オフ会

少し内容を変更しました。部分的なもので大きな差異はありません。

 オフ会が開かれ、われわれは古い洋館に招かれた。
 今のところ男女合わせて五名。私と、たまねぎ、ひよこ銀錠、りえ☆、いつも一緒だよ、だった。初めて顔を合わす彼らはとても気さくで、百年来の友のように互いの近況を語り合ったりなどして、洋館のソファに腰掛けて、出前のピザやお寿司などに舌鼓を打っていた。男は私を含めて三名、つまり私と、たまねぎ、ひよこ銀錠だ。女性は、りえ☆、いつも一緒だよ、だった。いつも一緒だよはその見た目によってすでに男性陣を魅惑の虜にしていた。私の隣でたまねぎが鼻の下を伸ばして、いつも一緒だよがトイレに向かうのをいとおしそうに見詰めていた。この古い洋館は、もう一人のオフ会のメンバー、トムソン、の別荘だった。しかし、住所だけをみなに伝えたトムソン自身は遅刻しており、すでに約束の時間より一時間を過ぎていたので、議論の末、みなはトムソンのいないまま会を開いたのだった。
「トムソンのやつ遅いよなあ」
 ピザを抓み持ちながら、垂れるチーズを下から口で咥えたひよこ銀錠が誰に言うでもなく言った。
「本当、幹事なのになあ」
「トムソンは男かな女かな」
「時間にルーズだから女かもな」
「男のほうが時間にルーズよ」
「ピザが冷めちまうよ」
 その時、いつも一緒だよがトイレから帰ってきたので、男性陣が一斉に振り向いた。しかし、いつも一緒だよの顔に妙な陰が差しているのをたまねぎは見逃さなかった。
「あれ?どうしたの?顔色が悪いよ」
「ええ…」
 いつも一緒だよは口ごもりながら言いにくそうにしている。りえ☆がすかさずに、
「ちょっと!」
 と言ってたまねぎを遮った。
「察しなさいよ!」
「違うのよ……」
 腕を組んでたまねぎの前に立ちはだかったりえ☆を制して、いつも一緒だよがこう言った。
「見られていたようなの……」
「ええ!?」
 男性陣が一斉に立ち上がった。
「誰に!?」
「分からないけど、気配がしたの。見られているような。何か怖いわ…」
 見られているだなんて……私は独りごちた。この穏やかならぬいつも一緒だよの言葉に俄にみなが騒ぎ始めた。
「一体誰に!?」
「トムソンじゃないか!」
「まさか!トムソンがトイレで覗きをしているのか!」
「そんな。私はそんな気がしただけなの…」
「俺たちはここにみんないたんだ!」
「トイレよ。そのトイレに行ってみましょう」
 そしてわれわれは件のトイレへと踏み込んだ。
 なんの変哲もない洋式便所だ。女性らしく使った後に蓋を閉めているのが俄に男性陣にいつも一緒だよに対する愛らしさを醸す。今さっきここにいつも一緒だよが用をしていたのだな、誰も口には出さなかったがそんな感慨が男性陣に伝播した。この匂いは芳香剤の匂いだが、いつも一緒だよの匂いとして脳裏に刻まれるのかもしれないな、私は思った。
「誰もいないぞ!」
「壁が怪しいわ!」
 みなが壁を隈無く探し始めた。壁を叩いたり、さすったり。すると壁の向こうにそこは間取り的に階段になっている場所だったが、この部分だけが他の音と違い、乾いた音がするのである。まさか。隠し扉が? 私は口には出さなかったが、たまねぎも同じことを考えたようだ。たまねぎは叫んだ。
「ここに空洞があるぞ!」
「おい。よく見て見ろ。ここだ。両脇に目地があるよな」
「本当だ。これは外れたりするのではないか?」
 たまねぎが、その右手の壁を押したり、あるいは左右にスライドさせてみたり、はたまた上にスライドさせようとしていると、カチッと下から音がしたと思うも束の間、壁は俄に上に五十センチほどスライドした。
「開いたぞ!」
 どよめきが起こった。
「なんでこんなものが……」
 いつも一緒だよは口を手で押さえて目を見張った。
「トムソンだ!」
 ひよこ銀錠がいきり立つ。
「ここは変態屋敷よ!」
 りえ☆が雄叫びを上げた。
「俺が見てこよう!」
 俺が行こう、と思っていた私はたまねぎに先を越されてしまった。私が片膝をついて今すぐにもこの五十センチ大の穴に這い込もうとする前面にはすでに、たまねぎの尻があったのだ。たまねぎは腹ばいになって左右に身体を捩らせながら見る見る間に穴のなかに滑り込んでいった。
「大丈夫か!たまねぎ!」
 向こうから声が返ってこない。やはり私が行くべきだったのだ。しかし私が行って何になるのか。
「ぐああああああああああ!」
 たまねぎの獣のような咆哮が壁の向こうからこだました。われわれは顔を見合わした。
「おい!大丈夫か!たまねぎ!」
「く…来るな!ぐああああああああ!」
 たまねぎの凄まじい悲鳴が壁の向こうから上がる。と同時に、何か鋭利なもので柔らかいもの突き刺すような音が何度も聞こえていた。
「逃げろ!逃げろ!逃げろ!ぐああああああああああ!」
 りえ☆ががばっと身を翻しトイレから駆け出していった。いつも一緒だよも口に手を当ててそのまま後ろから倒れるのかと思いきや、オットセイの仕込み芸に似た動きをして、くんっと頭を振り上げるとトイレから駆け出していく。
「おい!待ってくれ!」
 ひよこ銀錠も女性陣を追っていった。
 なんてやつらだ、私は怒りに打ち震えた。人が明らかに殺されているんだぞ! 私は両手に力を込めて何か為す術はないか、と思案していた。そうだ、もし犯人がこの下を潜ってくるなら狙い所ではないか、上から思う存分蹴り上げて、あわよくばナイフを取り上げることも可能なのでは? そうすると形勢逆転になるんだが。
 しばらくしても犯人は穴から出て来なかった。つつっと穴の中から血の流れがトイレにまで達し始めていた。その時だ。穴の中から犯人の頭が見えたのは。禿げた頭部。私は声の限り叫んだ。こっちだ!こっちだ!今ならタコ殴りに出来るぞ! しかし、誰も来ない。私はええい、と自分の足を振り上げた。だが犯人の素早い匍匐前進。犯人はすでに立ち上がりふう、ふう、と鼻息荒く周囲を見回した。血の付いたナイフを握りしめている。
「なんで開かないのよお!」
 明らかに玄関の方で声が上がった。りえ☆のものだ。それを聞くと犯人は上半身を異常に左右に揺らしながら暴れ馬のように駆け出していった。
「ぎゃああああああああああ!」
 玄関の方から悲鳴が上がった。今の声はひよこ銀錠のものだ。犯人に刺されたのだろう。
「何なのよ!アンタ!」
 りえ☆の放射的な吐き捨てるような叫びが上がった。足音が入り乱れ、屋敷内を駆け巡っている。
「きゃっ!」
 女風呂から聞こえてくるような、妙に艶のあるくぐもった声が一瞬聞こえた。
 あの声はいつも一緒だよだろう。いつも一緒だよの声はその一瞬だけであった。一瞬で殺されたのだろう。それから足音は二つきりっになった。りえ☆と犯人の二つのみ。

 犯人は誰か。勿論トムソンだ。
『また無数の死者が出たんだな』
 通路から私に声を掛ける男。ボール盤、だ。前のオフ会で犠牲になった男だ。
『今回も誰も救えなかった…』
 私はボール盤にこう言った。
『まだ終わっていないわ』
 屋敷を流浪している、プラダのバッグ、がトイレを通りがかった時にこう言った。私の前にこの屋敷で犠牲になった古株だ。
『もう結末は見えている』
 私がこう言った時、台所の方で手当たり次第に物を投げる音がする。
「きゃああ!やめなさい!変態っめ!」
 バシッと硬いものがそれと同じぐらいの硬さのものを打つような音がする。バシッ、バシッ、バシッ、ドドドドドドド。何だろう今の音は。私は気になって台所に向かった。
 台所には私の他にトムソンによって犠牲になった全ての無辜の魂が集まっていた。
『おお来たか』
 私と同じオフ会で犠牲になった、五十円、が私を認めると興奮した面持ちでこう言った。
『凄いぞ』
『何が凄いんだ?』
 私は他の魂どもを押しのけて観衆の前列にいった。そこには新たにこの屋敷の魂の系列に加わった三人も観衆として加わっていた。たまねぎ、ひよこ銀錠、いつも一緒だよ、だ。
 観衆の中心にはりえ☆とナイフを持った大男みんなの敵トムソンが対峙していた。トムソンはすでにダメージを負って腕を庇いながら片膝をついていた。
「この変態め!」
 りえ☆は空中に飛び上がり、身を翻して、浴びせ蹴りのような技を放っていた。
 その一撃でトムソンの頭はかち割られたようだった。とめどなく禿げた頭部から血を噴出せしめていた。明らかにトムソンはその一撃でくたばっていた。
「ふううう!」
 りえ☆は深く息を吐き出して両手を交差させた後、ぐっと両握り拳を構えて、
「押忍!」

 私たちはこのオフ会犠牲者の会にあってトムソンの処遇について思いを馳せざるを得なかった。

オフ会

こっちの方がいいと思ったので…

オフ会

オフ会が開かれ私たちは古い洋館に招かれた。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-12-25

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