき、やがて光も届かなくなる。
もう何もかも、手遅れだ。
皮肉
生きるために色んなことを諦めるうちに、生きる気力を無くしてしまった。
みぞおちを刺される痛みに毎朝耐える。
「また目が覚めてしまった。私も世界も終われなかった。」
鋭い刃物が刺さる痛み。刺さって、私の体に穴が空く。でも血は出ない。
もう私の体には血が流れてないから。
死にゆく私に、突き刺さる痛みが、私がまだ生きていることを知らしめてくる。
幻想的な死
私は自分の精神が潰されていくのを自覚していたけれど、誰にもSOSを出せなかった。
私のようなゴミ屑が「生きたい」と思って他人の力を借りようなんてひどく厚かましく思えたからだ。
死ねば、何もかも消えてくれる。
私が見た世界、様々な葛藤と戦い、恨み、思い、残りかすの期待、私が苦しんだものごとと記憶、痛み。
この醜い体も、灰になって。
私の虚無な人生で、唯一“ 死”だけが大きな力をもつ。
誰かの死は残された人たちのためにあるという意味では、
その人たちの納得のいかない自殺はするべきでないのかもしれないけれど、
私は私の死にこれ以上なく、納得している。
不毛な自決
毎日、失うだけの戦いをする。
戦えば戦うほど、私からぼろぼろと、必要なものがこぼれ落ちていく。
戦えば戦うほど、苦しめば苦しむほど、私はどんどん弱くなっていった。
もう戦いたくない。もう立ってさえいられない。
私の、残された、僅かな、精神機能が、音を立てて崩れ、損なわれていく。
分かっている、見えている、聞こえている、感じている。
どうか、早く、私の、息の根を、その残された意思で、止めてください。
69
どこまでもクズで甘えたで馬鹿で自己中な嘘つきだったけど、
本当に最後のわがままで、死ぬ前に、誰か1人でも、嘘でもいいから、
「今までよくがんばったね」って言って欲しかった。
認められたかったな。ばいばい。私の最低な人生。
彩花の呟き