TOKIの庶民記『いなり神達の小さな神話』(R元年執筆)

ごぼうかえる

TOKIの庶民記『いなり神達の小さな神話』(R元年執筆)
  1. 4月
  2. 5月
  3. 6月
  4. 7月

稲荷神達の間で流行っている信仰心を競う遊び、稲荷ランキング下位の落ちこぼれ稲荷神達が団結して上位に食い込む決断をする!
ゆるく、のんびり進む日常のようなお話です。

4月

四月。
寒い日と暖かい日が交互に来るそんな時期。桜が舞う中を入学式の子供達が通る。
ここは河川敷で川に映るように桜が植わっており桜のトンネルが長く続いていた。
「はあー、お花見はいいねー。なごむねー。風が強いけど」
実は強風の中、いなり寿司をモグモグ食べながら花見をしている神がいた。
見た目は中高生くらいの女の子。
しかし、彼女は現代にはあまりいない着物でお花見をしていた。
頭にはピエロがかぶる帽子のようなものをかぶっている。パッと見て異様な姿だが河川敷を歩く人々には見えていないのか目線をうつすことなく去っていく。
「ウカちゃん、おまたせー!」
ふと、袴姿の青年が柔らかい笑みを浮かべながら少女に近づいてきた。少女はウカちゃんと言うらしい。
「あー、ミタマ君やっときたね。遅いからいなり寿司かなり食べちゃったよ」
「あー!ほとんどないじゃないかあ!!」
ミタマ君と呼ばれた若い男は悲しそうな顔でうなだれた。
ミタマ君は袴姿で頭にはナイトキャップを被っているというとてつもなく違和感がある格好をしていた。
「しかし、最近、稲荷神に帽子が流行っているとはいえ、ミタマ君のそれはなんだか変だよー」
ウカはクスクスと笑っていた。
「いやいや、ウカちゃんのそれは何?どこで見つけたの?それ」
同じくミタマはウカのピエロ帽子を見てゲラゲラ笑っていた。
正直に言えばどっちもどっちだ。
「もういいよ!とりあえず桜見よう!稲荷クラブ専用の花見でふたりしかいないってなに?」
ウカは頭を抱えてため息をついた。
「イナは来るよ。そう言ってた。リガノも来るらしいけど……」
「遅いねー。寒いんだけど。風強いし……」
どうやらこの河川敷の脇でいなり寿司を広げて花見をしているのは稲荷神達のようだ。
稲荷神の本家は伏見にいらっしゃるが彼らはそれではなく、地方に沢山ある『人間により効果がプラスされた伏見の稲荷とは違う稲荷様』らしい。元を辿れば同じになるが。
稲荷神は人間には見えない。故にどれだけ変でも問題はない。
「じゃーん!イナだよー!!おまたせー!花見!花見!お寿司ー!あれー!?全然なーい!ガーン!!」
しばらくして現れたのは巾着のような変な帽子に羽織袴を来た幼い少女だった。
目がドングリのように丸いやたらと元気な子供だった。
「イナー、おそーい!リガノはまだあ?」
「もういる。待たせた。すまぬ 」
「うわあっ!」
突然背後から現れた長身の青年にウカ達は驚いて腰を浮かした。
リガノという青年は羽織袴にキャスケットを被っていた。彼が一番まともな格好に見える。
目は鋭く近寄りがたいが実は良い神である。
「リガノも遅刻だよー」
「すまぬ。まさかこんな微妙な場所にいるとは思わなかったのでな」
ウカ達がいたのは桜並木の先端だった。桜は一本しかない。
「ど真ん中はちょっと抵抗があってね……」
「はじっこも抵抗あるけどね」
ウカの言葉にミタマは苦笑いをした。
「まあ、とりあえず花見といこうか!それいこう!やれいこう!」
手を叩いて盛り上げたのは小さな稲荷神のイナだ。
「ほんとはもっと来る予定だったけど皆忙しいみたいだし……縁結びだの食物神だの……暇なのはうちらだけよ。ちなみに暇でも寝てて来ないのもいるし……あの子は信仰心集めは大丈夫なのかなあ……」
「ああ、実りの神、日穀信智神(にちこくしんとものかみ)、ミノさんねー。あの神も稲荷神だった」
「まあ、今度声をかけてみるよ」
稲荷神達の花見が始まった。
イナは真っ先に残りのいなり寿司を口一杯に頬張り始めた。
「俺は人の願いを聞き入れてもうまく処理できぬ……皆はどうしてるのか?」
リガノの問いかけに一同は唸った。
「……」
そして沈黙。
「いやー、まあ、ここに集まる時点でわかると思うけど……」
「ねぇ?」
「……」
再び沈黙。
「つまり……」
「皆うまくいってなくて神社が閑散としてるわけだね!!あははは!」
「あはははは!!」
イナの言葉にウカ達は大爆笑。
しかし、
「はあー……」
すぐにため息へと変わった。
つまり彼らは落ちこぼれなのである。
「こないだの稲荷ランキングいくつだった?」
「俺は下から三つ目だ」
「私は下から二つ目」
「僕は一番下」
「私は下から四番目!」
ウカ達はそれぞれ手をあげて答えた。稲荷ランキングは別にどうということはなくて稲荷神達のただの遊びだ。願いを叶えた数を単純に競っているだけである。
しかし、低いことすなわち信仰心のない神社と言える。
「てゆーかさ、五番目まで同じ信仰心じゃなかった?」
「下から五番目はミノさんだったなあ……。つまり……」
「五番目まで皆最下位!あははは!」
「あははは!!」
イナの言葉にウカ達は大爆笑。
しかし
「はあー……」
すぐにため息へと変わった。
「まあ、今度、元号が令和になるじゃない?だから令和キャンペーンとかいいと思うんだけと」
ウカは気分を戻して提案した。
「例えば、名前に令とか和とか入ってる人は……」
「それ、人間がやってるサービスと一緒だよね!?てか、神社でそのキャンペーンやっちゃダメ!誰の願いも叶えてあげるのが神社だと思うんだけど!?」
ミタマがウカの提案を慌てて却下した。
「でも五月から令和に……」
「だからなんだ……」
リガノもため息をついた。
「まあ、新元号になるし、ここでひとつ、団結して神力を上げるのはいかがだろーか!!」
イナが地面をバンと叩いて叫んだ。
「団結!?」
「そう!皆でやれば急上昇!」
「おお!」
イナに乗せられた流されやすい稲荷神達はなぜか納得し拳を高く上げた。
そこに深い理由はない。
そこから花見が会議へと変わるのだがいなり寿司を新たに調達し食べる会になった。桜はどこにいったのか。
まあ、とにかく稲荷神はよく食べるのである。

そしてここから彼らの団結の一年が始まった。

5月

五月。
新しい元号に変わり、新しい時代が始まった。
新元号になって早々、真夏日が到来した。風があり、若草色の木々が揺れるが涼しさはなく、直射日光で顔がやられそうだ。
「あっつーい……」
稲荷神のウカは掃除されていない廃墟のような自分の神社で太陽を恨めしそうに見ていた。
「てか、掃除する気にもならない……」
ウカの神社は人が参拝にこないため、管理されておらず自分で掃除をするしかない。
「社も新しくしたいなあ……。ちゃぶ台と畳のせっまーい部屋じゃなくてもっと広くて冷暖房完備でお姫様みたいなベッドに天蓋つけて!専属のシェフにシステムキッチン!ワインかなんか嗜みつつ夜の夜景をバックに露天風呂を楽しむ……」
ウカはひとりで盛り上がり、やがてため息をついた。
「はあ……一回、人間みたいに生活してみたい」
「ウカちゃーん!遊びに来たよ。ありゃ?」
グダグダしていたウカの前に現れたのは穏やかな青年稲荷ミタマだった。
「あー、ミタマ君。調子は?」
「ダメダメー。やる気出なくてね……」
「だーよねー」
ウカとミタマはお互い魂の抜けた声を出した。
「あれぇ!?ウカちゃーん、ミタマ君!グッデクデ!」
今度は元気な少女稲荷イナが現れた。後ろには寡黙で真面目な青年稲荷、リガノもいる。
「あー、また結局同じメンバー……。イナとリガノは最近なんか活動してる?」
ウカの質問にイナもリガノも首を横に振った。
「なんかいいお天気だからお昼寝がねー!」
イナが苦笑いでウカとミタマを仰いだ。
「やる気の出し方がわからん」
リガノは真面目な顔で真面目に答えていた。
「まあ、結局のところ……」
ミタマが渋い顔で頭をかく。
「皆、五月病だね!!」
ミタマの言葉を続けるようにウカが元気よく声を上げた。
「あははは!!!」
そしてとりあえず目を合わせて笑いあってから
「はあああ……」
と深いため息をついた。
「こんなんじゃダメだよ!」
イナが真剣な顔で叫んだ。
「じゃあどうする?」
「とりあえず、やる気を出す方法をネットで検索する?」
「人間くさいな……」
ミタマの発言をリガノがため息混じりにつっこむ。
「頑張るの、六月からでいいか」
「おいおい……」
「五月は休息月?やばいやばい!ずっとこうなるよ!」
ウカの発言にリガノとミタマは同時に声を上げた。
「だよねぇ……。あ、イナちゃん、リーダーでしょ!なんとか考えてよ。楽なやつで」
「えー!!ま、まあ私が同盟を組んだから私がリーダーか……。うーん……」
ウカに問い詰められイナは首を傾げて考えた。
「か、怪現象を起こしてみる……とか?」
「いたずら?おもしろそう!!」
「待て待て!縁結びとか食物神とかなのに怪異はどうなんだ?」
喜ぶウカを慌ててリガノが止める。
「……まあ、地域の稲荷はなんでもありだし……たたりとか恐れられて祭られたりとかもあるよ」
「それは信仰心とは離れるんじゃないかな?稲荷ランキングは信仰心だよ?」
ミタマの意見にウカ達は頷く。
「まあ、確かに……じゃあどうする?やる気が起きないんだけど……。あ!やる気の神様にお願いしてみるとか……?」
「やる気スイッチ探そう!!よーし!」
ウカとイナがそれぞれ声を上げた。結局はやる気から出すことになった。
「嘘だろ……信仰心どころか……やる気から……」
リガノは頭を抱えた。
「じゃあ、リガノ君はあれだね。『やる気出す方法』をネットカフェで検索だね。あははは……」
「嘘だよな……?」
ミタマの乾いた笑いにリガノは深いため息をついた。
「まあ、やる気出さないとできないことだからさ」
「……まあ……そうだな。うむ」
結局のところ、やる気の出し方を色々と試している内に五月の半分が終わった。
ウカ達はため息をつき、同時に「一体何をしていたんだ……」と声を上げるはめになった。
見てわかる通り、彼らはこうだから落ちこぼれなのである。
前半はこんな感じで終わってしまった。

五月後半。
「やる気の出し方を探すのにやる気を出してどうするの!!」
「ごもっとも」
再び集まったウカ達はあまり意味のない会議をしていた。
「はあ……逆に疲れたよ……」
ミタマがため息をつくと皆も一斉にため息をついた。
気分が落ちているところに珍しく参拝客が来た。
「おお!参拝客かも!」
ウカは気分を一転させ狂喜した。
参拝客はおじいさんだった。杖をついている。ウカの神社は山の中腹にあり、そこまで石段をのぼらなければここまで来ることはできない。それも不人気のひとつか。
ともかく、珍しいことだった。
この辺にある集落の住人かもしれない。
おじいさんはお賽銭を賽銭箱に投げ入れて何かを祈っていた。
「ウカちゃん!テレ電!」
ミタマが叫び、ウカが慌てて社の電話につないだ。しばらくぶりだったので願いの聞き方を忘れていた。慌てて思い出して繋ぐ。お賽銭は神様との電話代である。お賽銭を入れると神様の社からテレパシーで神様に願いが届く仕組みだ。
「えーと……」
回線を繋いでおじいさんの願いを聞く。
しかし、ノイズが入っていて聞き取れない。
「まずい!社の回線をクリーンにしとくの忘れた!!全然使ってないからメンテナンスしてなかったよ!えーん……」
ウカがしくしく泣いている内におじいさんは去っていった。
「あーあ……」
他のメンバーのため息がむなしく響く。
「あ!待って!追いかけて観察したら願いがわかるかもよ!」
イナが足をバタバタさせながら叫んだ。
「そうか!!」
ウカは走り出した。リガノとミタマ、イナも追いかける。
「そういえばリガノもミタマも回線のメンテナンスした?」
「いや……どうやればいいのかわからんから放置で……」
「すっかり忘れてたから放置で……」
二人から呆れた言い訳が返ってきた。
「そういうイナは?」
歩きながらミタマが尋ねる。
すでにおじいさんには追い付いていた。
「私は同居してるヤモリがやってくれるもーん!」
なぜか自慢気にイナは答えた。
現在イナの神社は家守龍神(いえのもりりゅうのかみ)、通称ヤモリという神の神社と同じ神社の敷地内にある。
「自分でやってないんかーい!」
遅れてミタマが突っ込んだ。
「ちょっと!皆静かにしてよ!」
ウカは自業自得でいらついていた。
「しかし、追いかけても神社での願いを口にすることはないと思うぞ……。口にすると叶わないと言われているじゃないか」
リガノの言葉にウカは足を止めた。
「だよねー……。なんでそんなルールにしたのよ!人間のバカー!」
「おいおい……お前のせいだろう……」
「わかってるわよ……。悔しい!」
リガノに答えたウカは地団駄を踏んだ。
「ま、まあまあ……几帳面な人間ならばまた願いに来るんじゃないの?叶ってないよって」
「そうだよねー……。皆もちゃんとメンテしてきなよ……。しょぼぼーん……」
ウカはひとりトボトボと神社へ帰っていった。
「あーあー……」
他の皆もウカを励ますべく、とりあえずウカを追いかけていった。
彼らの頑張りは続く……。

6月

六月。雨がシトシトとふっている。
稲荷神のウカは社の自室でゴロゴロしていた。五月病を乗り越え六月に入ったが困ったことが起きた。
六月病になったのである。
「やる気が出ない……。雨降ってるし休んでもいいよねー。テレパシー回線はこないだ掃除したし、やることもないし」
万年床になりつつある布団の上を右へ左へ動きながら心地よい雨の音を聴く。
「六月は梅雨明けの準備期間だし、私も夏に向けてパワーを蓄えないと……」
「おっはよー!」
ウカがゴロゴロする言い訳をつぶやいているとやたらと元気な声が響いた。ウカの顔付近で仁王立ちをしている元気な少女にウカはため息をついた。
「ああ……イナ?いつ社内に入ったの?ごめん、今日は超眠い。どーせ参拝客は雨だから来ないでしょ。七月から本気出すから」
「いつまでも本気出ないやつ!!あはは!私もやる気が出ないから皆で雨の遊びをしようと……」
イナは笑いながらトランプやらボードゲームやらをガシャガシャ出し始めた。
「ほぉ……いいかもねー。このまま寝てたらキノコ生えそうだし。布団あげてちゃぶ台出すね……」
ウカは半分眠りながら布団を丸めて脇に避けるとちゃぶ台を真ん中に置いた。
するとすぐに障子扉を叩く音がし、若い男二人が入ってきた。
「あー、ウカちゃん、ちゃんと布団あげたんだね」
「参拝客が来ない故、息抜きに来たぞ。神社の掃除ばかりするのも疲れたのでな」
「いらっしゃい、いらっしゃい。ミタマ君とリガノ君。リガノは参拝客で忙しかったんじゃなくて掃除で忙しかったんでしょう?」
「……バレたか……」
「ま、結局、皆ダメだったって事か……。何がダメなんだろー……。もー、わかんなーい。ま、いいわ!ゲームしましょ!ゲーム!」
「……それがダメなんだと思うけど……ま、いっか」
音を立てながらトランプを配るウカにミタマはため息をついた。
「何する?ババ抜きでいいかしら?」
「さんせー!!」
イナは元気よく手をあげた。

白熱のババ抜きが始まった。
ちゃぶ台にそれぞれ座り、トランプを無言で抜き差し。
「皆……表情に出さないねぇ?」
イナが邪悪な笑みを周りに向けながら意地悪そうにつぶやいた。
「そりゃあね。ババ抜きだもん。ババ抜きは神にとっては心理戦みたいなもん!」
ウカは無表情のままイナに答えた。
「しかし……ほんとに誰がババを持ってるかわからんな……」
リガノがミタマからトランプを一枚抜き取る。
「ねー、これじゃあ表情が動かないからおもしろくないよー」
とかいいつつミタマは黙々と手を動かし、イナにトランプをかざした。
「ふむふむ。ミタマ君、ババいるでしょ!」
「いないからどれ取っても安心だよー」
イナはミタマを警戒して慎重にトランプを選ぶ。
イナはウカにトランプをかざした。
「皆、テレパシー回線オフにしてるでしょー!心が読めないじゃんか」
ウカは愉快に笑いながらイナのトランプをひいた。
……うっ……
ババが回ってきていた。
……回線オフにしよう。悟られる!
ウカは回線をオフにし、トランプをリガノにかざす。
「……む……残りが三枚か……。怪しいな……」
リガノは怪しみながらババを持っていった。
……よし!
ウカは顔に出さないように心でつぶやいた。
刹那、カランカランと賽銭箱にお金を入れる音が響いた。
「えっ!ちょっと待って!」
ウカが叫んだ時、ミタマが頭を抱えていた。
「負けたー!皆強いよー。テレパシー回線オフにしたら表情も心の声も聞こえないじゃない。あはは!」
「あはは!」
「えーん!!」
「え??」
愉快に笑うミタマ達の脇でひとり泣き始めたのはウカだった。
「ちょ……ウカちゃん?なんで泣いてるの?どういう心境?」
「勝ったから感動泣きとか?」
「違うだろ……また、やったんだ……。なぐさめよう……」
ミタマとイナが首を傾げる中、リガノだけは呆れていた。
「調子に乗って回線オフにしちゃったから参拝客の祈りを聞き逃した……えーん!せっかく来た参拝客なのにぃ!!」
ウカは両手で顔を覆いながら声を上げて泣いた。
「あーあ……せっかく回線をクリアにしたのにー」
残りの三人はため息をつきつつ、ウカをなぐさめた。
「皆ずるいよー!皆も回線オフにしてたじゃなーい!!あたしだってやりたかったのよー!えーん!」
ウカの叫びに一同は固まり、ミタマはきっていたトランプを落とした。
「……あ……」
そして同時に声をあげ、
「あああ!!まずいまずい!!」
「うちらもこれじゃあ祈り聞けないじゃん!ヤバイじゃん!」
「早く回線をオンにしろ!」
皆でパニックに陥った。
慌てて回線をオンにした一同は皆で一緒に泣いた。
外の雨は本降りになり、彼女達の雨もしばらく続きそうだった。
ウカ達の奮闘はまだまだ続く。
「結局何もやってないんだけどね……」

7月

「あついー!あついあつい!」
神社の石段を文句言いながら掃除中の少女。
彼女はこの神社に住んでいる稲荷神のウカである。
現在は梅雨が終わり、とても蒸し暑い時期が到来中だ。
「今年は梅雨が長かったじゃないの!もっと梅雨が続いてれば良かったのに!涼しかったしよく寝れたのにー!」
なんだか神様らしくない言い分を叫んでいるが彼女は人間には見えないので声も聞こえない。故にどれだけ叫んでも大丈夫だ。
まあ、参拝客はいないのだが……。
「ウカちゃん!休む気満々じゃん!」
ふと石段下から数人の話し声が聞こえた。
「あー……」
ウカはあきれた顔で石段下を覗いた。誰だかはわかっている。
この神社に来るのは類友しかいない。
「やっほー!偉い!掃除してるよ!」
ひときわ小さい稲荷神の少女イナは満面の笑みでウカを仰いでいた。
「けっこうやらかしてたからね……僕達……」
優しそうな青年稲荷、ミタマは今までの事を思い出しながらため息混じりに答えた。
「今日こそ何か祈りを叶えられればと願う……。叶える方なのだが……」
真面目そうな青年稲荷、リガノは腕を組んで頷いた。
「こんにちは。皆、いつも通りだねー。七夕過ぎちゃったねー……。まあ、私達には関係ない神様だけど」
真夏の太陽の下でありえないくらいどんよりした空気が流れた。
「暗くなっててどうする!じゃーん!」
イナは鼻息荒く持っていた風呂敷包みを開いた。
「ん?あー!アイスだー!」
包みの中を見たウカは跳び跳ねて喜んだ。
包みの中には高級そうなアイスキャンディが四本入っていた。不思議と溶けていない。
「……ちょっとまて……。イナ、これどうしたの?あんたも人に見えないでしょ?」
しばらくして疑問が沸いたウカは訝しげにイナを見た。
そんなことを言ってはいたがもう素早くイチゴ味のアイスキャンディを手に持っていた。
「同居してる友達の神からもらった!神社にアイス持ってきた参拝客がいたんだって!まあ、神社に勤めてる人間に持ってきたみたいなんだけどね」
イナが軽く笑いながらオレンジのアイスキャンディに手を伸ばす。
「まって、まって!それ、はやいもん勝ちなの!?僕達、まだ選んでもないんだけど!!」
ミタマが残った二本のアイスキャンディを持ちながら慌てた。
ひとつはぶどう味、もうひとつは唐辛子味だった。
「……」
ミタマは無言で唐辛子味をリガノに渡した。
「ちょっ、ちょっ……お前ら!話し合いをしよう!しかし、なぜアイスキャンディで唐辛子……」
リガノは受け取ってから焦って間に割り込んだ。
「それ、ロシアンアイスキャンディなんだよ。皆に分けるために四本引っこ抜いて持ってきたんだ!」
「これ、外れだよな……。わかってて持ってくる異常性を感じる……」
「わかったわよ。じゃあ、ロシアンしましょ!風呂敷にアイス入れて棒だけ外に出して……棒を入れ換えて混ぜる!」
ウカは全員分のアイスを風呂敷に包むと棒部分だけ出して入れ換えをして手で風呂敷の口を押さえた。
「はい。じゃあ、皆取ってー!」
「せーのっ!」
三人は一気に引き抜く。
イナはイチゴ、リガノはオレンジ、ミタマはぶどう。
「おー!やったー!皆当たりー!」
しばらく盛り上がった後に真っ赤なアイスキャンディを半泣きで見つめているウカに気がついた。
「あ……」
「えーん!私はどーせ運が悪いわよ!!参拝客なんて来ないんだからー!」
ウカはしくしく泣き始めた。真夏の太陽の下、さらにじめじめした暗い空気が纏う。
「……皆で半分ずつ食べ合うのが良さそうだね。リガノー、女の子を泣かせちゃダメじゃないか」
「何を言う……。お前なんか俺に最初に唐辛子渡しただろ……。お前が最初にウカを苦しめたのだ」
暑さのせいかミタマとリガノは謎のいがみ合いを始めた。
「もー、うるさいなー!リガノもミタマもウカちゃんに『あーん』って言いながら食べさせなよー!」
「あーん……!!」
「あー……ん……!?」
イナの発言にミタマとリガノはなんだか変な想像をしたのか頬を赤く染めて黙り込んだ。
「ま、まあ……とりあえず……皆の分を割って……ウカ、皿を……」
「はーい!」
動揺したリガノはアイスキャンディを割ることにした。
ウカは機嫌を直し、社内からお皿を四つ持ってきた。
「あれ?四つ?」
ミタマが首を傾げているとウカが素早く皆が持つアイスを奪い全部粉々に砕いた。それを四等分に盛る。すべての味が混ざったレインボーかき氷のようになっていた。
「ちょっ……まてー!!!」
「ウカちゃーん!」
「やめでー!!」
三人はほぼ同時に悲鳴を上げた。
「こうなったら痛み分けよー!!」
そう、彼女は唐辛子アイスまで四等分して砕いた。
混ぜ混ぜ……混ぜ混ぜ……。
「ちょっ……話し合おう!早まらないでくれ!」
「ぼ、僕が悪かったです……」
リガノとミタマに動揺が広がる中、つまみ食いしたイナだけは満面の笑みでこう言った。
「あー!意外においしい!」
「うそぉ!?」
「はーい、できた!皆食べよ!」
ウカは額に汗をかきながらそれぞれに粉々アイスを配る。
リガノとミタマは恐る恐る口に入れた。
「……お……?……ん?なんか……スパイシーな感じが意外に邪魔してない……」
「あ、ほんとだ!こりゃうまい」
「はじめから混ぜときゃ良かったのよ!」
ウカの発言に二人は同時に声を上げた。
「それはない!!」

※※

七月後半。
アイスキャンディ騒動から二週間が経った。あの時よりも暑く、夏本番を迎えた。セミがかしましく鳴き、ただでさえ暑いのにさらに太陽が焼けるように照らしていた。
「あー、もうダメだ……。暑すぎるわ……。スーパーに避難っと」
ウカは近くの大型スーパーに逃げ込んでいた。ここはエアコンがかかっていて最高に気持ちが良い。
ウカは人には見えないためずっといてもなんとも思われなかった。
「あれー?ウカちゃん?」
急に誰かに話しかけられた。
油断していたウカは驚いて飛び上がってしまった。
「ん?ん?あ、ミタマ君かー。驚かせないでよー。あー、また皆いるのね……」
ウカは話しかけてきたミタマの後ろにいつものメンバーがいることに気がついた。
「ま、まあな……」
「あっついからー!」
リガノとイナがそれぞれウカに挨拶をした。
「で、最近はどうなの?」
ミタマの言葉にウカはため息をついた。
「誰も参拝に来ないわ……。こんな暑かったら来ないわよ……」
「夕方とか来るかもしれないよ?」
「まあ、それはそうかもしれないけど、暑すぎてなんもしたくない」
「だよねー」
ウカの言葉に三人とも同じ言葉を発した。
「そういやあ、ウカ、一度参拝にきたおじいさん、あれからどうなったの?」
ミタマが興味本位で突然にそう尋ねてきた。
「ああー、先月やったババ抜きの日にも来ていたらしいのよ。私が回線オフにしちゃってたからなー……」
ウカは落ち込んでいた。
「あの時の参拝、あのおじいさんだったんだ!ウカちゃん!じゃあまた来るかも!これはチャーンス!」
イナが満面の笑みでウカの背中を叩く。
「しかし……願いが2ヶ月近く叶わないとはな」
リガノはため息混じりにつぶやいた。
「まあ、確かにまた来るかもだから回線も準備してるし、どーんと来い!なわけよ」
「ウカちゃん、その調子!で、そのおじいさんの願いを叶えるの、皆でやらない?」
意味もなくやる気なウカにミタマが意味深な提案をしてきた。
「皆で?」
「うん。願いが叶ったら信仰心を山分けするのさ」
「ああ、そういうこと。まあ、うちらはライバルじゃなくてチームだからいいわよ」
ウカはあっさりとミタマの提案に乗った。皆、本当に参拝客が来ていないらしい。
「ありがとう!ウカちゃん!!そうとなったら皆!ウカちゃんちに泊まるぞ!」
「おーっ!!」
「ちょーっと待て!!」
リガノとイナの掛け声をウカはすばやく制止した。
「ん?何?」
「ちょ、ちょ……うちに泊まる!?う、うちは狭いし、プライベートな空間なんてないわよ……」
「ウカ、私は夜は自分の神社に帰るよ。同居してる神がいるからね!」
イナは同意はしたものの、ウカの神社に泊まる気はなさそうだ。
「じ、じゃあ、男二人と私じゃないの!!」
「おー!最近はやりの逆ハーレム!大丈夫だよ!ゲームとか漫画だと男七人くらいと女の子一人で隔絶空間にいたりするし」
「そりゃ漫画だから!!だいたい私はね、『内気で男が苦手な設定』なのに大量の男と同室または同居できる主人公の女の頭をいつも疑っているのよ……」
ウカは呆れた顔でイナを見た。
「まさか……ウカちゃんは内気で男が苦手な設定……」
ミタマが驚きの顔でウカにつぶやいた。
「なによ……その驚き……。それから設定とか言うな!!だって、寝てる時とかお風呂にいる時とかムラムラっと襲ってくるかもしれないじゃないの」
「……俺達は獣かなんかか……?」
ウカの言葉にリガノはガックリと肩を落とした。
「獣と言うよりキツネ!」
「わけわからなくなるから黙って」
ミタマの発言をウカはすぐに切り捨てた。
「とにかく!うちはちょっとねー……」
「ウカちゃん、男好きじゃなかった??こないだ神々の書籍販売店でイケメン男子神の『夏真っ盛り編』買ってたじゃん。あの肌色感が凄まじいやつ!ヨダレ出して眺めながら完熟度計ってたじゃん。『んー、この男はまだまだ青いわね』とか。……あー!この手の本が押し入れに隠されてるから泊めたくないのか!」
「コラ!!イナ!!それ以上言うな!やめてよ!!」
ウカは顔を真っ赤にしつつ、イナの口を塞ぐ。
「な、なんか……別の意味で……」
「俺達のが危ない……のか?」
ミタマとリガノはじりじりと後退りをはじめた。
「あー!もう!!泊まりたいなら泊まれば!もういいわ。吹っ切れるから」
ウカは真っ赤になりながら叫んだ。
「り、リガノ君……どうする?」
「そう言われると……迷いが……。社外で生活するか?」
まごまごし始めた二人をウカは見据えながら
「もう、カミングアウトしたからいいわ。ちなみにあんたらの身体には興味ないから」
とスッキリした顔で答えた。
「じゃあ、同居してみたらー?あ、大丈夫!私も毎日軽く遊びに来るから!」
イナは満面の笑みでリガノとミタマに頷いていた。
「好きにしなさいよ……」
ウカはイナにため息混じりに答えた。
「きょ、興味ないなら大丈夫かな……。大丈夫だよね??……じ、じゃあ、よろしくね。自分のとこの回線もオンにしておくから僕らの参拝客もシェアしよ!」
「……ウカに襲われる事を考えたくはないからあえて行こう……」
怯えながらミタマとリガノは頷いた。
「三人よらば文殊の知恵ってとこ?いいわよ。助け合いだわね。……じゃあ、うち来る?」
「いくいくー!」
「……なんかどっかのテレビ番組みたいなんだけど……ま、いいわ。ちなみに、私も獣じゃないから!どこでも男をハントするわけじゃないんだからそんなに怯えないでちょうだい!」
「だ、だよな……。何をビビってんだ。俺……」
「まあ、ビビりたい気持ちはわかるけど」
リガノは呼吸を整えて頭を正常に戻し、ミタマは半笑いで小さくつぶやいた。
こうして7月の後半、のんびり平和なお泊まり会がスタートした。
しかしこの後、のんびりできない事態が起こることにウカ達はまだ気がついていない……。

TOKIの庶民記『いなり神達の小さな神話』(R元年執筆)

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稲荷神達の間で流行っている信仰心を競う遊び、稲荷ランキング下位の落ちこぼれ稲荷神達が団結して上位に食い込む決断をする! ゆるく、のんびり進む日常のようなお話です。

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登録日 2019-04-13

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