令和10年 兄妹の物語 第三シーズン

あらすじ ( `ー´)ノ

令和10年 ついに第三シーズンに突入である。

実は第二シーズンの文章量が20万文字近くなってしまった。
私は一つの作品は20万文字くらいで
終わりにしたいと思っているので更新した次第だ。

物語は第一シーズンからダラダラ続いているだけで、
正直終わりどころが分からなくなってしまった。
しかしながら書いていて楽しくなってきたので
遠慮なく書き続けている。需要があるのか不安だ。

令和が10年も続くと日本は
財政が破たんした阿鼻驚嘆の地獄となってしまった。

自民党一党独裁が続きすぎた結果、
国民の生きる権利はすっかり失われてしまった。

・一億総奴隷社会。
・消費税率34%。
・物価の変動なし。
・埼玉県の最低賃金190円。平均時給200円。

賢人の勤めていたペンタックの時給は210円だった。
つまり生活が成り立たない。社内規則によって
勤怠不良者を筆頭に半自民党分子と見なされた者は銃殺刑にされる。

社会保障費の削減
(第二号被保険者の年金支給額、月額手取り660円。母子手当は400円くらい)

年金支給開始年齢は、基礎年金90歳、厚生、共済は95歳とされたが
撤回されたりと、色々と変化するのでよく分からない。

医療は全て10割負担。専業主婦は派遣会社に拉致され、
乳幼児は国が親から引き離し、共同アパート(軍事施設)で生活をさせる。

瞳ちゃん「金のない人は将来死ぬわよ(; ・`д・´)」

これが、第二シーズンで出された結論であった。

首相「国民からお預かりした税金はぁ、私たちのおこづかいですぅ!!
   国民の皆さんにお支払いする金額など、一円たりともありません!!」

国民は税金を払っているはずなのに、その対価としての公共サービスを
受けられることはない不思議な社会である。たとえば、第二シーズンでは
70過ぎの高齢の男性が、身体障害のある娘さんと生活保護を申請しに行った。

すると、久喜市役所のゲートの前では、「青酸カリ」が用意されていた。

首相「労働者として価値のない国民はぁ、生きてる価値がございません!!
   勤労によって政府に税金が払えなくなった時点でぇ、死んでくださぁい!!」

地方自治体は、生保申請は受け入れてくれない。
代わりに銃殺刑か、青酸カリの無料配布が行われる。
これは何も小説の設定のみならず、現実で行われても不思議ではないだろう。

お金のない老人は、文字通り動けなくなるまで働き続けないといけないのだ。

ちなみにこんなご時世でも首相を初め大臣の平均給料は年収9000~5000万。
国会議員は平均で4400万。格差などというレベルではない。

首相「わたくの給料を一億円近くまで増やしたことで、少しだけ
   生活が楽になりましたwwwwなにせ消費税率34%ですのでwww
   私たち国会議員も派手な暮らしをするのが大変なんですよwwww」

ここまで追いつめられても日本国民は自民党に逆らず、
大人しく働いているのかと思いきや……。

お金のない市民は金融機関に平均2000万の借金をするか、
近所のドラッグストアやスーパーを襲撃して日用品を手にしている。

第二シーズンではヤマダ電機をめぐる市民と店員による攻防、
かんぽ生命の保険を販売した久喜市郵便局、
保険詐欺にあった被害者にによる激しい攻防が繰り広げられ、
死傷者が少なくとも70万もでた。
(人数は今考えたから適当。たぶんこのくらいいるでしょ)

この作品では単なる恋愛や金融の話に終始するわけではなく、
軍事的な要素もでてくるのだ。

貧しければ、心はすさむ。
金がなければ、奪う。
奪うためには、軍事化する(客も定員も)

美雪ちゃんはよく言っていた。(たぶん第二シーズンで)

( `ー´)ノ カスミ(北関東にあるスーパー)で買い物すると
       店先から戦車の主砲が飛んでくるから危ないよ。

令和10年では、買い物するのにテロリストでないことを
証明できない者は、店先で店員に狙撃される。
例えばヤマダ電機テックランド久喜店は、駐車場から店の入り口に至るまでの
範囲を高度に要塞化したり、地下にイスラエル製の戦車を隠し持っている。

瞳 (;´・ω・) まさに買い物するだけで命がけね。

賢人 (;゚Д゚) 俺たち団地に引っ越してから、まともに家具すら買えなかったぞ。



さっそく登場人物を紹介する。

第三シーズンの主役は美雪である。 (←今読み直したら完全に嘘だった。詐欺である)

・渋谷美雪(しぶや・みゆき)

21歳の大学三年生。株式投資が趣味で、父からの生前贈与含め
時価9000万の米国株を運用する、実質的な富裕層である。
日経新聞を愛読する。

勉強ができて家事万能のスペックの高いブラコン。
賢人がペンタック近くのアパートで住んでからは同棲している。
パパに頼まれて、仕事で忙しいお兄ちゃんのお金の管理をしてあげて、
毎朝欠かさず手作りお弁当と水筒を持たせてあげている。

ゆるふわパーマをかけた茶髪をサイドポニーにしている。
高校卒業後、運動をしていないので体重が気になっている。

この人物のモデルは、インベスターゼット(投資漫画)にいるヒロインの女の子だ。


・渋谷賢人(しぶや・けんと)

25歳の若者。イケメンだが、自分ではフツメンだと思っている。
大学卒業後、2年間銀行で勤めるたあと、
超絶ブラック工場の、ペンタックで派遣として勤務する。

そして運命の瞳と出会うのだった。
ペンタックは労働者のストにより工場が炎上し、賢人は自動的に解雇された。
彼は現在も無職なのである。

第二シーズンで、今までママに預けていた預金通帳とカードを始めて返してもらった。
賢人は社会人になってから無駄遣いしないようにと、親にお金を握られていたのだ。
ママが息子の結婚の話を聞いて通帳を返しに来てくれたのだ。

銀行時代に溜めたお金が、埼玉りそな銀行に340万円くらい入っていた。
郵貯の通帳には大学時代に溜めたアルバイト、お年玉の貯金が40万くらいあるが、
郵貯のキャッシュカードを持っている父親がモンゴルへ旅立ったらしく
おそらく一生返してもらえなそうだ。


・坂上瞳(さかがみ・ひとみ)

32歳だが、若作りで美雪以上の美女。
大学時代にミスコンで優勝するレベルで、常に美人オーラをまとっている。
年を重ねるごとに美しさに磨きがかかっている感すらある。

早起きでジョギングが趣味なこともあり、
代謝が良く、引き締まった腰回りを中心にスタイルが維持され、
髪の毛サラサラ、肌が綺麗な超絶美人として会社でも有名だった。

賢人の婚約者だったが、第二シーズンで色々あって
よくわからない関係になってしまっている。振られたのかもしれない。

瞳はペンタック社長の娘。
第一シーズンではレオパレス21で独り暮らしをしていたが、
生活費は両親に出してもらっているので出費がなかった。

基本的に毎月の給料は、ほぼ全額貯金。
給料明細は半年に一度しか見ないという
独特の貯金方法を実行している。

趣味はガリガリ君や雪見大福を食べること。休みの日の早朝に
ジョギング、図書館で小説や文学を借りることである。

金持ちなのにお金を使うことを良しとしない性格なので、
貯金は溜まる一方だ。さらに娘を溺愛する父が
クレジットカードをプレゼントしてくれることもあり、
個人資産は1000万円も持っている。

ヒトミもペンタックを解雇されたので賢人と同様に無職であるが、
これだけ資産があれば、だいぶ余裕があることだろう。

第二シーズンでの紆余曲折を経て、上の三人は
埼玉県久喜市の市営団地で共同生活を送っていた。

この人のモデルになった人は、筆者の勤めていた会社にいた。
38歳くらいの美人の女性だった。



・高野ミウ (たかの みう)

栃木県足利市にある「学園」の校長。
27歳子持ち。瞳の奥に凶器を秘めた見目麗しい奥さん。

前作『学園生活』『学園生活・改』の主人公。
日本を代表するボリシェビキ(熱烈な共産党員)であり、
栃木県から日本全土を共産化することを目的としている。

趣味は子育て、反対主義者の拷問、夫に話(愚痴)を聞いてもらうこと。

実は名前の由来と容姿の参考になったのは、女優スケーターのホンダミユさん。


・高野太盛 (たかの せまる)   ←(実はこいつが主人公になっていた!!)

せまるは当て字。ミウの同級生。大学卒業と同時にミウと結婚した。
旧姓は堀(ほり)
彼もボリシェビキで学園でミウの補佐をしていたが、
ミウとの結婚生活に疲れ果て、しばらく廃人となっていた。

第二シーズンの最終話で
悪霊のジン(イフリート)に体を乗っ取られてしまい、
初対面の美雪に求婚し、賢人に嫉妬してヘラジカに変えてしまうなど
登場人物たちに多大な迷惑をかける。

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美雪、ヘラジカ(賢人)、ミウ、太盛。
この四名に瞳を加えた複雑奇怪な5角関係? を中心に物語は進んでいく。

ただの恋愛物語ではなく、作品を読んでいる我々も令和の大不況を
生き抜くために金融、経済、政治の問題点も考えていこうと思う。

(↑ちなみにこれは大ウソで、実際は美雪や賢人は後半に登場しない。
  もはやタイトル詐欺である)

ミウ「太盛君が悪霊に憑りつかれている……?」

前作の終わりでは、太盛・イフリートが美雪に
求婚している場面だったと記憶している。


「( `ー´)ノ 太盛パパが浮気してるー いけないんだー!!」

「ふはは。我が息子よ。人聞きが悪いぞ。
 これは浮気などではない。パパはイスラム教徒だから
 2人目の奥さんを娶ろうとしているのだよ」

「イスラム教徒ぉ……(>_<) なーにそれぇ?
 パパはボリシェビキなのに宗教やってるなんて変だよぉ。
 イスラム教徒は自爆テロが好きなキチだってママが言ってた!!」

ミウは、ちょっと静かにしなさいと息子のジュニアをなだめ、
太盛の腕をつかみ、怖い顔で言う。

「太盛君はさっきから何を言ってるのかな?
 君は我が党と同志レーニンに誓ってくれたはずだよ。
 自分は徹頭徹尾、誇り高きボリシェビキであることを生涯維持するって。
 あの時の約束は……嘘だったってことでいいのかな?」

(ママが……鬼になった (>_<) )

愛息子の太盛・ジュニア。

ただならぬ気配を感じ、思わずママから距離を取る。
大塚家具製の高級チェストの横で小さくなる。

ミウは、愛する旦那がようやく真人間に戻ったことを喜んだ。
だが太盛の態度はどうだ。
夫は浮ついた気持ちで、若い女子大生に手を出そうとしている。
さらにムスリムを自称している。

ヘラジカ「ひひーん」
美雪「地面が揺れてる……(;一_一)」

ミウの怒りは大地を震わせ、森の木々の小鳥たちを飛び立たせる。
その振動は強さを増し、栃木県南部の山々さえ震わせていた。

美雪は、ヘラジカの体にしがみつき、激しい揺れに耐える。
愛する妹に対し、ヘラジカは大丈夫だよと目線だけで優しく訴えていた。

「我が妻のミウよ。我は太盛なり。ボリシェビキなどではない。
 社会主義など、たわごとだ。低俗すぎてヘドが出るほどだ」

「社会主義を低俗呼ばわりするんだね(* ̄- ̄)
 それって私と党に対する最大の侮辱なことを分かってるの? 
 つまり私と離婚したいってことを言いたいんだ」

ミウは大きく息を吸い、考え付く限りの言葉で夫を罵倒しようとしたが、

――いな(否)!!

太盛の怒声により、小屋中の窓ガラスにひびが入り、ついに割れてしまった。

「ミウよ。そなたは勘違いをしているようだ」

「その前にその話し方はどうしたの。
 私、今まで太盛君に『そなた』って言われたことないよ。
 なんかキャラ変わってない?」

「気のせいだろう。
 ミウ、そなたは我の最初の妻である。
 我のミウに対する愛に変化はない。
 むしろ初夜の時よりも増していると言えるだろう」

「なんかすごく嘘っぽいんだけど」

ここで美雪が元気に吠えた。

「嘘に決まってますよ!! だってその人、第二シーズンの 
 最終話でミウのことは赤の他人だと思ってるって言ってました!!」

「ふむ」太盛はスマホで前回の内容を確認した。

「確かに言った。フハハハハ。
 一度口に出した言葉は否定しようがない」

どうやら太盛・イフリートは馬鹿のようだ。

ミウはカッとなったので、大きく振りかぶった平手打ちを
お見舞いしてやろうと思ったが、ミウの手は空を切るのだった。

「あれ? 太盛君がいない?」

先ほどまで、そこで高笑いをしていた悪霊が消えた。

美雪とヘラジカもあたりを見渡すが、どこにもいない。
おかしい。つい先ほどまで普通に話をしていたのだ。
三人に気づかれずにどこかへ移動するなど
普通に考えてあり得ないことだ。

それこそ魔法でもつかなわい限りは。
まさかこの世から消えてしまったのか。
相手は悪霊だ。人知を超えた存在である。
ミウが背筋が冷たくなるのを感じる。

すると無邪気にもジュニアが、はしゃぎはじめた。

「キャっキャっ(∩´∀`)∩ この鹿さん、足早いよー」

何があったのかと思うと、いつの間にか太盛ジュニアは小屋の外にいて、
一匹のガゼルにまたがって同じ範囲をぐるぐると駆けまわっていた。

そのガゼルの瞳と顔つきが、たぬき顔の太盛にそっくりだったので
ミウがまさかと思って話しかけると。

「いかにも我は君の夫。高野太盛だ」

あっさり返答されてしまい、困惑する。

なんと、太盛・イフリートは賢人をヘラジカに変えただけでなく、
自らの姿も自由に変えることができるらしい。

(こんなことがこの世に起きているなんて……。
 神様なんて……私は一度は否定した……でもこれは……)

ミウは、幼少期からロンドンで育った。
父親の勧めで英国正教会の文化で育ったから、
日本の高校でボリシェビキになるまでは
熱心なキリスト教徒だった。

ボリシェビキになった後も、ふとした時に聖書の言葉が
頭に浮かぶこともあった。虐殺した生徒や先生が、
夜の枕元に立つこともたくさんあったが、
呪いや幽霊の力に負けるようなことはなかった。

それは彼女の現実主義者(ボリシェビキ)としての
超人的な精神力の強さがなせる業であった。

誘惑、迷信、友情、信頼。どれもボリシェビキに不要なものだ。
疑わしきものは罰する。処罰する。処刑する。

徹底的に現実世界のことだけを考え、人を中心とした社会を
作り上げる。そこには神の存在を許してはならないのだ。

だが、これはどういうことだ。

昨日までの太盛は、植物人間で回復の見込みはないと、
ドイツの医者にまで言われ、諦めていた。
今まさに元気になっていることを神の奇跡と呼ぶべきではないのか。

美雪は高野太盛を名乗る異端者に恐れをなし、
その場にしゃがみ、少しだけ漏らしてしまった。
ヘラジカは妹を守るように彼女に寄り添っている。

「(∩´∀`)∩ 鹿さん。走るのは、もう終わりなの?」
「うむ、久しぶりにこの姿で走るものだから疲れてしまってな」

息子を背中から降ろし、妻のミウに相手を任せた。
息子は、あぜんとしているママの手を遠慮がちに握るが、
何の反応もない。ミウの目は血走っていて、目の前で
起きている超常現象をどう解釈したらいいのか迷っていた。

「妻たちよ」

ガゼルは、明らかにミウと美雪に話しかけていた。

「君たち2人は共産主義者と資本主義者。
 どちらも神の存在を否定している無知なる者だ。
 人の子の前でこれだけ分かりやすい神の技を見せてやっても、
 いまだに神の存在が信じられぬと申すか」

「わ、私は」

美雪だ。恐怖で舌が回ってない。

「私は信じます……。神の存在を。堀さん……じゃなくて
 高野太盛さんは、神様の使いってことですよね」

「いな」

「じゃあ、太盛さんは何者なんですか?」

「イフリートだ。下のWikiを読んでみなさい」

Wiki
コーランの第七章11-13節にアラーの命によりすべての
天使がアダム(最初の人間)にひざまずいたとき、

「私は彼より優れている。あなたは私を火から作った。
 あなたは彼を土から作ったからです」と答え、

アダムに跪く事を拒否し、アラーに天界から追放されたとされる。

性格は獰猛かつ短気で、厳つい顔をしている。
様々な魔術を操る事ができ、変身能力など人間にはない力を持つ。
特に、炎を自在に操れるという。

西洋の文化圏では、異教の神々を悪魔(でいもん)とする事があり、
その恐ろしげな姿も手伝ってか、悪魔とされる。 


「我々は人と結婚して子供を作ることも可能だ」

「ええ!! 悪霊なのに!?」

「かの有名な千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)では 
 イフリート(兄)の妹と結婚した男がいた。
 男は、人間の女二人とイフリートの妹を含め、
 三人の妻を有し、仲睦まじく暮らしたそうだ。
 私が高野太盛の姿をしていれば君達と夜の営みも行えるぞ」

次はミウが質問した。

「なんで太盛イフリートはムスリムになったの?
 神に逆らって下界に降ろされたのに
 神様を信仰するなんておかしくない?」

「かつて中東世界ではイフリート(ジン)が人間に着いて回り、
 人間から影響を受けてムスリムになることは
 めずらしいことではなかった」

「じゃあ次の質問。一緒に日本で共産主義革命を起こしてくれないの?
 結婚する時に生涯ボリシェビキであることを誓ってくれたはずだけど」

「愚か者が。なんという愚問。共産主義とは人の子が
 作った理想主義。麻薬により毒された脳みそが生み出した妄想だ。
 7世紀にアラーがくだした、この聖典こそが世の心理。
 絶対の真理。神はアッラーのみ。神は偉大なり」

「じゃあ、どうして共産主義が麻薬だって思うのか具体的にお願い」

「現生のことしか考えてないからだ」


  コーランでは現生は、つかの間の時に過ぎないとされている。
   重要なのは来世。天国にたどり着くか、地獄へ落ちるかである。

   終末の後には復活がもたらされる。
    神は大天使に対してラッパを吹くよう命じ、地上は平らになり、
     空は裂け、宇宙の諸惑星は散乱し、墓地は覆される。

  人々は元々の肉体のままで墓地から復活させられ、
    それによって生命の三番目である最終段階に入る。
      そしてラッパが再び吹かれると人々は復活し、墓地から立ち上がる。

    神は信仰者、不信仰者に関わらず、人類、ジン、悪魔、更には
      動物まで全て召集され、それは万物の集いとなる。


   そこには天秤が置かれ、人々の所業が秤にかけられる。
  

  ―神は何から何まで全てご存じ。
    天使に命じ、汝らの行いは全て帳簿に書き記してあるぞ。

    それらの記録を右手に渡される者は善い清算を受けたのであり、
     喜々として家族のもとに戻る。

  ―その記録を左手に渡される者は火獄へと投げ込まれる。
    舌から宙ずりにされた状態で、炎で皮膚を焼かれ、
     皮膚が再生されるとまた焼かれる。これを1000年間繰り返す。

   ―ジャハンナム(地獄)へ落とされてから悔やむがいい。
    ああ、あの時、アッラーより下された啓示に耳を傾けておけばおかったと。

   ―アッラー(神)に愛される者は、永遠の楽園が約束される。
    そこには現生の苦しみはない。


美雪は言った。

「……経済新聞に書いてありました。いずれムスリムの人口が
 20億を超えて地球人類の三人に一人になるって」

「さすが我が妻は世相を知っておるな
 昨今、経済発展の兆しがあるインドネシアがその筆頭である」

※IMF(国際通貨基金)によると、
 ここ10年で新興市場として経済発展する可能性のある国として
 フィリピンとインドネシアを上げています。
 
 ちなみに日本やドイツは近い将来インドにGDPランクで抜かれます。
 日本は一度三流国家に転落したら、我々が死ぬまでの間は、
 二度と這い上がることはできないでしょう。


「妻よ」

イフリートはミウを差して言った。

「おまえは今までの悪行を悔いなさい。
 今からでも遅くはないから善行に励みなさい。
 マルヤムの子、イーサーの言葉を思い出すがよい。
 神は悔い改める人にこそ愛を与えると」

マルヤムの子イーサー ← 亜語(アラビア語)でマリアの子イエス
イスラム教ではイエスを神の子とは認めず、預言者の一人とされている。

神、精霊、イエスを三位一体を基本とするキリスト教徒。

イスラムでは人のことであるイエスを神扱いすんなと教えている。
また磔刑に処されたのはイエスによく似た別人とした。
そのため、イーサーの民(キリスト教徒)と絶対に分かりあえない。
ちなみにユダヤ教徒とは非常に険悪。互いに不倶戴天の敵となっている。

(実はユダヤの方が一方的にムスリムを嫌ったため、喧嘩になった)


ミウは、強い意志を込めた瞳でこう言った。

「私はボリシェビキです。神を否定します」 
「愚かな」

ボリシェビキとは、かつてウラジーミル・レーニンが作り出した
ソビエト共産党左派の、暴力革命を推奨した集団である。
ロシア革命による。全世界同時革命の推奨。
全世界にて共産党の結成(インターナショナル)
日本共産党もその時に生起した。

国民から富を独占する、資本家連中の抹殺、国外追放、
反革命主義者の強制収容送り、拷問、銃殺刑が日常である。

国民の人権などない。国に存在するのは、
共産主義支持者と裏切者(スパイ)だけ。

ミウの学園でも、休む間もなく反革命容疑者が摘発され、
強制収容所に送られて思想教育をされている。
かつて夫の太盛も、強制収容所3号室の囚人生活を経験した。

ミウと同じく太盛も神の存在を否定し、この世は全て
人の力によって支配され、死後の世界など存在せず、
この世でどれだけ多くの囚人を虐待死させても
問題がなく、むしろ国家の繁栄のために尽くしている。
反革命容疑者の殺人は是正とされていた。


ガゼル(太盛)は何も言わず、ミウも黙っている。

気まずい雰囲気である。ヘラジカ(賢人)とその妹も
押し黙り、ついに空気の悪さが太盛jrにまで伝わるほどになった。

するとガゼルの姿を炎が包み、あたりを照らす。
炎が消えさると人間の姿の高野太盛が出現した。

「ふふ。ミウ、君は相変わらず石頭だな。 
 だがそんなところも僕の好みだ」

太陽のように微笑むその姿は、まさに見目麗しい。
ミウは見慣れたはずの夫のはずなのに、
思わず心臓の鼓動が早まり、赤面してしまう。
ミウは今までの人生でこんなに美しい男性を見たことがなかった。

「太盛君。私はね。
 どんな太盛君だったとしても太盛君のことが好き」

「僕も君のことが好きだ。だから、別れたくない」

「ほんとなら今日の太盛君の発言は、全部共産主義的にアウト。
 即尋問室で思想をチェックされて、裁判の後、銃殺刑が
 基本コースなんだからね。でも私の夫だから許してあげるよ」

「許すだと?」

「ん?」

「いやなんでもない。好きに言うがいい。
 私と君の関係は、これから始まるのだからな」

「太盛君。最初に言っておくね。
 私はどんなに時間をかけても
 あなたを元の人間だったころの姿に戻してあげる」

「好きにせい。アッラーが望むなら、そうなるであろう」

「なにその言い方。聞きなれない言い方だね」

「この世に起こりうることは、我々がどれだけ力を尽くしても限界がある。
 最後に判断し、運命を決めているのはアッラーだということだ」

「……あっそう」

「うむ」

二人の会話はこれで終わった。

美雪は兄に語った。

「お兄ちゃん。そろそろ次の話に行こうか」

「ひひーん」賢人はそう答えた。

美雪「お兄ちゃん用の馬小屋が用意された」

ヘラジカは獣なので臭い。
毛には虫がたかる。
食事をした後は糞をする。

よって学園本部内に馬小屋を作ることにした。
急ごしらえの納屋を、空いたスペースに作った。

9月の上旬になっても関東地方の気温と湿度は耐えがたい。
美雪は水で濡らしたタオルを首に巻き、馬小屋の掃除をする。
これがなかなかの重労働だ。

床のあらゆるゴミを綺麗に掃き出すと汗が噴き出る。
汗臭くて嫌になる。見た目も汚く不潔である。
特にブラが汗で濡れる感触が不愉快だった。

美雪は株式の運用が得意な大学三年生。
小学生の時より家の家事は積極的に行っていたが、
家以外の場所で働いた経験はない。

兄の体をブラシで強くこすると、「ひひーん」痛そうに泣くこともあった。
しかし毛並みに着いたアカやほこりを払ってあげないと、
感染症になるかもしれない。美雪はさらに力を込め、ブラッシングをする。

「ひひーん」

兄が、また鳴いた。
今度は少し気持ちが良さそうだ。

美雪は腰に付けたペットボトルホルダーの
アクエリアスをがぶ飲みする。一気に飲むとかえって体に悪いのだが、
インドア派の美雪は汗をかくことに慣れておらず、つい飲んでしまう。

「お兄ちゃんも喉乾いたでしょ。今お水持ってくるね」
「ひひーん」

馬用の器に乗せて飲ませてあげた。
兄は、妹が何を語り掛けても同じ返答しかしてくれない。
「ひひーん」しかセリフがないのだろうか。
それが美雪の寂しさを加速させた。

(暑い。暑いよぉ。早くクーラーの部屋に行きたい)

朝の5時45分である。
早朝でも日差しの強さは、
神が人類に与えた試練ごとく。

美雪は朝食前の、馬小屋の清掃が日課となっていた。
愛する兄がこの姿にされて実に
20日が経過したが、イフリートが魔法を解く気配はない。

彼は試しているのだ。ヘラジカにされた兄のことを
妹が見捨てずにどれだけ愛し続けられるかを。

(お兄ちゃんは一時的に動物に変えられているだけ。
 必ず元の姿に戻れる時が来る。だから我慢しよう)

美雪は株、為替、金利の変動の仕方が頭に入っている。
相場は長期で見れば常に変動し、ずっと横ばいはあり得ない。
今の状態が悪くても、それが長続きしないという
人生の本質をこの年によって理解していた。

(今ごろNYダウとナスダックの株価指数はどうなってるんだろう。
 ドル円相場は? 日々の生活で頭が一杯で株どころじゃないよ)

美雪の生活は、ヘラジカの世話と、
イフリートの旦那である太盛の相手をすることで締められている。
学園本部では日経新聞すら届かない。
(日経は電子版もあるが、彼女は眼精疲労を恐れるため紙面を好む)

「(∩´∀`)∩ 2人目のママー。
 今日も朝から日差しが焼けるようだねー」

高野太盛jrである。太盛とミウの間に生まれたはずの子だが、
美雪が太盛の妻でもあるので、義理の息子扱いとなっていた。

この日本人離れした関係も美雪は受け入れざるを得ない。
なにせ現実の世界に戻る方法も分からなければ、
太盛を元の姿に戻すことも叶わないのだ。

「鹿さんに朝ご飯もって来たよぉ(^^♪」

兄に与えられる「エサ」は、決まって食パンだった。
ヤマザキの安いパンであるが、日本製のパンは
水気があり柔らかいのが特徴だ。ヘラジカでも余裕で咀嚼できる。

お皿には、缶詰に入っていたコーンビーフも入っている。
ヘラジカは、「ひひーん」と鳴いてから顔を突っ込んで食べる。

兄は目線だけで、美雪も早く朝ごはんを食べに行けと言ったので、
美雪は名残惜しそうにその場を去った。愛らしい顔をした、
天使のようなジュニア君を手を繋ぎながら。

「えっへへ。二人目のママもすごく美人だね。
 でもママのおててが汗だくだぁ。
 顔ふきタイプのギャツビーがあるから使う?」

「気が利くわね。ありがと……」

義理の息子は、美雪のことを気に入ってくれて、
美雪の仕事を進んで手伝ってくれるありがたい存在だった。

『ママ』
    と言われると、くすぐったい気持ちになる。

美雪はまだ大学生なので子供がいるわけがないのだが。
愛する賢人がヘラジカに変えられてから人恋しさが
MAXなのでジュニアの整った顔を見ると正直癒される。

(暑くて……重労働で……イライラして……
 しかも生理前。なんだか無性にムラムラする)

美雪は(;・∀・)汗だくなのを気にせず、ジュニアを
(確か4歳くらいの設定だったと思われる。よく覚えてない)
抱き上げ、ほっぺたに愛情を込めてキスをした。

「ママ? どうしたの?」

「ジュニアは優しくて良い子だから大好き。
 本当に私の息子になってもらいたいくらいだよ」

「ママは何言ってるの? 僕はママの子供だよ。
 だってパパがそう言ってたんだもん」

屈託のない笑みである。微笑ましい。
美雪はニヤニヤしながらジュニアの髪の毛を撫でてあげる。
髪からシャンプーの良い匂いがして美雪のテンションが上がった。

朝6時。食卓につく。小屋の住人は早起きを是正とするのだ。
ミウは毎朝5時に起き、ニュース記事を読んでから食事の支度をしていた。

「いただきまーす( `ー´)ノ」

「こらジュニア。あまりがっついて食べるんじゃありません。
 こぼしてしまいますよ」

ミウは、イフリートに説教されたのが聞いたのか、
口調を始めとした生活態度に変化があった。
周囲の人間に対し、上流階級の夫人の口調を模倣する

息子に対しては、夫イフリートの影響でクルアーン(コーランの亜語)
を読ませないように注意を払いつつ、品位の有るボリシェビキとして
教育をするつもりだった。いずれは学園の校長の地位も
世襲で息子に継がせるつもりだったからだ。

高野の血は、優れた血である。
資本家に支配された日本を革命し、聖なる共産主義国家を
作り出すことが彼女の夢。人生の目標なのだ。

「本日の食事も美味である」

太盛・イフリートは手づかみで、ナンを平らげていた。
彼は家族と食卓を囲む時は人の姿をする。

大きな瞳と長いまつ毛、少し浅黒い肌が特徴の
いかにも健康的な、見目麗しい東洋の男子である。
薄いシャツから覗く、彼のたくましい腕の筋肉を見て、
ミウは食事も忘れてうっとりしてしまう。

イフリートはバターと砂糖が大の好みで、チャイ(紅茶)には
スプーンで四杯も砂糖を入れ、ナンにはバターやマーガリンを塗って食べる。
シェフには朝食に厚みがあるナンを焼かせ、冷めぬうちに一気に食べてしまう。

他にはマトン(羊の肉)が入った、野菜スープと
レタスと鶏肉を中心とした西洋風のサラダを好む。
彼は朝は決まったメニューを食べるので作る側のシェフは楽だ。

イフリートはアイスも好む。
スーパーやコンビニの(ラクト)アイスを美味しそうに食べるのだ。
寝起きからジャイアントコーンにかじりつき、食後に
スーパーカップ(バニラ)を食べる。糖分が過剰だろうと美雪が呆れる。

最初はミウが旦那の健康を気づかい、
日本食を作ったのだが、太盛はイフリートなので
日本風のだし(味噌・こんぶ・しょうゆ)のしょっぱさが
塩辛いと言って好まなかった。

そのため太盛の食事は、本部が雇っている、カザフスタン人のシェフに
作らせている。チャイは、朝は温度のぬるいダージリン。
昼はドロドロに濃い、熱々のミルクティーを飲むのが日課だった。

「夏場こそ暖かめの茶を飲むのが一番体に良い。
 冷たい飲み物を飲むのは胃腸に悪いのだぞ」

と偉そうに言うが、美雪は日本人なので聞き入れない。

(あんたと違って私は大汗かいてるんだよ。
 お茶よりスポーツ科学飲料のアクエリアスの
 方が絶対に体に良いと思うけど)

イフリートと美雪は、床にペルシア絨毯(じゅうたん)を布いて食べていた。
皿は絨毯の上に置いて、手づかみで食べるのだ。
汚れた左手ではなく、右手を使って食べるのが特徴だ。

イフリートは中東での暮らしを思い出し、このような食べ方にしている。
最初の妻のミウはドン引きし、西洋式にイスとテーブルで息子と食べる。
美雪は、ガチの共産主義者のミウと話をするのが気まずいので、
また外国の文化にも興味があるので絨毯の上で食べている。

このペルシア絨毯だが、赤を基調とした、金色の刺繍(アラベスクとコーランの文字)
がされた、目を見張るほどの美しさである。太盛は通信販売で
この絨毯を選んだ。市場では安物の偽物が多く出回っているので、
120万円もかけてこの絨毯を購入した。

120万とは額面価格、令和10年では34%の税率が
かかるわけだから、いまいましくて計算したくもないほどである。

余談になるが、筆者は美術全般に大変に興味があり、
西洋絵画や建築を中心に世界各国の美術を調べたが、
(現地に行ったわけでなく文献やビデオで)
最も美しいと思ったのはイスラーム美術であった。

絵画では西洋の写実絵画、印象派、
抽象絵画(シュル・レアリスム)、東欧イコンと比べても
画面いっぱいに敷き詰められたアラベスクの美しさには及ばない。

特に建築ではイスファファーンの美しさ(空の青と金色の刺繍)
に息を飲む。この世の物とは思えぬほどである。タージ・マハルもすごい。

イスラム世界の各モスクを覗いて次点で美しいと思うのは、
ロシア、サンクト・ペテルブルグの『スパース・ナ・クロビィ宮殿』
このクラシカルなロシア風バロック建築の美しさは、
著名な旅行写真家をしてパリやプラハの建築を凌駕し、
欧州最高の美しさとまで称賛している。

『エルミタージュ美術館』の、
贅沢を極めた琥珀の間の美しさにも圧倒される。
余談だった。


じゅうたんは手触りも良く、この時期には少し暑いくらいだが、
ミウがエアコンの設定温度を24度にしてくれるので
むしろ心地が良い。ミウは女性にしては暑がりなので
生理中でなければエアコンの温度は低くしてくれるのだ。

「ジュニアは今日も残さずによく食べたわね(*^▽^*)」

「うん(^○^) 僕は良い子だから
 ママの作ってくれたご飯は残さず食べるよ」

テーブルには空になったお皿が並ぶ。
ご飯に味噌汁、焼き魚、のり、漬物、豆腐と言った、
高野家でも良く出されたメニューだった。
朝から皿数が多いのは、ミウの母の時代から受け継がれた伝統だった。

ミウは日本人の家庭で育ったので、
ロンドン時代も日本食ばかり食べていた。
西洋食も嫌いではないが、進んで食べたいとは思わない。
日本人の遺伝子がそうさせるのだろう。


「それじゃあ、学校に行ってくるよ。
 今日は新入生の受け入れ準備とかで
 忙しいから帰りは夜遅くなるからね。
 それまでジュニアのことお願い」

「うむ。気をつけてな」

イフリートは不敵に微笑みながら妻を送った。
美雪は気まずそうにお辞儀をする。
ジュニアはさみしそうに手を振った。

「実にくだらぬ予定だ。妻の前では言えぬがな」

イフリートは夜寝る前に、ミウの部下から、
この日の仕事の内容をこっそり聞いて把握していた。

9月は、豪州、NZ、シンガポールなど英語圏(英・連邦諸国)
から熱烈なボリシェビキ志望の学生が毎年集まってくるのだ。

入学は10月以降なのだが、念入りな思想検査をするために
まずは彼らの履歴書を読んでから選考に掛ける。
ミウは徹底しているから、彼ら一人一人とテレビ電話による
軽い面談(英語と日本語)をしてから、初めて筆記試験を受けさせる。

筆記試験に合格した者は、晴れて栃木県足利市のキャンパス
(高校だが、軍事施設と強制収容所があるので大学三つ分の広さがある)
の地に足を踏み入れることができるのである。

学園は、将来資本主義国家(旧NATO)を政治の裏側から操作し、
破壊し、転覆させるための工作員を養成するための機関である。
主な進学先は露のサンクト・ペテルブルグ大学だった。

この時期は、ミウは忙しさに自制を失い、部下に八つ当たりをすることが増える。
美雪は共産主義者の恐ろしさを経済学の勉強を通じてよく知っていたから、
家(小屋)でもミウを刺激しないよう、注意していた。

太盛イフリートは、二人の妻と仲良く暮らせて満足しているらしく、
家ではミウが持っている少女漫画と女性漫画を読んでは
大きな口を開けて笑うのだった。

人の子が考えることはまさに夢物語ばかり。
日本の恋愛活劇に多いのは、意中の相手に要求だけして
自己を磨くこと、努力することを嫌う。
対価もなしに、金と愛と地位を手に入れることを望む。
それは愛の物語ではなく、ただの茶の番である。

夫婦は尊敬しあうことが最も大切だと
教えるイスラムとは正反対なのである。

イフリートは、
古代アラビア文学のシンドバッドの冒険の方が
これに比べたら現実味があると言い、美雪に対し
作品の批評をするのだった。美雪は彼の得意げな口調が癇に障る。

イフリートは信仰心が厚く、一日五回の礼拝を欠かさない。
それなのにラマダン月の断食は決してしないと言う。

「ムスリムなのに断食しなくて平気なの?」

「イスラム国家でも断食をしない男性は一定数いるものだ。
 断食は推奨されることであり強制ではない。
 私は決してアラーを冒涜しているわけではないのだ。
 もっとも、向こうでは日本で言うクリスマスのように
 断食月は祝うもで楽しいものだがな」

断食は楽しい。日が沈むまで食べないことによって食の
美味しさが増すからだ。また仕事の終わる時間や
商店の開く時間もラマダン月は変わる。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。

朝の10時になった。

「ジュニアよ。こっちに来なさい」

ジュニアは、明らかに嫌そうな顔をした。
イフリートの父親がこの時間になると
クルアーンを読むよう薦めるからだ。

しかも豪華な金色の刺繍がされた、亜語の筆記体で
美しく表記してあるクルアーンである。英語辞書と同じ厚みだ。
ジュニアは母から受け継いだ日本語と本国英語(イングランド英語)
しか話せない。亜語など理解しようとも思わない。

そのためイフリートは、日本語で読み聞かせてくれる。
実はイフリートはクルアーンの内容の6割は暗記しているから空で言える。

世界のムスリム人口の5割の人は丸暗記しているから、
仮にこの世のコーランが全て消失したとしても、
容易に復活できるとされている。

「パパの膝の上に座れ」

「……僕はママにやるように言われた算数ドリルをやるもん」

「むう」

イフリートは、進んで信者にならない人に無理強いはしない。
これもアラーの教えに従っているのである。

どれだけ拒んでもしつこく勧誘する、日本の低俗な
新興宗教の勧誘員らとは大違いである。
世界第二位の宗教と、彼らを比べるなど無意味なの分かっているが。

美雪は一日に何度も馬小屋に行き、兄の様子を見に行った。
兄はエアコンの利いた部屋で過ごすことは許されない。
こんな暑くて臭くてみじめな環境で、いつまで終わるかもしれない
苦痛と戦う賢人。彼のことを思うと、涙がこみ上げてくるのだった。

「ひひーん」

ヘラジカは、そんな彼女の悲しみを癒すかのように
美雪の頬にやさしく口を当てるのだった。
彼に「ひひーん」以外の語彙はないのだろうか。

イフリートは一度好きになった女に飽きることはなく、執着する。
その女が好きだった男に嫉妬し、
このように魔法の力で動物に帰ることはめずらしくない。

美雪は学園内では渋谷の姓を名乗ることも許されていない。
高野太盛の妻だから、高野美雪となっている。
自分の苗字が呪われてしまえばいいと美雪は思っていた。

その日の夜だった。
美雪の夢の中に、大柄で巨大な翼を付けた男性が現れた。
絹の着物を身にまとっており、超然とした姿は天使かと思われた。

「美雪。そなたはよく苦しみに耐えておる。その苦しみに
 もう少し耐えれば、きっと光が見えてくることだろう。
 主はいつもあなたのそばにいる。それを忘れるな」

---メメント・モリ

カラン。

美雪の髪の毛の上に、銀色のロザリオが落ちて来た。
その感触で美雪は目を覚ました。深夜の2時半だった。
手のひらに収まるほどの小さなロザリアだが、精巧な作りだ。
磔刑に処されたイエスの姿が刻まれている。

そして美雪は不思議なことに気が付いた。
このロザリオは、どうやら瞳が持っていたのと同じデザインだ。
瞳は熱心なクリスチャンだった。

第二シーズンではイエスの教えを解こうとした彼女を
馬鹿にした美雪だったが、今では自分が愚かだったと思う。
人は神によって創造された者であり、神がいない地球など
初めから存在しなかったのだ。

アダムは土から作られ、イブはアダムの肋骨(ろっこつ)からつくられた。
これは創世記の物語。瞳からよく聞かされていたことだ。

美雪はミウにばれないように、護衛の人を一人呼んで、
アマゾンで聖書を取り寄せてくれるよう頼んだ。

共産主義社会では聖書はご法度。

日本の銃刀法違反より厳しい。
所持していることがばれたら、即強制収容所行きだ。

だから部下も最初は困惑したが、若く、なまめかしさのある美雪の
潤んだ瞳で懇願されたら、護衛の男は鼻の下を伸ばして許可してしまう。

イフリート「愛する妻・美雪よ。私と初めての妻の物語を聞かせよう」

日中は、することがない。

イフリートは、ミウの補佐をするのが本来の仕事なのだが、
イスラム教徒のため共産主義には加担しない。
よって自宅待機。これぞ斬新なるムスリム・ニートである。

(育児には積極的だ。単なるニートでなくイクメンとも取れる)

美雪は家で家事をしながら、ヘラジカ(兄)の面倒を見る。
大学には20日も通ってないので、単位が心配である。
必修授業(英語と文章表現)は3日以上休むと単位を落とすと言われている。
あせるが、この世界から脱出できないことにはどうにもならない。

「2人とも。じゅうたんの上に座りなさい」

ジュニアと美雪は言われた通りにする。

「今日はどんなお話なのー(゜-゜)」

息子が目を輝かせる。
イフリートは、日中はあまり体を動かさず、
エアコンの利いた部屋で大人しくしている。

ムスリム諸国では、夏の日中は涼しい部屋で午睡、
座ってクルアーンを読むなどして体を休ませるのが普通である。

真夏に五輪を開催する、体育館など蒸し暑い空間での体育教育を
強制して、学生諸子を熱中症にして病院送りにするなど、
ムスリムからしたら『国民の虐待』を平気で行っている日本の行政は、
比類なき大馬鹿である。

私は五輪開催前から、はたして早朝開始のマラソンにて
何人の選手が熱中症で倒れるか、そして
倒れる選手の国籍をよく確認しておこうと思っている。

イフリートは、昼食後は、退屈な美雪と息子のために昔話を聞かせてあげるのだ。
美雪とジュニアは、太盛の向かい側に座り、三角形の配置になる。

「パパのお話、早く聞きたーい( `ー´)ノ」
「いいだろう」



   ~~~賢者。セマル・イフリートは語る~~~



太盛が高校生の時。
苗字を堀と名乗っていた時期だ。

彼は共産主義者の集会場と化している「学園」に何も知らずに入学した。

太盛が高校一年生の時は、裏で生徒会組織(ボリシェビキ)が
学園を支配するという点に変わりはないが、
それが現在のように表に出ることはなく、(当時の生徒会長の意向により)
太盛達学生は、平和な学園生活を送ることができたのだ。

入学して三日目。

「そこの男性の方。すみませんが、
 講堂までの道のりを教えてくださらない?」

「いいですよ。僕でよければね」

太盛は廊下で橘エリカに声を掛けられる。
これを後に運命の出会いと知る。

太盛は明らかに上流階級の夫人を思わせるエリカの、
圧倒的な気品と顔の美しさ、仕草の優雅さに一目ぼれした。

一方のエリカも、見目麗しく、童顔で、太陽のように
微笑む彼の顔を見た瞬間、すでに一目ぼれしていた。

休み時間。移動教室。昼休みのちょっとした時間に、
エリカは太盛に声をかけるのだった。
日本の恋愛事情を考えると、入学間もない時期に
女子から男子に声をかけるなど相当に珍しいことだろう。

初対面の時からエリカの太盛への好意は明らかだった。

「君たちは中学が同じだったのか?」

クラス委員にして、のちに学園筆頭の悪党に成長するマサヤに
言われる。太盛は、はにかみながら否定する。

同じような質問を女子にもされた。

エリカは4月が終わる頃になると、
寝ても覚めても彼のことが頭の中を占めるようになり
切ない夜を過ごす日々が続く。
ついに決心して連絡先を交換する。

太盛もエリカが好きだったので、断る理由もない。
帰りのHR終了後に、多くの生徒が見てる前で
ラインを交換したものだから、二人の仲はクラス公認となり、
さらに三日も経つと学園公認にまで発展した。

密かに太盛のことが気になっていた他の女子達は、諦めざるを得なかった。
中学時代はお付きの女子を従えて女王様を気取っていたエリカが、
さっそく太盛を自分のものにしたのなら、今更戦っても勝ち目はない。


   ここで場面が代わり、太盛イフリートが語る。

「電子文通(LINE)をする中に発展したが、
 恋文を交換するわけでなく、日常の会話の延長である。
 我(われ)はエリカと付き合うと決めたわけではない。
 周囲の者が勝手に付き合ってると噂し、
 噂が広がり、いずれ真実のように扱われた」

美雪が問う。

「どうして付き合ってあげなかったんですか?
 太盛さんはエリカさんのこと好きだったんでしょ?」

「我が好きだったのは、彼女の満月のように美しい顔と
 生まれの良さからくる気品である。高校入学間もない、
 たかが15歳の娘にあの気品は到底出せるものではない。
 正真正銘の良家の娘である。少女ではなく婦人ともいえる」

「すごく難しく説明してますけど、まとめると
 太盛さんはエリカさんの顔が好きだったってことですね?」

「……多少の誤解がある感は否めんが、おおむねその解釈でよろしい。
 男は女の外見をまず好きになると神が定めているとおりだ」

エリカは知性に満ち溢れ、会話の相手を飽きさせないことが得意だった。

太盛のつまらない愚痴や疑問もきちんと聞き、答えを返す。
自らの話題は多彩。学問、教養、娯楽、スポーツ、旅行など
男性が好みそうな話題を選んでは、太盛と楽しく話をしたものだ。
(特に人の悪口を言わないように気を付けていた)

時に気まずい間などなく、話を続けることに関してはエリカは天才だった。
就職先は無線電信の司会者(ラジオのDJ)が適任ではないかと太盛は思ったほどだ。

「エリカは素晴らしい淑女だ。だが欠点がないわけではない。
 彼女の我に対する愛は大西洋の海より深く、また話が長い」

――話が長い。とは何か。

美雪がそのことを問うた。

「まず、エリカは恋愛に積極的であり、不思議なほど人目を気にしない。
 我はムスリムゆえ、男女の逢引は、誰にも見られぬ場所で
 するものと決めている。我らは屋外で昼食を共にすることが
 多かったのだが、当然学内の注目を浴びてな」

「ふむふむ」

美雪がうなずく。

「エリカは一度話始めると止まらない。我も美しい娘
 との会話は心地よくもあるのでつい乗ってしまうのだが、
 それでもさすがに1時間、2時間となると疲れてくるものだ」

「あー、いますよね。話が長い人って」

「するとエリカは、何を思ったのか、昼休みに我の
 携帯をチェックするようになった。何をしているのかと
 訊いたら、我が浮気をしてないかチェックをしているという。
 バカげた話だ。我がつい口を滑らせて中学時代の
 恋人の話をしてしまったからだろう」

「中学時代も恋人がいたんですか」

「名前はエミと言ってな。我の一学年上の女子であった。
 あれは慈愛に満ち溢れた、良い女だった。
 母への愛情に飢えていた我にとっては
 姉のようでもあり、母のような女性であった」

「で、エリカさんが嫉妬して恵美さんの連絡先を削除したと」

「まさしく。エリカは嫉妬した時は手が付けられないほど狂暴になってな。
 夜の砂漠を歩く、飢えた野犬のごとくだ。
 我は彼女の優しさを取り戻すためにはどうするべきか。
 また、どうすれば誤解がとけるか。そう思ってな」

エリカを押し倒し、キスをした。

「へ?」 美雪は呆けた。

「彼女とキスをしたのがきっかけだったのだろう。
 我は彼女の衣の中(裸)が見たくてたまらなくなり、ついに
 休みの日に彼女の家に押しかけ、日中に子作りをしてしまった。
 エリカはやはり処女だった。それがうれしくてな。
 我も若いと言うこともあり、定期的に彼女の部屋に通うようになった」

三か月後、エリカは妊娠した。
高1が終わる頃、エリカは太盛の第一子を出産。
生まれた子は女の子で名前は「マリン」と名付けた。

( ゚Д゚)…?
美雪はにわかには信じられず、話の真偽をしつこく問いただした。

「アッラーにかけて、我は真実しか述べん」

真顔のイフリート。確かに嘘をついてる雰囲気ではない。

「アッラーの加護によって、
 かわいらしい女児を我々夫婦に授けてくれたのだ。
 まことに神の力は偉大なり」

「いやいや、大問題ですよね?
 高校生の女の子を妊娠させちゃダメじゃないですか!!」

美雪は向けになってお盆をぶん投げた。
茶受けに用意されていた、
イタリア産のシナモン・クッキーが絨毯に散らばる。

「愚か者が。感情的になるな。エリカの兄上殿が当時の生徒会の
 支配者でな。エリカが出産の時期は休学扱いにしてもらった。
 表向きはニュージーランドに短期留学。簡単なことだ」

「どこが簡単なんですか。出産したこと学校中にバレてるんじゃないですか?」

「だからどうした。年頃の女子が懐妊するのは、めでたいことではないか。
 昨今の女子は30過ぎても子供を産んだことのない者が
 増えているそうだが、未婚とはアッラーの教えに
 従えば全く無意味なことだ。勉学に励むのが嫌な
 女子は退学し、どんどん子供を産むべきであろう」

「うわぁ……なんて時代錯誤で女性軽視の発言。
 すんごい腹立つ。社民党の人たちに聞かせてあげたいな。
 学のないカップルはすぐに離婚して
 幼児虐待するのが恒例パターンなのは知ってる?」

「信仰心がない若者など、木偶の坊にすぎん。
 魂の入ってない器だ。仮に成人しても赤子と大差ない。
 信仰心がないから離婚するのだ」

「信仰心って……( ゚Д゚)?
 瞳みたいなこと言うんだね」

「その瞳という者が誰かは知らんが、
 不思議と我と楽しく話し合えそうな感じがするな。
 今度機会があれば我の前に連れてくると良い」

「はーい」(絶対に連れてきたくない…)

太盛は高校生にして一時の父となったわけだが、
エリカを愛するあまり、男女の関係はそれからも続いた。

太盛は口先が達者で、女性を口説くことに関しては
日本中を探しても右に出る者がいないほどだった。
一方、夜の営みの方でも強者だった。

体中を駆け巡る、あまりの快楽に、
初心な乙女だったエリカを太盛中毒にさせるほどには。

二人の怪しい関係はその後も続き、
このままではエリカが第二子を解任するかもしれない
と危惧されていた時期だった。

高校二年に進級した太盛は、
闇夜に浮かぶ満月のように美しく、
可憐でいたずらが好きな、斎藤マリエと出会う。
マリエは一学年下の後輩で彼と同じく美術部員である。

太盛は、この小柄で茶色の髪をした娘を見た瞬間に、
床に押し倒したくてたまらなくなった。
出会って数日後、ちょっと用事があると言って中庭に呼び出し、
さっそく告白をしたが振られた。

さらに数日後、諦めずに告白をし、また振られる。
日本男児諸君なら諦めるところかもしれぬが、イフリートの精神力は並みではない。
マリエが首を縦に振るまでどんなことでもすると気迫を見せる。
その気迫は、一国の王女に求婚するアラビアの戦士のごとくであった。

マリエはついに根負けする。
しぶしぶ付き合うことに同意してくれた。

実は、マリエが彼の求愛を断っていたのは太盛の妻(恋人)の
エリカが怖いからであり、
マリエも太盛の美しい顔は好ましいと思っていた。

太盛の婦女子を口説く時の話術は、実戦を通じて洗練の極みに達し、
その気になれば学園中の女子生徒の半数を自分の物に
出来るほどの勢いであった。

太盛はマリエを自分の屋敷に招待し、部屋で茶を飲んでるうちに
ついには我慢できなくなり、ベッドに押し倒した。
責任は取るからと説得し、一時は抵抗したマリエを押さえ込む。

一度マリエの体を知ってからは、毎日マリエのことばかり
考えるようになり、眠れぬ夜が続く。
世界史の時間に教師がマリー・アントワネットの話をした時は、
「マリー」の単語にイスをガタリと言わせて過大な
反応をし、教室中の失笑を買ったものだ。

授業中でさえ彼女との情事がふと思い出され、
机を前にし頭を掻きむしり、勉学に対する集中力を著しく欠く。
このままでは成績が落ち続ければ、退学する可能性すら考慮し始める。

その危機感からか、このやうな方法も致し方ないと決心し、
今度はマリエをホテルに呼び出し、
彼女の爪先から髪の毛まで、たっぷりと味わうのだった。

「そしてアッラーの加護により、
 マリー(マリエ)も我の子孫を身に宿したのだ」

「はぁああ!? 他の女の子も妊娠させてたってのぉ!?」

「うむ。懐妊後、マリエは親の仕事の都合とやらで
 退学してしまってな。あれからマリエがどうなったか知らん。
 我は楽しみにしていたのに、ついに子の顔を見ることが叶わなかった。
 それが我には今でも心残りでな。せめて男の子か女の子かだけでも知りたいものだ」

「さっきから淡々と何を衝撃の事実を語ってるのよ!! 
 女の子の体目的でもてあそんで、
 退学までさせるなんて……最低じゃない!!」

美雪が騒ぎ始めるが、騒ぎが収まるまでイフリートは
瞑想しながら待つ。美雪が、イフリートがついでくれた
チャイ(ミルクティー)を一口含むと、ようやく話を聞く気になった。

「アッラーによって良い昼下がりがもたらされているのだ。
 話を続けよう。実は私が子を孕ませた女は他にもいてな…」

「他にもいたの!!」

賢者が話を続けようとしたが、
ジュニアによってさえぎられた。

「(>_<)エリカさんって今はどうしてるの?
 パパ以外の人と結婚したの?」

「さあ、どうだろうな。
 エリカとは高校卒業後、全く連絡を取ってない。
 なぜならミウが許してくれなかったからだ。
 ミウはいきなり横から出てきて我の所有権を主張し、
 我に近づこうとする女は徹底的に排除した」

「( `ー´)ノ ママは嫉妬深いね!! パパを愛してるんだ」

「愛か」

嘆息する。

「ぁぃとは、(。・ω・。)ノ ←現代風の顔文字にすればこのようになるか。
 愛とは本来心の奥底に潜むもので、形のあるものではない。
 ミウの我に対するの思いは、ただの執着に過ぎんだろう。
 ミウは我に心から愛されていないことを知りつつも、
 ボリシェビキとしての誇りと驕りから認めたくないだけだ」

美雪が苦情を出した。
先ほどから話の内容がエロチックで4歳の太盛ジュニアに
適当でないと。確かにと太盛は言う。

「ジュニアは我の話を聞くのが好きな、賢(さか)しい息子である。
 だがお昼下がりのこの時間は、午睡の時間であろう。
 さあ眠れ。眠るのだ。我が息子よ」

イフリートがジュニアの目元を手で覆うと、
電池が切れた機械人形のように絨毯の上で寝てしまう。

えあー・こんでぃしょなーの音が良く響く。
設定温度は26度。
婦女子らにとっては寒すぎる温度だろうが、美雪は文句は言わない。

「お願い。イフリート。話の続きを聞かせて」

「いいだろう。ただし、次の話でな」

美雪「最後まで物語を聞かせて」イフリート「うむ」

~~~~~賢者。セマル・イフリートは語った~~~~~


我とマリエとの関係は、すぐにエリカの知るところとなり、
顔を爪でひっかかれ、ケツを蹴られ、階段から転げ落ち、
大怪我を負う。

我は学業に励むのを禁じられ、
橘邸の地下の牢屋での生活が始まる。

エリカは、我と婚約した以上は、
絶対に結婚すると言って聞かない。

我は快く応じた。

なぜなら。
聖典・クルアーンにはこのように記されているからだ。

―好きな女ができて、
 どうしても抱きたくて辛抱たまらなくなった場合は、抱いても良い。
 ただし、必ずその娘を娶ってやれよ。

―妻の数は、三人でも四人でも、片手の指の数で
 収まる程度なら所有しても良い。
 ただし、汝(なんじ)が養っていける範囲の中で。


我は、エリカとマリエを共に愛した。それだけだ。
特にマリエを始めて見た時の衝撃は、言葉では到底表現できぬ。

私は月のように美しい彼女の横顔、
朱色の頬。良く動く、しなやかな手足、
小鳥が歌うかの如く美しい声を耳にした瞬間、
大地震が起きて大地が割れたのかと思った。

あの時は、マリエを犯すしかなかったのだ。
我はマリエとの婚約を交わしたのだが、
うっかりしていて、肝心のエリカとの重婚であることを告げなかった。

のちに致命的な失敗だったと知る。

マリエが懐妊後、行方をくらませたのはそのためなのだろう。
マリエ家族が疾走してから数日後。
我の元へ脅迫状らしき手紙が届く。

文を開き、絶句する。
おそらくマリエの父の筆跡。
何年か後に我の前に現れ、必ず復讐を果たすと言うのだ。

私は日本人の執念の深さにおびえ、数日にわたり眠れぬ夜を過ごす。

我は不貞の罪により橘邸の地下生活を余儀なくされる。
生活とは呼べぬ囚人の生活であり、
エリカに飼われた家畜に等しい状況なり。

日本人の婦女子は、将来の夫を監禁することに抵抗なし。
まったく奇異な民族であると解するが、訊いてみると
エリカの祖父はソ連邦のカフカース人(グルジア)だという。

まさかソ連の子孫だったとは。全くヘドが出る思いである。

我ら回教徒(イスラーム)が、ソビエトに対する熱烈な
恨みを抱いていることは諸君らにも理解できよう。
一九八〇年代に生起した、ソビエトのアフガン侵攻がきっかけである。

共産主義の麻薬にすっかり毒された熊共は、アフガンの聖地に
毒ガスと戦車とヘリコプターを持って土足で踏み込んだのだ。

我々イスラームの民は、国境と宗派の違いを乗り越えて
周辺国から兵力を終結させた。

20万を超える兵隊となって一致団結し、
米国製の武器提供を受けて戦い抜き、
ソビエトの悪魔どもを追い払うことに成功した。

実に7年近くにも及んだ大戦争だった。

私は牢屋での無機質な生活を送っても、
クルアーンの斉唱と礼拝だけは忘れなかった。

私は持ち物の所持を許されなかったが、我の頭の中に
暗記された神の言葉まではどうにもなるまい。

エリカは、我がコーランを読むのが我慢ならなかった様子。
我の口にハンカチを噛ませて阻止しようとする。

さすがの我も困り果てる。

そこへ、突然やって来た婦人がいた。

婦人と言っても年の功は18。
エリカの姉のアナスタシア・橘であった。

この女もサヴィエツキー(ソビエトの露語)の血が流れて
いなければと悔やむ。
伝統ある欧州貴族の息女にも張り合えるほどの、
気品と美しさを兼ねていた。
容姿端麗にて目鼻立ちの美しさ、妹を上回る。

姉は妹と違いよく笑う。人受けをよくするための
作った笑みなのだが、この女の笑みは花がある。
まさに百花繚乱。美しい姉妹が並んで立っているだけで
暖かい気持ちになるぞ。

姉は妹と何事か小言で話してから、
なぜだか口をへの字に曲げているが。

私は彼女の着物からでも良く分かる、
たわわに実った二つの果実に目が行ってしまう。
ザクロのように実った彼女の胸だった。

アナスタシアは形相を凶暴にし、

「責任取ってくれるんだよね?」

と我に迫り、困惑させた。

なんのことだと事情を聞くと、
なんと我の子をすでに産んでいるらしい。

アナスタシアが手を叩くと、廊下の暗闇の向こうから
一人の幼女が歩いてくるではないか。

「あの人が私のパパ?
 パパ。始めまして。私はパパの子供です」

舌足らずの声で言われるが、混乱する頭には入らない。
まさに右から左だ。ようやく言葉が話せるようになった年齢を考慮し、
せいぜい1歳程度と推察する。

漆黒の髪を腰まで伸ばし、うるんだ瞳と、長いまつ毛が美しい。
魔女のように角ばった鼻先が好ましくないとはいえ、
テレビジョンに出てくる子役と張り合えるほど美しい幼女に違いない。

「我は太盛である。いかにもそなたの父親である」

「(*^▽^*) おとうさまの おなまえは しってますよ 
       ままから 聞かされてるから」

「そなたの名は何という?」

「マリンです」

これは、困ったぞ……。

我とエリカとの間に出来た子供も、マリンのはずだ。
姉のアナスタシアとの間に出来た子供も、マリンとは。
日本風に表すと、とんち、だろうか。

アナスタシアは、子供を認知しなければ我を拷問すると宣言する。
我の思い知らぬところで事態は悪化しているようだ。

我がアナスタシア(通称ナージャ)と関係を持ったのは、
夏休みにエリカの別荘に遊びに行った時であった。
メンバーは我と橘姉妹の三人。他には贅沢にも三人の使用人がいた。

奴隷ではないのか?と訊いたら使用人と答えた。
現代の日本人は使用人と称するのを好むようだ。

別荘は雲海を見渡せる、標高1000メートル以上の高地に
作られた豪華なログハウスであった。何とも豪快な夏休みである。
我は毎日浴びるように酒を飲み、踊り、歌った。
悪ふざけが過ぎて裸になってしまったのをエリカに叱られる。

夜はエリカとの営みを忘れずに行ったが、
ある日、妹と間違えて姉にも手を出してしまったのを覚えている。

あの時は泥酔し、妹と姉の部屋を間違えてしまったのだ。
無論、わざと間違えた。姉をこの手に抱きたいが為だったことは言うまでもない。
泥酔するほど飲むなと、ハディース(ムハンマドの残した習慣)
に定められていた気がする。だが我はイフリートだ。
たまには羽目を外して現実から逃避したい時もあるのだ。

アナスタシアは、子供を認知しなければ拷問すると宣言する。
あえて同じ言葉を二度繰り返し、
耐えがたいほどの精神的な圧力をかけて来た。

我は子煩悩で特に女児を好む。
かつてイスラーム世界以前のアラビア半島では、
女児が生まれたら生き埋めにしろ、という迷信が横行した。

現在でもインドの地方では女児は生き埋めにして
西洋諸国の報道陣にネタを提供している。

(単なる女性軽視と取るのは浅はかなり。
 女は戦争の戦利品として男たちに奪われる。
 男に対し力に劣る女の生は苦しみばかりと、
 女に対する同情の念もあると想像す)

まったく愚者の発想である。

女児無くして男児も生まれぬ。
また男子無くして女子も生まれぬ。
イブはアダームの肋骨を取って創造されたのだから。

女は、人類の宝である。
女は美しい。なまめかしい。

男を悦ばせるのは常に女だ。
また女を守ってやるのも男の務め。

男と女はよく話し合い、互いに支え合い、
仲睦まじく過ごすべきなのだ。
信徒の者どもよ。アッラーは汝らにそう望んでいるのだぞ。

「どうなの? 私の子供を認知してくれるの?」

アナスタシアの顔は鬼のごとくゆがむ。
見目麗しい女に限って、機嫌を悪くすると恐ろしさが増すものだ。

断る理由もないので承諾した。

「妹のエリカの子供はどうするつもりなの?」

「どちらも我の子供である。我が育てれば良かろう。
 我はどちらの子供も正しく認知するぞ」

「太盛君……あなたねぇ。
 日本は一夫多妻制の国じゃないのよ」

「法律が認めないのならば、事実婚でよかろう。
 私にとって汝らは妻である。二人の妻である」

この言葉にエリカが気分を害し、怒声を発する。

「姉さんと結婚するなんて絶対に認めないわ!!」

重婚だと説明したぞ。

言葉を尽くしてエリカに説明しても、納得することはなかった。
エリカは怒りが抑えきれず、ついには私のアソコをハサミで
ちょんぎると宣言し、我を戦慄させる。

私から男性機能を奪うことによってこれ以上の浮気を
防ごうとの魂胆か。いかにも理に適うが、我が我でなくなる。
仮にエリカのたくらみが成功したら、ホルモンバランスの変化が生じ、
我は次第に女の体になってしまうだろう。

我はイフリートだが、アッラーが望んだ結果、
男児としてこの世に生を受けたのだ。

「(´ー`) おばさま。おとうさまを いじめちゃだめです」

幼子が、顔に無数の引っかき傷をつけた我をかばう。
なんという慈愛に満ち溢れた言動だ。
娘の背中に後光が刺しているのかとさえ思う。

我は女たちを犯したいと思っていた以上に、
このような可愛らしい子の親になることを願った。
子供に触れたい。会話をしたい。食事を共に食べたい。

空想だった存在が、今目の前にいる。

我はたまらず、娘を抱き上げる。
思ったより重みがあり、重心を崩しそうになる。
エリカにさんざん殴られた後遺症だろうか。

「パパ。いたくてかわいそ、かわいそ」

我の頬を、やさしくなでる我が娘。

シャンプーだかリンスの匂いが、我の鼻孔をかすめる。
さらさらした、心地の良い肌触り。
マシュマロのように柔らかい肌。頬。疑うことを知らぬ瞳。

私は娘の顔を引き寄せ、前髪をかき分けて、おでこにキスをした。
なんと愛しい娘だ。我にこんな可愛らしい娘がいるなら
もっと早く知りたかったものだ。

エリカは、我の子供を抱っこする姿に父親の貫禄を見出したらしい。
アナスタシアも同じ感想を口にする。

私は世間的には高校生だが、すでに父親なのだ。
私はすでに17歳。この年で子を持つことなど
何もおかしいことではない。
中世なら日本国民でも当たり前のことだろう。

「……あとでお父様に……相談してくる」

エリカは苦渋の決断を下した。
すなわち、姉妹で同時に我の妻となる決断を。

これは、無神論者の橘家の人間には、到底受け入れがたいだろう。
ユダヤ教徒にイーサー(イエスの亜語)の
神聖を解くのと同じくらいの労力が必要だ。

橘の父は、娘が好んで選んだ相手なら結婚を許すつもりだった。
しかし姉妹が同時に一人の男に娶られることを聞かされると、
激怒した。橘の母親も激怒し、収拾がつかなくなった。

そこで我の出番かと思い、彼女らの親に直談判した。
重婚は、イスラームでは珍しくない。
生涯にわたって二人の娘を同時に愛することを、
3時間半にわたって力説する。

こうは考えないのか。
我が仮にエリカを振ったら心に深い傷を負うことだろう。
子供の認知もせず、片親で育てるつもりか。
アナスタシアを振った場合も同様。
どちらにせよ、重婚するのが最適の解なのだ。

私の熱意についに両親は根負けし、
私に7000万円の結納金の小切手を手渡すに至る。
これにて娘を二人育てるには十分な金が手に入り、将来を楽観する。

我と橘姉妹は、娘たちの幼稚園入学から大学卒業までの
進路を想像し、明るい未来に気分が盛り上がる。

だが、そんな希望も長くは続かない。

美雪「さあさあ。話の続きをお願い」イフリート「あせるな」

美雪は絨毯の上で足を崩し、伸びをした。
   
   「7000万もあるなら子育ては余裕ってことになるね」

   「ところが、そうでもないのだ」



 ~~~~~~~~~賢者。太盛・イフリートは語った~~~~~~~~~



我は半年ぶりに学業に復帰することになった。
見慣れたはずの校舎が、妙に新鮮なものに感じられる。

同級生たちは我に対し他人行儀だ。二言以上の会話が続かない。
いったい何が始まるのかと、何かにおびえている集団もいた。

我のクラスは2年A組。エリカと同じクラスだが、エリカは
学業を修めことを無意味と悟り、家で子育てに専念している。
姉のナージャ(アナスタシア)は子供の世話を妹に任せ、学校には来ている。

姉の方は、橘邸での王族暮らしよりも、俗世間での喧騒を好むようだ。

私の教室の机には、手作りの遺影や、不幸の手紙、菊の花が置かれていた。
現代人の考えるイタズラなのだろう。
人の子の頭の悪さは、7世紀から少しも進化の兆しが見えない。
神の言葉を聞きもしない人間の。何と愚かなことか。

人が働いた悪行は、アッラーの位の高い天使(イブリース)が、
全て帳簿に書き記してあるのに。無知は恐ろしいものだ。
彼らは自ら地獄への道を歩んでいることに気づかないのだ。

私はふと一人の女子生徒が目に入った。
朝だと言うのに、よほど眠いのか、自らの机に
上半身を預けて寝たふりをしている。

顔を横向きにしているので、のぞき込んでみると、
実に整った顔をしているではないか。
このような美女が我のクラスにいたとは。

腰まで伸びた長い髪を、二つに縛り肩の上に垂らしている。
茶色くて毛先の細い髪だ。思わず触れたくなる。

「そなたは、なにゆえ机に伏しているのだ。
 さあ。顔をあげてくれ」

「わ、私は眠かったので」

「嘘をつくでない。教室で嫌な思いでもしているのか?」

すると、なぜか女子達から失笑が漏れる。

我に対してではない。この女子生徒を馬鹿にしているようだ。

ミウは、また机に伏してしまう。
そんなに我と話をするのは嫌なのか。

だが私はもう一度この美しい娘と話がしたいと思い、
彼女を説得する。少女は頑なに無視する。
頼むから話をしてくれと頼んだ。三度繰り返しても失敗した。

私はこの娘がクラスの女どもに、いじめられているのかと疑った。
それは真実だった。

休み時間に隣のクラスに行って噂を仕入れた。
どうやらこの少女の名前は高野ミウ。
英国帰りの帰国子女で男子から絶大な人気があり、
学園の花ともてはやされたゆえに同性からの嫉妬を買う。

まさに女社会は醜さを極める。
我は女どもに対し制裁を加えたいほどの怒りを覚える。

国語の授業中、帰国子女のミウが小学生でもわかる漢字の
音読を間違えてしまう。女子から失笑が漏れた。
我は女の底意地の悪さに、ついに我慢ならなくなった。

私は怒りのあまり拳を自らの机に叩きつけた。
机は二つに割れ、もはや机ではなくなった。

私の怒りによって、周囲は息を飲み、悪女たちの悪だくみが収まる。
国語の授業は平和になったのだが、私は素行に問題ありと
教師に判断され、反省室送りにされる。

それがまずかった。

反省室は、生徒会(学園ボリシェビキ)が管理していたのだ。
我は共産主義的なしごきを一時間半にもわたって受けた。

日が暮れ、老人のごとき足取りで校門を後にする。
うれしいことに夕日を浴びた人影がいる。
私が誰よりも会いたいと思っていた、ミウだった。

「えっとその……私のせいで堀君が収容所送りになったみたいで
 ごめんね。でも……かばってくれて、うれしかったよ」

彼女の優しい微笑みが私の体の疲れを瞬時に癒してくれた。
同時に体温がにわかに上昇する。この娘を抱きたくて仕方なくなってしまった。
背丈は普通よりやや小柄。大柄のエリカと小柄のマリエの中間地点。

胸はさほどではないが、細身でそこそこのスタイルは
維持されている。ミニスカートから覗く足は、十分になまめかしい。

私はその日からミウの友人となり、言葉の限りを尽くして
彼女を口説くことにした。ミウは見目麗しいが、不思議と
男性の経験が皆無なため、口説き文句には弱かった。

「ミウを見てると、他の女子が視界に入らなくなるんだ」
「新しい眼鏡買ったの? 素敵だね。どこで買ったのか教えてよ」
「僕はミウの英語かっこいいし、素敵だと思うよ。もっと聞きたいな」

可能な限り現代人風の言い方を模倣する。
我には似合わん言い回しかもしれないが、
21世紀を生きる上では仕方ない。

日本の婦女子は褒められることに慣れてない。
よって口説き文句に簡単に引っかかる。

日本男児は、世界でもまれにみるほど女性を褒めぬ。
それが普通の文化とされているが、世界の視点で考えれば異端である。
口にせずとも態度やしぐさで察しろとでも言いたいのか。

この国の民族は無知で愚かである。
言葉には魔の力さえ宿ることを知らぬのだ。

言葉無くして婦女子を口説くなど、コーラン無くして
イスラームに目覚めることと同義。不可能である。

我に至っては、ミウが美容室で髪を切ったのを知ると、
10種類以上の口説き文句を思いつき、褒めちぎったものだ。
彼女が好みそうなプレゼントも送った。

「私も太盛君のこと、好き」

ついにこの時が来た。いよいよミウの体を味わう
日が来たと期待すると、都合の悪いことに
我が生徒会から呼び出しを食らう。

「2年A組の堀太盛君。生徒会長がお呼びです」

我は学園中の女を口説いていることが問題児と判断された。
我の恋愛は、資本主義的な恋愛観に近いことから、
反革命容疑者と断定される。

その日から強制収容所3号室での生活を余儀なくされる。
自分の教室で授業を受けることは禁止された。

この学園には強制収容所なる施設があることは
学生にとり周知のことであったが、実際の囚人に
なってみなければ実態は把握できず。

我は囚人となり収容所に足を踏み入れる。
見れば、普通の教室と変わらぬ。

三人分の椅子、机が鎮座し、監視カメラと思わしきもの
天井の四隅にあり。殺風景なことに驚く。

「あんた……同じクラスの堀よね?」
「そういう君は、ええっと」
「同じクラスなのに名前忘れんなし。小倉だよ。小倉カナ」

囚人仲間に級友の少女あり。
目を見張るほどの美女ではないが、
色気なき収容所に咲き誇る一輪の花なり。

小倉カナは、男兄弟で育ったことから、
兄者と弟者の影響で武道のたしなみを持つ。
得意技はボクシングのコンビネイション。

カナはスラリと伸びた手足が特徴だ。
小麦色に焼けた肌が健康的で好ましい。
スカートから覗く長い足が、我の目を刺激する。

背丈も体形も中肉中背のミウと大差ないが、
運動で鍛えられて姿勢が良く、実身長より上回って見える。
長い黒髪を一つにまとめて後ろに垂らしている。

初日から人見知りせず我と仲良くしてくれる。
実に好印象。忘れずにラインを交換せり。

我らの他もう一人の囚人は、松本イツキなる三年生の男子なり。
口数少なく無害なこと、この上なし。
たわむれに興味を示さず孤独を愛すため、こちらも距離を取る。

我とカナは、外界との接触なき収容所で親睦を深める。

聞けば、カナは生徒会の副会長に殴りかかった罪により、
本来なら生徒会に勧誘されたのを断り、この収容所に来たとのこと。
にわかには理解しがたき話である。

罪なのに勧誘とは? ※『初代・学園生活~ミウの物語~』の20話あたりを参照

「副会長様が、私の気迫を気に入ってくれて、
 ボリシェビキの幹部に勧誘してくれたの。
 あたしは断ったよ。だって同級生たちを虐待する側に
 回るなんて吐き気がするじゃない」

カナは勧善懲悪を是正とする。我もそうだ。
悪は現生でどれだけ良い思いをしようと、
所詮は生きている間だけのこと。束の間である。
アッラーによって、死後報いを受けることになる。

我は学園では収容所以外で勉学を励むのを禁止された。
カナとの親密さは日ごとに増していき、収容所内恋愛に発展する。

1,2号室の囚人と合同で行われた地獄の登山訓練の時である。
我とカナは過酷な環境において見事な連携を発揮せり。
3号室の我らの仕事は、登山中に倒れた負傷者の看護なり。

残暑厳しい9月の頃。あぶら汗が永遠と顔から滴る。
もはや汗拭きタオルが用を足さぬ。

タンカを持って山の急斜面を登り降りする我ら。
我は無性にカナを自分の物にしたくて自制心を失ってしまい、
得意の口説き文句が口から漏れる。

「カナ。辛いけど一緒に乗り切っていこう。
 俺と君は運命共同体だ。死ぬ時も一緒だ。
 本当は卒業するまで秘密にするつもりだったけど、
 今はっきり言わせてくれ。俺は君のことを愛してる。
 卒業したらお互いの親に説明して婚約しよう」

繰り返すが、我らは疲労困憊である。
カナはあぜん。言葉を失っている。
言った後で「しまった」と思う。もう遅い。

「……太盛の方からそう言ってくれるなんてうれしいよ。
 私もずっと太盛のこと好きだったの」

カナの言う所、我のことは一学年の時より意識していた。
マリエと同様にエリカの影におびえ、我に近づけなかった。
だが囚人となれば話は別で、我らは学園の生徒にして
学園の生徒にあらず。

そのうえ生徒会は収容所内の恋愛を推奨。
脱走を防ぐのに効果ありと考えるからだ。

カナは泣くほどうれしかったのか、作業中だと言うのに
タンカを持つのを忘れて目元をこすっている。
我は体が勝手に動き、彼女の肩を抱き、「愛してる」とつぶやく。

小倉カナが我の子を妊娠するのは、そのひと月後だった。


美雪が憤慨し震える。

「あんたねえ……、いったい何人の女の子を妊娠させたのよ!!」

ふむ。数えてないから分からぬ。正直答えたら、お盆が飛んでくる。

「面白い話だと思っていたらとんでもない内容じゃないの!!」

「何を言うか。事実こそが最高の小説だ。
 アッラーにかけて、我の学園生活は波乱万丈の冒険活劇のごとしなし」

「言っておくけど、私はあんたのおもちゃにされるのはごめんよ!!
 あんたの告白は今この瞬間に断るからね!!
 ああ、気持ち悪い。何がイスラム教よ。
 あんた、ただのチャラ男じゃない!! 
 女のコたちのことどうするの…? ちゃんと責任取りなさいよ!!」

美雪の怒声にジュニアが大泣きする。
楽しいお昼寝を邪魔されてさぞ不快だろう。

我は美雪にわき腹を蹴られ、呼吸するのに難儀するが耐える。
我が子を抱きながら、外の空気を吸わせるために小屋の玄関を開ける。

小屋の中ではまだ美雪が騒いでいるが、
聞こえないふりをしてやりすごすしかない。

「びえええええええん(>_<)/」

「良い子だから泣き止むのだ。ジュニアよ。
 ほうら見てごらん。郵便局の人が来たぞ」

……怪訝に思う。

学園の敷地は、高度に共産(軍事)化されて虫一匹すら通さない。
郵便局の人は、普通に歩いてこちらに近づいてくる。
小屋の前で立ち止まり、イフリートに一通の手紙を手渡す。

「あなたの良く知っているお嬢様からですよ」

我は絶句する。

差出人は「斎藤マリー」
マリーとは、マリエの通称である。
一時は学園のアイドルだった。
特に学園中のロリコンに好まれた。

手紙には、我に他する恨み言が並ぶのかと警戒する。
実際は違った。可愛い娘を連れて、我に会いに来ると
書かれている。娘の写真も一緒だ。並んで映るマリエの
美しさは、もはやこの世の女性とも思えぬほどの美しさ。

なんという色気だろう。かつてロリッ子として名をはせたのが
嘘のように垢ぬけ、洗練された女優のごとき、華やかなるオーラ。

パーマをかけたショートヘア。派手めの化粧は以前の彼女とは
明らかに異なる。なんと知性を帯びた瞳か。
写真越しにも彼女の聡明さが伝わるほどである。

職業は信託銀行の行員。親と同じ職種(リテール)を選択し、高収入とのこと。
それがどうした。我は女性の職業にあまり関心がない。


  美雪が言う。

「さっきは怒ってごめん」

「気にするな。そろそろ日が暮れるな。夕飯の支度をするぞ」

   本日の話は、これで終わりだ。

ミウ「私の旦那は太盛君だけだからね」

ミウは仕事を終えて夜遅く帰って来た。
22時過ぎだ。布団で寝ているジュニアの頬にキスし、
美雪が作ったご飯を食べる。

ミウは仕事のささいなトラブルを愚痴として太盛にこぼす。
太盛はとっくに食べ終えているが、妻の向かい側に座り、
頷いたり感心する振りをしながら辛抱強く話を聞く。

「それでね」「うむうむ」

ミウはおしゃべりだ。仕事終わりは無駄にテンションが高く、
赤ワインが入るとさらに早口になる。
太盛にとって共産主義の行政に興味ないが、楽しそうな顔をする。

理由はアッラーの教えによる。

―妻がつまらないことで愚痴を言っても夫は
  ニコニコしながら話を聞け。不愛想になるな。
  愛情を込めて接してやれ。

ミウは食後、シャワーを浴びてから太盛の元へ戻って来た。

「髪の毛乾かしてくれる?」

太盛はドライヤーを手にするが、女の髪の手入れなど
仕方が分からず、困惑するばかりだ。

「うそうそ。自分でやるからいいよ」

ミウは悲しげな顔をしてうつむくのだった。
挙動が不審である。何か言いたいことがあるに違いない。
太盛がわけを訊くと。

「私は太盛君のことが好き」
「我も君を愛しているぞ」
「太盛君はイフリートだから、美雪ちゃんのことも好きなんだよね?」
「美雪は我の二番目の妻である。当然のことだ」
「そっか……」

ミウの手が小刻みに震える。
下唇を噛んでいるのがイフリートからも見える。

「本当は怒鳴って太盛君に八つ当たりしたい。
 でも、そんなことしてもどうにもならないもんね。
 私はむしろ良かったって思ってる。太盛君がイフリートに
 乗っ取られたおかげで植物人間から脱出できたんだから」

「望結よ……」

「私の名前はミウなんだけど?」

「すまん」

イフリートは本田望結(みゆ)ちゃんを
好ましく思っており、たまに呼び間違えてしまう。
ミウが名前を間違われると胸を痛めているのを知らずに。

「我は美雪のことも愛しているが、
 それと同じようにミウのことも愛している。
 それで良いではないか」

「ぜんっぜん、良くないよ。納得できないよ。
 でも、でも仕方ないもんね……。
 太盛君がどうしても奥さんが一人じゃ
 満足できないって言うんじゃ……
 私はもう子供じゃないから我慢するよ……」

イフリートは、クルアーンの教えを理解できず
自らの殻に閉じこもる妻を哀れんだ。
彼女の肩をやさしく抱きよせ、抱擁する。

ミウは彼の体温を感じると、うれしさがこみ上げてしまう。
植物人間の時とはやっぱり違う。感情のある人間。
でも正体はイフリート(ジン)
よく分からない夫だが、太盛は太盛だ。

ジュニアは熟睡。美雪は寝る時は本部の宿舎(別室)を使う。

久しぶりの夫婦間の情事に、ミウの胸が高まる。

「ミウ。愛しているよ。いままでも。これからもずっと」

砂漠で鍛え、良く日に焼けた彼の腕に抱かれると、
もう何もかも忘れて彼の愛撫に身を任せるだけになってしまう。

太盛は得意の口説き文句を飽きもせずに並べ続け、
ミウから思考力をすっかり奪ってしまう。
他のどの女よりも執着が強い妻だからこそ、口説き甲斐がある。

「私も……太盛君のこと……愛してるぅ……」

太盛は裸の妻を腕に抱きながら、頭の中では別のことを思い浮かべてしまう。

マリーの手紙だ。

ミウは、太盛とマリーが懇意の関係にあることを知らなかった。
太盛をめぐる女性関係はエリカが中心なのだが、
橘家の権力によって学内に噂が広がるのを防いでいた。

ミウがボリシェビキに目覚めたきっかけは、太盛が収容所行きになり、
彼を救うためにクラスの反対勢力と闘ったこと。
その後、生徒会副会長アキラとの会合を経て、
自分自身がボリシェビキとなって
組織の中核を担うようにまでなったのだ。

ミウが、実は太盛にはたくさんの隠し子がいることを知ったら
どれだけ怒ることだろう。その怒りは、栃木中の山々を震撼させ、
この世にいる、あらゆる地を這う動物を殺してしまうほどだろう。

翌日、ミウは朝早く小屋を出て行った。

保安員員部から集団脱走が発生したとのことで、
閣僚を集めた緊急会議が7時から行われる。

もはやご飯すら悠長に食べる暇はないとして、
フルーツグラノーラだけですませてしまった。

まだ朝の6時半なのだが、太盛は美雪とジュニアの三人となった。

太盛は気分転換に家族三人で映画でも見に行きたかったが、
学園の規則では不要な外出が禁止されている。
また資本主義的な世界に触れることは好ましくないとされている。

足利市では、文化の規制がある。検閲だ。書籍、電子問わず。
あらゆる創作作品は規制に掛けられ、自由な思想は許されていない。

映画は興行収入を当てにして多大な借金(資本)を背負って制作する。
制作の過程がまさに資本主義的だ。
まして映画と言えば、なんといってもアメリカのハリウッド。
日本の映画館でもハリウッド映画の比率が高い。

「僕は映画よりもパパのお話の方が楽しいよ(∩´∀`)∩
 もっとパパのお話が聞きたーい(^○^)」

「私はこいつの話を聞いてると頭痛がしてくるよ……」

「では美雪の人生について語ろう」

「Σ(゚Д゚)へ? あたしの人生?」

「うむ。良く聞くのだぞ。今日はジュニアにもわかる内容の話だ」


 ~~~~賢者・太盛・イフリートは語る~~~


これ。美雪よ。

どうやら、そなたは信ずる神を持たぬ無知なる娘のようだ。
無知ゆえに兄妹(けいまい)と知りながら実の兄(賢人)との
婚姻を強く望む。

ユダヤの民も、キリストの民も二親等の血縁者との婚姻は禁じている。
日本国の法律でも同様の定めがある。

そなたは読書を好み、政治や法律にも明るい。
悪であると知りながら、なにゆえに悪行へ走るのか。

父母を同じとする兄者との恋は、禁じられた恋。
破廉恥(はれんち)なる所業なり。
仮に夫婦(めおと)となりて、子でも宿そうものなら、
目も当てられぬ。アッラーにおいて中絶は厳禁である。

ようやく手に入れた赤子は、アッラーに
見放されたシャイターン(さたん)のごとく。
世俗に晒すことすら叶わず、常に日陰を生きる者となること、容易に想像せり。

そなたは、我らの小説の第二シイズンにて坂上瞳嬢より
いくたびも聖書の言葉を耳にしたが、まるで聞く耳持たず。
馬の耳に念仏とはこのことなり。

坂上瞳の語る言葉は、世の理(ことわり)であり、
それに従えば、そなたの恋愛嗜好は破廉恥の極みなることは明白。

我、イフリートなり。そなたの兄者をヘラジカに変化させた。
世の末まで、そなたの兄者への愛情が消えぬとなれば、手の施しようなし。
そなたの兄者への恋心は失せるどころか強さを日ごとに増し、
ブラザア・コンプレクスの体現者として
世に名を知らしめるのが目的ではないかと疑う。

我らアッラーの僕にとっては、到底理解しがたきことなり。


「……何よ。偉そうに。自分は何人もの女を妊娠させたチャラ男のくせに」

美雪は何を思ったのか。座していた体制から、にわかに元気になりけりと
思いきや、風のごとき俊敏さによって我の背後に回り込み、
我のわき腹を拳を持って打つ。

とても女子大生とは思えぬほどの腕力。
その破壊力たるや、並みの男なら悶絶すること必至である。

「私がどれだけお兄ちゃんのこと愛してるか。お兄ちゃんが
 どれだけ私のことを愛してるか知りもしないくせに!!」

我はただごとではないと判断し、ひとまずこの悪鬼から距離を取ろうと
逃げ出すが、足をつかまれ転倒する。我はねずみのごとき俊敏さで
再び遁走を計るが、あえなく失敗。今度は足払いを受け、転倒する。

床に鼻を打ち、鮮血が出る。
美雪は尚も追撃の構えを見せ、その殺気は大地と山々を震わせるごとしなり。

我は逃げること、もはや困難なりけりと、応戦の構えを取る。
我の振った拳は空を切り、代わりに美雪の中断蹴りを食らい、吹き飛ぶ。
てつはうの球のごとく、自らの体が水平に飛翔するなど、まるで小説のごとし。

やはり勝機なしと判断し、説得を試みるが、現在も修羅場なりてその余裕なし。
美雪の鉄のごとき拳が、我の腹部を圧迫し、呼吸がままならなくなる。

苦しみのあまり床を情けなく右往左往し、
起き上がる頃に、美雪の駆ける姿が目に映る。

チイタアのごとく駆けた美雪が、
我の横を過ぎたと思うと、いきなり振り向き、
握った拳をいわゆる裏拳の形で我の顔へと当てる。

その痛みたるや、万の言葉を尽くしても形容しがたき。
歯の数本が抜け落ち、鼻から流れる血は滝のごとく。
目は涙で潤い、もはや状況を説明することすらままならぬ。

「……はぁはぁ。次に私とお兄ちゃんの悪口を言ったら、許さないんだから」

もはや恐怖のあまり、歯のかみ合わせの合わぬまま、
首を鶏のごとき動きで縦に振る。この女が我の妻なることに戦慄せり。
将来において夫婦(めおと)喧嘩が生起した場合、
口論だけで終わらぬことは明らかなり。

我は反省する。
日本の女子学生の戦闘力を、あなどっていた。
日本国とは、先の世界大戦の記憶から、戦闘に優れた民族として
世界に名を知らしめて久しいが、まず兵隊を生んだのは母である。

母たる者の強い肉体から、強靭なる兵隊生まれ出でる。
独逸国のヒットレル(ひとらー)総統の言葉なり。

独逸(どいつ)第三帝国。
かの国は、20世紀にて地上の覇者たる国家を作りけり。
その強さの源は、精強な兵隊の力によるところ大なり。

学校にて、女子への体育(器械体操、組体操、マラソン)の推奨。
成人女子を職場から解放し、家庭へ帰らせ、子育てに専念させる。

家庭で母の優しさの中、すくすくと育てられる息子たち。

独逸国はキャンプなど屋外活動、オリエンテイション、
器械体操、筋肉トレイニングを推奨する。

(我の持論によるものだが、身体を強健にするのに
 屋外での体操が最も効率が良い)

やがて屈強な肉体を持ち、ナチズム教育により世界支配の野望と
人種差別を是正とする青年らへと成長する。

日に焼け、体を動かすことを好む、若き独逸兵らの精悍なる顔立ち。
エゲレスや仏蘭西の軟弱な若者たちとは明らかに一線をかくしたり。
この賛辞は、第二次大戦の開戦時のチャーチル首相のものなり。

「もうやめてあげてよー。
 パパが死んじゃうよぉ(ノД`)・゜・。」

我が息子・ジュニアは我に対し同情しているのか。
息子の涙に深く心を動かされ、心が温かくなる、
鏡に映る我を見て、想像を超える流血に、かえって血の気が引く。
直ちに学園の医務室にて治療の必要有りと、玄関へ向かう。

その次の瞬間、珍事が発生せり。

見慣れぬ女が小屋の玄関を開け、我と挨拶を交わす。
テレビジョンで目にする女優のごときが突如訪問したのかと思う。
目が離せぬほどの、神々しき美しさなり。

向こうは我の名を気安く呼ぶが、初対面の女に違いないと思い困惑する。
いったい何者なのかと我が問う。

「私はあなたの妻の斎藤マリーですよ。太盛先輩(*^▽^*)
 例の手紙は読んでくれました?」

高校以来、長らく疎遠となっていた後輩との再会である。
想像を絶する事態に言葉も出ず。阿呆の顔で立ち尽くす。

真理恵は、美雪に一言二言、耳打ちする。
美雪は当初困惑し、次第に激昂する。

美雪は真理井の腹に向けて拳を振るが、踊り子のごとき
ステツプでひらりと交わすマリー。余韻すら残す可憐なる動作なり。

マリーは、美雪へ突進する。
美雪は両足を抱きかかえられ、体幹を維持できず転倒。
その突進の勢いすさまじく、高速道路を走るダンプを連想させる。

マリーは、美雪にアルゼンチン・バックブリイカアを発動。
美雪は生死をさまようほどの衝撃を受け、戦闘力を失う。

とどめと言わんばかりにジャイアントスイングを行う。
美雪の体は窓ガラスを破り、遠くの山へと飛ばされる。

ジュニアは次々に急変する事態に泣くことすらできず、
ただただ沈黙するのみ。我も同様の反応を示す。カオスである。

「驚かせちゃってごめんなさい。美雪さんに私が
 太盛先輩の妻だから、あなたは出て行ってくださいと
 お願いしたんですね(^○^)
 そしたら美雪さんが怒って殴りかかって来たんですよぉ」

この発言に対し、ツッコミどころ散見せり。

美雪が我の二番目の妻だということ、外部に漏れぬ秘密なり。
いかにして知るのか。手紙を小屋に届けた方法も計り知れぬ。
本部の敷地は部外者立ち入り禁止なりて、
手紙を出すこと自体、常の人には容易ならざることなり。

先のジャイアントスイングは容赦なき威力なりとて、美雪の生死不明なり。
左様の件から、我の一夫多妻制に賛同せぬこと確実なり。
ミウに対しても険悪な態度を取る恐れ大なりて、盛大な修羅場を想像す。

『先輩』との言葉。我にとって魔法のごとき響きを持つ。
この一言だけで学童時代の思い出が瞬時に蘇る。
懐かしさのあまり自らが齢二十七であることをふと忘れるに至る。

おまけにマリーの容姿、先に送られた写真とは若干の差異有り。
髪色は茶でなく漆黒の長髪なり。ゆるくパアマがかかり、
なまめかしい雰囲気を漂わせる。母親の貫禄あり。比類なき美女である。

「パパ。初めまして。私はパパの娘のマリー・テレーズです」

またしても卒倒必死の事態が生起セリ。
真理恵が手紙で述べた件の娘が眼前にいる。

面識なしとて我と同じ血が宿る子である。
齢十を超えと想像する絶世の美少女は、
我にしがみつき、抱っこをねだる。

我のワアクマンで仕入れた自慢の白シャツは
流血による斬新なデザインと変化せリ。
不潔極まりないと知りながら、愛する娘の
要求に逆らわずに抱っこする。

美雪の暴行によって我の足腰は衰弱している。
娘の重さに転げそうになるが耐える。

相手が幼児ならともかく、
この年の娘を抱っこするのは、
並みの成人男児では容易ならざることである。

この少女の名前を失念したので問いかける。

「マリー・テレーズですわ」

アントワネット妃の第一子を思い浮かべる。
マリー・アントネット妃は神の恵みによって女児を最初に生み出した。
仏国の歴史に刻まれた王女・マリー・テレーズである。

およそ倭国の民には似つかわしくない名前であるが、
キラキラネイムが流行の兆しをみせる昨今では、さほど珍しくはない。

「先輩は」

いきなり肩を叩かれ、恐怖に血の流れが止まる。
真理恵は冗談を許さぬほど真剣な顔で我に問う。

「あの時、責任を取るって言ってくれましたよね。
 だからもちろん子供のことを認知してくれるし、
 私とも結婚してくれるんですよ?」

その理由に問題なく、直ちに承諾したい。

「ただし、私とだけ結婚してくださいね?
 ミウが特に邪魔なのすぐに離婚届けとか書いてもらえますか?」

断固容認できぬ条件ではあるが、
順番を考えたら真理恵と我との関係はミウより先である。

高2でボリシェビキに目覚めたミウは、
ただただ恐怖のシンボルなりて、女として意識すること、極めて困難なり。
結婚後に子作りに励んだのは、ミウがそう望んだからである。

真理恵には我と結婚する正当な理由が存在せるが、
我の多妻制に反対することから、交渉が難航のきざしを見せる。

「離婚してくださいよ」

我は稚児のように駄々をこねてみたが、全く通用せず。
怒りによりマリーの形相が変化しつつあり。予断を許さぬ事態なり。

我の女性関係は常に修羅の場と共にあり。

直ちに要求に応じなければ、マリーが暴れるやもしれず、妥協案を考えるに至る。

「愛するマリー。……君に久しぶりに会えて、本当にうれしいよ。
 だけどミウと話をするには本人がいないとダメだろ?
 ミウは仕事で帰りが遅くなるから、今日の夜か明日の朝にでも
 話し合ってみようと思うんだ」

「そんなんじゃ騙されませんよ。
 先輩の話し方、営業トークっぽくてむかつきます」

やはり聞かぬか。ならばこれでどうだ。

「(;^ω^)ごめんねマリー。君を怒らせるつもりはないんだ(*^▽^*)
 でもほら。俺にはジュニアがいるだろ? あっジュニアって
 そこにいる息子のことなんだけど、一応俺の子供でもあるわけだし、
 親権とかあるじゃないか? だから離婚するにしても
 裁判とかしていろいろ話し合ってからじゃないと」

「だからなんですか?」

「(´・ω`・)えっ?」

「だから何ですかって聞いたんです。
 赤の他人の子供なんて、今すぐ捨てればいいじゃないですか」

鉄のごとき無表情に、血の気が引く。
マリーにとり、ミウは親の仇(かたき)と同様。
(詳しくは、前作の学園生活改を参照せよ)
我とミウとの間に生まれた子供に家畜程度の価値すらなし。

「先輩ってもしかして、話を先延ばしにして私との
 婚約をうやむやにしようと思っていません?」

我の思惑が早くも明らかになってしまう。
我はシャイターンと異なり、嘘をつくのが苦手なりて、
いかにしてマリエを説得するべきか大いに悩む。


  「さっきから誰との婚約の話をしてるのかな?」

ここで我の妻、ミウが登場せり。修羅場、加速す。

現在は仕事に忙しき時間に違いない。なにゆえ小屋に戻ったのか?

「美雪ちゃんからメールが来たから」

我が妻たちは、電通(メール)するほど親しき仲だったとは意外だ。
美雪はいらぬことをした。曰(いわ)く、我とマリーなる女が
子供の親権などをめぐり、昼下がりにいさかい起こしと報告せり。

崖の淵に立たされるとの「ことわざ」はまさしくこれを差す。

斉藤マリエ「はぁ……殺しちゃおうかな」

上の見出しのセリフ、はだはだしく不穏なり。
    暴力、流血沙汰を容易に想像せり (; ・`д・´)

「久しぶりですね。ミウ先輩」
「本当にね。マリエちゃん。すっかり綺麗になって」
「いえいえ。ミウ先輩には負けますよ」
「そんなそんな。マリエちゃんの方が」
「いえいえ。ですからミウ先輩の方が」

常人には理解しがたき奇異なる挨拶である。
両婦人は、くちびるを手で押さえながら笑う。
笑い声を出してる最中も目つき鋭く、殺気を放つ。

「さっそくですけどミウ先輩、ちょっと死んでくれませんか?
 もしくは太盛と別れてください」

「私としてはあなたに死んでほしいかな。あと人の旦那を
 呼び捨てにしないでくれる? 本気で殺したくなるから」

もはや一触即発の事態となりけり。

ジュニアは黙る。
マリー・テレーズは母の手を握り、ミウをにらむ
ミウに対し敵対心を隠そうともせず。

我の名は堀太盛・イフリート。
かつてはアッラーの反逆者にて、現在はアッラーの使徒なり。
平和を好み、流血沙汰を憎む。

最大の当事者である我を放置し、婦人間で怒りの
ボルテエジが上げるのを防ぐのが最善策。

「二人とも待ってくれ。俺は二人とも愛してるよ」

何事かと、両婦人の殺気がこちらに向く。
だが言うしかない。

「なんていうか、若気の至りで大切なミウとマリーを妊娠させちゃって、
 あの時の自分は本当に馬鹿だったなって思っている。だから責任を取るために
 俺はマリエの子も認知してあげたいんだよ。俺はジュニアもマリー・テレーズも
 ちゃんと自分の子供として愛してあげたいんだ」

「だって子供にとって父親はこの世でたった一人。それが俺だ。
 俺は卑怯者だ。それは分かってる。だけど俺は世間を例え敵に回そうと、
 親としての義務を果たしていきたい。
 それが、俺が罪を償っていくってことになると思うんだ」

ミウは嘆息し沈黙。マリーは不満を口にする。

「そんないい加減な選択で誰が幸せになれるんですか?」

返す言葉もない。

「今私の子を認知するって言いましたよね? 嘘じゃないとしたら
 ミウと別れてくれればそれでいいですよ。ほらほら。
 早くミウと別れると宣言してください。ひとことだけでも
 裁判では有力な証拠とになりますから」

この女、民事裁判も召さない構えを見せる。

「ごめんねマリエちゃん。さっき私の部下に通報しておいたから。
 私の子供を誘拐する目的で侵入した反革命容疑者がいるって。
 まだくだらない話がしたいんだったら尋問室で続きを聞いてあげるよ」

失念しつつあった自分を恥じる。
この学園は共産主義者の集会場なりて、ミウに逆らうこと不可能。

「先輩助けてください。私このままじゃまた拷問されちゃいますよ。
 あの時のように。先輩は覚えていますか? 私が7号室の
 囚人だった頃を。先輩に会いたくても会えなかったあの時の寂しさを」

アナザア・スクールライフ(英語での学園生活改)のことか。
この作品の時間軸と著しく異なる設定になるのだが、今は気にせず。

我はマリエを娘のように好ましいと思っており、
この世の何を犠牲にしても守りいと願った。

我はガゼルに姿を変え、マリエとその娘を背に乗せ、一気に駆ける。

「うああああああああ!?」テレーズが可愛い悲鳴を上げる。

「先輩って動物に変身できるんですか」 

われはイフリートである。ジンの一種なり。その気になれば
ウークタビー・オランウータンに変化(へんげ)することも可能。

余談だが女性の陣(ジン)も存在せリ。女性の場合はジンニーニャと名乗る。



「先輩。せ……太盛。今日から太盛って呼ぶからね」

真理恵の恥じらいのある態度はかわいらしい。好ましい。

我はマリエの自宅と聞いた、埼玉県浦和市にあるマンションへと逃げたり。
浦和市まで駆けるのは苦労したぞ。
ここまで逃げれば栃木県からの追撃は容易ではあるまい。

高級なるマンションなりて、親子三人で住むには申し分なき広さ。
家電はすべて電子化された最新式なり。
玄関とて電子制御化され、不審者の侵入を許さぬ構造となっている。

ここにて当分の間は親子三人での暖かい生活を送るのかと期待した。
だが甘かった。

真理恵は我から携帯電話を取り上げると、
何を思ったのか床へ投げつけ、割ってしまう。
携帯の耐久性を考慮すると、軽々と叩き割るとは信じられぬ。

我の妻たちの腕力は、五輪の女子レスリング選手らすら
凌駕するかと想像する。

「いきなり乱暴なことしてごめんなさい。
 でも、太盛にはもう、こんな物いりませんもんね」

我が携帯を使うと浮気をする傾向にあることから、破壊したのか。
浅はかにて瞳と同じレベルの思考なり。

我は携帯を買い替える頻度多きにて、
携帯電話会社の回し者として定員らに噂されること必至である。

美雪と変わらぬ狼藉者の妻との生活を想像し、
胃痛が限界にまで達し、トイレにて軽く吐く。

意外なことに、初日以外はマリエは別人のごとく平凡な人となり、
我に対し情愛をもって接し、従順で良き妻となる。
我に家事の手伝いをさせず、率先して自分で行う。
何から何まで我の世話をしてくれる。世話焼き女房だったとは。

我はマリエに対し問う。
なにゆえ我に対し尽くしてくれるのか。

我は美雪曰くチャラ男だという。好色男子のことなり。
現代日本ではチャラチャラした者はさげずまれるとのこと。
イスラームでは理解しがたき発想である。

このやうな男子は世間の女性から犬猿される傾向が多いらしいが、
真理恵の我に対する情愛は偽物とも思えぬ。

「逢えない時間が長いほど愛が募るものなんです」

ふむ……。

「(*^▽^*)パパ大好きーっ!!」

愛娘マリーテレーズが我にハグしてくる。
我が娘よ。今日に至るまで我と面識すらなく、
にも関わらず、ここまで慕ってくれることに涙を禁じ得ない。

女とは不思議なもので、意中の男性のことを
ずっと頭の中で思い続けているらしい。
仕事中も。家事の最中も。入浴中でさえ。

ああ、この時あの人は何をしておるのかと。
例え今目の前におらずとも、いつか逢えると信じて。

我はテレーズを膝に乗せ、繊細なる髪を優しくなでる。

「しかしマリエよ。我もいずれは生計のため仕事をせねばならぬ身である。
 携帯電話なしでは現代的な生活が送れぬ。仕事にも多大な支障が出る。
 この際、携帯を壊したことは問わん。
 そなたさえ良ければ、一緒に新しき携帯を買いに行かぬか。
 我は最新機種には興味なしにてガラケーでも構わん」

「その前にその話し方やめてください」

「む……?」

「その爺さんっぽい話し方はどうしたんですか?
 先輩は学生の時そんな話し方じゃなかったじゃないですか」

「我のことは太盛と呼ぶと決めたのではないのか」

「むむっ(;・∀・) そうでしたね。それより話し方っ!!(´っ・ω・)っ」

マリエの指摘も理解できる。
我は学童時代、マリエに対しては日本式好青年の振りをするために
現代風の話し方を模倣せリ。我の症には合わぬが、婦女子を口説き、
愛を語るには適当なのだ。

「マリーの言うことは良く分かったよ!!(´・ω・`)&#8318;&#8318;
 変な話方しちゃってごめんね!!」

好青年らしき笑みを浮かべ、我はマリーの頭を撫でる。

「えへへ(^○^)」

「俺はマリーのことが大好きだ。俺はマリーが嫌と思うことは
 今後しないからね。俺はマリーが大好きだからマリーが
 嫌うことは何もしたくない。俺はマリーのことだけ愛してる」

そんなに愛してるならと、マリーが言う。

「仕事はしなくていいですよ」

ふむ…? (;´∀`)

「あと携帯も買う必要ありませんからね」

そのような説明をされても困惑する。

「先輩が仕事を始めたら新しい女の子と出会うでしょ?
 携帯を買ったら別の女と連絡できるでしょ?」

実に端的な説明にて瞬時に察する。
真理恵の我に対する執着もミウと同等。
エリカらも含め、嫉妬深き妻の多いことに驚く。

「私も退職しようかな」

さすがにそれはと、我が止めに入る。
信じがたきことに、マリーは若干20代の後半にして
年収が手取りで630万もあり。
信託銀行とはそこまで高給取りの仕事だったのか。

聞けば、マリーはすでに重要なるポジシヨン(仏語式発音)に
配属されているとのこと。高校生の時より早熟なりて
賢しい娘だとは思っていたが、これほどとは。
真理恵は、我の妻らの中で最たる賢者なり。
学生時代の成績も大変に優秀であった。

真理恵には内緒にせねばならぬが、我が妻ミウの年収も
ほぼ同額であった。すなわち我がニイトであっても
家計の上では問題なし。クルアーンにて夫は妻を
養うべきだと教ているが、全く逆のこと生起せり。
奇想天外なる夫婦生活も悪くはない

「わたくしはね」

テレーズが言う。

「パパとママが仲良しでずっと家にいてくれるとうれしいよ(*^▽^*)」

屈託のない顔で言われると、それでいいのではないかと思ってしまう。
だが生活のことはどうなる? 子持ちの夫婦が働きもせず、
ニイトとなっては世間体も悪かろう。生活資金が枯渇するのではないか。

「わたくしはね、少しだけお金を稼いでいるのですよ」

なんと、我が娘はその美貌を生かして女児向けのファッションモデルを
勤めているとのこと。まさかとは思い、今月発売の雑誌を見せてもらうと
7項目の見出しに我が娘が映る。偽物ではなく本人なり。
3か月に一度の頻度で雑誌の表紙を飾る権利を有したり。
まことに驚天動地の心境である。

モデルのみならず芸能界からの誘いもあるが、
学業に支障が出るのを嫌い、当分は断っているとのこと。

童女とは思えぬほどの美貌だとは思っていた。
現役モデルだったとは。我が娘ながら鼻が高い。

「まだ小学生なのにお金嗅いでるなんて偉いね。
 パパはマリーちゃんがしっかりしててうれしいよ(∩´∀`)∩」

ヾ(・ω・*)なでなで  (*´σ`)エヘヘ

「マリー・テレーズちゃんは、お金をたくさん持ってるのかな?
 それとも欲しい物とか有って使ってるのかな?」

「わたくしは、全額溜めていますよ。
 お母さまにそのように教わっていますから」

なんともお嬢様らしき口調なり。
妙に舌を巻いたような、甘ったれた口調が気になる。
この娘特有の癖なのだろうか。

「その年で貯金してるなんて偉いね。さすが俺の可愛い娘だ」

「えへへ(^○^) パパに褒められるとうれしいですぅ」

一応血の繋がりの有る親子なり。
資産状況を把握するためにも具体的な額を聞き出す。

「わたしくのお財布の中には2000円入っておりますわ」

わざわざ可愛らしさのある財布の中身まで見せてくる。
そこまでしなくとも信用するのに。無垢な娘である。

しかし2000円とは小額すぎて驚いた。

「意外だねーΣ(゚Д゚)
 全額貯金してるって言うから、
 もっと持ってるのかと思ってたよ(^○^)」

「私はお金を金融資産で保有してますから」

猛烈なる既視感に襲われる。
今度は財布ではなくIPADの証券口座のペイジを見せて来た。

ジュニア・ニイサという、
子供用の非課税投資枠を金融庁が整備して久しい。

マリー・テレーズは童女である。
自らが運用して損をせぬよう、母のマリエの勧めで
投資信託の商品を購入している。

米国ではバンガードのSP500ETFは前作により既出だが、
その他にも
SP500・高配当ETF
BND(米国トータル債権ETF)
VCLT(米国中期社債ETF)に分散投資している。

小学生にてドル建ての資産を保有していることに驚く。
株式、社債、債権に分散していてリスクに強い。
債権のトータル・リターンは株式に劣るのが一般論だが、
その分暴落時の相場に強いとされている。

「わたくしの保有資産額は、およそ14800ドルですわ」

現在の107円95銭で計算すると、160万円に近い金額である。

母親のマリーの方は、不動産関係に大規模な投資をして、
25歳の時までに資産額を倍に増やすことに成功。
それを元手に、株式投資へ集中する。

現在はJリート(不動産投資信託)を中心に、
日本株の高配当銘柄を保有している。
リスクを取ってでも高利回りを求めているのか、
後進国の債券が含まれたファンドにも手を出している。

真理恵の投資戦略は、我の二番目の妻、美雪と比べれば
リスクを取り、高配当を得る方法だ。年間で手取り140万にも及ぶ
分配金(配当)が得られるのだから驚きだ。

しかしながら、不動産や後進国債権は利回りが高い分(6~7%など)
株価(相場)の変動激しく、一時的に資産額が
大きくマイナスになることが少なくない。

自らは当面の資産額を増やすことを目座し、
将来のある娘には米国ドルでの資産での長期投資を勧めている。

「私は苦労して3000万円まで資産を増やしたの」

27にして3000万!! 
子供を親元に預かってもらい、仕事に集中して
資産を増やすとは。魔法のごとき所業である。
大変な苦労があったのだろう。 

真理恵は高収入だが、月収もボウナスもほぼ全額
投資につぎ込んでいた。その目的は我との結婚生活。
高校時代、マリエの父上殿の大反対にあい
我と疎遠になってしまったのだが、大学を出て社会人5年目にして
経済的自由を経て、なんと親との関係を絶つに至る。

もはやマリエの恋の行方を邪魔する者などいない。
会社その他で出会う男性には興味を示さず、
凝りもせず我との再会の身を願い続けていた。


「(*^▽^*)わたくしたちのお金はね」

む……? あまりにも愛らしい娘なので思わず耳を傾ける。

「パパの自由を奪うために溜めたんです」

???( ゚Д゚)ハァ?

さすがに聞き間違えだろう。問い返すことにする。

「パパは今のところ文無しです。生活に必要なお金がありません。
 ですから、わたくしたちと一緒に居ないと生きていけないのです」

今さらだが、我の経歴を振り返る。

我はミウとの止む無き結婚を経て、過大なる寵愛と束縛を受け、
そのストレスに耐え切れず植物人間と成り果てる。
植物人間での生活が長く、まともに仕事をした経験がない。

社会主義政権での生活が長きにわたり、
高校入学以来、日本国の一般世間を知らぬ。
さらにイフリートして目覚めたこともあり、
我は全く浮世離れしてしまった。

困ったことに日本の会社では日に五度の礼拝も許可されないらしい。
まったく信仰心の無い国は愚かである。
レストランにてハラールへの考慮もなく豚肉が当たり前の
ように提供されている。(都内ではハラールが一般化しつつあるが)

我が社会で適合するのが困難な人物であることは分かった。
しかしながら、現在の状況をいかに考えるべきか?

「(>_<)パパのお顔が青白くなっていますよ?
 大丈夫ですよ。わたくしたちがパパを一生支えてあげます」

妻はおろか、娘に対してもお金の面で頭上がらず。
なんたる弱者。なんたる窮屈な生活。一家の主たる資格なし。
冷静に考えてみると、ミウとの生活も似たようなものだった。

愚かな。
そのような生活を送るなど、断じて認めらるものか。
アルバイトでも構わぬから、融通が効きそうな職場を探さねば。

「だから、パパは働いたらいけないのです。
 この家から逃げたら殺しますよ(*^▽^*)」

……???????????????????
聞き間違えでは……

「わたくしは、幼稚舎の時からママのパパに対する恨みを
 聞かされて育ちました。ママがどれだけ心を傷つけて、
 我慢して会社で働いていたかいたのか想像できますか?」

我が娘、形相が凶悪に変化せり。
この年齢にて隠された本性があったとは。
我は卒倒しそうになるのを堪える。

「パパが働きに行ったら、女の人と浮気するに決まってます。
 パパはカッコいいから、よその女どもが寄ってきてしまうのです。
 ママは、パパの周りをウロチョロする女たちを死ぬほど恨んでおりましたよ」

マリー・テレーズは、パパにあげますと言い、何冊かの
大学ノートを手渡してくる。古びたノートには、
我への恨み言と憎まれ口が、これでもかと書いてある。

走り書きした文章から、並々ならぬ殺気を感じ、血の気が引く。

「太盛先輩? 高校時代のことは水に流してあげますから、
 私たちと家族三人、仲良くここで暮らしましょうよ。
 もちろん嫌だなんて言わせませんからね」

馬鹿な……。

「(*^▽^*)嫌だと言ったら殺しますよ。
 お食事に毒を混ぜますよ。
 寝ている間に頭を金属バッドで叩きますよ」

娘から感じる殺気も尋常にあらず。
有言実行される可能性大なり。
ミウとの息子ジュニアは、純粋無垢な幼児であった。
断じて父親の殺害を予告するような子ではなかった。

我はアッラーに慈悲を願い、静かに目を閉じた。気絶である。

まりえさん「美雪からお金を奪ってきて」 イフリート「(´・_・`)」

この作品、見出しにて読者の度肝を抜く傾向にあり。

我は初日こそ気を失うが、優しく体をゆすられ、目覚め、
夕食を食べる頃には嘘のように回復する。
真理恵は聡明だからか料理の腕前も優れている。

普段なら塩辛いため苦手とする日本食(みそ汁、うどん、煮物など)も
難なく口の中を通る。今になって知る。ミウの頑張ってた
家庭料理の味は、マリエには到底及ばず。
ただ今の内容は客観的なる分析であり、ミウを過少に評価したわけではない。

我は相手が誰であれ、我のために料理をする女を大変に好む。
台所に立ち、朝早く、あるいは夫の帰りを待ちながら
料理をする女の姿は美しい。

我は親子三人で仲良くマンション暮らし始める。
普通に暮らすには面妖なことなどなく平和そのもの。
これといって問題など見当たらず。今後の生活を楽観する。

我は女房と娘にニイトであることを強制されたため、
止む無くこの地位にとどまる。
マリエも当初は家庭で主婦になることを望むが
3日も休むとさすがに銀行のことが気になったのか、ついに出勤する。

真理恵は仕事熱心にて、自らの欠勤にて同僚や
顧客に迷惑をかけることを良しとせず。
まさしく大和撫子。日本民族が美徳とする責任感の高さなり。

「マリエが帰ってくるまでやることなし。
 ニイトとは一見楽に見えるがそれは違う。
 大の大人が自宅にて待機しても暇つぶしの
 方法など、たかが知れている。なにより刺激を欠いた
 人生に、若年にて痴呆症の促進の効果ありと懸念する」

「ならば、わたくしとお話ししましょうよ。
 わたくしは10歳の小学4年生ですが、見識深く、知性と教養に満ち、
 また鋭い洞察力にて世の中を俯瞰することに長けていますわ」

我は問うた。

汝(なんじ)は、学校に行かなくて良いのか。
登校の時間はとうに過ぎさったのだぞ。
本日は平日。懐に忍ばせた懐中時計は9時を指す。

「わたくしが登校したらパパが自宅で一人になります」

我が孤独を苦手とすると思うのか?

「いえ」

では何か?

「パパを一人にすると色々と余計なことを考えるかもしれませぬ。
 万が一の可能性の話ですが、パパがこのマンションでの生活を
 窮屈に感じ、再び前妻の元へ戻ろうとか、実家に帰ろうなど
 思い立った時のことを懸念しているのです」

マリー・テレーズ。恐るべき女童なり。我の真意を見抜いておるのか。

実は初日から感じていたことがある。
真理恵の束縛の強さも並みではなく、それゆえに
もしや我をマンションに閉じ込めるのが目的ではないかと危惧する。

「閉じ込めるつもりはございませんわ。ただ、お出かけする時は
 私かママを同伴させていただきたいのです。……嫌なのですか?
 わたくしたちは、パパのためを思って言っているのですよ」

「なにゆえ我のためになるのか」

「ママはパパを殺したいほど恨んでいるからです。
 高校生の時にパパに妊娠させられ、共産主義の権力者たる
 高野ミウの命により強制収容所で苦痛の中で三年間の過ごす中、
 ミウとパパが恋仲になったと耳に挟み、
 心を激しく乱され、パパの薄情さに涙しました。
 大好きなパパとはすっかり疎遠になり、ママの恨みの深さは募る一方」

女房を怒らせれば、我は殺される。
つまりはこういうことか。


テレーズは女童とは思えぬほど妖艶なる表情でうなずき、

「ただし」

と言う。

「愛情と憎しみは相反するようで近しき感情です。
 パパを心から憎いと思う一方、それと同じようにパパをお慕いしているのです。
 ママにとってパパは唯一の伴侶。
 人生において最初にして最後の夫がわたくしにとっても父上たる
 お方はあなた様のみ。わたくしたちが生活を共にするのは、
 神が定めることに従ったまでのこと」

この娘も、イエシェア(ヘブライ語)の民であったか。
神に対する解釈の仕方を違えるが
我と同じく経典の民であるゆえ、親近感がわくではないか。

「ママが銀行に行っている間、わたくしは、学校に通いませぬ」

「だが、そなたの学業の遅れはどうなる?
 世間では学校とは競争社会の縮図とまで呼ばれる」

「わたくしほどの聡明な娘ならば、通信教育と自主学習で勉学が事足りますゆえ。
 わたくしは学校はおろか学習塾にても最上位の成績を収めております。
 通常の授業速度はわたくしには牛の歩みに等しく退屈との闘いに過ぎぬのです。
 半年先までの授業内容の予習を常とし、定期テストに臨んでおります」

それにしてもこの娘の口調は一体どうしたものか。
母を前にする時とは違い古典的なり。
古典文学の巨匠・紫式部が女童(めのわらわ)
と化したのかと想像するほどである。

「パパのことを心よりお慕い申しております」

「何を言うか。そなたは、ませている」

「パパは私のことを愛しておりますか?」

「……一目見た時から、このような美しい娘がこの世に二人とおるかと思った。
 そなたの美しさ、可憐さ、知性に満ちたところは、
 かつてオリエント世界を支配したペルシア帝国の王女に匹敵するものである。
 アッラーが望むなら、これからも一生涯そなたと共に時を過ごしたいと思う」

我が娘の頬は朱色に染まる。恥ずかしそうに頬を手で覆う。
どうやら本気で喜ばしいと思っているようだ。

「さすがはパパ。ママから聞いていたとおり
 お口が達者でありますわ(´∀`*)ポッ」

ふむ。我としても口のうまさを褒められて悪い気はせぬ。
世にナンパ系と称される我の口説き文句は、学童の頃より我の誇りであった。
ならば、これならもっと喜ぶのかと、
現代風言葉遣いにて自らの娘を褒めたたえることにした。

娘を抱き、耳元でささやく。

「……今から言うことはマリエには秘密してね」

「(*'▽')は、はい」

「もし君が僕と同い年だったら、結婚してくれって頼んだかもしれない。
 それくらいテレーズは可憐で綺麗なんだ。
 ふふ、僕にこんなに知的で美しい娘がいるんだって知ることができて、
 今はただ嬉しいよ」

「まあ(∩´∀`)∩ 本当にそう思っているのですか?」

「僕は嘘は言わないよ。
 マリー・テレーズのことを愛してる。
 この世界の誰よりもね」

強く引き寄せれば折れてしまいそうなほど細い体。
ちょうど我の顎の下付近に娘の頭頂部が当たる。
髪の甘ったるい匂いが、我の理性を狂わせそうになる。

「私もパパのこと大好きだよ(*^▽^*)」

ただ今の娘の行動を流行り言葉で表すならば、
だいしゅきホールド、であろうか。
体と体を触れ合わせ、生で感じる体温と息遣い。
これぞ親子の愛の証拠。

娘はスマアトホンで我と写真が撮りたいと言い出した。
我はイケメンらしく映るように工夫しながら、
この小さな雑誌モデルと同じ写真に写る。

この子と同じ光画(しゃしん)に移るのは、いささか緊張する。
娘は女童の年齢にて雑誌のモデルをこなす。
娘の光り輝く美貌に、我の姿が劣って見えるのは仕方ないことだろう。

「エヘヘ。エヘヘ(。・ω・。) パパと一緒だぁ(*'▽')」

テレーズは様々な角度で我の写真を撮っては、楽しげにしている。
何枚撮影すれば気が済むのか。
ついに待ち受けを我の写真にしてしまい、口元をにやけさせ、
「ぐひひ」と不気味な声を上げる。テレーズにこのような一面があるとは。

多少気味の悪い仕草でさえ十二分に美しい。
若干10歳にして、並みの女優と太刀打ちできるほどの美貌である。

きゅっと引き締めた唇が、時にほほ笑むと、子供らしさをかもしだす。
相手の心理を見透かすような黒くて丸い瞳が、悦びの感情で
満たされる時、魔性のごとき美しさを表す。

肌は雪のように白く、女童であると承知しながらも
成人した女と話していると錯覚する時もあり。
はたして我は娘ではなく妻と接しているのか。

ここまで美しいと思う子供に出会うのは初めてだ。

我は7世紀に生を受け、多くの人間の姿を借り、この世に顕現した。
あらゆる国、地域、社会にてクルアーンの教えを広めようと
切磋琢磨する。だが人とは一度は神に従うと言っておきながら
俗世間に身を置くとすぐに忘れ、神の神聖を信じなくなる。
いざ自らが困った時に、初めて神へ助けを仰ぐとは。まさに愚者の所業なり。

ムスリムが一日五回の礼拝を義務ずけるのは。
まさしく神の威光を忘れぬための儀式なり。

「ねえ。パパ」

優しく耳打ちされる。
成人した女人を思わせる色気に我の体温がにわかに上昇する。

「ママに内緒で二人だけで家出しちゃおうよ」

美しきバラにとげあり。
我がその手の誘いに乗るとしたら、シャイターンに心をささげた時のみ。
我はアッラーの僕。太盛・イフリートなり。

一度娶った妻を裏切るなど考えられん。
同時に遺憾に思う。
こら、テレーズよ。実の母を裏切る算段を立てるとは何事か。

「うそですよ。大好きなママを裏切って出て行くわけないでしょ」
「……本気なのかと思ったぞ。顔が真顔だったからな」
「んもー。パパのいじわるー」

娘は適当にごまかすつもりなのだろう。
だが我は耳打ちされた時、はっきりと感じた。
真理恵を上回るのではないかと思うほどの、恐るべき執着心の片鱗。
この娘は危険だ。外見はいかにも愛らしく好ましいが、
中身に計り知れない人格を兼ね揃えている恐れ有り。

「そなたは真に令和の人間なのか」
「はて? なにゆえ、そのようなことを質問なさるの?」
「我と同じ匂いを感じるのだ。マリーは現代の人間ではなかろう」

マリーはトイレに行くと言い、追及をかわしてしまう。
その話題を望まぬと言外に告げたも同様。ならば仕方ない。我も問わぬ。

夜の11時過ぎにて、ようやく妻が帰宅せリ。
我と娘はとうに夕飯を食べ終え、二人でテレビジョンを鑑賞しつつ、
ソファの上でまどろんでいた。

「僕のマリー。遅くまで働いてお疲れ様(^o^)丿」

「うん。三日も休んじゃったから仕事溜まっちゃって大変だったよ」

妻は、ハンドバッグを乱暴に放り、我と熱き抱擁をする。
こうも顔が近いと、化粧の匂いがする。
やはり人前に出る仕事となると、在宅時より化粧を濃くしている。

スーツ越しでも腰にくびれを感じさせ、思わずぐっと来てしまう。
155センチにも満たぬ小柄な体で年収650万も稼いでおるのか。

「ん?」

ただならぬ気配を感じ取り、我は背後を振り向く。
そこにいるのはテレーズ。童女にて我が愛する娘なり。

「どうされたのですか」

いや。先ほど背中を太刀で一突きされたと錯覚してな。
それほど明確な殺意を感じた。

「パパとママが仲良しさんで、マリーはとっても嬉しいですよ(*^▽^*)」

そうは思っておるまい。我の学園生活は女の嫉妬との闘いが常であった。
その経験から、汝(なんじ)が両親のイチャラブに嫉妬したのは明白。

……ふむ。
本日の昼下がりにテレーズをさんざん口説いたことを思い出す。
テレーズがあそこまで喜ぶ姿を見るのは初めてだった。
あの時は、端的に言って女の顔をしていた。
嫉妬するのも無理はないか。

我は娘の機嫌を損ねるのは得策ではないと判断し、娘を抱っこした。
ほう……。さすがに10歳になる娘を抱っこするには腕力が必要となる。

「えへへ(^○^) パパ大好き―。力持ちなんだね。
 男の人って素敵。力持ちなパパも素敵だよ」

この娘に褒められると、素直にうれしくなってしまうのだ。
自分が男性として魅力があるのかと勘違いしてしまう。
我は図に乗り、満月のように整った娘の頬に口づけまでしてしまう。

「テレーズと太盛は、ママが思っていたより仲良しなんだね」

「(*^▽^*)はい。今日のお昼からパパと
 たくさんおしゃべりできて楽しかったですよ」

「ふーん。よかったね」

真理恵が表情を無くす。さっさと着替えを済ませ、
我が作り置きしたご飯を食べる。ご飯と言っても
作るのが面倒なため、ドミノピザのMサイズを注文したのだ。
ピザだけでは寂しいかと思い、ポテトフライとナゲットも用意した。

真理恵は、この時間帯に油物はちょっと、と言い、不満そうだ。
我はまさしくTPOをわきまえておらぬ。深く反省する。

日本の若者は米国の文化の影響大と聞く。
米国食はなんでも好むのかと思いきや、若き子女らはダイエットが
目的として脂身の少ない夕食を好むとのこと。

この点でミウと異なる。ミウは夜遅く帰っても
平気でカツレツを咀嚼していた。普段から食事の量は男性と同等だが、
出産後も細身のスタイルを維持する猛者なり。

ミウは肉類やカツレツを食べないと頭脳ワアクに
支障がでると言う。さながら国会議員のようである。

「ミウは夕飯をよく自分で作ってくれたんだ。
 俺が自分で作るって言っても、聞かなくてさ。
 仕事で遅くなるとき以外はキッチンに立って何でも作ってくれたんだよ。
 あんな性格なのに主婦に憧れていたらしくて。おかししよな」

真理恵が机をバシーンと叩く。

「今何か言った?」

自らの失言を悟る。
よりによってマリエの前でミウの話題を出すなど、もってのほか。笑止千万。
爆弾の起爆装置にむやみに手を出した悪童の心境。

「私の聞き間違えじゃないとしたら、さっきミウの話をしたよね?」

ここまで形相をゆがめる妻を見るのは初めてである。
これはまずいと、流血沙汰さえ覚悟する。

しかしマリエは、新婚早々(新婚なのか?)我と仲違いするのは
得策ではないと思ったのか、妙に冷静なふりをする。

「……ごめん。仕事でイライラして太盛に当たっただけだから」

「悪いのは俺だよマリー。ごめんねマリー。
 俺は君を困らせることはしないと誓ったばかりなのに。
 罰として皿洗いはすべてやっておくからね」

我は何を言っておるのか。ドミノピザは紙とプラスチックの容器しかない。

謝罪の意味を込めて抱きしめる。
これで妻の機嫌が治るのか。
むしろ逆効果ではないかと考え、恐怖する。

「ふふっ。いいよ。許す」

真理恵の口元がにやける。まさか効果があったとは。
我の口説き文句に飢えていたからか、
マリエは愛の言葉にとことん弱いと後に知る。

「マリエ。愛してる」
「ふふっ」

「君だけを愛してる」
「(´∀`*)うふふ」

「大好きだよ」   
「(∀`*)ええへ」

どこまで聞けば満足するのか。安い言葉で満足してくれるので
こちらとしては助かる。日本の女は愛の言葉に飢える者多し。
日本男児らが言葉の魔法を封印することが原因である

バタンと、壁を叩く音にて興がそがれる。

「今、壁に蚊がいたの。お邪魔しちゃってごめんなさい(*^▽^*)」

あえて問わんぞ。ここはマンシヨン(仏語)の八階である。
どこに蚊がいるものか。
やはりこの娘の前で夫婦イチャラブするのは難儀する。

「ねえ太盛。たまには一緒にお風呂入りましょ」

なんと……。我は全く乗り気ではないが、
妻に養われている身なりて従順になる。
夫が妻に従順になるとは何事か。情けなさの極みである。

そもそも我は一度入浴を済ませておるのだが……。

「仕事で疲れてて自分でやるのめんどうだから、髪の毛洗ってよ」

そうは言われても、同年代の女子の髪を洗った経験などない。
勝手がわからず、適当にシャンプーを泡立て、
髪を両手で揉むようになでる。
ジュニアの時以上に繊細に扱わねばならん。

そういえば、ジュニアのことをすっかり忘れていた。
妻はアレだが、息子は無邪気にて可愛かった。
いかん。前の妻との子供のことも忘れなければならぬ。

顔を左右に振り邪念を払い、目の前に真理恵に集中する。
髪を洗いつつ、互いに裸なので、余計な感情を抱くこと必至である。

学生の時のマリエも十分に美しかったが、成熟した体も悪くない。
我がそっとマリエの小さなふくらみ(胸)に手を伸ばそうするが。

「パパ達。バスタオルを用意しておきましたよ」

このように娘が割って入ること多々あり。
子供を前にすると、夫婦の営みをすること激しく困難なり。
そもそも夫婦の年齢が我27、妻26にて子供がすでに10歳。

現代の日本国の平均を考えれば、
我の年齢に釣り合わぬほど大きな子供を持つに至り。
そのうえ恐るべき早熟である。

入浴後、マリエに言われるままにドヤイヤアの温風にて
真理恵の髪を撫でるように乾かす。
我がマリエと夫婦の寝室へ移動し添い寝をするのだが。

「わたくしもパパ達と一緒に寝るのー(*^▽^*)」

策士。ここに極まれり。マリエが舌打ちし、
仕事の疲れもあるからか、またしても形相を変化させる。

真理恵の憤怒も理解できる。
妻としては、久しく再開した夫との愛情の確認がしたいのだろう。
しかしながら娘がその気になれば、夫婦の営みを半永久的に防ぐことも可能。

我は入浴時から妻の輝かしいばかりの裸体を目にしており、
抱きたくて仕方がない。髪を乾かす時もそうだ。
我は女の繊細で美しき髪に触れると情欲を抱くのだ。

夫婦が「さあ今こそは」と望んでいることなのに
実の娘に夜の楽しみを奪われるとは、まことに滑稽なり。

「パパー。今夜は一人で寝るのが
 さみしいから、わたくしとくっついて寝ましょうよ(´・ω・`)」

「(^_^メ)ちっ……こいつ、わざとやってるな(小声)」

これは、まずいぞ……。

学生時代の修羅場が再現されつつある。

我は時代を超え、時空を超え、
愚かな人類にアッラーの教えを説く、
太盛・イフリートである。

いかにしてこの難局を乗り切るべきか、英知を結集させるしかない。

マリエ「お金が足りない」 イフリート「なに?」

昨夜はマリエとテレーズが親子喧嘩をして大変だったのだが、
互いに長きにわたる口論に疲れ果て、寝てしまい、事なきを得た。

翌朝からマリエは銀行通いを中断させ自宅に留まる。
堂々と朝寝坊し、太陽が天頂へ登る頃に起床する。
現在は寝癖を直している。

我妻はすっぴんでも信じられぬほどの美人である。
シミやそばかすもなく、張りのある肌は10代と変わらぬ。
これぞ天然の美人顔である。我は旦那として誇らしい。

「あんな夜遅くまで働くなんて、今考えたらよくやってたよ。
 子供がいるとお金稼がないといけないから必死だったんだよね。
 誰かさんのせいでバツイチみたいな
 感じで10年も生活したわけだし、ねえ先輩?」

単なる憎まれ口にとどまらず。
積年の恨みのこもる瞳に、腰が抜けそうになる。

子がいる女は強い。マリエは大学を出てから
猛烈なる勢いで働き、愛する娘をここまで育て上げた。
夫たる我を欠いて。とにもかくにも誠意をもって謝罪する。

それにしても銀行勤めを辞めるとは。
いったい、何を考えておるのか。
行員らと顧客が心配ではなかったのか。

「私は社畜じゃありません。
 愛する夫と過ごす時間をもっと大切にしたいの」

やはり自宅にて主婦となる道を選ぶのか?

「そうしたいけど簡単じゃないんだよ。
 配当金だけで生活をするのはもっと投資元本が必要なの」

「お、俺が働きに出るんじゃ、だめかなって……」

「だめです。絶対他所の女を捕まえて浮気するに決まってます」

なんという信用の無さ。

「わたくしもママに賛成しますよ(*^▽^*)」

遺憾ながら、我に対する評価を認めざるを得ず。

「そこで案があるんだけど、最後までちゃんと聞いてね。
 太盛があの美雪とかいう女から3千万くらい奪ってきてくれない?」

何を言っている……?

「こう言えばいいんだよ。ヘラジカになった兄を人間に戻してほしかったら、
 3千万円現金で払えって。美雪は骨の髄まで兄を愛しまくってるから
 最後はお願いを聞いてくれるはずだよ」

「まあ。ママったら恐ろしいことを思いつくのね(*^▽^*)」

「そうと決まったら早くやって。私の携帯貸してあげるから
 美雪に連絡して喫茶店にでも呼び出してよ。
 美雪の連絡先は手に入っているから心配しないで」

いかにして美雪の連絡先を知ったのか。
LINEだけでなく、電話番号やら電子メールのアドレスまで知っている。
住所まで詳細に記載されているとは。マリエの正体はソビエトのスパイなのか。

「諜報活動なら収容所時代にさんざん練習させられたから慣れてるんだよ。
 そんなこと今はどうでもいいでしょ。早く美雪に電話してくれる?」

「で、でも何て言って電話したらいいのかな?」

「それくらいは自分で考えてよ」

むむ……。理由は分からぬが、マリエの形相が鬼のごとく変化する。
逆らえる雰囲気ではない。マリエにミウに似た冷酷さを感じるのは、
高校三年間を収容所7号室で送り、ソビエト的な冷酷さを持つに至るからか。

我は美雪の兄の件を、妻に言われた通りに伝えると、
電話越しに憤慨した美雪の絶叫で耳が割れそうになる。

このような内容を聞いたら、常人ならば怒ること必至である。
すでに美雪とは離婚したも同然なので兄をヘラジカにする理由もない。
我としては美雪が不憫なので、深く謝罪した後、
直ちにヘラジカを賢人に戻してあげたいくらいだが。

「もっと的確に要求を伝えて」

電話中だと言うのに、我の背中を小突いてくる。
背後を向くこと叶わぬが、相当怒っているのだろう。
我はマリエの殺気に怖気づき、口から出まかせを言ってしまう。

「とにかく金である!! 誰が何と言おうと金だ!!
 金無くして生活などできぬ!! 令和10年では
 金のない者はの垂れ死ぬと、自民党と坂上瞳が申しているとおりである!!
 いいから金を寄こしなさい!! 金無くして兄の解放なしと知れ!!」

このようなことを電話口で言わねばらなぬとは。イフリート最大の不覚。

貧者に寄付こそすれど、金持ちから金を奪うなどもっての他。
我はどれだけ天へ悪事を積み重ねることになるのか。

美雪は相手にしてられぬと電話を切る。
しかしその三時間後、電話が鳴る。
熟考の末、条件に応じるときた。

「お兄ちゃんを元の姿に戻さなかったら本気で殺すから」

交渉は成立しつつある……のか?
我らは足利市と浦和市の中間地点を探し、埼玉県久喜市西口の
喫茶店にて落ち合うことになった。しかし西口に喫茶店などなく、
止む無くサイザリアで落ち合うこととなる。

まさかサイゼリアとは……。
いかにも若者が好む洒落た店は、我の苦手とするところである。
この手の店は騒がしく品性に欠ける。

7世紀のペルシア生まれの若者に
似合う店でも紹介してもらいたいものだ。

交渉当日にて。我と愛娘テレーズが出席。マリエはなぜか欠席。
結果報告だけ聞きば満足するとのこと。自宅待機である。

相手側は、我の元妻・渋谷美雪。左の兄者たるヘラジカ。
それと初対面の女である。

「あんたに言われた通り、この通りお金を用意したよ。
 その目でしっかり確かめてちょうだい」

我らはドリンクバーを注文し、店に居座っていた。
たまたま店員が通りがかる。美雪のトランクケースに
満載された現金を見て気を失う。気持ちはよく分かるぞ。

我とて一千万を超える現金をこの目にするのは初めてである。
福沢諭吉なる、日本国の歴史が誇る偉人の印刷がされている。
我はこの人物の詳細を知らぬが、実に聡明さに満ちたお顔である。

「早く賢人を元に戻しくてください」

整った顔の女が言う。名を聞くと、なんと坂上瞳とはこの女人のことなのか。
その顔の美しさは、砂漠の夜に輝く三日月のごとく。妙齢の美女であろう。

姿勢良くして座る姿から、育ちの良さを感じさせる。なんと綺麗な顔立ちか!!
真理恵より先にこの女と出会っていたら、我の妻としていたことだろう。

ヘラジカは期待に満ちた目で我を見る。冷静に考えなくとも、
この場はファミリイ・レストランである。ヘラジカが当たり前のように
テーブル席に座っていることに驚く。そしてヘラジカにもドリンクバーが
注文できるとは、サイゼリアの寛容の精神を心から賞賛したい。

我は一度ヘラジカの姿を炎を出包み、焼き殺した後、再び人としての
渋谷賢人をその場に呼び戻す。厳密に言うと渋谷賢人は変化(へんげ)
したのではなく、亜空間に消えていただけなのだ。魂ではなく肉体がな。

一つの肉料理がそこいあるとして、肉はそのままに皿の種類を変えたにすぎぬ。
これぞアッラーのお力を借りた、神の所業なり。

「俺は……戻ったのか……?」
「お兄ちゃん(´・ω・)」
「賢人ぉ  (;´∀`)」

まさに両手に花。
賢人は感激し大泣きする美女二人に囲まれ、
幸せの絶頂にあることだろう。

さて。用も済んだことなので、
注文したレモネードを飲み干し、去るのみである。
我が娘が、何事かを言いたげな顔をして我の袖を引く。

「でもこれは偽札ですよ」

なんと……?

「わたくしは、ママから偽札の見分け方を
 教わっておりますから、手触りですぐにわかりますわ」

我は美雪に抗議するが、逆切れされ、強烈なるアッパーを食らう。
あごが砕けてもおかしくない一撃である。

「人の兄を勝手にヘラジカに変えておいて、
 まともな交渉が出来る立場だと思ってんの!! 
 このクズ野郎!! 変態のロリコン野郎!!
 死ね!! 今すぐ死んじまえ!!」

クズや死ねまでは納得しよう。しかしロリコンとは?
どうやら我が連れ添っている娘のことを差して言ったようだ。

「パパがロリコンで何が悪いんですか!!
 ロリコンの男性は娘に優しくしてくれると評判なのですよ!!」

摩訶不思議な言い分である。
父がロリコンであると主張するとは何事か!!

「もうロリコンでも何でも言いよ!!」

賢人が吠える。

「こんな奴らと関わるのはよそうぜ。だいたいなぁ!!
 令和10年兄妹の物語ってタイトル詐欺だって言われちまうぞ!!
 第三シーズンからイフリートがメインになってる。
 もうこの小説つまんねえし金融の話もねえし、誰得だよ!!」

貴様ら兄妹の話は、永遠に決着のつかぬ三角関係にて、
すでに小説として破たんせリ。我の話の方が興味深いことだろう。

「いいからお金を下さい!!」

テレーズも吠える。しかし我らは要求できる立場では……

「ママからお金をもらってくるように頼まれているんです!!
 美雪さんは富裕層だからお金を売るほど持ってるのでしょう?
 貧しくて哀れな私たちに三千万円を渡してください!!」

「小さなお嬢さん。綺麗なお顔をぶん殴られたくなかったら黙ろうね。
 お姉さんも今は質の悪い冗談を聞き流せるほど穏やかじゃないから」

「……おばさん」

「はい(^○^)?」

「失礼しました。美雪さんは大学三年生でしたよね。
 わたくしには、子持ちバツイチの三十路過ぎの女性に見えたものですから。
 だってあなたのお肌、とっくに曲がり角なんですもの。
 株式の運用にばかり気を取られてお肌の手入れを怠っているのではなくて?」

隣に座っている瞳の方が若く見える。
椅子に座る動作がおばさんっぽい。
太り気味なのか、下半身の肉付きが良すぎる。

どれも美雪に言ってはならぬ言葉のオンパレエドなり。

美雪は腹に力を込めて吠えると、店内に地響きが発生し、
レジスターなどの電化製品が動作を止める。
正面から咆哮を浴びたテレーズの髪の毛が逆立つ。

美雪は、怪力によってテーブルを持ち上げ、明後日の方向へ投げる。
テーブルはガラスを破り、群馬県の方角へ向けて飛翔せリ。
なぜ、たびたび群馬県の方角に飛ぶのか疑問である。

「く、くだなる茶番をしてしまった。これにて我らは失礼する」

美雪の怒りは計り知れぬ。インド神話のシヴァ女神を連想する。
我は娘の手を取り。早々と立ち去るのだが。

「太盛君。久しぶりだね。話はまだ終わってないからね?」

腕組みする元妻、ミウが出入り口で仁王立ちする。

やはりミウもこの店に来ていたのか。
共産主義の凶器に染まった女とはいえ、
その美しさにはまるで陰りが見えない。

ここで捕まれば拷問されるのは確実と見て、強行突破を図る。
我は最後の手段としてミウを抱きしめ愛をささやき、油断したところで
逃げようと思ったのだ。浅はかの極みだと自嘲するが、
我はチャラ男なので他に方法が思い浮かばぬ。

「そこの不細工なおばさま。申し訳ありませんが、道を空けてくださりませんか」

今毒を吐いたのは誰だ? 私の娘で間違いないのか……?

「へ? ブサイクって……私が?」

「失礼しました。どうやら自覚がないご様子。
 毎朝鏡でご自分の醜い顔をご覧になってるはずですから
 言われなくとも分かっているものとばかり…」

我が娘はなにゆえ女達をブス呼ばわりするのか。
身内びいきをしても美雪もミウも常の女人を凌駕した美女に違いない。

……待てよ。テレーズがブス呼ばわりするのは我の妻に限るようだ。
納得する。我の妻たちはテレーズにしたら敵である。

「パパの元浮気相手で、卒業後にパパの同意もなく婚姻を結んだのですね。
 やんごとなきお方のみに許される傍若無人さに呆れるばかりです。
 あんなブスの顔を毎朝見なくちゃならない俺の身にもなってくれよと、
 パパが毎日思っていたことも知らずに、お気の毒なことです」

「何言ってるの。太盛君がそんなこと言うわけ…」

「わたくしの前では前妻の悪口ばかりが口からこぼれたものです。
 前の妻は最低だった。まれにみる悪女だった。あんな女と
 結婚したのは、我の人生最大の不覚なりと、あのような
 悲しそうな顔をしたパパを見る、こちらの身にもなっていただきたいものです」

「なにを…」

「そもそも。本日はここへ何をしに来たのですか?
 わたくしの目は節穴ではなく、状況の変化に機敏でありますから、
 店内にいる従業員とお客は、あなたの部下が変装した者だということは
 先刻承知しております。数に物を言わせ、力づくでもパパを
 自分の物にしようとお考えになっていることは、もはや明白。
 ゆえにあなたの心は腐りきっていて手の施しようがないのです」

「太盛は私の夫です。夫を浮気相手から取り戻すことは正当な権利があります」

「ならば、これを見なさい」

なんだ……(;゚Д゚) 

テレーズが自らのスマホの動画を起動させる。
なんと、画面には我の姿が映っているではないか。
風呂上りで髪も乾かしていない、上着すら着ぬ、たわいもない姿である。

動画の中の我は、テーブルに頬図絵を突き、ベビーチーズをほおばり、
コップに入った牛乳を飲みながら、憎まれ口をたたいてるが…。

『今思い出してもミウとの生活は吐き気がするよ。
 何が学園生活だ。共産主義なんてばからしくてついてけねえよ。
 あんな奴、顔も並み以下だし、俺が拷問されるのが怖くて
 嫌々結婚したのにも気づいてないアホだからな』

なんだこれは……!! 我はアッラーに誓ってこのような発言をした試しはないぞ。
しかしながら画面に映し出されるのは、まさしく我なり。
自画自賛するのも気恥ずかしいが、はきはきとリズムよく活舌し、
太陽のごとくほほ笑む美男子とは我のことなり。

『結婚してから肌荒れもひどくなったし、誰があんなメス豚と
 寝てやるもんかよ。俺が一緒に寝るのを断ってる時点で
 察してくれよ。もうね。結婚してからは家族以下。女として見れないのよ。
 あんな奴と離婚させてくれた真理恵とマリーに心から感謝してるよ。
 俺が愛してるのはマリー・テレーズだけだ』

最後の言葉に違和感あり。あたかも我が娘のみを愛していると聞こえる。

娘のフルネイムは、マリー・斎藤・ホリ・テレーズ。
もはや常の日本人の姓名から完全に逸脱しておる。
面接試験時に人種国籍を確認されること必死なり。

確かに娘は愛らしく、いつまでもそばに置いて、眺めていたくなる。
動画の中の我は、何を考えておるのか。唇の大きさに差があるのに
父と娘で熱い口づけを交わし、テレーズの薄手のキャミソウルを
脱がせつつある。

我もさすがに焦り、娘から破廉恥なるシーんを
映すスマホを取り上げようとするが、
蒙古式踊り子のステツプにて華麗に交わされる。

いかん。いかにしてこのような動画を制作したのか、
またその意図を読むことかなわぬが、このままではまずい。

「なに……これ……これって本物の太盛君なの?」

ミウは怒りで震える。面と向かい話をする余裕すらなし。
店員を装った部下たちは騒然とし、にわかに殺気立つが、
司令官が呆然とする最中、指示無くして動くこと叶わぬのだろう。

逃げるなら今しかないだろう。
我は娘の手を引き、レストランの自動ドアをくぐる。

「さようなら。おばさん」

こらテレーズよ。
いらぬことを言うでない。
ミウを刺激したら戦争させ起こしかねないのだ。

マリー・テレーズ「本日はわたくしのお話を聞かせましょう」

店を出たあと、

「パパ。このスイッチを押してくださいな」

ドラえもんに出てくる風の、手のひらに収まるほどの箱型にて、
赤きスイッチらしき突起部がある。
何かと思い、興味本位に押してみると、サイゼリヤが突如爆発する。
巨大な煙を立てながら、瞬きする間に建物が平らになってしまう。

「キッチン周りに特殊な火薬を忍ばせておいたのです。
 いくらミウでもこれほどの惨事ならば生きてはいないことでしょう」

この娘は…(; ・`д・´)

芝居のごとく急展開する事態。
ツッコミどころが多すぎて混乱の極みに達せリ。

「そなたは、自分が何をしたのか分かっておるのか!!」

「パパがいきどおる理由が、わたくしには理解しかねます。
 悪の巨頭たる憎きミウがこれで滅びたのなら
 喜ばしいことかと思われますわ」

「こ、殺すことはなかったであろうが!!
 我とてミウの全てを憎んでいたわけでなく、
 あの店には渋谷兄妹の他、あの美しき娘、ミウの部下を含め
 関係者が多数おった。そなたは無用な殺戮をしたのだぞ!!」

「お話を割ってしまい恐縮でございますが、
 美しい娘とは? もしや坂上瞳のことですか?」

「そ、それは今は……どうでもよかろうが!!」

「どうでもよくありませんわ!!」

なんたる迫力。
思わず圧倒されそうになる。

美しいという言葉は、わたくしにだけ使えば良いのですと小声で言う。
なるほど。嫉妬か。

「やはりパパは危険な男性に違いありません。
 坂上瞳と初の会合でありながら、あの見た目の美しさに目を奪われ、
 交渉中もちらちらと尼(女人)をご覧になっておりましたね。
 私は隣できちんと見ておりましたので言い訳は不要ですわ」

「何を言うか。そなたはませた言い方をするのを実に好むようだな。
 我も今世に置いては日本男児なりて、見た目の美しい女人に
 目を奪われることは世の理として知るべし成り。断じて浮気の
 つもりなどなく、単なる生理的な反応と称すべき事柄ではないか」

「左様でございますか。パパの言い分はそれで結構でしたら、
 過不足なくママにラインして送ることにしましょう。
 後の采配はママのご判断によるものとします」

「な、なにをするつもりだ!! 待たれよ!!
 そもそも坂上嬢は先ほどの爆発で亡き者となったことだろう!!」

「他にもママに報告する内容、多岐にわたります。
 ママが目的とた現金3000万円の取得ならず。
 パパがミウ爆破の件にて悪女の死を嘆いたこと。
 さらには動画中で私の衣服に手を出し、
 わたくしの裸体を観賞しようとしたことを…」

「その動画はそなたの創作であろうが!! 
 我はアッラーにかけて、
 実の娘に不埒な真似をした覚えはないのだぞ!!」

「現代の合成技術とは、真に便利なものでして、
 交渉ごとに置いて、これを利用しない手はありません」

テレーズよ……。
同居を始めて以来、我の写真を頻繁に取っていたとは思っていたが、
こっそりと動画まで撮影し、パソコンにて念入りな作業をしたのか。
あの疑い深いミウでさえ大いに動揺したほど完成度は高い。
動画の編成技術は童女とは思えぬほどだ。

その上実の父さえ脅すとは、行く末の恐ろしい子供である。
もはや子供と呼ぶにふさわしくない。

我はテレーズの悪い方向へ良く回る頭脳を嫌悪した。
早熟だからと何もかもが褒められるべきではないと知る。

ずず……(´Д⊂ヽ

我は後ずさり、娘より距離を取る。
意識したわけでなく自然体なり。

娘の常人をはるかに超越した美しさも、今では恐ろしい。
時に40を過ぎた女人の微笑み方さえする。
齢10にして世を達観し、熟年の女の色気を醸し出す。
かわいらしい童女でなく、女なのである。

やはり紫式部の生まれ変わりなのだろう。

「お父様はなにゆえ、わたくしから離れようとするのですか」

「そ、そなたは真に私の娘なのか……。今でも信じられぬ。
 我の子ではないのではないか。よく見れば顔立ちも我とは異なる」

「病院でのDNA鑑定の結果を例のお手紙に記したはずですのに。
 目の前で起きている現実を受け入れようとしないとは、
 経典の民として褒められたことではありません」

「来るでない……我はそなたを恐れておる。
 そなたは、いかにも人の子の姿にしておるが、人の子にあらず。
 天使か精霊の一種と想像する」

「まあ。なんとも手前勝手な言い分だこと。
 わたくしがお父様の言う通り、物の怪の類だとして、
 それが私を恐れる理由になりましょうか。
 パパはイフリート。私はイフリートの娘ですわ。
 世の常の人と多少異なることは承知していただきたいものです」

ふむ……。イフリートの娘ならば、確かにな。
この娘もまた我と同じく現代人の風貌をして現代に生きておらん。
我らは等しく生まれるべき時代を間違えた者。仲間である。

わずかながら会話が途切れるだけで、これほどまでに重苦しく感じるとは。

「先ほどは、すまなかったな」

我は娘を抱きしめ、髪を少し乱暴になでてやる。
このサラサラとした手触り。高級なシャンプーを使っておるな。
細い体。重ねた体から、服越しに伝わる体温。人間ゆえに血液流れる。
温かみこそ人としての証なり。それでいいではないか。

「パパ、大好きです(*^▽^*)」

「俺もマリーのこと愛してるよ。この世界で一番好きだ」

「わーい。パパに愛してるって言われた(*^▽^*)
 うれしー うれしー(*^▽^*)」

「これからもずっと一緒に暮らそうね?
 もう2度とマリーに寂しい思いはさせないぞ(^○^)」

「わーい(*^▽^*) ずっとパパと一緒にいるー。
 将来はパパのお嫁さんになるからね!! (*^▽^*)」

普通に接する分には問題の無い娘である。
何やら本気で我の嫁を目指しそうな気がして寒気がするが、まあ良い。

こうしてはしゃぐ姿は年相応。我も娘との時間を大切にしたい。
この子はこの世に生を受けてから父親(我のこと)の顔すら
見ること叶わず、今日まで過ごしてきたのだ。

それが幼い娘の心をどれだけ傷つけたことだろう。
我には想像も出来ず。思えば高校時代に性欲に負けて
真理恵を押し倒したことがきっかけであった。

アッラーにかけて、妊娠させた妻らを一斉に娶る
覚悟ではいたのだが、学内で生起した共産革命と
ミウによる束縛を経て、妻らと疎遠になってしまう。

父に対するさみしさ、不足した愛情、やりきれない思い、
いきどおり、それらが噴出し。この子の心に鬼を作るに至るのだろう。

我は愛すべき娘がゆえに、先ほどのサイゼリヤ爆破事件も
好意的に解釈してあげねばと思う。確かに世間の常識に
照らし合わせれば異端ではあるが、憎き恋敵のミウを
文字通り殺すことは、この子には大義の有る粛清なのである。

「大好きだよマリー、(*´ε`*)チュッチュ」

「もーパパったら。くすぐったいですぅヾ(≧▽≦)ノ」

公然とイチャついたら人目に付くことに気づく。
ここは国道沿いの往来。頭の禿げた中年の男が
うやましそうに我を見る。学生らしき娘が、軽蔑の生差しを我に向ける。

我をロリコンだと思っておるのか。
二名の警察の格好をした者が、警棒を片手に我らに接近してくる。
悪い予感がする。我ら父娘は顔が似ておらぬので、傍から見たら赤の他人なのだろう。

我が童女を抱きしめてキスしている不埒ものだと判断されたら
言い訳に難儀することだろう。たまらず逃げる。
人の姿では脚力に限界がある。
ガゼルに変身し、娘を背に乗せ4キロ先まで逃走した。

我の変身能力、実用性に富み、自動車やバイクを購入する必要を感じず。

さて。警察からは逃れた。
すぐに自宅へ帰ろうと誘ったのだが、テレーズが是非にというので、
無下にするわけにもいかず、久喜市内をショッピングする。

我らは久喜市の荒廃した街並みに戦々恐々とする。
食料品店や雑貨店にて客と店員が入り乱れて血みどろの戦争を展開せリ。
家電量販店、衣料品店、医薬品店など、およそこの世に存在するすべての
店先にて、第二次大戦のフランス戦線を思わせる、壮絶なる戦いが繰り広げられる。

我はオランウータンに変化し、ファシオン・センタア・しまむらの屋上まで
電線伝いに跳躍する。娘は肩の上に乗せていたが、
高圧電流に悩まされながらも我にしがみついて離れないのに感心する。
木の枝の代わりに握った次第だが、電線から伝わる電流の強さに驚く。
文明社会、恐るべし。

「死ぬかと思いましたわ!! パパのおバカ!!」
「ふはは。すまぬな」

島村の屋上からは、第二シーズンで描かれたヤマダ電機をめぐる攻防戦が
一望のもとにある。余は初めて目にするが、あれがタンク(戦車)たる機械車両の姿か。
地雷、迫撃砲弾、狙撃銃、キューポラ、機械仕掛けの武器が豊富である。

7世紀より時を経て、令和に至っても人の本質は変わらぬ。
自らに無いものをねだり、手に入らぬと分かると奪うことを考える。

「令和10年では、お金がない人は死ぬ運命にあるのです」

金か。我には紙幣の束など、ごみの山の延長にしか思えん。
古くからアラビア半島や中東地帯では、土地と家畜こそが最大の財産とされてきた。
仮に我が令和10年で独立して生活するとしたら、牧草にて酪農を開始する。
この国には地方で過疎化が進み、空いた土地が売るほどある。
農業も酪農も、無限の可能性を秘めている。

愚かな者どもが無意味な奪い合いをするのは、紙幣にのみ価値を置くからだ。
自らが生産手段を持たぬからだ。生産手段の共有化は、ミウの目指す社会の形でもあった。

今でいう一次産業に従事する、原子の社会に回帰すれば良い話である。
令和10年で財政が破たんし、現代的な生活を送ろうにも
少子高齢化が進み続け国家が衰退するならば、
現代的な生活を捨てる考えを持つ必要があろう。

「パパのおっしゃることも一理ありですが、思慮に欠くと言わざるを得ません。
 日本国の人口、平安時代と比べて6倍にも及ぶ規模に及び、外国人多数住みます。
 多数の人口を保有するに至ったのは国家の繁栄の証。
 どの国の歴史をたどっても経済の活性化のために貨幣経済は必須。
 そもそもインフラを完備したこの世の者共らには、
 原始的な生活など到底受け入れられぬことでしょう」

娘の聡明さは我を上回る。返す言葉が思いつかぬ。

「久喜市は買い物を楽しむ余裕の無き地獄である。
 そろそろ気が済んだであろう。戦車の主砲に当たって
 命を落とす前に、浦和市のマンシヨンに帰還するぞ」

「その前に、ぜひともお時間を頂きたい。私の愚痴を聞いてくださいな」

「愚痴だと? ヤマダ電意では激しい銃撃戦が行われている最中であり、
 島村にも被害が及ぶ可能性がある。手短に頼むぞ」

「パパは先刻、私を避けました」

「むむ……? 我が君を怖がって、後ずさりしたことか?」

「左様です。パパは……よりにもよって私を怖いと……
 本当に私の娘なのかと……ひどいことを口にしておりました……
 わたくしがどれだけ心を痛めていたかも知らずに……う……」

愛娘は大粒の涙を流す。
とめどめもなく、涙が床へと落ちていく。
いじらしく唇をかみしめ、さめざめと泣く。

どれだけの哀しみを噛み殺して平然を装っていたのだろうか。
この子は我に拒絶されることを何より嫌うのだ。
我とじゃれあうと笑い、拒否されると涙を流す。

世の子供ならば当然の感情と思いきや、この子の心の闇は
常人とは明らかに異なる。この子の人生は、我なしには考えられぬのだろう。

抱きしめ、泣き止むのを待つしかない。

耳元で幼い娘の嗚咽を訊くと、いたたまれない気持ちになる。
この子は「うぅー」と短い声を何度も発しながら、我のシャツの背中を強く握る。
小刻みに震えているではないか。

我はハンカチなど気の利いた物は持っておらぬ。
娘のスカートのポケットをまさぐると、あったので、
それで涙を拭いてやる。涙よりも鼻水が顔を汚しているので
髪から与えられた美貌をすっかり損ねてしまう。

仕方ないので島村の1階部のトイレまで降りる。
洗面所で顔を切れに洗うと、腫れぼったい目元以外はすっかり綺麗になる。

マリーは寂しいからしばらく一緒に居てと言って聞かぬ。
しばらくトイレの中で抱き合う。実に5分以上もその姿勢を維持する。
この姿勢の間でパパの栄養を補給していると言う。アラビア半島にはない風習である。

トイレから出ると、店員らが我に駆け寄ってきて、何事か騒ぎ出した。

「おきゃーさんwwwそこから動かないでくださいねwww
 今警察呼んだからwwww」

チャラ男風の言葉遣いをする定員である。
私は今になって気づいたが、
女子トイレに入っていたらしい。大泣きしていた女の子を
連れて中へ入ったので親子と思われなかったようだ。

そもそも我の年齢で10歳の子が
いることは一般的ではないから無理もない。

この国では何かと男性を変態ロリコン扱いする傾向にあるようだ。
マリーはこの店員の態度にすっかり腹を立てる。

「わたくしの父を通報するとは何事か」

マリーの全身が逆立ち、衝撃波が店内を襲う。
ガラスというガラスは砕け散り、店内の衣服は竜巻上にうずをまき、
天井へと舞う。店員らは客も入り混じって衣装棚やレジと一緒に宙を舞う。

さながら巨大なる洗濯機の中にお店を放り込んだかの如く。

その光景は摩訶不思議にて、文章表現の限りを尽くしても
描写しきること困難なり。

「(*^▽^*)パパ。今日はもう帰りましょう」
「うむ」

マリー・テレーズ 一人称

~~~ イフリートの娘 マリー・テレーズは語る。~~

齢7にして父の存在を母より聞かされます。
幼稚舎に通いし時より我ら家族は父と同居せぬこと不自然なりとて、
わたくしは大変にいぶかしみ、日々ママを問い詰め困らせておりました。

ママはわたくしの熱意に屈し、いよいよ事の顛末を語るに至る。
曰く、パパはママを妊娠させ責任は取らずに別の女と浮気し、
その女と結婚生活を送し子供まで作る。

女人の名は高野ミウ。耐えがたき屈辱と共に女の名を脳裏に刻む。
それからわたくしの心は激しく乱れ、父憎さのあまり男性不信にさえ達する。
わたくしととママをないがしろにし、自らが充実した生活を送るなど
許せるはずもなく、父に対する恨みが年を増すごとに蓄積していく。

「パパはね。すごくカッコいい人だったの。
 ママの一歳上の先輩で女性をもてなすのがうまくて優しくてね…」

学生時代の写真をママが大事に取っておいたようですので、
さっそく拝見させていただきました。
目の覚めるほどの美男子がそこにおりました。

少し日本人離れした、堀が深いお顔立ち。
アーモンド形の大きな瞳。
小ぶりな鼻、女性的なふくよかな輪郭。
唇は少々厚めだけど整っている。日に焼けた褐色の肌。
少し影がある感じのイケメンでございます。

パパに対する恨みの念が、今だけは奥に控えてしまう。
あれほど憎いと思い、殺してやりたいとさえ思ったのになぜ。
人の感情は時に自分でも分からぬものだとこの時に知る。

パパの写真はママの机の引き出しの中に入っておりました。
ママの見てる前でこの写真を手に取るのは、
なんだか気恥ずかしい感じがしましたので、
ママに内緒でパパの学生時代の凛々しきお姿を拝見しては、癒されておりました。
そう。わたくしはパパのお顔が自らの好みと知ったのです

小学一年に上がる頃には、パパのことを慕い申すようになる。
写真では言葉を交わすことはできぬゆえ、パパのお声が聞きたいと願う。
言葉を交わせば、どのようなお顔をされるのか。
ママはパパの口説いてくる時の低い声が大好きだったと聞きました。
私の名前を声に出して呼んでいただけたら…。
そうしたらわたくしも、きちんとパパをお名前で呼んでさしあげるのに。

「パパは頭が良い人だったから、女の考えていることを先読みして
 愛の言葉をささやいてくれる人だったんだよ。
 あの人、写真写りが悪いから、本物は写真で見るよりずっと顔がイケメンだよ」

望みが叶うならば、パパに一度でよいから会って話がしたい。
そう願うほどにパパに対する恋心は募り、眠れぬ夜を過ごします。
わたくしは自宅で勉学(宿題)に励む傍ら、
ママが高校時時代に使っていた教科書を拝借し諜報活動の基礎を知ります。
諜報活動は、ソビエト社会主義共和国ではスパイ訓練の一環とされています。

ママは学生時代の収容所での囚人生活において諜報活動を盛んに学ばされ、
その結果、プロのスパイといっても過言でないほどの情報処理能力を有します。
実社会でも会社の機密資料や重要な顧客データを奪い取るなどして、
不動産取引にて莫大な利益を得たのです。

わたくしは、父の住居の学園本部にアクセスすることに成功。
パパが植物人間状態であることを知ります。

浮気相手との結婚生活のストレスによるものと知り、
これはパパを取り戻すチャンスだと考え、手紙を送ることにしたのです。
差出人は母になっていたと思いますが、あの手紙の著者はわたくしなのです。

初めてパパを見た時は、それはもう光り輝くように
美しいお顔立ちで、見惚れてしまい、挨拶の言葉さえ忘れそうになりました。
男らしく自身に満ち溢れ、自分がアッラーの僕などと、わけの分からぬ
ことをおっしゃっていましたが、世の常の男性とは一線を画す存在であります。

この人の器量ならば、数多くの女房(女)達と浮名を流したのも容易に想像できます。
だからこそ、今後は絶対にわたくしのおそばから離れず居てほしいと願います。
わたくしだけを見て、わたくしの名前を呼び、わたくしだけのパパとして
振舞って頂かなければ。わたくしはこの方を見た瞬間から心を打たれ、
いっそ世の末までお供したいと思ったのでございます。

人の世とは、朝霧の露ように常にはかなく、人の縁も簡単に消え去ってしまうもの。
また人の運命のめぐりあわせは、前世の因果によって決められるもの。
太盛パパの娘としてこの世に生まれ出たこのわたくしも、
なんらかの因果によって導かれたものと考えております。

「マリエ。すまんが3000万を手に入れることはできなかった」

「ま、そんなことだろうと思ったよ。できればお金欲しかったんだけどなー。
 私は銀行辞めちゃったし、今後私たちが楽に生活するために必要だったんだけど」

パパがママに頭を下げているお姿が哀れでなりません。

「……まさか本当に銀行を辞めてしまうとはな。
 その思い切りの良さは、考えようによってはあっぱれであるが、
 いささか早まった判断ではないのか。
 我は職歴もなくイフリート・ニートを自称する男である。しかも子持ちのな。
 我に汝のごとく大金を稼ぐ力など皆無であることを知ってほしい」

「前も言ったけど、そのしゃべりかた……マジでどうにかならないの?」

「これが我の素の話し方にて、この方が気楽なのだ。
 家庭においては世俗と関わることもなく、
 楽な話し方になってしまうのも致し方なかろう」

「はぁ……ならいいや。明治・大正生まれの爺さんみたいな口調でも
 太盛はカッコ良いもんね。あとは妻に優しくしてくれればそれで…」

ママは、ふとせつなくなったためか、話の最中だと言うのにパパの胸に
体を寄せ、甘えているのです。銀行を辞めた件のあたりでパパのお顔が
いっそう凛々しくなりましたために、太陽のようなご尊顔に見惚れてしまったご様子。

「私は今まで太盛先輩がいなくても娘と一緒に頑張って生きて来たんだよ。
 私のお父さんにもお母さんにもいっぱい迷惑かけて、喧嘩もしたし、色々あった。
 父には最後まで反対されたけど、親子の縁を切ってまであなたと
 結ばれることを願った。太盛は私の気持ちを分かってるくれるんだよね?」

「もちろんだよ。俺の大好きなマリー(`・ω・´)
 君は本当に立派な女性だ。心から尊敬してる」

先刻、素の話し方をうんぬん、とおっしゃっていたわりに…。
現代風の言葉遣いをご使用なさるとは。
どうやらママを口説き
通すおつもりのようです。

「俺だって、ミウみたいな自己中でブスな女と結婚して
 どれだけみじめだったことか。俺は植物人間にまで
 なっても離婚させてもらえなかった。俺は高校生の時から今まで
 ずっと一人の女性を思い続けていたのにな。
 この世で一番大切な女性を。それが誰だかわかるかい? 
 君だよマリー。俺にはマリーだけいれば他には誰もいらないんだ」

パパはお顔を、ほんの少し傾け、ママの唇に向けて近づけたのです。
イケメンの殿方(旦那)に、とろけるような甘言を頂戴し、
大変に心地くなっているところに接吻をされれば、もう心は
太盛パパ以外を考えることを許されません。

ねちゃねちゃと、娘のわたくしが見ていることを
お忘れになってしまわれたのか。
唾液の重なる音を立てながら、熱烈なる口づけを続けております。

パパの愛情が、今まさに妻のためだけに向いていることを
恨めしく思っております。わたくしがママの代わりにあの場に居れば、
パパにキスをされたかもしれないのに。

わたくしは10歳の童女でありますが、近い将来ママを超える美女と
成長することを夢見ております。わたくしはすでに美容への気遣いをしております。
ママのお化粧品をこっそり借りてメイクの真似事をしていることは、
全てはパパに良く見られたいが為なのです。

世の女たちは恋をすると一層美しさを増すと言われますが、
私にとってもその通りなのです。パパのお写真を始めて見た日から、
いざパパにお会いする時に恥ずかしくないようにと思っていました。

また世間の男性はミウのようなブスよりも、
見目麗しい女性を好むといいますから、
当然身なりには日々細心の注意を払うのです。

「せまる……せまるっ……」

その時のママはメスの顔をしておりました。
パパの安物の肌着をまくりあげ、むき出しになった上半身の胸板に、
自らの舌を這わせております。なんといやらしい仕草なのでしょう。

パパのお身体をわたくしも初めて拝見しましたが、ぜい肉など少しもなく、
しなやかな体に適度な筋肉がついていて、わたくしたち女人の体とはかけ離れております。
肩幅も大変に広く、首筋に至るまで引き締まり、腕に神経が浮き出るご様子は
まさに男性らしさの象徴と言えます。

わたくしは、どんなものかと思い、
パパの脱ぎ棄てた肌着の匂いを嗅いでいしました。
これが……パパの匂い。少しお鼻につんとするけど嫌ではありません
嗅ぐだけでは飽き足らず、自らの服の上に着てしまう。
今夜はこの匂いに包まれながら寝ようかしら。

「ちゅ」

ママは、パパの首筋を目がけてキスをしております。
まーきんぐ、と称される行為でしょうか。
明日になってもパパの首筋には、ママの唇の跡が残ることでありましょう。

ママは体が熱いと言い、自ら上着を脱ぎ始めます。
ママの乳当てを目にした瞬間、パパの呼吸が荒くなり体に異変が生じる。
ズボンの一部分が、大変に窮屈そうになりました。
わたくしは保健体育の教科書を読書することにより男性特有の
生理現象を知っておりましたが、生で観るのは初めてにして興奮を隠せませぬ。

パパはがしりとママの両肩を強くつかみ、いよいよ夫婦の寝室まで
突撃しかねない気配を見せております。そうはさせるかと、
わたくしは邪魔だてをする算段を立てるのです。

「パパは今日わたくしと一緒に寝るのです。
 お昼外出した時にわたくしと約束したことをお忘れですか?」

パパは思い当たる節がないため、(´・_・`)←このようなお顔をされています。
ママはわたくしに対して余計な真似をするなと怒気を込めてにらみつけます。

「マリーは小学四年生になったんだから一人で寝てくれるかな。
 お部屋もちゃんと用意してあげたでしょう。
 はっきりとは言わなわいけど、パパとママは大人だから、
 子供に邪魔されたくない時間があるんだよ」

私は答える代わりにパパの背中にしがみつきました。
パパの背中は大きく、砂漠で鍛えられた褐色の肌に視線が釘付けになります。

「ま、マリー(;´・ω・)」

「ほらパパが嫌がってるよ。早く離れてあげたら?」

「ママと同じかそれ以上に、わたくしはパパのことを慕っているのです。
 わたくしは尋常ではないほどに独占欲が強い自覚がございます。
 ゆえにママが得意げな顔でパパと交わる姿を見ると、
 この上なく恨めしく思ってしまうのです」

「またその平安貴族っぽい口調……。紫式部の真似だとしても笑えないよ。
 もっと子供っぽい話し方をしないと浮世離れが止まらなくなるよって 
 注意しても全然聞かないんだから」

「わたくしはパパの伴侶としての適性を十分に備えております。
 パパもわたくしも現代人の姿をして現代人の感性を持ち合わせておらうず。
 前世の因果よるものか、我々は等しく古代より時空を超えて現れた存在なのです」

「あんたの中二病っぽい発言聞くと鳥肌つからやめてよ。
 古典文学の読み過ぎで頭おかしくなってない?
 それよりさー。パパはママと結婚してるってことを
 そろそろ理解してくれると助かるよ。割とマジで。
 夫婦は、誰にも邪魔されずに夜を過ごすものなの。
 よって、今夜パパは、私と一緒に寝るの。はい。言ってみて?」

「よろしいでしょう。パパは、今夜は娘と一緒に寝ると」

「……もしかして喧嘩売ってる?
 ふざけてるならママ久しぶりに本気で怒っちゃうぞ(# ゚Д゚)」

「わたくしとてママに抗うつもりなどございませんが、
 パパを独占しようとする件に関しては話しが別。
 断じて容認できませんわ」

「何回くり返せば分かるのかな?(^_^メ)
 ママとパパは、夫婦です。はい、繰り返してみて?」

「パパは妻よりも娘を愛おしく、かわいらしいと思っているようです」

「耳ついてる?」

「はい。確かについておりますわ。ですからパパのことを
 譲ることはできないと、こちらの意志もはっきりと申し上げているとおりです」

さすがにわたくしの駄々に堪忍袋の緒が切れたのか、
普段は温厚で知的なママが、わたくしの頬を強く叩いたのでした。

「ふざるんじゃないわよ!!」

(>_<) く……。叩かれるのは初めてのことではありません。
幼少の頃、わがままを言って母を困らせた時は愛の鞭として
懲罰を食らったこと、多々ございます。
父をめぐっての争奪戦において叩かれたのは初めてのことです。

「やめよ!! 自らの娘に体罰を食らわせるべきではないぞ!!」

パパはわたくしの体を強く抱きしめてくれました。
平手による単純な一撃にて大事には程遠いのですが、
過剰なほど乱心なさり、わたくしの腫れた頬を優しくなでます。

なんて男性らしく力強い腕なのでしょう。
しばらくこの中に留まりたいと思えるほどに。
体罰されたことなど頭から消えてしまい、
パパの顔を直視できず赤面しておりました。

「我は子供には体罰は食らわせぬ主義なのである。
 子供の駄々は優しくいさめてやるのが良い親の務めである。
 マリエよ。モデルまでこなす、この子の顔にキズでも付いたら
 どうするつもりなのだ」

「ごめん……。ついムカーって頭が沸騰しちゃってさ。
 テレーズはたまに生意気を通り越して変なひねくれ方をするから」

「我はどんな理由があろうと、愛する我が子に暴力を振るう女は好まない」

「え…」

「子は宝である。子なくして人類の繁栄などあり得ぬ。
 子供にやさしくできない者は親になるべきではない」

「よく言うよ。自分は子供を作るだけ作って逃げ出した卑怯者のくせに」

「うむ。それを言われると反論の仕様もない。
 さて今夜は娘と共に寝るとするかな。
 どうやらテレーズが添い寝を希望しているようである」

「は?」

「子供の駄々に付き合ってあげるのも親の務めである。
 マリエよ。そなたが我を慕っているのも十分に理解できるが、
 今夜ばかりは娘に譲るのだ。このまま母と娘の意見を戦わせておっても
 長々と平行線をたどるだけであり無益である」

ママは気分を大変に害されたようで、鼻息荒く、拳を震わせております。
これはまずい兆候に違いありません。

ママは世の男性に興味を示さない代わりに、大好きな夫へ向ける
愛情の強さは、大西洋の海よりも深いと自称しているほどです。

ママが銀行を辞めた理由には、朝寝坊するまで夜更かしすることが
できることも含まれているのです。
今夜の行為をママはそれはもう楽しみにしていたことでしょうから、
イフリートの旦那に振られたことで憤慨しているのは間違いなく、

「うわああああああああああああああああああああああああああああ。
 そんなのいやだあああああああああああああああああああああああああ」

ついに爆発してしまう。

「な、なんだこれは……?
 我の妻はいったい、どうしてしまったのだ!?」

「ママは愛する旦那に学生の時に捨てられてしまった苦しみから、
 過剰なストレスを貯めこむと感情が行き場を失って爆発するのです。
 これを現代人らは幼児退行現象、発狂などと呼ぶようですが」

「太盛がテレーズに奪われちゃうなんて。そんなのやだあああああああ!!
 やだやだあああああああああああああああああ!! やだやだやだぁ!!
 太盛は今夜。あたしと一緒に寝るのおおおおおお!!」

パパは混乱の極みの中におりながら、
いい加減にしないかと、ママの肩にそっと触れます。

「ふわぁ(^○^)」

ママが一瞬泣き止みます。パパが安心して肩から手を離すと、

「びゃあぁぁああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁ」

マンシヨン全体を揺るがすほどの絶叫。
155センチにも満たぬ小柄な体から出される声とはとても思えませぬ。

わたくしはこの声に耐えるために、ソニー製のイヤホンを耳栓代わりに使います。
パパは両手を耳で塞いでおられますが、その程度では怪音波を防ぐに至らず、
いっそ耳から血が流れるのではないかとおっしゃいます。

「ぬぅ……なんと甲高き声か。
 我らの鼓膜が破れるのが先か、部屋のガラス窓が破れるのが
 先かといった具合か。なんとも耐えがたき声量である」

わたくしは、ジェスチャアをしてママの体を抱きしめるのが最善と
パパにお伝えいたしました。パパは効果を疑問視しながらも
ママの体を少し力を込めて抱き締めました。

「よしよし。マリエよ。そなたも実に気苦労の多い身であるから、
 疲労の蓄積によって心の平穏を乱したのだな。
 さあ今こそ我が癒してやろうぞ」

「ふわぁ(^○^)」

(なんと……本当に泣き止んだぞ(; ・`д・´))

「もっと抱きしめて―(^○^)」

「う、うむ。これでよいのか?」

ママの後頭部を乱暴気味につかみ、お顔を自らの胸板に密着させました。
ママはすっかり安心し、また子犬のように舌を出し、パパのお肌を味わっている。

わたくしはママの発情したお顔を見るのが我慢ならぬのですが、
今は好きになさるしかありません。
発狂したママを手名付けることができるのは太盛パパ本人のみ。

母と娘だけで暮らした時代には、深夜に失われた夫の夢を見ては、
布団から体を起こし1時間も奇声を発することあり。
隣の部屋で就寝しても音波が壁を容易に突き破る。おかげさまでこちらは寝不足。
テスト勉強に支障が発生し、成績が落ちることもありました

「よしよし。じゃあマリエは俺と一緒に寝ようね?」

「わーいヾ(≧▽≦)ノ うん。一緒にねるぅ」

「だけどその前に、喉が渇いたから牛乳飲んでからでいいかな?
 そういえば歯磨きもまだしてなかったよ。すぐそっちへ行くから、
 先にベッドで横になって待っててくれないか?」

「私も太盛先輩と一緒に歯磨くぅ。牛乳も飲むぅ」

パパが歩き出すと。ママは腕組をして付いて行くのです。
夫の肩に頭を乗せ、ふらふらとした足取りは浮浪者のごとく。
夫がトイレに入っていく時も付いて行くのかと思いきや、
本当に付いて行くのだから、あっぱれな変態であります。

「マリーは可愛いなぁ(>_<)」
「えへへ。私ってそんなにかわいの?」
「世界で一番かわいいよ。愛してる」
「えっへへ(^○^) もっと言ってぇ」

私の心に矢が刺さったのかと思いました。
パパの口説き文句は、定型句を並べているだけ
であることに、今さらながら気付いたためです。

わたくしにも、ママに対しても、いかにも
女性が望みそうな甘言を吐き、安心させているのです。
パパがママを心から愛してないことは、幼い私にも分かります。

すなわち、パパがわたくしにかけてくださったお言葉もまた……偽り?
お言葉だけでわたくしたちを一喜一憂させ、もてあそぶなんて。
パパはこれほどまでに罪深いお人なのです。

わたくしは、たとえ何に変えててでもパパの本心を問いださなければ
気が済まないと思うようになります。

夫婦は、仲睦まじく腕を絡ませながら寝室へ入っていきます。

わたくしも続けて入っていくと、突如、鬼の形相をパパに腕をつかまれ仰天します。
先ほど子供には乱暴をせぬと、おっしゃっていた方が、なにゆえ狼藉をなさるのか。

「すぐに終わるから、そなたは、そこでおとなしくておれ」

わたくしの両手首を縄で縛りあげたのです。
わたくしは両手を天へ掲げた格好で、ベッドの足の部分に固定をされます。
さらに私の顔に布らしきものをかぶせ、視界の自由まで奪うのです。
呼吸が苦しくなるので今すぐはずいてほしいのですが。
わたくしの声はくぐもってしまい、パパの耳には届きません。

「んんっ!! 太盛ぅ!!」

女人のあえぐ声が部屋に響く。
わたくしのママの声なのでしょうが、にわかには信じがたき事でした。

父の荒い息遣いと、ママのやかましい声とが重なります。
目すること叶いませんが、これがパパとママの求めていた行為なのでしょう。
一瞬だけ無言になり、衣擦れの音がしてから、パパの激しい息遣いが聞こえてきます。

「あんっ……ああっ……ああっ…あん……」

等間隔を置きながら、ママの悲鳴のごとき声が、繰り返し聞こえてきました。
ベッドの羽がきしむ音も重なり、まがまがしい雰囲気となっております。
私のまだ知らぬ世界に心臓の鼓動が高まってしまいます。

目にせずとも、ママはおそらく体中をパパに触られて
恍惚としているのでしょう。はたしてどの部分を触られているのか。
少しだけ怖いけれども、この目で見てみたい衝動を抑えることができず、
それでも手は縛られており自由が効かぬもどかしさに震える。

「あぁー。そこっ……気持ちいい……おかしくなっちゃうぅ……」

あれから実に15分ほどが経過し、ベッドが軽くきしむ音と
ママのあえぐ声が次第に弱くなったかと思うと、
今度はぎしぎしと激しく振動を始めます。
床にいるこちらにまで振動が伝わるほどです。

ママが静かになる代わりにパパの息遣いが荒くなり、
水のぶつかるような小さな音が何度も聞こえてきます。

「(*´Д`)ハァハァ はぁはぁ」
「うっ……うっ……あー……そこぉっ……」

急に雰囲気が変わり、肌に感じるお部屋の空気が張り詰めます。

「あぁ……あーっ…。…太盛ぅうう!! あいしてるうぅううう」

そう叫んでからママは静かになります。
よほど心地が良かったのか、お眠りになってしまいました。
夫婦の営みとは耳にしている限りは淡々とした行為のようです。

一糸まとわぬ姿のパパが、ようやく私の目隠しを取ってくださいました。
ママは、股の辺りを透明と白き液体で汚しながらも、
幸せそうな顔で気絶しておりました。
嗅いだことも無き、不思議な匂いがわたくしの鼻を突きます。

わたくしがシーツのそこら中にある染みをじっと見つめると、
気恥ずかしそうな感じで父が布団をかけて隠します。

「テレーズ。我が愛する娘よ。
 夜の夫婦の寝室は、子供の来るべき場所ではないのだよ。
 今日のことに懲りたら、もうここへを運ばぬと約束しなさい」

「パパは、わたくしのことは愛してくださらないのですか」

「……(; ・`д・´)」

パパは絶句しておられるご様子。

「我はそなたの父親だ。
 我のそなたへの愛情が不足している、とでも言いたいのか。
 ほれ。これでも愛を感じぬのか」

優しき抱擁です。わたくしは子供ですからママと同じことに
及ぶことはできません。パパの吐息が、妙に荒い。
ママとの情事を終えて間もないことから、気持ちが高ぶっているのでしょう。

パパは抱擁を解いた後、私の肩を力強く握り、矢で射るような目つきで私を見ます。
吐く息は激しさを増し、尋常ならざる目つきをされております。
ちらちらと、私のパジャマを見ては、急いで首を左右に振ります。

いっそ、このまま押し倒されるのではないかと、
恐怖に身体が硬くなりますが、わたくしもママと同じようにパパに
愛されるのかしらとわずかな期待を抱いてしまいます。

「と、時にテレーズよ。そなたは実に可愛らしいな」

「あ、ありがとうございます。お褒めの言葉を頂いて」

互いに動揺を隠し通せず、言葉の出だしがぎこちない。
まるで父と娘の間に心の隔てがあるかのごとくです。

パパは、わたくしのパジャマの上から胸を触ります。
しかし触ったところで愉しくはないことでしょう。
成熟したママとは違い、所詮は子供の体に過ぎませぬ。

腫れ物にでも触れるかの如く私の顔を持ち、
ご自分の側へと引き寄せ、くちびるを重ねてきました。
二度三度と、わたくしの唇の感触を味わうように、
キスをしてきます。その勢いは次第に強引にさえなっていきます。

低い声で「動くでないぞ」と言い、とうとうわたくしの
衣服を全て脱がしてしまおうと、手を伸ばしてきます。
わたくしは怖かったのですが、抵抗する気がないため、
上着を全て脱がされてしまいます。
今度はパジャマのズボンを自分で脱ぐようにと言われました。

わたくしはその通りにしようと思い、立ち上がってズボンを脱ぎました。
あとは下着を脱いでしまえば、パパの前で完全なる裸体をさらすことになります。
一方のパパはすでに裸なのですが、いよいよこの時になり、自らがしようと
していることの愚かさを知り、気恥ずかしさを抑えきれません。

「テレーズよ……そなたが嫌ならば無理にとは言わぬ。
 いや、むしろすまなかった。今日のことは忘れてくれ」

「いいえ。わたくしはパパの望むことならば怖くありませんわ」

「強がるではない。先ほどから、そなたは震えているではないか」

ご指摘されて確かに、と思いました。
わたくしの取るに足らない年齢では男女の仲を知るには早すぎる。
常の児童より早熟で好奇心ばかり高くても、実の年齢が10歳の童女にすぎませぬ。
 
「聞け。我とそなたは、実の父娘でありながら、過ぎ去りし日の複雑なる事情にて、
 初対面の男女にも近い関係だ。人間の本能とは、日常より見慣れた者には
 性的な関心を抱かぬが、赤の他人など見慣れぬ者に対しては強い関心を抱くものだ」

わたくし達が道理から踏み外そうとしたのは、親子でありながら
初対面の者同士であることが原因だとおっしゃいました。

真理なのかもしれませんぬ。
血の繋がりがある者同士なれば、種の保存の法則から
本能にて近親での行為を慎むはずです。

なのにわたくしは父を一人の男性として意識し恋い慕っております。
このお方を他の誰にも渡したくないと思うほどに。

「今我は冷静さを取り戻しておる。安心せい。可愛くて仕方のない娘が
 怖がっている姿を見れば、劣情よりも父親の本能が勝る。
 今宵の過ちは、汝が父に対するあこがれが強すぎるがゆえに
 夫婦の寝室を訪れてしまったことが発端となっている。
 重ねて言うぞ。テレーズよ。今後は夜に夫婦の寝室を覗くでないぞ?」

わたくしはこれ以上父に駄々をこねるつもりはなく、
けれどもあえて返事はしません。
無言で自らの部屋へと戻り、就寝しました。

真理恵「テレーズがうざい。あとお金を手に入れないと」

 ――アッラーの使者。太盛・イフリートは語る。

前日のことが頭から抜けぬのか、
我が娘テレーズは、我との朝の挨拶時に視線が明後日の方を向く。
気まずいのは我も同様。昨夜は劣情に負け過ちを犯すところであった。

テレーズは早々と朝食を済まし登校していく。
放課後はこれといって予定はなく夕方には戻ると言う。
現在、家にいるのは我と妻のみなり。

「先輩。私なりに色々考えたんだけどね」

いまだ我を先輩と呼ぶのか。

「私たちにはもっと多くのお金が必要なんだよ」

また金かの話か……。

「私は銀行を辞めちゃったし、太盛は家でニート。
 私も無職。しばらく働く気がないから夫婦そろってニートだよ」

ふむ。情けなさここに極まれり。

「金融資産の運用で、家族を養っていけるくらいの
 不労所得を得るのにどれだけ投資元本が必要になると思う?」

「分からぬ」

「だいたい年利4%前後で運用したとして…」

曰(いわ)く、仮に株やリートの配当金だけで食べていくのには、
およそ1億円が必要になる。我らの資産総額は3000万。
これでは全く足りぬ。我らはマンション住まいにて家賃その他が発生し、
学童の娘がおることから学費もかかる。聡明なるテレーズを大学まで
卒業させるためには1億円でも足りぬかもしれぬ。
真理恵が高収入の銀行業務をリタイヤしたのは愚かな判断であった。

「マリエよ。やはり我が働きに出るしかあるまい」

「話し方…」

「ごめん(>_<) マリーが今まで頑張って働いていたのに。
 俺がこれらかも二ートしてるなんて耐えられないよ。
 コンビニでもどこでもいいから、働かせてくれないか?」

「えっ? (; ・`д・´) コンビニ?」

「えっ( ˘•ω•˘ )」

「コンビニで働くって本気で言ってるの?
 あそこは生活が苦しくて自殺願望がある人が働くとこだよ」

令和10年。コンビニ・エンスストアの店舗は日本中に無数に存在する。
日本語で便利店なる店名であり集客性を重視し立地に優れ、
皮肉なことに暴徒どもを呼び寄せる格好の餌となる。
犯罪のメッカとして有名である。

強盗は新たな武器を入手した際の実験場として使い、
アルバイト店員の80%が三ヵ月以内に殉職死するそうだ。
金持ちの子供が無邪気に買い物に来た場合は
暴徒に誘拐され、身代金を誘拐されることもある。

児童誘拐はコンビニに限ったことではなく、
路上やスーパーなど今や日本中で流行しているのだ。

「恐ろしい世の中だ。
 登校中に俺の娘が誘拐されないか心配だよ(>_<)
 俺も付いて行ってあげればよかった」

「あの子は10歳にしては知恵は回るし
 武装してるから簡単には誘拐されないと思うけどね(;一_一)」

我が娘。ランドセルを背負って登校したが、
ランドセルの中には手りゅう弾と弾薬が満載されていた……? 

リコーダーに見せかけた毒入りの吹き矢?
大きなギターバックを重たそうに担いでいたが、
中身は対戦車用ロケットランチャーが入っていた……?

「自治体の指導で児童にロケラン(軽量型)を持たせるのが推奨されてるの。
 最近ボケた爺さん達の車が児童の列に突っ込んでくるでしょ。
 不審な動きをしてる車がいたら、子供たちがロケランで迎撃するよう訓練されているから」

学童にまで軍事訓練を施す国とは、イスラム国を除けば、
おそらく日本国だけであろう。いわゆる通学班は、
隊長(6年生の生徒)の指示によく従い、
不審者どもの襲撃に備えることが常となっている。

学童の誰かが不審者に誘拐されそうになった時は、犯人を即時銃殺するよう訓練されている。
令和10年では国家の財政が破たんし、国民生活が破たんした結果、
市民は略奪暴行によって生活に必要な物資を手に入れることが常なのだ。

小学生が学校までたどり着くことすら難儀する戦乱の世。
これぞクルアーンに示された地獄の一種である。

『速報です』

ふと、テレビジョンの中のアナウンサーが何か申しておる。
いつになく深刻そうな顔である。

『先日、栃木県、足利市の学園の校長兼、指導者である高野ミウさんが
 埼玉県久喜市の飲食店でテロリストの襲撃に会い、重傷を負いました。
 高野さんは病院へ搬送され、重傷ですが、意識はあるそうです。
 このような劣悪反攻を仕組んだ犯人のことを絶対に許さないと
 繰り返し述べており……』

真理恵が、舌打ちする。「まだ生きてたのかよ。幸運なクズめ」

どうやらサイゼリアに爆弾を仕組んだ犯人はマリエらしい。
真理恵はどういうわけか爆発物の仕組みに明るく、適当な材料さえ
揃えればビル一棟を破壊するほどの爆弾を簡単に製造できるようだ。

「今度はもっと高性能な爆弾を作らないと」

真理恵はPCのアラビア語版頁を開き、何やら
外国の者どもと通信を取っている。我が妻に亜語を解する者が
いたことに驚く。試しに亜語での会話を試してみたいものだが、
忙しそうなので声がかけられぬ。そしてこの小説サイトでは
アラビア語の表記に対応しておらぬことも困る。

アラビア語書体が右から左に書いていくことは多くの日本が知るまい。
戦前の日本語も右から左へ書いた。さらに書道の文化があることも
アラビアとの共通点。クルアーンはアラビア書道にて表記される。

またモスクの壁画や絨毯(じゅうたん)など中東美術には
アラベスクと共にアラビア書道で画面を埋め尽くすことが一般的だ。
ムスリムの美術は空白を嫌うのだ。書道は良いぞ。
書道とは美術の一種であり、筆を握ると精神統一の訓練にもなる。

我が妻よ。人を殺してまで得るものがあるのか。
マルヤムの子、イーサー(マリヤの子イエス)でさえ、
剣に頼るものは、いずれ剣によって滅ぼされると弟子に教えているのだぞ。

「私は本気であの女を殺したい。私が強制収容所生活を
 送っていた時、どんな気持ちで3年間を過ごしたか想像できる?
 生徒会の気まぐれでいつ拷問され銃殺されるかもわからない身で不安と戦い、
 本当に男性の外人看守にレイプされそうになったこともあったんだよ」

「う、うむ。それは過酷な体験であった。一応我も三号室の囚人生活は経験したが、
 主らのように全寮制の過酷な収容所ではなく小規模だった」

「私はミウを殺したい。何がなんでも奴を殺したい。
 奴の亡骸を見るまでは、どんなことでもしてやる。
 奴の無様な死にざまを想像しながら、ずっと苦痛に耐えて来たんだ」

この時のマリエの表情、尋常にあらず。妻の心の闇は底知れず。
あれほど美しいと思っていた顔も、今はただ恐ろしいだけ。

「分かった。ならば我はもう何も言うまい」

気分転換にコンビニまで買い物にでも行きたいものだが、
コンビニはいかんのだったな。
別にコンビニでなくとも、不用意に外へ出ると強盗に会うかも知れぬ。
我はイフリートだが暴力を嫌う。無用な争いは避けるべきだ。

ピンポオン……とチャイムが鳴る。
マンシヨンの最上階に訪問者などあるのか。

インターホンの画面越しに、
エントランスにおる訪問者の顔が映し出される。

「(^○^) パパー。久しぶりに会いに来たよー」

思わず脱力する。なんと我が息子である、高野・太盛・ジュニアが
そこにいるではないか。バカな……。いかにしてこのマンションが……。
いや。もうよい。経緯など考えてもせんなきことだ。

「誰と話をしてるの?」

真理恵は初めてジュニアと言葉を交わしたのだろう。
憎きミウの実の息子と聞き、不快感を隠そうともしない。
貴様に用などなく、今すぐ帰れと言い、それきりだ。

それから数分して突如、玄関が爆発する。
何事かと思うと、見慣れぬ女童(めのわらわ)がそこに立っておる。

「お初にお目にかかります。お父様。
 私はあなた様の娘。名をマリンと申します」

フレアスカートの端を両手で摘み、お辞儀をする。
先ほどの爆発が嘘のような優雅さに時が止まったかと思う。
言葉遣いからして気品に満ちあふれ初見で良家の娘と分かる。
肩の上で扇を広げたような豊かな黒髪に、王冠風の小さな髪飾りが目につく。

「以前からお会いしたいと切に願っておりました。
 わたくしはアナスタシア橘と、あなた様の間で生まれた娘です。
 お父様と面と向かってお話しできることを光栄に思いますわ」

「待たれよ。そなたはそれとない風を装っておるのだろうが、
 いかにも遺憾ながら我と接してる感が否めぬ。
 そなた。偽りごとを語っておるな?
 おそらく我のことを好ましいく思ってはおるまい」

「いえ……そんなことは……」

「やはりそうか。お主は心の中で思っていることが顔に出ておる。
 正直に申してみよ。そなたは我のことを父とは思っておらぬだろう」

マリンはわずかに間をおいてから、下唇を噛み、語り始める。

「お父様は、学生時代に多くの女を口説き、妊娠させ、責任も取らずに
 逃げ続け、最後は高野ミウと結婚した卑劣な男だと聞いております。
 はっきり申し上げて心から軽蔑しております。
 お父様とは顔を合わせることなく、一生他人の関係でいたいと思っておりました」

「なるほど。そなたにそこまで嫌われるのも無理もない話だ。
 時に我の息子、ジュニアはどこへ消えたのか?」

「高野太盛ジュニアは初めからいません。お父様がインターホン越しに
 ご覧になったジュニアは、私が変装した姿だったのです」

変装だと……? 今度は嘘をついている目つきではないぞ。
我がさらに深いことを聞きだそうと言葉を選んでいると、
さっきから誰と話してるの、と妻マリエが玄関に顔を出す。

マリンは、

「おばさま」

とマリエを呼ぶ。

「手短に私の目的を伝えます。
 私は母様たちの恨みを晴らすためにここへ来ました。
 まずお父様を殺します。次に浮気相手の貴方のことも殺します」

そう言い、床に手投げ弾(手りゅう弾)を投げつける。
爆発するのかと身構えるが、そうではなく
白き煙がもくもくと立ちこめ、みるみるうちに視界が奪われる。

「ぎゃー」

真理恵の衣を裂く声。攻撃されたのか?

「次はあなたですわ」

我は足を払われ、背中から倒れる。
流れるような動作で腹の上に娘がのしかかる。

我が娘マリンは、握りしめた小太刀を、今にも我に突き刺そうとしている。
両の瞳に血の通った者の感情宿らず、さながら機械のごとし。
そうか。この娘はこれほどまでに我を恨んでいたのか。

「急に動きを止めたが、どうした? 
 早く済ませるが良い。アッラーの望んだこと
 ならば、我は受け入れる覚悟でいる」

「あれほど殺したい、殺したいと願って思ってました。
 ですが実の父を目の前にすると、
 最後の一撃を加えることができません」

やはり情があるのか。この娘、どうやら幼き時から
戦闘訓練を積んだ経験ありと想像する。
しかしながら、いかに戦闘力が高くとも、11歳の幼き娘に変わりない。
この娘は、テレーズと同じく父の愛に飢えておるのではないか。
その可能性にかける。

「マリンちゃん(*^▽^*)」
「えっ……(´∀`*)ポッ」

我のイケメンスマイルにて、まず殺意を削ぐ。
学童の頃は、女を口説くことに勉学以上の力を注いだものだ。
いよいよ我の本領発揮である。

「マリンちゃんとお話しするのは、マリンちゃんが1歳の時以来だったかな?
 あの時もマリンちゃんはすっごくかわいい赤ちゃんだなって思ったけど、
 あれから10年も経って背も伸びてすごく成長したんだね。
 うん。すごく綺麗だし、かわいいよ」

「(; ・`д・´) き、綺麗でかわいいのですか。わたしが……?」

「(*^▽^*) うん!! 世界で一番かわいいよ。
 だって君は俺の大切な娘なんだから」

小太刀が床に転がる。どうやら効果ありとみる。
我は自然とマウント状態から解放された。
今こそはと起き上がり、マリンの頭を撫でる。

「マリン。一言だけ言わせてくれ。俺は君のことが好きだ。
 たとえマリンにどれだけ嫌われていたとしても、
 俺はマリンのことが好きなんだよ」

マリンが顔を赤らめ、言葉に詰まる。

「……お父様は口が達者な方らしいですから、
 同じことを他の女にも言ってるのでしょう?」

「俺の目を見てくれ。今俺が話してるのは君だよ。マリン。
 これでもまだ俺の気持ちを信じてくれないのか?」

力を込めて抱きしめると効果があったのか
マリンがついに涙をこぼし始める。

「屋敷での生活では、母にこうして抱き締められることはありませんでした。
 母は浮気性の性格をしていて、高校卒業後にすぐ他の男を見つけては子を宿し、
 家に帰ることもめったになく、太盛お父さんの血が入った私をそっけなく扱いました」

まさに耳を疑う。衝撃の事実である。
アナスタシア・橘は、一人の男性に執着することがなく
常に新たな恋愛を求めるタイプの女である。

一時の誤りにて我との間に子を宿したが、
我がミウとの婚約を結んだと知ってからは興味をなくし、
また我の子孫であるマリンは、共産主義的な教育を施して
冷徹なる人間へと成長させ、国家を破壊する道具として利用する。
マリンは勉学以上にスパイになる訓練に励む日々を送る。

自分をこのようなみじめな目に合わせた父への恨みが募る。
父がいよいよミウから解放されたが
別の妻とマンションで暮らしていると聞き、殺しに来た。
それが今日の会合に至る経緯である。

「お父様ぁ。本当はお父様のこと大好きだったんです。
 でもお父様はミウに拉致されて結婚してしまって。
 私が一番お父様に甘えたかった時に会ってくれなくて。
 だから寂しくてストレスが溜まり、お父様を恨んでいただけなんです」

マリンは我の腕の中でなきじゃくる。
ふむふむ。いったいどれだけ父恋しさの中で
幼少の時代を過ごしたことか。しみじみと我もこの子の不幸を思う。
冷静に考えれば色欲に支配された我が原因なのかもしれぬが、
これからはこの子に寂しい思いを二度とさせるものかとアッラーに誓う。

⊂⌒~⊃。Д。)⊃ ← 我の妻 マリエなり。

ここで重大な事実に再認識する。妻は腹部を刺され、血だまりの上にあり。

「ま、マリンちゃん。ごめんね? ちょっと今から
 妻のマリエを病院に連れて行かないと死ぬかもしれないんだ」

「いやです。私はもっと長くお父様のぬくもりを味わっていたいです」

「お、俺も(*^▽^*) マリンちゃんとずっとこうしていたいよ。
 でもさ、さすがに人が死ぬかもしれない状況じゃあ」

マリンは一瞬形相をゆがめたあと、魔法の力で妻の体を宙へ浮かせ、炎で包む。
妻は燃え盛り、塵(ちり)と変化する。炎のあとに煙が立たぬ。
かような現象は、まさしくこの娘がジンニーニャ(ジンの女性系)である証左。

バ、バカな……。我の妻はこの世から消えてしまったのか……。
真理恵に並ぶほどの美しき女人など、
広大なペルシア帝国中を探しても見当たらぬほどであるのだぞ。

「これで、ずっと一緒」

「ん?(; ・`д・´)」

「お父様は、ずっと私と一緒に居ましょうね」

「(;゚Д゚)は、はは。(*^▽^*)そうだね。ずっと一緒だ」

我もジンなりて人にあらず。
そしてマリンの力は我を超える。理屈でなくカンで分かる。

「お父様は私を世界で一番愛してると言いました。
 ならば、私以外にお父様を愛する女など、この世には必要ありません。
 お父様を愛しているのは私一人で十分なのですから。
 お父様もですよ。お父様も私以外の女に愛を語ってはいけません」

戦慄し言葉も出なくなる。日本の女は軽い口説き文句でも
真剣に受け取るくせがあるため、後処理に難儀する。
娘を嫉妬させたら最悪命さえ落としかねない。

「お父様を怖がらせるつもりはありませんわ。
 私はお父様には今後危害を加えないと約束いたします。
 ただし、その他の女に関してはその限りではありませんが」

この娘、ジンニーニャだが外見は我の好みだ。
目鼻立ちは母親似でコーカソイド(白色人種)としか思ぬ程、
はっきりとしているが、我に似たのか褐色の肌である。

まんまるの瞳。なんと琥珀色をしていて、文字通り宝石のごとき美しさ。
きゅっと引き締まった唇に知性を感じさせる。

モノトーンカラーの高そうなワンピース。
口調も庶民とは違い品性にあふれる。まさに良家の娘。

会話の間、娘と視線を合わせるとそらすことができない。
テレーズと同じく、その顔をいつまでも眺めてみたいと思ってしまう。
我は美しい娘に目がなく、女童(めのわらわ)でさえ十分に好ましく思う。

「マリン。キスしようか?」
「えっ?(>_<) (*'▽')キスですか…」
「ああ。キスだ。マリンはキスを知っているよね?」
「ええ。言葉だけは……」

「じゃあ今からパパとしてみようか?
 痛くないから大丈夫だよ。こっちへ来て目を閉じてごらん」

「はい……」

マリンは勝手が分からぬようで、
焦って顔を近づけてしまうので互いの鼻が重なってしまう。

「失敗しちゃったね。次は顔を傾けてごらん」
「ごめんなさい。これでよろしいですか?」

今度はきちんと重なった。マリンは気恥ずかしいためか、
赤面した顔を必死で隠そうとする。なんとも
いじらしい仕草に、我はますます娘を女として意識してしまう。

「キスしちゃった……えへへ(*^▽^*) これが、キス……(*´▽`*)」
「パパはね、マリンの事が大好きだからキスをしたんだよ」
「私もパパのこと大好き!!」

マリンはぴたりと体を密着させてくる。
上等なシャンプーの香りを身にまとっている。
髪を撫でてみると、さらさらで指から零れ落ちるかの如く。

我は女性の髪に触れると一層興奮してしまう。
いっそ服を脱がしてしまおうかとさえ思う。
スカートをめくり、中身を確認しようと手を伸ばした時だった。

「パパ……そこでなにをされているのですか?」

わが愛娘マリー・テレーズ現る。
もはや驚きを通り越し腰が抜けるかと思った。

いまだ太陽が天頂に登る前であるぞ。
なにゆえ、この時この場にお主が立ち会うのか。

「今日は三組の生徒が授業中に飛び降り自殺をしたため
 一斉下校となったのです。さて。玄関の戸が爆破されておりますが、
 そこにいる女童は何者なのです?」

「お初にお目にかかります。太盛お父様の娘のマリンと申しますわ」

「お父様の娘の一人ですか。
 あいにくですが、あなたの名前に毛ほども関心はありません。
 とはいえ礼儀として、こらちらの名を名乗らぬわけにもいきませぬ。
 私の名前をこれから申しましょう」

「マリー・テレーズさんで間違いないかと。
 お名前は以前から伺っておりますので(スパイ活動で)」

「(* ̄- ̄)ほう。わたくしが太盛パパの大切な大切な娘であると
 重々承知しながらも、父と熱き抱擁と口づけを交わすなど、
 耐えがたき屈辱であり、まことに許しがたい。
 今すぐ父から距離を取りなさい。さもなくば…」

風が、凪(な)いだ。
我に認知できるのはそれだけだった。

テレーズの正拳突きを腹に食らいながらも、マリンは平然としておる。
どうやら先ほどの風は、テレーズの動作が俊敏なために生じたものらしい。

マリンが片手を上にあげると、外では突然天候が悪化し、強風が吹き荒れる。
恐怖でなく暴風である。風はマンシヨンの玄関先から流れ込み、
我はテレーズと重なって壁まで吹き飛ばされてしまう。

服が湿っていることを不審に思い、
雨水かと舐めてみると、潮の味がする。
いかに解釈しても海水としか思えぬ。
内陸の埼玉県南部にて海水とは……。

「パパ、お怪我はありませんか? わたくしの手を取ってください。
 この娘は、マリーダ(マリードの女性系)なのでしょう」

「マリーダだと……」

ジンの最上位に位置する存在である。
天候さえ自由に操ることができるのだ。

すなわちマリンは、イフリートである我とテレーズより強力な存在。
アッラーは、この世を生きる者に生まれながらに力の差をつけておられる。
マリーダに逆らえば文字通り命はない。炎の包まれた我が妻マリエのように

マリンが、テレーズに対してマンシヨンに来た目的と父への愛を伝える。
父がここで暮らすに相応しくないので、すぐさま自宅へ連れ去るとのこと。
当然テレーズが認めるわけもなく、すぐに口論へと発展する。
「おバカ」「デブ」「ブス」など、まさに女童と呼ぶべき幼稚なる口喧嘩なり。

口で争ってもらちが明かぬので、とどめの一撃を食らわせるために
マリンが感情のこもらぬ表情で再び右手を上にあげようとする。

「マリー・テレーズよ。父の横に居ていいのは私だけ。貴様は消えなさい」

「ま、待って!!」

「なにか?」

「わたくしが父のおそばに寄らなければよいとのこと。
 わたくしは母のごとく炎で焼かれて息絶えるのは遠慮したいのです。
 そこであなた様の要求に従うことにします。
 父を自由にしてくださって結構ですわ。抵抗はしません」

「ほう……」

マリンは戦わずに相手を屈服させたことに満足したのか、
我と手を繋ぎ、玄関を後にする。エレベーターに乗る前に、
人が駆けてくる音がしたので、何かと思い振り返る。

テレーズは両手にあふれるほどのプラスチック爆弾を抱えながら
こちらへ走ってくる。我の亡き妻、マリエの残してくれた遺産ろうか。

都合の悪いことにエレベーターが閉まるタイミングで
5個もの爆弾が放り込まれてしまい、抗う間もなく爆発してしまう。
この爆弾一つだけでマンシヨン一室を破壊させる威力を有す。

爆発する瞬間に思った。所詮は肉体が滅びて魂となるだけ。
アッラーがお望みになったことなら仕方ない。

マリン「爆弾に頼るとは、俗にまみれた人の子の思いつきそうなことです」

結果的に我は助かった。

爆発の直前にマリンが炎の壁を生起させ、我らを守る縦としたのだ。
エレベーターは爆発により大破するのかと思いきや、
なんともなく普通に降下を初め、エントランスまでたどり着いた。

マリンは何事もなかったかのように我と手を繋ぎ、外へ踏み出す。
見上げると一面の曇り空であった。肌に感じる空気に湿りを感じる。
少し動くと汗ばみ不快なのは島国に特有である。

暦は9月の上旬だと記憶している。
一瞬でも陽光を浴びると体は焼かれるかのごとし。
今の日本は赤道直下の国に近い気候だ。
陽光がこのまま永遠に雲に隠れていてほしいものだ。

我は日差し避けにワークマンで
ターバンを買っておいたのだが、今日は出番がなさそうだ。

「あいつ嘘つきだし、ムカつく。やっぱり殺しておこうかしら」

マリンがテレーズへの殺意を明確にする。
今から戻って殺しに行くと言ったのだろう。

女童の年齢にて殺人を軽々と口にすることに戦慄する。

(´-`*) もうテレーズとは二度と会わないんだから、
     あんな奴のことは忘れようよ。

<`~´>  ふむ……。ですがあの娘は約束を反故にしました。
       二度とお父様と関わらないと口で言ったのに…

(;^ω^)  まあまあ。そう言わずにさ。
      俺はマリンと2人になれてうれしいよ。
      マリンはうれしくないのかな?

(^▽^)/  うれしいですよ……。
      うれしいに決まっているじゃないですか。

ヽ(^o^)丿 なら忘れようじゃないか。
      で、とりあえず君の家に行けばいいんだろ?

(; ・`д・´) 私は家出をしましたから、帰る家などありませんよ。
       パパとどこかで一緒に暮らそうと思っていました。

なんと、ノウプランであった。
浅はかなところはやはり女童である。

家を出るのは簡単だが、生活の場を確保するのは至難なり。

令和10年。消費税率34%。物価の変動なし。
埼玉県の平均時給180円。年金支給額、月額換算で660円。
健康保険制度、その他多くの公的サービスが将来的に全面廃止。

国民の多くが消費者金融で平均2000万円を借金し、
近隣商店で略奪暴行の限りを尽くし、生活をする。

国民の生活が苦しかろうが、為政者らは関心を示さず。

国会議員の平均年収4400万は平成と変わらず。
内閣の閣僚共は8000万から1億の給料をもらい、
ようやく生活が楽になったなどとほざく。

ううむ。考え出したら腹が立って仕方ない。
このような暴挙はササン朝ペルシアでは決して起こらなかったぞ。
タタールのくびきと言われた、蒙古に支配されし
中世のウクライナ・ロシア一帯のほうがまだ裕福かもしれぬ。

日本という島国では、「お金」のみに全ての価値が集約される。

多くの国民に信仰心などなく、ネットの普及で人とのつながりは希薄になり、
例え台風が直撃しても多くの商店や企業は営業を強いられ、
たとえ国民が大怪我を負っても、支配者(経営者)らは知らぬふり。

労働者は企業(公務員含む)からしたら「家畜」である。
大陸で無数に使役されている馬、羊、ヤクと日本人は
まったく同等の価値として考えられている。

楽をしたい。気楽に生きたい。そんな希望を日本国はまったく許さない。
会社を休めば人は罪悪感を感じ、食を失い無職になれば自殺に追い込まれる。

働く能力のない者には死を。
金のない老人に死を。

政治家が国民の生活を顧みず、重税を強いるのは国家の衰退期にあることの証左。
このような弱体化した大国は、遅かれ早かれ近隣の強国に
滅ぼされ、支配される運命にある。人類史がそれを繰り返してきた。

現に日本は中国の軍事強国化を絶対に防げぬだろう。
向こうの実質GDPは日本を超え、GDP成長率は7倍を優に超える。

大蒙古帝国。
オスマン・トルコ帝国。
イスラーム帝国。

広大なユーラシア大陸からかつて幾度も強国が出現したわけだが、
今日の米英帝国のごとく、200年にわたり世界を支配した歴史はない。
欧州一等国らも中世から19世紀にかけて繁栄し、今日も世界のGDPの上位10位に入る。

日本は明治維新以来、欧州(コーカソイド人種)の真似事に成功した、稀な国家である。
しかしながら、江戸時代までの日本は4000万に満たぬほどの人口で、
絹と米の生産を中心とした経済で欧州から見たら弱小国家であった。

それでよいのではないか。
日本が昭和の頃にGDPで世界の二番手となり、
ドイツ、フランス、英国ら世界に冠たる一等国を
凌いだのは、いささか背伸びをし過ぎた感が否めぬのだ。

経団連の連中は、なおも日本国の生産人口を増やして
経済の規模を維持しようとする。
政治家は主婦や外人奴隷を導入して税収を増やそうとする。

米国のニューヨーク州程度の国土しかない日本が、なぜに
世界で覇をとなえ続けようとあがくのか。不自然であり不可能である。

外人でさえ長時間労働に嫌気がさし、脱走者を出す。
労働者の過労死、自殺は後を絶たぬ。

まさに『労働者の地獄』

我が娘マリンは幼きゆえに理解しておらぬのだ。


(;´・ω・)手ごろなアパートでも借りて共に暮らすとするか?
(*^▽^*)はい。私はどこへでもパパに付いてきますわ。

やはり恨めしい。

この娘は橘邸の豪華な暮らしを知るが、世間を知らぬ。
浦和市のアパートの家賃が、仮に風呂付きだとすると
およそ5万もするのを知らぬのだろう。

我は財布を持っておらぬ。娘も持っておらぬそうだ。
真理恵との生活は、少なくとも資産額が3000万ほどあり、
当面の間は生活に困らぬようにしてくれた。

斉藤家(マリエの苗字である)を出てからというもの、
我は一文無しの状態にてマリーダである娘との暮らしを余儀なくされるのか。
自殺用の短刀を要する事態なり。

団地にしろアパアトメントにしろ、契約をする際に家賃の
継続的な支払い能力やら保証人の問題が生起すること必死なり。

我が妻マリエは焼死し、マリンは家出中である。
保証人なしでは賃貸借契約が結べぬ。
さらに我は無職で責任能力に欠ける。

「あっ、お財布を持っておりましたわ」

なんと。女童の割にグッチの財布である。
桃色なので女人向けの作りであろうか。

中をさっそく見てみると絶望する。
なんと2千円しか入っておらぬ。

「今月は母様にお小遣いは7万ほど頂いたのですが、
 先週秋葉原に行った時にお買い物をし過ぎました」

童女の小遣いが、ななまん……!!
しかもそれがたった一週間で消えたのか((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

「ソニーのイヤホンが3万したのです。
 あとカラオケと漫画喫茶に行って食事して、
 残った金額は全額パスモに入れてしまいました」

「そのパスモとやらからお金を降ろすことはできないのか?
 電車代だけで全額使ったわけではなかろう」

「1万以上入っていた気がします。ちょっと待っていてくださいね」

財布の中を見るが、どうやら見当たらない。

「自宅に置いてきたバッグの中に入っていました」

「そのバッグを取りに戻ることはできぬのか……」

「おそらく母に家出がばれた罪で地下に監禁されるかと」

我も学童時代に橘邸の地下に監禁された経験あり。
ソビエト連邦のクレムリンを思わせるあの雰囲気はさすがに耐え切れぬ。

「待たれよ」

確か……。この国では9割9分の国民が貧困にあえぐ中、
40年続いたデフレのため安価な製品の供給は過去最高となる。
市場には物があふれ、中古品の売買が活発であるぞ。
ハアドオフやオフハウスなど街に散見せリ。利便性に富む。

「そなた、ソニーのウォークマンを持っておるのだろう?」

「良く分かりましたね。バッグの中に入っておりますわ」

マリンはバッグと言うが、背負っている小学生向けのミニバッグの
中から、いかにも高級そうなウォークマンが登場する。
なんと11万もするという。11万……!! 

この娘の金銭感覚はどうなっているのだ!!

「ママがお金に糸目をつけない方ですから。
 愛情の代わりにお小遣いを無制限にくれるのです」

「そ、そうかΣ(゚Д゚) ところで、
 そのウォークマンを売りに出せばよいのだ。
 少しは金になるだろう」

「( ゚Д゚)どうして売る必要があるのですか。
  まるでお金のない人のやることではないですか」

「我は文無しである」

「(´・ω・:)え……」

「我は生活費をマリエとテレーズに依存していたのだ。
 というか金を持つ許可を与えてくれなかった。
 我が自由にできる金があると家出をし、
 浮気をすると警戒されてしまってな……」

「そうだったのですか(;´∀`)
 お父様はご実家が大変なお金持ちだと
 母から聞いておりましたから、
 カードの一つや二つはお持ちなのだとばかり…」

確かに足利市にある我が実家は、それなりに裕福だったかもしれぬ。
父が会社の経営者であったからな。母は我が中三の時に家を出てしまったが。
母か……。27になった今でも恋しくて仕方ない。
ぬう。嫌なことを思い出してしまった。

結婚後はミウと学園で暮らし、生まれてから金に不自由したことはない。
我は今では文無し、住む家もなし。
その原因を作ったのがマリンとなれば、恨みたくもなる。

我は怒りを抑え、それとなくマリンに現在の危機を告げた。

「お父様ごめんなさい(ノД`)・゜・。
 お金がないなんて知らなかったのですよ(>_<)
 お金と収入がなければアパートメントの
 契約も結べないなんて、知らなかったのですぅ」

マリンは世を知らぬ娘だが、
親の言うことは素直に聞き、理解も早い。

母のアナスタシアに聡明さだけ似ればよかったのだが、

「お財布代わりにテレーズを呼んできましょう」

悪知恵まで受け継いでしまうのは残念だ。
テレーズを財布代わりだと……。

だが金が必要なうえに、愛娘のテレーズと再び
生活できるのならば断わる理由なし。

再びマンシヨンに戻り、テレーズに会う。

テレーズは殺されるものと思い、急いで包丁を手にし、
大いに脅えていたが、マリンに殺意がないと分かると冷静さを取り戻した。

テ(;゚Д゚) お話は分かりましたが、そのような事情ならば
      わたくしのマンシヨンで三人で暮らすべきでは?

マ(; ・`д・´) ニィエート(拒否します)なぜならここは斎藤家。
       パパが仮にでも妻と呼ぶ女と暮らした場所。
       本当ならば一秒でもここにとどまりたくはありません

テ(;一_一)(はっきりものを申す娘ですわ……。
       いよいよ本気で殺意がわくではないですか。
       体を勢いよく床に叩きつけて、
       浦和中を引きづりまわしてやりたい)

マ('Д') その顔はなんですか? 納得できないのであれば、
      力づくでお金を奪っても… 

太盛(*'▽') まあまあ。俺は三人で暮らせればどこでもいいよ。
            
我は娘二人をなだめ、三人で新たな住みかを探すことで同意した。
ところが問題はまだあるとテレーズが言う。

「私が保有しているのは155万相当の米国株でございます
 最近円高傾向にあり、ますます資産額が減少の兆しを見せます。
 日本円に現金化するとしたら、株の売却後、為替の両替の
 必要があるため、最低でも三日程度はいただきたいのです」

セ「なんと……(;゚Д゚)
  テレーズの資産とやらは外貨建てのため、
  すぐに使うことはできぬのか。知らなかったぞ」

マ「私も知らなかった……。
  金融資産の運用って奥が深いのねぇ」

マリンは、本棚の株の入門書を手にとっては、興味深そうに読んでおる。
この娘は学習能力が高そうなため、株の運用もすぐに達者になるかもしれぬ。

セ「まことに遺憾だが、妻マリエの資産を使うのは…」

テ「ネット証券の口座に資産が入っております。
  ママの暗証番号が分からないと使えないのですよ。
  この作品では亡き者になった人の資産は使えない設定なのです」

なるほど。このような「しばり」を作ることで生存の難易度を上げるのか。
ロウルプレイング・ゲイムにて多用される手法なり。

セ「とはいえ、娘が大切にしている資産に手を出すわけにはいかぬ。
  我はこれから働くぞ」

テ「(;゚Д゚)え…」 ま「Σ(゚Д゚)え…」

せめて三ヵ月くらいは、定職に就いた状態で月給を稼ぐ。
そしてある程度お金がたまった状態で、アパートを探す。
それまでマリンにとっては遺憾だろうが、
このマンシヨンで暮らすのが妥当であろう。

するとマリンが駄々をこねるのだった。

「お父様のお考えが理にかなっているのは分かります!!
  でも私はこの家で住みたくないのです!!」

甲高い声でわめく。この娘は声が高すぎて耳に刺さるほどだ。
マリーダ(ジンの一種)とて所詮は小学生の女児というわけか。
必死に駄々をこねる姿に、腹が立つより可愛いらしく感じてしまう。

「生活をするのはそう簡単ではないのだぞ。
 住居の他に生活家財、家具を買わなければならぬ。
 窓の外を見てみなさい。ホームセンターでも昼間から
 銃撃戦が展開され、血で血を洗う激戦が繰り広げられている」

テ「パパの言う通りですわ。お買い物をするのにも命がけ。
  安全にお借りできるお住まいが存在するとは思えませぬ。
  最悪の想定をすれば、新たなお住まいに強盗が
  侵入して皆殺しにされることも考えられます」

暴徒と化すのは若者のみにあらず。
年金の支給額が激減し、老人も自動小銃や手りゅう弾にて武装する。
令和10年とは、財政が破たんし、国民が生活の糧を経るために
近所の商店を公然と襲撃するのが日常となる地獄なり。

二人に反対されて悲しくなったのか

「うぅー(;´∀`) 悔しいですけど、確かにその通りですわ……」

マリンは涙を流しながら最後は納得してくれた。
この娘は直情的すぎるところが目につくが、
寝は素直で理解力のある子なのだ。

「お金のない者に真の自由なし。なるほど。
 私は今まで裕福な実家で親の加護の元、好きなように
 お買い物をしていましたが、貧乏なものは住む場所にさえ
 困ってしまうのですね……」

自己批判能力が高さは、勉学や仕事に多いに生かされる。
かつてアリストレスも大いに語ったように、
自らの無知を知る者こそ、本物の賢者なのだ。

「( ;∀;) お父様。ごめんなさい。私が間違っておりましたわ」
「(*^▽^*)分かってくれたらいいんだよ」

マリンは反論されたのがよほど悔しかったのか、大泣きしている。
マリンをやさしく抱きしめ、背中をぽんぽんと叩いてやる。
娘はぎゅっと力を込め、我の半そでを握るのだ。

泣き虫なところも可愛らしい。思わず頬にキスしてしまう。

「(*^▽^*)よしよし。マリンちゃんは素直で可愛いね」
「そ、そうですか?(´∀`*)ポッ」

それにしても泣き顔をなんとかせねば。鼻水まで出ておる。
どこかにハンカチかタオルでもないのものか。

うっ……。

(^_^メ)
↑テレーズ

刺される一歩手前であったか。
長槍で背中から串刺しにされたのかと思うほどの殺気である。
テレーズの我に対する愛もかなり深いと知る。

我の周囲の女人は年齢に関係なく、我に深い愛情を抱くものばかり。
その上、会えない時間に比例して我への愛も深まるようである。
好いてくれるのは構わぬが、女の嫉妬はただただ疲れる。

その日は三人で同じベッドで寝た。
ここは思えばマリエの部屋である。我との生活のために
3000万もの資産を貯めてくれたマリエ……。

高校時代のあの子との思い出が走馬灯となり蘇り、涙する。

我のそばにいるマリンはすっかり寝息を立てている。
我はマリンと反対側に寝がえりを打ち、テレーズを強く抱きしめた。
今ではこの娘こそが、マリエの残してくれた最高の宝なのだ。

「大丈夫ですよ。ママと一生会えないわけではありませんわ」

テレーズ……。まだ起きていたのか。

「マリンは悪いマリーダではありません。
 一時的に感情が高ぶることがあろうとも、
 本気で人子殺しをすることはないでしょう」

「ではマリエはどうなったのだ?」

「炎で消し去ったのは、この世とは別の時空へ飛ばしたのでしょう。
 この世でもなく、アッラーのおそばでもなく、その中間となる場所。
 目には見えないだけで、実はパパのおそばにいるのかもしれません」

幽霊とでも言うのか? ふむ……。考えてもさっぱり分からぬ。
我はイフリートだが、マリーダの考えることまで読めぬ。

死んでなければ、現生にていつかマリエに再開できるのだろうか。


※。

アッラーによって良い朝を迎えた。
日差しは殺人ビームのごとくである。
本日の最高気温は33度か……。9月も夏である。

我は朝からタウンワークの電子版を眺めている。
近隣で働く場がないだろうか。

我は一応底辺大学は出ているのだが、足利市で共産主義教育を
施され世俗から遠ざかっている上に、働いた経験なしでは
正社員で雇用されるのは難しいと判断した。
まずは職歴を求めて販売員に挑戦するか。

「どこも時給が190円から210円ではないか……」

ドラッグストア、コンビニエンストア、ガソリンスタンドなどを
検討したが、時給の安さに納得できぬ。賃金水準が物価に全く連動しておらぬ。
これでいかにして生計を立てればよいのか。

テ「大変に面妖なことに、定員になれば武器が支給されるようです」

ふむ。例えばウエルシア。男性の職務は倉庫の品出し、簡単なレジ打ちとある。
にもかかわらず、戦闘訓練のあるモノ優遇とは、どこが簡単な仕事なのか。
シフト勤務。交通費支給なし。エプロンと武器の貸与とある。

しかし武器の貸与とは……明らかに店員の業務内容から逸脱することは必死。
店員とは名ばかりの兵隊であり、店舗は軍事組織である。
暴徒と化した客から店の防衛をするためには軍事化もやむを得ぬか。

強盗と言えば、シルクロードの険しき道を進むキャラバン隊は
護衛を付けるのが常であったことを思い出す。
我もキャラバンに同行したことはある。

あの砂塵にまみれた無限の平野。空の青さ。あふれる汗を砂でぬぐい、
強烈なる日差しを岩場の影で避けていたのは懐かしい思い出だ。
日中の灼熱と対象に、夜は氷点下まで気温が下がること常である。

日本の夏は夜になっても昼が続くかごとく蒸している。
これではエアコンディショナアなしでは生きていけぬ。

マ「店員は危険すぎますわ(>_<)
  お父様が鉄砲の弾に当たって血だらけになるなんて
  悲しすぎて耐えられません。お店の店員は諦めたほうがいいのではないのですか」

テ「わたくしも遺憾ながらマリンの意見に賛同させていただきますわ。
  命に代えてまで果たすべき仕事など限られています。
  定員の仕事は警察や消防のように時給が高いわけではありませぬ」

我「しかし他の職場も軒並み地獄であるぞ……」

無理をして正社員で職を探すと、ホワイトカラーであれば
広告の企画営業、医薬品のルートセールス、
システムエンジニア、プログラマー、
テレフォン・アポイントメントなど多岐にわたる。
証券会社の電話問い合わせ番もある。

これらの仕事は、一日16時間勤務が常であり、例えば
営業であれば月末までに営業成績がノルマを達成できない者は、
翌月の朝礼にて課長に殴打されるらしい。

新人の営業は、頻繁に歯が折れるため歯医者がもうかるという。
システムエンジニアは、朝7時から翌朝の2時までが定時である。
22時を過ぎたころに自殺者が多発する。将来を悲観して飛び降り自殺である。
納期までに仕事を終わらせられない部署は、
連帯責任により宙ずりにされて背中を棒で叩かれる。

今流行りの電気料金変更のテレアポ。これも月末に
ノルマ未達成場合は、ビルの屋上から縄で逆さ宙ずりにされ、
三時間にわたって放置される。

正社員であっても時給制。アルバイトや派遣と違い、時給300円を超える。
ボウナスは夏と冬に1万円ずつ支給されるが、割に合わぬ。

工場の派遣も論外だ。第一シーズンより渋谷賢人や坂上瞳らが
収容所のごとき環境で勤務していた。労働時間が長すぎる。

マ「店員のメリットは、シフト制ですか…」

我「さよう。店は工場や営業所などと違い、閉店時間がある。
  客が来ない限りは接客の必要もなく、ある程度終わりも見える。
  閉店処理があるにせよ、アルバイトのシフトならば
  違法な残業はないと思わるが…」

するとテレーズが納得がいかぬそうな顔をして悩んでいる。
なにか? やはり我の考えは甘いのだろうか。

テ「働くのはパパですゆえ、あえて反対は致しませぬ。
  ですが職場の見学も兼ねて、
  お客としてウエルシアに偵察に行きましょう」

別にウエルシアで働くと決めたわけではないのだが、
なぜかテレーズはウエルシアにこだわりがあるな。
まもなく朝10時の開店の時間である。

さっそく出発するか。店はここから歩いて5分の距離である。

マリンはつばの長い、白きデザインのキャップをかぶり、
テレーズは折り畳みの日傘を差す。
我は前世のペルシア時代から愛用しているターバンをかぶる。
たまたま類似した品がワークマン・プラスで売っていたのだ。

ふむ……。暑いな。目が焼けるのでサングラスでもしたいほどだが、
見目麗しき女童二人を左右に連れていると、また変質者と疑われかねん。

駐車場に着く。開店時間だからか、特に混んでいるわけでもなく、車もなし。
今日は平日か。老人客が数名。定員は中年の女と20代と思わしき女のみ。

我らが何気なく入店するが、「いらっしゃいませ」の声もなく愛想に欠ける。
我らに視線もくれぬとは、なんたる接客態度。ソビエト人店員並みの愛想の悪さだ。

(※ソ連では定員が威張っていて、お客に勘定の計算までさせます)

マ「朝は平和なものですね」
テ「駐車場に塹壕はありましたが…」

そうなのだ。駐車場には土嚢を積み上げた塹壕陣地が二か所あったが、
我らは丸腰なので素通りできた。
そもそも塹壕に店員がおらぬので狙撃されないのだ。

我「本日はパンが安売りであるな。食パンでも買っておくか。
   はっ……しかし我は財布を持たぬ…」

テ「お金の支払いならわたくしがしますわ(*^▽^*)」

クレジット・カード決済であるか。テレーズはみずほ銀行の口座に
8万程度の日本円を保有している。その口座に直結させたカードを保有せリ。
娘にお金を出してもらうのは情けない。例え時給210円でも早く働かなければ。

お店の壁のいたるところに「アルバイト・パート募集」とチラシ有り。
閉店は22時。20時以降の夜間ならば時給が50円上がり260円成り。

我が腕組し、渋い顔をしていると、倉庫へ続く扉から男性の店員が出てくる。

「あのーお客さんwwwwさっきから募集の広告みてるようっすけどwwww
 もしかして、うちで働きたいんすかwwwww?(^^♪」

「う、うむ(; ・`д・´) 実はそうなのだ。なに。この店の雰囲気は
 どうかと思ってな。偵察を兼ねて買い物に来た次第なのだ」

「そうっすかwwwつか、なんすかその芝居っぽい話し方wwww
 おきゃさん、見た目20代っすけど、実は還暦越えだったりしますかwww?」

「我は若年者だ。今年で27である」

「なんだwww俺より年下じゃねえっすかwwww俺、来月で30になるんすよwww
 ちなみにこの店のサブリーダー(副店長に近い)やってるんでwww
 よろしく、おなしゃーすwww」

茶髪を無造作ヘアに固め、ピアスとネックレスをした、今風の若者である。
背丈は我より10センチ以上高く、やせ形ですらっとしている。
近くによるとタバコの香りが漂う。
我も本来なら彼のごとき話し方をした方が客に好印象だろうか。

「隣にいるのは娘さんすかwwww?」

「う、うむ」

マリンは人見知りのためか、我の後ろに隠れる。
テレーズは堂々として、油断なく相手を観察していた。

「二人ともすげー美形っすけど、姉妹か双子にしては目元とか似てないっすねwww
 しかもその年でもパパにべったりなのもちょっと変わってるっすww
 見た目小学4年くらいっしょwwwまるで何年も父親に会えなくて
 さみしくて愛情を埋め合わせしてるみたいなwwww」

なんという洞察力だ……。さすがは店をまとめる立場の人間だ。

「可愛い娘さんがいるんじゃ、ますます働かないといけませんねwww
 オキャーさん、力があるんでしたら即採用っすよwww
 俺から店長に話しつけておきますんでwwwどうすかwww?」

「待たれよ。力とは何か。怪力のことか?」

「そうそうwww怪力っすよwwww うちら銃器とか扱わねえといけねえんでwww
 ちょっと待っててくださいね。今採用試験を兼ねて重い物を持ってもらうっす」

彼の名は田辺(たなべ)という。田辺は、倉庫から米俵を持ってきた。
この店は米も販売しておるのか……。

「魚沼産のコシヒカリ30キロっすwwwちょっとこれを6個ほど、
 棚の一番上に乗せてもらっていいっすかwwww」

棚の最上は、我の身長とほぼ同じである。

マ「(;´・ω・)お父様、重量物を無理に持ったら腰を壊してしまいますわ」
我「なんのこれしき。心配無用である」

可能ならば、ウークタビー・オランウータンに変化したいところだが、
採用試験にてアッラーのお力を借りるわけにいかぬ。
しゃがみ、床に置かれた米俵を抱える。

膝にまで重みを感じる。胸まで持ち上げるのは、さほど難儀しない。
問題は両手を上げる時だ。二の腕に大いに負担がかかる。
三つ目を持つときは腕がふらつく。

我はミウの夫時代に廃人時代を経験したため、
肉体鍛錬から何年も遠ざかった。
思えば肉体鍛錬は、学童時代はボリシェビキの日課とされた。
生産体操、ジョギング、懸垂台、ゴムチューブによる鍛錬の日々を思い出す。

テ「うー、これは重すぎて床から引きずるのがやっとっですわ(ノД`)・゜・。」

テレーズは女童(めのわらわ)である。無理に持たなくて良いのだぞ。
我は5つ目を上げたが、息が上がり、背中が汗ばんだ。
マリンが気の毒そうに我を見つめている。

さて、もう一息だと呼吸を整えると。

「最後の一個はサービスっすよwwww」

田辺は、ジャンプをするように軽々と30キロを持ち上げてしまう。
華麗なる膝の屈伸、のけぞらずに背筋が伸びた様子から、
重量物を持ち上げるのに重要なのは下半身であると知る。

逆もまた叱りで、蹴球(サッカー)や空手で足技を披露する時にも
両手を広げ、姿勢を安定させるのが重要だ。
どんな運動も『全身運動』が基本。

身体の連動性に着目した、ソビエト式鍛錬は合理性の極みにして、
軍隊から労働まで通用する万能の理論であると知る。

「我のごとき軟弱では店員にふさわしくあるまい。
 今日は時間をかけてすまなかった。
 家に帰ってタウンワークでも眺めるとしよう」

「ちょwww帰ろうとしないでくださいよwwww
 お客さん、むしろ力あるほうっすよwwww
 今どきの若者なんてwww米俵一つも腰の上まで
 持ち上げられないレベルっすよwwww」

「(;゚Д゚) そうなのか。我は学童時代に日本人とは
 潜在的に戦闘民族で、不景気を打開するために
 再びアジア侵略を狙うために力を蓄えている、
 日々訓練を怠らぬ、恐るべき集団だと聞いていたぞ」

「なんすかwwwその北朝鮮の学校教育みたいな発想はwww
 お客さんwwwもしかして足利市出身すかwwww?
 確かに中年の強盗共は日々訓練して鍛えられてますけどww
 10代から20代の若者はコソドロのもやしが多いっすよwww」

我は採用となった。
明日から来てほしいとのこと。履歴書の提出は不要。
金融機関が不正をする可能性があるので給料は原則手渡し。

動きやすい恰好で、ボオルペンのみ所持すればよいのこと。

テレーズ「令和10年の学校教育の悲惨さを語りましょう」

 ――イフリートの娘、マリー・斎藤・ホリ・テレーズは語る。

わたくしの大好きなパパは、本日からウエルシアにてアルバイトとして働いております。
わたくしは学生ですので、小学校に通います。先日はサボタージュしたことに
多少の罪悪感があるので真面目に授業を受けることにします。

「斎藤さん。24ページの文章を音読してください」

「はい。先生」

英語の授業です。

「りっすん。おぅる じゃぱにぃず ぴーぃぽ。
 ゆあぁ あんだぁざ こんとろぉる おぶ
 あどみにすとれぃしょん あべ。
 ざ ぷらいみみにすたぁ あべ イズ キング おぶ キング。
 うぃ のう ざっと。あんど おぅる れいばぁず 
 ぺい まぁきしまむ たくせす うぃず ゆあ グレイト おうなぁ」

訳(聞け。日本国民は安倍政権の支配下にあり。
  安倍首相は王の中の王である。労働者ならば
  最大限の税金を払え、偉大なる名誉と共に)

私は母に似て、ひらがな風の発音をします。
日本国の英語授業ではみな日本語アクセントでの発音を
常とするため、発音で注意を受けることはありません。

令和10年では首相閣下は終身名誉職となり、もはや彼の暴走を
止める者は議会にも閣僚にもおりませぬ。自民党以外の
議員は収容所に送られるか、国外追放されたため、
文科省が作り出す教科書も、自民党に都合のよく脚色されております。

今日の日本は、国民の暴走を抑えるために戦車5000両と原子力空母10隻、
原子力潜水艦6隻を保有するに至る。

国民の生活を破壊するほどの増税の結果、
強力な軍事国家となったのです。中国、韓国、北朝鮮も
平成の時代のように日本を挑発すること容易ならざると知り、
外交的挑発を仕掛けることは非常にまれとなりました。

「そこの君。授業中になぜに寝ているのか」

若い丸眼鏡をかけた男性教師は、私の隣で居眠りをしていた田村君を差しました。
田村君は謝る暇もなく体を持ち上げられ、体を教室の後方へ吹き飛ばされました。

「きょ、教師殿……申し訳ありません……」

「次はないぞ。貴様はたるんでおる。
 眠気覚ましに廊下で顔を洗ってきなさい」

田村君は廊下へ駆けて行きました。居眠りをした生徒には鉄拳制裁。
これが安倍政権の望んだ教育なのです。
朝のHRにて教育勅語を朗読させられ、
体育の授業では体操、行進の練習とライフルの手入れ、射撃の訓練。
今の授業は体育教育の座学(銃の手入れの仕方など)を学んでいたのです。

シナ、朝鮮を蔑視し、我らこそはアジアの救世主たる
強国の民であると教育させられる。
先日、パパがウレウシアでおっしゃっていたこと(日本は軍事強国)は事実なのです。
パパには心配を掛けぬようにと私は秘密にしておりますが。

精神的にも肉体的にも「軍人」として教育される国民。

賢明なる読者諸兄らはこれは小説の設定と思われるでしょうが、
有名な「学校法人・森友学園」では、小学一年の生徒にまで
鉄拳制裁が実際に行われ、文春に親御からの苦情記事が掲載されました。
保護者の多くが教師による暴力に苦情を出しておりました。

森友学園は安倍晋三の妻が名誉校長をしてました。
首相のコネで国有地を9割引きで売却するだけでも暴挙ですが、
森友の幼稚舎では、中国韓国を差別する教育を施し、
実際に教育勅語の音読が強制されていた。

あれこそが、安倍政権の望む真の学校教育であると知り、
事実を知る関係者らは戦慄したという。
自由民主党とは、徹頭徹尾、右翼政権なのであります。

※ 森友学園の内容は事実です。筆者が保証します。

田村君は、生後間もなく父が仕事を頑張り過ぎたせいで過労自殺をした。
それからというもの、母親に育てられ、貧困の生活を送る者。
生活態度は真面目で問題はありませぬ。

ただ、貧しさゆえに週に三回ほど、倉庫でアルバイトをしております。
仕事内容は酒類の仕分け。酒のビンは重いので子供には大変な重労働です。

令和10年では、学童の労働が解禁されています。
7歳に満ちたものは、本人の希望に合わせて就労先を選べる。
主にアルバイト・パートです。学童の場合でも大人と同じく平均で
時給190円はもらえる。

明日のパンと米を得るため、わずかな賃金を稼ぐ彼の苦労を思えば、
授業中の居眠りくらい容認するべきでしょう。教師の態度はまったく許せませぬ。


お昼の時間になりました。
班ごとにテーブルを並べ、楽しい食事としたいところですが、
教室の空気は重く、楽しげに話をする者は皆無。

どこの学校も貧しい子供が多く、給食費が払えぬ親が多い。
給食を注文できるのは全体の三割。残りはお弁当を持ち込むことが
許可されているが、親が働きづめのため、お弁当を作る暇がないのか、
コンビニのお弁当やパンで済ませる子が目立つ。

お弁当すら持ち込めない子は、水道水で済ませるのです。
悲惨の極み。これでも政府は自己責任だから仕方ないと言い張る。
これを鬼畜の所業と呼ばすになんと呼ぼうか。

私のクラスは4年3組。クラスの人数は33名。うち26名は片親。
私も母がマリーダの炎で焼かれてしまった。片親組の仲間入りです。
昨今の離婚率と親の自殺率の高さは以上です。

『おまえんち、お父さんいるの? すげーな』
『両親がいる家庭は金持ちなんだろうな』

片親組はシングルマザーが大半。父がいる家庭は珍しいのです。
わたくしとて、パパが家に戻るまでは片親で育ちました。

「さあ、みなさん。いただきましょう」

担任の女の先生は、大きな眼鏡とポニーテールの長い茶髪が特徴。
育ちが良いのか、口調が穏やかで
少しオドオドした感じで我らに接する。
年は24歳で、それなりに整ったお顔立ちをされております。

まあ女など、読者モデルをする私に比べれば、
誰しも大同小異でブスに分類するべきなのですが。

【美】とは、私のことを指すための言葉。
もちろんマリンもブス。憎きミウもブス。
パパが好きだった渋谷美雪もただのデブス。

坂上瞳は……それなりの顔立ちでした。
いえ、やはり綺麗でした。
彼女の容姿は端的に申しまして無駄がないのです。
しなやかな手足、セミロングのさらさらな髪。
32歳であの美しさとは面妖なり。

ママは私から見ても十分に美しい。
仕事で疲れているためか、頬がごっそりと痩せこけてしまった時期も
ありました。今はパパと再会できたことで顔に血の気が戻りました。
アイドルのように目鼻立ちがはっきりとした美人でございます。
遠目から見てもママの容姿は目立つと学生時代より評判でした。

しかしながら、私も成人すれば彼女らを超えることは確実。
地球広しと言えど、私以上の美女など、そうそうおらぬことでしょう。
わたくしが生まれながらに優れた美を授かったことを、アッラーに感謝いたします。
おっと。わたくしはムスリムではありませんでした。

「ねえねえ。斎藤さんさぁ」

珍しく女教師が私に声をかけてきました。
今日は、たまたま私の班と同席で食べています。
担任は各班ごとに日替わりで回る決まりなのです。

「昨日熱出して休んだ割には元気そうじゃない?
 もしかして、サボりだったのかなって…」

「微熱でしたから、常備薬を飲んですぐに熱が下がったのです。
 今朝起きたら平熱でしたので、学校に来れると判断したまで」

「ふーん<`ヘ´>」

どうやら納得されてないご様子。
担任は、給食は高いと言い頼まず、
お昼ご飯はコッペパン(ジャム・アンド・マーガリン)だけです。

パンだけでお腹がすかないのでしょうか。
金曜日だけは奮発してチョコレート菓子(業務スーパーで
買った廉価の輸入物のようです)も食べているようですが。

「昨日さ」
「はい」
「私の知り合いが近所のスーパーで働いているんだけど、
 あなたがイケメンの男性とショッピングしてるのを見たらしいのよ」

担任は、イケメンの特徴を教えてくれました。
まさしく私のパパでしたので、素直にそのことを伝えました。

「面目次第もありませぬ。サボったことを認めますわ。
 今日は放課後に収容所で体罰を受ければよろしいのでしょう?
 好きになさってください。悪事を働いた以上、覚悟はできております」

小学校の収容所は、自民党の指導の元、各自治体が設置している。
体育館の地下を改造して作ったのです。体罰の内容は教師によって異なります。

優しい先生なら、腕立て伏せを50回。
途中で休憩をしても、累計で50回やれば認められる。
厳しい先生ならば、髪を引っ張ったり、顔を床に叩きつけたり、
好きなように暴力が振るわれる。

収容所送りになった生徒は、次の日は顔を真っ赤に
腫らせているのですぐにわかる。
みな、死んだ魚の目をし、将来の夢も希望もない
これが令和10年の小学生の姿なのです。

「いいえ。罰はなしよ。それよりも」

なんと (;゚Д゚) 罰はなし?

「あなたがイケメンと買い物してたのが気にくわないのよ」

「そのイケメンはわたくしのパパなのですが」

「斎藤さんちはお母さんだけの家庭じゃなかった?
 仕事関係の人とかじゃなくて本当にあなたのパパなの? 
 あなた読モだから芸能人の知り合いがたくさんいそうじゃない」

「わたくしのパパだと言っているでしょ。
 パパとは長らく疎遠でしたが、
 最近我が家に戻って来てくれたのです」

担任は普段は物静かな女人ですが、
イケメンにこだわりがあるのか、今日は餌を求める鯉のように食らいつきます。
私がパパのことを詳細に伝えると、
興味深々と言った様子で、ようやく納得したようです。

「そうなんだぁ!!
 イケメンのパパがいてうらやましい(*'▽')
 しかも27歳って若すぎでしょ。
 次の授業参観の時は必ず連れてきてね!!」

「ええ。パパに伝えておきますわ」(この女……)

担任は確か独身のはず。人の父に色目を使いそうで不愉快です。
同僚の男性は中年が多く、若くても目の細いブサイクばかりで
目の保養にならないとか。
確かにうちの学校はイケメン教師枠が一人もおりません。

パパは聡明な方ですから、教育学部を出て教師でもやったらいかがかしら。

食後になりました。昼休みはまだ続くのです。
ここからが本当の地獄。

私には友達と呼べる者はおりません。
というのも、わたくしの学校では何をするにしても周囲に注目され、
少しでも人より目立つ特徴や言動があると目を付けられるのです。

私のクラスには、いじめっ子グループの女子が三人もいて、
休み時間や昼休みの度にターゲットを選んで遊ぶのです。

「や、やめてください、お願いします」

蚊の鳴くような声で話すのは、ショートカットの黒髪に
花柄の髪留めをした、手足の細い女子です。
両腕を不良女童たちに押さえつけられ、抵抗を封じらています。

「うわwwこいつ、もう泣きそうになってるwww」
「言っておくけど、大きな声出したら腹殴るからwww」

教室の後ろでは、このように不良たちに目を付けられた女子が
毎日いじめを受けているのですが、教師たちは見て見ぬふり。
女子はもちろん、男子達はニンテンドーDSやスマホを
いじるふりをしています。

「早速今日の一撃目はwwwこれですwww」

大きなシュークリームの入った箱です。
シュークリームを、思い切りいじめられっ子の顔に塗りたくります。

「う……( ;∀;)」

「あははwww顔がクリームだらけになっちゃったねwww」
「テレビとかである罰ゲームみたいじゃんwwww」
「ごめんねぇ。お洋服汚れちゃったねwwwwでも殴ってないからおkだよねwww」

女子達は、六個も入っているシュークリームを、いじめられっ子の
上着やスカートに塗りたくり、全身をクリームだらけにしてしまいました。
なんという暴挙。女児の服を汚すだけでなく、食べ物を粗末にするとは。

わたくしの前世(平安の時代)では貴族を覗いて砂糖菓子など
食べられるものではなく、わずか数センチの角砂糖でさえ
市場では高値で取引をされたものです。
当時は西洋との交流無きため、クリームなど当然ありません。
それを、ただでさえ消費税率34%の世の中で人を攻撃することに使うとは。

「どうしてこんなこと……するんですか(´;ω;`)」

(´Д`)だって歩美さぁ。最近付き合い悪いじゃんww?
(´Д`) 前回のテストの前まで宿題とか写させてくれたのにさぁww
(´Д`) まじめに勉強しないとだめだよとかww
     なに優等生ぶったこと言ってくれてんのwww

いじめられっ子の名前は、歩美さんというのですか。
私以外の女人はみなブスなのですが、歩美さんはそこまで
ブスではありません。顔をクリームでいっぱいにしていなければ、
まあまあの美少女と言ったところでしょう。

(´Д`)歩美がしゅーくりむ好きだって言うからさwww
     好きなだけ食べさせてあげたんだよwww

(´Д`)その恰好で帰ったら周りがうさいからww
     今日はジャージで帰ってねwww

(´Д`) 言っておくけど今日のこと、親とかに
      ばらしたら、どうなるか分かってるんだろうなwww

(´;ω;`)は、はい

(´Д`)おーし、それじゃあ、床に落ちたシュークリームのカスを綺麗にしてよ。

(´;ω;`)え…

(´Д`)床に這いつくばってww犬みたいにぺろぺろしろよwww
(^○^)  おっ、それいーねー。まっちゃん、グッダイディア!!
ヽ(^o^)丿 キャハハwwユミの英語の発音、チョー受けるwww

歩美は土下座するように頭を垂れると、不良女たちは彼女の頭の上に
自らの足を置いて高笑いをしていました。

ここまでされても、クラスメイトは見て見ぬふり。たまに廊下を通りかかる
先生達からも丸見えなのですが、やはり関心を示さず。
この学校はどうなっているのですか。
まともな教育機関とは思えませぬ。

(つд⊂) お兄様ぁー!! お兄様ぁー うわああああん!!

歩美さんは、大泣きをしてしまいました。
小学四年の童女にはとても耐えられぬことだったのでしょう。

(^○^)きゃはははwwこいつ、兄貴いるのかよwww
ヽ(^o^)丿今度さぁ、こいつの兄から金もらってきてもらおうよwww
(∩´∀`) きゃははwwwいいねそれwwww

歩美さんは自らの頭部を守るように床の上で丸くなり、
不良たちは彼女の腕や背中を中心に容赦なく蹴りを入れていきます。
顔を痛めたら目立つので、顔以外の部分に暴行を加えるのです。

昼休みが教師が終わり、五時間目の教師入ってきました。
担任の女教師です。
ここは小学校なので担任の先生が全ての授業を受け持つのです。
名前はミキ先生。みんな下の名で呼ぶので苗字は誰も知りません。

「ちょっとー。後ろの方、なにしてんの」

普通ならば注意することろでしょうが、
先生は不良たちのことに関心がないのか、

「……もー歩美ちゃんったら。床を汚したらダメじゃない☆彡。
 授業の邪魔だから、すぐ綺麗にしてほしいなって」

A YU MI (>_<) えっ……

「床の上でシュークリームを食べていたのは歩美ちゃん……だよね?
 歩美ちゃんは甘いもの大好きだもんね(^○^)
 (*^▽^*)今なら先生怒らないであげますから、早く綺麗にしようね。
 掃除用具入れに雑巾とバケツが入ってるでしょ」

(;´・ω・) そ、そんな……。そんなのってあんまりです……(ノД`)・゜・。

クラスメイトらは、相変わらず見て見ぬふり。
誰しも自分が次のいじめのターゲットにされるのが怖いのです。

不良グループたちは、なぜかみな母親がバレーボールの経験者だからか
背が高く、力も男子よりも強く、いじめのターゲットを
男子にすることさえめずらしくありません。
小学4年ですと男女の力の差がほとんどありませんからね。

(´;ω;`)うっ…うっ……私、もうこんなの嫌です……(つд⊂)うわああああああん!!

もうこれでは授業になりません。
私も最初は傍観者の一人になるつもりでいたのですが、
何の罪もない歩美さんが虐げられているのを見ているのが
我慢ならなくなってきました。

「担任の先生閣下!! 私がお掃除を手伝ってもよろしいでしょうか!!」

「あらぁ?Σ(゚Д゚) 斉藤さんには頼んでないのに、
 そんなに汚物の清掃がしたいのかしら。変わった子ねぇ。
 まあ私は…構わないけど」

不良グループたちが、今度は私を目の敵にするように見てきます。
歩美を助けたら、今度は私がいじめの対象にされるのでしょうか。

きっとされるのでしょう。だったらこれはどうかと、
今考えても愚かな行為をしてしまうのです。

「これでも食らいなさい!!」

私は不良のリーダー格の、狐のような顔をした細身の女に「腹パン「」をしました。

「うげ!? いったぁ。いきなり何すんだよテメエ!!」

お返しに蹴り(お腹)を食らい、悶絶しました。やはり私の腕力では
叶いませぬか。平安時代より琴の練習に励み、短歌と漢文の読み書きばかり
していましたから。武道の類は経験がありませぬ。
令和の時代においては、体育を一番苦手な科目としています。

「サユミ、大丈夫?」

「意外と痛かったけど、平気だよ(^○^)
 それにしても斎藤の奴、いきなりやってくれんじゃんwww」

「ちょうどいいや。こいつもボコっちゃおうよwww」

さすがに五時間目の授業中なので先生が止めてくれました。

とはいえ、これで奴らの腹の虫がおさまるわけありません。
今回の場合はわたくしの方から喧嘩を売ったわけですから。

放課後、さっそく呼び出しを食らいました。
場所は体育館裏です。誰が素直に行くものですか。

私は6年生のカッコいい男子を見つけ、適当なる嘘をつきました。
放課後に体育館裏に行けば可愛い女の子に告白されると。
その後はまっすぐ家に帰ったので、その後どうなったかは知りません。

マリン「私が聞いた限りの話をお伝えしますわ」

――太盛・イフリートとアナスタシアの娘「マリン」が語る。

お父様がドラッグストアで勤務を始めてから2週間が経過しました。

お父様は品出しの担当です。
売り場が広くて商品の位置を把握するのに一苦労。
シャンプーや飲料水など力を使う仕事があり、
バックヤードではエアコンが効いていないので夏場は大汗をかくとのこと。
お父様は暑がりなので体力の消耗が激しく、苦痛のようです。

お店はお客の出入りがありますから、
ピーク時は店員同士で助け合わなければお店が回りません。
混雑時は、レジへヘルプに行かないと気が効かない新人だと
おばさん達に目を付けられてしまいます。

レジのお仕事も、簡単なようで覚えるまでは難儀するそうです。
日用品からアイスや冷凍食品も扱っていますから、
袋詰めは細かく仕分けないといけない。
ポイントカードの提示を求めても、ボケた老人には何度も聞き返される。
後ろで待っている人に舌打ちされる。

たまにお客さんからお薬について聞かれる時が一番困るとか。
お父様はアルバイトで薬剤師ではないのですが、
夜に薬剤師が帰ってしまった後は対応をしないといけません。

適当な薬を販売したら後でクレームになるので、
お客と一緒に用法容量を読みながらの販売。
薬の種類や名前も豊富で、記憶力が必要な職場とのことです。

初めての職場のため戸惑うことが多く、仕事の覚えが悪いと
パートのおばさん達から嫌味を言われることもあるとか。
お父様は聡明な方なのに、悪しきミウの呪縛によって
学園に缶詰めにされてしまい、俗世間で
働いた経験がないから苦戦されているのです。

副店長の田辺さんは人柄がよく、
多少のミスなら笑って許してくれるそうです。

「通常業務は、まだ良いのだ。18時以降になると、
 途端に強盗の襲撃が始まる。平日は特に多い」

先日は、装甲車3台が駐車場を襲撃してきたそうです。

「バックヤードに置いてあるロケラン(対戦車ロケットランチャ―)を
 パートさんと一緒に構えてな。敵のタイヤを狙って放つのだ。
適当に狙っては容易には命中せぬ。相手が射程距離に達するまで
 塹壕で息を殺し、さあここだ、と思う所で一斉に打つのだ。
 するとな、こう、ぱぁあんと火花が飛び散ってな。
 装甲車が横倒しになる。まだ生きている乗員が這い出てきて、
 今度は機関銃で撃ち殺すのだ」

お父様は、貴重な男手なので前線で戦うことが多いのです。
私は父が怪我をしないかずっと心配していましたが、
やはりと言うべきか、左の薬指に敵の銃弾がかすったのです。

幸い出血はすぐ止まりましたが、包帯を巻いた状態が痛々しい。
これの状態でもお店は人手が足りないため、通常通り働かなければなりません。

「40代のパートさんがな、敵の砲弾の破片が太ももに当たり
 大怪我をされた。味方がやられると殺意がわくものだ。
 あの時は我も一心不乱に暴徒に向けて銃弾を発射してな。
 敵が去った後も打ち続けたものだから、
 田辺さんにさすがに止められたものだ」

そのような危険な話をされるたびに、悲しくて胸が張り裂けそうになるなのです。
大切な父が、いつ命を落とすかもしれないと思うと……。
お願いですから、もう販売員のお仕事はおやめくださいと、何度もお願いしました。

「だがな。働くと言うのは、悪くないことだぞ。マリンよ。
 おぬしもいずれ働く機会があれば、我の気持ちが分かるようになるはずだ」

閉店後は、床に散らばる銃弾の処理。死体を近くの山林(公園)に埋める。
公園はどこも死体ばかりで、もう埋める場所がないとか……

ウエルシアは銃弾の貫通跡がそこら中にあり、柱も崩壊寸前、
補修が間に合わないガラスは、モンゴルテントに使われるフェルトを張る。
ほとんど青空営業に近い状態です。ウエルシアHDは投資に積極的な
企業ですので、近々ヤマダ電機並みの補修工事をして、
全国の店舗の要塞化をすすめるそうです。

「少なくてすまぬが、これが本日のまかないである」
「はい……。ありがたく頂戴いたしますわ」

焼きそばパンやサンドイッチです。
コンビニで売ってるような『おにぎり』もあります。
賞味期限切れの食材は、本来ならいけないのですが、
田辺さんに許可をもらって店員が持って帰っているとのこと。

時給210円のアルバイトですが、
食料が現物で手に入るのは文字通り美味しいメリットです。
オフィスワーカーや工場勤務ではこのようなメリットはないことでしょう。

「テレーズの分も用意したのだがな」
「今日も帰りが遅いようですね……」

最近は夜の7時過ぎに帰ることが多くなってきました。
部活には所属してないと聞きましたが…。
それに塾通いもしてないそうです。
残るはお友達関係なのでしょうか……。

テレーズのことは確かに気がかりですが、
今は父と一緒に居られる時間のほうが嬉しい。

「お父様。ぎゅっとして」
「うむ。これでよいのか?」

私は父の膝の上にまたがり、気が済むまで甘えるのです。
テレビの音がうるさいので消して、二人きりの時間を楽しむのです。

「マリンもすっかり大きくなったものだ。
 橘の家では偏った思想の教育を施されたのだろうがな」

「私も共産主義は大嫌いですわ。
 人は自由に生きたいと思うのが普通です。
 自由に生きていいではないですか。
 一党独裁を目指すための思想なんて気が狂っているわ」

「そうだマリンよ。人は皆、自由でいいのだ。
 人の子に個性を作り、
 自由な思想を持つようにアッラーが創造されたのだから」

「イスラム教のことはよく分かりませんが、
 お父様がお好きなようですから否定はしませんわ」

「マリンには信仰心はないのか?」

「これといってなにも。無神論者とでも呼ぶべきでしょうか。
 日本の神道や仏教にも全く興味ありませんから」

「そなたがそう望むなら我は構わぬ。
 信仰とは人に強制するものではない。
 ところが、ある日とつぜん目覚めることもある。
 ムハンマドのようにな」


イスラム教の創始者・ムハンマドは
ある日突然、大天使ジブリールが
(ガブリエル。聖母マリアに受胎告知をした天使。両性具有)

彼の前に現れ、神の書を朗読しろと命じた。
なんのことですか、と彼が訊くと、朗読しろとジブリールは本を押し付ける。
彼を圧迫死させかねないほどの勢いであった。
再びムハンマドが問い返し、ジブリールは本を押し付ける。
このやり取りを三度繰り返すと、ジブリールは本がクルアーンであることを説明する。

神の使いを恐れた彼は自宅に帰り、その日の出来事を妻に伝えた。
ムハンマドの妻アーイシャはムハンマドのことを大いに励まし、
世界で最初のムスリムとなる。

ムスリムとは回教と呼ばれ、ユダヤ、キリスト教徒らによって
神のご意思が多少謝って解釈されていることを訂正し、
経典を『完成』させるための究極の教えである。

イエスは神の子孫ではなく優れた預言者の一人であり、
母マリアもごく普通の女であったとアッラーは告げる。

そのため三位一体説(神、精霊、イエスは同一)
を信じるキリスト教徒を激怒させている。

これは信仰心なき日本人には想像が難しいだろう。
例えるなら、自らの母親が内臓を裂かれて殺されるのにも等しい屈辱である。

その後1000年の時を経て、ムスリムの信者数はますます増加する。
2050年までに世界人口の三人に一人はムスリムになると予想されている。


テレーズが学校でいじめられているのを知ったのは
それから数日後です。テレーズが脱衣所で肌着を脱いだ時に、
お腹に殴られた跡があるのを見つけたからです。
腕もいたるところが痣(あざ)で真っ青になっていました。

誰にやられたのと聞くと、「担任の先生」と答える。

まさか、と思いました。

普通に考えれば同級生の女子達でしょう。
確かに一部の不良グループに目を付けられ、
実際に暴行をしたのはその子達だったそうなのですが、
なんとテレーズを率先していじめたのは担任の女だそうです。

とても信じられない話です。

テレーズが、放課後不良たちに追いかけられて、職員室へ逃げ込み、
完全下校時刻までそこで待機する作戦に出た時。担任の女は
「テレーズはここにいるわよ」と不良たちに知らせ、体育館の裏や
校舎の片隅に連れて行かせ、ボコボコに殴らせる。

担任は、それだけで満足せず、英語の授業では
小学生では回答不能な問題(ドイツ語)をテレーズに質問し、
答えられないと公然と罵倒しました。

(別に小学生でなくともドイツ語など回答不可能でしたね……)

さらにテレーズの上履きを隠す、テレーズの体操着の名前欄に
「ブス」「チビ」と黒マジックで書くなど、
まさに小学生レベルのイタズラをした。
掃除の時間は一人だけで毎日女子トイレの掃除をさせた。

教師がいじめを助長させるとは……。

それに追い打ちをかけるように、不良グループも
帰り道にテレーズに絡み、数に物を言わせて殴る蹴るを繰り返す。

怒ったテレーズは、例えあとでボコられるにしても、
せめて不良グループのリーダーだけは倒すと心に決める。

人前では決して見せないと決めていた、イフリートの魔法を解禁する。
早朝オランウータンに変化し、リーダーの家の前で待機する。
彼女が玄関から出たところを500を超える握力で捕まえる。

(500は、アスリートが体力測定で使う計測器を参照。
 強めに握手すると成人男性の指を複雑骨折させるレベル)

リーダーの足を持ち、床に三度叩きつけると、泡を吹いて気絶する。
その際の衝撃で鼻をへし折り、左足をねんざさせました。

何事かと、娘の悲鳴を聞きつけた母親が出てきて大騒ぎする。
いかにもDQN風の、品がなく頭の悪そうな母親だった。

(現実世界の幼児虐待で毎週報道される、典型的な金髪DQNの母親。
 交際相手の男性と同居中に事件が発生するのは定番)

オランウータン・テレーズは母親を大声で威嚇してから戦意を奪う。
足を握力500でつかみ上げ、ジャイアントスイングをして
東京スカイツリーの方角へ投げてしまう。
仮に生きていたとしても、少なくとも全治3か月の大怪我でしょう。

土下座して命乞いをするリーダーを写メで撮り、
そいつの携帯を使って仲間の不良たちに送る。
不良たちは戦慄し、学校に来ることができない。

次は担任の番だと、さっそくクラスの朝の会(HR)で襲撃する。
テレーズはオランウータンの姿をクラスのみんなに見られてしまいましたが、
復讐したい一心でそれどころではありません。

※雑学  オラン(森の)ウータン(民)

担任の女は空手のたしなみがあるためか、ウータンの突進を受け止め、
簡単に倒れてくれません。500を超える握力で拳を握られても、
「けっこうやるわね」と言って、普通に戦っています。

体当たり、蹴り、張り手。50を超える攻防を経たのち、
子供なので基礎体力に劣るテレーズが息を切らし始める。

クラス中が早朝から始まった謎の決戦を見守る中、テレーズが一言。

「せめて理由を教えてくださりませぬか。
 なにゆえわたくしをいじめるのか。
 わたくしはアッラーに誓って貴方様に
 恨まれることをした覚えがありませぬゆえ」

「理由? そんなの決まってるでしょぉ。
 あなたのパパが、イケメンで素敵だからよ……」

会話の隙に腹パンを食らい、オランウータン・テレーズが
激しくのけぞり、一時的に酸欠状態に陥る。
腹パンをされても倒れないのはさすがです。

「( 一一) 奇怪なことをおっしゃる……
 わたくしのパパがイケメンであることは確かに事実。
 ですが、それがいかにしてわたくしを殴る理由へとつながるのか」

「先週ドラッグストアでパパ様を見たのよ。
 名札に『斎藤・イフリート・太盛』って書いてあったわ。
 あの人があなたのパパさんなんでしょ?
 もうね、一目見ただけで惚れちゃったわ(≧∇≦)
 家に帰ったら毎日あの人に会えるなんてチョーうらやましい!!
 そう思うと、つい痛めつけたくなっちゃうのよね」

「(;゚Д゚)まるで理由になっておりませんが……。
 パパに恋心を抱くのは勝手ですが、
 パパが既婚者であることを失念しておりませんか。
 既婚者に恋をしても成就することはなく、所詮は禁断の恋。
 抱いた恋心は女人らしくご自分の胸の中にそっとしまっておくべきです」

「そんなこと言われなくても分かってるわよ(;・∀・)
 そもそも私はね、あなたの態度も気に入らないの。
 昨日の夜、彼と近所のスーパーで買い物してるのも見たわよ。
 我がもの顔で彼を独占して、彼と手を繋いで歩いて
 ニヤニヤしたりして、なにあれ。見せつけてるつもりなの?
 胸がムカムカして脳が沸騰しそうな気持になったわ」

「我がもの顔も何も……私の実の父親なのですから
 仲良さげにしてもなんら不都合がないように思えますが。
 担任殿のおっしゃることは支離滅裂であり、
 醜き女人の嫉妬そのものではありませぬか」

うるさいわね。女心なんてそんなもんでしょと担任は言い、
両手を上げてテレーズに襲い掛かったそうです。
結局二人の激しい攻防は、お昼休み開始のチャイムが
鳴るまで続き、決着がつくことはなかった。

他の生徒達はやる気が失せて全員帰ってしまった。

私もお父様が世間の女性に人気があることが
決して悪いことだとは思いませんけど。
世の中には、担任のような変わり者もいますから、
くれぐれも相手には気を付けなければなりません。

私はテレーズの話を聞いてからお父様に尋ねました。
土日にお店に発情した雌豚のような女が来なかったかと。

お父様はなぜか現代風の口調で答えます。

「(゜-゜)ああ、思い出した。茶髪でメガネをかけた若い女性が来てたな。
 ピーク時だったんで、俺がレジのヘルプに入ったんだが、
 混んでるのにわざわざ俺のレジに並んできたぞ。
 会計の間、俺の顔をずっとキラキラした目で見てきて……
 あれってそういう意味だったのか」

担任は、さすがに仕事中のお父様に声をかける勇気はないのか、
普通の客として振舞っている。だが、機会があれば
娘のことをダシに、会話をしたいと思っているとか。

「ああいうの正直うぜーよ。俺が棚の前で検品している時も、
 用もないのに俺の周りをウロチョロして、わざと俺の視界に
 自分を入れようとしたりしてたな。普通の客にしては
 不自然な動きだとは思っていたけど、納得した」

「なんで女はああいう意味不明な動きをするんだよ。
 声かけたかったら普通にかけてくればいいだろ。
 でもあれか。女は男に声をかけるのが恥ずかしいんだっけか。
 学生時代のエリカはかなり積極的だったけど、
 エリカが代わり者だったのか」

お父様は、妻がたくさんいる身なので浮気するつもりはない。
(妻らは事情により会えなかったり生死が不明だが)
そもそもあの女と話したこともないのに、
異性として意識するのは無理があると言っています。

「だけど、来週あの女と会わないといけないんだよな……」

テレーズの素行が悪いため、学校から保護者の呼び出しがかかったのです。
テレーズの保護者は現在ではお父様一人のため、お父様はシフトがお休みの日
(週五シフトは土日を含むので、平日二日はお休み。土日は時給アップ)
に学校に行くことになりました。

テレーズのクラスの4年3組の教室では、
担任が恭しい態度で太盛お父様を迎えたのでした。
テレーズは交えずに、親と教師だけの話し合いです。

「あの、初めまして。私は斎藤テレーズちゃんの
 担任の有田(ありた)ミカと申しますわ」

「あいにくですが、初めてじゃないでしょう。
 僕の勤めているお店で何度かお会いしているじゃないですか」

「(≧∇≦)なな、なんと。ご存知だったんですか!?」

「ええ。あなたのことはマリンからよーく聞かされていますよ」

「マリンとは? 娘さんのお名前でしょうか?」

「テレーズの姉妹みたいなものです。あの子達の母親は違うけど俺の娘なんですよ。
 最初に言っておきますね。今回の面談は無意味です。
 俺の娘をいじめるような担任の先生とお話することは何もありません。
 すぐに転校の手続きを取らせてもらいますので、それじゃあ」

お父様が扉を開けようとすると、担任は怪力で扉を開けないようにしました。
お父様は筋骨たくましい男性ですが、扉がびくともしません。溜息と共に振り返り、

(; ・`д・´)まだ何か言いたいことがあるんですか?

(>_<) 私ったら、テレーズちゃんに嫉妬して大人げなかったって
    反省してるんです。ずっとぉ、お父様に謝りたいと思っていたんですぅ。

(; ・`д・´) そう思うんでしたら、早いうちに教師を
       辞めて転職先でも探して下さい。
       俺は家でやりたいことがあるんで、帰らせてもらいたいんですが。

(>_<) いやぁ。お願いだから話を聞いて。捨てないでぇ。

(;一_一) 捨てるも何も、貴女とは何の関係にも発展してませんが

(ノД`)・゜・。 堀さんは、よく娘さんと一緒にお買物されてますけど、
         奥様はいらっしゃらないのですか?
           
(; ・`д・´) …妻のことはプライベートな事情があるんだ。
        あんたに話す義理はない。

(*^▽^*) あは! てことは、奥様とは別居中で離婚寸前とかですか?☆彡
     みなまで言わなくてもいいですよ。私は察してあげますから!!
      実はぁ……私も独身なんですよぉ。キャハ!

(´-`).。oO なんだこいつ……なれなれしいし、うぜえ……

お父様は再び扉を開けて出て行こうとしますが、怪力によって閉じられます。
また開けようとするが、やはり閉じられる。そのやり取りを3度も繰り返すと、
お父様は観念して担任とおしゃべりに興じることにしました。

その日の面談はテレーズの素行について話すことが目的だったのですが、
終始お父様の好みの女性(髪型や服装)や、趣味の話ばかりになり、
ついにテレーズの話題は一つも出なかったそうです。

そしてのちにテレーズが噂で聞いたところによると、
なんと担任は既婚者で、結婚後2年の旦那とはすっかりレスで、
女としての自分の自信を見失っていた。子供をまだ作っていないため、
早めに新たなパートナーを探していたのでしょう。

妻が浮ついた性格だからか、夫も会社で若い女と浮気しており
夫婦関係はすっかり崩壊。夫のことは
『家に帰ると、なぜか家にいる同居人』と称している。

平成の大不況の結果か、女性の社会進出が進んだ結果、
多くの女性が経済力を得て浮気の比率も劇的に増加しました。
家庭は家庭。外での恋は別。子持ちでも平気で愛人を作る人が後を絶ちません。

令和10年では、浮気のことを『婚外恋愛』と呼ぶそうです。
消費税率34%のストレスフルな世の中。
買い物をしてもいつ死ぬかもわからない地獄では
貞操観念を持つものは少なく、浮気を非難する風潮はありません。

ムスリムなので浮気をしないと誓うお父様は少数派なのでしょう。
(妻はたくさんいますが……。一度関係を持った女性のことは
 絶対に忘れないのは美徳かもしれません。私は認めませんが)


以上が、私がお父様とテレーズから聞いたお話しです。
できるだけ脚色せずにそのまま伝えたつもりです。ではまた別の機会に。           

太盛・イフリート「( ˘ω˘ )令和の女人は実に扱いにくい…」

 賢者イフリートは語る。

令和10年 10月3日 木曜日
ウエルシア 埼玉浦和店 AM 8:00 
 
「イフリートさぁん。俺は今日他店のヘルプに行かないといけないんすよwww
 朝から訓練された強盗集団に襲われて店員が全滅するかもしれないとかwww
 つーわけで夕方まで戻りませんから、それまでうちの店を頼みますよww」

うむ。令和10年は強盗が多発するからな。
副店長の田辺殿が助太刀に行くのは致し方ない。

本日のシフトはどうなっているのか。

なんと、店に残っているのは我の他には

中年女性のパートさんが2名(販売スタッフ)
薬剤師の50代の男性。新人の女子大生のアルバイト

以上の4名である。我を含めれば5名だが、
強盗に対抗するためには最低でも6名での勤務が理想とされる。
戦闘時に頼りになる男手は、我の他に薬剤師のみだ。

この店のシフトは、アルバイトは
8時~22時までの間で最低4時間は働く決まりだ。
パアトならば3時間(午後のみ。13:00から17:00)も可能だ。
バイトもパアトも週三日からとなっているが、我は週五を選択している。

我は元ニイトからフリイタアへ進化した。
土日を含む、9時~17時の固定勤務を選択する。
このやうな働き方を選ぶ者をアルバイトでなくアソシエイトと呼ぶ。

17時以降に学生アルバイトやフリイタア諸兄らと交代せり。
夕方以降のシフトは人数が足りる。
(とっぱつで休みの者が出た時は残業させられるのだが…)

マリンが強盗に襲われることを心配してくれるので
夜遅い時間帯は働かぬことにした。
当初は夕方から夜の勤務にしようかと思ったのだがな。

しかし昼間とて油断は禁物だ。

令和10年では老人が金に飢えておる。
年金支給額が月額換算で660円。
健康保険、介護保険制度は廃止された。

正午前後に、お腹をすかせた老人たちが
アサルトライフルを片手に突撃してくることもある。

「ちーっすwwwおつかれっすwww」

朝は納品のトラックがやってくる。
トラックとは名ばかりのジープで、銃で武装した
兵隊(配達員)が4名乗車する。

ジープの背には雨除けのシートが張られている。
シートをさっそく外し、医薬品や日用品が満載された
コンテナを倉庫に入れる。力仕事である。

この瞬間が一番強盗に狙われやすい。
我も小銃に備えられたヒモを肩に担ぎ、納品を手伝う。
倉庫の外壁はべトンで塗り固めた。
戦車の主砲でも食らわない限りは破壊されることはない。

「いつも手伝ってもらってサーセンねwww
 定員さんたちに差し入れもあるっすよwww」

『定員さん達へ』と書かれた段ボールがある。
石鹸やシャンプーの試供品である。
新商品として後に陳列されるものを、いち早く我らに
プレゼントしてくれるのだ。気の利いた業者である。

令和10年の低賃金と消費税を考えると、現物で支給されるのはありがたい。
株式投資の世界でも、株主優待品が一層注目されることだろう。

納品は終わった。
検品して商品に誤りがないこと確認した後は、品を棚に並べるのだ。

同じ商品名でも中身が三個入り、四個入りとあり、
並べるだけでも一苦労だが、ジャンコードの
下四桁で見分ければよいと先輩に教わり、感心した。
食品には賞味期限があり、薬には使用期限がある。
期限が近い物ほど前列に並べる。

作業にはコツがある。
品物をいったん全て棚から出してしまい、
入荷してきた商品を奥から並べるとやりやすい。

ペットボトル飲料やシャンプーの重さで腰に負担がかかる。
朝一から体力を奪われる仕事だ。慎重にやらねばならん。

ぱおーん

と、何やら聞き慣れぬ獣の鳴き声響く。

ここは駅前通りにあるウエルシアであり、
猫以外の獣はめったに見かけぬ。何事かと店の外を見ると。

象(ゾウ)が、いた。象は地を歩く哺乳類としては最大である。

ただの象にあらず。いわゆる戦象である。

Wiki
戦象(せんぞう)とは軍事用に使われた象のことである。
主にインド、東南アジアや古代地中海世界で用いられ、
突撃で敵を踏み潰すか、あるいは敵戦列を破砕することを主目的とした。
象の社会は血縁のある雌の群れを基礎とした母系社会であり、
それが原因で雌象は他の雌象へ向かって行く傾向があったため、
軍用には雄の象が用いられた。

ゾウは一頭。一頭でウエルシアを踏み倒すに十分すぎる。

騎乗者は褐色の肌をしているから、タイなどの国籍者と想像する。
操縦者が一名。後ろで弓を放つ者が2名おる。

ゾウの最大時速は30キロ。突撃されたらひとたまりもない。
何よりも恐ろしいのは、その圧倒的な体躯である。
足を踏み出すごとに店内の陳列棚が大いに揺れ、
いっそ柱ごと砕け散るのかと錯覚する。

「ぎゃああああああああああああああ」
「うあああああああああああああああああ」

他の従業員は我先へと逃げ出してしまう。
薬剤師の男が女より先に逃げていたのが気になるが。
我らは敵の機械兵器を倒すための訓練は
受けたが、象に限っては論外である。
背の低い戦車と違い、言葉で言い表せぬほどの圧迫感がある。

「うわあああ、こっちに来るぞ」「逃げましょう!!」

客共も逃げる。会計を済ませず知らぬ顔か……
けしからんぞ。きさまら。固形石鹸やメイク落としを抱えて逃げるでない。

令和10年の日本では強盗が流行しているが、武器弾薬の類にとどまらず、
ゾウまで使役するとは。日本の国土は縦に長く、地域の気候の差は
激しいと聞くが、はたして象などいるのだろうか。
密林地帯がないと象は生息せず。

仮に外国から象を輸入することにしても困難を極める。
麻薬の密約とは次元が異なる。
いや……。武器弾薬が町中にありふれる
令和10年で詮索しても栓無き事と気づく。

象は、店の入り口を突き破り、店の中に侵入してきた。
我の他に店内に留まる者なし。

「おのれ。これでも食らえ」

象の背に、ライフル弾を数発打ち込むが、まるで効果がない。
いよいよムキになって暴れるので手が付けられぬ。

ゾウは大きな音を苦手としており撃退に効果があるとされる。
我らの主な武装である自動小銃は、
最新式にて銃声の消音装置ありけり。効果薄し。

店の奥には迫撃砲や野砲もあるにはあるが、
重量物にて一人で扱えぬ。
弾薬庫から弾を運ぶことも困難なり。
加えて、副店長の田辺氏の許可なしには使えぬのだ。

「ぐっ……!?」

左の腕に焼け付くような痛みが走る。
どうやら、弓を構えていた騎乗者にやられたようだ。

矢じりは三角形の鋭利な形をしている。
これが本当に自分の腕なのか。
自分の左腕から矢が生えているかの如く。
弓の羽飾りが妙に憎らしく、恐ろしく感じる。

激痛はあとから襲ってきて、もう何も考える余裕がない。
どくどくと、生暖かき我が血液が流れてゆく。
自ら矢を引き抜く余裕すらなく、
ただゾウによって荒らされる店内を眺めるのみ。

我が整然と並べた陳列棚が粉砕されていく。
スナック菓子の袋がこちらに飛ぶ。
化粧品などコスメグッズが床に散乱する。

おのれ。売り場を綺麗に整えた定員の苦労を何だと思っておる。
我など朝から納品される品物を、
風雨にさらされながら店内に運んでおるのだぞ。
我が負傷していなければ恨み言を言っていることだ。

騎乗者共は、床に這いつくばる我には興味を失う。
店中の品物を大きな木の箱に詰めて、象の背にロープで括り付ける。

ああ……。我が勤め始めてようやく仕事にも慣れてきたところなのに。
客の出入りによる繁忙時間を把握し、
客の買い物にそつがないように気を留めつつ、
ルウティン・ワアクをこなせるようになった。

店員の仕事とは、視野を広くし、常に気配りをせねば勤まらぬと知る。
また客の個性多様なりて、摩訶不思議な言動をし、
店員を困惑させる者、老人に特に多し。

ウエルシア浦和店には愛着がある。
今日の事件をきっかけに多くのパートさんが職を辞すと予想す。
復興にどれだけ多くの時間がかかるのかと思うと、涙を禁じえない。

「あっそこにいるのはもしかして……。あーやっぱり。
 誰かと思ったら、斎藤さんのパパさんじゃないですかぁ(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

底抜けに明るい女人の声が不快だ。
いよいよ生死の境をさまよう時に何者かと思うと、我の愛する娘、
テレーズの担任の女がそこにおる。名前はミカだと記憶す。
苗字は田中か佐藤か。思い出せぬため下の名前で呼ぶ。

喉の渇きが激しさを増し、会話することが困難だが仕方ない。

「のう……ミカよ」
「きゃ(≧∇≦) 下の名前で呼ばれちゃった☆」
「我は一刻を争うほど重症だ。すまぬが、近隣の病院まで連れて行ってくれぬか」
「はいはーい。ただいま連れて行きますわ (∩´∀`)∩」

ミカは、看護の経験でもあるのか、我の矢を正しい方法で抜き、
応急処置としてガーゼと包帯で止血の措置を取る。
その動作迅速にて無駄がない。

「小学校では銃の訓練で死傷する子が後を絶ちませんから、
 このくらいは朝飯前なんですよ(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

気が効くことに、脂汗で汚れた我の顔をハンカチで吹いてくれる。
優しい手つきだ……。女の細く繊細な指で触れられると安心してしまう。

ミカは、自分を大天使ミカエルの生まれ変わりと語るが、相手にしない。
余談だが、ミカエルをフィン(ランド)語ではミカと呼ぶ。

それより気になることがある。
ミカは平日の日中にドラッグストアを訪れておる。学校はどうした。

「(´∀`*)ウフフ パパさんはお忘れですか? 今日は祝日。
 世界の王の中の王、首相閣下の奥方のお誕生日ですから、
 お店などのサービス業以外はすべて御休みなんですよ」

そうだったのか……どおりで平日にしては子連れの客が多いとは思っていた。
サービス業では祝日休みと縁なきため普段からさほど気にせぬ。

街を歩いても銃弾が飛び交う令和10年。
病院は患者であふれ、仮に緊急搬送されても放置されること常にて、
最悪治療を待つまでに死に至る可能性大なり。自宅で我を看護するとミカは言う。

「Σ(゚Д゚)待たれよ。ぬしが既婚者なのは知っておるぞ。
 ぬしの夫に見つかると言い訳に難儀するであろう」

「あの人は祝日も一年中出勤してますから大丈夫ですよ(^○^)
 休の日は朝から釣りに行って夕方まで帰ってきませんから」

マリンの待つマンシヨン(わが自宅)で療養するのが最善だと我は主張するが、
ミカもゆずらぬ。我がついに駄々をこねると怖い顔をする。

「私がどうしてもってお願いしてるのに、ダメなんですか?」

地を這うかの如き低い声に、背筋が冷える。この女に逆らったら
何をされるか分からぬと察し、やむなく応じる。なに。
いっとき治療のために立ち寄るだけだ。大したことはあるまい。

我はミカの車に揺られ、5分とせずに彼女に自宅に付いた。
一軒家である。中々広いな。5LDKもあるという。
さっそく二階へ案内された。

これミカよ。どう見ても夫婦の寝室ではないか。
ダブルベッドになっておる。
我は他人の夫婦の寝床で体を休める趣味はないのだぞ!!

「今は夫婦別々の部屋で寝てるんですよ(⋈◍>◡<◍)。✧♡
 あんな汚い奴と一緒に寝るわけないじゃないですかぁ」

仮にも旦那であるのに汚い奴とは……(;^ω^)

二階には四部屋もあり、夫は別の部屋で寝ているそうだが……。
一階には広々としたリビングあり。二階部分も随分と広く取ってあるな。
将来において子供を複数持つことを想定していたのか……。

「パパさんが望むのでしたら、
 ずっとこの家で暮らしても構いませんけど(^○^)
 キャ(≧∇≦) 言っちゃった!!」

この女は自分が何を言っているのか分かっておるのか。
大概にせんかと思い、無理にでも外へ出てしまおうと思う。
足首が鈍く痛む。どうやら弓で撃たれた時に転び、その際に足首をひねったようだ。

「はいはい。暴れないでくださいね?
 今治療しちゃいますから」

包帯を外し、傷口を消毒し始める。

実際は重症であり、自宅で治療できるレベルではない。
太い血管が切断すれば出血の多量により、失血死の可能性あり。
動脈切断により、血液がいちメートル先まで噴き出る事例、多々ありけり。

また筋肉のいずれかの組織が破壊された場合、完治は困難。
後遺症が残り腕の力で物を握ることができなくなる。

最も恐ろしいのは、貫通した傷口にばい菌が入る場合だ。
治療開始までに時間がかかると手遅れになり『切断』になる。

菌が全身に回る前に、腕を落としてしまうのだ。
足の負傷をした場合も同様である。
戦争シネマで手足の切断シーンが見られるのはこのためだ。

令和10年のギャグ小説でそこまで設定を凝っても窮屈になる。
我はミカに軽く消毒されて再びガーゼと包帯を巻き、
後遺症もなく回復に向かうことにしておく。

「ミカよ。お主には世話になる」

「えへへ(∀`*ゞ) 気にしなくていいんですよ。
 私が好きでやってることなんですからぁ。
 どんな経緯であれ、パパさんを私の家に招待できたんですから」

目が輝き、肌がつやつやしている。
これでは発情期のメスの顔ではないか。
治療の代償としてそちらの関係を迫られる恐れあり。

足首には湿布を張ってくれたので、こちらはすぐ回復するかもしれぬ。
足が治り次第、帰宅したい。否、むしろ今すぐ帰りたい。
応急処置は終わったのだ。さあ、帰らせてくれ。

「そんなに帰りたいんですか?」

「う、うむ。別にお主のことが嫌いなわけではないぞ?
 我には娘が二人いる。我が帰宅せねば二人とも心配するであろう」

「まだ夕方まで時間がありますよ。
  ゆっくりしていけばいいじゃないですか」

ゆっくりしていってね!!(>_<)

などと悠長に構える時にあらず。我は学童時代に
橘エリカ嬢に似たようなことをされた経験がある。
初対面時より我に多大な好意を示し、執着するタイプの女である。

なにゆえ我に好意を寄せるのか。
前世がペルシア帝国の生まれで顔は太陽のごとく美しいと
誉れを受けていたが、現代の日本は外見より「金」に重きが置かれる。
金こそが全てである。

男であれば「収入」「財産」などに重きが置かれることであろう。
経済の低迷が進む令和10年では誰しも時給200円前後の低収入だが、
我もその例に漏れず。
現職はアルバイト。前職はニート。資産どころか現金預金すらなし。

我が分別のある女の立場であれば、このような男は選ばぬつもりだ。

「ヾ(≧▽≦)ノ だってパパさんは、かっこいいんだもん!!」

ミカはそう言う。

「20代でまだまだ若いし、娘さんのこと大切に思っていてるところとか素敵。
 子煩悩な男性って憧れるんですよね。体つきも引き締まって筋肉質でセクシー!!」

「これだけの家を建てられる君の旦那さんの方が素敵じゃないのか?」

「私の旦那は47歳ですよ」

なんと……(;゚Д゚) 年の差婚であったのか!!

旦那の金目当てで結婚したが、性格面などでうまくいかず、
結局は若さと外見を求めて我にたどり着いたとのこと。

「若さはお金じゃ買えないんです」

ミカは若いイケメンにこだわるようだ。
そして困ったことに。我が溺愛している娘達にも大いに嫉妬している。
特に教え子のテレーズが、スーパーで買い物中に
いかにも我の娘として振舞っているのが我慢ならぬらしい。

理解に苦しむ。我が娘なのだから娘として振舞うのは当然のことであろう。

我はベッドで横になり、時が過ぎるのを待つ。
重症者ならば眠気に勝てず、まぶたを閉じるところであろうが、
我が子が気になり仕方がない。
今頃テレーズやマリンはどうしているのだろうか。

テレーズは学校の問題は解決したのか。
マリンは強盗に襲われてはいないだろうか。

ミカはゆっくり寝てくださいと言い、いったんは部屋を離れたが、
頻繁に戻り我の様子を見てくる。お主が見てくると落ち着かぬ。

やることもなく、灼熱のごとき腕の痛みに耐えながら
時間が過ぎるのを待つ。はたしてミカの応急処置はうまくいくのか。
傷が化膿し最悪切断になるのではないかと想像し恐怖する。

我は小説に出演しているキャラとはいえ、
実際に負傷してみると想像を絶する痛みにて
傷口を直視する度胸すらない。

カーテン越しに西日が差してくる。

今頃マリンは、アイパッドの料理アプリを見ながら料理の練習をしているであろう。
我が職場に行き、テレーズが学校に行く間、家のことはマリンに任せてある。
マリンは家出をしてから学校に通うことがなくなり、
自宅で家事をする他は読書や勉強に費やしている。

なにやら不動産の運用に興味を示したらしく、
中央区や港区のマンシヨンの地価がどうだとか食事中に漏らすようになる。

携帯は、ミカに取り上げられたのか。
我の衣服のどこを探しても見つからぬ。
普段ならばズボンのポケツトに入れておるのだが。

「ミカさん (;・∀・) 君にお願いがあるんだ」

「なんでしょうか (^○^)」

「俺がこの家に留まるのは構わないんだけど、せめて
 娘のマリンに電話をさせてもらっていいかな?
 家ではマリンが主婦の代わりで常に家にいてもらっているからさ」

「えー <`ヘ´> なんですかそれ。結局太盛イフリートさんは
 家に帰りたいってことを言ってるんじゃないですか」

「ち、違う。ただ娘の無事を確認したいだけなんだよ。
 我の店舗も象に破壊されたばかりだしさ。
 自宅のマリンも必ずしも安全とは言えないじゃん?」

「そんなにマリンちゃんって子のことが大切なんですか?」

ミカは私といる時に娘さんのことを気にしないでくださいよと、
不思議なことを口にする。先ほどのテレーズの時もそうだが、
父親が娘を心配するのは当然であろうが!!

「離れていてもお父さんにこんなにも愛されて、心配されて。
 マリンちゃんが心から羨ましいです。たまたまイフリートさんの
 娘として生まれただけで大切にされるんだから。
 なんかそういうのって不公平だと思いません?」

まったくそうは思わぬ。
そう伝えると、ミカが殺気に近いオーラを放つ。

なぜに世の女は会話に同調を求めるのか。
むしろ怒りたいのは我のほうだ。

我には女心など分からぬが、
テレーズにしろマリンにしろ、我の娘に嫉妬されても困る。
我は誰に何と言われようと娘を愛しておる。
娘を大事に思う心を非難される筋合いはない。

だからなのか、つい暴言が口から飛び出てしまう。

「さっきから、ごちゃごちゃうるせえんだよ!!
 いいから早く電話させろよ!!
 このブスがあああああああああああああああああああああああ!!」

ブスは、余計だったかもしれぬ。ミカの女ぶりは決して悪くない。
といっても成人の年齢を考慮しても
目鼻立ちの美しさで我の二人の愛娘には匹敵せぬがな。

「(´;ω;`)ブ、ブスなだなんて、ひどいじゃないですか……。
 確かにお兄ちゃんには小さい頃からよくブスって呼ばれてましたけど」

彼女の兄者は口が悪く、妹のことを家では「おいブス」と呼び、
頼みごとがある時は「ブスちゃーん」と呼んでいた。
解せぬな。ミカは化粧がうまいからなのか、肌は綺麗で
眼鏡をはずせば、美人の部類に属すると思うぞ。

この女の容姿は、背格好も顔立ちも10人並みか、それより少し上だろう。
少女漫画の主人公の容姿がこういった風であろう。
あの手の漫画の主人公は並みの容姿と紹介されるが、
実際は美人の部類の者ばかりであり、大いに矛盾している。

「イフリートさん、ひどいよぉ( ;∀;)
 重症だったイフリートさんを看病して
 あげた私をブスって呼ぶなんて。うわあああん。
 やっぱり私のことなんてなんとも思ってないんだぁ!!」

予断を許さぬ事態になること必死なり。
ミカはテレーズを教え子と知りながらイジメていた過去を持つ。
この女が怒りの矛先を我に向けた場合は、最悪命を落とす可能性すらある。

「(*^▽^*)ち、違うんだよミカちゃん。ごめんね口が悪くて。今のは嘘だよ。
 本当はミカちゃんって可愛いと思ってるよ。手当てしてくれたことも感謝してる」

「( ;∀;)今さらご機嫌取りなんてしなくていいですよ!!
 私のこと本音ではうざいと思ってるんでしょ!!
 こんなにもあなたのために看病してあげた私のことをぉぉ!!!」

「だから、違うんだってば!!(:^▽^)
 まずは落ち着いて話をしよう。ね? (>_<)」

正直、疲れる。教員の質は年々低下していると聞くが、
テレーズの担任は特にひどいのではないか。
体が自由であれば速やかにこの家から飛び出たいのだが。

いかぬ。めんどくさい女人と接すると我の怒りが増大するのだ。
押さえねばと思うが、またしても憎まれ口が出てしまう。

「いいから電話させろってっ言ってんだろ!! 
 このブスが!! 早く俺の携帯返せよな!!!」

「(>_<)ま、また言った。ブスって二度も言った!! !!
 イフリートさんにだけは言われたくなかったのに!!
 またブスって言ったぁああ。うわあああああああああ!!」

「ブスだからブスって言ったんだよ。この馬鹿垂れが!!
 おまえは学校の教師のくせに何考えてんだ!!
 俺は既婚者だって何度も言ってんだろ!!
 何が楽しくて、おまえみたいな女とダブル不倫なんか
 しなくちゃいけないんだ!! 少しは人の気持ちを考えろよこの馬鹿が!!」

「今度は馬鹿って言った……。私バカじゃないのに……。
 これでも大学の教育学部を出てるのに……」

「うるせえ!! おまえなんか馬鹿で十分だ!!」

「う……( ;∀;) うわああああん (>_<) 
 イフリートさん、ひどーい!!
 そんなこと言う人だなんて知りませんでした!!」

ふぅ……。すっきりしたぞ。
まあ冷静に考えれば若き女人をブスと呼ぶのは、やりすぎたか。
傷の痛みにて冷静さを失なっていたことは認める。
大切な店を象に荒らされた恨みもある。

「イフリートさんが私のこと嫌ってるのは良く分かりました。
 好きな人にブスって言われると心をえぐられた気持ちになるのなんて
 イフリートさんには分かりませんよね。
 私は生きているのが苦痛なのでそろそろ死にます」

「ま、待たれよ!! いや、待ってくれ!!」

我は鈍い痛みのある足を引きずりながら起き上がり、ミカを片手で抱き締める。
ミカの手から包丁が落ちるが、我は体中を駆け巡る激痛でそれどころではない。
包帯を巻いた腕から血がどくどくと流れるのが分かる。下手に動くべきではないのだ。

我は耐まらずミカを抱いたまま一緒に倒れてしまう。
我が不覚にもミカに覆いかぶさる格好になり、ついでなのでキスしてしまう。
何がついでなのか。我にもわからぬ。

真理恵との夜以来、成人した女人とのキスは久しい。
ミカの唇は桃色で柔らかい。

「俺はミカのことが好きだ。昔から好きな女の子には
 嘘でブスって言っちゃうことがあるんだ。
 女の子の気を引くためにね」

「それ、今考えたんでしょ?
 本気で私のこと嫌いなくせに」

「嫌いだったらキスなんてしないよ。
 ほら。これでも俺の気持ちを信じてくれないのか?」

動く側の手でミカの髪を乱暴に撫で、再び唇を重ねる。
我にとってはただの作業に過ぎぬ。ミカは顔を真っ赤にする。

「ミカ。好きだ」
「どうせ嘘……」
「君のことが好きだ!!」
「そんなこと思ってな……」

「愛してる!!」
「う……(;^ω^)」
「ミカ。君のことを愛してる!!」

効果があったのか、ミカの吐息が荒くなり、
今度は向こうからキスを求めるようになる。

しばらくもつれた態勢にてキスを繰り返し、
ミカが落ち着くまで待つことにする。

そして我の気持ちに嘘偽りがないとするならば、
正式に交際せよと求めてくる。互いに既婚者の身で何が交際だ。
我は快諾した振りをしてやりすごす。

再び二人きりの時に会うことを約束し、携帯を返してもらう。
帰宅の許可も出たので、遠慮なく帰ることにする。
ミカの車でマンシヨンまで送ってもらう。

「またあとでね。ダーリン(*^▽^*)」

我のスマホには「大天使ミカエル☆」という不審な
名前がLINEに登録されておる。
これから頻繁に連絡が来るのだろう。今から頭痛がする。

こうして我は、妻がたくさんいる身でありながら、
恋人ができてしまう。実に奇怪で滑稽なり。

マリン「お父様の様子がおかしい(; ・`д・´)」

17:30

※まりん

私にとって何よりも気がかりだったのは、
帰宅した父が腕に重傷を負っていることよりも、
父の服から女の匂いがしたことです。

それに今日は妙によそよそしく、お帰りのキスをしてくれません。

「今日は女性の方と会っていたのね。お父様の妻の一人でしょうか?」

「……さ、さて。我は怪我人の身である。さっそく横になるか」

父はリビングのソファで横たわる。
そのような態度は、隠し事をしていると言っているようなもの。

「誰と会っていたの!!」
「やかましいぞ……。我はけが人なのだ。少し寝させてはくれぬか」
「携帯を見せて!!」
「こ、こらっ!!」

大天使☆ミカエル☆……? どうやら女性と思わしき方から、
デートの日時が示された内容のメールが送られています。
なるほど。この人が私の知らないお父様の妻の一人? 
仮に妻だとしても存在そのものが許せないのですが、妻にしては妙です。

初々しい文章、スタンプ多し(楽天パンダ)
お付き合いを始めたばかりと思われます。

「この人は誰なのですか!! お父様の恋人か愛人ですか!!」

「あとで詳しく説明する。今は睡眠をとらせなさい」

「お父様が真実を語ってくださるまで永遠に寝させませんわ!!」

「……なに。話せば長くなるのだがな。まあ聞け」

お父様は、前話で描かれた内容を詳細に話してくだいました。
つまり売女(ミカ)は、父を脅す形で無理やり交際を申し込んだと。
ミウと全く同じ手口なことに驚きを隠せません。

ミカは……卑怯な女です。教え子の親(イケメン)と
付き合いたいと心の中で思うのは自由ですが、まさか本当にやるとは。
とてもまともな教師とは思えません。

私は激しく憤慨した。いっそミカを殺してしまおうかとさえ思う。
まもなくしてテレーズが帰宅し、お父様のLINEを見て憤慨する。

テレーズの怒りは、大空に雷雲を呼び寄せるほどでした。
テレーズは武器になりそうなのものを探し始め、
明日登校したら真っ先に担任を殴ると言い出す始末。
テレーズの怒りは底が知れません。

「これ。テレーズよ。早まったマネはやめよ。
 我も時期を見てミカと別れ話をするつもりである」

「では一時的とはいえ、パパはこの女と
 お付き合いをするとおっしゃるのですか!?」

「これでも一応交際することになってしまったのだ。
 ミカはお主の担任でもある……。
 直ちに関係を悪化させた場合はお主の学業にも影響を及ぶすであろう」

お父様はミカに対し交際の見返りとして、テレーズをいじめる
学内勢力を押さえつけることを約束させたそうです。

「わたくしはオランウータンに変化すれば常の女どもは
 蹴散らすこと容易ですわ!! わたくしの『いじめ』のことよりも、
 パパが担任と付き合っていることが許せませぬ!!
 あのような女人に父を奪われたのかと思うと、
 胸をナイフでえぐられるかのごとき苦痛であり屈辱ですわ!!」

( ゚Д゚)私も完全に同意です。

「そうか。テレーズの気持ちはわかる。
 だがミカが我の命を救ってくれたことは、
 まぎれもない事実である。今は耐えるのだ」

「いやです!! わたくしはお父様のお気持ちが分かりかねますわ!!
 そのような言い方をされるのは、すでにお心をミカに
 奪われているからなのでしょう!! お父様はミカのことを
 慕っていらっしゃるから、恋人の関係を続けたいと望んでいるのはないですか!?」

「(;´・ω・) むぅ。誰が恋人の関係など続けたいものか……。
 先ほども言ったように、あくまで仮の関係である」

「いやですわ、いやですわ!! 何と言おうとわたくしは嫌ですわ!!
 お父様とあの女が、わたくしの目の届かぬところで
 電子文通(めーる)をしたり逢引(でいと)をされるのを想像したら、
 耐えがたいほどの苦痛ですわ!! 不愉快ですわ!!」

互いの意見は平行線をたどるだけで、むなしく時間が過ぎていきます。

お父様はあくまで仮の関係とおっしゃっているのだから、
お父様の判断に任せればよいと私は思いました。
イフリートのお父様はムスリムですから命の恩人に
少しだけ恩返しがしたいだけなのでしょう。

ミカも父もお互いに既婚者ですから、まさか本気の恋になんて
発展するわけもないと私は思いました。

「パパのならず者!! パパのすけこまし!!」

「どうしたのだ……テレーズよ。
 普段のお主はここまで乱暴な言葉は使わぬではないか」

「お父様のモデルは光源氏なのですわ!!」

「むむ……光源氏を例に出すのか。
 我とてチャラ男の自覚はあるが、光源氏には激しく見劣りするだろう」

※紫式部著、「光源氏」の主人公の源氏は、日本の文学史上に
光り輝くほどの「最強のチャラ男」です。下は14歳、上は55歳?
までのあらゆる女人(貴族を中心)と肉体関係を結び、
また一度関係を結んだ相手のことは決して見捨てない優しさを持っていた。

ちなみに彼は既婚者だったが、妻のことはとっくに飽きてしまい、
劇中で浮気を永遠と繰り返している。彼の浮気相手に実の父親の
後妻まで含まれているのだから驚きだ。若紫(当時11歳)を
自宅まで誘拐し14歳まで育ててから再婚するという離れ業も披露している。

彼は顔が美しく、口がうまく、短歌(メール)がうまく、
稽古事が達者で、夜な夜な女の家を訪れては無理やり犯してしまう。
40代の女性である紫式部が理想とした男とは、
なんと「ジャニーズ系のイケメンでチャラ男」だったのだ。

世の女たちがジャニーズ系を好む土台は、
すでに平安時代に確立していたと考えることもできる。


(;^ω^)  テレーズよ。そなたは怒っている顔も可愛らしく、実に好ましいな。
(; ・`д・´) 何を言うのですか。わたくしは本気で怒っているのですよ!!
(;´・ω・) お主の怒りは分かっておる。どうしたら怒りを抑えてくれるのだ。
(# ゚Д゚) そんなこと、今さら口にせずとも分かるでしょう!!

私はなんだか馬鹿らしくなってきたので、お夕飯の支度を始めます。
身長が足りないため、キッチンの前で踏み台に乗り、野菜を切ります。
といっても何を作ったらよいか分かりません。
冷蔵庫の中身を見て、めんどうなので野菜炒めでも作ろうかと考えていると。

パパが駄々っ子のテレーズを抱き締めました。

(*^▽^*) 俺はテレーズを心から愛してるのになぁ。

(; ・`д・´) ……今さら何を。

(*^▽^*)  テレーズが心配してるのは、俺がミカと本気で浮気しないかってことでしょ?
      ないない( ̄▽ ̄) 俺が愛してるのはテレーズだけに決まってるじゃないか。
      テレーズに平和な学校生活を送ってもらうためにミカの機嫌を取ってるだけだって。
      俺はムスリムだから命の恩人を邪険に扱えないからね。

やっぱりイフリートのお父様は、義理堅い人なんですね。

(*^▽^*)  それにテレーズと担任が学校で仲良くしてくれた方が
      色々と平和になるだろ? テレーズだって学校で
      トラブルがない方がいいに決まってる。仮にだぞ?
      俺がミカをいきなり振ったりしたら、
      明日からテレーズの学校生活はどうなるんだ?
      また上履きを隠されたり体操着に落書きされたりが始まるぞ。

(;一_一) それは確かに困りますが。

(*^▽^*)  俺は大切なテレーズのためを思って言ってるんだよ?
      俺にとってこの世で一番大切なのはテレーズだよ。
      いつだってテレーズのことを第一に考えてるんだ。

(´ー`) まぁ。パパったら……そんなにわたくしのことを(´∀`*)ポッ

(*^▽^*) テレーズは世界で一番可愛いと思ってる。
     大切に思うのは当然だろ?     

(´∀`*) うふふ。相変わらずお口が達者ですね。
      面と向かってお言葉を頂戴するとうれしいですわ。

私はさっきから激しく不愉快なんですが。
世界で一番テレーズのことが大切なら、私は!?

前は私のことを世界で一番愛してるとか言ってくれたのに。
嘘だったのですか。

私は今も父のために野菜を炒めている最中なのに。
私のことを除け者にしてテレーズのことばかり褒めて!!
もう完全にムカついた!!

私はまな板と、空のお鍋を乱暴に投げてしまいました。

お父様は私の嫉妬をすぐに察したのか、粗相をしたことを叱りもせず、
駆け寄って抱きしめてくれました。

(>_<) 俺は馬鹿だからマリンに不愉快な思いをさせちゃった。
    マリンに謝らないといけないね。

( ˘ω˘ ) いいえ、謝らなくても結構ですわ。
     お父様はテレーズのことをひいきに思ってるようですから。

(*^▽^*) 確かにテレーズを褒めたわけだけど、もちろんマリンのことも
     愛してるんだよ? 本当は娘の間に優劣なんてつけたくない。
     マリンのことも世界で一番愛してるんだ。

テレーズが鼻で笑いました。
醜く嫉妬している私を見下しているのだろうか。

やっぱりあいつは、ムカつく。
自分が父に一番愛されてると思っているのだろう。
でも実際に父は誰を一番に愛してるのかと疑問に思う。
はたして父には、心から愛してる人なんているのだろうか。

(*^▽^*)マリン。こっちを向いて

ほっぺにキスされた。お父様の腕の中にいると不思議と安心する。
服越しに感じる体温が暖かくて、なんだかすごく守られている感じがする。

それに近くで見ても父はやっぱりイケメンで、
優しく微笑みながら何か言われるだけで心を奪われてしまう。

お父様は学生の頃もこの笑みで多くの女を虜にしたのね。本当に罪深い人。

(*^▽^*) 僕の可愛いマリン。気分転換に今夜は外食でもしようか?

( ゚Д゚) えっ、外食ですか。めずらしい。

(*^▽^*) お店の同僚(パートさん)が回転寿司チェーンの割引券をくれたんだ。
     マリンさえ良ければ、今からどうかな?

(∩´∀`)∩ もちろん行きますわ!! あっ……でもお金は

(*^▽^*) パパも少しはお金を持ってるから大丈夫だよ。

妙ですね。父はまだウエルシアで働き始めたばかりで
お給料日までは遠いはずです。
こっそりテレーズからお小遣いでも貰ったのかしら。
(父が娘からお小遣いをもらうって妙な表現ですよね)

(*^▽^*) テレーズも一緒に行こうね!!
(=゚ω゚)ノ もちろんですわ!!

私はお父様と2人きりが理想なのですが、まあそれはテレーズも同じでしょう。
口にしたらまた口喧嘩になるで言いません。

回転寿司のお店は、今流行りのスシローでした。
私たち親子は仲良く三人で手を繋いで歩きます。

お外はすっかり日が落ちて空気が冷たい。
曇り空が広がっているからお星さまが見えない。

車道には会社帰りの車の往来が激しい。
車に交じって装甲車も若干いるのが令和10年のクオリティです。

私たちの歩く歩道は帰宅途中の学生やサラリーマンで
埋め尽くされています。私は本来なら人ごみが大嫌いなのですが、
父と一緒だと不思議と嫌ではありません。

「混んでるなぁ」

父が嫌そうに顔を振りました。

お客の列は、店の待合室?を通り越して外にまで達しています。
テレビで頻繁に報道されるとはいえ、これほどの人気とは。
夜の6時過ぎで家族連れの多いこと。老夫婦のお客も目立ちます。

一家の主らしき人達は、たまたま平日がお休みの方なのかしら。
渋谷賢人たちは第一シーズンで一日16時間労働を強いられておりましたが。

(*^▽^*)どうする? 待つのが嫌だったら、別の店に行くかい?

マ(^○^) わたくしは待ちますわ。
    今日はお父様が人生で初めて
    外食に誘ってくださった日ですから

冷静に考えると、実の父と外食に行くのが初めてなのね……。

それにしても、なんてお客の数。
令和10年では物価の変動はなくて一皿134円(34パーセントの税率)
一皿134円は、とんでもなく高価よ。

埼玉県の平均時給が200円前後。公務員でも正社員でも時給制。
ボウナスを求めた従業員は上官(上司)にぶん殴られる。
賃上げデモをしたら、戦車の機関銃で一斉射される。
半自民党的言動をした市民は、強制収容所に送られる。

こんなご時世でも国会議員の平均年収は4400万。
大臣(閣僚)から総理大臣は5000万から1億円。
上場企業の役員の平均年収(手当。報酬含む)は2億円。

この小説の第二シーズンでは首相の年収は2兆円に引き上げされた。
代わりに公的年金の支給額が、第何号などの保険者に関係なく
一律で手取り660円(月額換算)になった。

店員「ご予約でしたら、ペッパー君が対応してくれますよ」
父「ふむ。接触式画面(タッチパネル)に入力すればよいのか」

これが人工知能というのね。始めて見たわ。
私はお堅い家で育ったものだから、
ファミレスは愚か、回転寿司に来たのも今日が初めて。

「名前は堀にしましょうか?」
「イフリートでよかろう」

二人が名前を入力した。苗字がイフリートって……。
お客によっては名前をふざけてアベシンゾウとか
ホリエモンにする人もいるそうだけど。

ペッパー君「強盗は、みなごろしですよ」

スシローには、最新式のペッパー君が店の内外に数多く並ぶ。
その数、一つの店舗につき20を軽く超える。

ペッパー君は赤外線センサーを発し、
武器を所持しているお客を発見したら銃殺する。

ペッパー君の腹部が解放されると、22ミリ機関砲が露出する。
22ミリって、第二次大戦でも使われた口径なのよ。

普通の機関銃が9ミリだから、かなり大きい口径。
22ミリをまともに喰らうと、手や足が一瞬で千切れる。
頭に食らうと、頭が6メートル先まで吹き飛ぶ。
被弾の衝撃で首根っこから外されてしまうのよ。

ペッパー君「当店には地雷有り。鉄条網あり。落とし穴有り。ピアノ線あり」

店の周囲、半径5キロに渡り、要塞化している。
地雷原(地雷400個)
深さ五メートルの、五角形に掘られた落とし穴陣地 (底には地雷がある)
その周りを囲うように、高圧電流の流れる鉄条網。
そして目視が困難なピアノ線が網のように張られている。

ピアノ線は足元に貼られているから、
気づかずに歩いてしまったら足首から一瞬で切断される。

私達一般のお客は、店の正面入り口(ゲート)で
強盗をしない宣誓をしてから店へ案内される。

それにしても店に入るまでが面倒くさい。
どこも血や鉄の匂いがして、お寿司を食べる雰囲気じゃない。
軍事化にどんだけお金を使ったのよ。

もっと平和なことに税金を使わないから日本は良くならないのよ。

「おや、そこにいる方は見覚えがある気が。
 すみません。失礼ですが、私の知り合いの方ですか?」

「な……お主……いや君は」

まさかの急展開。私のおばに当たる橘エリカさんが
父に話しかけていたのです。なぜエリカ叔母さんがここに……。

「うふふ。その反応。太盛様ですわね。学生時代から
 お顔に全く変化がないものですからすぐにわかりましたわ。
 さっきから私がそれとなく視線を送っていたのに
 無視していたでしょう?」

「な、なんのことかな…」

「その顔は、嘘をついているわね」

お父様は足のすねを爪先で蹴られ、
絶叫しながら地面の上を転がっています。

普通に蹴られただけのように見えましたが、
そんなに痛かったのでしょうか。

「あはは( ̄▽ ̄) 
 こんな庶民のたまり場で太盛君に会えるなんてラッキー。
 ミウと結婚したって聞いたから、一生共産主義の檻の中で
 生活してるのかと思っていたわ。令和10年万歳ね」

エリカは、高校の時に大好きだった父との結婚をついに諦め、
親の薦める相手と結婚した。相手の方は、家柄も人柄も
申し分なく、背も高くイケメンで多くの女性にとって
理想とされる男性だった。

でもおばさんは物足りなかったようで、結婚した直後から
関係がぎくしゃくし始め、1年半後には離婚してしまった。
おばさんは細かい性格なので旦那さんの日常のアラを
探してはねちねちと攻撃し、そのたびに口論となっていた。

旦那の高収入など、お金持ちの家に生まれたおばさんには
そんなに重要ではない。顔がイケメンでも、太盛お父様の
太陽のような笑みには及ばない。私も分かるわ。

お父様のお顔は、例えようがないくらい美しいのよ。
男性的でもあり女性的でもある。
堀が深くてまつ毛が長くて、愁いを秘めたお顔が素敵。

おばさんは。太盛お父様に会えないさみしさから
夫を見下し、攻撃するという悪循環に陥っていた。

「太盛様。どうして震えているの? もしかして私が怖いの?」

「そ、そんなことないよ。お、おおお
 俺はいつだってエリカのことを思っていたんだよ」

「嘘ね。目を見れば分るわ」

お父様はお腹を蹴られ、またしても地面の上を転がるのだった。
本気で痛がっているようだから、
後遺症が残るのではないかと心配になってしまう。

(^▽^)/せまるくぅん。 私の貴方に対する恨みはこんなものじゃ
   消えないわよ。よくも私を無視してミウと結婚したわね。
   しかも高校三年の時に公式に私を批判する文章を校内放送で
   朗読してくれたわね。忘れたとは言わせないわよ。

すごく昔の話をされています。

どうやらミウの命令でエリカおばさんとの
婚約を解消する宣言をさせられたそうです。
しかも全校放送で。さらにエリカの性格が悪いなど、
悪口を少なくとも20個以上は言ったそうです。

エリカは、お父様を足蹴にし、カバンで頭を殴りまくる。
息を荒くし、気が済むまでお父様を殴ったら満足した。
お父様は暴行されている間、手足を守るように「ダンゴムシ」
のポーズを取っていた。

「私の足の前にひざまずきなさい」

「は、はい」

「また嘘をついたらぶつからね。今から正直に私の質問に答えなさい。
 まず一つ目。なんで姉さんの娘のマリンがあなたと一緒にいるの?」

「マリンが家出して……俺の家にやって来たからです」

「あなたの家? あなたの家って堀家じゃないわよね。
 あなたの実家は栃木県のはずだし。今はどこの家に住んでいるの?」

「マンションです……」

「マンション?」

「マリエの家なんです……。斎藤マリエ。
 俺が高校時代に、その……子供を作ってしまった相手です……」

「今さら説明されなくてもマリエのことは良く知ってるわ。
 ふーん。そうなんだぁ。ミウと離婚してからはマリエのところに
 もぐり込んだったわけなのね。ふーん。そう……へぇ……面白いわね」

エリカは、片方のハイヒールを脱いで手で握り、夫の頭を殴りつける。
お父様の髪の毛から血が流れている。止めないと!!

「おばさま。その辺でやめてください!!」

「お子様は黙ってなさいな」

おばさんに睨まれると、手足が鉛のように重くなる。
本能で逆らってはいけない相手なんだと悟る。

「……パパを殴るんでしたら私を殴ってください」

涙目のテレーズが、パパに覆いかぶさっています。
恐怖のあまり震えています。

「あら可愛らしい子ね。さすが太盛君の血が入っている子だわ。
 あなた、名前をフルネームで教えてくれる?」

「……マリー・斎藤・堀・テレーズですわ」

斉藤の苗字が入ることでマリエさんの娘なのは必然。

「やっぱり、あいつの娘か。
 マリエは無知で愚かだったけど顔だけは綺麗だったわね。
 顔だけはね。あなたのお母さんは今日は一緒じゃないの?」

「わたくしの母は、今は会えない場所に居ますわ」

「なにそれ? 別に理由なんて興味ないけど、
 今は同居はしてないってことで良いのね?」

「はい……」

エリカおばさんは、お客の列に隠れていた、
一人の女の子を指さして、こっちへ来なさいと言った。

私の従妹にあたるマリンだった。
私はアナスタシアの娘のマリン。
あっちはエリカの娘のマリン。

まったく同じ名前って……(~_~)

マリンは、無口で愛想も悪い。
セミロングの黒髪をツインテールにして、
細いカチューシャをしている。
いかにもお嬢様っぽいロングワンピースの長袖を着ている。
無地のネイビー。

あの子の雰囲気と同じく暗いけど、立ち姿が庶民とは全然違う。
回転寿司でそんな恰好をしていたらお客の影に隠れても目立つわよ。

「太盛君。この子が誰の子なのか、言わなくても分かってますよね?」

「間違いなく俺とエリカの間の子です。
 な、名前は何て言うのかな、なんて……」

エリカは歯を食いしばり、お父様を平手打ちしてから名前を教えてあげた。

「マリン。あなたの本物のお父様がここにいるのよ。
 挨拶をしてみなさい」

「……ごきげんよう」

無礼にも明後日の方を向きながら言いました。
しかも本当に挨拶だけ。お辞儀もしなないものだから呆れた。
娘の態度が気にくわなかったのか、エリカの表情がますます厳しくなる。

パパは険悪な雰囲気を察して、

「マリンちゃん!! いやマリン!! 
 逢えてうれしいよ!! 俺とお話をするのは始めてだよね!!
 いやー、それにしてもマリンちゃんは綺麗だね。
 さすがエリカの血を引いて美人さんに育ってるね!!」

お褒めの言葉を頂いて多少はうれしかったのか、

「……どうも」

と控えめに言う。暗い。暗すぎる。表情だけでなく声も沈んでいる。

「マリン。二度は言わないわよ。ちゃんとお父様の顔を見て話しなさいな」

「……はい。お母さま」

マリンと初めて視線を合わせた父は、思わずひるみそうになった。
マリンの目つきは不良のようだった。
父を憎んでいるためか、冷酷な母に育てられたためか、
普通の女の子の目をしていない。

目つきが冷たくて威圧的なところがおばさんに似てしまっている。
ソビエトの閣僚だった祖先をもつ者に特有の、人を人とも
思わなくて、ひどく疑い深い人の冷酷な目つき。

「……はい。ハンカチ」
「へ?」
「お父様。腕や顔から血が出てる。これで拭いて」

「あ、ありがとうね!! でもマリンのハンカチが
 汚れちゃうけどいいのかい?」

「構わない。どうですぐ捨てるから。
 お父様の汚い血がついたハンカチなんていらない」

マリンはエリカに平手打ちされた。
瞬きする暇もない一瞬の出来事だった。

「父に対して口の聞き方がなってないわよね?」

「……すみません」

マリンは父に頭を下げたけど、屈辱で拳が震えている。

私も初対面の時は父に恨み言を言った覚えがあるけど、
この子の恨みはそれ以上か。
もう父のことを父として認識してないんだと思う。

厳しい母と、浮気性の父。
さらにエリカは親に紹介された夫とはすでに離婚した。
なんて複雑な家庭。考えてみれば心が歪むのも当然か。

エリカの携帯が鳴る。どうやら緊急のようらしくて、
電話先でかなぎり声をあげている。人前ではしたない声を
あげるなんて淑女としてふわわしくないと知っているくせに。

「ちょっと野暮用ができて、父方の家にいかないといけないの。
 しばらく家を空けるわね。……ちょっとマリン。あなたに
 言ってるのよ。聞いているならきちんと返事をしなさい」

「……はい。お母さま」

「本当なら今日のスシローはキャンセルする所だけど、
 都合のいいことに太盛君たちがいるから、お邪魔させてもらいなさい。
 太盛君。そう言うことだから、もちろん私たちの娘も参加させて
 くれるんでしょうね?」

太盛お父様は、はしゃぐ振りをしながら同意した。

「良かったわねマリン。あなたがテレビに影響されて
 どうしても行きたいって言うから、庶民の店に行くことを
 許可してあげたのよ。しかも護衛じゃなくて私がわざわざ一緒にね。
 今日はせいぜい楽しんできなさい。くれぐれもお父様に
 失礼な口を聞かないこと。分かったわね?」

「……はい。お母さま」

さっきから定型句を繰り返しているけど、声に抑揚がない。
ああ、マリンは自宅でもずっとこんな感じで育ってきたんだろうな。

私の母のアナスタシアは自由奔放な人なので
次々に恋人を作っては遊び歩いている。
私の教育もソ連式の格闘術を学ばせた他は、
特にこれといって強制されることはなかった。

私は理系の科目が苦手なんだけど、テストで
かなり低い点数を取った時も何も言ってこない。
同じ橘の姉妹でも、こんなにも性格が違うんだなと改めて思う。

マリン「ぶち食らわすぞ、こら」 太盛「(。´・ω・)?」

~聖なる少女。マリー・斎藤・堀・テレーズは語る~

わたくしたちの順番が来たのは、お店に来てからおよそ
80分が経過した時でした。エリカのおばさまと言い争いなどを
しておりましたので、待っている間は一瞬で過ぎ去ったように感じられました。

令和10年では回転寿司にして回転せず、全ては注文式となっております。
アナスタシアの娘のマリンが、お店のタブレット端末を手にして
お肉の乗ったお寿司が食べたい、などと楽しげに話しています。

パパは我々のぱーりぃ(米語:party)にとって
新キャラに該当する、エリカの娘のマリンに気を使い、

(*^▽^*)マリンちゃんは何が食べたいのかな?

問います。エリカの娘のマリンは、
タブレットを手にし塾講の末にスイーツを選びました。

パパに対する当てつけ、あるいはこれが彼女の素挙なのか、
なんとスシローが提供しているデザート類を一度に全部頼んでしまうのです。

パパ(;゚Д゚) 私( ゚Д゚) アナスタシアの娘のマリン(; ・`д・´)

まさに一同唖然。デザート一覧がレーンへ次々に運ばれてくる。
日本全国のお客を探してもお寿司屋さんで全種類のデザートを
注文する人など大変に稀なことでしょう。

それに高価なものは一皿で421円(税込み)もするのです。
あんみつ、特性ぷりん、ティラミス、チーズタルト、
季節限定のモンブラン、バニラのアイスクリーム。

エリカの娘のマリンは、テーブルに並ぶスイーツを眺めては悦に浸る。
この女童が笑う時を始めて見ました。

これをすべて食べてしまえば血糖値が急激に高まること必至。
お寿司が入ることはないでしょう。
何をしにお寿司屋さんに来たのかも疑問です。
やはりパパに対する当てつけのつもりだったのか。

「あなたがそんなに甘党だったとは知らなかったわ」

アナスタシアの娘のマリンがさすがに文句を言いました。

「イライラした時は、甘い物を食べるようにしてる」

「……あっそう。あなたが何を食べようとあなたの勝手だけれどね」

「私は一人で食べてるから、あなた達はあなた達で勝手に食べてて」

相変わらずこの女童(めのわらわ)は、人と目を合わせません。
私達は同じ父を持つ者同士。血の繋がりがあるにも関わらず
赤の他人のごとき態度を示すのは、全く不愉快としか言いようがありません。

「マ、マリンちゃん。のどが乾くでしょ。
 お茶を飲む? それともジュースでも頼もうか?」

「じゃあ、ジュースで」

「どれがいい? 好きなの選んでいいよ」

「選ぶのがめんどくさいから、一番甘そうなやつを選んでおいて」

無礼者ですね……。<`ヘ´>
父に対して敬語も使わず、偉そうに命令までするとは。

アナスタシアの娘のマリンも不愉快に思っているのが顔に出ています。
父は慌ててココナッツ・ジュースを注文します。
このお店で一番高価なジュースで税込み372円もします。
お皿に乗ったココナッツが丸ごと流れてきました。
ストローを差して飲むようになっています。

「おいしくない」

Σ(゚Д゚)え?

「思っていたより味がくどくて、私には合わなかった。
 あなたが代わりに飲んでおいて」

と言って父に渡してしまいます。
父の笑顔もさすがに引きつります。

エリカの娘のマリンは、何事もなかったかのように
タブレットで新しいジュースを探していたが、
やっぱりお茶でいいと言い出す。気分屋にしても程があるでしょう……。

「いい加減にしなさいよ!!」

アナスタシアの娘のマリンがテーブルをバシーンと叩く。

(; ・`д・´) お父様の前で、あなたのその態度は何様のつもりなの!?
      お父様に対して失礼だわ!!

(>_<) まあまあマリン。いいじゃないか。
    今日はたまたまたマリンの機嫌が悪かったんだよ。

両者とも同じ名前なので、どちらのマリンの話を
しているのか、分かりにくいことこの上なし。

エリカの娘のマリンは、何事もなかったかのように
スイーツを口に運んでいく。

姿勢を正し、フォークをもったいぶって動かす様子は、
まさしく良家の娘。ファミレスがこれほど
不釣り合いな娘が二人といるでしょうか。

「人の話を聞きなさいよ!! さっきから偉そうに!!
 昔からあんたの態度は気にくわなかったのよ!!」

親戚同士の会合では、従妹同士で食事の席を隣にすることも
珍しくなかった。エリカの娘のマリンは、人とのたわむれを
好まず一人で文庫本を読んでいることが多かったそうです。

「はあ……」

エリカの娘のマリンは、ついにイヤホンをしてしまい、
目の前のマリンの存在をまるきり無視してしまいます。
これは火に油を注ぐことになることでしょう。

「人の話を聞きなさいって言ってるでしょうが!!」

イヤホンを無理やり外してしまう、アナスタシアの娘のマリン。
今さら気づきましたが、○○の娘の~という表現、
無駄に文字数を消費しております。
ですが、私は未熟ゆえに発想力に乏しく
これ以外に表記の方法が思いつきませぬ。

実は聖書でもかような表現、多用されているのです。
例 マグダラのマリア。イエスの母であるマリア(聖母マリア)

「うぜーんだよ!!」

(; ・`д・´)!? (;゚Д゚) ??? (;´・ω・) !!??

エリカの娘は一瞬だけ毒を吐いたかと思ったら、
再びスイーツを咀嚼し始めます。
それこそ本当に何事も無かったかのように。

わたくしたちは、入店以来、いさかいを起こすばかりで
エリカの娘以外に誰もメニューを注文できていません。

他のお客さん達は楽しげに会話をしながら
軍艦巻きなどを食べていますが、我らに至っては
(エリカの娘も含めて)全員お寿司を注文すらしていないのです。

「あんたら、まじうざい」

二度も、うざいと言われるとは。
私は前世が平安時代のため現代言葉に疎く、
「うざい」の意味を真に理解しておりませぬ。

辞書では……
うざい ― うっとおしい、いらだたしい、わずらわしい の俗語

「エリカと俺の間の娘のマリン。
 本当にごめんね。マリンが苛立っているのは全部俺のせいだ。
 俺は自分でも最低の父親だって自覚はあるよ。
 だからエリカにあんなに殴られて蹴られたんだ。
 マリンが俺を憎む気持ちも良く分かる。でも今日は特別な……」

パパがイケメンスマイルで必死の説得を試みますが、

「うるさい」

と言われてしまう。さすがの父もお気分を害されたご様子。

複雑なる事情有りけりと、実の父に対して黙れなる言葉を
易々と使う娘はまさしく不良と呼ぶにふさわしい。

アナスタシアの娘のマリンは、父の腕に抱き着き、甘えた声で言う。

「(。・ω・。)ノ♡太盛お父様ぁ。一緒にお寿司を注文しましょう。
 変な奴の相手をしても時間がもったいないですわ」

「……確かに時間がどんどん過ぎていくな。
 よし。なんでもいいからどんどん頼もう」

はっきり言ってお寿司を味わう心の余裕などなく、
おそらくそれはエリカの娘のマリンも同じことだったことでしょう。
お腹だけが膨れてお店を後にします。

エリカの娘のマリンは、迎えの車が来ていたので
私達に別れの挨拶もせずに去って行きました。

とんでもない娘がいたものです。私も母のマリエから
父の恨み言を効かされた育ったものですから、
マリンの気持ちが分からぬわけでは決してないのだけれど、
パパのイケメンスマイルを受けても心が揺れ動かぬとは驚きです。

賢者。堀太盛・イフリートが語る。

奇跡的に復興したドラッグストア・ウエルシアにて
品出しのアルバイトに汗を流す日々を送る。

あの娘と会ってから三日と経たぬが、
あの時の衝撃が今でも忘れられぬ。

食事の席を共にしても、我のイケメン・スマイルを
(我はイケメンなのか? 人からはたびたび言われるが)
発動したが、ものともせず。
あの娘と分かり合える日が果たして来るのだろうかと思う。

『いらっしゃいませー』

誰か来たのか。店なので客が来るのは当たり前なのだが。
ふと気になりバックヤードから表に出て自動ドアを見る。
すると、いたではないか。我とエリカの間に出来た、例の娘が。

エリカの娘のマリンは、物珍しそうにあたりを見渡し、
ようやくショッピングカートがあることに気づいたのか、
カートにかごを乗せている。かごの乗せ方も知らないのか、
動作がどこかぎこちない。

我が娘は、空気も読まずに
レジ打ちをしているアルバイトの女子大生に声をかける。

「おい貴様。堀太盛・イフリートという名の従業員はここいにいるか?」

「イフリートさんのことですか? 今こちらのお客様の 
 対応を終わらせてからご案内しますから、少々お待ちくださいね」

「うむ。いいだろう。だが急げよ」

尊大なる態度だ。
これ。マリンよ。それが大人に対する態度か!!
親の顔が見てみたいものだ!!

……親は我だ(ノД`)・゜・。
育ての親ではないがな。

「お主はマリンか。数日前に会って以来だな」
「おう。久しいな」

おう……とは。男の言葉遣いだ。仮にも女人であろう。

「今日は太盛に会いに来た」

呼び捨てか(゚Д゚) 
我はお主の父親なのだが…。

「I apologize that I was feeling bad some days ago.」
(この間はすまん。機嫌が悪かったのだ)

「は!?」

「あいむ よあ だうらー。まyだっど。
 よう わぁ しんききんぐ ざっと 
 あいはぶ あ バッろ・キャアラクタぁ。
 いず ザット とるぅー?」

(あたしはあんたの娘やけど、
 性格の悪い娘や思っとるやろ。ちゃうか?)

何を言うのか、にわかには理解できず困惑する。
異国の言語で話しておるようだ。
エリカの娘ならばカフカース地方のグルジア語か
ロシア語ではないかと思うが、何やら聞きなれた単語が含まれる。

バろぉキャァアくたぁ(性格悪し)…… 英吉利(エゲレス)語か!!
流暢なる発音だが、ところどころ語末の母音の音程が高くなり、
舌の裏側でひっくり返るようで不快だ。鳥肌が立つ。

「クぁモォ↑ン・ダぁド。テルミぃ・わちゅーしんく」
(早よ答えんかい)

我が娘の発音は、テレビで聞くドナルド・トランプの英語である。
すなわち米語であるか。

――クぁモォ↑ン・ダぁド
「構わん、ダド」とほざいている。

標準語で言う所の「カモン」(さあさあ)と言いたいのだろう。
なまりすぎて「構わん」としか聞こえぬぞ。
ダド、は秋田などで使われる方言で「である」の意である。
なるほど、米語とは東北弁であったのか。

我はミウと高校二年の時より付き合いがあり、
数年にわたる結婚生活を経て英語のたしなみがある。

「ヨア マイ リトル プリティ ビッチ」
(君は僕の可愛い肉奴隷)

(*^▽^*)しまった……。
久しぶりに英語を話すものだから焦ってしまった。
世で言う所のセクハラ発言である。

以前にミウにセクハラ英語を話した時は、
しばらく口を聞いてもらえぬほどだった。
ミウは英語の方が感情が良く伝わる傾向にあるが、
ゆえに暴言を吐かれるのを極端に嫌う。

「の、のぉおう うえぇい!! ざっつ・とぅー・ばぁあああど!!
 まyだっど セイドとぅみぃ びっち!!」

(ショックやわ!! 実の父にビッチって呼ばわりされた!!)

――のぉう・うぇぇい (No way)和訳:いやん
ノルウェイがどうかしたのか?

「のぉうのう!! あいらぶゆー。まい・らぶりー・どうたあ!!
 あいむそう ぐらっど よう かむとぅ しぃみぃ とぅでぇぃ!!
 アイドンメンション いふゅー ぐっどがーる おあ のっと」

(嘘や嘘や。愛してるで。今日は我に会いに来てくれたもんな!!
 君の性格なんて俺は気にせんからな!!)

「うえる。うっどゆう らいく とぅ しい さむしんぐ?
 ひあ いず あ どらっぐすとあ。そお めにぃ ぐろせっさりーぐっずす。
 めいびぃ よう かんふぁいんど さむしんぐ ゆう わんと」

(それよりここはドラッグストアや。
 何か見たい物とかあるんか? 日用品とかたくさんある。
 君の欲しい物とか見つかるかもしれんで)

「まず私は庶民の店に行くのが初めてやねん。
 父上の言う通り何が売っとるのか把握しとらんわ。
 まず店内を案内してくれると助かるわ」

「いきなり日本語に戻ったな……。
 よかろう。すぐに検品を終わらせて一息つく。
 10分はかかる。それまで店内をうろついておれ」

我はハンディ端末を片手に納品された商品の品名と
個数に誤りがないか、チェックしていく。重要な作業であり、
これが間違えると次回の発注時に社員が困ってしまう。

このタイミングにて客に話しかけられると集中力が
そがれるため遠慮していただきたいものだ。

同一商品名で三個入りと六個入りなどあるが、
分かりにくいので改善せんか!!

我は娘が気になり、つい視線を向けてしまう。
あれで毒さえ吐かなければ……。
身内びいきをしても、かなりの美少女である。

アイスボックスを背伸びをしてのぞき込む姿になぜか品がある。
後ろに手を組んで、足をぴったりと閉じている。
今日は厚底の靴でなく、動きやすそうな運動靴を履いているようだ。

ロンTにジーンズの姿と飾り気に欠ける服装だが、やはり品がある。
先日の件からスイーツを好むのであろう。
アイスが食べたいのなら親として我が買ってあげたいものだ。

「イフリートさぁん。こんにちわ。今日もお疲れ様ですぅ(。・ω・。)ノ♡」

我が恋人のミカが来た。なんとも間が悪い。
未だにエリカの娘のマリンと良好なる関係築けず、
マリンにミカとの関係を知られたら言い訳の仕様なし。

(;^ω^) ミカちゃん。今日も会いに来てくれてうれしいよ。
     最近毎日お店に来てくれるけど、学校の方はいいのかい?

(≧∇≦)ダーリンに会いたくなった時は、
    私のクラスを自習にして学校を抜け出してきてるんですよ!!
     
教員が私的な理由で学校を抜け出すだと!?
アッラーに誓って、尋常ならざる暴挙である!!
日本国の学校教育の未来を憂う。

(≧∇≦)それより聞いてくださいよ。
    来週うざいことにPTAがあるんですね。PTA。
    アホな主婦共が馬鹿みたいな派閥を作って、
    教育の仕方が間違ってるとか文句言ってくるんですよぉ!! 
    アホな親の子だから成績が悪いのに、親が馬鹿だってことを
    認めたくないんですよね!!

我は仕事中なのだが……。ミカのメールは夜に送られてくるが、
疲れているからと適当にあしらっていると店にまで来るから困る。
しかも我にはどうでもいい話かと思いきや、
PTAとなると我も出席せねばならぬのか……。

サービス業(シフト勤務)ゆえに平日に空きを作ること可能だ。
それとテレーズと問題を起こした女童どもを
この目で見たい気持ちもある。

マリンは、口をへの字に曲げてこちらへやって来る。

( ゚Д゚) 父上。さっきから誰と話しとるん?

(;^ω^) この人はね、テレーズの担任の先生なんだ

(;一_一) 担任か。父上のこと、ダーリンとか、ゆうとったやん。

(>_<) そ、それよりマリンは関西人だったの?

('Д') 母の実家が兵庫やねん。私はおばあちゃんちで
    育ったから、こっちのほうが楽なんや。
    それよりその女は父上の愛人なのか?

我は返答の仕方に困るが、マリンはエリカの娘ゆえに
下手に偽ったところで余計に追及されるだけかと思い、
いっそ暴露してしまう。

(´ー`) そっかぁ。太盛お父さんは愛人がおったんか。
     ママが知ったらどう思うやろうな。怒髪天を突く勢いになるんちゃうか。

(;゚Д゚) イフリートさんの奥さんって斎藤さんの他にもいたんですか?
     エリカさんとアナスタシアさん? 他にはミウさんとカナさん? 
     ちょっと待ってください。奥さんが何人いるんですか!! 
     もうチャラ男ってレベルじゃないですよ!!

マリンが、我の妻(最低で5名)のことを説明してしまったのだ。
ショックを受けたミカは「私のことは遊びだったのね!!」と
叫びながら逃げて行った。なんだったのだ……( ˘ω˘ )
(ミユキのことはノーカンでよかろう)
   
(^○^)  パパ
Σ(゚Д゚) えっ、パパって呼ばれた

(゜-゜)  今日のこと、ママには黙っといてあげる
(゚Д゚)   あ、ありがと
(゜-゜)  ただし条件がある。パパに一つだけ言ってほしいことがあんねん

我はさすがに耳を疑ったぞ。

テレーズら娘二人の前で、エリカの娘のマリンを一番に愛している。
お前たちのことは、どうでもいいと思っていると伝える……だと゚(゚´Д`゚)゚?

我は娘二人を心より愛している。
そのような低俗な嘘をつく必要があるのか。

(=゚ω゚)ノさ、これ台本や。さっそく今夜、家で試してな

この娘は、前半と性格がまるで異なっておる。
この小説のキャラ設定はどうなっているのだ!!

イフリートのマンシヨン 19時

今夜のメニューは、アナスタシアの娘のマリンが
腕によりをかけて作ってくれた、特性ナポリタンである。

豊富な野菜にウインナーと粉チーズをまぶしてある。
ケチャップの具合も程よい。
野菜スープとサラダと、ベジタリアンな我には
申し分ないメニューである。だが少々量が足りなかったので
お店で頂いた賞味期限ぎりぎりの食パンを食べる。

我の食欲旺盛なり。
仕事をするようになってからは、10代の時と同じ量を食べるようになる。
基礎代謝向上と筋力維持のために入浴前に筋トレを欠かさず行う。

皆が食べ終え、皿洗い係のテレーズがテーブルの食器をまとめ始める。
言うならばこのタイミングしかないと思い決心する。

「時にテレーズよ」

「はい。お父様」

「我がそなたを愛していると繰り返し言ったが、あれは嘘である」

(;゚Д゚)……????


「マリンにも話がある」

「はい…」

「我はそなたのことなど、全く愛しておらぬ。我の言葉は偽りである」

(>_<)う……。


テレーズは心に傷を負い沈黙するが、マリンは問い返す気力があるようだ。

「なぜ今、このタイミングでそのようなことをおっしゃるのですか?
 お父様のお気持ちが分かりかねますわ」

「いっそ早めに言っておかねばと思ってな。
 遅かれ早かれ分かることだ。我はそなた達のことを
 我が子として可愛らしく思ってはいる。その点では愛してると言える。
 だが、我が心より愛していると思う者は他にいる」

「誰なのですか?」

「エリカの娘のマリンだ」

マリンは絶句した。今度はテレーズが問うてくる。

「パパはエリカの娘のマリンを心から愛しているとおっしゃるのですか。
 わたくしには、エリカの娘のマリンと仲がよろしいようには見えませんでした」

「先日ドラッグストアで再開して仲直りしたのだ。
 実は始めて見た時からあの娘の美しさの虜になってな。
 あの娘が16歳になったら求婚しようと考えている」

実の娘と求婚。自分でも正気の沙汰ではないことは理解している。
しかし台本にそう書いてあるのだ。
台本には気が違ったとしか思えぬ言葉が多々並ぶ。

「我はエリカの娘のマリンのことが気になり、夜も眠れぬ。
 寝ても覚めても仕事をしていてもマリンのことを想っている。
 この感情は何かと考えた結果、愛であると確信した」

「お待ちくださいな。先ほどからパパはお手元の
 レシートのような紙を頻繁にご覧になっておりますが」

「くわしくは語らぬ。我はマリンのことを愛している。
 その思いを忘れぬように紙にメモを残したのだ」

「いったい何が書いてあるんですか!!」

アナスタシアの娘のマリンが激昂して我からレシートを取り上げてしまう。
レシートのようなものではなく、お店のレシートである。
レジの不要なレシート入れの中から拝借したのだ。

非常にきめ細かい字にて、テレーズとアナスタシアの娘のマリンを
傷つける言葉が並んでおるだろう。虫眼鏡を使わば読めぬ程だろうが、
あいにく我はイフリートにて視力が8を超える。蒙古平原に生息する鷹に匹敵せり。

アナスタシアの娘のマリンが、怒りでわなわなと震えておる。

「なるほど。低俗な子供のイタズラにすぎまないと。
 お父様はどうしてこんなイタズラに付き合っているのですか」

「我がエリカの娘のマリンを愛しているからだ」

「(^_^メ)まだ言うのですか。
 どうせ言わされているだけとはいえ、腹が立ちます」

「嘘ではない。この携帯を見よ。ラインを交換した。
 今週の土曜にシフトに空きを作り、二人で会おうと約束した」

テ「(゚Д゚)本当に約束してますわ!!」
マ「あの根暗、ちゃっかりイケメンのパパを狙ってたのか!!」

我も後で知ったことなのだが、エリカの娘のマリンは
我が異父の姉妹を連れて楽しげにしているところが
不愉快に思い、回転寿司では険悪なる態度を取った。

テレーズら二人より自分を優先させてほしいと願っていた。
初対面で我と目を合わせなかったのは、
顔が好みのタイプだったので気恥ずかしかった。
姉妹たちは単純に気にくわないから目を合わせなかった。

「そういうわけであるから、我は土曜日にエリカの娘のマリンと
 逢引(デイト)をするからな。邪魔するでないぞ」

テ「何をおっしゃっておりますの!! そんなの認められるわけありませんわ!!」
マ「お父様が行くのでしたら、私たちも一緒に行きます!!」

「恋人同士の会合である。邪魔者がいてはマリンも困るのではないか」

マ「恋人ぉ!? ついこの間会ったばかりの娘が恋人なのですか!?」

テ「邪魔者とは、聞き捨てならぬ言葉を吐かれましたね。
  いくら我が父上とはいえ、許せませぬ」

二人の娘は大いに気分を害したようだ。

テレーズはイフリートの力によってチンパンジーの姿に変わり、
恐るべき怪力で我の体を椅子に縛り付ける。

「これ。何をするのか。これでは動けぬ」

「現代風の言葉を借りれば非常事態措置といった風になりましょうか。
 パパはエリカの娘のマリンにたぶらかされ、お心を頑(かたく)なにされております。
 まず、パパが先ほど言った侮辱の言葉を直ちに取り消していただきたいのです。
 それに加えてエリカの娘のマリンと結んだ逢引の約束も反故にしてはいただけませんか?」

「我、人の子の姿を借りたイフリートなり。アッラーの使者なり。
 一度結んだ約束を反故にすること好まず。
 どうやらお主は何事も真剣に考えすぎるきらいがある。
 なに。一度逢引をするだけだ。何か不都合でもあるのか」

「パパは学生時代より希代のチャラ男として名をはせたお方ですゆえ、
 エリカの娘のマリンとますます懇意の関係に
 なるのではないかと懸念しております」

「懇意になるのは当然であろうが。
 我が愛しているのは、エリカの娘のマリンだけなのだ」

「その言葉、パパの口から聞きたくはありませぬ。
 たとえ冗談だったとしても!!」

テレーズは、タオルを丸めたものを我の口に突っ込んできた。

「これ。冗談が過ぎるぞ」※実際はしゃべれてない。

マ「テレーズ、お父様の携帯を壊してしまったらどうかしら」
テ「壊すのは野蛮ですわ。電池を抜いてしまいましょう」

バッテリーが外され、その辺に乱暴に投げ捨てられた。
これ(#^ω^)テレーズよ……

マ「いい気味ですわ。どうですかお父様? 
  これでエリカの娘のマリンと
  連絡することはできませんわ」

タオルをはずしなさい。会話ができぬ。

テ「やはりママが言っていたことが真です。
  パパから少し目を離すと他所の女たちに色目を使い、浮気に走るのです。
  ここ最近でも担任のミカと恋人関係になるだけでなく、
  エリカの娘のマリンと結婚したいと望むなど尋常ではございませぬ」

異父姉妹は話し合い、我をこのマンシヨンに軟禁し、
外部と極端に接触できないようにするとした。
日用雑貨店で手錠や拘束用の縄をいくつか
購入しようかと悪だくみを考えておる。

愚かなり。
我のドラッグストアでのアルバイトが唯一の収入源だと言うのに。
(テレーズのモデル収入と資産運用の収入も若干あるが)

そんな時であった。チャイムの音が鳴る。
宅配便でも来たのかと、マリンが舌打ちをしながら対応する。

「お、おばさま!!」

「ごきげんよう。マリンちゃん。
 夜分遅く失礼するわ。太盛君、いるんでしょ?」

どうやらエリカのようだ。まずい……!! 
むしろ助かったのか? (;゚Д゚)

「なんで椅子に縛られてるの?」

「知らぬ。我が問いたいくらいだ」

「ところでうちの娘のことで話があるんだけど」

なんと。エリカ娘が、我と逢引の約束をしていたことを
エリカは知っているらしい。その件で我を問い詰めに来たと。

「出会って数日なのにメールするほど仲良しだったのね。
 あの子根暗だから人に心を開かないのに珍しい。
 で、どうなの? あの子と本気でデートの約束をしたわけじゃないわよね?」

「ま、まさか。我が女童ごときと本気のデイトなどするわけがなかろう。
 少し買い物に付き合う程度の気持ちだったのだ。向こうもそのつもりだろう」

「その割には、おまえのことを愛してる。お前以外の女はどうでもいいと思ってる、
 とか書いてあったわよ。メールにね。あとミカって女とドラッグストア周辺で
 頻繁に会っていたでしょ。あれは何のつもりなの?」

ミカのことまでバレておるのか。おそらくエリカの護衛を使役したのだな。

我は返す言葉もなく黙す。エリカは問い詰めることを好み、
会話の途切れることを特に嫌う女である。

なぜか今夜は上下黒のジャージ姿。
登山で使うかのごときリュックを背負う。
リュックを床に降ろし、スタンガンを取り出し我の首筋に当てる。

「浮気したんだからお仕置きが必要よね?」
「ま、待て。子供たちが見ておるのだぞ」

残念なことに、姉妹らもエリカのお仕置きグッズ
(折り畳み式警棒や皮のムチ)を手にしており、我に殺意を向けてくる。

「ま(て)……」

電流の衝撃で視界が真っ黒になり、体が小刻みに動き、思考が奪われる。
我は耐え切れず椅子ごと床に転倒する。スタンガンの電流で神経が
焼かれる痛みとは、こんなにも辛いのか。

そこへ猛獣のごとく娘二人が襲い掛かり、お仕置きグッズを
手にした腕を何度も振り降ろす。たった一分ほどの攻撃であったが、
体中が痣だらけになり、皮がむけて血が流れる。
自慢の黒Tシャツ(底辺所得者と背中に記載)は所々すりきれてボロ布と化す。

「うふふ。今日はこれくらいで勘弁してあげるわ。
 私は忙しいから、また今度会いましょうね?」

エリカは、我がマンシヨンから脱走せぬようにと、
テレーズらに言い残してから去って行った。
まさか我に仕置きをするためにやってきたとは。

それよりエリカの娘のマリンはどうなっているのだろう。
母を怒らせたとなれば、地下に監禁されていると考えるのが妥当か。

イフリート「自宅に監禁されてしまうとは…('Д')」

 賢者・堀太盛イフリートは以下のように語りました。

令和10年 10月某日。

我、テレーズとアナスタシアの娘のマリンにより、
自宅のマンシヨンから一切出ることを許されず。
軟禁生活を送る。

我は手錠をされているわけではなく、手や足は自由である。
しかし我の隣にはテレーズかマリンのいずれかが付き添い、
用便時以外は自由がない。

この家のルールは娘達が決める。
我がルールに反した行動をとると娘達は途端に怒り出す。
三人で一緒に買い物や外食に行こうと誘っても断られる。

どうすればいいのだ。

ミカと連絡が取れないのは困る。

実は我には収入が未だに無い。
ウエルシアで勤務を開始して実に30日は経過したのだが、
どういうわけか我の給料口座に金が振り込まれておらぬ。
この国の労働基準法によれば、月収とは指定された日に
払われるはずではないのか。

ひと月働いても収入なしでは、生活に困ること必至である。
令和10年では会社組織は悪徳さを増し、90日以上連続勤務しない
従業員には一年も給料を払わない会社が少なくない。
その点では渋谷賢人らの勤めたペンタックは比較的ましな部類であろう。

とにもかくにも金を得るために働いているのに収入がないのは困る。

そこで我は英知を絞る。
ミカからお金を借りたのだ。

令和10年の破滅的な不景気とはいえ、ミカは旦那が年上(40代だったか)
で自らが学校教員のためか生活に多少の余裕があり、
我にお小遣いをくれたのだ。返さなくていいと言う。

『ありがとうミカ。お礼に今度二人だけでデートしようね。
 いっそ泊まり込みの旅行でも計画しようかな(*'▽')』

『(≧∇≦) 旅行!? いいんですか!! 
 行きます!! 行きます!!
 絶対に行きましょう!! 楽しみにしています』

今思えばミカにも旦那がいるのだな……。
我は3万円もの現金(令和10年では高価である。平成30年の15万に相当する)
を握りしめ、ミカとキスをしてあげた。

我は娘たちに内緒で平日の日中にミカと会っていた。
ホテルなど怪しげな場所にあらず。近所の公園だ。

平日でも老人など多少の人目があるため、手を握ったり
キスをするなどは勇気がいる。

ミカは我に体重を預けるように体を密着して歩くので、
我は気恥ずかしさを感じながらも肩を抱く。
大胆が過ぎるぞ。近所で噂が広がり、
いずれはミカの旦那の耳に入るのではないか。

『愛してるよミカ(*^▽^*)』
『えへへ。私もあいしてるー(⋈◍>◡<◍)。✧♡』 

我はシフト勤務ゆえに平日休みとするが。
ミカは平日でも平然と我と逢引をする。
学校はどうしたのか、とはもう訊かぬ。野暮というものだ。

我にとって全てが不都合なわけでもない。
愛する妻のマリエがこの世から消え去って以来、
大人の女の体に飢えていたこともある。

本当にホテルまで連れ去ってしまうかとさえ考える。
だが、なんとなくテレーズに事情を悟られそうな気がして断念する。
ミカとは、我の店や公園などで定期的に会うようにしていた。
電子文通も彼女の機嫌を損ねぬよう、気づいた時には返す。
我から送るメールなどなし。全て向こうから送られてくるから、
こちらから送る暇がないのだ。

朝は、おはよう。夜は、おやすみなさい。
昼飯のメニュー(学校給食)を写メにして送ってくる。
どうやら旦那のことは本当に何とも思っておらぬようだ。

(浮気相手の我が言うのもなんだが、
 旦那がいる身で他所の男に心映りするなど、
 ムスリムなら断固許されぬことであるぞ!!)

令和の女人は、短い内容ではあるのだが、
日々欠かさず電子文章を送ることを好む。
文通を通じて心の繋がりを維持することが目的らしい。

ペルシアでは愛しい者同士手で詩を吟じることがあったことを思い出す。
テレーズの前世の平安時代でも貴族同士(恋人)で
和歌を詠み合わせるのは常であったらしい。

我はテレーズらに見つからぬよう、細心の注意を払って
メールをしていた。だが携帯のバッテリーが現在行方不明に
なってしまい、もはやメールなどできぬ。

「お父様はしばらく反省してくださいね」

マリンは主婦としてキッチンの前に立つ。我が家の日常なり。
最近は料理に目覚めたのか、ますます精を出す。
中華料理を好むようでクックドゥーに頼らず、
お店の味を再現しようと奮闘する。

中華は強火が命だ。豪快なる炎なしにしては野菜の炒めた感触が
再現できないのだろう。IHヒーターは火力こそ強いが、
平らな物(鍋)しか乗せられない。中華鍋に特有の鍋振りはできぬだろう。

「(^○^)パパは英語がお得意なのでしょう?
 わたくしの問題を解くのを手伝ってくださいな」

隣り合わせでダイニングのイスに座るテレーズ。
ここまではいいのだが、テーブルの下で我の手を握るのだ。
痛いくらいである。

聡明なテレーズに解けぬ問題などそうあるまい。
それでも我に宿題を手伝わせる理由は、独占欲を満たすためであろう。
絶対に途中で気をそらさぬようにと、視線が刺さるようである。
前話からテレーズの嫉妬がますます悪化している。

我が何気なくマリンをじっと見つめるだけでも気分を壊す。
我がマリンと何気ない会話をしていても、途中で割り込んでくる。
ミカはどうなったかと思いを馳せると、不思議とばれてしまう。
恐るべき勘の良さである。

「テレビジョンを観るのを止めてください!!」

テレーズが声を荒げ、
リモコンにてテレビの電源を切ってしまう。
何の前触れもないから心臓に悪い。

訳を訊くと、我がコマアシャルに出ている女人(アイドル)に
鼻の下を伸ばしていたからだという。

何を言うのか。テレビジョンに美しき女人が登場するのは世の常であろう。
芸能の歴史は古く、平安時代より昔からあったのだ。

「テレーズよ。どうか怒りを鎮めてくれぬか。
 我はラグビーの国際中継を観ていたのだ」

「はっ……(>_<) 申し訳ありませぬ。
 お父様が他所の女にデレデレしている姿をみると
 心をかき乱されてしまい、我を忘れてしまうのです」

「安心せい。我が愛しておるのは……」

「愛しておるのは?」

いかん。続きの言葉が出てこん。
あれからエリカの娘のマリンがどうなったのか知らぬ。
携帯もないからミカとも連絡が取れん。

ミカとあのマリンに対して軽い気持ちで口説き文句を言ったわけだが…。
今テレーズに面と向かい、愛の言葉を伝えるのに難儀する。

「わたくしには愛していると、おっしゃってくださらないのですね」
「い、いや。そういうわけではないのだ……」
「わたくしと視線を交えてお話をしてください」
「テレーズ……。これには深い事情があるのだ。聡明なお主なら察してくると信じている」
「ですから、どのような事情なのか話していただきませんと」

テレーズはエリカの娘ではないのに問い詰めるのを好む。
我を逃がさぬようにと思っているのか、痛いくらいに腕をつかむ。
かれこれ15分はつかんでおる。手が汗ばんでおるぞ。

「;つД`) や、やめんか。それ以上力を込めると腕が折れてしまうぞ」

「お父様が真の事を語るまではこのままの状態となりましょう。
 家族の間で隠し事をされるなど不愉快ではありませんか」

テレーズは美しい顔をゆがめる。
嫉妬に支配さてしまっている様子は我の妻ミウを思い出す。
どうしたらいいのだ(;^ω^)

「お父様!!」

マリンが我の後頭部を中華鍋で殴るのだった。
まったく不意を突かれ、効果はてきめんなり。

まさか娘に殴打されるとは。痛みと哀しみで視界が大いにぶれるが、耐える。
ふと思い出したのだが、我は象の騎手に腕を射られたはずだが、
いつの間にか完治しておる。さすがはギャグ小説のノリである。

「これマリンよ。打ち所が悪ければ意識を失うほどの一撃だったぞ」

「殴ってしまったことは謝りますわ。
 私はお父様の煮え切らない態度にイライラしたのです。
 どうしてテレーズに愛してると言わないのですか」

マリンの怒りも尋常ではない。
我は自分でもわからぬが、エリカの娘のマリンの言いつけを
神の教えのように守っていた。だがそうも言ってられん。

速やかにマリンとテレーズの怒りを鎮めねば、
美雪の場合のように流血沙汰になる恐れがある。

「……愛してるよ(*^▽^*)」

「どなたを?」

「て、テレーズとマリンのことをだよ(*^▽^*) 
 決まってるじゃないか(>_<)」

マリンは目を細めながら

「嘘っぽい」と言った。

我は挙動が不審で目も合わせておらぬ。
確かに嘘つきに他ならぬであろう。

「テレーズ。お父様をどうしたらいいと思う?」
「懲罰が必要かと。二度と不埒な真似ができないほどの」

二人は別室に行き、何やらガタガタと音を立てている。
仕置きグッズでも探しているのだろう。
予断を許さぬ事態となり冷や汗をかく。

冷静に考えるとピンチはチャンスでもある。
逃げるなら今しかないと思い、勇気を出し玄関から飛び出る。

廊下を走り、急いでエレベーターを押すが使用中との表示。
上の階で乗り降りしている者がいるためか、全く動かぬ。
こうなったら階段しかないと思うが、最新式のマンシヨンにて
非常階段しかない。背に腹は代えられぬ。
非常口から出てらせん階段を下りる。

「お父様ぁぁ」 「ぱぱー!!」

娘達の声が聞こえるが、構うのものか。
外へ出た。すっかり夜になっておる。
帰宅途中のサラリーマン共とすれ違いながら、
一目散にミカの家を目指す。

妻ではなく娘から逃げる羽目になるとは。
情けなさに涙さえ出てくる。

「はぁはぁ……」

後ろを振り返ると、ガゼルに変身したテレーズの上にマリンが乗り、
猛烈なる勢いで追いかけてくる。捕まるのは時間の問題だろう。
我は精神的な消耗とストレスにより変身する余裕がない。
もはやここまでか。

ふと我の方に、羽が舞い降りる。
この白き羽は……野生の獣のものにあらず……。
いや我には不思議と見覚えがある。

これぞアッラーが遣わした大天使の羽……

我の隣には、無色透明の大男と思わしき者が立ち、我に何事かを語りかける。

----これ信徒の者。イフリートよ。なにゆえ娘の住む家から逃げ出したのか。
  汝、人の心を持つイフリートなり。汝の娘らもまたイフリートなり。
  妻とも娘とも仲睦まじく暮らすよう努力せよ。
  アッラーの使者を自称しながらアッラーの教えに堂々と背くとは、
  これほど恥知らずなことはない。こうまで神の教えを耳に入れて
  おきながら、道を違えようとするとは。まあ好きにするがよい。
  どのみち汝の死後、行く末はジャハンナム(地獄)となる。

我は警察に捕まる強盗犯の気持ちでひざをつく。
開いた両手を娘らの方へ向け地に置く。
両手を置くのは抵抗の意志がないことを示す国際的なジェスチュアなり。 
他に白き旗を揚げる、ハンズアップ(手を上げる)も有効なり。

我がやったことは、その中での最上位。相手への服従を示す所作だ。
娘に対し服従するとは、にわかには理解しがたきことかもしれぬが、
我は一度でも娘たちの元より脱走してしまった。

アッラーの教えに従い、娘達と良好な関係を築くためには、
まずこちらが誠意を持ち謝罪せねばならぬ。

「おい太盛」

誰だ……? テレーズやマリンは我を太盛とは呼ばぬぞ。

「あたしや」(⋈◍>◡<◍)✧♡

エリカの娘のマリンではないか!!

「あんな小娘どもに服従するなんて情けないと思わんのか。
 まっ安心しといてや。
 ちょいと私が蹴散らしてやるから、そこで待っててな(*'▽')」

ソ連製のアサルトライフル(AK-47)を手にしている。
それより髪の毛を茶色に染めたのか? 
少しくせのある髪だったのが、茶色のストレートヘアになっている。
上下黒のジャージ姿はエリカの真似をしたのか。
エリカはテニスなど運動をする時などはジャージを着るのだ。

エリカの娘のマリンの放つ弾は、ガゼルたちには一発も当たらず、
お返しにガゼルの突進を受けて25メートル先まで吹き飛ばされる。
なんという一撃だ。ギャグ小説でなければ即死であろう。

我はもはや万策尽きたとして、再び手の平を地に置く。
小さな声ですまなかったと、口にしながら。

テレーズは人の姿に戻り、無言で我の腕をつかむ。
マリンも、泣きそうな顔をしながら別の腕をつかむ。
我は不覚にも囚われた宇宙人の姿を再現する。

テ「(*^▽^*)おうちに帰りましょうね?」
マ「(´ー`)話したいことがたくさんありますから。今夜は徹夜ですわ」

我は何も答えぬぞ。

「おいブス共」

25メートル先から戻って来た、エリカの娘のマリンの発言なり。
先ほどの一撃が効いたのか、片足を引きずっておる。
ジャージの上着が一部ちぎれてしまい、ブラが見えている。
10歳の若さでブラをしておるのか。発育が良いのだろう。

「父上を離さんかい。本人が嫌がっとるのがわからんのk…」

全てを言い終わる前に、テレーズが疾風のごとき早さで
正拳突きを食らわす。マリンは7メートル先まで吹き飛ぶ。
仮に食らったのが我だったら肋骨が複雑骨折するほどの破壊力なり。

テ「(*^▽^*)ふぅ。少し汗をかいたわ」
マ「(´∀`*)ウフフ お疲れ様。それじゃあ帰宅しましょうか」

エリカの娘のマリンは尋常ならぬ気力と耐久力で起き上がり、
凝りもせずにこちらへ戻って来た。
テレーズとマリンに「ちょい待たんかいブス共」と余計なことを言う。

以下は二人のマリンの会話である。

「ブス…? 今のは自己紹介のつもりなのかしら。誰がブスですって?」
「自分らのことを言ったんや。鏡見てみい」
「暴言を吐くのはその辺でおやめなさい。次は本気で殺してしまうわよ」
「やってみろや。あたしは死んでも父上をあんたらに渡さんつもりや」
「……本気で言ってるの? 頭は大丈夫なのかしら」

「もちろん本気やで。誰が何と言おうと父上はあたしのものや!!
 太盛は私のことだけを愛してるんやからな。
 あんたらのことはどうでもいいゆうとった。
 だってあんたら、顔も性格もブスやん」

「よくも私をブス呼ばわりしたわね。
 しかも二回も。許せないわ。万死に値する罪よ。
 ところで、あなたは信じる神はいないのよね。
 だったら、ただ目を閉じていないさいな」

我はとっさに飛び跳ね、マリンの拳を代わりに受け止める。
手のひらで受け止めたのだが、威力を殺しきれず、足が地から浮く。
車道へ吹き飛ばされた。我らと因果なきタクシーの車体が、
我の体によって激しくへこむ。我はドライバーの異国人
(ネパール人だった)に平謝りし、再び戻って来た。

骨を通り越して膵臓が破裂するほどの痛みではあるが、
意外と死ぬほどではないようだ。

マ「(´っ・ω・)っ お父様っ、大丈夫ですか!!」

「気にするな。これでも身体は夜の砂漠の旅で鍛えられている。
 テレーズとマリンよ。我から提案があるのだ。よく聞きなさい。
 我は今日から三人の娘と生活を共にする。
 すなわち君達に加えてエリカの娘のマリンと一緒に生活するのだ」

※夜の砂漠の旅
中世以来、一国の王子や貴族たちは、剣術や槍術の他に、夜の砂漠の旅も
習得していた。砂漠は酷暑ゆえに日中は昼寝をして体を休め、
夜の間に家畜を連れて移動する。砂漠では月の明かりが重要だ。
トルコの国旗が三日月なのも、そのなごりである。

テ「こんな奴と一緒に生活……(; ・`д・´)?
  まさしく尋常ではありませぬ!!」

マ「私も全力で反対しますわ。エリカの娘のマリンは
  私たちの事をブスと呼びました。
  こんな奴と共同生活が送るなど論外ですわ」

だが、こうして公衆の面前で喧嘩をして何か解決するのか。
ほれみろ。警察の車が集まってきているぞ。

娘二人は納得してない様子だったが、
成り行きでマンシヨンに三人で帰ることに成功した。
さて。これからどうしたものか。

テレーズ「令和10年の市役所の職員とは」

~イフリートの娘、マリー・斎藤・ホリ・テレーズは次のように語りました~

不本意ながら、わたくしマリー・テレーズと、
二人のマリンにパパを加えた4人での生活が始まりました。

仮にこの作品が軽文学(ライトノベル)であるならば、
3人の美少女をめぐる、世俗に言う所の
ラブコメなる展開になることでしょうが、
あいにく令和10年は自民党一党独裁の地獄なのでございます。

「これは……まずいことになったぞ……」

お父様は健康保険と市県民税と固定資産税の『納付書』を手に絶望しています。
今朝、エントランスの共同ポストの中に入っていたそうです。

「わたくしたちのマンシヨンは、賃貸物件なのに固定資産税がかかるのですか?」
「面妖なことではあるが、令和10年ならありうる話ではある」

※普通は賃貸でなく分譲マンションに課税されます。

「いずれの税金も地方税に該当しますね。
 引き落とし口座は、ママの口座になっていたはずですが」

「マリエはこの世から消えた。そして物語の設定により口座が凍結されたのだ」

「そのようでしたね。物語の設定により、とは全く理解に苦しみますが、
 わたくしたちは物語の人物であるゆえに仕様がありませぬ」

「さあさあ。メタネタはその辺にして
 テレーズもこの納付書を読んでほしい」

「ええ。ではさっそく。
 納付書は督促に近い内容なのかと想像いたしますが……」

令和10年では『国家のために税金を納めない国民』は『非国民』とされる。
地方自治体は、国家から一定の徴税ノルマを課せられ、
ノルマが達成できない自治体は国家から『制裁』を受ける。

制裁の内容は、原子力潜水艦から放たれるミサイル攻撃が主です。
対象は市役所。たまに空母艦隊により空爆されることもあります。

現在の家族の中で税金の話ができるのは、わたくしのみ。
朝餉の支度をしているマリンは、訳が分からなそうな顔をしています。
新しき同居人の方のマリンは、朝寝坊なのか、まだ起きてこない。

「聞くのだ。テレーズよ。本来ならば世帯主である我が税金を払うべきである。
 しかしな、信じられぬだろうが、我は会社から未だに給料が振り込まれておらん。
 少なくとも50日以上は働いているはずなのだがな。
 さらに社会保険にも加入できておらず保険証もない。
 完全なるブラック企業とは思うが、
 令和10年では福利厚生と無縁の会社は珍しくないのだ」

「なんとも会社の経営者にワンパンを発動したくなる内容。
 すなわち、会社がブラックゆえにパパは担税力を奪われてしまっていると」

「まことに遺憾だが、その通りだ」

重苦しい雰囲気になりました。
金があるのはわたくし。子役の収入があり、米国資産を運用しているのです。
子役で溜めたお金は郵便局に30万程度残しておりますが、これでは足りませぬ。
米国株の配当金は四半期ごと(年に4回)支払われます。
こうなったら米国株の売却を検討しますか。

令和10年では消費税率34%を筆頭に、税金は高い。
今月、我が家族全員が支払うべき各種税金は、合計で30万にも達するのです。

今日の国民健康保険税は、月額で一人当たり4万5千円と大変に高額です。

我ら一人の市県民税は、年額で30万もする。
それを月ごとに分割で払うことを強制される。
固定資産税は、埼玉県全域が人口減少(銃殺刑の影響大)なのに
なぜか地価が高騰したことにより、平成30年度の4倍にまで膨れ上がりました。

浦和市の平均時給が230円前後となっている。
これで税金を払えとは、政府は何を考えは正気の沙汰とは思えませぬ!!

マリンが、つけっぱなしであるテレビジョンを消そうと配慮をしました。
パパは消さなくてよいと制します。
朝の報道番組です。先日の国会でのやり取りが映し出されていた。

首相『我々はぁ~、中国や北朝鮮の軍拡に対応するためにぃ~!!
   新たに二隻の空母を建造することをぉ、
   ついさっき閣議で決定いたしました!!』

国会とは、自民党以外の議員が存在しないため、
閣僚共どもが新たな法案を発表するたびに
皆で拍手しては法案が可決していく。まさに茶の番。
朝鮮労働党の最高人民会議、中国共産党の全国人民代表大会と変わりません。

首相「これにて、我が国の空母はぁ、合計で12隻となりますからぁ↑~
    国民の皆さんにはぁ~、さらに多くの税金を払っていただきたいとぉ、
    思ってぇ おります!!」

秋の衆議院予算委員会では新たな法案が次々に可決したのです。
参議院は、衆議院と同じく過半数もの自民党議員が居座る。
そのため存在意義を問われ、令和4年に廃止しました。
衆議院の壇上で首相や閣僚が何かを発現すれば、
3秒後には法案が可決するという、狂乱なる国家となっております。

首相「我々自民党は~↗!! 未来ある日本国のためぇ !!
   消費税率のぉ、さらなる増税を検討しております!!」

・消費税率34%⇒42%
・年金、介護保険の支給額の減額
・健康保険制度の廃止。すなわち医療は全額自己負担

テ (;゚Д゚)
健康保険制度の廃止……
ならば我らはこれ以降の保険料を払う義務から免れます。

父 (; ・`д・´) 
しかし医療費を全額負担であるぞ……
もはや病院に頼ることは不可能だ。
仮に風邪薬をもらうだけでも高い出費となろう。

※現実世界でも将来的に『健康保険制度の廃止』が行われても
おかしくない財政状況となっています。
その場合は、子育て世代を中心に民間の保険会社の需要が高まるでしょう。
それでも筆者は保険会社が大嫌いです。
私は保険会社に一円でもお金を払いたくありません。


首相「最近、非国民の方々によってぇ、お店や倉庫などが襲撃されています!!
   そのため国内で活躍している企業のぉ、売上とかがぁ、やばくなりつつあります!!
   コンビニ大手のセブンは仕入れた商品の77%が強盗に盗まれているそうです!!」

テ (;゚Д゚) 77%って……どうやって経営状態を維持しているのでしょうか 
父 ( ゚Д゚)  運送中のトラックが襲撃されることが多いそうだ。
        店舗の従業員の三人に一人が強盗の襲撃で殉職するか重傷を負っている。

首相「佐川急便とか、大手の物流関係の会社もヤバいそうです!!
    あと食料品を製造している工場とかも燃やされたりして大変です!!
    ちょwwwうちの国、治安悪すぎwwwwこんな日本に誰がしたwww?
     伊藤忠商事がぁww国内に食糧を卸すの危険だから、やめていいって? 
     昨日会長さんが言ってましたよwwwwww!!」

首相「東証一部上場企業だけでなくぅwww多くの企業が日本を離れて
    海外に拠点を移していきますwwwwそんなんじゃ困りますよねwww
     我が国は今なお戦後バブルを超える、史上最長の経済成長期にあるのにwww
     そのためぇ!! 各企業にぃ、国内に会社を置いてもらえるよう、
     あのトランプ政策を超えるほどのぉ!! 減税措置を発動しますwww!!」

・法人税率 ⇒ ゼロパーセント (無償化)

テ Σ(゚Д゚) パパ、法人税とは?

父 ( ゚Д゚)  ほう。聡明なお主でも知らぬことがあるのか。
        企業が国に払う税金のことである。
        現実世界でも自民党は法人税を優遇して国民に重税を課しておる。

※令和元年でも法人税の収入は巨額で、国家歳入の2割を超えています。
そのため法人税の増額は、そのまま国家財政の安定化につながるのですが…。

収益やら純利益やらを見るとバブルを超える大企業にも、
比較的緩い税率(累進課税率が五段階)を適用しています。
なぜなら政府は企業の利益(利潤)を最大化したいからです。

2019年7月の参議院総選挙で『令和新撰組』が登場しました。
新選組のマニフェストで興味深いことは

・消費税率の段階的引き下げ
・最終的に0%にして、内需の増加を促す(ミクロ経済政策)
・Q、財源は? A、法人税の累進課税率を増やす(5段階から8段階へ)

つまり企業をいじめて、国民に楽をさせる。
一見すると面白い考えに思えますが、日本の企業は一度バブルを
経験していますから、少しでも経営の先行きが不安になると
従業員の「数千人規模の解雇」を平然と行うことをお忘れなく。

東京新聞だかどこかの記事によると、
2019年度の東証一部企業の累計早期退職者は、1万人を超えたそうです。

米中摩擦と英のEU離脱と、他国の政治の影響で
製品受注と為替が変動し、別に企業が死ぬほどの影響ではなくても
国内で累計何万もの労働者が解雇されております。
法人税の引き上げをしたら『50万から100万人』解雇してもおかしくないのです。


自民党の経済政策は、マクロ経済政策を重視しています。

・理想 (´ー`)
企業の純利益増加(過去最高)⇒ 金が余ったぞ(*^▽^*)
⇒従業員をもっと雇うぞ ⇒ 賃金もアップするぞ ⇒ 国内はインフレに(^○^)

・現実 (;゚Д゚)
企業の純利益増加(過去最高)⇒ 金が余ったぞ(*^▽^*)
⇒海外の投資に回す ⇒ 従業員には『絶対に』還元しない('◇')ゞ

大企業「従業員の生活wwww? そんなん知らねーよwww
    てめーらは毎日残業して最低賃金で働いてろよバーカwwwww」

実例↓
2019年11月某日。
セブンアンドアイ、米中関税合戦(貿易摩擦)の影響で
多くの企業が打撃を受ける中、中間決算にて史上最高益を記録。

にもかかわらず……!!

1000店舗(だったかな?)の閉鎖、『3000人の従業員』の解雇を決定した。

令和10年の物語冒頭でも述べましたが、嘘だと思う人は各大手企業の
決算書(特に財務活動)を見てください。
退職金の恒久的廃止、ボーナスの支払いをためらう、
40代以上の正社員の大規模解雇(早期退職)はする一方、

底値で新卒を大量に採用する(昇給はためらう。賃上げは恒久的にしない予定)
底値で外人を雇う(使い捨てのごみ。三年したら母国に帰ってね)
株主への還元は積極的(配当金の支払い。株主優待)
対外投資(直接投資・間接投資)も積極的。

つまり、国内で働いている日本国民に対し、
『貧乏になって99歳まで働いて死ね』と言っている。
自由民主党の最大のスポンサーは、
『経済連合団体』(通称:けいだんれん)なのです。

もう一度、第二次世界大戦規模の戦争でも起きない限りは、
私達が死ぬまで、確実に、絶対的に、100%明確に、深刻なデフレが続く。

企業が賃上げをするか、政府が社会保障を充実しなければ
永遠に少子化は改善しませんし、一生デフレから抜け出せないのです。
最後の手段として考えられるのは、数千万規模の移民の受け入れしかないのでしょうか。

首相「法人税収入がゼロになったことにより!! 
   我が国の歳入が24兆円も下がってしまいましたぁ!!
   でも企業を生かすためには仕方ありませんよね!!
    国民の皆さんには、税金を必ず払ってもらうように
    特別措置を取らせていただきます!!」

国家から各自治体の市役所へ、徴税部隊を組織するように指導。
納付書や督促状を無視して税金を支払わない人は、『指導』される。

首相「指導とは……拷問してから強制収容所行きとかになりますかねwwww
    非国民は拷問されても文句は言わせませんよwww
    我々閣僚は年収2兆円らってますけどwww少し減給して
    国家にお金を貸してあげますよwww 100万くらいねwww」

首相「あと最近ねぇ、うち(自民)の中でぇ。私のことを軍国主義者とかぁ、
   国民を虐待しすぎだとか、ほざくグループがができちゃったんですよぉwww
   ほんと理解に苦しみますよねwww反対主義者はさっさと収容所に
    言ってもらわないといけませんよねwww」

自民党でいよいよ多数派を占めつつあった反首相派は、全員摘発されて
強制収容所に連れて行かされた。群馬県や茨城県にある工場に連れて行かされ、
一日16時間働かされるのだ。彼らの3親等以内の家族も、血縁者であるため
将来自民党に復讐される恐れがあるとして、7歳以上の男女は収容所での
労働を強いられた。6歳かの子供は孤児院(森友学園)に奪われ軍国教育を施される。

首相「うちの党員を100名以上追放し、没収した彼らの全資産を
   財務省が計算したところ、なんと6兆円も手に入りましたwwww
   意外と普通の党員も金持ちばかりだったんですねwwww」

他にも新たな法案が決まると同時に実行されていく。

国内の労働者不足を解決するため、外人ブローカーと派遣会社は
連係して、東南アジア各国から、年間40万人の奴隷を作ること。

パンフレットの例
『労働者の天国☆日本☆』

最新のテクノロジーを駆使した、働きやすい現場が多数あります

わきあいあいと働ける、土木建築のお仕事☆  飲料水の無料支給サービスあり
資格と日本語能力が生かせる、介護のお仕事  三交代ですが、ボーナスの年四回支給有り
お客様に笑顔で接客を。コンビニなど小売店でのお仕事  今回の募集から時給アップ!!

冷暖房完備の工場、倉庫のお仕事。誰でも簡単に覚えられる仕事ばかりです!!
農業、林業、漁業。国の将来を担う、第一次産業に貢献できる人材を募集!!

どれも日本円での時給が1000円以上となっていますが嘘です。
外人の場合は帰国後に為替(自国通貨に両替)で儲けられるからと、
日本人よりもさらに安い給料となっています。

テ「外国の方々は時給いくらで働いているのですか?」
父「平均で150円だ」

なんと!! 外国の方々は、たったの150円で働いていたのですか!!
一日16時間労働。社会保険に強制加入させ、将来絶対に受け取れない年金を払い続ける……。

父「外人たちは寮やアパートで生活している。仕事内容が真っ赤な嘘だったと分かって
  逃げ出しても、会社関係者にすぐにつかまり、歯が折れるまで殴打される。
  それでも仕事場に復帰しない者は、群馬や茨城の収容所に送られる」

テ「なんという地獄……クルアーン(コラーン)に描かれる地獄がすでに
  ここにあるではないですか。日本とは労働者の地獄なのですか(>_<)」

父「消費税率が42%になるのか。通常の買い物価格が五割増しになるのと同義。
   ここまでくると、生きている意味が分からなくなる。
   いっそ今夜にでも手首を切ってしまいたい」

テ「パパ!! 自殺を考えてはいけませんわ!!
  お父様はアッラーの使者ではありませんか!!
   人の死を決めるのは主のみです!!
   我ら人の子が自由に死ぬ時を決めることは
   経典の民としてふさわしいことではありませぬ!!」

父「う、うむ。もしアッラーが望むのなら、我らが生き延びることも出来よう。
  しかしドラッグストアで働いても金をもらえないのであれば、
  どうしようもないではないか。せめて1週間分でよいから給料を払ってもらいたい」

テ「お金は仕方ありませんから私の貯金を使ってくださいませ!!」

マ「ちょっと待って」

アナスタシアの娘のマリンが何か言いたいようです。

マ「私の実家は神戸にあるのですが、それなりにお金に余裕があるようです。
   ここは私のお母様に頭を下げて、生活費の援助をしていただきましょう」

父「しかしアナスタシアと連絡が取れるのか……。
  あの妻は生粋の遊び人である。
  そう簡単に話がまとまるとは思えぬが」

テ「電話してみましょう!!」

父「ま、待て。ここは、いっそERIKAに」

テ「na ni yue erika ni ?!??」

変換を間違えてしまいました。

「朝からなに騒いどるん? うるさくて寝てられんわ」

濃い茶髪に染めた、エリカの娘のマリンが起きてきました。
派手な寝癖がついてますし、まだ顔も洗っていません。

「実は隣の部屋でパパたちの話し声がばっちり聞こえてたんや。
 で、大変なことに気づいたで」

「ん?」

「アナスタシアはこの世におらんで。すでに死んどる」

なんと (;゚Д゚) !!!!!
第二シーズンでミウが述べたところに寄ると、
アナスタシアはすでに死亡してる?

確かに第二シーズンの後半を読み成してみると、
アナスタシアは学生時代にミウに
拷問されて死んだことになっております……!!

 「そういえば、私のお母さんって……普段から家に居ませんね」

軽いノリで答える、アナスタシアの娘のマリン。

「それ、いつからや?」

「たぶん、私が生まれてまもなくです。
 私は乳母に育てられました。
 侍従長の方からは、母様はしばらく
 海外でお仕事をしていると言われて…」

「顔を合わせたことはあるんか?」

「いいえ……。お仕事が忙しいのとばかり」

「アホちゃうか!! 仕事が忙しいってレベルやないわ!!
 死んどるんやで、あんたのお母さんは!! 
 おそらく、あんたが生まれてすぐにな!!」

いい加減な小説にしても程があります。

父「ぬう……ということはあれか。我の妻であるアナスタシアは、
  妻であるミウによって殺害されていると……」

テ「まさかマリンの母が死んでいたとは。おのれミウ。
  人を殺すことに全くためらいがないとは、
  まさしく鬼畜の所業……」

実はアナスタシアは、娘のマリンが一歳半の時に殺されていた。
ミウが2年生の秋(革命記念日)の選挙で生徒会の副会長となり、
3学年になってから、すでに卒業していたアナスタシアに
逮捕状を出して、地下で拷問してから殺したのだ。


※太盛・イフリートに人称が変わる。

母が既に他殺されていた。
いよいよ物語の設定を知ってしまった、
アナスタシアの娘のマリンは自らの顔を叩き、
シャツの前部を引き裂きながら叫んだ。

「ミウをこの手で殺すまでは、私の怒りが収まることはありません!!」

マリンの正体はマリーダである。
マリーダの魔術により暴風が吹き荒れ、
家中のガラスというガラスが砕け散る。

「よさぬかマリンよ!! ただでさえ金に
 苦労しておるのに損害が増すばかりであるぞ!!」

我がマリンを優しく抱きしめ、2分にわたって口説き通すと、
ようやく冷静さを取り戻し、我の腕の中で泣くのだった。

マ「(´;ω;`)うわーん!! お父様ぁ!!」
父「うむうむ。お主の気持ちはよく分かるぞ」

テ「それよりも話したいことがあるのですが!!」

なぜかテレーズが、マリンに腹パンを食らわせる。
マリンの髪の毛を引っ張り、振り向かせたと同時にパンチしたのだ。
マリンは殴られた腹を押さえながら、床の上をゴロゴロ転げ回っている。

「なにもあなた達の母上に頼まなくとも、私の母である
 斎藤マリエを呼び戻してくれたらよいのです!!」

ふむ……。マリエは3000万近い資産を保有していた。
マリエは10話くらい前に、アナスタシアの娘のマリンの
魔法によってこの世から消されてしまったのだ。解釈の仕方にもよるが、
死んでないのだとしたら、呼び戻すことも可能なのだろう。

アナスタシアの娘のマリンは、よほど苦しいのか、
口からよだれを垂らしながら、荒い息を整えながら言う。

ちなみに先ほどの一撃は、時速80キロで走る
トラックに正面衝突したのと同等の破壊力だったそうだ。
仮に食らったのが我なら即死である。

「わ……私の母は、この世におりません。
 ならばテレーズ。あなたの母もこの世に無ければ私と同じ」

「意味が分かりませぬが、つまり私の母を永遠に
 呼び戻すつもりはないと、そういうことを言っているのですか?」

「あなたにとっても悪い話ではない。
 あなたの母はこの世から消えたわけでなく、退場してもらっただけ。
 太盛お父様はマリーさんのことを愛しているのですよ。
 あなたとて、実の母を疎ましく思ったことが一度や二度ではないでしょう」

「確かに醜く嫉妬をしたことは多々ありますが、それでも私の母なのです!!
 実の母との再会を願うのは子として、人として当然の感情でありましょう!!」

テレーズの言うことが正しい。

我もアナスタシアの娘のマリンをなだめながら、
なんとか説得を試みようと思ってはいた。

「おとん。さっきから玄関先に誰かおるで。
 ピンポン何度も鳴らしとる」

こちらは取り込み中である!!
こんな時に一体誰なのか!!

※ ここでアナスタシアの娘のマリンに人称が変わる。

 マリーダの異名を持つ、イフリートの娘、マリンが語ります。

「浦和市役所の者ですが」
「とある金融機関の者ですが」

役所の人間と、銀行関係と思われるスーツ姿の男女が、12名もそこにいました。
私は実家でソビエト式の訓練を積んだ経験から、そこにいる者たちも
同様の訓練を受けていることを悟りました。

12名の使者の内、リーダー格と思われる肩幅の広い男性が前に出る。
眼鏡を指で押し上げながらお父様に話しかける。

「あなたが堀太盛さんですかな?」
「う、うむ。いかにも我が堀太盛・イフリートである」
「イフリート?」
「なんでもない……おぬしらは行政の使い走りだな?」

「左様です。本日は斎藤家の皆様が家族全員分の健康保険料と
 市県民税を納めてないことが明らかになりましたので、
 その点について色々お聞きしたいことが有ります。
 マリエさんはおりますな?」

「妻のマリエは……今は同居しておらぬ」

「別居中ですか? 各種税金の引き下ろし口座は
 マリエさんの名義になっているはずですが?」

「色々と事情があるのだ」

どうやら私がマリエさんをこの世から退場させてしまったので
税金を支払っていないことになっているようです。

つまり『未納』

未納は、令和10年では『国家反逆罪』が適用される。

斉藤家の場合は、まだ未納期間が1か月程度。
これが3か月を超えた場合、税金を納める意思なしとして、
群馬県北部の強制収容所に送られます。
収容所で働くことが許可されるのは、18歳以上の健康な男女のみ。
五体不満足だったり知的障害の場合は、青酸カリが支給されてしまいます。
女児の場合は、外国に性奴隷として売り払われることが多いそうです。

「別居と言うことは、離婚調停中ですかな?」

「違う。我は妻と離婚するつもりはない。
 税金は我が払えばよいのだろう」

「でしたら、この場で現金で支払っていただいても結構ですよ」

「ぬう……我は先月からドラッグストアでアルバイトをしているが、
 会社がブラックゆえに給料が支給されておらぬ。
 今現在で支払うこと不可能なのだ。いましばらく待っておれ」

「ふふっ。そんな言い訳が」

お父様は、強い力で胸ぐらをつかまれ、背中を壁にぶつけられました。

「通用すると思っているのですかな?
 あなたが生きている世界は令和10年です。
 お金がないと嘆くのはどの国民も同じ。
 ならば、国家の構成員たる自覚をしっかり持っていただきたい。
 私が先日ご訪問したとあるご家庭では、奥様が夜のうちに
 レンタルビデオ店を襲撃して現金37万円を手に入れましたがね」

……令和10年。
税金を払うために強盗まで推奨されるとは (~_~;)

令和は地獄。貧困の連鎖。自民党一党独裁。

賢明な私は知っています。
お父様を脅している市役所の職員と思われる男性もまた、
信じられないほどキツイ徴税ノルマに追われていることを。

3か月以内に未納分の税金の取り立てをしなければ、
市役所の朝礼で頭を撃ち抜かれ、全ての資産を自治体に
没収され、家族は収容所に送られる。

「ふざけるでない……。我とて家族のことを思って働いておるのだ。
 遊んでいたわけではない。同僚が強盗に打たれ涙しながらも
 懸命に店を回しておったのだ。それなのに、我に強盗をしろとは何事か!!
 我は貴様ら自民党の使い走りの者どもを許すことができぬ……!!
 我はアッラーに誓って強盗などせぬぞ」

「あなたの事情など、自民党にとって関係はありません。
 貴方も知っての通り、私共浦和市の行政も、一円でも多くの
 税金を国に納めるようにと命じられているのです。
 家族ですか? 子供なら私にもいますよ」

役人は、懐のスマホを取り出し、息子とサッカーで遊んでいる写真を見せてくれた。

「私とて遊びで徴税人の仕事をしているわけではない。
 国と政府と自治体に忠誠を誓った以上は、
 例えあなたの家庭を崩壊させようと任務を遂行するのみ。
 そこで期限を与えましょう。一か月以内に、最低でも10万円分の
 税金を支払うこと。それができなければ、娘さんの人権をはく奪しましょう」

役人は、テレーズを見て言った。
我が娘の中でも、唯一斎藤家の血の繋がりのあるテレーズを察したのか。
あるいは、ひときわ見た目が美しい、子役だから目を付けたのか。

「はく奪とは、どういう意味だ?」
「ご想像にお任せしますよ」

性奴隷にでもするつもりなのか。
クズ共の考えなど我には読めぬ。

「く……遺憾ではあるが、こんな命令にも我は屈しないといけないのか」

お父様は、歯を食いしばり、涙を流しながら条件を認めました。
ウエルシアが来月中にお給料を払ってくれる保障はないというのに。

「太盛君がそんなものを払う必要はないんだよ」
「ぐっ……」

女の声がしたかと思うと、悪の行政の手先たちは、次々に倒れていきます。

女の正体はミウで、全身タイツ姿の男3名が護衛。
護衛は、行政の手先たちに背後から忍び寄りナイフをかざします。
首元、脇の下、腰を狙い次々と刺していき、それぞれ一撃で戦闘不能にしました。
むしろ殺したのでしょう。狙ったのは全て人体急所だったのですから。

「久しぶりだね太盛君」

「我が妻、ミウ……まさかお主とここで会えるとは」

「太盛君を迎えに来たんだよ。長話はあと。
 家でジュニアも待ってるから、早く帰ろうか?」

是も非もなく、お父様の手を引いてマンションから出て行こうとします。
テレーズが鬼の形相で止めにかかりますが、
ミウに両手で突き飛ばされてしまいます。

「悪いけどお子様はお呼びじゃないから」

しかしテレーズは諦めず、クローゼットの中に
隠しておいた、プラスチック爆弾を抱えてミウに投げつけてやりました。
爆弾は5つもあるので、即死でしょう。こちらも死ぬかもしれませんが。

するとミウの護衛が素早く反応して、なんと爆弾を手で受け止め、
窓を開けて外へ捨ててしまいました。普通の人間なら爆弾を前に
パニックを起こすはずだと思いますけど……。

「言っておくけど、私の部下はSASだからね」

Special air service
スペシャル・エア・サービス

英国陸軍の伝統ある最強の特殊部隊。
第二次大戦の北アフリカ戦線にて生起した。

ミウはどんな魔法を使ったのか知りませんが、第二次大戦で
実戦投入されたSASをこの世に償還することに成功したのです。
ここにいる兵隊はたったの3名ですが、彼らが3名もいれば、
ドイツ軍の空軍基地に対し、武装したジープで深夜潜入し、
飛行機を50機も破壊することが可能とされています。

「さっき爆弾を私に投げたことは不問にしてあげる。
 太盛君の前だから特別にね。次に私を攻撃した人は
 左手の指を順番に折ってあげるからね」

テレーズ、エリカの娘のマリンは戦意を失います。
捕らえられて拷問される姿を想像してしまったのでしょう。

私達はお父様の他には子供が三名。
どうやっても勝てるわけはありません。
そう。普通の子供でしたら。

私はイフリートの娘。アッラーの使者・マリーダとしてこの世に生を受けました。
私が魔法を使えば、転校を自在に操ることも可能。

私はマンションの中で砂嵐を発生させました。

風速41メートル。
砂塵は、一瞬で視界を奪ってしまいます。
顔を覆っていないと、眼や肺の中にまで砂が侵入します。
風圧が強すぎて呼吸することすら難しい。

「ぬわあああああああああああああああああああ!!
 まさか浦和市で砂塵が巻き起こるとは……!!」

私は急いでお父様とテレーズたちをバスタオルでくるみました。
特に露出してはいけないのが口です。お父様は砂漠の知識があるから、
Tシャツを脱いで口に巻いている。娘達も真似をしています。

玄関から勢いよく吹き抜ける風で
物が飛んでくることがありますから危険です。私達家族四人?は
一塊になり、横に立てたテーブルシェルター代わりにて風を防ぎます。

「この砂嵐はなんなの!! 自慢の髪が台無しになっちゃう!!」

ミウの護衛達はミウに上着をかぶせ、一塊になって必死に守っています。
砂漠地帯で戦闘経験のあるSASならば知っていることでしょう。
砂塵が巻き起これば、人間に抗う術はない。戦闘行為などもってのほか。

砂は上空2500メートルまで巻き上がり、空は覆われ夜になり視界はない。
風向きに対して背を向けなければ、呼吸すらできない。
屋内に待機して、砂嵐が過ぎるのを待つのみ。

私達は全身が砂の色に染まっています。

「パパ!! 砂が目に入りましたわ!!」
「あたしは口の中がざらざらして気持ち悪いねん!!」

「すまぬ。娘達よ!!今は我もお主たちを助けてやる余裕がない。
 今はただ耐えるのだ」

実は私には砂は当たりません。
魔法の力によって私にのみ砂嵐が通り過ぎていくのです。

「ぎゃ!!」

ミウの頭に、飛んできたテレビのリモコンが当たったようです。
額から血を流してる。風速40メートルでは小物が頭に
ぶつかるだけで大怪我をしますよ。

私としてはミウにもっと怪我をしてほしいので、
大きな花瓶(イスラム風)を持ち、ミウの頭へと……

「ぐぉ」

狙ったはずですが、護衛の人の方に当たって砕け散りました。
護衛の人には申し訳ないことをしました。
それでも花瓶の破片がミウの頬にかすったみたいで、
切り傷から血が流れています。

ざまあみろ!! 
こんな奴の血でも人間と同じ色をしているのね。

拷問されて殺された母様の恨みだ。

次は何を投げてやろうかな。
投げるというか、風向きの方向に手を離せば
勝手に飛んでいくのですが。そのせいでコントロールが効きません。

花瓶じゃ甘かったか。
いっそ包丁でも刺されば致命傷を負うかもしれないから、
キッチンへ取りに行こう。

|д゚) マリン!! 待たれよ!!

(;゚Д゚) お父様?

|д゚) さすがに包丁は危険が過ぎる!! 
    当たり所が悪ければ死ぬかもしれぬぞ!!

(´ー`) おかしなことをおっしゃるんですね。
     私には母の恨みがあります。お父様だって
      ミウのことを長年憎んでいたのでしょう?   

|д゚)  それとこれとは話が別だ!! 
     そもそも我はミウをそこまで憎んでおらぬ!!
     我はな、お主に殺人の罪を犯して欲しくないのである!! 

お父様は、バスタオルと厚手のシーツを体中にくるみ、
目元だけを露出させて
|д゚)←(こんな感じで)キッチンの私に話しかけているのです。

すると今度は、ミウが引きつった笑みを
浮かべながら、私にはなしかけてきました。

(;゚Д゚)  マ、マリンちゃーん……。

(;一_一) なんですか? 

(;・∀・) 護衛の一人が出血多量で動けなくなっちゃったのよ。
      私も結構血を流してるね。そ、そろそろ砂嵐を
      解除してくれるとありがたいんだけど……。

(;一_一)  よく私が砂嵐を仕掛けたと張本人だと分かりましたね。

(;^ω^)  マリンちゃんは太盛イフリートの娘さんってことで、
      魔法とか使えてもおかしくないと思ったの。
      さっきの太盛君との会話の流れとかでなんとなく察しちゃったの。
      
( 一一)  さすが無駄に頭は回るようですね。で、砂嵐を解除しろと?
      解除するにはタダで、とはいきませんよ。
      条件があります。二度とお父様のそばに近寄らないでください。

(*^▽^*) わ、分かったよ!! あなたの要求通り、太盛君のそばには
     近寄らない。今日はもう帰るから!! 
    
(*^▽^*)(生意気なクソガキが……。
      あとで母と同じように宙ずり拷問してから
      むごたらしく殺してやる!!)

※宙ずり拷問…とは。
 後ろ手に縛った状態で8分ほど宙ずりにして意識が飛ぶようにしてから、
 熱湯の入ったバケツの中に頭から突っ込ませる。たまに棒で体中を叩く。
 これを死ぬまで繰り返す。

(゜o゜) どうせ口から出まかせ。嘘なのでしょう? 
     あなたの目を見れば分りますわ。
     私に対する憎悪でいっぱいではないですか。

(*^▽^*) とにかく今日は帰らせてよ!! 私も額から血がすごいし、
     早く手当てしないと後遺症になっちゃうよ!!
     私も一応女の身だし、学園の支配者の地位だから
     顔に傷をつけるのはNGなんだよねぇ……。

( ・´ー・`) 顔にキズ? それがどうしましたか?
       多くの人を虐待し拷問し、私の母まで殺しておいて……!!! 
 (# ゚Д゚) どの口にがそれを言うのか!!! このシャイターンの手先め!!

マリン VS ミウ  世紀の大決戦!!

~三人称の視点~

(^-^) ふふふ……。シャイターンの手先、ミウよ。
    貴様がそんなにも美しい顔を守りたいと言うのなら、
    私にも考えがありますわ。

マリンは電気ポットの電源コードを外してしまい、
ついにミウの前まで持ってきた。マリンが電気ポットを
逆さまにすれば、ミウの頭が熱湯を被ることになる。

顔全体が大やけどを負えば、今後ミウが人前に出ることは
事実上不可能になるといって良い。

ミウは想像を絶する暴風から身を守るのが精いっぱいで
視界もゼロに等しく、口以外を自由に動かすことができなかった。

(*^▽^:) ま、まりんちゃーん? 何を考えてるのかなぁ。
      わかったわ。あなたのお母様を殺めてしまったことは
      謝るから。本当はね、アナスタシアさんを殺してしまったのは、
      ちょっとした事故で、私の意志じゃなかったのよ!!
      今は全力で公開しているの!!   

(; ・`д・´) 嘘ですね。

Σ(゚Д゚) ぐっ…?

(; ・`д・´) だってあなたの漢字は、誤字じゃないですか。
   
   ※ 後悔⇒公開

「待たれよ!!」

父が吠える。

セ「ミウをこれ以上痛めつけたら、遅かれ早かれ必ずお主は復讐されるぞ!!
   ミウはそういう女だ!! 一度恨んだ相手のことは絶対に忘れぬ!!」

マ「ならば、今ここで息の根を止めればいいと?」

セ「違う!! お主がミウを恨むのは当然の感情であるが、
   ミウとはこれ以上関わるべきではない!! 
   この世には、遠巻きにしておかねば
   ならぬ存在が少なからず存在するのだ!!」

マ「お父様の言い方は、まるでミウをかばっているようにしか
  思えないので不愉快です。ますます殺してやりたくなりましたわ!!」

ミ「だ、だめだよー (>_<;) ほら? お父さんも止めてくれてるでしょ?
   あなたが私に熱湯でもかけたら、お父さんが怒って
   二度と口を聞いてくれなくなっちゃうよ? 
   それでもいいのかなー、なんて…(*^▽^::)」

マ「だからどの口がそれを言うのかと…」

ミ「コーランでは!! 殺人は大罪なんでしょ!?
   私も昔は英国正教会だったからよく知ってるよ!!
   同じ神様を信仰しているものね!!」

マ「別に私はムスリムではありませんけどね( ゚Д゚)
   お父様が熱心な信徒なので参考程度に勉強しただけです。
   それより死ぬ覚悟はできましたか?」

ミ「太盛君が止めてよ!! この子ったら本気で私を殺すつもりだよ!!」

セ「う、うむ。分かっておる。だが、マリンの殺意はすさまじいぞ。
   どうしたらよいのか……」

ここで太盛の手元にA4サイズのコピー用紙が飛んできた。
用紙にはこう書かれていた。
『今すぐ子供達を連れてマンションを脱出し、ミカの家に行きなさい』

セ(なんだこの意味不明な指令は……しかし我らは小説に出演していることを
  自覚しているタイプのキャラだ。台本は絶対なのである)

セ「の、のうマリンよ。先ほどから続く砂嵐でこのマンシヨンは生活家財が
   全てダメになってしまった。今後ここで生活するのは困難になると
   予想される。というわけで、本日の制裁はこの辺で終わりにして、
   これからミカの家にお邪魔することにしようではないか」

マ「は!? いきなり何をおっしゃるの!?
  家財なら買いかえればよろしいでしょう?
  ミカの家……?? どうしてミカの家? 
  突拍子がなさ過ぎて理解に苦しみますわ!!」

セ「わ、我とて意味が分からぬ!! 
  しかしながら、我はミカの家に行きたくてしかたないのだ!!」

マ「どうしてですか!!」

セ「我にも分からぬ!!」

マ「……??? (´・ω・)
  何を言ってるのか分かりませんが、
   理由もないのにミカの家に行く必要はありませんわ!!」

セ「ええい、それでもミカの家に行くぞ!!」

セマル(太盛)・イフリートは、暴風にバランスをくじしながらも
マリンの電気ポットを窓の外へ投げ捨ててしまった。('Д')ポイッ

マ「ああー、私の電気ポットを!!
   しかも窓まで割ってしまうなんてお父様は乱暴者ですわ!!」

そして激怒するマリンを12分かけて説得することに成功した。

セ「ミウよ……。我らはここを出て行く。
  そなたも今日のことをはなかったことにしてくれると助かる…」

ミ「うん……(;^ω^) 結果的に助けてくれてありがと。
  でも……太盛君はミカって女の人のところに行っちゃうの?
  私のところには…帰って来てくれないんだ?」

セ「アッラーが望むなら、ミウと再会することもあろう。
  我はアッラーの信徒なり。一度我と婚姻を結んだ女をないがしろに
  することはない。だが今回は指令なのだ。この紙をみろ」

ほれ ('Д')つ台本  Σ(゚Д゚) あーなるほど

ミ「You promised that you will stay with me till I die.」
  (死ぬまで一緒にいるって約束したやんか)

セ「Yes.that was more than ten yaras ago.」
(10年以上前にな)

ミ「Tonight. I'll go to bed alone again. and my heart will break.」
  (今夜も一人で寝るのさみしいやんか)

ミ「Semaru,it's an anfair,you have so many wifes.
then you didn't missed me? 」
(不公平や。太盛は奥さんがたくさんおるから寂しくないもんな)

セ「Don't speak english. here.look at my lovely doughters.
they don't understand what we are talking about.」
 (英会話止めえ。娘たち見ろや。我らの会話を理解しとらんぞ)

ミ「Because, that what I want.」
 (もちろん、わざとやんか)

セ「You ware bone in england.but,I'm not.
an english canvercation It's so heard to me.」
  (我は君と違って英国育ちやないんやぞ。英会話きっついねん)

ミ「What? you speak super fuluently.」
 (はい? すらすら話せとるやん)

マ「英吉利(エゲレス)語会話はもうお腹いっぱいですわ!!」
セ「すまぬ。そろそろ出発しよう」

テ(英吉利語は、ごほんごほんと咳をするように息を強く吐くのですね……。
  風変わりな発音の外来語ですわ。威圧されてるように感じます)

マ(私にはチェロの弦を奏でるように心地の良い音に聞こえますが。
  お父様の低くてよく通る声に聞き惚れましたわ)

セ(久しぶりのミウとの外来語での会話が、
  以外にも刺激的で楽しかったと感じたのであった。
  このことは誰にも言わないでおこう…)

セ「ところで、マリンよ。この砂嵐はいつまで続くのだ?」
マ「翌朝まで、ですが」
セ「な……?」

砂漠では、三日連続で砂嵐に見舞われることも珍しくはない。
マリンが設定した砂嵐は、なんと丸一日続くと言うのだ。
この設定は一度作ったら取り消すことはできない。

太盛は台本に従い、娘達を連れて、視界ゼロの状態で
マンションの玄関から脱出することに成功した。

マンションの一階から最上階まで、
包み込むように砂嵐が吹き荒れる地獄である。
風速40メートル。少し目を空けたら砂とゴミが入ってくるレベルだ。

ミウと護衛達も何とか脱出しようと、地を這って歩き出すが、
視界が無いために奥の寝室の方へと歩いていた。方向が逆だ。
移動したために(ハンカチで顔を覆った)防護マスクが甘くなり、
ミウの肺の中に砂が入り、激しくせき込む。

目から流れる涙も、砂で覆われてすぐ乾いてしまう。
砂と風。自然現象の恐ろしさをミウは思い知ることになるのだった。

最近のミウは災難に見舞われてばかりだ。
学内では通算で8回目の爆弾テロに会い、
テレーズの仕掛けた爆弾でサイゼリアでがれきの下敷きになった。
肋骨にひびが入った。左足首の骨折。その他、全身の打撲。
倒れた際の衝撃で後頭部を強く打ち、脳震盪もひどかった。

それでも悪運の強いミウは死ぬことはない。
病院で最新の治療を受け、自慢の食欲と自己治癒能力の高さで
回復し、愛する夫・太盛の前に現れた。

だが今回はどうだろう。

訓練されたSASの隊員たちでさえ、十字架や家族の
写真を握りしめながら神に祈るばかりだ。
ミウは、はたして生きてマンションを脱出できる自信がない。

だが、そんな時に現実主義者(ボリシェビキ)の彼女は
神に祈ることはない。その代わりに…

(マリンのクソガキ。あとで絶対に殺してやる。
 ミカって女も誰だか知らないけど、太盛君の愛人だったら、
 むごたらしく拷問してから殺してやる)

ミウの恨みは、太盛の懸念した通り大西洋の海よりも深かった。
高野ミウは、一般生徒から学園ボリシェビキの筆頭に上り詰めるまでに
あらゆる試練に耐え、乗り越えた。生存に必要な強運もある。
権力を握ってからは反対主義者に対しては容赦しなかった。

ミウのあらゆる行動の原動力は「怒り」「悲しみ」なのである。

マリーダの暴走は、結果的にミウに深い恨みを買っただけで
逆効果だったと後に知ることになる。

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太盛はかわいい娘三人を連れて、ミカの家にお邪魔した。
夜の9時だった。
玄関先で太盛を迎えたミカ。

「Σ(゚Д゚) わっ、え、うそ。本物? 
  イフリートさんじゃないですかぁヾ(≧▽≦)ノ
  今日は何しにここに? てか今の時間だと旦那がいるんですけどぉ」

「突然ですまんが、我は事情があって住む家を失ってしまったのだ。
 少しの間で構わぬから、ミカの家にお世話になりに来たのだ」

「ヾ(≧▽≦)ノ えー!! 私と一緒に住みたいってことですかぁ?
  うれしいですけど…イフリートさんは奥様が
  大勢いらっしゃるんですよね…(>_<)
  なんでわざわざ私のところへ?」

「理由は単純だ。いいか、よく聞いてくれ。
 俺は君のことを愛しているからだ。前から何度も言ってるだろ?」

「Σ(゚Д゚)」

「今こそ改めてミカに告白しようと思う」

――愛してる!!
 
「今の俺には他の妻のことなんて頭の片隅にもないよ。
 君と出会ったあの日から、この運命は決まっていたんだと思う。
 君さえよければ、これからも一緒に暮らそう」

「(≧∇≦) せ、太盛イフリートさぁん……!!」

二人は情熱的なキスを交わした。子供たちの見てる前で。

マ(# ゚Д゚) おとん……なにゆうとるんや……
テ(;゚Д゚) 落ち着きなさい……あれが台本なのよ
マ( 一一)  なんとも不愉快な。こんな茶番劇を黙って見ていろと?

娘三人は、はらわたが煮えたぎる思いだが、父はどうせ台本通りのことを
しゃべっている。つまり物語を進めるために、ミカを利用しているだけ。
だからなんとか我慢することができた。

「おーいミカぁ。さっきから誰と話し込んでるんだ?
 宅配業者にしては長いじゃねえか」

黒淵の眼鏡をかけた40代の男性が出て来た。
しぶくていかにも高給取りそうな雰囲気だが、
腫れぼったい目つきと、中年太りのせいで台無しだ。
娘達から見ても容姿では父とは比べものにならないブ男だった。

「君は誰だ?」

「我は太盛イフリートである」

「イフリート? 変わった名前だな。で、うちの妻と何している?」

「見てわからぬのか? 我とミカは抱き合っておる。
 つまりそういうことだ。すでにお主の妻の心は我が頂いたのだ」

「おーそうか。たぶんそうだろうとは思ったがよ。じゃあ離婚だな離婚。
 おいミカ。正式な手続きにすると裁判とかになって
 めんどくせえから役所に離婚届出して終わりにしようぜ。協議離婚だ」

旦那はあっさりしていた。
おたがいに仮面夫婦で家でも会話らしい会話もなく、互いに食卓も別で、
各自が食べたい時に食べる制度。旦那は風呂の掃除をする以外の家事を一切せず、
代わりにミカの税金と娯楽費以外の全ての生活費を出してくれていた。

旦那は、この家に持ち主は自分だから、ミカはさっさと出て行けと言った。
荷物をまとめるのに一日だけ猶予をやる。今夜は愛人を泊めても構わないと
まで言ってくれている。あまりの冷静さに太盛は寒気がしたほどだった。

しかし、太盛イフリート達が出て行くと、令和10年の地獄では
まともな新居を見つけるのに丸一年かかってもおかしくない。
そこで、マリーダの出番である、
アナスタシアの娘のマリンは、またしても魔法を発動する。

ミカの旦那の体を炎で包み込み、亜空間へと飛ばしてしまう。
斉藤マリエに対してやったのと同じだった。

こうしてこの家の世帯主はミカとなる。
物語の設定上、消えた旦那の資産が凍結されるため
彼のお金を自由に使うことはできないが。
5LDKで庭の駐車場付き。娘3人と一緒に暮らすのに申し分ない広さである。

テレーズ(私の大嫌いな担任の家で暮らすのですか……)
エリカの娘のマリン(我慢しろや。マンションより圧倒的に広いで)

---------------------------------------------------

翌朝。太盛・イフリートはミカの寝室で目を覚ました。
昨夜はミカが満足するまで営みをしたわけだが、太盛が
疲れて寝てしまった後もミカはたまに起きては太盛にキスをした。

「口の周りが、妙にネバネバする…」

部屋のカーテンを開くと、強すぎる朝日が差し込む。
階段を降り、洗面所で洗顔と歯磨き(持参した)をする。
人様の家なので多少の遠慮もあるが、旦那が消えているので
そんな心配もいらないかと思う。

「お父様は早起きですね」
「パパ。おはようございます」

アナスタシアの娘のマリンと、テレーズは起きていた。朝の5時半なのに
二人とも相当な早起きだ。夏休みだったらラジオ体操のスタンプを
集められるタイプの小学生だろう。

「おはよう」

イフリートの太盛がイケメンスマイルで返すと、娘二人の頬が赤く染まる。

テレーズはパパにハグしてほしくて近寄るが、すぐにドン引きする。

「なにやらパパから女の匂いが……」

ママの時の一件を見ていたから、機敏に反応したのだ。
父の首筋にはキスマークがたくさんついていた。

イフリートは赤面し、急いで着替えて軽くシャワーを浴びた。
昨夜の出来事を娘に悟られることほど恥ずかしいことはない。

「ご、ごほん。さて朝食の準備と行きたいところだが…」
「朝食の準備なら私がしますわ。お父様は楽になさってください」

マリンは人の家で目覚めた割には落ち着いている。
ぶかぶかの大人用のエプロンを平然と着用し、キッチンに立つ。
冷蔵庫を開けると、缶ビールとおつまみ以外は、冷凍室にアイスが
入っているだけなので、憤慨して軽く吠えた。

幼いドーベルマンが怒ってる感じの鳴き声だった。

「テレーズよ。玄関で靴を履き替えておるが、どうしたのだ。
 朝から散歩にでも行くのか?」

「いいえ。わたくしは朝から家族の身の安全を守るために、
 やらねばならないことがございます」

「む……?」

心配なので太盛が付いて行くと、テレーズは庭の芝の部分(玄関正面)に
スコップを立てて掘り返している。何をしているのかと問うと

「落とし穴を作っているのですよ」

「なに?」

「パパはすでに行政と金融機関の使者に目を付けられております。
 遅かれ早かれ彼の者どもがお父様からお金を奪うために
 ここを襲撃しに来ることでしょう」

「我はミカの家に引っ越したばかりなのだが」

「令和10年では、税金の未納者の動向は衛星から監視しておりますわ。
 どこへ逃げようと同じ。おそらく三ヵ月も未納が続けば戦車を使って
 この家を襲撃してくることでしょう」

イフリートは、第二シーズンでの団地での一件を知っていたから、
恐ろしさに震えた。テレーズの掘ろうとした落とし穴は、直径7メートル、
深さ2メートルにもなる本格的なものだ。
しかし女児のテレーズでは力が足りず困っていた。

「朝餉の前に体力を消耗るのは得策ではないぞ。
 お主の懸念は良く分かった。防御陣地を作ることには賛同する。
 あとで時間を見つけて我も防御陣地を作ることにするから、
 家の中に戻ろうではないか」

「はい…パパがそうおっしゃるのでしたら」

※実際に朝ごはんを食べる前に穴掘りのような筋肉を使う
作業をすると、低血糖になって倒れることがあります。
朝食前の筋トレも絶対にお勧めしません。
筆者は実際に会社で倒れました。

※ここで人称が変わる。(余談ですがコーランでも人称が頻繁に変わります)

~賢者・堀太盛イフリートが語る~

「パパには失礼かもしれませんが、
   上のモノローグには疑問の余地ありと存じます」

「なぬ……?」

なんと、テレーズは我の苗字に違和感ありと申す。
我は斎藤マリエと婚姻の関係にあり、斎藤太盛・イフリートと
名乗るべきだと言う。何を言うか。我は婿入りをした覚えは……。

よく考えてみると我が間違っているのかもしれぬ。
ミカによるとPTAの保護者名義では斎藤太盛・イフリートになっている?
しかしながらウエルシアでは堀太盛で通っていたような……
ええい!! この小説の設定は悪い意味でのいい加減である!!

とにかく朝餉(あさげ)だ!! 腹が減っては戦が始まらぬのは
ペルシアやエジプトでも同じである。

キッチンでは、ひどい寝癖が目立つパジャマ姿のミカと、
可愛らしいエプロン姿で髪留めをしているマリンが
何やら言い争いをしている。
マリンは、アナスタシアの娘のマリンである。

そろそろ「~の娘」と表記するのが文字数の無駄に思えるが仕方ない。

「どうして冷蔵庫の中身がビールや焼酎ばっかりなの!!
 まともな食材が見当たりませんわ!!
 これでは朝ごはんの支度ができないでしょ!!」

「えーだってぇ、私包丁とか握らないタイプの主婦だから、
 ついこうなっちゃうのよ☆ その代わりキッチンが綺麗でしょ?
 お腹すいたら近所にコンビニとかスーパーとかあるじゃん。
 あとはぁヾ(≧▽≦)ノ ウエルシアとかね!!」

「ウエルシア……? ウエルシアではパンや乳製品くらいしか
 売っておりませ……お父様に会うのが目的なのね!!」

「そうなのよぉ……私ったらここ二週間くらいは
 ウエルシアでなんでも買い物してたのよね。
 お酒やアイス、冷凍食品とか売ってて意外と便利なのよ。
 日用品から小さな家電製品まで何でもそろうからね☆」

「逝ってください」

「( ゚Д゚)…?」

「ご自分では気づかないのでしょうけど、あなたがお父様と
 面と向かっておしゃべりをする時の顔ったら見れたものではないわ。
 いい歳をしてぶりっこして上目遣いで、発情期の雌犬がいるのかと思いましたわ」

「雌犬とは失礼ね!! <`ヘ´>プンプン
 喧嘩売ってるの!? 小さいのに口の悪い子ねえ!!」

「お父様がウエルシアでお仕事をされている時も、
 お父様の周りをわざとウロチョロしていたのも知っていますわ。
 お父様が仕事中に視界に入ってくるな、
 ああいうのウザいって言っていたのも知らずに」

「私のダーリンがそんなこと言うわけないじゃない!!
 ……うーん。(・ω・;)…よく考えると
  やっぱり言われてるのかな」

我は遠慮がちにミカらに話しかけ、朝ごはんを
近所のコンビニで仕入れてくることを提案する。

「ダーリンおはよう(⋈◍>◡<◍)。✧♡ 
 それより聞いてくださいよ!!
 この子ったら…マリンちゃんでしたっけ?
 マリンちゃんが朝から暴言を吐いてくるんですよぉ!!」

我には興味のない話題だが、この家に住ませてもらう以上、
家主はミカである。よって適当に相手をする。

「こ、こらマリン。
 大人の人相手に乱暴な言葉を使ったらだめだよ?(;^ω^)」

「ふん」

「分かったかい?」

「……はい。お父様がそうおっしゃるのでしたら」

マリンは品よく腕を組み、そっぽを向く。

そういえば、エリカの娘のマリンの方は起きてこぬな。
本人曰く朝寝坊を常とするらしいので今だ布団の中であるか。

我はいっそアナスタシアの娘のマリンも連れて
食料品の買い出し行こうと思うが、

「令和10年は強盗対策のため、コンビニを含めた
 全ての小売店は10時以降の開店となっておりますわ」

マリンに諭されてしまう。そうだったな……。
我らは朝飯抜きか。ミカは教諭でありながら
時間ギリギリまで寝て朝ごはんを抜くこと多々あると言う。

それでも非常食で乾パンとベビぃチキン(カツプヌウドル)はあると言う。
何も食べないのは脳の働きを悪くするので頂こう。
このカツプヌウドルなる、インスタント食品は実に合理的な発明品であり、
味も悪くない。テレーズは猫舌のため、時間をかけ冷めたところで
ようやく麺に口を付ける。なんとも愛らしい仕草なり。

何気なくテレビをつけると、またしもて内閣総理大臣の演説が行われていた。
アッラーがもたらした良い朝だというのに、ライブ中継である。

『さて、国民の皆さん!!
 今年の春も、自民党恒例の桜を見る会、が行われましたので、
 一応皆さんに報告しておこうと思っております!!
 桜の会はぁ、わたくしアベを支持する全ての人々を
 公費で招き(政治目的)、お花見をする振りをして
 ホテルなどに宿泊させてどんちゃん騒ぎ(宴会)する会です!!』

※参考、東京新聞の記事 2019/11/13

2019年までに、過去五年連続で行われた『桜を見る会』
会場設営や警備費、飲食費に当てられる費用
    総額5200万円!!!!!!(2019年度が最大)

以上は、13日の衆議院・決算行政監視委員会で明らかになった。

安倍晋三は、予算委員会、記者会見での質疑に対して嘘を連発。

・あれは公費でない。
・参加者が各自5000円の自費をホテル?に払っている
・ルール上は問題ないはずだ(何のルール?)

そのくせ、

・参加者の議員が書いたブログを全面削除している
・予算員会に提出する資料(決算書類)は削除している
・関係者全員に口止めをしている。
・参加者名簿はシュレッダーにかけてしまった。

ホテル側「金なんて一円も受け取ってねえよwww」
別の人 「お金の管理は安倍事務所がやってるんじゃねえのwww」
文化放送「まさにとっさに付いた嘘だね。偏差値23」

困った時の火消し役、須賀官房長官殿の最近の発言。

『桜の会は、規則に基づいて行っております。
 金額について問題とされることはありません』

ところが数日後『やっぱり来年は中止します』

問題がないなら中止する意味なし、関係SNSや書類を削除する必要もない。
これはモリカケ問題から続く、安倍嘘つき内閣のおバカを物語るものである。

今後予想される展開。カケ問題の時と同様、野党による集中審議。

「うわー!! 野党の追及が厳しいよぉ!! ウソがばれるぅ!!」 
「これ以上僕を怒らせたら衆議院を解散するぞお!!」

2017年は実際に衆議院の解散をした。その後、
⇒総選挙
⇒自民党の圧勝
⇒アベ君(推定偏差値23、精神年齢13歳)が首相に再選
⇒任期が4年延長。史上最長の内閣総理大臣を目指す

が行われた。衆議院総選挙に使われる国費650億円。
内、『国民負担が300億』を超える。
以上は小説の設定ではなく現実である。

首相(偏差値23)
『何度も申しあげているとおり!!
 国民の税金はぁ、わたくしのお小遣いですぅ!!
 わたくしのお小遣いをどう使おうと、わたくしの勝手でございますから、
 マスコミとか野党にどうこう言われる筋合いは、全くございません!!』

令和10年でなくとも、現実世界の令和元年においても同様である。
我々国民が国税として納めているお金は、一部は確実に首相の
お小遣いとなって消えるのである。ところで桜の会だが、
出席者は立場上必ず自民党の支持者とならざるを得ない。
まさに選挙目的で国民のお金を私的に使用しているのだ。

首相
『その一方で国民の皆さんには重罪を課しますので、
 税金をきちんと払っていただきますよ!!
 もし税金を払わない国民がいた場合はぁ、
 非国民と見なし、全員粛清……いたします!!』

首相
『現実世界では、経団連様から消費税をもっと上げろとか
 プレッシャーを掛けられてるんでwww
 あとでぇ、17パーセントくらいの引き上げを検討します!!
 令和10年では34%から42%に引き上げましたけどねwww』

首相
『国民が何人飢え死にしようと構いませんwwww
 どうせ使えない奴は収容所で死ぬまで働いかせて、
 死んだらまた新しい奴隷を探すだけですからwww
 労働人口の不足分はぁ、外人奴隷でまかなえ!!
 これは経団連様の命令でございますぅwwww!!』

首相「国民の皆様にはぁwww人権など必要ありませんwwwww
    皆様はぁ99歳まデ、国と企業のためニ働きwwww
    100歳なったらぽっくり死んでもらうwww
    これがぁ、令和10年のぉ、国民の基本モデルであります!!」


~聖なる少女。マリー斎藤・堀・テレーズが語る~

わたくしたちは、先進国と呼ばれる日本に生まれたはずなのに、
99歳まで働き続けて奴隷としての最期と遂げろと、そうおっしゃるのですか。
なんたる侮辱。なんたる奴隷国家。

わたくしの通う学校でも軍国教育、鉄拳制裁が横行し、
幼少の頃から国民に自由に生きる権利はないと教えられる。

アナスタシアの娘のマリンも、幼いながらも自民党の
暴走が許せぬのでしょう。
カツプ麺の入れ物を強く握りしめております。

パパが歯を食いしばり恨み言がこぼれております。
パパは50日以上働いているのに収入がゼロ。
週で40時間以上働いているのに社会保険にも未加入です。

ウエルシアは一日16時間の工場と違ってシフト通り働けるので
(学生さんやパートさんの急な休みがなければ……)
好都合かと思いきや、会社は給料を規定通り支払わないことが明らかになりました。

パパは市県民税の納付書を持っているはずです。
納税のことを考えると悔しさで涙を禁じえないのでしょう。
健康保険制度が廃止されたので幸いにも?
そちらの保険料を支払う心配がありませんが。

頑張って働いても貯金する余裕もなく、将来払われる年金は、
現行制度では月額換算で手取り660円。健康保険と介護保険は廃止。
仮にがんの早期発見で治療の場合、100万から140万の治療費が発生。

治療後に治療代が支払えない場合は、消費者金融から
金利21%(複利)でお金を借りることを病院に強制される。
(行政と自治体の命令で)

マリン(ノД`)・゜・。
「お父様がかわいそう。お店で頑張って働いて、
  強盗に襲われて怪我までしたのに
  お給料を払ってもらえないなんて」

イフリート(;´Д`) 
「マリンよ……。我も今日まで様々な苦しみに耐えていたが、
  さすがに限度がある。ネットに武装集団の求人があるそうだ。
  ウエルシアの本社を襲撃して華々しく散ろうかと思う」

テレーズ (;゚Д゚)
「早まった考えを持ってはいけませぬ!!
 日本の大手企業の本社(ウレルシアHD。東証一部)を攻撃するには、
 米国の空母打撃軍に匹敵する軍事力が必要になりますわ!!
 それこそ自ら命を絶つようなものです!!」

イフリート゚(゚´Д`゚)゚ 
「お主の言うように命を絶ちたくなったのだ!!
 令和10年で生きて何になるのだ!!
 死ぬまで政府の奴隷となって生きるならば
 生まれてこないほうが良かったのだ!!」

 大天使 ミカ☆ (。・ω・。)ノ♡
  「お金のことで早まらなくても大丈夫ですよぉ!!
   (⋈◍>◡<◍)。✧♡ 私はお給料をそこそこ貰っていますから、
   ダーリンがお困りの税金くらいならすぐに払ってあげますよ!!」

この女。なにを世迷言をほざいているのと思いましたが、
耳を傾けてみると。

貯蓄額が……現金が300万!!
投資などに回しているお金が……おおよそで700万!?

日本株で投資信託(TOPIX連動Index)の商品が100万!?
外国の債権が100万?
怪しい生命保険会社に積んでいた金が70万!?

郵便局の個人年金保険が……おそらく80万以上!?
確定拠出年金(☆いでこ☆)が……55万!?
長期で運用している米ドル(FX)が……130万!?
生前の旦那が残してくれたロレックスの腕時計の価値が200万!?
その他!?

最後の腕時計と積み立て型の保険には、何の保証もないように
思えますけど、この女は頭の程度がお気楽そうな割には
きちんと将来を見越してお金の運用をしているそうです。

外国為替(FX)にまで手を出してるとは驚きです。
ミカの言い分は良く分かりませんが、FXは長期で運用すると
リスクを低減できるからギャンブルではないそうです。
そうなのでしょうか…(; ・`д・´)

イフリート(;゚Д゚)
 「これは驚いた。ミカがこんなにも裕福だったとは…。
  令和10年の大不況の中でまさか自分で溜めたお金なのか?」

大天使☆ミカちゃん (*^▽^*)
 「もちろんですよぉ。私は親のお金とかには一切頼ってませんからね?
  実家が裕福じゃないので自力で増やすしかなかったんですよぉ。
  私の父は自営業で国民年金組だから
  老後に年金不足で一生奴隷のパターンに入ってるんですね。
  だから私は老後に困らないように年金と保険を重視してます☆」

ミカちゃんの投資スタイルとは

~アナスタシアの娘のマリンが語る~

ミカの資産の話になっているのですが、
あいにく私は小学四年生。内容が難しくて分かりません。
かなりのお金持ちなことは分かりましたが。

テレーズ(;゚Д゚)
「生保にお金を預けて将来は大丈夫なのですか?
 FXもリスクが高い資産であると思われますが」

大天使☆ミカちゃん (*^▽^*)
「生保会社は数年おきに不祥事とか起こしてるけど、
 金融庁がしっかりしてるから、現実世界で不正が起きても
 実態調査してるでしょ!!
 被害にあった被保険者には全額返済されてるし、
 まあ安心していいかなって」

イフリート(; ・`д・´)
「一理あるな。健康保険制度は、現実世界でも財源不足から全面廃止の方向で
 検討が進んでおるそうだ。現に米国では健康保険制度は存在しない。
 仮に大病して治療が必要になる場合は、民間の保険会社に頼るしかないのかもしれん」

大天使☆ミカちゃん(^○^)
「外貨預金で米国ドルを持っているのはね、
 長期的な視点で日本円の価値が信用できないから、かな。
 これ以上デフレが続いたらどんどん円の価値は下がるわよ。
 だったら資産の一部は外国のお金で持っておく意味はあると思うのよね」

テレーズ
(ママも日銀の規制緩和が長期化(実質恒久化)すれば
 諸外国(米や中国)との為替の影響で
 日本円の価値は減少する可能性を指摘しておりましたわ……)

イフリート(;^ω^)
「ミカはよくもこれだけの額を投資に回せたものだ。
 令和10年では教員の平均年収は微々たるものだと聞いたが…」

大天使☆ミカちゃん(⋈◍>◡<◍)。✧♡
「あーそれって、もしかして政府の発表している、
  公務員の平均時給350円ってやつですか?
  あ・れ・はぁ☆彡ですね。実は嘘なんですよぉ」

ミカの年収(小学校教諭、担任)⇒ 450万(ボーナス満額支給含む)

テレーズ( ゚Д゚)
太盛イフリート Σ(゚Д゚)

大天使☆ミカちゃん(⋈◍>◡<◍)。✧♡
「地方公務員でも平成30年度と同じくらいの収入があるんですぅ(^○^)
 これって関係者以外には、ばらすなって言われてるんですけど、
 イフリートさんたちには特別に教えてあげますね☆」

私はマリン。ごく普通の小学生なので政治的なことは分かりません。
それでも後学のためによく耳を傾けてみましょう。

公務員とは、政府の人たち(国会議員は国家公務員)も
含まれる? お給料の算定の仕方が複雑なために…?
めんどくさいので、全ての公務員の給料は実は平成から据え置きになっている?

お父様のようにフリーターで働いている方や外人奴隷の方々の
お給料は極端に低い。テレーズのお母様のような高給取りの方など
一部はしっかりとお給料がもらえているそうです。
そんな裏があったとは私も知りませんでした。

大天使☆ミカちゃん(⋈◍>◡<◍)。✧♡
「ちなみに今日知ったことは秘密にしてくださいよぉ!!
 この情報が世間に漏れちゃったら大変なことになるそうですからね!!」

むしろ極端な差別に殺意がわくのですが。
お父様の税金の取り立てに来た、あの無礼者たちも政府の手先なら
高給取りということになりますよね。
私はこういった貧富の差が許せませんわ!!

マリン(;゚Д゚)
「ミカさんは24歳の割にはお金持ちですのね」

テレーズ(; ・`д・´)
「確かに!! いくら旦那が生活費のほとんどを
 出してくれていたとはいえ、24歳の女人の資産が1000万など、
 芝居の内容にしても尋常ならざる資産額ですわ!!」

ミカ(>_<)
「そんなこと私に言われても、ミカ、困っちゃーう☆☆彡」

イフリート(*´Д`)ハァハァ
(実にかわいいらしいな。初めてミカを愛おしく思ったぞ)


テレーズ( ˘ω˘ )
「私は米国株の運用の経験がありますが、日本株の知識はありませぬ。
 TOPIX連動Indexとは何ですか?」

大天使☆ミカちゃん (*^▽^*)
 「今から説明してあげるね☆」

             トピックス(TOPIX)とは…

     (´▽`* ) ーー ★★ 東証株価指数 ★★ ーー のこと (*´з`) 

                 TOPIX
           (Tokyo - Stock - Price - Index) 

テレーズ( ゚Д゚)
「NHKのニュースで耳にしたことがあります。
 本日の東証株価指数トピックスは……というあれですか?」

大天使☆ミカちゃん (*^▽^*)
 「そうそう、あれあれ」

 ・トピックスは、東京証券取引所が算出・公表している株価指数。
   東証市場第一部『全銘柄の時価総額』が、
    『基準時の時価総額』と比較して増えたか減ったかを表す指数。

TOPIX連動型ファンドは、基準価額が東証株価指数に
連動するように設計・運用されているファンド。
つまりトピックスが上昇すれば自分の資産も増える。

☆☆注意点☆☆
ファンドの目的はあくまでも株価指数との連動。

株価指数が下がっているからといってファンドマネージャーが
株式の組入比率を下げてリスクを回避しない。
業績の良い企業の株式の組み変えもしない。


大天使☆ミカちゃん (*^▽^*)
「ネット証券で私の口座見せてあげますよ」

イフリート(; ・`д・´)
「見てもよいのか!!」

普通は身内出ない人に資産を公表するのは
勇気がいると思うのですが、
ミカはオープンな性格のようです。

ミカは『iシェアーズ・コア TOPIX ETF』という金融商品を持っています。

・iシェアーズ・コア TOPIX ETF(1475)は、
 日本の株式市場全体の動向を示す
 「東証株価指数(TOPIX)」への連動を目指す国内ETF。

•分類 国内ETF
•ベンチマーク   TOPIX
•売買手数料   各証券会社により異なるが、楽天証券なら現物・信用ともに無料
•総経費率   0.06%
•純資産残高   約2,770億円
•分配金利回り   1.61%
•売買単位   1口(約1,700円(2019年11月)
•平均売買高(直近90日):15万口
•決算    年2回(2、8月の9日)
•設定日   2015年10月19日

Σ(゚Д゚)専門的すぎて理解できません!!
テレーズとお父様は金融資産の知識があるからか、
興味深そうに何度もうなずいておりますが!!

テレーズ( ゚Д゚)
「経費率が安いですね。一般的な日本の投資信託と比べると激安です。
 わたくしのバンガード・SP500ETFと比べても十分に安い」

イフリート(;´・ω・)
「1口単位で購入できるのか。執筆当時の株価で1700円も出せば1口買える。
 松井証券を筆頭に10万以下の取引手数料が無料の証券会社を
 使えば、買い増しの融通が効くわけだ」

イフリート(;・∀・)
「分配金(配当金)はそれほどでもないが、最大の利点は、
 日経平均(225銘柄)連動のインデックスよりも
 分散効果が高いことではないか」

大天使☆ミカちゃん
「さっすがイフリートさん、するどぉい(⋈◍>◡<◍)。✧♡
 そうそう。そこがポイントなんですよぉ!!」

iシェアーズ・コア TOPIX ETFは、
東証一部上場の『1800以上の銘柄』に
分散投資するのと同じ効果が期待できます。

組み入れ上位比率

日付 2019年11月14日

ティッカー 銘柄名  業種  アセットクラス  評価金額  保有比率(%)

7203 トヨタ自動車    輸送用機器  株式 ¥11,472,681,000 3.61
6758 ソ ニ ー    電気機器   株式 ¥5,593,324,700 1.76
8306 三菱UFJフィナンシャルG 銀行業   株式 ¥5,183,099,400 1.63
4502 武田薬品    医薬品     株式 ¥4,804,390,800 1.51
9432 日本電信電話 情報・通信業 株式 ¥4,703,466,000 1.48
6861 キーエンス 電気機器 株式 ¥4,429,740,000 1.39
9984 ソフトバンクグループ 情報・通信業 株式 ¥4,410,378,700 1.39
8316 三井住友フィナンシャルG 銀行業 株式 ¥3,581,978,400 1.13
JPY JPY CASH その他 キャッシュ ¥3,530,071,396 1.11
6098 リクルートホールディングス  サービス業 株式 ¥3,397,607,800 1.07

大天使☆ミカちゃん
「この他にも各業種ごとに綺麗に分散されてるんですよぉ(^^♪
 私は教師だから毎日忙しいじゃないですか。
 個別企業の決算書とか読むのも疲れちゃうから、
 投信でいいかなって☆彡」

イフリート
「な、なるほど。これは中々悪くなさそうな金融商品だ。
 積み立て投資で10年単位の長期運用をするならば
 利益を得られるかもしれぬな」

テレーズ
「わたくしはETFを運用している会社名が気になるのですが、
 iシェアーズとはなんでしょう?」

iシェアーズ(iShares)とは、資産運用会社
「ブラックロック・グループ」が運用するETFのブランド名です。
ブラック社は、合衆国に本拠を置く、世界のETF市場の
 4割程度のシェアを持つ『世界最大級の運用会社』です


テレーズ(;゚Д゚)
「な、なるほど。実質ETFの最王手ですか」

大天使☆ミカちゃん( `ー´)ノ
「投信でJリート(Iシェアーズ・コア・Jリート)も持ってるんですけどぉ、
 株価の変動も激しいし、将来人口減少することが確実な日本で
 不動産に投資する意味ないかなって思ってるんですね。
 だから、売っちゃうおうかな☆ 今なら50万くらいは手元に戻ります」

イフリート
「うむ。不動産投資信託は、今でこそ長期運用の視点では
 一定の利回りが確保されているようだが、厚労省の発表する通り、
 少子高齢化で人口減少することは、分かり切っている未来だ。
 お主も賢者ならば、確実に分かる未来に対して適切な判断をするべきだろう」

大天使☆ミカちゃん
「確実に分かる未来ですかぁ……。 さっすがイフリートさん!!
 日本全体で空き家率が2040年までに34%に増加することとか、
 多くの賃貸住宅で安定した家賃収入が得られず、
 不動産会社が倒産ラッシュになることとか、
 令和元年から指摘されてますものね!!」


空き家は大問題。筆者を含めた生涯未婚率の増加。
結婚しても実家を出て行く。核家族化の促進。
残された老人、家の跡継ぎなし。

アベノミクス前後の不動産バブルはすでに崩壊。
台風・豪雨の影響で戸建て住宅に住むメリットに乏しく、
賃貸の需要が増す可能性。関連する損害保険会社の利益も激減。

大天使☆ミカちゃん
えいっ (´∀`)っ ⇒売り注文 ぽちっ

アッラーの使者・イフリート
(ミカはチャートのテクニカルな分析を好まないのか、
 思いついた時にさっさと売り注文を出してしまう。
 いくら将来に損が出る可能性が高い商品とはいえ、
 少し待てば儲けが出るタイミングがあるかもしれぬのに)

テレーズ(;一_一)
(パパの言うことを聞いてあっさりと売ってしまう…。
 パパに惚れこんでいることもあるのでしょうが、
 ミカは主体性のない女なのかもしれませぬ)

マリンの語り~
株はパソコンでクリックするだけで売り買いできるみたいです。
なんだか大人たちが遊びでお金の売買をしているようにしか見えません。
もし簡単なら私にもまとまったお金があれば運用ができるのかしら。

ミカは、お父様と子供達の分の税金を払うと言い出した。
さすがに悪いと思ったのか、イフリートのお父様は遠慮しますが、
ミカはお父様から納付書を取り上げて、コンビニまで行ってしまう。

お父様も急いで追いかけ、結局無事に払ってきたようです。
令和10年のコンビニは強盗の巣窟とされていますが、
よく無事に帰ってきたものです。仲良さそうに手を繋いでいます。
しかも恋人つなぎ……

大天使☆ミカちゃん
「私の住んでいる住宅地の住人は、
 コンビニとスーパーがないと生活できないのよ。
 だから皆が交代でお店を守っているのよね」

驚くべきことを聞きました……('Д')
暇な老人や大学生などを主体にして、交代制のボランティアで
住宅地近くのお店の警備をしているそうです。

住宅地の住民には回覧板が電子メールで回ってきて、
所定のファミマとスーパー・カスミ(またカスミですか……)を
警備する当番を知らせているそうです。
一番危ないのは深夜なので三交代です。

大天使☆ミカちゃん
「私も本当はやりたくないんですけどぉ、土曜の夜とか
 警備のボランティアを頼まれちゃうんですよね(>_<)
 どうしても眠い時は旦那に頼んでいましたけど」

警備に立つ人に必要なことは、自筆の遺書をまず自宅に置いておく。
相手は武装集団。いつ死んでもおかしくないからです。
持ち物は、ライフル、手りゅう弾、ナイフ、防弾ベスト、ヘルメット、
ブーツと警察や自衛隊そのものの格好です。

日本国民は納税しすぎなくらい納税しておりますから、装備品は
日本で生活をするのに必要不可欠として浦和市が支給してくれます。
月の頭に弾薬の補充も市役所に行けば行ってくれます。
市役所まで行くのが困難な人は町役場で手に入れることもできます。

アッラーの使者・イフリート
「ううむ。久喜市もなかなかの地獄だったが、浦和市も似たようなものだな。
 我はウエルシアの店舗が象によって破壊されたため、しばらくは無職である。
 よってお店防衛のボランティアには積極的に参加させていただこう」

大天使☆ミカちゃん (⋈◍>◡<◍)。✧♡
「あっダーリン心配しないでね!!
 ボランティアに行く時は私も一緒です。
 ダーリンを一人で死なせたりはしないわ」

死ぬときは一緒。どうせ適当に言った言葉なんでしょうが、
お父様は涙を流して感動しています。
ミカ両手を優しく握り、キスをしました。

アッラーの使者・イフリート
「本当に君には感謝している。お金のことでも、住む場所でもね。
 もちろん死ぬときは一緒だ。今僕は君そう誓うよ。ミカ。愛してる」

大天使☆ミカちゃん (≧∇≦) いやん!!

子供たちが見てる前だと言うのに、堂々とキスをされるとは。
正直神経を疑います。テレーズは包丁を握りしめてぷるぷると
震えており、いつ爆発してもおかしくありません。

それより私が許せないのは、まるでお父様が本気で
ミカのことを好きになっているように感じられることです。

(*´ε`*)チュッチュ  ミカぁ(●´Д`)ε`○)ダーリン…

いつまでキスをすれば気が済むのでしょう。

お父様がもう十分かと思い、離れそうになると
今度はミカが抱き寄せてキスをする。
軽いキスじゃなくて本気でしています。
息継ぎのためにミカが離れると、興奮したお父様が
さらにミカを抱き寄せ、くちびるを強引に塞いでしまいます。

もう一分以上はキスしていますよ。
いい加減にしないとテレーズが爆発しますよ。

テレーズはIHで鍋を温めており、十分に熱した後
ミカの顔面に当ててやろうと思っているのか、
ニヤニヤしています。たまにこの子は何を考えているか
分からないところがあるから末恐ろしい。

「ダーリン、名残惜しいけど、そろそろ出勤時間になっちゃうのよ」
「おっ、もうそんな時間か。長々と時間をかけてすまなかったね」
「うふふ(´∀`*) 続きはまたあとでね?」

その次の瞬間、
テレーズが十分に熱した鍋でミカを攻撃しましたが、かわされます。

「危なかったわ。お痛はだめでしょ? テレーズちゃん」

「くっ (~_~) 不意を突いたはずでしたのに」

「あなたの殺気ならとっくに気づいていたわよ?
 あまり担任の先生を舐めないで頂戴ね☆」

どうせ行き先は同じだからと、ミカとテレーズは
一緒に登校することにしました。

「ちーっす。今日も寝坊したわ。
 ほんまに朝起きるのが年々しんどくなってきとるわ」

エリカの娘のマリンが、ようやく二階から降りてきました。
相変わらず寝癖がすごいし顔も洗っていないアホ面です。
それでも体は引き締まっていて同年代の子より背も高くて
顔立ちは堀も深くて西洋人のよう。
すましていればモデル級の美少女なのですけどね。

「なんや? ミカとテレーズは学校行くんか? ええなぁ学校(^○^)
 あたしはママの命令でお堅いクリスチャンの学校に通わされとるから
 普通の学校って行ったことないねん。今日だけで構わんから一緒に行かせてや」

驚いたことにミカは、エリカの娘のマリンのわがままを受け入れたのです。

ミカ「それじゃ、今日は仲良く三人で行ってきまーす」
アッラーの使者・イフリート「うむ。気を付けてな」
私「夕飯を作って待っておりますわ」

私(アナスタシアの娘のマリン)は学校に行くことに意義を感じませんので、
通信教育と自主学習に専念しております。家事も料理を中心に
進んでやってますよ。買い出しも行きます。
私は小学生ながら一家の主婦なのです。

家だと体育の授業がないので運動不足にならないかが心配ですわ。

「マリンの心配は杞憂(きゆう)である。家でも力仕事があるのだよ。
  これから少し手伝ってはくれぬか」

「はい……?」

力仕事を女児の私に手伝えとは……。
一体何があるのでしょうか……(;゚Д゚)

担任(ミカ)とテレーズとマリンが一緒に登校したらどうなるか

~~太盛イフリートとエリカの娘のマリンが語る~~

テレーズとミカは、玄関を出た瞬間に繋いでいた手を離した。

父の前で仲良さそうにしとるだけで、ほんまは仲悪いんか。
テレーズは嫌そうな顔でハンカチで手を拭いてる。

「テレーズちゃんさぁ……(# ゚Д゚)
 さっき私をフライパンで殴ろうとしたでしょ。
 愛する太盛様の前じゃなかったら絶対腹パンしてたわ」

「(´ー`) その顔を父に見せてあげたいものです。
 あなたの本性を知れば父は失望することでしょうから」

「あなた達の分まで税金を払ったのは私よ!!
 口の聞き方には気を付けてよね!!」

「嫌なら払わなければ良いのです。
 あなたが父の点数稼ぎのために支払ったのでしょう。
 お金のことなら心配は無用ですわ。
 私は米国株式を運用しておりますから
 あなたに頼らずとも払うこと可能ですゆえ」

「<`ヘ´> 本当に可愛げのない子ねぇ。
 イフリートさんの子供なのは分かっているけど、
 マジでムカつくんだけど」

「腹を立てたのは私の同じです。今朝の茶番劇ですが、
 子供たちの見てる前で堂々と接吻をするなど破廉恥の極み。
 色情狂。発情期のメス犬。あなたさまの貞操観念の薄さには呆れるばかりです」

「うっさいわねー <`~´> あの時はそういう気分だったのよ!!」
 それに彼から迫って来たんだから文句言わないでくれる!!
 私からしたらねえ。あなたがフライパンで攻撃してきたことの
 ほうがよほど腹が立つわよ!!」

「私は破廉恥なる行いを正すために
 フライパンでお仕置きをしようとしたのです」

「私はあなたの担任ですよ!!
 お仕置きとか、そういう発想が生意気すぎるって言ってんのよ!!
 生徒が担任を攻撃していいと思ってんの!?」

「担任を自称するのはご自分の勝手ですが、
 もう少し担任らしく振舞って頂かないと困りますわ。
 学校でも普段の素行の悪さから、
 教頭先生から呼び出しを頻繁に食らっているのではなくて?」

「ぐぬぬ、あんたの話し方、子供らしさがなくて
 可愛げが無さすぎるのよ!! 
 もうあんたと一緒に暮らすの精神的に無理!!
 そんなに私が気に入らないなら出て行けばいいでしょ!!」

「よろしいでしょう。ただし、父と一緒に出て行きますが」

「は? なんでイフリートさんも」

「父はわたくしの肉親ですので当然でしょう」

「私は彼と同棲中なんですけど!!」

「住居を同じにする、という意味ではそうですね。
 婚姻を結んだわけでない以上、ただの愛人か、もしくは恋人でしょうか。
 父には複数の妻との間に授かった娘を持つ身です。
 あなたの価値など妻や娘達の足元にも及ばぬことでしょう」

「うっざ!! 朝から喧嘩売るのいい加減にしてよ!!
 彼は自分の意志で私の元へ来てくれたんだから、
 同居している以上はこっちのものよ!!」

「ですから、父は事情により住む場所に困り果て仕方がなく…」

「うるさい黙れ!! もうしゃべらないで!!」

二人は罵り合い、時につかみ合い、手で突き飛ばしたり
しながら歩いていた。喧嘩がシャレにならんくらい
ヒートアップしていくのであたしが声をかける間もなく、
とうとう学校に着いてしまった。

説明が遅れたがミカの家は学校まで歩いて10分の距離。めっちゃ近いな。

テレーズが担任と一緒に登校したことが教室中の噂になっていた。
何人かの女子がテレーズの席を囲んで質問攻めをする。

「ねえねえ。テレーズちゃんのお父さんがミカ先生と再婚したって本当?」
「先生って結婚してたんじゃなかったの?」
「離婚してすぐに再婚したってこと?」

「斎藤さんのお父様って20代のイケメンなんでしょ? 
 この前ドラッグストアで見たことある。
 イケメンのお父さんがいていいなー」

テレーズはうざそうな顔をしながら、野次馬をあしらっていた。
政治家みたいに答弁のうまい奴やな。

部外者のはずのあたしは、教室のど真ん中で平然と立っとるのに
誰も突っ込まん。ノリ悪いなこの教室。いきなり新キャラが
登場したんやから、もっと騒いだりしろや。

それよりあたしの席ないんやけど。

ミカ「はい。みなさん。おはようございまーす☆彡
   今日もいい朝ですね(*^▽^*)
   さて。さっそくですが新キャラ(転校生)の紹介をしまーす」

あたしは転校生扱いなのか……。
なら今日から毎日通ってええのか?
病欠した田村君の席が空いてるっていうんで、そこに座らせてもらう。
…ここってテレーズの隣やんか!!

朝の会(HR)のあと、一人のおとなしそうな女の子が
テレーズの席に近づいた。

「あのぉ。斎藤さん……。この前は助けてくれてありがとうございました」

「はい? なんのこと……あ、不良グループとの一件ですか」

「前からずっとお礼が言いたいと思っていたんですけど、
 なかなか話しかけるタイミングが、ですね…」

女の子の名前は高倉歩美(たかくら・あゆみ)さんゆうて、
ショートカットの黒髪で背も小さくて弱そうな感じの少女。
顔は整ってる。小動物みたいな感じや。

歩美さんはぺこぺこ頭を下げて、ご丁寧に菓子折りまで渡した。
高級そうな「どら焼き」やった。しぶいな。
テレーズの前世が紫式部なことを見抜いて古風なお菓子で攻めたんか。

あたしは寝坊して朝ごはんを食べはぐった。
朝は苦手やから、いつもなんやけどな。
昼までもちそうになかったので、
テレーズからお菓子を取り上げて一分で完食してしまう。

「飲み物も飲まずに早食いをすると
 消化に悪いから控えなさいな」

さーせん。

私「テレーズは誰を相手にしても他人行儀なんやな。
  さっきの子と友達になってあげればいいやん」

テ「私はなれ合いを好みませぬ。前世が平安時代の人間のため
  現代女童らと様々な面で感じ方や考え方が異なるのです。
  ですから孤独に過ごす方が得策なのです」

私「まあ好きにせえや。休み時間をどう過ごそうと自分らの勝手やからな。
  いっそあたしがさっきの歩美ちゃんと友達になったるわ」

おーい、あゆみちゃん。と話しかけに行ったら、
タイミングよく女子の委員長が歩美ちゃんに声をかけて、
どこかへ連れ去ってしまった。職員室まで行って、
プリントの束を運ぶのを手伝ってほしいらしい。
漫画で散々使いまわされた展開やな。

ああいうのって、男女の委員長が二人でやれば終わる仕事やろ。
いちいち一般生徒に頼むな。しかも絶対何かしらのイベントが起こる。
普通の学校生活やったら絶対何も起きんわ。

はぁ(;゚Д゚) 結局、話しかけられんかった。

一時間目は国語の時間やった。うざいことに朝から漢字の小テストが始まった。
歩美が運んだプリントはこのテストに使うものやったんか。
ちなみにあたしは勉強はできない。

よく母様にテストの点数で怒られるけど、できんもんはできん。
興味のある教科が一つもないからな。授業なんて先生が
永遠とお経をしゃべっとるだけで寝てたほうがマシや。
日本の学校教育の退屈さ、ほんまになんとかならんのか。

あたしは要領よく隣の席のテレーズの回答をカンニングしてやりすごした。
こいつの字は達筆すぎて逆に読みにくい。あと気のせいか、わざと
あたしに写させてないか? 勉強が苦手なあたしに同情しとるんかな?

テスト終了後、ごく普通の国語の時間が始まった。
公立小学校は担任の先生が、クラスの全ての授業を受け持つ仕組みらしい。
ミカちゃんも教壇に立つ時は、さすがに真面目そうな顔しとる。

それにしても……(;^ω^)
授業が詰まらんのはどこの学校も同じか…。

あたしがもともと通っていたミッションスクールの
堅苦しさは反吐が出るほどのレベルやったけど、
こっちもそんなに変わらんぞ。

ただシーンと静まって椅子に座って黒板の字をノートに写すだけかい。
今日は来なければよかった……。
後ろの席の歩美ちゃんを見ると、一生懸命ノート取ってる。

「真面目やなぁ。こんな、かたっ苦しい教科書の内容、絶対将来使わんで」

「そ、そんなことないですよぉ。学生のうちから真面目に
 勉強しないと学力の基礎ができませんから」

「ほーお。歩美ちゃんは先生みたいなこと言うのな。
 成績も上位とか取ってるんか?」

「い、いえ。成績は別に大したことないです。私はただ、
 将来立派な大人になるために全教科で満点を目指せとお兄様に言われて…」

「全教科で満点!? なんや。歩美ちゃんはがり勉タイプの少女なんか?」

さすがに先生が睨んでくるので、歩美はうつむいてそれ以上は
話してこなくなった。あたしもテレーズにまで注意されたので
さすがに前を向く。お兄様って……兄貴おるんか。
きっとがり勉でメガネかけてのび太君みたいな顔した兄なんやろな。
なんとなく。

国語の次は、英語やった。
授業が始まると、なぜかクラスのがガキ共はざわついている。
教科書も開かずに普通に隣前後とおしゃべりしてる。
こいつら、なにしとんねん!?

女子「どーせ斎藤さんと先生が騒ぐだけの時間だし」
女子「私は真面目に授業やってほしいんだけど」
男子「おーい田中。先週貸したモンハンどこまで進んだ?」
男子「それが例のアイテムがまだ見つからなくてさぁ」
女子「有名な女優が麻薬常習犯だったって聞いた?」
女子「聞いた聞いた。ママが買ってる週刊文春を借りて来たんだけど、読む?」

女子どもが普通に週刊文春を広げてて笑うわ。
その記事ならあたしも興味ありまくりやけど、
さすがに今は授業中やんか……。

ミカちゃんはガキどもを注意をもせず、黒板に無言で英語を書いていく。
ん……? 英語の文字ってあんなんだったか? 
あたしはアルファベットも最後まで言えないレベルやけど、
さすがに黒板に書いてある字が英語じゃないことくらいわかるで。

「bitte, she, フロエライン サイトウ。
 Lesen und übersetzen Sie die folgenden Sätze vorund.」
  
     【斎藤さん。黒板に書いてあること音読し翻訳せえや】

「あばー いひ・カン・ニヒト!! フォアシュテエン!!
 フラオ ミカ・アリタ!! ヴァルコム シュプレッツェン 
 ジー ニヒト エングリシュユ? エス・イスト・ドイッチュ!!」
   
      【ドイツ語なんて理解できるか!! なんで英語やなくてドイツ語!?】

「シャイセ!! Komm schon, komm schon!!!!
 いひ ヴぃる じー げざーげん!! のっほまーる!!」
 
        【くそったれが!! 音読しろゆーとるやろ!!】

「ナイン!! ダす・めーげ・イヒ・ニヒト!!!
  どぅ びすと しゅぴな!!」
 
          【絶対嫌や!! この豚が!!】

「じー あおほ!! うんと じーかん どいっちゅ しゅぷれっしぇん」
  
       【豚はあんたのことでしょ!! つか独語、話せるやん】

「いぇーでマール いむ うんたーりひと!! いんであ クラッセ!!
 シュプレッシェン ヴィア ドイッチュ!!」
     
         【そりゃ。毎回授業でドイツ語を話しとるからな!!】

(゜-゜)懐かしい響きやな。ゲルマン語の言葉は、
母音が少なくて子音の音(空気を吐き出す音)が多い。
語頭にストレス・アクセントが多く入ることが米国英語との共通点。
ドイツ語か。二人とも流暢に話せとるのに驚くわ。

ちなみに、うちのママ(エリカ)の大嫌いな言語なんや。
ママはドイツ語は犬が吠えるような発音をするから野蛮な言語やって。
ソ連人の血を受けついでいるからか、祖父の代から
うちの家系ではドイツ語はNG。母はソ連人と日本人のハーフ。

第二次大戦で敵国だったドイツの言語が許せんらしい。
むしろドイツそのものがこの世から消えて欲しいらしい。

でもあたしは幼稚園の頃から興味本位で世界中のラジオ局の音楽を聴いていた。

クラシックを聴く時はオーストリアとドイツの放送局を聞いていたんや。
DJは当然向こうの言語で早口に話す。
そのせいか、欧州各国の言語がすっと頭に入って来た。
だから説明されなくても音を聞けば何語なのかだいたい分かる。

「ビッテビッテ。ザイ・シュティル。
 mika unt therese...Wir leben zusammen.Verstehen Sie sich」
    (ミカとテレーズ。落ち着けや。あたしら同居してる仲やんか)

ミカ(・ω・) ……は? 
テレ (゚Д゚) うそぉ!?

あたしが多少はドイツ語が話せることを知った二人は
泡吹いて気絶するほど驚いておった。

ミカ「ワラ雨居神具 意地っ!! 
   まりぃん!! ようきゃん☆すぴいく、じゃぇあまん↗!!」
       
      【信じられなーい!! マリンちゃん、独語話せたのぉ!!】

あたし「イエス ティー茶あ!! 
    あいすぴいく 三郎(さぶろー) らんげぁああじぃす!!」
      
      【そや先生。あたし、数か国語いけるで!!】

ミカ「わら かいんろぉぶ!? はうめにぃ!?」
  
         【どの国の? 何か国語!?】

あたし「ろっしあん、イングリッシュなう・うぃあぁスピいきんぐ。
    えぇぇんどぅ……じゃあまん イエんど ふれんち!! 雑オウル!!」
            
      【露語、今話してる英語、独語、仏語やな!!】

ミカ「ざっつ ぐれええええええ一いt!! 
    よあ ふぁっきん☆ ビューりほぉおおおお すちゅーでんt!!」
     
         【すごーいwww!! やばーいwww!!】 ←日本語訳、短かすぎやろ!?


あたしらの英語なまりすぎて笑いが止まらんのやけど。
いつから英語話しとるのかもよく分からん。

さぶ郎   ⇒ several  いくつかの
わら    ⇒ What the  まあ、なんて!!
雨居神具  ⇒ Amazing  やべ!!
意地っ   ⇒ Is it !! 前後の文章の強調表現
わら かいんろぉぶ ⇒ (What kind of)何種類の? 

うん……。自分で話してて思う。どう考えても英語ちゃうわこれ。
あたしは幼稚園から米国人の先生に個人レッスン受けてた影響で
こうなってしまった。しかもこのクソ訛りが
米国東部標準語って力説されたけど納得いかんわ。
うちのママは綺麗な英国アクセントで話しとるのにな。

授業終了後。あたしはトイレに行こうと席を立つが、
後ろの席の子にパーカーのフードを掴まれてしまう。

「兵☆ よう!! マイしすたー!!
 キャナイ アぁ↑スキュー サムシン!?」

あ!? 歩美ちゃんが英語を話してきた!?

「あいむそう えきさいりぃん!! なぁぁ↗う!!
 あい でぃどん のうざっT、
 よう あぁ まぅち りんごぅ!!」 

マッチ、リンゴ? ああ、マルチ・リンガルってゆうとるんか。
リンゴが食べたいんかと思った。
英語で多国語話者って意味な。
歩美は、あたしが多国語話者なんて知らんかったって感動してるわ。

「私が一番感動したのは、あなたがロシア語を話せることです。
 試しに私とおしゃべりしてみましょうよ?」

「ええけど。あんた英会話の時はテンション高すぎやろ」

あたしはソ連の家系に生まれたのでロシア語は母語みたいなもんや。
日本語と同じレベルで話せる。むしろたどたどしいのは、
歩美ちゃんの方や。歩美ちゃんは単語を頭で
思い浮かべながら話すので、はっきり言って遅い。

話の内容は好きな食べ物の話題と、あと今さらながら
あたしの名前を訊かれた。あたしの名前は

「まいよ・めにゃー・マリン・たちばな」

橘マリンや。よく覚えとけや。

「マリンちゃんって英語のアルファベットも最後まで言えないのに
 何か国語も話せちゃうなんて天才じゃないですか?」

「あたしは音で覚えるタイプやからね。
 気になった単語はたまにスマホで調べて覚えとる。
 家の事情で母もおじいちゃんもロシア語ペラペラやからね」

「家族の人がロシア語がペラペラ……。すごーい憧れちゃう。
 まるでソ連のスパイみたいな家庭ですよね。えへへ」

「ま、まあな(;´∀`)」

「あぅΣ(゚Д゚) ごめんなさい。ソ連のスパイだなんて
 失礼でしたよね。それに今時はロシアって言いますよね」

「……歩美ちゃんにだから言うけど、あたしの家はソ連から
 移住してきた一族なんや。おじいちゃんが元ソ連の閣僚で
 日本に亡命してきたんや」

「(=゚ω゚)ノ えええ!! (^○^)そうだったんですかぁ!!
 ソ連系の家系ってことは、マリンちゃんも共産主義者なんですね!!」

(´・ω`・)…!?

共産主義者なんですよね……? (>_<)

(;´・ω・) …… しーん

(゚Д゚:) もしかして資本主義者の人ですか?

(; ・`д・´) ちゃう。

(>_<)  ちゃう?って英国のチャウチャウ犬? ってそうじゃなかった!! 
     資本主義者じゃなくて共産主義者でもない?

(; ・`д・´) いや、別に政治とか興味ないわ。難しくてよう分からんし。

(>_<) そ、そんなー!! マリンちゃんはボリシェビキだと信じて
    話しかけていたのにー!! 騙されてしまいましたぁ!!

歩美ちゃんはトイレにダッシュして消えていった。

ボリシェビキってあれか。狂信的な原子の共産主義者のことやな。
ママから聞かされたことがある。うちはソ連式の格闘術の訓練は
施されているけど、政治思想を子供たちに押し付けることはなかった。
だからあたしはボリシェビキにはなっておらん。ほんまに政治には興味ない。

「これはこれは。わたくしたちのクラスにボリシェビキがいたとは、
 驚きを隠せませぬ。悪の手下ほど身近にいるものですね。
 事実は小説より奇なり。灯台下暗しとはよく言ったものです」

テレーズが午後ティー(ミルクティー)を品よく飲みながら言う。
こいつがモデルだとペットボトル安物でも高級品に見えるから困る。
なんで休み時間に「源氏物語」を読んどんねん。しかも原語で……。

「噂によると」

テレーズがいつになく真顔になる。

「歩美さんの兄上は、ボリシェビキ組織の上位の地位にいるそうです。
 なんでも、あの栃木県足利市の議会の主要なメンバーの一人だとか」

「それってヤバいんか?」

「足利市の行政を支える市議会のメンバーは、少数精鋭の実力者です。
 日本国の政府で例えると国務大臣クラスの権力を与えられている者たちです。
 マリン。あなたはとんでもない人に自らの出自の秘密を明かしてしまいました」

「な、なんやその言い方は!! 
 あたしはただ、歩美ちゃんに話しかけられたから普通に会話しとっただけや!! 
 まさか歩美ちゃんがボリシェビキだったなんて知るわけないやろが!!」

「そうそう。ボリシェビキは、秘密を知られた相手が資本主義者だった場合は、
 口封じのために抹殺する決まりがあるそうですよ。軽々と人に
 話しかけるからそうなるのです。今後はくれぐれも自分の言動に気を付けなさい」

テレーズが脅し文句みたいなことを言うから
何が起こるんかと放課後までおびえていたわ。
放課後。まかさのイベントが発生する。さっさと帰ろうと思った私の
パーカーを、またしても後ろの席の歩美が掴む。

(^○^) 放課後暇だったら私の家に寄ってかない?
    お兄様がね、マリンちゃんに会いたがっているの。

(;゚Д゚)  はは……あかん。それって死亡フラグやんな?
   
(´ー`) 死亡フラグ? お茶を飲んでおしゃべりしようかなって思ってるんだけど。

(;゚Д゚) なるほど。自白剤入りの茶を飲まされるパターンか…

Σ(゚Д゚) そんなことしないよ。お兄様がマリンちゃんに興味を持ったから
     直接会ってお話ししたいんだって。私のお兄様の写真見せてあげようか?
     みんなイケメンだって褒めてくれんだよ。えへへ。

スマホの写真を見せてもらったが、確かにかなりの美男子やな。
すらっとして背が高そうで、メガネかけて頭良さそうや。
パパとは違うタイプのイケメンやな。

のび太君やないのはよう分かった!!
でも。どんなに見てくれが良くても正体がボリシェビキなんやろ!!
昼休みにボリシェビキのことをスマホで調べたらとんでもない内容やった!!
ソ連内で粛清した国民の人数が7000万人を超える!?
反対主義者は粛清、拷問、銃殺刑!?

粛清とかは今の自民党と大して変わらんけど、
殺した数で言えば自民党を超える悪党やぞ!!

「こらテレーズ!! 自分。なに帰ろうとしてんねや!! 助けろや!!」
「実はパパにお使いを頼まれていましたので……」
「嘘やろ!!」
「嘘ではないの。洗濯機を買ってくるように頼まれたのです」
「洗濯機!? 小学生の女子が学校帰りにそんなもん買うか!!」
「と、とにかく。ごきげんよう!!」

ざざざっ (>_<) テレーズは教室を出ようとした。

(´ー`) しかし、歩美に回り込まれてしまった。

「待ってよ。テレーズちゃんも誘ってあげようと思っていたのに」

「わ、わわ、わたくしは、そのぉ。え、遠慮させていただきたいの」

「まあまあ。そう言わず。斎藤テレーズさんには
 不良グループから助けてもらったお礼がしたいんだよ。
 ねえお願い。一緒にダージリンでも飲みましょうよ」

「私は平安時代の生まれですから、紅茶の味は分かりかねますわ…」

平安時代ネタ好きやなこいつ。
さっき午後ティー飲んでいたのは気のせいか?

「紅茶が苦手だったら日本茶もあるよ? お兄様に頼めば
 どんな飲み物だって用意してくださるんですから。うふふ」

「そ、そこまで言うのでしたら、分かりました。
 ただちに荷物をまとめますから、申し訳ありませんが、
 少しの間そこで待っていてください」

今ランドセルを背負っているのに何をまとめる必要があるのか。
テレーズは、自分の机に座り、日記を書いている。
日記と思われたそれは、遺書やった……。

小学四年生の女子が遺書……
しかも習字で書くんかい!!

それはつまり、あれか。
歩美の家に行けば死ぬかもしれんっちゅうことやんか。
あたしも書いておこうかな……。

テレーズ「歩美さんの家に招待されました……(;´Д`)」

~~聖なる少女・マリー・斎藤・ホリ・テレーズが語る~~

逃走を計ろうと思えば、不可能ではありませんでした。
ですが歩美さんが
「せっかくのお兄様からのご招待なんだから、逃げたら怒るよ?」
と耐えがたいほどの圧力をかけくるので足がすくみます。

私はボリシェビキを恐れています。
以前わたくしと喧嘩をしていた女子の不良グループですが、
最近姿を見なくなったと思ったら、【転校】していたそうです。

表向きは親の都合とされておりますが、まさしく世間の目を欺くための偽り。
歩美さんのお兄さんの権力によって下校途中に拉致し、ウラジオストクの港に
性奴隷として売られてしまったという【噂】です。

ボリシェビキは徹底している。不良グループの三親等以内の親族も
連帯責任として拉致しているとか……。私達は自民党一党独裁の
資本主義の世界に生きておりますが、一部の議員にソ連のスパイが
混じっています。浦和市の県議会にもスパイが一定数いるとされています。

ああ、考えるだけでも恐ろしい。私は、歩美さんと関わるのが恐ろしい。

「もうすぐだよ」

歩美さんの家は、一見したところでは廃ビルと思わしき建物でした。
やはりわたくしの予想通り、ビルはふぇいく。
ビルの地下には、どこまでも続くトンネルが彫られておりました。
薄暗いトンネルを、LEDのペンライトを片手に進むと、鉄製の扉が現れます。

暗証番号と指紋認証をすると開きまして、階段を降りると
また新たな扉があります。こちらは声の認証となっております。

そこはカウンターのバあ(BAR)となっておりました。
奥にテーブル席も複数あり、大人が20人ほど入れそうな広さです。
天井や壁にレンガを埋め込んでおり古風なたたずまいです。
渋みの有るウッドデザインのバーテーブルの前に、
ちぇあ(イス)がいくつも並んでいる。

「お兄様!!ご無沙汰しておりますわ!!」
「歩美!! 久しぶり。仕事が忙しくて一ヵ月も会ってなかったね!!」

兄上なのですか……? 父上ではなく?
歩美さんの兄者はフルネイムで高倉ナツキさん。

兄者はバぁテーブルでコーヒーを飲んでいました。
本来ならお酒を飲む場所なのでしょうけど、
わたくしたちに配慮したのでしょうか。

「僕の家は父が大酒飲みだからね。
 僕はアルコールは控えているんだ」

「お兄様ー(^o^)丿」

歩美さんは小学四年生だと言うのに、兄者に会えたうれしさで
抱き着いています。兄に甘える姿はコアラのようです。

エリカの娘のマリンは兄者を見て驚いています。
意外だと思っているのでしょう。わたくしもそうです。
ナツキさんは、いわゆる冷酷でサディストが多いボリシェビキの
男性には見えません。

ご自分の妹者(←これ、どう読むんですか?)を愛おしく
抱きしめている様子は、やはりコアラのようで、
ごく普通の優しいお父さん(本当にお兄さんなの?)と言った感じです。

年齢を聞いてみると、わたくしのパパの一つ上だとか。
28歳!! それにしては若い!! 20代の前半に見えますわ!!

ナツキさんは長身で手足が長く、前髪がさらさらで、人気男性俳優がそのまま
目の前にいるといった感じです。写真で見たのと違い眼鏡をしておりませんでした。
切れ長の瞳に知性を帯びているのが分かります。

憎きミウが支配する学園の……生徒会長だったことがある?
生徒会役員だったミウと付き合っていた時期もある……?
ミウとの関係は無性に気に入りませぬ。

「お兄様。テレーズさんは堀太盛さんのご息女なのです」

「そうか。話には聞いていたが、さすが太盛君の娘さんだ。
 すごく可愛いし、賢そうな顔をしているよ。
 もちろんマリンちゃんもすごく可愛いね」

わたくしのパパと面識のある方だったのですか……。
握手を求めてきたので応じました。大きな手…。
マリンも表情が険しいけど、握手のあとは少し緊張が解けたようです。

「君たちの顔を見れば分かる。僕がボリシェビキだから捕まって
 拷問されるかもしれないって思ったのかな?
 そんなことするわけないよ。僕は歩美に仲の良い友達が
 できたって聞いたから、ちょっと顔を見たくなったのさ」

ナツキさんは、ご自分で動いて私たちの分のお茶を淹れてくれました。
わたくしは平安時代の生まれですので、外来の文化にうとい。
香りだけでは紅茶の種類が分かりませんが、ダージリンだそうです。
カップを口元に運ぶと、ますます良い香りがして心が落ち着きます。

「テレーズさんは、斎藤マリーさんの娘さんか。確かにあの子の面影がある。
 高校時代のマリーさんはそれはもう美人だったよ。マリーさんは元気?」

「母は……その……」

「あっごめんね。話したくない事情があるなら、あえて聞かないよ」

この方は空気を読めるタイプの男性のようです。
母がマリーダの魔法によって消されてしまったことなど
説明の仕様がないので助かりました。おそらくボリシェビキの
方に神の魔法のことを説明しても理解していただけないことでしょう。

「マリンちゃんも楽にしていいからね。ケーキでも食べる?
 2人が遊びに来るって聞いていたからコンビニで買ってきたんだ」

ナツキさんは柔和に微笑み、恐縮しているマリンと私の前に
レアチーズケーキを置いてくれた。高級品なのかと身構えたけど、
ファミリーマートで売っている商品だと教えてくれました。

令和10年の10月に、消費税率が42%まで引き上げられることが
決定されております。現在も税率が34%ですから、
ケーキは嗜好品であり高級品です。

「コンビニのケーキを買うために装甲車2台、
 武装した強盗5名と戦う羽目になったよ。はは(*^▽^*)」

コンビニはすでに強盗によって占拠されていたが、
そこへ横から侵入してケーキを買いに行った。
ナツキさんは強盗と激しい銃撃戦の末、ついに店まで燃やされてしまったが、
なんとか無事だったチーズケーキを確保して撤退した。

そのため勘定は払ってない。というか払う暇もなく店が燃えてしまった。
店員は全員逃げ出した。ナツキさんと数名の護衛は共に奇跡的に無傷だったという。

「いやぁ、浦和市のコンビニは治安悪すぎだよねー。
 さっすが令和10年って感じがして新鮮だったよ(*^▽^*)」

ナツキさんは、他人事のようにニコニコしながら話します。
大物の貫禄ありですわ。

マリン
「なんや、命がけでケーキを買ってもらって悪いなぁ。
 食べてて申し訳なくなってくるわ」

ナツキ
「あはは。いいんだよマリンちゃん。僕が好きでやってることだから。
 僕の友達がね、ファミマの新作ケーキがおすすめだって教えてくれたから
 ぜひ二人に食べてもらいたいと思ったんだ。気に入ってもらえたかな?」

マリン
「はい!! とっても。ナツキさんはこうして話してる感じでは
 普通の人と変わらんし、人柄も良さそうやし、あんまり悪い人には見えへんな」

私「こら、口の聞き方…」

歩美 (。-`ω-)
「マリンちゃんは何を言っているの!! 
  お兄様が悪い人なわけないでしょ!!」

マリン (;゚Д゚)
「おわっ、びっくりした!! 歩美、なに突然キレてんねん」

歩美 (# ゚Д゚)
「お兄様はあなた達をもてなそうとしているのよ!!
 コンビニの強盗ってすごく強いのよ。
 お兄様は軍事訓練を受けているから朝飯前だけどね、
 普通の人なら重傷を負っているわ!!
 命がけでケーキを買ってくれた人に対して失礼なこと言わないで!!」

マリン (;゚Д゚)
「ええい、無駄に長い上にむかつく言い方やめえ!! 
 別に兄上をけなしたわけちゃうからな?
 素直に感想を言っただけや!!」

ナツキ
「まあまあ。落ち着きさなさい歩美。
 ボリシェビキを悪い人って思う人が多いのは仕方ないよ。
 マリンちゃん、歩美の言い方がきつくてごめんね?
 歩美の言ったことは気にしないでもらいたい。
 決して悪い子じゃないんだ」

兄者にたしなめられると、歩美はすっかりしおらしくなりました。

マリン
「別にあたしはきにしとらんよ。ただ歩美ちゃんの豹変ぶりに
 驚いただけや。歩美ちゃんってもしかしてブラコンか?」

ナツキ
「まあブラコンだろうね。仕事の都合で別居しているから
 歩美と会うのは月に一度や二度なんだけど、会った時はいつも僕にべったりだ。
 年の離れた兄妹ってことで普通の兄妹よりは絆が強い自信はあるよ」

マリン
「年が離れすぎって感じがしますけどね。
 兄と妹っていうか親子ってレベルやないですか」

私「こらマリン。私的なことを聞くのは失礼では…」

ナツキ
「あはは。もっともな疑問だよ。
 職場の同僚からも同じことをよく訊かれたよ。
 話すと長くなるんだけどね」

高倉家は、ナツキさんが高校2年生の時にお父様が会社を整理解雇され、
一家の収入は激減。同時期にお母さまがホスト遊びに目覚めてしまい、
借金までするようになった。

父は新しい女を見つけて離婚。再婚相手との間に出来た子供が、歩美さん。
父は再婚相手とはすぐに離婚してしまうが、歩美さんは主にナツキさんと、
上の妹さん(ユウナさん)との間で育てられいた。

優菜さんとはナツキさんの一つ下の妹さんのこと。
歩美ちゃんとはお互い神経質な性格(二人とも真面目なA型)
のせいか話が合わなくて、喧嘩ばかりだった。
現在も進んで会うことはない。

マリン
「優菜さんもナツキさんも独身なんか。
 ナツキさんは顔立ちは男前やのに結婚せえへんのですか?」

ナツキ
「僕は…両親が離婚している家庭で育ったから、
 自分の中で結婚とかはイメージできないんだ。
 学生時代に年上の彼女がいたことがあるけど、
 結婚までは至らなかったね。僕の方が遠慮しちゃうから」

マリン
「気持ちはよう分かるわ。多分あたしも同じや。
 おかんが、まーだ太盛太盛ゆうて、学生時代にとっくに
 捨てられとるのにまだ諦めきれなくて、
 大学卒業後に結婚した相手とはすぐに別れてしまった。
 あたしも結婚とか無理かもしれんわ。親の姿を見てると得にな」

ナツキ
「ちょっと待ってくれ(;゚Д゚) 
  せまる?って…太く盛るって書くよね? 当て字で」

マリン
「そうそう。あたしのパパは旧姓で堀太盛や。
 そこにおるテレーズとパパが同じなんやで。
 異母姉妹ってことになる」

マリンは自分の出自を隠すことなく明かしてしまう。
ナツキさんは、マリンの母親が橘エリカだったとは知らなかったご様子。
文字通り派手に椅子から転げ落ちて、ティーカップを割ってしまった。

歩美(>_<)
 「ああっ、お兄様。怪我されてませんか!?
   マリンのせいで(; ・`д・´) お兄様が転げてしまったのよ!!
   どうしてくれるの!!」

マリン (^_^メ)
「あたしのせいちゃうわ。ナツキさんが自分で転んだんやろ」

ナツキ「マリンちゃんの言う通りだ。
    衝撃の事実に驚いて漫画のように転げ落ちてしまったんだ」

歩美「お兄様!!(;゚Д゚)」

ナツキ
「これも運命なのかな(^▽^:)
 まさか高校時代の知り合いの娘さんが二人もここにいるなんてね。
 夢を見ているみたいだよ。エリカさんのお姉さんの、
 アナスタシアさんの件は本当に気の毒だったと思っている」

マリン
「あたしは伯母さんのことはよう知らん。あまり興味もない。
 けど、母様はミウを死ぬほど恨んどる」

ナツキ
「だろうね……。あの子は学生時代から徹頭徹尾ボリシェビキだった。
 日本人の両親のもとに生まれながら心はソ連人の閣僚だった。
 政敵だけでなく、個人的にムカつく相手も全員拷問して
 殺してたから、多くの学校関係者の恨みを買っているはずだよ。
 おそらく10万人以上の」

そうだったのですか。わたくしもミウの悪口をママから念仏のように
聞かされて育ちましたから想像はしていましたが、ナツキさんの
お話を聞いて、ますますミウへの殺意が増しました。

ナツキ「テレーズさんも…」

私「はい? わたくしですか?」

ナツキ
「君のお母様のマリエさんにもミウが大変な迷惑をかけたね。
 今さら謝ってどうにかなることじゃないのは分かっている。
 でも謝らせてほしいんだ。僕は当時生徒会長でミウの上の地位だった。
 ミウの暴走を止められなかったのは僕の落ち度でもある」

ナツキさんは、小学生のわたくし相手にもかかわらず、
椅子を立ち、腰を折って頭を下げてきました。
その姿勢に嘘偽りは全く感じられません。

この方は……誠意のある方なのですわ。

マリンも先ほど言ってましたけど、とても冷酷なボリシェビキの
権力者には見えませぬ。

わたくしの母は、高校一年の秋に、強制収容所7号室に収容されました。
ママの属する進学コース6組分が、訳あって丸ごと収容所送りにされたのです。
卒業するまでクラスメイトの皆さんと収容所で過ごしました。

※『学園生活改』・『マリー・ストーリー』などを参照のこと。

母様は副会長のミウのことは憎いんでおりましたが、
ナツキ会長は囚人の健康や精神状態に常に気を使い、
できるだけ普通の学生生活を送れるように配慮してくれたと聞いています。
その結果、脱走者以外の人は殺されることなく卒業できたのでしょう。

テレーズ
「ボリシェビキと一言で言っても、色々な方がいらっしゃるのですね。
 貴方のお気持ちは十分に伝わりましたわ。どうか頭を上げてくださいな」

学生自体のママを救ってくれたのは、きっとこの人だったのでしょう。

ナツキ
「妹のことをいじめから助けてくれたのも感謝しているよ。
 今日は一番そのことでお礼が言いたかったんだよ。ありがとうね」

なんというイケメンスマイル。世の女人を一目で惚れ惚れとさせるほどの。

テレーズ
「た、大したことはしておりませんわ。
 友達として当然のことをしたまでです」

ナツキ
「テレーズちゃんは勇気があって美人さんだし勉強もできるんだってね。
  いつも歩美が君のこと褒めてるんだよ。僕もそう思う。
  テレーズちゃんはきっと将来立派なレディに成長するよ(*^▽^*)」

改めて思いますわ。イケメンは貴重だと!!
この方は口もうまいですが、顔立ちが彫刻のように美しい!!
柔和な笑みで、ぽわーっとしたところがパパとは違う意味で素敵です!!

今ならミカの言うことが良く分かります。確かにわたくしの身近にいる大人で
こんなにイケメンで知的な方はおりません。少なくとも私の学校教諭では
相手になりません。そこらじゅうの学校を探しても、
いいえ、全国を探してもこんなに素敵な方はそうそう見つからないことでしょう。

ナツキ「良かったら暇な時にまたお茶でも飲もうよ。
    フェイスブックかラインでも交換する?」

私は是非にでも交換したかったのですが、平安時代の生まれゆえに
現代機器の操作にうとく、いつもママにやってもらっていたのです。
マリンがいるので代わりにラインの交換作業をお願いします。

わたくしのLINEの登録名が【紫式部】となっておりますが……。
ママが設定してくれたのでしょうか。わたくしは電子文章を
タッチで入力することに難儀するため、実際の
電子文通には多大な時間をかけることになるのでしょうが。

テレーズ (*‘ω‘ *) デレデレ もじもじ
「モデルの仕事関係とパパ以外で、
 男性の方と連絡先を交換したのは初めてでございます…」

ナツキ
「それは光栄なことだね。テレーズちゃんみたいに
 可愛い子だといくらでも男友達がいそうなのに。
 クラスの男子とかも、ほおっておかないんじゃないの?」

テレーズ(*´▽`*)
「いいえ……。クラスの男子はモブばかりですわ。
 同い年の子は精神的に未熟でわたくしとは合いません」

マリン
(あんたは男だけやなくて女とも関わらんやろ。
 栄光ある孤立とか訳わからん事いうて)

ナツキ (∩´∀`)
「テレーズちゃんはパフェとか好きかな?
 駅前で美味しいお店を知ってるんだけど、
 今度ご馳走してあげたいんだ」

テレーズ(*''▽'')
 「は、はい大好きです!!
   ぜひご馳走になります!!」

マリン
(嘘やん。だってこいつ、家では高い「芋ようかん」を好んで食べとる。
 生クリームは南蛮人の文化だから苦手とかぬかして、ケーキ類も
 一切に口に入れんからな。こいつがパフェ食べる姿なんて想像できん)

ナツキ (∩´∀`)
「もちろんマリンちゃんも一緒にね?」

マリン「はい。ぜいひとも!! ただで食べられるもんは何でも食べます!!」

マリンは本当に近畿地方の人の気質ね。
裏表がなくて親しみやすいのは美徳だとは思うけど。

あっ、妹者の歩美さんがキレております。

(#^ω^) ナニ ウチノアニと デートの約束しとるんじゃ。こら。

といった感じでしょうか。言葉に出さずとも、怖い顔で
睨みつけてきますゆえ、お心が手に取るように伝わります。

おお、怖い怖い。女の嫉妬ほどやっかいで
始末に負えないものはこの世にありませんわ。

今日はいつになく刺激的で素敵な一日でしたが、
今後の学校生活がギクシャクしそう。

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※ 

~賢者・堀太盛イフリートが語る~

テレーズよりナツキ会長の話を聞かされた時は、さすがに驚いたものだ。
いつの世でも人の縁とは貴重なるもの。高校を卒業して実に10年も経過する
現在において、我が娘達と再会しただけではなく、かつてのボリシェビキ権力の
最高権力者。高倉ナツキ先輩と娘が個人的に親しい間柄になるとは。誰が想像できよう。

(*´▽`*) 
「うふふ。ナツキさんは実に魅力に満ちあふれた男性ですのよ。
 約束はきちんと守ってくださるし、女性をエスコートすることに
 長けておりますわ。この間はわたくしの好きな「ようかん」をですね…」

会長殿は、学童の時より空気の読める男との評判あり。
テレイズが和菓子を好むことを察すると、
さっさと店を変えるなど機敏に富む。BARでも紅茶ではなく抹茶などを
もてなしているらしい。バあで和の文化とは。いささか奇妙な趣なり。

まるで恋人のごとき関係になるのではないかと危惧したが、
杞憂であった。まず会長殿は市議外の人間にて日々多忙である。
加えて妹者の存在有り。妹の歩美は、あの美雪に劣らぬ
ブラザア・コンプレクスにて兄に近づく者を敵とみなす。

学校生活において、テレーズと歩美の関係、日を増すごとに険悪になる。
一人の男をめぐり火花を散らす乙女達。
ささいなことで互いの弱点を見つけ、けなし合う姿は哀れそのもの。
自らがナツキ会長に一番愛されていると主張すると聞く。
実の娘のことゆえ父として愉快な話にあらず。

エリカの娘のマリン
「この娘、どんだけナツキさんにぞっこんなん。
 はたから見てるととアホらしくなってくるわ」

アナスタシアの娘のマリン
「本当にね。夕飯の度にナツキさんの話を聞かされる
 こちらの身にもなってほしいものだわ。
 ナツキさんは忙しいから月に一度くらいしか会えないのに」

実はそうではなく。ナツキ殿は時間を削って週末の日曜には
テレーズとこっそり逢引をしていると聞く。
テレーズが密かに教えてくれたのだ。

父離れの意味も込めて、テレーズが恋を覚えることは百歩譲って構わぬ。
我が最大の懸念は、テレーズがボリシェビキの思想の影響を受けることである。
会長殿から渡されたのか、テレーズの本棚にマルクス・エンゲルスの書籍散見せリ。
代わりに聖書が床に投げ捨てられていた。

これ、テレーズよ。神の書をないがしろにするとは何事か!!
しかし我が叱ることに意味なし。テレーズは恋心に支配されておる。
おそらく初恋であろう。もっとも相手が我より年上なのだが。

大天使☆ミカちゃん (⋈◍>◡<◍)。✧♡
「テレーズちゃんが親離れができるなら良いことじゃないですかぁ☆
 ダーリン。この間はありがとうね。家の敷地に防塁を作ってくれて!!」

現在は夕食時であり、我らはリビングのテーブルを囲んでおる。
この家は一階部分が、トイレ、浴槽、物置部屋の他には
16畳分の広さのダイニング兼リビングあり。

調理スペースは余裕があり快適そのもの。
リビングでは大家族でもソファに座り、
テレビジョンを鑑賞すること容易なり。

一階には他に6畳間の部屋があるが、誰も使っておらず。

二階には6畳間が4つあり。一つを夫婦の寝室。他の三つは、
娘達が自室として使う。我らは就寝時はみな二階に上がるのだ。

さて。ミカが上で述べた防塁の件だが、我とアナスタシアの娘のマリンが
共同で作ったものだ。この家は敷地60坪にて周囲をブロック塀が囲む。
これでは強盗の襲撃を想定した場合に不安が残るため防御陣地を構築せり。

アナスタシアの娘のマリンは、家庭の事情でソ連式の筋トレを
ほどこされた経験あり。土嚢(どのう)袋に土を入れる作業で息を切らさぬ。

※どのう
布袋の中に土砂を詰めて用いる土木資材のこと。
現実世界でも近所のホームセンターで売ってますよ。

土嚢を合計で300個も作り、ブロック塀の内側に重ねていく。
人の腰の高さまで達したところで、市役所から支給された
重機関銃を置いてみる。機銃は土嚢の上で一定の安定を誇る。
連射時に機銃が揺れたら命中率が激減してしまうのだ。

ここが住宅の密集する住宅地とはいえ、家の周囲から
戦車で進行されたらひとたまりもない。
少しでも安全性を確保するため、土嚢の背後に地雷を埋めて置く。
これも市役所から支給されたものだ。

令和10年では略奪暴行が横行するために市民が自衛の努力をせよと
中央政府から命令が出ておる。逆を言えば、これらの武器もって
襲撃することも可能だが、我らは神の使徒にて狼藉を望まぬ。

マリンが、地雷の背後に落とし穴を掘るべきだと主張する。
理に適うと感心し、さっそく掘り始める。

地面との格闘は、土嚢作りを超える重労働と知る。
一メートル四方の穴を掘るために背中は汗で濡れ、
呼吸が乱れてあえぎ、太ももが披露する。

なまりきった自身の体に活を入れ、横20メートル分の落とし穴を
掘り終える。筋肉痛のため続きは後日にする。

落とし穴の底には、落ちた狼藉者が
串刺しになるように鋭利なる枝をいくつも刺しておいた。

強盗の襲撃を想定する。強盗は地雷原で足が吹き飛ぶか、
運よく突破しても落とし穴で串刺しになる。
敵の戦意をくじくのが戦争の基本。
並みの強盗集団ならば、我が家に恐れをなして逃走するはずだ。

落とし穴を掘る時、残酷さを想像しマリンの顔色が悪くなる。
我も同じ気持ちなり。令和10年では戸建て所有者は富裕層と認定されつつある。
自宅を防御するため、家族の生命を守るためには
敵を殺すしかないと、愛する娘に言い聞かせる。

仮に戦車や装甲車で進撃された場合は、これだけでは対処しきれぬ。
そこで、ホームセンターで売っている「リュウのひげ」用の
コンクリートの購入を健闘する。

かつてナチスドイツ軍が使用した防御用の陣地だ。
突起の有るコンクリートの塊を等間隔で地面に埋めて置く。
これに戦車の車体が通過した場合は、車体が中央から盛り上がり、
きゃたぷらーが空転して動きが止まる。

しかしコンクリートの重さが、ひとつ150キロもあり、
購入しても持ち運ぶのに難儀すること必至。遺憾ながら断念する。
むしろ帰る客がいるのだろうか。

そこでマリンは、対戦車用のロケットランチャアを
家族分購入する方が安上がりと主張する。我も同意する。
ロケランは行政府より支給されておらぬ。
アマゾンで価格を調べると、一丁あたり1700万と高価なり。

なぜかブックオフでも扱っていたが、中古でも500万はくだらぬ。
常の市民に買える代物にあらず。弾薬は別料金ゆえ論の外である。

大天使☆ミカちゃん(=゚ω゚)ノ
「家の防御施設なら今でも十分立派ですよぉ。
 今まで私と前の旦那は力仕事が苦手でずっとサボっていたので、
 すっごく助かりましたよぉ(∩´∀`)∩
 マリンちゃんもありがとねー。お小遣い、たくさんあげちゃうわ!!」

と言って諭吉を何枚もアナスタシアの娘のマリンに渡す。
羽振りが良すぎると思うが我の稼いだ金にあらず。口は出さぬ。

アナスタシアの娘のマリン (゜-゜)
   「あ、ありがと。別にたいしたことしてないのに」

大天使☆ミカちゃん(=゚ω゚)ノ
   「十分に大したことよぉ!! マリンちゃんはどっかの誰かさんと
    違って口答えもしないし、家で家事全部やってくれるから大助かりって感じ? 
    今度は学校帰りにケーキ買ってきてあげますからね」

ミカはアナスタシアの娘のマリンをひいきする。
家事を好まず外で働くことを好む女だ。
現によく稼ぐ。現在無職なる我と雲泥の差なり。

ミカは自らをママと呼ぶようマリンに迫るが、
さすがにマリンの抵抗が強い。当然だ。
我とミカは恋愛の途上にて未だに婚姻を結んでおらぬ。
令和風に言えば同棲となる。

テレーズ「お待ちなさい。今わたくしのことを引き合いに出しましたね?」

ミカ「あら聞こえちゃったのかしら(>_<) 
    ごめんなさいね。つい本音が出ちゃうのよ」

テレーズ
「あなた様はこれでもかというほど不愉快なる女人です。
 最近はパパの前でもわたくしに喧嘩を売るようになりました」

ミカ
「何言ってるのよぉ。むしろ逆でしょ?
 最近はテレーズちゃんに素敵な人が見つかったみたいだから
 ダーリンのことでもめることは減ってきたじゃない。
 家では家族なんだから仲良く過ごしましょうよ☆」

エリカの娘のマリン
「そやそや。ほんまに喧嘩はやめえや。平和が一番やん。
 テレビの音が聞こえないの地味に困るわぁ」

アナスタシアの娘のマリン
「……金曜ロードショーがジブリなのよ。
 集中して見たいから喧嘩は遠慮して頂戴」

多勢に無勢。テレーズは憤怒しつつ自室へこもってしまう。
またマルクスの書籍でも読むのかと冷や汗が出る思いだ。

娘も小学四年にもなれば、父が部屋に入ることに
抵抗があるかもしれぬが、心配なので扉を叩く。

「のう。テレーズよ。我だ。イフリートである。
 入ってもいいか?」

「パパですか Σ(゚Д゚) めずらしいですね。
 どうぞ入ってください」

テレーズは先ほどの粗相を謝るが、何を謝ることがあろうか。
普段から落ち度があるのはミカの方であろう。

後ろ手にドアを閉める。すると
テレーズは我に体重を預けるように抱き着いてくる。
我はしっかり受け止める。

久しくテレーズの体温を感じていなかった。

恋をしてからテレーズの美しさに磨きがかかり
いよいよ学校の上級生からも恋文をもらうようになった。

俺も父ながら、たまに娘の切なさげな横顔を見ると
心を奪われそうになることがある。
おそらく我の血など毛ほども入っていないに違いない。

テレーズに人並外れた美貌を
授けてくださったことをアッラーに感謝いたします。

「ああ、パパの腕の中にいると安心しますわ。
 やはりわたくしのパパは貴女様だけです。
 パパはパパ。ナツキ様とは違うのですから」

「お主はまだ我のことを好いてくれているのか。
 会長殿を慕っておるから、父親離れをしたものとばかり」

「パパのことはずっと大好きですよ(*´▽`*)
 パパを思う気持ちはナツキ様とは別の感情ですゆえ」

我はふわりとした気持ちになり、よせばいいのに
テレーズのおでこにキスをしてしまう。
テレーズは頬を朱色に染める。

「テレーズよ。我はお主のことを愛しておる」
「パパ……」

しんと静まり、妙な空気になる。
言った後に失言だったかと後悔する。

我が愛を軽々しく語ることをテレーズとマリンは好まない。
証明の仕様がないが、先刻の我の発言偽りでなく本音なり。

なぜだか娘が無性に愛らしく思い、感情が抑えきれぬ。
自らの娘と知りながらも、この年になるまで顔を
合わせたことなき間柄にて他人とも肉親とも言いえぬ
不思議な距離感を保つ。またお互いに令和の人間でない。

「もう一度キスしても良いか?」
「パパが望むのでしたら、好きなようになさってください」

我は女人への欲求不満は確かにあった。アナスタシアの娘のマリンの
魔法で我が妻マリエが亜空間へと飛ばされて以来ずっとだ。
真理恵に対して申し訳ないと思いつつ、現在はミカがいる。

夜は否が応でもミカの相手をせねばらぬ。早くミカの生理の日が
来ればよいと願いながらも、ミカとの行為を楽しみにする自分がいる。

アッラーの教えに従えば、自らの欲求に従って犯した相手とは
必ず婚姻を結ぶようにとある。ミカは元既婚者。
元の旦那はマリーダの魔法で消された。
正当な手続きを済ませておらぬから簡単に再婚できぬ。

「や……パパ。そんなに強く握られたら痛いですわ」

気が付いたらベッドの上にいる。テレーズの腕を握り、
抵抗のできぬよう押し倒していた。テレーズは脅えながら
多少の興奮を覚えているのだろう。胸を触ると心臓の鼓動を感じる。

何か言いたそうな顔をしていたので、唇を重ねてしまう。
大人と子供では唇の大きさが合わぬ。
テレーズは苦しそうに首を左へ振るので、唇を離してあげた。
やった後で我の行為が破廉恥なることを知り後悔する。

「すまぬな。テレーズを愛おしく思うあまり、ついキスをしたくなるのだ」

「パパはわたくしを愛してくださっているのですか?」

「うむ。我の言葉では信用に値せぬかもしれぬが、今テレーズを
 心より好ましいと思っている。現代風に言えば愛しておる」

「わたくしも過ぎ去った遠い昔から、パパのお写真を始めて見た時より
 パパのことをお慕い申しておりました。パパの事が大好きですわ」

我らは何度も唇を重ね合わせた。我がテレーズに覆いかぶさり、
二人で布団(タオルケツト)にくるまる。ごろりと大勢を横し、
テレーズに腕枕をしてあげる。我と顔の距離が一段と近くなると
テレーズが赤面する。赤面したいのはこちらの方だ。

長いまつ毛。ガゼルのように黒く、潤んだ瞳で
見つめられると心が矢で刺されたかのように熱くなる。
テレーズの尊顔はアッラーの生みだした奇跡である。

「パパのお顔、綺麗。可能ならば永遠と見つめていたくなりますわ」

「ナツキ殿には見劣りするだろう」

「ご謙遜なさらないでください。ナツキ殿の美顔とは
 また一味違う美しさをパパはお持ちですわ。
 女性の方と見間違うほどの繊細なる目鼻立ちです」

テレーズほどの美少女に褒められた。
思わず小躍りしたくほど愉快である。
自らの顔立ちに確固たる自信を持つ。
ミカもたびたび褒めてくれたことを思い出す。

「テレーズよ。以前より訊いておきたかったことがあるのだ」

「はい。どのようなことでしょう」

「お主はナツキ殿を慕っており、政治思想にも興味を示しつつある。
 お主の本棚の書籍を見れば一目瞭然。単刀直入に訊くが、
 テレーズは共産主義に賛同するのか?」

聡明なるテレーズだが、さすがに返答に困るのか沈黙する。
眼の線が右往左往し、見ていて面白いほどの動揺ぶりである。

その仕草からして、すでに共産主義者に目覚めているな。
世の女童ならば政治のことなど関心を示さぬ。
ミカなど納税者でありながら政府の政策に微塵も関心なし。
それが日本の女人では正常である。

なにも女人に限らず、多くの若者が野党の政党名の
半数も口に出来ぬと聞いた。まあ赤の他人のことはいい。

テレーズは読書を好み、新聞にも目を通すことから
政治に明るい。税制にもくわしい。
およそ小学4年生の女児の知能をはるかに凌駕する。
聡明なるマリエの娘とはいえ、早熟が過ぎて天才の部類である。

「自民党の暴走が許せぬか?」

「それは、パパとて同じ気持ちのはずです」

「ああ、確かにな。自民党は国民の税金を我が物とし、
 国家そのものを私物化している。あれほど悪党ばかりが
 はびこる政党が常に与党なのだ。国家の衰退は止まらぬ」

「ならば、国家の衰退を止めたいと思うのが国民の務め。
 義務ではございませぬか」

「うむ。うむ。テレーズの気持ちは分かるのだがな」

「……その口ぶりからしてパパは反共産主義者と言うわけですか。
 アッラーの使者であるゆえに当然と言えば当然……」

「話しは不足なく最後まで聞くべきなのだぞ。テレーズよ。
 我の話はまだ続きがあるのだ」

「すみません」

「いや怒ってはおらぬ。で、お主が資本主義を憎いと思うは
 当然の感情だ。資本主義による停滞した社会に疑問を持つのは
 経済や財政に明るい者なら誰でも通る道だとされている。
 だがソ連を見て見ろ。最後は70余年かけて崩壊した。
 あれが社会主義国の限界だ」

「ソ連は資本主義が十分に発達する前に無理やり
 革命を起こし、国内に民需製品の需要が行き渡らず、
 またGDP比に対する過大なる軍拡に国の経済が
 耐え切れぬゆえ崩壊したと……」

「ナツキ殿の受け売り文句であるな」

「左様です……」

「そうでなくては困る。我が娘が経済の専門家の口調で
 話すものだからさすがに焦ったぞ」

足利市の学園ボリシェビキが目指した社会は、レーニンの
起こした革命の拡大版である。まず既存の政治家、実業家、
大土地所有者など全ての資本家連中の資産を国が没収する。

国内の全ての反対主義者を国外追放するか強制収容所に送り、
奴隷労働を強いる。百歩譲ってここまでは実現可能の可能性がある。
仮に自衛隊と警察の過半数が革命政府を支持して反乱を起こせばだ。
いや、自衛隊の戦力を手中に収めること100パアセント不可能なり。

だからこそ日本では革命など起きぬのだ。
過去の歴史を調べて見ろ。フランス革命とロシア革命。
世界の歴史に冠たる二大革命だ。

どちらも国軍の中心となったのは、自ら軍に志願した市民軍の集まりであり、
既存の兵力も多くが革命に参加した。つまり【自発的な革命勢力】が
相当な数現れなければ実現せず。

そして当時は国際的に戦乱の世であり、いつ外国に侵略されても
おかしくない、破滅的な状況にあった。
ロシア帝国は敵国独逸に多額の賠償金を払って講和する。
領土の四分の一を失いながらロシア革命の継続に専念する。

令和10年の日本は、ほぼすべての国民が国家と企業の奴隷となりながらも、
中央政府と自治体を攻撃することはせず、近所の商店を襲撃するばかりで
無用な同士討ちを繰り返している。

なぜ日本人は武装までしながら政府に逆らわぬのか。
理由は簡単。日本民族は古来より御上に逆らうこと良しとせず。

徳川政権が200年余りに続き、天下泰平の世が続いたのは
奇跡の所業なり。やがて明治新政府が生起し、
一挙国民を軍国化へと誘導しても、西南戦争を無しにすれば
大規模な反乱もなく、国民はすぐにまとまる。

大正から昭和にかけても226事件を除けば
反乱と呼べるものは特になし。太平洋戦争にて
人間爆弾(特攻と回天を参照)となることを強制されても従順に従う。

人類史で、後にも先にも飛行機と潜水艦をもって
人間爆弾と化して戦争を継続したのは日本民族だけであろう。
恐るべき負の歴史として、人類の歴史が続く限り
永遠に語り継がれるべきである。


日本人は、上の者に死ねと言われれば死ぬのだ。

「過労死」 なる言葉が日本語にある。

仏国語、独逸語、英吉利(エゲレス)語にかような言葉なし。
欧米メディアが驚愕したのは、日本人労働者は例え
人権を無視した過酷な労働環境でも最後まで働きぬき、最後は死ぬことだ。
仏蘭西の記者は、「過労死」をそのまアルファベツトにして表記し、
仏日語辞典にも登録される。

働く目的は何か? 金を経て生活をするためである。
働く目的が死ぬことをへと変わっては本末転倒である。

これは、日本人の持つ気質が帝国時代とさして変わらぬことを意味している。

例えばナチスドイツの兵は世界で最も勇敢とされたが、
形勢が不利となるとあっさり降伏して捕虜になる。
そして捕虜収容所から穴を掘って脱走しようと試みる。
エゲレスや米国の兵隊も同様である。

ところが、日本兵だけが自らが肉片になるまで降伏せず戦う。
これほど国家に従順な民族が他に有ろうか!!

戦後、天皇陛下が人間宣言をすると、マッカーサー元帥を
神のごとく崇拝する。戦時中にしつこく鬼畜米英と煽った
朝日新聞社は手の平を返した。日本人の奴隷根性の一端を示す。

『会社を休んだら上司に怒られる。居場所がなくなる』
『電車が止まったら会社に遅刻し大問題』
『デモに参加したらテレビに顔が映って会社が首になる』
『新卒で良い会社に入らないと人生が終わる』
『台風の暴風下でもお店は通常通り営業する』

上の五つの事例だけでも、欧州一等国では大変な非常識と映る。

日本人は、上司、経営者、社長、政治家には逆らえぬ。
その一方、妻や子供、お店の店員など立場の弱い者の前では大手を振る。
内弁慶とはこのことなり。

テレーズ「パパから共産主義革命の無意味さを教えてもらいました」

~聖なる少女、マリー・テレーズが語る~

テレーズ
「ではパパのお話を総合すると、令和10年で暴徒の者どもが
 お店ばかり襲撃するのは、自らの会社の上司や政府に
 逆らうことが怖いからなのですね」

イフリート
「その通りだ。日本人は一致団結して国を転覆させる、
 自民党以外の党に期待をするなど、国家体制を変えるための
 気概に乏しく、政治に消極的な国民だ。みな日々の労働で
 疲れ切っており、政治活動に精を出す余力もない」

テレーズ
「長時間労働のせいでますます政府の奴隷になっているとは皮肉ですわ。
 民主主義の国家にて、その実は主権在民せず。
 国民が政治に無関心がゆえに自民党の独裁を許し、結果自らを貧困にしている」

イフリート
「令和元年までの犯罪を振り返ってみよう。京アニの放火事件、
 バス停での連続殺傷事件、秋葉原の連続殺傷事件など、探せば
 他にも無数にあるだろうが、これらの事件には共通点がある。
 みな社会に不満を持つ貧しい国民が起こした事件なのだ」

テレーズ
「本当なら怒りの矛先を政府や企業に向けるべきです……」

イフリート
「例えば秋葉原の事件は、派遣先のトラブルが原因だったのだから
 どうせやるなら会社の上司でも刺せばよかろう。しかしながら
 会社には一つも損害を与えていない。殺したのは関係のない一般人だった」

テレーズ
「パパがおっしゃっていた内弁慶とは、このことですか。
 所詮日本人は上司や経営者を倒すことなどできない」

イフリート
「政治に不満を持つ市民は、犯罪を犯すか、過労死するか、自殺するかのどれかだ。
 犯罪者以外の国民は沈黙し耐えて奴隷となっているのだがな。
 ここまで話せば聡明なるテレーズには十分に伝わったことであろう。
 日本で革命を起こす土台があると思うか? 
 それが例え令和10年の消費税率34%で物価の下がらぬ地獄でも」

テレーズ
「国民は政府に逆らわない、と言うことなのですか。
 令和10年の自民党は軍拡を進めて国民を威嚇していることもありますが」

イフリート
「仮に軍拡をしてなくとも、若者は選挙には参加せぬ。
 現実世界でも何度選挙を繰り返しても衆参共に
 自民党の圧勝が永遠と続くであろう」

ならば、ナツキ様はなにゆえ共産主義革命を指導する立場にいるのでしょう。
ナツキ様の聡明さをパパは以前から褒めておりました。
あの方がパパ以上の賢者であるならば、
日本で革命を起こすことなど無意味と知るはず。

「無論ナツキ殿が知らぬわけがない。
 おそらくあの方が死ぬまで革命など起きぬだろうな。
 現に一億総奴隷社会は実現したが、それでも日本人は死ぬまで働くか、
 つまらぬ強盗に走るのだ。希望はすでに耐えた」

ナツキ殿は、夢遊病者なのだとパパは言います。
共産主義に目覚めた者は、みな理想を語ることを好み、
いつか自分の夢が実現すると信じて疑わない。
否。信じることに意義を感じる。

宗教とはまた違い、麻薬のようなものだとパパは言います。

「断っておくが、我の語る内容にナツキ殿を批判する意図はない。
 ナツキ殿は聡明かつ人柄もお優しく、共産主義者でなければ
 我の良き友人となっていたことだろう。あの方は学童時代より
 成績が人並外れて優秀で性格も生真面目だった。高校時代に
 (今はマリンの亡き母)アナスタシアに誘われてボリシェビキに目覚めたのだ」

ナツキ様はやがて、あのミウを共産主義革命に巻き込みます。
一般生徒だったミウもナツキ様の影響で熱烈なボリシェビキとして
閣僚にまで任命され、数多の生徒を粛清をすることになる。

「ミウも根は消して悪い女ではない。我と出会った頃のミウは
 内気で仕草も少女らしく好ましかった。だが根が真面目過ぎたのだ。
 真面目過ぎる人間ほど過激思想に陥りやすい。自らのしていることが
 世を正すと信じているからだ。信じる力。これは全ての力の源になる」

パパがミウを少しでも褒めると殺意が押さえきれなくなります。
わたくしのママを強制収容所送りにしたのは奴なのですから。
ミウはクズです。人間の屑です。悪魔の生まれ変わりです。
生まれてこないほうが良かったのです。

ママたちの作った爆弾を奴が発見しなければ、
ママが反革命容疑者とされることもなかったというのに…!!

はっ。反革命容疑者……。
わたくしは今の今まで失念しておりました。
ママがあれほど毛嫌いしていた共産主義に、
わたくし自らが引き寄せられていたなど。

「パパ。やはりわたくしは共産主義の本は全て処分しようかと」
「心変わりしたのか。まあ好きにするとよい。どうしようとお主の自由だ」

「パパは……わたくしの思想を是正するのが目的でキスをしたのですか?」

「まさか。純粋にお主が恋しくなったのだ。夕食時にナツキ殿の
 話題がよく出るゆえ、多少嫉妬していたのだ」

「わたくしにとっては光栄なことですわ。
 パパでも嫉妬をすることがあるのですね」

「我の口から出る言葉は嘘のように聞こえるのだろうが、
 テレーズを愛してると言った気持ちは本心である。
 好きでもないのに自らキスなどするものか」

「ぱぱ…」

正直うれしいです。パパから初めて愛のお言葉を頂戴したのですから。
でも同時に悲しく思うのです。…ナツキ様は?

ナツキ様もわたくしと電子文通を通じて交友を深めました。
わたくしの口に合うように和菓子や抹茶までご馳走してくれたのは、
結局はわたくしを共産主義者に目覚めさせることを目的としているのでしょうか。
ミウも同様の手口で口説いたことを先刻パパより聞いております。

深読みのしすぎだと思いますが、パパがわたくしに腕枕を
してくれるのも、わたくしを共産主義の愚かさから遠ざけるため?

「ナツキ殿はお主に本を読めなど強制したわけではなかろう?」

「確かに。わたくしが自ら勉強したいと申し出ました。
 ナツキ様のお仕事の内容をもっと知りたいと思いましたから」

「あの方は強引なる勧誘はめったにせぬ。
 ミウの時は生徒会の人手不足で仕方なく、といった事情があったのだ。
 ナツキ殿は幼いテレーズのことが可愛くて仕方ないのだ。
 最初は純粋に歩美の件でお礼がしたかったのだろう」

「今だから言いますが、ナツキ様はわたくしの髪質のことや、
 目鼻立ちや言葉遣いが美しいと何度も褒めてくれました。
 あの言葉は真実と受け止めてよろしいのですか?」

「よいだろうな。ああ見ててナツキ殿は美人の査定には
 厳しい方でな、十人並みの女人ではまず褒められることはないのだぞ」

「そうだったのですか……。わたくしの機嫌取りに
 世辞を言われてるのとばかり思っておりました。
 なんだか無性にうれしくて飛び上がりたくなります」

「うむ。ナツキ殿とは今後も友人として自由に接するよし、
 距離を取りたければ、そのようにすれば良い。
 何をしようとお主の人生だからな。お主の自由だ。
 そ、それでなテレーズ。少し頼みがあるのだが」

「なんでしょう?」

「上着を脱いでくれぬか?」

何を言われたのか、にわかには理解できず、返答に時間を要します。

「もう30分近くテレーズと体を密着させておるのだ。
 パパも、男性でな……色々と体が大変なことになりつつあるのだ。
 このようなことを言うと毛嫌いされるかもしれぬが、
 テレーズの胸が見たくてたまらないのだ。嫌なら断って構わぬ」

わたくしは長考の末、パパがどうしてもというなら
少しくらいはと思い、恥ずかしさに赤面しながらTシャツを脱ぎました。
ブラはしておりませんので、素肌が露わになります。

わたくしは女童。大人のパパが見て楽しいことがあるのか
疑問ですが。パパの視線が痛いほど突き刺さります。
人の視線とは不思議な力が込められているのですね。

「パパ。この部屋はエアコンが効いておりますので少し冷えます」
「すまぬな。少しの間、そのままじっとしてくれ」

パパはわたくしのパジャマのズボンに手を出してきました。
さすがにそれは……と手を出しますが、簡単にはじかれてしまいました。

わたくしはズボンを脱がされて、下着だけの姿になりました。
胸元と足の間を手で隠しますが、またしてもパパの手にはじかれます。
立った状態でじっとしているようにと言われたので従順に従います。

パパは、まるで彫刻の作品でも眺めるように、わたくしの体から
目を離しません。それほどまでにわたくしの体に魅力があるのでしょうか。
パパがわたくしに愛していると何度も言ったのは、これが目的……?

以前にママとの行為をわたくしが面白半分に覗いた時は、
テレーズにはまだ早いと言って止めてくださったのに。

わたくしの胸はまだふくらみを帯びておりませぬ。
パパは興味深そうにわたくしの胸元に手を這わせております。
その目つきは野生の獣のようにギラギラとしていて恐ろしくもあります。
やがてパパの手が、わたくしの下着へと伸びた時でした。

「さっきから二人きりでなにをしてるの?」

パパがムンクの叫びを思わせる表情で扉を振り返ります。
人の頭部が一つ分入るくらいに開かれた扉の先には、
アナスタシアの娘のマリンがおりました。

入浴の番が来たので呼びに来たとのこと。
ノックをしても返事がないため扉を開け、現在に至るとのこと。
不味い事態となりました。
現在夜の9時にて、一階のリビングではミカやエリカの娘のマリンが
テレビを見ている時間帯なのですが。

「なんでテレーズが裸なの?」

その指摘はもっともです。わたくしたちにとってまずいのは、
現在の状況を詳細にミカに伝えられることです。
残念なことに、我らはミカによって生活を
維持されている状態でして、住む場所もここしかありません。

ミカとわたくしはパパをめぐる関係においてライバル。
この事実を知ったら、本能寺の変を起こすことを決意した
明智光秀の如く荒ぶることは必死。

アナスタシアの娘のマリンを説得することが先決。
なにせ旦那の浮気現場に立ち会う妻の顔をしているのですから。

「わたくしが自分から服を脱いだのです」
「は……?」
「わたくしが夜一人でムラムラしていたのでパパを誘惑したのです」

わたくしがパパに罪を背負うことなきよう、とっさに思いついた嘘なのですが、

「嘘でしょ」

簡単には通用しません。

「そうだ嘘だ。テレーズは心優しい娘だから我をかばってくれたのだ。
 我らは家族同士。偽りの関係ではない。我は真実のみを語る。
 テレーズに服を脱ぐように頼んだのは他の誰でもない我自身である。
 我はテレーズから悩み事の相談を受けていたのだが、急にムラムラしてな、
 テレーズの胸が見たくてたまらなくなってしまったのだ。正直反省している」

アナスタシアの娘のマリンは、
野生のカルガモのような顔をして沈黙しております。

視線は斜め下に折れ曲がり、呼吸が荒くなっている。
すぅと息を吸ってから口を開く。

「私やテレーズのことを愛してるのは偽りだと、あれだけ言っていたくせに」

「エリカの娘のマリンに指示されて言ったことだ。我の本心でなかった」

「ではお父様は、本心ではテレーズを愛してるのですか?」

「ああ。愛しておる。我はテレーズを心より愛しておる」

マリンは嫉妬したのでしょう。瞳に恨みがこもる。
マリンの怒りは並大抵ではないことでしょう。

「私が知らないだけで夜は毎日二人で寝ていたの?」

「否(いな) 恥ずかしながら夜はミカと過ごしておる。
 ミカは我の温もりを感じぬと大変にさみしがるのでな」

「実は今日のことは最初から全部見ていたの。
 パパが一人で二階に上がるからどうしたのかなって思って……
 パパがテレーズと腕枕しながら顔を近づけてキスをしたり、
 服を脱げと言われてテレーズが従順に従った」

「なんと。そこまで見ていたのか…」

「万が一私の見間違えの可能性に信じて、
 一応確認だけはしておこうかと思った次第です。
 お話は分かりました。
 今すぐ一階に降りてミカに全部知らせてくる」

「ま、待たれよ!!」

パパがマリンの腕をつかみ、開けようとした扉を閉めてしまう。

「離してよ!!」

「話を聞くのだ!!」

「お父さんはテレーズのことを一番に愛しているのですわ!!
 私たちの事なんて、なんとも思っていないのですわ!!」

「そんなことはないぞ。我は子供たちを平等に愛しているつもりだ。
 さあマリンよ。騒ぎ立てるとミカたちに聞こえるかもしれぬ。
 すまぬが口を塞がせてもらうぞ」

パパはマリンの腕を握って、反対側の壁際まで追いつめたあと、
キスをしてしまいしました。驚いたマリンは激しく動揺し
動けなくなったので、一度だけでなく二度三度とキスを繰り返す。

「どうだ? この通り我はマリンのことも愛しておる。
 これでもまだ我の気持ちを信じてはくれぬか」

「愛とおっしゃいますけど、そんなに軽々しく使える言葉なのですか。
 つい先ほどまでテレーズと愛おしそうにキスをしていたのに、
 今さら愛していると言われても信用できませんわ。
 わたくしの機嫌を取るために嫌々キスをしたのでしょう。
 夜の度にミカにやっているように!!」

「これマリンよ。騒ぐなと言ったぞ」

「きゃ!! なにをするのですか!!」

パパは怪力を持ってマリンの体を赤子のように持ち上げ、
ベッドまで連れ去ってしまします。自らの体をマリンの上に
覆いかぶせ、マリンの腕を握りながら唇を重ねました。

「こんなこと言っても勝手な奴だって思われるのは知っている。
 でも俺は君のことも大好きなんだマリン。
 こうしてベッドに押し倒してしまいたいくらいに」

「う、嘘よ!! どうせ口から出まかせ!! 私は騙されませんわ!!
 お父様はずっと私のことを騙してきたんですわ!!」

「静かにしなさい」

「ひゃ!?」

パパはマリンの脇の下をくすぐり、ひるんだすきに
白地のTシャツをまくりあげ、お腹に舌を這わせました。
あまりのくすぐったさに、またマリンが大口を開けて笑います。

そんな時に、のんきな声が一階から聞こえてきます。

「おーいテレーズぅ!! はよ風呂入りや!!」

エリカの娘のマリンのようです。わたくし(テレーズ)の
お風呂の番だから早くするようにミカから言われているとか。

この家では父が最後に入る習慣となっておりますから、
娘達が早めに入浴を済まさなければ父が寝る時間が遅くなる。
父との夜の行為を楽しみにしているミカは待ちきれないのです

父とマリンは二人してムンクの叫びの顔をして固まっております。
ここで動けるのはわたくしだけだと思い、服を着て廊下に出ました。
エリカの娘のマリンはすでにおりません。
声だけかけて自室に戻ったのでしょうか。

わたくしはお風呂に入ってしまいましたので、
その後、父とエリカの娘のマリンがどうなったのかは知りません。

最後に一つ思ったことは、父が現代風の言葉遣いを使うのは、
常に女人を口説いて騙す時です。
つまり結果など見るまでもなく、父のマリンへの気持ちは嘘です!!
わたくしとの最中は終始イフリートの口調をされておりましたが!!

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~~イフリートとエリカの娘、マリンが語る~~

テレーズが空気を読んで出て行ったくれて少しほっとしました。
パパとふたりでいられるのは日中だけ。今週一週間は、
二人で泥と汗で汚れながら防御陣地を作りました。過酷でした。

穴を掘る腕は筋肉痛。布団から起きる時に足に鈍い痛みが残る。
スコップの使い過ぎで手にマメが。

包丁を握る手がたまに震えるほど。父は頑張って土木作業をする私に
「俺はマリンのことが好きだから、マリンと一緒に作業していると辛い作業も
 楽しく感じるよ。あとでふたりだけで美味しいものでも食べに行こうか」
 と優しく言ってくれました。 

頭にターバンを巻き、汗をぬぐいながら言う父の姿はたくましく、
また笑顔が太陽のように美しく、
私の父は世界で一番カッコいい男性なのだと思いました。

私の作った料理に美味しいと言ってくれたり、
皿洗いをしている私を後ろから抱きしめてくれたこともありました。
父は女性に優しくて、私のことを何度も可愛いと言って褒めてくれる。うれしかったです。
でも父は浮気性だから、テレーズやエリカの娘のマリンにも同じことを言っているのです。

今夜、お父様とテレーズがキスをしているのを見た時、ただ悲しかった。
父は世の女性に平気で愛の言葉を語ってしまう困った人。
きっと父が本気で好きな女性なんて、この世にはいないのだと思っていました。
まさかテレーズが本命だったなんて。

私もテレーズもお父様の浮気を防ぐために同盟した仲なのに、
出し抜かれた気がしてくやしくて悲しかったです。
私のぐちゃぐちゃになった心を父は知ってか知らずが、

「や……やだっ……あん。くすぐったい……」

私の上着を脱がせてしまい、私の膨らみかけた
胸を触り、乳首に舌を当てていました。まるで宝物に
触るかの如く優しく、私の体を文字通り舐め回していきます。

「ほら。マリン、今度はキスしよう。パパの方を向いてごらん?」
「んっ…」

しつこいくらいに私とキスを求めてきます。
パパは私の顔を掴んでいるので逃げられません。
唾液が糸になって唇の先から伸びていきます。

本当だったら嬉しいのに……。本当だったら嬉しいことなのに。
ついさっきまでテレーズとも同じことをしていたんでしょ!!
そう思うと怒鳴りたくなるけど、不思議と怒りが収まってしまう。

「勝手かもしれないけど俺は君のこと「も」愛しているんだ。
 嘘じゃなくて本気で。マリンだったらこう考えないのか? 
 好きでもない相手とキスなんてできないって」

その理屈で言ったら、ミカとの行為は何なのですか。
それに私のこと「も」って何よ。私はついでじゃない。

お父様は上着を脱いでしまい、私の体をぎゅっと抱きしめました。
お父様の体がこんなに近くに……。

一緒に土木作業をしていた時にその肉体を見た時は、
ひそかに感動していたのですが、今はそれ以上です。
男の人の体って肩幅が広くて腕の筋肉もすごい……!!
お風呂に入る前だから日中の汗の匂いがする。
たとえ汗の臭いでも父の匂いは嫌いじゃない。

「俺はマリンを抱きしめるのが好きなんだ。
 マリンの機嫌が治るまでずっとこのままにしてようか」

「何言ってるのよ。いつまでもこうしていたら 
 テレーズがお風呂から上がってきてしまうじゃない」

「今日は本当にごめんね。マリンの心を傷つけてしまったことを
 深く反省しているんだ。だからマリンが望むことならなんでも
 してあげたいと思っている」

だったら二度と嘘をつかないで!!
テレーズもミカのことも見捨てて私だけを愛してると誓って!!
いっそマリーダの魔法でこの家ごと吹き飛ばしてあげてもいいのよ!!

「ほーら。黙っているとまたキスしちゃうぞ(*´Д`)ハァハァ」
「んっ…!」

これで何度目のキスなのか覚えてない。
父の舌が口の中に入ってきて息が苦しい…。

お父様はキスをしながら私のスカートの中のお尻にまで
手を出してくるようになった。私は身をよじるけど、今度は
太ももをやらしい手つきで触ってくる。でも嫌じゃなかった。
お父様の手ってゴツゴツしてて、変な気持ちになっちゃうから。

女性は男性に愛撫されて感じるって、ネットに書いてあった。
こういうことなのね。パパに怒りたくてしょうがないのに
不思議なくらい怒りが収まってしまって、
あとは太盛お父様に身を任せるだけになってしまう。

「こんばんわー。ちょいとそこのおふたりさん。
 そろそろ現実に戻ってもらっていいですか?」

私とお父様は凍り付き、何が起きたのかと布団を
はだけて扉の方を向くと、そこにはミカが立ってます。

み、見られた!! 絶望的な状況です!!

私とお父様は布団の中で抱き合い、
私は半裸。父はいつのまにか全裸になってました。
脱ぎ散らかした衣類が床に散乱。父のアソコは、描写するのも
気恥ずかしいのですが、鹿の角のように勇ましくなっておりました。

「太盛さんって……小学生に欲情しちゃうようなロリコンだったの?
 マリンちゃんって確か10歳だったよね?」

ミカは目を丸くし、前傾姿勢で手足をだらんと垂らす。
(´ρ`) ←このような顔をしており、尋常ではない雰囲気です。
おそらくショックを通り越して自我を保つのが限界なのでしょう。

「太盛さーん。マリンちゃんとベッドの中で何をしていたんですか? 
 ちなみにまだみんな起きてる時間なんですけど。
 ここって私の目が腐ってなければテレーズちゃんの部屋ですよね?」

「なに。お主の見ての通りだ。我はマリンのことをこれでもか、と言うくらいに
 愛していてな。つい先ほど、我慢できなくなってテレーズの部屋と知りながら
 マリンを押し倒してしまった。そしてキスをしながらマリンの体の
 発育状態を確かめておったのだ。思っていたより胸が育っていた」

「あっそぅ……って、ふざけるんじゃないわよ!!」

ミカは雄たけびを上げ、両手を前に出しながらお父様に襲い掛かってきました。
これはまずい。ミカの顔は阿修羅の如く。
24歳の美貌がすっかり損なわれて、更年期障害に苦しむ老婆となりました。

「汚い手でお父様に触れないで!!」

私はお父様とミカの間に空気の壁を発生させました。
マリーダの魔法はイフリートを超え、天候さえ自由に操る。

ミカはATフィールドにはじかれたEVAのようにのけぞり、
再びお父様の首を絞めようと襲い掛かりますが、失敗する。
三度同じ失敗を繰り返すと、今度は廊下へ出て行きました。

何をするのかと、私たちが戦慄しながら待っていると、
なぜか入浴中のテレーズを連れてきました。

「テレーズちゃんも見てよ!! あなたがお風呂に入っている間に
 あなたの部屋でお父様とマリンちゃんが裸で抱き合っていたのよ!!」

テレーズは「はぁ」と言い、とりあえず驚いたふりをしています。
テレーズは裸で全身をバスタオルでくるみ、
長い髪を乾かしていないので床にぽたぽたとお湯が滴ります。

「太盛さんには騙されたわ!! もう離婚よ!! 早く出て行って!!
 私が学校に行っている間もマリンちゃんとセックスしてたんでしょ!!
 ああー、くやしい!! 私のダーリンと思っていた人がロリコンで実の
 娘とそういう関係になってるなんて!! 浮気よ浮気!! もう最低!!」

どの口がそれを言うのか。最初に浮気を始めたのはあなたではないですか。

テレーズは、目にかかる前髪を左右にかき分けながら、
「まあ良いではないですか」と言う。

「テレーズちゃんは何言ってるの!? 
 現場を見てるのによく冷静でいられるわね!!」

「確かにマリンと父は裸で触れ合っていたのでしょうが、
 文字通りただの触れ合いだったのでしょう」

「は?」

「父は実の娘を性的に意識するほど愚かではありませんわ。
 父はアッラーの使者。たまたまマリンの発育状態を
 調べるために裸にする必要があったのでしょう」

「……何を言ってるのかさっぱり分からない。
 なんで怒らないの!! ここは怒るところでしょう!?
 むしろドン引きしないさよ!!」

「いえいえ。わたくしはパパのすることにいちいち
 腹を立てたりしませぬ。パパのことを信じておりますから」

「もうあんたはいい!!
 テレーズちゃんは平安時代の人間だものね!!
 今の時代の人間の感性を求めた私が馬鹿だったよ!! 
 みんなここから動かないで!! 
 もう一人のマリンを呼んでくる!!」

10秒もしない内にマリンがやって来ました。
タイミングが早すぎます。どうやらミカが呼ぶ前に
怒鳴り声がうるさいので心配で見に来たようです。

「ミカちゃん、夜に大声出さんといてや。テレビが聞こえ…」

「テレビなんかどうでもいいわ!! それより私の話を良く聞きなさい!!
 ちょっと説明すると長くなるけど、最後まで聞きなさい!!
 いいわね!?」

「な、なんや。すごい剣幕やん。めずらしくマジギレしてんのか」

ミカの乱暴な口調で一部始終を聞いたエリカの娘のマリンは、
テレーズと同じような反応を示しました。

「同じ屋根の下で若い者同士が住んどんねん。
 一度や二度くらい間違いが起きてもおかしないわ」

「なによそれ!! あんたも太盛さんにぞっこんだったんじゃないの?
 もっと衝撃を受けなさいよ!! 涙流しなさいよ!!」

「うちは女優やないから悲しくないのに泣くのは無理や。
 まあパパとテレーズも抱き合ってキスしてたんやけどな」

「は……!?」

「ミカちゃんは知らんと思うけど、
 パパと抱き合っていたのはマリンだけとちゃうからな。
 あ、分かってると思うけどマリンってあたしやなくてあっちやで?
 テレーズもパパの前で服を脱いで乳首触らせてたわ」

「なによそれ!? 本当なの斎藤テレーズ!!」

「ま、まことです。エリカの娘のマリンに見られていたとは不覚でした。
 今更嘘をつくなどせん無き事。ゆえに真実を述べます。 
 わたくしは間違いなく、パパに…む、胸を触らせておりました」

ミカは衣を裂きながら、雄たけびを上げる。
ミカのために浦和市にあるあらゆる建物が、激しく振動していた。

太盛お父様と私達娘三人は、耳を手で塞ぎながら、
ミカの雄たけびが止まるのを待ちました。
17分ほどしてミカは冷静さをともり戻しましたが、
目が血走り、吐く息は荒く、肌は70過ぎの老婆になる。

髪の毛は一瞬にして白髪が多く混じる。
ウエルシアで買った白髪染めを用意しないと。

「もう疲れた。やっぱり私が出て行くね」

Σ(゚Д゚)!??!?!?!?!?!

ミカはそれだけ言い、旅行用のキャリーケースに
下着や化粧品などを押し込み、さっさと玄関から出て行きました。
夜を徹して激論が交わされるのかと覚悟してましたが、
何を血迷ったか家主のミカがこの家を出て行ってしまうとは。

終わりの見えない今作の行方はどうなってしまうのでしょう。

イフリート「娘は可愛い。だがそれだけではいかん」

~賢者・堀太盛イフリートが語る~

我がいかに自らの娘達を愛しているかは、万の言葉を尽くして
語ったところで語り切れるものではない。

我には現在子供四名有り。ミウとの間の太盛ジュニアを除けば三名は女児。
アッラーの恵みによりカナ(同級生)との間にも子供を授かったようだが、
未だに面識なきことにて性別も不明なり。その子を加えれば総勢が五名となる。

我は無職にて収入もなく、初婚時より初めての妻ミウに飼いならされる日々を送る。
現在もミカに経済的に依存し父親としての貫禄に著しく欠ける。

五名の子がいる身でこれではと情けなさに自嘲する。
しかしながら子供に対する愛情だけは人一倍の自覚有り。
子供たちは例外なく我を慕う。

妻たちも我を好ましく思うようだ。まことに不思議なり。
我はムスリムを自称しながらも、ミウの束縛に抗えず
他の妻たちをないがしろにし、一夫多妻制を実現しえなかった。

逢えない時間が長ければ、妻たちは我に対する憎しみだけが募り、
間違っても今さら生活を共にしたいと思わぬはずだ。
ミウにしろエリカにしろ、我との愛を望むのはなにゆえか。

ミカに至っては、我から声をかけたわけでもないのに我を慕う。
きっかけはドラッグストアで勤労に励む我を見たことだった。
子煩悩で顔が良いからと、ミカは言うが、女人にとっては
安定した生活(と子宝)こそが男に求める最大のモノではないのか。
収入なき男から得ること困難なる事柄なり。

「お父様」

アナスタシアの娘のマリンが、我の肩に手を触れる。

「今日は雨ですね」
「そうだな……」

マリンが当たり前のようにキスを求めるので応じる。
あの日からすっかりマリンはキスの中毒になった。
唇を重ねるだけでなく、我の首筋や胸や頬など
所構わずキスをするようになった。

「今日は雨ですね。お父様」
「うむ。…先ほども同じやり取りをしたぞ?」
「だってお父様は」

朝から雨足が強く、災害の心配をしたが、8時を過ぎると
小雨になった。予報によると午後からは日差しが見えるそうだ。

「考え事をされることが多くなりましたから。
 私とおしゃべりをしている時も黙り込んだりして
 一人の世界に入ってしまいます。
 とても悲しそうな顔をしておりますわ」

「そんなに悲しそうな顔をしていたのか?」

「はい。とっても。ミカが家出をしてからずっとです」

今日は平日。ミカが姿を消してから実にひと月も経過した。
テレーズとエリカの娘のマリンは学校に行っている。
担任の先生は心の病により、休業に入っていると知らされる。

心の病だと……。

噂によるとミカは実家に帰っているらしい。
ミカの実家は千葉県の野田市。
野田は埼玉県と千葉県の県境にある。
ミカは変哲のない田園地帯の住宅地の一角で生まれ育つ。

実家は兄者が継ぎ、今どき珍しく両親と同居しているらしい。
奥方は地元の娘。授かった子供は男の子が3名。
二世帯住宅を建て、賑やかなる毎日を送っている。

ミカはどうしておるのか。
兄者とは不仲と聞く。はたして実家での生活は
窮屈ではなかろうか。住むべき家がここにあるではないか。

本来の家主であるはずのミカが出て行くとは奇怪なる判断なり。
我はミカのことが心配でならぬ。あの日、我がテレーズとマリンと
イチャラブをしたことは、まったく魔が差したとしか言いようがない。

あの時の我は本気でテレーズの体を欲しがっていた。
肉親であると理解しながらも。犬畜生の所業である。
どんな人間でもシャイターンに心を支配される時はあるとは知りつつも。

我はクルアーンを毎日斉唱し、アッラーの教えに背くまいと
娘達を自ら遠ざけようとさえするが、むしろ娘達からすり寄ってくる。

「ん……ん……」

マリンが我の指を一本ずつ口にくわえ、しゃぶる。

我が焼きたてのナンを手で食べたので油で汚れていたのだ。
たまには我も調理する。今日の昼は自ら鍋でナンを焼いたのだ。
不慣れなもので見るからに不出来だ。大量の油が表面に浮いておる。
IHなる令和の調理装置にはうとく、焼き加減が分からず底が焦げてしまう。

それでもアナスタシアの娘のマリンは美味しいと言って食べてくれた。
何気ない気づかいが心に染みる

「お父様の指が綺麗になりましたわ」

マリンよ。口によだれがついているぞ。
マリンは小学4年生だが、我との一件以来、
すっかり大人の女の色気を出すようになった。

マリンは昼食後にムラムラすること多く、
我へのスキンシップが一層激しくなる。

試しに我の指を鼻先に持って行くと、確かにマリンの匂いがする。
いかん……。娘相手にこのような思いを抱いては。

カチャカチャと、音を立てながら皿洗いをしてくれる
マリンの後姿を見ていると、
まずエプロンから順に脱がしたくなってしまう。

いかん。だが抱きたい。いかん。だが抱きたい。だめ……

「きゃっ!?」

マリンの手から皿が落ちる。さすがにいきなり
両胸をわしづかみにされたら驚くであろう。

恥ずかしい話なのだが、我が毎日こうして感触を
確かめているからか、胸の成長が早まっていると錯覚する。
気のせいではないのだろう。たったひと月で、
なんとか手で握れるくらいの大きさになっている。

最初はかろうじて胸のふくらみがある程度だったのだが。

 パパぁ…我慢できなくなっちゃったの?(*ノωノ)
 実はそうなのだ。そのままじっとしておれ(´Д`)

マリンはブラをしておらぬから、
シャツの下から手を差し入れたら簡単に胸を触ることができる。

直に触れる感触は服越しとは異なる。
こりこりに固まった乳首を指先でもてあそぶと、
もうマリンは皿洗いどころではなくなり、
小刻みに震えながらあえぐだけになってしまう。

子供にしては感度が良いな。
自らの体をもてあそぶクセは、幼稚園の時に
机の角に股をこすりつけることから始まったらしい。

この子は母がミウに殺され、父親たる我への愛に飢え、
極めて心が不安定な幼少期を過ごす。
我の娘の中で誰よりも愛に飢えておる。
我との肌の触れ合いが愛の一部だと知ると、
ますます大胆さを増すのだ。

実はテレーズにも同様のことをしているのだが、
マリンの方がよほど感じやすい。しかも積極的だ。
さすがに初潮も迎えてない子ども相手に挿入はせぬ。
手であちこちを触り、互いに満足したらそれで終わりだ。

我は色々と我慢しきれなくなったらトイレに駆け込む。
一人で行為にふける時は、ミカとの夜をつい思い出してしまうが、
彼女が自ら出て行ってしまった以上、まさしく銭無きことだ。

今回もマリンのパンツを脱がそうとしたところで自制心が勝り、
急いでトイレですっきりしてきた。完全に犯罪者の自覚はある。
だが今さら止まらぬのだ。自分の事にてそれほどの自覚はないが、
我のアソコは大変な異臭を発していることだろう。

「パパぁ。お股がねちょねちょしちゃって冷たくて、
 綺麗にしたいの。私とお風呂に入りましょ?」

「む……すまんが一人で入ってくれぬか?」

「Σ(゚Д゚) どうしてですか…? 私とのお風呂は嫌ですか?」

「なに……。少しばかりマリンとの距離感が近すぎるのもどうかと思ってな。
 我はそなたの父である。いずれマリンに好きな男子ができた時に困るだろう」

「(>_<)好きな男子なんていませんよ。いるわけないではないですか。
 私にとってパパが理想の男性なのですから。
 パパ以外の男なんてぜんぜん価値がありませんわ」

「いや、今現在ではなく、将来のそなたのことを心配したのだが……」

「パパ!! どうして私から距離を取るのですか。
 さっきまで私の胸を触っていたではないですか(゚Д゚)」

「エリカの娘のマリンがな、我とそなたの関係を軽蔑しておったぞ。
 生まれてから10年も会ってなかったとはいえ、実の父娘でそういう
 関係になるのは法律的にもアウトだと……」

「……エリカの娘のマリンですか。
 エリカの娘のマリンが確かにそう言ったのですね?
 許せませんわ。私とお父様の関係に余計な口出しをして、
 お父様の心を惑わせて!!」

まずい……。マリンが本気で憤怒しているようだ。
この子の正体はマリーダ。ジンやイフリートに対し上位種の妖霊なり。

「今日学校から帰ったらマリンをたっぷりと説教してあげますわ。
 私とお父様の関係に二度と口を出せなくなるほどに!!
 うふふ……楽しみですわね」

目が本気である。
またしても流血沙汰すら覚悟することになるのか。
マリーダの力ならマリンを無きものにすること容易(たやす)い。

「それじゃ、一緒にお風呂に入ろうか!! 
 今すぐバスタオルを用意しておくからね!!」

「えっΣ(゚Д゚) あ、はい」

我はマリンの服を全て脱がしてしまい、先に風呂場に入らせた。

う……娘のパンツを手に取ると、本来なら色気のかけらもない
女児向けのデザインなのだが、赤の他人の下着に思えて妙な気持ちになってしまう。
やはり血のつながる親子とはいえ、生まれてから顔を合わせていないと
欲情するものか。本来なら気恥ずかしくなると思うが。

我はタオル類を手にし、シャワーで体を流す。
9月の末で天気は雨。空気は大変に湿っておる。
裸でいても特に寒さを感じず、シャワーでマリンの髪を洗いながら、
風呂が出来上がるのを待つ。風呂はエコキュートなりて
スイッチ一つで10分もすれば自動で湧く仕組みになっている。

指先一つで瞬時に風呂が用意されるとは。
令和10年の科学力は全く我の理解を超える。
そもそも日本人は水をふんだんに使えることに
贅沢さを感じているのだろうか。

ペルシアでは隣に部族の井戸を許可なく使うと
紛争になること常である。お湯をぜいたくに使うなどもってのほか。

「お父様の手つきは柔らかくて好きですわ」

「そうか。喜んでもらえて何よりだ。
 マリンの髪は長くて綺麗だから傷つけぬよう気を使っているのだ」

マリンは自分で洗うのがめんどくさいからと、
髪だけでなく体全体を洗うよう求めて来た。
石鹸を泡立て、背中から体を洗っていく。いかん……。
我がマリンの後ろから洗う態勢では、洗い物をしている時の再現である。

体のどこに触れても嫌がる様子もなく、完全に身を任せている。
風呂ができた。湯気が立ち込め、幻想的な雰囲気になる。
我の体も上気し、頭がのぼせそうになる。
黙っているとますます妙な気分になるで適当に話題を振る。

「雨が続けばしばらく土木作業をやらずにすむな…」
「そうですね。筋肉痛が少しは治ればいいのだけど」
「わ、我も下半身が筋肉痛で痛くてな。むしろ雨に感謝したいくらいだ」
「お父様は筋肉質でいかにも強そうなのに筋肉痛になるのですか?」
「それはそうだ。むしろ我など大して筋肉の無い方だ」

話しながら、さっさと股を泡でこすってしまう。その時マリンが、
「んっ」とせつなそうに息を吐くので、さすがに我の息子の
部分が反応してしまう。

「石のように固くなっておりますわ」
「分かるのか」
「私の背中に当たっておりますから」

先ほど抜いたばかりなのでまるで意味なし。
よせばいいのに、マリンがわざわざ振り向いて我の
そびえ立つタワーの先端を指で撫でてしまう。

濡れた髪がマリンの顔にぴたりと張り付き、
不思議そうに我の部分をながめておる。その手つきは
まさしく初めて男の体を知ろうとしている処女のものである。

マリンが少し力を込めて握り、試しに舌で少し舐めてみると、
我の方がついに我慢できなくなり、マリンを精液で汚してしまう。
マリンの顔へ向けて発射されてしまったのだ。
髪を綺麗に洗ったのに台無しである……。

「ネットで調べたことがあります。
 触ってみるとネチネチしてて、鼻を突く匂いがする…」

「よ、よせ。そのようなモノを舐めてはならぬ」

実はミカの口では散々抜かせてもらったのだがな。
ミカは我のモノを口の奥までくわえながら、
念入りに舐めてくる。我は5分と持たぬ。

マリンは少し苦いと言って渋い顔をする。
むしろこれで我を避けてくれると助かるのだが。
幼女趣味は日本では罪で世間体も最悪だ。

我は日を増すごとに欲望に抗えず、犯罪者として進化していく。
焦るが、愛娘の方から誘ってくるからたちが悪い。
ミカの言うことが正しい。最低のロリコン男とは我の事なり。

「でもなんだか癖になる味かもしれないわ。
 だってお父様のだから」

にやけながら我を見るでない。
お主の顔は完全に成人した女人の顔であるぞ。

今度はマリンに我の体を洗ってもらい、共に湯船につかることになった。
マリンは遠慮なく我の膝の上に乗ってくる。
こうするとマリンの体の上半分は湯からはみ出るのが、おかまいなしだ。

「今日から毎日私とお風呂に入りましょ?」
「し、しかし……夜はテレーズと入る決まりになっておる」

ミカが家出をしてから、テレーズが何に変えても我と一緒に
風呂に入ると主張し、このマリンとの激論の末に自らの意見を認めさせた。

これも恥ずかしい話なのだが、テレーズの顔の美しさはもはや大人の
女さえ凌駕している。我にとってあの子の顔が好ましくて仕方なく、
辛抱たまらなくなる。テレーズに我のアソコを強すぎるほど握らせ、
排水溝へ向けて発射してしまっている。我、風呂に入る度に暴走列車と化す。

「なら私とはお昼に、ね?」
「うむ……マリンが望むなら仕方ない」

我は適当に返事をしてしまう。というのも、マリンが我の膝の上に
またがり、体を前後に動かして股をこすりつけているのだ。
こうすると頭がふわふわした感じになるそうだ。
今さら止めるわけにもいかず。好きなようにさせる。

顔をより近づけ、舌を伸ばすと、向こうも応じて来た。
この子とのキスもまた、病みつきになりそうだ……。
異母姉妹ゆえか、テレーズとのキスとは味が異なる。
マリンは体つきも凹凸が合って大人びている。
早熟なのだろう。まもなく初潮を迎えてもおかしくないぞ。

マリンの幼い割れ目を指で優しくなぞると、
「あっ」とくすぐったそうに体を震わせる。
さすがに指を入れるのはまずいだろうから、この辺で止めておく。

そんな時に玄関のチャイムが鳴り響く。
こんな時に誰よとマリンが機嫌を損ねるが、
平日の昼間に不埒な真似をする我らが異端なのだろう。

我は大急ぎで体をバスタオルでふき、短パン姿で玄関へ向かう。
マリンは風呂場に置いてきた。

おそらく宅急便だろう。
テレーズはブックオフ通販でよく本を取り寄せるのだ。
さっさと印鑑を押して物を受け取れば終わりだ。

「イフリートさん。やっぱり戻って来ちゃいました……」

まさかのミカである!!
すっかり別人だから老婆が宅配員をしているのかと思ったぞ!!
ミカが我に抱き着くと、手にしていたキャリーケースが床に転がる。

「あれから夜も寝ないでずっとずっと考えていたんです。
 旦那になる人が少女趣味だなんて生理的に受け付けられないですけど、
 でもそれ以外のところは思いやりがって素敵な人じゃないですか。
 夜一人で寝るのが寂しくて不安で、全然眠れないんですぅ。
 ずっとイフリートさんの事ばっかり考えていてんですよぉ」

この女……!! 髪をしばらく洗っておらぬな。
試しに髪を撫でたらフケが手に付いた!!
触り心地も油に触れるかの如く。最悪だ。体から異臭もする。
困ったことに歯も磨いておらぬようだ。
口臭が鼻を突き、ミカの顔を直視できず。

「そ、そっか。俺もずっとミカちゃんのこと心配してたんだよ。
 メールしても全然返事返してくれなかったじゃんか。
 ああ戻って来てくれて良かった!! これから色々と話したいこともあるし、
 ミカちゃんもその…えっと、疲れてるみたいだからお風呂一緒に入らない?」

「お風呂ですか(∩´∀`)∩ いいですね。
 実は2週間もお風呂入ってなかったんですよぉ」

2週間だと!? どおりで臭いわけだ。
髪の毛も染めてあげなければな。信じられんことに
ミカは完全なる白髪になっておる。22歳で信じられぬ。
それほどまでに我がいない夜は苦痛だったのか。

「ひゃああああ?! あなたはどちら様ですか!!」
「ちょ、え? どうしてマリンちゃんがお風呂に入っているの?」

マリンは白髪の老婆にしか見えぬミカを他人と勘違いしたようだな。
無理もない。マリンは半泣きで我に抱き着いてきた。

「ま、お風呂が沸いているならいいや。私は一人で入っていますからね。
 イフリートさん。下着とバスタオルを用意してくれませんか?
 下着ならケースの中に入ってます」

「う、うむ。了解した」

ミカの下着は依然と変わっておらぬ。
黒や紺の柄のきわどいデザインのショーツである。
売女と馬鹿にしたくなるようなデザインで我の好みではない。
当たり前だが大人の下着である。

なぜだかミカの下着を手に持つと、ミカとの思い出が
走馬灯のように蘇り、しばらく立ち尽くしてしまう。

「お父様!! ミカが帰って来てしまいました!!」

「……うむ。割と元気そうだったな」

「どこがですか!! 行き倒れの浮浪者のような身なりで
 ジプシー(遊牧民)かと思いましたわ
 あの女とこれからどうするつもりなのですか!!」

「なに。別にこれと言って変わったこともあるまい。
 今まで通り家族として生活をすればよいのだ。
 ミカは立場上は我の同棲相手。恋人である」

「恋人……。ではお父様はまだあの女に気があると?
 今日から夜は一緒に寝るつもりなのですか?」

「……マリンにはお金の大切さを以前教えたはずだ。
 我は実質ウエルシアを解雇されてしまったも同然。
 今さら新しい住居をいかにして探すのか。
 ウエルシアから未だに給料も払われない身では
 賃貸契約すら結べないだろう。
 それともエリカやミウにお世話になりたいのか?」

「うー(>_<) お金の話をされると弱いですわ。
 私も文無しで家出をした身ですから。
 いまさら母様に頭を下げるなんて御免ですわ」

「ならば耐えるのだ。我らは令和10年を生きる者。
 令和10年では金のない国民は死ぬ。
 自民党と坂上瞳が申した通りである」

マリンが、ミカが風呂から上がる前にぜひにと頼むので、
ドライヤアにて髪を乾かすことにする。
マリンはリビングの床に女の子座りし、我が後ろに座る。

マリンの髪は潤いがありサラサラしている。
線が細く毛先に向かうにつれて癖がついておる。
母のアナスタシアの髪質と豊富なボリュームがそのまま
受け継がれているようだ。我は女人の髪が大の好みである。

つい愛おしくなり、髪を乾かすのも忘れてマリンを後ろから
抱き寄せてしまう。マリンの頭頂部が我のアゴにこつんと当たる。

まだ完全に乾いておらぬ髪の毛が少し冷たい。
この髪の感触、匂い、細くて可憐なる手足。
本当に我は美しい娘に恵まれたのだと、改めてアッラーに感謝いたします。

「まだ途中なのにやめちゃうの?」
「いや……思わず抱きしめたくなったのだ。すまぬ」
「クスクス( ̄▽ ̄) 抱きたかったら好きになさってくださいな」

パジャマのズボン越しに下半身を撫でてやる。
股の間をこするように触っていると、
こちらの下半身も戦闘状態になってしまう。

マリンは全く抵抗をせぬから、
我の方も一度手が出てしまうと
最後まで止まらなくなってしまう。

「どうだマリン。お主は我に触られても嫌じゃないのか?」
「どうしてそんなことを聞くのですか?
 嫌だったらとっくにパパを避けていますわ」

とつぜん幽霊のごとき気配を感じ鳥肌が立つ。
我のすぐ横にミカが立っていた。いつからいたのか!!

「イフリートさん。お風呂からあがりましたよ……」

「み、ミカΣ(゚Д゚) 綺麗になったようだね。
 よし、今日は俺が髪を乾かしてあげるぞ!!」

ミカは体をバスタオルでくるんでおり、なぜだか下着を
身に着けておらぬ。ソファに座らせ、ドライヤーの風を当ててやる。
ぬう……? ミカの髪が黒髪に戻っておる(出て行く前は茶髪だったが)

風呂に入るだけで髪の色が元に戻るとは面妖(めんよう)なり。
我は一日に何度女たちの髪を乾かせば良いのか。さながら
美容師の如くだ。夜は毎回テレーズの髪を乾かしてあげている。
我に髪を触らせると激しく欲情するとも知らずに。

ミカの髪に触れて思う。ミカも確かに20代と若いが、
10代の娘とはやはり質が異なる。ミカは髪を高校時代より
染めていたこともあるのだろうが、根元からすでに痛んでいる。
クシでとかしても我の満足するストレートな感じはならぬ。

テレーズの、根元がしっかりとした、うるおいのある直毛とは違う。
このようなことを考えてもせん無きことなのだが。

「えへへ(*´▽`*) イフリートさぁん、だっこして、だっこー」
「よしよしミカちゃん。ミカちゃんは可愛いよ」

ミカの抱き着き方は幼女のそれだ。我の腰へとしっかりと
腕を回し、絶対に離さぬと言わんばかりだ。全ての体重を
こちらにかけてくるので、さすがに支えきれず、床にごろんと
転がってしまう。それでもミカは離さないのだから強者である。

1分ほどミカを抱いたまま、髪を撫で続けていた。小顔だな……。
ミカの顔立ちはまあまあだが、スタイルが良い。
160センチ以上の身長で頭の大きさはハンドボールくらいの大きさだ。

「イフリートさんにぎゅってされると安心するんです」
「そっか。ならずっとこのまま抱きしめてあげようかな(*^▽^*)」
「太盛さん。大好きです」
「俺もミカの事愛してるよ」

その時、針のごとき視線が突き刺さる。マリンである。
我との先ほどの出来事が台無しになってしまい猛烈に嫉妬したか。
悶々とした状態で我とミカのイチャラブを
見せられるなど死に等しい苦痛であろう。

「……いっそ魔法で消してたらどうかしら」

それはいかんぞマリン!!
今は抑えるのだ。ミカなしにして我らの生活は成り立たぬ。
くそっ。せめて我に少しでもいいから収入があれば!!
しかし令和10年では浦和市の時給など200円前後だろう。
今は公務員のミカに依存するしかないのだ。

天の助けのように、愛娘テレーズとエリカの娘のマリンが帰宅した。
こんなに時間が経過していたとは知らなかった。

「ただいまーって、ミカちゃん帰って来てたんか?」
「あら先生ですか。ご無沙汰しておりましたね」

二人の娘は床の上で抱き合う我らの横を通り過ぎる。
二人ともランドセルを自室に置いてから再びリビングに戻って来た。

「先生」とテレーズが呼ぶ。

自宅にて他人行儀なる呼び方ということは……。

「先生は先ほどからコアラの練習でもなさっているのですか?
 早くパパから離れていただかないと困りますわ。
 視界に入るだけで何とも言えぬほど不愉快ですので」

「だから何? あんたの存在の方が私にとって不愉快よ。
 私は一ヵ月も彼と会えなかったさみしさを埋めているの。
 大人の関係に口出すんじゃないわよ、このお子様が(*^▽^*)」

「ほう(#^ω^) 自分の都合で出家し、再び戻って
 来たかと思えば、何とも無礼なる口の聞き方ですね」

二人はいつものように口喧嘩を始めるが、ミカはそれでも
我にしがみついたまま離れぬので、怒ったテレーズがミカの背中を叩く。
我が止めに入ると、テレーズの怒りが我に向く。
ミカをかばうのが許せぬらしい。

ミカなしでは生活が成り立たぬことをそれとなく告げると、
テレーズはすぐに察してくれたが、なぜかニヤニヤしている。

「当面の生活費でしたら心配は無用ですわ。
 お父様のお給料なら十分な量が払い込まれているはずですから、
 あとでご自分の口座を確認なさってください」

なんと……!! テレーズの言うところによると、
我の給料が賠償も含めて全額払われている?!

どうやらテレーズが気を回してウエルシアの給料未払いの件を
訴えてくれたらしい。歩美の兄者のナツキ殿に対して……。
なにゆえナツキ殿に? しかし意味は大いにあったようだ。

自民党の厚生労働省には、足利市出身の議員(スパイ)がいる。
ナツキ殿はそのスパイとのコネクションを使い、厚労省経由で
ウエルシア本社を略式起訴し、未払い給料を支払うよう要求。
これでもウエルシアはとぼけて時間稼ぎをしたので、
止む無く経営幹部のご息女を誘拐してしまう。

最後は根負けした経営側が、我に対し未払い分の給料と
損害賠償分を含めて、なんと270万円を一括で支払ってくれた。

270万……!! 本来払われるべき50日分の給料と、
我が象との戦闘で追った傷の治療費、精神的な苦痛を加味した金額だ。
これほどの大金を我が手にしたのか!! 
令和10年、まもなく消費税率42%に引き上げられるこの地獄で!!
令和元年では700万に相当する金額なり!!

これだけの金額があればミカに依存せずとも、
団地やアパートに契約することはできる……。
しかし働き先はどうする。またウエルシアで働くのか?
お店は時給が安いだけでなく強盗に襲撃されて勤務不可能になる可能性が高い。

「ダーリン……(>_<) この家を出て行っちゃうんですか?」

「何を言うか。安心せい。我は何度も言ったはずだ。
 我の居場所はお主の隣だけだと。少しばかり金が入ったからと
 いってお主を捨てるほど愚かなる男ではない」

「イフリートさぁん……(*´▽`*)!! よかったあ」

(*´з`)んんー
(●´Д`)ε`○) くっ……

ミカがキスを迫ってくるので遠慮なく受け止める。
またしてもごろんと背中から床に倒れる。
どうやらミカはコアラの練習を好むようだ。
油断したら背中を打ってしまうぞ。

ミカのうなじの辺りから発情した女の甘ったるい香りが漂い、
またしても妙な気持ちになってしまい、我のアソコが硬くなり石となる。
我は一日に何度発情したから気が済むのだ。AV男優も顔負けである。

「やめて!! もうそういうの、やめて!!
 ほら離れて。今すぐ離れて!! このぉ……
 パパから離れなさいって言ってるのよ!! この豚女が!!」

テレーズの怒声だ。
女童とは思えぬ力でミカを持ち上げ、吹き飛ばしてしまう。

「いったいわねぇ……大人に暴力を振るなんて不良しょ…」
「うるさい!! おまえなんか死んでしまえ!!」

テレーズはマグカップやコップをミカへ投げつける。
鬼のごとき形相である。どうやら本気で怒っているようだ。
なぜかアナスタシアの娘のマリンも参戦し、
掃除機の先端部分(細い部分)を手にしてはミカの頭を叩いている。
テレーズはダスキンを逆さまにし、ミカの体に振り下ろす。
二人はそれを何度も繰り返している。

もはや完全なるリンチである。
ミカは二人の娘の迫力に恐れをなし、抵抗できずにいる。
修羅場である。

帰ってきて初日からこれでは……。
見過ごすわけにもいかず止めに入る。

「パパが悪いのですわ!! 私がパパの未払いお給料を
 払ってもらうようにと、歩美に頭まで下げて頼んだのですよ!!
 そうしたらこの家から出て行けるはずでしたのに、
 パパが優柔不断な態度を取られるのがいけないのです!! 
 私はパパがミカをかばうことが許せぬのです!!」

「うむ……。テレーズには何から何まで感謝しておる。
 そして本当にすまなく思っている。だがな、暴力は…」

「パパが今すぐこの家を出ていくとおっしゃれば止めてあげますわ!!
 さあどうなのですか!! あるいは娘達と愛人が永遠と
 仲違いしたままの生活を望むのですか!?」

「だ、誰でも感情が高ぶる時はある。一時の心の乱れは仕方ない。
 お主は今ミカの顔を見てイライラしただけ…」

「顔を見たからではなく、
 パパがミカとキスをしていたから心を乱しているのです!!
 なにゆえ私たちの前であのような事をなさるの!?
 それも一度や二度にあらず。その度にわたくしの心に
 深く深く傷をつけているとも知らずに!!」

テレーズは、泣いていた。確かにな。この子が本気で
我を好いてくれいてるのは分かる。傷つくのも分かる。
マリンも同様だ。だが我の体は一つしかない。

もはや父娘の間柄を逸脱し、恋人同士の問題と考えるべきか。
しかしながら複数の女で一人の男を奪い合うなど不可能なのだ。
同じ問いを繰り返すようだが、我にそこまでの魅力があるのだろうか。

テレーズはすでに美人だ。その美貌を生かせば世の男など選び放題。
アナスタシアの娘のマリンは、将来間違いなく美人になる。上に同じだ。
ミカは20代の前半だ。見合いでもすれば男はたくさん寄ってくるだろう。

周りの評価を総合すると我は顔立ちはイケメンらしいが、
現在無職で職歴もウエルシアでのアルバイトのみ。
妻が5人いるが養う力なし。自分で説明すると情けなさに涙が止まらぬ。

「そろそろやめーや。ほんまにシャレにならんから、な?」

エリカの娘のマリンだけは冷静だった。子犬のように
震えるミカを守るように抱き、ミカはマリンにしがみついて大泣きした。
ミカにとって最も恐ろしいことは、我と会えなくなることである。
我が娘三人を連れてこの家を出て行ってしまえば、もう我との接点は無くなる。
嫉妬深いテレーズは転校を検討することだろう。そうなれば全てが終わりだ。

アナスタシアの娘のマリンは、フライパンを握りしめて立ち尽くしている。

「ま、マリンは、そろそろ落ち着いたかな?(*^▽^*)」

「はいお父様。お父様がどうしてもこの家で住みたいと言うのなら、
 仕方ありませんわ。お子様である私は我慢するしかありませんもの」

殺気にひざが震える。テレーズとは異なる種類の怒りだ。

「お父様。私は気にしておりませんから、どうぞ好きなさってください。
 どうぞどうぞ。気が済むまでミカとの夜の生活を楽しんでください。
 私はお父様の考えは常に正しいと思っておりますから」

マリンは内に秘め込んだ怒りをわずかに我の前で放っている。
実はこの種類が最も手におえぬ。女は嫉妬心を無暗にため込むと
いずれ想像を絶するエネルギーとなり、最悪この家ごと吹き飛ぶのであろう。

実は我が娘で最も恐ろしいのはマリーダである、このマリンである。
なんとか機嫌を取る方法はないかと模索する。

太盛イフリート「正しきムスリムが勤行に励むのは夜である」

~賢者・堀太盛イフリートが語る~

家族で夕餉(ゆうげ)の食卓を囲む
エリカの娘のマリンとミカは気が合うのか、
談笑しながら食を進めておる。話題はたわいもないことだ。
最近お互いの身に起きた事を飽きもせずに話し続けている。
ミカの話題は仕事の愚痴が非常に多し。

アナスタシアの娘のマリンとテレーズは会話に参加せず。
もくもくとサンドイッチを口に運び、コーンスープを飲む。
夕食はアナスタシアの娘のマリンのお手製である。

サンドイッチは、山崎の食パンにレタス、ハム、トマトを
挟んだ簡素なものだ。ヘルシイたりて、たんぱく源や食物繊維が不足せリ。
栄養が偏る理由は、冷蔵庫の中身が空に等しいからだ。

本日我がアナスタシアの娘のマリンを連れて
近所のカスミで買い物する予定だったのだが、
ミカの突然の帰宅にて断念する。

ううむ……暦は10月に差し掛かるが、日中の日差し夏のごとし。
熱々のコーンスープが喉を通らぬ。
我は暑がりにて夜寝る時も半そでTシャツを貫く。

夕食は可能な限り家族と共に食べるのことを家族の決まりとせり。
夕食後は、我とアナスタシアの娘のマリンが後片付けをする。
他の者は自室にこもるか、リビングでテレビを見るかだ。

やはりテレーズは真っ先に自室へ足を運ぶ。

エリカの娘のマリンとミカは、にぎやかなる音楽番組を見てはしゃいでいる。
現代音楽とは、実在の楽器を使わずシンセサイザアなる電子入力機にて
音楽を疑似的に再現すること多々ありけり。すなわち伴奏楽器が不要で、
歌手さえおれば音楽が成り立つ。乃木坂などアイドルグループは歌手さえも口パクにて
CD音源を背後で流す。これぞ音楽文化だと主張する現代人の感性を理解できず。

我の前世であるペルシア、アラビア時代では、歌手とは吟遊詩人が主流であった。
吟遊詩人は中東各地のチャイハネ(茶店)を回り、夜の度に書き溜めた詩を歌うのだ。

Saz(サズ)とはトルコの古典的ギターなり。2000年の歴史あり。

(これに比べたらエレクトリック・ギターは電気を使用し先進的だ。
 昨今の流行り音楽では前述したシンセのみで伴奏をこなすため
 意味が分からぬ。楽器演奏者なしに音楽が成り立つとは)

我もかつては夜遅くまで練習に明け暮れたものだ。
楽器の腕前は人並みを自称したが、歌の音程があやしい。
我には歌の才能はおそらくないと師匠に言われ、
それからは聞く側に専念する。
2029年の現在から数えておよそ1260年前の思い出だ。

皿洗いも一通り終わった。キッチン周りをマジックリンと
キッチンペイパアなる現代科学が生み出した便利な道具にて綺麗にした。
油汚れをすっきりさせることに関して日本の技術は世界のトップであろう。
日本は食事がとにかく清潔なのである。

日本に転生してからは、ヤクや羊を屠殺する必要なし。
スーパーにて当たり前のように新鮮ある肉が並ぶ。
これに慣れると生き物の肉を食べるありがたみが大変に薄れる。

砂漠の旅の途中、喉の渇きが極限に達した時は、家畜の血を吸うことなど
現代日本人には想像もできまい。たった一本の幹線道路を除き、
永遠と乾いた大地が続く、ペルシアの大地。
小高い山々の向こうから強風が吹き荒れる。
強烈なる陽光をさえぎるものなく、夏場は夜間でないと移動などできない。

砂漠の遊牧民ベドウィン族が、かつてかの地を移動中に
偶然にも遭遇し、強盗と勘違いされ、あわや殺されかけたこともある。
ああ、懐かしいぞ。我もかつてはキャラバン隊に同行した経験あり。
200を超えるラクダの群れ。無限にも続く行列。その光景はまさに圧巻なり。

砂漠のオアシスだと思い、急いでラクダを走らせても実は
ただの蜃気楼。もしくは特定の部族の井戸だと知った時は戦慄する。

日本では、水道の蛇口から水が出る。
もう一度言おう。水道の蛇口から水が出る。(水道代を払えれば、だが…)
飲める水だ。清潔な水とは、我ら砂漠の民が紀元前の以前から渇望したものだ。

例え令和10年の貧困地獄の世に生まれても、水が自由に飲めることに
アッラーに感謝いたします。我はムスリムなりて。ここ最近は
寝る時に娘二人(テレーズとアナスタシアの娘のマリン)が
我の奪い合いをして小競り合いを繰り返した。

娘と寝ることは叶わぬが、われにぴたりと寄り添って寝ないと
ごねるのは困る。実は夜はムスリムにとって勤行の時間なり。

クルアーンの教えによるとこうなる。

日中は世俗の雑事が何かと入り、一人で集中しす時間が乏しい。
そこで全知全能の神であるアッラーは、夜の就寝時こそ
クルアーンの斉唱に相応しいと教えている。
これが勤行(ごんぎょう)なり。

我は夜はミカと寝ることになる可能性大にて今を自由時間とする。
アナスタシアの娘のマリンは、トイレに行ったようだ。

我はキッチンから抜き足で移動し6畳間へ入る。
ここは以前から1階の空き部屋となっており、家中から不要な物を
集めた倉庫となっていた。衣装棚が部屋を圧迫し、
段ボールや箱が散乱するが、店の品出し係の経験を生かし2分で整頓する。
なんとか一人があぐらをかける広さを確保せり。

さて。さっそくクルアーン(コーラン)の斉唱を始めるか。
日本国内では亜(あらびあ)語で書かれたクルアーンが入手できなかったため、
止む無く岩波書店より販売される、全三巻の単行本を入手した。
これはそこら中の書店でごく普通に販売されており、手ごろのサイズで
訳語も極端な違和感はなく素人にもお勧めである。

ーーー慈悲深く、慈愛あまねき、アッラーの御名において…

聖書と同じく、口に出して読むのが一般的だ。
モスク内では多少は人の往来があるため黙読する者も多いが、
我は小声で口に出していた。絨毯の上に座る感触が懐かしい。
口に出さずに神の言葉を授かることなど不可能なのである。

20分ほど読み進めた。久しぶりにやると時間が過ぎるのが早い。
我はすでに娘達と不埒な好意をしてしまった。クルアーンでは
肉親で特に娘と性的関係を持つのは固く禁じている。
このままではジャハンナム行きが確定しつつある。
過去の過ちを振り返り、自らの行いを恥じる。

廊下から足音が聞こえる。

「中に明かりがついてますけど、誰かいるのでしょうか」

「きっとお父様がいるのですよ。
 お風呂にもトイレにもいなかったじゃない」

声の主は訊くまでもない。じれったく感じるので
我から扉を開けて中に通してしまう。

マリン「お父様(*´▽`*) ここにいたのですか」

テレーズ「(''▽'') 探したのですよ。お邪魔してもいいかしら?」

我「(;゚Д゚) 二人なら大歓迎さ。
  ちょうど話したいこともあったしね」

狭いからと、二人は我のそばに座る。
テレーズは我の肩に自らの頭を乗せ、
マリンは我の腕をしっかりと組み体重を預ける。

娘達の美貌はアラブの王女すら超越すると称しても
過言ではなく、両手に花を抱える状態となる。

マリン「うふふ。今夜もお父様と一緒ですわ」

テレーズ「ここは狭いけど邪魔が入らなそうな場所ですわ。
     夜は特に都合がよさそうです」

マリン「うふふふ。それはいいですわね。お父様もそう思うわよね?」

我「ええっと……それはどうかな」

めずらしく二人がともに行動している。
父を巡る恋のライバルの割にはな。
我は、いっそここで不埒なる関係を断ち切ろうと決心する。

我はムスリムであり、アッラーの使徒イフリートである。
我らが肉体亡きあと、閃々と河川流れる天国へ入るために、
これ以上の罪を犯すわけにはいかぬ。
娘達もできればクルアーンを読んで心理に目覚め、
我と適切なる距離感を保つよう努力するべきである。

娘達に不快感を与えぬよう、現代語で慎重に諭すが効果なし。
テレーズは眉間にしわを寄せ、渋い顔をする。

テレーズ
「なぜに今さらそのようなことをおっしゃるのか。
 わたくしは失礼ながらムスリムではありませんわ。
 ママの影響で無神論者です」

我「聖書を読んでおらぬのか?」

テレーズ
「ナツキ様の影響で共産主義を勉強したのがきっかけで、
 現生の重要さを再認識したところで、気が付いたら
 すっかり信仰心が薄れてしまいました。
 ですから今は無神論者なのです」

そもそも我の方からテレーズの服を脱がし、破廉恥なることを
してきた。そのせいでテレーズは女児にして性に目覚めた。
マリンも同じことを主張し、我は責任を取るべきだと言う。

子供たちの言い分をまとめる。
責任とは、我が二人を寂しくさせないこと。
そのために様々な約束事を作る。
お風呂は一緒に入る。夜寝る時も一緒。添い寝を希望する。
食事時はルールがあるため家族全員で。

(テレーズとマリンは結託し、我を巡り対立することを
 改め、二人で同時に我に甘えることに決めた)

特に譲れぬのは、我がミカと寝ること。
ミカと二人きりで出かけること、
ミカと楽しくおしゃべりすること、顔を近づけること、
同じコップで飲み物を飲むこと、見つめ合うこと…。

内容が細かすぎて頭痛がする。

すなわちミカと同居し、生活を依存しながらも
ミカと関わるなというのか。まさに女童らしき、わがままなる要求。
怒るよりも微笑ましくもなるが、親として叱らねばならぬ。

「これ、お前たち。ミカをないがしろにしてはならぬぞ。
 この家はもともとミカの前の旦那の財力によって建てられたもの。
 物語の設定にて我らが現在占拠するが、実質住ませて頂いている身で
 あることを忘れてはならぬぞ。我の乏しい収入では1000年
 働いたところで建てられるものではない」

それに市県民税を払って頂いた恩を忘れるべきでない。
ミカとて女の身で大変な苦労を重ねながらクラス担任をしているのだろう。
その彼女が得た給料で払ってもらったのだぞ。

我は調子に乗ってしまい、10分もくどくど説教してしまう。
娘たちは、しゅんとし、大人しく話を聞いているのが不思議だ。

仮に相手がマリエやミウの場合、
ならば夫である貴様が立派な職にについて
稼げばよいと逆に説教されてしまう可能性あり。

マリン
「( ;∀;) うぅー。お金の話をされると私は弱いのです。
 お父様のおっしゃる通りなのは分かっておりますわ。
 でも私は本当にお父様のことが大好きだから常におそばに居たいと
 思っているだけなのです」

我「すまぬな(*^▽^*) 泣かせるつもりはなかったのだ。
  お主は素直で良い子だな。もちろん大好きなマリンとは
  これからも一緒に居てあげるぞ。よしよし、そろそろ泣き止め」

できればマリンの頭を撫でたいが、テレーズの全身から
発せられる怒気を感じ、血の流れが止まりそうになる。

テレーズ
「(^_^メ) わたくしはパパとミカの関係を認めませぬ。
 パパはミカのことが好きなのでしょう。
 好きだからあの女の肩を持つのでしょう。
 わたくしとマリンの要求は正当ですわ。
 でないと今夜もパパはミカと一緒に寝てしまうのですから」

我「(;゚Д゚)テレーズよ……。
  ミカに配慮するのは致し方ないことだと知れ。
  聡明なテレーズにしては聞き分けが悪いぞ」

テレーズ
「でも嫌なのです! 嫌なのです!!」

我「こら!! いい加減にせんか!!」

テレーズ 
「嫌なものは嫌なの!! パパがあの女と夜遅くまで
 裸で過ごすなんて、そんなの絶対にいやあああ!!」

テレーズがヒステリーを起こすのを始めて見た。
反抗的な態度は留まるところ知らず、我の胸をどんどんと叩き始める。
女童の力ゆえ痛くもかゆくもないが、大泣きしている我が子を
いかにしてなだめるべきなのか。

テレーズ
「パパは私とマリンと一緒なの!! そうじゃないと嫌!!
 いやああああああああああ!! 嫌なのおおおおおおおおお!!
 うわあああああぁぁぁぁぁぁああああ!!」

超音波のように甲高く、耳が割れてしまいそうだ。
マリンは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらも
泣きわめくのを止めない。

「パパのおバカ!!! どうして私の気持ちが分からないの!!
 パパと一緒じゃないと嫌なのおおおおおおお!!
 お馬鹿あああああああああ!! パパの馬鹿あああ!!」

この子がここまで駄々をこねるとは……。
普段の理知的で早熟なテレーズの姿はそこに無い。

マリンは呆気にとられ、動けずにいる。我も同じだ。
しかしリビングからミカが来てしまえばさらに混乱する。
哀れだとは思うが、早急になんとかせねば。

「これ。静かにせんか」
「むぐっ……ンぐ……くるし……」

口をふさいだのだ。我の脱いだTシャツでな。
テレーズの口もとに巻いてしまい、自由に話せぬようにする。

「聞き分けの悪いテレーズにはお仕置きが必要である。
 動いたり騒いだりするでないぞ?」

我は片膝立ちになる。膝の上にテレーズのお腹を置き、尻を叩く。
俗に言うお尻叩きである。テレーズを懲らしめるため、容赦なく叩き続ける。
パンツは脱がしておらぬが、布越しでも痛かろう。

無言の部屋に、尻叩きの乾いた音が響く。

なぜかテレーズは声を上げぬが……。
どうだ。これで少しは父の怒りが伝わったか。
言葉を発せる程度にTシャツをほどいてやる。

「……パパにお尻を叩かれると、変な気分になってしまうのです。
 それとこのシャツ。お父様の汗の匂いがする…」

いかん。我の汗臭さでそれどころではなかったか。

「いいえ。パパの匂い…好き」

恍惚とした表情で言う。やはり女童でなく女の顔なり。
なるほど。我のお仕置きはお仕置きにあらず。
テレーズを興奮させるだけだったのか。

だがこれ以上叩くと明日からの生活に支障が出でるかもしれぬ。
お尻はきっと赤くなっていることだろう。気になったので
スカートをまくり上げ、パンツをずり下ろしてしまう。

「いやんっ(>_<)」

「ふむ。それほどではなさそうだな。
 まだまだ叩ける余地はある。さあ覚悟せよ」

叩こうとして無防備な尻を撫でるうちに、
またしても妙な気持ちに支配されてしまう。
いかんと思い直し、二度三度と容赦なく叩く。

「いたいっ……んっ……あんっ……いたいっ……」

むしろ喜んでいるようにしか見えぬ。これではお仕置きにならんぞ。
尻の穴にそっと触れ、その下の方へ指を動かし、幼い割れ目になぞる。
すでに粘液で濡れていて、人差し指の先端が簡単に入ってしまう。

「あああっ!!」
「どうだテレーズよ。今指が入っておるぞ。どんな気持ちだ?」
「あっ…うっ…気持ちいですぅ……」
「痛くはないのか?」
「痛く……ないですぅ……」

テレーズは処女だろうが、処女膜が簡単に損傷するわけではない。
膜とは、そもそもヒダとして膣内にあるものだ。
バイブほどの大きさのモノが奥まで挿入されない限り
血が出ることはなく、また個人差によって出血しない人もいるそうだ。

指をもう少し奥まで入れたいが、テレーズをお腹に乗せている状態だ。
いい加減ひざ立ちの姿勢では、ふくはらぎが疲れてしまう。

「んんー!!」

指を勢いよく引き抜きくとテレーズがあえぐ。

手ごろな大きさの四角い段ボールを用意し、
その上にテレーズをうつ伏せに寝かせる。
足を左右に開かせると、こちらから尻が丸見えになる。
風呂上がりのため綺麗なものだ。

我はお尻の穴をゆっくりと指でもてあそんでから、
サーモンピンクの秘所を指で押し開いた。
内側も綺麗なピンク色である。愛液でたっぷりと濡れている。

「あう!!」

また指を一度出し入れし、人差し指を舐めてみる。
多少塩っぽい味がするが、ほとんど臭みがなく、無臭に近い。
ペルシアの女は、乾燥したラクダの乳のような味がしたものだが、
テレーズは味がない女のようだ。

「んっ……ああっ……だめぇ……そんなに舐めちゃっ……」

テレーズは今ごろ激しく赤面していることだろう。
我が割れ目の内側を優しく舌で撫で上げると、
お尻がひくひくと動いている。
それにしても小ぶりで可愛らしいお尻だ。

「ん……んっ……いやっ……やあっ……くすぐったいっ……」
「我のお仕置きはどうだテレーズ。これで父には逆らわぬと誓うか?」
「それと……これとはっ、話が別ですぅ……んっ……吸っちゃダメえ!!」
「ほら。もっと舐めやすいように尻を突き出せすのだ」
「んんっ……恥ずかしい……パパのエッチぃ……」

何と可愛らしい姿なのか。
もはや娘でなく一人の女としてテレーズを意識してしまう。
そこではっとして、ここにはマリンもいたことを思い出す。

アナスタシアの娘のマリンは膝立ちになり、
自らの下着の中に手を入れ、せつなそうに吐息を吐いていた、
もう片方の手は。服越しに胸をなでている。

この子も我に触れてほしくてたまらなそうな顔だ。

「ほら。こっちへおいで」
「はい……」

マリンは自らパンツを脱いで我に顔を近づけた。
互いに舌を伸ばし、唾液をからませてから、たっぷりとキスをした。
マリンはキスを好むようだ。ねっとりとした、小さな唇の感触を
味わいながらも、我の手はマリンの割れ目をなぞる。

「あん……」

十分に濡れているな。拳を固く握り、股の下を行き来するように腕を前後させる。
腕の部分が股をこすりつけ、10秒もしない内にマリンの
太ももが小刻みに震え始める。急に内股気味になり。
立っているのが辛いと言う。

「あ……だめぇ……力が入らない……座りたい……」

「辛いなら我の肩に手を置くのだ。我の愛部はこの程度では終わらぬぞ?」

服をまくり上げ、露わになった乳首に吸い付くと

「あんーー!!」

体をビクンとのけぞらせる。その間も腕をこすりつけているので、
どんどんマリンは脱力して、ついには座り込んでしまう。

「どうした。我慢するように言ったぞ」
「でもぉ……気持ちよくて力が入らなくなっちゃうんだもん」
「では今度は舐めてあげよう。我の前にもう一度立つのだ」

足をぴったり閉じて立ち上がるので、足を左右に開くよう指示する。
マリンは赤面しながら従順に従い、我の顔の前に股を突き出した。

「あっ…」

マリンが動けぬよう、だらりと下げた両手をそれぞれ握りながら、
股の間に顔をつける。長く伸ばした舌で、とろりと垂れてくる液体を受けめる。
おしっこの匂いなのか、ずいぶんと塩の味がする。
それに生魚のような臭みが鼻を突く。可愛いマリンのだから
構わぬが、やはりテレーズとは味が違う。

下腹部に顔を埋めながらマリンの顔を見上げる。

「今度はどうだ。力が抜けて座り込むことはなかろう?」
「はい……でも、死ぬほど恥ずかしいですわ」

マリンは我と目を合わせられず、明後日の方を向く。
まだは恥毛も生えておらぬ綺麗な女性器だ。
テレーズと比べ陰唇(ラビウム)が若干赤みを帯びている。
マリンは幼少期より自慰をする習慣があったと聞くから、そのためであろう。

この子は不幸な家庭の事情により、親の愛情に飢えておるのだ。
我を求める思いは娘たちの中で最も強いだろう。

指を下から突き上げるように、二本も挿入する。

「あぅ!!」

がくんと、マリンの体が折れる。
我に覆いかぶさって来たので受け止めてやる。
「はぁはぁ……」と息をするので、
その間も指は休めずに股の外側を丁寧になぞる。

「ん……あん……お父様に触られると感じちゃう……」
「ほら見てみろ。我の手がこんなにびしょ濡れだ」

マリンは我の手の上に女の子座りをしている格好だ。
熱を帯びた吐息。ぼーっとした瞳ががまた愛らしくて、
人差し指と中指を膣の奥まで入れてしまう。

「あああっーー!!」

入れたままの状態で、少し膣の内側をなでる。
可愛い顔で我にしがみつき、ますます顔を赤くするマリン。
これはいい。大人の女とはまた違う魅力で、幼女には
幼女特有の美しさがある。マリンは初心である。

「痛くはないかい(*^▽^*)?」

「全然……。むしろ気持ちい…よ……」

「マリンちゃんのあそこは、きつくてパパの指を
 締め付けてるみたいだよ。しばらく指を入れたままにしておこうか?」

「うん……」

「じゃあもっと君奥まで入れてみるね。そーれ」

「あっ…あああああんっ!!」

「パパがそういてこんなにマリンちゃんのエッチなところを
 触るかわかる? マリンちゃんのことが大好きだからだよ」

「私もパパのこと大好きぃ……んああああっ。
 んんんんー!! そんなに動かしちゃダメええっ!!」

感じているためか、呼吸が苦しそうで、我が無理やりキスを
迫っても、苦しいと言って顔を左右に振る。
その姿がたまらなく愛おしい。

時間をかけてたっぷりと膣をいじってやると、
洪水のようにあふれてくる愛液が、
我の手から垂れて床までびしょびしょに濡らす。

マリンは我が何をしても抵抗せず言いなりだ。
あまりに手が濡れてしまったので一度手を拭こうかと
ティッシュを探すが、6畳間には気の利いた物はみつからぬ。

また指を舐めてみると、いっそう苦い味がした。
マリンは恥ずかしいのか顔を真っ赤にする。

すでに我のアソコは鋼鉄戦艦の装甲すら打ち砕くほど硬度を増した。
かつてこれほど臨戦態勢になったことがあるだろうか。
わずかな刺激を与えただけで28サンチりゅう弾砲(370キロ)が飛び出るだろう。

この子が大人ならば、今すぐ股を開かせて思い切り挿入する所だ。
我のあそこに冷たい感触がするので何かと思うと、
テレーズが子犬のように我の足の間でじゃれていた。

「パパのここ、太くておっきい」

テレーズの細い指が、珍しそうに我のモノをながめながらも
手で痛いくらいに握ってしまう。握ったり話したりを
繰り返し、先端を舐手のひらでぐりぐりとなでるようにした。

テレーズの手つきは、彼女の気品に満ちた顔立ちからは
創造も出来ぬほどいやらしく、我はついに我慢の限界を超え、
テレーズの手のひらに発射してしまう。

手で押さえきれなかった部分はテレーズの寝間着にかかる。
ヨーグルトをぶっかけた風である。

(;:゚Д゚)……。 我は今になって冷静さを取り戻し、
親子三人が下半身を丸だしにした状態でいることに危機感を抱く。
腕時計をみると時刻は1時間も経過していた。
まずい……まずいそ……。行為に夢中で他のことはすっかり忘れていた。

「おーい、テレーズたち。そこにおるんやろ?」

エリカの娘のマリンの声だ!! だめだ。入ってくるな!!

娘は扉を遠慮がちに開き、この惨状を見て「うっ」と
顔をしかめ、メモ書きを一枚置いて立ち去る。

メモには
『約束通りミカちゃんは酒をがんがん飲ませて寝させといた。
 当分の間は起きないと思うから安心せえや』

テレーズとマリンは、メモを見て「うふふ」「うふふ」と笑い合う。
話を訊くと、ミカが泥酔させ邪魔をしてこないように仕向けたらしい。
今回の仕掛け人はテレーズだ。
悪知恵の働く娘だとは思っていたが、今回ばかりは大目に見よう。
ミカがこの惨状を知ったらまた家出されるかもしれぬ。

より冷静に考えると。我らは人様の家で何をやっておるのだ?

テレーズは、汚れてしまった手のひらをやらしそうに舐めながら、

「パパは満足していただけましたか?」
「はっきり言って、この上ないほど気持ちよかった」
「そうですか。うふふ。それは良かったです」

風呂に入ろうと言うので。三人で入ることにする。
汚れた服は洗濯気に入れ、体中を綺麗に洗う。
一日で二度目の風呂である。

娘二人は女中のように我の体中を丁寧に洗ってくれるので
また妙な気持ちになってしまうが、先ほどイったばかりでは
さすがに理性が勝つ。

「パパ。夜は同じお布団で寝ましょうね?」
「うむ」

テレーズが妙にニヤニヤしているのが怖い。
性に目覚めてからこの子の言動は日に日に怪しさを増すのである。

エリカの娘のマリン「あいつら、イカれとるで」

~~太盛イフリートとエリカの娘、マリンが語る~~~

我ら家族が一番殺伐とする時間がある。
ミカちゃんが仕事から帰ってくる瞬間や。

ミカ「ダーリン、今帰ったわ!! (⋈◍>◡<◍)。✧♡
   一ヵ月ぶりのお仕事だったけど
   愛するあなたのために頑張ってきたのよぉん!!」

イフリート
「(;´∀`) おかえりなさい。ミカ。
  よしよし。久しぶりの仕事はさぞ疲れたことであろう。
  夕食はできておるからな、
  着替えを済ませたらさっそく共に食べようではないか」

ミカちゃんは残業してから残業してから帰るから、
だいたい7時過ぎになる。
あたしはアナスタシアの娘のマリンと一緒にリビングで
テレビを見ながら待ってる。アナスタシアの娘のマリンは
6時半までに夕飯の支度を終える。

ご飯は人数分炊けてるし、みそ汁も作ってある。
肉類中心のおかずなのでテレーズには不評なんやが、
太盛パパがひき肉や鶏肉を好むのを知ってからは肉ばかり作るようになった。
ハラール(ムスリムの食事制限)を守ってる辺りもさすがやな。

味は普通。少し味付けが薄めだけど、まさに家庭料理って感じ。
本人は料理が趣味でパパのために愛情を込めて作っているらしい。
マリンは学校通ってないから料理くらい、
いくらでも作れるとは思うけど、こいつの将来大丈夫か?

「あぁ…(::゜-゜)パパがまたあの女の服を脱がしてあげてるわ……」

「脱がしてるって言っても、パジャマに着替えさせてあげてるだけや。落ち着け」

ミカは小学校の教員なので少しきっちりとした私服で帰ってくる。
太盛パパも慣れたもので、ミカが帰宅するタイミングに合わせて
寝室からパジャマを一式持って来て、リビングで着替えさせてあげる。

「うふふダーリン(´・ω・) 私の下着を見て興奮したら
 いつでも押し倒していいのよ(^▽^)/?」

「(>_<) は、ははw そうしたいけど、
 子供たちの見てる前じゃ、ちょっと遠慮しちゃうよね」

そういう会話、ええかげんにせえや。耳障りやねん。
パパも優柔不断やな。もっとはっきり言えや。
もう一人のマリンやテレーズが怒るのも当然やわ。

「あー。殺してやりたい。殺してやりたいほどムカつくわぁ(-"-)」

マリンが切れてる。
いつものことやけど、この子はミカを殴ったりしたら
パパに怒られるのを知ってるら何もせん。

手を出すとしたら、たぶんこっちや。

テレーズ「(^_^メ)」

こいつはシャレにならん。ミカちゃんと過去数え切れんくらい
喧嘩を繰り返し、実際に学校で殴り合いまでしているらしい。
パパの言う通りミカに生活の全てを依存している以上、
我らは養われている身や。未だに再就職先が見つからんパパも
専業主夫みたいなもんやで。我慢しろや。

テレーズはミカが帰るまで自室の2階で勉強している。
ミカが帰る音がすると階段を下りてきて、
小姑の顔でこっそりとやり取りを見ては爪を噛んでる。

テレーズ(#^ω^)
うふふ……クスクス……あの女め……今だけ楽しんでおきなさい…

こいつの顔はあかん……。
平気で人を刺したりする人の顔や。
しかも上のセリフ、あとで何かやらかしそうな感じ全開や。
あたしはテレーズが怖くてあまり関わらんようにしている。

パパ争奪戦で結託したはずのアナスタシアの娘のマリンも
最近は少し引いているらしい。

「(*^▽^*) 今日もお帰りの(*´з`)ちゅーしましょ!!」
「Σ(゚Д゚)ぐ……あ、ああ。分かったよ!! (●´Д`)ε`○) ぶちゅ☆」

太盛パパって完全に家庭内ホストやぞ。
この前ミカちゃんが言ってたけど、パパに小遣いまで与えているらしい。
生活費を払うだけでなく小遣いまで……それじゃパパが逆らえんわけやな。
金の力はほんまに偉大や。

この小説が金の話をするのがメインだってこと、
ここ数話ですっかり忘れかけてるのは気のせいやろか?

「お、おほん!! さあさあ。みなさん。お座りになって!!
 お食事が冷めてしまいますわよ!!」

アナスタシアの娘のマリンが、皿を叩きつけるようにテーブルに置く。
イライラが押さえきれんのか、人数分の箸を投げつけるように並べていく。

「ダーリンは私の隣ね(。・ω・。)ノ♡」
「おっけー(*^▽^*)」

実はこの座席もテレーズたちは気に食わんらしい。
あたしは別にそこまでこだわりないけどな。
六人掛けのテーブルに、ミカとパパが隣通し。
あたしら子供組は対面側に座る。これだけなんやけど、
まあうざいシーンがここから始まるわけや。

「はい。お口あーんして (⋈◍>◡<◍)。✧♡」
「(;:゚Д゚) あーん (テレーズが睨んでいるのだが…)」

ミカはわざとやってるのは間違いない。
テレーズやマリンに見せつけることで
パパの所有権は自分にあることを主張している。

前話でテレーズとマリンが怪しいことをしていたから、
もう絶対にパパを離さん!! と言わんばかりの勢いや。

アナスタシアの娘のマリン (>_<)おのれ……
テレーズ (^ω^)ニコニコ

マリンはぎゅっと目を閉じて、口だけもぐもぐして耐えている。
気のせいか閉じた瞳から涙がこぼれてる…?

テレーズはなぜかニコニコしているけど
たぶん、とんでもないことを考えている。
こいつはマジ切れすると笑うからな。

こいつらの考えは私には理解できん。
パパとミカちゃんのイチャラブは確かにうざいが、殺したいほど
憎いとかそこまでは思わんわ。盛りのついた若い男女なんて、
どこもこんなもんやろ。ミカちゃんもパパが好きすぎて
前の旦那と離婚したんやから仕方ない。

アナスタシアの娘のマリンは、自分で作ったサラダに
フォークを何度も刺しては小声で恨み言を言ってる。
よほど悔しかったんやろな。
ミカちゃんも横目でその様子を見ながら勝ち誇ってるからタチが悪い。
パパは完全にミカの言いなりや。

パパって本当はミカの事どう思ってるのか気になる。

ミカは絶対にパパを離さん。夕食後は風呂や。風呂はパパと一緒。
歯磨きも一緒。夜寝るのも一緒。パパはミカが帰ってきた初日こそ
テレーズたちと寝たが、その翌日からはミカが独占した。

パパは娘達を愛しているから気を使っている。
風呂まではよしとしてベッドは断ろうとしたが、ミカは許さんかった。

『太盛さぁん(^_^) そんな寂しいこと言ったらダメですよ?
 太盛さんが私を拒絶するってことは離婚になりますけど…
 離婚したら太盛さんは小学生の娘さん三人を養っていけるんですか?
 令和10年では再就職先を探してる最中に自殺している人が、
 統計上7人に1もいるってご存知ですよね?』

『この前ハロワに行ったそうすね? で、どうでしたか?
 たぶんまともな職業ってほとんどなかったと思うんですけど。
 私みたいに月22万も稼げるお仕事ありましたか?』

ミカが家出している間、パパがハロワで見つけた仕事は
軍需工場、テレアポ、土木建築やった。

軍需工場は安倍政権が国産兵器の大量生産に乗り出したから
いくらでも仕事がある。軍事兵器を作る工場や。
労災で毎週死者が出る職場。重労働。
一日16時間。体力がない人には勤まらん。

テレアポは、総務省の犬となって老人相手にオレオレ詐欺を
する仕事や。電話で言うことを聞かん場合は自宅まで乗り込んで
老人を倒し、全ての資産を没収するのが仕事。
まともな精神じゃ勤まらん。
8時から15時までと時間は短いがな。

土木建築は、最寄りの市役所など各地域に防衛拠点を作るのが仕事や。
防衛拠点とは、行政に反対する市民の抵抗を抑えるためのものや。
自分が一市民なのに、同じ市民を銃殺するための施設を作るなんて
常人にはまず勤まらん。一日八時間の範囲で三交代。
こんなとこで勤めるなら死んだほうがましや。

上の仕事で時給が210円を超えることはない。ボーナスなし。昇給なし。
2か月の更新の派遣社員。正社員の仕事はひとつもない。

浦和市のハロワ、アホやろ。
これならスマホで求人広告でも見てる方がまだまともや。
パパが本当に勤めたいのは内勤のオフィスワークやったけど、
まともな求人は人が辞めないから残っておらん。

パパはこの日からハロワ恐怖症になる。
ハロワ二階で失業給付の列に並んでいた人たちは、
別室に連れていかれて全員銃殺刑になったらしいが……

パパは銃殺刑になった人たちのことがショックで
しばらくご飯が喉を通らなくてな、
アナスタシアの娘のマリンがそれはもう心配した。
マリンが気を効かせておかゆを作ってくれた時、パパは心からの
笑顔で「ありがとう」ゆうてマリンをゲキ惚れさせていた。罪作りな人や。

『太盛さんが娘さん達と過ちを犯したことは百歩譲って許してあげます。
 どうせ淫乱なあの子達の方から誘ったんでしょ?
 でも浮気には違いありませんよね。
 温厚な私でも実は激おこぷんぷん丸なんですよ?
 ですから……そ、の、代、わ、り(´ー`) 
 私をこれまで以上に満足させてくださいね?』

『……うむ。分かった。今後ミカ以外の者とは寝ないと約束する』

『あはははっ(^_^) そんなに怖がらなくて大丈夫ですよぉ。
 ダーリンが変な気を起こさなければ、ちゃんと養ってあげますから』

で、アナスタシアの娘のマリンなんやけど、認めたくないけど
パパの一番のお気に入りや。パパは毎日自宅待機やから、
マリンと一緒に家事をしたり庭に防御陣地を作ったりしてる。

マリンは、めったなことではパパの言うことに逆らわんし、
パパが怒って説教する時は泣いて謝ったりする。
パパは頭の勉強のできる子よりも素直な子を好む。

あの2人がいつも家におることは、
ミカちゃんからしたら心が落ち着かんと思うけど容認している。
実はアナスタシアの娘のマリンは、ミカちゃんのお気に入りでもある。
マリンは料理熱心で日用品の買い出し、ゴミ出しも進んで行う。

家事全般をあの子が担ってくれているから、
ミカちゃんは大助かり。
働く女にとって一番めんどくさいのが「家事」らしいで。
たまに小遣いまで上げてるのが良い証拠や。
テレーズの命令で買い出しに行っている缶ビールもポイント高い。
(ミカを泥酔させるために買っているが、ミカは適量しか飲まない)

おもろいのが、ミカちゃんはパパには家事を一切求めないことや。
かといってお金を稼げとも言わない。あくまで『自分に養われている』
状態を維持することに全力を注いでいる。

ミカちゃんにとってパパは家庭で会えるアイドルであり、
家でいる時にずっと自分のそばにいて、おはようから
おやすみなさいまで言ってくれたらそれで満足。

日中も決まった時間に必ずメールを寄こすから、
パパも頑張って返している。
昼休みは電話で仕事の愚痴を言ってくることもある。
パパは心底ウザいと思いながら無表情でメールの文字を考える。
そんなのをまったく表に出さない辺り、訓練されたホストや。

ミカちゃんはいつもニコニコしているけど、たまに切れることがある。
理由はささいな事。例えば、パパが「おかえり」を言わなかった時や。
ミカがたまたま定時で帰って来た時、パパはテレーズの部屋で
漫画を読んでくつろいでいた。

それをミカが見た時、いきなりカバンをパパにぶん投げてヒスった。
いわく、私が帰って来たのにテレーズの部屋にいるのがムカついた。
愛を感じなかった。とのことで、パパが謝って抱きしめても
ギャーギャーいつまでも騒いでた。あれが大人の姿とは思えん。

ミカが言うには仕事の疲れを癒してくれるのはパパだけであり、
笑顔で「おかえり」をいうのはもはや儀式に等しいらしい。

そんなもんなのか…?
世間の女たちは旦那の顔なんてみたくもないってやつが
ぎょうさんおると思うけどな。
ミカちゃんも夢中なのは今だけで一年もしたらパパに飽きるんやろか。

テレーズは勉強を頑張り過ぎてテストの成績がクラスで一番になった。
全国模試でも日本一を目指して、いずれはパパを養うくらいの
収入を得たいと思っているらしい。今のミカちゃんの地位を奪うつもりか。

当然ミカちゃんからめっちゃ嫌われていて、英語のテストの内容を
全部ドイツ語に変えられるなど嫌がらせは今も続いている。
国語の問題文までドイツ語で書かれる始末。
ミカちゃんはどんだけドイツ語が好きなんや。

「うふふ(´∀`*) 今日はフィギュアケートのNHK杯をやってるわ」
「( ゚Д゚)ほんとうだ。日本人選手の登場はCMのあとだね」

「あはは(*´ω`) あなたったら何言ってるのよ。NHKにCMはないでしょ?」
「そうだったね!!(;´∀`) あはは…ほんと俺何言ってんだろ」

「テレビ見てないで考え事してたんでしょ?」
「見てるよ!! ちゃんと見てるよ!!」

二人はソファの上で寄り添って(完全に密着)テレビ鑑賞。
いつもの光景や。パパは皿洗いを手伝いたいが、ミカが許可してくれんので
アナスタシアの娘のマリンにやらせている。
そんなマリンのことで優しいパパは心を痛めている。

「太盛さん(*´ω`*) 今日はいつもより仕事が疲れたの。ひざまくらしてー」
「いいよ(*^▽^*) さあおいで」
「このまま頭なでてー(≧∇≦)」
「よしよし ヾ(・ω・`)」
「(≧∇≦)きゃー」

テレーズは二階にこもり勉強。ミカの顔を見たくないんやろな。
あたしも目の前のイチャラブが目の毒なんで
そろそろ自分の部屋に行こうかと思ったが…。

「ねえ太盛さん?」
「なんだい?」
「昨夜お願いしたこと、覚えてます?」
「うーんと……ああ、あのことか!!」

「そうそう。あのことです。子供達には内緒にしてくださいね
 特にアナスタシアの娘のマリンとは毎日家にいるんですから」

なんか小声で話していてよく聞こえん。
アナスタシアの娘のマリンが、洗っている皿を派手に落としてしまう。
あいつには聞こえたんかな?

「お父様。今のお話は本当なのですか?」

「マリン……(;^ω^) まさか聞こえちゃったかな?」

「私は家の事情でスパイの訓練を受けておりましたから耳がいいのです。
 お、お父様は…み、ミカが妊娠したら…
 結婚の約束をされるおつもりなのですか?」

そんな内容だったんか!!
ミカが妊娠したらって……時間の問題やん!!
パパはすでに子だくさんなのに、これ以上子供を作るつもりかい!!
何人子供を作ったら気が済むんや。これが本当の少子化対策…ってやかましいわ!!

これ大問題やぞ!! ミカの子供ってことは、
あたしらの扱い(連れ子)がもっと雑になるのは間違いない。
ガチでパパと結婚したいと望むテレーズが聞いたらマジギレする。
あいつ素行が悪いから捨てられるかもしれんぞ。

「うわーん( ;∀;) そうなったら
 パパは私たちの事を捨てて出て行ってしまうのですわー」

「マリン……(;´・ω・) パパはそんなことしないよ」

パパはマリンの元へ行き、抱きしめる。ミカの顔色をうかがないながら。
ミカもなかなか沸点の低い女で、特にパパが子供たちをかわいがることを嫌悪する。
自分の生んだ子やない上に、マリンはパパと体の関係まで持ってるから当然か。
なんで実の娘が当たり前のように父と性的な関係になっとんねん。
どいつもこいつも貞操観念が薄すぎてついていけんわ。

「お父様!! お父様ぁー!! 私はお父様と離れ離れに
 なるのは嫌ですわ!! また会えなくなるのは嫌ですわ!!」

「大丈夫だって。パパはマリンのこと大好きだって前にも言ったろ?
 ほらハンカチで涙をふいてあげるから、落ち着きなさい」

パパの腕の中でひとしきり泣いた後は静かになった。
涙目で鼻水をすすっているマリン。
こいつの潤んだ瞳が、パパにとってはグッとくるらしい。

パパの大きな手でマリンの後頭部を何度も撫でてやる。
そしてマリンのふくよかな黒髪を、手櫛で撫でていく。
慈愛に満ちた瞳や。なんか(*´Д`)ハァハァ言ってるのが気になるけど、
本当に子供想いのパパやと思う。
平気で子供を虐待する(ニュースで毎月報道される)奴らとは大違いやわ。

「お父様。ちゅーして(*'▽')」
「はいはい。これでいい?」

(*´з`)ん…… 
(*´з`)ちゅ

「どう? これで元気になった?」
「うん!! 元気になりました!!」

親子で口にキスするか普通……。
あたしは頭撫でてもらうことはあるけど、
あそこまでは求めんわ……。さすがに体が拒否する。

ガシャーンと、コップの砕ける音がした。
あかんで。ミカちゃんや……

額に青筋を立て、ニコニコしながら親子に近寄ってくる。

「あっ(;´∀`)……ミカ。これは違う。マリンが泣いてるから
 かわいそうだなって思ったんだ。だから仕方なくて…」

「ねえねえ太盛さん。太盛さんって私が学校に行ってる間は
 マリンちゃんといつもキスしてあげてるんですか?」

「う……(>_<)」

「してるんですかって聞いてるんですよ!!」

「それは、その……。たまにしてる……かな」

たまにじゃなく、いつもしてるパターンやな。
父娘通り越して恋人の関係になってんぞ。
ほんとにこいつら血がつながってるのか疑わしくなるレベルや。

ミカは普段の甘えた感じの話し方じゃなくて
威圧感の有る態度でマリンに話しかけた。

「マリンちゃーん?」

「はい…」

「この前の約束忘れてないわよね? 私のダーリンと
 日中は一緒にいてもいいけど、変なことはしないって。
 なんでさっきキスしたのかなー?」

「だって。だってぇ……( ;∀;)」

「だってじゃ分からないわよ。グズな子ね。
 ちゃんと日本語を話しなさいよ。ほらほら」

パシン、パシンと、平手が飛ぶ。
マリンは抵抗せず、めそめそと泣いている。

本当ならマリーダの魔法を使えばミカちゃんなんて三秒で
消せるんやけどな。生活のためにミカには絶対手を出すなと
パパにきつく言われてるんや。あの時はパパもすごい剣幕だったらしい。

「私だってお父様と仲良くテレビを見たりしたいですわ」
「はっ? 我慢しな。あなたは家事を頑張ってくれるから、
 特別に日中だけは許可してあげてるでしょうが」

「夜はずっとミカが独占してるじゃないですか。朝起きるまでずっとですよ」
「私と彼はこれから結婚するんだから文句言われる筋合いありまっせーん」

「結婚……(>_<)ズキン」
「不満そうな顔ね? 私と彼が結婚するのはそんなに嫌?」
「……いいえ」
「ふーん。そんなに嫌なんだ」

「嫌とは一言も」
「顔に書いてあるわよ。私はこれでも学校教員ですからね」

「私も……」
「なに?」
「私もお父様と夜一緒に寝たい。添い寝してほしいですわ」
「へー。添い寝してほしいんだ?」
「はい……」

また平手が飛んだ。
パシンパシンと音がするたび、右へ左へとマリンの顔が揺れる。

「ませたこと言うんじゃないわよ。子供のくせに。
 何がお父様と一緒に寝たいよ。あんたの場合は言葉通りの意味なんでしょ。
 このあばずれ。あんたがうちの学校の生徒だったら即退学にしてやるわよ!!」

「自分が年不相応なことを望んでいることは承知しておりますわ。
 でも夜一人で寝るのがさみしくて、毎日枕を涙で濡らしておりますの。
 あの方は私にとって世界で一人だけのお父様。
 1週間に一度でいいからお父様を貸してはいただけませんわ」

「はい、だめー!! そんなの絶対に認められませーん!!」

「それでもお願いします。一日だけでいいですから…」

「だめって言ったんだよ!! 聞き分けの悪いガキ!!
 ませガキ!! この間(前話)のことは不問にしてあげたんだから
 それだけでもありがたいと思え!!」

また往復ビンタが飛ぶ。大人の力で全力でやっとるから
見た目以上に痛いやろうな。マリンは床につっぷして大泣きした。

ミカはそんなマリンがまだ腹立たしいのか、
蹴りを食らわせようとして太盛パパの前だからか、ぎりぎりでとどまった。

「んもうダーリンったら、いけない人なんだから(゜-゜) 
 普段からあなたの子供のしつけがなってないから、
 私が代わりに叱ってあげたのよ? (⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「くっ……(;^ω^)」

「太盛さんも普段からマリンちゃんがわがままを言ったら
 きちんと叱ってあげてくださいね?」

「(;^ω^)も、もちろんだよ……はは……」

パパが必死で怒りを堪えてるわ。
自分の目の前で愛娘が虐待されてたんや。
ほんとはミカを殴りたいくらいにはムカついてるやろな。

「ダーリンのお口、汚れちゃったんじゃないの?
 水道で口ゆすいできたら?」

パパは言われるがままに、洗面所で三度、口をうがいした。

「今度は私とキスしましょう(^○^)」
「うん……(;^ω^)」

うわぁ……見るに堪えない光景や。
うちらの見てる前でディープキスかい。
そーゆーのは夫婦のベッドでやれや。

ミカはパパの手を取って自分の胸を触らせている。
パジャマ越しだとブラをしてても柔らかい感触なんやろな。
パパの反応を見るために、ミカの手がパパのズボンの
膨らんだ部分をなでなでしてる。やらしい手つきや……。

「イフリートさん? 私がいいと言うまでキスを止めちゃだめですよぉ?」
「(*´Д`)ハァハァ……うん……」

(●´Д`)ε`○)ハァハァ

「子供たちの見てる前でココ、こんなに大きくなってますよ?」
「だ、ダメだよミカちゃん。こんな場所でするのは…」
「でも、どんどん硬くなってますよ。続きはお風呂場でしましょうか?」
「そうだね……(;゚∀゚)=3 ハァハァ」

なんか、自分の父が他所の女に奪われるのを見せらえると複雑な気分や。
しかも人の破廉恥なシーンを見てるとこっちまでムラムラするのはなんでやろ。
あたしも早く彼氏とか作ったほうがええのかな。
でも11歳じゃまだ早いと思うわ。

パパ達は本当に風呂場に直行した。
たぶん長湯になるんやろな。
正直あの2人が使った後の湯船につかりたくない。

残されたアナスタシアの娘のマリンは
腫れぼったい目で風呂場の方をにらんでいた。

「くやしい……あぁ……くやしい(# ゚Д゚) あの女、何度も地面に叩きつけて、
 町中を引きづりまわして、ぼろ雑巾のようにして殺してやりたい」

「あのな(;´・ω・)マリン。ある意味ミカの言うことも一理あるで。
 自分らは世間一般の少女とだいぶズレとるぞ。
 ふつう、その年になっても父と一緒に寝たいとか思うか?
 学校の女子の多くは父を気持ち悪がって一緒に風呂とか入らんやろ」

「学校の女がどうとか、世間一般とか、私にはまったく関係ない!! 
 私はね、父が好きなんてレベルじゃなくて、もう愛してるのよ!!
 私と彼の関係に口出しないでよ!! すっごい不愉快!! ムカつく!!」

「まあ落ち着けや。別にあんたが悪いと言いいたいわけやない。
 ただミカちゃんとパパは結婚するみたいやから、これが神様に
 与えられた機会だと思って父親離れするのも悪ないかもしれんっちゅう話や」

「何言ってるのよ!!
 パパがあの豚と結婚するなんて、そんなの認めない!!
 絶対認めない!! ぜったい邪魔してやる!!」

「認める認めないも、大人同士の話やからな。うちらガキやん。小学生やん」

「そういう問題ではなくてよ!! あなたは悔しくないの!?
 お父様が、あんなちょっと収入があるだけの尻軽女に奪われているのよ!!」

「世の中、結局は金や。この小説の第一シーズンから読み直してみろや。
 令和10年で年収400万クラスの人間はまずおらん。
 金無くしてどうやって生きていけるんや。
 今あたしらが学校通えてるのもミカちゃんのおかげなんやで。
 ミカと同居するのはパパが決めたことやし、あたしも賛成やな」

階段を下りる音が聞こえて来た。テレーズや。
めっちゃ機嫌の悪そうな顔しとるわ。

「あなた達があまりにも騒々しくて勉強に集中できなかったのだけど?」
「あ、それは悪かったなぁ。パパのことでもめとったんや」
「テレーズ。聞いて。この子はミカの味方をしているのよ」
「もちろん知っています。あなた達の会話なら二階まで丸聞こえですから」

テレーズは、あたしの肩をつかみ、骨が折れるかと思うほど
力を込めてくる。うががが……やめろや!! ほんまに折れるぅ!!

「わたくしたち異母姉妹は、親元を出てから今日まで生活を共にする以上、
 もはや一蓮托生、我々の意志も一糸乱れることは許されません」

「あぎゃがyがふgsっれ… 
 つまりあたしもパパ大好きクラブに入れってことかいな!!」

「パパ大好きクラブという言い方が好きではないけど、
 つまりそういうことよ」

腹に強い圧迫感を感じ、足が宙に浮く。
何かと思うと、テレーズの拳があたしの腹に突き刺さっていた。
漫画のように、あたしの胴体を貫くように、腹パンをされたのだ。

テレーズの握った拳が私の腹から戻された時、
胃の中の者が逆流し、手で押さえた口元から
ビチャビチャと音を立て零れ落ちた。

また……腹パンされた(>_<)

実は初めてやない。昨夜も腹パンされて悶絶し、
ミカにビールをがぶ飲みさせて寝させたんや。
もちろんテレーズの命令でな。そしたらこいつら、
6畳間でパパと肌で抱き合ってたから吐きそうになったわ。

まさかこいつらも妊娠するんちゃやろな?
小学生って妊娠できるんか?
早い子では小5くらいで生理が来るらしいが。

いくら子だくさんゆうても、実の子まで
妊娠させることがあったとしたら、うちのパパは
どんだけ一人で少子化対策に貢献しとんねん。
自民党の各省庁から表彰されてもおかしないわ。

「しかも無収入なのに子供ばかりたくさんおるって
 おかしいやんか。なぜか妻もたくさんおるし。
 あたしもパパのルックスは最高やと思うけど、
 収入がないところは正直男らしくないと思うわ」

マ(# ゚Д゚) なんですって……?
テ(#^ω^) 何やら、聞き捨てならないことをおっしゃいましたね。

あかん!!!!
つい考えていることが口に出てしまった!!

マ「テレーズさーん。またしてもマリンがパパの悪口を言いましたあ」
テ「はーい。制裁決定でございまーす」

アナスタシアの娘のマリンが、あたしを後ろから羽交い絞めにする。
ここからテレーズが腹パンを繰り出す流れやな。
その前に自分のゲロの掃除をさせろや。
自分のゲロとはいえ、床からものすごい異臭を放っとるぞ。

ええい。こうなったらヤケや。
どうせ腹パンされるなら好きなだけ思いのたけをぶつけたるわ!!

あたし「てめーら弱い者いじめして楽しいか!! あんたらはパパに
    相手にされないストレスをあたしにぶつけてるだけなんや!!」
 
テ「一理あるかもしれないわ。しかしながら、今何よりも
  不愉快に感じたことは、あなたがパパを男らしくないと言ったことです」

マ「そうよそうよっ!! 
  お父様は今たまたま運がなくて収入がないだけ!!
  彼は悪くないのよ!! 国と自治体が国民にいじわるしてるんですもの!!
  お父様は少し前までウエルシアで一生懸命働いていたじゃない!!」

あたし「頑張って職を探した結果が、ウエルシアの品出ししかなかったんやろが。
    あんなクソブラックな仕事、誰がやるんや。パパは恋愛も子作りも
    今までテキトーにやってきたからな。その結果がこれや。
    結婚後はミウに足利市内に監禁されてまともに働いた経験もないんや。
    今さらまともな会社に勤めるのは無理ちゅうことや」

テ「このガキ……言わせておけば…」

あたし「あんたもガキやろ!! あたしとマリンは11歳。
    あんたは1歳年下やから10歳やで!! なめんなや!!」

あたしとマリンは、パパが17の時に生まれた。
テレーズのおかんは、パパの1歳年下の後輩。
パパが18の時にこいつが生まれたから、あたしらの1歳下。
なのにあたしはテレーズと同じ学年、同じクラスで勉強してる。
小説の設定がいい加減すぎて毎回吹くわ。

マ「話をそらさないで!!」

あたし「そらしとらんわ!! おまえら、あたしと年が変わらんくせに
    いつも威張り散らして、ほんまに腹立つわ!!
    パパ、パパって……うるさいんじゃぁあ!! どこがそんなに好きなん!!
    おまえら二人そろって病的なファザコンで笑えてくるわ!!」

マ「ファザコンって言い方やめてよ!! バカにされているみたいだわ!!」
あたし「ドあほが!! こちとら、バカにするつもりで言っとるんやで!!」

テ「ファザコンなことは事実ですからあえて否定しませぬ」
あたし「自覚あったんかい。やったら早く父親離れして自立しろボケが!!」
テ「私は将来経済的に父を支援するつもりですから、日々勉学に励んでおります」

あたし「はっ……パパと結婚するってあれか?
    アホな定型句をほざくのは幼稚園の頃に卒業しとけ!! 
    そもそも日本の法律では実の親子での結婚はできんからな!! 
    それにテレーズが成人する頃にはもっと日本がおかしなっとるわ!!
    今でも財政破綻して外人奴隷がわんさかおるんやで!!」

テ「だからこそ、わたくしは一生懸命勉強しているのですよ。
  日本は衰退してもまだまだ先進国。
  探せばまともな仕事は見つかることでしょう」

マ「それよりマリンがパパの悪口をたくさん言ってムカつく!!
  パパの事全然分かってないくせに偉そうに!!
  関西弁もムカつく!!」

あたし「やかましいわ。あたしはこれが素の話し方やぞ。
    口調ゆうたらテレーズはなんなん? 
    こいつは学校でも芝居みたいな口調で通してるぞ。
    食事の仕方もお嬢様ぶっててたまに鼻に触るわ!!」

マ「あんたの方が鼻に触るわよ!! 
  なんでそう私たちに突っかかってくるのよ!!
  ムカつく!! まじムカつく!!」

あたし「おまえらがあたしに腹パンしてくるからやろが!!
     なに自分が悪くないみたいな言い方してんねや!!」

マリン「もう出ていけ!!」
あたし「はぁ?」
マリン「パパのこと悪く言うなら出ていけ!!」
あたし「意味わからんわ。おまえが出てけ!!」

マリン「死ね!!」
あたし「おまえが死ね!! 学校もいかんでサボっとるくせに!!」
マリン「あたしは家事をやってるわ!! あんたと違って料理も出来る!!」
あたし「何が料理や。誰もおまえに料理なんて頼んどらんわ!!」
マリン「パパは喜んでくれてるわよ!! いつもありがとうって頭撫でてくれて」
あたし「そうか。それはよかったな!! キチガイ・ファザコン娘!!」

マリン「もうあんたに一切料理作ってあげないから!!」
あたし「好きにしろボケが!!」

あたしらはヒートアップして手が付けられん状態になった。
だけどテレーズだけは冷静ですました顔をしてる。

テ「……二人とも冷静になりなさい。今回の件ではわたくしと
   マリンに一定の非があることを認めましょう。
   わたくし達は考えや思想が異なろうと異母姉妹であることに
   変わりはなく、喧嘩ばかりしてはパパを困らせてしまいます」 

急にしおらしくなって気持ち悪いなと思ったら……
パパがおるやん…( ゚Д゚) テレーズの後ろにな。
あたしらがアホやってる間に風呂から上がったんか。

パパ「実は一部始終を隠れて聞いておった。
   いや、すまぬな。我が無収入なせいで子供たちに迷惑をかけておる。
   お前たちには生まれた時から気苦労ばかりかけてしまい、
   心から申し訳ないと思う」

マ「そんなことありませんわ!! 私はお金の事より
  お父様が一緒にいて笑ってくれれば、それでいいの!!
  お父様より優しくてかっこよくて素敵な人なんて
  この世にいないのだから!!」

(∩´∀`)∩ 「パパーっ」 タタタッ  
( `ー´)ノ  「うむ…」 ダキッ

テ「こらマリン。あまりパパに密着するとミカが…」
パパ「ミカなら疲れて二階で寝ておる。心配無用だ」

疲れてって……風呂場でどんな濃厚なプレイをしたんや。
大人の女が本気で感じるのって相当手間がかかるやろ。
想像したらまた吐きそうになるわ。

パパ「我はエリカの娘のマリンの言う通り甲斐性のない男だ。
   三人のことは目の中に入れても痛くないと思うほどに愛しておる。
   嘘ではない。だがな、生きていくにはどうしても金が、
   収入が必要なのだ。どうか分かってほしい」

テ「パパ……(>_<)」

お父さんが泣いているところを始めて見たわ……。
なんか申し訳なくなってくる。パパだってミカちゃんと
好きで一緒にいるわけやない。我慢に我慢を重ねて今の生活が
あるのかもしれん。それなのにあたしは、パパの事甲斐性なしって
暴言は吐きまくってたんやな。

マ「私はパパのこと大好きです!!」
パパ「(;´・ω・) マリン……。こんな情けない男でも好きなのかい?」
マ「パパ大好き!! 愛してる!!」

パパは力があるので、マリンを幼児のように抱き上げてしまう。
マリンは足を広げてパパの体にしがみついてる……キモッ(;^ω^)

(●´Д`)ε`○) ちゅっ……。

なに普通にキスしとんねん。
この小説、全体的にキスシーン多すぎやろ。
ラノベっていうより、ただのエロ小説になっとるわ。

テ「パパ……わたくしも日の出てる時間からずっと我慢してきたのです」

と言ってテレーズも普通にキスを迫る。パパはマリンを降ろしてから、
テレーズの肩を掴んで濃厚なキスをした。舌までからめとる……。
しかもテレーズのお尻を揉みながら……パパ、エロすぎ……。

(^ε^)- パパ、もっとぉ
(*´ε`*) ペロペロ。はぁはぁ。

むしろパパの方が夢中になってるのは気のせいか?
テレーズも火が付いたみたいで自分から上着を脱ぎ始めてる。

ほんまもんの近親相関を見せられるこっちの身にもなれや。
あたしは見てられなくなったので、二階の自分の部屋で寝ることにした。
アホ共、一生やってろ。

聖なる少女・テレーズは今後について真剣に考えた

――聖なる少女・テレーズは以下のように語った。

エリカの娘のマリンが言っておりました。
パパに向いている仕事あるとしたら保栖(ホスト)であると。

確かにと思いました。パパは女人を誘惑することに関して
日本中を探しても右に出る者がいないと、学生時代に自称されていたようです。
結婚して子供がいる現在でもそれは変わらないことでしょう。

私もアナスタシアの娘のマリンも、仮に十分な収入を
得られたとしてもパパがホストになることなど断じて容認できませぬが。
パパはわたくしたちだけのパパ。顔も見たことなき赤の他人共に
奪われていい存在ではありません。

赤の他人と言えば、ミカです。
わたくしのみかに対する恨みはもはや形容しきれぬほどに膨れ上がりました。
生活費の問題さえクリアできれば、直ちに頭を鈍器で二つに割ってしまいたいと
思うほどでございます。端的に申し上げると「死ね」これに付きます。

『イフリートさんの脱いだ服から女っぽい匂いがする!!』
『え……気のせいじゃないか!?Σ(゚Д゚)』
『これは、娘の匂いでしょ!! また娘と抱き合ったりしたの!!』
『抱き合うって誤解だよ。ただのスキンシップ…』

ドカ ドカ バコ バコ

隣の部屋から響く音です。夜11時というのに実に騒々しい。
わたくしの隣の部屋が夫婦の寝室ですから、
二人の会話は丸聞こえ。夜も同様。ゆえにミカへの恨みが募るばかり。

わたくしは馬鹿ではありません。
パパに合うお仕事はないかと、ネットを中心に求人を見ているのです。
何か変わりばえのするネタはないかと、高倉ナツキ様と
電子文通(LINE)で連絡を取っておりました。

資本主義国家に対するスパイ活動ならば、時給1000円を
超える仕事があるとのこと。しかも正職員にて長期の雇用が約束されます。

ただし雇用条件が共産主義者であること。
栃木県足利市内に在住することなど、
易々と受け入れられる条件ではありません。

コンコン ← ドアをノックする音でございます

「のうテレーズよ」
「パパ?(; ・`д・´)」
「入ってもよいか? 折り入って話したいことがあるのだ」
「もちろんですわ(´▽`*)」

パパが私の部屋に入ってきてくれるなんて感動ですわ!!
たまにミカが疲れて寝てしまった時などは、
わたくしの相手をしてくれることもありますが。
ミカの圧政下ではパパとの接触はことごとく禁じられておりました。

「ふぅ…」

肩を落として溜息を吐かれている…。
やつれたご様子のパパもまた、一段と美しさを増しております。
その横顔は、満月を二つに割ったかのごとく、物思いにふける時などは
この世のお方とは思えぬほど、美貌が際立つのです。

(^ε^)-☆Chu!!

わたくしはパパに駆け寄り、頬に口づけをしました。

「(。・ω・。)ノ♡ 今夜はどうされたのですか?
 御悩み事があるのならば、
 夜を徹してでもお聞きする所存でございますわ」

私はパパの手を取り、ベッドへと連れて行きました。
布団をかぶり、また以前のように腕枕をしていただきます。
筋骨たくましい腕(≧∇≦) ごつごつした感触がなんとも男らしい。
わたくしにとっては最高のまくらです。それにパパの顔がこんなにも近くに!!

「な、悩み事を打ち明けようと思ったのだが、
 テレーズのかわいい顔を見ていたら我慢できなくなってしまった」

「あんっ」

今日のパパはずいぶんと乱暴でした。
わたくしの上着をまくり上げ、乳首をゆびで小刻みにつまみながら、
苦しいくらいに長いキスをしてきます。息継ぎの時間を与えてくれないため
苦しくて、キスの味を堪能する暇がありませんでした。

「かわいいぞ。テレーズ」
「あっ……いやっ……だめっ……ああっ……ああっ……」

パパは乳首を重点的に責めてきます。
しこりのある乳首を、舌でもてあそぶようにペロペロと舐めてくるのです。
舌の先端の感触がいやらしくて。わたくしの体は小刻みに震えながら、
全身に力が入らなくなってしまいます。パパが満足するまで、
ずっと震えておりました。きっとパンツの中はびしょ濡れになっていたと思います。

「すまぬ。そろそろ冷静になった」
「えっ(;゚Д゚) もう終わりなのですか?」

「今日は真面目な話をしに来たのだ。
 話が終わってから続きをすることにしよう」

残念ですけど、パパのお悩みの内容も気になります。
わたしは自分のアソコをティッシュで拭いてから、
最初の腕枕をされた状態に戻りました。
パパと難しいお話をする時は、枕元で顔を向かい合わせてするのです。

「ミカと先ほど喧嘩してな。
 もう私の部屋から出ていけと言われたので、出てきたのだよ」

「はぁ……。いつもの痴話げんかでしょうか」

「傍から見ればそうだな。しかしあれもなかなか嫉妬深くて
 わがままな女だな。お金を稼いでくれるとはいえ。我はどれだけ
 多くの我慢を積み重ねて来たか。しょせん金だけでつながった関係など
 長く持つことはない。我らの関係は恋愛の果てではなく、政略結婚に近い」

お父様とミカの喧嘩は、今日は普段よりも険悪になってしまったそうです。
事の成り行きを詳細に説明しますと、冗長になることを承知の上でお話いたします。

太陽が昇っている間、アナスタシアの娘のマリンがそれはもう甘えてきて、
わたくしたちが朝玄関を出た瞬間から、家事のことさえ忘れてお父様に
しがみついて、しばらくそのまま離れないと言った有様なのです。

パパもマリンを心から愛おしく思っており、マリンが満足するまでは
家事などせず、夢中で二人で抱き合ったりおしゃべりをしたりと、
新婚夫婦の如く過ごされているようです。
マリンとは同盟を結んだとはいえ、大いに嫉妬してしまいます。

パパの体にはマリンの匂いが染みついてしまった。
それは服を買えても同じこと。またパパは成人した女性よりも
幼い人をお好きになってしまう方ですから、マリンに求められたら昼間とて
関係なく、すっかり夢中でマリンの体を味わってしまうのです。

マリンのパパに対する愛情が行き届いた結果でしょうか。
運命の歯車が狂い始める。パパはミカとの夜を重ねるうちに
お体の変化にお気づきになる。たたないのです。
ミカの胸でも触れば、すぐさまイキり立つはずのアソコは、
いかにも弱々しそうにしなびているだけで、子作りにはとても耐えません。

パパはすでにミカを異性として意識されていなかったのです。
ミカの髪の匂い。ミカの胸。ミカのお尻。ミカの言葉遣い。ミカの声。
もう何も感じることはなく。ベッドの上にいるのはただの肉の塊。

パパがかつて初めての妻、高野ミウに対して思われたことの
再現となり、パパ自ら運命の恐ろしさに戦慄するに至ります。

そして何よりも、ミカに子供を授けることを要求されておりましたが、
それはパパいわく、アッラーの望んだことではなく、真に父が望むことは、
愛する娘たちの事を最優先に考えることだったのでございます。

もしアッラーが望むならば、ミカとの間に子供を授かることになるが、
ミカが連れ後であるわたくしたちを捨てる魂胆はすでに明白。
されども金の問題は解決せず将来の見通し立たず。
そこで金を切り捨ててでも娘達を取るご英断をなさった!!

「ミカの子供だけは容認できぬ。熟慮の末だ。我はすでに十分な
 子宝に恵まれておる。テレーズのことも愛しておる。
 ミカとの結婚など、考えるまでもなく愚かなことだ」

パパの手が、私の股の下に伸びて、やらしい手つきでもんできます。
パジャマのズボン越しでもパパの手の感触をはっきりと感じてしまいます。
だめですわ……。まだお話の最中でございます。

「ミカにその旨をお伝えしたのですか?」

「いや、まだだ。これから伝えようと思っている。
 その前にテレーズには相談しようと思ってな」

「まあ。わたくしにだけに?」

「そうだ。テレーズは賢い。そして誰より我のことを考えていてくれる。
 だから我はテレーズのことを、我妻のように信頼している」

「あっ、パパぁっ……んんっ……そんなに触っちゃ……いやっ……」

パンツの中に手を入れられ、下腹部をお好きなようにまさぐられます。
まるでわたくしの割れ目を探し出すように、いそいそと指を動かされて、
入る部分を見つけたら、人差し指で出入り口だけをいじらしく行き来します。

「このように、我はテレーズのことが恋しい。愛おしい。
 どうだテレーズ、たとえ貧困にあえぐことになろうとも、
 我と共に過ごしてはくれぬか」 

「はい……わたくしはっ…あっ……はじめからっ……そのつもりでっ……んっ……」

「うれしいぞテレーズ。お主が我の娘でなく妻だったらと
 願うこともある。改めて言おう。テレーズのことが好きだ」

「はい!! わたくしもおぉっ……んんんんあああぅ……そんあっ…おくまでっ!!」

パパの指が、わたくしの奥まで着くようになりました。そのたびに
びくん、びくんと体が波打ちます。今までのどんな刺激よりも感じてしまいます。
体中に電気が走るかのごとく。この刺激に抗うことがで行きません。

それにパパが愛の告白をされた。あれはマリン達よりもわたくしのことを
優先してくれた証拠と取ることができます。パパの本命はわたくしであったと、
いよいよミカの呪縛から解放される時が来たのだと、そう思っているのです。

「あああんっ……いやあぁあっ……いやぁぁあっ……感じちゃうぅ……」

「かわいいぞテレーズ。いつもより感じておるな?」

私のアソコから長れる粘液が、パパのお手をどんどん汚しているのが分かり、
ますます赤面してしまいます。太ももにまで液が流れております。

「さあ、お前の体をすべて見せておくれ」

まだイッていないのに、わたくしはパパの前で直立するように言われました。
大好きなパパの言うことですので従います。
パパが私のズボンを脱がし、パンツも脱がす。一糸まとわぬ姿の
わたくしを、パパはなんとも満足そうな顔で眺めております。

「お前の体はとてもきれいだ。色白で輝かんばかりの美しさ。
 手足が細く、華奢なところが女らしい。
 この体を永遠と眺めていたくなるほどであるぞ」

パパは私と口づけをした後。首筋から片口へ。おへそから太ももへと、
体中を舐めつくしていきます。心からわたくしの体を堪能したいのでしょう。
体のいたるところがパパの生暖かい唾液で濡れていきます。

その間も、お指は膣の中にずっと入れたままなのです。
パパが気まぐれに指の関節をわずかに動かそうものなら。

「あああぁっ……」

内股になり、体重を支えきれなくなります。
膣の裏側の、一番感じる部分をぐりぐりと刺激してくるのです。
おへその辺りを舐められるのもくすぐったくて、声が止まりません。

「はぁはぁ……パパぁ……気持ちいょぉ……大好きぃ……」

「そうかテレーズはいいこだな。ほうら。床にまでおまえの愛液が垂れておるぞ?
 今度は強く突いてみようか。そーれ」

「あああーんっ!!」

私が前のめりになると、パパが脇を持って支えてくれます。
今日はたっぷりと時間をかけて刺激してくださるので、
本当にイッてしまいそう。パパの愛部で絶頂に達することは未だありませんが。

パパはわたくしに学習机の椅子に座るように言いました。
背もたれ越しに腰を下ろすと、パパに足を持たれて
左右に広げられてしまいました。
もう濡れてしまっているのに、
こんな恥ずかしい姿を……パパの前で……

「いやぁ……そんなにまじまじと見ないで……」

「テレーズのここはすごく綺麗だぞ。
 ほうら。指で少し触れるだけでひくひくと動くぞ」

つんつんと触れられるだけで、大きな刺激となってわたくしを襲います。
こんなにも敏感になったのは生まれて初めてです。
今は身体のどんなところを触られても感じてしまいます。

「ここを、指でようく開くからな。さあ中まで全部見せてくれ」
「いや……」

恥ずかしさに耐え切れず、自らの顔を両手で覆いました。
トロトロと液体が流れつつあるそこをパパが指で押し開いているのです。
自分でも未だ見たことのない女の部分を、パパに見られてしまいました。
この場面を想像しなかったわけではありませんが、いざ現実のものとなると
気恥ずかしさのあまり顔が燃え盛るかのごとく。

ぺちゃぺちゃ……

いや!! こんな汚いところをパパに舐められてる!!
柔らかい舌の感触が、割れ目の筋に従って上下に動いています。
パパのお顔がわたくしの股の間にありまして、時々目が合ってしまいます。
わたくしは羞恥に耐え切れず、顔を横に向けます。

目を閉じてしまうと余計にエッチな気持ちになるので。目は空けたままです。
すると気になってしまい、またしてもパパと視線を交わします。
じわじわと、頭がぼーっとしてくる感覚。指を入れらるのに比べたら
刺激が少ないけれども、パパに秘所をまじまじとみられていることの
恥ずかしさで余計に感じてしまいます。

「テレーズのここは匂いがほとんどしない。大変に美味だ。今の気分はどうだ?」
「なんだか、くすぐったいですぅ……。足が震えちゃう……」
「感じているならよかった。今しばらく舐め続けてあげよう」

あふれ出る愛液がついに椅子まで濡らしていしまいます。
パパはギンギンに立っている自らのアソコを強く握りながら。
わたくしの割れ目に舌を這わせております。
割れ目を開いて仲の部分まで丹念に舐めてくれます。
まるで本当に美味しい果物を味わうように。
男の人は女のアソコを汚いとは思わないのかしら。

「んっ……んんっ……きもちいよぉっ……パパぁ………」

小さな刺激でも、繰り返していくと気持ちよくて、
だんだんと体が熱くなっていきます。
びっしょりかいた汗が、背もたれについている。

粗さを増していくパパの熱い吐息が股にかかり、
くすぐったさに腰をよじります。私が椅子から落ちそうになると
すぐに太ももの裏側を持ち支えてくれますから、
いつまでも股を大きく開いた姿勢で
いればいいのかしらと少し不満にさえ思う。

パパが不意に指を入れてきました。脳に電流が走る。

「ああぁーん!!」

「今までで一番大きな声だな。そろそろ限界だろう?」

「ん……んんん!! 気持ちい……ですぅ……!!
 頭がおかしくなっちゃうぅ……!!」

指をゆっくりと、じらすように出し入れされました。
しかも二本も。一本と二本では刺激が全然違うのです。

わたくしはイスに座ったままの姿勢でいるのが辛くなってきました。
そこでパパがわたくしをお姫様抱っこして床に寝かせました。
あしをぴんと伸ばさせ、わずかに股を開かせてからパパの指が
また二本入れられました。奥まで一直線まで突くように。

「ああああーっ!!」

「さあ最後の瞬間だぞ。テレーズはこれでイッてしまうのかな?」
「あっあっあっ……」
「ほらどうしたテレーズ。言葉が少なくなってきたぞ?」
「あぅ……」

私の中で何度も指を折るようにして、内側の壁を刺激してきます。
今までとは速さが異なり、大きな刺激がいっぺんに襲ってきました。
こんなに急いで愛撫をされたら……もう……

びちょびちょびちょ 
自分のものとは思えぬほど、やらしい水音が部屋に響く。

「んっ」

と言ったきり私は言葉が出なくなり。体中がふわりとする感覚に襲われます。
もうやめてと言いたいけど、パパの指の動きは止まりません。
腰を宙に浮かし、足の先に少し力むと、股から大量の愛液が噴き出てきました。
パパの手と股の間からはねるように、床へと落ちていきます。

「はぁっはぁっ………」

まだ気持ちが宙に浮く感じがするけど。体がけだるい。
マラソンを走った後のように今だけ体が重くなる。
しばらくこの余韻に浸っていたいと思うほど、充実している……。

「やはりテレーズは世界で一番かわいいな。
 我はそなたの感じている時の顔を見るのが大好きだ」

そう言って、パパはぐったりしているわたくしの
股を大きく開き、またわたくしのアソコをまじまじと鑑賞するのです。
パパのエッチ……(>_<)
もう絶頂に達して濡れ濡れのアソコを見られるのは
この上なく恥ずかしいのに。

パパが花弁を広げると、敏感になった膣口にまた舌を這わせる。

「あっあっ……まだ舐めるのですかっ……」
「女はその気になれば何度でもイクことができるのだよ」

濡れた股の周りをパパが綺麗にしていきます。
本当に愛おしそうに、わたくしの汚い愛液を舐め取っていくのです。

パパの手がぬっと伸びてきて、乳首をつまみ始めます。
今までとは全く違う刺激に身体が敏感に反応します。

「あっ…あっ……あっ……」

また先ほどの気持ちよさが戻ってきました。パパの指は
何度もわたくしの乳首の先端をぐりぐりと押し付けるように
もてあそぶのです。時につまんで。指ではじいて。
わたくしが刺激に慣れる暇も与えてはくれません。

つい太ももでパパのお顔を挟んでしまいますが、やはり
パパのお顔が股の間にあることが気恥ずかしくて、
アソコに神経が集中していきます。

パパはわたくしの方足だけをぐっと胸の前まで持ち上げ、
割れ目からお尻の穴までを行ったり来たりと舐めていきます。

額の汗で、わたしの前髪がべったりとくっついております。
熱い……体が燃えるように熱い……。
またイッてしまいたい。あの感触を再び味わいたいと願うと、
パパはわたくしの体を起き上がらせ、床に座らせました。

パパがわたくしを後ろから抱きしめるようにし、片方の手は
乳首を、もう片方の手はまたへと伸び、二本の指が一気に奥へと侵入しました。

「あぁう!!」
「テレーズ。足をまっすぐ伸ばしておけ。その方が楽にイケる」
「は、はい……」

ぐちゅぐちゅぐちゅ
手の動きに合わせて、うるさいくらいの水音がします。

「あっあっあっ……ダメえっ……」

私はもう座る姿勢すら維持できなくて、ぐったりとパパの体に
体重を預けます。両手を後ろに付けと言われたのでその通りにしました。

「もっと激しく出し入れしてみるか。
  ほれほれ、ほーれ。どうだ、感じるだろう?」

「いやぁあああっ!! もうだめえええぅ!!」

すごい出し入れの運動。奥まで入っては、また出ていく。
この出ていく瞬間もまた気持ちいから声が出ちゃう。
今回は乳首までつままれているから、刺激が何倍も強い。

「はぁはぁ……んんっ……んうぅ……うぅうぅぅ!!」
「クリトリスも刺激して見るか。ほれ。ピンと張った、ここだろう?」
「うぅうううう!! そこぉおお!! 触っちゃダメええ!!」

パパのゴツゴツした人差し指でクリトリスと何度もはじかれると、
大きな電流となって体全体を動かします。
乳首も痛いくらいにつねってきて、クリトリスも含めて
わたくしがイクまでいじめられ続けるのでしょう。

「ほらテレーズ。ついでにここはどうだ?」
「ひゃあうううう!?」

今度は耳まで舐めてきました。耳の穴の周りを
舌で刺激されるのも初めての経験で、
想像できないくらいにくすぐったくて体が踊ってしまいそう。
パパの舌はいやらしく動き続けて、私を快楽の世界から
一秒たりとも逃がそうとしません。

「うぅぅう……うぅぅぅぅ……あああんんぅ…うぅぅ…」

わたくしに出来るのは、歯を食いしばってこの刺激に耐えることだけでした。
ついに最高の波が達する時。私はあえぐ余裕もなく無言になり、
爪先に力が入り、びちゃびちゃとアソコから液が漏れだしました。

自分の愛液が床に染みを作るのがはっきりと見て取れます。
股から抜いたパパの手も、びしょ濡れになっていて、
ぽたぽたと床にこぼれ落ちています。

パパはテッシュを何枚か重ねてわたくしの股を拭いてくれます。
押し当てて吹いてくるので、敏感になったアソコが少し反応します。

「さて……まもなく12時になるから今宵はここまでとしよう。
 我はトイレに行ってくる。すぐ戻ってくるからお主はここにおれ。
 今夜はもちろんテレーズと一緒になることにするぞ」

10分ほどしてからパパは戻ってきました。
ウエットティッシュでわたくしの体中を綺麗にしてくれます。
本当ならお風呂で体を流したいところですが、
他の家族に見られるのが恥ずかしいのでやめました。

パパのズボンから何とも言えぬ香りがするので、
どうしたのかと訊いたら、自分で抜いてきたのだとおっしゃいます。

「パパがお望みであれば、お口や手でご奉仕してあげますのに」

「いや遠慮した。今宵はテレーズを二回もイカせてしまったから
 負担をかけては悪いと思ってな。お主は疲れてないか?」

「体が多少だるく感じますけど、嫌な疲れではありませんわ」

「今夜は休もう。さあ、こっちへおいで?」

私は大好きな父と枕を並べて休みました。
今度こそ、永遠に父と一緒に居られるのだと信じながら。

太盛イフリートがミカに別れ話をした

~~賢者・太盛イフリートと見せかけて
  エリカの娘マリンが語る~~

毎週土曜は憂鬱や……。
近所のコンビニとスーパーの護衛の番が回ってくるんや。
前述したと思うけど、うちらの住んでいる住宅地では、
生活必需品を暴徒から守るため、交代制で店番をする決まりになっている。

「さてミカよ。準備は良いか?」
「はい。イフリートさん!!」

おとんとミカちゃんは、完全武装して店に赴く。
ミカちゃんは腰のぶ厚い弾薬ホルダーが重いのか、よろよろしている。
パパは鍛えている方なので格好が様になっている。
装備は防弾ベスト、アサルトライフル、ヘルメット、軍靴など。
例えるなら自宅に自衛隊オタクの人が二人いる状態になってる。

テレーズとマリンは、

「私たちも一緒に」というが、ミカに断られる。
ミカは平日は遅くまで働いているのに、愛するイフリートの恋人(旦那?)と
一緒にいたいため、疲れた体にムチ打って護衛のボランティアに就く。
ボランティアやから金などもらえんからな。

勤務場所はスーパーのカスミ(東証一部。ユナイテッド・スーパーマーケットHD)
時間は18:00から21:00までと、ちょうど強盗に襲われる時間帯……。
強盗に襲われて死ねって言われてるようなもんやぞ……

「こんな時間になっちゃってごめんなさいねぇ! (>_<)
 近所の人たちとクジを引いたら、たまたま土曜日になっちゃいましてぇ」

パパ達は2週間に一度、順番が回ってくる。平日は免除。
平日は老人、主婦、大学生たちがやってくれる。

★★

さて。これからあたしが話す内容は、この日何が起きたのかパパから聞かされた内容や。
脚色したりせず、聞いたままのことを伝えるつもりでいるから、そのつもりで。

「今週も来ていただけるんですか。本当にお疲れ様です」

パパ達は、店長に頭を下げられ、さっそくまかないの品を提供される。
パンなどをほおばりながら、店の目立たない一角に座り込む。
常に店の自動ドアの方へ銃を構え、店内に不審なものが入ってきたら撃ち殺すのだ。

何事もなければそれでよし。店内のおとなしそうな客が、
レジ前で悪さをしたらすぐに撃つ。万引き犯らしき者がいたら撃つ。
戦車や装甲車。ヘリコプターで襲撃された場合は自らの命が第一なので
全員が逃げ出す。

スーパーカスミは、ヤマダ電機と違って戦車と戦うことは放棄した。
対戦車砲や地雷を仕掛ければ対戦車戦も不可能ではないが、
本格的な軍事兵器を備えるのは、本来の小売業から著しく逸脱するとして、
USHD(ユナイテッド~の略)の本部が却下した。

令和10年では、度重なる強盗、窃盗、暴行、襲撃によって
スーパーやドラッグストアを中心にあらゆる店舗が破壊されつくしている。
最近では食品などを作っている工場や倉庫まで襲撃され始め、
そもそもスーパーに納品すること自体が命がけになりつつある。

この国……さすがにもうあかんわ。
消費税率はまもなく42%に達するのに国民健康保険、介護保険の廃止。
埼玉県浦和市の平均時給230円。

公的保険が終わったので民間の保険会社を頼ろうにも、
かんぽ生命に代表されるように顧客の保険料は会社のお小遣い状態。

保険会社「顧客からお預かりしたお金は、我々のお小遣いでーすwww!!」
企業「全ての労働者は、使い捨てのゴミですwwww賃金払いたくありませんwww」
政府「国民の税金はぁ、わたくしたちのお小遣いでーすwwww」
闇金と銀行「貧しい国民に金利21パーセントでお金を貸しますwwww」

過酷な労働環境。事故病気したら医療費は全額自己負担。
もうまともに生活するの無理や。

令和10年でもGDPランクでは世界の三位に位置してるから困る。
軍事力に至っては軍拡が進んだせいで米ロ中に次いで世界の四位。
だからどうした。何の得にもなっとらん。日本国民なら誰でも同じことを思う。
この国は先進国とちゃうぞ。アフリカの底辺国と大して変わらん。

「(*^▽^*)いらっしゃいませー。こちらがセルフレジとなっておりますよ」

この店には美人のパートさんがいる。
30代の半ばくらいやけど、肌が白くて目鼻立ちがはっきりしている。
長い茶色の髪の毛をポニーにして、けっこう色気があるらしい。

不愛想な猫背の20代の男性は、初めてこのスーパーに来たためか、
ポイントカードを持ってなかった。美人パートさんに親切に対応してもらって
ポイントカードを作った。その後、何度かセルフレジを操作を間違えそうになり、
冷や汗をかいていた。セルフレジは、きちんと商品をスキャンしないといけない
決まりや。店員の目がないレジやから、不正を働こうと思えばできなくもない。

しかし……

「う……」

男性は、背後から感じるプレッシャーに後ずさりする。

パパやった。パパが油断なく銃をお客に構えている。
万が一商品を万引きして逃走を図ろうものなら、撃ち殺す。
本来なら店内業務の一環なのだが、パパ達ボランティアも率先して手伝うのだ。

さらに。セルフレジでは操作を5回以上ミスると、
まともに買い物する意思がないとみなされ、
スキャナーから気絶するほどの高圧電流が流れる。

男性は無事に会計を終え、ルパン三世みたいな格好を
しながら店を去ったのだった。

ミカ(*'▽')
「うふふ。今日はうれしいことに、おとなしいお客さんばかりなんですね。
 イフリートさんと一緒に居られるなら護衛のボランティアも苦痛じゃありません」

太盛イフリート (;^ω^)
「のうミカよ。こんな時に言うのもあれなのだが、
 少し話を聞いてくれぬか?」

ミカΣ(゚Д゚) 「え?」

イフリート(;゚Д゚)
「ミカは、子供が欲しいと言ったよね?
 あの言葉に嘘偽りはなく、今でも子供が欲しいと思うか?
 気が変わったとか、そういうことはないよね?」

ミカ(。-`ω-)
「……そりゃ欲しいに決まってるじゃないですか。
 だって私達結婚するんですから。どうしてそんなことを聞くんですか?
 また子供たちに何か言われたんですか?」

ヽ(^o^)丿 もう別れよう

(´・ω`・) はい?

ヽ(^o^)丿 色々考えたんだけど、やっぱり俺は君と一緒に暮らしていくのは無理だ。

(゚Д゚;) ちょ……いきなり何を言ってるんですか!!

ヽ(^o^)丿 仮に俺たちが結婚後に子供ができたら、テレーズやマリン達はどうなる?
     今でさえ君とは険悪な仲だ。家事ができるアナスタシアの娘のマリンは
     ともかくとして、他の2人は捨てられるかもしれないだろ?
 
(゚Д゚;) 捨てたりなんてしませんよ!! 
     あれでも一応は、あなたと血のつながった子でしょ!!

ヽ(^o^)丿 君も分かってると思うけど、
     テレーズとアナスタシアの娘のマリンが特に嫌がってるんだよ。
     君と一緒に暮らすのをね。家に帰ってから寝るまでずっと
     パパを独占して偉そうにされるのが、もう我慢の限界なんだってさ。

(゚Д゚;) …娘? 娘に言われたから私と別れたくなったんですか? 

ヽ(^o^)丿 いや違う。俺の医師じゃなくて石じゃなくて意思。
      俺は自分自身の考えで、ミカよりも娘を優先することにした。

<`ヘ´> だったら!! お金はどうするのか言ってみなさいよ!!
     住む場所は? 仕事は? 
     あなたは私がいないと生きていけないじゃない!!    

ヽ(^o^)丿 仕事ならあるぞ。

パパは、ミカに内緒で見つけた仕事があった。
日本の日用品・卸売りの最王手の会社で、日本全国に倉庫を持ってる。
つい最近パパの近所に新倉庫が立ち上がった。
AIと全自動ラインをそなえた、総投資金額200億を超える世界最先端の倉庫や。

強盗共に襲われないように、ナチスドイツ軍の大西洋要塞(縦140キロ)
に匹敵する陣地を構築した。社員表を持たない不審者が中に入ろうとすると、
高圧電流と地雷によって、一瞬にして殲滅させられる。

パパはすでにこの仕事に応募していて、ちゃっかり面接に受かっていた。
実はテレーズがスマホのアプリで見つけてくれた仕事だったんや。
一年ごとに契約更新するアルバイトやけどな。

ただアホ面してつっ立っているだけで自動ラインが
次々に商品の入ったケースを運んでくれるから、
台所で家事をやる感覚で商品が仕分けられる。

段ボールをパレットに積む作業があっても、パレット自体が
高さを勝手に調節してくれるので、作業者は膝を曲げることすらない。
時給は260円と、浦和市の平均時給を若干上回る。
二交代制。パパのシフトは1300から2100で固定。
遅番だが、夜勤というほどでもなく体に優しい。

社名はバーテックス。到達点、頂点を意味する英語や。
東証一部上場企業で株式の時価総額ランキングのトップ30に入っている。

ヽ(^o^)丿 住む場所も、ゆっくり決めればいい。令和10年の地獄だが、
      渋谷兄妹みたいに団地とか探せばなんとか見つかるだろ。
      決まるまでは最悪、カプセルホテルでもいい。
      金ならウエルシアの賠償金270万? 
      具体的な額は忘れたけど、一応あるじゃないか。
      テレーズも米国ドル建ての株を150万くらいは持ってる。

(>_<) うそ……信じられない。( ;∀;)どうしてそんなこと今さら言うの?
    そんなに私との生活は嫌だった? あなたが望んだことはなんでもしたわ。
    生活だけじゃなくてお小遣いも上げたし、家事をしてって頼んだことも
    なかったでしょ。私の事、そんなに嫌いなの?

ヽ(^o^)丿 お金のことは……感謝している。嘘じゃない。
     それに君のことが嫌いになったわけじゃないんだよ。
     正直最初は苦手だったけど。ミカには良いところが
     たくさんあるって知ったよ。

( ;∀;) じゃあ!! 別れるなんて、悲しいこと言うのやめましょうよ!!

(;´・ω・) 別れよう。

( ;∀;) どうして!?

(;・∀・) 俺には娘が三人もいる。君と血の繋がりのない子供達だ。
      初めから、継母と一緒に暮らすような生活は無理があったんだよ。
       仮に結婚したとして…

(# ゚Д゚) あなたの方から一緒に住みたいって言ってきましたよね!?

(;´・ω・) 確かに言ったな。初めに言ったのは俺だよ。

(# ゚Д゚) 嘘つき!! そっちから頼んできたからこっちは喜んで
     一緒に住み始めたのに、今さら出ていくなんて言うんですか!?
     そういうのって勝手過ぎますよ!!

(;´・ω・) 確かにな。俺の言っていることは、わがままなのかもしれない。
      だが俺は娘たちの今後のことを考えて…

(# ゚Д゚) どうせテレーズに何か言われたんでしょ!!

(;´∀`) テレーズは関係ない。ミカはまだ若いんだから、
      俺みたいな甲斐性なしより、もっと素敵な男性を見つけてくれよ。

(ノД`)・゜・。 イフリートさんより素敵な人なんていません!!

ミカちゃんのセリフが、アナスタシアの娘のマリンと全く同じで笑うわ。
収入ゼロに近いのに無駄にモテるパパは偉大や。

(*´з`) イフリートさん。いいえ太盛。太盛は今日イライラしてたから
     変なことを言い出しただけなんでしょ? そうに決まってるわ。
     そうじゃなかったら別れたいなんて言うわけないもの。
 
ミカはパパの首の裏側に両手を回し、もたれかかり、唇を押し付けた。
パパは抵抗しない代わりに、返事を返すこともない。

(*´з`)「あーん、やっぱり太盛さんのお顔はステキ。
     もっとキスしたくなっちゃう。ねえねえ。
     今日のことはなかったことにして仲直りましょう?」

ミカは胸を押し付けながら、またキスを迫る。いつものように
舌を絡ませ、店先だというのにたっぷりとパパとの時間を堪能している。

ぱぱぱっぱぱぱぱ…

この時に店の玄関でおばさん強盗三名が侵入してきて、壮絶な銃撃戦と
なっているが、パパ達は自分らの世界に入っていて、すっかり仕事を忘れている。

(*´з`)「私はただこうして太盛と一緒にいたいだけなの。
     家に帰ってきて、あなたが家にいてくれたらそれだけで十分なのよ」

(;一_一)「そう思っているのも今だけさ。令和10年で日本の財政はますます
      悪化する一方だ。俺みたいな金の稼げない男なんていつか
      愛想尽かされる。だいたい君は前の旦那のことを何とも思ってないんだろ」

Σ(゚Д゚)「前の旦那なんて!! あんなの大嫌いを通り越して死ねと思ってましたよ!!
      家ではゴロゴロして家事なんてゴミ出ししかしないくせに威張り腐って!!
      太盛さんは家事とか進んでやってくれるじゃないですか。
      お庭に防御陣地まで力仕事して作ってくださって。
      それに比べてあれときたら…」

ミカちゃんの元旦那は47歳。
安定した企業に勤めて(有名メーカーのエンジニア)稼ぎは良かった。
性格は、令和では死後になりつつある亭主関白。

平成でもそうだったかもしれんが、令和では夫婦共働きが基本であり
マストや。妻が家におったら給料的に絶対に食っていけん。
坂上瞳の親みたいに夫が経営者ならば話は別やけどな。

あたしのママ(橘エリカ)も実家からお金がたくさんも
らえるから働かなくても食っていけるらしい。
だったらお金を少し分けてくれや。

話を戻すけど、ミカの元旦那(仮名、アキラにしとくか)は、

ミカちゃんは小学校の教員やのに
『家事は全て女がやれ』『俺が建てた家だ。嫌なら出ていけ』
ミカちゃんが反抗すると、しまいには手を上げる始末。
結婚後一か月で正体が発覚したらしい。

ミカちゃんがやられたDVは、ビンタされるのを筆頭に、
・首をぎゅっと絞められる
・玄関まで引きづられる
・玄関から外へ投げ出される

ミカちゃんが体調が悪くて寝込んでいる時、朝ごはんが
作れなかった。旦那は容赦なくミカを引きづり出して
何か作れと命じたが断ると、冷水を顔からかけられた。
季節は年明けや。

『何が具合悪いだ。これで目が覚めたかオラ。
 仮病使ってサボってんじゃねえよ』

髪の毛を引っ張られ、無理やりキッチンに立たされた。
その時の恨みは一生忘れられないという。

ミカちゃんの実家は、兄上が継いでいて、男の子が三人もおる。
家に帰るのはさすがに気まずい。

しばらくして旦那が会社の若い女の子に手を出し始めたので、
離婚理由になると逆にチャンスと考え、ミカちゃんの方も
さっそく再婚相手を探していたところで、ウエルシアで
太陽のように美しい太盛イフリートと出会った。

(>_<) そっか。ミカがそんなにつらい思いをしてたなんて知らなかったよ。
    君が家で料理をしなかったのは、ちゃんと理由があったんだね。

(*^▽^*) なんだか改めてお話しすると涙が出てきちゃいました……。

パパはミカを優しく抱きしめ、キスを返してあげた。
太盛パパは自分には何の魅力もない男だと思っていたが、
家事が得意なことが長所になるのだと知った。

日本の男は子供の時から親の家事を手伝わないで育つ。
自らの親も男は家事をせず、全て妻に任せる。それが普通や。
だから、男は一人暮らしでもせんことには、家事の大変さを
一生理解しないで終わる。

もちろん家事に積極的なイクメンに代表される人もいるだろう。
だが、ほとんどの男は家事をしない。あらゆるメディアの
実態調査で明らかになっていることは、既婚者の男性のうち、
7割はまともに家事をしていない。

調査結果によると、男性が家事をしたと定義することは、
『洗面所のタオルを交換する』
『朝ごみを出してから会社に行く』
『たまにスーパーで食料品を買う』

これでアンケートには「自分は家事を手伝っている」と称す。

ちなみに、これは共働きの世帯の話やからな。話にならんわ。
離婚者数が止まらん理由の一端を作っているのは、間違いなくこれや。
『夫婦で家事の分担ができてない』

親に甘やかされて育って家事経験ゼロの男は、
たとえ収入が良くても結婚しないほうがええで。
こういう馬鹿は「毎日家事をしている妻の辛さ」を一生理解せんからな。
あたしは人の辛さを分かってやれん奴は人間のクズやと思う。
女は男の奴隷とちゃうぞ。

上の事例で昭和世代の人間で定年後熟年離婚が頻発。
夫が退職後、毎日家にいることでますます険悪になる。
この流れが令和10年まで止まることはなかった。

とはいえ……パパみたいに収入ほぼゼロで娘達と
怪しい関係になってるのもどうかと思うけどな。
しかもロリコン……。

店先では強盗が少なくとも10名は侵入してきて、
さっきより激しい銃撃戦となっている。

パパは、泣いているミカが落ち着くまで腕の中に抱いてあげた。
強盗達でさえ、襲撃するのをためらうほどのイチャラブシーンやった。
しかも流れ弾が当たるのかと思いきや、
弾は不思議と二人を避けて飛んでいくのだった。

「ミカ。ここだとちょっとあれだから、場所を移して話をしようか?」
「えっ、は、はい!!」

パパ達はボランティアのことは完全に忘れ、
バックヤード(倉庫)から裏口へと逃げだした。
仲睦まじそうに手をつなぎながら。

家に帰ると娘達が目をギラギラさせて待っている。
そこでお金がかかると承知しながらホテルへ行った。
ラブのつくほうのな。二人は付き合い始めてから初めてのホテルやった。

仲直りした二人は、時間も忘れて夫婦の営みをした。
誇張ではなく本当に夫婦の営みになってしまった。
パパは優しいからミカの過去に深く同情し、
「君を幸せにできるのは俺しかいない」とほざき、
本当に結婚することに決めてしまった。

これがあとで大問題にならないわけがない。


※ 聖なる少女。マリー・斎藤・ホリ・テレーズが語る。

遅くとも夜の10時には戻ってくるはずなのに、日付が変わっても
連絡すらないことから最悪の事態を想定せざるを得ず、
アナスタシアの娘のマリンと共に武装し、カスミに赴きました。

誰もおりません。店員たちも帰ってしまったようです。
店にはガラスの破片が散乱しております。銃撃があったことは
事実……ということは? しかしボランティアに何かあった場合は
生き残った店員が最低我が家に連絡だけはしてくれる決まりとなっています。

店員たちは全滅……?
まさかお父様たちも?

「そんな時に便利なGPSがあるのよ」

アナスタシアの娘のマリンがそう言います。
お父様とミカは、どうやら別の場所にいるようです。
お父様のスマホに仕掛けたGPSが導いた場所は……ラブホテル。

令和10年では年齢制限が無いため小学生でも
入ろうと思えば入れます。ホテルの201号室にパパ達がいるようです。

扉は当たり前なのですが、内側から硬く施錠されております。
アナスタシアの娘のマリンは、マリーダの魔法で暴風を発生させ、
扉をこじ開けてしまいます。

(*´Д`)ハァハァ「ミカぁ……君は最高だ。ミカのお口の中
        暖かくて、またイッちゃうそうだよ」

ソファに腰かけたパパの足の間にミカがひざまずき、
それはもう丹念にパパのアソコを舐めておりました。

細い指でいきり立つペニスを優しく包み込み、先の部分を舌でもてあそぶ。

パパに満足していただけるよう、尽くしている様子がうかがえます。
長時間のフェラなのでしょうか、パパは壁掛けテレビを
観ながらリラックスしております。

ミカはパンツを履いている他は裸です。日本人にしては大きな胸で
ペニスを包み込み、軽くこすりあげる。それをさらに口にくわえると、

「うっ……」

あっ、パパがイク時の顔をしている。
ドピュッと音を立てるように、ミカに白濁液が発射される。
ミカの唇から、どろどろした液体が垂れてくる。

ミカは愛おしそうに、口に含んだ分はごくんと飲み込んだ。
パパは悪いと思ってティッシュを差し出したのですが、
間に合いませんでした。

(;^ω^) ミカ……。飲んでくれるのはうれしいけど、
    美味しくないだろうから無理して飲まなくてもいいんだよ?」

(*^▽^*) 太盛さんはいつでも私の気持ちを一番に考えてくれる
     優しい人だから飲んであげるんですよ。
     私は太盛さんに一番気持ちよくなってほしいですから。

パパはありがとうと言い、鍛えられた腕の中で抱きしめました。

(*´з`) 太盛さんの味って毎日違うんですよ。
     今日は濃い味だったから体調の良い日なんですね  

(^○^) なんだか恥ずかしいな。自分じゃ全然分からないからね。

(〃ノωノ) あのね太盛さん。私の乳首をつねってほしいの。

(*´з`) いいよ。ミカちゃんの恥ずかしい姿が
      見えるように鏡の前に行こうか?

ベッドの上から、洗面台の大きな鏡から見える位置に移動した。
ミカを後ろから抱き、股を大きく開かせる。
愛液で濡れてしまっている秘所をよく見えるようにしてから、
乳首を文字通りつねりました。

「ああーーっ。そう。いいわっ。もっと強くしてくださいっ」
「なら千切れるくらい強くしちゃおうかな?」
「んんんー!! 痛いぃー!!」
「痛いならやめる?」
「やめちゃだめぇ。だんだんと気持ちよくなるからぁ!!」

つまんだ乳首をひっぱったり、時に優しくなでたりして
もてあそぶ。ミカはかなり感じているようで、後ろにいる
パパに体重を預けています。パパは大人のおもちゃの手錠を
持っていて、ミカの両手にはめてしまいます。

すると、ミカはますます興奮してうるさいくらいのあえぎ声をあげます。

「んん。あんっ。そうそこっ。もっと乱暴にしてっ……!」
「下の方がまだ触ってないのに大洪水だぞ? 指を入れてみるか」
「あああああああっ!!」

いきなり指を三本も挿入され、ミカが激しく体をのけぞらせます。

「ああっ、ああっ、普通じゃダメなのっ……
  もっと乱暴に…中でかき乱すようにしてっ!!」

「じゃあ遠慮なく」

「ああああああんっ!! 気持ちいっ!! もっと乱暴に扱って!!
  もっとおぉおおお!! あああんっ!! いやぁああああっ!!」

ミカは、俗に言うドMなのでしょう。
常の女人が嫌がったり痛がる行為で喜んでおります。

「ミカ。背中に硬いモノが当たってる感触は分かるか?」
「はいぃぃ!! 分かりますぅう!! さっきからずっと当たってますぅぅ!!」
「次は俺の上にお座りしようか」

パパはミカの腰を持って持ち上げ、
いきり立ったペニスの上に下ろしました。
奥まで入ると、「んんんんんんっ!!」
ミカがうるさくあえぎます。

声がうるさすぎて隣の部屋まで聞こえるのではないかと思うほどです。

「あっ…あっ…あっ……あうっ……あっ……ああっ……」

乗馬マシンの上にいるように、リズムよく揺れるミカの体。
パパがうるさいと思ったのか、お口を手で強く塞いでしまうと、
苦しいため顔を真っ赤にしながら、うれしそうな感じでもあります。

パパはミカの後ろにいる位置です。
不意に乳首をぎゅっとつねると、「あああああんんん!!」
ミカが顔を上げ、大きな声であえぎます。

「鏡越しにミカちゃんのあえいでる姿が良く見えるぞ?
  今どんな気持ちなのかな?」

「ああっ……気持ちよくて……ああっ……
  奥までっ…ああっ……しゃべれない……ですっ……」

パパがミカの耳の裏側を舐め上げると、びくんと体を震わせました。
パパの上でお座りしたミカは、規則正しく揺れ続けています。

「この姿をスマホで撮影して、あとで娘達に見せてあげようか?」
「ああっ……そんなのっ……だめぇっ……恥ずかしくてっ……」
「でもミカちゃんは恥ずかしいのが大好きだものね?」
「そうですぅ……わたしはこういうので……かんじちゃうからぁ……ああああん!!」

いよいよパパがラストスパートに入ります。腰の動きが
今までにないほど活発になりました。

アナスタシアの娘のマリンが、私ならここにいますがと
パパに声を掛けましたが、聞こえていないのか無視されました。

パパがミカの中にたくさん出し、唇を開くと、白い液体が
垂れてくる。ミカの股を開き、その痴態を鏡越しに見せてあげていました。
ミカは耳まで真っ赤にしながらも、喜んでいるようでした。

「お父様」
「え?」

アナスタシアの娘のマリンの声に、ようやくパパが気づかれました。

Σ(・□・;) ←その際、このような顔をされておりました。
パパと生活を共にして半年ほど経過しますが、ここまで
驚いた顔を見るのは初めてのことでございます。

失礼だとは思いましたが、不覚にも東部動物公園(埼玉県宮代町)の
檻に入ったマンドリルを思い出してしまいました。

「お父様はお口でされるのがお好きなんですか?」
「あ、いや…その。これはその…いや、なんでここに?」
「お父様がボランティアから帰ってこなかったので」
「まさか自宅からここまで追跡したの?」
「はい」

パパは大混乱状態から抜け出すのに2分もの時間を要しました。
洗面台で手を念入りに洗い、お顔も冷水で洗い、戻ってきました。

「この際だから、はっきり言うよ。俺はミカと結婚するからね」

マリンは、「はぁ…」と言い、静かなる怒りを爆発させようとしていました。
マリンが握った右手を天へ向けて掲げると、ミカのいるベッドが
宙へ浮き左右に激しく揺れる。

平成に流行った映画で「グレイブ・エンカウンターズ」がありました。
米国にしてはめずらしく心霊系のホラー映画なのですが、
今起きていることがあの映画のワンシーンのようです。

ミ「きゃああああ!! イフリート様助けて!!(>_<)」

イ「こ、これマリンよ!! ミカが怖がっておるぞ!!」

マ「ならば、訳をお聞かせください。どうしてミカと結婚なさるのか。
  私はお父様はミカと離婚して私たちと引っ越しをする予定だと、
  テレーズから聞いておりますが!!」

竜巻のような暴風がマリンの周囲を包み込み、ついに天井に穴が開く。
部屋中の家具が宙へ浮き、穴の中へ吸い込まれていく。
はたしてこのホテルはもつのでしょうか?

「あとでゆっくり説明する!! 
 我とミカはよく話し合って和解することができたのだ!!」

「今すぐ説明してください!! でないと納得できませんわ!!」

「これ!! 大概にせんか!!
 これ以上ホテルの中を滅茶苦茶にしたら警察を呼ばれてしまう!!」

「私はミカに何度も体罰を受けました!! お父様のためを思って
 我慢したのに!! あの時の痛みは意味がなかったということなのですか!!」

「振り上げた拳を降ろさぬか!! マリンよ!! 父の命令だ!!」

「嫌ですわ!!」

「マリン!!」

「お父様は嘘つきですわ!! 昨夜テレーズと話した内容と完全に矛盾してますわ!!
 お父様はミカとセックスしたいから一緒に居たいのですか!?
 それとも心変わりして娘全員を捨てることにするのですか!?」

「娘は愛しておる!! かけがえのない存在だ!! 誰が捨てるものか!!」

「ミカと結婚して子供を作るということは、そういうことになりますわ!!」

「だから話が必要なのだ!! とにかく今は気を静めるのだ!!」

マリンは荒い息を吐きながらも、ようやく魔法を解除する。
不安に脅えているミカを、パパが優しく抱きしめている……。
ミカはマリーダの魔法を始めて食らったので恐怖したのでしょう。

ああ( ゚Д゚)……。本当ならパパの腕の中にいるべきなのは
わたくしなのに。おそらくマリンも同じことを思っていることでしょう。

「お父様から離れてよ!」
「ひぃ……」

ミカは以前とはすっかり変わり、マリンに吠えられると萎縮する。
パパから離れようとすると、今度はパパが抱き寄せてしまう。

「マリンよ。そうにらむでない。夫婦が肩を並べ合うのは当然だ。
 ミカが怖い思いをしたら夫がなぐさめる。我が何かおかしなことをしたか?」

「……そんな女がお父様の好みなのですか。
 自分の娘よりも赤の他人がそんなに大切なのですか」

ぽろぽろと、マリンの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちます。

わたくしは今まで本編のセリフがないことに今更ながら気づきました。
マリンの肩に優しく触れて言います。

「わたくしたちは、パパを慕う者同士。パパは娘達をないがしろにするような
 薄情なお方ではないわ。パパがミカとの結婚を望むのならば、
 それに従うのがよき娘のすることではないですか」

「テレーズは大人だから、そんな風に簡単に割り切れるのよ。
 私はミカのこと大っ嫌い。人の大切なパパを勝手に横取りして。
 殺してやりたい」

「わたくしとてミカのことは反吐が出るほどに大嫌いですわ。
 でもわたくしたちの意思など重要ではありません。
 パパが決めたことなのですから」

わたくしとて、平安時代の生まれゆえに感情を内に押し殺しているだけの事。
思えばこの小説は太盛パパ争奪戦をダラダラと続けておりました。
最終的に太盛パパの愛を勝ち取ったのは有田ミカだったということ。

ただそれだけのこと……。
なのに、どうしてでしょう。こんなにも涙がとならないのは。

関東民主主義人民共和国 ~ミウの再来~

~~賢者・イフリートの堀太盛が語る~~

あれから娘達を納得させ、平和な家族全員での生活が戻った。
エリカの娘のマリンはミカを毛嫌いせず仲良くしてくれるため助かる。
テレーズとアナスタシアの娘のマリンは、明らかにミカから距離を取るが、
表面上は文句を言わず、ごく普通の毎日を送る。

我は新たなを職を得た。
採用試験は、引き算や割り算など小学校2年生で
解ける程度の筆記試験。それと面談であった。
受験後二日後に採用の電話が来る。翌週から勤務開始となる。

我は会社の立ち上げメンバーである。
勤務初日は、大会議室で講習を受けることとなった。

株式会社バーテックスは大規模な倉庫のため、
パートの募集人数が250名である。今回は一時採用の50余名となる。
9割が主婦であり、少数の男性陣は明らかに浮いており気まずい。

我らは会議室の大きな画面で会社の沿革を説明される。
昼休憩を経て、午後は、実際に操作する機械のマニュアルを渡される。

マニュアルの説明はまた翌日だ。
広大な構内を一階から三階まで回り、各施設の説明を受ける。
実際に稼働しているわけではないから説明されてもイメージがわかぬ。
我らは一期生ゆえに経験者がおらぬのだ。

天井から床まであらゆるところにレーンが組み込まれ、
我ら作業者は所定の場所から一切動かずに、商品の補充、
仕分け、出荷準備と、あらゆる作業が可能となる。
全部の工程は大きく分けて5つに分かれ、我らはそのいずれかに
固定で配置されるが、最終的には全ての工程を覚えさせられる。
有事の際にいずれかの部署にヘルプに行くためだ。

初日の講習は午後三時で終わる。
さて帰ろうかと思い、荷物をまとめていると。

「やあ太盛君(・ω・)久しぶり」

なにやら見慣れた顔の女人に声を掛けられる。
ここの女性は50代が中心で若い女など見かけぬ。
この女は高野ミウによく似ている。年の功は20代なのは間違いない。

親しみのある笑みを浮かべ、我と馴れ馴れしく握手をしてくる。
この所作からして常の日本人と異なる。
女性にしては暖かい手の感触、なんとなく異国人風の感じが、
いかにも高野ミウである。
毛先の細い髪型や、眉や瞳の形から察すると
遺憾ながら本人であることを認めざるを得ず。

「太盛君どうしたの?」
「(;´∀`)いつからそこにいたんだい?」
「最初からずっと太盛君の隣にいたじゃない」

我は最近人が怖くて仕方なくて、要がなければ顔を見ないようにしている。
まさか隣の席に座っていた女が我の妻だったとは知らなかった。

「太盛君と色々お話ししたいと思ったの。
 たっぷり、ゆっくりと時間をかけてね。
 それならいっそ同じ職場で働いちゃおうかなって」

共産主義(学園)の最高権力者たるミウが、
なぜわざわざパートの仕事に……
(入社後に分かったのだが、この仕事にアルバイトはなく、
 社員の他は全員パートタイマーの扱いだった)

「本当は太盛君の家を襲撃しようかなって思ったんだけど、
 太盛君のクソガ…娘で一人危なっかしいのがいるでしょ?
 怖いもの知らずの私でもあいつだけはちょっと苦手なんだよね(*^▽^*)」

最後に上半身を横に大きく傾け、ぶりっこをする。
我ら夫婦の間柄なのだが、ぶりっ子する意味はあるのか…

「ここなら太盛君は生活のために毎日通わないといけないんでしょ?
 実質、休みの日以外は毎日会えるじゃない」

「ちょっと待ってくれ。学園の方はいいのかい?」

「ナツキ君の一個下の妹さんが優秀なボリシェビキでね、
 校長職はしばらくあの子に任せてあるから大丈夫(^○^)」

高倉ナツキ殿の妹、名を優菜と言い、年は我らと同じ。
ミウに匹敵する冷酷なるボリシェビキとして
共産主義世界で名を轟かす。実直で頭脳明晰。
組織の長になる素質を備えた人物と評判なり。

市議会(足利市・共産党・中央委員会直属)
からもオファーが来ているらしい。

ざわざわ…… 
 明日から出勤だぁ
 駐車場込みそうー
 さみー。早く帰ろー

同期の者どもは、次々に会議室から出ていく。
多くの者が明日から初出勤である。
(シフト制なので休みの者もいる)

さて、と我も続きたいところなのだが、ミウが我の前に立ちはだかる。

「なに勝手に帰ろうとしてるの」

「(;゚Д゚) 家で入社時提出書類とかまとめないと…」

「あんなの提出する内容が決まってるんだから3分で終わるでしょ。
 それより私とお話しましょ?」

3分でまとまるものか。各種保険関係、年金、交通費の清算に関わるもの、
給料振込口座、個人情報の保護に関する同意書、電子明細書の登録など、
いかに知恵を絞っても処理には30分以上を要する。

今思い出したが、扶養控除をどうすればいいのか。
我はミカに扶養されているようなので書かなくていいのか。
ぬう……まだ籍を入れておらぬことを忘れた…。
では娘達は我が扶養すればよいのか?

「会社からもらった自分の名札を確認してみなよ。
 なんて書いてある?」

そこには高野太盛と書いてある。

「ふむ。語末のイフリートが足らん」

「会社の名札にそんなこと書いてあるわけないでしょ。
 私が言っているのはそこじゃないよ」

「分かっておる。苗字が高野なのだろう?」

「そうそう。つまり」

「我はミウの夫である」

「Yes!!! よあ・まいはすばんど。ぜん よあ・ふぁみりぃねいむ いず
 たかの。でぃどよう ぷりてぃ あんだーすたんど ぃと?」
       (そう!! あなたは私の夫なんだから苗字は高野。おけ?)

「あいのういっと。ばっと。れっとみぃ しゅっと まい へっど」
       (わかったけど、我の頭を撃ち抜きたいのだが)

会社の名札ににはICチップが内蔵されている。
7桁の社員番号が記載されていて、これがタイムカードの代わりになる。
勤務中に名札を胸に付けずに校内をうろうろした者は、
不審者と見なされて銃殺される場合がある。

我らは同時にタイムカードを切り、とりあえず会社の外には出た。
浦和市の郊外の桜並木沿いにある会社だ。なんとなく金八先生を思い出した。
あたりは工業団地となっていて、どの工場の敷地もバリケードや有刺鉄線が目立つ。
令和10年では工場や倉庫は高度に軍事化されていて、部外者の侵入を防ぎ、
また社内で働く従業員の勤務時間中の脱出を禁止する。

この会社の近くにバス停あり。
我はミウと並びバスを待つ。
バスは我の住む駅前の住宅地で降ろしてくれる。
勤務地が浦和市の郊外であることに加え、
バスの待ち時間があるため、同じ市内だが帰宅まで40分もかかる。

ミウとは降りたバス停ですんなり別れた。
話というのはバスの中で済んだ。
内容は単純で、我が帰宅後に同棲相手の有田ミカと縁を切ること。
そして同居中の子供達も捨てて、ミウと一緒に足利市の学園に戻ること。
その旨を帰宅後直ちにミカたちに口頭で伝えること。

とうてい認められる条件にあらず。
朝鮮の帰属を巡り、国交断絶寸前の日露に匹敵せリ(日露戦争を参照)
我は自分でも信じられぬほどミカに惚れこんでおり、
籍こそ入れておらぬが、我の妻だと思っている。
それに子供達を捨てろとは何事か!!

ミウも浦和市の駅前に住んでいるそうだ。
くわしい住居までは教えてもらえぬが、
会社近くのマンションにでも住んでいるのだろうか?
我が息子の太盛ジュニアはどうしているのだろう。

大いに悩みながら歩くと、気が付いたら自宅の玄関の前に着いていた。
手さげバックを居間のテーブルに降ろして、
暖かいチャイでも飲もうかと思う。するとアナスタシアの娘のマリンが、
気を効かせてミルクティを淹れてくれる。

「新しい会社はいかがでしたか?」

「うむ。すごい設備なのは分かったのだが、まだ稼働しておらず
 何とも言えぬな。悪いところではなさそうだが」

「きっと良い会社だと思います」

「そうだな。ありがとう」

目を輝かせて訊いてくるこの子を愛おしく思い、抱き寄せて頭を撫でた。
マリンはおとなしくしている。しばらくそうしていたが、
不意にマリンが我から距離を取る。

「お父様の服から知らない女の匂いが……」

まずい(ノД`)・゜・。 
ミウとバスに乗った時に腕を組んだからか。
込んでいたので別に気にしていなかったが、
ファブリーズでもしておけばよかったか。
我の袖に鼻を近づけると、確かにミウの髪の匂いがしておる……。

「お父様は勤務初日というのに新しい女を見つけたのですか?」
「ち、違う。これはミウの匂いだ」
「ミウ……? まさかあの高野ミウ?」
「これには訳が…」

「お父様はお仕事に行かないでミウのところに行っていたのですか。
 心配して見守っていた私達家族を欺いて、はるばる足利市まで?」

「だ、だからこれには訳があるのだ。話を」

「やっぱりお父様は嘘つきなのですわ!!
 ミカと正式に結婚すると言っていたくせに、あれは真っ赤な嘘で!!
 私達に隠れてミウと逢引を重ねていたのですね!!」

「これ……我にも少し話させんか」

倭国の女人は思い込みが激しく、早とちりをする傾向にある。

英知を絞り、証拠として入社時提出書類をカバンから出そうかと思う。
しかしアナスタシアの娘のマリンは、ガゼルの姿に変身して
玄関から飛び出てしまう。11月で真冬並みの冷え込みの日である。

さすがにマリンを追いかけるのは難儀すると溜息を吐いていると、
入れ替わりでテレーズとエリカの娘のマリンが帰って来た。

「パパ(*´з`) ただいま。もう帰っていたのですか」
「うむ。今日は会社の説明だけで終わったからな」

(*´з`)ダキッ 
ヨシヨシ ヾ(・ω・`)

エリカの娘のマリンは我関せずと言った風に
牛乳を電子レンジで温めながら茶菓子を探している。

「パパからファブリーズの香りがします」

「近ごろ体臭が気になってな」

我イフリートにて、ぬかりはない。

「……? イフリートのパパは
 人一倍綺麗好きだったはずですが…。
 それに昨日もお風呂に入られてましたよね?」

聡いテレーズは、玄関から飛び出ていったマリンのことを
含めて、我に何か問題があったものと感づいたようだ。

「すまぬ。実は訳があるのだ。アナスタシアの娘のマリンは
 我の話を最後まで聞かずに出て行ったのだがな……」

我がミウとの件を包み隠さずに伝えると、テレーズが激昂し
大きく吠え、その衝撃波によって我はイスから転げ落ちてしまった。

「ほほう。パパはミウと同僚になったんか」

エリカの娘のマリンが興味を示した。
この子は年の割に男女の仲に深い理解を示すのだ。

いかにもエリカの娘のマリンなら
我の話を分かってくれそうだと期待するが、
テレーズが怒鳴り声により電子レンジが故障してしまう。

扉が開かぬので、牛乳の入ったマグカップを取り出すことも叶わぬ。
テレーズとマリンが口論を始めてしまうので説明する暇がない。

「ただいまぁ!! もにもにー(∩´∀`)∩ ぷっちもにー。
 今日は定時で帰れたわよ!! あっ、靴がある。
 太盛さん、帰って来たんですか!!」

にぎやかなる声はミカである。彼女の声は高く活舌が良いので
50メートル先にいても聞き取れることだろう。

「このボケ娘が!! あんたが騒ぐと家電が壊れるんじゃ!! 
 あたしのスライム・マグカップ弁償せえ!!
 これ東京ソラマチ(スカイツリー)で買ってきたんやぞ!!」

「騒ぐでない愚か者よ。たかが電子レンジごとき、
 扉を力ずくでこじ開ければよろしいこと。
 さあ。今から開けて差し上げますわ」

「やめえ!! やっぱやめえ!! おまえの怪力で
 殴ったら中身まで破壊されてまうわ!!」

「あなたがマグカップがどうとか騒ぐから…」

「マグカップも大切やけど、その前に電子レンジを壊すな!!
 うちは家電をほいほい買い換えられるほど豊かやないんやぞ!!」

外野がやかましい(;・∀・)
我ら夫婦?はお帰りの儀式として、手を繋ぎながら
ソファに腰かけ、今日の出来事を話し合うのだ。
ミカはフチなしの眼鏡から。黒縁の大きな眼鏡に変えた。
なぜだか眼鏡を買えただけで、ぐっと愛らしくなった。

女人は心の繋がりを重視する。
しっかりと相手のことを見つめ合い、言葉を交わすことを
何より大切にする。話の内容はだからなんだ、
と言ってしまいたくなるほど、たわいもないことである。

我は学校教員ではないので他所の子供達や
教員同士の人間関係に興味なし。
だが興味のあるふりをする。愛する妻だからな。

ミカは話しが長いので、こちらはうんうん。それで?と
適度に頷くのみ。その最中、ミカの薄い口紅に不覚にも
欲情してしまい、胸を触る。ブラ越しでも柔らかい。
我の愛部の結果か、女性ホルモンの分泌が活発になり
ミカの胸が少し成長したようだ。気のせいでなく、触った感触で分かる。

「それでね、たか子さんって名前の家庭科の先生が私の友達なんですけど、
 34歳なのにまだ独身なんです。今まで付き合った男はいるんですけど、
 男達より年収が高いせいか最後は破談になっちゃうみたいで、
 すっごく可愛そうなんですよね。正確は良い人なのに」

「ほうほう。もったいないな。その人はまだ結婚は諦めてないのか?」

「はい。まだ婚活は続けてるみたいですよ。調理師免許も持ってて
 料理とか完璧なんですよ。この前一緒にいきなりステーキに
 食べに行った時に婚活パーティの話を聞いて…」

いきなりステーキは令和2年に親会社(フードペッパーサーボス)が
倒産したため、全店閉鎖されたが、今は経営者が変わり営業再開した。

「結婚はすればいいものってわけじゃないですけど、
 結婚したいのに一生独身ってのもかわいそうですよね。
 それにバツイチにの人達はみんな再婚相手探すのに苦労してますよ。
 その点、私はダーリンがいてくれてよかった」

軽く口づけを交わす。その間もミカの胸をもみもみとしているのだが、
ミカは気にしておらぬ。ミカは真正のⅯなので軽い刺激では興奮しないのか。

「(´∀`*)ウフフ 私の胸がお好きでしたら、ずっと触っていてもいいんですよ?」
「(*´Д`)ハァハァ ミカ。好きだ」
「私もぉ(*´ε`*)チュッチュ」

我のセクハラにも快く応じてくれる。
我がミカに惚れこんでいる理由の一つがこれだ。

「ただいま戻りましたわ……」

ガゼルに変身したはずのマリンが戻ってきたのだ。
外で頭を冷やして夕飯の支度をしてないことに気づいたらしい。

「言うなら今しかないか」

我はソファから立ち上がり、声を張り上げる。

「皆の者、聞いてくれ!!
 我は今日、会社の入社説明を受けに行ったわけだが、
 なんとミウと会ってしまった。あの高野ミウである。我の妻の一人だ!!
 ミウは我と同じくパート従業員として入社してきた!!」

テレーズとマリンがいさかいを止め、こちらを注視する。

「ミウの目的はよく分からぬが、今日とんでもないことを言われた!!
 ミカと子供たちを捨てて、ミウと一緒になれと言われたのだ!!
 もちろん認められるわけがない!! 我は今更ミウとの仲を戻すつもりはない!!
 なぜなら我はすでにかけがえのない家族を手に入れいているからだ!!
 我は明日、ミウと離婚しようとはっきり宣言しようと思う!!」

みな唖然とし、時間の流れが止まる。

そんな中、テレーズが我のバッグの中に入っていた名札を取り出し、

「パパの苗字が高野になっておりますが」

そう。大問題である。

「これでは会社、という世間の中ではパパは高野ミウと夫となってしまします。
 これはこれで問題があることかと存じますわ」

「そなたの言う通りだ。したがって我は総務部に速やかに抗議し、
 苗字を堀に変えてもらおうと思っている。むしろ有田でも構わん」

「入社時に渡される名札が、なにゆえ高野太盛となっているのでしょう?」

「それは我も分からん。履歴書には堀太盛と書いたのだが。
 配偶者の欄も丸を付けておらん」

「ミウが裏で工作をしたと考えるべきなのでしょう」

背筋がゾッとする。テレーズの仮設通りだとすると、
株式会社バーテックスは共産主義と関わっているとも…。

ミウとバスで腕組した件で
アナスタシアの娘のマリンに説教されてしまい、
二度とミウと会社でイチャイチャしない旨の宣誓書を書かされた。
書初めである。アラビア書道で書いたところ、
やり直しにされたので仕方なく日本語で書く。

日本語書道とは、こんなにも難しいのか。
我の字はミミズのように右往左往し、安定することがない。
内容は下記の通りだ。

『僕はミウと絶対に浮気しません。
 ミウは死ねばいいと思っています。四年三組 堀太盛イフリート』

四年三組……我は小学生だったのか……。

エリカの娘のマリンが鼻を鳴らして言う。

「ほんまに少女漫画でありがちな展開やんな。
 ミカちゃんとのよりを戻したら、また新たなライバルが
 現れて関係が複雑になる。長編の少女漫画では好きな男と
 くっつきそうになると。またなんかあって離れる。
 で、それを解決したらまたくっついて…」

パシン

偉そうに講釈を垂れているマリンを、テレーズが平手する。

「展開予想をするのは淑女のすることではなくてよ」

「いったぁ……ボケに対するつっこみにしても、
 おまえの力は歯が折れるほどの勢いやぞ。このガキが!!」

テレーズとマリンは仲が悪いのか、とっくみあいをして
床をゴロゴロと転げまわっている。
喧嘩するほど仲が良いのだろう。
元気が有り余っていて微笑ましいものだ。


翌日。出勤二日目である。いよいよ現場へ配属だ。
我の名札には『バラエリア』と表記されている。
2Fか3Fの配属となるらしいが、細かい場所は不明だ。

我のシフトは13:00から21:00である。
ドキドキしながら昼礼(13:00)に出ると、

「本日から配属されている方は、ビデオ講習となります。
 先日集まっていただいた、大会議室へ移動してください!!」

なんと、またしても座学である。
各エリアでの作業内容をビデオで見て学ぶのだ。
我らの職場は全自動ラインにて多少の機械操作を要する。
といってもタッチパネルの操作、ボタンを押すなど
覚えてしまえば難しくないが、いちいち細かい。

自動レーンに乗って流れてくる日用品をいかにして
指示通りに仕分けるかである。品物はスーパーと
ドラッグストアに出荷するのものだ。

我はドラッグストアでの品出しの経験があるので
手に取るように仕分けられることだろう。今回は
荷物を受け取る側でなく送る側になったというわけだ。

紙の作業マニュアルも渡された。全部で五種類の
部署があるのでそれなりにぶ厚くなる。
16:00になると座学を中断し、3Fの部署へ全員で移動する。
この時間のシフトはまだ人数が大勢いるが、17:00以降は
かなりの人数が減る。理由は簡単でほとんどの従業員が
子持ちの主婦だからだ。平均年齢は50才前後だろう。

「初めてお仕事だから、なんだか緊張しちゃうね?」

問題はミウである。
高野ミウは、他のパートと同じく私服にエプロン姿だ。
ミウは普段は長いスカートを履いているので、
ジーンズ姿が新鮮ですらある。(現場職ではスカートは禁止だ)

ミウは誕生日を迎えて28になった。明らかに他のパートより
若く、また明らかに美女である。ミウは正確に難があるが、
あのマリエやエリカからも美しさを認めらているほどだ。

化粧もわざと濃くしているのか、匂いたつほどの色気がある。
ウェーブのかかった毛先の細い髪の毛を、後ろでまとめて垂らしている。
ポニーテールヘアがまた素晴らしく似合っている。

本社から派遣されている男性社員たちも、
暇さえあればミウをちらちらと見ておるぞ。
鼻の下を伸ばしているのだろう。
今では我が妻でないと思っているから警戒はせぬが。

「はは(>_<) ミウでも緊張することあるんだね」

「それはそうだよ。だって初めてのお仕事なんだもん」

ミウの口調は高校時代から少しも変わっておらぬ。
話し方はなぜか疑問形で終わることが多く、端的な言葉で
ぱっぱっと自分の意見を言う。たまに英語を話す。
日本語を話しているつもりで英語が出るのは自覚がないようだ。

本日はMPSという名のラインに仮配属される。
1番から45番までのレーンに階段が設けられ、それらの階段に上がると
そこが職場になる。目の前にタッチパネルがあり、そこに社員番号を入力する。
目の前に二つのレーンがあり、それぞれ二種類のトレーが行き来する仕組みだ。

あるトレーから商品を取り出す。
出荷用のトレーに商品を入れる。
重みを感じて自動でトレーが流れていく。
我らは商品を取りに行く必要もなく。勝手に向こうから流れてくる。
すなわちピッキングの仕事なのに作業者は一歩も歩く必要がないのだ。

なんというレーンの数だ……。ジェットコースターの
線路のように、天井から床まで複雑に敷き詰められ、
そこをあらゆるトレーが行き来する。

そして誇り一つ落ちていない清潔な倉庫。
各柱に等間隔に備え付けられた、6センチのフルレンジ・スピーカーからは
優先で音楽が流れる。現場のトイレにも音楽が流れるからお店の気分である。

小説ではとうてい表現しきれぬ。
この施設は、間違いなく世界最先端の卸売り倉庫である。

「みなさんは初めてですので、二人一組でコンビを組んでください!!
 やり方は社員が回りながら教えますので、
 それまでその場で待機しててください!!」

我はミウとコンビを組むことになる……。
遺憾だが知り合い(というか妻)なので
見知らぬ他人よりはましか。
我らは立ち上げ組にて全員初心者なのだ。

ふむ。暇だ。社員の話によると、
今日のピッキング作業は午前中で終了しているらしい。

新倉庫の立ち上げに伴い、翌月の半ばまでは全人員に対し
予定物量の40%しか入ってこないため、
基本的には暇らしい。我ら2100までのシフトの者には
早帰りをお願いすることさえあるらしい。
一円でも多く稼ぎに来ただけに、複雑な気分である。

いつまで待機すればいいのか。
15分経っても商品が流れてこないぞ。

「太盛君ってさ」

そうすると隣にいるミウと話をせざるを得ない。
作業場は一人用なので狭い。自然と肩を寄せ合う形になる。

「どうしてこの会社に入ろうって思ったの?」

「令和10年はどこも最低な会社ばかりだからね。
 この会社なら(連結の)売り上げ規模が1兆を超えるし
 設備投資に500億も使ってるから給料もしっかり払ってもらえると
 思ってさ。あと職場が綺麗だ。ピッカピカだ」

「前のウレルシアは大変だったみたいだね?」

「そりゃもう。象に襲われて弓で腕を撃たれたからな。
 命があるだけでも御の字ってものだ」

「傷はもう大丈夫なの?」

「ミカに手当てしてもらったから大丈夫さ。
 あっ。ごめん。ミカのことは…」

「気にしてないって(^○^)
 太盛君は、本当にミカさんと仲良しなんだね」

「あ、あのさ。昨日の事なんだけど…」

「言わなくてもいいよ、太盛君の顔を見れば全部伝わってるから。
 太盛君は確かに家族のみんなの前で昨日の件を伝えたけど、
 私と離婚したいと思ってるんだよね?」

ミウの発した殺気のせいで、前後のラインに配属された
作業者たちがこちらに注目する。我らの名札には
高野と表記してある。アホな夫婦だと思われていないかと冷や汗をかく。
そもそも夫の我がパートをしている時点で尋常ではないか。

「うふふ。(^○^) 太盛君ったら面白いこと言うんだね。
 私と正式に結婚して子供(ジュニア)もいるのに、
 浮気相手のミカのところに行っちゃうの?」

「ごめん(>_<)……。でも俺は……」

「あー、そういうの許せないなぁ。ここが職場じゃなければな。
 もしここが学園だったら太盛君を尋問室に連れて行って
 再教育させたくなっちゃうよ」

ここにアナスタシアの娘のマリンがいれば、と思う。
我は学園での拷問室(尋問室ともいう)の鉄と血の匂いを
昨日のことのように思い出す。マリンのマリーダの力で
いっそこの女をどこか遠くの世界へ飛ばしてしまえば……。

「太盛君。冷や汗がすごいよ? 汗ふいてあげようか」

「いや、いい。ミウこそ美人なのに俺みたいな甲斐性なしでいいのか?
 俺は浮気性だし収入もないし、自分でも最低だと思っている。
 こんな男より…」

「学生時代から何度も言っているでしょ。私には太盛君以外の人は
 考えられないの。太盛君と一緒にいないと生きてても楽しくないもん」

その割には渋谷賢人なる男と浮気をしてたのは気のせいか?
我はこの小説の第二シーズンの終盤を読んで確認する。
確かに浮気している……。体の関係まで持っているようだ。
そうだこれだ。これをネタに使わない手はない。

「おまえだって浮気してただろうが!!」

お笑い界でも通用するキレ芸。渋谷賢人のまね事である。

「何が俺と一緒にいないと楽しくないだ!!
 嘘ばっかりつきやがって。俺より若い男と
 一緒に小屋で寝てたくせによく言うよ!!
 おまえみたいな浮気性の女とはもうごめんだ!!」

「太盛君、落ち着いてよ(>_<)
 今仕事中なのに大声出したら怒られちゃうよ」

さらに初代学園生活の終盤でも、高倉ナツキと浮気していたことを
確認。なんと付き合っているではないか。やはりミウは浮気性だ。

「そうだ!! おまえはナツキ殿と再婚するといい!!
 これで俺とお前はもう夫婦じゃない!! 完全に終わりだ!!
 終わり!! はい終わり!! もう俺たちは別れました!!」

「もうやめて。それ以上大声出したら制裁されちゃうよ(>_<)」

ミウの忠告を聞かなかったのがまずかった。
社員の人が近づいて来て、無言で腹パンを食らわしてきた。

我はラインの階段から転げ落ち、酸素が取り込めない苦しみに
あいでいると、寄ってたかって社員の男たちが寄ってきて、
我を足蹴にする。なんだこれは。完全なるリンチではないか。

なんでも、仕事中に夫婦喧嘩をした罰らしい。

「すみません(>_<)すみません(>_<)
 私の夫がご迷惑をおかけしました」

ミウが平謝りし、大事には至らなかった。(いやすでに大事だろう)
我はミウに肩を借り、ラインの階段を登る。
土足で蹴られたので体中が汚れてしまった…。

「太盛君ったら、ちゃんと就業規則を読んでないから
 そうなるんだよ」

「なに?」

我らは入社時に生徒手帳のような小冊子を渡されていた。
表紙にはポケット・バーテックスと書いてある。
それによると、

以下の人は制裁の対象となります
・勤務中に騒ぐ人
・集中力が乱れている人
・仕事のミスを繰り返す人

以下の人は口頭注意の対象となります
・家庭の事情で遅刻・欠勤を繰り返す人
・夫婦の仲が悪い人
・妻を大切にしない人

以下の人は拷問や銃殺の対象となります。
・理由に関係なく、月に4日以上休んだ人
・理由に関係なく、遅刻と早退を月に5回以上した人
・同一のミスを月に3回以上した人

どうやら我は制裁の対象となっていのか。
制裁の内容も多岐にわたり、社員の裁量で決まる。
我は新入パート社員のため腹パンで済まされたと考えるべきか。

「この会社では夫婦の仲の悪い人も注意されちゃうみたいだよ」
「変わった会社だな。仕事内容と夫婦仲に関連性があるのだろうか」
「家庭のこともうまくできない人は、仕事にも期待できないってことじゃない?」

ここでミウがすさまじい形相で我を睨んだ。
なんという迫力だ。膝が震えてしまう。

そんな時に商品がようやく流れて来たので、社員の男性の
指示に従ってピッキング作業をする。ミウへの恐怖で
それどころではない。作業内容は3分で覚えられるほど単純だったのだが。

5個ほどの商品をピックすると、もう商品が流れてこない。
我ら同期一同は、みな手持無沙汰で、コンビを組んだ者同士で
雑談をしている。この会社では暇な時間は雑談はおkとなっている。

本来なら掃除やゴミ捨てをするのだが、今は入社して
間もないため、ボケっとしていて問題ないらしい。
まもなく18時だぞ。18時から同45分までが夕食休憩だ。

~~~ぴんぽんぱんぽーん

『遅番で勤務するパートの皆さん。本日は出荷量が少ないのでwww
 さーせんすけどwww6時で帰ってもらっていーっすかwww
 とりあえず、メインまで集合っすよwwww』

メインとは、社員が駐在する中央の一角のことをさす。
倉庫は広大過ぎて迷子になりそうなレベルだ。
メインにホワイトボード、パソコン、
各種備品、タイムカードを打つ機械がある。

病院で例えると、まさしくナースステーションだ。
『モンゴルへの逃避』の、我の娘にナースのレイナがいたことを思い出す。

我らはメインで終礼をしてから解散となった。
しばらくの間は早帰りになる可能性があるとのこと。
せっかくアナスタシアの娘のマリンに弁当を
作ってもらったのに無駄になったか。

さて。車で帰りたいところだが、我は車を持っておらん。免許もない。
帰りはバスに乗るのだ……。

「一緒に帰ろうか?」

ミウが我の手を強く握り、いかにも仲睦まじい夫婦を装うとする。
しかし他の従業員たちは我らには関心を示さず。みな淡泊なものだ。

バス停で別れる時、足を思い切り踏まれた。

「ぐああっ」
「しっ。騒がないで。私の話を最後まで聞いてね?」

口を手で塞がれて声を出せぬ。

「今日私と離婚したいって言われた時、本当は殺してやりたいほど
 ムカついたんだよ? 私は優しいから慈悲の心で太盛君を許してあげるけどね。
 でもね、次はないよ。今夜家に帰ったらよく考えて見て。
 自分がどうするのが最善なのか。
 太盛君は馬鹿じゃないから、すぐに気づいてくれると信じてるよ」

左手の手首を信じられぬほどの力で握られ、折れてしまうのかと思った。
我は涙目になりながら頷き、なんとか開放してもらった。

あとでメールを読んでと言われ、ラインを開くと
嫌味のように大量のジュニアの写真を送られていた。

太盛ジュニアよ……。我の子供の中で唯一の男の子である。
屈託なく笑う、太陽のように美しい男の子だが、母親がミウ……。
あの環境で育ったら間違いなく拷問狂に育つのだろうか。
なんだか我の子供だと思いたくなくなる。

ミウめ……。何をされようと我は考えを改めぬぞ。

太盛とミウ かつのて夫婦。揺れる心

  賢者・堀太盛イフリートの語りである。

帰宅後、アナスタシアの娘のマリンに腕の状態を心配された。
念のため湿布を張るべきだと繰り返し主張するので従う。
確かに赤く腫れているが、後に残るほどではない。

ついでと言わんばかりに。テレーズが我の携帯から
太盛ジュニアの写真を削除し、さらにミウのLINEごと削除してしまう。
しまった……。ミウとは別れるつもりだが、職場が同じなのだ。

この件が明らかになったらどうする。
職場では夫婦仲が悪いと制裁されてしまうのだぞ…(;´・ω・)

あの女と同じ職場にいるのは色々な意味で問題があるとして、テレーズは

「いっそ転職を検討されてはいかがでしょうか?」

と言う。だが我は入社してしまったのだ。

あの職場は最新技術が導入された物流倉庫である。
ただ職場で日用品のピッキングをしていればよいのだ。
これといって重量物もないし、ドラッグストアのアルバイトに比べたら
格段に楽な仕事だ。令和10年でこれ以上の仕事は容易には見つからぬ。
さらに転職活動は精神的に大変な苦痛を伴うものだと前回の転職で知った。

「あの女に何を言われても、
 パパの意志が強ければ問題ないやろ。意志が強ければ、な」

エリカの娘のマリンに言われてしまい、返す言葉が思い浮かばぬ。
我ながら情けないと思うが、我は嘘偽りなく、
今一緒にいる家族を愛おしく思っている。

「あなたのその言い方はお父様をバカにしているのでしょう!!」
「うわっ、いきなりやかましい声ださんといてや!! 心臓止まるかと思ったわ!!」

二人のマリンがいつものように口論を始めてしまう。
アナスタシアの娘のマリンは優しいから我をかばってくれるが、
ごく普通の感覚で考えればエリカの娘のマリンの言うことが正論であろう。

勤務開始後、一週間が経過した。
早帰りをしたのは初日だけで、二日目以降は21時まで働かせてくれた。
といっても今月は本稼働ではないため、暇な時間が多い。
ラインの前に立つも、品物が流れてこないのである。
全労働時間の内、半分はボケっと立ち尽くすのみ。少々笑える。
立っていても社員から文句も言われぬので、楽に金を稼げて良いと考えるべきか。

また愉快なことに、暇つぶしに前後のパート同士で
おしゃべりを許可されている。他の者にとっては
互いの親睦を深めるための貴重な時間なのだろうが、
我にとってはまずい。

勤務三日目の出来事である。

「私に内緒で私のLINEを削除したんだね。
 信じられないよ太盛君。
 太盛君は私の夫だって自覚を忘れちゃったのかな?」

ミウはわざわざ我の職場の配置場所(配属部署は同じだが)
までやってきて、恨めしそうに我の靴を踏み、体重をかけてくる。
焼け付くような痛みで絶叫しそうになる……。
爪だけでなく骨ごと折ろうとしているのか。

「これ。暴力はよさんか。ここが職場であることを忘れたか」

「太盛君が私を怒らせるのが悪いんじゃん」

「(;^ω^)わ、分かった。もう一度ラインを登録する。
 本来なら勤務中のスマホは厳禁なのだが、隠れてやれば
 みつかるまい。ほら、そこへしゃがみこめ」

止む無くミウの肩を抱き寄せ、ラインの番号を交換した。
吐息がかかるほど顔を近づけたためだろうが、ミウの顔が赤くなっている。
我はミウの態度が滑稽に思えた。まるで学生ではないか。
夫婦として子孫まで作った関係なのに今更女学生のように照れるとはな。

「どうだ。これで満足したか?」
「次は謝って」
「むうΣ(゚Д゚)?」
「私の連絡先を勝手に削除した件を謝って。謝ってくれたら許してあげる」

この時のミウの顔は尋常ではなく、
我は耐えがたき恐怖により少々漏らしてしまった。

ミウに蓄積された怒りによって会社中のレーンがガタガタと揺れ、
社員らのいるナース・ステーション(正式名称はメイン)の
パソコンのいくつかが異常動作を起こして煙を吹いた。

「ミウ。本当にごめんなさい」

m(__)m 土下座である。
周囲のパート諸君から失笑が漏れる。
職場の床はピカピカなので土下座することに抵抗はないが、世間体が最悪だ。
ミウは周囲には職場で夫婦喧嘩をしているだけですからと伝えてしまう。

「そうそう。それでいいんだよ太盛君。
 太盛君は悪いことをしたんだから、ちゃんと謝らないとね。
 うんうん。イイ子になった太盛君は大好きだよ?」

その日からミウの精神は安定しなかった。
饒舌に話しかけて来る日もあれば、急に無口になって
何を話しかけても無視されることもある。

おかしい。我の妻はここまで気分屋だっただろうか。
職場ではパートさん達は、休憩時間など休憩スペースのソファ
(50人掛け)に座って談笑しているのに、ミウは交わらない。

比較的若い女性パートと話し込んでいることもあるが、
ほとんどは一人で難しい顔をして座ったり、
スマホを永遠といじっているかのどちらかだ。
ミウは、腕組をして足を組むことが多い。どことなく怖い。

ミウは学生時代は長い髪の毛をストレートで垂らすか、ツインテールにしていた。
今はポニーテールにしている。高い位置で髪をまとめるシュシュが可愛らしい。
シュシュは日替わりでデザインが変わる。
どれも派手な柄だが小顔で美形のミウにはよく似合う。

化粧が多少濃い気がするが、やはり目鼻立ちが他の女生徒は一線を画す。
我はこの女のことが嫌いだが、顔の造形だけは認めざるを得ない。
他のパートさん達が40代以上がメインなので余計に美貌が目立ってしまい、
いい意味でも悪い意味でも職場で浮いてしまっている。

夕飯の休憩は18時から45分間だ。

ミウは我と一緒に食事をとる。男女で食べているのは我らだけだ。
おまけに食堂の入り口に最も近いテーブルで食べるものだから、
最初は大いに注目された。だが皆の衆も慣れたものだ。

遅番勤務所は多くない。食堂にいるのはせいぜい20名にも満たぬ。
3日もすると我らに関心を失い、みな静かにおしゃべりしながら食べている。

「ごめん。電話しなくちゃならないから、先に食べてていいよ」

ミウは我との食事を楽しみにしていたのだろうが、学園の校長の地位に
いるためか何かと多忙だ。特に電話が多い。勤務中にあった着信には
休憩時間に折り返しかけるのだ。営業レディーのごときである。

妻のこういう姿を見ていて思う。
ミウはやはり現場でパートをやっている人間ではない。
共に食事をしていても人の上に立つ者の貫禄があり、圧迫感を感じる。

何気ない雑談でも行政を始めとして、金融、経済、財政、貿易の話ばかりで
常の28の女の好む話題からかけ離れている。
他の従業員のうわさ話をしたことがない。
たまに英語会話が突然始まる癖も尚っておらん。
妻が甲高い本国(エゲレス)英語を発音すると
さすがに食堂の視線がこちらに集中するのものだ。

「今戻ったよ(^○^)」

「うむ。ミウは実に多忙であるな。一日中電話が鳴っているようだが」

「校長職を優菜さんに任せてるとはいえ、あくまで代理だからね。
 重要事項に関しては、最終的に私の許可がないと
 進められない決まりになってるの。説明すると長くなるんだけどね」

ミウは早口で話しながらも夕食を食べ終えてしまう。
ミウは弁当を作ってくることはなく、毎日コンビニ食だ。
サラダは毎日食べるようだ。主食はスパゲッティやサンドイッチなど
簡単なものだ。どう考えても栄養が偏ることであろう。

ミウの目に下には、濃いクマができていた。あまり寝ていないのだろう。

我はその日家に帰り、ポケット・バーテックス(会社版の生徒手帳)を読んだ。
妻を大切にしない者は制裁の対象となるのか……

振り返ればミウとの結婚生活は5年もあった。
学園の校長たるミウの圧倒的なる
収入によって我は生かされていたのだ。

我はアナスタシアのマリンお手製のお弁当であり、
冷凍食品の種類は全くと言っていいほどなく、ほぼすべて手作りだ。
緑黄色野菜を中心に栄養バランスに全く問題はなく、会社の
電子レンジで温めれば、18時以降の夕食でも美味しくいただける。

我ばかり良い思いをしていると、ミウが不憫に思えて仕方ないのだ。

我は遅番のシフト成りて、帰宅後は再び夕食を取り風呂に入る。
深夜の1時半に就寝し、朝は9時半には目覚める。
軽く部屋の掃除を済ませてから、
体操とストレッチをし、11時前には昼食を食べる。

その日は体操をせずに10時にはキッチンに立っていた。

アナスタシアの娘のマリンの作ってくれた弁当はすでに出来上がっている。
朝ごはんの支度のついでに我のお弁当を作ってくれるのだ。
我は、ミウのためにお弁当を作ろうと思っていた。

我は日本食の料理の仕方など知らぬが、
卵を焼いたりウインナーを炒める程度なら簡単だ。
冷蔵庫を開けると新鮮なブロッコリーがある。
炊飯器の中にはご飯も十分にある。

さて。ここでお弁当箱を買ってないことに気づいた。
しまったと思い、食器棚の奥を探ると奇跡的に使われてない
お弁当箱があった。男性用で少し大きめのサイズだが、
よく食べるミウにはちょうどいいだろう。

弁当箱を丁寧に洗い、さあこれからだと思ったところで

「お父様?」

アナスタシアの娘のマリンに声を掛けられた。

「お父様ったらご自分でお弁当を作られているなんて。
 私の作ったお弁当の量では足りなかったのですか?」

「(;^ω^) なに。そういうわけではないのだ。
 少し事情があってな」

「Σ(゚Д゚)まさか私のお弁当の味がお口に合わなかったと?」

「違う!! 断じて違うぞ!! 
 マリンの作ってくれるお弁当は最高の味だ!!
 心から感謝しておる。我がお弁当を作っているのはだな、
 我のためではない。その……なんというか。まああれだ!!
 とにかくそういうことだ!!」

「(;一_一) なにか隠し事をしてらっしゃるようですね。
 前から思っていたのですが、お父様の煮え切らない態度は
 気に入りませんわ。だったらいっそのこと!!」

マリンはガゼルに変身し、我に突進してきた。
我はおよそ20メートルも吹き飛ぶかと『思われる』勢いで激しく転倒した。
ガゼルが馬乗りになり身動きができぬ。

「(# ゚Д゚)本当のことをおっしゃってください!!」

「ミウに」

「(#一_一) はい!?」

「ミウに食べさせようと思ったのだ!!
 ミウは普段はコンビニ弁当だからだ!! まあ聞け!!
 あいつもあいつなりに学園の校長職をこなしながらも
 バーテックスで働くなど多忙を極めて見る身であり、
 最近頬がこけて来たかのように感じてな、また家でも睡眠をあまり…」

我がまくしたてる間に、マリンが大きく吠え、家中の照明が
ついたり消えたりを繰り返した。マリンは人間の姿に戻ったかと思うと、
生まれたばかりの赤子が白髪になってしまうほどの形相で我に言った。

「これほどの屈辱を感じたのは、母上が殺されたと知った時以来でしょうか。
 ミカのみならず、家族全員が懸念したことですが、お父様は職場で働いて
 新しい女を見つけるとすぐに浮気を始めてしまうのですね」

「待たれい。浮気も何も、我は同僚のミウに気を使っただけであり…」

「ミウに気を使うことは浮気も同様!! 否それ以下と言えましょう!!
 (# ゚Д゚) お父様はご自身の発言をお忘れなのですか。
 ミカと結婚する。そしてミウと別れるとはっきり言うと」

「この生徒手帳(ポケット・バーテックス)に目を通すのだ。
 夫婦仲の悪い者は制裁の対象とまでなっている」

「(#^ω^)確かに書かれておりますが、だからなんですか?
 そんな規則破ればいいのです。
 もし会社が今後もうるさく言ってくるのでしたら、転職するべきでしょう」

「転職は容易ならざることであるぞ!! 我に保険会社の勧誘員か、
 軍事工場で働けというのか!! もしくはオレオレ詐欺のテレアポか!!」

「とにかくミウにお弁当を作るのはやめてください!!」

「いやだ!!」

「どうしてですか!!」

「嫌なものは嫌なのである!! いやだあああああああ!!
 我は誰に何と言われようとミウにお弁当を作ってあげるのだぁあ!!」

我イフリートなり。齢27にて駄々をこねる。実の娘の前で。
仕方ないのだ。万策尽きるとはこの事となり。

我は駄々をこねながらもニュージーランドの先住民族、
マオリ族を模倣したダンスを披露し、
今回の件をうやむやにしようと試みる。

「先ほどから何をされているのですか?」

やはり効果はなかった。
渾身の力で踊ったのだがな。
こうなったら最後の手段だ。

「マリン。こっちへ来なさい」

「きゃあ!!」

マリンを抱き寄せてキスしてから、マリンの部屋へ連れ去る。
家庭内誘拐(拉致)である。

「いやぁ!! やめて!! 
 こんな時にキスされても全然うれしくないわ!!」

「いいからおとなしくするのだ。すぐ終わるから」

マリンの服を脱がし、生まれたままの姿にしてしまう。
そして太陽が西から東に登るかのような勢いでマリンをイカせてしまう。
俗にいうレイプである。相手は女童でしかも娘なので挿入はしておらず指でだがな。
我は妻がたくさんいる身なので、女の身体については詳しい自信がある。
たっぷり30分かけてレイプすると、マリンは気絶してしまった。

マリンのおしっこと愛液で濡れてしまったシーツを洗濯機に放り込まねば。
ふと壁を見ると、芸能人の男子のポスターが貼ってある。
マリンもやはり年頃の女の子なのだなと微笑ましく思いながらも、
ミウの弁当を作ってしまう。すまぬな。調理する暇がなく、
野菜以外の肉類は冷凍商品となってしまった。

出勤後、夕食の時間になる。さっそくミウにお弁当を差し出した。

「°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖° え……? 太盛君が私に作ってくれたの?」

「(*'▽') ミウは最近仕事で疲れてたみたいだから、
 夫として少しは気を使おうかなって思ってさ」

我は何を言ってるのか。夫であることを自ら否定した割に……。
しかしこの日のミウは機嫌が悪いのか、仕事中も難しい顔をしていたのだ。
だからなのか。気を効かせようと学童時代の癖で口説き文句が出てしまう。

「(´▽`*) コンビニ弁当ばかりだと体に悪いだろ?
 栄養バランスが偏ると、お肌にも悪いかもしれないし、
 ミウは若くて美人なんだから肌が荒れちゃうともったいないよ」

「嘘、うれしー(゜-゜)涙出ちゃう(∩´∀`)∩
 太盛君は優しくて超イケメン。大好き!!」

我らは和やかな雰囲気で食事を終えた。ミウはこの日だけは
電話の折り返しをしないどころか、携帯の電源を切ってしまう。

食道から現場まで、軽く散歩するくらいの距離があるのだが、
我らは仲睦まじく手をつなぎながら歩いた。

そんな我らの様子を、ナース・ステーション(メイン)に駐在する
社員共は(・∀・)ニヤニヤしながら見守っていた。気持ちの悪い笑みである。
奴らにとって男女が仲良くすることに何の得があるのか。

その日も21時に仕事が終わる。タイムカードを切り、ミウと腕組みして
退社し、寒空の下、バスを待つ。満月が目の保養だが微風が肌を刺す。

(`・ω・´) ミウ。寒いからもっとこっちへ寄れよ

(^○^)    う、うん 

(`・ω・´) 今更かもしれないけど、言わせてくれ。
        俺は君のことを、愛してる。

ミウはうれしさのあまりか、ぽろぽろと涙を流している。
吐く息がますます白さを増す。心なしか呼吸が荒くなっている?

(;・∀・) ねえ。さっき言ったこと、もう一回言って。
(*^▽^*) いいよ。俺はミウのこと、愛してる。

ミウの吐息がますます荒くなり、ついにキスを迫って来た。
我としては断る理由がないので、快く応じた。
夫婦として何度も重ねた唇だ。だが間を置くとこんなにも
新鮮に感じられるものか。

先ほどから駐車場にいる別の従業員共から視線を感じるのだが
気にしたら負けである。我はミウを力強く抱き、バスが来るまで
見つめ合っていた。もはや我らの愛の深さゆえに言葉など不要か。

我らはバスを途中下車し、近くのホテルで一晩過ごすことになった。
久しぶりに見たミウの身体は、満月が目の前に現れたように綺麗だった。
決して手足が長いわけでもなく、胸のサイズも大したことないが、
引き締まったウエストを中心に細身の体が十分に色っぽかった。

とはいえ、子供を産んだ体なので尻の位置が下がっているのが
ジーンズ越しでもわかる。
ここがやはりミカとは違うとは思うが。

そのままのノリで、ミウの住んでいる場所へ行く。
マンションかと思いきや、なんと廃墟ビルである。
危ないので入りたくないと思うほどだが、ビルの二階部分に
居住スペースがある。足利市の学園内に「ミウの小屋」と
呼ばれた空間がそのまま再現されていて驚く。

「私はこう見えて世間から命を狙われてる身だから、
 普通の賃貸物件には住めないのよ」

このミウの小屋は、ミウの指紋認証がないと入れない仕組みだ。
またビルのいたるところにミウの部下が潜んでいて、
不審者が侵入したら撃ち殺される。

小屋の中はマンションの一室がそのまま再現されており快適だ。
我はミウに言われるがままにシャワーを浴びて身体を清め、
ミウもそのあとに続いた。我らは裸でベッドの上にごろんと横になる。

「教えて太盛君。どうして私に優しくしてくれるようになったの?」
「それはだな」

言えぬ。実はあの日、ミウが電話をするために食堂を去った時、
作者殿から一枚の紙を渡されたことなど。
紙には「ミウとイチャラブしろ」と書かれていた。
我は小説に出演していることを自覚するキャラであるゆえに
その通りのことをしただけだ。

「俺は結婚してからずっとミウの収入に頼りっぱなしだった。
 なのにミウには全然お礼らしいこともしてなかった。
 ミウが最近慣れないバーテックスの仕事で疲れてたみたいだから、
 なんだか、かわいそうに思えてさ。
 少しでもミウの疲れを癒してあげられないかなって思ったんだ」

「°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖° 太盛君……」

「ほら。もっと顔を近づけて。キスしてあげるから」

「うん。太盛君、大好き!!(≧∇≦)」

しかし綺麗な女だな……。身内びいきをしても美人だ。
つい最近テレビジョンで見た22歳の美人モデルと比較しても
まったく引けを取らぬ。

我の妻は愁いを秘めながらも、どこか遠くの世界を
見つめている、みずみずしい瞳をしており、なんとも魅力的だ。
乾ききっていない前髪がこれまた色気をかもしだし、力を込めて
ミウを抱きしめ、熱烈なるキスをしてしまう。

「んっ……んっ……」

ミウの舌が我の口腔に入ってきて、唾液を舐めとる。
我の舌と絡まると、エッチな水温を立てる。
ミウの唇からよだれがこぼれ落ちる。

「あ…あんっ」

我の手はミウの下腹部をまさぐっていた。
すでにびしょ濡れになっているそこは、我の指を簡単に受け入れてしまう。
ミウもお返しとばかりに我のいきり立ったアソコを強く握る。
そのまま上下にゆっくりと動かそうものなら、我の口からも声が漏れてしまう。

「太盛君……すきぃ」
「俺も好きだよ。ミウ」

不思議なものだ。結婚してから女として意識してなかったはずの高野ミウ。
今はしっかりと我のペニスが反応しておる。我は日本人として転生したため
長さでは外国人に劣るが、硬度に置いてはダイアモンドに匹敵する。

「太盛君……いいよ。入れて」
「わかったよ」

この家には避妊具が見当たらないため、
構うものかとそのまま挿入してしまう。

「あーっ」

ミウの股を大きく開かせ、奥まで挿入した状態で止まる。
ミウにうつ伏せに覆いかぶさり、唇をむさぼるように奪った。

「ん……ちゅ……ちゅ……太盛くんっ……」

ミウの口の周りは我の唾液で濡れ濡れになってしまっている。
気まぐれに腰を上下に動かすと、ミウが体を左右によじりながら
快楽にあえぐ。また動きを止め、ミウのピンと張った乳首に
赤子のように吸い付く。

「ああぁ、だめぇ……気持ち良すぎ……おかしくなっちゃうよぉ……」
「これ、抵抗したらダメだぞ。我が満足するまでおとなしくしてなさい」

ミウの手首を握り、気を付けを指せるように固定させた。
我の舌の先がミウの乳首をもてあそぶと、ミウは真っ赤になって
身体を小刻みに震わせた。体が熱を持ったようで、
白い肌の上に玉のような汗をかき始める。

また腰をピストンさせて、ミウの奥の奥まで突きあげる。

「ああっ……体が……熱いよぉ……だめっ……あっ……あっ……」

我はミウの手をしっかりと握っているので、我の責めからは
逃れることができぬ。上下に揺れるミウの額に汗がにじんできて、
ますます色気を増している。

「(*´Д`)ハァハァ ミウの中は暖かくて締め付けがほどよい。イッてしまいそうだ」
「(~_~) 私はまだイケないよぉ……もっと強く突いてぇ……」

今度はミウをいじめるように高速でピストンさせた。
ミウは口を大きく開き、部屋中に響くほどの大声であえぐのだった。
ミウは暑がりだからか、よく汗をかく。首筋から汗のにおいが漂うほどである。

「どうだ……ミウっ……感じてるか?」
「うんっ……気持ちいけどぉっ……エアコンの温度を下げてぇ……」

仕方ないのでエアコンのリモコンで温度を三度ほど下げた。

興味深いことに、偶然にも電動マッサージ機、略称・電マが見つかる。
これは良いと思い、スイッチを入れ、ミウのアソコに押し当てる。

「ちょっ!? なにこれえええええ!!」

「なかなかイッてくれないミウを気持ちよくさせるためのものだ。
 さあ動く出ないぞ。おとなしくしておれ」

「これはだめだよぉお!! おしっこ出ちゃうよぉおお!!」

ミウが恥ずかしがって電マから逃れようとするので、
後ろから羽交い絞めにした。なんだか妻にDVをしているようで
罪悪感がないわけではないが、今は肉欲に支配されているので
欲望は止まらない。

片保の手でミウの乳首をつまみ、軽くつねるようにもてあそぶと、
ミウがあえぎ、全身から力が抜けてしまう。うなじから女の
匂いが漂い、我の興奮が最高潮に達する。我はミウの後ろ髪に
鼻を密着させ、甘ったるい匂いを堪能した。

ミウが脱力しているすきに、股を少し開かせ、電マを当てる。

「いやぁああぁあぁああああ!!」
「どうだミウ。たまには道具で感じるも悪くないだろ?」
「それはだめええ。ダメだってばあぁああああ!!」

クリトリスの辺りを狙って電マを押し当てると、ミウのあえぎが
一層激しくなり、耳元で聞くとうるさいほどだ。

「ほらほら足を閉じても無駄だぞ?」

ミウは両足をぴんと伸ばした状態で足を閉じようとするが、
股の間にしっかりと電マが侵入しており、どうにもならない。
ミウはついに抵抗を諦めたようで、ぐったりとした体を
後ろにいる我に預けてくる。

息を大きく吸う音ばかりが目立ち、大声をあげなくなってきた。

「あっ、あっ。あっ、もう本当にだめっ……本当におしっこ出ちゃうよぉ……」
「出しちゃっていいんだよ。俺が全部見ててあげるから」
「(>_<)太盛君のエッチ…」

ミウが片手を申し訳ない程度に、電マを握る我の手に添える。
我はクリトリスと尿道の付近を行ったり来たりするように
マッサージ器の先端を押し当てている。

ミウの吐息が、今までにないほど荒くなり、
お尻を持ち上げたかと思うと、ついに潮が噴き出た。

「いや」

ミウが恥ずかしさのまり顔を両手で覆うが、潮の勢いは止まらない。
放物線を描くように、ベッドから床へとびちゃびちゃと落ちていく。
20秒ほどして止まる。

ミウは「太盛君のいじわるぅ」と言いながら、我の胸に顔を隠した。
そんな妻の様子がたらなく愛おしくなり、休む間もなく膣の中に
人差し指を入れてしまう。

「あうぅ!! まだイッたばかりだよぉお!?」

「むしろこれからだろう。一度イッたあとは
 女の部分が敏感になっているだろうからな」

「あう… だめぇ……力が入らなくなっちゃぅう…」

ミウは正面から我にしがみついてくる。Gスポットをぐりぐりと
指でなでているので耐え切れぬのだろう。当たり前だが、
会社で見る姿とは大違いだ。
口からよだれまで垂らして、快楽に支配されている。

「ミウ。俺は君のことが好きだ。ミウは俺の事好き?」
「好きだよぉ!! 大好きぃ!!」
「そっか。うれしいよ。じゃあ今度はミウが動いてごらん?」

ミウに対し、我の上にまたがるように言った。
ミウは従順に従い、お馬さんごっこの練習をすることになった。
ミウの股が我のモノを受け入れながらも身体を上下に動かす。

「あっ……ああっ……」

我らは互いに顔を向け合っている。目の前から包み込むように
両の胸を握ってやると、ミウの口から大きな吐息が漏れる。
ミウが脱力しそうになると、容赦なくペニスを下から突き上げる。

「ミウ。いい感じだぞ。俺のことを愛してるんだったら、
 もっと激しく腰を動かして見てくれ」

「ふぁい……太盛君がそういうのでしたらっ……」

ミウは本当に従順な女で、髪の毛を振り乱しながら
腰を上下運動させている。
ミウのお尻の感触が柔らかい。
ミウは快楽であえいだり、歯をかみしめたりと、反応が豊かで面白い。

そのうち我の方が我慢できなくなり、ついにミウの中に
男の欲望を発射してしまう。

「あっ……暖かい……」

ミウが、はっとした顔で動きを止め、ペニスから膣を抜いた。
ミウの秘所から白い液体がどくどくと漏れている。

ミウはわずかな精液を指ですくって、舌で舐め取る。

「少し苦くて、くどい味。太盛君の味だ…」

「昔はよく舐めてたろ?」

「でも私たちって結婚しても、ちゃんとセックスしたことなかったじゃない。
 今日初めて二人が結ばれたって気がするんだけど」

「確かにな。俺たちは夫婦だったはずなのに、
 全然夫婦らしいことをしてなかった気がするよ」

「夫婦らしいことって?」

「言わなくても分かるだろ? 今日みたいなことだよ」

「もしかしてお仕事のこと?」

「違うよっ!!」

「うん。分かってるよ(*´ω`) 冗談だから」

「あはは(^○^) なんだ冗談か」

「うふふ(*^▽^*)」

我らはベッドで抱き合い、時間を忘れてキスをした。

さて、これからどうしようかと思う。
ミウから帰宅の許可が出たので家には帰ったのだが、
深夜の一時過ぎであり。遅番にしても遅すぎる。
前述したが、会社が本稼働の前であるゆえに、
残業をしていたとも言い訳するにも難しい。

まず玄関を音を立てぬように空け、さっさと着替えて寝てしまおう。
この時間なら家族は寝静まっていることだろう。

「お父様?」

まずい。廊下で娘に声を掛けられた!!

マリン「お父様が私たちに内緒でミウと逢引を……?」

~~じ わいずまん おぶ せまる いふりーと セいど~~
(賢者・セマル・イフリートが語った)

「本日はずいぶんと遅いお帰りでしたのね?」

アナスタシアの娘のマリンである。
寝間着姿で眠そうな目をこすっており、これはこれで
可愛らしいと表記したくなる。しかしよく見ると
目は血走り、怒りで今にも爆発しそうな気配を見せている。

「会社のざんぎょ…」
  「現在の稼働率は70%ですよね。
    早出はあり得ても残業などあり得ませんわ」

我はニュージーランドの先住民族・マオリ族の踊りを模倣して
なんとかこの場を切り抜けようとした。
しかし深夜にこのような茶番をしても
マリンの表情が険しさを増すだけで、事態は悪化するのだった。

「貸して」
「あっ…」

我は大きな手提げバッグをマリンに奪われる。
中身は弁当箱だ。我はミウの食べた分も回収したので
二人分のお弁当箱がある。

普段ならば、我の食べた分のお弁当箱はマリンが洗ってくれる。
問題なのは、それとは別に我のお手製のお弁当箱があることだ。

マリンは、怪力によってミウ用のお弁当箱を片手で握りつぶしてしまう。
弁当箱は我らが思うより耐久性がある。
おそらくマリンの握力は600を超えるだろう。

「本当にミウにお弁当を食べさせてあげたんだ。楽しかったでしょ?」
「ま、まあ、なんというか。そのな…」
「この時間までどうしてたの。ミウとホテルにでもいたの?」
「ホテルというか……ミウの住む、小屋にだな……」
「小屋?」

「むう……現在ミウの住居としているところだ。
  浦和市の市街地にあるのだよ」

「パパの服からファブリーズの匂いがするのはどうしてかしら?」
「我は嘘を言うのを嫌う。はっきり言おう。ミウと寝たからだ」
「ほう。そうですか。ミウと寝たのですか」
「あ、ああ。寝た。事実だからそうと言ったのだ」

轟音が、我の耳を突き刺す。

怒れるマリンの拳が、壁に大きな穴をあけていた。
壁パンと称するには、目の覚めるような破壊力であり、
戦車の主砲が壁を通過したのに等しい一撃である。

我は腰が抜けてしまい、漏らしてしまった。
今言える確かなことは、マリンの本気の怒りが我に向けられた場合、
直ちに命を落とすことであろう。

「(´∀`*)ウフフ負 お父様にはきつめのお仕置きが必要かと」

かつてマリンがここまで怒ったことがあっただろうか。
我はしりもちをついたまま、なんとか腕の力だけで逃げようとするが、
無駄な抵抗だと知る。逃げたら両手両足をひもで縛りつけると
脅しをかけられる。我は恐怖に耐え切れずウンコを漏らしてしまった。

「ふたりとも、こんな時間になにしとん」

もう一人のマリンである、エリカの娘のマリンが階段から降りて来た。

「おいマリン。あんたが怒ってる理由は説明されなくても
 だいたい察したわ。パパがうんこまで漏らして脅えてるんやから
 その辺で勘弁したれや」

「……これは私とお父様の問題よ。子供はベッドに戻って早く寝なさい」

「あんたケンカ売っとるんか? 前も言ったけど、あたしの方が年上やからな。
 それより少し冷静になれや。パパは職場の規則でミウと仲良くせなあかんのやろ。
 そしたらミウとベッドインするくらい普通に考えれば予想できる展開や。
 そもそもこんな三流ラノベにまともな展開を期待する方がアホや」

「例え作者の台本通り出しても、許せるわけないでしょうが!!
 何度言ったか忘れちゃったけど、私はパパのことを愛しているのよ!!」

マリンが吠えると、もう一人のマリンは衝撃波により壁に激突した。
マリンの体は深さ5メートル以上は突き刺さったと思われる。
打ち所が悪ければ死んでいるかも知れぬ。

「愚か者たちよ。深夜なのに騒がしいわね」

ついにテレーズまで起きてきてしまう。
このような時に娘たち三人が揃うと
経験上ろくなことにならないことは分かり切っている。

テレーズとアナスタシアの娘のマリンが何やら口論を始めたので、
これは逆にチャンスだと思い、我は自らの衣服を綺麗にするために、
風呂場に直行した。
うんこで汚れた下着類は捨てるしかあるまい。
異臭を放たぬよう、適当なポリ袋に包んでしまおうか……

「( ゚Д゚)イフリートさん、こんな時間に何をされているんですか?」

ミカだ……。
ミウと寝たばかりなのでばつが悪い。
我は正直者なので娘に脅されてうんこを漏らしたことを正直に伝えた。
そうしたらミカは嫌な顔一つせず、汚い下着の処理を手伝ってくれた。

「ミ、ミカ。これで怒るなというほうが無理な話であると思うが、聞いてほしい。
 我は今日妻であるミウの家にお邪魔して情事に励んでしまったのだ……。
 帰りが遅くなったのはそのためだ。君という存在がありながら、
 本当に申し訳ないと思っている」

我は精一杯の謝罪をするために土下座する。
今までミカに暴行されたことは一度も無いのだが、
今回ばかりは骨の一本くらい折られても文句が言えぬ。

すると頭上から上機嫌な笑い声が聞こえて来たではないか。

「(*'▽') イフリートさんが悪くないことは知っていますよ。
 だって作者から渡された台本通りに行動しただけなんでしょ?
 だったら気になさらないでください。それにちゃんとこの家に
 帰って来てくれたじゃないですか。ほら顔を上げて。あなたが
 悪いことなんて何もないんです。私はイフリートさんのことを信じてますから」

それからミカは永遠と話し続けた。

いわく、
ミカは我をどうしようもないほどに愛してしまっており、
例え我が今後浮気をしたとしても、我を憎む感情さえ生じなくなった。
ミカの怒りは浮気相手にのみ向けられており、今夜の一見に関しても
責任は100%作者にあるから、あとで作者を抹殺することは言うまでもない。

今一番するべきことは、我と職場を共にするミウの抹殺である。

ミカは我が妻・ミウのことを「書面上の妻」「書面上の女」と呼んだ。
つまり形だけの夫婦であり、両者の間に愛情など微塵もない。そう言いたいのだろう。

「さっそくですけど、形だけの奥さんの連絡先を教えてくれませんか?」

戦慄する。
ミカはミウに電話越しにでも文句を言うつもりか。
ミウは気の強いどころか、学園の共産主義権力のトップであるぞ。
下手に刺激したら強制収容所送りにされること必至である。

「ダーリン♪ そんなに怖い顔しないで。
 まあ、ダーリンがどうしても嫌だって言うなら構わないけどね。
 あくまでこれは、私からのお願いなんだから」

言葉とは裏腹に、ミカの顔が、外務委員会で会議中の
ロシアのプーチン並みの迫力だったので、光の速さで携帯を渡した。
ミカはミウの電話番号だけを入手するとそれで満足した。

「明日から楽しみですね」

何がだ……そう言いたい衝動を堪え、その日はミカと寝てしまう。
テレーズとマリンは遅くまで口論をしていたようだが、悪いがほおっておこう。
我は明日も仕事なのだ。エリカの娘のマリンは生きているのだろうか?
眠くて仕方ないのでその確認さえ明日に回してしまう。

「うーむ。今何時だ?」

目が覚めると多少の息苦しさを覚える。
どうやらミカの腕に抱かれて寝ていたようだ。
目の前にミカの胸(パジャマ)がある。

「(-_-)zzz」
「これ、ミカよ。もう10時過ぎだ。
 そろそろ支度を始めんと、会社に遅刻してしま…」

ここで気づく。平日の金曜なのにミカが寝ているだと!!
いかん!! ミカは学校教員なのに完全なる遅刻だ!!

「(*^▽^*) おはよー、イフリートさん。
 私なら今日は休むことにしたんですよ。朝7時半に一度起きて
 学校には連絡してあるから大丈夫♪ 今日はですね。
 あなたの職場にお邪魔しちゃおうかなって思ったの」

なんと。ミウに直接文句を言いに行くらしい。
これは過去の文章を読み直しても例がないほどの大問題である。

ミカとミウは名前こそ似ているが、
一度も顔を合わせたことのない間柄である。
そして一触即発になること必至である。

この作品の作者は、何が面白くて我を昼ドラの主人公のように
仕立て上げるのか。これは実際に経験した者でないと分からぬだろうが、
想像を絶するストレスである。すでに胃酸の分泌過剰にて朝ごはんなど入らぬ。

これから発生する事態を考えると、指先が震え、吐き気がこみ上げて来た。
いっそトイレで吐こうとさえ思う。

「ダーリン(>_<) 具合悪そうですけど、大丈夫ですか?
 もしかして私のせいですか? ごめんなさい。
 あなたを困らせるつもりはないの。私は心からあなたのことを
 愛しているから、あなたが困るようなことをしたくないの」

「ミカ。俺はせっかく良い会社に巡り合えたと思っているのに、
 こんなことで首になるのはごめんだよ…」

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!!
 私はダーリンを首になんてさせないわ!!
 バーテックスがお気に入りなら好きなだけ働いていいのよ。
 私はね、あなたの書面上の奥さんと話がしたいなって思って。
 具体的には、どんな人なのか実際に会ってみてみたいのよ。
 決してあなたを首にしたいと
 思っているわけじゃないのよ? 本当よ?」

我の愛する二人の女が喧嘩する姿を想像すると、
耐え切れなくなり、ついにトイレへ直行してゲロを吐いた。
といっても胃酸が多少流れただけ。
激しくせき込み、息が苦しい。
指の震えは止まらず、涙も出て来た。

トイレから出ると、テレーズが待ち構えていて、
我の口元をハンカチーフで拭いてくれた。
ああ、テレーズの高級そうなハンカチが汚れて台無しに…

「パパは疲れてしまったのよ。今日は会社をお休みしましょう?
 お辛いのでしたら、わたくしが代わりに会社に電話しておきますわ。
 今日は何も考えず、家でゆっくりしているがの最善ではないでしょうか」

こんな時なのに思う。仮に我が会社を休むとして、ミウがどう思うか…。

「もう考えるのはやめにしましょう。
 パパは今日は家でゆっくりしてていいのよ。
 ミカの言うことにも従わなくていいわ。
 今日はわたくしも学校をお休みしましたから、
 一緒に家でゆっくりしましょう」

カチャリと音がしたので、何かと思うと、我の右腕に手錠がつけられた。
その手錠は、アナスタシアの娘のマリンの腕とペアで繋がれている。
なんだこれは!! マリンは、いつからそこにいたのか。

「テレーズもそう言っていることですから、
 もちろん賛同してくれますよね?」

この二人は、どうやら結託して悪だくみをする傾向にあるようだ。
美少女達(娘だが…)の目元に濃いクマができていることから、
夜を徹して我の今後の問題を話し合ったようだな。

「ミカちゃんは寝させておいたで…」

エリカの娘のマリンが言う。
どうやらミカの部屋に催眠スプレーを噴射して
強制的に眠らせたようだが…

なぜに愛するミカ(漢字では美香)に狼藉をするのかと問い詰めると、
エリカの娘のマリンはテレーズらに1000回腹パンすると
脅されて仕方なく従っているらしい。
前回と似たようなパターンである。

テ「パパ、痛いかもしれないけど、
  少しの間だけ我慢していてください」

我は全裸にされ、椅子に座らせられる。
後ろ手に縛られ、口にボールギャグを装着させられた。
これでは自由に言葉を発すること叶わず。

出来れば抵抗したかったが、本気で怒った娘たちが
何をするか分からず、されるがままとなってしまった。

このようなことをして意味があるのだろうか。
頼むから会社に行かせてくれ。
最初の一ヵ月は無欠勤にて会社の信用を得ようと
考えていたのに台無しである。

ぴんぽーん♪ ← チャイムの音

Σ(゚Д゚) 宅急便でも来たのだろうか。なんにせよ助かる。
      誰でも良い。我に逃げるチャンスを与えてくれ。

なぜかアナスタシアの娘のマリンが服を脱ぎ始めているのだ。
何を考えているのか知らぬが、どうせろくなことをにならぬ。

「これは……おそらく一番あかんパターンやぞ…」

エリカの娘のマリンが言う。チャイムを無視しても
止むことはなく、むしろ怒りを込めて鳴らしているようにすら思える。

テ「エリカの娘のマリン。玄関を開けてきなさい」
マ「なんであたしが!!」
テ「いいから早くなさい」

言うことを聞かなければ、背中に地雷を装着すると
脅され、しぶしぶエリカの娘のマリンが玄関へ向かう。
玄関をそっと開けると、我の妻であるミウがそこにいた。

時刻は10時半であり、出勤するには明らかに早い時間だ。
なにゆえこの時間に我が家(正確には美香の)に訪れたのかと問うと、

「太盛君に朝ごはんを作りに来たの」

と言う。この言葉に激高したのは、まずアナスタシアの娘のマリン。
続いてテレーズ。この二人の娘の怒りにより、浦和市中の建物という
建物が激しく揺れ、ついには地面に亀裂が生じそうになるほどだった。

「娘達ヨ。ミウを攻撃したら許さぬぞ」
「お父様はギャグを付けているのによくしゃべれますね」
「気合でギャグを噛み砕いたのだ。おかげで歯が何本か抜けてしまった」

我は、もしミウに危害を加えたら、娘達とは2週間も口を聞かぬと言った。
そうしたらテレーズとアナスタシアの娘のマリンは、
大いに動揺し、ミウを攻撃することを諦めた。

「太盛君はどうして裸なの?」
「なに。昨今の日本では室内では全裸で過ごすのが流行しているのだよ」
「椅子に縛られてるのはどうして?」
「ストレッチ体操の一種だな。こうすることで手首の筋肉が鍛えられるのだ」
「むしろ体に悪そうだけど。まっ、いいか」

ミウが買い物袋をテーブルに置き、キッチンに立とうとすると
アナスタシアの娘のマリンが大きな悲鳴を上げた。
その悲鳴によって家中のガラスが激しく振動し、たまたま
上空3000フィートを飛行中だった旅客機の運転にも支障が出てしまった。

「イフリートさんっ!! 急に寝落ちしちゃいました、ごめんなさい(>_<)
 ってあれ? そこにいる女の人はもしかして…」

都合の悪いことにミカが起きてきてしまった。
催眠弾を食らった割には目覚めるのが早すぎる。

エリカの娘のマリンの手際が悪かったせいだとして、
テレーズによる制裁(右ストレート)が発動し、
その衝撃によってマリンは三軒隣の家の壁まで貫通して吹き飛んだ。
なども言うが、普通の人間が食らったら間違いなく即死である。

「ごきげんようマダム。私が高野太盛の妻のミウと申しますわ」
「あ……あらそう。あなたの方から会いにくるなんて、むしろラッキーだわ」

計らずとも、ミカとミウが顔を合わせてしまったのだ。
名前は一文字違うだけだが、類似点はほとんど見つからず、赤の他人である。

「時にマダム。ここは素敵なお家ですわね。うちの旦那がずいぶんと
 お世話になってみたいで、その点については感謝いたします」

「礼には及びませんわ。太盛さんがご自分の意志でここで住みたいと
 おっしゃってくれたので、私は快く応じただけですから」

「調子に乗るなよ。ブス」

「は? どっちがよ。ドブス」

どちらともなく服を引っ張り合う。
殴り、引っ掻き、髪を引っ張り、30分にもわたる死闘となった。

二人のあまりの気迫に我と子供たちは萎縮してしまい、
静止の声さえかけること叶わず。

信じられぬことに美香よりもミウの方が戦闘力は低かったようで、
ボロボロになって涙を流していた。引っかき傷により肌から血を流しており、
髪の毛が何本か根元から抜けてしまっている。さらに左足をねんざしたのか、
足を引きずっているではないか。

美香も怪我をしたのかは知らぬが、ひっぱたかれた頬が赤くなり、
服は乱れ、同じように涙を流している。

「のう。二人とも…」

我が細心の注意を払って声をかけると二人はこちらを向いた。

「俺は最低な男だ。二人が喧嘩する理由を作ったのは俺だ。
 殴るんだったら俺を殴ってほしい」

しかし二人は我には返答せず、涙を流しながらこう言った。

ミウ「私が最初に太盛君と結婚したんだから、私の方が太盛君を幸せにしてあげられる」
美香「あんたみたいな軽そうな女、どうせ他の男とも寝てるんでしょ(第二シーズンの終盤参照)」

なんと哀れな姿だ……。
こうなったのも、浮気をした我が悪いのだ。
ミウという妻を持ちながら、美香やマリーと浮気まがいのことをしたのが
この結果というわけだ。ムスリムでは養っていける範囲では
妻を複数人もつことは許可されているが、我の時給は210円だ。
妻どころか娘一人すら養えないではないか。

冷静に考えると、我は妻帯者になる資格がないのだろう。
彼女らには残酷な結論になるかもしれぬが、事ここに至り、最後の決断をする。

「二人とも聞いてくれ。俺は独身に戻ろうと思う。もちろんミカとも分かれる。
 もう俺は、どの女の人とも付き合う資格はないんだと今知ったよ」

美香は、「は?」と言い、風速40メートル並みの殺気を向けて来た。
ミカに威圧されることに慣れておらず、思わず体が震えた。

ミカ「何言ってるんですか。私は太盛さんと別れるつもりありませんよ」

我「しかし……」

ミウ「私も別れない。離婚するつもりは一切ない」

なんと、二人とも別れるつもりがないのか……(; ・`д・´)
何度も言うが。我は顔も際立って良くないし(ミカや娘はイケメンと褒めてくれるが…)
時給210円で貯金もろくにない底辺な男である。
若い女たちが奪い合うほどの価値があるのか。理解できぬ。

美香が、我の腕にしがみついてきた。
先ほどのバトルの影響か、唇から血が垂れておる…

「イフリートさん。ごめんなさい(*^▽^*)
 私がもっと楽な生活をさせてあげれば、そこにいる人間のクズと
 過ちを犯すこともなかったんですよね?
 これからは私がもっと稼いで太盛さんの生活をサポートしますからね」

「(;゚Д゚) い、いや。別にそういうわけでは…」

「太盛さんはこれからも私と一緒にいてくれますよね?
 別れるって言ったことは今すぐ訂正してください。
 それと昨日の浮気の件は私と結婚するって約束してくれたら許してあげますよ」

「結婚か……(;´∀`)」

「あっΣ(゚Д゚) 結婚が嫌だったら今のままの内縁関係でも構いませんよ!!
 私はイフリートさんが困ることは何もしたくないですから」

「ミカ。そう言ってくれるのはうれしい。だがな、
 君は若くてきれいだから、俺の他にも魅力のある男性との
 出会いはたくさんあると思うんだ。俺の他の優しいイケメンでも
 見つけて幸せになったほうが…」

「(>_<)だから、そんなさみしいこと言わないでくださいよ!!
 私はイフリートさんと別れるつもりありません!!」

「君は俺を最低だと思わないのか?」

「思いません。だってそこで倒れているクズ女が悪いんじゃないですか。
 あいつは太盛さんに遊ばれて捨てられる運命なのに認めたくないだけでしょ。
 必死ですよね。あんな奴のことは忘れて私と幸せになりましょう」

「その前に、ひとつお願いがあるんだ。ミウと話をさせてくれ」

「どうしてですか? 自分で転んで左足を怪我したみたいですから、
 そのまま玄関の外へ叩きだせばいいじゃないですか」

「その怪我の具合も含めて、少し確認をさせてくれ」

「だめですよ。何勝手に行こうとしているんですか」

「頼む」

「だめです。今後はその女と口を聞くことも禁止ですよ」

今になって思い出したが、我は全裸で椅子に縛られてる設定だった。
先ほどのミカの会話シーンで勝手に行としていると描写していたが、
後ろ手に縛られているのにどうやってミウに近づけるのか。

「太盛君に迷惑かけちゃったね。今日は帰るよ」

とミウが言う。

「本当は太盛君に昨日のお礼として朝ごはんを作ってあげたかったの。
 ついでにお弁当も作ってあげようかなって思ったんだけど、
 今日は神のご加護がなくてダメだったね。運がなかったと思って諦めるよ。
 じゃあね。また気が向いたら私と会ってくれると嬉しよ」

ミウが映画版バイオ3に登場するゾンビの足取りで去って行く。
その後ろ姿は哀愁に満ちており、我は罪悪感に堪え切れず、
自らの頬を叩こうと思ったが、後ろ手に縛られているのだった。

(すまんミウ……すまない……)

やりきれなさに涙を流す我に対し、美香が低い声で言う。

「太盛さん。あの女と陰でこそこそ逢ったりしたら殺しますからね」

我は美香に暴力を振るわれたことは一度も無い。
その美香がいよいよ「殺す」と脅してきた。
冗談には聞こえなかったぞ。
だがこうも思う。いっそ美香に絞殺されたほうがいいのかもしれぬ。
それが少しでも罪滅ぼしになるのなら。

その翌日、美香と娘たちに反対されながらも、強引に出社した。
一番の目的はミウに会うためだ。
生産量は日々忙しくなり、一人でもパート従業員が休むと社員に迷惑がかかる。
何より我はこの会社が好きだ。働き始めて一ヵ月にも満たぬが、
作業内容にも設備にも問題はなく、快適な職場だ。末永く働きたい。

ミウは先日あれほどのことがあったのに、身を小奇麗にして会社に来ている。
一人でさみしげに休憩所のソファに座っている。今は勤務時間前の自由時間。
他のパート諸君らは、ナース・ステーション前のホワイトボードの周りで
たむろし、世間話に花を咲かせている。

(ホワイトボードに当日の配属レーンや、連絡事項が記載されているのだ)

我は一も二もなく、ミウに駆け寄って抱きしめた。

「(;゚Д゚) ミ、ミウ。昨日はひどいことしてごめんね。
 俺のためにご飯を作りに来てくれたのに、結果的に追い出すよな
 真似をしてしまって!!」

「うん……。正直すごく傷ついたよ。精神的にも物理的にもね。
 でも、もう大丈夫。傷つくのは学生時代から慣れているから」

「やっぱり俺はミウの隣にいるのにふさわしくないとおも…」

「なにそれ。また私を振りたいの? 
 昨日のことなら本当に忘れるから気にしないで。
 それより早くあの女と別れてよ。
 別れてくれたら許してあげるから私と別れないで」

「それはちょっと……」

「よう りっすん!! (聴いてよ!!)
 私は太盛君と別れたくないんだよ!!
 本当に昨日のことは何でもなかったんだから、太盛君が
 罪を感じるなんて変だよ。私達は夫婦なんだから、
 一度や二度喧嘩したくらいで別れることないでしょ」

「俺には娘が三人もいるんだ」

「私たちの子供として育てればいいでしょ」

「テレーズたちのことを認めてくれるのか?」

「正直私は大嫌いだけど、あなたが困るなら認めてあげる。
 妥協に妥協を重ねた結果だよ。神があなたのために
 授けてくれた子なら、時間をかければ私にも愛着がわくかもしれない」

「昨日から気になっていたんだけど、神って」

「私たちが出会った時って高2だったよね。あの時の私はクリスチャンで、
 太盛君の方から話しかけてくれた。私はそっけないふりをしたけど、本当は
 すごくうれしくて舞い上がりそうになった。だからあの時の私に
 戻ることにしたの。もう学園の校長も優菜ちゃんに任せて、
 私はここで働いて普通の主婦に戻ろうかなって思っているの」

そこまで考えていてくれたのか。
ミウから、どこかボリシェビキ特有の冷酷さが薄れたと思ったら、
キリスト教へ改宗をしていたのか。確かに出会った頃のミウは、
弱々しくて、かよわくて、それはもう愛らしい少女であった。

「太盛君。お願いだよ。もう一度一緒に暮らそうよ。
 私は太盛君がいないとさみしくて生きていけないほど弱い女なの。
 お金も地位も、そんなの全然関係ない。もう一度二人で、
 小さくても幸せな家庭を取り戻そうよ。お願いだから美香と別れて」

一万歩譲ってミカと別れたとしても、ミウとの生活など
子供たちが絶対に認めぬ。テレーズとマリンがミウのことを
これでもかというほど嫌っておるのだぞ。

しかし我も若い男ゆえ、涙ぐんで上目遣いで見てくる妻の可憐さに、
不覚にも初めて出会った高校時代を思い出してしまい、くちびるを奪ってしまった。
いかん。これではミウのお願いを聞いてしまったのと同じだと受け止められる

そんな時であった。

ピンポンパンポーン♪

「パック(PAC、我の部署)で作業をされている高野太盛さん。
 知り合いの方が来ております。メインテーブルまで来てください」

な……?

我がナースステーションへ行くと、そこにいたのは有田美香だった(∩´∀`)∩
セキュリティに厳しく部外者の立ち入りを禁止する職場なのだが…

美香は涙目で歯を食いしばり、我の胸ぐらをつかんで言った。

「さっきソファで誰とキスしていたんですか?」

「ま、待て。ここではまずい。場所を移してから話を」

「誰とキスをしていたんですか?」

「だから場所がここでは…」

「ふざけないでよ!!!!!!(# ゚Д゚)」

振りかぶった美香の平手が、我の頬に当たる寸前で止まる。
激情にかられながらも、我を殴らぬとは摩訶不思議なり。

「あなたが家族の反対を押し切って会社に行ったから
 心配でバスに乗って追いかけて来たんです。そうしたら、何?
 会社でミウのことを自分の妻みたいに扱っちゃって。
 昨日私のこと愛してるって言ってくれた次の日にはこれなの?
 ……あなたねぇ、いい加減にしなさいよ!!(# ゚Д゚)」

顔にミカの唾が飛んでくるが、それどころではない。
ここまで怒る美香を見るのは初めてだ。我の方も大いに動揺している。
だが少し冷静になり、そこまで我に怒るならば逆にチャンスではないかと考えた。

「じゃあ別れようか」
「はぁ? 別れるって、そういうことを言ってるんじゃないんですよ!!」

美香の手がホワイトボードを乱打し、従業員の名前が
記された円形磁石(マグネツト)がぽろぽろと床に落ちていく。

「ミカは俺みたいなクズといても楽しくないだろ? 今もすごく怒ってる」

「ええ怒ってますよ!! でもそれは別れたいからじゃないです!!!
 勝手に勘違いしないでよ!! わ、た、し、は!! 
 あなたがミウと仲良くしてたことに!! 腹を立ててるんです!!」

美香は怒りのあまり、ホワイトボードをキャスターごと持ち上げ、明後日の方へぶん投げた。
我らの茶番と関係ないパートさんたちのいる一角が大きな被害を受け、阿鼻驚嘆となった。

このまま喧嘩を続けていたら、会社の業務に支障が出るかもしれぬ。(すでに出ているか)

「いっそ俺を殴れ。そうしたら君の気も済むだろう」
「大好きなイフリートさんには暴力を振るいたくありません」
「そうか。なら逆にこれでどうだ?」

その音に、PAC(二階の仕分け拠点)で作業している、全ての従業員の視線が集中した。

我は、自分でもよく分からぬが、美香をビンタしてしまったのだ。

誓って美香に暴力を振るうのはこれが初めてだ。
我は美香を我妻のように愛している。嘘ではない。
だが、ぶった。己のことほど分からぬものとはこのことか。

「(ノД`)・゜・。 ひ、ひどい……。どうして私をぶつの?」

「俺は君を振ろうとした。だが君は認めなかった。だからぶったんだ」

「私ってそんなに……あなたに嫌われるようなことしたかしら?
 今すごく傷ついたわ。胸にナイフが刺さったみたいに。
 前の旦那にDVされた時だってこんな気持ちにはならなかった」

「俺はこの通り女性に暴力を振るう最低の男だ。
 魅力もないし価値もない。これで全部終わりだ。
 もう俺のことは忘れてくれ」

「……。ミウね。ミウのことが本気で好きになっちゃったのね。
 だからそんなこと言うのよ。あなたはミウに騙されてるんだ!!」

もう一度彼女の頬を叩いたのだが、美香は突然走り出した。
何をするのかと思うと、休憩用のソファに座り、
こちらの様子を眺めていたミウに接近した。

「おまえのせいで、おまえのせいで私のイフリートさんは!!」
「ぎゃああああああああああああ!!」

ヒグマが、自らの子を守るために人間に襲い掛かったかのようだ。
美香の引っかき攻撃は、たったの一撃でもミウの皮膚を服ごと裂いてしまう。
膝蹴りの一撃は、内臓と骨を直ちに圧迫するほどの破壊力なり。

美香は我に危害を加えぬようだが、仮にあの腕力で攻撃されたら
直ちに手術が必要になるレベルである。そういえば、美香は
オランウータン・テレーズと互角の戦いを演じていたことを思い出す。

我はあのような危険な女を二度もビンタしたのか…。(;゚Д゚)

この惨劇を止めようと、男性社員が止めに入るが、美香に裏拳を食らい、
14メートル吹き飛んだ。別の社員も止めに入るが、同じように吹き飛ばされた。
三人目はガラス窓を破って空への旅に出た。

ついに美香を止めようとする者は現れなくなった。

「ぐやああああああああああああああああああ!! いたいいいい!!」

このままでは、ミウがミンチになるのは時間の問題である。
こうなったら、英知を絞り、起死回生の一撃を加えるほかあるまい。

「待たれよ!! ミカの主張はよく理解した。我がミウと別れればいいのだろう!?
 ならば別れる!! 今この瞬間を持ってミウと別れる!!
 ただし我は別に婚約者を作ることにする!! その婚約者とは……!!」

たまたま近くにいる野次馬の一人でよかろうと思い、その者の手を握った。
ぬう……。パートのおばさんかと思いきや、男ではないか。まあよい。

「この男である!!」

その男は。41歳の男性社員である。
身長163センチで小太り、ハゲと絵にかいたような醜男である。
しかも自費で住宅を建てたのに独身らしい。

おまけに性格も悪く、一度に二つ以上の頼みごとをされると
ヒステリーを起こすため、パート従業員の99%に嫌われている。
ある繁忙時には、23歳の男性社員からも対応力の無さをダメだしされ、
仕舞いには直属の上司から「もう帰れ」と言われ、無理やり早退させられたという。

ブ男「ちょΣ(゚Д゚) なんで私が君と結婚しないといけないんだね!!
   適当なこと言われてても困るよおおおおお!!!」

美香は茶番には興味を示さず、ミウへの制裁を再開した。
かつてこれほどの修羅場があっただろうか。次の話に飛ぶぞ。

太盛イフリート「ミカがこれほどまでに狂暴だとは…」

~もはや賢者と称するべきではない・太盛イフリートが語る~

我は美香を押さえつけることに成功した。
鼻息荒く、鬼の形相をしているが、
我に危害を加えぬことは分かっている。

「ミカ。さっきはつまらない冗談を言ってごめんね?
 やっぱり君と結婚するよ」

都合の良いことに、近くにいる社員の人がチラシの裏をくれたのだ。
そのチラシには、手書きで婚姻届けと書いてある。
つまり即席の婚姻届けなのだが、要はこれにさっさと名前を書いて
美香と結婚する意志を表明しろと言いたいのだろう。

「俺の名前はもう書いた。次は君の番だぞ?」
「Σ(゚Д゚) 婚姻……とどけ?」
「早く書いてくれよ」
「でもこれ…」

社員の男性が書いた手書きのおもちゃであることに、
美香はますます腹を立てて暴れた。
休憩室にある大型ソファは、竹とんぼのように宙を舞う。
自動販売機がロケット砲のようにフロアの端から端へと飛んでいった。

他の全ての従業員は、身の危険を感じて階段から逃げてしまった。
こうなっては、もう仕事どころではない。
家庭の事情が会社にまで迷惑をかけてしまい、
土下座したい気持ちになるが、どうしたものか。

ミウは血だらけで倒れて虫の息だ。
ひたいに玉のような汗をかき、苦しそうな息を吐く妻が美しい。
こんな時なのにも関わらず、改めて妻の美しさに息を飲む。
全世界に向けて宣言したい。高野ミウは絶世の美女である。

ミウを手当てしたいのだが、ミウに近づいたら美香がますます怒るだろう。
かといって我の腕力では美香を止めることは不可能だ。
そこで英知を振り絞り、死んだふりをして時が過ぎるのを待った。
数分すると、美香が暴れる音が止む。

「ぬう…? (; ・`д・´)」

不思議なことが起きるものだ。
美香は疲れてしまったのか、うつ伏せに倒れたのだ。
どうやら気絶しているようだが……。

「ようやく……効いたみたいね……へへ……
 ざまあみろ……くそったれの浮気女め…」

虫の息のミウだ。ミウは先ほどリンチされている合間に、毒針の入った
注射器を美香の腕に刺していたようで、その効果が今になって現れたのだという。

「だ、大丈夫かミウ!!」
「えへへ(∀`*) 実はね……けっこうヤバい。血を流しすぎたかも」
「うわぁあぁΣ(゚Д゚) お腹周りに、血がこんなに!!」

我の手がそっと触れるだけで、ミウが痛みに耐え切れず絶叫した。
ヒグマ(美香)のかぎ爪によって、
ミウの腹部が鋭く引き裂かれ、大量に出血していたのだ。
我の手が、暖かい血液によって真っ赤に染まったではないか。

「ここまで……やられたのは生まれて初めてだよ……。
 あのブス……よっぽど太盛君を私に取られるのが……
 悔しかったんだね……」

「ミウ。死ぬな!! ミウよ!! 俺のミウ!!」

「もうだめだぁ……頭がぼーっとするよぉ……
 まぶたが重くなってきたぁ……。
 痛みもあんまり感じなくなってきたぁ」

これほどまでの重症だったとは。この出血量を考えると、
ミウは手遅れだろう。まもなく息絶えようとしている。
内臓を露出させるレベルで引き裂かれているのだ。
美香の殺意のすさまじさに改めて恐怖すると同時に、大切な妻を
永遠に失おうとしている哀しみに耐え切れず絶叫する。

「ぬわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

その咆哮(ほうこう)は、埼玉県をはるかに超え、
千葉県の幕張メッセまで響いた。
我の声に恐れをなした(まだ残っていた)従業員は、
我先にと玄関から飛び出て帰ってしまった。


その時であった。何者かが我の左肩をポンと叩いたので
衝撃で飛び上がりそうになる。

「パパ (∩´∀`)∩」
「お父様ー (^○^)」

なんとも楽しげな様子の、愛娘二人である。
テレーズとアナスタシアの娘のマリンだ。

今は娘のことなど頭にない。
ミウは我の腕の中で、がっくりと首をうなだれており、
まさしく息絶えてしまったのだろう。

実際に脈はなく、開いたままの瞳に生気はない。

高野ミウ。享年27歳。我が愛する妻。
我が正式に婚姻を結んだ、初めての妻。

我はこの事実を受け止めることができず、
またしても幕張メッセまで届く叫びをあげようと大きく息を吸うが、

「そんなことよりお父様、お手を綺麗にして差し上げますわ」

マリンの持参したウエットティッシュで血液をキレイに拭かれてしまう。
ぬうΣ(゚Д゚) はっきり言って不愉快だ。我はムスリムゆえ、
人の血液を汚らわしいとは思わぬ。むしろ生前の妻の残した最後の
温もりでもあるのだ。名残惜しいぞ。そんなマリンのおせっかいに腹が立つ。

「死体はわたくしが片づけておきますね」

テレーズが、ミウの死体を引きずってエレベーターに乗せた。
行き先を問うと、1Fの「破在庫」だと言う。
当倉庫のゴミ処理場であり、他業者さんが管理している場所である。

ああ……やめろ。ミウの死体を勝手に運ばないでくれ。
否。もしかしたら一時的なショックで脈が止まっただけかもしれぬ。
ミウの顔は死体のごとく青ざめているが、
何らかの手段で生き返るかもしれぬぞ。

「あっちはテレーズが処理してくれるから、
 お父様はここにいていいのよ」

アナスタシアの娘のマリンに優しく手を握られた。
それだけで、我からあらゆる気力が失われてしまう。

ああ……妻が……われのつまが…死んだ? シヌ? 死んだ……?
エレベーターの扉が閉じられ、一階へと降りて行った。
神はなにゆえ我にこのような悲しみを与えるのか。

我が複数の妻を持ち、日本風に言えば破廉恥なる恋愛を
してきたことへの罰なのか。だ、だめだ。どうしようもなく哀しい。

誰でも良いから我に温もりをくれ。
そう思い、マリンの上着を脱がし、乳首に触れた。
マリンがエッチな声であえぐので、その唇を我の唇で塞いでしまう。

今さら幼い娘を抱いても栓無きことかと思う。
マリンは目を閉じて、我の首の後ろに両手を回してくる。
体全体で、この子の体重を感じるが、不思議と気持ちがなえてしまう。

「ぎゃあああ」

今のは……美香の声で間違いないだろう。
美香の声は幼女のように音程が高く、遠くにいても良く響く。
いつの間にか戻って来たテレーズが、気絶している美香にとどめを刺したようだ。
凶器は包丁。美香のわき腹を二度三度と刺すと、何も言わなくなった。

それでもテレーズは刺すことを止めず、
ついには美香の血液によって
床に大きな血だまりができてしまった。

「お父様はあっちを見なくていいのよ。
 今は私と楽しいことしましょう?」

今度はマリンの方からキスを迫って来た。なぜだか分からぬが、
マリンに求められると断れぬ。また我の体がマリンへと過大に反応し、
アソコが戦闘状態となっている。

だがここは職場であり、不埒な真似をする場所にあらず。
我はこの日を持ち解雇され文字通り路頭に迷う。


試しに美香の家へ帰ってみると、なぜだか勢いよく炎に包まれている。
この作品の設定では、家主を失った家に住み続けることはできないとなっている。
家が燃えているのはそのためである。

我には娘が三人いる。だが職がない。

稼ぎ頭のミカを失い、ミウを失い、マリエも失った。
我と関わる女はことごとく不幸に見舞われる。このような運命にあると、
別の世界でマリンが語っていたことを思い出す。その通りである。

もはやこれまでかと、アッラーのご意思に反して自刃することさえ検討する。
もちろん娘たちも一緒だ。そもそも妻たちにとどめの一撃を加えたのは娘達ではないか!!

いよいよ気が狂い、愛娘の首に手を伸ばそうとした我に対し、
救いの手を差し伸べる女が一人いた。

「あなたの大切な女性が二人も死んじゃって残念だったわね。太盛君?」

橘エリカである。全身を近代的なスーツに包み、ハイヒールを履き、品よく腕を組む。

「邪魔者もいなくなったことだし、私の家に帰りましょうか?
 もちろん嫌だとは言わせないわよ。あっ。子供たちのことは心配しなくていいわよ。
 その子たちも一緒に暮らそうと思っているのよ。分かったわね?」

こうして我らは神戸市に転居することになる。
エリカのご祖父の家がある場所である。

「エリカよ……。我はもう生きるに値せぬ存在なのだぞ」

~~賢者太盛イフリートと見せかけて、橘エリカが語る~~

タイトル通りのことを太盛君が口にしたけど、自殺なんてさせないわ。
私は彼と疎遠になってから別の男と結婚して離婚。
私の人生に離婚という名の汚名が刻まれた。俗世間風に言えばバツイチね。

今思えば、なんであんなつまらない男と結婚したのか。

私の祖父は、ソ連から神戸に移住して造船業者で働いた。
正式な出身地は、ソ連のカフカース地方のグルジアのトビリシ。
代々続く商人の家に生まれた。
グルジアの黒海に面する石油積出港で貿易の仕事をしていた。
家は裕福でいわゆる「資本家階級」だったために、当時のソビエト革命政府に
目を付けられ、シベリア経由でソ連を脱出。神戸港にたどり着いた。

当時の日本は高度経済成長期にあり、米ソ冷戦の最終でソ連からの亡命者は
射殺されてもおかしくない状況にあった。でも日本国内にも隠れ共産主義者たちは
大勢いて、祖父をかくまってくれた。それどころか、神戸は古くから外国人の
居留地としての歴史を持ち、阪神の工業地帯の発展に深く寄与した。

かつて鈴木商店という名の、日本で最大規模の商社が存在した。その系列で
神戸には世界を代表する巨大な製鉄会社があり、その系列にあたる会社で祖父は厚遇された。
ソ連の命綱である黒海での製油事業に関わっていた祖父は、エネルギー部門の
化学機械営業部に配属された。35歳で日本人の妻を娶り、男児を出産。

その男児は、つまり私の父にあたるわけだけど、父は祖父から商才を引き継いで
機械営業部門の取締執行役員にまで昇格した。

「太盛君。いええ、あなた。あなたが次に自殺なんて不愉快な言葉を
 口にしたら、どうなるか分かっているんでしょうね?」

私は彼とベッドを共にしながらも、脅すことを忘れなかった。
これも祖父から受け継いだことだ。人の心ほど信じられないものはない。
愛も絆も信頼もすべて嘘で塗り固められている。
人を結びつける真の力を持つものは恐怖以外にない。

「も……もちろんだよ。エリカ。俺は君と一緒に暮らせるんだから、
 何も不自由しなくていいだろ? はは。こんな広いお屋敷で暮らせるなんて
 夢みたいだよ。これに比べたら俺の屋敷なんてシルバニア・ファミリィみたいなもんさ。
 と、ところで、俺の娘たちはどうしたのかなって」

「しばらく監禁しておくしかないわね。何よその顔は、不満?
 だってそうでしょ? あなた、ロリコンだから娘に手を出すじゃない。
 この屋敷は私とあなたの愛の巣になるべきなのよ。なのに浮気相手みたいな
 奴らがいたらおかしいでしょ? しかもテレーズとあっちのマリンは私の子じゃないのよ」

最初の日は牢屋に閉じ込めたけど。さすがに私の娘のマリンは開放してあげた。
でもテレーズと姉さんの子供のマリンは重罪よ。
私が許すまで地下の堅い床で寝ることになる。

「(*^^) うふふふ。あなたったら脅えた顔も可愛いのね。
 もっといじわるしたくなっちゃうじゃない。
 それより太盛君は私にキスしてくれないの?」

「……ほら。エリカ。目を閉じてごらん?」

彼ったら、私にキスしながら震えてる。笑っちゃうわ。

「あの!! ママ!!」
「どうしたのマリン? こんな時間に夫婦の寝室に入るんじゃないわよ」
「テ、テレーズたちをどうするつもりなんですか?」
「どうするって、見てのとおりよ」

「でもそろそろ解放してあげてもいいんじゃないですか?
 ご飯もろくに食べられないであんな冷たい床に寝かせられて、
 精神的にも限界に来てると思いますが」

「だめよ。まだまだお仕置きは足りない。
 最低でも30日以上は閉じ込めておくつもりだから」

「30日もですか!!」

「不満ならあなたも一緒に閉じ込めてあげてもいいのよ?」

マリンは押し黙り、勝手に扉を開けたことを誤ってから出て行った。
すると太盛君は何を考えたのか、奇声を発しながら廊下を駆けた。
驚くマリンを突き飛ばし、一目散に駆ける。
目的は……テレーズとあっちのマリンの救出でしょうね。無駄なのに。

太盛君は、地下室の扉の前で護衛に押さえつけられた。
かなり抵抗したためか、痛そうに自分の肩に手を当てている。

私は彼を叱るために、寝室へ連れ戻そうとしたけど、

「娘達を開放しろおおお!!」

と叫び続け、動かざる事岩のごとしだった。
彼の抵抗は尋常じゃなかった。彼が叫んだだけで地割れが発生し、
建物が根底から崩されてしまうかと錯覚するほどだった。

ようやく追いついてきた私の娘のマリンは腰を抜かしている。

さすがの私も荒れ狂う太盛君をどうにかできる自信がなかった。
そこでおじいちゃんを呼ぶことにした。橘(たちばな)邸の支配者にして
私の祖父であるラーシャ・シャヴダトゥアシヴィリ。
日本に亡命後は名を橘義久(よしひさ)と偽る。

おじい様は、電動式の車いすに乗って登場した。
護衛でお世話係の若い女性が二人ついている。

「きみ、何を騒いでいるのかね?」
「俺の娘を開放しろって言ってんだよクソじじい!!」
「ほう。私をくそ爺と呼ぶか。生きのいい若者だ」

薄くなった白髪をなで、楽しそうに笑った。
太盛君の暴言に腹を立てるのかと思っていたから意外だった。

護衛の人たちが耳打ちして事情を説明する。
75歳を過ぎる祖父は、「ふぅーん」「あっそう」と興味なさそうに
相打ちをつきながらも、実は真剣に話を聞いていた。

「マリーテレーズとアナスタシアの娘のマリンのお仕置きか。
 それは孫娘のエリカが決めたことだ。なら仕方ないだろうに。
 太盛君がどうこう言える問題ではなかろう。違うかね?」

「どうこう言える問題だっつってんだろ!! 俺はあの子たちの実の
 実の父親なんだぞ!! 娘が牢屋に閉じ込められてんのに冷静でいられるか!!」

「しかしだね君。エリカがそう望んでいるんだよ。私は孫娘の考えることは
 最大限尊重してあげたいと思っている。君の意志など知ったことではない」

「娘が衰弱死でもしたら、てめえらクズどもを一生恨むぞ!!
 このタワケ者どもが!! 罪なき童女に対しこのような仕打ちをするとは!!
 アッラーの名において許されないことと知れ!!」

「むう? アッラーだと。この青年は途中から口調が変わったようだが」

私は、彼の正体が太盛イフリートであると教えてあげた。
祖父はさらに楽しそうに笑った。祖父はジョージアでキリスト教徒の家系に生まれたから
もともと信仰心がなかったわけじゃない。ただソ連の誕生と日本への亡命を経て
信仰心をすっかりなくした。それでもカンなのか、目の前で吠える青年が
どうやら本当に神の力を宿していることを察しているらしい。

「エリカよ。君の旦那の娘達も神の力を宿すそうではないか。
 テレーズらをどうやって抑え込んだのかね?
 彼女らが神の力を借りれば地下から脱走するなど容易いことに思えるが」

「睡眠薬でよく眠らせてから、電気椅子に座らせて痛めつけた後、
 食事を抜いて思考力を奪ったわ。最初はうまくいくか不安だったけど、
 神の力は満身創痍になると集中力が足りなくて発動できなくなるみたいなのよ」

「ほほう。実に興味深い。では様子を見に行こうではないか」

護衛が地下の扉を開けると、おじい様の車いすがエレベーターに入る。
私と太盛君も続く。太盛君は鼻息が荒いけど、今のところおとなしくしている。
速く娘たちの顔が見たくて必死なんだろうな。

令和10年 兄妹の物語 第三シーズン

令和10年 兄妹の物語 第三シーズン

『令和10年。財政破綻と強制労働と若い兄妹の絆の物語』 の第三シーズンである。改めて読んでみると長いタイトルである。 この場所は文字数制限があるので、くわしい「あらすじ」は、 第一話に回すことにするが、この作品の特徴を 第一シーズンのあらすじから下記に引用しておく。 ・資本主義(大企業)帝国 ・一億総奴隷社会 ・強制収容所のような労働環境 ・兄妹愛 ・金融関係の話が多い サイトの書き込み画面には、 『読者の関心を引くキーワードを含めることで、アクセス数を増やすことができます』 と書いてあるが、本当なのだろうか。

  • 小説
  • 長編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-09-08

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  1. あらすじ ( `ー´)ノ
  2. ミウ「太盛君が悪霊に憑りつかれている……?」
  3. 美雪「お兄ちゃん用の馬小屋が用意された」
  4. イフリート「愛する妻・美雪よ。私と初めての妻の物語を聞かせよう」
  5. 美雪「最後まで物語を聞かせて」イフリート「うむ」
  6. 美雪「さあさあ。話の続きをお願い」イフリート「あせるな」
  7. ミウ「私の旦那は太盛君だけだからね」
  8. 斉藤マリエ「はぁ……殺しちゃおうかな」
  9. まりえさん「美雪からお金を奪ってきて」 イフリート「(´・_・`)」
  10. マリエ「お金が足りない」 イフリート「なに?」
  11. マリー・テレーズ「本日はわたくしのお話を聞かせましょう」
  12. マリー・テレーズ 一人称
  13. 真理恵「テレーズがうざい。あとお金を手に入れないと」
  14. マリン「爆弾に頼るとは、俗にまみれた人の子の思いつきそうなことです」
  15. テレーズ「令和10年の学校教育の悲惨さを語りましょう」
  16. マリン「私が聞いた限りの話をお伝えしますわ」
  17. 太盛・イフリート「( ˘ω˘ )令和の女人は実に扱いにくい…」
  18. マリン「お父様の様子がおかしい(; ・`д・´)」
  19. マリン「ぶち食らわすぞ、こら」 太盛「(。´・ω・)?」
  20. イフリート「自宅に監禁されてしまうとは…('Д')」
  21. テレーズ「令和10年の市役所の職員とは」
  22. マリン VS ミウ  世紀の大決戦!!
  23. ミカちゃんの投資スタイルとは
  24. 担任(ミカ)とテレーズとマリンが一緒に登校したらどうなるか
  25. テレーズ「歩美さんの家に招待されました……(;´Д`)」
  26. テレーズ「パパから共産主義革命の無意味さを教えてもらいました」
  27. イフリート「娘は可愛い。だがそれだけではいかん」
  28. 太盛イフリート「正しきムスリムが勤行に励むのは夜である」
  29. エリカの娘のマリン「あいつら、イカれとるで」
  30. 聖なる少女・テレーズは今後について真剣に考えた
  31. 太盛イフリートがミカに別れ話をした
  32. 関東民主主義人民共和国 ~ミウの再来~
  33. 太盛とミウ かつのて夫婦。揺れる心
  34. マリン「お父様が私たちに内緒でミウと逢引を……?」
  35. 太盛イフリート「ミカがこれほどまでに狂暴だとは…」
  36. 「エリカよ……。我はもう生きるに値せぬ存在なのだぞ」