令和10年。財政破綻と強制労働と若い兄妹の絆の物語

仮投稿 推敲はあとで

あらすじとして、今作の世界観の
キーワードとなる部分を箇条書きしてみた。
(書ききれない部分は第一話に引き継ぐ)

・資本主義(大企業)帝国
・一億総奴隷社会
・強制収容所のような労働環境
・大人の兄妹愛
・金融関係の話が多い

ふむ。また、例のキーワードが出てしまった。
「強制収容所」である。何度同じネタを使ったら気が済むのか。
むしろこのネタを使わないと私の物語は成立しないので勘弁してほしい。

そして「大人の兄妹愛」ときた。大人の兄妹愛とは何か。
子供の兄妹愛と何が違うのか。それは読んでからのお楽しみだ。

舞台は近未来の日本。令和10年を想定している。
執筆時点から数えて10年先の未来である。
たった10年で日本がどこまで変わるのか。大いに変わるであろう。

あらすじ その②

    !! 注意 !!  
              2019年の執筆です。

  本編の設定説明で非常に淡々としています。
        つまらない話なので本編が読みたい人は、
                 4話あたりまで飛んでください。

金融の話をする。外為のドル円相場を考えると、
2009年のリーマンショック後、2011年には極端な円高となり、
1ドル-75円まで落ち込んだ。大暴落である。
執筆時点では円が110から112年あたりを行き来していて心地よい。

為替相場は日本のGDPに深刻な影響を与える。
現在の我が国の製造業の衰退が叫ばれて久しいが、
実のところ日本を支配する大企業の大半を製造業が占める。
国家の歳入は製造業(自動車・電気製品を中心)の
輸出による外貨獲得に頼るところ大である。

この作品では為替相場など気にする国民はいない。
考えるだけ無駄だからだ。一体何が起きたのか。


「自民党の暴走」である。


私は現政権与党を全力で批判する。
仮に政治権力が暴走し、また経団連を中心とする
資本家連中の都合の良いように労働者を隷属化し、使役したら
どんな日本になるのかを夢想し、またその地獄の世界で
男女の恋愛を描くという、まれにみる物語である。

あらすじで書いた
「一億総奴隷社会」「資本主義帝国」と何か。

日本国にはわずか0.6パーセントの資本家が存在するとされる。
残りは「労働者階級」すなわち「家畜」である。

自らの労働時間を雇い主に提供すること
なしに生存の権利を有されない存在である。
社会主義ではプロレタリアートと称する。

特に日本人は、自分の全てを捨てでも会社のために貢献し、
自発的奴隷状態になることを不思議に思わない。
まったく奇異な民族であると筆者は理解している。

日本の労働環境の本質が古代エジプトの奴隷から
一ミリも進化してないことは学園生活でも繰り返し述べた。

おいおい。ちょっと待ってくれ。生活保護を中心とした
社会福祉があるじゃないか。国民の生存の権利は
憲法が認めているじゃないか。そんなツッコミが脳内で聞こえた。

そんなもの、この作品にはない。

憲法は国会議員にとって都合の良いように改正されまくり、
基本的人権の項目は削除された。また憲法9条も改正され、
日本は独自に軍事力を有するに至っている。

その辺の書店で売ってそうな、近未来を描いたSF小説のノリだろうか。

私が一番に伝えたかったのは、

①資本主義が限界まで発達した社会では
②貧富の差が極限まで悪化し、
③最終的にほぼ全ての国民は資本家の奴隷として一生を終えることになる。

この作品の主人公は社会人である。

彼の会社の雇用環境は下記の通り。

・時給210円
・一日16時間労働
・会社近くの寮、もしくはアパートでの生活を強制。
・勤務態度に問題のある者は、拷問もしくは銃殺刑

これは何も彼らがブラック企業に勤めているわけではなく、
令和10年なら普通の雇用条件だ。
最低賃金法は令和3年あたりで改正され、例えば筆者の住む
埼玉県では170円まで落ち込んだ。彼らの210円は安いとはいえない。

昇給、賞与、退職金など存在しない。おっと。まだ書き忘れた。

・平成30年と比較して物価の変動はなし。
・消費税率34% 
・その他、各種税金の支払い額は変化なし。

つまり生活が成り立たない。

日本国民のほぼ全員が金融機関から借金をして毎日の
生活費をまかなっている状態である。
この国民の一人当たりの平均的な債務残高は、
4000万から5000万と言われている。
それだけ借り入れをしないと生活を維持できないからだ。

金利は借入額にもよるが。14%から24%である。
ほとんどの人が100万以上は余裕で借りているので金利はMAXである。

利息制限法は? 金融庁による監査は? そんなものはない。
自民党の目的は、全国民を借金漬けにして社畜化することである。

ところで財務の話になるが、
この世界では国民から多額の税金を搾り取ることによって
PB(プライマリー・バランス)の大幅な改善に成功している。

我が国の財務状況とは、すなわち歳入に対して
その半分が社会保障費の支出に回るという、異常極まる状態だった。
2019年度の政府の債務残高は1100兆であり、GDPの倍近くである。

なんと「OECD」経済協力開発機構からも
「おめーの国www赤字多すぎwww先進国の中でも
 かなりやべー水準やぞwwwwはよ増税せーやwww」
 とツッコミを入れられている。余計なお世話である。

これだけ聞くと、「うちの国、借金大国すぎんだろwwwオワタwwwww」
となるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。

アベノミクスの効果は、

①日銀の大規模金融緩和
②為替相場の円安への誘導
③輸出を中心とした大企業の利益拡大
④円安とインバウンド消費のコンボで設ける

しかし、

⑤ほとんどの国民の利益に繋がってない。
⑥むしろ誰も豊かになってる実感がない。
⑦そもそもデフレを全く克服できてないのに増税。オワタ(^○^)

なのが実情である。

問題は③と⑤である。

日本の企業は「外国資産への投資」や「利益剰余金の確保」には積極的である。
費用として計上される支出を極端に嫌う。
例えば、人件費の支払い(給料アップ)、直接雇用者を増やすこと(雇用者を増やす)、
国内の設備投資(新しい工場やオフィスを立てる)
国民の生活の安定など一ミリも考えてないのだ。

我が国は赤字大国として知られるが、それは財務の範囲の話で。
政府が中央銀行やその他金融機関に対し大量の債務を抱えている状態を示す。
いわばお国の内部事情なのである。

(テレビの影響で勘違いする人がいるが、国債の発行とは政府が日銀、銀行、保険会社から
 買い集めるものであり、分かりやすく説明すると債券日銀、債務政府の関係である。
 金融の視点では国民一人一人の借金とは表現できない。ただし、政府は債務返済のため
 税収を増やす必要があり、増税した結果、あたかも国民に国債の債務が
 あるかのごとく錯覚する。これは明らかなる勘違いであることを伝えておく)

視野を広げて外国から見た日本国を考えてみよう。

日本は対外的には「債権国」なのである。
なぜなら日本国の対外純資産の額は、およそ300兆。なんと黒字である。
この額は財務省のHPに平成29年度の詳細が乗っているのが、
ニュースサイトでは現在まで同じ額で推移していると報じられている。
https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/2017.htm

直接投資、証券投資によって資本金が900兆。
外貨準備もかなりの額だ。一方の債務は600兆。
差し引き300兆の純資産。簡単である。

つまり日本の財政は赤字大国(クソ)
世界的には黒字国(キラッ☆彡)。

たしか中国に次いで世界二位の黒字国だったと思う。
貿易収支では対米で2~3兆円の黒字を出し続け、
トランプやライトハイザー君たちを困らせている。

米の通商代表が認めている通り、日本の自動車を中心とした
製造業輸出額は依然として強い。誰がどう考えても日本は工業大国である。

海外のメディアから日本はキャッシュリッチな国と度々報じられる。
そんなこともあってか、「円」の信用度は依然として高い。

その証拠として世界経済が不安定な時には
世界中から円が買われて極端な円高になったりする。
こういう時に外貨建ての金融資産を持っている人は大損したりする。


この国の経済は『大企業の資本家』を中心に行われている。

・外国人受け入れ拡大法案(正式名称は…入国管理改正法だったかな?)
 3万人の根拠は経団連の発案である。これが国会審議を無理やり通過した。

経団連「労働者の数が毎年3万くらい足りねーぞwww」
自民「うっす。海外から毎年3万人の奴隷連れてくるっすwwww」

・時給150円で働いてる外人がいたことがニュースで問題となった

企業「外国の仲介業者(ブローカー)に騙されたんじゃねえのwww
   食うもんがなければ草でも食ってろよWindowsww」  

自民「俺も知らねえよwwwwうぜーなwww
    あと外人にも厚生年金に強制加入して払ってもらうからwww
    日本に住んでんだから文句は言わせねえぞwwww」

外国人「僕の給料明細書……漢字だから読めません……
    毎月引かれているこの2万4千円てなんですか?」

・2019年。春闘

経団連「賃上げ? ガチでうぜーwww
    なんで俺らが奴隷どもに給料払わないといけねーのよwww
    日本人も外人と同じで時給150円で十分だろwwww」

自民「で、でもあいつらにも少しは食べさせてあげないとww
    生きていけねえっつーかwwwそこを何とかお願いしますよwww」

・43歳以上の正社員のリストラ増加

資本家連中「ぶっちゃけ、あいつらの退職金を満額払うのが嫌だwww」

自民党「ちょwwwこんなに首切っちゃうんすかwwww
    首になった奴ってショックで食事とか喉を通らなくなったり、
    電車で飛び降り自殺しちゃうらしいんすけどwwww」

資本家連中「そんなの知らねえよwww死にたい奴はさっさと死ねwww」

自民党「資本家さんwwwマジパねえっすwwww
    俺らもあいつらが何人死のうと痛む心はねえっすけどwww
    働き手が減ると税収が減っちゃうんで困るんすけどwww国家的にwww」

2018年度、第3四半期、第4四半期。2019年度第1四半期。
東証一部上場企業による「早期希望退職」という名のリストラを敢行。
米中貿易摩擦による影響などで経営が悪化したためである。

日本コカ・コーラ
ルネサス・エレクトロニクス
カシオ
パイアオニア
ニコン
他数社。(筆者が覚えてない)

首になった社員は、4000人はくだらないだろう。

43歳以上といえば、仕事でも脂の乗った年代であり、大きな子供がいたり
住宅ローンや家賃の支払いに追われている最中であろう。

前作『午後2時55分で何かが起こる』でも書いたが、大手銀行三社でも
計1万7千人の大規模リストラを現在までに継続中である。
銀行とは、資本主義経済の根幹であり、人間でいえば血のめぐる動脈である。

最近ロイターの記事で日銀の黒田ちゃんはこんなことを言っていた。

「スーパー・デフレ経済と金融がこのまま推移するとwwww
 2025年までに地銀と信用金庫の55%が赤字になるからwww
 金融機関は末端からどんどん死んじゃうよぉwwww」

あと「個人向けの生命保険会社」も完全なるオワコンだ。

多くのFPを初め専門家は、生保に加入するなら
県民共済の掛け捨ての保険で十分だと指摘。
筆者も全力で同意したい。どのみち大病をしても、
完成度の高い健康保険制度(公的保険)があるのだから、
民間保険とで二重で契約する意味はほとんどない。

そもそも現金預金が十分であれば、仮にがん治療となった場合でも
貯金が100万程度あれば足りるそうだ(早期発見で治る場合は…だが)

まして超低金利が今後も継続するのが必死なので
貯蓄型、積み立て型の保険を勧められても困る。

金融会社は、悪徳商売を続けている。
退職金が出た世代へ、金利が高いからと、
今流行りの外貨建て生命保険や外貨建ての預金を勧めたりしている。
定番は米ドル。豪ドルなどだ。

「まさにクソ商売」

為替相場の恐ろしさを知らぬ素人に、
多額のお金を人質として差し出させ(1000万単為が多い)、
各種手数料を払わせる。

為替相場の変動幅は大きい。多少の利ザヤで稼いだ金など
世界経済の影響を受けて一瞬で吹き飛ぶこともめずらしくない。

信じて預けたお金が為替レートで大幅に元本割れしてしまい、
中途解約したくても別途手数料を取られ、
日本円に変えた時には300万単位の損失を出すことも珍しくない。

こうやって一般人を騙す商売をしている連中は必ず地獄に落ちる。
私がこの世で最も許せない人種である。

・官房長官殿「全国的に有効求人倍率は一割を超えている。
       景気が良い証拠である!!」

・筆者「え?」

人手不足が指摘される職種の倍率

土木、建築関係      6倍など。
看護、介護職、保育    3倍など
飲食などサービス業    調べてないから分からない


他にも筆者の住んでいる地域で人手が足りないのは
3Kに該当する職場を中心に、離職率が極端に高い職場ばかり。

「誰もやりたくないクソ仕事だけが倍率を押し上げている」

⇒少子高齢化⇒若者の人数不足⇒
若者は離職率の高い職場は避ける⇒
特定の職種に人手不足が深刻化⇒外人を雇う

(疾走外国人の数は7000人など言われているが…
 自民が隠蔽し、野党が一生懸命暴こうとしている…
 また指三本切断クラスの大怪我をした外人の数、300を超えるらしい)

官房長官殿
「若者の売り手市場だぁwwww 
 学生は就職には困りませんwww
  アベノミクス、ハンパねーっしょwwww」

企業「うっすwww若い奴隷は欲しいぞwww
   ただし、40過ぎのおっさんはどんどん解雇ねwww
   ちなみに管理職の奴らも例外じゃねえからwwww」

40過ぎの人は、無慈悲に解雇されることによって「生存の権利」を奪われ、
若者の雇用枠を空けてくれている状態である。若者たちは、
正規、非正規問わず低賃金で雇われていることは言うまでもない。

日本国の衰退はこれからも続いていくだろう。

2019年10月から予定されている幼児教育無償化など
少子化対策にはほとんど影響がないであろう。
夫婦が低賃金で共働きをしていること自体が大問題なのだから。

一部の公務員を覗き、日本国民は政治権力によって保護されておらず、
結局「資本家(企業)」によって生殺与奪の権利を握られているのである。

かつてこの国は「軍部」が国家の上に立ち、国民を隷属化した。
現在の日本は、「資本家」が国民を実質的に支配している。

かつてレーニン達ソビエトの賢者たちが目指した社会とは、
「半資本主義」「反帝国主義」「反民主主義」であり、
上で書いた根底を切り崩そうとする歴史的な実験だったことを忘れないでほしい。

あらすじ その③

登場人物を紹介する。

渋谷賢人(シブヤ・ケント)
25歳の若者。大学卒業後、地方銀行の営業マンとして入社するが、
すでに銀行は破たん寸前であり、未来がないことを察して退職。

自宅で就職活動をしている最中に革命(自民党独裁)が起きた。
タイミング悪く無職だった彼は派遣会社に身柄を拘束され、
地元の工場に住み込みで働くことに。

性格はマイナス思考で低い声でぼそぼそ話すのが特徴。
不愛想でなければ整った顔立ちをしていると称される。

渋谷美雪(ミユキ)
21歳。賢人の妹。大学3年生。
極度のブラコン。中央大学に一般入試でストレート合格した。
成績は優秀なのだが就職先を探すつもりはなく
お兄ちゃんの主婦になるのが目的。
お兄ちゃんと一緒のアパートに住んでいる。

世間知らずな娘だが、美人で手先は起用。家事は何でもこなす。
主婦を目指しているだけあって休みの日も早起きなのである。

坂上瞳(サカガミ・ヒトミ)
ケント君と同じ職場で働いている美人。
美人を通り越して超絶美人。
芸能人並みのルックスだともてはやされるが32歳で未婚。

職場では女中さんのようにいそいそと働き、
常に周りへの気遣いを忘れない、よくできた娘である。
賢人は密かに彼女に憧れている。


かぐや姫
彼女のあだ名である。本名は誰にも分かってない。
職場ではカグさん、姫などと呼ばれる
常にマスクを外さないため素顔がよくわからない人だが、
妙齢の美人である。年は37歳くらいだと噂されているが、
すでに離婚を3度経験しており、子供が6人もいるのだから驚きだ。

生活に疲れ切っているのか、月曜朝の出勤時は
ものすごく表情が暗い。ケントと同じ部署で働いている。

ここから始まる★本編★

☆ 第 1 話 ☆

「ただいまぁ。ああ、めまいが……」

「お兄ちゃん。お帰りって……お兄ちゃん!?」

さっそくだが、お兄ちゃんは玄関先で倒れた。

彼の一日16時間働いている。
彼は工場へ朝7時半に出勤する。
退勤のタイムカードを押すのは23時である。

時給は210円。残業しても割増賃金は払われない。
日給にしてたったの3360円。
交通費を初め、各種補助は支給されない。
さらに週6日勤務なのだから笑えない。

「明日会社休みてえ」

「辛いのは分かるけど、熱もないのに休んだら
 また拷問されちゃうよ」

「分かってるけどよ、もう色々と我慢の限界だぞ」

賢人は気がおかしくなってしまったのか、
玄関先でうつ伏せになった状態で床をどんどん叩いている。
握りしめた拳は怒りで震えている。

「一階の人に迷惑だから辞めてあげて…」

賢人は無言で返した。
この社員寮とは名ばかりの「アパート」で粗相をした場合は
直ちに派遣会社に連絡が行ってしまい、罰として拷問されてしまうのだ。

美雪だって兄がストレスをためて働いているのは知ってる。
今週の月曜日も彼は帰宅後、トイレにダッシュして吐いた。
また明日から続く地獄を思うと髪の毛が白髪交じりにりなる。

「ご飯できてるから温めてあげる」

また賢人は何も答えなかった。
時計の針が無慈悲に時を刻んでいく。もう24時前だ。
明日も7時半までには出勤しないと罰を受けることになる。

「今日のメニューはオムライス。なんと鶏肉が入ってるのよ!!
 お肉食べるのなんて久しぶりでしょ。
 ご近所さんに分けてもらったんだけど…」

妹は話し好きで、今日あった出来事などを話すが、
兄はほとんど会話らしい会話をしなかった。
たまに、

「ああ」

と返すだけで、死んだ魚のような眼をして
かったるそうに箸を動かすだけだ。
味付けの感想さえ言ってくれないのが
美雪には不満だったが、あえて何も言わない。

「あっ、今思い出した」
「ん?」
「今日郵便が来てたのよ。お兄ちゃんの派遣会社から」
「なにぃ!!」

賢人の動揺ぶりはすごかった。

「そ、そんなに驚くことなの?」
「どんな書類だ? 早く見せろ!! 早く!!」

美雪がおずおずと手渡したのは、「新しい雇用契約書」であった。
非正規雇用者とは期限に限りのある雇用者であり、
2か月や3か月ごとに「更新」をするのだ。

ケント君は今年の4月に派遣会社の営業に暴行され
無理やり契約を交わされた後、現在の会社に就業している。

彼が今の会社で働き、もうすぐ一か月が経とうとしている。
4月の下旬。GW間近で世間がにわかに浮足立つ時期ではある。

今回の契約書は、6月から8月までの雇用継続を約束するものである。

「ちっくしょう。あいつら。なんでこんな早く契約書を送ってくるんだよ」
「それだけお兄ちゃんを必要としてるってことなんじゃないの?」
「ミユキは社会を知らなすぎる。ここに書いてある内容を見ろ」

下記の内容に該当する者は、指導の対象になる。

・特別な理由もなく「契約の更新をしない者」
・遅刻欠勤が多いなど勤務態度が不良な者
・担当営業に相談もなく別の派遣会社などに申し込む者
・派遣先企業で業務上の支障をきたした者

賢人は知っていた。長時間労働に耐え切れなくなった先輩社員が
脱走しようとしたところ、新幹線乗り場で係員に押さえつけられ、
3日に渡る拷問をされた後に職場に戻されたことを。
前歯が折られ杖なしには歩けないほど疲弊していた。
肌着を脱ぐと背中にはムチ打ちの腫れがある。

このような処分は行政指導と呼ばれている。

「行政指導って何?」
「おまえニュース見てないのか。
 秘密警察に捕まってひどい目にあうことだよ」

賢人は、自分の首に付けらた「首輪」を差して言った。
これは全国の労働者に付けることが義務付けられた
電子チップが内蔵されている特殊な首輪である。

もちろん勝手に外すことはできない。
一見するとオモチャのように見えるが、
無理やり外そうとしたら致死量の電流が流れる仕組みである。

この首輪はマイナンバーカードのデータとリンクしており、
行政は24時間の衛星からの監視により、
彼の居場所を特定してしまう。

彼に賢人がアパートから脱走したとしても
上で書いたのと同じようにどこかで捕まってしまう。

「く、首輪ってかわいいよね。
 よく言えばチョーカーだし、意外と似合ってるよ」

「皮肉で言ってるようにしか聞こえねえからやめてくれ」

「ごめん」

「いいさ。俺は国に人質に取られたようなものだ。
 この国の人間には人権なんてないんだよ」

美雪は兄の愚痴が長くなりそうな気がしたので
テレビを付けることにした。
狭いアパートなので音量を極限まで絞って。

「消費税率が34%となりましてwww国民の皆様には
 大変なご迷惑をかけているところでありますwwww」

首相閣下の演説であった。時の内閣総理大臣は、今や日本を代表する
独裁政治家として世界中で名前を知られている。

「この国はぁ、慢性的な人手不足でありますからwww
 これらからも一億総活躍の社会を目指していきますwwww」

この国から専業主婦は消え去った。
働ける女は年齢問わず派遣会社に拉致され、
賢人のように無理やり職場で働かされた。
家族の絆など存在しない。

「子育ては会社の業務に支障をきたす」として内閣府により
 特別法案が施行された。子供は親から切り離され、
 集合住宅で住むことになった。

そのため全国都道府県では修学中の全学生は
親元を離れて寮やアパートでの生活を強いられている。
これによって母親たちは仕事に専念することを強制された。

美雪はまだ大学生であるから強制労働は免除されている。
しかしもう大学三年生。まもなく大学を卒業することになる。
そしたら派遣会社に拉致される。

先ほどから「派遣会社に拉致される」という表現をよく使った。
実はこの世界では国民の8割は派遣社員である。
大手企業の技術者でさえ派遣社員である。
秘密警察を始めとした国家公務員でさえ有期雇用者である。

つまりみんなが明日も分からない状況で働かされていた。

「秘密警察の力によりぃ、全国から反社会的な労働者の皆さんを
 次々に更生させて、よりよい社会の実現を目指しておりますwww」

首相の口からも秘密警察と出ていることから、全然秘密じゃない。

・秘密警察
軍隊と同等程度の訓練を施された、武装集団である。
主な仕事は、過去作「学園生活~ミウの物語」で
描いた生徒会執行部とほぼ同じである。

主な仕事は非国民の「拉致」「監禁」「拷問」「粛清」である。

国家公務員ではあるが、時給はたったの300円。
やはりボーナスはない。しかし福利厚生はそれなりにある。

勤務態度が良い物には定期的に食料が配布される。
その辺のコンビニで売ってそうな安物の菓子パンなのだが、
無料でパンが食べられるのを望みに秘密警察に志望する人は後を絶たない。
総員27万人。訓練の過酷さに最初の2週間でほとんどが辞めていく。

派遣会社は秘密警察と繋がっていた。
健康で働ける状態なのに自宅にいる人は優先的に拉致し、
会社で使役させるのだ。拒否した場合は非国民として拷問される。

「雇用の流動性を加速させるためにぃwww
 これからも非正規で働く人の割合が増えるとは思いますがwwww
 その分仕事探しに困ってる人が即座に仕事を見つけられるwwww
 完全失業率が減少傾向になるのは喜ばしい事実でございますwwww」

何度も述べたが、勤務態度が不良の者は拷問の末に銃殺されたりする。
失業者とは、すなわち死んだ者と考えて差し支えない。
生きている間は会社の奴隷として働かされる運命なのだ。

「くそっ、くそっ、なんでこんなことに」
「お兄ちゃん…」

ぽろぽろと、自然と涙が流れた。
まだ銀行で働いている時のがマシだった。
いや、彼が銀行を退職してからすぐに革命が起き、
今の日本になってしまったのだ。

今まで与野党に分かれてワイワイやっていた元気な国会
(幼稚園児の集会場)は過去のものになってしまった。

首相権限によって自由民主党以外の全ての議員は銃殺されるか
国外追放され、この国は晴れて一党独裁国家となった。

自治体すら中央政府の意向には逆らえず、反社会的と
見なされた地方議員はその家族も含め強制収容所へ送られる。
憲法を始めとしてあらゆる法律や条例が改正され、
首相の思い描いた通りの社会が実現されることになった。

明治維新、敗戦後の平和憲法制定、バブル経済の崩壊、
この国の歴史は極端から極端へと移行する傾向にある。

ある時は国のために戦い、外国人を殺すことを美徳とし、
ある時は会社のために全てをささげて働くことが美徳とされ、
そして現在は行政府と企業の奴隷となることが美徳とされた。

「日本人ってのはさ」

賢人が言う。

「常に誰かに隷属することを喜びとする民族なんだ。
 大昔は殿様だった。そして国家、天皇陛下、上官、
 戦後は資本家、会社の上司、先輩。
 今は自民党と会社か。みじめな存在だよ」

「卑屈に考えすぎなんじゃない?
 今がたまたまこんな状況ってだけじゃん。
 首相がやってることは誰から見てもおかしいし、
 その内暗殺されるかもしれない。
 私は今の日本が10年先も同じだとは思わないけど」

「10年も経ったら、俺はもたねえな。精神的に死んじまう。
 精神的に死んじまったら、もの言わぬ奴隷と同じだ。
 そう、あの人たちと同じようにな……」

食べ終えた皿の横で下品にひじをつき、頭を両手で
かかえて震えだした。ギュット閉じた眼の中では、
あの時の様子が鮮明によみがえるのだ。

いったいどんなショックな出来事だったのだろうか。
賢人視点で振り返ってみよう。

第二話  ※賢人の視点

俺の勤めている工場では毎週月曜日に全体朝礼がある。
なんていうか、淡々としていて特に描写することなどない。
全体朝礼終了後は、各部署ごとに分かれての朝礼がある。

俺は2階のオフィスみたいにピカピカな部署に所属してる。
この工場は2015年に作られたので全ての施設がピカピカだ。
あの日に起きたことは、もう思い出したくもないが
風呂に入ってる時や寝る前などにフラッシュバックしてしまう。

「労働者諸君らに新人を紹介しよう」

あの野郎…なんて顔つきだ。30代半ばの中肉中世の男性主任だ。
米軍の特殊部隊で訓練された経験でもあるのか、
体つきも顔つきも常軌を逸してる。視線だけで人を殺せそうな勢いだ。

「渋谷賢人君だ。彼にはサーマルに配属してもらうことになった」

サーマルとは、デジタル印字機のことだ。
俺はその機会のオペレーターに任命された。

この会社は社名を「☆ペンタック☆」と言い、
主に大手アパレルブランド向けの「商品タグ」を製造している。

俺達労働者に命じられたのは、一日16時間働いて会社の生産に貢献することだ。
休憩時間は、お昼を含めて日に5回は用意されているが、
16時間勤務は過酷すぎるだろうが!!

「今週も特別な事情がない限りは全員に土曜日までの勤務を命じる。
 そして先週の勤怠不良者の発表を行うが……。
 名前を呼ばれた者は手を挙げろ」

勤怠不良者……? 聞きなれない言葉だ。
少なくとも銀行時代には聞いたこともない。

主任は男性の名前を読み上げた。

俺は配属初日だったので当然そいつが誰なのか検討もつかない。
労働者は全部で25名近く。
朝礼中は主任の周りに扇上に広がって話を聞いている状態だ。
その中で震えながら手を挙げている老人がいた。

「貴様」

主任の目つきがさらに鋭くなる。

「先週の金曜日は午後から早退したそうだな」

「はい…」

「私は何の連絡も聞いてない。なぜ私に相談しなかった?」

老人は、黙った。
それにしてもあの老人、何歳なんだよ……。
在職老齢年金をもらってるパターンにしても老けすぎてねえか?
腰は曲がってるし、目もしょぼしょぼしてる。
60代なんか余裕ですっ飛ばして70代に見えるんだが…

「黙秘は反逆罪と同様なのを忘れたのか。
 貴様が黙っているとラチが明かん。
 連帯責任として、そこの女に罰を命じることになるが、それでも良いか?」

「ひぃ…」

今悲鳴を上げたのは30代か40代だかよく分からない女だ。
顔を隠すように深くマスクをしている。
癖があり、乾燥しきった長髪を頭の後ろでまとめて垂らしている。

彼女は、マスク越しでも顔が引きつってるのが分かる。
足がダンスのリズムを刻むように小刻みに震えているじゃないか。

俺はあとでこの女性が「かぐや姫」さんであることを知ることになるのだが。

「わしは!!」

老人がしゃべった。

「妻が病気だったので病院まで付き添いに行ったとです!!」

微妙になまってるな。どこの生まれなんだろう。

「妻は運転免許証を持ってないし、バスやタクシー代を払うだけの
 お金も持っていません。ですからこの私が車で運転しなければ
 自力で病院にまで行けなかったのです!!」

なるほど。家庭の事情なら仕方ないだろう。
話を聞くと奥様は持病をお持ちでもうすぐ
薬のストックが切れそうだったとのこと。

なのに主任は、「じつにくだらん」と言い、
老人の頬を思いっきりビンタした。

「貴様がそのことを私に相談しなかった理由を聞いているのだ」

「相談したところで許可が下りるのでしょうか。
 この会社ではノルマは絶対とされている」

「何、私とて鬼ではない。貴様が早退して無駄にした
 9時間を今日取り戻せばいいのだ。
 貴様は本日は翌朝の4時までの勤務を命じる」

こいつは……何を言ってるんだ? 朝の4時だって!?
家畜じゃねえんだぞ。死んじまうよ。

「う、うぅ……くぅ……くそぉ……」

老人は歯を食いしばって涙をぽろぽろと流している。
周囲からは同情の視線が集まっていたが、それも一瞬のことだった。

老人は何を思ったのか、作業着の懐に隠し持っていた「手りゅう弾」を
取り出した。それを自分の胸元に当て、この場で自害すると宣言した。

あまりの事態に周囲は騒然となった。
女達から悲鳴が漏れる。(この職場は8割が女性だ)
俺も他の従業員らと一緒に壁際まで非難した。

この老人はなんで手りゅう弾を持ってんだ?
どこで手に入れた?
この国では軍隊か秘密警察しか所持できない決まりのはずなんだが。

老人は、主任の襟をつかんで自分の元へ引き寄せていた。

「主任。貴様も一緒に吹き飛ぶがよい。これは火炎手りゅう弾と言って
 破片と一緒に火炎もまき散らす。貴様も道連れにしてやるぞよ」

「実に反抗な態度だ。あとで派遣会社に連絡を入れておく。
 むしろ貴様の身柄を今すぐ秘密警察に受け渡したいところだが、
 朝から面倒だ。よってこの場で刑を執行する」

主任は全く脅えてない。俺だったら手りゅう弾を
持った人が近くにいたら騒然とするけどな。

主任はこれまた懐に隠していたハンドガンを取り出し、
老人の額に突き付けた。銃殺するつもりなのか……。

老人もさすがに焦り、手りゅう弾のピンを外そうと頑張っている。
しかし恐怖で手が震えてしまい、うまくいかないようだ。
いくら覚悟ができてるつもりでも、やっぱり人間死ぬのは怖いよな。

やるかやられるか。極限状態が続いている。

パァン とはじける音がして老人がうつ伏せに倒れた。

すーっと、音がするかのように弾が貫通した頭部から血が広がっていく。
綺麗なフロアの絨毯が、彼の血で汚れていく。

「いやあああああ!!」

今のは俺の悲鳴だ。つい女々しい声を出しちまったが許してくれ。
だって人が目の前で死んだ!! それも職場で。朝一で。あり得ねえだろ!!

「おい貴様」

「は、はい!?」

マスクをした例の彼女が呼ばれている。

「このごみを処分しておけ。血も綺麗にしておけ」

「しかし、私は今日の生産が遅れていしまいますが」

明らかに嫌そうな顔をしてる。

「生産はこれが終わり次第でよろしい」

「お、男の人の死体を運ぶのは私一人ではちょっと…」

「いちいちうるさい女だ!!」

「ひぃ!!」

主任はなんと俺を差して言った。

「そこの新人を使役してよろしい。二人で死体を処理して来い。
 時間は一時間やる。ノルマを達成できなかったら貴様ら二人にも
 罰を与える。分かったら早く仕事に取り掛かれ!!」

奴はそれだけ言って去って行った。

他の労働者たちは俺達には目もくれず、各々の持ち場についてしまう。
このフロアは学校の教室のように机が前を向いて並んでいる。
広さは教室の2倍ぐらいはあるか。

女性の大半は検品係。俺たち男性組は卓上の小型の印刷機を使う係なのだ。
俺も含めて全員座り仕事だ。後で詳しく説明するよ。

あいつらは無言。殺伐とした雰囲気で朝から生産活動に乗じしてる。
ものすごく気まずいぞ。俺は死体を挟んでマスクの女生と向き合っていた。

「あの……俺、こういうの初めてなんで。教えてくれると助かるって言うか…」

「私だって初めてよ……。
 死体処理をしたことがある女がいると思ってるの?
 普通に考えれば分かることじゃない」

む……。ちょっとムカつく言い方だったが初対面なので我慢しよう。

「きつい言い方になっちゃったね。ごめんなさい。
 私もいきなりこんなことを命じられて気が立ってるんだよ」

女性にしては低い声だな。酒の飲み過ぎで声が枯れてるのだろうか。
この女は目元しか分からないけど中々整ってるように見える。
背丈は160以上は余裕であるな。細身ですらっとしてる。

「死体を素手で触ると汚いから、手袋をして」
「ああ、あそこの棚の下に置いてあるんすね」

俺は小走りして新しい手袋を持ってきた。

「大切に扱うのよ」
「はい?」
「会社の支給品を粗末に扱う人は罰を与えられるから」

俺はそれだけで色々と察した。
つまりこの会社は北朝鮮のような全体主義国家なのだろう。
会社の命令に逆らうことはもちろん、手袋一つにしても
無駄にした奴は銃殺されても文句が言えないってか。

この女性の名前は「かぐや姫」なのだという。
ふざけた名前だ。こんな殺伐とした職場で冗談言うのはよせ。
もう一度名前を訊いたら同じ答えが返って来た。
なら訊くのをやめるか……。

検品係のよく肥えたおばさんが、こっちをじろじろ見て来るぞ。
何見てんだよ。仕事に集中してろ。

俺とかぐや姫は相談した結果、死体を引きずって
エレベーターの中に入れることにした。
荷物搬入用のエレベーターは、学校でいう所の黒板。
フロアの正面側にある。大きなエレベーターだ。

エレベーターを待っている間、背中から矢のような視線を感じる。
振り返るとフロアの女たちがほぼ全員俺たちに注目していて焦る。
こんな緊急事態なら誰だって気になるか。

一人だけ眼鏡をかけた若い女性が目に入る。
彼女もマスクをしてるんだが、すげえ美人っぽいオーラを出してるぞ。

エレベーターが開くと、浅黒い肌をした中年の男性が出て来た。

「な…」

俺と姫の横に「死体」があることに驚愕してる。

「銃殺刑があったのか。おめーらも苦労してるな。
 そっちのあんちゃんは見ねえ顔だが、新入りかい?」

彼は軽く溜息を吐く。彼は荷物を運ぶのに使っていた「大きな台車」を
俺たちに貸してくれた。さらに会社の敷地内にある死体処理場までの
簡単な地図を紙に書いてくれた。なんて親切な人なんだ。

それにしても日本の工場ってのは死体処理場なんてあるんだな。
現場仕事をするのは初めてだから知らなかった。

「死体処理場なんて一般的なわけないでしょ。
 どこの工場でも普通ないよ、そんな場所」

「あれ、俺今口に出して言ってましたっけ?」

「……全部出てたよ。あなた、考え事をするとつい口にしちゃうのね」

なぜか彼女は俺の目を見ずに答えた。何か違和感があるな。
なんだろう? 今はどうでもいいか。

俺と姫さんは、会社の敷地の裏にあるゴミ処理場へ向かった。
ただ処理場という名の札が立ってるだけの広場みたいな場所だ。
そこには死体がいくつも埋まっているという……。

「はい。スコップを使って掘って」
「俺がですか?」
「あなた、男の子でしょ。私は非力なの。
 朝から子供たちのご飯作ったりで疲れてるのよ」

聞いたところによると、姫さんは子供を6人も生んでるらしい。
6人だと!? そんなに老けては見えないぞこの人。
行ってても40ちょっとすぎくらいだろうが…

詳しく聞いていると離婚歴3回!! バツサン!?
3回も離婚するなんて芸能人並みじゃねえか!!

逆に考えたら三回も結婚出来たってことだよな……。
男はブスとは結婚したがらないぞ普通。
だって誰だってブスとはやりたくないだろ。

この女、マスクを外したら相当な美人なんじゃねえのか。
普通の女だったら子がいる状態で再婚とか無理だろうよ。

「私のことはどうでもいいから早くしてよ。
 一時間以内に戻らないといけないんだから」

ええい。実はこの女の過去とかに盛大に興味があるが、今はどうでもいい。
俺はいかに自分の体が訛りきっているかを痛感することになる。

老人の死体が入るのに十分な穴となれば、それなりの広さを掘らないといけない。
穴の幅、深さ、土をかぶせる量を計算すると重労働だ。

「ぜえぜえ……」背中に汗かいちまった。今日は日差しが強いんだよ。
息が切れる。穴を掘るのって下半身にすごい負担がかかる。

「情けない子ね。うちの大きい子の方がもっと体力あるよ」

大きい子は……彼女の長男さんで高校二年生。アルバイトをして
生計を支えてくれているそうだ。涙が出るエピソードだぜ。

「ちょっと貸して」 姫さんは俺からスコップを奪うと、
手慣れた動作で掘り進めていく。細身なのに意外と力あるねー。

「20代の時に肉体労働もしたことあるから」
「へ、へえー」

この人の20代の頃って、色々と壮絶だったんだろうなぁ。
つい質問攻めしたくなるが、今は作業を終えるのが先だ。
俺は初日の勤務だってのに、まだ本業には触れてすらいない状態だ。

カグさんが八割掘ってくれたおかげで、死体は十分に埋められた。
埋めなおした土を足で慣らして完成。埋めるのは簡単なんだな。
死体を埋めたのは俺達だけど、あとで幽霊になった化けて出られたら嫌だな。

「ありがとうございます。なんか、俺全然役に立ってなくて…」
「いいよ。早く戻ろう。それよりあなた名前は何て言うんだっけ?」

主任から紹介されたろうが。

「一度聞いただけじゃ忘れちゃうよ。シブタニくんだっけ?」
「シブヤです。シブヤ・ケント」
「ケント君ね。うん。覚えたよ」

初めて彼女がほほ笑んだ。
切れ長の瞳に見つめられると少しドキッとした。
何考えてんだろうね俺は。

それよりこの女はさっきから俺の思考を読んでるかのような
そぶりをするから困る。さっきの名前の件も俺、口に出してたかな。

職場では印刷機の簡単な説明をされた後、先輩がつきっきりで
指導してくれた。PCと卓上印刷機を連動させ、ひたすらに
指示書通りに生産をしていくだけの地味な作業だ。

印刷機がアホなので頻繁に動きを止める。そういった不具合を
治しつつ、印刷機を動かし続けるのが俺の仕事のようだ。

なるほど。少しでも設定が狂うと大量の不良品を出しちまうかもしれないのか。
ちゃんとやってるつもりでも勝手に設定値が狂ったりするから困る。
工場では目の前にお客や取引先がいるわけじゃないが、油断大敵ってわけか。

営業ノルマがないから製造業なんて楽なんだろうと思っていたが、
機械と睨めっこするのも大変なのかもしれないな。
どいつもこいつも真顔で製品と睨めっこして仕事してやがる。

工場で働いてると人相悪くなりそうだな……。
俺は笑顔を忘れないようにしたい。

お昼休みのチャイムが鳴る。

キーン・コーン・カーン・コーン ←チャイムの音

あっという間にお昼の時間かよ。

正直初めての仕事で緊張してるのと、
覚えるのに必死だったこともあり
時間なんて確認する余裕がなかった。

「空いてる席に座って食えばいいんだぜ」

中年男性の先輩にはそう言われたが、初めてなので勝手がわからん。
工場は12時ぴったりにお昼休憩になるのがまず驚きだよ。
まあ事前に派遣会社から話は聞いてたけどな。
ここで働いてると学校に通ってる気分になる。

わいわい。がやがや ←食堂の喧騒の音。

……。そんなに広くねえな。
大学の食堂に比べるべくもない。
ここじゃあ、せいぜい50人しか入らねえだろうな。

そんだけ従業員の総数が多くねえってことなんだろうが。

「女達はだいたい固まって座ってるから、
 そこは避けたほうが良いね」

先輩のアドバイスを思い出す。
俺だっておばさん達の近くで食べる趣味はないよ。
どうせ人の悪口とか愚痴で盛り上がってるんだろうからな。

俺はわざと5分くらい遅れて食堂に入り、年配の男性達が
座ってるところを狙うことにした。ここなら開きがあるみたいだ。
初日はコンビニでおにぎりとサンドイッチを買ってきたから早速食べ始める。

……き、気まずい。男連中は淡々と食べている。
俺のことなど視界にすら入ってないようだが、
おばさん達が遠目からチラチラ見てくる。俺は珍しい動物じゃねえんだぞ。

そういえば、「かぐや姫」の席はどこだ?
なぜだか無性に彼女のことが気になる。

姫は? 姫はどこだ……? ……いない。

姫……。

思い出したぞ。工場では自分の車で食べてる人もいるらしい。
時間の取れない営業マンか配達員かよ。
それとも自宅が近くで帰って食べてるのかもしれない。

味なんてさっぱり分からなかった。
俺は食後、駐車場へ出た。
深い意味はない。今日から夜遅くまでこのクソ工場で
缶詰にされるのだ。気分転換に外の空気を吸おうと思ったのだ。

「あ、お疲れ様です」

時が……止まった気がした。俺は玄関で靴を履き替えてる時に
この女とすれ違った。そして一瞬で目を奪われてしまった。

おいおい。誰だよ……この超絶美人は!!

あとで知ったことだが、あの時すれ違った美人の名前は
坂上さんと言って、職場ではちょっとした有名人らしい。
顔が整っていて性格も良く、独身で彼氏もいないそうだが。

まずあの顔で独身なことに驚いたよ。
俺はめったなことですれ違った人なんてじろじろ見たりはしないんだが、
あの人だけは特別だよ。

「そこの貴様」

へ? 貴様って俺のことですか主任さん。

「貴様以外に誰がいるのだ。用があるのでついてこい」

俺は午後一でなぜか主任に呼び出された。
なんだ……? 俺が仕事中なのは見てわかってるはずだが。

「一階の部署がそれなりに繁忙でな。
 少し荷物を運ぶのを手伝いたまえ」

あぁん? めんどくせえな死ねよ。
んなこと口に出したら殺されるから言えねえけどな。

一階に降りると、断裁工程?ってことに案内された。
いくつも並べられたパレットの上に、
印刷物を満載した箱が並んでいる(プラコンって呼ぶのか?)

印刷物を近くで見ると、女性用の下着だった……(下着の値札。写真がついてる)
メーカーはトリンプ? 男だからメーカー名なんて知るか。
ユニク〇ように出荷するらしい。
あとは無印良品向けの値札が大量に印字されている。

無印は無駄に高いよな。

「ぼーっとするな。ハンドリフターを使って
 エレベーターまで運ぶのが貴様の仕事である」

いちいち言い方が偉そうなんだよクソ野郎。
工場の主任ってそんなに偉いのか?

そもそもハンドリフターなんて使ったことねえよ。
        ※手動の小型フォークみたいなもの。

俺がそのことを言うと

「戸部。お前が指導してやれ」
「…はい」

背の低い女の人が俺に手ほどきしてくれた。
おっ。意外と簡単じゃねえか。

戸部さんって人は肌も綺麗だし、
見た目は若いけど明らかに俺より年上なのはわかる。
おいくつなんですか?
俺は馬鹿なんで口に出ちまったみたいだ。

「今年で34です」

まじかよ……。超絶美人だった坂上さんと同い年くらいにしか見えねえ。
最近の女性は若作りな人がゴロゴロいるから困る。
しかも身長が147センチくらいしかねえだろ。

なぜ具体的に分かるのかと言うと、俺は目線の高さから
相手の女性の身長が何となく分かる特技があるのだ。
なんの役にも立たねえ特技だけどな。

「おーい戸部さん。こっちも忙しいんだ。すぐ来てくれ」
「はーい」

中年の男性に呼ばれて戸部さんは小走りで去って行った。
せめて礼でも言おうと思ったのに少し残念だ。


エレベーターで2階へ物を運ぶ。
エレベーターのすぐ横に荷物を置いておく棚がある。
棚は4段となっており、製品ごとに分けておくようだ。
当然俺には正しい置き方など分からない。

バレンツ海で初めて漁師と対面してしまったイッカクの群れの
ような態度でおろおろしていると……

「もしかして置き場が分からないのですか?」

あの美人さんが声をかけてくれた。

「トリンプがこっちで、ゆにくろはこっちです。
 再印刷したものは、わたしか松井さんに直接渡してください」

お、おう……。

「入ったばかりでまだ何も分かりませんよね。
 分からないことがあったら何でも聞いてください」

天にも昇る気持ちだったね。ただの社交辞令なんだろうけど
それでもうれしいよ。坂上さんの名前はしっかり覚えたぜ。

しかし気になったのは、彼女が終始ニヤニヤしていたことだ。
マスク越しでも口角が上がっていたの分かってしまう。

おろおろしていた俺の姿が、やはり動物か何かに
見えてしまい、同情されてしまったのだろうか。

検品係の女たちがじろじろ見てくる。
何見てんだよ。うぜーからみんな死ねよ。坂上さん以外はな。

とはいえ、今日は良い気分だったんで
夜までルンルン気分で仕事を終えた。

問題が起きたのはそれから3日だった。

「貴様」

おう主任。
その貴様ってのは、俺のあだ名か何かか。

「シブヤがこの会社に入って何日になる?」
「まだ3日目ですが」
「先日貴様の生産したタグに大量の不良品が発見された」

なにぃ? どうやら昨夜8時以降に生産した分で
1000枚以上の不良品を出しちまったようだ。
いわゆる印字不良。バーコード付近の文字がかすれて
白い線が入ってるみたいな感じになっちまってる。

つーか詳細を文章で表現するの無理だろ。

「なぜ途中で気づいて生産をやめなかったのだ」

あー無理無理。だって眠いんだもん。
1日16時間も働くとか無理ゲーだろ。

北朝鮮の強制収容所じゃねえんだぞ。

「こっちへ来い」

今日は入社3日目。
俺は部署の朝礼終了後に主任とタイマンで話をしている。
他のみんなはとっくに仕事にとりかかってる。

「ぐはっ」

俺はいきなり顔を殴られ、軽く転倒しそうになったが
なんとか堪えた。唇が切れて鉄の味が口腔に広がる。

「北朝鮮と比べるとは何か」

やべ。口に出てたのか。俺の悪い癖だ。

「貴様の腐った根性を叩き直してやる。一歩前に出ろ」

あー切れた。俺マジ切れたよ。
これでも結構けんかっ早い性格でね。
体もそれなりに鍛えてる。

会社を首になる覚悟で主任のクソ野郎に
重い拳を食らわせてやろうかと思った時だ。

「やめておきさない。上司に逆らったら拷問の末に銃殺刑だ」

だ、だれだ? 小声だった。
振り返ると、仕事をしながらも俺にアドバイスをしてくれた、じいさんがいた。
腰は曲がってないが、首だけが妙にうなだれた感じの、短髪白髪の老人。

つまり俺は抵抗しないほうが賢明ってことか。

「ぐお」

俺は蹴飛ばされ、ついに尻もちをついた。
主任は掃除用具入れの中から「革製の鞭」を取り出し
俺に振るってきた。

俺は体を守るために、床の上で丸くなって暴力の嵐に耐えるしかなかった。
「学園生活~ミウの物語」でミウにいじめらてるマサヤの状態じゃねえか。
ついメタネタを話しちまったが許してくれ。
それくらい精神的に追い詰めらられていたんだ。

俺の背中はボロボロだ。制服がところどころ破けて血が出ちまってる。
他人事みたいに聞こえるかもしれないが、すげー痛い。
傷口をさらにえぐるように鞭がしなる。

なにせ皮が破けてるんだ。出血箇所に鞭がもう一度当たると

「ぎゃああああああああああ」

叫びたくなくても叫んでしまう。顔中に脂汗をかいている。

ちくしょう。抵抗できないんじゃ、収容所で
看守にいじめられてるのと変わらねえじゃねえか。
こうなったら……

「家具ぅぅぅぅ。助けてくれえええええ!!」

俺は「家具さん」の名前を読んでしまった。
家具とは、かぐや姫の別のあだ名だ。
別名久美子さんとも呼ばれる。

ニトリHDにぼろ負けし、経営状態が大赤字な
企業を連想させるが、つまりそういう苗字なんだろう。

彼女は一部の従業員から親しみを込めて
「家具さん」と呼ばれている。
だから俺もつい読んでしまうんだ。

当の家具屋さんちの姫さんは……

「……」

無反応。俺のことなど全く無視してタグ(値札)の束を検品してる。
他の従業員も同じだ。あれ…おかしいよね? 俺の姿、見えてますか?

なんでみんな普通に仕事ができるんだよ!!

「今日の仕置きはここまで。貴様は入社して日が浅いから勘弁してやる。
 傷口は止血しておけ。医務室の場所が分からぬのなら、
 適当な人間に案内を頼んでも構わん」

主任は鞭を掃除用具入れにしまってから去って行った。
手当の前にてめえを殺したいんだが。うん。いつか絶対に殺してやる。
この仕事を辞める前にな。つーか辞めてやるぞ。
でも勝手な理由で辞めたら銃殺刑になるんだっけか。

2017年まで大塚家具の利益剰余金はかなりの額だった。

「姫。行きなよ」
「なんであたしが」
「あいつ傷口が化膿したら死んじまうぞ」
「うわぁ……ひどい出血…」
「あの状態で仕事するの無理だろ」
「だったらおまえが助けてやれよ」

主任が去ってからざわつく職場。
ちゃんと俺の姿が見えているようで良かった。

まじで動けねえ。少しでも体を動かすと
背中が焼けるように痛い。あと俺の顔が
泣きすぎて人に見せられねえ状態になっちまってる。

ここ本当に会社なんだよな?
工場って不良品を出すと次の日に物理的に制裁されるのかよ。

日本はブラック企業が多いとは聞いていたが、まじで地獄だったんだな。

「あ、あの」 なんか眼鏡をかけたおとなしそうな20代の女子?
(最近の女は自分のことを女子と呼ぶらしい)が声をかけてくれたんだが、
この子は脅えてるじゃないか。ありがたいけどいいよ。自分の仕事をしてなさい。

「で、でも。死んじゃいますよ」
「そんなに俺を助けたいんだったら救急車でも呼んでくれると助かるよ」

女の子は家具さんを読んでくれた。
家具さんは一瞬だけ嫌そうな顔をしたけど、ついに観念したようだ。

「仕方ない。時間がないの。私に着いてきなさい」
「うぎゃあああ!! 無理やり引っ張るなよ!!」

腕をつかまれた激痛でのたうち回る。
もうね。動くとか無理すぎだろ。俺の背中とか出血がひどすぎて死にたい。

「本当はみんなの見てる前でやりたくはなかったけど、
 今からあなたに魔法をかけます」

「魔法?」

「あなたが傷を負ったという事実は、実は気のせいだったのです」

「気の……せい?」

「そう。気のせいです。あなたは今日は普通に出勤し、そして
 何事もなかったかのように家に帰るのです。さあ、目を閉じて
 心の中で念じなさい。あなたは、今日は何もなかった」

「何も……なかったって……」

無理だろ!! この痛みをどうやったら和らげることができるんだ!!
背中の痛みが焼けつくような感じでどんどんひどくなっていくよ!!
こんなことなら銀行を辞めなければよかったよ!!

「本音をぶっちゃけさせてもらうわ。
 あなたを病院に連れて行くと入院イベントが発生するのよ。
 それだと小説的に冗長になっちゃうので、できれば控えたいの。
 というわけで、今回のむち打ちの件は、ただの気のせいだったのです!!」

かぐや姫は俺に手刀を食らわせてきた。
これはすごい一撃だ。首が重みを感じた瞬間に意識を失い、
目が覚めたころには次の話に飛んでいた。

会社の掲示板には 銃殺刑になった人のリスト

のみならず、刑罰によって再起不能になった人などの名前が書かれている。

こんな感じ↓

下記の従業員は勤務時間中もしくは昼休み中に
脱走を図ろうとしたため逮捕された。
その後の社内裁判を経た結果、
外国のスパイであることが判明し銃殺刑が執行された。

「池田正平」
「谷村良平」
「佐藤美香子」

もちろん普通の日本人だったのは言うまでもない。
スパイ容疑にしておけば銃殺刑にしやすかったのだろう。

精神に異常をきたし、入院した者の名前も乗せられている。
再起不能者だ。

再起不能とは文字通り社会復帰することが困難になった人のことを差す。
前作学園生活で描写されたのと似たような原因によるものだ。
同じ作者が書いてる内容なので設定がかぶるのだろう。

しかし「刑罰」とは。会社なのにおかしいと思うかもしれない。
これが困ったことに適切な表現なのだ。

この世界では会社ごとに法律が決められていて、社内で司法機関と行政機関がある。
それらを統括するのは会社の従業員、すなわち会社の「上役」「上司」にあたる者たちである。
会社で一番偉いのは経営者、取締役、大口株主、いわゆる資本家連中である。

日本において会社とは一つの国であり、軍隊である。
日本の会社に入社する以上、軍隊で使役されるのと
同等の覚悟が要求されるのだ。人権などあるわけがない。

俺たちは工場の労働者なので平日に会社に通う。
当然休むには特別な理由がいる。

親の介護かもしれない。
子供が風邪を引いたのかもしれない。
役所に行く用事があるのかもしれない。
もしくは自分が病気をしたら……?

それは日本(会社)では「悪」だと断定される。
なぜならその人が休むことで他の労働者に迷惑がかかるからだ。

日本において経済活動(生産やサービスの提供)に影響を及ぼす者は
悪であり、裏切り者であり、端的に言って銃殺刑なのである。

この国は、かつて軍隊が国を所有していたが、
今は企業が国を所有しているのである。
「一億総奴隷時代」が到来したのである。

「お兄ちゃん。疲れてるのは分かるんだけど、
 早くお昼ご飯食べてくれないと冷めちゃうよ。
 せっかく作ったのに」

妹の美雪が何か言ってる。不満そうな顔だ。
俺は不機嫌でじっと考え事をしていたから食欲はあまりない。

「でも食べないと痩せちゃうよ。もうすでにガリガリで死にそうなのに」

うっせー。俺に比べたらカグ屋姫はどうなるんだ。
痩せすぎて皮と骨だけみたいな外見だったぞ。

ちなみに今日は休みの日。つまり日曜日だ。
前半の文章だけ読むと会社にいるシーンを思い浮かべたかもしれない。
ミスリードってやつだ。前半部分はただの海藻だ。

「それを言うなら回想でしょ」

うっせえ。

「実は私もね」

ん?

「働こうと思ってるの。お兄ちゃんの給料だとこのアパートの
 家賃払いきれないでしょ。これでも一応大学生なわけだし
 どこかの派遣会社に登録して楽そうな会社を…」

俺は鼻で笑った。美雪の目つきが鋭くなる。

「お兄ちゃんを助けようと思って言ってるのに!!」

俺はオレンジジュースを飲みながら

「バーロー」

と言った。思いっきり皮肉を込めてな。

「楽な仕事なんて今の日本にはねえよ。
 少し前までは学生アルバイトなんてたくさんあったんだろうが、
 今は全労働者に占める派遣社員の割合は8割。
 派遣会社に登録したらあとは地獄だぞ」

「分からないじゃない。中には学生でも勤まる仕事もあるかもれないわ。
 お兄ちゃんが働いたことがあるのは信用金庫と工場だけじゃない」

「ネットで調べて見ろ。小売り、物流、医療サービス、営業職全般、
 全部地獄だぞ。特に営業なんて厳しいノルマをこなせない者は
 三か月以内に銃殺刑になるんだ」

営業と言えば何と言っても派遣の営業マン(もしくはウーマン)だな。
彼らは派遣スタッフを定期的に企業に(だまして)送り込み、
使役することでしか利益を上げられい可哀そうな存在だ。

営業マンは数か月ごとに入れ替わる。
前任者が銃殺刑になった時、そいつの代わりが補充されるのだ。

契約が取れなければ死ぬ。彼らも必死だ。

労働者が脱走するなどして派遣先企業から苦情が来たら終わりだ。
彼らが最も恐れているのは、取引先の企業から信用を失うこと。
最終的には自分の命にまで繋がるんだから文字通り命がけってわけか。笑えねえ。

「おまえが調べてる求人はだいたい想像がつくぞ。
 近所のドラッグストアとかで働きたいんだろう」

「なぜそれを…」

「おいおい。今適当に言っただけなのに当たってたのかよ……」

「なんでドラッグストアはダメなのかちゃんと説明して。
 そうじゃないと納得できない」

最近こいつの顔が若い時の仲間由紀恵に似てきた気がする。
仲間さんの代表作は、なんといっても「リング」だ。
リング・ゼロ・バースディに出てきた貞子は可愛かった。

「これを見ろ」

俺が見せたのは、この一ヵ月で報道された、強盗事件の例だ。

4月だけで全国で726件。
書き間違えではない。726件だ
マスコミが把握してないだけで実際はもっと多いだろう。

俺たち労働者は貧しい派遣労働者だ。
俺なんて時給210円だから定時まで働いて1700円未満。
残業代を含めてようやく3600円くらいか。計算は適当だ。

こんなご時世では身近な小売店を襲撃するなどして
食料品や日用品を手に入れるしかないのだ。

「美雪は火炎放射器を見たことがあるか?」
「火炎放射器……? バイオハザードで使ったことがあるけど」
「ゲームの話じゃねえ。本物はまじでヤバいんだぞ」

日本は最近は不景気のせいでずいぶん物騒になった。
どっかの馬鹿が外国から武器を仕入れて報道されたのをきっかけに
密輸がちょっとしたブームになったらしく、そこいらの
一般人が武装して生活するのが当たり前になっている。

強盗は、武装してから店を襲う。

コンビニのショーウインドウ越しに火炎放射器を発射した事件があったのだ。
そのコンビニはすでに複数名の強盗によって店内を荒らされていたのだが、
火炎放射器を持った新手の強盗によって店ごと燃やされてしまった。
金庫だけは残ったってわけだな。

他にもレンタルビデオ屋のレジに入ったお金を目的に
強盗同士で激しい銃撃戦を展開したこともあった。
あいつら金はないはずなのに銃と弾薬は豊富に持ってるから困る。

そんなわけでは店員として働くには、武装集団に襲われても
適切に対処し、通常業務が続けられるくらいの忍耐力などが必要とされる。

適切に対処ってどうすればいいだ…?
強盗を撃ち殺せばいいのか。
NHKがよく言う『頑丈な建物に避難』と同じくらいあいまいだ。

あれってまじめに考えると核シェルターや塹壕のことを差してるんじゃねえのか。
だって大災害が起きた時に『頑丈』と定義できる建物なんて
俺ら民間人には思いつかねえよ。
政府の奴らには核シェルターが用意されているらしいがな。

「つまり薬局で働くと
 普通の人は死んじゃう可能性が高いってことね」

「まあ、確実に死ぬだろうな。可能性じゃなくて」

美雪が勤めたがっているドラッグストアは時給が190円だ。
シフト勤務なので一日最低でも5時間働けば解放されるわけだが、
こんなクソみたいな条件で働く奴いるのかよ。

ブラック企業ってレベルじゃねえぞ!!

「そろそろ食料品が無くなってきたな」

「お店に買いに行くのは危ないから
 いつものように通販で頼もうか」

今時は通販で食材も運んでくれる。
西友みたいにな。
西友はアプリ登録してあるからスマホで注文できて便利だぞ。
だが最近はあまり来てくれなくなった。

肝心の食材を運ぶ宅配員が強盗によって襲撃されるからだ。
不景気になると食材を運ぶのも命懸けだから困る。

「店に行くしかねえだろうな。マジで冷蔵庫の中身が空だぞ」

「日中は日差しが強くなってきたからアイス食べたいんだけど。
 あと日焼け止めも買わなきゃ」

「日焼け止めは貴重品だから値上がりしてるらしいがな。
 ま、この時間なら強盗も大人しくしてるかもしれない。
 どうせ来るなって言ってもくるんだろうから、俺に付いてこい」

「うん♪」

俺たちは近所のスーパーまでのわずかな道のりを歩く。

不思議な妹だ……。
この年になっても彼氏を作ろうとしないし、俺の横にぴったり体を
寄せて歩いてくれる。恋人じゃないから腕を組んだりはしないがな。

こいつのことは嫌いじゃない。
機雷じゃないんだが…(間違えた。嫌いだった)
はっきり言って……恥ずかしいんだよ。

「おまえってさ」

この質問をするのは初めてじゃない。

「彼氏とか作らねーの。その、大学とかでさ」
「えっ。彼氏? なんで?」

聞くだけ無駄か。
こいつの言い分によると、自分は男性に対する理想が高い。
大学には自分の好みの男性が一人もいないそうだ。
中学や高校でも同じだったらしい。
おそらく社会人になっても同じことを言うのだろう。

自分で言ってて恥ずかしくなるが、こいつ「ブラコン」なのか!?
ブラザー・コンプレックスとは兄のことが大好きな人のことを指すのだろう。

これが小説だからいいけどよ、現実にこんなに
兄にべったりな妹って存在するのだろうか。

「あ、ごめんね。私が近くにいるとお兄は嫌なんだよね。
 少し距離取って歩いたほうが良いよね」

「いや。そういうつもりで言ったわけじゃあ…」

本気でショックを受けてるようだ。
顔がガチで泣きそうになってる。

「私ってウザイよね。私はブサイクだから、
 大学生になっても彼氏がいないし、
 料理だって上手な方じゃないもん」

顔は大丈夫だと思うぞ。若い時の仲間由紀恵に似てるからな。

俺はマイナス思考でどんどん自分を責め続ける妹を
なだめながらお店に入った。こいつは少し褒めてやると
すぐ機嫌が良くなるから助かる。

美雪は俺に褒めてもらうのが何よりうれしいといつも言っている。
そんなもんかね。相変わらず俺の横をぴったりと着いてくる。

俺と身長差がないから余計に歩きやすいのか。
(俺は男性にしては低身長で美雪は高身長)

店内は不思議なほど人がいねえ。
今のことろ強盗に襲われる心配はなさそうだと判断し、
さっさと必要な物だけ買ってから帰ることにした。

そう思ったのだが。

「かぐや姫が」レジで並んでるじゃないか。
ちょうど俺たちのひとつ横のレジにいる。
向こうも俺の方を振り返って気まずそうな顔をしてる。
この状態で挨拶もしないのは失礼かと思い、俺は話しかけに行った。

と言っても話すことなど何もない。本当にただの社交辞令だ。
かぐや姫の横には見知らぬ男性がいた。男性というより……高校生?
ああ、息子さんか。一番上の子供が高校生と言っていたな。
年の割にはしっかりしていそうな子だ。

母子家庭で育った子は、小さい時から母を支えてくれるようになるらしいな。
甘ったれた環境で育った俺とは大違いだ。

「今の人は誰なの」

俺はなぜか美雪から肘鉄(ひじてつ)を食らい、
一瞬呼吸が止まる。いきなり肘鉄すんなよ!!

「どうせ会社の女の人でしょ。店先なのに仲良さそうにしてバカみたい。
 女の人を見るとすぐ鼻の下を伸ばすんだから。恥を知りなさいよ」

「あの人は子持ちのバツイチだっつの。俺がデレデレする要素がどこにある?
 つーか声のトーン抑えろ。聞こえちまうだろ」

「私は冷静。最初に喧嘩売って来たのはお兄の方じゃない」

「そんなこと言われても、喧嘩を売った記憶がございませんが」

俺たちは殺伐とした会話をしながら会計を終えた。
若い女の店員が俺たちになぜか脅えてて笑った。
強盗じゃねえから安心しろよ。

「私も働いて職場で彼氏作ろうかな」
「おう。頑張れよ。応援してるぞ」

「すっごくイケメンで優しい彼氏を!!」
「だから頑張れって。おまえってイケメンが好きだったのか」

「……止めなくていいの?」
「……何をだよ?」

また、肘鉄を食らった。
わき腹に一撃を加えるのはやめてくれ。マジで痛いんだぞ。

美雪はどんだけ俺のこと好きなんだよ。
21にもなってそろそろ笑えないレベルだぞ。

「重いんだよ」

お前の気持ちが。

「え!? 今何て言ったの」

やべ。聞こえちまったか。

「なになに。今何て言ったの。私が重い? 体重のこと…違うよね?
 私の気持ちが重いって言いたいの?」

「違う違う。今のはたまたま口に出ちゃったんだよ」

「私はお兄ちゃんのためにご飯とか作ってあげてるし、
 掃除もしてあげてるのに何がそんなに不満なの? 
 不満があるならちゃんと言ってよ」

「不満なんて何もないよ。ごめんって謝ってるだろ」

「ごめんって口では言ってるけど全然納得してないじゃん。
 この前だって…似たようなこと言って私をすっごく傷けた」

「本当に悪かったって、あの時も謝ったじゃないか」

「昨日のお昼も私のラインを無視したよね。
 お昼はご飯食べたあとは暇なくせに無視するなんてひどい。
 いつもとお弁当の味付けを変えて見たら感想を聞きたかったのに」

「感想なら家に帰ってから言ったじゃないか」

「そんなんじゃダメ。メールは読んだ瞬間にちゃんと返して。
 お兄ちゃんは私の気持ちを全然分かってないんだから。
 早起きしてお弁当作る大変さがお兄ちゃんに分かるの?」

「おまえの言いたいことは良く分かった。ここは店先だから
 そろそろやめないか。みんなに見られちまうよ」

「お兄ちゃんが私に喧嘩を売ってくるからこうなるんでしょ。
 自分が悪い癖に何勝手なこと言ってるの。先月だって……!!」

2分後。

「そろそろ落ち着いたか?」

「うん……」

自分で言うのもあれなんだが、俺も会社でストレスが溜まってることもあり、
『美雪をビンタ』しちまった。だってムカつくんだもん。
ビンタしたのは、あくまでこいつを黙らせるのが目的だ。

美雪は普段は控えめで良い子なのだが、
一度怒らせると今までため込んだ不平不満が爆発し、
巨大なエネルギーとなって俺を攻撃してくる。

一を言うと百帰って来るってこれのことだな。

美雪のこの謎の症状をヒステリーと定義してるんだが、
どうも違うような気がする。メンヘラ? ヤンデレ? 
学園生活の高野ミウちゃんに近い症状だな。
堀太盛君のどこにそんなに魅力があるのかさっぱり分からん。

いつも思うけどああいうのって主人公補正だよな。
少女漫画の主人公もごく普通の女子高生なのに
なぜかイケメンばかりに言い寄られるし。

「お兄ちゃんの馬鹿……」

ハンカチで涙を拭きながら、しくしく泣いている。
やべえ。猛烈に罪悪感が襲ってくる。

泣いてる姿は本当に可愛んだよ。
この姿だけは他の野郎に見せたくないって程にな。
小さい頃は泣き虫だったなぁ…。

「ごめんな美雪。俺は本当に美雪のことを大切だと思っているよ。
 だって俺達は、たった二人だけの家族じゃないか。
 もう美雪を悲しませることはしないって約束する。これで許してくれるか?」

「うん」

俺に魅力はないぞ。なにせ時給210円だからな。
底辺所得者ってレベルじゃねえ。
顔も普通(むしろブサイクか…?)な上に背もない。

令和10年の日本では若くても将来性はゼロだ。
なにせ会社がまともに給料を払わない上に
行政サービス(社会保障制度)も破綻しているので
結婚や子育てなど夢のまた夢。

美雪の将来を考えるなら、日本を脱出して金持ちの
白人と結婚したほうがよほど幸せに慣れそうな気がするがね。

「私とお兄ちゃんは家族だものね。
 うん。そうだよね。えへへ。今回だけは特別なんだからね」

うっ…。妹とはわかっていても、
泣きはらした笑顔にぐっと来てしまう。
こいつと血がつながっていなかったらホテルに
連れ去ってしまいたくなるほどにな。

美雪が謎のヒステリーのような症状を発症したのは、
こいつが中学の頃だったか。あの時は俺も学生だったので対処法が
分からず、あぜんとするばかりだった。

ちなみにこいつが一度切れだすと一時間くらいはヒスッてる。
ひどい時で夜11時から切れて深夜の2時まで
騒いでる時もあった。あの時はビデオカメラで撮影して
あとでこいつに見せてやろうかと思ったが、さすがにかわいそうなので止めた。

今ではこいつのほっぺたを全力で
叩けば落ち着くことに気づいたのでそうしてる。

美雪は妹だが一人の女でもある。
男として最低のことをしてる自覚はあるんだが、
仕方ないだろう。不景気の日本を兄妹仲良く
生きていくためには「愛のある暴力」が必要な時もあるんだ。

最近気づいたんだが、「愛」を付ければ
たいていのことは許せるような気がしてきた。

愛のあるヒステリー
愛のある銀行強盗
愛のある自民党一党独裁
愛のある消費増税

さすがに無理があるな……。

「美雪。おまえにこれを渡しておくよ」
「これは……福引券?」
「同じスーパーで5回買い物をするともらえるんだ。
 次回来店時に美雪が回すといい」

ガラポン?ってやつだな。俺は男だから全く興味ないが
主婦を中心に女には結構な人気があるらしい。

「ありがと♪ また一緒に来ようね」

くったくのない笑顔だ。こいつ童顔だから高校生に見えなくもない。
俺は恥ずかしくて仲間さんの顔から眼をそらしてしまった。
仲間さんじゃなくて美雪だった。

美雪が手を差し伸べて来たので、つい手を握ってしまった。
妹の手は柔らかかった。

「あのー、そこの若いご夫婦の方、ちょっといいですか?」

信号待ちをしてる時に、隣にいる若い男性に声を掛けられた。
見るからに温和そうで、大学を出たばかりで
売れない生命保険会社の営業職をやってそうな感じの雰囲気だ。

「いきなり申し訳ありませんが、有り金とか全部出してもらっていいですか」

そいつは懐から取り出したハンドガンを構えながらそう言った。

「あまり時間をかけたくないので、出来るだけ早くお願いします。
 お二人が持ってる財布だけ出してくだされば、けっこうですので」

終始笑顔で言うものだから怖すぎる。
こいつはマジで引き金を引きそうだな。

俺は死ぬよりマシだと思い、財布を大人しく手渡すことにした。

「渡しちゃダメ!!」

美雪……。俺の財布は残金32円だ。

「金額の問題じゃないの。私はお兄ちゃんが
 強盗に屈服するところなんて見たくない!!」

「おや」

強盗が笑みを崩した。

「奥様ではなく、妹さんでしたか。失礼。
 あまりにも親しげに歩いているようでしたから
 新婚カップルなのかと」

「あはー。新婚だなんて…」

美雪よ。照れてる場合かよ。死ぬかもしれねえんだぞ。

美雪は強盗に対し交渉をした。

俺と美雪はお金を持ってない。
そこで、俺たち兄妹がその辺の歩行者を襲撃し、
金銭を奪ってその強盗に渡す。
その代わり命は見逃せ。
自分で言っておいてなんだが、なんちゅー内容だ。

とにかく実際に襲撃するのは俺だけだ。
美雪の手を悪に染めるわけにはいかん。

俺は信号待ちしてる一台のセダンに近寄った。
ドライバーは剥げたおっさんだった。
鬼気迫る様子の俺の顔を確認すると、助手席側の窓を開けてくれた。

「早く出ないと大変なことになるぞ!!」

「はい?」

「早く外へ出るんだ!! 今ならまだ間に合う!!」

俺は折ってしまう勢いで彼の左腕を引っ張った。
おっさんは体が車外へ出る前に本気で抵抗を始めた。
何か文句を言っててうるさい。
普通に考えれば、こんなことされたら誰だって怒るだろうが。

俺とおっさんは、路上で取っ組み合いになり、
相撲のような体制となってしまう。
このおっさん……足腰がしっかりしていて強いぞ。
気になったので質問したら登山が趣味らしい。なるほど。

「ぐは」

おっさんが地面へと転がる。
なんで急に転んだのかと思ったら、美雪がおっさんを
後ろからぶん殴ったみたいだ。ブランド物のハンドバックで。

剥げたおっさんは後頭部を押さえながらアラビア語で何か言ってる。
おいおい。ハンドバックってこんなに威力あったのかよ。

「早くそいつからお財布を奪うのよ!!」

「お、おう」

俺はヘラジカの顔をしながらおっさんのケツを触った。
変な意味じゃないぞ? おっさんのズボンの後ろポケットが
財布の形に膨らんでたからだ。

無事にお財布を奪うことに成功した俺と美雪は、走って現場から逃げた。
見るからに高そうな財布だ。
中身を見てみると……埼玉りそな銀行と
みずほ銀行のキャッシュカードの他には…ブラックカード!?

あのハゲ。富裕層の方だったのか!?
ハゲ様とお呼びするべきだったか。

「億単位のお金が入ってるのかも。
 このお財布をあの人に渡すのはもったいないよね」

「そうだな美雪」

「やっぱり倒しちゃおうよ」

「そう……だな」

俺と美雪は、へらへらした感じをよそおい、奴に近寄った。

「無事にお財布をゲットされたようですな」
「ああ」
「では早速渡していただきましょう。
 言っておきますが、こちらには銃がありますので抵抗は不可能です」

俺が財布を渡した瞬間のすきを狙い、
美雪が急いで奴の背後に回り込んだ。

そして

「えいっ」

「ほぐっ!?」

ハンドバッグで奴の後頭部を強打した。
ハゲ様にやったのと同じ手口だ。

かなりの破壊力があったようで、
なんと奴は後頭部から血を流して倒れてる。

「私のヴィトンのバッグは中に3キロのダンベルが入ってるの」

そんな凶器を普段から持ち歩いてたのかよ。
しかもハンドバッグで攻撃するのが、
手慣れてる感じがしたのは気のせいか。

「気のせいよ」
「そっか」

これ以上は聞くまい。
兄妹とは言え、知られたくない秘密の一つや二つもあるんだろう。

「おどりゃー。てめえら許さんでね。二人ともぶち食らわしてやるぞ」

奴が般若の形相で起き上がろうとしていた。
まさに殺意の塊。つーか後頭部から出血した割に元気そうだな
普通に考えれば失神とかしそうだが。

「お兄ちゃんは足の方を持って!!」

何をしてるのかと思ったら、美雪はすでに奴を倒していた。
わき腹を力いっぱい殴って悶絶させたらしい。
確かにわき腹は人体急所の一つだが、小柄とはいえ大人の男を
一撃で戦闘不能にするとは。どんだけ腕力があるんだよ。

で、美雪は奴の腕側、俺は足側を持ち、せーのっで
「振り子運動」させてトラックの荷台に入れてしまった。

トラックは、すぐそこで信号待ちにしていたので
荷台の中に強引に奴の体を押し込んだ、というわけだ。

うん。いかにも小説でしかありえない展開だ。
そもそもトラックの荷台を勝手に開けるって常識的に
考えてあり得ねえよ。

「これで大金ゲット間違いなしだね☆」

うん。暗証番号かパスワードが分かればな

「あ……そっか」

残念そうな顔をする美雪。

盗んだ人様のカードを簡単に利用できるほど
世の中は甘くないのだ。あのハゲ様はすぐに
警察に被害届を出すと同時に、金融機関に
連絡してカードの利用停止措置を取るのは確実だ。

とはいえ、何も得られなかったわけじゃない。

「現金11万ってとこだな」

ハゲ様は大量の現金を持っていた。
時給210円で働いてる俺にとっては大金だ。
これでアパート2ヵ月分くらいの家賃にはなるぞ。

ここで俺たちは大変なことに気づいた。
冷静に考えれば当たり前のことなんだが。

俺たちは買い物袋(マイバック)を何者かに盗まれてしまった。
こういうのを置き引きっていうのか?

なにせ奴との戦闘の間、買い物袋はその辺の道端に置いた状態だったわけだ。
セダン?に乗っていたハゲ様を襲撃した際も
やはり買い袋を持ったまま行うの不可能だ。

結局無事だったのは美雪の相棒のヴィトンのバッグのみ。
財布の現金は手に入ったが、
肝心の食材がないため、家に帰っても昼飯が食えない。

ならスーパーに戻って買ってこいよと思うだろ?

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴオゴg ←地響き

俺たちが、ついさっき買い物をしたスーパーの方で
小競り合いをしているようだ。

新手の強盗が戦車でお店を襲撃してる。
ドイツ製と思わしき戦車3両を中心とした武装戦闘集団が
店先で銃撃戦をしている。

たかがスーパーを襲うのに必死な奴らだ。
お店の人らも機関銃と迫撃砲を主力として必死に応戦してるじゃねえか。
ここは埼玉県のはずなのに
シカゴかラスベガスみたいに物騒な街になっちまったもんだ。
トンデ埼玉のほうがマシだよ。

「流れ弾が当たると危険だから早く帰ろうよ」
「そうだな。ちょっと走るぞ」

俺はしっかりと美雪の手を握り、地面を蹴った。
少女漫画とかでよくあるような逃走シーンだ。
相手が妹だとあんまり盛り上がらねえけどな。
ふと後ろを振り返ると、やっぱりあいつはうれしそうな顔をしてる。

これが同じ会社の坂上さんだったら最高なシーンなんだが。

「きゃあ!!」

女々しい声。情けないことに俺の声だ。
俺は、曲がり角を曲がったら誰かとぶつかってしりもちを突いちまった。
これは80年代の少女漫画で使いまわされたシーンだろう。

「すみません、大丈夫ですか」

むしろこの小説が大丈夫ですか?

「あ、あなたは……もしかして」
「あっ、そういう君は……」

そこにいたのは、件の坂上さんだった。
休日だとマスクをしてないのか。
小顔で整った目鼻立ち。腰まで伸びる癖のない茶髪。
肌が超白い。乃木坂にこんな感じの人いたな。あしゅりんとか。

「坂上さんですよね。こんなところで会うなんて奇遇ですね」

「ええ。ほんとにそうですね」

「俺はスーパーの買い物の帰りだったんですよ!!」

「うふふ。買い物帰りの割には、買い物袋を持っていないのですね」

「あっ…」

俺は何を言ってるんだろうね。完全に馬鹿だ。

それはともかく坂上さんは本当に綺麗なんだよ。
なんか普通の女性と雰囲気とか全然違くて
アイドルっぽい顔してるんだよな。

たぶん誰が見ても美人だと思うぞ。
身長は160センチくらい。体は華奢なのでそっち系の色気はないが、
とにかく顔が可愛いので見てるだけで癒されるぞ。

もっと話がしたいんだが、妹が俺の安物のTシャツの裾を強く握ってくる。

「お兄ちゃん。この女の人は誰?」

目つきが鋭い。恒例のパターンが発動しやがった。

「俺が会社でお世話になってる人なんだよ。
 失礼なこと言うんじゃないぞ」

「へー。同じ会社の人なんだ。べっつにぃ。
 私は何とも思ってないけど? いいんじゃない。
 同じ会社の人に休日も会えてよかったね!!」

俺が坂上さんに気があるのはバレバレなのだろう。

美雪は俺が気になる異性には例外なく嫉妬するから困る。
自称小姑と自分を卑下していたことがあるが、
全くその通りじゃねえか。兄の恋愛に妹が口出しするんじゃないよ。

もっとも坂上さんと俺じゃあ、ルックス的に全く釣り合わない。
俺なんて虫けらくらいにしか思われてないんだろうが。

それは全く突然だった。
坂上さんは、美雪に近づいた方と思うと「腹パン」をした。

「ぐへええええええ!?」

まったく不意打ちだった。

帝国海軍の真珠湾奇襲攻撃に匹敵するほどの意外性だろう。

しかもかなり効いたようで美雪は腹を押さえてうずくまり、
必死で吐き気と戦っていた。

なんなんだよ、この急展開は!?

「うおぅ」

俺は刹那のタイミングで坂上さんの攻撃をかわした。

この人は何を考えてるのか、俺にまで腹パンをしてきたのだ。
あいさつ代わりの腹パン!? どっかのギャグマンガで見たことがあるが。

「すみません。私ったら、つい」

そう言って彼女はハイキックを繰り出した。

これはさすがに予想外過ぎて俺は激しく転倒した。

蹴りは、殴り技の3倍の力が加わると言われている。
足には腕の何倍もの筋肉がついているからだ。
しかもK1では必殺技として定番のハイキックだ。

俺は顔にまともに受けてしまったため、脳震盪で頭の中身が
ぐるぐるし、それが収まってくると吐き気に襲われた。

それにしてもなぜ暴行されるのだろうか。
出会い頭にぶつかったことを根に持たれているのだろうか。

「なにすんのよ、こいつぅ!!」

美雪は、ヴィトンのバッグをぶんぶん振り回し、
坂上さんの顔面を強打した。

「ぐっ」

効いたようだ。激しくのけぞった彼女は、殴打した側頭部を
押さえながらしゃがみこんだ。何もしゃべらない。

しばらくそのままだったので逆に怖い。

俺と美雪は、彼女が次に何らかのアクションを起こすことを想定し、
戦闘態勢を続けた。こっちが警戒している以上、
さっきの展開のように不意を突くことなど不可能。
数的に考えてもこちらが有利なことに変わりはないだろう。

ここで彼女の口から意外な一言が飛び出すのだった。

「あのぉ、よかったら、うちでお茶でも飲んでいきませんか?」

保険のセールスレディを思わせる、うさんくさい笑顔。
少し機械的で、幼さが残る無駄に高いトーンだった。

坂上瞳は自己評価が低いことで有名な美女だ

俺と美雪は長考した結果、彼女の自宅をお邪魔することにした。
はっきり言って行きたくないが、
そうしないと物語が進まなそうだから我慢した。

彼女も俺と同じ派遣社員。

粗末なアパートに住んでいた。お金持ちのお嬢様からしたら
自宅のバスルーム程度しかない、手狭なワンルームだ。
一応トイレ風呂キッチンはついてるんだけどな。

「どうぞ」

美雪は不快な顔をした。俺もだ。

見た目は普通の紅茶だが、この女が出すものだから
青酸カリなどの毒が入っていてもおかしくない。

つーかこの女は見た目は綺麗なのに中身が変人だよな。
ほんと残念だな。

「さっきのこと、気にしてますよね?」

俺は目をそらし、美雪はうなずいた。

「悪気はなかったんですよ。信じてもらえないでしょうけど、
 本当にごめんなさい。私は自分に自信がなくて、
 私より美人な人を見かけたらつい腹パンをしちゃうんです」

この女は鏡で自分の顔を見たことがないのだろうか?
30代なんだろうが、根本的に顔つきがその辺の女と違う。
どう見ても芸能人だろ。
座り方、話し方も品がある。生まれも良いんじゃないか。

すっぴんでも美雪より美人だと思うが、
俺の妹に嫉妬する要素がどこにある。年齢か?

「シブタニさんの彼女って若くて可愛いから嫉妬しちゃって」
「彼女じゃない。妹ですよ」

あとシブタニって誰だよ。

「えっ、手を繋いでたから彼女なのかと」
「兄妹なら手くらい繋ぐと思うけど」
「全然普通じゃありませんよ!! 仲良いんですね!!」

坂上さんには3歳年上の兄がいるようだが、内気な彼女とは性格が合わず
喧嘩ばかりしていたらしい。どうやら兄のことが本気で嫌いなようで
いつ死んでくれても構わないとまで言っていた。どんだけ嫌いなんだよ。
2個下に弟もいるらしいぞ。弟のことは大切に思っているらしい。

「シブタニさんはシスコンさんなんですよね。
 いつからシスコンに目覚めたんですか?
 もうずっと前からですか?」

いやいや。なぜ俺がシスコンであることを前提で話を進める?

「私が生まれた時からです」

おまえは勝手に答えるなよ美雪!!

「お兄ちゃんは妹のことが大好きなので
 よその女の人と付き合ったことが一度も無いんですよ」

「へー。本当に面白い人なんですね。
 妹さんのことをそんなに愛してるなんて。
 実は血は繋がってないとかじゃないんですよね?」

興味深そうな眼で俺を見るな。
俺は珍しい動物じゃねえんだぞ。

確かに彼女のいない歴=年齢なのは事実だ。
自分で言ってて泣きたくなる。

ええい。話題を変えよう。

「坂上さんはいつからペンタックに勤めてるんですか?」
「今月でちょうど3年です」
「ずっと検品の仕事を?」
「そうですよ。入った時からずっとですね」
「へ、へー」
「はい」

会話が止まってしまった。
ほとんど初めて会話するようなものだからな。仕事のこと以外では。
こんな会話をしただけなのに妹が怖い顔をしてるから困る。

「シブタニさんは」

うん?

「ここに来る前はどんなお仕事をされていたんですか?」

俺は低金利の時代に銀行マンだったのを恥だと思ってるので
適当に消防士だったと嘘を教えておいた。そしたらこの女、
すっかり信じてやがる。意外に純粋なんだな。

あとシブタニって誰だよ。

「妹さんのご職業は?」

「私はまだ大学生ですけど、卒業後もお兄ちゃんと一緒に暮らすつもりです」

「シブタニ君は寮生活をしてるはずですよね。
 同じ寮で暮らすってことは、同棲ってことになりますよ」

「実はすでに同棲しているんですけどね」

「ええっ!! そうなんですか!!
 兄妹なのに同棲してる人っているんだ……」

坂上さんがドン引きしてる。
俺と美雪が法律的にまずい関係だと思われてるのかもしれん。
早めにフォローしないとまた勝手な妄想をされてしまう。

「俺も兄として美雪には若いうちに結婚相手を見つけて
 幸せになってほしいと思ってるんですよ。
 美雪は家事が得意ですごく家庭的な子なんです」

「へえ。そうなんですか。見た目からして女子力高そうですものね。
 本当に私が嫉妬しちゃうくらい綺麗な子。
 もちもちしてて張りのある肌、うらやましいな。若い子は」

なぜか身内を褒められると悪い気はしない。

「でも近親相関はまずいと思いますよ」

俺は飲んでいた紅茶を盛大に噴き出した。

「特に避妊はしないと」

「ちょっと待ってもらっていいですか?
 俺と美雪がそういう関係だと一言でも言いましたか?」

「いいえ。でもさっきから美雪さんがお兄さんに
 デレデレしてるから、そういうことなのかなって。
 私とシブタニ君の会話中もよく睨(にら)んできますよ」

ふざけんな。

「美雪ちゃんがこんなにお兄ちゃんを慕ってるってことは、
 夜の生活の方はすごいんでしょうね。きっと官能小説も顔負けですか」

おい。

「面白いネタを提供してくれてありがとう。
 明日、会社の女の子たちに報告しておきますね」

おい!! まじでふざけんな!! 何考えてんだ!!

つーか女の子? っているのかよ!!
八割バツイチのバアサンばっかりだろうが!!

変な噂を流されたら
女ばっかりの職場で俺の居場所がなくなっちまうよ!!

「ふふふ。嘘ですよ。私がそんなことする人に見えたんですか?」

見えるから困る。記憶が消し飛ぶほど殴っていいですか?

「じゃあ条件があります。今すぐ!! ここで、二人でキスしてください」

え……なに?

まじで言ってる意味がさっぱり分からん。
この女、薬でもやってるんじゃないの?

「よう おんりぃ はぶ わん ちょいす。じゃすと どぅいっと」

なんで英語で言ったんだよ。

ますます意図が読めん。

俺は付き合ってられないので席を立ち、帰ろうととした。

「帰ろうとしたら妹さんの命はありませんけど、それでもいいんですか?」
「お、お兄ちゃん。助けて」

ハリウッド映画でありがちな、女が人質に取られているシーンだ。
美雪は立った状態で後ろから押さえられ、背中越しに銃を当てられていた。
最近の市民は平気で銃を持ってるから困る。どこで買うんだよ。

訊いたらドラッグストアで売ってるらしいけど、どうせ嘘だろ。

「この状態で良いから、早くキスしてください。さあ早く」

どんなカオスだよ。まず実の妹とキスするとか、全身が拒否反応を示すわ。
身内びいきでも美雪は美形だとは思うが、血がつながってるんだぞ!!

一緒に住んでて風呂上がりでバスタオルだけの姿のこいつを見たことが
何度もあるが、肌がきれいだと思うだけで欲情はしないぞ。

待てよ……。今考えたらあいつはわざと俺の前で
タオルだけの姿をさらしていたとしか考えられん。
美雪も何考えてんだよ。

「私はいいよ」

美雪はそう言って目を閉じるが、俺は良くねーよ。
俺はお前の彼氏じゃねえんだ。
俺とキスしたって気持ち悪いだけでメリットがないだろ普通。

高校生の時からイケメンの彼氏でも作れと繰り返し言っていたのに、
全然俺の言うことを聞きやしない。

妹ってどこの家もこんな感じなのか。
まさか他の家の妹はこうじゃないよな?

「ちょっと!! 女の子を待たせて恥ずかしいと思わないの?
 早くしろって言ってるのよ!!」

うるせー。
今すぐ殴ってやりたいが、銃を持ってる相手を刺激するわけにはいかねー。

「私がやれって言ってるのよ!? 早くしなさいよ!!
 それとも人に見られて怖くなったの? 
 渋谷君は根性なしね!! この玉無し野郎!!」

殴りたいけど我慢だ。

「ヘボタニくん!! 早くキスして!! 一瞬ですむことでしょ!!」

だから俺の名前はシブヤだって!!
あれ? さっきは渋谷って言っていたような…。
なぜそこまでキスにこだわるんだ。絶対こいつ薬やってるだろ。
くそ。怒りが頂点に達したせいで倫理観とかどうでもよくなってきた。

俺は美雪をラブドールだと思うようにした。
肩を力強くつかみ、俺の方を引き寄せ、くちびるを奪ってしまう。

おえー。

やっぱ実の妹とキスなんかしても後味が悪いだけだ。

こいつとキスごっこをしたのは幼稚園の時だったか。
あれは子供だったからノーカンだ。

美雪は顔を真っ赤にしてる。リンゴみたいだ。
まさか興奮してるんじゃないだろうな?
こいつはたまに何を考えてるのか分からない時がある。
寒気がしてきたぞ。

「今のは感情がこもってなかったわね」

あ?

「やり直しよ」
「いや、やり直しって」
「やり直しなさい」
「1回やれば十分じゃ…」
「ちゃんと舌まで入れて、感情を込めてキスをして」

俺は、これ以上坂上と会話を続けるのが苦痛になってきた。
こいつの顔を二度と見たくないほどには大嫌いにはなった。
こんな奴に恋していた頃の自分を殴りたい。そんな気持ちになったこと、
皆さんも一度くらいはありますよね。特に倦怠期夫婦の皆さん。

さっさと任務を遂行するのみ。
この馬鹿に俺と美雪が変態だと思わせれば満足するのだろう。

ならば。

「美雪、苦しいだろうがすぐ、終わるから我慢しててくれ」

「んん!!」

ディープキスなんてするのは初めてなんで勝手がわからんが、
舌を絡ませればいいんだろ。俺は息を止め、絶対に美雪の顔を
見ないようにしながら、適当に時間を過ごした。

し、舌が少し絡まるだけで美雪の唾液が……。
吐き気がヤバい……。腕に鳥肌が……。

今思えば俺達、歯を磨いてなかったかも。
ええい。何も考えるのな。

30秒くらいたったか、口を一気にはがすと、
坂上からささやかな拍手が送られた。

「ぷっ、くくく。あははっ。バカな人。まさか本当に妹とキスするなんて。
 本当にシブタニ君って妹さんが好きなのね。だって本当に愛してないと
 兄妹でキスなんてできないでしょ。気持ち悪くて」

まじで殴りたい。なんなのこいつ。まじでなんなの?
頭の中身が女子高生で止まってるの?
冷静に考えたらこれイジメだよ。
社会人じゃなくて学生のやることだよね?

「ち、違う。俺はおまえに命令されて仕方なくやっただけだ」

「嘘ね。口ではそう言っていても愛しているのよ。妹さんのことを心からね」

「だから違うって言ってるだろ!!」

「バカな人。こんなに好かれているなら受け入れてあげればいいのに。
 ねえ、美雪ちゃんもそう思うわよね?」

「え、ええっと……」

美雪は両手の人差し指を重ね合わせて恥ずかしそうにしてる。
トイレで吐きたかったら今すぐ行ってきなさい。
まさかとは思うが、今の茶番を楽しんでたんじゃないよね?

「今のシーンは動画で撮影しておいたから。
 ごめんね。もう会社の知り合いに送ってしまったの」

「は……?」

頭の中が真っ白になった。

そのあとのことはよく覚えてない。
猟銃で撃たれたヘラジカのように弱り切った俺を、
美雪が引きづるようにして自宅まで帰ったのは覚えてるんだが。


その次の日から、俺は妹とキスをする変態として社内で評判になってしまった。
嘘だと信じたかったが、これが現実だ。
これが小説じゃなかったら会社を辞めてるレベルだぞ。
この世界だと正当な理由もなく会社を辞めたら銃殺刑になっちまうが。

今日はいつも以上に女たちの視線が痛い。
坂上は、動画を拡散させた張本人のくせに
素知らぬ顔でニヤニヤしてる。ぶっ殺してやりてえ。

「今日の生産予定なんすけど、俺がタグと洗濯ネームを中心に進めていいですか」
「う、うむ。君に任せるよ。私は用があるので席を外すからね」

直属の上級派遣さんに仕事の確認をしてもこんな感じだ。
みんな俺に対しよそよそしくなった。

避けられてるのって精神的にじわじわ来るのな。
廊下ですれ違う時もみんなは全力で俺と距離を取る。
女性はもちろん男性陣からも俺は腫物扱いだ。

そんな生活が1週間も続くと、
俺はストレスで禿げそうになってしまった。

「よお。変態」
「っせーよ。家具ちゃん」

俺に普通に接してくれるのは「かぐや姫」だけだ。
彼女は不思議なことにあの動画が作為的なものだったことに
気づいており、俺に同情してれている。

俺は親しみを込めて彼女のことを「家具ちゃん」と呼んでいる。
最近はずいぶんと仲良くなり、互いの近況などを報告するのだが、
カグさんの住んでる家は、実家から近くなので
ご両親に子育てを手伝ってもらっているらしい。

×③で子供六人なんて普通に考えたら無理だよな。
ストレスで自殺しないだけすげーメンタルだと思うよ。

「私も世間からうとまれるのは慣れてるから、あんたの気持ち分かるよ」

……良い人じゃないか。初めて会った時はムカついてしまってごめん。
一人でも話せる相手がいてよかった。

その日も一日16時間の長時間勤務を終え、クタクタになって帰宅。
美雪がお夕飯のおかずをレンジで温めながらこう言った。

「私は一晩寝て考えたんだけど、
 やっぱり、どうしても許せないの。
 この怒りをどうやったら抑えられるのかなって考えたら、
 あの女をぶっ飛すしかないって思った」

美雪の目は、本気だった。

「あの女ってのは」
「決まってるでしょ。坂上瞳だよ」

ぶっ飛ばすと言っても簡単なことじゃない。

噂によると坂上は空手の経験者だ。小学6年生まで空手を続けて
休み時間に同年代の男の子をぶっ飛ばすなどしていたらしい。
細身の割には筋肉が発達しているようだ。

あのハイキックは空手の上段蹴りだったのか。
よく死ななかったな俺。

余談になるが、英国に留学した日本人男性が、
夜に暴漢に襲われたことがあった。彼は自衛のために
空手の上段蹴りで暴漢を撃退。暴漢は打ち所が悪かったらしく、
転倒した際にコンクリに頭を強打。その後、死んでしまった。

英国の司法は、日本人男性に過剰防衛による有罪判決を下した。
判決内容が理不尽すぎて腹が立つが、それ以上に空手技の破壊力の高さに震える。
空技は「相手の骨を砕く」ことを基本としているらしく、
まさに一撃必殺だ。日本のブドウは恐ろしい。

すなわち空手の有段者と本気で喧嘩をするなら、
骨折程度の怪我は覚悟しないといけないのだ。

俺と美雪は安物のスパゲッティを食べ終えてから一つの結論を出した。
(今日の夕飯はタラコ・スパゲッティとインスタントの野菜スープだけだった……)

「あのアパート、燃やしちゃおうか」
「そうだな……」

坂上を襲撃するのはリスクが高いので
彼女の住居を破壊することにしたのだ。

その辺の道端で拾った日本酒のビンがここにある。
ネットで調べると火炎びんの作り方なんてすぐにヒットする。
小学生でも作れるほど簡単なものだ。そして威力は絶大。

かつて日本陸軍がソビエトの戦車を撃破するのに使ったことがあるらしい。
あまりの損害の大きさにジューコフ将軍以下幕僚が真っ青になったほどだったとか。
(気になる人は、日ソ決戦・ノモンハン紛争を参照してください)

俺と美雪は2セットの火炎瓶を作ることに成功した。
二人で仲良く投げるために使うのだ。

なぜアパートを燃やす必要があるのか疑問に思う人がいるかもしれない。
最近会社でうまくいってなくて、むしゃくしゃしていた。

それだけで十分だろう。犯行の動機なんてささいなものだ。
そもそも、そこら中の商店が火炎放射器などで襲撃されてるのが日常だからな。
何と言っても増税の影響が大きいよ。

永田町付近では政治家を守るために自衛隊戦力の9割が集中してる。
国会議事堂付近は強力な戦車師団が睨みをきかせており、
全盛期のソ連軍の兵力がなければ攻略できないとまで言われている。

言い忘れていたが、この国の国防予算は平成時代の6.7兆円から
40兆円まで増大した。
ちなみに戦力の強大さと裏腹に自衛隊員の給料が時給350円くらいだ。
命を懸ける仕事なのにだぞ? 俺だったらやらないね。

この国のあらゆる財政、経営は、人件費を極限まで引き下げることによって
企業などの利潤を最大化させることが法律で許可されてるからな。

例えば企業の決算書で損益計算書を見てると殴りたくなってくる。

一、売上(収益)に対して原価は高く、粗利はほとんどないのに、
  人件費等が安すぎるので営業利益だけが異常に高い。
二、そのくせ仮に利益剰余金(内部留保)が豊富でも

『絶対に従業員の賃上げはしない』

一、は小説の設定であり、現実ではありえないが
二、は現実世界でも当たり前に行われている。


日本の企業の最大の欠点を教えよう。

それは、「純利益」でどれだけ稼いでも
 「極限まで従業員を安く使いたい。
  そのくせ少しでも業績悪化の懸念があったら即クビにする」

ここ数年で儲かった会社…、株価ベースでみると
ファースト・リテイリングとかソフトバンクなどがあげられるな。
リテイリング傘下のユニクロは新卒の給料引き上げを発表したらしいが、
詳しくは知らん。中年を首にして若者と入れ替えるのはどこの企業もやってるな。

じゃあ儲けた金はどこへ消えるの?

いきなりすぎて申し訳ないが、ここから先の説明は妹にバトンタッチする。


※ミユキの一人称


で、お金の使い道ですが、

そのまま取っておく。(←老舗企業に多いパターン)

あるいは、「投資」に使います。人件費には回りません。

会社の規模を大きくするために海外の企業の買収(M&A)を行います。
様々な設備投資をします。
投資に対して借り入れでなく自己資本で
まかなえば必然的に将来の借金が減りますよね。

さらに株主資本(自己資本)を増やすために株の配当に回します。
(株を多数所有しているお金持ちの人は非常に有利になります)

困ったことに日本株の所有の7割が外国人。
日経平均株価を変動させてる主な要因は、主に外国人なのです。
外国の機関投資家ですね。

「今日本株いらねーよなー」「そーだなー。売っちゃおーぜ」

例えば執筆時点(2019/5/27)で日経平均は21000台を推移、
2018年度の相場と比べて下落し続けていますが、

米中貿易摩擦で両国の偉い人が「ぎゃーぎゃー」
英議会がEU離脱問題で「ぎゃーぎゃー」
と騒いでることが主な原因なのです。

特に英国議会の幼稚っぷりは日本の国会並みです。
議会制・民主主義の代表国として日本の100年先を言ってるはずなのに……
例えば日本の自民一党独裁のように党内で意思が統一されておらず、
各議員が好きなように意見を主張できるので余計に話がまとまりません。

英国首相のメイちゃん
「議会のみんなが言うこと聞いてくれないから
 私、もう首相辞めるね……」

メイがかわいそう。議会で不信任決議案とか出されてたものね。
かつての超一等国も地に落ちたものです。

トランプと米国通商部
「おい習近平。おめえの国とおめえの企業(主にハーゥエイ)死ねよ」

習近平「えっ」←膝が震えてる

米国の真の目的。

一、中国の台頭の阻止。2040年までに中国のGDPがアメリカに匹敵する。
  最大の問題は、GDP比で中国の軍事費が増大し、アメリカの安全保障を脅かすこと

二、ムニューシン財務長官が実行中と思われる、為替の操作。おそらくドル安への誘導

米英中の3馬鹿さんが「ぎゃーぎゃー」「わーわー」すると
市場の先行きが怖くなった外人投資家ちゃんにより日本株は売られます。
ついでに安全資産の円とスイス・フランが買われるので為替が動きます。

日本の企業は貿易で設けているところが多く、また原材料の仕入れも
主に中国に頼らなければ生きていけない乞食集団なのです。

本音を言うと英議会とトランプには死んでほしいです。
為替は円高になるので米国株に投資する(両替え)人にはありがたいのですが。
特に私がね。え? どうして私が為替相場を意識するのかって?
うふふ。それは……まだ秘密です☆

さて。日本の企業の話に戻りましょう。

企業は『従業員の生活の安定』は基本的に考えません。

人手不足により、統計上は毎年3万人の労働者が不足しておりますが。
外国人材の受け入れを拡大するため、

『労働市場の供給不足による賃上げ』の可能性がまた遠のきました。
今作では銃殺刑の乱発によって労働力がさらに不足しておりますが、
それでもお兄(おにい、と読む)の時給は210円と薄給すぎます。

そのくせ政治家連中の生活の安定、巨大な軍隊の維持のために
消費税は34%です。34パーセントとか舐めてるんですか。
そのくせ社会保障は一つも充実してません。

年金・介護・医療? 介護施設などの入居者のうち、
少しでも痴ほうの疑いがある人は
施設や病院で毒殺されているから老人の人口は減り続けています。

その日の夕食に致死量の毒物(シアン化カリウムって名前だっけ?)が
混ぜてあるそうです。もしくは注射一本でイチコロです。

「こんなご時世だと、むしゃくしゃしてもしょうがないよね」

私の言葉に兄は強くうなずいた。

シブヤ美雪は切れると結構怖いのだ

※みゆき

兄が会社でいじめられていることが許せません。

いじめの定義は人によって違うので一概には言えませんが、
兄の場合は完全ないじめでしょう。
しかも不当な理由によるものです。

2話くらい前の話で説明したかもしれませんが、
兄は、私とのキスシーンの動画を拡散されてしまいました。

「シスコン野郎」「リアル近親相関」「新手の変態」
兄はそんな感じで陰口を叩かれているそうです。特に女の人たちに。

私は顔も見たこともないババアどもに強い殺意を抱きました。
あいつらは知性も教養もなく、体も太り気味で不健康。
私が一番気に入らないはデブが多いことよ!!
休みの日に運動をしなさいよ!!(私も運動してないけどね…)

一番腐っているのは脳みそね。人の悪口を言わないと
生きていけないんだから。主婦の井戸端会議を見て見なさい。
取るに足らない日常の不平不満を愚痴として周囲にまきちらす茶番会。

(私の愚痴はたまにお兄に聞いてもらってるけどね…)

くっだらない!! まさに低能!! ていのー!!

だってあいつらの話って建設的じゃないんだもん!!
過去のことはいいから前に進みなさいよ!!

私は将来結婚しても、ああはならないって決めてる。
知り合いの台湾人のエリート大学生が言っていたわ。

「日本の女は表立って悪口を言わないけど、陰ではひどい。陰湿」

ほんこれ。(ほんとうにこれの略)

「おい、美雪?」

ずっと黙り込んでしまった私をお兄ちゃんが心配そうに見つめています。

「やっぱり考え直したくなったのか? もし嫌だって言うなら
 無理に止めはしないが。もともと計画を考えたのはおまえだからな」

「違うの。ちょっと考え事をしちゃって」

夜の九時半。私達は気が付いたら坂上瞳のアパートの近くまで歩いていました。
GW明け。夜はまだ湿度がなくて涼しい。雲がなくてお星さまもたくさん出てる。

こんな素敵な夜に、私たちは火炎瓶を片手に道を歩いています。
最近は戦車や装甲車で武装する人が後を絶ちませんから、
警察に通報される心配はありません。

火炎びんを持ってるくらいだと花束を持ってお散歩してるくらいの
認識しかないのでしょう。

さて。いよいよアパートに火炎びんを投下する直前の段階まで来ました。

「お兄ちゃん。聞いて」

「なんだよ? 早く犯行を終わらせて帰らないとヤバいんだぞ」

「私が今一番ムカついてるのはね。お兄ちゃんの会社にいる人たちなの」

「……昨日も聞いたよ。終わってからゆっくり聞くんじゃだめか?」

「だめ。今聞いて」

私は、兄妹で仲が良すぎるとすぐに近親相関につなげようとする
お馬鹿さんの想像力のなさと知性の乏しさを説明しました。

これから行われる行為は、世間の偏見に失望した、私達若者の
むしゃくしゃした気持ちの表れである。全世界のブラコンとシスコンに
大いに賛同を求める意味もあり、もはや日本のみならず国際的な視点からも
大いに称賛される行為であって、単純な犯罪行為には当てはまらないと。

お兄ちゃんはドン引きして私から距離を取りました。
少しショックでした。

「お前の気持ちはよく分かったよ。それじゃあ、
 その気持ちを思いっきり坂上にぶつけてやろうぜ」

兄は何者かに肩を叩かれました。

「私がどうかしましたか?」

「えっ」

その時の兄の顔は、母親と三日間はぐれて満足に
えさが食べられなかった時の
うりぼー(イノシシの子供)にそっくりでした。

「シブタニ君には失望しましたよ。
 私の家のアパートを破壊しようとしていたんですね」

「さ、坂上さん……ち、違うんだよこれは。違うんだぁ!!」

「何が違うんですか? 
 どう見ても火炎瓶を投げ込むようにしか見えませんでしたよ。
 ちなみに私はさっきの会話も全部聞いてましたからね」

この妙齢の美人は、なぜかフチなしの眼鏡をしていた。
茶色の長い髪の毛を後ろでまとめている。
恰好は紺のジーンズ、白のロンT。かなりラフな格好。
首にスポーツタオルをしているけど、運動でもしていたのかな。
セブンイレブンの袋を持っている。

「アパートを燃やされたら私の住む場所ががが!!
 無くなっちゃうじゃないですか。
 人様の住居を放火するのって日本の刑法では最高刑が適用されますよ。
 つまり死刑ってことですね。じゃあ死んでください」

「待って!!」

坂上は私の声にびくっとし、銃を取り出した状態で止まった。
この人は普段から銃を持ち歩いてるの? てゆーかどこから出したの。

「私はあんたの正体を知っている」
「招待?」
「漢字が違う」
「パソコンの変換があほなのよ。それで正体ってのは?」

「坂上瞳は社長令嬢なんでしょ。今はボロっちいアパートに住んでいて
 身分を隠そうとしているけど、お父さんが経営者だものね。
 賢人お兄ちゃんが勤めている、ペンタック・グループの最高責任者!!」

うりぼー(兄)は驚愕し、火炎瓶を地面に落としてしまいました。
まだ火をつけてなくてよかったね

坂上は何も返事をしない代わりに、眼鏡ふきでメガネを丁寧に拭いています。

「坂上さん。妹の言っていることは本当か?」

坂上さんは、コンビニの袋をガサガサ漁ってアイスを取り出しました。
ガリガリ君のコーラ味? てっきりハーゲンダッツでも買ってるのかと思った。
金持ちのくせになんでそんな安物を……

兄もそのことが気になったようで

「黙ってるのは黙認したのと同じだ。へえ、そうか。あんたが
 社長令嬢だったなんて知らなかったよ。
 確かに考えてみれば…歩き方とかいちいち品があったもんな」

「そんなお嬢様がガリガリ君? 家賃4万円のアパート? 
 しかもレオパレスだろあれ。
 なんか火炎瓶を投げなくても自然と燃えそうじゃないか。
 今年の株主総会とか修羅場確定。地獄だろうな」

『株主総会』の部分で奴のまゆげが微動しました。

坂上は何を考えてるのか、上品にガリガリ君を食べ始めました。
食べるといっても舐めてるだけだから、絶対途中で垂れてくると思う。

「人と話すときに目を合わせなさいって教わらなかったのか?
 金持ちのくせに人のキスシーンを拡散させたりなんて
 ずいぶん低俗なことをしてるじゃないか」

坂上は、ガリガリ君を持ちながら震えています。なんで震えてるの。

「そもそもさ」

兄は得意げになって両手を広げて演説を始めました。

「ペンタックの主要な取引先はユニクロ(ファースト・リテイリング傘下)と
 無印良品(良品生活)だ。どっちも業績が絶好調だから製品受注が山のようにある。
 令和の大不況の中でペンタックほど設備投資をしてる会社はめずらしいぞ。
 そんなお金持ちの会社の娘さんが、なんで時給210円で働いてるんだよ」

坂上もお兄ちゃんと同じく派遣社員なので時給210円です。
時給210円でどうやって食べていくのよって読者の皆さんも思いますよね?
一時間働いて210円ですよ。210円。小学生の遠足のお小遣い以下じゃないですか。

夜風が肌をかすめました。坂上の無駄にサラサラな髪が風に揺れます。
どんなシャンプー使ってるんだろう。
ガリガリ君は次第に溶けだしてきて、坂上の手に滴り落ちます。

それでも坂上は何も言い返しません。
この前はあんなにお兄ちゃんにキスしなさいって叫んでいたくせに。
他にもたくさん暴言を吐いた。童貞とか言ってたよね。

「童貞とは言われてないと思うぞ」
「そうだったっけ?」

「それよりどうなんだよ。相模さん? あ、悪い。
 坂上さんだったよな。名前間違えちまったwww」

兄はどんどん調子に乗っていきます。

「黙ってるってことは都合の悪い事情でもあるのか? あ?
 まさか大塚さんちのかぐや姫さんみたいに父親と喧嘩でもして
 家を追い出されちまって行くところがないってかwwww
 おwww? どうなんだよ。黙ってないで答えて見ろよwwww」

お兄ちゃんの口調から相当なストレスをため込んでいたことが
うかがい知れます。不良っぽい兄を見れるのは新鮮です。

「令和10年のご時世で働く奴は奴隷。割に合わねえと思わないのか?
 金持ちのお嬢様なら家で引きこもって結婚相手でも探してろよwww 
 あ、美人なのに30過ぎても独身なのは性格に問題があるからかwwww」

坂上は小刻みに震えてるだけで何も答えません。
ガリガリ君の半分が溶けてしまっているのに。
長い前髪が彼女の瞳の半分を隠しています。
まつげ、ながっ!!

「私を金持ちと呼ぶなぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁ!!」


私はひっくり返りそうなほどの衝撃を受けました。
現に兄はしりもちをついています。

「私はね、金持ちとかお嬢様って呼ばれるのが一番嫌なの!!
 小さい頃からそうだった!! 社会人になってからも同じ!!
 家でも質素に暮らしているし、みんなと同じご飯も食べてるし
 スーパーで買い物もするし、回転ずしも普通に行くよ!!
 なのにみんなが私をお嬢様って呼ぶの!!」

発狂お嬢様の話が長かったので要約しますね。

・ペンタックで派遣をしているのは金持ちと思われたくないから
・レオパレスで暮らしているのも同様の理由

・時給210円なら他の女の子と同じ条件
・ならば、収入において差がないから逆差別を受けることがない

※逆差別
お金持ち過ぎて周りから疎まれること。
この女は無駄に顔が整ってるから余計に嫉妬される。特に同性に。
女社会で美人は、周りから崇拝されてグループの中心になるか、
酷い嫉妬をされて蹴落とされるかのどっちかなんだよね。
学生の頃はグループのトップだったと思うんだけど。

『坂上さんってお金持ちなんでしょ。うやらましいなぁ』
『動作にいちいち品があるよね。家では高い紅茶とか飲んでるの?』
『ねえお嬢様。お父さんってどんな人なの。一度会ってみたいなぁ』

こんな会話をすると奴は内心でブちぎれるそうなの。
どんだけ困ったちゃんなの。金持ちなのは良いことじゃない。

「大いなる矛盾である」

兄がアリストテレスを彷彿(ほうふつ)させる仕草をした。
具体的に言うと足を組みながら、手の上にあごを置いたのだ。
歩道上で。

「坂上。貴様はアパートで暮らしているそうだが、時給210円で
 生活費がまかなえるわけがない。必然的に貴様の親父や母親から
 生活費が供給されていると考えられる。現に貴様の肌は血色も良く、
 他の労働者と違って金に困ってる人特有のせこせこした感じもない」

※セコセコした感じ。
常に時間に追われ、ネズミのような動作をしている労働者のこと。
給料日に振り込まれたお金を全額降ろす。
令和10年のおいては日本国民の9割が該当する。

「そのガリガリ君のコーラ味も。なぜにコンビニで買ったのだ?
 すぐ隣の業務スーパーがある。本当に庶民感覚をしているなら
 業務スーパーで買うだろう。差額で15円もあるぞ」

今は税率34%だから、15円差でも致命的な差が出るよ。

「これでも同じ職場に勤めている人間だ。
 俺とて貴様が金持ちなのだという噂を聞いたことは一度や二度ではない。
 現に貴様と一緒に行動してる村人三名(女の同僚。特徴のないザコなので村人扱い)
 も貴様を金持ちだとたびたび口にしているそうだな」

「好きで金持ちだって言われてるわけじゃないんですけど!!
 人の気持ちも知らないで偉そうに言わないでくれる!?
 私はみんなと同じ時給で働いてるんだからお金に差はないはずなのに!!

「なるほど。収入において差がないから
 資産額にも変化がないと。それが貴様の考えか。
 それに対する俺の答えは…」

――― いな!! 断じて否(いな)!!

アリストテレス、はんぱないっす(∩´∀`)∩

「俺の主張する矛盾とは、まさにそれである!!」

おにいの主張も無駄に長かったので要約します。
私は日経新聞を愛読してるので要約するのが得意なんです。

・他の労働者にとっての時給210円とは、
 生活に必要なギリギリ(というかマイナス)
 なお金であり、貴重である。

・どうやら坂上は親からの仕送りで
 毎月の生活費は全額払ってもらっている。
 自分で払うのはアイス代などの娯楽費のみ。

・四半期ごとに父親からブランド物のバッグや
 ネックレスをプレゼントされている。

・そもそも働かなくてもニートで一生食べていける

・学園生活の高野ミウさんと同じくらいの人生イージーモード。


ここまで理論整然と事実を並べられたのに、
なおも自らの主張を曲げない坂上はある意味あっぱれです。

「何と言われようと私は庶民なのよ!!
 他のみんなと変わらないわ!!」

うわーでた。
みんなと一緒じゃないとダメって女の思考回路。

ばっかじゃないの!!
私も女だけどこーゆーの最高にムカつく。

学生の頃によくあったよ。
自分一人だけ彼氏ができたら友達グループと疎遠になってハブにされるとか。
友達と同じ男を好きになっちゃったりとかね。

社会人になると一人だけ男性の上司や先輩に
可愛がられてる人がいたら陰口叩かれるらしいね。

それよりこの女の顔、チョーきれいなんだけど。
30過ぎなのにアニメの美少女と張り合えるほどじゃん。
リアルでここまで美人なのに独身な人、始めて見たよ。

「そこで騒いでるのは誰なの。ヒトミさん?」

The・金持ちって感じのご婦人が歩いてきた。
着物姿で髪型も古風な感じ。

話の流れからして坂上瞳の母親か。

「うげっ。ババア。なんでこんな夜中に来るんだよ」

「日中に来てもあなたは出歩いていることが多いから会えないじゃない。
 それより人様の前で乱暴な言葉遣いをするなって小学生の時から
 教えてるでしょ。覚悟はできてるんでしょうね?」

お母さんは猛獣を思わせる勢いで娘に腹パンをした。

坂上はまともに喰らってしまい、地面の上を
ごろごろ転がってから起き上がるのに2分もの時間を必要としました。

どうやら坂上家では娘のしつけをするのに腹パンを推奨しているようです。
主にお母さまが。

お母さんの容姿なんですが、漫画喫茶とかで並んでる少女漫画に
よく出てくる金持ちのキャラのお母さんって感じです。
見た目は若く見えるけど50過ぎなんでしょうね。
ちなみにお金持ちが出てこない少女漫画は基本的に存在しません(たぶん)
女の子は誰だって王族貴族みたいな生活に憧れるんですよ。

「ほらほら。ヒトミさん。この方々達はあなたの会社のお知り合いの方なんでしょう。
 挨拶くらいさせてくださいな。というかあなたが私のことを紹介しなさい」

「はいっ。お母さま」

坂上はボロボロになったTシャツの裾を整えてから
私達兄妹のことを紹介しました。この人の母親のことも
説明されたけど興味ないから聴いてませんでした。

金持ちは死んでよ。

「お二人は兄妹だったのねぇ。
 とおっても仲がよさそうだったから
 大学生のカップルか新婚の夫婦かと思ったわぁ。
 2人とも若作りで羨ましいわね」

「えへへ。よく彼氏彼女に間違われるんですよー」

兄が「おい」とか言ってるけど無視。

「うちの娘ったらこの年になっても独身だから困ってるのよね。
 縁談も何度も組んであげてるんだけど、独身を貫こうと必死で
 勝手に断っちゃうのよね。おかげでうちの家の評判がどんどん
 さがっちゃうわぁ。ねえ、ヒトミさん?」

「うぐぐ……」

坂上瞳は不良少女のような態度をしてる。
母の前だと弱いんだね。

「瞳が元気そうに暮らしてるなら問題ないわ。
 また来月も様子を見に来るから、電話にはちゃんと出なさいね」

「忙しくて出る暇がないのよ」

「ならラインでメールを送りなさいな。
 次に私の連絡を無視したら携帯代を払ってあげないわよ。
 あなたが欲しがってた5Gも無期限延期になるわよ」

「そ、それは困る」

「ならちゃんと親と連絡は取りなさい。
 女の一人暮らしなんだから、お父様も心配しているのよ。
 あなたの生活費を誰が出してあげてると思ってるの」

「クソ……それを言われると弱い」

「分かったのね?」

「分かりました。お母さま」

「それと、人前でみっともないことをしないよう気を付けなさいね。
 今日私をババア呼ばわりしたことはお父様に報告しておくわ。
 まったく、いくつになってもあなたは子供なんだから」

「ごめんなさい」

「先月も同じやり取りをしたことがあったわね。
 あなたはコンビニでアイスばかり買って。
 スーパーで安いものを買いだめしなさいと教えているのに…」

「うわーん。うわーん。ママ。ごめんなさーい」

うわー。ウソ泣きかよ。20代ならまだ可愛いで許されるけど、
その年でぶりっ子するなよ気持ち悪い。
歩道に女の子座りして両手を目元に当ててる。あんたは幼稚園児か!!

「かわいい…」

ちょ……。お兄ちゃんはこんな奴にときめいているの……?

お母さんは私たちにも「ごきげんよう」と言い、
品のあるお辞儀をしてから去って行った。

動作に品があり過ぎる……(~_~;)
金持ちって本当にごきげんようって言うんだ。

「あー、うっぜーなクソババアが。
 いくつになっても私をガキ扱いしやがってよぉ」

娘の坂上はぶつぶつ言いながらアパートの階段を昇って行った。
兄はどうしてしまったのか、彼女の後姿を最後まで眺めていた。

「俺は彼女のことを誤解していたみたいだ。
 今なら彼女のことも少しは分かってあげられそうな気がする。
 俺と美雪のキスを拡散されたことはどうでもいいんだ。
 俺は、今の俺の気持ちを抑えることができない」

と言って坂上瞳がペンタックの社長令嬢で
母に生活費を払ってもらっていることなどを
詳細に会社にばらしてしまうのでした。

坂上瞳「私が会社でハブられる?」

※ヒトミ

みんなの態度がいつもと違うとは思っていた。
最初はわずかな違和感、だけどそれは次第に強まっていて
今では確信へと変わっている。

私だって無駄に32年も人生を生きてきたわけじゃない。
今までいけ好かない奴とか色んな人を見てきたつもりだけれど。

「……以上で朝礼は終了。検品担当の者たちは残れ。他の者は解散である」

私たちだけ残れってことは……答えは決まってる。

検品担当の女子達に緊張が走る。
検品を担当しているのは、私の他に5人の女性がいる。
小さな部署だけど、みんなめったなことでは
会社を休まなくて仕事熱心。連携はしっかり取れている。

「先週の5/14出しの分で検査漏れが発見された。数は4000を超える」

4000枚も!? 私らの会社はアパレルブランドの値札(タグを)作ってるんだけど、
印刷オペが間違えて生産したのを、最終検査の私らがスルーして出荷。
その後、出荷先の企業から苦情が来たってことなんだけど、
まさかこんなにミスするとは。まさか私か?

「当時の作業担当者の名前をこれから公表する。坂上……である」

本当に私かよ。うそ。慣れてる仕事だから油断してたのか。

「これだけの不良品をスルーした罪は重い。通常なら銃殺刑とはまでは
 いかなくとも、指導の対象ではあるのだが……しかしまぁ……なんだ……」

主任が罰の悪そうな顔をしている。

「諸君、そもそもだ。ミスとは何だ!?」

突然両手を広げてバリトン歌手並みの声量を出し始めた。

黙々と作業の準備をしていた男性のオペ陣も驚愕してこっちに注目してる。
私達も唖然とするしかない。

「ミスとは、本人の意思とは関係なく発生するものである!!
 それは、ある日突然、誰にでも起こりうるのである!!
 この私、主任であっても例外ではないのだよ!!
 諸君!! そうではないか!!」

そうではないかと言われても、私らには答えようがないんですけど。

「これは私の推測ではあるが、その日、坂上はたまたま睡魔に
 襲われるなどして作業に支障があったのだろう!!ああ、分かるぞ!!
 人間なら誰だって睡魔に襲われることはある!! 
 人間だから仕方ないことだ!!」

「現在わが社は深刻な人手不足である!! 
 特に検品担当者は熟練ばかりで替えが聞かない存在だ!! 
 そこで私は、今回の刑については簡略的な措置を取ることにする!!」

歯を食いしばれ。と言われたので殴られるのかと思った。

ペチ。

主任は、私の頬をなでるようにぶった。

「以上で指導を終える!! 貴様らもさっさと仕事を始めなさい!!」

この茶番にはもちろん理由がある。

私は数日してから知ったんだけど、女性従業員の間でこんなうわさが流れていたらしい。

『坂上瞳はペンタックの社長令嬢』

上司たちの間にも噂は広まってたようね。
つまり私に危害を加えたら、むしろ主任の方が銃殺刑になる可能性があったと。
それなら朝礼時のキョドり方もなっとくできちゃう。

なんか……こうやって特別扱いされるの、いや。
私は人と何一つ違わないように気を使って生きているつもりなのに。
目立つのも大嫌いだし、美人だ美人だとチヤホヤされるのも実は好きじゃなかった。

私の周りの人たちは明らかに私から距離を取るようになった。
私から話しかけない限り絶対に話しかけてこないし、
バツイチの人で恨みのこもった目でにらんでくる人もいる。

『何が時給210円よ。親にお金出してもらってくるくせに』
『あの年で親に生活費を依存してるの。人生舐めてるわ』

仕事中に後ろの席からそんな言葉が聞こえてきたこともあった。

今までずっと秘密にしていたのに。
私のうわさを流したのがシブタニ君だったことを確信したけど、
不思議と文句を言う気にならなかった。私が遊び半分で
彼と妹の近親相関シーン(厳密には違うけど)を拡散させた報いなんでしょ。

今考えたら、なんであんなことしたんだろ。
嘘じゃなくて本当にシブタニ君に恨みはなかった。

『生活に困ってないから仕事でミスするんじゃない?』
『どうせこの会社を首になっても家のお金だけで生きていけるものねwww』
『お嬢様は羨ましいわーwwwみんな生活に困ってるのにさw』

最初は耐えられた。

だけど女たちの悪口は日に日に悪くなる一方だった。
あいつらは私に直接言ってこない代わりに
わざと聞こえる声で陰口を言ってくる。だからタチが悪い。

私はお昼ごはんを一緒に食べていたグループらかも疎遠になってしまい。
一緒の席で食べてはいるんだけど、私だけ会話に混ぜてもらえなかった。

私はまるで……いないもの。視線すら交わしてこない。

すごく気まずいし、ご飯がまずくなる。
お昼ご飯だってみんなと同じで冷食中心で
変なメニューにはしてないから普通に接してよ。

例のうわさが流れてから私は会社では有名人。
全然関係ない部署の男性達まで私を奇異な目で見てくる。

食道ではシブタニ君とよく目が合うけど、何で見てくるのよ。
言いたいことがあるなら言ってきなさいよ。

その日の午後は、特にひどかった。

「私ら急な予定が入ってるから、残業できないのよ。
 悪いけど、あとは坂上さん一人でやってくれる?」

検品は全部で6名。他の5名のメンバーは、
私だけを置いて早退してしまうのだと言う。

早退!? まだ午後の2時だよ。
うちの会社(日本の会社はどこも同じだけど)は一日16時間勤務だから、
夜の9時過ぎまで働かないといけないのに。

「明日埋め合わせするからさwwwwじゃあねwww」

そもそもみんな同時に帰る用事っておかしくない?
どう考えても私に仕事を押し付けて帰るってことじゃない。

予定表を見ると、今日出荷の分だけで相当な量だ。
私一人でやったら、それこそ24時間連続で勤務したとしたも終わらない量だ。

どうしてこんなことに……?
勝手な理由で早退する奴は銃殺刑になる決まりなのに、
あいつらがひょうひょうと帰れる理由が私には分からない。

「待てよ村人ども。なに帰ろうとしてるんだ。席へ戻れ!!」
「なにぃ? 邪魔すんなよシブタニ」
「シスコン野郎!! どけよ!!」

フロアの出入り口で男女の揉めてる声がする。

「坂上さんにだけあんなに仕事押し付けるなんて鬼畜過ぎるだろ」

「んだよ。あんたには、かんけ―ねーだろ!!」
「どけよシスコン!!」

5人組の中で特に気が強い女(43歳子持ち)がシブタニ君につかみかかってる。

「どんな理由で早退するつもりなんだ。
 理由を言わねえ限り俺は納得できねえな。
 坂上さんに仕事を押し付けてまで帰るほどの正当な
 理由があるなら仕方ねえけどよ」

「帰るも何も、あたしらは今日で辞めるんだよ」

「なに!?」

「あたしらはね、あの甘ったれたお嬢様と一緒に仕事してるのが
 我慢ならなくなったんだよ。あたしらの稼いだお金とあいつの稼いだお金は
 本当のところ同等じゃない。おまけに社長令嬢だから仕事でミスしても
 刑罰を受けないときたもんだ。こんなの、やってられないよ!!」

「……てめーらの気持ちは分からなくもない。だが会社が認めるものかよ。
 おまえらは会社の門をくぐる前に警報が鳴り、上司に一網打尽にされるぞ」

「かまうものか」

と言って、女たちは隠し持っていたハンドガンを見せて来た。

「あたしらはいい加減生きてるのが馬鹿らしくなったんだ。
 坂上には騙されたよ。生まれの良いことはなんとなく知っていたけど
 まさか社長の娘だったとはね。あたしらは会社を脱出できなくても
 一人でも多くの上司を殺してから最後は自殺してやる」

その目は本気でした。

消費税率34%を始めとした自民党の暴走によって
日本人の心はすっかり荒んでしまった。

窃盗、略奪、暴行、銃殺刑、拷問、粛清。
これが日本での日常。

自殺と他殺によって人口の減少に歯止めがかからない。
毎年内戦や紛争をしている状態と言った方が正確だと思う。
首相は日本は平和で良い国だと言っているけどね。

女たちは、自分たちの輪の中で特別扱いされて
絶対に銃殺刑にならない私のことを
殺したいほど恨んでいるのだろう。

私は恨まれることはあっても人を殺したいほど
恨んだことは一度も無い。
だから私には、彼女たちの気持ちを真に
理解してあげることはできない。同情はできてもね。

「まずはあんたから死になよ」

眼鏡をかけた長身の女が、シブタニ君に照準をつけた。
あの子の名前は青木さんと言って、少し前まで私と仲良しだった。

「撃つなら撃ってみよろ。どうせ口だけなんだろ」

シブタニ君は肝が座っていて、表面上は動揺してない。
でもかなり怖い思いをしているのはなんとなくわかる。

もはや死人が出てもおかしくない修羅場。
仕事などしてられる状況ではなくなり、フロア中が騒然となった。

「もうその辺でやめてよ!!」

私は緊張で震えながら席を立った。
恐怖で体中がこわばっていて、ひどい顔をしていたと思う。

「彼に何の関係があると言うの!!
 今回の件は私が原因なのでしょう。
 その銃口を私に向ければいいじゃない!!
 それであなた達の気が済むなら喜んで犠牲になるわ」

女たちは歯ぎしりしてすごい顔で私を睨んできた。
あまりの迫力に足に力が入らなくなってしまう。
人間の殺意ってこんなにすごいのね。

そんなに私の存在は彼女たちにとって不愉快だったのだと改めて思う。
仕事で溜めこんだストレスもあるんだろうけどね。

「ぷっ、何が銃口を私に向けなさいだ」
「あいつら、できてんじゃねーの」
「ばっかみてえ。簡単に撃てるなら苦労しねーよ」

……え? 男性から失笑が漏れている。
この会社では比較的若い男性が揃っている、
部署後方のオペレーター席の方からだ。

「金持ちは死ね」
「生活に困ったことのないお嬢様。くたばれ」
「マザコンなんだろ? 家に帰ってママのおっぱいでも吸ってろ」

令和10年。貧富の差が極限まで広がった日本では、
全労働者の大半が時給350円以下の派遣社員。

女性バツイチはさらに過酷な生活を強いられ、
専業主婦は派遣会社に拉致され、子供は保育園に奪われる。
彼ら若い男性は賃金が足らずに結婚の希望すらない。

これからの日本は、移民してきた外国人奴隷が子孫を残すことによって
人口を一定の率に保っていく。優秀な一部の日本人にしか
子孫を残す権利を与えず、一部のエリート日本人が多くの外国人を
隷属化する、かつてのナチスドイツの再建を目指す。

アベ政権の目指す未来に日本人の誰もが絶望していた。
こんなご時世じゃ、金持ちがいじめの対象になるのは当然のことだ。

「皆さんの言いたいことは良く分かりました!!
 私のせいで不愉快な思いをさせてごめんなさい。
 私は今日この日をもって会社を辞めようと思います。
 パパにはあとで知らせておきます。
 これで他の女性たちが辞める理由もなくなりましたよね?」

私は子供のころから聖書は読むようにと親にしつけられていた。
夜寝る前の5分間は新約聖書を音読するのが日課だった。
だから普通の女よりは自己犠牲の精神が強かったのだと思う。

でも哀しいよ。
三年も務めた会社だったのに。
人ではなく、この建物に愛着すらある。

泣いてる顔をみんなに見られたくない一心で、駆けだしました。

その時の私の顔は、全世界に対して辞任を
表明した英国のメイ首相のようだったことでしょう。

廊下で誰かに泣き顔を見られるかもしれない。
食堂近くに有るトイレに入りました。

「君はメイ首相とは違う!!」

そしたらシブタニ君も続いて入ってきました。
ここ、女子トイレなのに。

「今はそんなこと、どうでもいいだろ!!」

シブタニ君……。

「イギリスのメイちゃんは、下院議会の暴走を抑えきれなかった。
 外国の政治なんてあんなもんだ。だが君は、違う!!
 これは君だけの物語。君の物語の主人公は、坂上ひとみなんだ!!」

「ごめんね。言ってることがよくわからないの。
 励ましてくれてるのは分かるんだけど、
 お芝居っぽいセリフを言われても」

「俺は君に辞めてほしくない!!
 君にはいつまでもペンタックにいて欲しいんだ!!」

シブタニ君は、飛びつくような勢いで私の体を抱きしめました。
こんなに近くでシブタニ君が……。
男の人の体温を感じて心臓がドキドキします。

「私は大勢の人が見てる前で辞めるって言ったのよ」
「前言を撤回すればいいじゃないか」
「でも、みんなに恨まれてるのよ」

「俺が上司を説得する!! 
 上司からしたら令嬢の君を首にする理由はないはずだ」

確かにそうだとは思うけど、これだけ人間関係が
ギクシャクしたら普通は辞めるべきだと思う。
あまり言いたくないけど、私は本当に生活の心配は
しなくていいんだから。

その時でした。

「あっ………え?」

トイレに入って来た女の人が
抱き合う私たちを見て走り去っていきました。

まあ、そうだよね。
まず女子トイレに男がいることが異常だよ。

「お願いだよぉ。坂上さん……辞めるなんて……言わないでくれぇ……」

彼は泣き崩れてしまいました。
そんなに悲しいのね。一人でも私を引き留めてくれる人が
いてくれたことがうれしい。
どうしてこんなにも私のことを気づかってくれるの?

「最初は、ほんの出来心だったんだ。君に俺と妹のあれを拡散された恨みで
 君のアパートを放火しようとした。そして君の生まれの秘密を
 従業員共にばらしたのは、分かってるとは思うけど俺だ」

彼は震える声で続ける。

「俺が原因で君がいじめられてるのをみて、すごく悲しくなったんだ。
 今では俺、後悔してるんだ。ごめんよぉ。謝って済む問題じゃないのは分かってる」

「私も、ごめん」

「え?」

「私も本当はあなたの妹に嫉妬していたのかもしれない。
 実はあなたたち2人が仲良さそうに街を歩いてるのを
 何度か見たことがあるの。それで本当にキスとかする
 関係なのかなって探ってみたかっただけなの」

私にはお兄様がいる。もしくはクソ兄。
日本には魅力がないからって親のお金でニューヨークで暮らしてる。
もうね。一生帰ってこなくていいよ。

同じ家に住んでる時は喧嘩ばっかりで暴力を振るわれたこともが何度もある。
母は厳しい人だけど、長男の兄に甘くて、怒られるのは決まって私だった。

兄は自信家で、人より頭が良いからすぐ他人を見下して
金持ちを鼻にかけて、中学2年の時から株式投資の勉強をして
ある時大もうけした。株だけじゃなくてFXや不動産にも手を出していた。
今は個人資産を5000万も持ってる。
生活のレベルを落としたら配当金だけで生きてけるって言ってた。

『いいか瞳。資本主義では資本を持ってる奴が一番偉いんだぞ。
 借りる側が弱者。貸す側が強者だ。分かりやすく言うと中央銀行だ。
 銀行、企業、政府へとお金が流れる。銀行家が一番の金持ちだって
 ことはロスチャイルド家の歴史が証明しているんだ』

お金を持ってるから何?
お金を持ってる人ってそんなに偉いのかしら。

私は兄を見返してやろうと中三の時に株の勉強を始めようと思った時がある。
兄に専門書(ウォーレン・バフェットさんの著書)を借りようとしたら

『おまえみたいな小娘に投資の世界が理解できるもんかwww
 ひとみは学校の成績も学年で下から数えたほうが早いそうじゃないかwww
 金融の勉強をする前に英語の単語でも覚えてろよw』

どんだけ自分の妹を見下してるのよ。
本気で殴ってやろうかと思うほどムカついた。

だからなのかな。
優しそうなお兄さんって、あこがれだったんだ。
私にも普通の兄がいたら、あんな感じだったのかなって。

良い雰囲気になったところで、また扉が空きました。

「え?」

清掃業者のおばさんでした。
私じゃなくてシブタニ君を見て固まっています。

早く言い訳を考えないと、シブタニ君が女子トイレに侵入した変態って
ことでうわさが広がってしまう。

「ちょっと嫌なことがあったので彼氏に相談していました」

「は……かれしぃ?」←おばさん

おばさんは、掃除用のモップを音を落とし、
廊下へ駆け出していきました。

「今の言い訳はまずかったんじゃないか」
「私もそう思った。けど、もう遅いよね」
「まじでどうする?」
「私たちの関係よりも、むしろ…」

トイレの前が急に騒がしくなってきた。
人の足音が聞こえる。どんだけ人が集まって来てるんだろう。

私は彼と一緒に廊下へ出ました。

「坂上ヒトミさんと、渋谷ケントさんですな?」

工場長と営業部の偉い人だ。
私たちに話があると言うことで会議室に呼ばれた。
どうやら私たちの午後の茶番は、フロアに仕掛けられた
監視カメラと盗聴器によって上司には筒抜けだったみたい。

会議室……?
武装した兵隊(従業員)が扉の前を警護している。
軍隊の施設にしか見えないけど。
何年勤めてもペンタックは軍需工場にしか思えない。

「今回の無礼をどうか許していただきたいのです」

工場長は私達に頭を下げて来た。
私だけでなくシブヤ君にも謝っているから驚きだ。
女性の事務の方からホットコーヒーを出されたけど、
緊張しすぎて飲む気にならない。

工場長の話によると、まず私は会社を辞めなくていい。

私に無礼な態度を取った全ての従業員を銃殺刑にし、
部署の一新を図るとのこと。減ってしまった人数は、
埼玉県南部にある工場から補充する。
つまり人が減ることは心配しなくていいとのこと。

問題は、ちょっとした喧嘩であの人たちの命が奪われてしまうこと。
私が社長の娘だから特別扱いされる!! 
あの人たちだってムカつくけど生活のために真面目に働いていたのに、
銃殺刑になってしまうんなんてあんまりじゃない!!

「おっと」

工場長殿は温厚な人物で、常に笑顔を絶やさない。
50前にしてはイケメンなほうだと思う。
親父萌え系少女漫画に出てきそうなイメージ。

「坂上さんは表情から察するにご不満のようですね。
 では彼氏さんのお話を聞くことにしましょう」

彼氏と言われたシブヤ君、思わず寝起きの柴犬の顔で呆けていた。

「シブヤ君は今回の銃殺刑については賛成してくれるかな?」

「俺の考えは坂上さんと一致しています。人が死んでほしくない。
 人が死なずに済む解決方法が欲しい。ただそれだけです」

工場長は「うーん」と言ってコーヒーのカップに口を付ける。

「日本の会社では悪化した人間関係の整理をするには
 略式銃殺刑を行うのが一般的なんですよ。
 もちろんわが社も例外ではありません」

工場は日本の銃殺刑の歴史を教えてくれた。

最初は令和2年。個人向けの住宅ローンで不正融資をした、
とある銀行員が新聞に取り上げられて大問題になった。
銀行側は、当該の行員に指示を出した上司を銃殺刑にした。

自動車会社で不正検査が発覚。検査を担当した人と、
指示を出した人を銃殺刑にした。銀行と自動車会社の例だが、
その後、不正をすることは二度となくなったという。

一般的な銃殺刑の方法は、垂直に立てられた丸太に
目隠しされて身体を縛り付けられる。
その後、秘密警察のライフルの弾で心臓を撃ち抜かれる。

国民に広く銃殺刑を浸透させるために、
NHKのテレビ放送でもCMの一環で流れることがあるの。
「国民粛清番組」ってのがあって、反自民党的な態度を
取る人を毎月の月末に公開銃殺刑にするのよ。

銃殺刑は、従業員に与える精神的なプレッシャーが
拷問よりも高い。これを効果的に利用すれば

「坂上さんが将来的に働きやすい職場を作ることが可能になります。
 今後、新しい法律を作ろうかと思いまして。坂上さんをお金持ちとして
 意識する従業員も指導の対象として拷問などを実施しようかなと」

私を今以上にお姫様扱いしたって陰で恨まれるんだから同じよ。
中世の封建社会ね。みんなが私におびえて仕事する姿が目に浮かぶようだわ。
そんなの、全然私の望んだ世界じゃない!!

私の気持ちも考えないで、勝手なこと言わないでよ!!

その時だった。

ズガアアアアアアアアン

シブヤ君がテーブルを破壊するほどの勢いで拳を叩きつけました。

「工場長の馬鹿っ。もっと瞳の気持ち、考えてよねっ」

シブヤ君は半泣き状態で今のセリフを言い、走って行きました。
彼ったら意外と乙女っぽいセリフを吐くみたいです。
しかも私の名前をさりげなく呼び捨てにしてる。

「あの、私もこれで失礼します。銃殺刑は反対ですから、
 できれば現状維持でお願いしたいと思ってます。それじゃあ」

シブヤ君を探さないと。

彼は廊下をシカのように駆けていました。
結構早くて全然追いつけません。

「きゃあっ」

シブヤ君は何もないところで転んでしまいました。
派手に転んだわね。膝をすりむいてしまったんじゃない?

「いいや。ズボンをはいてるから大丈夫だったよ」

「どうしてさっきは女口調だったの?」

「小さい頃から美雪の少女漫画を一緒に読んでいたんだよ。
 感極まった時はつい女口調が出ちゃうんだよ」

美雪……。

彼のその言葉には不思議な気持ちが込められているようでした。
ああ……この人は本当に妹さんのことを愛しているのね。
もちろん変態的な意味じゃなく、
家族として美雪さんを愛しているのが良く伝わってくる。

だからでしょうか。
私はむしゃくしゃしたので彼の首筋にチョップを食らわせてしまいました。

「ぐほっ」

「シブヤ君と連絡先を交換したいのだけど」

「チョップした後に言うセリフがそれかよ」

男の人と連絡先を交換してウキウキするのは何年振りかしら。
思えば大学時代も素敵な人とは巡り合えなかった。
本当に男運のない人生。ババ…母様に紹介された男も
全部振り続けていたからかな。

「お願いがあるの。会社では私の彼氏のフリをしてちょうだい」
「おう。少女漫画でよくあるパターンだな」
「ラノベの方がそれっぽいけどね」

「で、しばらくしたら俺達付き合うパターンになりそうだな」
「結婚にまで至ってもおかしくないわね」
「今、はっきり言わせてもらうぜ。俺は坂上瞳のことが好きだ」
「私も好き」
「あれ? ってことは」
「あ…そうなのね」

どうやら両想いっぽいです。
少女漫画では、他に姉の代わりにお見合いに参加する。
見合い相手と自分が懇意の関係になる、のパターンがよく見られます。

「振りじゃなくてマジで付き合うことになってしまったな」
「演技する手間が省けていいじゃない」

少女漫画だと、このあと恋の駆け引きが始まるパターンね。

「この事実を知ったら美雪が切れるのは間違いない」

賢人君と同じことを私も考えていた。

今後、この小説で考えられるパターンとしては、
私と賢人君の恋愛を、美雪が妨害する。
複雑な三角関係の末、私か美雪のどちらかが彼と結ばれる。

「あんまり展開予想すると作者が描きにくくなるからやめようぜ」
「でも王道の展開は今から潰しておかないと。
 市販の少女漫画やラノベと大差なくなるわよ」

いずれにせよ、こんな都合のいい展開によって恋愛が進展するのです。

「俺との関係を知ったら、瞳のお母さんも切れそうだな」

そうね……。

ぶっちゃけ私に偉そうな態度を取る母親がこの世で一番苦手なんだけど。
父の会社に多額の出資をしてるのも母側の家系だから、
家では父は母に頭が上がらない。だからぎくしゃくするのかな。

実際に夫婦仲は冷え切っていて、
親戚や偉い人が集まるパーティでは仲睦まじいふりをして
家では「筆談」しかしない。

筆談の内容は無機質な事務連絡のみ。
電子メールですらなくて、
家のどこかにメモ書きを残すだけ。

まじでうちの両親なんなの?

冠婚葬祭、その他式典の時以外で一年間で
言葉を交わすことがないとか終わってるでしょ。
どんだけ性格が合わないのよ。

仮面夫婦なのは自覚している。
だがこれは婚姻関係を維持するための最良の措置とか
父がどや顔で言ってたけど、
母が怖くて喧嘩にもならないだけでしょ。

こんな家庭で育ったら普通に結婚願望なるくなるわ。
兄も独身だし、弟も彼女すら作らないみたい。

大人たちはみんな「お金」の話ばっかり。
「資本金」「利子」「負債」「株式」「社債」「手形」

私が小学4年生の時、お父さんから誕生日プレゼントに
「会社四季報」を渡された。他の女の子はぬいぐるみとか
お人形さんなのに。まさかの「会社四季報」(東洋経済新聞社)

炉の中に四季報をくべてしまおうかと思った。
小学生の女の子で投資に興味ある人なんているの?

「ひとみ。お金は大切なものだよ。栄一(父の名前)は君に
 お金の運用の仕方を学んでほしかったのだよ。
 捨てることはなかろう。机の引き出しの中にでも取っておきなさい」

おじいちゃんは、あれから一年して亡くなった。

おじいちゃんが死ぬまで運用していた米国株式は、
なんと孫である私の兄に相続された。当時の時価総額で
2000万円もあったというのだから、かなりの大金だ。

兄は、それを10年で倍以上に増やした。

「金は人を裏切らねえ。おまえは馬鹿だから
 金の大切さがわかってねえんだよ」

愉悦に満ちた兄の顔を思い出す。何がお金だ。
ああ……また殺意が。奴の声が脳内再生されると
壁パンしたくてたまらなくなる。

私とてお金を無駄にして生きていたつもりはない。
実は質素なアパート生活を続けながら、
これといって欲しい物ものなかったのでお金を貯めておいたのだ。

賢人「美雪が自殺未遂をした?」

※ひとみちゃん

そういえば、私っていくら持ってるんだろう。

「賢人君。このあと暇?」

「暇と言われても、平日なんだが」

「会社はサボろうよ。どうせ午後からじゃ
 仕事にならなそうだからATMに行こうか」

「ATM?」

「お金をおろしに行こうかなって思ったの」

「分かったよ……。君がそう言うんだったらね」

実は私は普段からお金の心配をしてないからか、
自分の口座にいくら入っているのかあんまり興味がない。

工場では給料明細が封筒で渡されるのだが、
半年に一度くらいしか見ないので、
普段は机の引き出しの中にコレクションしている。
そもそも時給210円なら見てもしょうがないでしょ。

ATMにりそな銀行のキャッシュ―カードを入れ、
暗証番号を入力。よく覚えてないけど、
この番号であってるかな? 
番号はあってた。残高は約470万だった。

「私って持ってる方なのかな?」

「令和10年の賃金水準(全国平均時給・190円前後)
 の中ではかなりの額だろうな。
 平成の1000万に匹敵することは保証するよ。
 しかし、よくこんなに溜めたねぇ。
 趣味とかに使ったりしなかったの?」

私の趣味と言えば、夏にガリガリ君を食べて
冬に白くま君とゆきみ大福を食べる。
あとは朝早く利根川の堤防をジョギングしたり、
図書館で本を借りたりすることかな。あんまりお金使わないのよ。

小さい頃から何でも買い与えられたから
大人になって欲しいものが何もないの。
服はユニクロとジーユーで買ってる。

化粧水と乳液はマツキヨ。コスメグッズも良くコンビニで買う。
この間は中学時代の友達とお揃いで1500円の靴を買ったよ。
私は外見が地味だし、とてもオシャレなほうではない。
髪質は良くて綺麗だってよく褒められる。

パパが四半期ごとにブランド物をプレゼントしてれるけど、
金持ちと思われたくないから押入れの奥にコレクションしてる。

たまに、いらなくなったのをアウトレットで売ることもあるけど、
現金が手に入ったところで、やっぱり買いたい物が見つからない。
私ほど無欲な人間って珍しいのかな。

旅行には行きたいけど、一緒に行くほど仲の良い友達がいない。
会社では上辺だけの友達はたくさんいるけどね。
いた、と言ったほうが正しいか。

大学生の時から一人で本を読んでる時間の方が好き。
テレビを見るよりユーチューバー・チャンネルを見るのが好き。

「なるほど。ある法則に気づいたぞ」
「なに?」
「お金持ちほどお金が溜まる理由だよ!!」

賢人君は大げさに身振り手振りを加えながら説明してくれた。

⇒金持ちは、そもそも生まれた時から欲しいものが何でもそろっている
⇒したがって物欲が少ない
⇒大人になってから無駄な支出が減る
⇒さらにお金が溜まり、溜まったお金が子孫へ引き継がれる。

なるほど。お金を資産のレベルで考えると、
お金持ちは余ったお金を運用(投資)してさらに増やす。
不動産や有価証券も含めて次の代へと継承される。
こうしてお金持ちはずっとお金持ちとして生きていけるのね。

「逆に貧乏人はだな…」

⇒小さい時から欲しいものが手に入らなかった。
⇒物欲が強くなる。大人になってから給料を全部使う
⇒貯金ができず、さらに貧乏になる。
⇒運用する金などあるわけがない。

生まれの違いによってここまで変わってしまうのね……。
人の世は残酷にできているものだわ。

「生活に必要のないお金があるなら投資信託でも買ったらどうだ?」

「いやよ。投資って怖いもの。元本割れするリスクがあるんでしょう?」

「しかしだな。今は長期金利の水準が0.001%まで下がった(日銀が規制緩和を維持してる)
 普通預金に置いても文字通り利息なんてゴミみたいなもんだ。
 10年単位の長期運用を考えるんだったら、
 債権とか日経平均連動のETFでも買ったほうが…」

「賢人君。元消防士の割には金融関係に詳しいのね」

彼は元銀行員だったことを教えてくれた。
どうりで消防士にしては体つきが貧弱だと思ったわ。
例えばリングの貞子と戦闘したら絶対に勝てなそうだもの。

「別の作品の話はやめようじゃないか。読者に嫌われちゃうよ」
「そうね」

閑話休題。

「賢人君は投資はしないのかしら。職歴上そういうのは詳しいのに」

「俺は時給210円のアパート生活だから無理だよ」

「前から思っていたのだけど、安月給の割には
 あんまり飢えてそうな感じがしないわ」

「そういえば……」

賢人君は、第4話以降の話を読み返してみました。
つい忘れそうになってしまいますが、この作品の設定では
物価の水準は平成の末期と変わっていません。

賃金水準がここまで下がっているのに
物価が変わらないって鬼すぎますよね。

単純計算で賢人君の収入ではアパートの家賃を
支払うので精いっぱいでしょう。なのに彼は妹さんの
作った夕飯を美味しそうに食べていたりと、
食生活に困ってる描写はありません。

また電子レンジが動く描写があることから、電気代も払えているようです。
美雪さんが調理していると言うことは、ガス代も払えているのでしょう。

「あんまり細かく分析すると作者が続きを書けなくなるぞ!!」

( ´_ゝ`)フーン

「平日は美雪さんがお買い物をしてるのよね?」

「そう……だね。日用品は全部買ってもらってる。
 休日は一緒に行くこともあるけど」

「彼女は現役大学生なのでしょう?
 そのわりにはお金を持っているのね」

「親からの仕送りがあるとか言っていたな」

もしかして……

「美雪さんって奨学金をもらってる?」

「いや、親のお金だよ。俺が大学生の時もそうだった。
 子供の学費は全部出してもらえる家だから」

「お父さんのご職業は?」
「銀行マンだよ。言っておくけど給料はめちゃくちゃ安いぞ?」
「美雪さんから仕送りの具体的な額は聞いたことがあるの?」
「あー、どうだったかな。お金の管理は全部あの子に任せてるからなぁ」

彼は首をひねりながら

「そういえば、美雪は大学二年の時から株を始めたとか言ってたな。親父の影響で」

「すごいわね。まだ学生なのに」

「日経新聞を読むのが趣味みたいだ。変わった趣味だよな。女子大生なのに。
 ダウ平均がどうとか、ドル円相場がどうとか、よく独り言を言ってるな」

「外国の株にでも投資してるのかしら?」

「たぶんそういうことなんだろうな。外国の株ってなんか危なそうだよな。
 本当に儲かってるのかねぇ」

「どのくらいの資産を持ってるのか気になるわね」

「うんうん」

「今日帰ったら妹さんに訊いてみたら?」

和やかに会話していたのに、彼は一転して暗い顔になって、

「それはまずい」と言った。

「どうして?」

「この話のタイトルを読んでくれ」

美雪さんが自殺未遂をした……?
確かにそう書かれているわ。私の見間違いではないわね。

つまり、この話の中で美雪さんが死ぬ可能性が…

「いや。すでに死んでるっぽいぞ」

ええっ!?

彼は、妹さんから送られた写メを見せてくれた。
バスタブの中で血だらけで横たわっている美雪さんが映ってる。
しかも裸だ。肌白いわねー。ってそれどころじゃない!!

「今ならまだ間に合うかもしれない。早く助けに行かないと!!」

「そう焦るなよ」

「焦るよ!! 出血多量で死ぬかもしれないんだよ!?」

「いやいや。こういうの、よくあるんだよ」

よくあるの!? 自殺未遂をすることが!?

「ほんと困るよなぁ。なんか、こういうことされると
 家に帰りたくなくなるよな」

家に帰りたくないって…。
だから、そんなこと言っている場合じゃないでしょ!!

「ちょっとファミマに寄ってから帰ろうか」

彼があまりにも悠長なのであきれてしまった。
生前の美雪が好きだったからと、チーズタルトを買うことにした。
税率が34%。しかもコンビニの品のため、
底辺所得者の私たちにはあまりにも高価です。

私は欲しくもないのに母から毎月
渡されているクオカード(株主優待)があるので使いました。

「おごってもらって悪いね」
「いいのよ。それより早く賢人君の家へ!!」

彼はトナカイのような顔をしてとぼけてる。
どうして焦らないのか理解できないけど。

そして賢人君のアパートの中へ。やっぱり美雪さんは
血だらけの状態でバスタブの中にいた。

「おい美雪、チーズタルト買ってきたぞ」
「えっ、本当!!」

普通に生きてた。
バスタブから起き上がり、裸のまま賢人お兄ちゃんに抱き着ついた。

「お前の手首、出血がひどいからあとで病院の先生に診てもらうな」
「うん。分かった」

手首からの出血がバスタブに溜まり、血だらけを演出していたみたい。
痛くはないのかしら? 見てるこっちは直視できないレベルなんですけど。
結構な量の出血だったのにケロっとしてるのが逆に怖い。

「手首が痛いから食べさせてよ。はい、あーん」
「はは。美雪はいくつになっても子供だなぁ。ほら。おいしい?」
「うん。おいしー!! ちょーおいしー!!」

リンゴを握りつぶしたくなるほど腹立つ光景。
賢人君は私と今日から付き合い始めたの忘れてないよね!?
こんなの見せられるなら来なければよかった!!

そんなことを思っていると、賢人君からメールが来た。
妹さんとイチャつきながら、どうやってメールを書いたの。

『絶対に美雪を刺激しないでくれ。最悪本気で自殺しかねない』

よく観察して気づいた。
賢人君は引きつった笑みで美雪さんの相手をしている。

まさか……美雪さんってメンヘラ? 
ネットでは生存が報告されているけど、リアルで始めて見た。

「お兄ちゃん、消毒してから包帯撒いてよぉ!!
 美雪ねえ、痛すぎて死んじゃうよ!!」

賢人は老人のような顔で「はいはい」と言いながら看護をしていた。
彼も彼なりに必死なのね。身内に変な人がいると苦労するよね。
美雪さんに比べたら私の兄は全然まともだ。

「そろそろ服を着たほうが良いと思うんだけどなぁ。
 夜は冷えるから風邪ひいちゃうゾ?」

「分かった」

と言って彼女は兄が見てる前なのにパンツを履き始めました。
賢人君はものすごく複雑そうな顔をしています。
さすがに年頃とはいえ、妹の裸を見て興奮はしないと思いたいけど、
彼のズボンは、はちきれそうなほど膨張していました。

賢人君……最低……。

彼女の髪は水で濡れていたので、ドライヤーで乾かしました。

その間、賢人君は『血だらけのバスタブ掃除したくねえ』
とつぶやいてしました。心底嫌そうな顔で。

「お兄ちゃん。ごめんね。私ったらまた取り乱しちゃって」

「こんなの気にするなよ美雪。俺にはお前が必要だ。
 お前がいないと俺は生きていけないんだから。
 美雪も俺が必要だったら、いつでも言ってくれ。
 美雪のためだったら、なんでもしてやるつもりだよ」

なんてカッコいいセリフ。
美形で低い声の彼に言われたらほとんどの女が
喜んじゃうと思うな。私にも言ってよ。

「今なんでもしてあげるって言ったよね?」
「あ、ああ。言ったな」
「じゃあ」

ここで美雪さんは私へ殺気を放つ。

「そこにいる女と別れてくれる?」

私の時が止まった。賢人君も止まった。

そんな事を急に言われても対応に困ってしまう。
どうして私と彼の関係が既に知られているのか。
私と賢人君が付き合うようになったのは今日の午後。
しかも会社での壮大なる茶の番を経て。

美雪さんが会社での出来事を知っているとは思えないのだけど。

「美雪は俺のラインにスパイウェアを送り込んでいる。
 つまり俺の携帯の情報は妹に漏れている。
 俺がヒトミさんとラインを交換したことを察知し、
 それで関係を知ったのだろう」

と耳打ちしてくれました。
顔を近づけるとドキドキしちゃうじゃない。

「その反応、やっぱり二人は付き合ってたんだね!!」

美雪さんはテーブルを振りかざして暴れ始めました。

狭いアパートだから大変です。
東京でシンゴジラが暴れているシーンを彷彿とさせます。

「うそつき!! うそつき!!
 お兄ちゃんはいっつも私に嘘をつくんだ!!
 私の何がダメなの!! 坂上さんはお金持ちだから好きになったの!?
 それとも顔が好きなの? 私の方が若くてぴちぴちしてるのに!!」

賢人君は、冷めた顔でその様子を眺めていました。

イラついてるわけでもなく、あきれているわけでもなく、
ただ無言です。いったい何を考えているんでしょう。

美雪さんが暴れ疲れたところを見計らい、強烈なビンタを食らわしました。

ぱっしいいん!!

女の子にはちょっとキツすぎるその一撃。
白い肌に男の手形の跡が浮かび上がる。
さすがの美雪さんも暴れるのをやめ、おとなしくなりました。

「俺が美雪を嫌いだなんて一言でも言ったか?」
「他の女を取るってことは、同じ意味だよ」
「何度も言うが、お前は俺の妹だ。恋人じゃない」
「う、うぅ……うわぁあああ」

美雪さんは大泣きを始めました。
情緒不安定にしても程がある。
大学生とはとても思えない。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ。ひどいよぉおおおおおおお。
 お兄ちゃん。ひどいいいいぃいいいい!!」

賢人君から、「すまないが、今日のところは帰ってくれ」
とメールされたので
静かに立ち去ることにした。

彼と付き合い始めた初日からこれって…。

予想通りの三角関係になっちゃったかぁ。
もっと出演料あげてくれないと
この小説に出るのが苦痛になってきたよ。

次はどんな脚本になるんだろ。


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※ けんとくん

俺の妹は、たまに幼児退行現象や自殺未遂をしたりする。
俺があんまり構ったやらなかったり、
あるいは今回のように彼女を作ったりするとこうなるようだ。

最初は俺もあせったが、何度もされるうちに慣れてくる。

一晩寝ると、あの時の発狂が嘘だったのように
普通に戻る美雪。

「おはよ。ご飯できたから、そろそろ起きて」

俺は洗面所で顔を洗い、ちゃぶ台の前であぐらをかいた。
狭いアパートなのでイスはない。

テーブルは、昨夜美雪が暴れたせいで角がボロボロになってる。
買い換えたいけど、俺の安月給じゃなあ…。

「お兄ちゃん。昨日のことなんだけど、本当にごめんね?
 ……怒ってるよね?」

「俺は昔のことにはこだわらない性格だから」

「坂上さんとの関係も!!」

「ん?」

「私は応援してるから。どんな経緯で付き合うことになったのか知らないけど、
 お兄ちゃんがぜひにって思う人なら、きっと悪い人じゃなかったんでしょ?」

「あ、ああ」

「素敵な人と付き合えてよかったね?」

「ありが……とう」

素直に喜べねえ。
美雪が思いっきり悔しそうな顔をしているからだ。
こいつは考えていることが全部顔に出るな。

そんな無理をしてまで俺に気を使わなくていいのに。
強情を張ったら俺に嫌われると思ってるんだろうが、
むしろ可哀そうになってくる。

だが甘やかしたら逆効果だろう。
この子には早く兄離れをして普通に恋人を作ってほしいのだ。

俺は工場の制服に着替えてアパートを出ようとした。
そしたら玄関に不審な張り紙がしてあった。

『妹を抱きしめて愛の言葉をささやきなさい』

この下手くそな字を誰が描いた? 作者か?

俺は、体が勝手に動いてしまい、
洗い物をしている美雪を後ろから抱きしめてしまった。

「おにいちゃん!?」

驚いてるよな。当然だ。抱きしめた感触で分かるんだが、
スレンダーな瞳さんと違ってこいつは、出るところがちゃんと出ていて
抱き心地が良い。実の妹に対して抱く感情じゃないのは分かっているが。

「愛してる」

「えっ」

おいおい、俺は何を言ってるんだ!?
冗談でも今の美雪に言うべきことじゃないだろ!!
俺はすでに坂上瞳と付き合ってるんだから、
美雪に愛の告白をしたって嘘っぽくなるだけだろうが!!

「嘘でもうれしい」

泣いてる……のか?

「でもいいよ。無理して愛してるなんて言わなくて。
 お兄ちゃんが真剣に坂上さんとお付き合いをしたいのは
 よくわかってるから」

「俺はお前のことも好きだ!!」

「……何言ってるの?」

本当に何言ってるんだおれ!?
自分の意志とは関係ない言葉が次々に出て来るぞ!!

「お兄ちゃんは仕事で疲れてるんだよ。今日はお休みする?」

「うるせえ!! 俺はお前のことを愛してるんだ!!
 愛してるのに愛してると言って何が悪いんだ!!」

おいおい……。

「愛してるのは妹として、でしょ?」

「違う!!」

違くねえよ!! その通りだよ!!

「はっきり言わせてくれ。もう坂上瞳のことは赤の他人だと思ってる」

「へ……? 昨日から付き合い始めたんじゃないの?」

美雪が後ずさりしたのは初めて見るな。
本気で俺の頭がおかしくなったと思ってるみたいだ。
昨夜は妹が発狂。そして今朝は兄の俺。まさに発狂ブラザー。笑えねー。

「なかなか信じてくれないようだな? ならこれでどうだ」

また俺の体は勝手に動いた。

美雪の腕をつかみ、抵抗できないようにしてから
ゆっくりと顔を近づけた。
本田望結ちゃん並みに整ったこいつの唇を、俺は奪ってしまった。

おえええええっ!!
これで二度目のキスだぞ!?

血のつながった相手とのキスとか無理過ぎるわ!!

確かにその辺の女よりは整ってるとは思うが、
妹だから生理的に受け付けねえんだよ!!

「本気にしていいのね?」

「もちろんだよ。おまえのことだけを愛してる」

だから何言ってるんだよ俺はああああああ!!
しかもラインで瞳に「やっぱり別れてくれ」って送っちまった!!

本当になんなのこのクソ展開は?!
作者の頭の中腐ってんじゃねえの?!
今すぐ脚本書き直せよおおお!!

俺は満足げな顔をして出勤したが、もちろん大問題に発展する。

主任によるクソみたいな朝礼終了後。俺たちはネズミのように
一分一秒を惜しんで仕事に取り掛からないといけないのだが、
瞳さんが俺の席の方へとずかずか歩いて来たぞ。

「朝からあのメールはなんのつもりなの?」

瞳さんの声が低い。俺は胸ぐらをつかまれてしまう。
またしても部屋にいる全ての従業員の視線が俺らに突き刺さる。

ところで俺と瞳は今日も普通に出勤している。
この部屋のメンバーに変更はない。
瞳の温情によって、従業員の大量銃殺刑の計画はチャラになった。
よって件のおばさん連中(ヒトミは女の子と称していたが…)も普通にいる。

「状況説明はイイから、早く説明しテ」
「説明しないと小説が…」
「メタネタはいいから。はっ。メタネタ?」

ここでさかしいヒトミちゃんは真実に気が付いたようだ。

俺は身振り手振りを加えながら、自分の意志とは関係なく
妹に愛してるなど言ってしまったことを説明した。

俺とヒトミさんは、自分が小説に出演していることを
自覚しているタイプのキャラなのだ。作者のクソみたいな
発想によるクソ展開だったことを理解し、瞳は衣を引き裂きながら憤慨した。

……会社なのに実際に引き裂くわけないよな。
だって引き裂いたら下着が見えちゃうじゃないか。
すまん。ただの比喩だ。朝から欲求不満だったのかもしれない。

「みなさん、お騒がせしてすみませんでした」

瞳さんが頭を下げるのだが、反応はない。
みんなは仕事に夢中なふりをし、坂上瞳を視界に入れないようにしている。
まるで「いないもの」だ。

仕事はいつも通りこなし、お昼休みになった。
俺は食道に長居したくないので
10分で食事を済ませて仕事部屋に戻る。

この部屋には数名の男性が昼寝をしたり
スマホを一生懸命いじってるのみ。
さすがにお昼休みは問題を起こす人がいないので快適そのものだ。

「なあ、おまえってさ」

良く肥えた若い男が声をかけて来た。
こいつは洗濯ネームってのを生産してるオペの一人だ。
腕前にはかなりの自信があるらしい。ブサイクのくせに。

普段の昼休みは自分の机(作業台)の椅子に腰かけて
スマホいじってる男だ。

「坂上とは会社公認の仲なんだよな?」

年は30過ぎで肌が浅黒い。
いかにも興味津々と言った感じで目を輝かせている。
そんなに人の恋愛事情が気になるのか。
主婦みてえな思考回路をした野郎だ。

「一応付き合ってるってことにはなってるな」
「へえすげえな。いずれは結婚も考えてあげないとな」
「え? 結婚?」
「坂上嬢もあの年だから結婚相手を探してたんだと思うんだが」

確かに瞳さんからすれば結婚する最後のチャンスかもしれないな。
あの人は結婚には全然興味なさそうだが
女性だからいざ将来に子供が欲しくなった時に困るよなぁ。

「まさか、おまえ」

初めて話すのに「おまえ」ですかい。

「坂上嬢と遊びで付き合ってるんじゃねえだろうな?」

なんて答えたらいいんだ。
俺は今朝妹に愛の告白をしたばかりだ。
瞳のことは好きなことに変わりないんだが、
望んでもないに少女漫画の三角関係並みに複雑な関係になってしまっている。

「もし遊びだとしたらおまえ、ただじゃすまさねえぞ」
「はい?」

男は坂上瞳のファンだったらしい。夜のおかずにするほど彼女の
事が好きなようだ。見た目通り汚ねえ野郎だ。訊いてみると瞳さんに
密かに憧れてるジジイ共は他にもいるようだ。

へへ。瞳さんを美人と思ってるのは俺だけじゃなかったんだ。
少しくすぐったい気持ちになるぜ。

「本当はシブヤの鼻の穴にペンチを突っ込んでやりたいが、
 我慢してやる。坂上嬢は社長令嬢だからな。
 彼女の彼氏ってなら誰も手出しできねえ。たとえ上司でもな」

美雪「お兄ちゃんが変態になった?」

タイトル通りのことで今悩んでいるんです。
今朝の「あれ」はいったい何だったののか。

『まもなく多摩都市モノレールがまいります。
 黄色い線の内側までお下がりください』

私は高架線上のホームでスマホをいじっていました。
ここは見晴らしがよくて、多摩川が遠目に見えます。
5月の晴天で風が吹き抜けて、すごく気持ちいですよ。
紫外線の強さは死ねって思いますけど。

モノレールがホームに太盛。じゃなくて迫る。
太盛って「せまる」って読むんですよね。
この作品の後半で登場する男性の名前です。
彼を始めて見る女性のほとんどが
うっとりしてしまうほどの美男子なんですよ。
私の兄ほどじゃないけどね。

ホームにいるおじさんが突然発狂する。
彼は転倒防止用の柵?(名前がわかりません)を超えた。
そして降下線の下にある、道路上に落ちていった。

高架線の下は交通量の多い道路となっているのです。
おじさんは走行中のトラックの下敷きになり、肉片になりました。
歩行者のみなさんが、国会でヤジを飛ばす野党のようにワーワー騒いでいます。
すぐにピーポーパーポーするのでしょう。

はぁ……いつものことです。
今の日本では自殺なんて日常茶飯事。
年間自殺者数は16万人を超えますから、平成時代と比べて約5倍以上。

マスコミが報道してないだけでもっといるでしょう。
こんなに人が死に過ぎて大丈夫なんでしょうかこの国?

退屈でつまらない午前中の講義を終えました。
私は女の子達とつるんで頭の悪い話をするのを好まないので
一人でお昼を食べることが多いです。さすがに誘われた時は行きますけどね。

たまに見知らぬ男子が声をかけてくるけど、兄曰く
あの手の男はナンパ目的のようです。もちろん相手にしません。

私は学校を休むことがなく単位を落とすことはありません。
食生活を中心に健康に気を使ってるので
めったに風邪もひかないし、学校をさぼって遊び歩くこともしません。
品行方正な学生とは私のことを言うのでしょう。

大学三年になって授業のコマ数が極端に減りました。
友達(と彼女たちは思っている)とは
わざと別の講義を受講して独りでいる時間を増やしています。

私の大学は、名前までは言えませんが、東京の端っこにあって
山と緑に囲まれた美しいキャンパスです。
人がめったに来ないベンチがあって、私だけの穴場スポットです。
私はそこで弁当を広げることにしました。

「今日の相場は……」

ご飯を食べる前に、セキュリティが万全の私のスマホで
SBI証券のホームページをチェック。

外貨建て金融資産の額が……

現物取引 米国株式 16銘柄

時価評価額 USD(USドル) 120000
日本円換算 13,138,800.0000

為替換算(レート) 1 JPY = 0.0091 USD 

私は高配当投資と言って、米国株の中で長期安定して
保有できる銘柄を中心に16銘柄ほど所有しています。

主にNYSE(ニューヨーク証券取引所)に上場している企業です。
ADRと言って、ニューヨークに上場している、
オランダやイギリスの企業も含めています。

端的に言って世界規模で売り上げ規模を誇る、超優良企業にしか
投資してしません。私は実は企業経営にはそんなに詳しくありませんし、
株はギャンブルとばかり思っていたので最初は抵抗がありました。

外国株取引の詳しいやり方はお父さんに聞きました。

お父さんに「好きな人ができた時のために、結婚資金を貯めたいの」

と言ったら喜んでお金をくれました。USドルで。

私のネット証券口座(SBI)を開設した後、
20000ドルを入金してくれました。
実はこれ、かなりの大金です。

『ドルでもらっても困るよ。日本の株に投資したかったのに』

当時の私は憤慨しました。当然ですよね。

『日本の株だって? 美雪は何も知らないからそんなことが言えるんだよ。
 日本の市場は完全にオワコン。少子高齢化で国内需要は減り続けて
 今後の成長は見込めない。外需頼みの日本企業なんて世界経済の影響を受けて
 すぐに株価が下がる。そしていつまでたっても株価が回復しないの
 クソパターンが永遠に繰り返されるよね?』

お父さんの得意げな話は全部は理解できませんでした。
しかも無駄に長い。

著名な投資家のジム・ロジャース氏も
2019年度(現実世界)の日本のマーケットには何も期待してない。
一切の資金を投入するつもりはないと宣言しています。

※ジム・ロジャース氏は世界でも比類なき賢者です。

世界の株式市場の『50%』は『米国株』で締められているようです。
株は企業の人気であり信用です。企業が国の経済を牽引します。
米国企業の強さは、米国の世界一の経済力を有することを
端的に物語っていると言えるでしょう。

製薬会社     ファイザー
飲料系      コカ・コーラ
日用品      ジョンソン・エンド・ジョンソン。P&G。
石油・ガス    エクソン・モービル
総合小売店の帝王 ウォールマート

高配当銘柄の定番です。同時に経営状態も安定しています。
世界の株式時価総額の上位に来る会社ですね。

ネット証券で貸借対照表を調べてみると、
売上高(収益)とか純利益が文字通り「ケタ違い」

地球規模で売り上げてる企業はやっぱりすごい。
しかも配当金を50年以上増配し続けてる企業もざらにある。
米国には世界中からマネーが集まる。
グローバル経済の最前線。
やっぱり日本とは比べ物にならない。

ADRで(前述。NY証券所に上場している外国の企業)
パパのお気に入りはロイヤル・ダッチシェル。
世界の石油王手、セブン・シスターズの一角です。
英蘭の会社です。蘭はオランダのことですね。

ちなみに私は株を売ることはありません。
定期的に買い増ししてるだけです。

なぜなら、お父さんからこう言われているからです。

『長期の高配当株への投資は攻めでなく守りの投資。
 ただ株を持っていればいいんだよ。売る必要はないからね。
 毎月末の金曜日に株の買い増しをしなさい』

私の株は、配当金が高い銘柄のみで構成されています。
米国の株は、四半期(月4回)ごとに配当金が支払われます。
株主の特権です。

説明が遅れましたが、私の口座の時価は だいたい『1300万』です。
だいたいというのは、為替相場の変動で増えたり減ったりするからです。
今日は 1ドル109円なので昨日より減りました。

為替の影響で資産額が増減するのって地味にストレスなんですよね。
円からドルへ両替する時のタイミングとか困るじゃないですか。
例えば円安の時にハワイ旅行とか絶対に行きたくありませんよね。

株安と円高。このコンボが発動されると、
私の口座の時価評価額は劇的に下がってしまいます。
米国企業は日本と違って、たとえ大幅減益でも決算書を正直に書くこと、
民間からの訴訟が多いことなどで株価の下落幅も大きい。

(日本企業は外面をよくするために粉飾決算をするのが基本と
 言っても良いです。日本企業の決算書は信用できません)

こうなると、

――嘘……私の評価額、下がりすぎ!?

となります。

ここで下手に株を売ってしまうのが素人だと、
父は厳しい顔で言っていました。
企業が倒産するほどの事態にならない限りは、
何があっても静観し、不動の姿勢を維持しろ。
ここで損切りして売るのが素人。それは長期投資ではない。

利回り……私の場合は平均利回り4パーを維持しています。
これはかなり優秀な数字だと父は言っていました。
父の言われた通りの銘柄を買っただけなのですが。

私が世界経済の影響や、時価総額の変動にハラハラドキドキ
しながら毎日を過ごしていると、父がなぜか気を良くして
さらに投資額を増やしてくれました。

私は父が追加してくれたドルで毎月買い増しをしました。
ドルだと日本円と違って安く感じるから金銭感覚狂うんですよね。
最初は震えながら証券口座のページをクリックしていましたが、
人間の慣れって恐ろしい。今では買い増しするのを苦に思いません。

そして気が付いたら投資元本が1000万を超えていました。
父は自分の老後のためにとっておいたお金まで私に託してくれたのです。

『その年で投資に目覚めた美雪は偉い。
 おまえが50歳くらいになるまで運用していなさい。
 親が死んだ後の相続税対策にもなるからお得だよ』

お父さん……。
私を大切に思ってくれるのはうれしいけど。老後は大丈夫なの?

利回り4%。
投資元本が1300万。

配当金は年間で52万円(日本円換算)入ってくるのです。
ごめんなさい。嘘です。実は配当金は課税されるんですよ。

米国株は、国内外で課税されます。
国内では所得税と住民税で計20パー。
外国では現地税で10パー。
つまり私の配当金は、たぶん16.2万円くらい税金で吹き飛びます。
ちくしょー。残った分でも37万くらいは入るから、十分儲かりますけどね。

私は学生ですが、ちゃっかり収入があったわけです。
お兄ちゃんとの生活費はこうして稼いでいたのですね。

……というのはまたしても嘘です。
私のこと嘘つきな子だと思いますか?
何が嘘かと言うと、私はこのお金を一度もおろしたことがないのです。

なぜなら父にこう言われたからです。

『配当金をさらに新しい株を買うのに使いなさい。
 そうすると複利でさらに配当金が増えていく。
 美雪が40になる頃には資産がすごい額に増えているかもね』

その父は、現在行方不明です。

なぜか連絡が取れません。私に生活費の仕送りをしてくれた母も。
実はうちの両親は二人して国外逃亡を企てたの。
その後どうなったかは不明。

今の日本は朝の通勤途中で何者かに
誘拐されることも日常茶飯事なので仕方ないでしょうね。

お父さんは、今生の別れとして自分の資産を私に託してくれたのだ。USドルで。
実は日本円の現金ももらってたりします。現金をくれたのは母です。
独身時代は10年も年銀で勤めていた母。

私にくれたお金は700万円。
日本円だから両替する必要がなく、使い勝手が良いです
私はこの貴重な貯金を切り崩して賢人お兄ちゃんと
アパート暮らしをしていました。

ぶっちゃけお兄ちゃんの給料だと家賃代にしならなくて
食費、税金、公共料金が払えません。
貯金を切り崩す生活をしていると胃が悲鳴を上げます。
なにせ今以上の収入を望むことは不可能なのですから。

時給210円。消費税率34パー。物価の変動なし。
あまりにも過酷だと思いませんか!!

だって実質的には物価が変動しないってことは、
賃金だけ下がったんだから、結果的に物価が上がりまくってるってことでしょ!?
消費税率34%で物価が下がらないって資本主義国家の
市場の原理が全く機能してないってことになりませんか!?

うちの国は社会主義みたいに政府が市場に介入しているとしか思えません。
モンゴル辺りで家畜と共に生活をした方がまだ文明的かもね。

きっと……。私の両親はすでに死んでいるのでしょう。
あの青い空のかなたから。私たち兄妹のことを見守っているのです。

私には兄との生活が全てなのです。他の男の人は信用できない。
たとえば私が株の話をしたらどんな反応をするんだろう。
女子大生なのに米国株の運用なんてしてたら変人扱いされるんじゃないかな。
私の体とお金目当てで近づいてくる男もいるかもしれない。

『お金を手に入れることよりも、守ることの方が大事なんだよ』

生前?のお父さんの言葉を思い出す。そうだ。
私はなんとしても両親の遺産を守り抜かなきゃ。
お兄ちゃんと一緒に。

「えー、まじでー?」「ぎゃははは」「まじありえねー」

いかにも頭の悪そうなチャラ男とギャルが近くを通り過ぎていきます。
いつの間にか午後の講義の時間が近づいているようです。

うちの大学はそんなに偏差値が高くないのでギャルっぽい人も
普通にいます。見せびらかすようにブランド物のバッグや靴を履いてて馬鹿みたい。
私も実はブランド物は好きだけど、学校にまでは持ってこないわ。

あいつらは、だいたいお金持ちなの。
お金持ちの私立高からエスカレーターで登って来た、典型的な低脳ね。

独り暮らしをしていても、親からもらったお小遣いや仕送りは、
最初の1週間で全部使いきる。
私には信じられない感覚。親からもらった大切なお金なのに
建設的に使おうって気にはならないのかしら。

そんな時にラインが鳴った。

『俺の愛する美雪よ』

可愛いスタンプが送られた。お兄ちゃん……。
まだ朝のテンションを引きづってるの?

『別に要はないんだが、昼休みが終わる前に
 お前に一つだけ言いたいことがある。
 愛してる。ただそれだけだ』

一日にどんだけ愛してるって言えば気が済むの。
もしかしてさみしいのかな?

今日も夜遅くまで残業なんだろうし、頑張ってもらわないと。
私も明るいノリで返してあげた。

『私も愛してるよ☆(^○^)』

余計なことをしたと、あとで後悔した。

私の返事が原因だったのかは定かではない。
三時限目の講義は昼休み後に始まる。

眼鏡をかけた初老の教示が、教団の前に腰かけ、マイク片手に
教科書の内容を音読する。講義室は200人が収容できるので
マイクがないと後ろまで聞こえないんです。教授がぼそぼそ話すから余計に。

たまに難解な内容を板書しては学生を困らせてる。
この授業は財政投融資なの。ぶっちゃけ難しすぎ。

生前のお父さんが得意げに買ったていたマーケット情報とおんなじ。
経済ってすごく幅広い知識と、その時々の状況を細かく分析する能力が
必要とされていて、真剣に考えてると知恵熱が出ちゃうよ。

そもそも経済学部に女子ってほとんどいない。英語の必須授業なんて
女子は私一人だよ。チャラい奴らにしつこくナンパされたけど
食事のお誘いは断った。テニスサークルにも勧められたけど、もちろん行かない。

ところでこの講義室に私以外で株式投資をしている学生っているのかな?
もし株に詳しい人がいたら、お友達になりたいと思ってるんだけどな。

「おまえには俺ガイルだろ?」

え?

私は前の方の、端っこの目立たない席に座っていたのですが、
男性の人が私の肩にそっと触れてから教授の方へ歩いて行きます。

いきなりのことだったので、学生たちの視線が彼へ集中します。

「教授。そこの席は君にふさわしくない」

と言って男の人は、教授を蹴飛ばしてマイクを奪ってしまいました。
派手ながらのシャツを着た人ですが、困ったことに私の知っている人でした。

「あー、学生諸君たち。授業の邪魔しちゃってすまないが、ちょっと聞いてくれ。
 俺の名前は渋谷賢人。ここの大学の学生である渋谷美雪の実の兄だ」

お兄ちゃん……。会社はどうしたの? 
しかも夏祭りでもないのにアロハシャツ……。目立ちすぎでしょ。

「みんなー。あそこの席に注目してくれ。端っこの席に座っている、
 長い茶髪を後ろでまとめた女子だ。ほら。俺に手を振ってくれている」

なんで私は手を振ってしまったんだろう。恥ずかしくて死にたくなる。

「あの子が俺の妹だ。そこまではいいな?
 よし。じゃあ本題に入る」

お兄ちゃんは教壇に手をつき、偉そうな格好になりました。

「学生諸君らの見てる前で、あえて俺は宣言しようと思う。
 俺は妹の美雪を愛してる。もちろん一人の女性としてな。
 美雪さえよければ、卒業後に結婚しようと思っている」

はっ……? 結婚?

「そのくらい妹のことを愛してるんだ。こらこら。君達、笑わないでくれ。
 俺の愛の偉大さを思い知ってくれないか。これだけの人数に注目されながら
 愛の告白ができる男なんて日本にはいないだろう。俺以外はな」

何言って…。

「俺は今朝、美雪を後ろから抱きしめて愛の告白をしたばかりだ!!」

えー、きもーーい
兄と妹なんでしょ……近親相関ってことk?
告白したのかよ…ガチでやばくねwww
つーか授業しなくていいのかよwww

学生たちがドン引きしてます。
私だって仮に他人事だったら引いてますよ。

「だが、美雪はいまいち信じきれなかったと思うんだ。俺の本当の気持ちを。
 俺は嘘じゃない。たとえば、皇室を騒がせている例のスキャンダルのように
 同じ大学だからと言って適当に愛の告白をして婚約騒動なんて
 するつもりはない。俺の愛は嘘偽りない。まさにトルゥー・ラブ・ストーリィ」

実際に騒動になりつつあるんですが。
お兄ちゃんの真の目的が分からない。

「き、きみぃ。マイクを返しなさい」

教授が腰を打ったみたいで痛そうにしてします。

鬼弐威ちゃんは「うるせー。しったことか」と言ってまた
教授を足蹴にしました。教授はすぐ起き上がってお兄ちゃんに襲い掛かり、
二人は教壇の前で相撲のように押したり押されたりを繰り返しています。

お兄ちゃんは起用にも相撲をしながらマイクを持って演説を続けました。

「今宵は月が綺麗だとか。遠回しな日本人的な表現を俺は嫌う。
 だから直球。ドストレートで勝負しているつもりだ。
 俺の美雪に対する愛は、ここにいる学生諸子らにも届いたことだろう。
 俺の言いたいことは全部言った。あとは美雪の返事を聞く番だ」

私は耐え切れなくなって講義室から逃げました。
こんな目に合うくらいなら自主休校にするしかありません。
一週間もすれば悪いうわさが大学中に広まることでしょう。

高校に比べたら必修授業以外で固定クラスがないし、
人数が多いからまだましなんですけどね。

来週からこの講義を受けるわけにもいきません。
というか大学に通うことすら困難なレベルです。

「みゆきー」

お兄ちゃんがジャッカルのような速さで追いかけてきます。
私は校内のバス停まで走りました。モノレール駅行きのバスです。
モノレールに乗れば私たちの住んでいるアパートまで着く……?

あれ? 私達って埼玉県に住んでるはずじゃ……
なんだかどこに住んでる設定なのか
よくわからなくなってきたので適当でいいですよね。

私は発車寸前のバスに乗り込みました。

『ご乗車ありがとうございます。
 このバスは、高幡不動行きでございます』←社内アナウンスのだみ声。

関係ないけど、この声が面白いって中国人留学生の女性が
車内で爆笑していた。そんなに面白い?

「みゆきー。おい、待てよおお!!」

お兄ちゃんは走って追いかけてきます。
でも無駄だよ。
だってこっちはバスだよ?

私は気持ちの整理がつかないので兄の方は見ないようにしました。
山道なのでアップダウンが激しいです。
バスは街中を超えてモノレール駅の前まで着きました。

「お、おい。あの人、すげー汗だくじゃねえか」
「すげえ体力だなぁ。運動部だったんじゃねえの?」
「学生にしては老けてんなぁ。浪人生の類か?」

乗客の男子学生たちの声です。まさか……

「はぁはぁ……みゆ……き。はぁはぁ……俺を無視して……おまえは
 勝手に逃げようとするなて……本当に勝手な真似を……はぁはぁ」

街を行くすべての人が私たちに注目しています。
駅ビル前の警備員の人までこっちを見てる。

死ぬほど恥ずかしい。
いい加減にして。
私を困らせてそんなに楽しいの。

私は力を込めて兄の肩を突き飛ばしました。

「うわー」

お兄ちゃんを殴ったのって、よく考えたら初めてだ。
兄はよほどダメージが大きかったのか、往来の真ん中で大往生しています。

兄のジーンズのポケットから何かが落ちました。
くしゃくしゃの紙切れです。

『妹の美雪に熱烈なアピールを続けろ。
 彼女がドン引きしてもまだ続けろ』

誰からの指令?
まさかお兄ちゃんは何者かに操られて私に愛の告白を繰り返していた?

そんな時でした。
宙から一枚のビラがひらひらと振ってきました。
そのビラは、私に対する指令が書いてありました。

『ケントを失望させろ』

失望? よくわかりませんが、とにかく兄が
ドン引きさせるようなことをすればいいみたいです。

私は自分の意志とは関係なく勝手に口が動き始めました。

「お兄ちゃん。今まで黙っていてごめんね」

「ん?」
 
「実は私は女の人が好きだったのよ」

「は!? なんだって?」

「いわゆるレズなの」

「え……」

私はレズっぽい顔でそう言ったので、
お兄ちゃんは激しく混乱しています。
私に愛の告白をする余裕がなくなっているのでしょう。
そもそもレズっぽい顔って何ですか?

私は今のうちに逃げようと思ったんですけど、そうはいきませんでした。
警察の男の人が怖い顔をしてこっちに近づいてきました。

「こら君。さっきからそこの女の人を追いかけていたそうじゃないか」

どうやら、同じ大学の人がすでに通報していたようですね。
お兄ちゃんは、警察官二人に押さえつけられ、身動きができません。

「みゆき、助けてくれ!! 俺の無実を証明してくれ!!」

うん。助けてあげたいんだけど。色々めんどくさくなった。
お兄ちゃんのせいで明日から大学に変えなくなったようのものだもの。

「大人しくしなさい貴様!! 
 最近は変質者が多いとは思っていたが……なんだその恰好は?!」

お兄ちゃんは手錠をされてしまいました。
無理もないでしょうね。

説明が遅れましたが、というより言いにくいんですけど、
お兄ちゃんは……なぜかパンツだけの姿でした。
走ってる最中で暑くなったので服は脱ぎ捨ててしまったのでしょう。

「これには重大な訳があるんだ!!」
「何が訳だ、貴様!! 抵抗するなら拷問するぞ!!」
「ひぃ……」

お兄ちゃんは囚われた宇宙人のポーズで連行されてしまいました。
あとで私が八王子警察署に出向いて無実を訴えてあげようと思いますけど、
しばらく警察署でおとなしくしてもらいたい気持ちもあるんです。複雑ですね。

八王子警察署? てことは私は埼玉県から八王子まで通っていたのですか。
正直自分がどこに住んでいるのか、よく分からなくなってきましたけど、
細かいことは気にしたら負けですよね。

美雪の父「美雪は可愛いなぁ」

※みゆきちゃん

細かいことは気にしたら負けだって前回書きました。
でもこの小説を読み返してみると誤字が多すぎると思いませんか?
もうちょっと気にしたほうが良いと思います。

余談はこの辺にして本編を始めます。

私は立川駅の駅ビルでウインドウ・ショッピングをすることにした。
ちょっとした気分転換です。私はヒトミさんと同じく物欲があまりないので
よっぽど気に入ったものがない限りお財布のひもが緩みません。
私は現金で払うのが好きなのでキャッシュレスもクレジットも使いません。

大学生になってから服はユニクロやしまむらで揃えることが多くなりました。
流行を追い駆けるのにも飽きてしまいつつあります。
こんなんじゃ女子力が下がる一方だとは分かっているんですけどね。

「美雪かい?」
「お父さん!?」

お父さんは、なぜか女性の下着売り場をうろついていました。
マネキン人形をじっと見てると変態に思われるかもしれないから止めなよ……。

「生きてたのね!!」

「別に僕は死んだわけじゃないからね」

「よかったぁ。心配してたんだからね。
 日本にいたんだったら、どうして連絡してくれなかったのよ!!」

お父さんは、話が長くなるからと喫茶店へ案内してくれました。
女性客が好みそうなお店じゃなくて、渋いおじさまが好きそうな
ウッドを中心としたアメリカンなデザインのお店です。

優雅なジャズのナンバーが流れています。
このまったりとしたアルトサックスの音色が、まさに大人の雰囲気。
夜の雰囲気。

「美雪。パパはお金がないからね。すまないがお金は出してくれるかい?」

私が出すの!!? まあ、いいや。
普段からお兄ちゃんと買い物する時も全部私が出してるから。

お父さんはエスプレッソのカップをゆっくり口へ運ぶ。
父はスラックスにポロシャツ姿。
家にいる時も外出時もほとんど服装は変わらない。

見た目は優しそうな人って感じ。実際優しいの。
中年太りでお腹が結構出てる。
髪型はホリエモンを意識して、ちょっとだけかっこつけてる。

「ママはね、まだ警察に使ったままなんだ」

私は信じられないことを聞いた。
パパたちは自民党一党独裁が続く日本を完全に見限った。

夫婦そろってニュージーランドへ逃亡しようとしたところ、
成田空港へ向かう電車の中で秘密警察に逮捕され、
爪をはがされるなどの拷問をされた。

「爪が綺麗になっちゃったよ。ほら」

私は、気絶しそうなほどのショックを受けました。
ピンク色の肌が丸見えになっている、両の手の爪。

私では想像もできないほど恐ろしい思いをしたのに
簡単に話すことができる父は偉大だ。

背中にむち打ちの刑も食らい、ミミズばれがひどいらしい。
さすがに私は傷跡を見る気にはならなかった。
夜は傷口がうずいて気が狂うほどの激痛となり
布団で仰向けに寝ることも出来ず、
一週間もその状態が続いたと言う。

「パパはね、昔のことはあまり気にしないタイプなんだ」

気にしなさ過ぎて吹くよ。
私は頼んだ紅茶を飲む気にすらならないんですけど。

「パパだけ命がけで脱出に成功したんだ。
 ママも近いうちに出て来るとは思うんだ。手は打ってある。
 で、パパとママは明後日に合流して再び海外を目指すことにした」

「まだ海外に逃げるつもりなの?
 そんなことしてもすぐ捕まるでしょ」

「今回は確実だよ。外国のスパイと連絡を密に取っているからね。
 パパの仕事のコネで外国人の知り合いがたくさんいるんだ」

ちょっとだけパパの顔が怖くなりました。
やっぱり父も大人だから私の知らない顔をいくつも持っているのかしら。

「パパはね、もうお金がどうとか、そういうのを考えるのが疲れちゃったんだ」

「お金のことは一生付きまとうことだから真剣に考えなさいって
 言ってたのはパパなのに」

「そうだったかな。今は状況が変わったんだよ。
 パパはもうお金なんて見たくもない。お金なんて必要ない、
 原始の世界に帰りたいと思っている。だから」

--------モンゴルに行こうと思うんだ。

父の決意は固そうだった。

私の疑問は一つ。なぜ、モンゴルなの?

「モンゴルへの逃避の影響だね」
「長い作品だったね。全部読んだの?」
「うん。獄中生活してる時に暇だったからね」

パパは大草原での原始的な生活に憧れているそうなの。
元銀行員で肉体労働なんてしたこともないのに、
体力は大丈夫なんだろうか。家畜の世話とか気候の問題とか、
遊牧民生活は言うほど簡単な仕事じゃないと思うけど。

「あれは作者さんの第二作として投稿されたものだったね。
 私は堀太盛君の考えに大いに共感したよ。
 父にとって娘はね、いくつになっても可愛いものだ」

「太盛さんの場合は、ただのロリコンじゃ……ううん。なんでもない」

私はあの作品に出てくる父親は気持ち悪いと思う。
娘もファザコン過ぎて変。

実の父じゃないとか、しばらく離れて暮らしていたわけでもなく、
お屋敷時代からずっと父にべったりしてて、実の母を
ライバル視して本気で父を奪おうとするなてやりすぎだよ。

私のパパも優しいから好きだけど、
それは父親としての好きであって恋愛感情なんて抱いたことないよ。

マリンちゃんみたいな女の子が現実にいたら近親相関一直線だよ。
絶対将来お父さんの子供を妊娠するパターンだよ。

「可愛い娘の美雪にね、私の資産をすべて譲渡しようと思っているんだよ」

父は本気だった。私にお金をくれる……?

「そもそもお父さんってお金いくら持ってるの」
「わかんない」
「え?」
「だから、わかんない。でもあげるよ」

昔から父は代わってない。

ちょっとだけ回想シーンを始めるね。
あの時は、私は大学の推薦が決まって暇だった頃。高校三年の真冬だね。
1月過ぎには合格をもらっていたから、
気になって家の財産のことをお父さんに訊いてみたの。

その時に父はこう言った。

「わかんない」

私は父の言っている意味がわからなかった。
お父さんは銀行では部下がいる立場なんだよね?
なのに家の財産を把握できてないの?

「お金のことはママに任せてあるからね」

でも現金預金の残高を調べればわかることでしょ。

「パパは現金をあんまり持たない主義なんだよ」

「だいたいで良いから教えてよ。もし生活が苦しんだったら
 大学生になって土日だけでもアルバイトするつもりだから」

「学生アルバイトとか、あんまり感心しないよね。
  美雪は経済学の勉強に専念してほしいなぁ」

のほほんと言い放つ。パパはよく紅茶かコーヒーを飲んでいた。
この日はアールグレイ。「ちょっと冷めちゃった」と言って
ティーポットへ新しいお湯を注ぐ。本当に良く飲むね。

パパはお金を掛けるのがもったいないからと、
安物のティーパックで満足してる。

「今、パパの通帳を見て来るから待っててね」

パパはすぐ戻って来た。

「あんまり入ってなかったよ。190万だった」

「たったの190万しかないの!?
 私の学費払えるの? 私立大だから半年で50万もかかるんだけど」

「大丈夫、大丈夫」

そう言って紅茶を美味しそうに飲んでいる。

「パパはね、現金以外の資産を持ってるんだよ」
「資産って何?」
「会計上では、お金に換算可能なすべてのものを差すよね。
 パパの場合は有価証券。株だね」

パパは、寝室でお昼寝をしていたお母さんに色々と聞きに行っていた。
すぐこのリビングに戻って来た。

「美雪と賢人が生まれる前からね、パパとママが持っていた株式があるんだよ。
 投資信託と言ってね。ファンド・マネージャー(プロ)に手数料を払て
 代わりに株を運用してもらうんだ。正直自分でやった方が早いんだけど、
 家に帰ってまでお金のことなんて考えたくないからね」

投資信託は、米国のS&P500 ETFにかなりの額を投資していたみたい。
毎月のお給料から一定の額を積み立てる形を取っていたんだけど、
なんと積み立てた年月が『27年』にも及ぶらしい。

「僕らが住んでいるのは古い民家だけど、ヒノキの柱を使ってるから
 すごい長持ちするんだ。おじいちゃんとおばあちゃんが
 一括で買ってくれた家だから大事に使わないとね」

パパ曰く、住居費のかからない家は、
ファイナンシャル・プランナーの視点からして最強の家計らしい。
収支のバランスが良好で毎月お金が余る。
余った分は、ほとんど投資に回していたとのこと。

「どのくらい積み立てていたの?」
「んー。月に10万くらいかなぁ」
「そんなに!?」

子供二人育てながら、よくそんなに大金を!!

「あと、ボーナスとか臨時収入的なものは全額株に投資してたけどね」

私達兄妹は私立高校を出てる。
お兄ちゃんの大学卒業まで相当な学費がかかったと思うのに!!

「まとまったお金が必要な時は、株を売却して現金化するんだよ。
 進学にかかる費用は、時期が決まっているから
 まとめて現金化するのはそんなに難しくないんだよ」

「ママも銀行でずっと働いてたから収入はそこそこあるもんね」

「あー。そうだよね。アケミの給料もずいぶん投資にお金を回してもらったよ。
 いくら投資してたのかは僕も把握してないけどね。
 さっき聞いたら明美は現金を40万しか持ってなかったよ」

「うっそぉ!! たったの40万!? 
 一家の主婦がそんなしょぼいお金で
 どうやって家を回していたのよ!!」

「最近は普通預金の金利がだいぶ安くなっているからね。
 現金はそんなに持ってなくても大丈夫なんじゃない?」

「うち、もしかして貧乏だったりする?」

「そうかもしれないね。他の家の基準が分からないけど」

「株の方はいくら持ってるの?
 なんだっけ? その…スタンダート、アンド、プアーズってのは」

「わかんない」

「は?」

「だから、よくわかんないんだよ。
 いくら持ってるかなんて、あんまり気にしたことないし。
 最後に見たのは美雪が高校に入学する時かな。
 あの時はまとまったお金が必要だったから、
 一部を売却して円安の時に円に両替したんだよ」

「その時はいくらあったの?」

「そうだねー。証券口座に残っていたのが4500万くらいだったかもね」

「4500万!? かなりの大金じゃない!!」

「まあ、そこそこあるほうじゃないかな。
 でも時価と為替で大きく変動するから、あんまり過信はできないよ」

「それでも十分すごいよ!! ねえ、今はいくらになってるの?」

「そんなに気になるのかい? 美雪も大学生になるから
 資産運用の勉強も兼ねてってことで良いかもね」

パパはリビングにIPADを持って来てくれました。

「久しぶりに開くから、ログイン・パスワードを忘れちゃった」

困った顔で古いノートを持って来て、SBI証券の口座を開きました。
私には専門的すぎて今開いてるページの内容なんてさっぱり分かりません。

口座管理? 外貨建て? 投資信託? ドル円換算? 評価損益? 分配金?

「おっ、けっこう増えてるね」

パパはめずらしくうれしそうな顔をしています。

「美雪は見方がわかるかい? ここのJPYをクリックすると、
 日本円(エン)での時価が表示される」

ええっと、桁が多くて数えるのが大変なんだけど、
私の目に狂いがなければ、9000万を超えてる!?

9000万!? たった3年でこんなに増えるの!?

「パパはただ株を持っていただけだよ。
 これといって何もしてないんだ。この画面を見るのも3年ぶりだよ」

じゃあ、どんな魔法を使ったらこんなに増えてるのよ!!

「現物株式にUSドルも含めて、総額が9100万円を超えてるようだね。
 今年の5月に国債の償還期限が来たようだ」

しょうかん、きげん、ってなに?

「10年物の米国債をずっと持っていたんだよ。
 うっかりしていたよ。あの分は資産として計算してなかったね
 いくらだったかな。当時は米国の長期金利が高い水準だったから、
 思い切って2000万円くらい買ってたかな」

2000万円!?
つまり株以外の資産がそんなにあったのね!!

「美雪が小学6年生の時だったと思うんだ
 おじいちゃん、つまり僕の父の遺産(現金)が相続された時があっただろう?
 僕はいらなかったから全部妻にあげたんだ。そしたらアケミ(妻)もいらないんだって。
 だって買いたい物とか何もないし。僕ら夫婦は休みの日は家でごろごろしてるからね。
 今後も使い道がなさそうなお金だったから米国債を買うのに使わせてもらったよ」

10年国債利回りの利回りは高く、3%もあったらしい。
10年間、半年ごとに複利で勝手に増えていく(利子所得は20%課税)
その後、国債の償還(返還のこと)期限が来て
USドル(現金)に戻ったころには、日本円で450万くらい増えていたそうなの。

複利ってすごい!!

「他にも短期の3年国債とか、信用性の高い国債に社債を交えた信託商品とか、
 安心して持ってられそうな商品も買ってたみたいだ。
 すっかり忘れていたよ。あれも資産の総額に含まれてるみたいだよ。
 あと賢人が卒業して学費が不要になったのも大きいね。
 積み立てる金額が加速度的に増えちゃったんじゃないかな」

つまり現金化されたドルも、その他の国債も今回の資産に含まれている!!

さらに3年間は適当な金額を投資信託に積み上げていたから、
配当金と共にどんどんお金が増えていく、こっちも複利の効果。

資産運用ってすごい。長期投資は「ただ株や債権を持っているだけ」でお金が増える。

「時間がない人に投資信託は有効だよね」

得意げな顔になって説明が始まる。
パパは金融の話をするのが大好きで、いつもより早口になる。

「株の素人は、短期の売買ですぐに利益に飛びつこうとするけど、
 そんなに資産運用は甘いもんじゃないよ。ゼロサム・ゲームと言って、
 運よく最初は買ったとしても次で負けちゃうんだ」

「そもそも株価や為替とか。市場の原理で勝手に動く
 ものに一喜一憂するのは典型的な素人なんだよ?
 証券会社の営業や銀行の投資相談窓口では、
 そういう連中はすぐカモにされちゃうよ。
 詐欺商品を一括で購入して、手数料ばっかり無駄に取られちゃう人たちだよね」

「例えば日本株で売却益を狙いたかったらこうだね。
 一度買ったら、一晩良く寝て、あとは忘れちゃう。
 数年して日経平均が爆上げみたいなニュースをやってたら、
 改めて見てみる。おっ、こんなに僕の株価が上がってたのか。
 それから売却を考えても遅くはない。せっかちな人は投資に向いてないんだ」

なるほど。何年も辛抱して待つ忍耐力が必要ってことか。

「すぐ儲かる!! みたいなことを投資の本に書いてるかもしれないけど
 宝くじとかロトシックスを買うのが好き人が読むレベルだよ。
 マーケットの基本原理はこれだ。じわじわ上がる。
 そして暴落はまさに一瞬!! 売り時は一瞬で消え去る!!
 リーマンショックが良い例だ。急激な下落!! 
 はあってもすぐ儲かるはあり得ない」

「投資信託は信託報酬がかかるから、割高だと思うかもしれないけど、
 専門家が分析したこのグラフを見てごらん。1年の短期と10年の長期では
 利益率が明らかに違う。投資信託は長期投資に向いているんだよ」

……パパの言う通りだ。明らかに長期投資をした方が利益が出るようになってる。
グラフの下降線(株価の下落)で一喜一憂してる人は、
いかにお馬鹿なタイミングで売却をしてるのか分かる。

持ち続けていれば、必ずもうかるタイミングが見つかるのに。
それに配当金(分配金)は安定して入ってくる。
そのためには、将来的に業績が安定する企業を選定しなければならない。
企業分析は簡単じゃない。
どんなに優良企業だと思っても数年後は誰にも分からない。

「投信もたくさん種類があるけど、これはすごいよ」

S&P500 ETF。これは、大富豪ウォーレン・バフェット氏を初め、
世界中の著名な株式投資家や専門家の間で
『株式投資の最適解の一つ』とされている。

アメリカの主要な株価の指標にスタンダード&プアーズがある。
その指標に連動して変動するのがS&P500 ETFなのである。
(スタンダード&プアーズ・ファイブ・ハンドレッド・イーティエフ)

つまり米国を代表する大手企業500銘柄にまとめて投資するってこと。

戦後から長い統計を取ってみても、最もパフォーマンスがよく、
めんどくさいことを考えるのが苦手な人は
とりあえずこれに投資しておけば問題ないとされています。

米国株式は、世界の株式市場の半数を占めるのに対し、
日本は一割にも満たないレベル。
さらに米国は移民国家で『人口増加傾向』にある。

トランプの法人税の減税効果と一国主義政策による
製造業の国内移転を勧めた結果、完全失業率が2.4パーセントまで減少。
実はこれ、奇跡に近い経済政策の結果なのです。
(2019年2月あたりの雇用統計を参照。小説でなく現実世界の設定)

日本が11パー。ドイツが16パー。いかに米国の失業率が低いか分かります。
マクロ経済の視点では、米国は完全雇用(3.4パー以内)をすでに達成しています。

失業者が減って消費者物価指数が高ければ景気動向は自然と上向きになります。
出生率が高まり、税収も上がり、インフレ率が高まると
中央銀行は気を良くして利上げもします。

日本と米国では長期金利の水準に100倍以上の開きがあるのです。
人口減少が「完全に止まらない」ことがすでに確定し、
成長性が見込めない日本の市場(マーケット)とは全然違います。

ちなみに国際通貨基金(IMF)の予想でも、
先進各国の中で日本のGDP成長率が『最低の水準』となっています。
(現実世界の2019~2020までの予想を元にしています)

『労働人口の減少』『少子高齢化』 これは、資本主義では致命的です。

パパの分析によると、日本の最大の危機はまさにこれらしいです。
資本主義とはお金があらゆるところを循環して国家レベルの成長を促すための
システムなのですが、成長するには『人口の増加が不可欠』なのです。

厚労省の統計でも日本の人口減少に歯止めがかからないことが確定している。
日本が沈みゆく船なのは、資本主義経済を採用している限り避けようがありません。

今さら幼児教育を無償化しても遅すぎるし、増税分の負担が
多くの国民を苦しめます。子育てに一番必要なのは、会社のお給料です。
具体的には「基本給、ボーナスの引き明げ、各種手当の充実」
「雇用の安定」ですが、企業はどれも守ってくれそうにありません。

43歳以上の社員(東証一部上場企業)が容赦なしに
首を切られてる現状では怖くて子育てどころではありません。
若者の晩婚化、結婚離れが促進することは必死です。

私は令和10年に住んでいるはずなのに、気がついたら
現実世界の話をしていますが、軽くスルーしてください。

ただでさえ子供が少ないのに、子供の列に暴走した車が突っ込んだり、
乳幼児の虐待死が毎月報道されてるのが日本クオリティです。
いじめを苦に自殺する小中学生も増えてきました。

日本がかなり終わってることが分かると思います。

政府がどれだけ大本営発表で好景気をアピールしたところで、
厚労省の毎月勤労統計調査は不正でした。

調査対象の500の企業を意図的に入れ替えたり、
そもそも可処分所得でなく総所得で計算をしていたりと、
自民党は悪意に満ちた統計を平然と行い、
野党から批判の嵐をあびました。悲しいことに国会ではこれが日常です。

総所得金額が増えたたところで、特別復興税の導入、
各種保険料の引き上げが実施されたおかげで所得の高い人ほど
手取りの金額が減っているのです。つまり額面でなく
実際に使えるお金が明らかに減っていることが
明らかになっているのです。

なのに増税。オワタ(^○^)

ここ最近で可決された法案を見ても

裁量労働制              ⇒奴隷法案。すでに三菱電機のエリート数名が過労死
外人受け入れ拡大(出入国改正法?)  ⇒ 奴隷法案。一部の外人は原発作業へ

今後50年経っても絶対に国民の生活は楽にならないとパパは断言していました。
金融の専門家のパパが言うことだから説得力があります。

ちなみにデフレはあと『120年くらい』続くかもしれないそうです。

「この国はお金が流れないよね。
 お金は経済の血液だから、それが固まって動脈硬化みたいになって、
 そのままずるずる行っちゃうんじゃないかな」

つまり私たちが死ぬまでなのでしょうか。

さすがに全部とまで言わなくても、資産の一部は米国に対する投資に
向けるのは世界中の投資家が行っていることです。

パパは日経平均の下落傾向がとにかく嫌いなようですから、
投資は米国に限定しているようです。

「ユーロも絶対にダメだからね。
  この前の欧州議会選とかで右翼政党が躍進してるよ。
  英国の欧州中央に対するいい加減な態度も困るよね。
  あれさぁ、いつか共通通貨のユーロが崩壊しちゃうよね?」

パパの眠そうな口調でも、ユーロの恐ろしさはよく伝わりました。
2000年代にギリシャの債務不履行が話題になりまたね。
ああいうアホもユーロ内にいたら問題あり過ぎですよね。
スペインとイタリアも近年は債務が膨らみ続けて地味にやばいらしいです。

EUとは表面上は巨大で平和な経済圏を謳っているけど、
中身は何組もの婚寸前の夫婦がいがみ合うような、ひどい家庭状況。

欧州の政治は複雑怪奇。それは昔も今も変わらない。
人種・宗教・言語・歴史。
いくつもの強国が栄えては衰退することを繰り返した欧州。

物事の表層しかとらえられず、猿真似だけが得意な日本人に
欧州の実態は把握できるものではないそうです。

長くなりましたが、回想のシーンを終えて
パパと私が喫茶店にいる場面を思い出しましょうね。

「そういうわけだから、美雪に全部あげるよ。
 頑張って資産運用してね」

「この額だと譲渡税? 贈与税? がかかるんじゃなかたっけ?」

「めんどくさいから、課税率はゼロにしておこうか。
 小説だから何でもありだよね」

計算するのがめんどうなので課税率がゼロになりました。わーい。
(↑現実ではありえません)

私はたった一日で億に近いお金を手に入れたのでした。
私ったら、令和10年なのに、なんて人生イージーモード☆

「ただし、条件があるんだ」

ん……?

「必ず素敵な男性を見つけて結婚しなさい」

いやいや……

「いやじゃないよ。美雪は大人になってキレイになったんだから、
 それなりの男を見つけられると思うんだけどな」

「今はお兄ちゃんと一緒に住んでいるから
 それで満足してるんだけどなぁ」

「でたよ。まーた、お兄ちゃんか」

パパは、煙草をふかし始めました。
急に機嫌が悪くなったようです。

「かれ、まだ生きてるの?」

「生きてるよ!! お兄ちゃんはたとえ薄給でも死なないんだから。
 私が命に代えても守ってあげるんだもん」

お父さんは舌打ちしました。

「まったく、親が薦めた銀行はすぐに辞めるし、
 お金の使い方も荒くて全然貯金できないし、
 正直渋谷家の一員に相応しくないってずっと思っていた」

「パパはお兄ちゃんにはいつも厳しいよね」

「だって嫌いなんだだもん」

そう。父は私の兄に対し敵意むき出しなのです。
理由は単純。愛娘の私が兄にぞっこんだからです。

パパはお兄ちゃんに対する嫌がらせとして、
サラダにかけるドレッシングに激辛唐辛子を混ぜたり、
兄が持ってるAVを家族がいるリビングで
わざと上映したりと、子供みたいなことをよくやっていました。

「あんな男といたら美雪のためにならないよ」
「私は嫌じゃないんだから別にいいじゃん」
「口答えするなら資産はあげないよ」

それは……卑怯だよ。
私は賢人のこと好きなだけなのに。

この話の流れだと、お兄ちゃんが警察に捕まったことは
言わないほうがよさそうね。

「うそうそ。美雪もいつかあいつに愛想をつかすと思うからさ。
 まあ怪我とか病気しない程度に頑張ってね。それじゃあ逝ってくるよ」

誤変換では、ないんだね……。

モンゴルに行くってことは、命がけ。
パパは25年のロングステイをするつもりらしいから、
次に会う時は私がおばさんになってる頃だね。

あまりにも唐突な別れだけど、小説だから仕方ない。
さようなら。私の大好きだったお父さん。
お兄ちゃんには鉄格子越しに伝えておくからね。

坂上瞳「賢人君がセクハラで逮捕された?」

タイトルに書いた内容が、部署の朝礼で発表されました。

「シブヤは……うむ。きっと魔が差したのだろう」

腕を後ろで組んだ鬼軍曹(主任)が続けます。渋い顔で。

「昨今ストレスによるうつ病が社会的に大変な問題になっている」

私達は一日16時間労働を強いられてるんだから、
ストレスどころか発狂して強盗まで犯すレベルなんですけど。

昨夜もスーパーのタイムセールに行ったら駐車場に
パラシュート部隊(強盗)が降下してきた。
身の危険を感じて帰って来ちゃったよ。

「シブヤがいないのは戦力的には痛いな。
 奴もそれなりに使えるようになってきた頃だっただけに」

主任は大きく息を吸い、

「諸君!!」 と呼びかけた。

「これは私の意見であるが、渋谷はきっと無実なのだと思う!!
 とある情報筋の話によると、渋谷は実の妹さんにセクハラをしたそうだが…。
 真相は不明である!! 正直私も奴がなぜ逮捕されたのか
 気になって夜も眠れぬのだよ。嘘だがな」

いやいや、嘘って自分で言ったよこの人。

「そこで、坂上瞳に使いを頼みたいのだ。
 警察署(拘置所か?)まで行って奴と面会して来い。
 そして事件の真相を解き明かすのだ!!」

今日の生産は……

「そんなことは気にしなくてよろしい!!
 早退届は私が代わりに書いておく。直ちに出発したまえ」

「あのーすみません。ちなみにどこの警察署ですか。久喜ですか?」

※久喜市(埼玉県の地方にある)

「いや、八王子だ」
「なんで八王子まで!!」

理由は分からないけど彼は八王子市で逮捕そうなの。
八王子でセクハラしたの……?
文句を言っても聞き入れてもらえないのは分かってる。
仕方ないので家に帰って私服に着替え、JRの電車に揺られることにした。

「お久しぶりです」

そしたら、なぜかデイリー・ヤマザキの前(久喜駅西口のロータリー)で
☆MI・YU ・KI☆ さんが待っていた。
美雪さんは大学三年生。
一、二年の時より授業数が減って平日は暇だったりするのかしら。

「実はぁ……とある事情があってぇ
 大学にはしばらく通えなくなっちゃんタンですよぉ」

なにその喋り方は。かわいこぶって言わなわいで。
ぶりっこ口調って不愉快なの。

「えぇー!! 私ったら変でしたかぁ?
 普通にしゃべってるつもぉりなんですけどぉ(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「本当に腹パンしたくなるからその辺にして。
 あなた、前はそんな喋り方じゃなかったじゃない」

「何言ってるんですかぁ。もともとこんな感じだったんですよぉ!!」

「語尾を伸ばさないでくれれば何でもいいわ。あと巻き舌っぽい発音も止めて」

「だーかーらぁ。普通に話してるつもりなのにぃ。
 そんなこと言われたら、美雪、困っちゃう!!」

変な物でも食べたのかな?

美雪さんは長い髪の毛をサイドポニーにして、左の肩に垂らしている。
今日の日差しは強いのに彼女は寒がりなのか、
ベージュのトレンチコートを着こなしている。
高そうなヒールを履いているわね。しかもヴィトンのバッグ……

女子大生にしては大人っぽい雰囲気ね。
服もお金を掛けてる方だと思うわ。
前話でしまむらで買い揃えてると言ってたのは嘘なのね。

人通りの少ない平日に会うとこの子の美貌が際立つわ。
美人さんは羨ましいわね。若いし肌も綺麗。

私は白いデニムパンツに春物の明るいカーディガン。
ファッションにあまり興味ないから地味ね。
まっ私の顔なんて見てる人なんていないでしょうからいいんだけど。

話を進めるけど、この娘も八王子まで来てくれるそうなのね。
警察署なんて行ったことなくて正直困っていたから助かる。

「あ、やば……」
「どうしたんですか、お姉さん」

お姉さん…って。今はそれどころじゃないの。

「お財布忘れた……」 
「ええ!?」

「Suicaもない。アパートメントに置いてきちゃった」
「なんでアパートを正式名称で言うんですか」
「正式名称ならレオパレス21よ」
「どっちでもいいです。レオパレスってよく燃えそうですよね」
「あと台風とか来たら天井がもっていかれそうね」

それよりどうしよ……いったん家に帰る? それとも…

「悪いけれど、お金貸してくれない?」
「もちろんいいですよ。大好きなお姉さんのためですから」

大好き……? お姉さん……?

「むしろ差し上げます。はい、二万円。往復代です」
「くれるのはうれしいんだけど、そんなにいらないわ」
「むしろ二万でも足らないくらいですよ」
「八王子は一応都内だから、そんなにかからないと思うよ」
「八王子って私はもっと離れてるイメージでした。例えば日本とドイツぐらい」

日本とドイツ……?
日本からみて地球の反対側にあるドイツをなぜ例にあげたのか。
そもそもおかしい。この子は八王子の大学に普段から通ってるはず。

「冗談ですよぉ!! 真剣な顔で悩まないでくださいよぉ(=゚ω゚)ノ」

真顔で冗談を言わないでくれる。反応に困ってしまうわ。

「お姉さん。そろそろ行かないと電車に乗り遅れてしまいますわ」
「はいはい。今行くわよ」

お姉さんて呼び方は何が狙いなんだろう。

「手を繋い歩きましょうか」
「は?」
「私達は仲良しじゃないですか」

女同士でも……親友だとしたら手を繋ぐのは、なくはない。
でもそれは学生同士とかでしょ。そもそも私とこの子で10歳も離れてる上に、
『そもそも仲良しじゃない』どっちかっていうと恋敵。

美雪さんは彼の妹とはいえ、お互い同じ男を好きになってしまったのだから。

「手を繋いでくれないならお金は返してください」

だから真顔で言わないで。その顔、怖いのよ。
手を繋げばいいんでしょ。

「えへへ。お姉さんと一緒だぁ(^○^)」
「なんだか不思議な気分ね……。他の人に変な目で見られなければ良いけど」

私達はエスカレーターを登り、一番線ホームへ。
ここで待っているとJR宇都宮線の上り電車が来る。
これに乗って埼玉県の南部まで移動ね。ちなみに東京駅まで直通の便もあるわ。

※宇都宮
栃木県にある都市。宇都宮タワー、大谷石、餃子などが有名。道の駅はまさに広大。

「なに手を離そうとしているんですか」
「えっ?」
「電車の中でも手を繋ぐんですよ」

嘘でしょ? 平日とはいえ、車内は見知らぬ人がたくさん載ってるのよ。
女同士でイチャイチャしてると思われたらどうするのよ。

「事実だから問題ありません」
「へ?」
「私たちってけっこうラブラブですよね(^^)」

この声に背筋が冷たくなる。まさかとは思うけど…

「わぁたしぃ。実はお姉さんのことずーっと気になってたんですよぉ(^^♪」

舌足らずな声で言われ、私は反射的に距離を取った。
電車は動き出していて、ガタンゴトンと平和な音を立てている。
幸いまだ埼玉県の北部地方なので混んではいない。

暇そうな老夫婦と、何人かの小学生らしき子供がいるだけだ。

「そろそろ演技はやめてちょうだい。
 いったい何が目的なのかはっきりして」

「好きなんです」

「は?」

「坂上瞳さんのこと、ずっと好きだったんです」

私は次の駅で降りて帰ってしまおうかとさえ思った。
彼女はさっきの告白を真顔で言っているのが余計に気持ち悪い。
イチャイチャしてる時は笑顔なのに急に真顔になるから落差が激しい。

そもそも何がどうなってるのか理解に苦しむ。
美雪さんが私のことが好き? この子は賢人君にぞっこんで
メンヘラで自殺未遂をするほどの子だった。レズなわけがない。

『まもなく~蓮田(はすだ)に到着いたします』

まずいわ。一駅通過するごとに人が増えていく。
大宮駅(埼玉で一番大きい駅)に着く頃には
たくさんの人にこの痴態を見られてしまうのだろう。

「お姉さん?( `ー´)」

この子は何を考えてるのか、また私の手を握ろうとしてくる。
私はどうしたらいいか判断に迷い、
ついに彼女の頬を叩いしてしまった。

パッシイイイイイン ←エコーの音を含む。

すごい音だった。さすがに乗客がこっちに注目してくる。
会社にいる時並みに気まずい状況だ。

会社なら顔見知りの従業員だからまだいいの。
見ず知らずの他人に茶番を見られてるのが恥過ぎて死にたくなる。
まさに身内の恥?

美雪さんは、しばらく呆然としていたが、電車の床に
女の子座りを下かと思えば、大きな声で泣き始めた。

「びえええええええええええん!!
 お姉さんがぶったぁあああああああああ!!」

幼児退行現象……?
この前、自宅でメンヘラを発動させた時もこんな感じだったわね。
騒ぎはどんどん大きくなり、ガタイの良い車掌さんが
隣の車両から様子を見に来てしまうほどになった。

私は平謝りし、精神的に不安定な子の付き添いをしている旨を説明し、
次の駅で下車した。何の特徴もない田舎の駅だ。周囲に住宅街しかない。

「あら。ヒトミさん」

お母さん!? なんでここに!?

私はホームに降りたら、たまたま私の母と会ってしまったのだ。
相変わらず少女漫画に出てくるお金持ちのママって感じのルックスだ。
これといって描写する必要がないほどに。

「今日は私の古い友人の方とお会いするのよ。
 蓮田市に住んでいる方なのね」

「そ、そうなんですか。お忙しそうですね。
 それじゃあ、私は用があるのでこれで」

「待ちなさいな。今日は平日よ。ペンタックはどうしたの」

「開園記念日……」

「それ言うなら創立記念日でしょ。開園だと幼稚園みたいじゃない」

「しまった!!」

「ヒトミはいくつになっても嘘をつくのが下手ねぇ」

「お母さま!! ごめんなさい。
 今日はペンタックの主任様に許可をもらって早退を……」

「いいのいいの。無理してそんなつまらない言い訳なんてしなくていいのよ。
 覚悟は良いわね? 坂上家では規則を破る人間には鉄拳による制裁が行われます」

「いやだああああ!!」

私はネズミを模倣した体制で逃げ出そうとしたが、すぐに
首根っこをつかまれてしまった。かあさまは運動神経が良いから
逃げられるわけがない。外出時は常に和服なのに無駄にすばしっこいから困る。

「一度寝たら良い子に戻るかもね。しばらく気絶してなさい。
 そのままの状態でペンタックの現場に送ってあげるわ」

また、地獄の腹パンが繰り出される流れでした。
私は全てを諦めて目を閉じ、神へ祈りました。

ところが、いつまで待っても私のお腹に
圧迫感を感じることはありませんでした。
何が起きたのかと、まぶたを開けてみると。

「ちょっとそこのバアサン。
 私のお姉さんにナニをしようとしていたの?」

母の魔界の拳を、ヒトミさんは片手で受け止めていました。
信じられません。私の母の戦闘能力は熊と素手で戦えるレベルなのに。

「わたくしは今娘のしつけをしているのよ。あなたの名前は渋谷美雪さんよね。
 人の家庭の事情に口を出すのは感心しないわ。
 それと、私のことをバアサンと呼んでいたのは気のせいかしら?」

「気のせいじゃないよ!! ババア!!」

あ、死んだ。
この子は確実に死んだ。
それは、かあさまに言ってはいけないワードのナンバーワン。

「年の割には若く見える」「40代かと思った」「歩き方が若い」

適当なことを言っておけば、社会人なのに毎月お小遣いがもらえたり、
5Gの携帯を買ってもらえたりと特権があるのに。

あんまり大きな声じゃ言えないけど、私はこの年でも
親戚のおじさん達からお年玉をもらっています。
私は子供がいないのでまだもらう側なのです。

ちなみに欲しい物がないので毎回貯金しています。

「あなたを亡き者するのは訳ないことだわ。
 物理的にでなく社会的に消してあげましょうか?」

私は怖くてただ震えてしました。
私には会社の上司より母の方がよっぽど怖いです。
理由は、この人に逆らうと毎月の生活費がもらえなくなるからです。

「そもそも気になることがたくさんあるわ。
 今日うちの娘と一緒に電車に乗っている理由をまず教えてくださる?
 東京にショッピングにでも行くつもりだったのかしら」

「その前にー!! まず説明したいことがあるんですよぉ!!( `ー´)ノ」

「……なにかしら」

「改めて自己紹介させてください。私はヒトミさんの彼女の渋谷美雪です☆
 今日は二人っきりでデートする予定だったんですよぉ(^^)」

時が止まった。

さすがの母様でもこの展開は予想できなかったみたい。
もちろん私も反応すらできないレベル。

もうね。話の流れが滅茶苦茶だよ。

こいつが私の彼女ってなに!?

……彼女!? 私は女子なんですけど!!

「それはつまり」

お母様はこめかみをおさえながら

「ヒトミは実はレズで、それを今日までずっと家族に隠していた。
 よって今までお見合いを断り続けていたってことを、
 遠回しに説明してるってことでいいのね?」

「そうでーす!!(`・ω・´)ゞ」

違うわ!! 

「ヒトミさん……あなたはどこで育て方を間違えたのか。
 確かに中高一気の女子高に通わせてはいましたが、
 まさか男性でなく女性を好きになってしまうとは」

「ほんと美人なのに男っ気がないのも分かりますよねー ( `ー´)ノ)」

だから違うって!! あと顔文字やめて!!

「で、どうなの瞳さん。今後も美雪さんとは真剣に
 お付き合いをするつもりなの? 世間が認めてくれないと思うけど」

「待ってよ、かあさま!! 私(ヒ☆ト☆ミ)がいつこの女と付き合ってるって
 本気で信じているんですか!? 全部そいつの言ってるデタラメですよ!!
 私はちゃんと男の人が好きですから安心してください!!」

「えっ。どっちの言ってることが本当なのかしら」

「聞いてくださいお義母さん。
 私は毎晩ヒトミさんと同じ布団で寝ています。
 夜は混浴しています( ゚Д゚)」

「それ以上余計なことしゃべらないでくれる!! 
 本気でぶっ飛ばされたいの、あんた!!」

「また殴るんですか? いいですよ。それでお姉さんの気が済むなら
 好きなだけ殴ってください。お姉さまはいつもそうよ。
 会社で嫌なことがあるとすぐ私に八つ当たりして(>_<)」

私は我慢の限界だったので全力でビンタしてしまった。
美雪の体が大きくのけぞる。

これは痛かったでしょ……。
坂上家は自宅にトレーニングジムがあって
限界まで体を鍛えるようしつけられていたから。

さらに私は小学3年から3年間、極真空手もやっていたから
その辺の女より戦闘力は高い方だと思う。

そしたら美雪は余裕の笑みで。

「ヒトミさんには家でもこんな感じで殴られています。
 私のお腹の周りとか、あざだらけだから
 人前で見せられません(>_<)」

「好きな女の子にDVしてちゃだめじゃない。瞳さん」

好きでも何でもない。
むしろウザすぎてそろそろ本気で死んでほしいくらいよ。
私はもはや言い訳は不可能だと判断し、走ってその場から逃げ出した。

ここどこだっけ? 蓮田市? 初めて降りた駅だけど、
適当に走り回ろう。私はジョギングが趣味だから25分程度なら
余裕で走り続けられる体力がある。

ちなみに握力も自慢で、女子にしてはリンゴを片手で握りつぶすくらいの力はある。
さっき全力びんたを食らった美雪が平気な顔してたのが今でも信じられない。

さすがにここまでは追いついてこれないでしょうね。
私がどや顔で後ろを振り返った時だった。

「ちゃんと前を向いて走らないと危ないですよ」
「は?」

なんか、普通にいた。
美雪さんは気が付いたら私と並走していたみたい。
二人で仲良く赤信号の交差点で止まっていた。

うそー(;´Д`)私ってお金持ちのお嬢様ってよく言われるけど、
10代の運動部の子にも負けないくらいの体力を維持しているのに。

※お金持ちは運動をよくする。
事実。お金持ちは平日の早朝や休日に体を鍛える人が多い。
不健康な人ほど年を取って病気になるリスクが高く、
医療費でお金がどんどん減っていくことを知っているからだ。

健康は金では買えない。
金があっても不健康では使えない。まされにこれ。
瞳は酒も飲むよりジョギングでストレス解消するのを好む。

「これは、さっきのおかえしです」

私はまともに腹パンを食らってしまい、しばらく地獄をさまようことになりました。
母さんの腹パンより重い。将来子供が生めなくなってしまうほどの強烈さでした。

30秒余りの呼吸困難から生起し、ようやく新鮮な空気を吸えるようになりました。

「今のは痛かったですよね?」
「ひぃ」

今の私にあるのは、渋谷美雪に対する恐怖のみです。
どう考えても美雪は私の戦闘力を凌駕しています。
年下だと思って舐めていました!!

「そんなに震えちゃって。脅えなくていいですよ。
 お姉さまをいじめるつもりはありませんから」

「美雪様、ごめんなさい、二度と逆らわないから許してください」

思わず命乞いをしてしまう。
だって美雪さんが真顔なんだもの。
基本的に顔文字のついてないセリフは全部真顔だと思ってくれていいわ。

「お姉さんも顔文字を使いましょうよ!!(^^)」

正直嫌だったけど、彼女を刺激すると
何をするか分からないから従うしかない

「こ、こんな感じで良いのかしら?(^-^)」
「そうそう。女の子なんだから顔文字使わなきゃ(^○^)」

駅前に四階にドンキホーテがある。
その近くにでっかいゲームセンターがあった。

今時お店単体のゲームセンターなんてあるのね。
イオンとかショッピングモールの中にあるなら分かるけどね。
なんと美雪はこのゲーセンでぬいぐるみをゲットしたいのだと言う。

「ちゃんと美雪ちゃんって呼んでくださいよ」
「えッ」
「呼び捨てにするなんてひどいじゃないですかぁ」

今のは私のモノローグに対する突っ込みだったようです。
この小説は心の中で考えてることまで突っ込まれるの!?

「ごめんなさい美雪ちゃんっ。そんなつもりはなかったのよっ。
 今度からは必ず美雪ちゃんって呼ばせてもらうわね」

そう言って彼女をやさしくハグしたのだが、
なぜか彼女の全身から貞子のような殺気を感じました。

「やっぱり、ヒトミさんって嘘つきですよね」

「ええっと……」

「口では二度と逆らわないとか言っているけど、
 本当は私のこと死ねばいいとか思ってるんですよね」

「な、なにを言ってるのかしら」

「だってこの話数を読み返してみると
 私の悪口ばっかり書いてるじゃないですか」

なんてこと……。私達は小説に出演していることを
自覚しているタイプのキャラなのでモノローグで
語った内容まで筒抜けってことです。

※小説に出演していることを自覚しているタイプのキャラ
  おそらく他の小説には存在しない特殊設定。
   キャラクター同士で作品に対する批評や
    作者への攻撃などが可能になる。

「そんなことより早くゲーセンに来ましょうよ!!
 ああ、ゲーセンなんて高校の時にプリクラを取って以来よ。
 楽しみねぇ。ユーフォ―キャッチャーでぬいぐるみを取るのね!!」

「その前に」

「(´・ω`・)え?」

「愛を証明してください」

「愛を……?」

「はい。愛です」

「あ、愛ってのは」

「このあいだ、ヒトミさんが私と兄にやらせた行為ですよ。
 忘れたとは言わせませんからね」

あのキスのこと根に持ってたのかしら。
美雪の真顔が死ぬほど怖い。
あ、やば。モノローグが漏れてるんだった。

「私に対する愛を証明してください」

キスしろってことか……

私達はまだゲーセンに入ってない。
往来のある交差点で話してる設定なのよね。
どんだけ人目で目立つことをすれば気が済むのよ。

あっ良いこと考えたわ。

「続きはWEBで」
「へ?」

私は次の話に飛ぶことにした。

美雪「ヒトミさんを食べちゃいたいです」 ヒトミ「ひぃ!!」

※美雪ちゃん

この小説はリレー、一人称形式なので
話数が飛ぶと人称が変わります。
よってこの話は私が描くことになるんですけど、

「しまった……」

瞳さんは前の話数が終われば展開をうやむやにできると
勘違いしていたみたいです。駅でお母さまと出会った時と
同じくらい気まずそうな顔をしています。

しかも私を見る顔がこわばっています。
どんだけ私のこと嫌いなのよ!!
そーゆー態度が一番許せないのを自覚してほしい。

「えへへ。なんだか無性にヒトミさんを殴りたくなってしまいました」
「ひぇぇ」

瞳さんは腰が抜けてしまい、自分の力では立てなくなりました。
服が汚れるのも気にしないでハイハイしてその場から
少しでも離れようとしています。

私は彼女の後ろを着いて歩いているんですけど、
周りの視線が突き刺さっていたいくらいです。
確かに私たちのやってることって
小説じゃなかったら通報ものですよね。

「そうよ。こんなのただの小説じゃない!!」

瞳さんはいきなり元気になりました。

「そんなにキスがしたいのならいくらでもしてあげるわ。
 さあさあ。いっそ、あなたの方からこっちに来なさい!!」

「むぐ……」

キツネザルを思わせる勢いで私を抱き着き、
私を引き寄せるよな感じでキスをしてきました。

まるでAV女優のような演技のうまさです。
私の口の周りを唾液で汚してくれました。

「ちょっとトイレに行ってくるわね」

私は見てしまいました。
涙目になった瞳さんが、トイレの洗面所で何度もうがいしているのを。

「うげー気持ち悪い。あの性格ブス、早く死ね!!」

ブスって言われてしまいました。
女の子相手にブスだなんてひどい。
私は制裁が必要だと判断し、ヒトミさんの肩を後ろから叩きました。

「美雪さん!? まさか聞いてたの? こ、これは違うのよ。
 私は美雪さんに死んでほしいなんて夢にも思ってないわ」

「そんなこと夢にも思ってないくせに、よく言いますよ。
 言い訳をして『言い訳』がありません」

ちなみに英語でも同じジョークがあるそうです。

「待ちなさい!! 私に制裁をするよりも大切なことを忘れてない!?
 前回のタイトルを読んでちょうだい!! 
 警察に捕まったあなたのお兄さんに会いに行く話はどうなったの?」

「あー、そんな話もありましたよね」

「まさか忘れてたの!?」

「ジョークですよ。兄のことは愛してますから」

「なら今すぐ!! あなたの大好きなお兄さんの様子を見に来ましょう!!」

私は思わず瞳さんの髪をやさしくなでました。
殴られると思っていたのでしょう。
瞳さんは雨に濡れた子犬のように震えています。

髪やわらかっ!!
しかも脅えていると美人が二割増しになる。
お兄ちゃんがこいつに惚れたのも納得の理由……。

「まだゲーセンに行ってないでしょう」

「そんなにゲーセンに行きたいの?」

「はい。私の小さい時からの夢だったんですよ。
 仲の良いお姉ちゃんにゲーセンでぬいぐるみを手ってもらうのが」

瞳さんはまたAV女優のような顔で
私と手を繋ぎ、うきうきしてるノリを演出しながら歩きだしました。
本当は嫌がってるのがひしひしと伝わってきます。

『☆世界一のゲームセンター☆』

うさんくさい店名。どこが世界一なのよ。
建物は二階建て。一階部分の広さは地元のウェルシアくらいだから
大したことないかと思ったら、すごい数のユーフォ―キャッチャー!!

店内の広告によると、ユーフォ―キャッチャーの数が200を超える!?
たしかに世界一を名乗るのも伊達じゃないかもしれない!!
平日なのにこんなに人がいるなんて!!

実はスマホで適当に検索したら出てきたお店なの。
来るの初めてなんだけど想像以上でびっくり。

小学生の子供とかいるけど、学校はどうしたの。
サボってないでちゃんと行きなさい。

「あんただって人のこと言えないでしょうが!! このブラコンが!!」

と言ってヒトミさんは二階へ駆けて行きました。不意打ちの暴言。
私はすぐ瞳さんを殴りたかったんですけど、両替の列に並んでいるので
すぐには動けません。ちょっと贅沢だけど、3千円を両替してから二階へ。

二階もひしめき合うようにキャッチャーが並んでいる。
それにしてもゲーセンの中はピコピコ電子音で騒がしい。
もっとクラシックとか鳴ってる雰囲気のゲーセンとかないのかな。

ヒトミさんは奥の目立たないところに潜んでいた。
私と目が合うと、私の元へ駆け寄って来た。
何をするのかと思っていると、私の手を優しく握りながらこう言った。

「ごめんなさい。ごめんなさい。さっきのは口が滑ってしまったの。
 本当は兄妹で愛し合うのって素晴らしいことだと思っているわ。
 どうか許してちょうだい」

「あっそ」

私が冷たく言うと、彼女は絶望した感じの顔になりました。

この人の動作っていちいち品があって鼻に触る。
今の謝り方もどこかお嬢様っぽいんだよね。
庶民と違うオーラの人がゲーセンにいると余計に目立つ。

「さあ、気を取り直してぬいぐるみを取りましょう!!
 あそこにあるディズニーのやつにする?」

「そうですね」

ヒトミさんが100円を投下する。
お金は全部私が払うことにしているので
彼女はお金の心配をする必要はありません。

よくよく考えると、どうして私がおごらなくちゃならないの。
瞳んさんの方が私の10倍くらいお金持ってそうですけどね。

「アームが……」
「弱いですよね。あきらかに。店員さんを呼んできましょうか」

商品をつかむアームの設定が極端に弱く設定していると
誰がやっても絶対に取れない。かと言ってお店側としては
簡単に取られ過ぎても売り上げが上がらない。

私は男性の若い店員さんに、「アームの設定を強く強いないと
あそこをちょん切るわよ」と脅しておきました。
店員さんは私の真顔が怖かったのか、
女々しい悲鳴を上げてからドライバーを握りました。

やっぱり部品(アームのビス?)の締め付けが悪かったようで、
アームはすっかり良い子になりました。
アームは……ね。

「ごめんなさい……。また100円くれるかしら?」

私は舌打ちしながらお金を渡しました。
これで失敗するの何回目?
冷静に考えたら、消費税率34%の世の中で生きているのに
ゲーセンでお金を湯水のように使ってちゃだめじゃない!!

「ヒトミ!! あと5回以内で取らないと腹パンするわよ!!」
「は、腹パン!?」

瞳は私にハグしながら命乞いを始めました。
坂上家ではハグをする文化でもあるのか。欧米か!!

「さすがに腹パンは言い過ぎました。
 おなかにパンチをするので許してあげる」

「どっちも同じ意味じゃない!!」

でもヒトミさんってすぐ嘘をつくから、つい殴りたくなるんですよ。
兄の彼女ってポジションも気に入らないんですよ。
私って自他共に認めるブラコンですから。

「これね、あなたが思ってる以上に難しいのよ!?
 嘘だと思うならやってみなさい。
 しかも5回以内に取れなかったら腹パンとか
 言われたら余計に緊張して操作に影響が出るわ!!」

坂上家ではゲーセンでぬいぐるみを取るのは愚者のやる行為であり、
欲しいならお店で普通に買うとのこと。確かに合理的ですが、夢がありません。

あと余計なことも言われました。

私は瞳さんから見てもかなりの美人らしいのですが、
暴力的だったりブラコンだったりレズだったりと、
色々と残念だから早く死んだほうが良いとのこと。

「気に触ったなら、ごめんなさい!!
 坂上家では思ったことを相手に伝わるように意思表示するよう
 教わって育ったものですから!! それでは、ごきげんよう!!」

金持ちがついに本性を現したか。
彼女は私があげた100円玉を床にまき散らし、
奇声を発しながら店の外へ脱出してしまいました。

これでは大恥です。
そもそも目的のぬいぐるみが手に入っていません。

「待つんだっ!! 美雪!!」

ええええ!? お兄ちゃん!?
なんで、こんなとこにいるのぉおおお!!

「いや、俺も良く分かってないんだよ。
 拘置所にいたら警官?に突然こんな紙を渡されてな」

・『出演機会が少なすぎるから拘置所から出てよろしい。
  妹に何か面白いことをしなさい』

「なにこれ。絶対誰の特にもならない展開になりそうだよね」
「どうかな美雪。それはお前次第だな」

おにいは、携帯でヒトミさんと連絡を取っていました。
瞳さんはすぐにここに戻ってきました。
そしてモーツァルトの歌劇、魔笛のオペラ歌手(ソプラノ)のような顔で。

「賢人君。来てくれた良かったぁ!! どうか助けてください!!
 わたくしはついさきほど、貴女の妹さんに殺されそうになったの!!
 あっ、そいつが何を言っても嘘ばっかりだからね!!
 その女を信用してはいけないわ!! その女は悪魔よ!!」

そう言って前話の内容が表示されたスマホを兄に読んでもらいました。

「そうか美雪。おまえは俺の恋人をぶったりしたのか」

どうやらお兄ちゃんが激おこぷんぷん丸です。
つまりかなり怒っています。

「美雪」

「は、はい」

思わずびびってしまう。兄は男性。
本気で怒るとすごい迫力なんだもの。

「おまえには罰を与える」

「罰ってどんな?」

「俺と結婚しろ」

はい……?

「俺と結婚すれば全ては解決する」

「ごめんね。ちょっと何言ってるのか分からないんだけど」

「俺が何か間違えたことを言ってるってのか?
 これでも理論整然と説明したつもりだ!!」

お兄ちゃんは罪のないキャッチャー台をどんどん叩いています。
強い衝撃を与えるとガラスが割れちゃうよ。

「賢人君、妹さんと結婚したいとか、自分が何言ってるのか分かってる!?」
「俺が冗談を言ってるように見えるのか」
「まさか妹さんにセクハラして捕まったのって本当だったんじゃ…」
「セクハラかどうかは知らんが、キスを迫ったかもしれん」
「キスを迫ったぁ!? 相手は妹だってこと分かってるの!?」

坂上瞳さんはヒステリーを起こしてしまい、ギャーギャーうるさいです。
そもそも初めにキスをさせたのは、あんただった気がするんですけど?
今すぐぶん殴ってやりたいけど兄の前だから我慢しないと。

「ごめん。私めんどくさくなったから帰りたいんだけど」

「待てよ美雪。まだ話は終わってないじゃないか」

お兄ちゃん、大きな声出さないでよ。
私は二人の犬も食わないようなやり取りを見てるのが苦痛なの。

「あー、すまんが金を貸してくれ」

「へ?」

「久しぶりにシャバの空気を吸えたのは良いんだが、もう昨晩から
 何も食べてないんだよ。拘置所の中では取り調べが終わるまで
 食事が出されなくてな。ファミレスで何か食べたいんだが、金がないんだ」

お兄ちゃんは検察官?の取り調べに容疑を否認し続けたため、
白状しない罰として食事抜きだった。
だからイライラしてたのね。人間お腹がすくとイライラするものね。

「あ……」

私はうっかりしていました。
ゲーセン内で坂上瞳さんと茶番をしてる最中に「スリ」にあったようです。
つまり財布ごと消えてしまいました。
バッグはちゃんとあるんですけど、中身だけ抜かれてしまったようです。

「おい。どうしたんだ青い顔して。
 まさかおまえ、美雪ぃ……。財布を無くしたんじゃないだろうな?」

私は普段からお兄ちゃんの代わりにお金の管理をする立場にありました。
兄に普段からお財布を盗まれないよう気を使うよう言っていただけに、
無くしたとは言いにくい。

「こら、お姉さん!!」
「な、なによ……」
「早くお兄ちゃんにお金を貸してあげあなさい。5百円くらいならあるでしょ」

5百円なら吉野家で何か食べられると思う。

「ゲーセンでたくさん使っちゃったから、これしか残ってないの」

私に200円を渡してくれました。あれー?('Д')おかしいな
3千円を両替してあげたつもりだったのに。
私は瞳さんに向けてマウンテン・ゴリラのように両腕を振り上げたところで。

「ちょ……お願いだから私の話を聞いてちょうだい!!
 白状するわ。実はあなたに襲われそうになった時に
 床に10枚以上の百円玉をぶちまけてしまったの!!」

あーそうだったね。当然お客さんたちのお小遣いになったんだろうね
ムカつく。人がせっかく上げたお金を……

「ヒトミのお馬鹿さん!! バカバカ!! 大馬鹿!!
 お金は大事に使うようにママに教わらなかったの!!」

「ぽえええええっ」

瞳さんはまだぶたれてないのに、自分の頭を
両手で守るように抱え、涙目になって脅えています。

そんな様子を、兄は心温るシーンを見守るような顔で見守っていました

「かわいい……」

何考えてんの!!

「そ、そうだわ!!」

瞳さんは何か奇策を思いついたようです。

「こらぁ!! 渋谷賢人君!!」
「えっ……!?」
「あなたって人は、妹さんを困らせちゃだめじゃない!!」

あれ(*_*;

「吉野家に行くならお金くらい自分でどうにかしなさい!!
 一食1000円くらいなら自分で何とかなるでしょ!!」

吉野家って値上がりしたのかな……?
確かにTPP締結後も米国産牛肉を仕入れてるアホ企業だけど、
販売価格に変更はなかったはず。牛丼だけなら400円もしないと思う。

賢人お兄ちゃんも同様の指摘をした。

「えっ、牛丼って370円で食べられるの?」

どうやらこの女、牛丼屋さんに行ったことがないようです。

「も、もちろん知っていたわ!!
 賢人君はお腹がすいてるからもっと食べるのかと思ったのよ!!」

この金持ちお嬢様。そろそろ本気でぶっとばしていいですか?
齢32で中小企業の派遣社員をやってるのに吉牛すら行ったことがないとは……。

「金持ちは死んでくださいよ。割と本気で」
「う、うるさいわ。あなただってお金持ちのくせに」
「坂上さんの方がたくさんお金持ってるわ」

「いえいえ、貴女のお父様も株式の運用とかすごいじゃない」
「ペンタックの社長の娘には負けますよ」
「わ、私の趣味はガリガリ君を食べることです!!」

「だから、そーゆー庶民アピール、ウザイ。
 口調とか仕草でお嬢様丸出しなのにそろそろ気づけよ」

「私をお嬢様と呼ばないでくれる!! 不愉快だわ!!
 ゲーセンでお財布をスラれたくせに!!」

「うっ(>_<) それを言われると痛い…」

「美雪。お金は財布にどのくらい入っていたんだ」

「およそ11万だよ」

「「 11万!? 」」

おにいとお姉さんは声が重なった。

この間、道路上でハゲ様から奪ったお財布をそのまま使っていたんだ。
ちなみにハゲ様のブラックカードとか埼玉りそなのキャッシュカードも
そのまま入っていた。まあ人の金だからどうでもいーけどね。

それより大変なことが分かりました。私はお財布にSuicaも入れていたのです。
つまり帰りの電車に乗ることができません。
よく考えたら11万って二人の月給より高いんだよね。

「このご時世に財布を盗まれた以上、美雪にはお仕置きが必要だな」

「ち、違うんだよ。説明すると長くなるけど、全部坂上瞳さんが原因なんだよ。
 ねえ瞳さんのSuicaに2万円チャージしたよね!? すぐ現金化してきてよ!!」

「わ、分かったわ。すぐ駅に行ってくる。その前に賢人君?
 妹さんにセクハラしたのは見逃してあげるわ。
 あなたの妹はどこで育て方を間違えたの!?
 私は何度もお腹を殴られたりしたのよ!!」

「なにぃっ。おい美雪っ!! 
 おまえは年上の人に腹パンとかしたのか!!」 

「ち、違うの。あれは瞳さんが言うことを聞かなかった仕方なくね……。
 それより瞳さん、なんか兄の前だと態度違くない!?」

「き、気のせいじゃないかしら……。
 それより賢人君からこの子に説教してあげてくれる!?
 できるだけ厳しめにね!! この子ったらメンヘラなのか
 ブラコンなのか同性愛者なのか、よく分からないキャラになってるわよ!!」

「す、すまん。妹には早く兄離れをするように言ってはいたんだが……。
 おい美雪っ!!  なんで瞳さんに暴力なんて振るったんだよ!!
 NHKのニュース解説員並みに詳しく説明しろ!!」

「それは瞳さんが!!」

「賢人君が甘いから!!」

「だいたい、美雪はだな……」

以下、無限ループ。

私達をめぐる、複雑な人間関係を列挙しましょう。

私(ミユキ) = 埼玉県を代表する美女。たまにブラコン
賢人くん   = 重度のシスコン。私のことが好き
瞳さん    = 私の彼女。兄の元彼女

賢人⇒ 美雪 ⇒ 瞳 ⇒ 賢人

たぶんこんな感じの流れで三角関係になってるっぽいです。
図じゃないと分かりにくいけど、こんな感じです。

(;´Д`)瞳さんは私と兄の間で二股をかけてる……?

主任「なんだと!? 渋谷賢人の借金が2兆円!?」

※ケント

タイトルに書かれている内容を朝礼で発表された。
ちなみに全ての部署の連中が集まる全体朝礼じゃない。

俺らの部署の朝礼である。朝っぱらから何やってんだよ!!

「あー、なんというか、渋谷の妹が前回の話までで
 坂上瞳に多大な迷惑をかけたのは、諸君らも知っての通りだ」

主任は前話まで内容をスマホを読むことによって確認しており、
それを従業員たちの前で音読し、周知させたのだ。まさに前代未聞の暴挙。

朝礼中に発表する内容じゃねえだろ。

「シブヤ妹、つまり美雪さんのやったことは、
 著しく坂上瞳への礼節さを欠いた行為だと言わざるを得ない!!」

政治家の口調だな。
それより驚いたのが、主任も
「小説に出演していることを自覚しているタイプのキャラ」だったのかよ。

色々とぶっ飛びすぎだろ。この小説そろそろ終わらねえかな。
そろそろストレスで禿げそうなんだが、
いつまで出演してればいいのよ。

「坂上瞳に暴行を加えただけでなく、き……キスまでしたとか。
 なんて破廉恥な!! それに人に暴力を振るうことは 
 いけないことなのだぞ!! 人として当たり前のことである!!」

おーい、普段から従業員の粛清をしてる人間が言うことかよ。

俺は我慢できなくなったので、米国陸軍特殊部隊で鍛えられたと思われる
主任の顔面へパンチを繰り出した。

「あいつを取り押さえろ!!」
「そんなことしたって無駄だよ!!」
「最近の若者はこれだから困るんだよ!!」

俺は従業員たちに寄ってたかって押さえつけられ、
床にうつ伏せにさせられた。
重いしい息苦しんだよ!! 
しかも今日暑い日だから汗臭い奴も混じってるぞ!!

かぐや姫もちゃっかり加わってんじゃねえ!!

この場にはもちろん坂上瞳さんもいる。

申し訳なさそうな感じの顔だ。
お嬢様っぽい品のある腕組をしながらも視線が泳いでいる。

そろそろ今回の朝礼で発表された内容を要約させてくれ。

・前話までに坂上瞳は不当に理由で暴行されたり、キスを強要された。
・ヒトミは帰宅後、ママに電話で怒られ、お小遣いを減額された(5万から2万へ)

(;´・ω・) 小遣いが減らされても、もらえることに変わりはねえのか

・これらは明らかな人権侵害である。
・賠償の支払いを命じるのは当然。

・加害者の美雪は学生。親に扶養されている身である。
・親は蒙古へ逃亡したため連絡が取れない。
・したがって渋谷美雪の兄である賢人に対し賠償を命じる。

・ヒトミのお腹には腹パンのあざができてしまった。
・美雪恐怖症になり、一時的に食欲が減退し、
 夕飯のお肉が食べられないなどの影響が出てしまった。

・賠償額は、坂上家夫婦でよく相談した結果、2兆円が妥当だと判断された。

誰が考えたのか?       ⇒ 瞳の両親。特に父親。
2兆円は高い          ⇒ 小説なのでおk
いつまでに払えばいいのか   ⇒ 期日は決められていない

「諸君、説明しよう!! 坂上瞳さんは、あの茶番からの帰宅後、
 美雪さんにされたことを根に持ち、ご両親に報告してしまったのだ!!
 彼女の父上は、いまさら説明するまでもなく、この会社の社長閣下である!!」

「社長閣下は命じられたのだ!! 
 渋谷賢人に対し、2兆円の賠償金を払うようにと!!
 極悪人の奴にはまったく妥当な額だと思う!! 
 突然だが社員投票をするようにと命じられていてな…。
 諸君らに問いかけよう!! 今回の賠償額は妥当か否か!!」

全員が直立不動の状態で手を挙げた。
そう答えるしかないのに聞くなよ。

それよりやべーぞ。俺は社長閣下に嫌われてまったってことか。
瞳の彼氏って設定だから銃殺刑にならなかったようだが、
2兆円の借金はやりすぎじゃねえのか。

NTTドコモが保有する利益剰余金(内部留保金のこと)と同等だ。
すまん嘘だ。それはともかく個人が払えるレベルじゃねえ。
ちなみに日本の純粋な国家歳入(税収分)は約60兆だ。
残りの30兆くらいは借金(国債発行)な。

この世界では他の従業員も時給210円で働いているため、
どれだけ残業しても生活費は足らない。

みんな銀行や闇金から平均して2千万から3千万の借金
(金利14%。つまり一生返せない)
をしている設定なんだ。

俺は美雪が生活費を出してくれてたから、幸いまだ
借金をしたことはない。お母さん、毎月仕送りをしてくれてありがとう

(↑彼は母から娘の美雪へと生活一時金として支給された700万のことを知らない。
 ちなみに父から娘へ譲渡された9000万の米国株も知らない。
 小説に主演していることを~略 の設定なのに、なぜ知らないのか?)

「ちょっと借金の額が多すぎるんじゃないのかなぁ」

扉を開けて俺の父親が入って来た。

なんで親父が会社にいる!? 
美雪からはモンゴルへ旅立ったと聞いていたんだが。

「賠償金を払えと坂上さんちの旦那さんにせがまれてね。
 あともう少しで成田空港から出発するはずだったんだけど、
 また小説に出演してほしいと頼まれてしまってね」

どんなお願いだよ!!

「ついさっきまで久喜駅西口のロータリーで坂上さんの旦那さんと
 殴り合いをしていたんだよ。ちょっと文句を言おうとしたら
 負けちゃった。あの人結構強いねぇ。右腕が再起不能になっちゃったよ」

親父の右腕は不自然な方向に曲がっていた。
恐るべきことに肩の関節も外されていて、ぷらーんとしていた。
左手で抱えた松葉杖がないと歩けないようだ。

「おい親父。病院に行かなくていいのか?」
「ずきずき痛むけど、たまにはこんな時もあるよね」
「相変わらず軽いノリだな」

親父は穏やかな顔で坂上瞳さんに話しかけた。

「僕の娘が迷惑をかけたようだね」
「い、いえ。お父様」

呼び名はお父様なのか。

「君も知っての通り、美雪は安定感のあるブラコンで、
 たまに自殺未遂をするのが趣味な可愛い娘だよ。
 あの子のすることは何かと過激だが、悪い面ばかりじゃない。
 料理は進んでやるし、日経新聞を愛読している。
 君が美雪のことを嫌っているのは良く分かるんだが」

「先にこっちの言い分を伝えますね!! 
 実は最初はね、たまったストレスを
 全部賢人君にぶちまけようとしたんです!!
 怒鳴り散らしてあげようと思ったんです!!
 でも、そんなことしたら……」

------賢人君に嫌われちゃうでしょ!!

瞳はそう言った。

「だって美雪さんは賢人君の大切な肉親なんだもの。
 たしかに美雪さんのことを死ねばいいと何度か思いました!!
 でもあの日家に帰ってから、その日のことを思い出して
 むしゃくしゃしてしまって……パ、お父さんの携帯に電話しました!!」

「お父さんは会議中で忙しかったのですが、
 3年ぶりの私からの電話だったので話を聞いてくれました!!」

3年ぶりなのかよ……
一人暮らしの費用を全部出してもらってるくせに薄情だな。
女従業員たちがひそひそ話をしているぞ。

「私のパパは、一言で言うと娘★ゲキ・ラブ★なんです!!」

「私もそうだが」←親父

「あっそうですか。私は渋谷賢人君を嫌ってませんし、
 彼に賠償金を払わせるつもりなんかないんです!!
 私は心からそう思っています!! で☆す☆が!!」

「私の父は、私の話を聞いたら衣を引き裂きながら泣きわめいたのです!!
 衣を引き裂いたのは嘘ですが、それくらい怒っていたそうなのです!!
 そして美雪の兄である賢人を、連帯責任で★粛清★すると言い出しました!!
 私は泣きながら、賢人君を銃殺刑にするのはやめてと言いました!! そしたら!!」

ふむふむ。

「殺すのはなしにしよう……。ただし、ここはペンタックの法律の範囲内で、
 損害賠償を払わせるとしよう……って、どや顔で言っていました!!
 電話口なので、どんな顔してたかなんて分かりませんけどね!!」

途中で笑いを取りにくるのは必要なのか?

「ペンタックの法律とは、父とその他の経営陣の思いのままに決められます。
 気に入らない従業員がいたら即粛清。拷問、監禁、銃殺刑です!!
 ですから私は、ここでかつて誰も考えなかった裏技を披露しようと思います!!」

「そう!! 賢人君が背負った借金2兆円ですが、
 彼が毎月の給料6万5千円で支払うとすると、710年くらいかかります!! 
 計算は今思いついたので適当です、ごめんなさい!! 
 あっ、利息は銀行カードローンと同じで14%なのを忘れていました!!」

「利息は複利です!! それを考慮すると、返済に3928年くらいかかります。
 賢人君が今後子孫を残したと仮定した場合、
 あと58代先まで借金が残る計算です!!またしても計算は適当です!! 
 今回の借金は、あの悪名高いヴェルサイユ条約を思い出させます!!」

※ヴェルサイユ条約

時は第一次世界大戦の終結後。
フランス第三共和国を中心とした戦勝国は、
敗戦国ドイツに対し、今の日本円で例えると
790兆円分の賠償金の支払いを命じた。
恐るべきことに期限はたったの10年。

(お金の貸し借りにとって最も大切なのは時間です。
 個人間で貸し借りする場合があったら
 必ず期限を指定しましょう。仮に返済トラブルで
 民事訴訟をする場合に,期限を指定した書類が一枚でもあると有効ですよ)

ドイツ経済は国債の発行のし過ぎで紙幣は紙クズに。
その後のハイパーインフレ。

例えばパンが値上がするとどうなったのか。
パンの売値は当初210円だった。
そのパンは2週間後には価格が3億円になった。

もちろん
ドイツ国民はフランスに対し猛烈な殺意を抱き、
ヒトラーひきいるナチス党の台頭を許すことになる。
第二次大戦時、ヒトラーの軍隊によってフランスはボコボコにされた。

「ヒトミさんの計算は間違ってるんじゃないのかな」

親父……?

「複利の分を計算したら、賢人の収入では利息分の支払いにすらならないよ。
 まず賢人が生活をする上で最低限の金額すら足りてないんだ。
 仮に収入全額を借金返済にあてたとしても、
 そもそも利息分だけで自衛隊の全戦力が300セット揃えられる額だ(うそ)
 元金が2兆。それに対する14%の利息なんて考えたくもないよね。
 米沢さん。つまりだね……」

-----賢人は一生かかっても借金は返せないんだよ。

親父はその辺のおっさんより賢いのを俺は知っている。
親父が言うんだから間違いないんだろう。最後の米沢さんって誰だよ。

俺は、シマウマのように床に四つん這いになり、うなだれた。←ORZ このポーズ。


ざざーん ざざーん ざぱーん ←波の音。

『おにいちゃーん。こっちよぉ』

ああ、こんな時なのに思い出しちまったぜ。
俺が小学6年生の頃。佐渡の海へ家族両行へ行ったのを。
フェリーでペリカンの群れと戯れ、海岸の砂浜でお城を作ったり。
あの時の美雪は無邪気で可愛かった。

間違っても自殺未遂をするような子じゃなかった。
美雪は長い髪の毛を二つ縛りにして、元気に砂浜を駆けまわっていた。

『つーかまえた』

俺は美雪の手を握る。ああ、もう追いかけっこが終わっちゃったのか。
さびしい気持ちとれしさもある。俺たちは人気のない崖の裏側に来ていた。

『お兄ちゃん、キスの練習しよ?』

前に説明した、キスの練習を下ってのはこのエピソードだ。
あれ? そんなエピソードなんてどこにも書いてなかったぞ。
まあいいや。俺は目を閉じた瞳の肩を強く抱き……

「待ってください!!」

美雪……? じゃなくて坂上さんか。
どうやら俺は卒等するほどのショックで
目の前が真っ暗になり、幻覚でも見ていたようだな。

俺はいったいどんなアホずらをしていたのか、
全従業員が気の毒な人を見る目で俺を見てるぞ……。
今すぐ自分の記憶を消し去ってしまいたい。

「私は不幸で世界一哀れな賢人君を救うことのできる、
 たった一つの策があるのです!! 
 その素晴らしい策を、同僚の皆さんが見てる前で発表しようと思います!!」

すぅと息を吸った。

「賢人君は、私と結婚すればいいのです!!」

※三人称

これに対する周囲の反応は…

「……」「……」「……」 シーン

なんと
沈黙!!

笑いもしない。茶化すわけでもない。

沈黙……!!

ただ黙っただけ……あまりにも……空気が重い!!


「この借用書?を見てください!!
 これによると債権債務の関係は!!」

(借用書じゃねえ。個人や法人から借りたお金じゃなくて
 法的に金銭の支払いを命じられたんだ。
 株式会社ペンタック名義の支払い督促状のようなものだ)
↑賢人君の思ったこと

「賢人くんから私へ、となっています!!
 つまり結婚して夫婦の関係になれば
 債権債務が無効になり、チャラってことでおk!?」

おk……!?

「おk……ですよね?」

お、おk…? おけ……? 銭湯で使うのは桶……?

従業員に衝撃走る!!
 
「みんな!?」

サカガミ・ヒトミ。ついにあせり始めたぞ!!

これはまさかとは思うが……
賛同を得られなそうな流れだ!!

「すまない瞳さん。結婚は無理だよ」

なあぁああぁぁぁぁあんと!!

ここでケント……まさかの返答は 拒否!!!?

瞳の『ありがたい提案」を断ってしまった!!

この小説の主人公・渋谷賢人は、この絶体絶命の状態において……!!
借金をチャラに出来かもしれない、
千載一遇のチャンスを逃そうとしているのだ。

全従業員を前代未聞の衝撃が襲う!!

「理由は単純。俺は美雪のことを愛してるんだ」

この修羅場でも妹・美雪のことしか眼中にないのだった!!

他の女はアウト・オブ・眼中!!

アオウト オォブ・がぁぁぁん中!!

この男はやはり……シスコン!!!!
変わらぬ性癖……!!
日本のみならず全世界を代表する……シスコン!!
シスコンとは……シスター・コンプレックスの略である!!

「おまえは何言ってるんだ」
「ごはぁ」

親父殿、実の息子に暴力を振るう!!
 賢人は……パンチを食らい……吹き飛んだ!!
  
「おまえなんかに美雪は任せられないって何度も言ってるよね?」

親父殿、笑顔のまま切れている!!
どうやら本気で怒っているようだ!!
普段は温厚な彼とはまさに別人!!

親父殿の娘に対する愛も……深い!!

ふかい!! 深い!! ふかぁああああい!!

トランプ大統領が訪英した。
ハリー王子の奥さんが、反トランプ派の元米国人だったことを知り、
『ロイヤル・ファミリーにそんな不快な人物がいるとは知らなった』と発言。

それは……不快!!

「息子の存在も不快だよ」
「親父待って。まじでみぞおちに入った。待ってえええ!!」

親父殿、マウントをとって息子をボコる!!

これが今流行りの、息子をボコボコにする親父殿!!

東京大学中央学部卒、農林水産省の事務方のトップ!!
ニートの息子を刺殺!! 執筆時点で流されたニュースである。
不謹慎ではあるが、国内で報道されるニュースの内容は偏っている!!

無職の男がバス停で連続殺傷事件!!
秋原バラ連続殺傷事件!! 
相模原の児童養護施設!! 
老人介護ホーム!!

終わらない負の連鎖!! キーワードは『連続☆殺傷☆事件☆』

最近自動車の事故も多い。
バスや車が突っ込むのは……

『決まって小学生や保育園児の列や集団に対して!!』

なぜ大人や老人には突っ込まないのか……!!
ただでさえ人口少子化で死にかけようとしている
日本経済に対する、完全なる追い打ち……!!

不謹慎を承知で言わせてもらえば……

『これが日本の流行だから』だ!!

日本とは流行の国である。日本人は主体性がない。
人の意見に簡単に流される。人がしていることは
自分も真似したがる。人と違うことは恥ずかしい。

もはや流行……もちろん私の主張は事件との関連性は皆無で
暴論ではあるのだが……流行としか言いようがないのが……悲しい!!
 
ニュースの報道の内容が偏っている!?
ニュースに影響を受けて自分も犯罪をする!?
いくつもの要因は考えられるが、「流行だから」でまとめたほうが早い!!

そしてNHKはこういった事例をしつこく報道するが、
いかに国内の報道機関が斬新なニュースに飢えているかが分かる!!
アメリカの銃乱射事件、イスラム教徒の自爆テロ、
ロシア軍が行っていたシリアへの空爆に比べたら規模が小さい。
つまり日本は比較的平和過ぎるのである!!

NHK(特にラジオ)にまだ言いたいことがある!!

例の連続殺傷事件の犯人が引きこもりだった。
「私たちは引きこもりと事件の関連性を疑っているわけではありませんが」
「引きこもりを否定するわけでは決してありませんが」

なぜか……キャスターたちは引きこもりの擁護を連発!!
どこかの組織からの圧力を感じられずにはいられない!!
まともな市民感覚を持っていれば、事件と引きこもり、ニートとの
関連性は明確!! 公共放送はこれからも偏見報道は続くのか!!

「ふざけないでよっ……
 罪のない小学生の女の子も刺されて死んだのよ!!
 この馬鹿あああああ!!」

「ぐわああー」

作者は瞳の拳を食らう。この一撃によって執筆不可能になった。

美雪「私はお兄ちゃんを見捨てたりしないから」

※ミユキさん

私も前回の話を読んでいます。
スマホでこの小説のページを開きっぱなしにしているので
学校のお昼休みとかに開くと、たまに更新してるんですよね。

更新頻度はそんなに多くないけど、一度更新すると
結構な分量が投下されているので楽しみです。

……私が出演してなければ、もっとね。

「はぁ……」

今日は平日です。キャンパスの片隅にある林の奥のベンチで
私はお弁当を食べています。自分で作ったお弁当なので
初めからおかずがわかっているし、
安い冷食ばかりで正直美味しくもなんともないです。
何より隣に愛する人がいません。

私は兄のことを愛していますが、坂上瞳の大馬鹿のせいで
2兆円もの借金を背負ってしまいました。私は一時期、瞳さんのことが
好きだった描写があったようですが、すっかり冷めてしまいました。

前回の話で私のパパがボロボロになっていたけど生きてるんでしょうか。
モンゴルにはいつ行くのでしょうか。兄はあの後どうなったのでしょうか。
坂上瞳は兄へ求婚をして断られたようです。気になることばかりです。


閑話休題。

めんどくさくなった時は、話題を変えて物語を進めてもいいかもしれません。

「ぎーぎー」 ←電車の連結部が揺れる音

私は午後の授業(講義)をサボって、電車に揺られていました。
目的地は関東から南下して福岡へ。福岡にはペンタックの本社があるのです。

私はペンタックの本社にいる瞳のお父さんを抹殺しようと思っています。
手は打ちました。お父さんは実はロシアの外務省にコネのある人物だったのです。

ロシア外務省と言えば、最近、日本維新の会の元衆議院議員の丸山穂高君の
暴言によってビビりまくり、北方四島の防備を強化しました。

あれはホディ(ホダカちゃんのあだ名)のギャグで、
国家レベルで侵略する意図はゼロなのに馬鹿な奴らです。

ロシアの軍事力を舐めてはいけません。
私は(ソ連の元閣僚だったという裏設定の)お父さんに
泣きながら頼んで、ロシア軍の力でペンタックの本社を叩き潰すことにしました。

はたして簡単にいくでしょうか。
日本の企業は労働者の暴動を
恐れるあまり独自の軍事力を保有するに至りました。

どこの企業も本社を攻撃されることを想定し、
最低でも200発以上の短距離迎撃ミサイル(攻撃用に転用可能)
120000発通常の毒ガス弾(砲戦力)
11万人の特殊部隊

を保有しています。つまり一企業が北朝鮮並みの戦力を揃えています。
日本はこれほどの戦力が集中する危険地帯なのです。

ちなみに日本国自衛隊は、予算を当初の6兆円から40兆へと増額しました。
その結果戦車5千両、航空機10万機、空母11隻、原子力潜水艦6隻を
有する巨大な軍隊へと変貌しました。自民党独裁に不満を持つであろう
国民の暴動を押さえるには十分すぎる戦力です。

「美雪さん!! あなたはお父さんの会社をどうするつもりなのかしら!!」

つもりなのかしら? じゃないよ。お嬢様っぽい口調がマジでムカつく( ゚Д゚)

なぜか電車の隣の席(対面席)には瞳さんが乗っていました。
なんか、作者から主演しなさいと言われて来たそうです。
よく分からない理由です。

「日本語読めないんですか? 文盲ですか?
 上に書かれた文章を読んでください(*´▽`*)」

「お父さんの会社を軍事攻撃したら許さないわよ!!(;´Д`)」

「うーん、正直私も滅ぼせる自信がないんですよねぇ( `ー´)ノ」

「いったい、どれだけ戦力を用意したの!? (; ・`д・´)」

しつこいので戦力リストを見せてあげました。

戦車      5万5千両 ←注目☆
装甲兵員輸送車 7万両
歩兵戦闘輸送車 2万4千両
砲       3万3千門
自走りゅう弾砲 9千両
ロケット弾   8千両
防空車両    5千両
対空砲     1万2千門
ヘリコプター  4千3千機

うん……。なんていうか、既視感がすごいです。
前々前作の斎藤マリー・ストーリーのコピペです。
ごめんなさい。

ヘリコプターが4千なのか? 3千なのか?
おそらく4万3千機の書き間違えなんでしょうけど、
多すぎるからどっちでもいいや。

「戦車5万両!? 自衛隊のおよそ10倍の戦力よ!!
 たかが会社の本社を襲撃するのにこんなに必要!?( ゚Д゚)」

「実はぁ。これでも足りないかもしれないんですよぉ(^^♪」

「足りるわよ!! (;´Д`)
 会社どころか九州一体が吹き飛ぶわよ!!」

「ちなみに兵力は550万人用意しましたので(*´▽`*)」

「……ごひゃく、私の聞き間違えかしら?(>_<)」

「550万人ですよ。人種国籍は旧CIA諸国で24か国です ( ゚Д゚)」

「(^○^)オワタ」

(私のパパは死んでしまうんでしょうか……?
 正直父とはそんなに仲良くなかったんですけど、
 てゆーかうちの家族のメンバーは弟以外苦手な人ばかりなんですけど、
 全盛期のソ連軍の全戦力で攻撃されるのが分かってると
 涙が止まらなくなってしまいます) ←瞳ちゃんの心の中。

「あーあー」

ここで電車内に設置されたテレビが何か言ってます。
この世界では、いつでもどこでもテレビが見れるようにと
公共の場所だけではなく、全ての車両にもテレビが備え付けてあります。

国民を洗脳するのに昔はラジオ。今はテレビ。
ネットユーザーは賢い人が多いので洗脳には向いてないそうです。
令和10年で画質は24Kまで進化しました。こんなに画質必要?

「わたくしはぁ、内閣総理大臣で、ありまス」

でた。聞き苦しいアクセントの日本語。
リズムが滅茶苦茶。活舌が悪いから、歯切れも悪い。
ナポリ地方のイタリア人が話す日本語のほうがマシだよ。

「つい先ほど国会で可決した、新しい法案について
 国民の皆様に、ごせつめぇい、使用と思います。
 年金の支払いについてですがぁ……」

無駄に長いので要約します。

・人生100年時代
・70年前に作られた本来の年金制度は、寿命が65歳を想定
・したがって60歳支給開始の65歳で停止を想定。5年間だけ☆彡
・今の平均寿命にもそれを適用

・基礎年金の支給開始年齢を90歳
・厚生年金(共済年金)支払いを95歳
・介護保険の適用は95歳
・後期高齢者・医療保険の適用は95歳

これは政府与党案である。
野党は存在しないので衆参両院で満場一致で可決された。

「日本の苦しい財政を、皆さんと一緒に乗り切っていこうと思っております。
 これからもぉ、一億総活躍時代をめざしぃ、若者の皆さんには、
 各企業で毎日16時間の勤労に励んでいただきたいのであります!!」

「もちろん労働者として働いてる間は、厚生年金や介護保険に
 代表される各種保険料を国に納めていただきます!!」

95歳まで第二号被保険者として働き、5年以内にぽっくり死ぬ。
これが令和10年の日本国民の基本モデルなのだ。

社会保険料関連の歳出が減ったことにより、
政府閣僚の給料の引き上げが密かに可決。
理由は、増税の影響で
自分たちの親の介護やリフォーム等でお金がかかるから。

反対する野党議員は銃殺されるか
国外通報されてるので反対者はいない。

内閣総理大臣⇒年収1兆5千万円
その他の大臣⇒年収1兆円

国民やマスコミの反応は、明らかに自民党に配慮したものになるのだった。

私たちの電車。車内の人たちは、

「さすが首相閣下だぁ!!」「日本のためなら仕方ないな!!」
「俺達はもっと頑張らないとな!!」「首相すてきー!!」

と言って手を叩いて血の涙を流しています。
喜ぶ振りをしないと粛清されちゃうんですよね。

後期高齢者・医療保険制度の改正に伴い、
厚生労働省、総務省、文部科学省の指示により、
国内のあらゆる機関での「若者」の定義の変更を余儀なくされる。

・50歳は? 若者
・65歳は? ぎりぎり若者 もしくは中年
・85歳は? 少し年を取ってきた

・90歳は? ようやく老人
・95歳は? 後期高齢者 

つまり65歳までの全ての国民は「若者」「若年者」の定義に入りました。
したがって、「50歳」の息子が80歳の父親を刺し殺しても

「最近は若者の殺人事件が増えてきました」
「若さゆえの過ち」などとニュースで報道されるのです。

この国では、自分が90歳になるまで年金を払う義務があるのです。
年金支給開始前に死んだ人は一円も年金をもらえません。
途中で痴ほう症になった人は、市役所の市民課の人か
病院の人に毒殺されます。

年を取り、体が満足に動かなくて働けない人は
「なまけてると判断し、銃殺刑」になって終わり。
仮に足腰が弱くても政府の定義では「若者」ですから。

まさに日本は北朝鮮以上の軍事国家です。

「うぅっ。こんなことってないわっ。
 私達は死ぬまで働かなくちゃいけないのっ」

瞳が泣いてます。瞳の瞳から大粒の涙がこぼれる。
そんな君の瞳を見ていると、僕の瞳からも涙が出る。
そんな私は人見知りです。

「私の名前で遊ばないで(>_<)」

ごめんね。

「賢人君はあれからどうしてるのかなぁ……?(*‘∀‘)」

「相変わらずミドリガメのように固まってますよ(^○^)」

説明が遅れましたが、お兄ちゃんはお父さんにボコボコにされた
末に借金額の多さに打ちのめされ、家で引きこもっています。
布団にくるまったまま、何もする気力が起きないようで
どうにもなりません。そのうち連続殺傷事件になりそうです。

「ニュースをネタにするのはよしなさいな!!(>_<)」
「はいはーい('_')」

こうして横顔を見ていると、ヒトミさんはやっぱり美人です。
色が白くって、髪の毛がサラサラで、手足が華奢なのに
空手の有段者並みの戦闘力を誇る。女性にしては肩幅は結構あるね。
ガリガリ君ばっかり食べているのにお腹は出てません。
でも年だからそのうちお尻がたるんでくるんでしょうね。

「そうならないようにジョギングとかしてるのよ!!(`・ω・´)ゞ」
「ふーん(-_-;)」

やっぱりこの女と一緒にいると無性に腹が立ちます。
背も私より高いし(サカガミは164センチ)
細身で外見にスキがない。その上、父親は経営者で
四半期ごとにブランド物がプレゼントされてる……?

私だったら喜んで使うよ。それなのにこの女、
押入れの奥にコレクションして、
いらなくなったらアウトレットに売る?

売るくらいだったら私にちょうだい!!

「な、なによその目は。それよりお腹すいたわね。
 まだお昼食べてないのよ(-_-;)
 急な出演依頼だったから食べる暇がなかったの」

今は昼の2時過ぎです。

「駅のホームで駅弁買ってきたのよ。たまには奮発して
 一番高いの買ったわ。3400円もするのよ(*‘∀‘)」

えび、いくら、中トロ?とか、高そうな食材が
入っているお弁当でした。坂上は海の幸が好きなのね。

「もぐもぐ。たまには高級品もいいものね。
 普段は質素な食事で、もやしとかお野菜を中心に食べてるの。
 ドラッグストアで安売りしてるカップ麺もよく食べるのよ(^^♪」

うわぁ……。こいつ、背筋を伸ばして食べてる……。
あごの角度とか、小さく口を開けて食べるとことか、
わざわざお茶のパックを両手でつかむところとか、
『完全にお嬢様だ!!』 

どんなに庶民の振りをしても「育ちの良さ」まで隠せない♪
本人は気取ってるつもりはないんだろうけど、私より何倍も上品だ!!
なんか、すっごい、むかつく('ω')

「金持ちは死ねよ!!(´Д’)」
「な、なによ。とつぜん大きな声出さないで頂戴!!(; ・`д・´)」

「あんたばっかりずるい!! 顔も良くて体も細くて、
 生まれた時から何もかも手に入って!!(;´Д`)」

「ちょっとちょっと、落ち着きなさいって!!
 私は30過ぎても独身だし、時給210円で働いてるし!!(;・∀・)」

「本当はニートで生きていけるんでしょう、この馬鹿ぁ!!(;´Д`)」

「バカって言ったほうが馬鹿なのよ!! 
 お金はいらないって言ってるのにパパ達が
 払ってくれるんだからしょうがないでしょ!!('Д')」

---パパ。家賃代だけは自分で払えるから間に合ってるのに。
---分かったよ。じゃあ、これで最後にするからね。
----うん。ありがとう。

そんな感じで終わりがなく、大学を卒業後も毎月生活費をもらっていたそうです。
正確には毎月じゃなくて年単位でもらっていた。
というか大家さんに電気ガス代等含めて親が直接納めている。
毎月くれるのは、生活費とは別枠の「おこづかい」なのです。

なにそれ………(^^♪ ふざけてるの?(-.-)
なんで社会人のくせに
「おこづかい(5万も!!)」がもらえるの……?

社会人が親からお小遣い? 私の感覚がおかしいんですか?
読者の皆さんも普通キレますよね?

自立心ゼロ。お金に困ることが一生涯ない。
30過ぎても親から施しを受けて恥ずかしくないの!?
会社でいじめられるのも納得の理由!!

生まれてから32歳になるまで生活費を
一度も払ったことがありません。
嘘……私の人生、イージー・モードすぎっ……!!

「そのモノローグを辞めて頂戴!! 
 またみんなに誤解されちゃうじゃない!!(>_<)」

誤解じゃなくて事実でしょうが。ドアホ!!
やっぱりこいつ……全力でぶっ飛ばしたい(*´▽`*)

「その振り上げた腕をどうするつもりなの!!('_')
 私はお小遣いをガリガリ君を買うのに使ってるって言ったでしょ!!(´・・`)」

確かに嘘ではないけど、やはり人間なので
たまに散財したくなる時もあるそうです。
先月にどうしても欲しくなった10万もする化粧品の
セット(2か月分)を買ったとか。

「ちょ……(+_+) なんで化粧品のことバレてるの!?
 誰にも話してないはずなのに!!(*‘∀‘)」

※小説だからです。

時給210円の人が10万の化粧品……?(+_+) 
一ヵ月分の給料より高いじゃない。
豚に真珠と言ってやりたいけど、
くやしいけど私よりずっと美人だぁ(*_*;

私大学生なのに30過ぎの女に勝てないんて信じられない!!
これでも小中高とクラスで一番かわいい女子の称号を得ていたのに!!
担任の先生やお兄ちゃんの友達からもずっと可愛いって言われてたのに!!

くやしい!! くやしいよぉおお!!

賢人お兄ちゃんがよく言っていた。
女は人と比べるのが好きな生き物だって!!
その通りだから困るぅぅぅ(>_<)!!

「たまには高価なものを買ってもいいでしょ('Д')
 お金使いたくなる時くらい誰だってあるわ!!(^○^)」

私のお兄ちゃんは2兆円の借金を背負ってるのに!!
私がお父さんからもらった9千万の
株式なんてゴミみたいなものじゃない!!

「その辺で私の話をするのはやめましょうよ!! (;´Д`)
 このタブレットの記事を見て頂戴!!!
 金融庁が何か言ったそうよ!! (; ・`д・´)」

ロイター日本語版の記事でした。

これは作品ではなく、読者の皆さんが生きている
現実世界の設定なのですが、

『夫婦そろってリタイア。年金生活を送る場合、
 100歳まで生きるのに必要な現金は2000万』

旦那さんの厚生年金を収入源にすると仮定し、
夫婦の生活資金は月平均で4万前後不足する。
必然的に貯金を切り崩すのです。
貯金を切り崩しながら、病気や介護におびえながら
過ごす日々。生きた心地がしないことでしょう。

この試算は、金融庁だけでなく多くの
ファイナンシャル・プランナーが指摘していることです。

『国民の皆さんは、自己責任で資産の運用などをして
 財産を増やすか、もしくは働く場所を見つけて
 生き延びてください。アホが手を出すと株は危ない、
 不動産、先物取引、信用取引、外国為替(FX)も同様です。
 ちなみに金のない奴は、さっさと死んでください』

「どう思うこの記事!? 
 二千万なんて大金普通モテないわよね!? (T_T)」

持つの漢字が違うわよ。瞳のドアホ。

「うるさいわ(>_<) そこじゃないのよ問題は!!
 金融庁はお金を持ってない人は死ねと言ってるのよ!!」

「事実だからしょうがないでしょ。
 日本なんて昔からこんな感じじゃない」

「真顔やめてよ! 顔文字使って(;´Д`)」

「はいはい(´・・`) これでいい?」

「美雪さんはこの記事についてどう思ってるのかしら(*_*;」

「だから、事実だって(-_-;)」

「事実!?(^○^)」

ここから私はパパ直伝の経済学と政治の話を聞かせてあげた。
私の話は長く、難解で専門的だったため、坂上は
途中で話に付いていけないようだったのが滑稽だった。
こいつ、お嬢様で良い教育受けてきた割には経済のことはさっぱりじゃない!!

一つでも瞳に勝てる要素があったことに感謝!! パパに感謝!!

こんばんわ。坂上瞳です

前回の話の続きです。
美雪さんが、どや顔で経済と政治の講義をしてくれました。
電車内でする話じゃないと思うけどね。
だって車内って難しい話をする雰囲気じゃないと思うのよ。
他の人に聞かれちゃうのも嫌。

「ロスチャイルド家って知ってる?(+_+)」

世界的に有名な大富豪でしょうか。
名前だけは聞いたことがあります。

「世界の金融市場はユダヤ系が牛耳ってるってことよね(^○^)」
「そうそう(^○^)」

同じ顔文字使わないで!! 
どっちが話してるのか分からなくなるわ(^○^)

つまり、世界で一番お金を儲けているのは銀行家(中央銀行)
銀行がありもしないはずの利子を作り出し、企業に貸し付ける。
国の発行した国債を買う。マクロ経済のレベルでお金は流動するのだ。

「銀行は、貸し手なんだよ(^_-)-☆」

つまりお金は貸す側が偉い。
債権者こそが資本主義で一番偉い。
逆に債務者はまさに底辺。

お金を指標として、『人間の尊厳と価値』が
決まるのが資本主義の本質なのね。

「私のパパが小さい頃によく言っていたんだけど」

美雪さんのお父様は、資本を持てば、資本主義の世の中を
生き延びることができるとおっしゃった。

「バブルの頃は、お給料を全部使っちゃう人が世の中にたくさんいたんだって。
 これからも自分の給料は上がり続ける。終身雇用だから解雇される心配はないって」

この小説ではすでに廃止されていますが、
現実世界でも定年制が廃止になるそうですよ

定年制の廃止。
間違いなく退職金制度もこの世から消え去る。
政府与党は各企業に対し、70歳までの労働の義務化を検討中。
のちに70歳以上も検討されるのは確実。

「自営業ならともかく、会社で70まで働くのって辛いと思うわ。
 年を取ると会社への通勤手段も限られるし。
 日本人は一生働かなくちゃいけないってこと!?(T_T)」

「うん。お金のない人はね(´・・`)」

彼女のお父様の話では、バブルの崩壊を見抜いていた人は、
銀行内に一定数いたという。不動産価格の異常な高騰、
日経平均株価の無限ともいえる伸び率は実体経済を表してない。
つまり幻想。バブルに過ぎないから、いつか崩壊する。

「パパは賢いから、給料が高かった時も
 せっせと貯金して投資信託を買っていたよ(^○^)」

「あぁ。S&P500 ETFってやつね(*´▽`*)
 24年間も運用するなんてすごいわ」

「うん。それにね。
 安定したGDP成長率を誇る米国の、主要な指数に連動する
 ETFだから、安定した資産運用が可能なんだよ(^_-)-☆」

米国株の主要な指数。

・ニューヨーク・ダウ・工業株30種・平均株価指数
(ニュースでよく使われるダウ平均株価のこと)

工業を中心に金融・通信など、ニューヨーク証券取引所や
NASDAQ(ナスダック)に上場された、主要業種の『優良銘柄30種』を
対象に算出される。世界の経済に影響を及ぼす米国の株式市場の
動向を捉える指標として重視されている。

・ナスダック
1971年に全米証券業協会(NASD)の主催で開設された
アメリカ合衆国にある世界最大の新興企業(ベンチャー)向け株式市場
つまり成長が期待されるハイテク銘柄が多い。

・S&P500指数
ニューヨーク証券取引所、NYSE American、NASDAQに
上場している銘柄から代表的な500銘柄の株価を基に算出される。
機関投資家(プロのこと)から、運用実績を試す意味での指標にも使われる。



美雪さんはここで毒を吐き始めた。

「バブルの頃にすでに人生の勝ち負けが決まっていたんだよ( ゚Д゚)」

馬鹿⇒お金は全部使う。
賢者⇒貯金する。
超賢者⇒運用する。

な、なるほど。確かに元手がないと運用も出来ないものね。

「インフレ・リスクって知ってる?(-_-)」
「え?(;^ω^)」

現金預金がありすぎても良いことばかりではない。
インフレになったら物やサービスの価格が上がる。
相対的に、『それまで溜めていたお金の価値が下がる』

しかし実際の日本では逆のパターン。
バブルがはじけて物価が超下落した。デフレである。

「つまり同じ量のお金を持っていても、インフレの時より
 デフレの時の方がたくさんの物を買えるのね( `ー´)ノ」

「その通り(>_<) バブルの時に貯金した人は得したね。
 物やサービスの価格が自動的に下がってくれたのだから」

逆にインフレになっていく世の中では、お金の価値が
下がってしまうので株などの金融資産を保有している方が有利。
好景気では株価も上がる傾向にあるから。

ファイナンシャル・プランナーの基礎知識として
リタイヤメント・プランニングがある。
(老後の人生設計)

美雪さんのお父様は、子供たちが生まれた時から
自分の老後の資産を構築しようと、無駄遣いはせずに
投資信託へとお金を動かしていた。

現在、美雪さんへと資産が受け継がれました。
米国株、債券、現金のドルを含めて時価評価額で9100万円ほど。
今よりもっと円安だったら100万単位で得してているでしょうね。

「パパが毎月私にくれる雑誌があるんだけど」

日経マネーとダイヤモンド・ザイという雑誌です。
なるほど。美雪さんはマネー雑誌を愛読しているから
ますます経済に詳しいのね。

……ちらっと読ませてもらったら、
すっごく難しいことが書いてある(>_<)

FRBが最新の雇用統計の悲観的見方から
金利の引き下げを検討している……?
欧州中央銀行のドラギ総裁の任期が10月まで……?
そもそもFRBって何よ。 

「先月号の特集は自分で作ろう自分年金、だったの(*´▽`*)」

長期の運用で年金の不足分を補い、豊かな老後を送る。
この雑誌すごいわね。美雪さんクラスの資産を持ってる人が
ゴロゴロ乗っているわ。個人資産の総額が3億って人もいる。

例えば美雪さんが日本円で9000万円分の米国株式を
運用したとして、長期配当金投資の戦略で
毎年配当金をもらったと仮定。

おそらく毎年220万円くらいは、なにもしなくても美雪さんの
証券口座に振り込まれる計算になる。
(実際はUSドルなんだけど、小説内では為替レートの計算はしない。
 あと業績が悪化してもめったに減配しない企業が多いのが米国の魅力。
 美雪さんのお父さんはその手の優良企業に集中投資しているみたいよ)

これに美雪さんが将来得られるであろう厚生年金等を足せば、
美雪さんの老後はすでに安泰。
仮に生活費が少し不足したとしても、コンビニで
週3回、5時間シフトのアルバイトすればおk。お気楽人生ね。

普通に考えれば60歳以降も毎年海外旅行に行けるわね。
この小説でなく『現実世界の日本だったら』だけど。

これが資本主義の本質。美雪さんは米国企業に対し
出資する側なので『配当金を受け取る権利』を有する。
『お金を貸す側』が偉いのはこの理屈ね。

※坂上瞳は株式投資を融資と勘違いしていますが、
 株式投資は元本保証がないため、損をする可能性がある。
 したがって厳密には『お金の貸付』ではありません。

でも大切なことを忘れてはいけない。
これって「元手」がないとできないもの(;'∀')

「美雪さん。私ね。前から気になっていたことがあるの('_')」
「なあに?(^○^)」
「日本では美雪さんみたいなお金持ちって珍しいんじゃないのかしら。
 そもそも株の運用って高度よね。普通に人に出来るの?(; ・`д・´)」

美雪さんの回答は、
⇒けっこう難しいとのこと

よくある入門書「サルでもできる株式投資。目指せ一億円!!」
       「私はこの方法で資産を10万円から3億円まで増やしました」

「こういう本を書店でよく掛けるわ。
 やっぱり詐欺なのかしら?(*´ω`*)」

美雪さんは心底嫌そうな顔で毒を吐く。

「バカに向けて書かれた本」
「スピードラーニングとレベルが変わらない」
「飲めば痩せる酵素ダイエットを買っていた同級生と同じレベルのアホが読む」
「パパが一番嫌っていたタイプの本」

彼女の言葉をまとめますね。
株の運用に必要な知識はたくさんある。

何と言ってもマーケットの流れを正確に予想することは誰にもできない。
逆らうこともできない。市場を出し抜くこともできない。
この世界に踏み出す覚悟を決めた以上、
国際金融市場の流れに身を任せないといけない。

危険がいっぱいな大海を旅するのに、知識と経験の武器を持たなければ
『必ず死ぬ』『必ず大損をする』『お猿さんにはできません』

金融、マクロ経済、経営学、貿易、為替。
最低でも大学一年生レベルの経済学の知識は必要。
マーケットの動きを読み取るのに必要ですから。

日本経済新聞、ロイター、ブルームバーグがすらすら
読めるレベルになるまでは投資を始めるべきではない。

家の資産の管理なら
ファイナンシャル・プランナーの知識は必須。
子供が生まれた時から、満18歳か22歳までの
養育費の計算をしましょう。悪徳保険会社に特に注意。

保険会社は、ほとんど詐欺です。
死亡するリスクですが、
統計的に考えれば30代未満の世帯主とか、生涯独身者が
生保に加入する意味は99パーセントないと断言できます。

だって遺族年金、高額療養費制度などの公的保険の存在があるのですから。
がん保険こそ劣悪な詐欺の筆頭です。

そして株で大損するのが怖いのなら
「そもそも生活に必要のないお金の範囲」で投資をするのがベスト。
生活に必要な資金は、最低でもお給料の3ヵ月分。
防衛用の現金資産として保有し、余ったお金で運用する。

企業の財務分析をするなら、
「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュ・フロー計算書」が読めないと
粉飾決算が見抜けないばかりか、投資適格株の判定すらできない。
その場合は投資でなく、投機。ただのギャンブルになり果てる。

その企業の歴史、事業内容が人前ですらすら説明できる程度の知識は必須。

質問の例
「どんな会社なんですか?」
「(各セグメント別の)事業内容は? 直近の決算内容はどうですか?」
「経営者の今後の経営本心はどうなっていますか?」

株主総会にもできれば出席したい。

各国の中央銀行の金融政策が分からないと
長期金利の推移、為替が変動する理由が理解できない。
例えば日銀の黒田ちゃんの発言を世界中の投資家が注目している。

「運用は、今あるものを合理的に動かして
 最大の利益を得る行為だから( `ー´)ノ」

ふ、ふーん。ちょっと何言ってるのか分からないことばかりだったわ……(T_T)
さすが現役大学生。くやしいけど私よりずっと頭が良い子だったのね(*_*;

一応私も大学を出てる設定なんだけど、何学部の設定なのかしら。
作者から何も言われてないから大学名すら分からないわ。
え……? 文学部の米英文化学科? 
そんな学部もあるんですか。偏差値低そう。

野村総合研究所のデファクトスタンダード。
世帯ごとの金融資産の『純資産額』を元に
2年ごとに統計を取るのである。これは2018年度末の統計。

・超富裕層      5億円以上
・富裕層       1億以上
・準富裕層      5千万以上  ↑ここから金持ち
・アッパーマス層   3千万以上 
・マス層       それ以下

・超富裕層    :8.4万世帯(0.2%)
・富裕層     :118.3万世帯(2.2%)
・準富裕層    :322.2万世帯(6.0%)
・アッパーマス層 :720.3万世帯(13.4%)
・マス層     :4,203.1万世帯(78.2%)

出所(ソース)
国税庁「国税庁統計年報書」
総務省「全国消費実態調査」
厚生労働省「人口動態調査」
国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」
東証「TOPIX」および「NRI生活者1万人アンケート調査(金融編)」
「NRI富裕層アンケート調査」などからNRI(野村総研)推計。

預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険など、
世帯として保有する金融資産の合計額から負債を差し引いた
「純金融資産保有額」を基に、総世帯を5つの階層に分類し、
各々の世帯数と資産保有額を推計しました。

以上、どっかのニュースサイトからのコピペでした。

「美雪さん。純金融資産って何?(; ・`д・´) 
 文章を読んだだけでは難しくて頭に入らないわ」

「だよねー。分かりやすく言うと…( 一一)」

※純資産
資産から負債(借金)差し引いた額。

たとえば、新築住宅の資産価値が2500万だったとする。
しかし住宅ローンが3000万残っているとする。
仮に貯金がゼロだった場合、純資産額はマイナス500万。

つまりローンは会計上は負債で計上するのだ。

来年で満期になる貯蓄型保険がおりそう。それも資産に計上。
10年国債を先月買ってしまった。それも資産に計上。
株式の時価評価額が100万ある。それも資産に計上。

つまり、現金以外の資産を持っていても、現時点では
お金ではないけど、すぐにお金に換金可能なものは金融資産
(会計上は流動資産と呼ばれるわ)として考えていい。

「住宅ローンのある人は相当に不利じゃないの!!(; ・`д・´)」

「そうなんだよねぇ。マンションやアパートで賃貸暮らし
 じゃなければローンのない人ってまずいないと思うし(=゚ω゚)ノ」

「住宅の資産価値は買ってからすぐ値下がりするんだから
 普通に考えて意味はないんじゃ……(*´з`)」

「その顔やめて。キモい(^-^)」

現在の金利で、住宅ローンは4%くらいが適用されてる(だったと思う)
土地を含めず、住宅のみの価格が2500万だとすると、
元金2500万に対し、フラット35(元利均等返済)で
支払う金利がなんと1100万。35年で1100万も支払うのだ。

最近の若者はすぐ離婚する。
離婚し、退去するリスク、
仕事が首になってローンの支払いが困難になるリスクを
考えると、背筋が冷たくなる。

住宅ローンは、家計の経済を考えるうえで
最大の支出であり、最大の事業なのである。
終身雇用制度が確実に崩壊する日本では、
(崩壊した、と言った方が適切か)
そもそも破綻している制度といえるだろう。

逆に言うと、住居費の問題をクリアーすれば
生き延びれる確率が格段に向上する。

「金融に詳しい人なら賃貸の方が得だってことは知ってるよ。
 でも子供達が安心して暮らせるって意味で住宅を買う人はいるよ。
 賃貸より近隣住民とのトラブルも少ないしね(^-^)」

「マス層(78.2%)の人たちって、国民のほとんどじゃない!!(;´Д`)」
「そうそう。これが資本主義の現実なんだよヽ(^o^)丿」

「こんな不景気な世の中では貯金しても貯金しても
 お金が溜まらないわ!! (*'▽')
 一億総貧乏になってしまうじゃない!!(;'∀')」

「貧富の格差が拡大してるよね。
 資本主義が成熟した世の中では極限まで差がつく。
 社会主義の父マルクスが
 20世紀初頭にさんざん指摘してたんだよねぇ(・ω・)」

資本主義では社会主義と違って私有財産の自由があり、
政府はお金の管理は自己責任だと言い切ってしまう。
つまりせっせと貯金をせずに、あるいは生まれの不幸で
お金を得られなかった人は、一生貧乏で終わってしまう。

バブルを生きた人なら貯金はできたはずだと美雪さんの
お父様は繰り返し言っていたそうね。まあ。確かにそうかも。
今と違ってお給料はたくさんもらえたのだから。

「貯金のない人は金融庁の言う通り死ぬか、
 企業の奴隷になるかしないのね(; ・`д・´)」

金融広報中央委員会のデータ(2017)

60歳以上の世帯で貯蓄ゼロの割合、実に34%
総務省の調べでもほぼ同様。20代は過半数がゼロ←注目☆

「あっ、でも老後が苦しいなら生活保護が…」
「ヒトミさんは日本の財政赤字を知らないの?」

知るわけないでしょ。私は政治のことはさっぱりだわ。

すると美雪さんが勝ち誇った顔をして説明してくれた。

執筆時点で財政赤字1100兆は、日本のGDPの2.5倍。
先進各国の中でも飛びぬけて高く、
OECD(経済開発機構)からもっと増税するように指摘されている。

先の機構によると、日本国の適正な消費税率は17%だという。
まるで日本の国民生活を考えてないとしか思えないが、
他の経済を考慮せず「財政面」だけを考えると確かに妥当。

生活保護費は減額、審査の厳格化の方向へ調整が
進んでいるそうなの。
まあ、財政赤字額を考えれば当然の流れか。

「普通に考えれば当然だよ。公的年金や医療保険その他を
 払えない政府や自治体が、生活保護費だけ優先して
 払うんだったら国民の間で暴動が起きちゃうでしょ(^-^)」

「ちょ、貯金のない老人は……し、死ぬまで会社で働かされるの?(>_<)」

「うん。老後の生活費は自分で稼げ。
 政府は一切助けない。というか助けたくない。
 これが自民党の本音だよ」

先天的、後天的に障害のある人への給付は
無くさないと信じたいけどね。
実は原爆被害の方への給付金制度もあるんだよ。

母子手当(児童扶養手当)の額もしゃれにならなくて、
各自治体の財政を毎年圧迫してる。
離婚する人多すぎて本当に笑えないよ。
しかも別れた旦那から養育費をもらえない人が多い。

「離婚してる母親のみなさんは、生活費を稼ぐのに精いっぱいで
 老後資金をためる余裕がないだろうね(・ω・)
 いずれ子供が満18歳になり、働けるようになっても
 その後の生活をどうするか。一部の高給取りの女性だったり、
 再婚に成功して総収入が増えなければ、おそらく一生お金に困るよ(-_-メ)」

「ええー(>_<) 離婚ってリスクが多すぎるわ。
  私は未婚でよかったって今思った!!(>_<)」

美雪さんの統計では、バツイチの人たちは100%タバコを
吸っているけど、FP(ファイナンシャル・プランナー)の
視点では完全に無駄な支出。
煙草はすでに値上がりしてる。その高い価格に対し、
容赦なく消費税率の上乗せがされるので、ますます家計を圧迫する。

スマホも格安スマホや料金プランの変更などをして
固定支出を減らすのがベストな選択。
こういった計算ができる人は離婚もしないし、
そもそも結婚しない、というのが彼女の結論。賢いわ!!(^○^)

「結婚する前に夫婦ともに貯金がない。
 でも生活すれば、なんとなるって考える人も多いと思う(;'∀')」

「うんうん。若いからお金のことなんて分からないでしょね(・ω・)
 特に女の人は旦那さんのお給料に依存してしまいがちよ」

「厚労省でこういう統計もあるんだけど。
 20代の人の過半数ができ婚(-_-メ)」

「ええ!? できちゃった結婚なの!?(;'∀')
 それじゃ計画性なんてあるわけないわ!!ヽ(^o^)丿」

「乳幼児の虐待死が毎月報道されてるよね。
 加害者の男性が再婚だったり、内縁だったりするパターンが9割。
 計画性のない人が増えてるんじゃないかな(=゚ω゚)ノ」

彼らおバカさん達には、『とある法則』によって導かれているという。
美雪さんは馬鹿には法則があると主張している(*´з`)

でき婚。もしくは衝動的な恋愛結婚。
3年以内に離婚。母子家庭。だいたい子供が2人。このパターン。
元旦那とは音信不通。
裁判離婚でなく、『協議離婚』(離婚届を役所に出して、はい終わり)
なので養育費支払いの法的拘束力がなく、旦那は逃げて終わり。

芸能人ならお金があるからいいかもしれないけど、
一般的な女性の子持ちバツイチは、金融的には「致命的な」状況です。

「結婚ってこんなにも恐ろしいのね(>_<)
 私は独身でよかったぁ(*´з`)」

(あんたの家は金持ちだから
 仮に離婚したとしても余裕だろけどね(-_-)
 あと最後の顔文字キモイ)

美雪さん、何よその目は?(-_-メ)

(調停や裁判を経れば養育費の支払いは法務局が
 強制してくれますが、裁判終了までに
 弁護士費用等が数十万かかります。
 東京第二弁護士会のまとめた判例によると、平均で80万円。
 正式な離婚にはお金が必要となるのです)

残された妻は、実家の両親に泣きつくか、自分で養育費を負担することになる。
住民税非課税世帯(約220万世帯)の7割近くが母子家庭だといわれている。
子供の貧困率(世帯所得が月に11万以下)が、今や5人に1人(2108年にNHKが発表)

親に学校給食費が払ってもらえない子供もいる。
お弁当性の小学校でもお弁当を持ってこれなくて
お昼は水道水だけ飲んで済ませている子もいる……?

これ本当なの? 嘘だと信じたいわ……(´Д⊂ヽ
私こういう話を聞くと泣いちゃうのよ(;O;)

「救いがないわけじゃないよ(-_-メ)」

え…?

各自治体はご飯を無償提供する「子ども食堂」を広めている。
地域や親たちが暖かかくて安価なご飯を集めてくれるのだ。

そんなものもあるのね。
大学生の美雪さんに教えられるなんて
自分が世間知らずすぎて情けなくなってきたわ。

それにしても子供の食費さえ出すことができない
家庭は深刻な社会問題よ!!(; ・`д・´)
実は今日の話で一番気になったのはこれなのです('Д')

成長期にバランスの良い食事がとれないと内臓が弱まる。
体力のない子供になってしまうでしょう。
勉強するのには気力が必要です。脳に糖質(タンパク質)も必要です

頭を使ってるふりをしている国会議員たちは
ステーキ肉が大好きだそうです。
お肉を食べると、ないはずの頭が少しは働くそうです。
政治を考える前にコンビニ・アルバイトでもして
庶民の生活を実感して下さい。

作者さんが言ってました。
衆議院で頭の良い人は20人に一人もいない。

2017モリカケ問題集中審議で明らかになったことがある。
佐川元国税庁長官、太田理財局・局長より
頭の良い国会議員が一人も見当たらなかった。
どう考えても質問者(議員)より回答者(容疑者)の方が切れ者。

国会はバカとアホと無能の発見器。

例の戦争発言で日本維新の会から罷免された丸山穂高ちゃんも
若手にしては頭の切れは抜群だったそうです。
あの人、ただの戦争馬鹿じゃなかったんですか。
惜しい人をなくしましたね。

貧しい子供に話を戻しましょう。

子供達、かわいそう(>_<)
私は飢えたことがないから余計に泣いちゃう(~_~)
子供に罪はないのです。生まれてくる子供に親は選べないのですから。

貧困を作り出している原因は、言うまでもなく大人である。

「子供を作ることの重さを実感してほしいものだわ(ノД`)・゜・。」

「ほんとにねー(´-ω-`) 生き延びる経済力や保証がないのに
 ぽんぽん生んでたらアフリカの土人並みの低能だよ(。-`ω-)」

この調査結果を見ても、日本の経済が戦後最長の
回復期にあるとか、イザナギ?景気を超えたとかぬかしている
自民党の偉い人は脳みそにウジ虫が湧いているとしか思えませんよね。

この人達にも容赦なく消費増税をするのだから。
自民党の一番悪いところは、「ミクロ経済」を全く考慮無いこと。

国民の生活を無視して好景気を主張する政府与党。
戦時中の大本営発表から一歩も進んでいません。

軽減税率も見出しが躍って細目が複雑なクソ制度。

普通自動車税の引き下げ ⇒『新車』を2019年10月以降に買った人のみ対象
住まい給付金      ⇒↑と同じ時期に『新築』を買った人のみ

その他、キャッシュレス決済のポイント還元など。
小売り従業員、老人の客を混乱させることは必死。ほとんどがクソ。

軽減税率を実施するために国家予算が2兆7000億円くらい
使われています。増税分で7兆から11兆の税収が見込めますね。
この期に及んで増税延期を騒ぐマスコミがいますけど、

「論理的に考えて増税延期はまずあり得ないよ。
 だって一般会計で軽減税率の予算を組んでるじゃん(≧▽≦)」

「なるほど。マスコミがネタ欲しさに騒いでるだけね(゜-゜)」

「うんうん。それにね(^-^) マスコミは意図的に自民党の閣僚から
 失言を引き出すように誘導尋問と、一部発言を切り出す
 印象操作をしているんだよ。ネタ作りに必死だよね(*^_^*)」

「首相閣下も大臣の人たちに失言しないよう
 手引書みたいなのを配ってるって聞いたわ(*'▽')」

「大衆紙のマスコミ = 基本的に低能のカスの集まり」

「そうなの?(゜-゜)」

例えば須賀官房長官への定例記者会見を見れば
質問者の教養の浅さ、思慮のなさがすぐにわかる。

例えば面接試験でもそうだが、質疑応答は
その人の頭の程度を計るのに非常に有効らしいですよ。

美雪さんのお父様は、日経新聞以外の新聞は
読む価値がないと言い切ったとか……(。-`ω-)

離婚の話に戻りますが。母子家庭による貧困を
防ぐには、離婚しても大丈夫なように、
一定額の資産を準備するしかありません。

日銀の預金準備率、外貨準備にちなんで
離婚準備金とでも呼びましょうか。

私や美雪さんが死ぬまで不景気が続くことが
確定している日本では、一度の離婚が
致命的なダメージを与えてしまいます。

だって将来的に生活が安定するほどの
収入を手に入れるためには夫婦の共働きは必須だもの。
パートならともかく、奥さんがフルタイムで
働きながらの子育ては地獄よ。
時短家事をするにしても限界があるわ。

それに加えて日本の企業はどこも長時間労働。
子供のいる奥さんでも容赦なく残業を強いる。

日本に生まれたこと自体が罰ゲームに感じてしまうわ。
これ、なんてクソゲー?(。-∀-)
お金がないストレスで離婚率が増えているんじゃないのかしら(=_=)

「お金のない人は結婚しないほうがお得(^_^)v
 パパもそう言っていたよ」 

美雪さんの結論はそうなった(;´Д`)

さっきからパパ、パパって。
この子も何気にファザコンですよね(^o^)

19歳とは思えないほど賢いけど、
パパの受け売りばっかりなのでしょうね。
口にしたら殴られるから言いませんけど。

自民の閣僚が自己責任論をよく使いますが、
自己責任の部分も確かにありますよね。

みんないろいろ事情があるのでしょうから、
離婚する人全部が自己責任とは言いませんけど、
調査の結果「性格の不一致」が離婚理由のトップになっている
現状を考えると……擁護しきれません……。

夫婦とは『経済的にも精神的にも助け合うべき存在』だと
法的には解釈されていています。
教会では永遠の愛とか嘘っぽいものを誓ったはずのに、
結婚後は話し合いすらまともにできないようです。

助け合うどころか、足を引っ張り合ってどうするんですか(ノД`)・゜・。

ここ数年の離婚理由を調べてみると、

旦那のDV(肉体的暴力)は一定数。横這い。
奥さんの精神的DV(ヒステリー)は増加傾向
旦那の突然のリストラ。その後の再就職の
失敗により、奥さんが見限るってパターンもあります。

ちなみに「性格が合わない」「価値観が合わない」では
裁判では法的な離婚事由に該当しません。
そんな甘い考えでは日本の民法は離婚を認めないのです。
『夫婦仲改善の努力義務』を怠ったと判断されるためです。

実際の離婚者のおよそ8割が「協議離婚」で終わっているのです。
協議とは「もう離婚しよーぜ」「そうねー」「はいハンコ」で終わりです。

これが自民党の主張する「自己責任」に該当します。

読者のみなさんも、生きていくの必要な法律の知識も身に着けましょうね。
お金はいりません。必要なのは時間と本を読む気力です。
図書館なら無料で本が借りられますから。


結婚後に相手の性格に気づくとかあると思いますけど、
結婚前に3年程度の同棲をするとか、
お見合いで慎重に相手を選んだ場合は
離婚率が下がる傾向にあります。

作者さんの過去作品を例にしても

『孤島生活』の堀太盛とエリカの夫婦の仲は険悪ですが、離婚していません。
  むしろ孤島で暮らす不便さと北朝鮮との戦争によって
   夫婦の絆が回復しました。

『モンゴルへの逃避』での堀夫妻は修復不可能なレベルにまで悪化。
 奥さんを嫌がる旦那。奥さんは離婚を拒み続けました。
 彼をモンゴルまで追いかけて婚姻関係を継続しようとした。
 その努力はすさまじいです。

これが法律に書いてある努力義務なのでしょう。
ちょっと努力しすぎな気がしますけど。

何よりすごいのが、奥さんにとっての旦那の浮気相手に
該当するのが、実はメイドのユーリではなく娘のマリンだったこと。
『熱烈で安定感のあるファザコンのマリンちゃん』も作品のテーマでした。

『学園生活』の高野夫妻(ミウの両親)も夫婦仲は冷めきっていました。
 奥さんが旦那に経済的に依存(専業主婦)しているため離婚はしません。
 実は昭和バブルの一般的な家庭を例にしているのです。
 
 奥さんが旦那さんに食べさせてもらうと、奥さんの側は離婚しようがない。
 旦那は高給取りで浮気し放題。精神的には最低。
 イケメンで高収入なら女が寄り放題。

 旦那さんは女にだらしなくてもお金の運用はプロです。
 奥さんも生まれが良く教養を身につけていて、
 夫婦で株を運用しています。
 著名なアナリストが分析しても高野家の財務健全性はAランクでしょう。

『学園生活』『学園生活・改』での太盛とミウも考えてみましょう。
二人は表向きは恋人なのです。
生徒会主導の共産主義による学園支配、ミウの恋敵のマリーが
現れなければ 3話くらいで2人は結ばれ、物語は終わります。

しかし上の二つ、特にミウが共産主義者。太盛は自由主義者という、
地位と政治思想の違いから絶対に二人は結ばれない運命にありました。
政治思想の違いによって恋愛を成就させない。
市販の少女漫画にはない設定だと思っています。
政治の要素が出てくる少女漫画を私は読んだことがありません。
それより作者さんの作品は少女漫画を意識していたんですか。


・馬鹿の法則とは……

馬鹿とは、馬と鹿を並べて表記しますね(;・∀・)
うましかさん、のことです。

「誰に敷かれたわけでもないのに、
 バカのレールの上を歩いて致命的な失敗する。
 そして一生這い上がることができない(^-^)
 周りの馬鹿を見てるはずのなに自分も同じ失敗をする」

美雪さん……。きつい言い方ね(;´Д`)

「これからも貧乏な人は量産され続けるよ。
 お金の管理の仕方を学校や自治体で教育しないと
 日本はガチで貧乏人大国になるよヽ(^o^)丿」

ひえええ(;´Д`)

逆に資産を溜められる人にも賢い人の法則がある。
美雪さんのお父様は賢者の代表格。

普段は眠そうなしゃべり方で覇気がなく、
ヨレヨレのシャツを着て、とてもお金持ちには見えない。
ああいう人ほどすんごく頭が良くて、資産をたくさん持ってるのね(^_^)v

お金持ちの家庭で育った子供ほど
お金の価値を正しく認識している人が多いのも、
野村総研の調査で明らかになっている。

それにしても……
お金のない人は死ぬまで
働かされるって思うとゾッとするわ……(;´Д`)

途中で体が悪くなって働けなくなっても、
医療費を自分で払えなったら終わりね。野垂れ死に…(-_-)

馬鹿⇒お金は全部使う。
賢者⇒貯金する。
超賢者⇒運用する。

さっきも書いたけど
この流れが令和日本の基本となってしまうのね。

昔はたくさんお給料がもらえたそうだけど、
今は一度貧乏になってしまったら二度と這い上がることはできない!!
だからこそ、読者の皆さんにもお金は大切にしてほしいものだわ(; ・`д・´)


これがまさに-----------------金融リテラシー!! (;^ω^)


積み立てNISA(非課税の投資枠のこと)なら
月1万から5万の投資信託もあるみたいね。
若いうちから貯金か運用をしないと絶対に将来死ぬわよ!!
それだけは私が声を大にして言っておくわ!!

「お金持ちのお嬢様のあんたが言うな('Д')」
「な、なによ!! 私が言ったっていいでしょ!!(>_<)」

あれ……? ちょっと待ってほしいのだけど。
美雪さんの説明だと日本人がみんな貧乏みたいな言い方してるわ。

この前テレビでやってたけど、老人の平均貯金額は2000万だって…

「うん。金融広報委員会のデータだと、そうなってるよ( `ー´)ノ
 60代の平均値が2500万? 中央値が1750万だったと思うヽ(^o^)丿←てきとー★」

平均値と中央値に関しては説明するのがめんどくさいので
自分で調べてくださいね。とにかく中央値が正確な数字なのです。

それにしても驚いたわ。中央値の1750万円でも十分お金持ちに感じてしまうわ。
1750万円ほどの大金を持っていたとしても、
上に書いてある野村総研のお金持ちの定義に当てはまらないのね。

「坂上ちゃんは統計の見た方が分かる? ここから分かることは…(^○^)」

坂上ちゃんって失礼ね。……私はあなたより年上なんですけど。

「60代の34%が貯蓄ゼロ。それなのに中央値が1750万。
 もちろん億単位で持ってる人も統計に含まれている(^^♪」

ということは……

「老人の貯金額の格差も大きいってことね!!( `ー´)ノ」
「その通り!! 持ってる人は億!! 
 持ってない人はゼロ!!( `ー´)ノ」

顔文字がかぶったわ!! 

日本では株式投資家の過半数が60代から70代なそうね。
それだけお年寄りにはお金を持ってる人が多いのよ。
むしろ若者には投資に回せる余剰資金がないのが正解。

美雪さんは若干19歳にして株式投資をしている。
おそらく全体の0.2%にも満たないレベルね。

金融庁、財務省はアベノミクス相場での「投資」を
繰り返し日本国民へ伝えてきた。貯蓄から投資へ。
前回の話で書いた金融庁の記事も、お金持ちは
どんどん投資をしなさいと言っている。

「なんだか数千万とか桁が多すぎて頭がふらふらするわ。
 私はそんなに大きなお金なんて意識したことないもの(*_*;」

「あんたは金持ちのくせに何言ってんのよ」

10歳以上年下の人に、あんたって言われちゃった……(´・ω・`)
少し傷つく。あと金持ちはそろそろやめて。

「私は普段からお財布の中に3千円しか入ってないのですけど(>_<)」

「うわー。でた。庶民アピール。ウザ。ムカつく。
 カードとか親から渡されてるんじゃないの?」

「カードはいくら使ったか分からなくなるから家の金庫にしまってるわ」

「金持ちはどんどん使えよ。てかアパートなのに金庫とか持ってたんだ」

「簡単に使えるわけないでしょ!!
 お金は大切に使わないといけないわ!!(; ・`д・´)
 あなたのお金の話を聞いてますます貯蓄意欲が高まったわ。
 老後を生き延びるためにも!!(*‘∀‘)」

「……いくらもってんの?」

「え?('Д')」

「だから、あんたの親。いくらもってんの?」

「さ、さあ知らないわ(>_<)
 坂上家は子供には財産を教えてくれないのよ。
 たぶん弟も知らないと思う。
 知ってるとしたらお兄ちゃんくらいかしら('_')」

「じゃあ調べて。私のパパの資産額だけ公表されてるのに
 あんたの家だけわからないと不公平だから」

真顔をやめて頂戴!! その顔されるとまた
殴られるんじゃないかと思ってタイピングに影響が出るわ!!
なるほど。誤字脱字が多いのはそんな理由があったってことにしましょう。

「美雪さんは知らないでしょうけど、事業をやるってことは
 多額の借金を背負い、前年度以上の売り上げを達成しないと
 借金を返済し続けることはできないのよ。
 坂上家だってそんなに裕福ではないはずよ( ゚Д゚)」

「こちとら大学で経営学を学んでるんですけど。なめとるんか?
 あんたは生活費を親に全部出してもらってるんでしょ。
 税金すら自分で払ったことがない時点で金回り最高やろが」

「それは違うのよ。私はいらないって言ってるんだけど、
 パパとママが、どうしてもっていうから、払ってもらってるのよ(; ・`д・´)
 おかげでパパとたまに会っても仲良しで喧嘩することもないわ。
 親子の関係を良好にするための、一種のボランティアかしら(^^」

あ、やばい。
美雪さんの顔がどんどん険しくなっていく。

実はパパの溺愛と束縛が強すぎて結構ウザいの。
だからあまり会わないようにしてるんだけどね。
パパが私を心から愛してくれてるのは知っている。

母様は私を今でも子ども扱いして腹パンとか
してくるけど、愛情の裏返しなのでしょう。

「ヒトミちゃんはお金持ち~(^-^)はよ死ねよ~」

また殴られると思って席を立とうとさえ思いました。
妙に快適で清潔な車内だなと思っていたら
電車じゃなくて新幹線なことに気づきました。

どうやら私たちは新幹線に乗って移動していたようです。
私ったら、いつの間に新幹線のチケットを買ったのかしら。
経済の話に夢中になると自分が電車に乗っているのか
新幹線に乗っているかすら忘れてしまうようです。

皆さんも気を付けましょう。

あっ、警備員の男性が車内を定期的に行き来しています。
ガタイの良い人って素敵ですよね(^^♪

てことで誤魔化して次の話へ(;´Д`)

こんばんわ。またしても私

※坂上瞳の提供でお送りします。

今まで誤字脱字が多すぎたので
推敲に時間をかけながらの投稿です。
それでもミスが減りませんでした。すみません。

「ひ、ひとみかい? わざわざパパに会いに来てくれたんだね。
 あぁ。夢じゃないんだよね。ヒトミ。ひとみぃいい!!」

私達はお父さんの会社、ペンタックの本社に乗り込むことに成功しました。
どうやって乗り込んだかはよく分かりません。
ペンタック本社は建物でなく、なぜか軍艦でした。
より具体的に言うと空母でした。

福岡の博多湾に浮かんでいる空母です。
なぜ会社が空母を保有してるのでしょうか。
ブラック企業なので普通の建物だと
会社を辞めた人に燃やされる恐れがあるから、だそうです。


私と美雪さんはメインブリッジの奥にある、
作戦ルール?的なところでパパと会っています。

美雪さんはもの珍しそうに艦内の設備を見渡しています。

「瞳に最後に会ったのは三年も前だよ!!
 あの時の瞳は29歳だったか。今でも余裕で
 20代で通じるほどの肌の張り、髪の毛の艶!!
 ああ、私の娘はやはり世界一可愛い!!」

パパが私にハグしてきます。
赤の他人だったらセクハラで通報したいところですが、
パパですからね。我慢しましょう。

問題はこの作戦ルーム(会議室?)には他の役員さん達も
勢揃いしていることです。

パパは50代の前半ですが、他の役員さん達は60歳代の方とお見受けします。
すごい貫禄と威圧感。重役用の椅子に座り、長い会議室用のテーブルに
並ぶ姿が、空母と同じくらいのプレッシャーを私に与えます。

「しゃ、社長閣下のご息女様でございますか……」
「な、なるほど。噂にたがわぬ美しさ……」
「私はてっきり芸能人の方が来訪したのかとばかり……」

みんなパパに気を使ってお世辞を言ってます。
私は女子高生と比べたら、おばさんの自覚さえあるんだけど。
容姿を褒めるんだったら私より美雪さんの方でしょ。
美雪さんは性格はアレだけどスタイルもまあまあだし、
顔はすっごく綺麗よ。

「うむうむ。そうだろう君達。どうだ諸君ら。堅苦しい会議ばかりで
 疲れているだろう。私の娘の写真でも見ながらリラックスしたまえ」

パパは、プロジェクターを起動した。
壁に映し出された大きな画面に私の幼稚園のお遊戯の時の
写真が映し出されていきます。もうね。
この羞恥プレイに名前とか付けたほうが良いのかしら?

パパは大切にとっておいたと言う、USBメモリを得意げにPCに
接続し、私の成長記録の写真およそ3万点をみんなに見せると言ってる。
3万枚もあるの……?

「これはすごい!! 幼少の頃から美貌を予感させる!!」
「本田望結ちゃんと、うりふたつ!! もはやそれ以上の美しさ!!」
「これほどのかわいらしさでは、子役のオファーが殺到したことでしょうな!!」

ワイングラスを傾けながら、小さな拍手さえ起きる。
中には嘘じゃなくて本当に私にほれ込んだ人もいるみたいで、
ハゲでメガネをした、すごい貫禄を感じさせるおじさんが席を立ち、

「ヒトミお嬢様。もし失礼でなければ、写真を一緒に取ってくださらないか」
「は、はい。喜んで」

と言うしかありません。だってこのおじさん、怖いんだもの。

後で知ったことなんだけど、このおじさんがペンタックの
ナンバー2。あだ名は金 永南(キム・ヨンナム)

スマホで検索するとこの人にそっくり。
っていうか本人でしょ!!

金 永南(キム・ヨンナム)

2019年4月まで朝鮮労働党・中央委員会・政治局・常務委員を務めたほか
最高人民会議・常任委員会委員長を20年にわたって務めた。
党内序列は最高で第2位であった。 たぶんすでに処刑された。

「わが祖国にもあなたに匹敵するほどの美女は
 そう見当たらないことでしょう」

「は、はぁ……光栄ですわ」

おかしいのはヨンナムさんだけじゃない。

他の役員さん達もよく見ると日本人の顔をしてない。
なんとここは、ソ連人など共産主義者の集会場だった。

またしても出ました。キーワード「共産主義」
ほんと共産主義好きですよね!!
うちのパパの会社役員を共産主義にする意味はあったのかしら!?

他の役員の顔は明らかにロシヤ系やグルジア系白人で、

「イワン・コーネフ」
「ゲオルギー・ジューコフ」
「ラブレンチー・ベリヤ」
「コノスタンチン・ロコソフスキー」

のそっくりさんが勢ぞろいしています。
いいえ。どう見ても本人です。本当にありがとうございました。

興味のある人は画像検索をしてみてください。
全盛期のソ連邦の閣僚や元帥ですよ!!
その辺にいる日本人のおじさんとは怖さが全然違うの!!
まさに住んでいる世界が違うわ!!

これほどの大物を相手にして震えないほうがおかしいわ!!
ねえ美雪さん!!

「えっ? あ、そーだね( 一一)」

あれー(;´Д`) どうでも良さそうな反応だったけど。

「私はお兄ちゃんの借金について直談判をしに来ただけだから」

まあそれは分かっていたけど。え? 直談判ってパパに?

「他に誰がいるのよ」

美雪さんは、久しぶりの娘との再会で
浮かれているパパに空気も読まずに
話しかけました。勇気あるわね。

美雪「Отец Хитоми. Здравствуй,
    здравствуйте
   Я Миюки из друга Хитоми.」

瞳「え!?」

パパ「Вы Миюки-сан!?
    Это вы добавили
    избиения Миюки!!」

美雪「Военные самолеты 20000 самолетов в
   скором времени Мы нападем здесь.
   Пожалуйста, скажи мне,
   чтобы я задохнела долг перед ним.」

パパ「シトぉ!? ダイチェムネェ パジャールスタ!!」

※ロシア語

ちょっと待ってくれない。
ちょっと二人が何を話してるのか、言語的なレベルで分からないんですけど。

「大変なことになったぞ瞳。
  美雪さんが指示すれば軍用機2万機が
  ここを空爆するらしいぞ!!」

あれ? 違和感がある。美雪さんが用意した戦力って陸上戦力だけのはず。

「しかも美雪ちゃんは瞳の親友だと言い張ってるぞ!!
 本当なのかい? ここまで仲良く新幹線で来たこと
 からも親しげな感じはするが……」

「たまに腹パンされることもあるけど、仲悪くはないのかも。
 今日は車内の殺伐とした雰囲気で経済学のおしゃべりをしたわ」

美雪さんは、私のことを食べちゃいたくらいに愛してると言い、
パパを困惑させました。まだその設定続いていたの。

パパは、メインブリッジに立って空を見上げた。
そしたら空一面を埋め尽くすほどの航空戦力が集まっている。
対艦ミサイルを満載した戦闘爆撃機の群れ。まさに絶体絶命だった。

パパはまた作戦ルームに戻って来た。
そして衣を引き裂きながら絶叫し、遺憾ながら
賢人君に掛けた借金をチャラにすると言った。

すると嘘のように空に展開していた2万機の軍用機は
どこかへ去って行きました。これにて一件落着(*´▽`*)

妹の兄へ対する愛の力が、2兆円の借金を消し去ったのです。
なんて起承転結もない適当な物語。

めんどくさいから、これで終わりで良いわね ^^♪

        令和十年、長いので以下略。終わり。

あー疲れた。
今夜は美雪ちゃんと飲みに行こうかな♪

-----------------------------------------------------

※まだ終わってません

私「え?」

厳密には物語は終わったようなものですが、
後日談的なものがあります。

愛とは何か? お金も愛である。

※三人称

坂上瞳は軍艦から降りる際、父から帰りの旅費を心配された。
これは、坂上家ではよくある場面である。

「少ないけど5万円で足りるかな(´▽`)」
「そんなにいらないよ。
 今日は多めに10万円おろしてきたから(^-^)」

隣にいた美雪は見逃さなかった。(ちっ……ムカつく(-_-))
父がこっそりと娘に「カード」を手渡していたのを。

実は美雪は、一人暮らしをする際に
父からクレジットカードを渡されていた。
利用限度額が200万までに定められている。

長い人生、何があるか分からない。
急な出費が合ったり、瞳がむしゃくしゃして旅行に
行きたくなった時のためにパパが用意してくれたのだ。

もちろんパパの口座に直結しているから、
使ったお金は分のお金はチャージしてくれる。

瞳は一度もカードを使ったことがないかと言えばウソになる。
何話前に書いたか忘れたが、高い化粧品の買い物にはカードを使った。

瞳はパパに申し訳ないと思いつつ、これも愛の形だと
正しく認識し、散財をした。満足だった。

「お父さん。私はもうカードはいらないのよ(´-ω-`)」

「でも、持っておきなさい。
 私はいくつになっても瞳のことが心配なのだよ。
 お金はいくら持っても困ることはないだろう(-∀-)」

今回渡されたのは、デビットカードである。
口座残高が500万以上。限度額は口座残高の分まで。
つまり、たくさん使えるのだ。

3年ぶりの再会で父は浮足立っていたのだ。
娘に与えるお小遣い(生活費?)にしては過剰が過ぎる。

筆者はそう思うが、こういったご家庭も
日本にはあるのだと納得しよう。

瞳は、旅仲間の美雪から殺意のこもった視線を感じた。
(#^ω^) ←こんな顔

だが軽くスルーした( ´∀` )

確かに自分で稼いだお金ではない。
とは言っても、父がぜひにとくれるものを
突き返すのも悪い気がした。

パパも今の地位を一代で築いたわけではない。
瞳は幼いころからママに聞かされたことがある。
お父様の、その先代の代から、坂上家は多くの不動産を
所有する家絵柄だった。

事業が成功したのはおじいさんの代からだった。
父は婿。坂上家は代々、外から経営の才能のある
優秀な婿を選ぶことで家の繁栄を維持してきたという。

だからママはこう言うのだ。

「ヒトミは私達両親に生活を依存してるのは事実ですが、
 私達もまたご先祖様の残してくれた遺産によって
 生かされているのです。人とは、常に誰かに依存して
 生きている物なのですよ。そしてそれは当然のことなのです」

お金持ちはお金を減らさないように努力するのが普通。
持たざる者は増やすことばかり考える。(そして使ってしまう)
すでに財産を持っている者は、むしろ減ることの方が怖いのだ

瞳は、中学生までは物欲の強い娘だった。
洋服屋さんに行ってほしい物は何でもねだり、母を困らせていた。
毎年夏休みは欧州各国を旅行し、取った写真を友達に自慢さえしていた。

ママと同じブランドの化粧品カタログを眺めるのが好きだった。
宝石にも興味を示した時はひどかった。
とても中学生が買えるレベルではないネックレスや
指輪に手を出したのは、まだ14歳の時だった。

瞳は今でも覚えている。パパに大学には将来
行かないからと、多めにお小遣いをねだり、
中二から中三に掛けて月11万円のお小遣いをもらっていたのを。

大切な貴金属を勉強机の二番目の引き出しに締まっておき、
家に帰っては引き出しの中を眺め、悦に浸った。

そして高校に進学する頃、それが当たり前ではないことに
だんだんと気づき始めた。中高一貫のお嬢様校では
周りはお金持ちの人ばかりだから感覚が狂っていたのかもしれない。

高校に進学し、勉強を頑張るようになる。
中学では下から数えたほうが早かったのに
クラスで上位の成績を取った時は浮かれた。

親はもっとお小遣いをくれるようになったのだが、
ヒトミは逆に全部貯金するようになった。

理由は分からない。世界に恵まれない子供たちがいることを
テレビで知ったからなのかもしれない。
アメリカの大富豪ウォーレン・バフェット氏が質素倹約な生活を
好むことを知ったからかもしれない。

「親が一生懸命働いて得たお金なのに、
 私が無駄遣いしたらもったいないわね。
 ご先祖様達に対しても申し訳ないわ」

最初はささいなことから始めた。
学校帰りの楽しみだった、コンビニ通いをやめた。
ハーゲンダッツなど高いアイスを買うのが趣味だったのだ。

お洋服は、流行遅れになるまで買い換えないようにした。
大学生の頃は他の子よりも地味な服だったと思う。

化粧品やコスメはコンビニやマツキヨでも十分な気がした。
お母さんが使っている高い化粧品には触れないようにした。

お金を使わなくなると、お小遣いがどんどん溜まっていった。
それが逆にむなしかった。自分で働いたお金でもないのに。
毎年のお年玉も銀行口座の残高に変わっていく。

周りにの人から見たら瞳は倹約家ではなく、ただのケチだった。
父の事業が失敗したのかとまで疑われ、友達付き合いが悪くなる。

だがヒトミは不思議な子で、女の子にしては珍しく
孤独なのが嫌じゃなかった。
大学の図書館は圧倒的な蔵書を誇る。
図書館なのでお金もかからない。
図書館によって小説を読むのが日課になってしまう。

日本人作家のサスペンスものがお気に入りだった。
退屈な現実世界と違い、小説の世界は刺激的だ。

恋愛に関しては冷めきっていた。
幼いころから見ていた父と母の不仲のせいもあった。
威張るのが好きな兄も大嫌いだった。

だから男に幻想も抱かない。何よりお金なら余るほど持っている。
坂上瞳は経済的に男に依存する必要がなかったから、
そもそも男に求めている要素がほとんどないのだ。

家に置いてある漫画は、弟が飽きて読まなくなった少年漫画ばかり。
少女漫画は小6の時に馬鹿らしくなって読むのを止めてしまった。
誰もが夢見る乙女チックな恋愛なんて、
現実にはあるわけないし、理想を抱くのは好きじゃかった。

背が高くイケメンの男子を見ればカッコいいなぁとは思うが、
それだけである。付き合いたいとか、そういう感情までは抱かない。
好きな芸能人や俳優も特にいない。

顔が美しいので男子から遊びに誘われることはあったが、全て断っていた。
高校時代の友達が次々に結婚していくのを、冷めた顔で見守っていた。
自分と同じく独身を貫いている友達とは、たまに食事に行くことがある。

(一生独身でいるのも少し寂しい)

とは思うことはある。

子供は欲しい。だが一番いらないのは旦那である。
こう思う女性は世の中に一定数存在することだろう。

家で今夜の夕飯の献立を考えながら旦那の帰りを待つ主婦。
そんな自分の姿を想像するとなぜか不愉快だった。
やはり自分には主婦になる資格はないのかと、少し残念に思った。

「なあヒトミさん。お金ってなんなんだろうな」

そこには賢人がいた。

「最近離婚率が増えているけど、昔の離婚が少なかったのは
 妻が旦那に経済的に依存していたからなんだってさ。
 お金さえ自由に手に入れば夫婦関係なんて長続きしないんだよ」

金は、男女の仲さえ引き裂いてしまう。
逆に男女の仲をつなぎとめることもある。
子供の存在も重要ではある。だが子供を育てるのにもやはり金が必要だ。

「私なりにこの作品について考えて見たの。
 きっと作者にとって物語の起承転結は十条じゃないのよ」

「俺も同意するよ。
 お金について学ぶ機会を読者のみんなに与えたい。
 そんな思いがひしひしと伝わってくるんだ」

そんな時だった。

ここは空母の停泊する港(軍港?)である。
堤防沿いに釣り人達が居並ぶ一角に、深く帽子をかぶった一人の男がいた。

男は32歳の男で、この作品の作者だった。
彼は一見すると釣り人に思えるが、釣り竿を思っておらず、
5月の日差しが乱反射する水面を、体育座りをしながら見守っていた。

「あいつっ……!!」

「おにいちゃ…」

妹の静止も聞かずに賢人は駆けた。

ぽんぽんと、リストラを意識した肩の叩き方をし、作者を動揺させた。

「なっ……?」

作者は
賢人の姿を頭の先から足のつま先まで見渡した後、
なぜか逃げ出そうとした。

「逃がさないわよ!!」

追いかけて来た美雪がダイブし、作者と共に転げる。
作者はあきらめの悪い男で、のしかかる美雪をのけて、
さらに逃走を始めた。

肌は浅黒く、中肉中背の黒髪でこれといって特徴のない男だ。
よく見るとお腹が出ていて、持久力に問題がありそうな外見だった。

「待ちなさい!!(; ・`д・´)」

今度は、坂上瞳嬢が両手を広げて立ちはだかる。
レオナルド・ダ・ヴィンチの解体新書のような
ポーズだと作者は笑いそうになる。

「俺は悪くない」

「はい(*'▽')?」

電話口では50代の男性によく間違われるほど低い声だ。
作者は誰に何も言われたわけでもないのに、今回の作品について
言い訳を始めた。

--------------------------------------------------
※ヒトミの一人称

「俺は最初に設定を考えた。あとは君たちに展開を任せた」

一人称リレー形式のとこでしょうか。

「たまに、指示を出したこともある」

ああ、あれですね(´-ω-`)
美雪さんがレズになったり、賢人君が熱烈なシスコンになったり。

「そこそこ面白い試みだったと自画自賛してる。
 ぶっちゃけ終わり方なんて考えてなかった。
 終わりなんてどうでもいいんだよ」

それだけ言ってまた駆けだしました。
この人走るの好きですね。フォームだけはプロっぽいんですけど。

「まちなさーい!!(´゚д゚`)」 「このやろぉおおう!!(ー_ー)!!」

近親相関のネタにされた渋谷兄妹が、
鬼の形相で追いかけています。
捕まったら腹パンされるのは必死ですから作者も必死です。

若い人達は元気で羨ましいわ。

ざざーん。堤防に打ち付ける波の音。
くわーくわー。カモメさんが飛び交う、平和な港の風景です。
潮風を全身に感じるわ。自慢の髪が痛んでしまうわ。
あーバカらしい。お腹すいたから漁港でお寿司でも食べようかしら。

「お寿司だったらお嬢さんには僕が案内してあげようかな」
「あなたは……」
「美雪の父。名前は義隆(よしたか)なんだ」
「卓也さんじゃありませんでた?」

「自分の名前を忘れちゃったよ。最近物忘れが激しくてね」
「おほほ。面白い方ですね」

モンゴルに行かなくていいのかしら。
ご馳走してくれるそうだから、私はこのおっとりした
おじさんと肩を並べて歩き出しました。

一件落着。 これにて後日談は終わりです (嘘)

美雪「お兄ちゃん。貯金ってどうやってするの?(⋈◍>◡<◍)。✧♡

※ミユキ

今回のお題はこれです。

私達は喫茶店に集いました。
メンバーは、私、お兄ちゃん。ヒトミさん。
いつもの三人です。

まず瞳さんに問いましょう。

「ヒトミさんはどうやって貯金したんですか? ヽ(^o^)丿」

「別にこれと言って何も……。普通に生活していたら
 貯金がたまっていっただけよ (´-ω-`)」

私は甲子園の投球フォームを意識した動きをしました。

「ちょ!! お願いだから殴らないで!! (ノД`)・゜・。
 そもそも質問の意図を教えて頂戴!!
 貯金方法なんてどうして私に訊いたのよ!!」

「いいから答えろよ(#^ω^) 話が進まないんだよ」

「分かったわ!! 分かったから!! (´Д⊂ヽ」


坂上瞳の貯金方法(´ー`*)キラーン

・給料明細は見ない。開かない。大切にしまっておく。
・半年に一度くらいにまとめて開けてみる。
・手取り金額に納得し、(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)ウンウン♪とする。
・大きなお金を使いたくなった時に、ATMで現金を引き出す。
 その際に通帳記帳を忘れずにする。

(実はママから毎月5万円のお小遣い支給有り。
 家賃、公共料金、食費、租税は父が払ってくれる)

この女は地上の全人類へ喧嘩を売ってるとしか思えません。
給料明細を見ないでしまっておく…… はぁ(-"-)? 

こんなふざけた例を一般化できるわけがありません。
どんだけ人生を舐め腐ってるのよ。
私なんてお兄ちゃんの明細を穴が開くほど見てるわよ<`~´>
計算間違えがあったら大変だもの(^◇^)

「おいクソお嬢様 (^_^メ)」

「その呼び方っ!! (゚д゚)」

「お嬢様じゃ足りなかった?
 じゃあ、自立心ゼロの三十路女。腐れ金持ち (^_^メ)
 存在自体が不愉快だから、はよ死んでね (⋈◍>◡<◍)」

「私はお金持ちなんかじゃっ……(; ・`д・´)
 うーん、お金に少し余裕があるのは認めるわ!!
 でもお金持ちとは違うんじゃないかしら! (;´∀`)」

は?(^_^メ)

「野村総研のデータによると、お金持ちって
 少なくとも5千万も純資産を持ってる人のことを言うのでしょう!!
 私は恥ずかしいけど470万しかもってないわ!!(;・∀・)」

「370じゃなかった?(´▽`)」

「いくらか忘れちゃったから、どっちでもいいわ!!
 話を戻すけど、私クラスの貯金を持ってる人なんて
 日本にはたくさんいると思う!!( ・´ー・`)」

ドヤ顔されて殺意が…(-_-メ)お兄ちゃんもいるから我慢、我慢。

「ヒトミのバーカバーカ。一人暮らししてるくせに世間知らず。
 世の中には貯金のできない人がたくさんいるのよ(。-∀-)」

「自信満々に言い切るわね(-_-;)
 世の中には働いてる人がたくさんいるじゃない。
 貯金ゼロの人って本当にいるのかしら……?(; ・`д・´)」

(⋈◍>◡<◍)。✧♡ (=゚ω゚)ノ (^○^)
 (*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)わー。

↓ここにびっくり仰天なデータを表示します。

金融広報中央委員会の報告及び総務省の家計調査によると、
全世帯の約40%以上が貯金額が100万円に満たないという。
3世帯に1世帯は貯金がゼロなのである。
この傾向は、平成の最後の10年間でますます悪化する傾向にあった。

令和の時代は増税によりデフレが加速するため、
より悪化することは確実である。

世代別:貯金ゼロの男性の割合
•貯金がない20代男性:49.7%
•貯金がない30代男性:44.9%
•貯金がない40代男性:41.9%
•貯金がない50代男性:28.2%

世代別:貯金ゼロの女性の割合
•貯金がない20代女性:55.5%
•貯金がない30代女性:42.3%
•貯金がない40代女性:37.7%
•貯金がない50代女性:23.4%

瞳「うっそおぉおお Σ(・ω・ノ)ノ!
  こんなに多くの人がお金持ってないのぉおお!? (>_<)」

美雪「そうなのよ。世間知らずさん (^-^)
やーい、おバカ(#^ω^)
   みんながあんたみたいに
   人生イージーモードばかりじゃないからね!!」

瞳「嘘よ!! どうせ適当なコピペなんでしょ!! (>_<)
  仮にこれが本当だとしたら、
  私の同僚の女の子達も二人に一人は貯金してないってことに…」

美雪「実際そうなんじゃないの? あんたの言う女の子って
   20代の人を差してるのか知らないけど、私の同級生の女子は
   アルバイトのお給料は毎月全額使うアホばっかりだよ (´▽`)」

瞳(私の同僚って7割がバツイチだった……言わないでおこう…(´・ω・`))

瞳「50代で貯蓄ゼロの人も5人に1人のレベルって。
  どうなってんのこれ!!!! (;^ω^)
  50代じゃ挽回するのはもう不可能と考えていいわ!! 
  老後は2000万の資産が必要なんだから。
  一生企業の奴隷になる人ってこと!? (; ・`д・´)」

美雪「ご愁傷さまでした(=_=) 瞳さんがお金分けてあげたら?」

瞳「ええ!? なんで私が!! (;´Д`)
  私は時給210円のウルトラ底辺所得者なんですけど!!
  私の時給の低さは世界を狙えるレベルよ!!」

美雪「親が余るほど持ってるんだろうが。
   イスラム教にでも改宗して喜捨をしろよ (^_^メ)」

瞳「ま、貧しい人に施しをしても、たかられるだけだ。
  ぜったに貸したお金は帰ってこないし、あてにされるだけだ。
  おじいさまの遺言でございます…… ( ;∀;)」

美雪「うざっ。もう死ねよ (^_^メ)」

瞳「なによ!!(#^ω^)あんたこそ死になさいよ」

美雪「この野郎……ビキビキ (-_-メ)」

賢人「喧嘩を売るなよ美雪 (。-∀-) 俺も瞳さんも納税者だ。
   貧困救済の義務を第一に背負ってるのは政府と自治体だ。
   あとは行政が貧困者に均等に税を分配するよう努力すればいい。
   さあて。全体の平均も見てみようぜ」

金融広報・中央委員会
「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](平成29年)

少し古い調査結果だが、おそらく令和元年にデータを取っても大差ないだろう↑

「金融資産を保有する世帯」の年代別金融資産保有額の中央値

20代の中央値:300万円(平均値:524万円)

30代の中央値:420万円(平均値:735万円)

40代の中央値:650万円(平均値:1014万円)

50代の中央値:1100万円(平均値:1689万円)

60代の中央値:1400万円(平均額:2062万円)

70代の中央値:1500万円(平均値:2512万円)


「金融資産を保有していない世帯を含む」年代別の中央値

20代の中央値:77万円(平均値:321万円)
金融資産非保有割合:35.6%

30代の中央値:200万円(平均値:470万円)
金融資産非保有割合は33.7%

40代の中央値:220万円(平均値:643万円)
金融資産非保有割合は33.7%

50代の中央値:400万円(平均値:1113万円)
金融資産非保有割合は31.8%

60代の中央値:601万円(平均値:1411万円)
金融資産非保有割合は29.4%

70代の中央値:600万円(平均値:1768万円)
金融資産非保有割合は28.3%


瞳「金融資産ってのは、ええっと (*'▽')」

美雪「株、保険、国債、社債とか。現金に換算可能な資産のことだね (^-^)」

賢人「金融資産を持てる人は全体の三割ってとこか。
   まとまった貯金額がないと金融資産を
   保有できないんだろうな」

瞳「私は金融資産・非保有世帯だから、
  470万の貯蓄額だと中央値の倍近く持ってるってことね」

賢人「世帯……か。ヒトミさんは独り暮らしで単身世帯の
   扱いになるけど、実質親に扶養されてるようなものだけどね…」

瞳「そ、そうね (´▽`)」

美雪「おい瞳。あんた自分で生活費払ってないやろ。
独り暮らし世帯にはノーカンや (´_ゝ`)」

瞳「なによ!! これでも自分で溜めたお金なのよ!! (>_<)
  ほらこの口座を見て。私の名前になっているのよ!!(´▽`)」

確かに銀行口座の名義はこいつだけど…。
なんだか納得いかない (´_ゝ`)

瞳「そういう賢人君はいくら持ってるの? (*^_^*)」
賢人「俺か? 俺は小銭入れに730円ある。これが俺の全資産だ」
瞳「え……730円? (。´・ω・)?」

瞳のアホ面で吹いちゃったwww m9(^Д^)

これには秘密があります。
お兄ちゃんのお金は妹の私が管理してるんです。

私はお金の管理は問題ないって父に認められていますから。
それにお兄ちゃんはブラック企業で夜遅くまで働いているんだから
お金の管理をする余裕がないの(。-∀-)

お兄ちゃんが無駄遣いしないように会社で
ジュースが飲みたくなった時に必要な小銭だけ渡しています。

お弁当は私が作ってあげてるから、昼食代はタダ。
もっとも水筒も持たせてあげてるから基本的に
会社でお金使うことはめったにないんだけどね。

お店への買い物は、戦車や装甲車がお店と戦争していたりして
危ないので兄と一緒に行きます。会計は全部私が済ませます。
たまに店先から戦車の主砲(重さ70キロ)が飛んでくるけど、
なんとか買い物を済ませています。

瞳「いやいや、この設定でどうやって買い物を無事済ませるのよ!
  ( ゚Д゚)戦車の主砲に当たって死ぬでしょうが」

賢人「でも買い物しないと食べるものが何もないんだよ。
   あと日用品も買わないと。シャンプーとか(^○^)」

美雪「戦車の主砲だけじゃなくて迫撃砲弾や機関銃の斉射、
   地雷の爆発や火炎手りゅう弾による攻撃など
   危険がいっぱいだよ。令和10年だからね(-_-;)」

瞳「令和10年ってこんなに治安が悪くなってるの?(>_<)
   中東の方が安全な気がしてきたわ」

作品のあらすじでも紹介がありましたが、貧困が極限化した
日本では略妥暴行、テロ、軍事攻撃は日常茶飯事です。
むしろ金銭を奪うのに直接攻撃が増えて詐欺が減っています。

賢人「それに美雪と一緒にいれる時間は俺にとって貴重だ。
   な? 美雪 (`・ω・´)っ」

美雪「うん(^◇^)」

ん?
瞳さんが、私の顔を見てクスクス笑っています。
なんですかその顔は。ぶっ殺されたいんですか?

瞳「ち、違うのよ!! (>_<)
  ちょっと、ほほえましいなって思って。 
  だって二人とも夫婦みたいな関係じゃない (^○^)」

美雪「夫婦ですって (≧▽≦) きゃー」

賢人「冷静に考えれば夫婦なのか……。
   うーん。兄と妹で夫婦って言われてもしっくりこないけど、
   お金の管理の視点から見れば確かに夫婦かもしれない (-_-;)」

美雪「いやーん。照れちゃうわぁ (≧▽≦)」

ん?
せっかく人がふわふわタイム(上機嫌)でいるのに、
瞳さんがアホの子を見るような眼で私を見てきます。

喧嘩売ってるんですか……? (´_ゝ`)ギロ

瞳「だからこれは違うのよ!!
  さっきからぶりっ子してる美雪さんのことを
  キモいとか思ってないからね(゚д゚)!」

キモいって思ってるから、そういうことを口にするんでしょ。
瞳さんは私を怒らせる名人だよね。
お兄ちゃんの前だけど、そろそろ制裁タイムを……。

「美雪よ……前から気になってたんだが」

なあに。お兄ちゃん(⋈◍>◡<◍)

「おまえっていくらお金持ってるんだ?」

瞳さんが ( ゚д゚)ポカーン としています。

私は \(^o^)/オワタ こんな顔です

「ちょうどお金の話をしてるから、きちんと知っておこうと思ってさ。
 俺たち兄妹は全体の平均の、どのくらいのレベルなのか」

あぁ。こんな時でもおにいの低い声にうっとりするぅ (⋈◍>◡<◍)
賢人の真剣な顔もチョー素敵なのぉ!! でもそんな場合じゃないのよね。

この流れだと答えるしかないじゃないですかぁ (´-ω-`)
実はお兄ちゃんは浪費癖が激しいって
お父さんからしつこく注意されていたんです!!

だからお兄ちゃんには絶対にお金の総額を教えるんじゃないって!!
パパがマントヒヒのような顔で言ってきたんですよぉ!!

「自分の父のことをマントヒヒって……。
 しかも俺は浪費癖が激しいと思われていたのか(;´Д`)」

「もしかして、そのような事実は一切…」

「ございません(^_^)v
 俺は大学生の時から無駄遣いは一切しなかったぞ。
 お前知らなかったのか」

お兄ちゃんが郵便局の通帳を見せてくれた。
残高が43万も入っている。お兄ちゃんってお金持ってたんだΣ(・ω・ノ)ノ!

「大学4年間でもらったお年玉を全部溜めてたんだよ。
 あとコンビニとスーパーでバイトしたのも入ってるよ」

(゚д゚)! なんとー

「社会人になってからは親父と母さんが俺の預金通帳を
 取り上げちまったから、自分がいくら持ってるのか知らねえ。
 銀行を辞めてからおまえと一緒に住むようになったら
 美雪に管理してもらうようになったから、
 結局俺のお金をおろしたことが一度も無いんだが」

お兄ちゃんは新卒の時、実家から銀行に通っていた。
どうせ無駄遣いするからと、母にキャッシュカードを取り上げられ、
自分ではお金を引き出せないようにされた。ひどい( TДT)

お兄ちゃんは生活費を親に出してもらう代わりに、
娯楽費が欲しい時はママに頭を下げてもらってた。

渋谷家は家族全員のお金を、家の総資産として計上する。
一括まとめて親が管理するのだ。
子供たちは社会人になってもお金が自由にならない。
実際、親がファイナンシャル・プランナーの家だと
こんな例は珍しくないのよ。何気にママもFP一級なのよね。

私だけは例外で、お父さんが株式の運用資金をくれた。
私が一生懸命経営学を学び、マーケットの分析をしていると、
父は私にだけお金を持つことを許可してくれたのだ。

「郵便局の通帳だけは俺が持ってるんだけど、
 肝心のキャッシュカードは親父に渡したままだ。
 最悪モンゴルまで行かないとカードを取り返せないぞ。
 なんでうちの両親はモンゴルに旅立ってるんだよ(#^ω^)ビキビキ」

お兄ちゃんは、前話で再起不能なるまで
作者を殴っておけばよかったと言ってます。
ほんとですよ。郵便貯金で43万もあるなんて私も知らなかった(゚д゚)!

そんな裏設定あるんだったら早く教えてよね!!

「なあ美雪よ。いくら持ってるのかそろそろ教えないか(-_-)」

「お兄ちゃん。どうしても知りたいの?(´ω`)」

「じれったいわ。早く答えてあげなさいよ、
 このブラコン!! ( `ー´)ノ あっ…しまった」

私は猛ダッシュで逃げる瞳さんを追いかけましたが、
簡単には捕まりません。なんてすばしっこさ。
左右のステップの踏み方が常人と違う。

ジョギングが趣味なだけに10代並みの運動神経の良さです。
そして無駄な肌の張り、美しさ。明らかに若い。
運動してるからこいつの美貌に磨きがかかるのか。

「あー。もうそういのいいから、早く教えてくれよ」

私は白状することにしました。

お父さんから生前贈与された米国株式、国債、現金USドルを
合わせて時価評価額が日本円換算で 8700万円 
お母さんから渡された生活費が 残り370万

「なんだってええええ!? 俺の妹はこんなに持ってたのかよ!!
 いや……うん(・∀・)ええっ? この株ってマジで美雪が持ってるのか!?
 まじかよ。生活費とあわせて総額で9000万を超えてるのか!?」

こんなに減ってたんだ……時価評価額。

賢人「減ってるだと?」
私「うん。前見た時は証券口座の総額は9100万だった」
賢人「あーなるほど。為替と株安のコンボか。昨日から円高だな」

さすがお兄ちゃんは話が早い。
トランプちゃんがメキシコからの移民を食い止めるために
輸入品の関税の引き上げを発表したからなのです(現実世界で)

私「お母さんから渡された700万の現金もずいぶん減ったよ」
賢人「俺の給料が少ないからな……迷惑かけてすまん」

悪いのは政府と企業だよ。大人の給料が時給210円で
消費税率34%とかクソゲーすぎて笑えない!!
私がどんだけ貯金を切り崩したと思ってるのよ。

そろそろ誰か本気で革命とか起こしてくれないな!!

このままだとお父さんから贈与された米国株を
現金化しないといけなくなるけど、
最近は円高傾向なんだよぉおお!! <`~´>

瞳「お金をたくさん持っててうらやましいわ。
  上の調査結果の平均よりはるかに上じゃない。
  まさにセレブね(*^▽^*)」

私「あの、すみません。
  やっぱり瞳さんに強烈なビンタをしてもいいですか?」

瞳「ひぃ。真顔になった!! てかなんで (。´・ω・)!!?
  なんで私を殴るの!? 私失言してないわよね!!
  素直に二人のことを祝福したじゃない!! ( TДT)」

私「冷静に考えたらお兄ちゃんの給料が安いのは
  瞳さんのお父さんが原因じゃないですか。
  連帯責任として瞳さんでストレス解消をしようかなって」

瞳「賢人君!! (≧∇≦) 助けてええええええ!!」

賢人「まかせろー(#^ω^)」

そして伝説へ…

---------------------------------------------------------

(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)
  (*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)♪♪♪

   ☆~~~~~~☆~~~~~~~☆彡

そして現実へ…

※ヒトミの一人称

一体、何起きたのでしょう。

賢人君はなぜか私を抱きしめてくれました。
(●´Д`)〇'ω`○)
あ、暖かい……。男性の体温を感じたのは、
ペンタックのトイレで抱き合った時以来かしら。

彼の腕の中に納まっていると、
この世の全ての世界から守られている気がする。
だって美雪が襲ってこないんだもの。

「ヒトミ。どうしても君に……伝えたいことがあるんだ」

ドキっ…(≧∇≦)まさか…

「俺は、君のことを愛してる」

(≧∇≦) キュン
(≧∇≦) キュン
(≧∇≦) 胸キュン★

まさかの……愛の告白!! (*´ω`) フワフワ(*^▽^*)
てかどうしてこのタイミングで?

バシイイイン

お兄ちゃんの馬鹿ッ!!

美雪さんが少女漫画っぽいセリフを吐いた後、
お店を出て行きました。
お兄ちゃんの顔に赤いアザができています。

よく分からない展開だけど邪魔者が消えてほっとしました。
ホットペッパー君。はま寿司。
美雪さんはあと10話くらい主演しなくていいですよ。

「俺の大好きな瞳。大切な話があるから聞いてくれ」

ドキッ!(^^)!

「この小説を読み返したんだが、致命的な誤字を発見した」

あれえええ。致命的な……誤字ですって!?(;゚Д゚) 
時間の五時? 5児の親? ゴジラ襲来!?
私は新世紀エヴァンゲリオンの放送世代!!
  

⇒初期設定では美雪は大学三年生の21歳

なのに本編では19歳として繰り返し描写されてる。

し、しまったあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁあぁああ(*ノωノ)(/ω\)(〃ノωノ)
あばばばばっばばばばっばふぁklはlkfじゃkslfじゃkslfさ

「普通に考えたらおかしいよな。
 美雪は大学3年生なのに19歳ってどういうことだよ。
 美雪が飛び級で高校を
 卒業してない限りあり得ない設定だぞ」

穴があったら入りたい!!(/ω\)

「あと19歳ってことは未成年。
 成人じゃないと証券口座は開けないはずだぞ。
 ジュニアNISAもあるにはあるけどな……」

おっしゃる通りでございます!!

「ごめんなさい賢人君!! 
 急用ができたので今日は帰らせてもらいますね!! (´Д⊂ヽ)」

「待ってよ」

私の腕をがっしりつかまれました。
男の人の手って、大きいし暖かい。

彼の真剣な顔に、私のムネの鼓動はドキドキ (⋈◍>◡<◍) してヤバい。

「俺は君にまだ正式な返事をしてなかったはずだ」

返事……?

まさか、例のあれれですか。
あれ、そう、あれです。えーっと、
賢人君の2兆円の借金が明らかになった時です。

私は彼に婚約を迫りましたが、軽く断られました。
あの時のはノーカンで、
これから改めて返事をしたいのとのこと。

つつつつ、つまり、もう答えは決まってますよね(*´ε`*)

「俺は時給210円だ。若いし頼りない。
 まだまだ君の伴侶になるのは力不足なのは分かってる。
 だけど君を愛する気持ちに嘘偽りはない。
 心から愛している。どうか俺と結婚してくれ瞳」

(≧∇≦) (≧∇≦) (≧∇≦)キャー!!

こんな熱烈な告白をされるなんてドラマみたい°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
お給料なんて気にしないで。私も薄給なんだから変わらないよぉ (^◇^)

こういう時なら私はお父さんに泣いて頼んで
結納金を払ってもらうからね!!
美雪さんに調べてもらったら会社の連結決算で
剰余金が1.5兆もあるそうだから、3億円くらいもらおうかな!!

※まさにフィクションです。

坂上瞳、ついに32年の独身人生に終止符を打つ時が来ました。
私は光の速さで承諾しようとしたら。

「(>_<) いたっ」

何者かによって突き飛ばされてしまいました。

ギャー ナンダー パリーン ふわー

隣の席に座ってるおじさんたちに突っ込んでしまいました。

「ふざけるなよ。死んでくれ。死んでくれよ坂上瞳!!」

み★ゆ★き★さん……。人生最高の瞬間をよくも邪魔してくれたわね。
いつ戻って来たのよ。このお邪魔虫が!!!!!!!!(; ・`д・´)

美雪さんは帰ったふりをして店の外の窓ごしに
私たちの様子をうかがっていたようです。
ストーカーかい!!Σ(゚Д゚)

「おいおい美雪。お店の人に迷惑かけちゃダメだろ」
「うるさい!!」
「お…おまえ」

「お兄ちゃん、バカじゃないの!!
 こんな女と結婚したってうまくいくわけないよ。
 世間知らずでお金のことなんて何も分かってないんだから!!」

「こんな女とは何だ。おまえは年下のくせに口が悪過ぎるぞ!!
 瞳さんは質素倹約を心掛けてるし、
 性格も優しくて素敵じゃないか。あと顔も美人だ」

顔って…

「ほらでた。顔!! 女は顔か!!結局は顔でしょ!! 
 おにいは顔が良ければ誰でもいいんだ!!」

「ち、違うんだ」

「32の女なんておばさんだよ。子供も産めないかもしれない。
 生んでも障害児だったらどうするの? 
 ねえ、そこまで考えたとあるの?」

「いや俺は別に子供が欲しいわけじゃないよ。
  ヒトミさんと一緒に夫婦としてやっていければ」

「分かった!! お金が目的だ!!
 瞳のパパと仲良くすれば会社も首にならない!!」

「いい加減にしないか!! お金とか親の地位とか
 そんなくだらない理由で瞳を選んだわけじゃない!!
 俺は瞳を愛してる!!」

「愛してる…?」

「おう。悪いか。愛してるんだ!!」

「この、うそつきぃいいいいい!!」

「うおっ」

賢人君は腰を抜かしました。
それほど美雪さんの豹変ぶりはすごかった。

「私のことをこの世で一番愛してるって言った!!
 確かに言った!!
 坂上瞳のことは他人だと思ってるって言ったじゃん!!」

「あ……」

そのような事実は一切ござい……
7話くらい前の話を読み返すと、確かに言っちゃってます。
しかも大学の中で……

「あれは作者の命令で仕方なく言ったことだろ」
「仕方なく…?」
「あ、別にお前のことが嫌いなわけじゃ…」

賢人君は火に油を注いだようです。

美雪さんの荒れは最高潮に達しました。

賢人君の胸を太鼓の達人の要領で
どんどん叩き(゜-゜) 泣きわめく。

「おにいちゃんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ (ノД`)・゜・。
 ぐすっ……私がどれだけお兄ちゃんのことを
 思って家計を管理してきたか……えぐっ ( ;∀;)
 知らないからそんなことが言えるのよぉぉおおおお!!」

「美雪。分かったよ。みんな見てるから、な?
 話ならあとで聞くから…」

「やだやだ。こんな現実認めるものかっ( ;∀;)
 みんな死んじゃえ!! おにいも坂上も
 車にでも轢かれて死んじゃえばいいんだぁああ!!」 

「ごめんな。おまえを傷つけるつもりはないんだ。
 美雪が俺のためを思って毎日お弁当を作って
 くれたのも感謝してるよ」

「本当に…(ノД`)・゜・。 私のことを思ってるなら……
 そこの女と二度と会わないって約束してよぉおお (´Д⊂ヽ」

「無理言うなよ。さっき結ばれたばかりなんだぞ。
 美雪も瞳のことお姉さんって呼んでたじゃないか」

「今はだいっ嫌いだよぉおお!!(;O;)
 なんでそいつは私たちの前に現れたの!! 
 邪魔、邪魔。邪魔!! 邪魔なの!! 今すぐ消えて!!(>_<)」

「落ち着け。今のお前は気が立ってるんだ」

「うるさい、うるさい!!」

これ、なんて小姑?
お兄さんの結婚を全力で阻止する妹。
よく訓練されたブラコンだとは思っていましたが、これほどとは (-。-)
そろそろ本気でウザくなってきました。

所詮、私と美雪さんはわかりえない存在。

私は何があってもチャンスを逃すつもりはない。
絶対に賢人君と結婚してやるわ。
こんな運命のめぐりあわせは二度とないと思うから。

「このぉ……(´・ω・`)」

私はスキだらけの美雪さんをジャイアントスイングしました。
気合を入れたのでかなりの威力があるはず。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!?」

美雪さんは喫茶店の壁を突き破り、群馬県の方角へ吹き飛びました。
群馬は埼玉の隣なのです。ここからだと距離にして210キロはあるでしょう。
お邪魔虫が消えてせいせいしました。

「そのお邪魔虫は俺の妹なんだけど……」

「ええ!! もちろん分かってるわ!!
 あとで探しに行きましょう!! その前に。ね?」

(*´ε`*)チュ (●´Д`)ε`○) (^ε^)-☆Chu! (・´з`・)

顔文字だとキモいけど、私たちは熱いキスを交わしました。
これが婚約の証です。

はい。良い展開です。少女漫画なら物語は終わりのはず(完)

瞳「やっぱり終わってませんでした…(>_<)」

おかしいですよね。
前話で物語は非の打ち所がないほど完結したはずなのに。

賢人「実はこの小説はお金の話をするのがメインなんだよね。
   俺たちの結婚はどうでもいいらしいぞ (;´・ω・)」

瞳「そんなバナナ (>_<)」


この後の展開。

・賢人と瞳は、お金の話をしつつ、
・やがて戻ってくるであろう美雪の襲撃に備える。

「美雪ちゃんの襲撃に備えないといけないの!? Σ(゚Д゚)」
「なんてこった /(^o^)\ しかもお金の話するの疲れたぞ」
「実は私も。甘いもの食べたいわ (>_<)」

私達は喫茶店を出て公園へ行こうとしました。

「ビキビキ(#^ω^) 君達ちょっと待ってくれる?」

女性の店長さんが文句を言いたそうな顔をしています。

「うちの店の壁に大きな穴が開いてるのは気のせいかな?
 話を聞く限りあんたらお金持ちらしいから、
 修理費を全額払ってもらっていい?」

私は賢人君の手を取って逃げ出しました。
だってギャグ小説なのに
修理費を請求されるのっておかしくありませんか?

私は逃げる際に、床に「まきびし」を撒くのを忘れませんでした。

「なにこれええええ!?」
店長さんは靴の裏がボロボロになってそれどころじゃないのでしょう。
普段の生活でも靴に違和感があると歩くのを止めて確認しますよね? 
つまりそういうことです。

「まきびし」は便利ですよ。最近の日本では
道端で強盗に会うことが多いですからね。
今日みたいに逃げる際によく使うんです。
その辺のドラッグストアで安売りしてますよ。

「はぁはぁ……もう疲れた限界だぁ……」
「あともう少しだから頑張って。男の子でしょ」

私達は目的地の公園に付きました。
ベンチに座って自販機のジュースを飲んでいたら

「あらヒトミさんじゃない」

私の母に当たる人物と会ってしまいます。

「あの、お母さま!!」

「みなまで言わなくても分かってるわ。
 あなた、渋谷君と婚約したのでしょう?」

「よくご存じで!!」

「私は止めもしないし、好きにすればいいと思うわ。
 あとでお父さんにも相談してみなさい。
 たぶん認めてくれるはずよ」

母様はそれだけ言い、すぐに去って行きました。

あれー( ゚д゚)ポカーン

絶対反対されて腹パンされると思っていたのに……。

「君のお母さんは正しく理解してるな。
 俺と君の婚約が破たんすることを」

「どういうこと?」

「妹の美雪だよ。美雪が俺を好きすぎて
 昼ドラ展開になるのは確実だろ」

昼ドラなんて冗談じゃないわ!! (;゚Д゚)
ああいうのは他人がもめてるのを
見てるのが楽しいんでしょう。
自分が当事者になるなんて、ただの悪夢じゃない。


「そんなことより新しいお題が与えられたぞ(。-∀-)」
「まさか……また私の大嫌いな政治の話?(;´∀`)」

お題。再び老後の資産形成について考えよう。

~~~~2019/6/10 参議院 決算委員会にて~~~~

2話くらい前にこの小説でも書きましたが、
金融庁の試算の結果、老後100年生き延びるには2000万円必要。
金がないと飢え死に。もしくは死ぬまで低賃金労働(奴隷)

『二人世帯』の老人。夫65歳。妻60歳。
夫⇒第二号被保険者(厚生年金)
妻⇒第三号被保険者(夫に扶養された専業主婦)

夫の年金での手取り収入が月19万円だとして、
毎月4万から5万が不足。貯金を毎月切りずして生活。
すると上の悲惨な結果になる。

昭和時代の昔懐かし専業主婦のいる世帯を例にしたのだ。
リアルなのは『厚生年金の額』だ。
定年まで同じ会社で勤めあげた、低~中間所得層ならば
比例報酬分の金額がおそらく妥当である。

公的年金は、当該の通帳に偶数月に支払われる。
つまり38万円を手にした老夫婦は、不安と緊張で震えながら
2か月間お金を使って生活することになり、
遅かれ早かれ精神的な病気(うつ)になることだろう。

したがって生き延びるために働きに出ることになるが、
在職老齢年金制度が重くのしかかる。

在職老寧年金を説明すると長くなるので省略するが、
民間の保険会社を超える、日本史上類を見ない
究極の国家的詐欺制度のため、
労働者の働く意欲が著しく損なわれ、精神病になるのは必至だ。

日本の年金制度の答えは一つ。

「金のない奴は死ね」 

総務省、厚生労働省、金融庁の三省庁によって
導き出された結論を、政府与党が否定するなど論外である。

裁量労働制の元ネタのデータ、
毎月勤労統計、森友の決算書問題、
全て「第三者」の調査は正しかったことは証明されている。

当然。今次調査結果について
国会では立憲民主党など野党が猛反発。

立憲民主党・蓮舫副代表
「総理。日本は一生懸命働いて給料をもらって、
 勤めあげて退職金をもらって、年金をいただいて、
 それでも65歳から30年生きると、老後2,000万円ないと
 生活が行き詰まる。そんな国なんですか? <`~´>」

安倍首相
「これは、金融庁から発表された数字なんだろうと思いますが、
 これは不正確であり、誤解を与えるものであったと……(。´・ω・)」

その後、財務大臣にも同様の質問をしたが、
適当な言葉であしらわれた。

※ 坂上ひとみちゃんに台本を渡してバトンタッチ。

突然ですが説明を代わります。
で、結局与党の結論はこれだけです。

・まだ年金制度が破たんしてるわけじゃねえ。我慢しろよ。
・よく考えると、やっぱり俺たちは間違ってねえ
・貯金してねえアホが悪いんだよ
・結論「死ねよ、おめーら」

この決算委員会での質疑をもっと要約すると、

立憲民主の蓮舫ちゃん、共産の小池あきらちゃん「わーわー。自民のバーカ( ゚Д゚)」
自民党の安倍首相、麻生大臣「お前らもバーカ。貧乏人はよ死ね(´▽`)」

つまり偏差値32レベルのおしゃべりをしていただけです。
忘れてはいけないのが、こいつらのお給料が
平均して(手当含めて)4400万なことです。

老後の資産も何も、「議員年金」がもらえるこいつらには
貧困など無縁な世界なのです。政治家にとって大切なのは
「支持率」だけであり、誰も国民の生活なんて真剣に考えてません。
だから国会は茶番会なのです。すみません。今のは美雪さんの受け売りです。

賢人君が渋い顔をしています。
私より彼の方が政治に詳しそうなので意見を聞いておきましょう。

「あー、夏の参議院が近いから、政府与党としては
 国民の支持率を意識したいところだよな。
 衆参ダブル選がマジで行われそうな流れになってる」

そもそも私たちって令和10年に生きているはずなのに
どうして令和元年の政治をリアルタイムで語ってるんでしょうね。

「増税直前の判断材料としては、4~6月の日銀短観、
 毎月発表される景気動向指数が重要だと言われてるぞ」

「予想より悪化してたら衆議院の解散。
 650億の税金がかかる。またしても自民圧勝。
 衆議院の賛成多数で安倍首相が再任する(議席の6割近くが自民党)
 首相の任期が4年延びて、戦後最長の首相として君臨」

「そんな勝手が許されていいの!? ぶん殴ってやりたくなるわ!!(-_-メ)」

「小説の設定じゃなくて現実でも自民党の暴走は
 当たり前に行われてるから困るよな。
 これが小説だったらどんなに良かったか(*-ω-)」

老後の話は美雪さんと電車の中ではたくさん話したわ。
賢人君はお兄さんだから、やっぱりもっと詳しいのかな。
美雪さんの話はお父さんの受け売りばかりで
彼女の意見があまり入ってなかったのよね。

「老後に2000万円持ってないと100歳まで生きれないって、
 首相は否定したけど、あれって実際どうなの?(゜-゜)」

「上の方で筆者はマジだと言ってるな…(-_-;)」
 
「でも2000万なんて普通の人は溜められないわよ!!
 非現実的だし、嘘なんじゃないのかしら……?(; ・`д・´)」

「マジだよ」

「え?」

「だから、マジなんだって。
 算数の計算ができれば誰でもわかることだぞ」

賢人君の説明は難しくて知恵熱が出るほどでした。

ライフ・プランニング(FPの基本)

例えば10年をひとつの区切りとして、家庭の経済を大まかに試算する。
その際、物価の変動比率(インフレ率)を考慮しながら計算する。

まずエクセルを開きます。
世帯の人数、名前、年月を記入します。
世帯の総手取り収入(現金収入だけでなく配当金等も含める)を正確に書きます。

固定支出(生活に必要な支出。公共料金、食費、租税、保険、ローンなど)
変動支出(家電や車の買い替え、子供の進学など)

を正確にもとめる。

毎年の収入から支出を引いていき、
毎年の貯金額の残高をグラフにして記入していく。

『将来確実に予想される支出』は変動支出で計算する。
例えば車の買い替えは6年に一度。
子供が幼稚園卒業後は小学校に入学。
学資保険がどうたら……など。

「え……家のお金の管理ってこんなに
 複雑に考えるのものなの? (。´・ω・)」

「むしろ他の人は考えないのか?
 俺の母さんは俺と美雪が生まれた時から
 大学卒業までの全ての支出額を計算していたそうだぞ (^_^)v」

「ええ!! お子さんが生まれた時からそこまで考えていたの!! Σ(・ω・ノ)ノ!」

「俺の母親って何気にFP1級、日商簿記1級保持者なんだよね。
 宅建2級も持ってるらしいぞ。
 性格は男っぽくて言葉遣いも乱暴だし、
 あんまり好きじゃないけど、お金の管理はマジでプロだぞ」

どうやら賢人君のお母様は、なんとお父様以上の賢者だとか(;´Д`)

FPのお母様から言わせると、
収入を今より増やすのは難しい。

『固定支出を減らすのが貯金を増やすのに最も効率が良い』
 (´▽`)だそうです。

固定支出って言われても……。
食費とかを減らすんですか?

「食費はむしろ効率悪いよ。お腹すいてたら余計頭に
 栄養がいかなくなるからバカになる。
 バランスの良い食事をしないと病気になって医療費がかかるぞ」

「じゃあ何を?」

「富裕層が格安スマホを使う傾向にあるのは
 ニュースで聞いたことがあるだろ(^○^)」

「あっ……そういえば(´▽`)」

・携帯料金 ⇒ 使っても使わなくても毎月発生

富裕層が固定費の削減に熱心なのは世界共通。
これはケチではなく、資産運用の基本なのだ。

NTTドコモを始め、増税前に割引プランを発表しましたよね(現実世界で)

「他にも無駄がたくさんあるぞ」

・煙草
⇒数年前に値上がり。増税後はもっと痛い。何より体に悪い。
 運動してストレス解消をした方が効率的。

・定額制のサービス(アプリ、ネット関係など) 
⇒これも携帯同様、仮に利用しなくても毎月引かれる
 社会人など忙しい人には向いてない。

・生命保険

⇒定額型(ずっと同じ額を支払い続ける)が悪徳。
 死亡保障が欲しいのは、子供が
 社会人になるまでのわずかな期間のみ。
 子供が働きだしたら死亡保険など割に合わない。
 仮に夫が死んで妻が残されても国の遺族年金制度あり。

⇒ガンなどの医療保障もカス。詐欺。公的医療保障で
 高額療養費制度がある以上、全く問題ない。
 仮に無保険でも100万程度の現金があれば支払える。

⇒3人に1人ががんで死ぬ ←これ嘘。
 保険会社は『70歳以上を対象』に統計を取っている。
 10歳から90歳までを対象に変えると、がんになる可能性は
 0.6パーに激減。つまり誰でも寿命の直前になると
 がんになって死ぬだけ。まさに数字のトリックなのだ。

⇒ほとんどの保険の勧誘員(レディ)が
 保険会社でまともな金融の教育をされていない低能。
 (現実に小学校卒業程度の学力の者あり)
 賢人君のママなら勧誘されても7分で論破するそうです。
 ちなみに大手の生保レディの年間離職率は97%だとか。

・車
⇒交通(電車、バス)が発達した都市部在住者には不要。
 遠出する時はカーシェアリングやレンタカーで十分。
 仮に普通車を所持した場合、維持費にけっこうなお金がかかる。

⇒強制加入の自賠責、任意保険との二重保険がクソ。
 日本の保険制度は色々と国民から金をむしり取る。
 やはり車は魅力がない。会計上は動く金食い虫。


「(* ̄- ̄)ふ~ん たくさんあるわね。
 生命保険って詐欺だったのね。知らなかったわ」

「お客と契約を結ぶだけで定期的な収益が
 得られる素晴らしい悪徳商売だ (-_-)
 例えば俺とヒトミさんの場合は
 子供がいないわけだから、加入するメリットが何もない」

「子供のいない夫婦は入る必要がないのね!! (;・∀・)」

「生涯独身の人も加入する意味ない。
 そもそも死亡保険金がもらえても受取人は? 後世がいないんだぞ。
 成人前の子供がいることを前提とした制度なんだよ (-_-;)」

「言われてみればそうね (^ω^)」

「昭和時代は生保に加入して一人前、と洗脳されて
 無数の独身者が生保にお金を吸い上げられた。
 まさに金融は素人を食い物にする商売だな( ゚Д゚)」

⇒仮に子供がいて加入する場合は、
共済の掛け捨て型の保険がベストらしいですよ☆

「この異次元の規制緩和(低金利時代)下で積み立て型、
 貯蓄型保険に加入する人は銀河系代表レベルのアホだな。
 日産や大塚家具の株を買うのと同じレベルの愚行だぞ」

(※規制緩和とは…
  日本銀行が行っている
  長短金利操作付き、質的量的金融緩和のこと。
  この金融政策の結果、大量の国債が日銀によって買われ、
  長期金利の水準が著しく下がっている。
  執筆時点でなんと長期金利の誘導目標が0%。短期金利は0.3%)

生保の勧誘員を見たら泥棒だと思ってください。
田舎に住んでいるお年寄りは、
義理と人情だけで簡単に契約を結んでくれるので
よいカモにされていますよ。

実はこの作品の作者も人を騙して
お金を分捕る連中が、国会議員よりも許せないそうです。

生保レディ、銀行マン、証券マンなんて
資産のある国民相手に詐欺の金融商品
(外貨建て保険とか適当な投資信託)を売りつけてますけど、

作者は「マジで顔面を陥没させて」やるほど
力いっぱい殴ってやりたいそうです。
ぶっそうですね。そのうち暴行罪で報道されないか心配ですね。

ひとみちゃん(;・∀・)つ『台本』 えっと……

米国FRBも年内の利下げを検討。
欧州中央銀行も年明けからマイナス金利政策を維持。
中国は景気減速と米との貿易摩擦でそれどころじゃありません。
日銀の黒田ちゃんは10年後も規制緩和を続ける可能性大。

作者さんは令和10年でもインフレ・ターゲット2.0%を
達成できる可能性はゼロと断言していました。
この目標を達成しないと日本は利上げができないのです。

他にもトルコのリラの金利が危険なレベルにまで上昇し、
政府が債務…不履行? になる可能性が指摘され、
スイス中央銀行、カナダ、シンガポール、インドの…‥(略

今後も日本は超低金利が続くと思われます。
現金や保険をいくら持っていても金利でお金は増えません。
貯蓄型保険が流行ったのはバブルの高金利の時期です。

金融機関は金利で稼がないとやっていけないのですか(。´・ω・)
銀行と生保がオワコンなのは、
日銀の規制緩和が続く限り確実なんですね……(>_<)
だからって国民を騙すのはひどい( ;∀;)

「一番の無駄がこれだ」

・住宅ローン

「ちょっと待ってよ賢人君!!
 住宅は高価なのよ。
 とても一括で買える値段じゃないでしょう」

「だからこそ、頭金(住宅購入価格の2割が相場)を
 増やすために、できるだけ多く貯金をしておくべきだな。
 頭金を増やせば『債務残高』が減る。
 それとボーナスなど収入に余裕があるなら
 繰り上げ返済を考えるなど、対策がないわけじゃない」

・住宅ローンは「元金」に対し「金利」(元利均等返済が一般的)
 が適用される。最も減らすべきなのは「元金」
 どんな借金でも「本来の価格」こそが真っ先に潰すべき敵。

・そもそも単純に会計的な価値(資産)で考えるなら、
   賃貸 > 持ち家 

住宅取得のシュミレーション。

・宅地建物の取得費として、
 不動産登記税、不動産取得税、電気工事代、
 団体信用保険を始めとした各種費用。
 2500万の住宅なら、500万程度の頭金が必要。

多額の負債(ローンの債務残高)に対し、
住宅の資産価値がどんどん下がっていく。

米英と違い、日本の住宅の価値の下落は恐ろしく速い。
しかも一般的な住宅の耐用年数が30年程度。
フラット35で支払いが終わったら、また建て直し…

「資産価値って言われても良く分からないわ…。
 資産の意味も正しく理解できてないのに」

「ここでバランスシートの出番だな」

家計の資産状況、無駄を把握するのに便利。
家計版・バランスシート。B/S。貸借対照表ともいう。

左に資産、右に負債を書く。
資産の総額から負債を差し引き、
純資産を計算するのだ。

「ここでの資産の定義は?」

「お金。それ以外の株とか債権。ゴールド(金)とか。
 車も家も入るよ」

※世界的な景気減速、低金利の継続により
 世界中の富裕層の間で「金地金」の需要は高まっています。
 金は資産価値がそうそう減らないので、
 長期で保有するのに向いてます。

「車も入れていいの!?」
「うん。その時に車を売ったら何円になるかって計算するんだ」

・車の売却価格
・住宅の売却価格(土地も含めた不動産)
・家にある家電の売却価格
 など

(株式の時価評価額も、その時点で売却した場合の金額を表しています。
 貯蓄型の保険も同じようなものです)

「これが資産だよ」
「売る値段で考えたらプラスよね……?」
「ああ、プラスだ。恐ろしいのはここからだ」

・負債
企業なら銀行からの借入金や社債とか。
家計の場合は、もっぱらローンの残高だ。

・車のローン(債務)残高
・住宅ローンの残高
・子供の奨学金
・消費者金融、クレジット、銀行カードローンの残高など

「え、ローンってことは」
「その時の債務残高を、負債に計上する」

「資産から負債を引くのよね…
 純資産がプラスになるのは難しそうね。
 車のローンを組まない人って全体の2割以下らしいわ」

「野村総研が定める純資産でのお金持ちランキングの
 重みが分かるだろ。純資産で5000万以上から
 お金持ちの入り口に達するんだ」

野村総研や金融広報中央委員会のデータって
家計の資産額をバランスシートで計算していたのね。

「あっ、バランスシートで見ると。住宅って……」

「一括で買わない限りは、ただの負債だ。
 あくまで会計上は……な」

ベストセラー『金持ち父さん』では住宅を
資産には計上すべきではないと言い切っていた。
筆者も同様の認識だとか……

ローンの恐ろしさの本質は「時間」…?
一見すると一度に多額の出費をしなくて
お得に思えるかもしれないが、実際は逆。

支払い期間が伸びれば伸びるほど金利が膨れ上がる。
つまり分割払い(リボ)は支払期間が長い人ほど
資産が吸い取られていく仕組み。

単純に、軽自動車、自賠責その他オプション込みの130万を

⇒一括で購入。130万支払う。終わり。

⇒6年間ローン。6年で25万以上の金利を支払う。
 最終的に155万の車を買ったことになる。

「一括で買うと25万も得なのね」

「その25万を何か他のことに使えれば尚いいよね。
 普段から貯金してれば一括で買えるな。
 6年後を考えれば確実にお金が浮くぞ」

賢人君のお母様は、向こう20年先までの
自動車の買い替え費用を
変動支出として計算してるそうよ
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
(田舎だから車が必須)

そして金利分で浮いたお金を株式に投入。
買うのは財務健全な高配当銘柄に限る。

ただ持ってるだけで毎年株の配当金が入り、
さらにお金持ちになる。

仮に100万円分の株式を購入。
配当利回り3ぱーで回すと、
10年後には30万くらい増える計算。
(配当金に対する課税率はめんどいので考慮しない)

なるほど。一般人とは考えてる次元が違う(^○^)

時間で損する。時間で得する。
金利とは、時間である。

「金利って知れば知るほど恐ろしいよな(;・∀・)」

……。頭の良い人の話は勉強になるわ。
何が賢いって、賢人君のお母さんは常に
10年先を考えて家のお金を動かしているところよ。

一家の主婦じゃなくて会社の経営者みたい。

「賢人君。上に出た2500万の住宅の金利はいくらなの?」
「35年ローンだと、金利の相場が1100万円」
「35年で1100万円も金利を支払うの!!?
 Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン」

35年の元利均等返済(金利と元金の支払額が
いろいろ調整されて35年間、毎月定額になる)
で、なんと1000万を超える金利を支払うんですか!!

Σ(゚д゚lll) 今日の話で一番ショックでした……。
私のお父さんは、どうやってうちの家を買ったんだろう…

賢人(坂上家は金持ちだから一括で買ってそうだな)

※住宅を一括で買えた場合、世帯の可処分所得が激増。
 あとはお金が湯水のごとく増えていくので資産家になれます。
 ただし、お金を上手に使えれば。

「ちょっと気になったのだけど」
「うん?」

「収入が多い人の方が、固定支出を減らすことに
 頑張ってる人より有利なんじゃないの?
 だって毎月お金がたくさん入ってくるのだから」

⇒実は高収入でも貯金ゼロの人はいるらしい。

そういう人に多い事例が、

・買い物レシートをもらわない。
・仕事の付き合い(飲み)が多い。ストレスで衝動買いが多い。
・いったい何を買ったのか覚えてない。
・そもそも忙しくて冷静になる暇がない。
・家計に頭を悩ます余裕がない。
・海外旅行が趣味。
・女遊び(風俗など)が趣味。
・月末なると毎回お金がピンチ。

上は、お金のプロ(FP)が実際に相談された事例を参照してます。

重要なのは「入ってきたお金」を
「どうやって貯金し、管理し、運用するか」

入るお金より、出て行くお金を減らすことが大切なんですか( ゚Д゚)
確かに全部使ってたら、どんな高給取りでも最後はゼロですものね。

「そのためには、お金の出入りを正確に把握しないといけない。
 何を買ったか覚えてない人なんか典型的な悪い例だよ。
 生活費だけをお給料から差し引いて、余った部分を貯金が基本なのに」

それができない人が、
前の話に出て来た『貯蓄ゼロの世帯』の率を押し上げてるそうです。
若い人ほど貯金はしてないようです。

「固定支出額は大切だぞ。生きていくのに必要な最低限の金額がこれだ。
 これさえ減らせば自動的に貯金に回せる金額が増えていく。
 この仕組みを知るか知らないかで将来は劇的に変わるぞ」

「大きな変化じゃなくて、小さな変化をコツコツと。
 これが資産形成に必要な知恵なんですね」

「あと忍耐。我慢しないとお金はたまらない。
 我慢できない人は、やっぱり貯金できない」

「不景気だとストレスで余計に使っちゃいそうですよね。
 将来の危機感を持たないと」

「日銀の金融政策を知れば、日本の経済がどんだけ
 極限状態なのか理解できるようになると思う。
 特に金融と財政はヤバいなんてもんじゃない。地獄だ。
 じゃんじゃん金使ってる場合じゃねえよ」

・小さな努力

ペットボトルや缶ジュースは、スーパーやドラッグストアで買う。
アイスなども同様。コンビニはあまり利用しない。
お洋服の衝動買いをしない。などなど。

「私のこと言われてるのかと思った(>_<)
 なんだか貧乏くさいけど。節約って大切なことなんでしょ?」

「アメリカのウォーレン・バフェットさんが
 同じようなことやってるよ」

世界一の株式投資家にして世界のお金持ちランキング第3位。
バフェット氏は10兆近い資産を保有していながら、

趣味はコカ・コーラの缶を1日4本飲むこと。
お気に入りのチョコレート菓子をスーパーで買うこと。
公園を散歩すること。読書をすること。

彼は億万長者になっても庶民感覚を持ち続け、
純粋に企業を応援するために株式を購入しています。
他にも慈善活動に600億円も寄付をしてるそうです。
世界中の投資家から尊敬され、愛されている。

彼はなんと同じ家に70年も住み続けている。
家が壊れない限りは住み続けるそうですよ。

マイクロソフトのビル・ゲイツもお金を使わないので有名。
バフェット氏と食事をするのはマクドナルド。
しかもバフェット氏はクーポンを使たったとか。

ゲイツ氏は飛行機の移動もエコノミークラス。
慈善事業への寄付、読書愛好家なのはバフェット氏と同様。

超富裕層の方は幅広い分野の本を読むのです。
一日の8割を読書をして過ごすこともあるそうです。

売上高が日本円で10兆円を超えるウォールマートの
創業者(社長?)の人も倹約家で有名だったらしいですよ。
名前はサム・ウォルトンさんですか。
大恐慌時代に育ったので生涯節約の大切さを忘れなかったのですね。

ウォールマートは世界一の大国、アメリカで
最も売り上げ規模の大きいスーパーマーケットです。

別名「小売の帝王」
売上高、60兆を超える……?
日本の国家歳入に匹敵してますけど……(;゚Д゚)

食料品以外の日用品もたくさん扱っています。
実は美雪さんが保有してる株の銘柄です。

最近では通信販売にも力を入れていて財務は健全そのもの。
合衆国企業の強さを思い知らされる。
アメリカが空爆されない限り
永遠に生き残る企業じゃないかと作者が言っていました。

お金持ちの話に戻りますが、
大富豪の彼らに言わせると、無駄遣いや衝動買いをしても
「むなしさが残るだけ」だからしないそうです。

例えば夏に着るTシャツは950円の既製品で十分なんですって。
私もお洋服は地味なのが好きなのでユニクロやジーユーで買ってます(⋈◍>◡<◍)

「ヒトミさんもお金持ちだけど庶民感覚を持ち続けてるのは
 素晴らしいことだと思うよ (´▽`)」

「そんな……(≧∇≦) 照れちゃうわ」

瞳「賢人おにいちゃん、貯金ってどうやってするの(。・ω・。)ノ♡」

賢人
「いや…まずタイトルに突っ込ませてくれ。
 あれって誤字じゃねえの? ヒトミさんは俺の妹じゃねえだろ!!
 俺の方が7歳も年下なのに……お兄ちゃんって呼ばれちゃった (。・ω・。)ノ♡ポっ」


金融庁から提出された報告書 5/22  
・公的年金の給付額は当面低下する見込みだ。
・年金額は今と同等と考えるのはむずいぞ。
・今後は公的年金だけで生活できねんじゃねー?

マスコミによって公表され… 国民激怒!!
ネット、ツイッターは。……大炎上!!

自民党 「国民が……切れてるぅwww選挙前なのにヤベえww」
麻生大臣「おーい金融庁www 国民の乞食共がキレてんぞwwww」
金融庁 「ちょwwww なんでこんなに物議かもしてんすかwwww!!」
麻生大臣「報告書を、はよ消さんかいwwww」
金融庁 「ちーっすwwwwww」

同報告の内容は 6/3に 削除された……!!

この事実に参議院の決算委員会が、わいわい盛り上がる!!

蓮舫「麻生金融担当大臣、あんた報告書読んでないやろ?」
麻生「サーセンwww表紙に目を通しただけだわwwww」

蓮舫「なんで報告書を削除したんじゃ。ぶっ殺されたインカ帝国」
金融庁の担当者「あーちーちーあーちwww燃えてるんだwwww廊下wwww」

↑口調を小説風に改変したが、内容は実話。
金融庁の人も含めて自民党サイドは
まともな答弁をせず、今さら年金制度の説明をして話を
長引かせ、詭弁を繰り返す。(自民党お得意の展開!!)

野党側は質問時間が20分しかないのであせる。
自民は引き延ばす。もはや国会論議のレベルでなく
いつもの茶の番であり、偏差値34のおしゃべり。

小学6年生の学級委員会で環境問題を
話しあったほうがよっぽど建設的だろう。

自民サイドは誰も責任を取りたがらない。
責任の所在を明らかにしない。だから国が良くならない。
日本は一日ごとに衰退する。

「ねえ賢人君……あれってどういうこと?( ゚Д゚)」

「年金生活者(老夫婦)に2000万の純資産がないと
 100歳まで生きれず、飢え死にする。
 厚労省で作られた原案をもとに金融庁の審議会で
 作成され、国会議員向けに
 提出された資料だったわけだが (´▽`)
 きわめて正確な資料だったのは間違いない」

「前話と内容がかぶるけど、やっぱり正しい資料だったのね(>_<)」

「すでに多くの著名なFP、アナリスト、エコノミストが
 指摘していることは、老後の生活は年金だけで成り立たないということ。
 これは今に始まったことじゃなく金融の知識のある人には常識だ。
 今騒いでる人たちは金融と財政の知識がないのかな」

老後に必要な資金は、専門家の見解によって多少の上下がある。
とあるエコノミストは、3600万必要だと主張する。これは過剰である。

なぜなら変動支出の項目には、交友費、娯楽費で月6万。
教育費(生涯教育?)に月1万5千。
被服(靴含む)の買い替え費用で(毎月)4000円など、
明らかに不要と思われる費用が毎月計上されているからだ。

「確かに不自然な計算ね (。´・ω・)
 生活が苦しい老人なのに娯楽で毎月6万も使うかしら。
 そもそも何に使うの? 現役世代でもそんなに無駄遣いしないと思う」

「服もなんで毎月新しいのを買ってるんだよ(-_-メ)
 年間で何着買ったら気が済むんだ。老後なのに。
 この手の試算結果がよく民放のテレビで放送されたいた。
 こんな結果で世間の奴らは納得したみたいだけど、ちゃんと計算したか?
 俺から見て明らかに不自然な例だよ。あり得ない」

「つまり金融庁が提出したのが…」

「正しかったと考えられる。生活費が月4、5万円不足すること、
 そしてこれ以上年金の支給額が増えないだろうこと(^○^)
 さらに2000万の金額も妥当だ。質素倹約に暮らしても
 2000万円不足するのは全く正しい計算だろうな」

⇒最大の問題は、年金の支給額が下がることです。
年金だけで生活できないことは常識です。

「年金の支給額が今後は増えないって
 宣言しちゃうと、国民の支持率が…('ω')」

「間接民主制の政権与党としては致命的だ。
 しかも増税を控えてる時期だぞ。 
 野党に選挙前の批判材料にされる」

「金融庁が資料を削除した理由って……」

「あんまり本音を言うと国民に支持されなくなっちゃうんだよ」

「麻生大臣は、あえて資料を受け取らず、
 しかも金融庁の報告は嘘だったと主張してるのね。
 金融担当大臣なのに現実から逃げちゃったわ」


安倍政権とは、端的に表現して『国家ぐるみの詐欺集団である』

下記に示すことは、残念ながら小説の設定でなく
現実世界で行われたことである。

自民がここ数年でしたこと……

・森友問題
何が問題かというと、国有地の売却価格を
不当に9億円引きにして籠池ちゃんに渡そうとしたこと。

国有地売却に使われた決済文章を
野党の要望により国会に提出させられた。
近畿財務局で決済された公的文章であると思われる。

⇒信じられないことに
 重要箇所が黒いボールペンで塗りつぶされていた。

安倍あきえ夫人と籠池夫妻との電子メールのやり取りがった事実。
そのコピーを提出させられる。
あきえ夫人が黒なのは国会関係者の間で周知の事実。

⇒ 同じく文章のほとんどは黒いボールペンで……


・外人(奴隷)受け売れ拡大法案の審議中。

⇒過酷な労働環境や薄給を悲観し、
 疾走した外国人が7000人を超えているのを指摘され、

厚労省「知らなった……そんなにいたんだね。
    300人くらいだと思っていたよ(>_<)」

外人を管理するために、マイナンバー制の導入を検討。
ナンバー制により外人奴隷の資産状況(口座残高)を把握できるのだ。

⇒指三本切断レベルの重傷者を中心に
 労災の認定数が350人と指摘され、

厚労省「へー。外国人で怪我した人ってそんなにいたんだぁ。
    あとで暇なときに資料読んでみるね(^○^)」


・裁量労働制(働き方改革・関連法案)

フェイクデータの典型。

自民党の主張は 
「裁量労働制の方が、平均的な勤務より
 残業時間が少なくなるから俺たちは正義!!」

ところが、その比較対象になったグループ
(平均的なシャ(者)の1日あたりの労働時間)で、
残業時間が『15時間超えだった人』が一定数存在。

これでは、この人たちは一日で
『計23時間』も働いた計算になってしまう。
まさにこの小説のペンタックの勤務体系である。
まったく平均的じゃなく「社畜」を例にして比較しているのが大問題。

データは捏造。不正調査なのが明らかになった。


・毎月勤労統計

またしてもフェイクデータ。

この小説では前述。調査対象の500社を意図的に入れ替え、
総所得金額が多くなるように調整。しかも調査員が直接出向かず、
メールのやり取りだけで確認。てきとーすぎる。

実はこの10年で厚生年金、健康保険、介護保険料の負担額(税率)が
上がっている。それに加えて特別復興税が税率の底上げをしている。

ここ数年で「国民の可処分所得が減っている」のが事実。
弁護士の偉い人や、衆議院の頭の良い野党議員が鋭い指摘を展開。

厚生年金は超過累進課税率(るいしんかぜい、のこと)
を適用しているため、特に総収入が600万から700万を
超える人たちの負担が激増していた。

社会保障の財源確保のために現役世帯の負担増によるものである。
増税前に手取り収入が減っていることが明らかになった。
つまり大問題であり、アベノミクス5年の成果がこれなのである。


自民党の厚生労働省はフェイクの名手。
フェイクの新ネタを毎年提供し、国会を
(罵詈雑言などで)盛り上げるのが得意。

バスケットなら天才ドリブラーとして
NBAで即戦力になるレベル。


瞳「全然知らなかったぁ(>_<) 厚労省ってフェイクが得意技なのね。
  ドリブルの切れとかすごそうね」

厚労省「僕たちはデータを捏造するのが主な仕事です (∩´∀`)∩バブー
     真面目に仕事しなくても年収が1000万を超えます」

賢人「ここ最近の国会で野党から怒られてるのは、ほとんど厚労省だった。
   平均的なシャの平均的な労働時間、のデータは笑ったよ。
    共産の小池書記長が、小学生の算数レベルの間違いだと言っていた」


・麻生大臣が「金融中が作った、貧乏な老人はみんな死ねよ資料」
(小説の冒頭)の受け取りを拒否。

麻生「おい金融庁の担当者wwwおまえ、あとでボコるわwwww
   おめーらのせーでwww蓮舫に怒られちゃったじゃねーかww」

担当者「すみません。すぐに報告書は削除したします」

マスコミ「金融庁が削除したぞおおwwww面白いネタ、あざーっすwww」

国民「俺らはどんだけ国にお金を収めても老後は保障されねえのかよ!!
   人生クソゲーってレベルじゃねえぞ!!
   不景気なのにどうやったら2000万も溜められるんだよ!!」

安倍首相「貧乏人は死ねなんてwwwそんなの口にしなくても
     察してくださいよwwwwあー国会はテレビ中継だから
     上品に説明しないといけねえ。クソめんどくせえwww」

参議院・決算委員会での安倍のクソ長くて無駄な答弁を要約。

・公的年金にマクロ経済スライドを発動するしかねえ。
 本当は70歳以降の満額支給にしたいけど、支持率が下がるから言えねえ!!

・まず財源となる現役世帯の労働者の減少、少子高齢化が
 止まらないため、将来の年金額の維持は不可能だろ。
 むしろ減るけど耐えろ。そもそも老人長生きしすぎ。
 財政圧迫してんじゃねえ。はよ死ね。

⇒別に自民党のみならず、どの政党が第一党でも
 日本国の財政状況で年金制度が持続困難なのは明らか。
 野党も偉そうなことは言えないだろう。

・年金を払わないとは言ってない。額を減らしたり、
 支払時期を遅らせるだけだ。中には金持ちの老人もいるだろ。
 全部が貧乏じゃねえはずだ。

⇒金融広報中央委員会、総務省の調査では、
 老人の34%が貯蓄ゼロで金融資産を持っていない。
 貯金額が100万に満たない人は全世帯の4割に達する。

・野党のヤジうるせえ。特に立憲民主党。
 てめえら全員死ね。共産党も速やかに死ね。
 俺の話が長いって? わざと長くして誤魔化してんだよ馬鹿野郎。

⇒ヤジは年金問題と関連性がない。首相も低能だから早く死ね。


その他、ニュースのインタビュー等の安倍首相の陳発言集を紹介。

・日本はすでにデフレを脱却したぞ!! ←え?

⇒毎月勤労統計で可処分所得が減少していることが証明された。
 日銀が規制緩和をなおも維持。解く構えすらない。
 日銀の当座預金にマイナス金利を適用し、
 各金融機関のお金の流動性を高めるのに必死。
 長期金利の水準も極めて低い。普通預金金利、0.01パーくらい。


・俺の中では、物価上昇率2パーセントを
 (インフレ・ターゲット)すでに達成したんだ!! ←はい?

⇒日本銀行の黒田総裁。
 日本で一番金融に詳しいと思われる賢者は全力で否定。

 黒田ちゃん
「電気ガスなどのインフラの上昇を中心に、よくて0.6~0.9%だね。
 賃金の上昇は、物価の上昇に全然追いついてないよ。
 あと今後もデフレが続くって、日銀の理事のみんなも認めてるから。
 量的緩和政策はあと10年くらい維持するかもしれないよ」

・戦後最長の好景気なんだぞ!! 俺様すげえ!! ←えっ???

⇒例えば生活必需品を販売してる代表格、スーパーに行けばよく分かる。
 お弁当や総菜の価格は下落が続いている。
 賃金、物価の水準を考えても、9割の国民は好景気を実感してない。
 アベノミクスは大企業や株式投資家をもうけさせただけで、
 国民生活レベルでの変化はほとんどない。


・日本は完全雇用を達成しているんだぁ!! ←なんだってぇ!?

小説内では前述。東証一部上場の各企業で累計6000人(NHK発表)、
メガバンク三社で1万7千人が希望退職させられている。
43歳以上の正社員が対象で、企業が退職金を満額
払いたくないための措置。昇給やボーナスの支払いもしたくない。

就職氷河期世代で40万人の無職の存在を政府が確認。
就職あっせんの行政措置を発動するほど、問題は深刻。

高齢のニート引きこもり、67万人とのデータあり。
総務省が発表する失業者数の統計は、110万人? 忘れた。

賢人「完全雇用(失業率3.4パーセント以内)
   を達成したのはアメリカのトランプ政権だよ」

瞳「まさかインフレ目標の2%って、アメリカのパクリ?」

賢人「2%はFRB(連邦準備理事会)が定めた物価目標なんだよね。
   まあどこの先進国も同じ目標に決めてるんだけど。
   2018年ごろ米は製造業を中心に好景気で継続的な利上げに成功した。
   少子高齢化の日本がFRBの政策の真似なんかできるわけないだろ」

・政府はすでに物価上昇率2%達成を確認してます。
  なぜか日銀が金利を上げてくれないし、
  追加緩和とか検討してますけど、
  まあ日銀のことは憲法上の独立が認めらているから、
  口出ししないでおきますね(^○^)

黒田ハルヒコちゃん
「この馬鹿、そろそろ殴ってもいいかな(-_-メ)
 だからデフレがやべえって金融政策決定会合でも
 何度も結論出してやってるのに、全然人の話聞かないね。
 この状態で金利の引き上げとか夢物語だよ。
 金融の常識も知らなそうだけど、首相ってどこの大学出てるの?」

※実際に超低金利の長期化が深刻過ぎて
地方銀行、信用金庫が財政赤字で死にかけてます。


・アホ企業ども!! アベノミクスの成果だ!! 
 基本給とかボーナスの賃上げ急げよ、おら!!

経団連
「バカじゃねえの。いくら大手企業が儲かっても
 対外投資と株主への還元とかで忙しいんだ。
 そんな簡単に賃上げできるか。経営方針に口出すな。
  企業はてめえのオモチャじゃねえんだぞ」

東京商工会議所
「首相のクソ野郎、喧嘩売ってんのか。
 中小企業の経営を考えたことある?
 損益計算書が読めますか? そんな余裕ねーんだよカス」

※日本の企業の99.7%が中小企業です。

日本商工会議所
「国内での雇用だと人件費だけで売上高(収益)が吹っ飛ぶわ。
 まじで賃上げとか無理ゲーだって。
 米中貿易摩擦のせいで原材料の仕入れにも影響してんだぞ。
 来年の設備投資に回す金ねえし、既存の従業員の退職金や
 ボーナスをカットしてる惨状をどう思うよ?」


従業員の賃金カットなど、
財務活動(支払い)がまともにできないレベルの企業は、
今後10年以内に倒産の可能性あり。
日本に住んでいる限り、大手も含めて
どこの企業に所属しても「終身雇用」はまずあり得ません。
読者の皆さんも、いつでも首を切られる覚悟で働きましょう。


・野党が僕を批判したら、衆議院を解散するぞおお!!

⇒今期(2019)国会中の発言だったと思う。
 教科書に載っても問題ないレベルの馬鹿。
 
・須賀官房長官へのインタビュー。解散の可能性について

「すべて総理のお考え次第です。
 総理が解散のタイミング、可能性について考えます。
 つまり総理の一存で全てが決まる独裁体制なのです」

⇒安倍の独裁がますます強まっている。
 都合が悪くなると衆議院の解散、衆議院総選挙。
 衆議院の賛成多数で再び安倍が総理に指名されるのスーパーコンボ。
 使われる国費は650億円。国民の税金は首相のお小遣いである。

⇒解散権の所在
 憲法上の解釈はあいまい。
 一般的に権利は内閣にあると思われているが、
 今の安倍政権一党独裁では、
 内閣(閣僚ら)を無視して(脅して)彼の一存で決まるとされている。
 野党から憲法違反と罵倒されて無理はない。

「賢人君……。日本の首相って頭悪い人なの?(゜-゜)」
「いかにも親のコネだけで成り上がった人って感じだな(。-∀-)」

「国民の税金って安倍さんのお小遣いだった……?
 これって小説じゃなくて現実なのよね……?」

「現実だな。国会のやり取りがクソ過ぎて
 フィクションにしか見えないけど現実なんだよな…」

※筆者

国会とは、ある意味「最強の馬鹿決定戦」なところがあって、
毎回自民党の厚労省を中心に馬鹿が露呈し、
野党から猛批判にさらされている。

国民の代表たる国会議員が集まり、
国の政策論争をする「立法府」が国会のはずである。

かつて明治の時代は、偉人と呼ばれる賢者はたくさんいたそうだ。
みな真剣に国の未来を憂い、富国強兵政策の下、
西洋列強国に侵略されないための強い日本を作っていった。

ところが、令和の元年になり、国会は幼稚園のお遊戯会と化した。
国会議員らは優れた知性を「盛大なる茶番」をすることに使っているのだ。

かつて七つの海を支配したグレート・ブリテン連合王国。
今日まで英語は世界言語である。

世界最大の領土を誇った大元(モンゴル)帝国
この領土面積の記録は、現在まで破られていない。

地球上の全地表面積を7回焼き尽くすほどの
核戦力を持っていた、ソビエト・社会主義共和国
作者の作品に飽きるほど登場した。

欧州制覇の目前まで迫った、
ナポレオン・ボナパルトのフランス大陸軍。
ナポレオンの知性は数学、法律、政治、考古学にまで及んだ。
ナポレオン法典は、各国の民法の原点となった。

欧州制覇のみならず世界制覇まで
手に入れようとしたナチス・第三帝国
ドイツは20世紀で地上最強の戦闘集団を組織した。

古代エジプト王国。ローマ。ギリシア。
盛者必衰の理。
どんな兵も、いずれ衰退し、滅びる時が来る。

これらの国には、優れた政治家を初め、あらゆる組織に
エリート集団がいて国家を治めた。その中でも
私はフランス革命の志士たちが人類史上最高の
頭脳の集まりだったと今でも信じている。

当時の国民公会では祖国フランスを財政危機、内戦、
対外戦争の危機から救うため、あらゆる分野の天才が結集し、
政策論争をしたものだ。その論争のレベルの高さは、
まさに「論争」と呼ぶにふさわしい。国民公会は賢者の集会場である。

国民の革命への情熱も半端ではなく、
その情熱こそがナポレオン軍の強さの源だった。

今の日本は平和な国だ。戦争の危機はない。
そして今の日本は自民党が政権与党だ。
代わりの党はもっとアホである。

日本が現在、戦後最大の経済成長期でなく
国家の衰退期にあることは疑いようがない。

瞳のママ「娘のレオパレス21が燃えたですって!?」

これも小説の設定だったらどんなによかったことか。
レオパレスは、現在までに少なくとも3000棟の
建築基準法違反(施工不良)が明らかになり、株価が光の速さで暴落した。

株は、今や生ごみと同等の価値しかない。
つまり日本にある生命保険会社の存在価値と同じレベルだ。

(しつこいようだが、生保はクソである。
 私は生命保険会社が大嫌いだ。生保は詐欺だ。悪徳だ。
 このような会社に勤務している全ての従業員に告ぐ。
 君地たちは死後、必ず地獄に落ち、生前の行いを悔いることになる)

「あの」レオパレスである。英国の一部の企業が、この会社の
株の空売りをしていると聞いたが、はたして何が目的なのか。

忘れてはならないのが、この小説の主人公の一人である、
坂上瞳の住居もまた、レオパレス21だったことである。

瞳「布団が…ふっとんだぁ!!」

レオパレスは、もろい。

私はどこかのニュースで聞いたのだが、台風が通過した後に
レオパレスの「屋根が吹き飛び」雨が建物内に直接入って来たという、
笑うに笑えないことがあったとか。

信じれない事態である。

「お~い大変だぁ、(# ゚Д゚)レオパレスの屋根が吹き飛んだぞ!!」

「や~ね~(屋根)(´▽`)」

シャレに、ならない。

今回はダジャレが言いたかっただけである。
これにて筆者の語りを終える。


※さかがみ ひとみ (もうすぐ33さい)

私は愚かにも布団を干した状態で買い物に行ってしまい、
途中で雨が降りそうだった、まではいいんですが、
帰ってきたらアパートメントが良く燃えていました。

ごおごお。と音を立て。レオパレスの周囲にある住宅地にも
火が燃え移り、周囲一帯は火炎の地獄と化してしまいました。

「危ないから現場の近くに寄らないでください!!」
「お嬢さんは離れていろ!!」

必死で消火活動を続ける、消防隊員の男の人達です。
お嬢さんって言われたってことは、まだまだ若者っぽく
見えるってことよね (*´з`) ちょっと自分に自信がついた。

「これはどういうことなのかしら、ヒトミさん ( 一一)」

「お母さんがなぜここに…。(・_・D
 いつもとうとつに登場しますよね」

「この話が始まった時からいたわよ。
 そういう設定なの ($・・)」

「設定、ですか ('_')」

「そう。設定よ (-_-)」

母様は品よく腕を組んで、消防活動を見守っていました。
危ない危ない。ぼーっとしてると風に乗って火の粉が服に飛び散るわ。
今日の天気は小雨と強風。夕方だからタチが悪い。
燃え盛る炎。まるで地獄の光景を眺めてみるみたい。

私のアパートが、燃えているのです。
壁が薄くて隣の部屋のテレビの音は漏れまくり。
上の階の人がどしんどしんと夜にうるさい。
住民が階段を上る音で目が覚める。

けっして住みやすい場所ではありませんでした。
それでも住めば都。あそこには私の生活が、
思い出が詰まっていたのです。 

私は実家の広いお屋敷じゃなくて、
他のみんなと同じような
暮らしをしてみたいと思っていたから。
皮肉なことにレオパレスに住むようになってから
自分がお嬢様だったことに気づきましたが。

『キッチンのやかんの湯を沸かしたままで、
 30分以上かけて買い物をしてきなさい』

私のバッグの奥に締まっている、作者からの指示書です。
ここまで読んでもらえば読者の皆さんは
分かってくださると思うんですが、
アパートの放火の原因を作ったのは私です。

罪悪感なんてありません。
ここが現実じゃないって分かってますから。
しょせん小説。
それに指示ならしょうがないでしょ?

「ヒトミさん (-_-;)」

「はい。お母さん (;´・ω・)」

「あなたの新しい住居を用意するのに少し時間がかかるわ。
 それまで渋谷賢人君のおうちにお邪魔させてもらいなさい (-_-;)」

はいはい。☆侵略イカ娘★

そんなこんなで、私は賢人くぅんの
アパートメントで同棲することになりましたとさ。

いかにも少女漫画やラノベとかでありがちな設定です。
若い男女の突然の同棲。しかも親公認。
もしくは親は海外転勤か、既に死亡している。
どうして市販の作品は画一的な設定ばかりなのでしょう。

それは読者受けしやすい王道展開ばかりの「設定」に凝った
作品を発売したほうが、利益(販売益)になりやすいからです。

出版社等の利益を追求した結果、つまらない、
どこかで読んだような作品ばかりが量産され、
3年ごとくらいのサイクルで少しづつ飽きられ、
以前とは違った傾向の作品が作られ、
斬新だともてはやされ、
それがのちに循環していくのです。

市販作品には、
出版までの納期、ページ数の上限、
編集部のダメ出し、言論統制(倫理何とか)により、
本来の作者の意図した作品とは異なる内容が展開されているのです。

真の個性的作品がネット小説に集中しているのは必然ですね。

・さっそく賢人の家へ

「てことで今日からよろしくぅ (*´▽`*)」

「ひ、ヒトミさん、今は来ちゃだめだ……。゚(゚´Д`゚)゚」

私は思わず吐きそうになりました。
玄関のチャイムを押しても反応がなかったので、
無理やり扉をこじ開けて中へ。それでも賢人君の気配がない。

おかしいと思ってお風呂場を開けてみると、「うっ……(;一_一)」いるいる。
2話前で群馬県まで吹き飛んだはずの美雪さんと、
そのお兄ちゃんであるはずの賢人君が。いん ザ ばするーむ。

つまり二人で浴槽に入っていたのです!!!!! (# ゚Д゚)

「きんしんそうか…(゜-゜)」

「断じて違う!! マジで違うんだ誤解なんだ!! 
 頼むから俺の話を聞いてくれ!! ('Д')」

あれから数日。美雪さんは群馬県から電車(JR高崎線)に乗って
埼玉から帰って来たそうです。「おにいちゃんのバカぁ」といつもの
ように泣きわめき、手が付けられない状況になった。

群馬県の山奥で熊やニホンザルの襲撃を撃退しながらの
下山で精神的にも肉体的にも消耗し、
優しかった彼女(どこが優しいの!!)をすっかり変えてしまった。

「あの女にぶっ飛ばされたせいで死にそうになったんだよ!!
 熊から逃げるのって本当に命がけだったんだから!!
 しかも臭いし!! お兄ちゃんに言っても分からないだろうけどさ!!
 もちろん責任取ってくれるんだよね!?」

「あの女と早く別れてよぉ!! 別れて!! さあ別れて!! 
 今すぐ別れてくれたら許してあげるから!!(>_<)」

賢人君はそれでも私との婚約の意志は固かったようです。
言うことを聞かない妹さんを
往復ビンタするなどして事態の鎮静化を図りました。

でも美雪さんも引きません。
ついに最終兵器・自殺未遂を図りました。

おにいちゃんの見てる前でケダモノナイフ、じゃなくて果物ナイフを使い、
リスカをしようとした。その前にケント君が飛び掛かり、
暴れ続ける妹を力で押さえつけていたら、体がもつれて
妹さんを抱いてしまい、自然とキスをしてしまったとのこと。

この兄妹は何度キスをしたら気が済むのでしょう。
その後、妙な雰囲気になってしまい。どちらとも話しかけられず
沈黙と戦っていると、美雪さんの方からひと言。
一緒にお風呂に入ってくれたら許してあげる。

――そして現在に至る。

「俺は何も間違ってないんだ (;'∀')」

ケント君のあそこは東京スカイツリーのように大きくなっていますが。

「だから違うんだ!!」

(;・∀・)ドン引き(=゚ω゚)ノ

もうね、最低。
妹さんとキスするのは生理的に受け付けないんじゃなかった?
確かに美雪さんはスタイルが良いし、私より若いけど (。-`ω-)
この小説に出るの、もうやめようかな。

美雪さんが「どうぞどうぞ」( ・´ー・`)
こんな顔で言うものだから、殺意が抑えきれません (^_^メ)

「美雪さん。この際だからはっきり言っておくわね。
 私はあなたのこと、大っ嫌いだから (-"-)」

「奇遇ですね。私も瞳さんのこと死ねばいいと思っていたんですよ。
 レオパレスと一緒に燃えちゃえばよかったんじゃないですか? (-_-)」

私はEVA第一話で暴走した初号機並みの勢いで美雪に襲い掛かりました。
一撃必殺の願いをこめ、軸足の踏み込みを中心に
しならせた私の右腕が、腰の高さからアッパー気味に
繰り出されます(;^ω^)

相手はたかが女子大生(;´∀`)

「うそっ……!! ( ゚Д゚)」

美雪さんはお風呂場で裸ということもあり、まるで対応できていません。
てゆーか私たちはお風呂場に三人もいたのですか。きっと狭いでしょうね。

坂上家の子供が限界まで体を鍛えてるのは前述しました。
子供たちは栄養バランスの良い食事を徹底し、
有酸素運動と無酸素運動をしていました。

例え平日の夕食後でも最低10分は体操か筋トレかジョギングを
するようにしていたのです。食べた後にごろごろすると
本当に将来病気になりますから気を付けてくださいね。
不健康な人は、お金持ちにはなれませんよ。

ぐおおおおおっ ←私の右腕がスローモーションで動いてる音。

この一撃なら、美雪さんを再起不能にできる。
そう確信できるほど、力のかかり具合が最高だったのです。

私の残像すら残すほどの拳は……

「ごはっ!!(>_<)」

なぜか賢人タソのわき腹にヒット!!

信じたくありませんが、賢人ちゃんは妹をかばうために
自らの体を盾にしたようです。

「ああ、神よ。どうしてこんなことに……
 賢人君、ごめんなさい。手加減せずに全力で殴ってしまったわ(/ω\)」

「おにいちゃん、顔が真っ青になってるよ!! 大丈夫なの(´・ω`・)
 お兄ちゃん? お兄ちゃん……!! お兄ちゃんっ……!!Σ(・□・;)」

ケント君はお腹を押さえながら、うずくまって震えています。
妹と会話する余裕すらなく、ひたすら痛みと戦っています。
まさか、内臓や骨で異常があるんじゃ…(~_~)

どうでもいいことかもしれませんが、
こんな時でも彼のあそこはボッキしたままでした。

「お、俺はだいじょう……ぶはぁ……!! (;´Д`)」

ケント君の口から吐き出された血が、バスタブを汚していきます。
私の見たところ、彼の吐血量はコカ・コーラの
ペットボトル500ミリ分に相当します。

ところで美雪さんの所有している米国株の銘柄に
コカコーラが含まれているそうです。

「株の話なんかしてる場合じゃないでしょ!!(´゚д゚`)
 坂上瞳、あんたはあとでフルボッコにしてあげる!!
 まじであんた何しに来たの!! 
 金持ちお嬢様の甘ったれ女、年増の若作り!! 
 死ね!!(`´)ガオー」

美雪さんは私を罵倒しながらお兄さんの看病をするという
器用な真似をしていました。

「み、みゆき('Д')」
「しっかりして!!Σ(゚∀゚ノ)」
「俺は……ここまでだ。俺のことは忘れろ(+o+)」
「忘れろって、何を言ってるの!?Σ(゚∀゚ノ)」

「俺がいなくても、おまえならきっと大丈夫だ。
 お金は、親父から譲渡された株式がある。
 大切に……するんだぞ (´Д⊂ヽ ガクッ」

「おにいちゃん……うそでしょ。ねえ。嘘だって言ってよ。
 うそだあああああああああああああああああ!!」

ケント君は首をがっくりさせた後、動かなくなったのです。
美雪さんがどれだけ彼を揺さぶっても反応がありません。

まさかと思って心臓の鼓動を図ると、なんと動いていません。
呼吸もしていないそうです。

渋谷賢人25歳。時給210円。個人資産740円。(郵貯は含めない)
一人の若者が、あまりにも短い生涯を終えた瞬間でした。

「あはは」

美雪さんが、

「あはははは。あははは(゜-゜)」

なぜか笑っています。その雰囲気は尋常じゃありません。

「ほんと面白いよね。瞳さんって」

無表情になり、私を感情のこもらぬ眼で見つめます。
私は彼女の無表情から、猛烈な殺意を感じずにはいられません。

美雪さんが、少し姿勢を低くした。
私が覚えているのはそこまででした。

その次の瞬間には、私のお腹には鉄の球でも直撃したとしか
思えないほどの衝撃に襲われました。

「うぷ(◞‸◟)」

私は盛大に吐きました。
胃の中に入っていたものが全て外へ出て行きます。
とっさに口を両手で塞いだのですが、
指の隙間から嘔吐物が容赦なく漏れていきます。

なんて暴力的な腹パンなの……。

「殺してやるよ。絶対に殺してやるよ。坂上瞳」

私はあまりの恐ろしさに奥歯のかみ合わせが合わないほどでした。

美雪は私の左腕を優しくつかんだかと思うと、
本来曲がってはいけない方向へひねりました。

「あぎゃぁぁああああああぁぁぁぁあああああああああああああああああああぁ」

肩の関節が外されたのでしょうか。
痛みのあまり頭の中に火花が飛び散るかのごとくです。

無様にお風呂場の床の上を
行ったり来たりする私を美雪は足蹴にしました。
冷静に考えるとお風呂場には
言ったり来たりするほどの広さがありませんでした。
適当な描写ですみません。

「こんなんじゃ終わらないんだから。
 生まれてきたことを後悔しながら死んでいけ」

このままじゃ殺されるのは確実ね。
ケント君を殺してしまった以上、そうなるのは仕方ないことだけれど、
私だって無駄に32年も生きてきたわけじゃない。

気力だけで頭をはっきりとさせ、歯を食いしばり、声を絞り出す。 
全身の冷や汗がすごいわ。

「き、来なさいよブラコン娘。
 私だってただでやられるわけにはいかないわ」

私は動く側の腕で、隠し持っていた拳銃を構えました。
近所のウェルシアで買ったのです。
先週は重火器が全品半額セールでした。

「殺す」

美雪さんが獣のごとく低い姿勢で、私に飛び掛かろうとしました。
彼女の次の一撃を食らえば、今度こそ私の人生は終わる。
そう確信が持てるほどの迫力でした。


「はい、かっとぉ」

作者さんが『どっきり、昼ドラのような修羅場』と書かれた
プラカードを掲げています。

作者さんはすぐに逃げて行きました。
美雪さんが唖然としていて、寝たふりをしていた賢人君は
眠そうな顔で起き上がり、とりあえず美雪さんにハグしました。

「はぁ……どっきりとはいえ、疲れたわ」

私は外された関節を直すために最寄りの整形外科へ行くことにしました。
一人じゃ動けないからタクシーでも呼ぼうかな。

「心配しないで。俺が連れて行くよ(^-^)キリッ」
「イケメン……(≧∇≦)」

私の名前は坂上瞳32歳。人からは若作りで美人だと言われますが、
どうせお世辞なんでしょ? これにて茶番を終えます。


※本編へ戻る。


お題。お金について語りなさい。貯金や運用など。

賢人「今回も貯金の仕方、お金の運用について学ぶか(・_・」

瞳「前回の金融庁のギャグの原案を考えたのは
  厚労省だったみたい。ニュースでやってたわ!(^^)」

賢人「厚労省の試算結果をもとに金融庁の審議会で精査した。
   そしたら正しい試算だと明らかになった(*´ω`)」

瞳「ギャ、ギャグよね?Σ(゚Д゚)」

賢人「正しいんだって。だから世間が騒いでるんだよ( 一一)」

瞳「えー(>_<) 私2000万円も用意できる自信ないよー」

賢人「そうかな……?(-ω-)」

瞳「(´・ω`・)えッ?」

……。

瞳「ねえねえ。私と賢人君が結婚した場合の
  シュミレーションをしてみましょうよ(^○^)」

賢人「いいね( ^ω^) さっそく資産状況を確認だ」

賢人の資産
・小銭入れの現金 740円
 以上

瞳の資産
・お財布の中に        2500円。
・アパートの金庫に      15万円
・埼玉りそな銀行の普通預金  470万
・お父さんのデビットカード  500万
・お父さんのクレジット(イオン)カード 200万
 以上

二人の合計でおよそ1200万円超え

夫(25)妻(32)にしては十分すぎる。
日本全国を見渡しても、これほどのお金がある状態で
結婚をしている夫婦は稀であろう。

内容を分析すると、瞳のカードの割合が大きい。
父からの愛が、娘の結婚資金にまでなっている良い例だ。
娘は父から渡されたカード類は金庫に大切にしまってある。
たまに使ってもすぐ補填してれるので助かっていた。

夫婦の資産の99.998%を奥さんが保有してる。
確かに瞳は賢人より7歳年上(学年では6学年上)だが、
それにしても夫側がお金を持ってなさすぎる。


実は賢人には資産がまだある。

「よーっす。賢人ぉ(^^♪」

「母さん!?(。´・ω・)?」

とつぜんだが、この小説に初登場。渋谷家のママである。

FP一級、日商簿記一級、宅建二級、TOEIC870点、その他
多数の資格を保有する、いわゆるキャリア・ウーマンである。

市販のラノベでよく出てくるような、
学校の美人の先生の容姿をしている。
長い黒髪。長身でナイスバディをしたママなのだ。

肌の艶がよい。化粧の乗りも良い。はつらつとしたしゃべりかた、
ハイヒールを履いてさっそうと歩くその姿から、
今でも30代と間違えられることもある。嘘である。
いくら小説でも25歳の息子がいる人が30代に見えるわけがない。

賢人のママが大切にとっておいた、賢人の給料口座があるのだ。

「賢人が結婚するなら返してやるよ。ほらよ。
 あんたのキャッシュカードと預金通帳('ω')」

乱暴に渡された、埼玉りそな銀行の普通預金口座だ。
賢人が2年半銀行で勤めて溜めたお金。
自分で見るのは初めてだった。

気になる残高は……なんと310万円!!
たった2年半務めただけなのに、こんなに入っているとは!!

「魚おぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」

賢人は、生まれて初めて100万円以上のお金を手に入れ、
パプア・ニューギニアの先住民族、グルルンバ族
のように小躍りしたい気分だった。魚市場。

(よかったわね。賢人君 (ノД`)カンドー)

瞳は思わず拍手したくなった。

たった2年半とはいえ、銀行でも色々とあったはずだ。
上司に怒られ、顧客に追い詰められ、取引先には脅され、
散々な目にあってきたという。

労働とは、組織(企業など)に対して自らの
労働時間を提供し、生み出した製品やサービスの
対価として賃金を受け取ることを差す。
労働賃金の本質とは、『労働者の勤務した時間』の価値なのだ。

これをカール・マルクスら社会主義者は投下労働価値説と呼称した。
実はこれはデタラメで、筆者が独自に解釈しただけの経済理論に過ぎない。

ちなみにリカードやアダム・スミスも投下労働について
持論を述べているが、複雑すぎて筆者には伝わらなかった。
筆者のようにもっと簡単な言葉で説明してほしい。
どんな素晴らしい学説でも万人に伝わらなければ意味ないのだから。

賢人は、およそ2年半分、時間にして395時間分の労働対価を
今まさに受け取ったのである。時間の計算は今思いついたので適当である。

「うええええええい( ・´ー・`)!! 俺様最高っす!!(∩´∀`)∩」
「やったわーーー(^O^)/ さすが私の旦那様(^o^)丿バンジャーイ」

賢人らがこのような顔になってしまうのも無理はない。
一時的に大金を手にすると人は感動するものだ。

夫婦の資産額がまた増えた。

賢人のりそな銀行の310万を追加すると、実に『1500万円!!』

別に令和10年でなくとも、令和元年の現実世界でも
確実にお金持ちの方に分類されるべきであろう。

それでも野村総研の分類ではマス層(3000万以下の最下層)に
なってしまうのが哀しいのだが。

お給料も考えてみよう。令和10年では時給210円。論外である。
ライフ・プランニングができるわけがない。

そこでペンタックが現実世界にあるとして。
埼玉県北部。派遣での軽作業。工場である。
時給の相場は、950~1100の間だ。
1200を超える場合は、3Kに該当するクソ職場の場合が多い。

ここでは仮に1050円としよう。
ペンタックの一日の勤務時間が8時間15分。
お昼休みなどを除いた実勤務時間が7時間半だとすると、
日給がおよそ7875円である。二人合算で15750円。

20日出勤して月収が、およそ31万5千円。
ここから社会保険等を差し引くが、計算がめんどくさい。
手取りは26万と考えておこう。

基本的には定時帰りだが、繁忙期には残業がある。
土曜出勤も毎月1日はある。
月(会社カレンダー)によって出勤日数が変わるので、
社員の固定給と違って毎月の給料に変動がある。
時給制の痛いところだ。

しかも派遣社員は雇用が不安定なのだが、
これは東証一部企業を始めとして
日本の会社員なら誰にも当てはまる時代に
なってしまったので、あえて考えなくてよろしい。

特に年次昇給をして勤務年月が10年を超える、
正社員の人には筆者から強く警告をしておく。

例えば上場企業のニコン。
脂の乗った中年の社員を大量に解雇し、
経営体制の一新を図ったと社長がどや顔をしていた。

一番危ないのが、新卒から同じ会社に長年勤務してきた人だ。
一生同じ会社で勤めあげるなど今の日本では夢物語である。

そしていざ転職市場に流されて、自分の居場所を失った際に
どうやって生き延びるのか、知恵と機転が必要になる。
プライドも捨てなければならないだろう。

むしろ派遣なら首切りにあった場合、速やかに派遣会社が
次の仕事をあっせんすることを法律が義務付けているから、
転職のフットワークは軽いといえる。

賢人と瞳の話に戻る。
この夫婦が安価なアパートや団地に住み、
子供を作らずに今まで通りの質素な生活を続けた場合を想像する。

今後も一定の可処分所得を確実に貯金として積み上げていくだろう。
老後までに3000万程度保有しても不思議ではない。

賢人は学生時代に培った教養と、銀行勤務の経験から
お金の本質を知っている。余剰資金は株式投資や
不動産投資に回してさらに増やすことを考えるだろう。

したがって、金融庁の2000万持たない世帯は
飢え死にしろ、には当てはまらないのが分かる。

まず結婚時点で1500万円保有しているのが大きい。
さらに賢人と瞳は、おそらく一生涯無駄遣いはしない。

なぜ言い切れるのか。

「20代の時に溜められる人は、一生溜められるんだよ( ・´ー・`)」

ママのセリフである。

ママの言葉を借りると、溜められる人と溜められない人は、
実は社会人一年目の段階で既に決まっているそうだ。

「18か22で社会人になって初めてお給料をもらう。
 先が見据えてる奴は初任給を
 もらった時点で無駄遣いはしないもんなのさ(; ・`д・´)」

ふむ……。

「逆にぱあっと使っちゃう奴は、あとで溜めればいいやと
 思って、次の月の給料も全部使っちまう。
 これがずっと続く( ・´ー・`)」

やはり性格の違いなのでしょうか?

「性格もある。育った環境の違いもある。
 一番大事なのは『先』が見えるかどうかだね。
 お金の運用に必要なのは、先を見据えて
 じっと我慢していられる心の強さ。忍耐力。
 バカにはこれがないんだよねぇ」

今明らかに筆者をバカにする顔で見てきたが、
私は馬鹿ではないと信じたい……。

「人生設計で必要なのはあらゆる場面を想定することだ。
 夫婦なら子供は何人必要なのか。賃貸か分譲か一軒家か。
 車は所有するのか。病気、退職や転居のリスクをどう管理するか(-.-)」

家庭のリスク・マネジメントである。

「そこまで計算も出来ねえのに、若い奴らはどんどん結婚してんだから
 バカだよ。離婚率が増えてんのはどう考えても自己責任だろーが(; ・`д・´)」

「資本主義では、将来起こりうるトラブルの90%は金で解決できる。
 金を持たねえってのは、ドラクエで武器も持たずに洞窟に
 進むようなもんなんだよ( ・´ー・`)」

「リスク回避のために保険は利用するべきだ。
 例えば損害保険は便利だが、保険だけに頼るんじゃねえ(; ・`д・´)
 一番重要なのは自己資金だよ。会社だったら株主資本のことだな。
 自分で用意し、なおかつ、すぐに使える金をたくさん持ってる奴は強い。
 経営体制の盤石な企業は、自己資金で固定資産を購入して
 のちに凄まじい利益を出している」

「うちの賢人やヒトミちゃんは、仮に億の金を持ってても
 そんなに使わないタイプだと思うね。堅実なタイプってやつ。
 まあうちの家族はそんなのばっかりなんだけど。
 血筋なのかねぇ(;一_一)」

あまりこんなことを言うのはあれですが、離婚した場合のリスクについては…。

「子供がいない状態での離婚なら、子供の親権や養育費の
 問題でもめることもない。それに夫婦がそれぞれ
 一定の貯金額を持っているから、お金の心配もない。
 よって現状ではリスクと呼べるほどのものはない」

離婚した場合、二人が持っていたお金はどうなるんでしょうか?

「財産の分与なら、法的には独身時代に溜めたお金が
 個人資産として考えられる。夫婦生活を送ってから
 溜めたお金が共通財産。離婚後はこれを均等に分けることになる」

もっと噛み砕くと、上の資産で計上した各々のお金が、独身時代のお金。
これから溜めていくお金が夫婦の共通財産で、
離婚した場合の分与に値するとのこと。

「賢人も素敵な愛人を連れて来たみたいじゃないか。
 今まで女にモテなかったあんたにしては上出来だよ( ・´ー・`)」

ばしばし、と賢人君の肩を叩くお母さま。
噂に聞いた通り豪快な女性である。

(ま、賢人の顔はそんなに悪くないと思うけどね)

ふむ。たしかにどうみてもイケメンだろう。
ジャニーズ系である。それはいい。

私は先ほどの発言で気になったことがあるのだが……

「あの、賢人君のお母様。さっきの愛人って言うのは('Д')」

「いやだから、あなたは賢人の愛人だろ?(-_-)」

「( ゚д゚)ポカーン」

筆者も同じ顔をしてしまう。

ちょっと待ってほしい。
私は先ほどから一貫して瞳さんのことを
ケント君の奥さんとして物語を進めてきたつもりだ。

愛人がもし誤字だとしたら、今すぐ訂正してほしい。

「あんたは……なんにも分かってないんだねぇ」

――賢人と瞳ちゃんを結婚させて、誰が得するんだ。

そう言われましても……。(;´・ω・)
二人を結婚させてハッピーエンドじゃだめですか。

「そんな散々使いまわされた展開なら書かないほうがマシだよ。
 あんたみたいな脳みそはまさに化石だね(; ・`д・´)時代遅れ。
 よく人から30代なのにジジ臭いって言われない?」

えっと…。

「これからの展開は私が考える。あんたの退化した脳みそで
 展開を考えても誰も続きを読んでくれないよ
 この小説は長く続きすぎて途中でダレてるし、
 起承転結がなさ過ぎて退屈だったんだよ」

我々の視界は暗転し、暗闇のはるか先から、一人の女性が歩いてきた。

「おにいちゃん。ただいまぁ」

群馬まで吹き飛んでいた妹の美雪。再来!! グンマァアアアアー!!ガオー(´っ・ω・)っ

「私ね、ついに気づいちゃったの。どうしたら
 みんなが望むハッピーエンドを迎えることができるのか」

そして物語は進化する… 新制・令和十年。兄妹の絆の物語!!
 妹の美雪、再来!! 瞬間、心重ねて。真っ暗な天井。

日本初公開!! 全米が泣いた!!

美雪「紹介しますね。私の夫の賢人です(^O^)/」 賢人「なっ…(´゚д゚`)」

プトレマイオス朝のエジプトにて。
クレオパトラは実の弟の結婚していたと
高校時代の世界史教師が言っていた。

政治的な理由があるのか知らないが、
実の弟と結婚とは他人事でも吐き気がするものである。

近親相関ものは広く愛されている。
兄と妹ものはAV、アニメの同人誌を初め、さんざん使いまわされてきた。

ヘンゼルとグレーテルで有名な、あのグリム童話を例にしても、
その物語はドイツの森深くに住む、おばあちゃんから孫へと、
またその孫へと数百年も語り継がれて来たものを
元ネタに、賢者グリム兄弟が編集(脚色有り)したものだ。

グリム童話には、『兄と妹』というタイトルの問題作がある。
詳細は省くが、堂々と近親相関を題材にした作品である。
ヘンデルとグレーテルにしても脚色された日本版でなく
原作のグリム童話を読んでみると、それらしい描写が……
よく読むとなかった。申し訳ない。

改めて各人物の関係を整理しよう。

・『坂上瞳』は、賢人の愛人
・賢人の正妻は、『美雪』
・『賢人』は二人の女性をできるだけ平等に愛する

「これにて物語は一件落着ぅ( ̄▽ ̄)」

と賢人のママは言うが、どこが落着したのか。
私は瞳を愛人として描くつもりはない。

むしろ物語の真の主人公は瞳だったとすら思っている。
主要人物のひとりであった、かぐや姫さんはなんだったのか。
むしろ妹の美雪もわき役でも構わない。

実は瞳さんのモデルとなった女性が私の身近にいるのだが、
実際に小説として描いてみると、実に個性豊かで素晴らしいキャラである。
エガシ…午後2時55分のマリー・アントワネット嬢に匹敵するか、それ以上である。

「賢人の奥さんにヒトミさんは……ちょっと美人過ぎるねぇ(; ・`д・´)」

ええ。実在の彼女に出会ったことのある人なら、みな同じことを言うでしょう
廊下ですれ違っただけでほとんどの人が振り返りますからね。
彼女が歩いてくると光り輝くようなオーラを発している。
体つきは細くてあんまり色気はないんですが、とにかく顔が整ってる。

しかも実在の彼女も未婚で彼氏もいません。
あれほどの美人がなぜ……? まさかレズなのだろうか…?
もはやギリシア哲学的考察が必要なレベル。

「ほんっとにヒトミちゃんは綺麗な子だよ。
 お肌も若々しくて綺麗。髪がさらっさら。
 日本人形? もう女優じゃん。
 どんなシャンプー使ってんの?
 少し気が弱くて動作に品もあるのもGOOD。
 まさに愛されキャラ( ・´ー・`)」

私もそう思いますが、それが何か?

「賢人にはもったいないよ」

だからそれが何?

「だーかーらー。美雪が嫉妬して瞳ちゃんを
 殺しちゃうに決まってるジャン★ (ノД`)・゜・。」

なんと………

美雪「そういうわけだから、お兄ちゃん。婚姻届け持ってきたよ」

賢人「美雪……。おまえは自分が言ってることを理解してるのか?
    俺とお前は兄弟だと何度も」

美雪「私って男だったんだ」

賢人「間違えた!! いつもの五時だよ!!」

美雪「今は2時だよ」

賢人「はいはい。さーせん!!(>_<) もうどうでもいいよ!!」

ふむ。ところで婚姻届けは無効になると思うのだが…
(2親等以内の近親者の婚姻を法律は認めていない。
 よって役所が受理しない)

美雪「令和10年ならおk。色々と法改正してるから」

賢人「すげー都合の良い設定だな。
   あのなぁ。俺からこんなこと言うのもあれだが…」

なぜ法律が近親婚を認めないか考えてみよう。
夫婦であれば当然夜の夜の生活がある。
兄と妹の間で子供を作ってしまう場合が大問題なのである。
奇形児、障害児が生まれる可能性が大である。
それに世間体も悪い。

周囲の反対を押し切って結ばれたところで、
最終的には『午後2時55分~』の終盤で描かれた、
ケイスケとミホの関係になってしまうことであろう。

「私とは今まで通り普通に暮らせばいいのよ。
 今までと同じなんだから簡単だと思うんだけど。
 それにお兄ちゃんは、お風呂上りに
 私の裸を見ても興奮しなかったでしょ?( `ー´)ノ」

私の記憶が確かなら、この男は過去に三回くらいボッキしていた。
つまり興奮していたと考えるのが妥当だ。
美雪はかなりの美人で乃木坂46でセンターを狙えそうなレベルだが、
はたして実の妹の裸を見て兄貴は興奮するのか? 

私は親戚に妹らしき女の子がいるにはいるが、
実の妹はいないので想像もつかない。
兄は血の繋がりのある妹を美人として認識するのか。
またしてもギリシア哲学である。

「あのぉ。そろそろくだらない戯言(ざれごと)を
 やめてもらっていいかしら? 私久しぶりに切れちゃったわ。
 もうね。自分でもおかしいくらいに、ぷっつんきちゃいました(*^_^*)」

瞳はどこから持ってきたのか、鉄パイプを持っている。
元ネタは私が高校生との気によくプレイした、
サイレントヒル3で主人公が使っていた鉄パイプである。

鉄パイプは字面からは想像もできないほどの凶器である。
勢いよく振り回せば人を殺してしまうかもしれない。
もちろん瞳さんは人を殺すために用意したのだろう。

やはり殺すのは美雪ですか?

「いぐざくとりー(。-`ω-) 」(そのとーり)

この女の腕は細い。だがなめてはいけない。
動きは俊敏だし、握力も持続力かなりある。
単純な運動神経は10代の女子と比べても問題ない。

すでに瞳は愛人呼ばわりされたことで極限まで
ストレスをため込んでおり、今にも爆発しそうだ。
彼女が本気を出せば、美雪の首など簡単に落としてしまうのだろうか。

「よう愛人。ちーっす (^O^)/」
「美雪さんの臨終の言葉はそれでいいのね?」
「お兄ちゃんは殺人犯とは付き合えないって言ってるよ」

「むしろあなたを殺せればそれでいいわ。
 実は前からずっと殺してあげようかなって思っていたのよ」

「私は瞳さんが生きても死んでもどっちでも……
 だってヒトミさんそのものに興味ありませんから。
 私にとって瞳さんの価値はありません。むしろゼロです」

「黙れ。ブス」

「ぶ……ブス?」

「ブスブス。ドブス。あんたの顔なんて見れたもんじゃないわ。
 賢人君は美形なのに妹のあんたはどうしてそんなに醜いの」

「わ、私は、ブスじゃないもん!!」

「嘘よ。だってブスじゃない(主に性格が)
 化粧してもブスなのは隠せないわね。
 お金の無駄だから化粧品買うのやめたら?」

「うるさい……三十路のくせに!! このおばさん!! 
 年齢の割に若作りだからって調子に乗らないで!!」

「私はあなたより年が上だけど、あなたより美人な自覚はあるわ。
 本当は人前で見せたくはなかったけど、これを見てごらんなさい」

スマホの写真には……
なんと、大学のミス・コンテストの記念写真があるではないか!!
ミスに選ばれたのは、大学一年生、文学部の坂上瞳。二学年時も同様。

三学年時と四学年時はなし。(大学では何回生とも呼ぶが…)
なぜかというと、三学年以降は瞳が出場を辞退したからである。
辞退した理由は、周りからチヤホヤされることを嫌ったためだ。

「うそでしょ……」

写真の瞳嬢は、それは輝かんばかりの美しさであった。
大学祭に来ていた、当時の人気男性歌手とツーショットで映っている。

坂上瞳はモデルでもないし芸能界の人ではないから、
緊張して口角だけを上げた笑い方は決して上手ではない。
だが、どこまでも綺麗だった。

初心な男性ならその写真をじっと見つめたあと、
大切に保存しておくかもしれない。

「美雪さんは今大学三年生だったはずよね。
 美雪さんはミス・コンテストで優勝した経験はあるかしら?」

あるわけがなかった。美雪は一年生の時に出場したが
選ばれなかったので、それ以降は諦めた。

美雪が容姿端麗なのは何度も説明した。
しかしコンテストで賞を取る人は、何かが違う。
単純な顔の作りだけでなく、芸能人が持っている例の
特殊なオーラに代表されるような、
初対面の人を振り向かせるほどの『何か』なのである。

その輝きが美雪にはなかった。
ただの美人では坂上瞳には勝てないのだった。

(信じられない……ヒトミさん。君はおそらくすっぴんでも…)

賢人はその事実に深く感動し、涙さえ流していた。

実は瞳のすっぴん姿は、第4話あたりで見たことがある。
例の…瞳のアパートを燃やそうとした時だ。コンビニ帰りの
ガリガリ君タイムの瞳嬢は、なんと夜だったこともあり、
お風呂でメイク落としをした後だったのだ。

今考えれば、すっぴんを見るのはこれが初めてじゃなかった。
すなわち、瞳嬢は決して化粧品に頼っているわけではない。

「ひ、ヒトミさんって大学時代とほとんど顔が変わらないんだね。
 手足も細くて肌がきめ細かくて、今でも十分に美しいよ(ノД`)・゜・。」

「そっそんなこと… (≧∇≦) 
 あっ、お世辞よね? Σ(゚Д゚) 
 つい舞い上がっちゃうところだった」

「俺の心からの…本心だよ。嘘なんか言ってどうするんだ」

「ほ、本当に?(≧∇≦)」
 
「どうして君はこんなにも綺麗なんだ( ;∀;)
 こんな美人と結婚できるなんて夢みたいだ。
 なんでか分からねえけど、涙がとまらなくなってしまう」

「けんとくーん(。・ω・。)ノ♡ 大好きー(●´Д`)ε`○)」

ふむ……。何をしてるかは顔文字を見れば、
だいたい伝わることであろう。

「び、美人だから何!?」

妹ちゃんのターンである。怒りで声が震えている。

「美人なんて芸能界にはごろごろいるし、
 だいたい芸能人って料理も出来ないし
 子供作ったらすぐ離婚するバカばっかじゃん」

「私は中等部まで家庭科調理部にいましたけど?
 独り暮らしの時も自炊してましたけど?」

「どうせわがままに育てられたお嬢様なんだから、
 おにいと喧嘩したらすぐ嫌になって出て行くんでしょ!!」

「あなたこそ、自殺未遂が趣味とか相当変わってるわよ。
 あなたが血だらけでバスタブを汚した時に
 ケント君が陰で嫌がっていたの知らないんでしょ」

「ふ、ふん。でもお兄ちゃんは最後は私の味方をしてくれるもん!!」

「その年でお兄ちゃんお兄ちゃんってキモイのよ。
 本当に頭のねじが外れてるんじゃないかしら。
 ばっか…じゃないの?
 兄以外にイイ男見つけられないのもアホの子って感じがする」

「うるさい、うるさい!! 瞳だってその年まで
 結婚相手見つけられなかった売れ残りのくせに!!」

「結婚相手なら今見つけられたんだから問題ないわよ。
 それに今は晩婚化の時代なんだから30過ぎで結婚するのは普通よ。
 だいたいね。私はかあさまが持ち込んでくる、くだらない縁談を毎回…」

「あーあー聞こえません!! 私のママが私と兄の結婚を
 許可してくれた以上、あなたは兄の愛人として収まってください。
 それが嫌なら私たちの目に入らない場所へと消えてください。以上!!」

「美雪さんって経済のことは詳しいけど中身は子供なのね。
 人の言い分を最後まで聞かずにさえぎって。自分の言い分だけ
 言いたい放題。小学生の女の子と会話してるのかと思った」

「ならお兄ちゃんに訊いてみましょうか!!
 残念ながら子供の私と大人な瞳さんでは
 話が平行線をたどるだけなので!!」

「え…」←けんと

賢人は、国語の授業中に居眠りしていたが、
突然先生に指名されてしまい、何ページの
文章を音読したらいいか分からず、周囲の
キョロキョロしている男子生徒そのものだった。

「賢人君が困ってるわよ。そもそもどうして
 賢人君に訊くの? 口では私に勝てないから
 お兄さんに味方してもらおうとしたの?」

「違いまーす。あなたとは価値観が合わないから
 第三者の意見を聞こうと思っただけですけど?」

「出た。若者の大好きな言葉。価値観。
 美雪さんは学生だから、人の上に立ったことがないでしょ?
 人間は考えてることがそれぞれ違うのよ。
 主義、主張、立場が違うのは当たり前。
 社会では異なる考えの人をある程度はまとめ、最終的には
 同じ方向に向けて歩ませる力が必要とされるのよ」

「ぐぬぬ。偉そうに」

「価値観が違うから何? 当たり前じゃない。
 あなたと私は赤の他人なのだから。
 坂上家では幼い頃から組織論を教わって育ったものですから、
 口喧嘩のまとめ方くらいは心得てるつもりだけどね。
 すぐ夫と喧嘩して離婚するのは美雪さん。
 あなたのほうじゃないかしら」

「くっ……」

美雪ちゃんは、さめざめと泣いてしまいました。
自分より美人なお姉さんの瞳さんに論破されたことが
プライドに触ったのでしょう。
肩は怒り、握りしめた拳が小刻みに震えています。

政治経済の話をした時は自分の方が頭が良いと確信していましたが、
夫婦になるには頭脳より精神面での成長が大切なのだと
思い知らされました。

目の前にいる恋敵は、おそらく兄のことを本当に
分かってくれる存在ではないかと思えてしまう。
すると自分の存在がだんだんとこの世から
消え去ってしまうんじゃないかと思ってしまう

やはり育ちの良い人間は何もかも違うのだ。
坂上家は企業経営で成り上がった家計。
それもたかが一代の話ではない。

瞳を一番かわいがっていたのはおじいさんだった。
孫から声へと、しっかりと教えは受け継がれていく。
わがままなお嬢様は、むしろ美雪の方だったといえるだろう。

美雪はなんでも自分を中心に物事を考えて来た。
少女の年齢を終え、成人してからも自分を中心に
周りが動いてくれないと気が済まなかった。

話の合わない同級生は切り離し、兄との生活を望んだ。
自分がどれだけ身勝手なことをしても、兄は最後は笑って許してくれる。
だから大好きだった。ブラコンになった理由はそれだけじゃない。

なんとなく、小学生の時から賢人のことが好きだった。
本当は理由なんてないのかもしれない。ただ好きなのだ。
一緒にいると安心するのだ。
仕事帰りの兄に、自分の作った料理を食べてもらう瞬間が一番好きだった。

賢人が中学高校と彼女ができるんじゃないかとハラハラしたが、
最後まで作らなかったことを美雪は喜んでいた。

「美雪(*'▽')」

賢人は、妹の頭をポンポンと優しく叩いた。
本気で悔しがって涙を流す妹もまた、可愛いものだった。
人生とはぶつかりあって傷つき、成長するものである。

「おにいちゃん!!」 兄の腕にしがみついた。
もう絶対に離さないと言わんばかりに。

(さあて)

もうどっちも選べない。
選ぶ資格すら自分にはないことを賢人は知っていた。

賢人「俺はイスラム教徒じゃねえんだ(~_~メ)」

アラー・マラー・イーム ――神は偉大なり

世界中の宗教信者の中でもムスリムの信仰心の深さはすごい。
            ※ムスリムはイスラム教徒を差す

一日数回のメッカの方角へのお辞儀から
コーランの音読、斉唱、ラマダンの断行。
中世から変わらぬ習慣を今も続けている。

彼らにとって運命とは「神」が決めるものである。

人が事故で死んだ。 ⇒神の定めた運命だから仕方ない
不治の病になった  ⇒上に同じ
奥さんが性格異常  ⇒コーランでの対処法を参照
離婚しちまった   ⇒上に同じ

人に金を貸して金利を稼ぎたい ⇒コーランにより死刑、
                特にユダヤ教はくたばれ

喜捨(貧しい人への寄付。保有資産の2%)
をしたくない ⇒コーランにより死刑(だっと思う)

彼らは「神の定めたルール」に従って生きているのである。
ルールとは人が決めるものではなく神が決めたもの。

コーランは、イエス・キリストが死んでから7世紀後に
大天使ガブリエル(ジヴリール)がムハンマドの元へ現れ、
神のお告げを告げたことによって作成された書物である。

大天使ガブリエルは、新約聖書で聖母マリアに受胎告知をした天使である。
イエスの昇天後、700年の時を経て人類へ下された啓示がコーランである。

アラーとは、ユダヤ教、キリスト教と同じ神を差している。
コーランは、実は旧約聖書や新約聖書よりも完成度が高く、
完成度が高いゆえにムスリムは
中世のままの生活を続けているといわれている。


「お兄ちゃん」

渋谷美雪は、物語の終盤でいよいよ兄に対し結婚を迫って来た。
美雪とて性急なのは承知はしていたが、恋敵の坂上瞳が
現れてしまったのだ。このまま指をくわえて見ていれば
確実に兄と瞳が結ばれてしまう。

「早く婚姻届けに判を押して」

判も何も……と賢人は思った。

兄と妹なので結婚前から苗字は同じである。
ボールペンの走り書きですでに賢人の名前欄は書いてある。

「ケント君がまさか判を押すわけないって信じているから」

修羅の場と書いて、修羅場となる。
坂上瞳の放つ殺気は、獲物に食らいつくヒグマすら連想させる。
賢人は恐ろしさのあまり瞳と目を合わせられない。

どうしたらよいのか。結論は出るのか。正解がはたしてあるのか。
また、前回のように美雪にジャイアントスイングをして
強制退場させるわけにもいかない。
同じネタを使うのは芸人として失格だ。

仮に瞳を選んでみる。

⇒美雪がキレる。瞳を殺すか発狂して自殺。バッドエンド。

仮に美雪を選んでみる。

⇒瞳がキレる。ついでに瞳の親父殿もキレるらしい。

これは、誰が考えても非常にまずい状況であり、予断を許さない。

「あんたは……」

ん?

「あんたはどう思ってるんだよ」

あんたとは……? ママに対して言うわけないし、
 瞳のことはさんづけで呼んで…

「あんたに訊いてるんだよ!!」

なんと。賢人は作者に話しかけていたようだ。

「まじでそろそろ小説終わりにしないか?
 このまま続けていても誰得だよ。
 誰かが血だらけになって死ぬ展開にしかならねえぞ」

適当な理由を付けて逃げるとか…

「逃げれたら苦労しねえよ!!
 ここまで関係がこじれちゃって……
 本当にもうどうするんだよ!!」

遺憾ながら作者の私でも続きが全く思いつきません。
しかし私には自動タイピングという特殊技能がありますので、
作者とキャラの対話によって勝手に物語が進みます。

早速使ってみましょう。

※自動タイピング
 PCの前に座るとキャラが頭の中で勝手に動くのだ。
 指は勝手にキーボードを叩き、物語が進む。
 デメリットとして誤字が多く、時間が一瞬で過ぎ去る。

ママさんに訊いてみましょう。

「だから三人で暮らせよ ( ・´ー・`)
 最初から私は同じ主張を続けてるんだけどねぇ (-。-)y-゜゜゜」

たばこ代は無駄とか言ってた割には、電子タバコ吸うんですか…。

「ひとみちゃんと、うちの娘が仲悪いのも今だけだよ (-。-)y-゜゜゜
 一緒にゲーセンとか行った時とか仲良くしてたじゃんか」

あれは仲良かったのか…?

「三角関係でこじれちゃうんだったら最初から一夫多妻
 みたいにしちまえよ。日本には一夫多妻がないから
 愛人って言い方をしたけどさ ( ・´ー・`)」

「だがハーレムなんてラノベじゃねえんだから
 非現実出来だし、女性軽視と取られてもおかしくねえ。
 まさに二股だ。母さんは俺が最低野郎になるのを
 黙って見てていいのか? (-_-)」

「頭硬いねぇ。もっと合理的に考えなよ。
 どのみち賢人がどっちを選んでも昼ドラにしかならねえんだ。
 それに一番大切な金のことを考えてみろ (-。-)y-゜゜゜」


・賢人、美雪、瞳で三人暮らしをした場合

賢人の資産
・小銭入れの現金       740円
・りそな銀行の預金      310万円
 以上

瞳の資産
・お財布の中に        2500円
・アパートの金庫に      15万円
・埼玉りそな銀行の普通預金  470万
・お父さんのデビットカード  500万
・お父さんのクレジットカード 200万
 以上

美雪の資産

・お財布の中に         2万7600円。
・大学から運用を始めた米国株式 時価1300万(円で換算)
・父から贈与された米国資産総合 時価8700万
・母からの仕送り。生活資金   370万円


総資産計、1億1千万を軽く超える。
ちなみにこれは純資産である。

現在住宅ローンなし。
仮に彼らがマンションに引っ越したとしても
賃貸だったらローンがない。
また彼らは現在車を所有していないし、
家電製品をローンで買っているわけでもない。

もちろんその他借入金もない。
美雪は大学生だが、奨学金を借りてない。
親父殿がすでに4年間の学費分と通学費、食費、雑費も含めて
美雪の高校卒業前までに用意してくれた。

したがって負債がないのである。
彼らの持つ資産は、全額が純資産として計上される。

賢人(25)美雪(21)瞳(32)

以上の若年者3名の『世帯』とすると
野村総研の分類では「富裕層」(1億円以上)に該当する。

仮にもGDP世界第三位の大国の富裕層である。
美雪がパーティに加わると……まかの純資産、1億越え!!

ママ「人は同じ世帯で共同の生活を送るのが
   お金の面では一番効率が良いんだ。
   美雪の配当金も有効活用しろよ(-。-)y-゜゜゜」

株式の配当金
投資信託の分配金。
どっちも同じ意味だが、美雪の場合はただ持っているだけで
年間200万はくだらない額が手に入る。
仮に月10万の家賃のマンションに引っ越しても
住居費の問題はクリアーできてしまう。

ママ「現金以外の金融資産を持ってる奴は資本主義の勝ち組だ( ・´ー・`)
   人生の長いレースを走り切るのに、お金がお金を生み出す
   マネーマシンを持ってる奴は資産を築ける。
   こんなの富裕層の間では常識なんだがな」

瞳「す、すごすぎる…… ( ゚Д゚)」
賢人「もう子供がいたとしても問題なさそうだな (^o^)丿」
美雪「で、でも三人で暮らすのはちょっと… (・ω・)」

ママ「美雪黙れ。ヒトミパパの会社で賢人が働けば
   たぶん一生解雇されねえだろ ( ・´ー・`)
   これから日本人はどんどん働く場所を失っていくんだよ。
   雇用の安定は、家計の経済を考えるうえで最大のメリットだろうが」

ママ「美雪も卒業後に適当なクソ会社に入るんだったら
   賢人の会社で事務員でもやれよ (-。-)y-゜゜゜
   今のアパートから歩いて通える距離だし、
   おまえも将来解雇されなくて済むぞ (; ・`д・´)」

ペンタックは時給が安いですが、実は主要な取引先が
ファーストリテイリング傘下のユニクロです。
ファーストリは、東証の時価総額ランクのナンバーワン企業です(嘘)

美雪「でも工場はちょっとイメージが悪いな…(-.-)
    私一応大卒になるわけだし」

ママ「嫌なら辞めればいいだろ。また次を探せ( ・´ー・`)」

美雪「そんなに簡単に辞めちゃっていいの?(;´・ω・)」

ママ「あたしは息子が銀行を辞める時だって
   一度も反対しなかったよ。
   たっくん(旦那)は切れてたけどね('▽')」

私も初めて知ったのだが、旦那さんの名前は卓也(たくや)らしい。
お姉さん。おれ渋谷卓也。略してシブタク!! よろしく!! 
(強烈な既視感)

ママさんの名前は明美(あけみ)さん。
派手なキャラの割には普通の名前だ。

ママ「どの会社も入るまでは中身は分からねえんだから、
   入ってから判断しろ。長期的に見て自分にメリットが
   ほとんどないと思うなら、生活資金に余裕のある奴はさっさと辞めろ。
   あんたらはその日暮らしじゃねえんだからさ( ・´ー・`)」

ママさんの考えでは、当年度の生活に必要な一年分の予算を計算。
昨年末までにまとめて用意しておく。
当年度の生活費はそこから支出する。

その年に稼いだお金は、基本的に使わず、
次年度の貯金か投資に回すために取っておく。

簡単におっしゃるが、このような芸当は現金預金を
1000万以上持っていないと不可能だろう。

それと自分の資産の状況を絶対に人にばらすなと
厳しい口調で子供に教えてるそうだ。

ママ「転職を勘違いするなよ。仕事を変えれば収入の上下はあるかもしれねえ。
   重要なのは『雇用されている状況』を維持することになるんだよ。
   A社をスパッと辞めて、次の週からB社に転職できれば
   給料の切れ目はほとんどない( ・´ー・`)」

ママ「今まで同じ会社にしがみついていた化石共の方が、
   解雇された時にショックで次の出発に備えず、
   半年とか一年も無職を続ける(-。-)y-゜゜゜
   経済学的には無職の期間があることが大問題なんだよ」

ママ「仕事を選り好みするな。
   適当に入社してダメだったら辞めろ。
   それを繰り返せばいずれ当たりがくる」

米国では一人の労働者が生涯で転職する回数は
平均して八回。なんと転居する回数も同じ。
米国人は引越しにも抵抗がないのだ。

また米国の面接官で転職に悪いイメージを持つ人は誰もいない。
給料や仕事内容などの条件が合わなければ転職は当たり前。
この時点で日本のバブル時代の化石とは違うのが分かる。

アメリカの経済は常に日本の先を行っている。
戦時中にすでに米国人の主婦は
システムキッチンで家事をし、
街中では自動車が普及していた。

いつものように話が脱線するが、

今さら説明するまでもなく、米国は太平洋戦争で
3年半かけて日本軍の海軍戦力を壊滅させた国である。
清国、ロシア帝国、大栄帝国でも勝てなかった
日本帝国海軍を倒せたのは、後にも先にもアメリカ海軍だけだ。

日本軍の度重なる攻撃を受け続け、終戦まで生き残った空母
「エンタープライズ」は米国海軍のみならず国民の誇りである。
現在エンタープライズは原子力空母として就役している。
だから何だと言う話だが。


賢人のママさんは、三菱UFJ銀行で
リテール業務を担当していた。

業務内容は住宅ローンをはじめ、相続や投資、
コンシューマー・ファイナンスなど。

※コンシューマー・ファイナンスとは消費者金融のことです
超低金利が続いているので銀行はお客への金貸しで稼いでいるのです。
「貯蓄から資産形成へ」と宣伝してますが、
金融商品の販売よりも消費者金融のほうが簡単にもうかるのです。
まさに個人を破産に追い込む悪の商売です。

やがてスキルアップし、法人向けのコンプライアンス営業も勤めた。
筆者はそんな難しい仕事をやったことがないのでよく分からないが、
企業(法人)相手に非常に高度な詐欺を行う商売だと理解してる。

ママは結婚後に偉くなって
新人さんの教育を主に担当していたが、
残業ばっかで嫌になったので部下や後輩に引継ぎをしてから辞めた。
今は残業時間の比較的少ない旅行代理店で働いている。

旅行代理店なら週に2度は定時帰りがあるので助かっている。
収入は大きく下がったが、賢人と美雪の学費がかからないので
これで十分だと言っている。(ミユキの学費は前述によりすでに計上済み)

明美さんは、働くのが大好きな女の例にもれず、
家事は大嫌いで料理は旦那のほうが上手。
父の遺伝子を引き継いだ娘の美雪は
料理が趣味。小学生3年の時から家庭料理を進んで覚えていく。

明美さんは家の掃除をすることが一番苦手。
三ヵ月に一回くらい掃除すれば十分だろ、
とかほざいて旦那とよくケンカしていた。

そのため渋谷家の家事をしていたのは美雪だったのだ。
すると妹思いの賢人君も自然と妹を手伝うようになり、
学校帰りに買い物も行くようになり、二人の仲は親密に……。

ママ「さっきからモノローグが胸に突き刺さるじゃねえかよ (-。-)y-゜゜゜
   金融機関で働いていた時は残業で家に帰れねえんだから、しょうがねえだろが。
   思い出すなぁ。美雪がガキの時、包丁で指を切って
   泣きながらカレーライス作ってくれたんだった (´_ゝ`)」

渋谷家の家庭の味とは、美雪の味だった。
母は休みの日は昼過ぎまで寝ていたから、
どのみち、いないようなものだ。

当時背の小さかった美雪は、踏み台に乗って
大人用の大きなエプロンをして野菜を切っていたものだ。
父はそんな娘を誇らしく、愛おしく思った。
しかしひとつ残念だったのは、美雪が決まって
料理の感想を賢人に求めることだった。

まるで美雪が賢人に食べてもらうことが目的のように。
まるでじゃなくて現にそうだった。
お父さんは、美雪の愛をなぜか独占している息子の賢人に、
心から嫉妬した。お父さんんが賢人に初めて嫌がらせをしたのは、
賢人が小学四年生の時だった。反省はしてないそうだ。

「うちの旦那もなかなかのアホだったな。( 一一)
 賢人の持ってるエロ本をわざと
 美雪のベッドの上に置いたりとかな」

「母さん!!! (;´・ω・) 
 余計なこと言わないでくれよ。ヒトミさんも聞いてるんだぞ!!」

「しかも人妻ものか…(; ・`д・´)
 あれは中三の時だったか。始めて見た時は賢人エロ本だと
 勘違いしてな、ませてるガキだなって思ったよ。
 他にはセールスレディの乱交パー…」

「うわあぁぁああぁ、もうやめろぉおお!!( ゚Д゚)」

美雪は兄のエロ本に大変なショックを受け、
本を粗大ごみとして処分ししまう。
そしていたずらをしたのが父だと分かると、
一週間口を聞いてあげなかった。

なんとも微笑ましいご家族である。

ママはしばらく1人で思い出話に花を咲かせた。
賢人の黒歴史を暴露してしまった場面では、
美雪は呆れ(--〆)、瞳は( ゚д゚)ポカーンとしていた。

そして
――美雪にはガキの頃から迷惑ばっかりかけちまった。
と罰の悪そうな顔で言うのだった。

どうやら本気で反省しているようだ。
キャリアウーマンはお金をたくさん稼げる一方、
家にいる時間がなくなるのは当然だとは思うが。

ママ「おい美雪。たまにはお小遣い欲しいか? 
   これでもやるよ」

美雪「なにこれ。ずっしりしてる。
   金色をしてるけど、まさか地金?」

ママ「そうだ。美雪は触るの初めてか?」

美雪「はじめてに決まってるじゃない。
   え、金ってこんなに小さいんだ!!
   手のひらに簡単に収まっちゃうよ!!」

瞳「本当に小さいからアクセサリーかと思ったわ。
  お守りくらいの大きさね……」

賢人「すげえ。まじですげええ!! 
   俺も始めて見るぞ!!
   これの価値はどれくらいなんだ!?」

ママ「ちょっと待ってろ。今スマホで相場を調べてる」

日本マテリアルの貴金属相場情報を参照
2019年 6月 15日(土) 10:00発表(現実世界)
金 小売価格 5093円 買取価格 4.998円 前日比+1円

瞳「上は1グラム当たりの単位が書かれている(・ω・)
  すごく価値が高いのね。
  たった1グラムでガリガリ君がいくつ買えるのよ」

ママ(ガリガリ君って…( 一一))

賢人「俺の気のせいじゃなければ、
   デカい字で100グラムって印字されていないかヽ(^o^)丿」

美雪「うん。私の目が腐ってなければ100グラムだね。
   つまり現在の価値は……Σ(゚Д゚)」

⇒499,800円 およそ50万円。

美雪( ゚д゚)ポカーン
賢人( ゚д゚)ポカーン
瞳( ゚Д゚)

ママ「どうしたんだ君達。アホみたいな顔をして。
   今後の生活費も含めての小遣いなんだが、
   美雪はもっと欲しかったのか?(`・ω・´)」

美雪「十分すぎるお小遣いだよ!! どうもありがとう!!
   ところでどうして現金じゃなくて地金でくれたんですか(^o^)丿」

ママ「おまえらのポートフォリオがドル建て資産に寄り過ぎなんだよ。
    なんで日本株を全く持ってないんだ。
    円建ての資産がないといざ金が要りようになった時に
    使い勝手が悪いんだよ。
    アセット・ロケーションができねえなら地金でも持ってろ」

※アセット・ロケーション(資産の分配)
 
株、債券、不動産など複数の資産に分配することによって
リスクを減らすのは資産構成の基本。

世界的な景気の減速と株安の懸念から、
世界中の富豪のマネーが金に集まってきている。

※ 地金(じがね、じきん)
  金地金(きんじがね)

『金の価値は世界共通』
円やドルといったいわゆる通貨の場合、発行している国の信用が下がります。
(例えば戦争や世界情勢の悪化など)と通貨の価値が変動するリスクがあります。
これは法定通貨という発行元の国の信用を前提に取引されているものだからです。

対して地金は特定の国に属したものではなく世界共通の価値がある実物資産なので、
その価値が国によって大きく変わることはありません。

よって上記の法定通貨との違いや、株や債券のように会社や国が
破綻してただの紙切れになってしまうという恐れもなく、
またインフレにも強い資産となっています。

ママ「どこのコピペだよ(-。-)y-゜゜゜よく書けてる文章だな」

美雪「仮にリーマンショック級の金融危機が起きたとして、
   私の米国株が全部死んでも金地金だけは残るってことね」

ママ「そーゆーこと(*'▽')」

賢人「俺は安全資産としての金は知ってはいたけど、
   実際に手に取ってみると安心感があるな。
   自分に自信がついた気がするぞ」

ママ「それも金の魅力の一つ。株と違って電子画面で
   確認するだけじゃなくて手で触ることができる。
   人類が太古から金に価値を置いていたことは変わらない」

瞳「す、すごい(*´ω`) 私も欲しくなってきたわ。地金。
  株は怖いけど、金なら安心して持っていられそうだもの。
  恥ずかしいけど、中学時代は光り物が大好きだったの」

ママ「おう。いいねぇ。興味あるなら買える場所教えてあげるよ。
   坂上家はお父さんが持ってたりしないの?」

瞳「どうなのでしょう。父とは年に数回しか話をしませんから」

美雪(3年に一度じゃなかった?)

瞳「あの。こんなこと訊くのもあれなんですけど、
   ママさんは金をたくさん持ってるんですか?」

ママ「平成時代に500グラム買ったきりだな。
   時の金価格は4100円/gくらいだったので、205万円の投資だ。
   美雪にあげた分は鑑賞用とペンダント代わりを兼ねて買った分だ」

瞳「500グラムですって!! すごい!!」 
賢人「そんなに持ってたのかよ!!」

ママ「こんなの持ってるうちに入らねえよ。FRBが年三回の利上げした
   影響で日銀の黒田がそろそろ規制緩和を解くんじゃねえとか
   言われてる時期に買ったんだ。インフレリスクを回避するためにな。
   そしたら日本はクソデフレが続いて金の価値が上がってるじゃねえか
   あと500万買っておけばよかった(>_<)」

瞳「500万って……そんな大金をさらッと口にするなんて。
  金銭感覚が違いすぎる…( ゚д゚)」

ママ「何言ってんだ( ・´ー・`)
   私の中では500万以下は大金じゃない。小金だ。
   資産運用に慣れてくると動かす額もどんどん増えていくもんだ。
   リテール時代に銀行に来ていた老人客なんて都内の一等地に
   億単位の不動産を持ってる奴がごろごろいたからな。
   しかも運用のド素人。あいつらは相続税対策で日々ハゲ頭を悩ませてるんだよ」

美雪「母さんの地金を今売却したらすごい儲かるわね」

ママ「手数料を覗けば17万は手に入りそうだな。
   売却益50万以内なら課税(譲渡所得の)の対象外だ」

賢人「金を持ってると相続税対策にはならないの?」

ママ「おお。さすが賢人。もう相続税のことを視野に入れてるか。
   偉いぞ(^○^) 金に相続税対策は基本的にない。
   私が仮にくたばったら、くたばった日の相場価格
   (業者の買取価格)で算定される。つまり意味ないんだ」

瞳(くたばるって……男の人より荒っぽい口調(>_<))

賢人「そうなのか……金は現金じゃないから
    課税対象外かと期待しちゃったよ(´ω`)」

美雪「ママはお金をまだ持ってそうね。
   お父さんが私にくれた米国株が渋谷家の
   全財産だとばかり思っていたけど」

ママ「資産ならまだあるから心配すんな。
   たっくんは普段はとぼけてるけど、
   さすがに全額娘に渡すほどアホじゃ困る」

賢人「つーかまだお金持ってたのかよ。
   もう学園生活の高野ミウさんの家を超えてるだろ」

ママ「高野家も十分金持ちだとは思うが、カコさんがニート(専業主婦)だろ。
   バリバリ働いてる私とは資産額の規模が違うのは当然だ」

瞳(ニートと主婦は違うような……)
 
賢人「渋谷家ってこんなに金持ちだったのに
   俺は給料口座を取り上げられていたのか。
   なんか理不尽だぞ」

美雪「私も家の財産は、パパとママが共同出資した
   ドル建て資産のことしか知らなかった。
   言い方が悪いけど、パパが私に嘘をついたってことに……」

瞳「子供にもお金の大切さを知ってもらいたいから
  あえて資産総額を教えなかったんじゃない?
  うちの親もそうだから。私なんて今でも
  親がいくら持ってるか知らないもの」

ママ「これでも夫婦共働きだから収入に余裕はある。
   金の管理はほとんど私がやってるんだ。
   たっくんも全額を把握してるわけじゃないから仕方ないよ。
   うちは現金は持たねえ主義だから、
   現金だけで考えると貧乏みたいになっちまうけどな」

ママはお財布の中にクレジットカードの他には
現金が350円しか入ってなかった。
ポイントカードは種類がたくさんあって複雑なので
Tポイントカードは以外はごみ箱に捨ててしまった。

瞳「クレカがあるとはいえ、現金がたったの350円!!(>_<)」

ママ「350円もあれば業務スーパーで
   コーラの缶が6本も買えるじゃないか。安い弁当も買えるぞ。
   それとSuicaも財布に入っている。2000円しかチャージしてないけどな」

瞳「あっ、もしかしてカードの口座の残高が億単位とか?」

ママ「先月確認したら7万しかなかった」

瞳「たったの7万!! 生活に必要なぎりぎりの額じゃないですか!!」

賢人(ギリギリどころか、足りねえよ!!)

美雪「キャッシュレスとかは使わないの?」

ママ「使わないね。何がポイント還元だ。めんどくせえ。
   セキュリティ的に不安だし、スマホの紛失、電池切れでアウト。
   カードの方がよほど信用できるわ」

美雪「意外ねぇ。ママはとっくにキャッシュレス化してるのかと思った」

賢人「この際だから母さんの資産を聞いても良いのか?」

ママ「いいよ。ただし次の話でな」

美雪「Σ(゚Д゚)外貨預金って意味ないんだ…」

渋谷家のママさんは、家族が日本国で住むことを前提として
資産の形成をしているため、資産を円で持つことを大切にしているようです。
そのため、投資対象も日本株など円建ての商品が中心となります。

ママ「あたしは外貨建ての資産は好まない。
   結婚前にたっくん(旦那の卓也)がバンガードのETFの有用性を
   力説してきたから、あたしも多少は融資してやったが」

賢人「バンガード?」

美雪「私がお父さんから渡されたETF(上場投資信託)の会社名だ」

ザ バンガード グループ インク
低コストを売りにした世界最大級の投資会社。
運用資産総額は、9.4兆米ドル(約549兆円)←1ドル112円で

バンガード・インベストメンツ・ジャパン株式会社は、
2000年に日本の投資家へのサービスを開始した。
日本の証券会社からバンガードの金融商品を買うことができるのだ。

ママ「ウォーレン・バフェットが生前に妻に残してる遺言がある。
   資産の1割を米短期国債に、残り9割をSP500ETFの
   インデックス・ファンドに注ぎ込め。
   彼はバンガード社のコストの安さを褒めてたぞ」

瞳「コストって何のことですか?」

ママ「ETFは上場投資信託といって、信託にかかる報酬があるんだよ。
   つまりプロの連中にめんどくせえ運用を任せるから、
   手数料を払うわけだ」

美雪「コストがかかってるの!? (゚д゚)!
    お父さんから何も知らされてなかったよ。どうしよ!!」

ママ「この商品に限っては激安だよ。
    SBI証券のページをコピペするから全部読め」

『VOO』『バンガード SP500 ETF』

バンガード・S&P 500 ETF (Vanguard 500 Index Fund ETF)は、
総額が大きい米国株式を構成銘柄とするS&P 500指数(同インデックス)の
投資パフォーマンスに連動する投資成果を目指す。

同インデックスは 、米国の主要業種を代表する大型株500銘柄で構成され、
米国株式市場のパフォーマンスを表すベンチマークとして知られる。

分配金回数/年4
分配利回り1.93%
経費率(Total Expense Ratio)0.03%

瞳「/(^o^)\さっぱりわかりません」
賢人「(^○^)心配するな。俺もわからない……」
美雪「私も絶対売るなとしかパパに言われてない…(゚Д゚)」

「S&P500種株価指数」
S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスという会社が算出・公表している。
ニューヨーク証券取引所やNASDAQなどに上場している約500銘柄の株価を
浮動株調整後時価総額比率で加重平均して指数化したもの。

1957年3月4日から公表されており、
1941~43年の平均を10として算出している株価指数である。
『米国株式市場の時価総額の約80%』をカバーしており、
世界で最も汎用されている株価指数と言える。

ママ「米国の主な会社500に連動して評価額が推移すると思えばいい。
   経費率ってのがコストだ。たったの0.03%だぞ。他と比べたら破格だよ」

瞳「ええっと、仮に100万円分保有してても、0.03だから…」

ママ「300円。税抜きだがな。もう経費は無視していいレベルだ」

美雪「なぁんだ安心した!! 全然お金かからないじゃない!!」

ママ「だから心配するなって言ったろ( ・´ー・`)」

賢人「インデックスって勉強した限りの知識しかないけど、
   SP500銘柄にまとめて分散投資するって意味だよな?」

ママ「そのとーり。これを買えばアメリカの
   株式市場の8割に投資するようなもんだ」

瞳「あの米国の市場の8割!! 壮大な規模ですね!!」

更新日:2019/06/14

組入上位銘柄 順位
銘柄名     比率
1 MICROSOFT ORD        4.06%
2 APPLE ORD          3.65%
3 AMAZON COM ORD        3.22%
4 FACEBOOK CL A ORD      1.87%
5 BERKSHIRE HATHWAY CL B ORD 1.65%

美雪「英語ばっかり。マイクロフト。アップル…アマゾン」
賢人「世界の時価総額ランキングのトップ企業ばかりだ…」
ママ「5位のバークシャー・ハサウェイはバフェットの設立した会社だ」
瞳「そうなんですかΣ(゚Д゚)」

ママ「インデックスファンドはプロが運用しているから
   株価指数への影響を考慮して銘柄の比率を入れ替える」

美雪「なるほど。私みたいに個別の株を買うとすぐに
   株価が下がったりするけど、インデックスファンドは
   株価が下がりにくいってことね」

瞳「このETFはいくらから買えるんですか?
  個別の株と違ってお金がかかると思いますけど」

ママ「いいとこに目がいくねぇ。
   それが安いんだよ。昨日で相場で1口(1株)
    たったの265.62ドル。1ドル108円で換算すると28686円」

瞳「それって安いんですかΣ(゚Д゚)」

ママ「安すぎるね。日本株だったら最低でも100株単位から
   買わないといけないクソルールだから割高だ。
   優良株NTTドコモの今の相場が25万だ。
   その点米国株は1株単位で売買できるから得だな」

・分配金回数/年4
・分配利回り1.93%

ママ「分配金とは配当金のことだ。
   四半期ごとの配当利回りが2%をぎりぎり下回っている」

過去の支払い履歴
2018 通貨単位:米ドル
.日付   分配金
2018/12/17  1.289
2018/09/26  1.2067
2018/06/28  1.1573
2018/03/26  1.0837
    合計 4.7367

ママ「仮に1株(売買単位は1口と表記)買った場合の分配金の額だ」

美雪「年間で合計5ドル未満ね。1ドル108円で換算すると511円くらい。
   思っていたよりも利回りが低いわ。パパは配当金重視の
   株式投資なら利回り3%が理想だって言っていた割には…」

ママ「たっくんは配当金だけを重視してるわけじゃないんだ。
   むしろ配当金重視なら他の商品を買ったほうが良いよ。
   旦那の給料の半分以上をつぎ込んだこのETFは、
   子供たちの教育費をねん出するのに利用した」

賢人「どういう意味だ?」

ママ「初めから必要な時期になったら現金化することを
   前提としていたんだよ。
   このETFは評価額がずっと右肩上がりになるから
   おそらく永遠に元本割れしない」

瞳「それってΣ(゚Д゚)株価がずっと上がり続けるってことですか?」
美雪「(;゚Д゚) ずっと損益が出ない株ってあり得るの!?」
賢人「母さん。(;´・ω・)さすがに言い過ぎじゃないか?」
ママ「嘘だと思うならこれを読んでみろ」

ジェレミー・シーゲル著「株式投資の未来」からの引用。
シーゲル博士は時間をかけて過去の膨大な資料の中から統計を取った。

グラフで過去200年間のSP500指数のチャートを調べてみると、
ずっと右肩上がりで成長していることが分かる。

1802年に1ドルの価値だったもの(資産)は
200年後の2003年には実質いくらの価値になったかを示したものだ。
株は597,485ドルになっていいる。何と約60万倍!!
ちなみにこの株というのはS&P500の事である。

つまりS&P500は買って持ち続けるだけで、
何十年か後には何倍にも増えている可能性がある。
どの年代のどの時点で買っても大丈夫といわれている。

ママ「うちの旦那のSP500が増えていたのは、
   実は配当金よりも評価額が上がっていったのが大きいんだよ。
   つまり株価がどんどん上がり続けたってことだな。
   リーマンショックの時はさすがに下がったが、
   短期間で回復してずっと上がり続けている」

シーゲル著「株式投資の未来」では2003年までの
チャートが記載されていた。

そこで2003年以降のチャートを分析すると、
2003年~2018年で約3倍になっている。
これは1802年~2003年に続いてみせたと言って良い。

美雪「私が大学に入る前にお父さんに資産額を教えてもらったけど、
   SP500ETFの評価額がすごかったのはこれの理由か…。
   長期投資が最後に勝つのは間違いないわ」

アマ「短期売買を目的に株価に一喜一憂してる連中が
   どんだけ金と時間を無駄にしてることか( ・´ー・`)
   株を売買するたびに証券会社に手数料取られてるんだよ。
   まさに無駄な経費だ」

賢人(母さんの言い方は相変わらずキツいなぁ…(-_-))

瞳「SP500ETFは、配当金もそこそこ入って、
  売る時にも売却益が狙える。
  すごいお得な金融商品なんですね」

ママ「だから子育てしながら投資でお金を増やすには
   ピッタリな商品と考えられるね。お金が必要になったら
   現金化すればいい。その時には確実に増えてる」

賢人「俺もこのETFを200万くらい買いたくなってきた」

ママ「もういらねえだろ。美雪がETFをたくさん持ってるんだから
   賢人は日本株でも買えよ」

賢人「えっΣ(゚Д゚)」

ママ「前回の話でも言ったが、家族全員で米国株に
   一極集中するのはやめておけ。
   おまえらは為替の恐ろしさを知らないんだろう」

為替相場の変動は、複雑奇怪な国際情勢によって左右される。
市場の株価は誰にも予想ができないが、為替はもっと複雑である。

ママ「たっくん(旦那さん)は子供の大学進学の直前にな、
   相場が円安の時にうまく両替して日本円に戻してくれた。
   運が良かったな。外貨建ての資産ってのは、
   必要になった時は日本円に戻さないと使えない。
   理由はあたしらはアメリカじゃなく日本で生活してるからだ」

賢人「いくら評価額が大きくなっても、円高の時に
   両替したら最終的に為替で損してしまうのか!!」

ママ「そう。例えば外貨預金が意味ないのがこの理由だ。
   たとえば米ドルなら長期金利が2%を超えてる。
   豪州ドルなら1.4%くらいか。 
   仮にこれらに自分の金を預けて金利で設けてもな…」

為替(通貨の交換価値)は各国の政治経済、
金融政策、物価を反映して変動する。

外国の金利で一時的にもうけても、
日本円に戻すときは、最後は物価と為替で調整されて
ほとんど利益が出ない可能性をママは指摘している。

美雪「でもパパの言うように長期で保有していれば、
   円安の時がいつか回ってくるでしょ」

ママ「それはいつなんだ?」

美雪「え?」 

ママ「だから、それはいつなんだ? 
   外国為替の変動するタイミングなんて神様でも
   分からないレベルなんだぞ。
   いざお金が必要になった時とは突然だ。
   その時に極端に円高だったら確実に損するぞ」

美雪「うーん…(-_-;)」

ママ「現実世界では2017年の終わりまでは114円台の円安だったな。
   年明けから半年以上108円前後を推移してる。
    美雪の米国株を為替で計算してみなさい。
    円安時と比べて今はどれだけ損が出てる?」

(資産は84万ドル)
95,760,000円 レート 114
90,720,000円 レート 108

(※小説用の大雑把な計算です。
 実際の為替は、例えば108円.64銭。
 $844594.44と語末のセント(44)まで含めて計算)

美雪「日本円で504万円も損してる……?Σ( ̄ロ ̄lll)」

瞳「((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル ごひゃ…ごひゃくまん…!?」

賢人「((((;゚Д゚))))嘘だろ!? 嘘だと言ってくれ!!」

美雪「私の計算がおかしいのかな(∩´∀`)…?」

瞳「信じられないわ!! たった相場が
  6円変動しただけだけでこんなに(´Д⊂ヽ!?」

ママ「ただの現実だよ。(-。-)y-゜゜゜
   外国為替は変動幅(スプレッド)がでかい。
    株価よりもずっとリスクが高い( ・´ー・`)」

まとめると⇒ 外国株、債権の配当でもうけたぜ (∩´∀`)∩
        でも両替の時に為替で損したΣ( ̄ロ ̄lll)ガーン ←ウマしかちゃん。

賢人「FXやってる奴が大損するのは当然だな」

瞳「ネットで聞いたことあるけど、FXってどういう意味なんですか?」

ママ「外国為替・証拠金取引。Foreign exchange の頭文字を取ってFX。
   株じゃなくて外国為替で一本勝負する。
   証拠金取引だからレバレッジをかけて、元金の何倍もの額を運用できる。
   時が来て負けたら終わり。証拠金を払うために生活。人生終わり」

瞳「……えっと?」

美雪「分かりやすいサイトを見つけたよ!!」

FX(外国為替証拠金取引)や日経225先物など証拠金を利用して
取引を行う商品では、株式投資のように売買の都度、
代金を受け渡すのではなく、決済時に売買により生じた損益(差額)のみを
受け渡します。このような取引を「差金決済」といいます。

差金決済では、新規建て時に受渡金額は必要ありませんが、
取引により損失が生じた場合でも決済ができるように一定額の金銭を
預けておく必要があります。この預け入れる金銭を「証拠金」と呼び、
証拠金を使用した取引のことを「証拠金取引」と呼びます。

一般的に、取引に必要な証拠金は、取引金額よりも小さくなるので、
少ない資金で大きな金額の取引を行うことができます。
これをレバレッジ効果といいます。
たとえば、10万円の証拠金で100万円の取引ができる場合、
レバレッジ効果は10倍となります。

瞳「全然分かりやすくないよ(>_<) 専門用語ばかりじゃない」

賢人「レバレッジを使って負けたら即借金と覚えればおk(^○^)」

ママ「ネットでも悲惨な事例がゴロゴロ転がっている。
   自己破産、妻に見捨てられ離婚、一家離散、
   まさに借金地獄のオンパレードだな。FXや株の先物取引は投機。
   投資じゃねえ。投機はクソだ。先の見えねえ馬鹿がやるもんだ(--〆)」

瞳「ネットで会社を辞めてからFXでボロ設けました…って
  広告やブログを見るけど(=゚ω゚)ノ」

ママ「ほぼ全部嘘だよバーカ( ・´ー・`)
   万が一勝てても次で大損だね。ゼロサムゲーム、
   むしろゼロマイナスゲームだな」

賢人「俺も元銀行員だから母さんの考えに賛同する(・ω・)
   FXで大儲けするってのは、丸腰で中東の危険地帯を
   歩いて無事でいられるのと同じくらいの可能性だよ(-_-;)」

美雪「私も完全に同意するわ。(;´・ω・)
   こんな向こう見ずな取引をしてる人達を心から軽蔑する。
   お金を何だと思ってるのかしら。
   パパみたいに堅実に運用すれば数千万の
   資産を築くことができるのに」

ママ「すぐに金を増やしたい。借金のリスクを負ってでも増やしたい。
   こういうバカが手を出す取引だ。パチンコ、競馬と変わらねえだろ。
   おまえらは絶対やるなよ(`・ω・´)」

瞳「もちろんやりまりませんよ!! 
  為替の怖さを勉強させていただきました(;´∀`)」

美雪「((((;゚Д゚)))) むしろ私の米国株って
   ずっと持ってて大丈夫なのかな(゚Д゚)」

賢人「確かに冷静に考えると不安になるな(;´・ω・)
   USドルで投資するのってリスクが高いぞ……」

ママ「SP500ETFは株式投資の最適解の一つなことに違いない。
   馬鹿でも猿でも積み立てるだけで資産を増やすことは可能だろう。
   だからこそ、あたしとたっくんはこれに多額の資金を投入したんだ。
   ただし、一生持つつもりの超長期投資で運用することを心がけろ」

※超長期投資 30年から60年単位

美雪「一生……( ゚д゚)パパもそんな感じのことを言ってた…。
    買い増しはしても絶対売るなって」

ママ「どうしても金が必要になった時だけ
   為替差損を覚悟で一部を現金化するんだよ。
   為替のリスクは時間をかければ多少は軽減できる。
   ただし、あたしたちが日本で生活し、税金や生活費を
   払うのに円を使うことは忘れないでおけよ( ・´ー・`)」

瞳「損する可能性を考えるとやっぱり株は怖いわ(>_<)
  自分が大切に貯金したお金が為替とかで
  一瞬で消えちゃうなんて耐えられないわ!!」

賢人「ひとみさん…(´ー`)(かわいいな…)」

美雪「その気持ち分かるなぁ。
   私も初めて株を買った時は、マウスを
   クリックする手が震えちゃった(*´ω`)」

ママ「あたしだって20代の時は怖かったさ( ・´ー・`)」

賢人「母さんにもそんな時期があったのかよΣ(゚Д゚)」

瞳「何か他に投資しやすい対象はないんですか?
  国債って安全資産ってよく言われますけど」

ママ「個人向け日本国債はカス。燃えないゴミ。粗大ごみ。
   財務省のHPを読んでみろ。
   10年国債の最低金利保証が0.05%とか誰が買うんだよ。
   日銀の超低金利政策の影響ををもろに受けた紙クズだ。
   こんなもの買うならその辺の石ころでも拾えよ」

賢人「石なら人に投げてダメージを与えられるな。まだ価値がある」
美雪「子供たちが石ころを蹴って遊ぶこともできるわ」
ママ「な? 石ならただで手に入るし、利用価値はある。
   めずらしい石ならよく洗って部屋に飾っておけ」

瞳「石ころって……例えがひどすぎる…(~_~)
  他に株以外で何かありますか?」

ママ「買いやすい商品だと不動産投資信託(Jリ―ト)があるけど、
   不動産関係はリスクが高い資産だからやめておけ。
   東京五輪終了後に暴落する可能性があるぞ」

瞳「ひぃ!!」

ママ「臆病な人には金地金(きんじがね)か、
   あとは配当金か優待品重視の
   日本株の長期保有がおすすめだ」

瞳「日本株…」

美雪「ママ。日本株はオワコンだから買うなってお父さんから言われてるの」

ママ「確かに国家経済も財政もオワコンになりつつあるが、
   日本列島が地図上から消えるほどじゃない。まだまだ先進国だしな。
   冷静に分析すれば投資適格株がないわけではない」

瞳「さっきNTTドコモが優良株だと」

ママ「最高だね」

瞳「具体的にはどんなところが?」

ママ「超簡単に説明すると、現金をたくさん持ってて、
   借金がなくて固定資産(通信設備)をたくさん持ってる。
   超お金持ち企業。今日は馬鹿でもアホでも外人労働者でも
   携帯は持っている。携帯の通信料を分捕る商売はボロもうけ」

※米国株ではベライゾン・コミュニケーションズ、
      AT&Tが凄まじい利益を出しています。

瞳「確かに通信料は定額制だから、もうかりますよね。
  でも料金の値下げが…」

ママ「携帯料金値下げの影響なんて数年で取り戻せるね。
   たかが数期程度の減益がどうした。
   会社の利益剰余金が4兆を超えてる規模だから痛くもかゆくもねえ。
   日本株ってのは、たくさんあるクソの中から
   宝石を見つけるようなイメージで優良株を探してけばいいんだ」

瞳「日本株のほとんどはクソなんですか……。
  さっきから口悪いですね(>_<)」

ママ「気に触ったらごめんね。
   金持ちの老人相手にお堅い商売をやってた人間だから
   羽目を外すとこうなっちまうのさ」

⇒ママの財務分析の仕方。

ママ「数年単位での売上、純利益の推移、業界全体の不振、少子高齢化、
   消費増税、海外経済の影響など様々な要素が加わって経営を圧迫する。
   企業の経営はボクシングに例えればいい」

・10ラウンド(10年)戦って最後までリングに立っている企業が勝者。
もちろん途中のラウンドで配当金の減配もせず、優待品も配り続けることが前提。
弱い企業は最初の2ラウンドくらいで死んでしまう。

すでにラウンドの途中でタオルを投げ込まれた企業。
東芝、シャープ、大塚家具、レオパレス21など
2000年代までは業績好調だった企業。

美雪「ママが持ってる株を教えてよ。日本株で」

ママ「いいよ。ちなみに私は8銘柄しか持ってない」

美雪「たったの8銘柄!?」

キャノン
JFEホールディングス
NTTドコモ
オリックス
伊藤忠商事
KDDI
ブリヂストン
三菱ケミカル・ホールディングス

8銘柄に分散し、積み立て投資。
株式の時価評価額、1810万円 現金150万円
証券口座の資産総額、1960万円

美雪「すごい額。こんなに持ってるのね!!
   でも評価額がマイナス190万になってるけど…」

賢人「てことは投資元本は2000万だったのか」

ママ「評価損益が痛いな。
   日経平均が年明けに下落してからずっと上がらねえ。
   それでも定期的に買い増しを続けるのが長期投資だ」

瞳「たったの8銘柄だけでこんなに投資してるんですか。
  オリックスだけでも800株を超えてますけど」

賢人「財布に現金350円しか持ってないのに
   証券口座にはこんなに入ってるのか…Σ(゚Д゚)」

ママ「こんなの大した額じゃねえと思うけどな。
   日本円だと金の出し入れがすぐできて便利だぞ。
   株の売却後、証券口座から出勤依頼をすれば
   翌営業日には所定の口座に振り込まれてるからな( ・´ー・`)」

瞳「ママさんのことだから、
   1億円くらい投資してるのかと思いました」

ママ「夫婦共働きでも不景気だからな。そこまで余裕はないよ。
   あたしのお金は、ほとんど旦那のSP500ETFを積み立てるのに
   使ったからね。たっくんが子供の教育資金を稼ぐのに
   ETFが最適だってうるさくてさ」

美雪「日本株も20年単位でコツコツ買い増ししてたの?」

ママ「そーゆーこと( ・´ー・`) 小金をちょくちょく
   入れてただけだから、あんまり増えなかったけどな」

瞳「いやいや(>_<) 十分な資産だと思いますよ。
   金融庁の言った老後資金の2千万を、
   すでにママさんはもってらっしゃる!!(´ー`)」

賢人「なるほど。
   渋谷家の資産で一番大きかったのがSP500ETFと米国債券。
   夫婦が一番多くの資金を投入してんたんだな」

瞳(ケント君の家は富裕層だったんだ( ゚Д゚))
美雪(ママの資産をこの年で初めて知ったわ…(゚д゚))
賢人(日本株を持ってたなら、もっと早く教えてくれよ……(;´・ω・))

ママの日本株8銘柄は、すべて高配当銘柄。
4%を超える利回りで長期運用している。
配当金は税引き後(住民税と所得税で20%)で年間およそ50万円。

その配当金を、さらに新しい株を買うのに使う。
するとその株はタダ同然で手に入れた株で、
その株がさらに配当金を生み出す。福利の効果である。
これを『再配当投資』という。

それに加えてお給料の一部を定期的に積み立てると、
加速度的に資産が増えていくのだ。

ママ「株が安いから高いからと、売買をためらうのが短期投資。
   そして儲かるタイミングを逃す。機会損失だ。
   長期の場合は決められたルールにのっとり、
   決められたタイミングで買い増しをしていく」

美雪「ドル・コスト均等法ね」

ママ「株価の上下は誰にも予想できない。だから時期を分けて買い増しする。
   数年単位でみればコストは平均化されて結果的に損失が減る」

瞳「あのぉ。私は素人だからかもしれませんけど、
  ママさんの口座は現在190万円も資産が減ってますよね?
  ((((;゚Д゚)))) お金が減ってるのに気にならないんですか?」

ママ「全然。だって相場は上がる時もあれば下がる時もある。
   米中摩擦とブレグジットの影響で日経平均株価は
   当分上がりそうにない。私の資産額が減少するのは当然だ。
   190万減ってもそれがどうした(-。-)y-゜゜゜」

賢人「確かに。株は売らなければ損失を出すことはない」

美雪「そして平均株価が安いなら、ほとんどの株は
   安くなってるので買い増しする絶好の機会。バーゲンセール」

ママ「今の状況なら鼻歌歌いながら買い増しするね(^○^)」

瞳「そういう発想もあるのね。
  確かにこのタイミングならたくさん株が買えるわ!!」

美雪「買い増しすれば、配当金が決まった月に入ってくる。
    下手に売らなくても配当金で資産額が増えていく」

瞳「買うことはしても売りはしない。これが配当金投資ね。
  市場の動きに一喜一憂する必要がないから
  精神的にも楽だわ(∩´∀`)∩」

ママ「マーケットの流れに身を任せるってのは常識なんだがな。
   安くなったから狼狽売り、高くなったから焦って売る。
   こーゆーのがド素人のやり方だ( ・´ー・`)
   マーケットに逆らうな。相場の変動に応じて最適な選択肢をしろ。
   これを肝に銘じておけ」

まとめると

・株価が下がっても企業が倒産するほどの
  危機にない限り売る必要はない。

・決算書と四季報、関連ニュースをよく読め。

・どうしてもダメな企業なら損覚悟でスパッと売っちまえ。

米国株に投資するなら…

・円高⇒円をドルに両替して株を買え。
・円安⇒ドルを円に戻すチャンスだ。



一般的には貴金属販売会社の保管サービスや
銀行の貸金庫などを利用することが多い。

ママ「」

賢人「俺が妹と瞳さんと三人で暮らすことになった!?Σ(゚Д゚)」

※賢人

ちょっと待ってくれ。

確かに母さんが俺たち三人でくっつけとか
ふざけたことを言ってたが、本当にやるなよ!!

「ケント君……(=゚ω゚)」

俺を心配そうな瞳で見つめる瞳。瞳の瞳はいとおしい。

瞳と一緒に入れる時間が増えるのはうれしいよ。

会社から少し離れた場所にある団地に契約した。
どこにでもありそうな家族で住む団地で、
これと言って描写する必要がない。
前もこの言い回しを使った気がするぞ。

俺たちが住んでいるのは市営団地だ。
入居するのには次の条件がある。

・一定基準以下の収入であること
・同居(予定含む)の家族がいること
・現在住居に困っていること
・保証人がいること

俺たちは入居の条件をクリアーするのに嘘をついちまった。

瞳は俺の婚約者。(婚約者でもおkらしい)
今まで一緒に住んでいたレオパレス21の屋根が
吹き飛んだため、住居に困ってる。

妹の美雪も大学生のため収入がないため同居する。
保証人は俺の母親。母は都内在住。
親父はモンゴル在住。

親父って全く連絡とってないけど、まじでモンゴルにいるのか?
なんでモンゴルなんだよ!!
俺の郵貯のカード返せよな!!(-_-メ)

「入居条件のためとはいえ、瞳さんがお兄ちゃんの婚約者?
 笑えない冗談だよね(;^ω^)」

「まあまあ美雪(∩´∀`)∩ これから三人で
 暮らさなきゃならないんだ。仲良くやっていこうじゃないか」

ぶっちゃけ昼ドラ確定だと思う。
美雪と瞳さんに関しては、今までの話数を
読んでもらえば分かると思うが、険悪だ。

かといって、どちらかを追い出すわけにもいかない。
むしろ俺が出て行きたいくらいだが、小説の設定だから
我慢するしかない。まじでいつまで出演すればいいのよこのクソ小説。

「美雪さん、この際だからはっきり言っておくわ!(; ・`д・´)」

めずらしく怒鳴ったなヒトミさん。

「家事の分担は大事だと思うのよ!!
  私と賢人君は社会人で一日16時間勤務だから
  家事をしてる時間が取れないわ!!
  よって平日の夕飯の支度などは…( ゚Д゚)」

「あーはいはい。('Д')ケッ
  今まで通り私が作りますよ。
  ちゃんと三人分作りますし、瞳さんの
  料理も手を抜かずに作らせていただきます」

「聞いて!! 私だってあなたと同居するのは
 不愉快の極みだわ!! 政治家的に表現すると遺憾よ!!」

初日から喧嘩するのは、イカンよね。侵略イカ娘。

「だからといって、すぐ喧嘩腰になるのは子供することよ!!
  (; ・`д・´) お互い生活を友のする以上は
 家族なのだから協力しましょうよ!!
 ケント君のお母様も、私たちに協力して生き延びる術を
 身につけてほしかったのではないかしら」

「ふーん(* ̄- ̄) でもさぁ(・ω・)」

美雪?

「私と兄は同棲して何も問題なかったし、助け合っていたし、
 精神的にも金銭的にも満足していましたが? (* ̄- ̄)」

「残念なこと美雪さんは勘違いしているようね!! 
 (; ・`д・´) 私と賢人君は本来なら婚約者だから
 2人だけで住むべきなのよ。なのにお母さまがお優しいから
 あなたとの同居を認めてあげたのよ」

「婚約者……? 認める? さっきから上から目線なのが
  癇に障るんですけど、顔をぶん殴っていいですか?」

「いいから最後まで話を聞きなさい!!( ゚Д゚)」

「うるせえ!!」

今のうるせえ、は俺の妹のセリフだ。
やべー( ゚Д゚) 美雪の奴、完全にスイッチが入っちまったようだ。
ヨーダ。ダースベイダー。だるまさんが転んだ。
しりとりしてる理由は、現実逃避したいからだ。

「自称兄の婚約者だからって調子乗りやがって!!
  こっちだって我慢してあんたと一緒に暮らすことに
  してやってんだよ!!」

「……」

「だいたい。そっちこそ何様なんだよ? 
  兄と私のキス動画を拡散させたクソ野郎のくせに、
  私の見てないところで兄と良い関係になりやがって!!
  私からしたらあんたはただの赤の他人。邪魔者なんだよ!!」

「美雪さん。あなたの言葉を今はなかったことにしてあげるわ。
 だから落ち着いて話をしましょう」

「だったらその婚約者って言葉を取り消せ!!
  不愉快なんだよ!! あんたはよくて兄の同僚でしょうが!!」

「婚約は当事者間で決めることよ。
 私と賢人君は互いに恋人同士と認めているわ。
 確かに婚約者は言いすぎたかもしれないけど、
 市営団地の入居条件を満たすためには仕方なく…」

「仕方なくじゃなくて本当に婚約してたんだろうが!!」

「そうね。お互いの親の同意が得られれば正式に婚約したいわ。
 そしてあなたが彼のこと大好きなことも
 十分すぎるくらいに伝わったわ。
 もっとも。あんたみたいなわがまま小娘じゃ
 彼に選んでもらえないでしょうけど」

「なんだとぉ!!」

っていうか婚約してなかったか?
俺の記憶違いじゃなければ、互いの母親が認めていたような……?
あるぇ? 読み返してみると美雪が俺の正妻にもなってる? 
どうなってんだこの小説。
金の運用の話ばかりで恋愛の描写が足りなさすぎるぞ。

それより大変だ。
二人の乙女は口喧嘩を超えてリアルフェイトに突入した。
フェイトじゃなくてファイトだった。フェイトってなんだよ。
運命って意味は間違ってないかもしれないが。

殴りかかった美雪の拳を軽くかわすヒトミさん。
鮮やかな動作だ。お返しにびんたを一発。

「いったぁ……」

ああ、確かにすごい音だった。
風船が割れたのかと思ったよ。

俺はカンガルーのような動作で瞳さんに近づいた。

「まあまあヒトミさん。暴力は良くないよ(;´・ω・)」

「あら、それはなんじゃないの? 暴力ですって? 
 私の方からは何もしてないわ。
 だって向こうから殴りかかって来たのだから、
 今のは正当防衛と言うべきじゃないかしら」←超早口

「仕掛けたのは美雪だ。確かにそうだ。
 でも美雪は俺の妹なんだけどなぁ…(;・∀・)」

「妹だから何? 例え暴力を振るわれても特別扱いしろと?
 あらそう。あなたはそんなにも妹さんの味方をしたいのね。
 じゃあなにかしら。仮に私がけがを負わされて
 会社で仕事をするのが困難になって、
 仮に欠勤することになってもいいというの?
 ねえどうなのよ。はっきり言ってちょうだい」

やべえぞ。瞳さんがマジギレしてる。
普段温厚な人だから切れるとヤバそうだ。
この人、俺より7歳も年上なんだよなぁ…(>_<)
しかもチョー早口だ。良く途中で噛まないな。

俺は背中を氷の刃で突き刺されるほどの
プレッシャーを感じ、委縮してしまう。

「クソ……よくもやりやがったな…」

ゆっくり振り返ると、やはり美雪も相当怒っていた。
激おこぷんぷん丸って表現できるレベルじゃねえ。
まさにリアル昼ドラだ。ドヤ焼き食べたい。

「お、おい美雪……さん? ((((;゚Д゚))))」
「お兄ちゃん邪魔。危ないから、そこどいて」

俺がヒトミさんの近くから離れたら、
戦いのゴングが鳴るのは必死だ。

赤コーナー、ヒトミ選手。青コーナー、美雪選手。
とすると審判は俺か。この二人の暴走を
止められるのは俺しかいない。

そもそも、なぜこうなった?
二人が俺を奪い合う理由が分からん。
二人とも主義思想の違いはあれ、美人だよ。
俺には釣り合わないほどにな。
これはあれか。小説の主人公補正ってやつか。

ラノベの主人公や少女漫画の主人公も
平凡な設定なのに異性にモテまくるし。
俺が仮に女だったら、俺みたいな底辺労働者は
絶対夫に選ばねえけど。だって収入が不安定なんだぞ。

この沈黙を破ったのは、ひとみんだった。

「はぁ……にらみ合ってても無駄に時間が過ぎるだけね。
 限りある時間を有意義に過ごしたいものだわ。
 賢人君。これから夕飯の買い出しに行きましょうか」

「へ? 買い物?」

俺はやはりカンガルーの顔で壁掛け時計を見た。
だが何もなかった。引越初日で荷物を何も持ってきてないのだ。
唯一あるものといえば、かあさんが送ってくれた布団が三人分。
歯ブラシ三人分と歯磨き粉。タオル類。シャンプーとリンスと石鹸。

なんと冷蔵庫や電子レンジすらないのだから笑える。
エアコンだけは初めから設置してあるから助かった。
今は6月の中旬の設定だから夜は蒸してしょうがない。

そもそも引っ越すのが決まったのも突然だったから、
まだ美雪と一緒に住んでいたアパートの解約すら住んでない。
早く解約しねえと金がガガ!! 勇者・ガオガイガー!!

「さあ行きましょうか賢人君?」

行きたいけど、行けねえ。
二人きりで買い物なんかしたら美雪がヒスるのは確実。
晩飯のおかずが、ミンチにされた俺になっちまうよ。

ぶっちゃけ瞳さんと買い物できるなんてカップル気分が
味わえて最高のイベントなんだが……

「行きたいなら行けば?」

美雪がそっぽを向きながら言った。

怒りのオーラがはんぱねえよ。
こいつ絶対納得してねえだろ。
あーもー。どうすればいいんだよこの修羅場( ゚Д゚)
これに比べたら金の話をしてた時は平和だったな…。

俺は震えながらこう言うしかなかった。

「やっぱり仲良く3人で行こうじゃないか!!
 だって俺たちは今日から家族になるんだろ!?」

「は?」 
「……はい? 何言ってるの」
「誰がこんな奴と一緒に」
「私だっていやよ。こんなわがままと」
「なんだと年増」
「何か言った? クソガキ。精神年齢10歳」
「苦労知らずの社長令嬢」

「あんただって金持ちじゃない」
「私はあんたと違って毎月生活費払ってますから」
「あんたって呼ぶな。年上には敬語使え」
「お兄ちゃんも敬語使ってないけど?」
「彼は特別だから。あんたは使え」
「そうね。おばあさんは敬わないとね」
「……何か言った?」
「クソババアって言ったんですけど、耳悪いんですか?」

「うふふ。あっそう。(´∀`*)もう一回殴ってあげようか?」
「どうぞどうぞ。今なら兄も見てますから」
「美雪さんはいちいち私に喧嘩売らないと気が済まないのね」
「それはこっちのセリフだ!!」

その後、7分ほど口論した結果、
三人で買い物に行くことで同意した。

たかが買い物に行く人数を決めるのに、
今後の追加関税をめぐる、
米中の貿易交渉並みの修羅場になっちまった。

まじで俺の胃がもたねえよ(>_<)
スーパーで胃薬は売ってねえよな……

銀行辞める前は毎週飲んでたなぁ……
過酷すぎる営業ノルマ……
上司からの命令で顧客へ不正融資の勧誘……
元本割れする金融商品の販売、
その後、クソ老人からのクレーム……
銀行カードローンの貸付……金利によるローン地獄……

今の金融業界は利ザヤが稼げない。
だから客を騙すしかないんだ。
月のノルマを達成しないと
家族まで人質にとると上司に脅され……
だめだ。思い出したくねぇ(>_<)

銀行時代の悪夢は、妹の美雪にさえ話してないほどなんだ…
早く忘れないと(>_<)

「あ、あのさぁ…」

俺は後ろを振り返ったが、それ以上何も言えない。

スーパーは歩いて10分ほどの距離(結構遠いな)に
あるんだが、二人とも俺の後ろを歩いている。

 俺
瞳 美雪

↑小説だと伝わりにくいだろうが、
このフォーメーションになってる。

ワールドカップ男子の日本代表を意識したのか、
俺がワントップのフォワードで、
美雪たちは攻撃的ミッドフィルダーになっている。

しかも両MFは、互いの顔すら見ないほど険悪。
連係の悪さでは世界を狙えるレベルになっている。

楽しいお買い物のはずが、
マジでただの苦痛であり、一種の修行と化している。
三人で行こうなんて言うんじゃなかった!!


ズドドドド、どかああぁぁnん ズバアアン キュイーン

夜の6時。タイムセールの時間。
スーパーはお金のないお客が、戦車や装甲車で暴れまわり、
店側は迫撃砲やロケットランチャーで迎撃するなど
令和10年の小売り事情は熾烈を極めている。

毎回思うんだが、あいつら金はないのに
武器だけは豊富に持ってるんだな。
戦車って10億くらいするんじゃねえのか。

「美雪。さっさと買い物を済ませるぞ。
  半額のカツどん弁当を狙うんだ」

「うん。でも今日はちょっと無理そうじゃない?
 いつもより派手に銃弾が飛び交ってるよ」

俺たちは宙を轟音が通り過ぎていくのを感じたので、
急いでその場に伏せた。

ひゅーーーー。ずごおおおおおおおん!!

ひゅーずごごごおごごっごん!!

ひゅーひゅー、ずごごごっごおごごごごん!!

副店長が主力となってお店の迫撃砲部隊が
お客を威嚇しているのだ。すげえ連続攻撃だ。
休む間もなく砲弾がさく裂し、火炎と破片をまき散らして
武装したお客さん達を吹き飛ばしていく

「ぎゃああ」「いやあああ」

中年の夫婦が人形みたいに宙へ跳ねた。
彼らのちぎれた腕や足が、駐車場に転がる。
うわ……どす黒い血が広がっていく……(~_~;)

この駐車場から店の入り口にかけてが、
お店側とお客側の境界線。戦線を構築している。

お店側は強盗の侵入を防ぐため、
入り口前に土嚢による塹壕陣地を構築している。
重機関銃が睨みをきかせ、
不用意に近づいてきた奴を撃ち殺すのだ。

この正面入り口以外は全面的に封鎖されていて、
ここ以外の場所から店に入ることはできない。

スーパーの機関銃手はどこも射撃の名手だ。
下手な客だと一発で頭を撃ち抜かれるぞ。
なにせパートさんの募集要項が、
射撃の訓練課程30時間以上となっている。

このスーパーは「カスミ」
我々北関東の民にとってはなじみの深いお店だ。

実は親会社が上場していて、
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスという。
無駄にカッコいい名前だな。株主優待券は
お店で使える割引券6000円分か、お米券だったと思う。
雑誌に載っていたぞ。あと学園生活の高野ミウさんが
株主優待を使っていたシーンがあった。

また株の話をしちまった。
ぼーっとしていたら俺たちも
破片を食らって再起不能になっちまうから急がないと。

「ケント君。この状態でどうやってお買い物をするのよ」

「まず自分が武装してないことを証明しつつ、
 塹壕にゆっくりと近づくんだ。
 そして塹壕の前で財布とポイントカードと身分証明書を
 提示すれば中に入れてもらえる」

スーパーの中まで入れば安心だ。
令和10年のスーパーは耐久性を強化している。
壁や天井は5メートルのコンクリで固められているから、
重爆撃機に空爆されてもそこそこ耐えられるレベルだ。

分かりにくい人は、第一次大戦のベルギーが誇った、
『リエージュ要塞』を検索してほしい。あんな感じだ。

買い物ができるスペースは要塞の地下に用意されているのだ。

「渋谷賢人25歳。ふむ…。常連客。前科歴なし。
 入ってよろしい。後ろの二人は?」

「俺の婚約者と妹です。名前は坂上瞳と渋谷美雪です。
 2人とも1万円以上の現金を持っています」

「よろしい。身分証の提示は省略する。速やかに買い物を済ませろ」

「は、はいっ」

令和10年では、お客は神様ではない。
お客は定員様に土下座をしてでも買い物を済ませないといけない。
強盗など不審な客は撃ち殺される。

1000円以上の現金、金券、もしくはクレカを持ってない奴も
強盗とみなされ、やはり撃ち殺される。
確かに強盗が多いとはいえ、ひどいもんだよ。
俺たちは食べる物がないと生きていけないのに…。

「おにいちゃーん。お弁当がたくさん売ってるよぉ。
 どれ買うか迷っちゃうね (*´ω`)」

「そ、そうだなっ」

別の意味で生きた心地がしねえ。
だって瞳さんが親の仇を見るような眼でこっちを見てくる。
今すぐにも爆発しそうだ。

美雪よ。お前のことは嫌いじゃないんだが、
瞳さんの見てる前で腕組みはしないでくれ。

「カツ丼もいいけど、
 こっちのお寿司弁当も安くない?
 半額だから240円で買えるよ」

「そ、そうだな。美雪がいいと言うならそれで」

「んもー。お兄ちゃん、さっきから適当に答えてるだけじゃん」

「あはは……。どれもおいしそうに見えちゃったからさ」

むぎゅっと、俺の腕にわざとらしく美雪の……
美雪の…その、…なんだ? 
おっぱいが押し付けられている(>_<)

こんなこと描写してて自分が馬鹿らしくなるが、
スレンダーな瞳さんじゃこの感触は味わえないと思う。
ブラの硬さと胸の弾力が合わさって、色々ヤバい(*´Д`)

6月なので俺は半そでのTシャツ。
ちらっと見ると美雪のぶかぶかのキャミの
すきまから紺色の落ち着いたデザインのブラが見えちまう…。
妹のくせに紺なのか…(;゚∀゚)=3

美雪の短パンから見える白い足もすごい。
何て肌が白いんだ。それに肉付きもいい。
つい触りたくなっちまう。

「くすくす」美雪が俺のズボンを見てほほ笑んでいる。
もう何度目になるか分からないが、俺はズボンにテントを張っていた。
つまりフルボッキだ。

俺ってやっぱり普通の男じゃなかったのか。
前にこいつとキスした時はおえーってなったのに、
なんで体には反応しちまうんだ。

血を分けあった妹だってことは本能で理解している。
美雪の裸を見た時も、押し倒そうとまでは思ったことはない。
だが、美雪が俺に婚約届まで持ってきたもんだから、
自然とこいつを異性として意識してるのかもしれない。

それはまさに……禁断の恋。
午後2時55分に何かが起こる~の本村兄妹の再現だ。
あっちはマジで妹さんが妊娠しちまったからな。

「賢人って意外と初心なんだね(*´з`)」

け、けんとだとぉ!? Σ(゚Д゚)

妹はごくまれに俺の名前を呼び捨てにする。
最初は嫌われたのかと思い焦ったが、あとで
本気の恋愛感情の表れだと説明されて驚いたものだ。

しかし、こんなラブシーンは長く続かない。

「ちょっとあなたねぇ、いい加減に彼から離れなさいよ!! 
 さっきから嫌がってるじゃない!!」

「きゃああああ (~_~;)」

美雪はひとみんに突き飛ばされ、パン売り場の棚へ突っ込んだ。
最近は児童の列に高齢者の車が突っ込むのが流行してるな。
作者も言ってたけど、あの流行そろそろ終わっとけよ。
未来ある子供を高齢者が殺してどうするんだ。

「ケント君 (≧∇≦) こっち向いて(。・ω・。)ノ♡」
「ひと…」

(●´Д`)ε`○) (●´Д`)ε`○) (*´ε`*)チュッチュ

ちょっとだけ舌も入れられた。
この小説って官能的な表現もあるんだな。
いきなり積極的すぎるし、
発情した瞳さんの顔がエロすぎだろ…

ここが店先じゃなかったら最後まで行っていたのは
間違いない。つーか今さらだが店内でキスしちまった!!

「えへへ (。・ω・。)ノ♡ キスしちゃったね(*'▽')」

俺の首の後ろに両手を回し、はしゃいだ様子の瞳さん。
何の脈略もない突然のキスだったが、
俺は男なので興奮しちまう。

男は女と違って雰囲気とか心の準備が
いらねえから便利なのだ。まさにオスの本能。

その次の瞬間だった。
瞳さんの側頭部に、ごみ箱が投げつけられたのは。

戦車の主砲のごとく軌道を描いた店内ゴミ箱は、
瞳さんの体を竹トンボのように吹き飛ばしてしまった。
アンパンマンの必殺技、アンパンチをまともに
食らってしまったバイキンマンだな。

あれ、普通に考えて死ぬよな。

あれだけ殴られても、次の週には
パン工場への襲撃を計画するバイキンマンの根性。
肉体的、精神的なタフさ。次々と新たな企画を練る発想力。
どれをとっても営業職にぴったりだ。

さらにユーフォ―型の乗り物?バイキン号?
を独自開発できることから、理系の研究分野でも
才能を発揮している。日本中から引っ張りだこに
なってもおかしくないほどの逸材である。

「うん。そうだね。バイキンマンってすごい人材だね。
 でも今はそれよりも話すべきことがあるはずだよね」

「美雪ちゃん……はは。もしかして怒ってるのかなぁ?」

「私がどうして怒ってるのか当ててみて」

「俺が、坂上ひとみさんと、接吻をしたからです」

「正解」

「はは……」

「私に何か言うことないの?」

「すみません(>_<)」

なんで俺は謝ってるんだ?
妻に浮気がばれたわけじゃあるまいし。
そもそも瞳が俺の婚約者なんだが、困ったことに
婚約者は美雪が切れるワード・ナンバーワンになっちまってる。

「あんな行き遅れのおばさんとキスしてあげるなんて
 お兄ちゃんはボランティア精神にあふれてるんだね」

いつもなら美雪の暴言を叱るところだが、
あまりの迫力に何も言い返せないのが辛い(>_<)

「ごめん」
「謝るくらいなら初めからしないで」
「ごめんなさい。もうしません」
「だから、謝ったからって解決することじゃないから」

じゃあ、どうすればいいだ。
相手が怒ってるなら謝るしかないだろJK。

「私はね、最近のお兄ちゃんの態度全体にムカついてるの。
 お兄ちゃんって私の見てないところでは
 すぐ変な女に騙されちゃうんだから。
 会社ってそんなに素敵な出会いがあるところなの?
 お兄ちゃんは会社に仕事しに行ってるんだよね?」

「俺はちゃんと働いてるつもりだが」

「仕事中にあの女の方ばっかり見てるんじゃないの?
 だから仕事でミスして主任にムチ打ち食らうんだよ」

「あの時は過労で睡眠不足だったからだよ。
 ミスなんてうちの部署の連中はみんなしてるぞ」

「この前スーパーに行った時もかぐや姫さんと
 仲良さそうにしてたよね。ああいうの、なんなの?」

「なんなのって言われても……」

「私を怒らせて楽しいのかって聞いてるの。
 最近はお兄ちゃんも私を怒らせる名人になりつつあるよね。
 私とお兄ちゃんは、助け合って生きていかないと
 ダメだよってパパからも言われたのにさ」

「なあ、まだお説教は続くのか?
 早く買い物を済ませて帰ろうぜ。
 早く帰らないと明日も仕事なんだよ…」

「そうやってすぐ逃げようとするんだから!!
 二言目には仕事仕事って!!」

「…じゃあ逆に訊くが、仕事しないで
 どうやって生きていくんだ?」

「お兄ちゃんの安月給なんて家賃代にすら
 ならないじゃん」

「おまっ…給料のことは言うなよ!!
 令和10年の埼玉県の賃金水準を
 知ったうえで言ってるのか!!」

「あーそうですか。労働者は大変だよね。
 だからこそ、お兄ちゃんの生活費の管理はこの私が!! 
 他でもない妹の私がやってあげてるの!!
 お弁当も毎朝早起きして作ってるし、
 税金の支払いも全部私がやってるんだけど!?」

「それに関しては感謝してるって……。
 毎月同じ話してるのは気のせいか?」

「だったら最初から私を怒らせないでよ!!
 私を不愉快にさせることを今後しないって約束してよ!!
 こうやってつまらないことで喧嘩して誰の得になるの!! 
 ねえ、私何か間違えたこと言ってる!?」

美雪の世界は、なんでもかんでも自分中心だ。
俺の事情なんて考えてくれない。
俺が会社で死ぬ思いで働いてることなんて
学生の美雪には想像もできないだろう。

あと一度切れるとなんで毎回昔のことを蒸し返すんだ?
女ってみんなこうなのか?
めんどくさすぎて笑っちゃうレベルだ。

私を怒らせるなって言うけど、
そんなこと言ったら俺は美雪の機嫌を
損ねないように細心の注意を払って生活することになるぞ。

カンボジアの仏教徒の修行じゃねえんだ。
そろそろ俺も本気で怒っていいかなヽ(^o^)丿

「貴様ら、先ほどから話してばかりで
 買い物をする気配がないようだが」

怖い顔をした女性定員が、俺らにピストルを向けている。
これは非常にまずいぞ。どうやら瞳さんが
ひそかに店員さんに通報してしまったらしい。

瞳さんは余裕の笑みでお弁当とお茶のペットボトルの
袋詰めを終えている。いつの間に買ったと言いたいが、
いつでも帰るタイミングあったよね。俺と美雪の喧嘩長かったもん。

俺は謝罪し、妹と手を繋いで適当なお弁当を買った。
仲良しのアピールだと小声で言うと、まんざらでも
なさそうな顔で助かった。マジギレしてる時の
こいつに下手に触れると、兄にさえ拳を振りかねないからな。

瞳「美雪さんがうざすぎて困っています°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

※瞳

先日の美雪さんの茶番にはあきれちゃったわ。
あの子ったら、実の兄の前でもヒスってるのね。
店の地下売り場(普通の売り場のこと)でも
衆人環視の中で怒鳴るなんて育ちが悪すぎるわ。

お金は持ってるはずなのに心の中は貧乏人なのかしら。
自慢っぽく聞こえるかもしれないけど、
私が人前で必ずお嬢様扱いされてしまうのは、
母からの厳しいしつけによるものです。

個人資産の額とかに表向きなものに関係なく、
言動仕草、物腰雰囲気に全てその人の育ちが出しまうからです。
成りあがりの人は、お金はあっても品はない。
品性は、あとから身に着けるのは難しいですよ。

朝5時半。私は普通の人より早起きな方だと思います。
団地の部屋は少なく、リビング兼ダイニングが一つ。
他には二つの部屋。トイレとバスルームのみ。

私は一つの部屋を与えられたのでそこで寝ています。
もう一つの部屋は美雪さんの。
賢人君はリビングに布団を敷いて寝ました。

体操とストレッチをして15分。
あとは軽く掃除をして、お弁当を作るんだけど、
三人で同棲してからは美雪さんの仕事よね。

先日ゴミ箱を投げつけられた部分がまだ痛む気がするわ。
自慢の髪が痛んでなければいいんだけど。
私は自他ともに認める倹約家だけど髪質には凝ってるから
外国のシャンプーを使ってるの。

「おはよう。ヒトミさんも早起きなんだね」
「おはよ。賢人君も早いわね。寝癖、ついてるわよ?」

賢人君はあわてて洗面所で髪をいじってる(≧∇≦)
そんな姿も、カワ(・∀・)イイ!!

男の人と同棲するのって初めてだからドキドキしたけど、
なんか会社で毎日顔を合わせるのとそんなに
変わらない気がしてきた。

かえって年下の彼の方が相性がいいのかも。
お互いの私生活が明らかになって
喧嘩することもあるでしょうけど、
なんとか頑張っていきたいものね。

「朝ご飯作ろうか」
「ケント君が作るの? 美雪さんはまだ寝てるかしら」
「ぐっすり寝てる。昨夜は全然寝れなかったみたいだから」
「じゃあ、起こさないでそっとしておいてあげましょう」

彼は手慣れた動作で炊飯器を探していたけど、
そんなものどこにもない。それもそのはず。
私達は急な引っ越しだったから生活用品がなにもないのだ。

「掃除機やダスキンもないから掃除ができないぞ(;・∀・)」
「ケント君って普段から家事とかするの?( ゚Д゚)」
「料理も含めて全部できるよ。あれ。言ってなかった?」

意外でしたΣ(゚Д゚) 彼は小学生の時から
家の料理の支度を任された(結果的に)
美雪さんの負担を減らすために、積極的に
家事を手伝っていたとのこと。

最初はお風呂掃除から初めて、家中の掃除。
日用品の買い出し。料理の補助で野菜を切ったりなど。
ラックの組み立て、エアコンのフィルターの清掃、
棚の上の荷物を取ったり、蛍光灯の電気の交換など
男手が必要なことは父に代わってやっていた。

「カーテンもないから直射日光が直接入っちゃうよ…
 掃除に必要な道具も全然そろってない。
 週末に買いに行かないとな」

ずいぶん主婦的な人だったのね。
今時の男子って感じがしてステキ(≧∇≦)

美雪のアホが惚れる理由も納得!!
あいつがブラコンになったのって、
お兄さんがステキすぎるからじゃないの。
あんな奴にはもったいないお兄さんだわ(≧∇≦)

「ヒトミ」

「えっ」

「今度からは瞳って呼んでもいいかな?
 俺達は婚約者だからさ」

もちろんおkに決まってるわ!!!(*'▽')
むしろもっと早く呼んでほしかったわ!!
ならば私の方も

「ケントって呼ぶわね(^^♪」
「うん(^○^)」

「改めて、おはよう。ひとみ」
「おはよう。けんと」

(´∀`*)ポッ (´∀`*)ポッ (´∀`*)ポッ

いやあぁぁぁぁぁん ヽ(^o^)丿 なんて素敵な朝なの!!
気持ちはまさに,、ふわふわターイム!!
昨日までのイライラが嘘のような展開です!!

しかも会社と違って邪魔をしてくる人がいない!!
最高です!! ばじゃーい (∩´∀`)∩

「おはよ(´ー`)」

ちっ。邪魔者が起きたようです。同居人の渋谷美雪。
ブラコンの末期患者です。病状の深刻さは世界を狙えます。
挨拶すら返したくないけど。礼儀として一応は返しておきましょう。

「ふん(#^ω^)」

奴は視線すら合わせずにそっぽを向きました。

なに……その顔は? (# ゚Д゚)
朝から喧嘩したくないからスルーするけど、
休みの日だったら怒鳴り散らしているところよ。
こちとら礼儀のなってない相手には
もう容赦する気はないんだから。

「あっ、まだ冷蔵庫すらないんだったね」
「俺も朝起きたら気づいたよ。あと買いに行かないとな」

「ごめんねぇ(~_~;)せめて昨夜カスミで
  食パンでも買っておけば良かった」

「通勤途中でコンビニで何か買うよ」

「あっ、うん。お小遣いあげないとね」

妹の財布から兄へと千円札が渡される。
消費税率34%なので、たった千円だと
満足に買い物できないと思うよ…。

それより腹立つのが、まるでこの二人のやり取りが
「夫婦」にしか見えないことです。
普通に考えて妹から食事代を
もらう兄っておかしくありませんか?

数年ぶりの朝ごはん抜き。
歯磨きして化粧など身支度を整え、時間になったので家を出る。
玄関で靴を履いて一言。

「行ってきます(-_-メ)」
「(`´)」シーン

さすがお子様。予想通り無視ね。

「美雪。行ってくるよ(`・ω・´)」←イケメン

「言ってらっしゃぁい (。・ω・。)ノ♡
 今夜もお夕飯作って待ってるね(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

ああ……こいつの顔がムカつく……死ね死ね。
今すぐ腹パンしたくなるけど我慢我慢。
今日は転居して初めての平日。
しばらくの間は美雪と距離を取って
最終的に妥協点を見つけるしかない。

人は、どこかで折り合いをつけて生きてくものだから。

月曜の朝はあわただしい。
私と賢人君は激しく車の行き交う交差点で信号待ちをしていました。
たまに戦車や装甲車も混じってる気がするけど、気のせいかしら。

「今なら誰も見てないから手を繋ごうか (`・ω・´)」

「えっ、朝から!?」

それに衆人環視の中で?
朝のこの時間だと通勤途中の
同僚たちに目撃される可能性が高いのに。

「会社に行く時くらいしか、
 君とイチャイチャできないじゃないか」

「(≧∇≦)あっ」

信号はとっくに青に代わっている。
それなのに私が動き出せないのは、
賢人君に熱く抱擁されているからです。

6月の快晴。どうして関東は雨が降らないのかしら。
日差しは刺すほど暑いのに、彼の腕の中にいても
全然暑苦しくないのが不思議。

彼の制服の洗剤の匂いがする…
この匂いは前も嗅いだことがある。

「好きだ。ヒトミ」

(≧∇≦)あ…

「団地の中じゃ恥ずかしくて言えなかったけど、
 本当は君のことだけが好きなんだ。
 好きなんてもんじゃない。この世界の誰よりも愛してる。
 もう二度と君を離すつもりはないからね」

こんなカッコいいセリフを現実世界で言ってくれる男性って
日本にいるの? 私の賢人君だけでしょ。こんなにイケメンなのは!!
(。・ω・。)ノ♡ (*´ε`*) (`・ω・´)b 

彼の真剣なまなざしと低い声で心がふわふわ浮いちゃう。
ふわふわターイム!!!!

「賢人の気持ちはよく伝わったわ(´ー`)
 私もあなたの事を世界で一番愛してるわ。
 でも、そろそろ会社に送れちゃうから行きましょう?」

そして会社に着くと、同伴出勤だの、朝からキスシーンなど
散々な噂を流されました。でも前に社長令嬢だった件が
バレた時の嫌な感じではなくて、面白半分で言ってる風だった。


※ケントくん

会社の昼休みだ。俺と瞳さんがコンビニ飯だったので
目立つに目立ちまくったが、食べ終わった後は
自分の作業台(PCのある机)でうつ伏せで寝られる。
ここには口うるさいおばさん達もいないので
(おばさん達は昼休み終了まで食堂でねばる)
思う存分昼寝ができる。

実は母さんからこんなメールが送られてるんだ。

『イスラム教徒のように二人の女を平等に愛せ。
 美雪か瞳、どちらかと一緒にいる時は愛の告白をしろ。
 どんな嘘っぽい言葉でもいいからあの子達を安心させろ』

というわけだ。実は今朝の愛の告白も母からの指令によるものだ。
おせっかいなことに告白のセリフまで用意してくれた。
俺はできるだけ嘘っぽくならないように情感を込めて
言ったつもりだ。

「ケント君、今話がしたいんだけど大丈夫?」

何かと思ってスマホから顔を上げると、ヒトミがいた。
まだチャイムまで20分もあるぞ。
瞳は自称おともだちグループの輪の中で、
スマホをいじってるはずなのに。

「どうしたんだい。緊急の用事?」

「さっき美雪さんから変な画像が送られてきたの」

俺は目の前が真っ暗になってしまった。
あれは俺が中学生の思春期ど真ん中の時期だったか。

お遊びで膨らみかけた妹の胸を、Tシャツ越しに触ったことがあった。
当時美雪は12歳でブラもしてなかった。
妹だと頭では分かっていても、
初めて触った少女のふくらみは柔らかくて、
俺はつい勃起してしまった。

瞳さんのスマホに映し出されている写真は、誰が撮影したのか
俺が美雪にそのセクハラをしているシーンだった。

「他にもあるんだけど、見たい?」

うん……これも言い訳は不可能だな。
写真の中の俺は、なぜか美雪の洋服タンスを漁っていたのだ。
おそらく下着を探しているのだろう。
当時俺は高校一年生。美雪は中一。
年ごろの男にはありがちなシーンだと理解してもらいたい。

待ってくれ。これは単純に近親相関的なものじゃなくて、
男には中高生の時などに性欲が自制できない時期が誰にでもあるのだ。

誰が撮った写真なのかはどうでもいい。たぶん父さんだろ。
父さんだってとぼけた顔して美雪のことが大好きだ。
美雪が中三の時。お風呂で湯船につかってる美雪にわざわざ
話しかけにいき、怒った美雪にお湯を掛けられていた。
(↑筆者の身近な例で実話あり)

「美雪さんがかわいいから、
 そういうことしたくなるの?」

俺は沈黙で返した。

「やっぱり血のつながったお兄さんでも、
 美人な妹には欲情しちゃうんだ」

逆に君はどうなんだ。妹より君の方が美人だよ。
君こそお兄さんや弟さんにそういう目で見られてるんじゃないのか。
俺の妹より君の方が美人なんだから。

「美雪さんが、年増の行き遅れ女に兄は欲情しないって
 メール(LINE)が来たのね。こういうのってどう思う?」

またしても沈黙する。答えようがないだろ。

「あ、思い出しちゃった。昨夜カスミで仲良さそうに
 お弁当選んでたよね。賢人君ったら胸を押し付けて来た
 美雪さんに鼻の下伸ばしてた」

はい。遺憾ながらフルボッキしていました。

「あ、あの」

「ああいうの、私の前でしないでほしいな」

「ごめんなさいm(__)m」

「すごく……嫌だったよ」

「え?」

「すごくいやだったの……。二度とあんなことしないで」

瞳の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
彼女は大人だから昨日の茶番を見逃していただけで、
本当は叫びたいほどショックだったのだろう。

そうとも知らずに俺は…。
俺は大切な婚約者を傷つけてしまったのだ。

俺は世界一の馬鹿野郎に違いない。
俺は焦るあまり思考がまとまらず、奇行に走ってしまう。
なんと、その場から駆けだしてしまったのだ。

「あ……」

瞳が何か言いたそうだったが、すみません。足は止まりません。

俺はトイレの個室で頭を抱えて時間を過ごした。
そもそもなんであんな写真を美雪が持ってるんだよ。
俺が思春期の時に美雪にセクハラしたのは事実だが、
当事者のはずの美雪が写真を持ってるって客観的に考えてありえねえ。

昼休みが終わる30秒前になって俺は職場へ戻った。
危ない危ない。ギリギリの時間じゃねえか。

「話はまだ終わってないわよ(;^ω^)」

ひとみが腕組して俺の席で待っているわけだが……?

妙な笑顔だが、もしかしてそれ、マジギレてる時の顔かい?

「おうけい。後で聞くから仕事を…」

「仕事なんてしてる場合じゃないでしょうが!!
 私たちのこれからにかかわる大事なことを話しているのよ!!」

なんのことだかさっぱり分からないよ!!
キレてるのは分かったから、ちゃんと順を追って話をしてくれ。

「美雪さんから別のメールがきたのよ。
 あなた達ってケントがこの会社に入社した時から同棲してるのよね?」

「う……うん (;゚Д゚)
 同棲っていってもたった二か月くらいだけど」

「夜寝てる時に兄が布団に忍び込んできて、
 体を触られたって言ってるわよ (; ・`д・´)」

ああ、先月胸を触った時の話か。
ただ胸の大きさを確認しただけだよ。
いかにも大げさに言うけど、美雪だって
寝てるふりをしてただけで起きてたんだろう。

狭いアパートで若い男女が一緒に暮らしてるんだ。
たまにはムラムラして気の迷いを起こす時はある。

だって相手が妹とはいえ、両親がいない男女二人だけの環境なんだぞ。
さすがに最後までヤッちまうほど俺はいかれてないよ。
おっぱいだけ触ってから、ちゃんと自分の布団に戻ったよ。

俺たちは両親が遅くまで銀行で働いていたから
自然と兄弟の仲が親密になっていったんだ。
しかもお互い恋人を作ったことは一度もないという
意外な共通点が。俺は狙ったわけじゃなくて
ただ単に女にモテないだけだが。

今だからはっきり言うよ。
美雪の顔は大好きだ。身内びいきだと思われるだろうが、
乃木坂46のメンバーと比べてもそんなに負けてないと思うぞ。

「あなた達は、いったいどんな関係なの!!
 普通の兄妹だったらそもそも同棲なんてするわけないわ!!」

「美雪だって嫌がってるそぶりはなかったぞ。
 むしろあいつの方が重度のブラコンじゃないか」

「あなたが私のことをどう思ってるのかさえ、
 今では怪しくなってきたわ」

「愛してるって何度も言ったじゃん」

「初めからおかしいと思ったのよ。
 美雪さんと一緒に引っ越すって話になった時も
 あなたは反対しなかった。初めは妹思いの
 優しいお兄さんなのかと思ったら、
 昨日のスーパーでも勃起してたじゃない!!」

あのさー。忘れそうになるけど、今仕事中なんだわ。
とっくに昼休み終わってるからね? ((゚Д゚)

もうね。全従業員が作業を中断してまで
俺たちをガン見してますよ。

色々とまずいので次の話の飛ぶぞ。

瞳「賢人は妹を女として愛している……?(; ・`д・´)」

※ ☆さかがーみ・ひとみん☆です。

ここまで腹が立つのは何年ぶりでしょうか。
あんなにも愛おしいと思った彼のことが
こんなに憎らしく思えるなんて。

これからワクワクドキドキの同棲生活が始まるかと思いきや、
彼はすでに妹さんのことを性的に意識していたことが明らかになった。

今でも信じられないわ。
彼には嘘だって否定してほしかったのに、あっさり肯定された!!

美雪は実の妹なんだよね? 
血の繋がってないとか、そんな裏設定はないはずよね!?
なのに男としての感情で愛してしまっているって、なにそれ!!

「あぎゃああああああああああああああああああああああああああ(>_<)」

私はこの怒りを彼にぶつけることにしたのです。
彼の腕を力いっぱい握ってやりました。
ただ握っただけですが。今の彼は地獄の苦しみと戦っていることでしょう。

なんと私の握力は、片手でリンゴを握りつぶせるほどなのです。
坂上家の娘を舐めないで下さい。

私の握力だけで
その辺の成人男性は再起不能にすることができると自負しています。

「ぽっぉぉおぉぉぉぉぉxぎゃだぁぁぁぁぁあぁぁあぁあああx」
「おれるぅぅうっぅぅぅXおれるうううううぅぅぅぅぅぅぅぅx」

まだ離してあげません。

ヒトミのこと愛してるって……あんなに言ったくせに。
本当に愛してるのは妹の美雪だったんだ!!

くやしい!! くやしい!!
私をずっと騙してたのなら、いっそこの人を殺してやる!!

「これは何の騒ぎなのだ!!」

いかつい主任が来てしまった。従業員の誰かが通報したのだろう。

「ぬぅ!?」

賢人は私が手を放してあげたので、床にへたり込みました。
涙と鼻水で汚れた顔で、主任へ助けを求めました。
そんな彼に対し、主任は一言「キモっ」と吐き捨てました。

「俺はぁ……嘘じゃなくて……本当に君のことが好きなんだぁ……」
「まだいうの。その口が開けなくなるまで痛めつけてあげましょうか!!」
「おぐっ……いyががふぁさdqふぇcwdさくぁsdfくぁえsくぁs」

私はアルコールスプレーの原液を彼の口の中につっこんであげました。
彼は激しくむせ、苦しさから逃れるために床を転げまわりました。
この作品は転げまわる人が本当に多いですよね。

「さ、サカガミ…」 唖然とする、主任。
「何があったのか知らないけど、その辺にしておきなよ」 止めに入る、かぐや姫
「最近の若い娘さんは乱暴になったよね」 穏やかな顔で語る、賢人の父。

あれ……? 違和感が。主任とかぐや姫(私と仲良し)は
同じ会社の人だからいいけど、賢人の父ってなに?

「やあ。また遊びに来ちゃったよ」

そう言って手を振る、中年太りの56歳の男性。
髪型はホリエモン。
名前はシブヤ・タクヤ。略してシブタク。よろしく。

「貴様は何者なのだ!!」

「おうっ。びっくりした。
 主任さんも声が大きいねー。僕は一応賢人の父だ。
 そして今日は三者面談をしにここに来たんだ」

「三者面談だと…ここは学校ではないのだぞ。
 しかも今は勤務中で部外者立ち入り禁止だ。
 部外者は尋問の末,銃殺刑が定番コースである」

「物騒なこと言わないでくれるかな? これでも
 坂上さんの旦那さんに入社許可証はもらってるんだけどね」

坂上栄一。私の父の名前で署名された許可証だ。
米軍特殊部隊で訓練されたと思われる、
筋骨たくましく角刈りの主任は最敬礼し、無礼をわびた。

「このフロアにいる、全従業員の諸君に告げる!!
 ただ今の時刻を持ち、ご覧の三名による三者面談が開始される!!
 諸君らは気にせず、いつも通り仕事に専念してほしい!! 以上だ!!」

ちょっと展開が早すぎてついていけないわ。
三者面談ってどこでするつもり?
会議室とかに移動すればいいの?

「移動するのが面倒だからここでいいじゃないか。
 こら賢人。ここに座りなさい」

賢人はめそめそ泣きながら絨毯の上に正座した。

「お父さんが何に対して怒ってるのか分かるかな?
 分かるんだったら当てて見なさい」

「俺が……俺が婚約者の瞳の気持ちを踏みにじったからです。
 俺がロリコンでシスコンの変態だったからです」

「そうだ。おまえは変態だ。そこが問題なんだ」

なんだか私のことは二の次みたいな言い方がひっかかる。

「ぶっちゃけお父さんは、おまえと瞳さんの
 婚約なんかどうでもいいんだよ」

どうでもいいの!?Σ(゚Д゚)

「美雪は私の大切な娘だ。どのくらい大切かと言うと、
 10億円する宝石よりも大切な存在なんだ。
 それをおまえは、おっぱいを触るだけじゃなくて
 おしりを触ったりしてただろう。美雪が洗い物をしてる時とか」

「う……なぜそれを……」

お尻まで触ってたのね。(; ・`д・´)
どうして彼は罪を素直に認めるのかしら。
しかも赤面してる。

「相手が妹じゃなかったら、おまえはとっくに犯罪者。
 断罪。死刑を求刑。判決。絞首刑。
 自分のしてたことの罪の重さが分かったか?」

「っせえ!! 親父だって……!!
 いや、やっぱりやめておくよ」

「途中で止めるのは若者特有の逃げだよね。
 言いたいことがあるなら、最後まで言ってみなさい」

「美雪が高校生の時、親父が脱衣所で美雪の脱いだ体操着の
 匂いを嗅いでたのを見たことがあるぞ!!」

体操着の匂い!?ヽ(^o^)丿 
まじかよ Σ(゚Д゚)
やべー (・´з`・)

近くの席の男性オペ陣がドン引きしてます。
中には、美雪さんってそんなに美人なのかよ、
顔見てみたい、なんて言ってるアホもいます。
この人達に飲みかけのペットボトルをぶん投げていいですか?

「まあスキンシップの一種だよね」
「あれのどこがスキンシップだ!!」

渋谷家って……まさかそっち系の家系なの?
てかこれのどこが三者面談なの?
私が話に参加してないんですけど。

「美雪には黙っておいてあげたけど、
 本人が知ったらショックだろうなぁ。
 もう二度と口を聞いてもらえないんじゃねえのか」

「大丈夫。美雪ならきっとわかってくれる。
  僕の米国株式も譲渡したばっかりだ」

株は関係ないんじゃ……

「親父。いつもいつも俺を見下して
 俺と美雪の仲を引き裂こうとしやがって。
 俺が今まで何回リビングでAVを上映されたか覚えてるのか?
 しかも美雪の見てる前でよぉ!!」

「7回くらい?」

「30回は超えてるよ!! しかもあれ俺の持ってるAVじゃねえ!!
 なんで女教師や人妻ものばっかりなんだよ!!
 俺は年上には興味ないって知ってるくせによぉ!!」

爆弾発言を聞いてしまいました。
今の彼は……? あるいは、その当時の彼は……? 
年上の女性には興味ないそうです。
私は彼より7歳も上なんですが (ノД`)・゜・。

「あれだけやっても美雪のブラコンが治らないんだから困ったもんだ」

「俺と美雪は真の意味で兄妹なんだ。偽物じゃない」

「美雪はお前に騙されてるだけなんだよ。
 父として早く目を覚ましてほしい」

「親父。嫉妬はみっともないぞ。
 親父には母さんがいるんだから我慢しろよ」

「僕は40過ぎの女にはあんまり興味ないんだよ。
 それに明美の性格は99%男性だよね。
 つまり女として意識するのは無理だ」

うわぁ……
 
「だいたい何が三者面談だ? ふざけんな!! 
 仕事が遅れると明日以降に響くんだよ!! 
 もういい!! くだらない茶番は終わりだ!!
 頭にきたから美雪に親父の悪事を全部ばらしてやる!!」

携帯に電話してるけど、美雪さんは八王子の大学に
通ってるのだから簡単には出てくれないと思うけど。

「はーい(=゚ω゚)ノ 私ならここにいるよ」

なんか、普通に出て来た。ここに。
つまりこの会社に。この部屋に。

「ペンタックに勤務している従業員のみなさーん
 (´ー`) 始めまして☆
 私が渋谷賢人の妹の、MI☆YU☆KI☆ 
 でーす(DEATH)!! (∩´∀`)∩」

ざわつきではなく、どよめきが発生しました!!
フロアにいる従業員30人分の視線が
一斉に美雪さんに集中します!!

もはやアイドル!!

(*・ω・)(;´・ω・)(*-ω-) ( ゚Д゚)(*-ω-)(;・∀・)

すげーかわいー!! 
明るい感じの子だな!!  
あの娘、女子大生なの? 
目元が渋谷君に似てるわ!!
若い子はうらやましいわー 
妹ちゃん、さいこー!!

「皆さんの前で宣言しようと思います。
 私と兄は兄妹ですが、なんと婚約することにしました!!(^o^)」

今度は沈黙に支配されました。
爆弾発言のレベルをはるかに超えた、
もはやソ連の戦略ロケット軍の攻撃を受けたかのごとく。

「兄弟で結婚ってやっぱり引かれちゃいますよね!!
 でも私は高校の時から同級生の偏見と闘ってきましたから
 慣れてるんですよね、エヘ('◇')ゞ 」

「最近は同性婚がようやく認められたりと、
 LGBT、世間の性的マイノリティに対する扱いはまだまだ厳しいです。
 それでもなお、私と兄は世間の偏見と真っ向から戦い、
 これからも幸せな関係を築いていこうと思っています(∩´∀`)∩」

「なぜなら私と兄の関係は、でき婚してすぐ離婚しちゃうような
 若者たちと違い、偽物じゃなく本物の信頼関係に
 よって結ばれているからです!! 
 私と賢人は、もはや兄妹の枠に収まりきるほどの
 関係ではありません。一歩前へ!! 
 その関係の一歩先に進むために…」

――私たちは結婚することにしたのです!!

※ニュースでよく聞く『LGBT』とは、
Lesbian(女性同性愛者)
Gay(男性同性愛者)
Bisexual(両性愛者)
Transgender(性別越境者)
の頭文字をとった単語で、
セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつです


誰か迫撃砲弾とか持ってないかしら。
できれば今すぐ美雪さんの脳みそごと粉砕してあげたい。

あと美雪さんの発言は、ここにいるバツイチのみんなに
喧嘩を売ってることに気づいているのかしら?
なんか、デキ婚してすぐ離婚する若者とかほざいていたけど、
まさにこの職場の女性の過半数が該当しているのよ。悲しいことに…。

「ひとつ質問があるわ!! (; ・`д・´)」
「なーに? ヒトミお姉さん (´ー`)」
「あなたは賢人にセクハラされたのは認めるのよね!?」
「そーだねぇ (´ー`)」

「妹としてどう思うの!? 
 夜寝てる時に体を触られたりしてなんとも思わないの!?」

「別に。兄だったら嫌じゃないですけど」

「嫌じゃないですって!?」

「うん。だってこれから夫婦になるんですから」

この言葉に渋谷家のパパは大泣きながら帰って行きました。
あの人、いい年して何しに来たんだろう……
うざいから早くモンゴルに旅立ってほしいのだけど。

それよりこの展開は何?
ギャグっぽい流れで最後は妹エンドで終わらせるつもりなの?
グリム童話のヘンゼルとグレーテルが元ネタ?
あの作品って近親相関が主題じゃないでしょ。
美男美女の兄弟って設定は渋谷家にも当てはまるけれど。

美雪「こうして私と兄はペンタックの従業員たちに
   祝福され、無事結ばれたのでした。終わり」

美雪「やっぱり…」

※みゆきさん

終わるわけがないよね。そろそろ終わるべきなのは、
みんなも分かってるとは思うんだけどね。
ぶっちゃけ兄と血がつながってなければ世間の冷たい風も
受けずに済むのになって何度も思いました。
たぶん千回くらい。

読者の皆さんも真剣に考えてみてください。
私と兄が、瞳と同棲する意味ありますか?

これ言うの何度目か分かりませんけど、
私と兄は同棲してうまくいってましたから。
ここでなぜ余計な人を招き入れるのか理解に苦しみます。

企業業績に何も問題がないのに米中摩擦と
ブレグジットの影響で下落が続く日経平均株価と同じですよ。

誰がどう考えても坂上瞳は邪魔者じゃないですかぁ(>_<)

「美雪。早く洗濯したいから、
 そろそろ俺のアンダーシャツ返してくれないか?」

私は兄の肌着の匂いを嗅いでいたのです。
会社帰りの兄が制服の中に来ていた服。
少しだけ汗ばんでいて、洗剤の匂いや体の匂いが混ざって
フェロモン全開なんです。

私は寝る前に必ず兄の衣服の匂いを嗅いでから寝ています。

少し昔の話をさせてください。
私が高校生の時は、こっそり脱衣所にある兄の服を手に取り、
くんくん嗅いでいました(。・ω・。)ノ

兄は学校から帰ったら、洗濯籠の中に
だらしなく服を脱ぎ捨てるのです。
ボタン付きのシャツやYシャツは、ボタンも閉めずに
そのまま放り捨てるものだから、匂いを嗅ぐのにはぴったりでした。

いつかばれる日がくるのかな?と思っていたら、
私がクンクンしてる時に兄が入って来てばったり。

『おまえ、さっきからなにしてんだ?』『見ればわかるでしょ?』

勉強の疲れを癒すための時間(癒しタイム)だと説明しました。
兄は全く納得してないようでしたが、兄の方も私が
中学生時によくセクハラしてきたので何も言い返せません。

『夜寝る時にさみしいから、パジャマの下に着るための
 お兄ちゃんの服をちょうだい』

私が高2の時でした。
お兄ちゃんはさすがに驚いていました。
当時の兄は20歳の大学生。若くてはつらつとしていて、
目がキラキラしていて、社畜になってしまった今とは違い、
男性として輝いていました。

『年明けにセーターをあげただろ』
『セーターとは別のが欲しいの。パーカーとかないの?』

私は兄の使用済みの服を、一週間くらい使ったら
洗濯してからちゃんと返しています。それでも兄は
いちいち私に服を渡すのが面倒になったみたいです。

『じゃあ、いっそこれでどうだ?』

兄は私のベッドに横になりました。ついにその時が来たのかと
思ったら、『添い寝を』してくれるとのこと。
イケメンの添い寝サービスって現実にもあるみたいですよ。

私の兄はイケメンだし、よその男と違って私のことを
心から理解してくれる優しい人です。だって
私が小さい時からわがままを何でも聞いてくれるんだもの。
困った時には助けてくれるし、私が体調の悪い時も
すぐに気が付いてくれるし、とにかくイケメンなのです。

私は心臓がバクバクうるさくてどうしようかと思いながら
賢人にうでまくらをしてもらいました。

『やっぱりお兄ちゃんの匂いって落ち着くぅ。癒し(*´ω`)』
『そんなに、いいものかねぇ(´∀`)』

腕の感触がすごくいいんです。
やっぱり男性の体はステキ。
当時は真冬だったので一緒の布団で丸くなり、
話す声は相手の耳元に届くほど近い距離です。

『お兄ちゃんはドキドキする?』
『あー、どうかだかな』

賢人はそっぽを向くけど、顔は赤くなっている。
私は知っていました。お兄ちゃんの硬くなったモノが
私の太ももに当たっていたことを。

お兄ちゃんも男性なんだね(´ー`)

もっとお兄ちゃんと一緒に居たい。
ぬくもりを感じていたい。
私の話を聞いてほしい。

そんな時に空気を読まずに私の部屋が空いて、

『ちょ…おまえら……Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン』

ママがドン引きしてるなど。よくある光景です。
ママは残業だったようです。
遅い時は今日のように11時過ぎに帰ることもあるのです。
今日はお酒臭いから同僚の人と飲んでから帰ったのかな。

『あー……ついに一緒の布団で寝るようになっちまったか。
 これじゃタックンが切れるわけだわ。
 おまえらさぁ。実の兄妹なのにそこまでラブラブだったら
 まじで結婚したほうが良いかもなぁ……(-_-;)』

『か、母さん。これは違うんだよ!!
 美雪がちょっと怖い映画を見たから
 夜一人で寝るのが寂しいからって』

『嘘つくなよ。目が泳いでるぞ。
 これ渡しておくよ( ・´ー・`)
 今日ドラッグストアで買ってきたんだ』

箱入りのコンドームをぶん投げられました。
恥ずかしかったのか、兄の顔が真っ赤になっています。

『あたしは別に気にしちゃいないけど、
 たっくんにばれないようにやれよ? 
 あたしはお風呂入って寝るから、おやすみ(つ∀-)』

(^o^)ノおやすみ。
ママが理解のある人で助かった。
大学時代にオーストラリアに留学したことがあって、
島国(日本)のカスみたいな常識にとらわれず、
国際的視点から幅広い価値観を共有するのがママの哲学。

向こうの国では男性はゲイばっかりだったそうなの。
あと性転換した人とか。性のマイノリティの人なんて
普通に見るから、近親相関が特別珍しいことじゃないみたい。

『か、母さんは全く何を言ってるんだか(*´Д`)
 美雪もそろそろ腕枕は十分だろ。
 俺は自分の部屋に戻って寝るからな!!』

『ちょ、待って!!』

あん。どうして逃げちゃうの。お母さんが認めてくれたのに。
その後、ママに遅れて帰宅したお父さんが、お兄ちゃんと口論していた。

なんかよく分からないこと言っていた。
お兄ちゃんが自分の汗臭い服を美雪の顔に押し付けて
私を匂いフェチとして洗脳してる? 
そのような事実は一切ございません。

私が好きだから嗅いでるだけなんだけどなぁ。
お父さんは何でもかんでもお兄ちゃんを悪者にしたがる癖がある。
お父さんのああいうところは男らしくないし、正直好きになれない。


「美雪。聞いてくれ」

私はハッとして現実に意識を戻しました。
回想シーンは終わりです。

「実は今日。会社でな」

お兄ちゃんは夕飯のチャーハンをスプーンですくっています。

「瞳と喧嘩した。理由は言わなくても分かるよな?」

そうだね。私がまいた種だもん。
私も現場にいたんだから、そんな説明をわざわざしなくても。

「瞳さんがご丁寧に書置きを残してくれたんだよ」

⇒私はしばらく家出します。探さないでください。

よく見たら玄関に貼ってあったんだね。
どうりであの女が帰ってこないわけだ。
でもちょうどいいじゃん。これでお兄ちゃんと奴の
婚約の話は破談になったってことで。

「お兄ちゃん。私と結婚して (≧∇≦)」
「ああ (-_-) いいよ」

「え (´・ω・`)????」(絶対断られると思ったのに)

「なんかそれでいいような気がしてきた。
 今日の昼にさ、瞳さんに思いっきり腕を
 握られちゃってさ。今すぐ病院に行きたいくらい痛むんだよ」

お兄ちゃんの腕はポパイのように大きくなっています。
素人目にも直ちに整形外科で診察を受けたほうが良いレベルです。
その腕でよく肌着を脱げたね。

「やっぱ三人で住むとか初めから無理ゲーだろ。
 結果的に俺が瞳さんを騙すような感じになっちまって
 ばつが悪い。それとあの人ってキレるとかなり怖いな。
 ヒトミさんは令嬢だから一人でも生きていけるけど、
 俺にはお前が必要だ。それにお前だって俺がいないとだめだろ?」

「お兄ちゃん……」

お兄ちゃんはなぜか上半身裸になり、
そこそこ鍛えられた腕で私を抱いてくれました。
こんなに近くで賢人を感じたのっていつ以来だろ。

ごめんなさい嘘です。先月も普通に添い寝とかしてました。

「美雪」

兄は私の前髪をかき分けて、おでこにキスをしました。
私はとっくにお風呂をすませていて、すっぴんです。

私は腕にギュッと力を込めて、賢人に密着しました。
そして上目づかいで

「賢人。私はあなたのことが好き」
「美雪…」
「お願い。私を選んで。一緒に幸せになろ?」
「いいよ。美雪。俺もお前のことを愛してる」

(*´ε`*)チュッチュ (*´ε`*)チュッチュ (*´ε`*)チュッチュ

私達は軽いキスを何度も繰り返しました。
唇と唇が触れ合う程度です。

彼の低い声を耳元で感じるだけで、体中が熱くなるの。
告白する時の彼の真剣なまなざし(´∀`*)ポッ

このキスシーンのあと、エンだぁぁあああああああああぁぁぁ イヤァァ!!

になるのかと思ったら(*´Д`)(*´ω`)(;´∀`)……

そうは問屋が卸さない!!!!!!!!!!!


「やっぱり許せないから戻って来ちゃったわ(# ゚Д゚)」

怒りのひとみん(行き遅れ32歳)襲来。
エヴァ出撃。初号機暴走。大問題です。

ひとみが放つ、手加減なしのボディブローが、
私の大切なお兄ちゃんのわき腹に直撃。

「ごほぁぁぁぁ(>_<)」

兄は壁まで吹っ飛ばされ、力なく崩れ落ちました。

( ゚Д゚)ゴフッ (>_<)オエー

嘘……お兄ちゃんが血を吐いてる!!
 これってギャグじゃないの!!

「みゆき(>_<)……はやく病院へ……みゆ……ごはぁ…(゚Д゚)」

お兄ちゃんが、
また吐血しました。

こんだけ血を吐いてるのによく意識を保っていられるね。
大量出血した場合は、脳の酸素濃度が低下して頭がぼーっとするらしいよ。

それにしてもこの破壊力、笑えない。
瞳の拳ってこんなに強いの?
プロボクサー並みの破壊力なんだけど。
もしかしたら兄のろっ骨が折れてるのかもしれない。

「加減はしたから骨に異常はないはずよ(; ・`д・´)」

あれで手加減してたの?
まさかこの女ってものすごく強いんじゃ…。

私は相手の力を試す意味もあり、
姿勢を低くして奴に急接近しました。

「遅い」
「ぐふ(>_<)」

私は、なんと首を真正面からつかまれてしまいました。
そのまま壁際まで移動し、壁へ体を叩きつけられました。

背骨がきしむほど、(^ε^)-☆ 『痛い』です…
団地の壁はそんなに頑丈じゃないんだから壊れちゃうよ。

この女の腕力はプロレスラー並み…。
私は瞳に恐れをなし、その場から動けなくなりました。

「けんとくぅん(*^▽^*) 私とお話しましょ(。・ω・。)ノ♡」

「ひ、ひぃ。くるなぁあぁぁ!!Σ(゚Д゚)」

お兄ちゃんは玄関の外へ引きずられていきました。
その3秒後、「いだdぁdぁあぁぁだsだだだだsぁぁぁぁぁぁぁぁだっだs」
お兄ちゃんの断末魔の叫びが聞こえてきました。
近所迷惑なんてレベルじゃないよ。夜の11時過ぎなんですけど。

ズドン。と何かが振り下ろされる音。そして兄の悲鳴。
この繰り返しが三度行われた後、先ほどまでの騒ぎが
嘘みたいに静かになりました。

玄関が再び開き、ぼろ雑巾のようになった兄が
その場で倒れ込んでいます。

「あぁすっきりした。今日はもう遅いから寝ましょ(*^▽^*)
 2人とも、おやすみなさい(^o^)ノ <」

瞳さんは何事もなかったかのように自分の部屋で寝てしまったようです。
私と兄はどうしたらいいか分からず、しばらく震えていたのですが、
兄がとりあえず寝ようと言うので、私も一緒に寝ることにしました。

一緒に寝たらまずいって?
だって一緒に寝ないと兄が明日までに死んじゃいそうじゃないですか。
玄関の外でどんなお仕置きをされたのか知りませんけど、今の兄の顔、
ヒットポイントが残り3のホイミスライムみたいですよ。

私は弱り切った兄の体を抱き、互いの体温を感じながら朝を迎えました。

賢人「俺は瞳さんの奴隷になってしまった(>_<)」

その次の日の浅田。じゃなくて朝だ。このパソコンの返還どうなってんのよ。
変換だった。マジクソだな。北方四島返還の話がしたいんじゃねえんだよ俺はよ。

「おはよう、あなた(*^▽^*)」

「……あなた?」

「賢人は私の夫なんだから、あなた。
 何かおかしいこと言ったかしら?」

俺は瞳さんに暴力を振るわれたばかりなので、
できれば距離を置きたい。しかし彼女に逆らったら
ボディに重い一撃を食らうだろう。

「ひ、瞳。今日も一段と綺麗だね(;´∀`)」
「あら本当? うれしいわ(*^▽^*)」

なんでつまらない世辞を言ってしまったのか。
瞳が美しいのは全人類共通の認識なのだから今更だが。
マジで瞳を見てブスだと称するアホがこの世にいるのだろうか。

「でも私ね。今朝はまだお化粧してないの。
 それなのに本当に綺麗だと思った?」

「はい? あ、ああ。だって瞳さんは綺麗だよ。
 すっぴんでも全然その辺の女よりは美人さ」

「美雪さんよりも綺麗だと思った?」

「なんでそこで美雪の名前が」

「美雪さんよりも綺麗かって聞いたんだけど」

「いや、別に美雪は関係ないと思うんだけど」

「答えてよ」

「あの」

「いいから答えてよ!!!!」

あまりにも急に怒鳴るから腰を抜かしそうになった。
しかもマジギレしてる時の顔だからやべえぞ。
俺は心臓をわしづかみにされるほどの恐怖に耐えながら口を開く。

「俺は瞳の方が好みだ。君の顔って小顔だし色白だし、
 まつ毛も長くて顔全体が若々しい。目元も美しい。
 いつまでも眺めていたくなるくらい愛らしくて、素敵だよ」

「ふーん(* ̄- ̄)」

瞳は少しだけ口角を上げたが、黙って俺の言葉を待っている。
なんだこの妙な間は? もっと褒めてみるか。

「お、おおおお、俺は前も言ったが、瞳のことが好きだぁ!!
  好きで好きでたまらないんだぁ!! 昨日ことは反省してる。
  これからは瞳を不安にさせたりなんてしない。
  君のことだけを愛すると誓うよ!!」

「あはは(^○^) 口ではなんとでも言えるものね」

「嘘じゃない!! 本当に君のことを愛してるんだぁ!!」

「(* ̄▽ ̄)フフフッ♪ そんなに脅えて言っても説得力がないわ。
 でも私のこと褒めてくれたから今日は許してあげる」

さっきまでの凄まじい殺気が少し収まったようだ。
朝からチビッたのがばれてなければいいが。

「朝ごはんのついでのお弁当作っちゃいましょうか。
 今日から私が賢人君の分も作ってあげるからね(*^▽^*)」

「(´・ω`・)エッ?」

「なにその顔は?(# ゚Д゚)」

「なんでもないよ!!Σ(゚Д゚)」

美雪と喧嘩になる確率100%だぞ。

美雪は俺の服の匂いを嗅ぐのが好きな変態だが、
それと同じくらい俺にお弁当を作るのを生きがいにしていたんだ。
女ってのは、好きな男にそんなに手料理を食べてもらいたいものなのかね。

お昼の挨拶メールでお弁当の出来を
褒めてあげるとポイント高いぞ。
今の瞳さんほどじゃないが、美雪が生理前で
ピリピリしてる時は褒めるコミュニケーションを
増やすことで良好な関係を築けるがコツだ。

瞳さんはいつの間に揃えたのか、
炊飯器のご飯をお弁当箱に詰めて冷ましている。
お買い得だったのであろう、安そうな
冷凍食品を次々に電子レンジで温めていく。

瞳さんって本当に高い食材には手を出さないんだな。
庶民派のところはすごく好感度高いんだけど…

これもいつの間に買ったのか、冷蔵庫の中にある
野菜コーナーからレタスを取り出し、水道水で洗い流している。

ほんといつの間に家電製品が増えていたんだ。
今までの話を読み返しても買いに行くタイミングはなかったと思うのに。
どんだけ適当なんだよこの小説。あと誤字脱字も多すぎるぞ。いい加減にしろ。

「完成(*^▽^*)」
「わー。お昼が待ち遠しいな(;´∀`)」

遅れて起きた美雪(俺と瞳さんは朝5時半起き。
美雪は6時。決して遅くはない)が、

俺用に用意されたお弁当を見て一瞬だけ怖い目をした。
寝起きだから余計に顔が怖いよ…。

「そのお弁当は、瞳さんが自分で二個食べるってことだよね?
 お兄ちゃんのは私が今から作ってあげる(^○^)」

「(# ゚Д゚)」コノ クソガキ……

この空気、やべえ……((((;゚Д゚)))) 

今日から☆修羅場のモーニングサービス☆始めました。
冗談言ってる場合じぇねえけど

「お兄ちゃんは毎回私のお弁当を残さず食べてくれるもん。
 私はお兄ちゃんの嫌いなおかずは入れないようにしてるし、
 栄養バランスもしっかり考えてるからね」

「(# ゚Д゚)」ハァ?…

「つい最近同居するようになった赤の他人には、
 お兄ちゃんの味の好みまで知ってるわけないよね。
 そんなお弁当をお兄ちゃんが食べるわけないんだから
 作るだけ無駄だってことに気づかないのかな」

「美雪。殺す。殺す。殺す。殺してやる小娘。殺してやる」


(゚д゚)!今のは瞳が言ったのか…?

「そこで小声で念仏を唱えている人、大丈夫ですか? 主に頭が」

「あら、ごめんなさい(*^▽^*) 私ったら今何か言ったかしら?」

「……空耳だったみたいです。私の方こそごめんなさい。
 まだ目が完全に覚めてなかったみたいです」

この時の二人の発するプレッシャーは、もはや形容し難い。
美雪は一触即発の状態を想定して包丁を右手で握りしめていた。
瞳は限界まで握りしめた拳に、爪が食い込んで血が出ていた。

ここで戦闘が開始されれば、互いにただでは済まないと察し、
表面上は和解することにしたのだ。団地での朝のひと時が、
もはや米朝首脳会談をほうふつとさせるほどの緊張感に包まれていた。

俺は二人分の弁当を手提げバッグに入れて、玄関を出た。
今日も平日の火曜日。朝から夜遅くまで仕事なのだ。
それにしてもなんつー不自然なバッグだよ。
二個も弁当入れてるから不自然に膨れてるし、それなりに重いぞ。

「賢人のお腹の調子は大丈夫なのかしら」
「ギャグ小説の設定だから完治してるよ」
「そんな設定があったのね(*^▽^*)それは都合が良いわ」

(´・ω`・)エッ?

「だってそうでしょ? 一晩寝れば回復するなら」

――何度でもあなたにお仕置きしてあげられるわ。

俺は腰が抜けてしまい倒れ込んでしまう。

「(´∀`*)ウフフ おびえなくていいのよ。賢人は私の夫。
 夫婦はパートナーよ。これからどんな問題が
 あっても二人で乗り越えて行かなきゃ。ね、賢人もそう思うでしょ?」

「はは……そうだよね。瞳さんの言う通りだ」

「あなたは私の夫。そして私はあなたの妻。そうよね?」

「そうですっ」

「じゃあ美雪さんは?」

俺は本能で察した。

ここで返答を謝れば、確実に制裁(腹パン)される。

「俺の妹。ただの妹。まったくもってそれだけです」

「(´∀`*)ウフフ そうそう。物分かりが良くなったのね」

「昨日も言ったろ? 俺は瞳さんのことを愛してるんだから」

「(´∀`*)ウフフ それでいいのよ。じゃあ次は私への愛を証明しなさい」

「えっと……(;゚Д゚) どうやって証明しようか」

「( ・´ー・`)簡単よ。本当に私だけを愛しているなら」

――そのお弁当を道端に捨てなさい。

俺は、聞き間違えであればどれだけ良かったかと思った。
ダッシュ(―)を使う部分は重要なセリフだ。

つまり聞き間違えなんてありえねえ。
俺の妹が作ってくれたお弁当を……道端に捨てる……だと?

さすがにこれだけは譲れねえ。
トランプの核施設の全面的廃棄の要求に対して
歯向かう金ジョウン朝鮮労働党委員長の気分だ。

「美雪はただの妹だけど、(;・∀・)
 一生懸命作ってくれたお弁当に違いない。
 それに今は不景気だし、食べ物を捨てちゃうのは、
 もったいないかなぁと(゚Д゚;)」

「だからなに? 最初に作ったのは私なんだけど」

「いやでも(;'∀')」

「最初に作ったのは私よね?」

ここですごい殺気を感じ、俺の全身の毛が逆立つほどだった。
逆らったらヤバイ。ひとみの目つきもヤバい。なんて怖い目だ。

「はい。そうです」

「なら、私のを優先しなさい」

なんて高圧的な態度だ。ただの怖い姉じゃないか。
俺の友達で姉がいても怖いだけでメリットがないとか
言ってる奴がいたが、今なら気持ちが分かるぜ。

俺はお弁当を持ち(;´・ω・)ぷるぷる震えていた。
明らかに挙動不審だが、この状況に立たされたら
誰だってこうなると思うよ。

「もたもたしないで。早く捨てなさい」

「あのっ!!(;゚Д゚) 誓って俺は瞳を怒らせるつもりはないんだ。
 でも今は消費税率34%の社会だ。こんな貧しい世の中で
 食べ物を捨てるってのはあんまりにも……」

パァン。
俺は(>_<) 顔が真横を向いていたので
何が起きたのかと思った。ほっぺたがヒリヒリする。
ビンタされたのか。耳のあたりをぶたれてせいで耳鳴りがすごい。

「どうやらあなたは、日本語が理解できないお馬鹿さんのようね」

あ……。あ……。( ゚Д゚)

「私が捨ててほしいって言ったの!!」

「ごめ…」

「夫婦だったら妻がどれだけ嫌な思いをしたのか
 察してよ!! 私の気持ちを分かってよ!!
 そんなに美雪のことが大切!?
 貴方が!! あんな女が作ったお弁当を大切そうに持ってるだけで
 私がどれだけ嫌な思いをしてるか察してよ!!
 私の気持ちを分かってよ!! 
 ぶたれて痛かった? 私の気持ちはもっと痛いんだよ!!」

まさにマシンガン。俺には言い返すタイミングが見つからない。

思い出したぞ。付き合う前の瞳さんと喧嘩?した時も
こんな感じだった。この人が俺と美雪に6話くらいでキスを迫った時があっただろ?
あの時にもしや…と思ったんだが、この人って潜在的なヒステリー持ちなのか?

瞳さんは俺の制服の襟をつかんだまま、ギャーギャーわめいている。
俺は彼女と視線を合わせたくないんだが、真面目に話を聞いてるふりを
しないとまたビンタされそうだ。実は瞳さんも自分で何を言ってるのか
分かってないんじゃないのだろうか。

つーかこの人どんだけストレスを貯めこんでるの。
表面上はおとなしく見える女性ほど実は怖いんだな。
この人のお母さんも暴力制裁を好むらしいが、娘にも
その遺伝子がしっかり引き継がれてるよクソが。

「こんなつまらないことで朝からイライラさせないでよ!!
 仕事にまで影響出ちゃうわ!!
 ほら。どうするの。捨てるの。捨てないの?」

普段は分別があって優しいお嬢様にしか見えなかったが、
人間一緒に住んでみると隠された部分が明らかになるものだ。

「すみません。すみません。今すぐ捨てます」

美雪……(m´・ω・`)m ゴメンヨ…

大切な妹のお弁当を捨てる日が来るとは……。
お弁当を街路樹の近くに放り投げた。
犬や猫が拾えば餌代わりにはなるかな。

もしくは貧しい子供たちに拾ってもらいたい。
栄養バランスは保障するよ。

俺が捨てたのが分かると、瞳さんは嘘みたいに機嫌が良くなった。

「あははー(*^▽^*) さっきはごめんね?
 ひどいこと言っちゃって。なんか賢人が妹の作った
 生ごみを大切そうに持ってたからさぁ」

「あ、あはは。おれの方こそごめんね(;^ω^)」

な、生ごみだと(#^ω^) 
あの子だって早起きして作ってくれてるんだ。
さすがに言って良いことと悪いことがある。

「今朝本当は美雪のこと刺し殺してやろうとかと思ったんだけど、
 向こうもマジで警戒してたからやめてあげたの。
 それにあれでも一応賢人の実の妹だから
 あれが死んだら賢人も悲しむかなって思って」

冗談じゃなくてマジで言ってるから困る。
早めに警察に通報したほうが良いんだろうか。
なんで母さんは俺たちの同棲を提案したんだよ。
むしろ母さんを恨みたくなってきた。

「賢人どうしたの? こっち来て腕組んでよ。
 妹にはしてたわよね。私にはできないの?」

今の精神状態でこんな暴力女と腕組みして歩くのは不可能だ。
だが逆らうわけにいかない。怒りでゆがんだ瞳の表情は、
もはや形容しがたい。密着して歩いていると、
俺の制服の腕に彼女の柔らかい髪の毛がそっと触れるのだった。

こんな時に考えることじゃないんだろうが、なんて綺麗な髪質だ…。
これで性格がまともだったら…

「ほんとムカつくよねーあの妹(*^▽^*)」

「迷惑ばっかりかけてごめんね。
 美雪は昔から口が悪くってさぁ(・ω・)」

「ほんと何様のつもりなんだろうね。
 私と賢人の婚約を邪魔しやがって。
 次ふざけた真似したらぶち殺してやる」

朝からする会話じゃねえ。
彼女の怒りのオーラが電流のように感じられ、俺の胃を圧迫する。
警察の尋問のがマシじゃなか。

「美雪も困ったやつだよね。
 あいつのブラコンも早く卒業させてあげないとね(;´∀`)
 あの年ならすぐイイ男見つけられるだろ」

「ブラコン?」

「え、ああ。ブラコンって言ったんだけど」

「そういうあなたはシスコンじゃない」

「俺は……その……」

「昨夜はお夕飯の時間に美雪さんの告白を
 受け入れてたように見えたわ。最高に不愉快。
 あれ、なんのつもりだったの? 
 ギャグ? それとも私の見間違え?」

「あれは俺の中では終わったことになってるんだけどなぁ。
 俺は瞳と夫婦になるんだから、もうどうでも」

「だめだめ。全然よくないよ」

「え」

「あとで美雪にきちんと言っておきなさいね。
 気持ち悪いから俺の前で彼女面するのはやめろって。
 そうしないとあの子ったらいつまでも
 兄に執着して生きることになるわよ。
 それで将来婚期を逃したらあの子のためにならないわ」

「美雪は一応成人してるし、美雪の人生なんだから
 ある程度はあの子の自由にさせていいんじゃないのか。
 俺が下手に冷たくしても自殺未遂に繋がるし、逆効果だと思うんだ」

「だめだめ。そんなの全然ダメ。妹に甘すぎ。
 あっそうか。賢人は口では私に愛してると言うけど、
 やっぱりそれは嘘で、本心ではあの子のこと愛してるんだもんね。
 だからお尻とか触るんでしょ?」

「……もうしません(>_<)」

「妹に性的嫌がらせをするなんて前代未聞。
 人として恥ずかしいと思わないの?
 妹だから言うことを聞かせたいと思ったんでしょ。
 異常性欲。変態シスコン野郎。ド変態。最低」

「あいつは俺のした行為を嫌がってなかったのですが。
 当該者が嫌がってないことはハラスメントの定義に含まれませんし、
 スキンシップとすることも可能です。
 それにあいつも俺の服の匂いを嗅いでたんだけど…」

「それはいいわけよ。そうやって言い訳をしたら
 何でも許されると思ってるの?
 あなたは犯罪をして警察に捕まっても
 同じ言い訳をするつもりなの?
 それは大人として正しいことをしてるといえるの?」

「犯罪は、また話が違うんじゃ…」

「同じことよ!!」

「瞳さん。冷静になって聞いてくれ。
 今の瞳さんは今までのストレスが蓄積して気が立っているんだよ」

「ええ。そうかもしれないわ。
 そもそも誰のせいでこうなったと思ってるのよ!!
 全部あなたのせいじゃない!! そうでしょ!?」

「だから、謝ってるじゃないか」

「だったら私を不安にさせないって約束してよ!!
 あなたが嘘つきだから悪いのよ!! 何が愛してるよ!!
 口から出まかせばっかり言って私を騙して!!
 私の見てないところで妹とイチャついて!! 
 自分で最低だと思わないの!!」

だめだ……(;´・ω・)
いつまで続くんだよこの警察の尋問みたいな会話(>_<)
女は根に持つ生き物だ。
この人と結婚したら死ぬまで妹ネタでいびられることは確実だ。

ここは金融関係で勤めた経験を生かして損切りをさせてもらおう。

「……もう限界だから正直に話すね。
 やっぱり俺は美雪を愛しているんだよ。
 こんな話をするとヒトミさんを振ったみたいに
 なっちゃうけど、今思うと母さんはこれを
 見越して三人暮らしを…」

「なに? よく聞こえない」

「俺は妹のことを、大切なパートナーとして」

「だから聞こえない。もっと大きな声で言って」

「……君とはこれ以上付き合えないんだよ!!
 いつまでも妹のことを蒸し返されて俺の方だって不愉快だよ!!
 それに何度も謝ってるのに全然許してくれ…」

「待って。それ以上続けたらあなたを銃殺刑にする」

「じゅうさ…え?」

「今私を振ろうとしたでしょ。 
 そんなの絶対に認めないし、許さないから。
 私のパパに頼んであなたを銃殺刑にしてあげる。
 なんなら今朝の朝礼で銃殺にしてあげてもいいわ」

「君は……本気で言っているのか?」

「嘘だと思う?」

「まるで別人……。
 今までの優しかった坂上瞳はどこへ消えたんだ? 
 君は二重人格じゃなくて本物の坂上瞳なのか?」

「私は変わってしまったのよ。本当なら貴方なんて
 捨てて、婚約はなかったことにすればそれで終わり。
 でもくやしくて。なんだか美雪に負けた気がして
 自分が許せなくなったの」

「それが家出からすぐ戻ってきた理由か。
 俺に執着する価値はない。俺にはなんの魅力もない。
 ただの平凡な底辺労働者だ。君みたいに
 社長令嬢じゃなくただの庶民だ。釣り合ってない」

「いいえ。あなたは私から見て十分にステキな男性よ。
 私を情熱的に抱きしめて、愛してるって言ってくれた」

「あれは、なかったことにしてくると助かるよ」

「いいえ。そんなことは不可能よ。
 だってもう言ってしまったのだから」

「言ってしまったら取り消せないってか。
 小学生みたいな理屈じゃないか」

「私にとっては大切なことなのよ。
 運命の人はこの人なんだって感じたから」

「勘違いだよ」

「勘違いじゃないわ」

俺は直感で感じた。この人は32歳で俺より年上だけど
恋愛経験が全くないのだ。付き合った相手と縁がなかったと思えば
早めに終わりにして次の相手を見つけるのが普通だ。

そもそも美人で独身なら、まだまだ男は寄ってくることだろう。
俺みたいな底辺労働者、
時給210円よりまともな男は大勢存在するはずだ。

少女漫画の主人公のように初めて好きになった相手と
結ばれたいと盲目的に信じ込んでしまっている。
この点では美雪とそんなに変わらない。

やっぱり人間は年齢に応じた幅広い経験をしないと
浅い人間になってしまうのだ。
俺も恋愛経験ないから偉そうなことは言えないが。

「瞳さんの主張は十分伝わったよ。
 でも俺にも気持ちの整理がしたいんだ。
 せめて家に帰るまで時間がほしい」

「そんな時間の余裕はないわ。今ここで神様の前で
 宣言して。私と婚約して夫婦として一生を過ごすと」

神様ってどこにいるんだ? 空か宇宙か?
俺はクリスチャンじゃないので作法が分からないけど、
両眼を閉じ、胸に手を当てて宙を仰いだ。

「……誓ったよ。これで満足した?」

「次は妹へメールして。俺にべたべたしてくるなよ。
 キモイって。お弁当を捨てたことも報告しなさい」

もはや子供の喧嘩のレベルだ。
だが瞳の精神状態は普通じゃない。今はいつもの
お嬢様っぽい口調に戻ったが、少しでも機嫌を損ねたら
またいつヒステリーが発動することか。

俺は、言われた通りの文面を美雪にメールした。
もちろんあいつは俺の本心じゃないって理解していることだろう。
だから余計な心配はしていない。お弁当の件はやりすぎだが。

「あんまり妹、妹って、妹の話をしないでよ。
 あの子の話をされると不愉快なのよ」

先に美雪の話をしてきたのは、そっちだろうが!!


そんなこんなで会社に着いた。
俺らの部署の朝礼で、またしても衝撃的な事実が明らかになる。

「労働者の諸君!!」 

いつもの角刈り野郎(主任)だ。
そんなにでかい声出さなくても30人しかここにはいねえよ。

「これは仕事とは直接関係ないことではあるが、
 諸君らも大いに気になっていることであろうと思われる。
 したがって今から結果を報告する!!」

「先日坂上瞳と渋谷賢人をめぐる関係によって
 三者面談が行われた。途中でシブヤの妹が乱入したことによって
 話し合いは大いに混乱した。そこまでは諸君らも知っての通りだ。
 その結果なのだが、坂上瞳と渋谷賢人は婚約者でなく
 もはや夫婦に限りなく近い存在となった!!」

またみんなの前で報告をΣ(゚Д゚) 
いつものパターンなのでそろそろ慣れてきたぞ。

「主任殿。質問があります!!」 
「よろしい。述べてみよ」

でかい声の女だな。
って……質問したの、家具ちゃんじゃねえかΣ(゚Д゚)

「主任のただ今の報告は、先日渋谷美雪さんが
 話した内容と矛盾していると言わざるを得ません!!
 なぜなら美雪さんは賢人君と正式に結婚すると
 勝利宣言をしていたからです!!」

「うむ!! 当然の疑問である!!
 私の口から説明するのは当然の義務だ!!
 先日の美雪さんの宣言だが……あれはすなわち!!」

――ただのフェイク・ニュースだ。

主任は真顔だったぞ。色々おかしくねえか?
昨日の職場の雰囲気は、俺と美雪の関係を
微笑ましく思っている感じだったんだぞ。

主任は何者かの圧力によって無理やり俺と
瞳さんをくっつけようとしている…?
何者かってのは当然瞳さんだろうな。

「労働者のみなさん」

瞳さん……? なぜ主任の横に立っている。

「さきほど主任殿が報告してくれた通り、私と渋谷君が
 結婚するのは事実です。現に私のお父さん、つまり
 この会社の社長閣下が認めてくださいました」

……社長が?(; ・`д・´)

「会社の社長殿のご意思に逆らうことの愚かしさを
 みなさんは知らないわけではないでしょう。
 この事実を否定する人がいるとは思えませんが、
 万が一私と渋谷賢人君の関係を認めない人がいる場合は
 やむを得ません。そういう人は」

――過酷な拷問の末、銃殺刑にします。

(;´∀`) うそー。

俺らの関係を否定するだけでそこまでする……?
瞳さんって実は学園生活の高野ミウちゃんだったの?
生徒会選挙の時のミウちゃんにセリフがそっくりなんだが。

この人、つい最近まで美雪にいじめられてる可愛いキャラだったのに。
(・∀・) たった数話でここまでキャラ変わる?
(゚д゚) 嘘……私のキャラ、変わり過ぎ!?

あとこの小説、長く続きすぎだから第二シーズンに突入していいか?


                      第二シーズンに続く

令和10年。財政破綻と強制労働と若い兄妹の絆の物語

令和10年。財政破綻と強制労働と若い兄妹の絆の物語

人類禁断の恋愛である「兄妹愛」を基軸に、 自民党が暴走した資本主義社会を生き延びる物語である。 消費税34%。時給210円の世界で働く主人公・渋谷賢人(ケント) 妹の美雪。賢人のあこがれの同僚・坂上瞳さん。この三名が絡み合う、 複雑怪奇な恋愛だと主張したいが、書いてみたらあんまり複雑にならなかった。

  • 小説
  • 長編
  • 恋愛
  • サスペンス
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-04-27

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著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 仮投稿 推敲はあとで
  2. あらすじ その②
  3. あらすじ その③
  4. ここから始まる★本編★
  5. 5
  6. お昼休みのチャイムが鳴る。
  7. 2017年まで大塚家具の利益剰余金はかなりの額だった。
  8. 会社の掲示板には 銃殺刑になった人のリスト
  9. 坂上瞳は自己評価が低いことで有名な美女だ
  10. シブヤ美雪は切れると結構怖いのだ
  11. 坂上瞳「私が会社でハブられる?」
  12. 賢人「美雪が自殺未遂をした?」
  13. 美雪「お兄ちゃんが変態になった?」
  14. 美雪の父「美雪は可愛いなぁ」
  15. 坂上瞳「賢人君がセクハラで逮捕された?」
  16. 美雪「ヒトミさんを食べちゃいたいです」 ヒトミ「ひぃ!!」
  17. 主任「なんだと!? 渋谷賢人の借金が2兆円!?」
  18. 美雪「私はお兄ちゃんを見捨てたりしないから」
  19. こんばんわ。坂上瞳です
  20. こんばんわ。またしても私
  21. 愛とは何か? お金も愛である。
  22. 美雪「お兄ちゃん。貯金ってどうやってするの?(⋈◍>◡<◍)。✧♡
  23. 瞳「やっぱり終わってませんでした…(>_<)」
  24. 瞳「賢人おにいちゃん、貯金ってどうやってするの(。・ω・。)ノ♡」
  25. 瞳のママ「娘のレオパレス21が燃えたですって!?」
  26. 美雪「紹介しますね。私の夫の賢人です(^O^)/」 賢人「なっ…(´゚д゚`)」
  27. 賢人「俺はイスラム教徒じゃねえんだ(~_~メ)」
  28. 美雪「Σ(゚Д゚)外貨預金って意味ないんだ…」
  29. 賢人「俺が妹と瞳さんと三人で暮らすことになった!?Σ(゚Д゚)」
  30. 瞳「美雪さんがうざすぎて困っています°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」
  31. 瞳「賢人は妹を女として愛している……?(; ・`д・´)」
  32. 美雪「やっぱり…」
  33. 賢人「俺は瞳さんの奴隷になってしまった(>_<)」