まえならえ

肩を ぽんぽんって叩いたら

ん? って

振り返るきみ

しめしめ と思いながら

きみの頰に 私の人差し指が収まる


もう一度でも なんてことがあればなあ


現実とは

あまりに酷に叩きつけられるものだ


きみの好きな人が私じゃないことぐらい

とっくの前にわかってる


そして私が きみの運命の人じゃないことも


うまく話せなくてすれ違うのも

全部筋書き通りで

二人は順調に結ばれる道へと



進んでいないことも


とっくに わかってるよ



悔しいし悲しい

だけど 否めないよ


きみはきみらしく 幸せになって欲しい


綺麗事が言えるほど

私にはまだ余裕があるみたいだ



「恋の方程式」なんてものがあれば

私たちはどれだけ楽なんだろう


それを使って解けば

誰だって好きな人を手に入れることができるんだから


けれど きみみたいに魅力的な人は

ちょっと大変そうだなあ


複雑だなって思いながら

なめらかに動く時計の針を目で追った



前にならって 好きです。って言えば済むことなのにな

本当の気持ちを口にすることが

こんなに難しいなんて



きみを好きになることで

いろんなことを知ったよ

きみと私との幸せな物語を描きながら

あの子の不幸を想像した


そんな黒い妄想も

きみと私が結ばれた暁には

もう全部 本当のことになってしまうんだね


そうなってしまえば

私があの子の物語の悪役になるわけだけど

きみとの愛の代償にしては

軽すぎるものだよね



こんな最低な私でも

どうか

どうか

振り返って欲しい


私のわかりきった幼稚ないたずらだって

ちゃんと引っかかったふりをして

優しく冗談混じりで叱ってほしい


ねぇ もう一度

まえならえ

まえならえ

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-06-04

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