星・・・〈死の星〉
カレがその星に降り立った時の印象はこうだった。
荒涼として何もない星。
けれど、ここはとても豊かな星なのだ。
マコはカレがこの星に降り立つまでの一部始終を見ていた。
何しろ、カレはマコの赤いスカートを目掛けて飛んできたのだ。
そう、カレは宇宙で迷子になっていたあの少年だった。
「人を見るのは久しぶり」とマコは思った。
何しろ彼女の周りにはつねにひどい風が吹いていたし、山はとても人が登れるような高さではなかったから、この星の住人たちは誰もマコには近づかなかった。
でも、マコの心の中には、以前のような〈孤独〉はなかった。
ここに立つことはマコが決めたのだ。
ここにいれば大好きな赤い長い長いスカートを好きなだけ風になびかせることができたし、星の住民たちに迷惑をかけずに済んだ。
マコは星のみんなのことも大好きだった。
人と言っても、カレは人間のような容姿ではなかった。
魚のような昆虫のような不思議な形をしていた。
マコは風に声をのせた。
その声は天まで吹き飛ばされていき、パラパラと雨のようにカレの頭上に降ってきた。
カレは手の中に落ちてきた言葉を眺めた。
それはマコが心を込めて送った挨拶だったが、カレには意味がわかるはずもなかった。
口に入れると、リンゴのような甘酸っぱい味がした。
カレは姿勢を低くして四つん這いになると、長い舌を地中に潜らせて、マコに向かって伸ばした。
舌はまるでロープのようにマコの体に巻きついた。
「痛いっ」マコは思った。
ギリギリと舌が巻き上げられていき、カレの体が近づいてきた。
そしてとうとうマコの目の前までやってきた。
「何なの?」マコは言った。
相手は何も答えなかった。
マコは恐怖を感じた。
その生き物は何でも知っているというように、迷わずマコの背中に舌を這わせ、装置のスイッチを切った。
マコの赤いスカートがパサリと宙から落ちてきて、風が止まった。
「何なの?」マコはもう一度言った。
「ナンデモナイ。ナンデモナイヨ」その生き物は言った。
それは機械から発せられたような声だった。
「あなたは誰?」マコは言った。
「ダレデモナイ」
「私の邪魔をしないで!」マコは強い口調で言った。
その生き物は動きをぴたりと止め、マコをスキャニングするように目玉だけを上下に動かした。
「キミト ナカヨクナリタイ タダ ソレダケ」
「私と?」
「キミト」
マコはその言葉を味わってみた。
マコの心は温かくなった。
それはマコがずっとかけてほしかった言葉だった。
「いいわ」マコは言った。
「アリガトウ」
その生き物がマコの首に舌を巻きつけ締め上げると、マコは簡単に死んだ。
その生き物はマコを残さず食べた。
その生き物は町に下りていって、町のみんなも食べた。
そして、みんな1つになった。
それこそがかつて少年であったカレが与えられた使命だった。
さみしいはずはなかった。
でも、何だか少しさみしいのだった。
豊かな星の泉にはたくさんの魚が泳いでいる。
生まれては死に、死んでは生まれを繰り返しているのだ。
星・・・〈死の星〉