本編TOKIの世界書五部「変わり時…最終話」(現人神編)H29執筆

ごぼうかえる

本編TOKIの世界書五部「変わり時…最終話」(現人神編)H29執筆
  1. 一話
  2. 二話
  3. 三話
  4. 四話
  5. 五話
  6. 六話
  7. 七話
  8. 八話
  9. 九話
  10. 十話
  11. 十一話
  12. 十二話
  13. 十三話
  14. 十四話
  15. 十五話
  16. 十六話
  17. 十七話
  18. 十八話
  19. 十九話
  20. 二十話
  21. 二十一話
  22. 二十二話
  23. 二十三話
  24. 二十四話
  25. 二十五話
  26. 最終話

長編シリーズ最終話です!!
TOKIの世界。
壱‥‥現世。いま生きている世界。
弐‥‥夢、妄想、想像、霊魂の世界。
参‥‥過去の世界。
肆‥‥未来の世界。
伍‥‥すべての想像が消えた世界。
陸‥‥現世である壱と反転した世界。

一話

高天原東。
あちこちの木々が倒れ戦いの激しさがわかる光景が広がっている。
と、いうよりも神力の高い神々が暴れると激しくなくてもこうなる。
「ふぅ。みー君、観念したかい?」
サキが炎をおさめるとにやりと笑った。
「ちっ……。お前が出てくるとろくなことねーよ……」
みー君はサキが使った高天原の道具『拘束ちゃん』に捕まってコロンと横になっていた。
この道具はデータの波を飛ばし、対象の者の表面のデータだけ硬直に変えて動けなくするものだ。つまり、実態のない神でも捕まる。
「この道具すごいねぇ!発明好きの月神の使い、あのウサギちゃんに作ってもらったのさ」
「あーそうかよ……」
みー君は機嫌悪く答えた。
「しかし、みー君、鶴に攻撃加えるなんてひどいよ。かわいそうじゃないかい」
「色々あんだよ。本気でやってねーしな」
「あたしにもそうだったんだろ?」
「……うるせーよ」
そっぽを向いたみー君にサキは軽く笑うと目線をワイズの城に持っていった。
「じゃ、あたしはアヤを助けに行くよ。アヤはあたしとみー君が連絡とれないことを心配して来ちゃってワイズに捕まっちゃったようなんだよ。色々おせっかい焼きなのはそうだけど、尻拭いはあたしなんだ」
サキはみー君の頭をワシワシ撫でると颯爽と走り去った。
「くそ……あいつには敵わないな……はあ……」
みー君は地面に横たわりながら青い空を見上げ深いため息をついた。

※※

「ちゃんと開いたぞ……くくく……」
マイが不気味な声をあげたのでマナは我に返った。
辺りはネガフィルムのようなものが切り替わり立ち代わり形を変えている不思議な場所で宇宙空間のような浮遊感があり実際にマナ達は浮いていた。ネガフィルムにはひとつひとつ違う世界が広がっておりこのひとつひとつの世界は心ある者の想像で創られていた。
弐の世界に入ると気がついたらぼうっとしてしまう。やはり弐の世界は霊魂、夢の世界だと実感する。
「あー……ではレール国に行くんでしたっけ?」
健がマナに確認をとってきたのでマナは頷いた。
「うん。レール国でクラウゼさんを仲間にする!ごり押ししても脅しても仲間にするよ」
「怖いな……おい」
マナの決意にプラズマは怯えた顔でため息をついた。
「とりあえずマイさん、ありがとう。それと健さん、またマッシーさんだっけ?によろしくお願いね」
「はい。わかりましたー」
不気味に笑うマイを横目に見つつ、健は胸ポケットに入っていたハムスター、マッシーを呼び出した。
「マッシー!またレール国の図書館まで頼むよ!」
「はあ?めんどいんだけどー。バナナチップちょうだいー。乾燥イチゴでも可ー」
健の命令にマッシーはだるそうに答え、そのままおねだりに移行した。
「わ、わかったよ……わかったから……お願い!」
健はマナ達にはにかみながらマッシーを説得にかかっていた。しばらく押し問答が続き、なんとかマッシーに命令できるようになった。
「でー?あー、レール国の図書館ね。ほーい」
前回同様、健はかなりの出費で落ち込んでいるようだが反対にマッシーはウキウキしていた。
「はあ……」
「まあ、元気出せ」
プラズマが健の肩を軽く叩いて慰めた。
「じゃあ出発ー!」
「よろしくね!マッシーさん」
マッシーはハムスター姿から人型になると元気に進み始めた。マッシーが進むと自然にマナ達も引っ張られマッシーに続いていく。『K』の使いのハムスターは迷いやすい弐の世界をなんともなく自由に進める。特徴として肉体を持つ魂、神々を目的地まで運ぶことができる。通常『K』の使いである人形には自分以外の者の運搬はできない。
『K』の使いのハムスターだけは特別なのだ。
マナにはどうやってマッシーが正解の道を導きだしているのかわからない。どうやらハムスターには野生の勘のようなものがあるようなのだ。だから本人にもどうやって進んでいるのかわからないみたいである。
今回も迷うことなくしっかりした足取りでマッシーは進んでいく。ネガフィルムを避けて歩き、宇宙空間を右に左に進んでから、ある一ヶ所の小さなブラックホールに入り込んだ。
「ついたー!」
気がついたらレール国の図書館についていた。
「相変わらずさっぱりわからない……」
マナ達は首を傾げたまま地面に足をつけた。マッシーはついたと思ったらさっさとハムスターに戻り健のポケットに収まった。
「現金な子だ……」
健はトホホとうなだれた。
マナ達は先を急ぎ林のような場所に入り込んだ。天記神の図書館でもそうだがここは完全には弐の世界ではない。半分が現世に食い込んでいるため地面があり、壱(現世)の世界のように重力がある。
歩いていくと道ができ、天記神の図書館と同じような洋館が現れた。
「また来ちゃったね」
「今度はまた目的が違うけどな」
マナとプラズマは目の前に異様に建つ洋館を見上げ緊張を固めた。
しばらく呼吸を整えたマナは深く息を吐くと重い扉を開いた。
「……来ましたわね~」
扉を開くとこの図書館の神、セレフィアが神妙な面持ちで立っていた。こないだ来た時と図書館内は特に変わりはなかったがひとりの女神が閲覧席に座っていた。
「ルフィニさん……」
席に座っていたのはレール国の時神であり次元の神であるルフィニだった。
「ファメトルーレ(伍の世界)ノ……モノ……、Kデアル、ワイズトトモニ……次元ノ違ウ未来ヲ見セテモラッタ……。アー……セレフィア、セツメイヲカワッテ。リタ語……イヤ、ニホンゴ、トクイ……ナイ」
ルフィニは静かにそう言うと黒い瞳をキョロキョロさせた後、黙り混んだ。
「あ~わかりました~……。実はあなたが来ることはなんとなくわかっていました~。我がレール国、ラジオールはあなたの存在を許していません~」
セレフィアはマナのみを見てそう言い放った。
「やっぱり……クラウゼさんはいないのかな?」
マナは臆する事なくしっかりセレフィアを見据える。
「いませんね~。ここにはいません~。ルフィニが遠ざけました~。彼女はなんでもわかります」
「コノ世界、サイコロ。イミワカル?」
セレフィアの言葉に頷いたルフィニは再び口を開いた。
「サイコロ?」
「オシエテアゲル。スベテ、関係シテイテ漆(なな)ニナル。現世、壱(いち)トバックアップノ世界、陸(ろく)。過去ノ参(さん)ト未来ノ肆(よん)。ソシテ……夢幻霊魂ノ世界、弐(に)ト……夢幻ノ無イ……伍(ご)。相反スル世界ハ、タスト漆(なな)ニナル。コレヲ壊スハ、罪デアル」
「……七になる……そういうシステムになっているのね。……ということは……まさか漆の世界がある……」
ルフィニの言葉にマナはピンときた。
「……ダカラ……モウヤメロト言ッテイル……」
ルフィニの体から異様な神力があふれでてきた。
「まさか、あなたがラジオールを動かしていたり?」
マナは冷や汗をかきながらも負けずに声を発する。
そういえばセレフィアがルフィニとレールを「大切な神」と言っていたのを思い出した。
「……私が言ったことですか~?まあ、ルフィニはラジオールの上にいる神でして~、レールは国のトップです~。冴えてますね……」
「そうなんだ……やっぱり……。あなた達は怖い神だね」
マナはルフィニとセレフィアを見つめ小さく声を発した。
「高天原は動かなかったでしょ?動くわけないよね~。レールはそれを知ってて協力するとか言ったかもしれないですけど」
セレフィアは軽く微笑んだ。
「コノ……セカイハ、ヤハリ……崩シテハ……イケナイ。コチラノ世界ノ、リタ……ニホンノヨウナ、セカイガ理想。タクサンノ『K』、コレヲノゾンデイル。向コウノ『K』ノヒトリヲ、タスケルコトハ、デキナイ」
ルフィニはマナにキッパリと言いきった。
「それが次元の神、ルフィニさんの答えなんだね……」
「ソウ……」
「でも、漆の世界があることを感づかせるように私に言ってきたということは完全に否定的ではないんだよね?それとも心で迷ってる?」
「……」
マナの言葉にルフィニは黙りこんだ。

二話

マナはルフィニが黙ったタイミングで一呼吸つくと眼鏡を外した。
ルフィニはいぶかしげな顔をこちらに向けていた。
「これね、やってみたかったの。あなたに。もしかしたら予想が当たるかもしれないから」
マナがつぶやいた刹那、ルフィニはデータの塊となった。
……レール国の神。ルフィニール・フェンルーナル。次元の神であり、時神。レール神と光と影の存在。
そこまでのデータは知っていた。
次の確認が大事だった。
……『K』であるケイの夢の中の姿……。彼女が物語を想像する時のアバター……。
「そうなんだね……」
マナはそこまでデータを読み取るとすっと眼鏡をつけた。
「ソノ、メガネハ……」
ルフィニは戸惑った顔を向けた。
「あなた自身も迷ってるんだね。こっちに来たいけど来れないっていう葛藤で」
マナが諭すように発した言葉にルフィニの瞳が黄色に輝いた。
「私を見つけたんだね。私はどうしたらいいかわからない。伍の世界での私は幻想じゃない現実的な『神』になろうとしている。私が大事にしていたレール国は伍の世界の思想のせいで消えてしまうかもしれない。私が神になってしまったらルフィニが存在できなくなる……。憧れではなくなってしまうから。死なない体を手に入れて人々からメンテナンスを受けたAIロボットのような私に助けを求める人間……。それを救う私。そのために生かされるようになる私は現実的な存在する『神』ではあるけれど、私が想像した神様ではない。だから私は絶望するか、この感情すらなくなるかで憧れだったルフィニを殺すことになる……。悲しいよ。でもね、この世界はこれで保ってる。だからなんにもできないの」
長々とルフィニが淡々と語る。カタコトの日本語はなくなりまるで別人だ。
……これは……おそらく『K』であるケイである。
「あなたはケイちゃんだね?ケイちゃんは半々の感情で真ん中で苦しんでるんだ。なんで私を信じられないのかな?この世界を変えちゃいけないと誰が言ったの?壊れるのが怖い?」
マナはケイに優しく尋ねた。
「この世界が壊れるのが怖い!それにおかしくなる自分も怖い!夢は夢のままでいたいかもしれないけどその夢もだんだんどうでもよくなってきたの!夢をみなくなってきたの!!」
ケイは泣き叫び出した。得体のしれない恐怖に襲われていて苦しそうだった。
マナにはそれがわかった。
これは大人になる時に起こるものだ。知識が増えて現実を見てしまい夢を追う時期は終わる。物語のお姫様に憧れている少女はいずれ、お姫様になれないことを知り、お姫様が現実ではどれだけ大変かを知る。そしてお姫様になる夢を見ていたことを馬鹿馬鹿しく感じる。
そうやって人間は大人になるが、このケイという少女は機械化されてしまい、大人になりたくてもなれない。知識ばかりついてくるのだ。
「……苦しいよね。それ。大人になってもありえない世界に憧れを抱いてもいいと思う。うまく言えないけど届かない世界ならそれでいい。だけどこうだったらいいなと思う感情を消しちゃいけないよ。私はちゃんとそれをわかっているから、私は大人になった上でそれを考えている。だから安心して見ていて。私のやることをしっかり見ていて。ルフィニさん、クラウゼさんを貸して……気に入らなければ私を消してもいいから」
ふっとケイが消えた。瞳も元に戻りルフィニが首を傾げていた。
「……ワカラナイ……ダケド、アナタニクラウゼヲツケル。ソレガイイト……」
ルフィニは納得がいっていなさそうだったが頷いた。
「今のは向こうの『K』ですかね~?」
セレフィアがマナに確認を取ってきた。マナは黙って頷いた。
「……ケイちゃんはここをどこか夢のままで保存しておきたいという気持ちがあったんだ……」
マナは独り言を小さくつぶやいた。

三話

「デモ、ワタシハ……ナットクシナイ。ワタシハ、ワタシ。ケイデハナイ。マナ、ワタシヲ説得シタイナラ、ワタシタチヨリ、チカラガ、アルコトヲシメセ。ツマリ、ワタシト戦ウ……」
「え……」
ルフィニは必死な顔でマナに言い放った。マナは驚いて目を見開いた。突然だったからだ。
感情がふらついている。
「ケイがカケをしてやがる……。ルフィニが勝つか俺達が勝つかで」
いままで黙っていたプラズマがマナに厳しい目を向けた。
「カケ……」
「世界がどちらを望むのか。変わることを望むか望まないか……」
プラズマの言葉にマイがクスクス不気味に笑った。
「所詮はケイ本人の進むか進まないかの感情の方向性を決めるためだけではないか。馬鹿馬鹿しいな」
マイはルフィニににんまりと微笑んでいた。馬鹿馬鹿しいと言っていてもなんだか楽しそうだ。
「馬鹿馬鹿シクテモ、ソウシナケレバ、イケナイ」
ルフィニがカッと目を見開いた。刹那、爆発的に神力が吹き出した。
「なんで?なんでそうなるの!?」
「ちっ!こいつ……」
プラズマがルフィニからマナを引き離して距離をとった。セレフィアは黙ったまま後ろに退いた。同時に後ろの本棚に結界を張る。セレフィアはルフィニを止めることはなく、暴れてもいいように大切な部分に結界を張ったようだ。
「クラウゼ!テツダッテ!」
ルフィニがマナ達を睨み付けたまま、叫んだ。すると、すぐにクラウゼが白い光に包まれて現れた。
「呼んだか?ルフィニ」
「クラウゼさん!」
現れたクラウゼにマナはどうしようか迷った。仲間になれとごり押しできる状況ではない。
「そうかよ……。そうだったのかよ。クラウゼはケイのアバター、ルフィニのナイト役か!だからクラウゼは無意識にケイがバグったからナイトとして伍に飛んだんだ。健はレール国の繋ぎで飛んじまっただけみたいだが。優柔不断なクラウゼの行動はケイの感情のブレが原因だ」
「何を言っている?」
クラウゼはプラズマを不思議そうに見ていた。
「と、とりあえずよくわかりませんけどルフィニさんが本気です!」
いままで様子をうかがっていただけの健はあまりの事態に慌てて口を開いた。
「ワタシニ……勝テル、チカラヲミセテ!」
ルフィニは足元に魔方陣を出現させ、叫んだ。
……レール国最強の影の神ルフィニさんにレール国の騎士神団長クラウゼさんと戦うことになっちゃった……。
「どうしたら勝てる……」
マナは冷や汗をかきながらルフィニの魔方陣を見据えた。
……ここで勝たないと……納得させないと……。
「えぃこ!びぃこ!」
健のドールを召喚する声がした。
ルフィニの魔方陣から黒い帯状のムチが大量に飛んできていた。召喚されたえぃこ、びぃこが魔法使いスタイルに変わりすばやくルフィニの術を結界で弾く。
「クラウゼ、エルフェトゥクランバルイメィ!(本気でマナ達にかかって)」
ルフィニはレール国の言葉、ラトゥー語でクラウゼに命令した。
クラウゼはルフィニに軽く頷くと剣を出現させ、マナ達に襲いかかってきた。
雷を纏わせている。未来での出来事が頭をかすめた。クラウゼは太刀打ちできないほどに強かった。
「ど、どうしよう!?」
「んぎっ!!」
マナが迷っている最中、プラズマがクラウゼの剣を二丁拳銃で受け止めた。ほぼ力技だ。
マナを庇ったプラズマはクラウゼの剣におされていた。
「受け止めてどうする気だ」
「……っ!」
クラウゼの冷たい言葉が飛んだ刹那、雷がプラズマを貫通した。
プラズマは咄嗟に剣を弾き、霊的着物になったが弾き飛ばされて片膝をついた。体に電撃が走っている。ダメージを食らったようだ。
「プラズマさん!」
「霊的着物に着替えた。まだ平気だ……」
マナにプラズマは辛うじて答えた。
クラウゼは体勢の整わないプラズマにさらに追い討ちをかける。
次の剣技はマイが糸を絡めて封じた。
「私も手助けするぞ……くくっ」
マイは不気味に笑うとすぐに糸を切った。電撃が糸を伝ってきたからだ。
一瞬だけ隙ができ、マナ、プラズマ、マイはクラウゼの間合いから外れた。
「これからどうする……」
「クラウゼに俺達三人でかかるしかないな。健にはルフィニを抑え込んでもらわないと。あいつはドールを増やせるだろ?ひとりじゃない」
プラズマの言葉にマナは頷いた。もうそうするしかない。
「散り散りにまずは逃げて隙をうかがおう!」
「くっ!」
作戦を立てる暇もなくクラウゼが飛び込んできた。マナ達は散るしかなかった。三人はバラバラに逃げた。

四話

一方、健はできるかぎりの戦闘用ドールを操りルフィニの攻撃を防いでいた。
「えぃこ、びぃこの他に平次郎、あと強いじぅちゃんも追加!」
健の足元に魔方陣ができ、寡黙な和装の男の子型人形平次郎と楽観的に笑う着物姿の少女型人形じぅが雰囲気真逆で召喚された。
「あはは!敵はあれかあ!!よーし!」
じぅが笑いながらつまようじを構えた。同じく平次郎も厳しい顔つきのままつまようじを構える。
この人形達からするとこのつまようじは恐ろしい武器である。魔術のようにつまようじを硬化させられ、なぜか異様な破壊力を有する。
「サスガ、Kダワ……。使イハ、ドールナノネ……」
ルフィニは手から黒い球体状のエネルギー体を多数出現させ攻撃を仕掛けた。
えぃこ、びぃこが魔法使いスタイルのまま結界を張り、黒いエネルギー体を弾く。弾いた直後、平次郎とじぅがえぃこ、びぃこの後ろから飛び出した。つまようじを構えルフィニに襲いかかる。
ルフィニは五芒星の結界を出現させ平次郎とじぅの剣撃を弾いた。
しばらく攻防戦が続く。
「うう……強い……。だんだん指示と動きがバラバラになってきた……」
健は肩で息をしながらルフィニを崩す作戦を考える。
ドール達は単体でも強いのは強いのだが視野が狭いため第三者が司令塔になると本領を発揮するようだ。現在は健が四体のドールの司令塔でドール達にテレパシーで指示を飛ばしている。これはかなりの体力を使うのだ。
「しかし……私はひとりですか……。トホホ……」
健は逃げまくっている残り三人を何とも言えない顔で見つめた。

※※

「右だ!」
プラズマが叫ぶ。マイがマナに糸を巻き付け体ごと飛ばしてクラウゼの攻撃を左に避けた。正直マイがいなければマナは言われても反応できない。
「はあはあ……」
マナがいた所は電撃で黒くなっていた。
「そうか。先に別から叩いた方が良さそうだ」
クラウゼが剣を構えながら三人を睨み付けた。
「マイ!そっち来るぞ!」
プラズマが再び叫ぶ。感覚が研ぎ澄まされているのか少しだけ未来が見えるようだ。
「倒すどころではないな。くくく……」
マイはクスクス笑うと糸を円形にして盾を作った。そのまま両手で盾を持ちクラウゼの剣技を防ぐ。
盾はすぐに破壊されたが糸にゴムをいれていたおかげか電撃の餌食にはならなかった。
マイは盾が壊れる隙にクラウゼから距離をとった。
「これじゃあ皆精一杯だよ……。私ができることは……」
マナは必死に考えた。弐の世界に飛ばすのは意味がない。
頭を抱えているとふとプラズマの言葉が頭に浮かんだ。
……霊的武器は神々ならみんな持ってる……。
……じゃあ、もしかして私も?
マナはなんとなく手を開いてみた。
「おい!マナ!雷が!」
プラズマの言葉にマナがハッと我に返った。気がつくと目の前に電撃が迫っていた。
「電撃!くっ……お願い!なんか出て!」
マナは神にすがる勢いで汗ばむ手を握った。
「ん!?」
握ると右手に違和感があった。
なにかあるのはわかったが電撃をかわすために咄嗟に右手を差し出した。ほぼ本能的な防御だった。
刹那、キィンと異様な音がし、マナの右手が電撃を弾いていた。
「え!?」
マナは驚いて右手に目を向ける。
手のひらに小さな鏡がのっていた。
「鏡?」
「おい!マナ!生きてるか!」
プラズマがクラウゼを弾き飛ばしながらマナを呼んだ。
「う、うん。平気!」
マナは鏡を見つめた。なんで鏡が手のひらに……と思った時、霊的武器を私が望んだんだということに気がついた。
「と、いうことは!私の霊的武器は……鏡!?」
いまいち使い方がわからないが鏡は先程電撃を弾いた。盾になるということか。
……私も雷は防げるのか……。しかし、直接攻撃を仕掛けられる仲間がいない……。
……プラズマさんは遠方射撃だし、マイさんはサポートな感じだし……もう私が隙を作るしかない!
この鏡で。
「やる!!」
マナはプラズマが考えを組んでくれるのを期待して鏡をかざした。
「……っ!」
プラズマはすぐにマナに気がついた。電撃が四方八方から飛んで来る。クラウゼはマイに攻撃を仕掛けているところだった。
「……そのまま鏡をフリスビーみたいに投げろ!」
プラズマは突然叫んだ。マナは切迫した中、鏡を回転させて投げた。鏡は電撃を弾くとプラズマの前にカランと転がった。プラズマは鏡を拾うとさらに投げた。鏡はマイの方に飛ぶ。
またも鏡は電撃を弾いてマイの前に転がった。それを見計らいプラズマがクラウゼに銃を撃ち放つ。
クラウゼは軽やかに飛んでかわした。
「はーん。なるほど」
マイはイタズラな笑みを向けると鏡を真上に投げた。クラウゼが何かに気がつき鏡から僅かにずれた。しかし、プラズマが銃弾で鏡の位置をクラウゼの上に修正した。
先程鏡が弾いた電撃が屈折しクラウゼの真上の鏡にむかって集まってきた。そのままさらに鏡に弾かれて四方八方からクラウゼを襲った。
「ちっ!」
クラウゼは舌打ちをすると結界で電撃を弾きながら避け、間合いを取って着地する。
「終わったな」
「……!」
クラウゼのすぐ後ろでプラズマが銃を撃った。
パァンと派手な弾けた音がしたが出てきたのは弾ではなく網だった。
「……」
「ただの網じゃないぜ。硬直データ入りだ」
プラズマは得意気にクラウゼに笑いかけた。
クラウゼはため息混じりにその場に倒れた。
「な、なんか予想外だったけど、クラウゼさんを捕まえた!」
マナは動揺しつつ驚きの声をあげた。

五話

「クラウゼ……」
「さあ!後はルフィニさんだけ!」
ルフィニに向けて鏡をかざしたマナは呼気を荒げて叫んだ。
「クッ……」
ルフィニは一端攻撃をやめた。
「やめるならもうやめて!私はケイちゃんを救うために動いているのよ!前々からそう説明してるじゃない!わかってくれないの?」
マナはルフィニをしっかり見据える。ルフィニは攻撃を迷っていた。元々「K」は戦いが好きではない。このルフィニがケイのアバターならば戦いは好んでいないはずだ。
「自分を守ってくれる『ナイト』はいないぞ?男は戦うもんだと思っているだろ?お前。クラウゼに戦う事をなすりつけたな?」
プラズマが複雑な顔をしているルフィニに言い放った。
「チ、チガウ!ワタシダッテ……」
ルフィニが敵意を出した時、健のドール達がルフィニに襲いかかった。
「あっ!お前達!動くな!」
健は司令官の疲れが出たのか止める指示が遅れた。
「ルフィニになにもするな!!」
クラウゼが必死にもがいていた。
「ワタシハ……」
ルフィニは負けを認めたのが動かない。
「ルフィニ!」
クラウゼが再び叫んだ時、マナが飛び出した。
「止まって!!」
マナはダメもとで右手でドール達を凪いだ。凪いだ後、やたらと静かな時間が過ぎた。
マナは薄目を開けて状況を確認するとなんとドール達は皆消えていた。
「あ……」
「弐の世界に飛ばしたのか?」
皆が呆然としている中、プラズマが呟いた。
「そ、そうみたい……。な、なんとかなった……?」
マナはへなへなとその場に崩れた。マナは右手を凪ぐと対象を弐の世界に飛ばせるのだ。
まさか味方に使うとは思わなかった。
「すみません!緊張が緩んでしまって……」
健が慌ててあやまってきたのでマナはため息混じりに頷いた。
「いや、私も弐に飛ばしちゃったし……」
「大丈夫です。彼らは召喚を解くと弐の世界に帰りますから。また出てきますよ」
マナが後ろめたく思っていると健が安堵の声でそう言った。
すると、空間が歪みドール達が不思議そうな顔で現れた。彼ら、「K」の使いは弐の世界を自由に渡れ、弐の世界から出るのも容易である。元々人形が動くというのは想像だ。つまり弐の世界のモノなのだ。
「あ、もう用はなさそうだから帰っていいよ」
健が申し訳なさそうに言うとドール達はため息をついて消えていった。
「で?小娘は納得したのか?」
一通り確認してからマイがルフィニに笑みを浮かべながら尋ねた。
「……デモ、世界ハ、カエチャイケナインダ……。ダケド、ワタシガ、マケタナラ、世界ハ、アナタタチノ味方ナノカモシレナイ。ワカラナイ。……私が容認していいのかを」
ルフィニは最後の言葉だけ瞳が黄色に染まりケイになっていた。
それを聞いたマナは大きく頷いた。それを待っていましたと言わんばかりだ。
「じゃあさ、クラウゼさんを貸して!私のやり方、世界がやっぱり私を排除する結論を出したならクラウゼさんに判断してもらえばいいから。クラウゼさんなら正しい判断ができる」
「……負けたから……やっぱりカケてみる。クラウゼをつけるね。結局、前の判断といっしょか」
ルフィニにいるケイは複雑な表情のまま頷いた。前の判断とはおそらく、マナが見たマイのシミュレーションのことか。ワイズが見ていたのならルフィニができないはずがない。
「まさか、その判断をしたかったの?あなた、私達の未来を見たんでしょ?」
マナが尋ねるとルフィニが小さくうなずいた。
「それで……不安になったのね?システム的なのがまた反応したのかな?」
「リョウが……世界の事を聞いてきて私はもう一度考え直したの。ルフィニになって未来を見て……」
ルフィニ内にいるケイは消え入りそうな声でつぶやいた。
「リョウ……またあいつか」
プラズマがため息と共に頭を抱えた。
「なんだかおもしろいことをやるんだな。そのリョウとやらは。物語をかき回しているようだ。私がやりたいものだな……くっくっ」
「実際にかき回してるよね……」
マイの楽しそうな声にマナは肩を落とした。
「まあ、とりあえずクラウゼは仲間ということで?」
健が呑気にクラウゼの近くにしゃがみこんで尋ねてきた。
「ウン……ツレテッテイイ」
ケイがルフィニに戻りあっさり承諾した。
「やっぱガキだな。納得すりゃああっけない。はじめからわけわかんないことすんなよな……。しかし、あのリョウってやつはほんと……」
プラズマはぶつぶつ文句を言いながら硬直データ入りの網の解除作業に入った。
「最後はリョウ君とかをなんとかしないといけないのかな……」
マナは起き上がったクラウゼを見つめつぶやいた。

六話

「えー……なんだ。一緒に行くことになった」
立ち上がったクラウゼは言葉を濁しながらマナ達を見据えた。
「うん。よろしくね」
マナはとりあえず頷いた。
「デハ、クラウゼ、ヨロシク……」
ルフィニはそれだけ言い残すと光に包まれて消えていった。
おそらく、図書館からレール国に帰っていったのだろう。
「お前も大変だな……クラウゼ」
「……」
プラズマの視線にクラウゼはなにも答えずにそっぽを向いた。
「あ、セレフィアさん、結界を解いて大丈夫そうですよ」
健が場の雰囲気を全く読まずに本棚に張り付いていたセレフィアに声をかけていた。
健が声をかけると結界を張り、様子を見ていたセレフィアがのこのこと歩いてきた。
「あ~びっくりしましたね~。本が無事でとりあえず良かったです~」
「呑気なもんだな……」
セレフィアにプラズマが呆れたため息をついた。
「じゃあ、そろそろ行こうか?」
セレフィアに戦う意志がないことを確認したマナは皆を見回して尋ねた。
プラズマ達は軽く頷いて歩き出した。
「運命は……どうなるのかしらね~?」
セレフィアはマナ達の背中にそう問いかけてきた。
マナは一度振り返ると
「すべては世界に聞いてみる。私が運命を動かしているわけじゃない」
そう言って軽く手を振ると図書館の扉を開いた。

※※

図書館から出たマナ達は一息ついた。
「あー……ほんとヤバいと思った」
「それよりこれからどうするのだ?」
始終楽しそうなマイが崩れ落ちそうなマナに笑いかけてきた。
どことなくワクワクしているようだ。この神は相変わらず壊れている。
「クラウゼさんを仲間にしたから、次は時神を集める……かな?」
「ああ、そうでしたね。じゃあ……過去にいる過去神を呼べる神がいるっていう剣王のところに行くんですかね?」
健が首を傾げた。
「そうだね。クラウゼさんもいるし」
「俺を剣王に当てるつもりか……」
クラウゼはため息をついたが拒否はしなかった。
「よし、じゃあ……またマッシーを呼んで……」
健が胸ポケットをポンポン叩いてマッシーを呼んだ。
「はあー?寝てたんですけどぉー」
機嫌の悪いマッシーにまたあたふたしはじめた健は再び何かしらの契約をしているようだ。
ごはんを取れたてヒマワリの種にするとかなんとか話している。
「は、はい……大丈夫です……。行きましょうか……」
健は真っ青な顔色で眉毛をピクピク動かしながらマナ達を見た。
「大丈夫か?あんた……」
プラズマが呆れた顔で健に尋ねるとマッシーがため息と共に動き出した。
「ま、まあ……とりあえず、大丈夫です」
マッシーが無事に動き出し健はホッとした顔をした。
マナ達は前回同様ふわりと浮き上がりマッシーに引き寄せられるように動き出した。意識してもこの時は体を動かせない。
なすがままだ。
なので、ほぼマッシー任せになる。
少しふわふわ浮いているとネガフィルムが沢山絡まっているお馴染みの場所に出た。
「天記神の図書館までお願いします」
「わかったー」
健の言葉にマッシーはやる気なさそうに答えた。
ネガフィルムと宇宙の空間をしばらく進むと突然足がついた。
「ついたようですね」
健がつぶやいた時には森の中にいた。
「えーと……あっちが天記神の図書館だから、現世はこっちだ」
プラズマがあちこち指をさしながら確認をした。
森の奥に洋館らしい建物がある。おそらくあれは図書館だ。
プラズマが指したこっちは図書館がある森には入らない脇の道である。
「マッシー、ありがとう……」
「じゃ、約束よろー」
マッシーは青い顔の健に手を振ると再びハムスターとして健の胸ポケットに入り込んだ。
「ま、まあなんだ……。とりあえず行こうか?」
健の肩を軽く叩き、プラズマが気まずい雰囲気を少しだけ明るくした。ちなみにその様子をマイは心底楽しそうにクスクス笑っていた。
性格が悪い神である。
「マイさん笑ってますけど……行きますか……」
しゅんとした健がヘロヘロとプラズマが指差した方向へ歩き出した。
「健さん、元気出して!」
マナは一言健の背中に声をかけると追いかけていった。
一体マッシーと何の取り引きをしたのか?
まあ、大したことではないだろうが。

七話

なんとなく森から外れたところを歩いているといつの間にか現世の図書館にいた。本当にいつの間にかだ。何かの前兆もない。
もうあまり驚かないマナはさっさと図書館から外に出た。世界を左右するというのに何も知らない人間達は楽しそうにまたは黙々と本に向かい合っている。
人間達が神を創ったようなものなのに呑気なものだ。その神々のすることを黙って見ているだけの役目を持つKは元々は人間だ。人間の霊でさえも重要な任を担っているというのに現世を生きる人間達は神々を想像し、または先祖を敬い、神々に祈るだけしかできない。
そういうデータしか世界から与えられていないのだ。故に神は見えないし、霊は想像の存在となり、Kは平和をひたすら祈るだけのデータになっている。世界を動かしているのはすべて人間のかやの外でだ。
人間には世界を破壊するほどの欲がある。自分達だけが良しとする環境汚染や倫理観の逸脱などだ。その欲の抑制をするのが想像だ。これをすると神々がお怒りになる、先祖が悲しむ、バチが当たるなどの感情を生む。
想像ができるのは人間だけだ。想像が現実になるとこのような感情はなくなっていくかもしれない。
だから神々は見えず、霊は人々の心の世界に居座って生きた人間が迷った時にさりげなくささやく。
よく考えるとこちらの世界は本当にうまくできている。
「うまくできてるなあ……」
……それに比べて私の世界は……。
喉から出てしまいそうな言葉を飲み込み、自分がいた世界を思い浮かべてみる。
マナの世界は想像が消えた世界。リアルなものしか信じられない。世界は倫理観があまりなく、すべては証明が鍵となる。
よく考えるとケイも世界のシナリオの上にいるのかもしれない。彼女は世界初の歳を取らない人間。実験の成功例だ。
そのうち、なんでも知っている存在になり、偶像になり、生きた神になるかもしれない。
そうしてケイの発言で人々の欲を抑制していくのだろう。ただ、世界の誤算は人間の進み方が早すぎたということだ。
それで、マナのようなイレギュラーを生んだのか、それともマナが壱へ行ったから世界の進みが狂ったのかはまだわからない。
「おい、マナ。鶴が来たぞ」
プラズマに声をかけられマナは我に返った。目の前に籠を持った鶴四羽が疲れた顔をしてうなだれていた。ワイズのところでの事をやはり忘れられなかったのか。
とりあえず、マナは健達を連れて籠に乗り込んだ。
「西の剣王のとこまで行ってくれ。こちらにはレール国を結ぶ健とレール国のお偉いさんクラウゼがいる」
「……わかったよい」
プラズマの言葉に鶴は文句を言わずに頷いた。本来は高天原ゲートを潜らなければいけないところを健とクラウゼを使いパスしたのだ。
鶴はゆっくりと飛び上がり優雅に舞った。

八話

「来たか……」
剣王は城からマナ達の気配を感じとり笑った。
武の神なら皆興奮するだろう。
こちらの世界を守る防衛戦なのだ。士気を高めるには団結力が大事だ。これはうってつけであり、普段争いのないこちらの世界で防衛戦となればおおごとだ。
争いはないにこしたことはない。だから攻めるのではなく、脅威から守る方が燃えるのだ。
「あの時のように世界に多大な影響を与えてはいけないよねぇ……。やりたいことはわかっているんだ。それがしらが苦労してやった『脅威から守る行動』をあの現人神はひとりでひっくり返そうとしている。人間は人間のステージで生きるべきだ。これを超えようとした時、人は滅ぶ。……そう思うよねぇ?ヒメちゃん、ナオちゃん」
剣王は城の最上階の自室で障子扉から外を眺めてから問いかけた。
「剣王、私達はなぜ、拘束されているのでしょうか?」
袴姿の少女、霊史直神ナオは剣王の目の前に座り、そう尋ねた。
「……なにかまずいことが起きておるのじゃな?」
ナオの横に座っていた赤い着物に身を包んでいる幼女、流史記姫神ヒメも険しい顔で剣王を睨む。
「そうだねぇ……。とりあえず時神の過去神は呼ぶんじゃないぞ。何があってもね。人間の歴史を管理するヒメちゃんと神々の歴史を管理するナオちゃんは影響少なく参(さん)から彼を連れて来れるだろう?」
「ムスビがいないと私は過去神を呼べませんが……」
ナオの言葉に剣王はぴくんと眉をあげた。
「ムスビ?君といつも一緒にいる暦結神(こよみむすびのかみ)の事?盲点だったなあ……。その子、今どこにいる?」
剣王からゾクッとする神力が溢れだした。
ナオとヒメの全身に寒気が襲い、呼吸が荒くなっていた。
「ああ……ごめんねぇ。ちょっと気持ちが高ぶってて」
剣王の顔は笑っているが目は全く笑っていない。
「い、生きた心地がしないのぉ……。神力くらい自分で制御してほしいのじゃ……」
ヒメはナオに抱きつき震えていた。ナオはヒメの背中を撫でながら剣王が何に必死なのか剣王の歴史を読み探ろうとしていた。
神々の歴史を管理する自分なら剣王の隠されたデータを読む事ができると思ったのだ。しかし、何も見えなかった。
反転の世界、陸(ろく)の世界のナオならばわかったはずだが彼女は壱(いち)のナオである。自分が改変前の神々の歴史を消してしまった事に気がついていない。
あの重大機密に気がつかない限り剣王の記憶を読み取ることはできないのだ。
壱の彼女はそれに気がついていない。

※※

「西に入ったみたいだな」
鶴がひく籠に乗っていたマナ達はプラズマの言葉で顔を引き締めた。
西に入ったらすぐに剣王軍が襲いかかってきた。なんだか士気が高まっている。団結力がすさまじい。どんな脚力をしているのか木をつたって空を飛んできた。
「来たぞ!」
「よよい!降りるよい!」
鶴はまた巻き込まれると思ったのか低空飛行になってから籠をひいているヒモを切った。
「うわっ!切りやがった!」
「困ったものだ」
焦るプラズマと呑気なマイの声が響く。止まっていたのは一瞬で気がついたら下に落ちていた。
「うわわ!!」
「落ちます!」
それぞれの悲鳴が籠内で響き渡り音をたてて森の中に落ちていった。
籠は無惨に砕け散ったが落ちても平気なようになっているのか中にいたマナ達に怪我はなかった。
「この籠……丈夫なんですね……」
「そんなこと言ってる場合じゃない!」
呑気な健にマナは前方を指差し叫んだ。気がつくと剣王軍に囲まれていた。恐ろしい神力が辺りを覆っている。
「クラウゼさん!」
マナはクラウゼを呼んだ。
「……戦わせる気か……。まあ、いい」
クラウゼは手から霊的武器の剣を出現させた。
「お前は日本の神じゃねぇな?」
囲んでいる神の中から一度マイのシミュレーションで出会った狼夜が現れた。
「お前は……神か?」
クラウゼは剣を構えつつ尋ねる。
「半分な……。霊だったんだが人間から祭られて神になったんだ。俺は」
「こいつ……やたら運命がこじれる異端甲賀望月家の忍者のひとりだ。異母兄弟だと『更夜(こうや)』が言っている。四歳の時に父親からの暴行で死んだらしいが、なんで成長してんだか」
プラズマがマナに耳打ちした。
「暴行……!?」
「異端甲賀望月、すべての父、凍夜(とうや)のシゴキなんだと。よくわからないが……」
「自分の子供を殺すまで暴行するなんて……頭おかしいよ」
この情報はプラズマの心の世界、弐の世界に住む訳ありな『弐の世界の時神過去神』望月更夜(もちづきこうや)が調べてきた内容らしい。
しかし、少し前に起きた、白金栄次(はくきんえいじ)と望月更夜の事件をマナは知らない。故に更夜が誰なのかマナにはわからなかった。そんなことを気にしている余裕もない。
「とにかく、シミュレーションで出会ったあの強い狼夜さんだ」
マナの頬に汗がつたう。
シミュレーションの状態とほぼ同じ状況になっていることに気がついた。
……このひとはほんとに強いんだ……。でも、あの時と違うのはクラウゼさんがいること。
マナが警戒してると狼夜が突然語りだした。
「こういう悲劇的に死んだ人間っつーのは生きた人間を恨まねぇようにとか供養とか哀れみとかそんな理由で祭られんだよ。ちなみに弐は外見を変えられるからな、大人のまま霊魂生活してたらこのまま神になっちまった。半分な」
狼夜は丁寧に説明してくれた。なんだか他の剣王軍とは気持ちが違うようだ。敵なのは間違いないが。
「今は剣王からレンタルされてんだ。弐にいたんだが呼び出されてな。つーわけで……」
狼夜は霊的武器刀を出現させた。
「そうなるか……」
クラウゼも剣を構える。
他の剣王軍は黙ってみていた。日本の戦国時代の戦のようだ。一対一の勝ち負けを美としているらしい。
「あー、俺は形式的名乗りはしねーぞ。忍だからなぁ」
「……レール国ラジオール騎士神団長バーリス・クラウゼいざ参る……とでも言えば良いのか?」
クラウゼは真面目な顔でそう言った。
「なんでもいい」
狼夜はそう呟くとニヤリと不気味に笑い消えた。
「消えた!……ひっ!?」
マナが驚いているとマナのすぐ横で金属音が響いた。
「動くな」
気がつくとマナの前にクラウゼがいて狼夜の刀を弾いていた。
「はっ!やるねぇー!」
狼夜は軽く笑うと再び消えた。
「マナを狙ってきやがったか……。まあ、当然か……」
プラズマは額に汗をかきながら銃口をあちこちに向ける。狼夜が高速で動いているためプラズマは視界を振られていた。
狼夜は隙を見て大将マナの首を取ろうとしている。彼は忍なので元々の任務を果たそうとしているだけだった。
武士とは違うため元からクラウゼと一対一になるつもりはないようだ。
クラウゼは狼夜に攻撃を仕掛けている。動きが見えている上についていけているようだ。
「ばけもんか!あいつら!」
プラズマは銃口で追うのをやめた。
「この間に他の剣王軍を崩しに行きます?」
「お前、どうかしてるぞ……。俺達が総出でかかってもひとり倒せるかわからない」
健の呑気な発言にプラズマはため息をついた。
「大人しくしている内はこちらも動かないか……ククッ……つまらんな」
マイが愉快そうに笑っていた。
「私達がクラウゼさんを助けようとしたらまわりの剣王軍はどうするかな……」
マナのつぶやきにプラズマが青くなった。
「クラウゼにひとりで余裕で勝ってもらわないと次が続かない……。皆一対一になるぞ」
「ククッ……ならばどうする?わかりきっているが……」
マイを睨み付けたプラズマは銃を再び取り出した。
「一対一の戦いを無視しろ!どうせ勝てない!全員で防衛してクラウゼを援護するぞ!たぶん、そしたら剣王軍はいっきに襲ってくる!もう逃げらんねぇ!やるぞ!」
「ですよねー」
プラズマの宣言に健が人形を召喚しながら呑気に答えた。見越して最初の発言をしたのかは怪しい。
「もう逃げても仕方がない!やるよ!」
マナも手から鏡を取り出し強そうに構えた。

九話

「この男……やたらと強いと思ったら持っている刀が刀神だな」
クラウゼが重い斬撃を受け流しながらつぶやいた。
「まあ、正解だ。名前はちぃちゃんとか言うらしいぞ……ククッ」
クラウゼに攻撃を加えながら狼夜はイタズラな笑みを浮かべた。
『ちぃちゃんじゃないっすけど……アニキ……。あれはサキ様が勝手に……』
狼夜が振るっている刀が困惑したように話し出した。この刀はどういう経緯かサキに名前をつけられたようだ。
「まあ、いいからさっさとやるぞ!おっと」
狼夜は軽く流すとクラウゼの剣撃を危なげにかわした。しかし、顔は笑っている。
「クラウゼ!俺達はこいつらを崩すぞ!」
プラズマが剣王軍をみまわしながらクラウゼに大声で宣言した。
クラウゼはそれでなんとなくわかったのかため息をついた。
剣王軍はプラズマの声を聞き、突然全員が構えた。
「やっぱりな……マナ、マイ、健、切り崩して進むぞ……」
「うん!」
マナの返答に余裕のない笑みを浮かべたプラズマは銃を剣王軍に向かってぶっぱなした。
それを合図に剣王軍が襲いかかってきた。
「突っ走る!」
マナは鏡を握りしめ走った。
剣王軍は容赦なく刀を振る。マナを狙ってきたがマナを健のドール達が守ってくれた。
「さて、まだ加担しといてやるか。演劇殺陣強化の糸」
マイは糸をドールに飛ばし人形達を強化した。
「どなたか、どなたか時神過去神を呼べる神はいませんか!?」
マナは飛んでくる剣撃に怯えながらもハッキリと叫んだ。
剣王軍は返答しない。
「難しいな……流史記姫神!……とかいねぇか!?」
プラズマがヒメちゃんの名を叫びつつ銃で攻防していた。
「ん?なんだ?これは」
攻撃を糸で防いでいたマイが足元に光る何かに気がついた。
淡い緑に光るのは五芒星だった。
よくみるとクラウゼやプラズマ、マナ、健にも五芒星が展開していた。
「おい!足元!」
「え!?」
プラズマがマナに叫んだ刹那、淡い光が強くなりマナ達はホログラムのようにその場から消えていった。
剣王軍は突然消えたマナ達に驚き戸惑っていた。
「はぁーん、あれか。暦結神(こよみむすびのかみ)……だな」
狼夜は意味深な笑みを浮かべてつぶやいた。

※※

「ん……ん?」
マナが気がついた時、奇妙な場所にいた。
「どこ!?」
「しーっ……」
マナが声をあげるとかぶせるように男の声がした。
「だれ!?」
「しーっ!」
マナが叫ぶとすかさず静止の声が返ってきた。
辺りは茶色だ。なんというか、洞窟のような感じである。灯りは蝋燭が所々にあり、風があるのか炎がゆらゆら揺れている。
「てか、お前は……」
隣にいたプラズマが先程の声の主を指差した。
いつの間にかマナ達の前に青い短髪の優しそうなひ弱そうな青年が立っていた。
「ああ、俺は暦結神だよ。君達、剣王に喧嘩売ったんでしょ?頼みがあるんだよー」
暦結神はフレンドリーに笑いかけてきた。マナ達は警戒を解かずに眉を寄せる。
「あー、そんな顔しないでよ。俺は剣王に捕まったナオさんとヒメちゃんを助けたいだけなんだよ。君達は剣王に喧嘩売ってるらしいから協力できないかなーとか思って……」
暦結神は慌てて言葉を付け加えてきた。マナ達は少しだけ警戒を緩めた。プラズマが言っていた神々の名前が出たからだ。
過去神を呼ぶ事ができる神は少ない。その神々が現在剣王に捕まっていること、そしてこの神が助けようとしていること、無駄に探さなくても良くなった上に仲間になりそうな神が出てきたこと、このチャンスは捨てられない。
「深いことは聞かないけど、手伝ってくれるなら手伝って!」
マナは代表でそう答えた。
「いいよ。ぜひ、同行させて!俺ひとりじゃ無理だったよ」
暦結神はほっとした顔で頷いた。
「ところで、ここはどこなのだ?」
会話がきれたタイミングでクラウゼが入ってきた。
「ここ?ここは剣王の城に行くための地下通路。なんか秘密基地作りたかった神が通路を通したんだって。都合がいいから使わせてもらった。ワープ装置で君達をここに飛ばしたのさ。ヒメちゃん達を探してるみたいだったし」
暦結神は隠すことなくすべて話した。
「で?結局ここはどこだ?」
マイがとても楽しそうに暦結神に尋ねてきた。
「なんで笑ってるのかわかんないけど……ここは剣王の城のすぐ下だよ。それより、君達は神力のコントロールできるの?」
「神力のコントロール?」
「って何?」
暦結神に問われ、一同は首を傾げた。
「げっ……」
暦結神はさあっと血の気がひいた。
「まさかずっとそうやってだだ漏れな……。いますぐ神力落として!見つかる!!」
「俺はやっているが?」
「どうやるのでしょう?」
クラウゼは平然と答えたが残りは皆戸惑いの表情をしていた。
「ああ……もうダメだ……。見つかったよ……。とりあえず剣王の城の最上階にナオさん達がいるみたいだから最上階まで来て!じゃ、俺は先に!あ、ここまっすぐ行けば城内に行くから!」
暦結神は早口でまくしたて一本道を指さすとワープ装置を作動させ、マナ達を置いてさっさと消えていった。
「な、なんだったんだ……」
「よくわかりませんが……先に進んだ方が良さそうですよ……。反対側から足音聞こえます」
戸惑うプラズマに健がささやいた。
「剣王の城の方へ走ろう!」
「あ!ちょっと待てよ!」
マナはすぐさま走り出した。こういう判断力と大胆さが今までの経験でとても早くなった。
プラズマ達は困惑しながらも後を追いかけ、不気味な洞窟の先へ進んでいった。

十話

洞窟をひたすら進むとハシゴにたどり着き、上に上がれるようになっていた。ここは地下のようなので地上につながっているのだろう。
健が聞いた足音というのはどうも上から聞こえるようだ。つまり、この秘密の道からマナ達を追っているのではなくマナ達の気配を感じた剣王軍が地上部分でマナ達を追っているということらしい。
「このハシゴのぼって上のフタ開けたら囲まれてるぞ……また」
プラズマがうんざりした顔でハシゴの上にあるフタを指差した。
「どうやって最上階まで行くか考えていたら終わるな……くくっ」
マイが楽しそうに笑った。
「く、クラウゼさん……様子見を……」
「俺に死ねと言っているのか?」
マナが恐る恐る尋ねるとクラウゼから不機嫌な一言が返ってきた。
「しかし……誰もあのフタを開けて入ってきませんね?もしかすると入り口が見えない加工がされているのかもしれません」
健がなにげに重要な事を言った。
「ああ!確かに」
「そうだね。上で私達を探しているみたい。ここがバレていないわ」
マナも足音を聞きながらつぶやいた。
「それがわかっても解決しないな……」
クラウゼはため息をついた。
マナ達がまごまごしていると上から突然衝撃が走り爆発音が響き渡った。
「なっ!?」
マナ達が一斉に上を向く。視界に剣王が映った。
「っ!」
マナ達の顔色が一瞬で青くなったがマイだけはけらけらと笑っていた。
「ああ、やっぱりここだねぇ。結界をこじ開けさせてもらったよ」
剣王が恐ろしいまでの冷笑でこちらを見ていた。
「けっこう強めな結界だったみたいですが……」
健が震えながらつぶやいた。
「向こうから来てくれた……。剣王が大将なら剣王を倒して……」
マナの言葉にプラズマが真っ青になって止めた。
「やめろ!あいつは破格だ!正直クラウゼでも勝てない」
「いいよ。私がやるから!やらなきゃ何も変わらないんだ!逃げても意味ない!戦わなきゃここで終わるんだ。だったらやるしか……」
「ああ、それなんだが……シミュレーションでも見せたナオから盗んだこれが……」
マナがプラズマに決意を語った時、マイが黄緑の勾玉を取り出してきた。
「ん!それは!ワープ装置!剣王の城に行ける!」
「さあ、どうする?」
「今から使って!すぐに!」
マナが叫ぶのと剣王が飛んでくるのが同時だった。マイは冷笑を浮かべるとワープ装置を作動させた。
マナの目の前を剣王が持つ刀が通り過ぎようとした時、マナ達はホログラムになり消えた。

※※

「はあはあ……。皆いるか?」
プラズマが肩で息をしながら声をかけた。
「み、皆いるよ……こ、ここは……」
マナは真っ青な健やクラウゼを見て笑っているマイを確認すると辺りを確認した。
マナ自身も足が震えていた。歯もカチカチと鳴っている。あれだけ戦う意志があっても実際はこんなものだ。圧倒的な相手には弱者は震えてきっと実際は何もできない。
いつ剣王が来るか冷や冷やしながら辺りを見るとマナは廊下にいて両端は障子扉で閉められていた部屋があった。おかしなくらい静かで障子の奥には入りにくそうな雰囲気が漂っている。
「城の最上階のようだな」
マイは勾玉をお手玉のように投げて遊んでいた。
「なんで最上階に来たんでしょう?」
「霊史直神……ナオがここにいるんだ。その勾玉、ナオのなんだろ?持ち主にワープしたんだ」
健の疑問にプラズマが小声で答えた。
「なるほど……。この障子扉の奥に……」
「やあ。なんだか知らないけどよくここまで来たね?」
マナが扉を開けようとした時、暦結神、ムスビが小声でささやきながら現れた。
「あなたは……」
「まあ、とにかく俺は拘束されてるナオさんとヒメちゃんを助けたいんだけど、結界が強すぎて無理なんだ。俺は剣王軍だからここまで来れたけどあんた達はすげぇな」
「別にすごくはないけど……結界が強いの?」
「障子扉が開かないんだ」
「障子扉が開かないか……」
「おい!」
マナが考えてるとクラウゼが叫んだ。マナの耳元にごうっと風の音がした刹那、重厚な金属音が響いた。
「っ!?」
マナは驚きそのまま尻餅をついた。目の前でクラウゼが剣王の剣を防いでいた。火花が散っている。
「いっ……」
気がつくとマナの頬から血が滴っていた。剣王はマナの首を狙ってきたらしい。
剣王はあっという間にマナ達の居場所を見つけ、襲ってきたようだ。
「け、剣王……」
「そう簡単にはいかないんだよねぇ」
剣王には笑顔はなく恐ろしいまでの神力がそのまま溢れ出ている。
健が素早くドールを出し、マイが殺陣強化の糸を纏わせた。
ここには剣王以外他の剣王軍は来ていない。剣王がひとりで大丈夫だと言ったのかもしれない。
「やはり戦わないとダメか」
プラズマが銃を出して構えた。
「どこまでも追ってくる……。覚悟を……」
マナは手から鏡を取り出した。
ムスビはじりじりと後ろに下がり状態を眺めている。
「しかし……クラウゼ君、邪魔なんだけど……」
「仕方あるまい……」
剣王はクラウゼと攻防戦を繰り広げながらため息をついた。まだまだ余裕なのだ。
健のドール達も攻撃をするが軽く流されている。
プラズマが放つ銃すらも避けられている。
正直、絶望しか感じない。
「後ろから失礼」
ふと冷たい声がマナの後ろから聞こえた。構える時間もなくマナは床に叩きつけられた。
必死で顔を上に向けると押さえつけていたのは狼夜だった。
近づかれていても全く気が付かなかった。
考えたくないが剣王がおとりになったようだ。狼夜を使いマナを捕まえたのだろう。
「くっ……」
「マナ!」
「もうやめろ。マナは狼夜の手だ。君達が戦う理由はない。……今手を引けば罪に問わないであげるよ」
剣王は優しい顔でゾッとするほど冷たく言い放った。
クラウゼは動きをやめなかったが健とプラズマは迷って手を止めた。マイは状況を楽しそうに眺めている。
「もう終わりだ。あんたに恨みはないが……消えてくれねぇか?」
狼夜は特に躊躇なく刀を首元に持っていった。

十一話

マナはもうだめだと悟った。
押さえつけられ動けない。
プラズマと健は狼夜の出方と剣王の出方がわからず戸惑い動かない。
マイはマナを試すように微笑を浮かべながら様子を見ていてなにもしない。
クラウゼは剣王に攻撃をしかけるがかわされて攻防戦で動けていない。
……誰も動けない……。
やっぱりダメなのだろうか……。
私の考えは受け入れられないのか。
でも……私は頑張ったよね……。
私は頑張った……。
なんとなく諦めの気持ちになってきたとき、誰かが叫んでいた。
「……おくれ!」
「ん?」
「やめておくれ!女の子になにしてんだい!」
「あれ……この声……」
ぼんやりした頭で前を向くときらびやかな赤い着物に身を包んだ頭に太陽の王冠を被った少女が剣を構えて立っていた。
「サキ……さん……。え!?サキさん!?」
マナの前に突然サキが現れた。狼夜の後ろから現れたので剣王とは逆から出現したことになる。先には廊下はなく壁なのでそちらから来ることはありえない。
そもそもワイズ領で天御柱神と交戦していたはずだ。
「どうやって……」
「あーあー……めんどくさいのが来ちゃったねぇ……」
マナの声に被せるように剣王がうんざりした声を出した。
「ワープ装置を使ったのさ。みーくんからいただいてねぇ。みーくんをサクッとやっつけて」
「……『思兼神』はなにやってんだ……」
剣王は余裕がないのか『ワイズ』と呼ぶことを忘れていた。おそらく昔、ワイズはワイズと呼ばれず思兼神と呼ばれていたのだろう。そして少女ではなかったはずだ。
元々は老人の知恵を集めた神。
おじいさんだった。Kの少女のデータを世界改変時に知恵として受け、今の姿に落ち着いたのだ。
一部の神しか知らない事実である。
一瞬時が止まった時、
「サキ……どうするの?」
ふとアヤの声がした。
アヤの声が聞こえた刹那、剣王の顔にはじめて焦りが浮かんだ。
またも一瞬時が止まり、サキの後ろからアヤが不安げに顔を出した。
「アヤ!?」
「アヤさん!?」
プラズマ、マナも目を丸くして驚いた。
「時神現代神アヤさんですね……」
健が確認をとるとアヤは健を見て複雑な表情を浮かべ、小さく頷いた。
「なぜここに……」
「あたしがワイズから助け出したんだ。マナ達はわかると思うけど、アヤがあたしに電話をかけてきた時にみー君との話をしたじゃないかい。それであたしを心配してみー君がいるワイズの城まで来てね、見事に拘束されちゃったわけで。仕方なくあたしがガツーンとアヤを助けてワープ装置でワイズと正反対の剣王の城に来たってわけだい」
サキはキラキラと光る腕輪をかざした。
ワープ装置には色々な形があるようだが基本的にデータが浮き彫りになっている高天原しか渡れないようだ。
自分のデータを転送先に入れ込むことで転送先に自分の姿が現れるという仕組みらしい。
「サキさん!障子扉を破って!神が拘束されてる!」
マナはサキを使うことを思い立ち叫んだ。
「神……」
「余計な事を言うな……。狼夜、早く消してしまえ」
剣王が底冷えするほど冷たい声で狼夜に命令した。
「……ったく」
狼夜が刀を引こうとした刹那、サキが狼夜に炎を飛ばした。狼夜は驚きマナを抱え飛び退いた。狼夜は右手で刀を持ち、左腕でマナを締め上げる。
「あぶねーな。仕方ねぇだろ。このまま首をやるしかねーか。悪いと思うなよ」
「っ!」
マナの首に狼夜の腕が食い込んできた。すごい力だ。元々普通の少女と変わらないマナが男の力にかなうわけもない。
「やめておくれ!」
サキが剣で狼夜に斬りかかるが狼夜は刀で弾いた。
サキは炎を纏わせマナを救いにかかる。
一方で健とプラズマは攻撃をしかけてくる剣王を必死で抑えていた。と、いうよりクラウゼの助力をしていた。マイは不思議となにもしない。状況を楽しんでいるようだ。
「……神が拘束されてるのよね……。……私、何かできるかしら?」
アヤは小さく呟いた。
剣王はアヤに気がつき、言雨(ことさめ)を発した。
「動くな!!」
剣王の言葉ひとつひとつが鉛の雨のように周りを襲う。
アヤ、プラズマ、狼夜、マナ、マイがその場に倒れ、何かに襲われるように頭を床に押し付ける。まるで剣王に土下座をしているようだ。頭をあげることができない。
サキとクラウゼはかろうじて立てている。健は全く感じていないようだ。きょとんとした顔を向けている。
「剣王っ……!俺まで食らっちまってるぞ!」
狼夜が苦しみながら叫んだ。
「そうだ!あたしが……」
サキが鉛のような体を無理やり動かし、アヤとマナの前に立った。
するとアヤとマナの体が軽くなり自由に動けるようになった。
サキが剣王の視線を塞いだためだ。
「はあはあ……はあ……う、動ける……」
マナは肩で息をしながら狼夜から逃げ、アヤの元へと進んだ。健もマナに続いていそいそとやってきた。
「なんか異様なんで怖くてきちゃいました」
健は場の雰囲気に似合わない呑気な声でマナに耳打ちしてきた。
言雨が解かれ、皆の体が動くようになるかならないかの時に剣王がマナ達めがけて飛び込んできた。
「っち!」
そこをすかさずクラウゼが止めに入る。クラウゼを援護するべくプラズマは冷汗が滴る中、フラフラしながら剣王に向かい銃を放った。
かわされたが邪魔にはなった。
サキは狼夜が動けない隙にみー君にもした『拘束くん』で狼夜を拘束した。
「ったく……俺を巻き込んで言雨なんてやんじゃねーよ」
狼夜は悪態をついていたが拘束されたことにどこか安堵しているようだった。頼まれたが元々あまり乗り気ではなかったようだ。
だからなかなかマナに手をかけなかった。
こちらの世界の神々は元々とても優しい。
「あたしが結界を解くよ!」
サキが意気込んだがクラウゼが剣王に押され始めた。
「強くなってきたな……」
「俺のタガを外したのはお前らだ……。どうなっても知らぬぞ……」
剣王は一人称が変わるほど別神になっていた。タケミカヅチ神本来の気高い神力が辺りを覆う。
「お前……」
クラウゼは目を見開いた後、顔を引き締めた。
「自分の『本来の神力』を自分で産み出した『偽りの神力』の鎖で押さえつけていたのか……。信じられん。どこまでの力をお前は持っているというのだ……」
クラウゼの問いかけに剣王は答えず最上級の武神、または雷神としての気高さ、静かな冷たさ、炎のような激しさ、そして威圧をクラウゼにぶつけている。
目の前に佇む剣王。
音がなくなった。
姿もなくなった。
目の前に見えているのに感じない姿。激しさを感じるのに静かな姿。
これこそ神の存在。
「お父様……お力を。アメノホハバリ」
剣王が呟くと手に刀が現れた。
きらびやかな装飾と長い刃。
モノではなく生命を感じる刀。
「あ、あれは……伝わっていたはずの……神話……。カグヅチをあの刀で斬った後の血から産まれたというタケミカヅチ神……。そういえば元は……」
アヤが小さく呟いた。
アヤの瞳が黄色に光り、エラーだと知らせている事に健が気がついた。
「アヤさん……瞳……が……」
「イザナギの……刀……。……それっておかし……アマテラスはっ……サキの……」
アヤは頭を抱えてうずくまった。
目には怯えが浮かび、震えている。
「アヤ!どうしたんだい!?」
サキがアヤを揺するがアヤはブツブツと何かを言っている。
「……現代神が思い出した。この世界の矛盾に……。いま起こっていることだから現代神にはいち早く世界が『変化したデータ』を送っているんだ。壊れてもらっては困るからね」
剣王が恐ろしいほど静かにそう言った。
「………よそ見してんなよ……」
プラズマがそう呟き、銃を放った。
「世界からの制約は多少壊しても元に戻せる……」
剣王は特に焦るわけもなくふつうに話している。剣王の左手ではプラズマが放った弾がパラパラと落ちていた。
「くそっ……避けもしねぇのか……」
プラズマが冷や汗を流しながら呟いた。
クラウゼは雷を纏い、剣を振りかぶる。剣王の刀と剣がぶつかった。重い音が響いた直後、突然クラウゼが吹き飛んだ。追い討ちをかけるように規模が違う複数の雷がクラウゼを襲った。
結界が張られているのかこの廊下はびくともしないがクラウゼは派手に倒れた。
「い、異常だ……。なんだその……刀は……」
クラウゼはフラフラと立ち上がるがあちらこちらを負傷したようだ。一撃でほぼ動けなくさせられた。
「く、クラウゼさん……っ!」
マナが叫ぶが剣王は止まらない。
「とにかくさっさと障子扉にかかっている結界を解いてさっさと逃げるよ!誰もあれには敵わない!そこの眼鏡さん、もう少し抑えといておくれ!」
「……長くはもたん……」
サキの言葉にクラウゼは剣を構え直し、雷を纏わせた。
「私が手助けします!」
健が多数のドールを出し、クラウゼにつけた。

十二話

一方で障子扉の奥の一室に監禁されているナオとヒメは外の様子をうかがっていた。
「音も遮断されているみたいですね……。気配も何もわからなくなっています。ここまで強力な結界を張る意味とは……」
「おーい!誰かおらんのかー!」
考えているナオとは裏腹にヒメは障子扉を叩き存在をアピールしていた。
「ヒメさん、外に声は届いておりませんよ。残念ですが……」
「結界を壊すにはどうすれば良いのじゃ?」
ナオの言葉に振り向いたヒメは不安げな顔をしていた。
「私達では壊せません……。ん……。ちょっとお待ち下さい……」
「なんじゃ?」
ナオがまた考え込んだのでヒメは半泣きでナオに詰め寄った。
「この結界はデータの網です。もしかすると過去のデータを空間に出せれば現在の結界データが書き換えられるのではないでしょうか?未来でもいいのでしょうが私達は歴史神ですから」
「どうするのじゃ?」
ヒメは少し落ち着きを取り戻しナオの元までやってきた。
「時神過去神を呼びます……」
ナオの発言にヒメは驚いた。
「ナオ殿!剣王がダメだと言っておったぞい!第一、ムスビ殿がいないと……」
「ヒメさんは人間の歴史を管理している神……。時神過去神は人間の過去を守る神。そして私は神々の歴史を管理している神……。ムスビがいないので結んで実体化はできないかもしれませんがヒメさんと私が関われば過去神の『実体がないデータ』だけは持ってこれるでしょう。そうすれば結界のデータに過去のデータを割り込ませられますよ」
「な、なるほど……よく考えつくの……。しかし、結界を壊したら後が怖いのじゃ……」
淡々と説明したナオにヒメはまた不安げな顔に変わった。
「この世界には秘密があります。私はそれを知りたい。私が悪者になってもかまいません。あなたは私に強制的にやらされたと言えば良いでしょう」
「……重大な選択じゃな……。しかし、本当にやるのかの?覚悟は本物か?わしは良いぞ。罪を被ると言うのならばわしには罪がない故」
ヒメはナオの覚悟をうかがった。
「はい。協力してください」
「うう……本気か……仕方あるまい……。わしは罪を被るのは嫌じゃぞ?」
「ええ……わかっています」
半泣きのヒメを説得し、ナオは過去神の巻物を手から出現させた。
巻物はデータの塊を具現化したものである。これは神々の歴史を管理しているナオならではのデータの保存法だ。
「ヒメさんは人間の時代だった過去神のデータを持ってきてください。データを混ぜて過去神のデータを繋げます。結べませんからデータは流れるだけですが結界には影響するでしょう」
「わ、わかったのじゃ」
時神は元々人間から生が始まる。
となっている。
人間から徐々に自分の時間が止まり神になるようだ。
と一般的には言われている。
記憶した内容は間違っているかもしれない……。
「では!わしは……」
ヒメは古い映画のフィルムのように白黒の画像を出現させた。
ヒメが人々の歴史を管理する時はこういう感じで管理しているらしい。
画像は変化しており、着物姿の少年が戦時中の悲しみを心にしまいながら武士へとなっていく部分が流れている。そこから先はなく、画像は再び少年に戻っていた。
これは時神過去神の人間だった時の歴史だ。若々しいが武士になった部分から彼は人間ではなくなっている。
そこから先の歴史はナオが管理する巻物に書かれているのだ。
「これを合わせて……データに……」
ナオが巻物を画像に向かって放った。巻物は画像に吸い込まれ、真っ白な光と共に電子数字が溢れた。言葉でも数字でも表せられない『なにか』がドーム状に破裂した。
「うわわわ!!な、なんじゃー!」
「データが入り込みました!結界が割れます!うまくいって!!」
ナオがヒメを抱き締めながら畳に伏せた。
「ナオさん!助けにきたよ!!屋根側からだけど隙を見た!な、ナオさん!?」
その時、廊下側ではない反対側の障子窓からムスビの声がした。
「えっ……むす……」
ナオは戸惑い、口を開きかけた時、天守閣の屋根部分に立っていたムスビに過去神のデータが思い切り吸い込まれていた。
「むっ……結ばれるぞい!!実体化する!!」
ヒメが叫んだ時にはもう遅かった。
「んん!?」
結界が弾け、廊下側から解こうとしていたサキ達は衝撃で吹っ飛ばされた。
「な、なに!?」
倒れてからすぐに起き上がったマナは状況がわからず叫んだ。
「ナオめ……余計なことを……」
剣王は顔をさらに厳しくすると戦っていたクラウゼを弾き返した。
クラウゼは廊下に叩きつけられ唸っていた。
「……もう無理だ……。お前達でなんとかしてくれ」
クラウゼは肩で息をしながらマナ達を見て言った。
「ちっ!俺じゃあ相手にはならないが……」
プラズマは銃で剣王を至近距離から狙うが全く当たらなかった。
「くそっ!」
「じゃああたしが!」
プラズマの脇から飛び出したサキが剣王の刀を危なげに弾いた。
「いい加減にしろ!どこまで邪魔する気だ!アマテラス!お前が望んだのだろうが!!今さらこちらに戻りたくなったか!」
「何を言ってるのかわからないよ!!」
剣王の刀をまた危なげにサキがかわす。
「お前は……アマテラスから魂をわけた存在だ……。それはアマテラスの意志なのだ」
「アマテラス……」
サキは母親との事を一瞬だけ思い出したが首を振って消した。
その時、電子数字の波がひき時神過去神が現れた。
総髪に袴姿。
眼光は鋭く、まさに侍だ。
「白金……栄次!?」
驚きの声をあげたのはアヤとプラズマだった。
「というと……過去神ですか?なんで!?」
健も後から叫んだ。
「なんだ……剣王の城か?」
過去神栄次はプラズマとアヤをみて首をかしげた。
「なんだかよくわからないけど……時神がそろった」
マナがつぶやいた刹那、マイの横からワイズが現れた。
「私めがけてワープしてきたか。ワイズ……くくっ」
マイは楽しそうだったがワイズは必死の顔をしていた。
「剣王!何をしているんだYO!お前の強力な結界のせいで状況が読めんかったではないかYO!すぐにナオの対応をしろ!!」
ワイズは剣王に怒鳴った。
「……データを取り込まれぬようにナオを隔離するべく結界を張ったのだ……。暦結神を先になんとかするべきだったか……。……時間が止まるぞ……」
剣王がつぶやいた。
破れた障子扉の奥でムスビとヒメがナオを揺すっていた。
「ナオさん!ナオさん!」
「どうしたのじゃ!突然!」
ムスビとヒメが必死に声をかけている。
「矛盾……むじゅん……矛盾……これも……あれも……矛盾……むじゅん……」
ナオは天を仰ぎ、力なく座りながらぶつぶつと言葉を発していた。
瞳が黄色に輝き、大量に巡る電子データの数字のあちこちにエラーが出ている。
「……そうか……陸(ろく)の世界のナオと繋がっちゃったんだね……」
サキがナオを見てそんな事を言った。
「輝照姫(サキ)……まさか陸(ろく)でも同じ事が……」
剣王はサキに向かい表情なく尋ねた。
壱(いち)と陸(ろく)は同じ世界だ。二つあることによりバックアップを取り合い、データに欠陥がないようにしている。
ただ違うのは昼夜が逆転していることだ。太陽神、月神は人々を助けるだけではなく、壱と陸を交互に監視している。
本来、壱と陸には同じ者がいるが、太陽神、月神は両方の世界を行き来するため一体ずつしかいない。太陽、月と共に移動し二つの世界を見守るのだ。
世界を渡れる霊的太陽、霊的月に住みながら。
「陸(ろく)では……ナオはすべてを知っているみたいだよ。あたしはよく知らないけどねぇ」
サキが剣王に答えた時、時間が突然止まった。
「ときが止まった!」
アヤが一番敏感に感じ取ったようだ。
マナが見回すと健や健のドール達、クラウゼ、マイ、ヒメ、ナオ、ムスビは石のように動かなくなっていた。
「皆……止まってる……けど……」
マナが見るなかで時神とサキ、剣王、ワイズには動きがあった。
「……剣王、今ならまだ間に合う……その娘を……」
「邪魔はもういないか……ナオの件はあとで……」
ワイズに言われて剣王は刀を再び振りかぶった。
真っ二つになりそうな衝撃が風と共にマナを襲った。
マナは鏡を出して応戦しようとしたがその前に何かが弾いてくれた。
「お前は!」
「いやあ、タケミカヅチ。おはようさん。腐れ縁だねー」
剣王の前に立っていたのは紫の特徴ある髪と甲冑を着た男だった。
「……すっ……スサノオ様!」
マナは混乱した頭でかろうじて叫んだ。

十三話

「ほー、今回は情報が変わっちゃった奴がいるのか」
スサノオは軽く笑いながら時神達を見ていた。
「スサノオ様……まさかシミュレーションのこと……」
マナが尋ねるとスサノオはニカッと笑った。
「まあな。またこっちに入り込めて良かったぜ。今回はシミュレーションしていた奴はぶっ倒れたか!愉快愉快」
スサノオは時間の止まっているマイをちらりと横目で見た。
「お前はスサノオか……。シミュレーション同様に楔が抜けた」
ワイズは悔しそうにスサノオを睨み付けていた。
「あー、お前は思兼神だな?俺はマナについている。こっちのが楽しいぜ?」
「……すべてはお前か……。毎回安定のしない性格……。守ったり壊したり突き放したり良心的だったり……」
「俺はこういうデータなんだ。しかたねーだろ?人間が言う善悪が拮抗してんだよ。俺はそういう神だ」
「向こうに行っていれば良かったが」
ワイズはどこか古くさい言い回しでつぶやくとつけていた三角形のサングラスを乱暴に外した。
サングラスは派手な音を立てて割れたが割れた破片が飛んだまま止まった。時間が止まっているからだ。
ワイズの目には沢山の電子数字がびっしりと隙間なく流れていた。
「ワイズがサングラスを外した……」
プラズマが目を見開いて驚いていた。ワイズは常にサングラスをしており、いまのいままで目を見たものはいない。
「すべてのデータを取り込んでしまうからな。私にとって邪魔なものを遮断するサングラスだ。しかし、スサノオのデータはどちらにしても入ってくる。うんざりだ。お前を向こうに閉じ込めるためにデータを取り込んでやる」
「あー、怖い怖い。……マナ!そこのボーッとしてる時神が世界を停止させてくれたから小娘使ってアマテラスを呼び出せ!あいつは俺が抑えてやる」
スサノオはサキを小娘と言い、剣王を挑発的にあいつと言うと不気味に笑った。
「ど、どうすれば……」
「とにかく、サキにきいてみるぞ」
プラズマが困惑していたマナを引っ張り大混乱しているサキの元に連れていった。頭に「ハテナ」マークのついている栄次とアヤは怯えた表情で後ろをついてきた。
「ちょっ……これはなんなんだい?」
サキは辺りの時間が止まっていることと先程の現象の謎を考え、フリーズしていた。
「ちょっとシミュレーションから外れたけど……サキさん、アマテラス様を連れてきて!」
「そんなこと言われてもアマテラスなんて見たことないし、どうやるんだい?」
「わ、わかんないけど……」
マナはサキに聞き返されて戸惑った。
「……そういえばサキ、お母さんがアマテラスを体に宿したんじゃなかったかしら?」
いままで話さなかったアヤが小声で自信なさそうにつぶやいた。
「そういえばそんなことがあったな……」
栄次も小さくつぶやいた。
これはサキが太陽神になる前に時神を巻き込む大事件があった時を指す。この件についてマナが知っている内容はない。
「しかし……俺はどうしてまたアヤやプラズマがいる世界に飛んだのだ?時間も止まっている……。また何か問題が……」
栄次は動揺と困惑がある程度収まったのかやっと謎の現象に口を開いた。
「まあ、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだ」
プラズマがため息混じりに栄次の肩を叩く。
スサノオと剣王が戦い始めた。
スサノオはアマノムラクモノ剣という剣を出現させたようだ。
いままでとは次元が違う。そのまま世界が滅びそうな感じだが時間が止まっている空間内なので風もなければ衝撃もなく、物も壊れないため重たい金属音しか響かない。しかし、気迫と雰囲気で近寄れば文字通り消し飛びそうなのはよくわかる。
故に戦闘ができないワイズはかなり距離をおいて悔しそうにこちらを見ていた。
もしかするとデータを取り込んで対策をしようとしているのかもしれない。
「とりあえず、なんとかしてアマテラスをこちらに連れてくんだ……。健とか倒れてるやつはたぶんそのままで大丈夫だから心配しなくていいだろ……」
プラズマの言葉にマナは小さく頷いた。
「なんか申し訳ないけど……今のうちにアマテラス様をなんとか……」
「だからあたしはわからないって」
マナの視線にサキは頭を抱えた。
「何かアマテラス様に繋がるものは……」
「……そういえば……太陽にアマテラスの巻物があったね。陸(ろく)の世界に行った時に陸(ろく)のナオが神々の歴史の矛盾部分に気がついてあの巻物を盗ったんだけど、後で返されてねぇ。なんかに使えたんじゃないかね?」
「ナオさんって今、時間が止まっている神でしょ?それ、今出せる?」
ピンときたマナはサキに詰め寄った。
「データ収納に入ってるんじゃないかい?」
サキは恐々と左手についてる腕輪を指差した。
「じゃあ、出して!」
「わ、わかったよ……」
サキはマナに押されつつ腕輪の電源ボタンを押してアンドロイド画面から異色な巻物を取り出してきた。
「こ、これ……だよ」
巻物は古びた巻物で開きにくい雰囲気が漂っている。
「中を見てみようか」
マナは冷や汗をかきながら巻物を開けた。開かなそうだったがマナが開けるとすんなり開いた。
「開いた……」
開けた瞬間にくずし字で書かれていた何かの文章が光り出して電子数字に変わり、弾けて飛んでいった。
その電子数字は過去、現代、未来それぞれの時神に吸い込まれると再び吐き出され少しデータが変わった状態でマナに入っていった。
「なんだ!?」
プラズマ他、アヤ、サキ、栄次は驚いていたが状況は進み、マナの体から再び出てきた電子数字はマナの目の前で形作られてアマテラス大神になった。
太陽の王冠にスサノオと同じ紫の高貴な髪を腰まで伸ばしている。
服装はサキに似ており、柔和な顔が安心感を生んでいた。
「あら……あら?わたくしは……ん?壱の世界でしょうか?ここは……」
アマテラスは落ち着いた声音でマナを見てそれから時神達を見てサキに目を向けた。
「……あ、あんた……もしかして……アマテラス大神……ほんとにいたんだ……うっ……」
サキがアマテラスを認識した刹那、サキはその場に倒れた。
「サキさん!?」
「サキ!」
マナとアヤの声が同時に響き、栄次がサキを支えた。
「気絶したぞ……」
栄次が言った通りサキは突然に気を失った。
「はい。わたくしの魂を半分、あの子には渡していますので矛盾が生じたのでしょう。太陽を変わりに見てもらうために魂をわけた存在なのですよ。わたくしがこちらにいたことはなかったことにされていますからエラーが出たのでしょう」
アマテラスは焦ることもなく答えた。
「サキさんは大丈夫なの?」
「問題ありません。わたくしがこちらに来たからなのですから」
「な、なんかよくわかんないけど、いいんだね?」
アマテラスの返答にマナはとりあえず頷いた。
「で?こっからどうするんだ?サキは置いといて……いろんな奴が気絶しておまけに時間も止まってるし後には退けないぞ?」
プラズマはアマテラスをちらりと見た後にマナを見据えた。
「そ、そうだ!鍵!鍵をください!」
マナは突然にシミュレーションの事を思い出し叫んだ。
「鍵は渡せませんね……。あの方が邪魔を……」
アマテラスは不気味に佇むワイズを手のひらで華麗に示した。
「ワイズ……」
プラズマがワイズを睨み付ける。
ワイズは無表情で目に映る沢山の電子データをいじっているように見えた。
「あの方が常に変動する何億とも言えない膨大な数字データを『留める』というコマンドにそのつど変えているため鍵を渡せないのです。シミュレーションでわたくしが持つ鍵のデータをあの方は解析してしまった……。知恵の神とはいえ恐ろしい……」
「じゃあどうすれば……」
「弟に……ツクヨミに会ってきなさい。こちらの世界は一時的に改変前に戻っております。ツクヨミはわたくし達の神話では影。本当はいなかったかもしれない弟なのです。神話ではツクヨミの行動はスサノオに変わっています。わたくしの影である彼は夜。月が統べる世界、もしくは海原を守っています……。わたくしとは違う鍵を持っていることでしょう。あなたが改変をよしとするならばわたくしがあの方のデータをできるかぎり邪魔するようにします。……世界は……迷っています。改変するかしないか、それぞれのデータをぶつけて記録を取っています。わたくしはすべての人間、生き物を救う神でありますから伍の世界の者達をわたくしの手で救わねばならないようです」
「アマテラス様……私はどういうデータなのかな……」
マナはアマテラスを見上げ自分の存在意義を問いかけた。
「あなたは……極端なデータはないでしょう。世界のシステムと同じなのかもしれません。日本ではアマノミナヌシと呼ばれている神と……」
アマテラスはマナに軽く微笑むとそっと目を閉じた。
刹那、ワイズの顔が曇った。
状態はわからないが先程言っていた邪魔をしているらしい。
そこからは話しかけても口を開いてくれなかった。
「ね、ねぇ……これからどうするのよ……」
いまいち状況が読めていないアヤは恐る恐る尋ねた。
「……ツクヨミ様がどこにいるかだよね……。夜の世界で海原……月……ということは弐の世界……かな?アマテラス様が生きている者達を太陽の元に見守っているとすると月のように静かに眠っている者達を見守っているのはツクヨミ様だ。幽霊と言えば夜だし、アマテラス様の逆をいくなら正しい気もする……」
マナの言葉にプラズマが口を挟んだ。
「待てよ。どうやって弐に行くんだ?健はいないぞ」
「思い付いたの。よく考えたら私、弐の世界に神々を飛ばせるよくわからない特技を持ってる。敵対してなくても飛ばせると思う。やってみたい」
マナは時神達を見据えて小さくつぶやいた。
「なるほどな。やってみな」
ポカンとしているアヤと栄次をよそにプラズマは軽く笑いかけた。

十四話

「よし……じゃあプラズマさんから……」
「俺から!?」
マナの言葉にプラズマは後ずさりをした。
遠くでは剣王とスサノオが激しくぶつかり合っており、少し離れた所でアマテラスとワイズが瞑想している。剣王とスサノオは拮抗しているがアマテラスとワイズの方はワイズが優勢のようだ。アマテラスに余裕はない。
「急がないとワイズが勝っちゃう!」
「わ、わかった……」
プラズマはため息をつくと恐々と目を閉じた。
「別に目を閉じなくても……」
「なんかこえーんだよ」
「とりあえず弐の世界に飛べたら待機ね!」
「うーい……」
マナはプラズマの抜けた返事に頷くと腕を振り上げ左に切った。
プラズマは五芒星に包まれスッと消えていった。
「……できる!」
マナは興奮ぎみに頷くとアヤと栄次に目を向けた。
「あ、あなた……弐の世界に飛ばす力があるの?だ、大丈夫なのよね?」
アヤは不安げに栄次とマナを見つめる。
「俺を見てもわからぬぞ……。状況が全くわからん……。何が起こってるのだ……」
栄次はアヤに戸惑いの表情で答えた。
「とにかく、説明している余裕はないので!えーと……過去神栄次さん……だったよね?侍を初めて見たけど感動している余裕もない!えーい!!」
マナは有無を言わさずに栄次も弐の世界へ飛ばした。
「お、おいっ!」
栄次は困惑したままホログラムのように消えていった。
「あとは……アヤさん」
「恐怖しかないわね……」
アヤはひきつった顔でマナを仰いだ。
「後でまた!」
マナはアヤもさっさと弐の世界へ飛ばした。
「……あとでなんとかしなさいよ……」
アヤは一言あきれたように言うとため息をついて消えていった。
「さて……私だけど……」
ついさっきこの能力に目覚めたが自分を弐の世界に飛ばしたことはない。
とりあえず、手のひらを自分に向けて頭から腰にかけて撫でるように斜めに動かしてみた。
「どうかな……」
心配しながら待つと足元に五芒星が現れマナを包み始めた。
「うまくいった!?一発で!?」
マナは足からホログラムのように消えていった。
「……んむ……」
ザァーザァーと静かな波の音がする。マナは恐る恐る目を開けた。
「ん?」
目を開けるとそこは砂浜だった。
夕日か朝焼けがわからないがオレンジと紫が入り交じったきれいな空に海が反射し、キラキラと輝いている。海はどこまでも海で後ろに広がる砂浜はどこまでも砂浜だった。
「きれいなところね……」
ふとアヤの声が聞こえた。
「俺はなんか不気味だ。きれいすぎるものは近寄りがたいな」
栄次の声も聞こえる。
「お!マナも来れたか」
マナの少し先でプラズマが砂浜を歩いてきた。
「海の世界に出たらしいんだが、波の音しかしないんだよ」
「……海……もしかすると……」
「僕をお探しかな?」
ふと男の声がした。この声は聞いたことがある。
「ツクヨミ様だ……」
「正解」
すぅっと足から光に包まれ現れたのは高貴な紫の髪をし、水干袴を着た長身の青年、ツクヨミだった。
「やっぱりツクヨミ様!」
「ツクヨミって……さっきのアマテラスといい……概念になった神がなんでいるわけ?」
マナの発言にアヤはいぶかしげにツクヨミを見た。
「あれ……時神が全員エラーかあ。こりゃ大変だねー。僕は世界が微妙に改変前に戻ったから改変前の場所にいるだけだよ」
「改変って……?」
アヤと栄次は首を傾げていたがプラズマが強引に話を進めた。
「で……あー……そうそう!鍵!鍵だよな!マナ!」
「ん?あ……そうそう!鍵!」
「鍵ねー。アマテラスはくれなかったの?」
ツクヨミはのんびりマナとプラズマに尋ねてきた。
「妨害されて鍵を出せないの!だからツクヨミ様のとこに行きなさいって……」
ツクヨミは黙りこんだ。マナの言葉をひとつひとつデータにして真意を確かめている。
神様に嘘をつけないのはニセの言葉が貼り付けられても中の本当のデータを読み取れるからだ。
リンク名の下に隠されているリンクURLを透視できるのと一緒か。
「……どうやらそのようだね」
ツクヨミは軽く頷くと手から白銅鏡を取り出した。不思議とキラキラ輝いている。
「それは……鏡?」
「うん。鏡。前は目だったけどなんか怖いでしょ?鏡にしちゃったのさ。僕とアマテラスが産まれたものなんだ。これ」
「それが……鍵?」
「アマテラスと共通して持っているのがデータは違うけどこの白銅鏡。この中に入れば黄泉の国にいける。そこにいるのはね……。イザナギとイザナミさ」
ツクヨミの説明にマナはまたわからない事が出てきた。
「イザナミ、イザナギ?昔に信じられていたっていう神様?そこに行くとどうなるの?」
「イザナギ、イザナミを説得させて混沌としていた日本をデータ化し実体化させたアマノミナヌシの矛を手に入れるんだよ。そんでアマノミナヌシのデータに侵入する。まあ、このアマノミナヌシだって人間が想像してできた神なのかアマノミナヌシが世界を回すために人間を造ったのかよくわかんないんだ。だから世界も日本もニワトリかたまごかの状態さ。本来は実体がないんでデータの改変の仕方はわからないよ。僕は」
「とりあえず……」
「この鏡の中へどうぞ」
ツクヨミは白銅鏡を海に照らすと砂浜に置いた。
白銅鏡にはなぜか海が映っている。
「海が鏡の中に……」
アヤが白銅鏡を覗き、不思議そうにつぶやいた。
「溺れそうだね……」
「反応が独特よね……あなたは」
マナのつぶやきにアヤはため息をついた。
「じゃあこの鏡に飛び込んで」
「飛び込む!?」
ツクヨミの一言に目を丸くしたマナ達は声をそろえて叫んだ。
「そう」
ツクヨミは特に表情なくそう言い放った。
「まあ、何度も言うが……俺は何も……」
栄次の戸惑いはさらに激しくなった。栄次は何も知らずに突然現代に飛ばされ、弐の世界へ飛ばされ、最後には聞いたこともない世界へ連れていかれるのだ。戸惑いがこれだけで済んでいるのが長年の経験か侍だからか。
「溺れないのかな?」
「あんたはそれしか疑問はないのか?」
マナのつぶやきにあきれたプラズマはため息混じりに頭を抱えた。
「溺れないよ。そういうデータはないから」
ツクヨミは丁寧に答えてきた。
「良かった。じゃあ、行こうか!」
「行こうかって……ためらいもないのかよ……」
プラズマは渋い顔をしてつぶやいた。
白銅鏡に躊躇せず足を入れたマナは吸い込まれるように消えていった。
「あいつ!マジでふつーに行きやがった!!」
「なかなかためらわれるが……行かなければならぬのであれば仕方あるまい……」
驚くプラズマに栄次がため息混じりに答えた。風貌は若いがじじくさい所がある栄次である。
「とか言いながら誰も行かないじゃないの……。私が先にいくわ。じゃあね」
アヤがあきれた顔のまま鏡に足をつけた。アヤも吸い込まれて消えた。
「女達のが強いようだね。全く情けないなあ」
ツクヨミが軽く笑った。
「全くだ。ここまできたら行くしかあるまい。では……」
「待った!俺が先いくよ!最後は嫌だ!」
プラズマが慌てて栄次を止めた。
「はあ……では先に行け」
「す、すまんね……」
プラズマは苦笑いのままあやまると足を鏡につけた。緊張した顔が消えると栄次も足をつけた。
「時神も連れてくるとはあの子は本当に……」
ツクヨミの声は海のさざなみの音にかき消された。

十五話

「ん……」
マナが目を開けるとどこかの神社にいた。鳥居があるがとても古く、今にも崩れてしまいそうだ。
山の中にあるのか辺りは鬱蒼とした森だった。
石段には苔が生えている。
「ここは……?」
「ずいぶん古い神社だな。俺がいる時代より前はこんな感じだったぞ」
マナの隣には栄次がいた。
侍が神社前に立つとしっくりくる。
「ということは過去だわね」
マナより先に辺りを見て回っていたらしいアヤが石段を登ってきた。
「過去の空間なのかよ?不思議だな……。変な生き物の石像もあるし」
後から現れたプラズマは震えながら不思議な石像を見つめていた。
「石像?……あ、ほんとだ。これは狛犬っていうんだよ。こっちの世界の神は知らない?」
マナは不思議そうに尋ねた。神がこんなにいる世界で狛犬を知らないとは……。
「……狛犬……これが?へぇ……狛犬は知っているけど石像とかは見たことないわ。というよりいたっていう伝説だけ知ってるわ。存在は知らない」
「なんか見たことあるような気がするが……」
アヤは首を傾げていたが栄次は唸っていた。
「神社で狛犬の石像が建っているのを昔の写真で見たよ。……そういえば……こっちの神社で見たことない……」
マナはいままで行った神社に石像はなかった事を思い出した。
石灯籠はあった気がするが。
「昔はあったのか?俺は千年以上生きてるが見た覚えはないなあ」
プラズマは石像を眺めながらつぶやいた。
「え……千年!?」
驚いたのはマナだけだった。
「ああ、プラズマと栄次は未来と過去をずっと生きているのよ。というより、プラズマは過去の事を全然覚えてないじゃないの」
アヤがため息混じりにプラズマに言った。
「俺は未来神だぞ……過去は覚えきれねぇよ……」
「そういえば栄次は覚えていそうだったわね?」
「すまん……。そんな気がしただけかもしれん……」
栄次はうなだれたがマナは気がついた。
「世界改変だ……。狛犬の記憶を改変の時に消したんだ……」
「そんなの消してどうすんだよ……」
「狛犬は神の使いだった。でもこちらの世界の神々の使いは鶴だったよ」
「うーん……」
時神達は唸りながら黙り込んだ。
とりあえず、狛犬を怪しむように上から下から見ていると
「あ?てかてめーら、さっきからジロジロみやがってん!なんだコラ?ああ?」
「うう……そんなに……怒らなくても……うう」
ガラの悪い男の声と消え入りそうな女の声が驚くことに石像から聞こえた。
「えっ!?今、声が……」
マナが再び狛犬に目を向けると無角の狛犬からガラの悪い男の声が響いていた。
「ったく、どこん神よ?なめてんのかん?ああ?」
「ガラの悪い石像だな……」
「栄次、そこじゃない。なんで石像がしゃべってるのかを突っ込めよ……」
栄次はずっと混乱続きで逆に冷静になっていた。プラズマはため息をつきつつ、石像と距離をとる。
「うう……人っぽくなりましょうか……うう?」
もうひとつの有角の石像が小さい声でつぶやいた。
「ああ?ここは大事な空間だぞ?ズカズカ入ってくんじゃねぃ!ああ?」
突然無角の狛犬が人型の男になり突っかかってきた。
「ガチガチのガラ悪男だな……」
プラズマはため息をついた。
ツンツンした灰色の髪を上げて額を出し、渦巻き柄の羽織袴、そして鋭い目、キバも生えている。
「元……神の使い……」
アヤは苦笑した。
「うう……。あーちゃん……うう……突っかからないで……うー」
一方、有角の狛犬は大人しめな女に変わった。同じく灰色の髪をしているが性格を表すように腰までまっすぐ大人しく伸びている。眉毛が麿眉のかわいらしい顔つきに大人しめな渦巻きの着物を着ていた。
こちらにはツノが額からニョキッと生えている。
「対照的……だね」
マナも苦笑した。
「何見てんだ?ああ?……うーちゃん!こいつらよー、ズカズカジロジロよぅ!!見やがるんでー」
あーちゃんと呼ばれた無角の狛犬はマナ達にガンを飛ばしつつ有角の狛犬うーちゃんに優しく言った。
「『あー』と『うー』……あうん……阿吽の呼吸だね」
マナが特に意味のないことをつぶやいていると
「で……こっからどうする?マナ……」
プラズマが小さい声でささやいてきた。
「……そうだね……アマノミナヌシのデータに入りたいんだけど……その前にイザナミ、イザナギ様から矛を……」
マナはあーちゃんに少し圧されながら小さな声で呟いた。
「ああ?主様は大切なんでぇ!怪しいやつは通せねぇんだよ!ああ?」
「うーんと……うー……追い出すしかないのかな……うー……システム上、『世界改変』を望まない私達データに勝てるかどうかで決めるよ……うう……」
「世界改変を知ってる……データだってことも知ってる……。データに勝てないとダメなのか……」
マナはあーちゃん、うーちゃんを睨み付けた。
「では」
あーちゃん、うーちゃんの瞳が緑に光り、突然に五芒星が足元に出現する。そのままあーちゃん、うーちゃんは吸い込まれ、次に出現した時には大きな獅子のような生き物になっていた。
「うっ……」
マナ達はあまりの大きさに言葉を失った。
『さあ!構えやがれぃ!叩き出してやらぁよ!』
合わさった狛犬は吠えた。凄まじい風圧と神力がマナ達を襲う。
「これは……まずいわね……」
「栄次!なんとかしてくれ!」
「おい……」
アヤとプラズマは素早く栄次の後ろに隠れた。
栄次はため息混じりに腰に差していた刀を抜いた。
狛犬は覆い被さるように飛んで来る。狛犬の鋭い爪と栄次の刀が重たい金属音と共に重なった。
「……っ!」
しかし、栄次は苦しそうだった。じりじりと草履が地面に食い込み押されている。
「栄次!」
プラズマが栄次の名前を叫ぶと栄次はすばやく頭を下げた。物が弾けるような音がその後から響く。
狛犬は慌てて栄次から距離をとった。
「当たらなかったか」
プラズマは銃を構えていた。破裂音は銃を撃った音だった。
「プラズマ、気がつかなかったらどうするつもりだった……」
「そりゃあ、パーン!だろ」
栄次の問いにプラズマは半笑いで答えた。
狛犬はなおも飛びかかってくる。
爪に得たいの知れないエネルギーを纏い、辺りを凪ぎ払った。
風圧がマナ達を襲い、立っているだけでは耐えきれずに吹っ飛ばされた。
マナは咄嗟に鏡を構え風の衝撃を吸収した。
その間、アヤが社内へ入り込む。
「アヤさんが奥にある社を調べてくれてるから私達は狛犬を抑えよう!」
「アヤ……度胸あるな……」
プラズマはあきれた声でアヤを見ながら言った。
狛犬はアヤに気がついていないのか鋭いキバを向けて再びこちらに飛んできた。
「構えろ!」
栄次が強く言葉を発し自らも刀を構え直す。プラズマは網が出る銃を構え、マナは鏡をかざした。
再び狛犬と栄次がぶつかった時、プラズマは網が出る銃を発射。
しかし、再び軽やかに避けられた。
「また避けられた!」
「捕まえるのは難しそうだね」
栄次は狛犬とギリギリの戦いをしていた。早く勝負をつけないと勝ち目がない。
プラズマは銃をやめ、霊的武器の弓を手から出現させた。
「やっぱ、弓っしょ!」
四本近く矢を持ち弓を放つ。常人にはできない四本同時打ちの技だ。
矢はプラズマの神力を纏い狛犬の手足を狙って飛んだ。
マナは狛犬の気を引くべく狛犬の右側へ移動し先程鏡で吸収した風を巻き起こした。
栄次は左から斬り込んだ。
狛犬は避けようと上へ飛んだが神力を受けた矢が四本、狛犬を追って空を舞った。
『……っ!?』
狛犬は矢を飛び上がりながら避けたが突然に上からかかった謎の衝撃に地面にめり込みながら倒れた。
「なっ!なんだ!?俺の矢は当たってないぞ!」
「私よ」
プラズマの横にいつ戻ったかアヤがいた。
「お前……怪力だな……あんなのを地面にめり込ませるなんて……」
「違うわよ。社にあったものを使ったの」
アヤは倒れた狛犬を指差した。
「んん?なんだあれは……」
狛犬にはとてつもなく長い剣が刺さっていた。
「あんなの持てたのか?」
「持てたというか……データの塊みたいなのが社内にあってとりあえず触ってみたら飛んでっちゃって気がついたらあんな長い剣に……し、死んだの?彼ら……」
アヤは動揺していた。
しばらくすると狛犬がモゴモゴ動きだし先程のふたりに戻った。
「いたた……何しやがる!ああ?」
「うう……そ、それは……イツノオハバリ……十束剣……どこから……」
「イツノオハバリ?」
「アメノオハバリと一緒だ!イザナミ様がカグヅチ様を斬った剣だ!!んなことも知らねーのか!ああ?」
あーちゃんが再び突っかかってきた。
「わけわからんがまあ、大事なもんってのはわかったぞ……」
プラズマはため息混じりにつぶやいた。
「カグヅチって……概念になった神じゃないかしら?実際にはいないんでしょ?イザナミとイザナギはいることは知ってるけど見たことないわね」
アヤはふたりの狛犬が無事だったことに安堵しながらつぶやいた。
「改変していなくなった神ってこと?なんで狛犬は改変前の記憶を持っているの?」
マナは気になったことを尋ねた。
「うう……私達は……改変前のバックアップを歴史という形で残す神々の使い……完全にはデータを消せなかった……。なぜなら……改変後の変換された歴史だけだと矛盾ができるから……うう」
「ああ?俺達ぁ!概念になったっつー神を守っている神の使い!なめんじゃねーぞ!ああ?」
「なるほど……」
うーちゃん、あーちゃんのシステムがかなりわかった。聞いたら素直に答えてくれるとは。
「じゃあ勝ったからイザナギ、イザナミ様に会わせてね」
「あー?……っち……仕方ねーな!いけや!」
あーちゃんは投げやりに社を顎で指した。
「ありがとう」
「あっけないな……」
栄次は頭を抱えつつ刀を鞘に戻した。
あーちゃん、うーちゃんが見守る中、マナ達は社の前に立った。
「何が待つかわからないけど、行こう!」
「お前は常人じゃねーな……やっぱ」
まだまだ希望を持ち続けるマナにプラズマはため息をついた。

十六話

社内に入り込んだマナ達は首を傾げた。社内は何もない。
あるとすれば白銅鏡か。
「なんにもないんだけど……」
「そう。私がさっき忍び込んだ時も何にもなかったわよ」
アヤが答えた時、先程のイツノオハバリとかいう十束剣がゆっくり社内に入り込み、データに変わり輝きながら白銅鏡に吸い込まれていった。
「……ん?」
マナ達は同時に目を細めた。
突然、暴発するかのように光が溢れだし、データの波がマナ達を鏡の中へと引きずり込んできた。
「なっ!?」
「そのままでいて!」
動こうとした栄次をマナが止めた。
「次のよくわからない世界に入るのね……」
アヤは戸惑いながらつぶやく。
「アヤも普通じゃないが……やっぱりマナは普通じゃない……冷静すぎんだろ……」
プラズマの言葉を最後にマナ達は鏡に吸い込まれていった。
「ん?」
しばらくじっとしていたマナはゆっくり目を開けた。
「ここは?」
辺りを見回して驚いた。
「弐の世界……か?」
マナ達が立っていた場所はネガフィルムが絡まる弐の世界とそっくりな世界だった。
「弐の世界だけど下には落ちないわね」
アヤが宇宙空間のような世界を指差しつぶやいた。
「ほんとだ……落ちないな……」
プラズマは不気味な状態に顔を青くしている。
「じゃあ、ここは弐の世界じゃないんだ。どこなんだろう?ここ……」
「もう順応しかけてんのかよ……」
好奇心満々のマナにプラズマはため息をついた。
「……っ!」
「うわっ!!栄次っ!突然なんだ!?」
プラズマの横で栄次が刀の柄に手をかけていた。
「すまん……気配を感じてつい……」
「あぶねーやつだな……。てか気配!?なんかいんのか?」
プラズマは怯えた表情でなんとなくアヤの肩に手をかけた。
「ちょっと……」
アヤがあきれた顔でプラズマを見た。
「わ、わりぃ……俺、お化け屋敷とか嫌いなんだよー……」
「そういう問題じゃないと思うのだけれど……」
「……来たぞ……」
プラズマとアヤの会話を栄次が遮った。
すぐ目の前で白い靄が集まってきていた。それはだんだんと形になっていき、最終的には女性の形になった。
「どうも」
「……っ!?ど、どうも……」
女性は優しく丁寧に挨拶をしてきたのでマナ達も慌てて挨拶を返した。
三貴神と同じ紫の高貴な髪を耳の横で丸めて結んでいるがとても髪が長いようで残りの髪は足先まで伸びていた。白衣(しらぎぬ)のような物を纏う、美しい女性である。
「えーと……もしかすると……」
「イザナミ。弐の世界のバックアップの世界に何の御用?ああ……黄泉の国……で日本版ワールドシステムの玄関口でもある」
マナの問いかけに女、イザナミ神は再び丁寧に答えた。
「い、イザナミ!」
「黄泉の国?」
「バックアップの弐!?」
「でもってワールドシステムの入り口!?」
さらりと言ったイザナミ神に時神三人はそれぞれ動揺の声を上げた。
「ええ。すべて正解で……それで?」
「あ……えーと……アマノミナヌシ……だっけ?……その世界に行きたいんですけど……」
イザナミ神はあまり感情が出ないタイプのようでマナは見透かされている気がしながら答えた。
「てか、こんなに混乱事項がいっぱいあるのに普通に尋ねるのかよ!」
マナがすんなり流したのでプラズマは思わず叫んだ。
「わたくし、イザナミ。一般的に日本方面の弐のバックアップをとっている。ちなみにツクヨミ、弐の世界の霊達を守る。世間でどう言われているかはわからないがそれが事実」
混乱事項がうんぬん言ったからかイザナミ神は再び表情なく答えてくれた。
「それよりも……アマノミナヌシの……」
「マナ、一応話を聞いてからにしたらどうかしら?はやる気持ちはわかるけど」
アヤにそう言われマナはとりあえず唸りながら頷いた。
「ワールドシステムは矛が必要。矛は混沌としていた日本をデータにして存在させたイザナギが持つ矛。つまり、日本のデータ」
「どこで手に入るの?」
「イザナギに交渉しなさい。わたくしはここにいるだけだから」
「イザナギ様はどちらに?」
マナは唾を飲み込みながら尋ねた。嫌な予感がする。『交渉』とは単純に『会話をする』ではないだろう。
「あちら」
イザナミはすっと白い指で目線の先を指差した。
目で追っていくとネガフィルムの世界の先に鳥居と島が見えた。
島の下は岩肌が見え、しめ縄が巻かれている。島というよりも岩が浮いていると言った方がいいのかもしれない。
「あそこにいるんだね」
「ええ」
イザナミは小さく頷いた。刹那、島が突然に瞬間移動してマナ達の前に現れた。
「!?」
「突然前に!?」
頭が真っ白になっているうちにマナ達は鳥居をくぐらされていた。
「ちょっ!?」
「え……」
戸惑いが大きくなってきた時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「やあ。未来通りな感じだね」
「この声……」
マナ達は原っぱに立っていた。目の前には海が、後ろには山が広がっている。海辺は岩肌がゴツゴツと出ており海水浴場な感じではない。どこか懐かしさを覚える日本の風景といった感じか。
昭和以前の自然を切り取ったかのような場所だ。
「ひさしぶりかな。リョウだよ」
日本の風景から飛び出してきたのはTシャツに短パンに野球帽をかぶる少年だった。
「リョウ!」
プラズマがいち早く反応した。
「マナ、君はやっぱり時神を全員連れてきたね。未来通りだよ。ここ、覚えているかい?」
リョウは微笑みながらマナに優しく問いかけた。反対にマナは顔色が悪くなってきていた。
「まさか……戦争が……」
「覚えてるみたいだね。僕が見せたあの未来の場所だよ。君にはふたつの選択肢が残った。ここでイザナギに消されるか、動いてしまった世界をただ見ているか」
「滅びの未来じゃないでしょ?まだ伍とこちらは繋がってないじゃない!」
マナはリョウを睨み付け叫んだ。
「いや、繋がったというか改変前に一時戻ったんだ。分かれる前の段階だから繋がったのと一緒さ」
「そんな!」
「だからやめたらって言ったんだよ。うまくいくわけないんだから」
「そんなわけっ……!」
「マナ、落ち着け。今まででお前は何を見てきたんだよ。あいつのデータを解析してみろ。世界は迷っているんだろ?」
「……!」
プラズマが小さな声でマナに耳打ちした。
「そうだね」
マナは冷静さを取り戻し、かけていた眼鏡を外した。
データに変わったリョウが現れた。
リョウのデータは……
バグを誘発して他のシステム達に世界の在り方について問いかけるシステム。
「……そうか……バグを誘発して……そういう神なんだ……」
「で?どうするんだい?戻る?もう戻る選択肢もないけど」
リョウは微笑みながら海を眺めた。
そこへリョウと同じくらいの背丈の少女が走ってきた。
「リョウ君!何してるの?あ!あなたは……シミュレーションで……」
少女は幼い風貌に怯えの色を見せてつぶやいた。
「あなたはあやちゃんだね?」
マナはシミュレーションで一度だけ会ったことがあった。時神アヤの元のデータで健の娘だ。
「あなたがあや……私と一緒……」
アヤは自分によく似た幼い少女をせつなげに見据えた。
時神アヤが寂しく感じないように夢の中で幸せな生活をおくる役目を持つ少女。それをアヤが疑似体験し精神の安定を無意識にしている。
と、マナがついこのあいだデータを読み取った。
「パパの時間は止まっちゃったみたいだね」
あやは首を傾げながらマナを仰いだ。
「パパって……健さんか」
「うん」
あやが頷くとリョウが口出ししてきた。
「イザナギが来るよ。どうするのか僕とあやちゃんは遠くで見させてもらうね」
「ちょっと待って!」
リョウの声を遮るように叫んだのはアヤだった。
「なんだい?時神アヤ」
リョウは足を止めアヤに目を向ける。
「あなた達、一体なんなの?あなた達には神力を感じないのよ。神なの?」
「……神であり、神じゃなく、Kでもあり、人でもある。説明が難しいけど僕は別名クロノス。時神だけれど時神のクロノスは別にいるんだ。あやちゃんと僕はちょっと複雑でね、一般的に人間というデータを形作るサンプルにもなっている。男と女の一般的な概念さ」
「つまり、なんだ……。現人神でもあると?」
「というよりも、時神だから……」
プラズマの質問にあやがモジモジしながら答えた。
「まあ、だいたい時神と同じさ。ただ、人間の男と女という身体の違いとか精神の違いとかをデータにした存在ってだけで。……じゃあ、これで 」
リョウは早口で言うとあやを連れて飛び上がり、すぅっと消えていった。

十七話

リョウが去ってからすぐにイザナミと同じような格好の男がホログラムのように現れた。
屈強な神というよりは中性的な感じだ。猛々しさはなく、静かだ。
しかし、
「……っ!」
思わず固まるほどに得たいの知れないものがあふれでていた。
怖いというよりは近寄れない気味悪さ。
マナ達は彼が現れた途端に粟粒の汗が止まらなくなった。
「な、なんだよ……こいつ……」
かろうじてプラズマが小さく声を発した。
この気味悪さは違和感だ。
閑静な住宅街の、人があまりいないアパートの駐車場で派手な化粧のピエロがひとりで笑いながら踊っているくらいの違和感がある。
「私はイザナギ。あなたらとは神のデータが違う。私のデータはあなた達にはない。本来は接触しないので体が拒絶しているのだ」
半分ロボットのようにイザナギは声を発した。その感情が含まれない声も恐怖に感じる。
「ワールドシステムに入りたいの……」
マナは荒くなる呼吸を抑えて目の前の違和感に声を発した。
「ワールドシステムか。……あなたら、私が形作った日本が嫌いなのか?」
イザナギは純粋にそう尋ねてきた。
「いや……そういうわけでは……」
「そう!」
プラズマが思わず発した言葉をマナがかぶせるようにかき消した。
「おい……」
「だって納得できなかったからここまで来たんだよ」
「……」
マナの言葉にプラズマは嫌な顔をしつつ黙った。
「伍の世界に納得できないの!」
「それはそうなる。人間が争いばかりを生む『宗教』で人を縛らなくなったからだ。壱には『信仰』はあるが強制的に縛りつける行為はない。伍はそれ自体がない。神を信じ、人間が人間を騙し合っている時代は終わったのだよ」
「……確かに人間は神を信じて殺しあっていたかもしれないけどそれは『政治』とか『法律』に変わって『信仰』は別だと思う。何かにすがって生きたかったり、見えないものに感謝して生きたいと思う人間もいる。今生きていることに感謝するのも大事なことだと思うの。なんでもいいの。そういう心が大事だと思う」
マナの言葉にイザナギは軽く笑った。不思議と楽しい気持ちにならない笑みだ。
「しかし、伍は人間が『宗教』で争うのをやめたのに違うことで戦争が起きている。データはとっているがどちらにしても争いが起きるから不思議だ」
「……あなたは人ひとりを人としてみてないんだね。世界の動きで判断している。そういう神もいる……。私達の考え方の外にいる神……」
「そう言われればそうだ。私は客観的に見る神だ。世界中の作られた国ごとにそういう神が存在する。私は混沌としていた日本を『存在する世界』に変えた神。私はその存在を観測し、その他神、魂、動物、人間がどのように動くかを見ている。そこに感情は入れない。感情を入れるのは私の役目ではない」
マナの言葉にイザナギは感情なく答えた。
「とにかく、ワールドシステムに入れる鍵をください」
「……それはできない。今の人間達のデータをとらなければならないからだ。伍では戦争が『神』に関係なく起こっている。非人道的という境界線がわからなくなり、人間とはなんなのかを見直さなければならない段階だ。伍の世界の人間観とやらが『神』がいない世界になるとどうなるのかまだデータをとれていない」
「……つまり、私達伍の世界の人間は実験体と……。あなたこそ非人道的だわ!」
マナはイザナギに怒りをぶつけた。
「そういったルールは人間が決めたのだ。この世界に対し、感情が特にこもるのは人間だ。その人間から祈られた姿の神も感情があふれでる。人間は長い年月を経て『人間とはなにか』を自分達で存在させたのだ。だから我々世界と同化しているシステムの神はそれを客観的に観察しデータをとっている。そうしなければ予想不可能な事態が起こったときに『存在を許されたもの達』の存在がなくなってしまうかもしれないからだ。世界は一度、予想不可な現象により存在をなくした事がある」
「どういうこと?」
イザナギはこの世界に生きるものとは全く違う存在のようだ。機械のようで少し恐ろしくもある。
それでもマナは負けない。
「君は世界が『存在する前』の事を知っているか?今の世界の前の世界を知っているか?」
「そんなの知らない」
イザナギの言葉にマナは首を傾げた。考えたこともない内容だ。
「そう、『存在しない』のだ。誰もわからない。前の世界を生きていたモノがいたのか、いなかったのか、あるのかないのかすらもわからない。わからないのは『存在がない』からだ。『存在』しなければ誰も考えることも調べることもない。すべてはこの世界で『空想』という形で『存在』することになる。この今の世界の『存在』をなくすことがないよう、我々は動いている」
「世界が存在できるようにするためにあなたはデータをとってるんだね?そして私達と敵対する立場にある」
イザナギの言葉をまとめてマナが結論を出した。
「敵対感情はないが意見は違う」
「この世界のシステムの防人のような存在なら私はあなたを倒して進む!」
「ちょい待て!」
興奮ぎみに言い放ったマナをプラズマが慌てて止めた。
「何?プラズマさん」
「何って……よく考えてモノを言えよ……。こんな得たいの知れない力を持ってる神を俺は知らないぞ」
「……確かに感じたことのない神力だわ」
プラズマ、アヤは警戒をしていた。栄次は刀を構えているがまだ抜いていない。
「この世界にない神力を持つ神だ。俺は心底怖い」
栄次の重みある発言でマナは口をつぐんだ。
……この神は普通じゃないのか。
……戦わない方がいいかもしれない。
「だけど……」
マナが迷っているとイザナギが思い出したように声を上げた。
「葡萄、筍、桃……私が難を逃れたモノだ。黄泉の国は怖い……『八雷神(やくさのいかづちのかみ)』が来る。君達のデータにそれはあるかな」
「……?」
突然の問いかけにマナ達は固まった。唐突すぎて反応ができない。
何を言っているのかわからなかった。
「黄泉に入った者のデータを消す神だ。霊でもないのに黄泉に入った時点で君達はそれに狙われている。対策として葡萄と筍と桃のデータが必要だ。そのデータがあれば奴らは介入してこない」
「……なんで?色々突然で疑問はつきないけど……なんで葡萄、筍、桃?」
マナは不気味に思いながらなんとか尋ねた。
「……葡萄とは髪飾り、筍とは櫛である。あとは黄泉と常世を結ぶ桃に宿る神のデータだ。持っていないとシステム内に入る前に八雷神に『存在』を消される。私を気味悪く思うのであればそのデータを持っていないのだ。故にデータが消えかかっている」
「!?」
イザナギは感情なく淡々と言っているがマナ達には動揺が広がった。
「八雷神に実態はないが『存在』はする。言うか迷ったがこのまま消えるのも辛かろうと教えたのだ。ここ黄泉比良坂(よもつひらさか)でもやつらは介入してくる。イザナミは君らをそのまま消すつもりだったようだ。何も言わずに黄泉を通らせたな」
「……嘘じゃなさそうだね……」
「なんだそりゃ!聞いてないぞ!おい……勝手に消えるのはごめんだ……なんとかなんないのか……」
焦るプラズマを栄次がなだめる。
「どうするかはそこの神がご丁寧に言ってくれた。櫛だかなんだかのデータがあれば消えないと」
「……そういえば……この辺をうろついていたリョウやあやは平気なのかしら?」
アヤの言葉にマナは目を見開いた。
「そうだ!リョウさんとかはそのデータを持っているんだ!あの子達に感じた違和感はこれだったんだわ!」
「探すか?時間がない……」
栄次にマナは大きく頷いた。
「矛は渡してくれそうにないし……とりあえず先に消えないようにしないと」
「こいつを信じるのかよ?」
プラズマはマナの判断に眉を寄せた。
「事実……だと思う」
そう呟いてマナは眼鏡を外した。プラズマがデータ化されたが肝心な部分が何かに食われたかのようにない。
……未来神、未来を守る時神。未来の時間管理、○○と共に○○を○○……。
○○△△□……。
マナは眼鏡をかけた。
先のデータは文字化けして読めない。
もし、時神というデータを八雷神とやらに消されたらどうなるのか怖くなってきた。
「……たぶん、急いだ方がいいかもしれない……」
「データが揃ったら改めて交渉といこうか。世界が君達にどう判断を下すのか、君達のデータが残ったら矛を渡すか考えよう。まあ、私を破れたらの話になるが」
イザナギはそこから口を閉ざした。イザナギ自身にもアマテラス神達同様に伍の世界の改変プログラムが少しだけあるようだ。故にマナ達を完全には見捨てなかった。イザナミの方はよくわからない。改変と保守的、どちらのデータを主に持っているのか。
イザナミは保守的な方なのかもしれない。
「とりあえず、リョウさん達を探す!」
「探すってどこを?」
マナの宣言にプラズマは呆れた顔で尋ねてきた。
「……どうしよう……」
「……気配は感じるぞ。人間のな」
栄次が小さく呟いた。
「あ、そうか!栄次は神力だけじゃなくて人間の気配も感じるんだ!長年侍だからな!」
「確か人間の男と女のモデルデータを持ってるんだったわよね。あの子達」
プラズマとアヤがそれぞれ声を上げた。
「栄次さん、この島にいるの?彼らは」
「ああ……ここにいる……鳥居の側だな。視線を感じる」
栄次は丘の上にある鳥居を指差した。先程マナ達が来た鳥居とは違う鳥居だ。
芝の丘に目立つ鳥居が一つあった。登ればすぐだ。
目の前は海、後ろは山だがその横に小さな丘がある。
空間が歪んでいるため違う世界なのかもしれない。
「行こう!」
マナは走り出した。
「お前は抵抗がないのか!」
慌てて時神達も後に続いた。

十八話

走っているとある一定の場所から空気が変わった。一瞬だけ水中に落ちたかのような感覚が襲ったがすぐに元に戻った。
「なんか嫌な予感がするんだよなー……」
「あきらめなさい。もう戻れないわ」
怯えるプラズマにアヤがため息混じりに言葉を発した。
「おい……いたぞ」
栄次がプラズマとアヤの肩を叩き、前方を睨んでいた。
丘の上の鳥居にリョウがこちらを向いて佇んでいた。
「こっちに来るなら来いって感じなのかな?」
マナが動かないリョウを気味悪く思いながらつぶやいた。
「行くのか?」
「行く」
栄次の問いかけにマナは迷いなく答えた。
マナ達は緊張した顔で丘を登っていった。丘は登りやすく、そんなに高さもないのであっという間に鳥居の前まで来ていた。
「イザナギ……余計なことを……」
たどり着くなりリョウが悪態をついた。
「リョウさん、あなたは黄泉に入っても大丈夫なデータを持っているんだよね?」
マナは強い姿勢でリョウに尋ねた。
「葡萄、筍、桃……僕やあやちゃんはあるよ。僕はデータを物理的に持っているだけだけど。時神の方のアヤちゃんにもあるよ?八雷神の介入を妨害するデータの隠語だ。主に女性を指すんだよ。かんざし、櫛、変な意味じゃないけど安産型のお尻。どれも繁栄を示すものだ。女性が華やかにふくよかになればなるほど暮らしは繁栄する。……いや、繁栄しているという意味を分析しデータ化した人間達の指標と言うべきか。だから本来男にはない。物理的に持たないかぎり。まあ、マナちゃん、君にはこのデータはないらしいがね。女性だが」
「どうしたらいいのかあなたは知ってるんでしょ?」
リョウの言葉を聞きつつマナは厳しく尋ねた。
「どうしたらいいか……。女性は元々繁栄の象徴。男性は衰退の象徴。このバランスで人間の世界は成り立つ。男性は争いを産み、男が優勢に立つと戦乱の世になり衰退する。反対に女性が優勢に立つと繁栄するが感情のままに動こうとするため社会がうまく回らず衰退する。男と女のバランスのよい国、世界が一番長持ちする」
「そんなこと聞いてないわ!時間稼ぎならやめて」
リョウの関係ない発言でマナは教える気がないのだと悟った。
どこまでもマナを邪魔する気だ。
「……僕は男だ。人間の男のモデルデータが入っている。状況を冷酷に分析する力と力で敵に立ち向かう猛々しい力を持っている。まあ、反対に弱い仲間を守る男の本能もあるが」
リョウの雰囲気がガラリと変わった。マナを威圧的に睨み付け人間の男独特の荒々しい部分が飛び出す。正直、神力よりもなんだか恐ろしい。
世界の歴史的な「人間の男」のデータをとっている彼は女性を見下す目をしており、なんだか気持ち悪い。世界的にあった男尊女卑のデータを取り込んでいるようだ。
彼は元々そういう性格の神ではない。ただ、猛々しい人間の男達のデータを全面に引き出しただけだ。
「人間らしくいこうか。僕からすべてを奪ってみろ!君は女だ。拮抗する男と女の力でどちらが強いか世界のシステムを試してみろ!さあ!試してみろよぉ!!」
「ずいふん人が変わった。私はそういう男と女の極端な考え方は正直好きじゃないけど負けられないから!」
マナはもう強気だった。ここまできて引き下がれない。
「それがあんたがデータを取った昔の男か?男尊女卑はたしかに昔からあったが男全員がそういう考え方してたわけじゃないぞ。……とはいえ、モデルだから歴史の一般的ってやつのデータを持ってきただけか。そっちが少数派だったかもしれないのに」
プラズマが呆れた顔でため息をついた。彼は未来を生きているため過去はどうでもいいようだ。
「俺は戦乱を生きている過去神だからか男に物扱いされている女をいくらでも見たことあるぞ。女が虐げられているのを見るのはいつ見ても辛い。お前の考えは極端だ。もっと他の記録を取るべきだと思うが」
栄次は本能か反射かわからないが刀に手をかけていた。
「少なくとも私は女性を下に見ている男に会ったことはないわ」
アヤは栄次の影に隠れつつ小さく呟いた。
マナはそれを見てほっとしていた。彼らは自分の味方のままだ。
「まあいいよ。とにかく、人間らしく、ほしいなら奪ってみろ」
リョウは手を広げると頭上に三つの玉を出現させた。
玉の中にはデータがうごめいていた。リョウが動くと玉も一緒に動いていく。
この玉が葡萄、筍、桃のデータらしい。
「僕は同時に時神でもある。君達の派系だ。考え方が違う時神……おもしろいな。全員でかかってきなよ」
リョウはさらに神力を纏った。
男によくある特性『自信』と『勝負心』をリョウは引き出しているようだ。今のリョウは神らしさがまるでなく、人間くさい。
「マナ、気を付けろ。あれは時を渡れるぞ……時間を操れる」
「……うん」
プラズマの言葉にマナは頬につたう汗をぬぐいながら頷いた。
リョウが動き出した。
「……!」
動いたと思ったら足音もなく消えた。しかし、すぐに真横から刀を構えたリョウが飛びかかってきた。
「……っ!」
マナを狙った攻撃を栄次が弾き返した。
「……まさか、時間移動!」
アヤがリョウの動きにそう叫んだ。再びリョウが消える。
「……攻撃が人間的だ。型があり、異常な力ではない。しかし……」
栄次はまたも突然現れたリョウの剣撃を危なげに受けた。
リョウは再び消えた。
「……時間を操り、人の急所を狙ってくる……。感覚で避けるしかない。俺には見えない」
栄次はそれでもリョウの突然の攻撃を予測し一瞬の気配だけで居場所を突き止める。
しかし、攻撃が当たるまでいかない。受けるばかりである。
「……これじゃあどんどんデータが消えていく!時間がない!」
「落ち着け!マナ!栄次がいなかったら全員今、この場にいないぜ!」
プラズマが頭を抱えながら銃を構えた。だが、銃は近接戦闘には向いていない。狙いが定まらずうまくいかない。下手をすれば仲間に当たる。プラズマはその他剣術はまるでできない故に栄次に頼りきりだ。アヤは元々現代を生きる女性。武術などやってきていない。もちろん、マナもそうだ。
「……どうしたらいいの?どうしたら勝てる?」
マナは突然現れるリョウを視界に入れられず、栄次の刀の音で初めてリョウを認識できていた。
アヤは何かを考えているようだったが解決策は出てきていないようだ。
「待って……アヤさんは八雷神が入ってこないデータを持ってるって言ってたよね……リョウさんが。……そういえばちっちゃい方のあやちゃんは……」
マナはあやがいないことに気がついた。先程一緒にいたがどこに行ったのか。
栄次がリョウの攻撃を受けている間にあたりを見回してみた。
見当たらない。
おそらく『K』でもあり、歴史的な女のデータを収集しているはずのあやは最上級に争いを好まないはずだ。
リョウの逆を考えればだが。
「いない……。そもそも、こういうモデル的思考が間違っているの。人間には理性があって多種多様なのにモデルのデータなんていらないのよ。男らしさ、女らしさなんていらない。このデータ収集は無意味だと思う。世界はおかしいよ」
「おかしくはない。こういうモデルデータを作ったのも人間さ。伍の世界は自然にこのデータを受け入れ無意識に繁栄の象徴である女性を『神』としてたてようとしている。男が優勢になりすぎて戦争が絶えないので機械化させた女を上に立て、バランスをとろうとしているだろ?」
リョウがまた突然に現れ、言葉を発すると栄次と刀を交わしまた消えた。
「……ケイちゃんのことか……。こんなのおかしい!伍の世界は『世界が管理した』のが最初か『人間がルールを作った』のが最初かわからない。でも、私はこのシステムがおかしいと思う」
「……マナ、言ってるだけだと未来通りになるぞ。栄次も俺も八雷神とかいうやつの影響で消えかかっている」
プラズマが自分と栄次を指差した。いつの間にかぼんやりまわりの風景との境界線がなくなっていっているように見えた。
「……まずい……リョウさんは未来にも過去にも戻れるからどうにかして捕まえないと!」
「……さっき……」
ふとアヤが声を上げた。
「ん?」
「さっき、世界が一時期改変前に戻ったとかなんとか……神が言ってたわね……。ということは、私は神になっていない人間のデータを持っていることになる。時神は人間から徐々に神になるらしいの。その状態をタイムクロッカーと言うらしいわ。歴史を動かし記録し未来へ歩く人間の力と時を守る神の両方の力を持つ。つまり、私はその両方の力でリョウがやっているようなことができる。時を渡れる」
アヤは小さい声でつぶやいた。
これはアヤが時神になる時、先代の時神立花こばるとが言っていた偽りの記憶の内容だ。
歴史神ナオらにより改変された後の世界でのこれは辻褄合わせの記憶だったのだが世界は『本当の記憶』をこれまた辻褄合わせのために『存在しなかったこと』にしたらしい。
本当は時神にそんなシステムはなく、彼らに交代という死はない。
これは歴史神ナオが自分を偽りの記憶で縛った後、システムエラーにより思い出し証明している。
世界をも偽りの記憶に置き換えた改変は時神アヤの改変前データも交代制を強いるデータに置き換わっていた。
世界は再び改変を望みマナを動かした上でパズルのピースがハマるところを探しているのか。
改変前にデータが戻り、時神アヤがタイムクロッカーになったのは世界の策略か。
マナがそんなこと知るよしもない。
「じゃあ、アヤさんは時を渡れるの?」
マナはそう単純に尋ねた。
「いまはたぶんできる」
「私を連れて戻ることは?」
「わからないわ。やってみないと」
アヤの言葉に少し考えたマナはやがて頷いた。
「……やってみよう!ほんの少し前に戻ってあやちゃんに会う」
「会ってどうするの?」
「……リョウさんのデータをいただくのよ」
「……」
マナは静かに低い声で威圧的に言い放った。彼女にはやめるという選択肢はない。なんとしてもシステムに干渉したいと思っていた。
リョウの攻撃を受け流している栄次と隙をうかがうプラズマは消えかかっている。早くなんとかしなければならない。
「どうやって……」
「とにかく戻るよ」
「……わかったわ。やってみる」
アヤはマナの手を握った。目を閉じるとアヤの足元に時計の魔方陣が現れマナを引き込んでホログラムのように消えた。
リョウは一瞬目を見開いたが栄次の猛攻で受けるのに精一杯になった。
アヤとマナは過去戻りに成功した。

十九話

先程の丘に時計の魔方陣が現れる。アヤとマナは突然に時計の魔方陣の上に立っていた。
「……?少し前?」
「……そうみたいだわね……戻れた?なんでマナを連れてこれたのかしら?」
「……わからない。でも、私には人間のデータがあるみたい。現人神だから。関係あるんじゃない?」
「……あるかも。人間は歴史をまわす力があるみたいだしね」
「その前に……」
マナは目の前の鳥居を見上げた。
「あの小さい子を見つけてどうするの?」
「データを取る術を聞くわ。あの子にデータが入っているのだから取る術もわかるでしょ?」
マナの言葉にアヤは眉を寄せた。
「……私にもあるみたいだけどデータがあることも知らなかったし取る術なんて知らないわよ」
「……あの子はリョウといるみたいだからそのデータが元々なかったリョウがどうやってデータを持ったか知ってるんじゃないかと思って……ほら、リョウさんは物理的にデータを持ったと言っていたわ。アヤさんとかは元々データに組み込まれているんでしょ?」
「なるほど……たしかに物理的に持ったと言っていたわね。じゃあ、葡萄かかんざし、櫛か筍、桃を持っていることになるわ」
「どこで手にいれたか聞いてみるの」
マナは自信がなさそうだったが唯一の望みにかけた。
「桃はイザナミがいる世界の後ろに生えている桃の木だよ」
ふと上から声がした。マナとアヤは鳥居を見上げた。鳥居にあやが立っていた。
「あやちゃん!」
「でもたぶん、イザナミはくれないよ。この世界は単純でプラス、マイナスでできてる。色々感情があるけど突き詰めると負けたものは引き下がる世界。戦わないと勝てない世界」
あやは鳥居から降りる気がないのか遠くを見据えながら答えた。
「……あやちゃん、桃の他は?」
マナが尋ねるとあやはまたも答えた。
「櫛とかんざしか筍か葡萄か。女性なら櫛とかんざしのデータはある。マナにもある。だからあなたは桃のデータだけ取り込めばいい。男は……葡萄と筍を取り込むのよ。食べればいいもの。私は世界から『ここにいてあなたらを待っていてほしい』と言われたの。言われたというより、そうしようかなって思った。私も時神のデータがあるから」
「……!?」
あやの発言にふたりは目を見開いた。あやがアヤと関係しているので時神なのは驚かないが世界がマナ達に力を貸しているのか。
「いや……世界はプラス、マイナスだ。私達が勝つか見てるんだ」
マナは冷静に気持ちを整理した。桃に関してはイザナミと戦えとあやは言っているのだ。
「アヤさん、イザナミ様のところに行こう。過去に私達が戻っているならリョウさんと戦っている栄次さんとプラズマさんは消えない」
「……そうね……」
アヤは顔色悪く答えた。
イザナミと戦うのかと不安なようだ。
「あ、あと葡萄とか筍はどこ?」
マナは追加で質問した。
「……狛犬が持っている。狛犬の世界にある。野生の葡萄と竹林にある筍。でもタダで散策はできないと思う。たぶん……」
「勝たなきゃダメなんだね?」
「彼らは単純に黄泉のデータを守っている。そこになにか考えはない。だから野性的で話は通じないと思う。……リョウが追ってくるわ。行くなら早く行ったら?」
あやは淡々と言葉を発して鳥居から見える海をじっと眺めていた。
「あやちゃん、イザナミ様の所に行くには? 」
「……鳥居をくぐる」
あやは軽く微笑んで足元の鳥居を指差した。
「これをくぐるのね。ありがとう!アヤさん行こう!」
「え!?ええ……」
先を何も考えてなさそうなマナに引っ張られアヤは強引に鳥居をくぐらされた。
「マナ……イザナミと戦ったりするんでしょ。私達ふたりなのよ。勝てるの?」
鳥居をくぐってからアヤが慌ててマナに尋ねた。
「勝つしかないよ。対策立てても通用しなそうだし。……それにしても予想は当たった」
「なに?」
鳥居をくぐると何故かネガフィルムの世界にたどり着いた。先程、イザナミがいた世界だ。
「あやちゃんはリョウさんの反対だと思ったの。いままで見てきた中で世界は相反するものでできているってことに気がついた。だから男女のモデルデータは真逆なんだと思ったの。つまり……」
「リョウが好戦的ならあやは非好戦的だと」
「そう。イザナミ様、イザナギ様もそうだった」
マナがゆっくり頷いた。
しばらくすると上品な女の声が響いてきた。
「あら、先程見送ったばかりで……」
ホログラムのようにイザナミがコロコロと笑いながら現れた。どうやら過去のマナ達が鳥居をくぐり、イザナギに会いに行ったばかりの時間軸のようだ。
「……その笑いかたは全部知っていましたね。イザナミ様」
マナはイザナミを睨み付けた。
イザナミは再び微笑み「なにがでしょう?」としらをきった。
仕草がわざとらしい。不思議がるわけでもなく、戻ってきたマナ達の辻褄を合わせるかのような発言だ。
おそらく、イザナギの元へ送る前にマナとアヤが戻ってくることを知っていたのだ。
「桃は黄泉のもの。渡せない。ほしいのなら力で奪うが正しい。イザナギのように。イザナギは村人を千人殺すと言った。わたくしはそれなら千五百人を産むと言った。作るのは女、壊すのは男。いつの時代もそう。あなたは世界を作る方。わたくしは今の世界を守る方。どちらも壊さない。どちらも壊さないが戦いになる。意見が違うから。そういう戦いもある……」
イザナミは今の人間にはわかりそうにないことを呟くと神力を解放した。マナには一瞬だけイザナミの『言葉』に何か引っ掛かりを感じだがなぜだかわからなかった。
イザナミは手に炎を出現させた。
「女はなにかを守る時、男よりもはるかに強くなる。カグヅチ!」
イザナミが叫ぶと猛火がイザナミを纏った。
「カグヅチ!?炎の神じゃないの!」
アヤが驚きの声を上げた。
「わたくしの子供……もう焼けて死ぬこともない。わたくしが死んでいるのだから。もう、イザナギに殺されることもない、カグヅチは死んでいるのだから。イツノオハバリで殺された我が子……」
猛火がなぜか鞭のようにしなり、マナ達を襲ってきた。
「くっ……」
アヤが一瞬だけ自分達の時間を早め、マナを連れて走り抜けた。辛うじて炎を避けることができた。
「ありがとう!アヤさん」
「それよりどうするのよ!たまたまうまくいっただけよ!!」
アヤは冷や汗をかき、肩で息をしていた。
炎は再び渦を巻き、マナ達に襲いかかってきた。
「鏡!」
マナは手から霊的武器鏡を出現させると飛んで来る火の玉を鏡で弾いた。跳ね返したがイザナミは当たってもなんともなさそうだった。
「……っ!」
マナは右肩に痛みを覚えた。見ると肩先が大きく焼けていた。マナの鏡では完全に跳ね返すことができなかったようだ。
「マナ!また来るわ!」
アヤは叫んだ。再びありえない炎の渦がイザナミを纏う。
「……カグヅチをなんとか……なんとかしないと。……そうだ!イツノオハバリだ!!カグヅチをイザナギ様が斬ったって……」
「あの剣?ないわよ!」
「……よく思い出して!狛犬の神社から白銅鏡に吸い込まれてたじゃない!」
「だからってどこに行ったかなんてっ!きゃあ!」
マナが慌てて鏡をかざし、炎を弾いたがやはり全部は弾き返せず、アヤの手先をかすった。
「……探さないと勝てない……。白銅鏡に吸い込まれたんなら一緒に来てるはず……」
「マナ!逃げましょう!はやく!」
アヤに手を引かれマナも走り出した。ネガフィルムの世界は宇宙空間のようだが地面があるみたいに走れた。
アヤは自分達の時間を早めた。高速で移動しているかのようになり、炎はなかなか当たらなくなった。
しかし、イザナミはすべてが見えるのかどこまでも追ってくる。
「……うっ……」
マナは再び呻いた。今度は左肩が焼けていた。服は燃えて焦げている。
「……私はどうすればいいの?」
アヤは半泣きでマナの手を引き走った。永遠に逃げ続けるのはサソリから逃げるオリオンだけでいい。
同じ風景をずっとどこまでも走らされているようだ。走っていくと気がついたら同じところを走っている。
何周も走ったがイザナミはずっと追いかけてきた。まわりに隠れるものはなく、ただひたすらに炎から逃げるしかできない。
マナは先を走るアヤを庇い、飛んで来る猛火を鏡で弾くが弾ききれずあちこち火傷をおっていた。
このままでは自滅するのも近い。
「イツノオハバリ……絶対にあるはずなの……どこ……」
後ろを振り返り、再び炎を弾こうとした刹那、頬の横を火柱が突き抜け、メガネが溶けた。こめかみ部分から血が滴り、髪の毛が火柱の分だけ燃えて消えた。
「ううっ……」
マナは血を拭おうとして眼鏡を落としてしまった。
「マナ!大丈夫!?」
「……」
マナはアヤの問いかけに答えなかった。目を見開いている。
「マナ!?」
「みつけた……。みつけた!!」
「え!?」
「イツノオハバリ!」
マナは叫んだ。データの波の中、イツノオハバリがデータとなり流れていた。
眼鏡を落としたことによりマナの目に映るのは一般的に読むことのできないデータ。しかし、まわりが読めないデータである中でイツノオハバリだけははっきり読めた。
この剣はこの世界では実態がなかったのだ。どこまで走ってもみつからないわけだ。
「アヤさん、もう一周して!」
「わかったわ!」
眼鏡を落としたマナにはまわりは電子データにしか見えない。炎の渦が襲うがデータの波になっていてわからないので勘で鏡をかざす。失敗し、身体中に痛みが襲った。
「くっ……見えないっ!全部意味不明な数字に見える」
「マナ!」
アヤがマナの手に何かを握らせた。
「っ!」
「さっきのとこに戻ったから眼鏡を拾ったの!つけて!」
「ありがとう!」
マナは片方のフレームがない眼鏡を無理やりかけた。世界が映像化され猛火が渦を巻いて襲ってくるのが見えた。
なんとか鏡をかざし、最小限の怪我で耐えることができた。
マナはあちらこちらが焼け焦げていた。足や腕から血が滴っている。
「はあはあ……」
先程のうまく弾けなかった攻撃でアヤも火傷を負っていた。
「アヤさん!ごめんね!!」
「いいからイツノオハバリを!私ももう時間操作が辛くなってきたわ!あの神には瞬間移動も関係なさそうだし……」
マナの言葉にアヤは必死に叫んだ。この間もアヤは時間操作で高速に動いている。
「う、うん!」
マナも切り替えて眼鏡を少しずらして先程見たイツノオハバリのデータを探した。
「あった!アヤさん!右に曲がって!」
「右?」
アヤはマナの言葉通りに右に曲がった。マナの目には右に曲がった何もない空間にイツノオハバリのデータが映っている。
「マナ、一瞬よ!時間操作を解くから剣を持って攻撃して!失敗したら終わるわよ」
「……わかった!」
もう剣術を習っていないからなどは言えない。やるしかないのだ。
マナは通りすぎる間にデータに手を伸ばした。刹那、イツノオハバリが身体にすうっと入り込んできた。
「剣は!?」
マナが叫んだ時、アヤが時間操作をやめた。破格の速さで炎の渦が飛んで来る。アヤの時間操作がなければ一瞬で消し炭だった。
「もうやるしかない!」
イツノオハバリのデータが身体に入ったままマナは炎の渦に飛び込んだ。炎がまるで針のようにマナを突き刺していく。
「うぐっ……!イツノオハバリ!」
無意識に鏡を出したように手をかざした。かざした手に光が突然に集まり気がついたら爆発していた。
「あぐ!?」
マナは強い衝撃を受けてアヤの前に倒れた。
「カグヅチ!」
ふとイザナミの声が聞こえた。マナが慌てて体勢を整え、暴発した光の方を見た。
「あなたが出した光がカグヅチを散らしたわ……」
アヤが呆然とマナを見た。
「……はあはあ……あ、あの光はイツノオハバリだったのね!それよりイザナミが怯んでる!今のうちにイザナミの後ろに行こう!」
「桃ね!」
アヤは再び時間操作をし、高速でマナを引っ張り駆け抜けた。
「黄泉のものは渡さない!!」
イザナミは散り散りになったカグヅチの残った炎を集め、駆け抜けたアヤ達に放った。
「アヤさん!そのまま駆け抜けて!」
火球が隕石のように落ちてくる。イツノオハバリの光でなんとか防いだがマナにはうまく扱えず、あちらこちらに切り傷、火傷を作った。
ボロボロになってなんとか駆け抜けてから目の前に桃が実る木をみつけた。ネガフィルムの世界の中に小島があり、一本だけ異色な桃の木がある。
「あれだ!」
アヤは時間操作を解かないようにして高速で桃の木前を通りすぎた。マナは手を伸ばし決死の覚悟で桃を二つもぎとった。
後ろからはイザナミが追ってきていてカグヅチをまた集めている。
「桃取れた!この世界から逃げよう!」
「出口は!?」
「またデータのほころびを探してみる!それまで私達の時間をいままで通り早めて!」
「どちらにしろ高速で逃げるのね……。長くは持たないわよ」
アヤの言葉に静かに頷くとマナは炎の合間をぬって眼鏡を外した。
「……入れたのだから出られるはず。イツノオハバリがあった神社ならイツノオハバリのデータが導いてくれるはず……」
マナが探している間、アヤはマナの手を引き、時間操作で走る。桃の木を通り過ぎたらまた同じ桃の木に戻ってきた。イザナミは炎を集めながら絶えずマナ達を襲ってくる。
「……見えた!アヤさん!僅かに左にずれて!今!」
「僅かって……!?急に言わないでよ!もう!」
アヤが感覚で僅かに左に動いた。
刹那、マナとアヤは電子数字に包まれ、真っ黒な宇宙のような世界に入った。勝手に高速で動きだし、ライトグリーンの電子数字が光の速さで流れていく。
声を発する間もなくふたりは狛犬の神社の石段の下に倒れていた。
「……うう……」
「はあはあ……ここ、さっきの……」
マナとアヤはガクガク震えながら辺りを見回した。初夏を思わせる柔らかな風と静かな森。山の上の神社。先程の狛犬の神社だ。
石段を登れば狛犬がいるはずだ。
よくよく見ると、竹林や野生の果物が自生している。
「桃はあるから……あとは葡萄と筍をここで見つけて……」
マナは制服のポケットから小ぶりの桃二つを取り出した。
「……マナ、霊的着物になった方が軽いわよ。言うの忘れてたけど」
「……そうだね。ちなみにアヤさんは着替えないの?」
マナは手を横に広げて黄緑色の着物のようなワンピースに着替えた。これがマナの霊的着物だ。一度着替えたがいつの間にかまた元の制服を着ていた。
「……私はこれが一番だわ」
アヤは着物に着替えることなくピンクのシャツにスカートだ。
「そう……。じゃあ、探そうか……」
マナは立ち上がった。しかし、全身に痛みを覚え、呻いてから膝をついた。
「それはそうよ……。あなた、かなり怪我してるわ。炎に貫かれたりしていたんだから……。でも私は自分の時間しか戻せないの。傷を治せないわ。さっきは私と手をつないでいたから速く動けたのよ」
「……そっか……どおりで体が動かないと……さっきまで必死だったから……。早く探して戻らないとイザナミ様が来るかもしれないし、リョウさんが追ってくるかも……」
マナがヨロヨロ立ち上がった時、石段の上から声がした。
「あー?なんだぁ?戻ってきやがった!八雷神に気がつきやがったか!ああ?」
「うう……あーちゃん、大声出したら静かに排除できないじゃない……うう……」
石段の上からこちらを見下ろしていたのは狛犬のあーちゃん、うーちゃんだった。
「……やっぱりタダでは……」
「いかないわね……」
マナとアヤはフラフラしながら立ち上がり構えた。

二十話

「さあて。さっさと排除だ!!」
「うー……合体?」
意気込むあーちゃんと心配そうなうーちゃんは五芒星に包まれ、再び合体し狛犬化した。
今度は攻撃を防いでくれた栄次、プラズマはいない。
「今回は私がイツノオハバリで戦うからアヤさんは援護して!」
「……わかったわ。……あなたは強いわね……」
マナの闘志むき出しの表情を見てアヤは思わずつぶやいた。
狛犬が前足からこちらに向かって飛んできた。爪には神力のようなエネルギー体を纏っている。
爪を振り上げてマナ達を叩きつけようとしてきた。マナは必死にイツノオハバリを出そうとする。
しかし、イツノオハバリは出なかった。
「……出ない!……くっ!」
マナは慌てて鏡をかざした。
鏡では物理的な攻撃は防げない。マナは戦闘経験のなさからそれに気がついてなかった。アヤが慌てて自分の時間を早送りし、マナを引っ張る。
しかし間に合わず、マナは腹を引き裂かれた。
「マナ!」
「うぐっ……!だ、大丈夫。かすっただけ」
マナの着物は切り裂かれていたが大きな傷にはなっていなかった。
「やっぱり栄次とプラズマがいないと厳しいわね……」
「どれだけ頼っていたかよくわかった……」
「来るわ!」
マナの言葉を遮りアヤが叫んだ。
マナは辛うじて避けたが、かまいたちのような風圧で先程と同じ腹を切られた。
「あぐっ……」
マナは衝撃で倒れた。今度は血が滴る。
「ごめんなさい……。もう時間を操る集中力が……」
「大丈夫……。私はいままでひとりでなんにもできてなかった。それで世界を変えたいなんて……げほっ……」
マナはもう動ける状態ではなかった。イザナミからの連戦で体が言うことを聞かない。
「また来るわ!」
「やっぱり……私だけを狙うんだ……」
狛犬から発せられた暴風が竜巻となってマナを襲う。かまいたちの鋭い刃物のような竜巻はマナを包み切り刻みながら上空へ打ち上げた。
血が辺りに散らばった。
「マナぁ!!」
アヤが涙声で叫ぶ声が聞こえた。
上空に巻き上げられたマナの虚空な瞳に狛犬が爪を振り上げているのが見える。
……もう動けない……
……ひとりじゃなんにもできないじゃない……私……。
「マナ!!!」
再びアヤの声が聞こえ、マナは振り下ろされる爪をただ黙って受け入れた。
土埃と衝撃音、吹き飛ばされたマナが力なく転がる。
カツンと眼鏡がアヤの前に落ちた。
「……そんな……ここまで……ここまでしなくても……。ここまでしなくてもいいじゃない!!あなた達には心がないの!?」
アヤが震えながら狛犬を睨み付けた。
「あー?別にいーだろ?なにが悪い?こいつが俺達の世界にズカズカ入ってきたんだ。俺達は追い出しただけだぜぇ!ああ?」
「うう……私達は……主の命令に従っただけで……」
ひとつになった狛犬から二つの声が聞こえた。
「もう戦意を喪失してたじゃない!」
「……いや……あれはどこまでも噛みついてくるぜ。こえー女神だぁな!」
狛犬はピクリとも動かないマナをさらに攻撃しようとした。
「ちょっと!!」
アヤが叫んだ刹那、マナが動き出した。身体中血まみれのままフラフラと立ち上がり、ボロボロな眼鏡を拾い、かける。
「……私はあきらめない!あなた達に人道的という言葉を教えてあげるわ!!」
マナは大声をあげ、気迫だけで立っていた。
「ほらな」
狛犬は呆れた顔でマナを見ていた。
「マナ……」
アヤが心配そうに悲しそうに見つめるがマナは闘志に溢れていた。
「負けてたまるか!!」
その闘志はやがて体を白い光で包み神力に変わった。
「……神力が……」
アヤは呆然とマナを見ていた。
「ああ?さっきの段階で消せりゃあ良かったなぁ!!」
「うう……神力を引き出してしまったね……。現人神ってことだから人間の火事場の馬鹿力みたいな底力が彼女にはあって……」
「んなこたあ、どーでもいい!いくぜー!」
狛犬はマナに飛びかかっていく。先程よりも本気だ。
「はあ……はあ……力が出てくる……。……イツノオハバリ……」
マナは傷だらけの手を見つめ、もう一度イツノオハバリを呼んだ。
すると今度は手にエネルギー体の十束剣が現れた。白い光を纏うエネルギー体だ。マナが自由に動かせた。
「イツノオハバリ……」
マナがもう一度つぶやく。
刹那、狛犬が飛び込んできた。
考えてる暇もなくマナは目を見開き横に一文字に斬りつけた。
「ぎゃん!!」
狛犬が悲鳴をあげて地面に倒れ、苦しそうに呻いていた。
足先から腹を斬られたようだが飛び散った血をなめるとゆっくりと起き上がった。
「イツノオハバリ……いいねぇ……さっきとは違う痛みだぜ……」
「……うう……あーちゃん、大丈夫?私をかばったんでしょ?」
「ああ?いいんだよ!久々の戦闘だ!野生がウズくなあ!!」
狛犬はかなり動物的なため、やはり戦闘意欲と縄張りはオスの方が強いようだ。
狛犬はすべての毛を逆立て瞳孔を開き、動物的な狼のような威圧をマナに向ける。
「はあはあ……」
マナは霞む目を見開き、光の束になっているイツノオハバリを構えた。
……長くは持たない……
……一発で……
「ウオオオオァァァ!!!」
マナは雄叫びをあげるとイツノオハバリを振りかぶった。
「ぬるいなァ!!」
狛犬は袈裟に振り下ろされたイツノオハバリを軽やかに避ける。
「まだまだ!」
マナは今度は勢いよく斬りあげた。しかし、狛犬はまた軽やかに避けてマナを鉄のように重たい爪で凪ぎ払った。
「マナ!」
アヤが咄嗟にマナの手を引き爪をかわす。
一瞬、狛犬の動きが緩慢になった。
「……え……?」
マナは目を疑ったがチャンスと捉え渾身の力で先程と同様、横に凪ぎ払った。
「ウアアア!!」
イツノオハバリは狛犬の腹を裂いた。
「なっ……」
反応が遅れた狛犬はなんだかわからないまま血飛沫をあげながらその場に倒れた。
「はあはあ……」
マナは膝から地面にへたりこみ息をあげて自分から滴る血を見ていた。
……もう……ほんとに動けない……。
「狛犬が倒れたわ……。死んだの?」
「……死んでないよ。大丈夫そうなとこ、狙ったから……人道的に……」
アヤの言葉にマナは息をあげながら答えた。
「くそ!なんだ!?ああ?」
狛犬はあーちゃんとうーちゃんに再び分かれた。
「うう……一瞬、時間が……」
「私があなた達の時間を一瞬だけ止めたのよ。神力が高い神には通用しないけど神の使いならなんとかなったわ……。一瞬しかダメだったけど……」
アヤはあーちゃんとうーちゃんの足元を指差した。ふたりの足元には『時間の鎖』が巻かれていた。
もう消えかけている。本当に一瞬だったようだ。
これはアヤのみにある時神の能力だ。時間の中で生きる有限の生き物には本来の時間のデータがあるからできないが、時間はあるが世界に縛られていない無限の神々にはこの能力が使える。
ただし、アヤよりも神力が下の神限定だ。
「アヤさん……結局助けられたんだね……」
「いいえ、ほぼあなたの力よ」
アヤはマナにため息混じりに言った。
戦意喪失したあーちゃんがその場で大の字に転がった。
「……負けた……もう動けねーよ。お前らはさっきもそうだったが殺さねーのか?」
「そんなことしないよ。あなたにだってあるでしょ?理性と感情が」
マナはそれだけ言うと危なげに立ち上がりフラフラ竹林の方へ歩きだした。
「マナ!あなた、もう歩ける状態じゃ……」
「……あと……少しなの……たけのこと……ぶどう……」
「……」
マナの必死な顔を見てアヤは黙りこむと心配そうに後を追った。
「……理性と感情か……うーちゃん、俺はやつを見逃してもいいと思うか?」
あーちゃんは大の字で横になったまま石段上の神社を見上げた。
「……うう……動けないしいいかと。とどめを刺さなかったのはあっちの理性と感情だし……私らはラッキーみたいな……?……うう……」
「ああ?ラッキーだと!?あははは!確かになァ!あー、生きててよかった!あははは!」
あーちゃんは同じく横で倒れているうーちゃんを見ると大爆笑で石段を叩いた。

二十一話

危なげに歩いているマナを支えアヤは石段横の竹林に入った。
無情にも静かな風が通りすぎ、竹の葉を揺らす。
筍はそう簡単に見つからない。
「そ、そういえばマナ、桃は潰れてないの?」
アヤはかなりの衝撃を受けたマナが持っている桃について尋ねた。
「不思議と大丈夫みたい……。アヤさん、ありがとう……ひとりで歩けるから……」
「ダメ!歩ける怪我じゃないんだから!!」
マナを無理やり支えるとアヤは前を歩き始めた。
「……ありがとう……。筍……見つからないね……」
「筍は地面に埋まっているのよ。掘らなきゃ見つからないわ」
アヤがそう言った時、後ろからあーちゃんがおぼつかない足どりで近づいてきた。
「狛犬!」
マナとアヤはまだ戦うのかととりあえず構えた。
「あー……負けちまったから探すの手伝うぜ!」
「え……?」
あーちゃんは歯を見せて笑うと石像の狛犬姿になり、鼻で地面をフンフンとかぎはじめた。
「ああ!あったぜぃ!!……ここほれワンワン!」
意気揚々にあーちゃんは言い放つと前足で地面を堀り始めた。
「ほれ。もってけー!」
あっという間に筍を掘りあてると前足で器用に持ってからマナに投げた。
マナは尻餅をつきながら立派な筍を受け取った。
「……な、なんで?」
マナとアヤは警戒した顔であーちゃんを見てつぶやいた。
「ああ?気まぐれ」
あーちゃんは口角をあげていたずらっ子のように笑うとヨロヨロ去っていった。
「きまぐれ……」
呆然としていたマナとアヤはやがて我に返り、今度は葡萄を探すことにした。
「竹林から出ようか……」
「うん。葡萄は山葡萄だと思うの。反対側の藪の中にありそうね」
「山葡萄……どんなのかな?普通のブドウじゃないの?」
マナの質問にアヤは小さい丸を指で作った。
「これくらいの豆っぽい大きさの野生のブドウよ」
「へぇ……」
マナとアヤは石段に戻ってきた。そこに人型に戻ったあーちゃんが再び大の字で寝ており、ヘラヘラと手を振っていた。
「向こうはうーちゃんがいるから!」
「……なんで急に友好的……」
感情の変化がよくわからない。動物的で気まぐれのようだ。
しかし、自分の役割以外はしないらしい。向こう側はうーちゃんの担当なのか全く動こうとせず大の字で寝ている。
「ま、まあ……とりあえず行きましょう?友好的ならいいじゃないの」
「……そ、そうだね……」
アヤとマナは寝ているあーちゃんを恐る恐る跨ぎ、竹林とは反対側の森の中へ入った。
「……うう……葡萄はおいしい食料だけど……わけてあげますよ……うう……」
すぐにうーちゃんの声が聞こえた。うーちゃんは石像の狛犬姿でなんだか申し訳なさそうにお座りしていた。
「あ、ありがとう……」
いまだに戸惑うアヤとマナに目もくれず、うーちゃんは鼻を動かし犬のようにあちらこちらを歩き回った。
しばらく匂いを嗅いでからある一点に向かって走っていき、青いような紫のような色をした木の実を枝ごと口にくわえて持ってきた。
「うう……はい……」
若干怯えつつ房になっている木の実をマナの手のひらにそっと乗せた。
「これが……山葡萄?」
「うう……もう大きいのない……うう……」
「大小はいいんだけど、山葡萄なの?」
うーちゃんは大きいものを探してきたようだ。豆みたいな小さな粒が房になってついている。売り物で出ているブドウとは似ているが別物にも見えた。
「うう……これしかしらない……うう……」
「……ありがとう。信じるね」
マナが山葡萄だと思われる木の実を大事に備え付けのポケットにしまうとうーちゃんにお礼を言った。
「……うう……」
うーちゃんはどこか安心した顔で何度も頷いた。こちらは先程のあーちゃんと比べると飼い犬のような特徴だ。
「……でも狛犬は犬じゃないんだよね……」
マナは小さくつぶやくがうーちゃんは首を傾げただけだった。
「うう……では……これで……うう……」
うーちゃんはそわそわしながら去っていった。
「……さて……」
うーちゃんを見送ってからアヤはマナを見た。
「どうするの?これから……」
「あの神社の白銅鏡から進むとイザナミ様にまたぶつかっちゃう……。アヤさん……時間を戻せるかな?」
「……やってみるけど……戻るとリョウが……あなた怪我しているし……」
「仕方ないわ……」
マナが覚悟を決めた刹那、目の前にリョウが現れた。
「……っ!」
「やっぱり……追ってきてた!!」
「なんとか時間巻き戻せたから来てみたら……正直ここまでやるとはね」
リョウは突然襲ってきた。マナが動けない傷を負っていることを瞬時に気がついたらしい。
刀を振りかぶって突っ込んできた。
「仕方ない!」
アヤは咄嗟にマナの手を握ると時計の魔方陣を出現させ、元の時間軸へたどり着けるように祈った。ふたりはホログラムのように素早く消えた。
「ちっ……!アヤちゃんは時間操作にセンスがあるな……」
リョウも後を追うように時間操作て未来へ飛んだ。
「おわっ!」
ふとプラズマの驚く声が聞こえた。
「……え?」
マナとアヤは急いで辺りを見回す。草原の丘。目の前には鳥居。あやはいない。そして消えかかるプラズマと栄次が視界に入った。
「……戻った!」
「おい!マナ!なんだその……」
プラズマと栄次はマナの怪我に絶句した。ふたりには何が起きたのかわからない。
「リョウにやられたのか?あいつは突然消えたんだ!お前らを追っていった!」
プラズマは興奮した口調で叫んでいた。
マナは話の途中で膝をつき肩で息をしながら筍と葡萄、そして桃を並べた。
「とりあえず、食べて!!」
「食べてって……」
「いいから早く!!」
マナの気迫に押されプラズマと栄次は慌てて桃と葡萄に食らいついた。
「渋い……」
プラズマが半泣きで桃と葡萄を飲み込む。
「おい、筍はどうする……」
栄次は筍の扱いに困ったようだ。
丸々一本なためそのままでは食べられない。
「なんとか食べて!!」
マナにそう言われ戸惑った栄次は刀で筍の皮をむいた。
「ゆ、ゆでないと……」
「そんなことをしてる暇はないの!生でかじりなさい!」
アヤにも怒られ、不安げなふたりは慌ててそのままかじった。
「うう……」
青くなっているふたりはなんとか少しだけかじった筍を飲み込み、肩で息をした。
「あ!透けてないぞ!」
「消えずに済んだらしいな……。……!」
栄次が最後まで言い終わる前に口を閉ざし、刀を凪ぎ払った。
金属音が響き、刀を構えたリョウが現れた。
「……遅かったか……」
「マナに暴行したのはお前か?」
栄次は鋭く睨みながらリョウに尋ねた。
「暴行なんて……。違う、違う。でも、マナちゃんが一瞬で消えてくれてればこんな半殺しにならずに済んだんじゃないかな?」
リョウは剣先を返して斬りあげてきた。
栄次は受け流すと再び素早く構えた。
「そうか。お前は冷たい神か……半殺しになった女を見てなんとも思わんとは……」
「仲間だったら怒りが沸き上がってるとこだろうけどね……。……っ!!……強いね……」
栄次はリョウの攻めを切り崩していく。絶え間なく刀を凪ぐ音が聞こえ、両者とも激しく動いていた。
「強い……私もああなれたら……」
「マナ、これからを生きる者は強くなくたっていいんだ」
マナの言葉にプラズマが答えた。
「私が弱かったから力のある者に勝てなかった……」
「……違うぞ。その時代は終わったんだ。その考え方は戦争を生む考え方だ。栄次は……あいつは……強くなりたかった男じゃない。古い時代が男は強いものと決めつけたから血反吐を吐きながら物理的に強くなったんだ。あいつは本当はすごく弱くて優しい男だ。現代を生きるアヤよりも未来を生きる俺よりも後悔しやすくて何かに怯えている。俺は『時代の犠牲者』だと思った」
「……こんなに強い栄次さんが……弱い?……ごめんなさい……勝手に思っていた……昔の人は皆強かったって……」
「とにかくリョウを抑えるぞ!」
時間操作で突然現れるリョウを栄次は間隔で受け流している。なんとかしてリョウを引っ張り出したい。
「ごめんなさい、私はもう時間操作はできないわ」
「うん、アヤさんは休んでいて」
マナが当たり前のように動こうとしたのでプラズマが慌てて止めた。
「馬鹿女!あんたが一番休んでろ!」
「でも……」
「リョウは俺と栄次がやる……」
プラズマは自分の神力を解放すると静かに答えた。

二十二話

「やっぱり『男』が出てくるか……。二対一なのかい?」
神力を高めているプラズマにリョウは刀を栄次に振るいながら興奮ぎみに言葉を発した。
「……戦うか?それとも引き下がるか?」
プラズマはリョウを挑発した。
「……取引きしようか?」
リョウはにやりと笑う。
「取引き?」
「マナちゃんが世界改変にはマイが必要だと言っていた。しかし、マイは時間が止まっている。僕に勝ったら連れてきてあげよう。その先のイザナギ戦も楽になるんじゃないかな?ふふふっ……そっちのが楽しい」
リョウは気分の高揚が止まらないようだ。こういう交渉で逆行に戦うのも「人間の男」によくある感情だ。プライド、強欲、自信で判断能力が鈍っている。
先程は交渉力と感情の入らないタイプの男を持ってきていた。
色々な「歴史的な男性のタイプ」をリョウは引き出している。
「……約束は守れよ。じゃあ、俺達が負けたら?」
「マナを殺す」
プラズマの言葉にリョウは即答した。
目的のためなら手段を選ばない故に容赦のない言葉だ。
「……」
プラズマは冷や汗をかきながらマナを一瞥した。
「……」
マナは心配そうにこちらを見ている。
「プラズマ……勝てばいい」
迷うプラズマにふと栄次がつぶやいた。
「勝てばいいのだ。この時代遅れのデータを持つ哀れな男に負けてはいけない」
「……栄次……」
即答できないプラズマに栄次が代わりに答えた。
「決まりだね」
「俺達が負けたら……」
「考えるな。負けなければいいのだ」
栄次がプラズマを制し、刀を構えて神力を上げた。
「俺は負けない」
栄次は自分に言い聞かせていたようだ。
それを知ったプラズマは
「……俺はサポートする!」
と意気込み、弓を構えた。
戦闘が始まった。
気合いを入れた栄次は先程と比べられないほど動きが速くなった。
集中を高めているおかげかリョウの攻撃に振り遅れていない。
「……とりあえずリョウの時間操作をできなくさせないと」
プラズマは栄次の動きを確認しながら四本の弓を放った。しかし、弓はリョウに当たることなく地面に刺さった。
「ちっ……。……ん?」
プラズマは刺さった矢を見て止まった。
……一本ないぞ……。
四本放った矢のうち、一本がどこにも刺さっていない。
「もしかして……」
栄次は突然現れるリョウとの攻防戦をしている。今、栄次は攻撃できない。リョウがどこから急に現れるかわからないからだ。
……俺が実験するしかない!
プラズマはあることに気がついた。
「栄次!一回さがれ!」
「……!?」
リョウが再び消え、現れたタイミングでプラズマは叫んだ。栄次は咄嗟の判断で一歩ほど後ろに退いた。リョウがまた現れ、栄次めがけて刀を振るう。剣先が届いていなかったがかわす余裕がなかった栄次は頬を斬られた。
「チャンスだ!」
プラズマは栄次の反射の受け身が途切れたところでリョウに向かって走り出した。
栄次が野生の勘で振り回す刀は反射なためプラズマが近づくには危ない。
……このタイミングでリョウにっ……。
リョウが時間操作で消える寸前にプラズマはリョウの胴体を掴んだ。
「……っ」
時間が歪み、プラズマはリョウと共に吸い込まれて消えた。
……こいつのまわりが時間操作で消えている。俺の弓はこいつの時間操作の範囲に入ったから消えた。
おそらくどっかの過去か未来に落ちてる。
……栄次がリョウの時間操作の範囲にいて消えないのはリョウの刀のツバから先の刃が時間操作の範囲外だからだ!
現にこいつは刀で動く範囲を決めている。懐に入れば……
時間操作が戻りリョウとプラズマは突然栄次の前に出現した。リョウは刀の柄でプラズマの頭を殴ると蹴りあげて遠くに飛ばした。
「うっ……」
プラズマは地面に叩きつけられた。
それを見た栄次は目を見開いた後、目を細める。
プラズマの行為の意味がわかったようだ。
「……」
栄次は刀を構えてリョウにぶつかって行った。
……そうだ。栄次!もう一度……リョウに時間操作をさせろ!
プラズマは血が滴る頭を押さえながら栄次とリョウの戦いを見ていた。
刀がぶつかる音が響くがツバぜり合いをしていない。お互い受け流している。リョウは先程のプラズマの行動から時間操作を止めてしまった。栄次との戦闘に集中している。集中しなければ普通に力負けするからだ。それだけ栄次は強い。
集中しているのを見計らい、プラズマは弓を放った。リョウは突然飛んできた矢に驚き思わず時間操作で逃げてしまった。
「よし!」
プラズマは決死の飛び込みでリョウに食らいつく。再び時間操作から栄次の前に現れる。
「栄次ィ!!」
プラズマが叫んだ。栄次はすぐに動いた。リョウはプラズマに拘束され一瞬、動けなかった。
栄次は容赦のない袈裟斬りを刀を返してリョウに打ち付けた。
峰打ちである。
「がっ!!」
あまりの衝撃にリョウは膝をついて倒れた。
「俺達の勝ちだな。気絶されては困る」
栄次が気を失ったリョウを強引に揺すって起こす。
「うう……負けたか……。仕方がない。約束は約束だ……。男に二言はないよ」
リョウは潔く負けを認めた。
「男に二言はないねー。あっけなく負けを認めたな。お前、大変じゃないのか?そんなデータで」
プラズマは呆れた顔でつぶやいた。
「大変だよ。こんなモデルデータいらないさ」
自虐的に笑ったリョウは少し先で状況を見ているマナに叫んだ。
「マナちゃん!世界改変にはマイが必要なんだろ!連れてきてあげるよ!」
「……え!?」
マナが声を上げた刹那、リョウは時間操作で瞬間的に消えた。
「とりあえず勝ったか。……終わった……。マナ、大丈夫か?」
栄次がこの間にマナに近づき怪我の状態を見てくれた。
「ちょっとだけ……動けるよ……」
「動かなくていい。傷がおかしなものばかりだ……。何と戦ってきたのだ?……鉄砲に当たったかのような火傷、獣の爪のような……」
「まあ、もう終わったから……」
栄次の追及をマナは苦笑いで遮った。
「栄次、プラズマは大丈夫なのかしら?」
先程の戦闘を遠目で見ていたアヤは血がつたう二人を心配そうに眺めながら尋ねた。
「問題ない」
「俺は問題あるぞ……。いてーよ……」
栄次は寡黙にプラズマは情けない顔でそれぞれ返答した。
「治療道具とかないよね……」
「ないわね……。先が怖いわ」
アヤがつぶやいた刹那、時計の魔方陣が出現しリョウとマイが現れた。
「マイさん!?」
「ただいまか?よくわからんが」
驚くマナにマイは飄々と手を上げた。
「どうやって……」
「単純さ……過去から連れてきた……。マナちゃん達が……シミュレーションしている時から……」
リョウはため息混じりに答えた。
「お前は……この世界から過去に戻れるのかよ!」
プラズマの言葉にリョウは首を横に振った。
「……いや……シミュレーションから連れてきたんだ。あれは弐の世界の肆だから……。でも、この時間軸ではあのシミュレーションも過去になる」
「……なるほど……って言っていいのか?」
リョウの説明にプラズマは頭を抱えた。
「うむ!こちらのが楽しそうだ!楽しませてくれよ」
マイはいままでの境遇を忘れたかのように嬉々とした顔になっていた。先程までマナ達を騙してシミュレーションしていた段階のマイのはずなのだが。
「とりあえず、あんたもぶっとんでる……」
プラズマは若干引き気味な顔で距離を取りながらつぶやいた。
「……僕はマイを連れてきたよ。約束は果たした。僕はもう戦わない。後はイザナギと戦い、そして消されればいい……」
リョウは肩で息をしながらマナに言い放った。
「その時間操作、リスクがありそうだね……」
「神力を使うからマイを連れてきた段階で僕はもう動けないくらい疲弊しているさ……」
リョウはふらつきながらその場で膝を折った。
「……リョウさん、今のデータ……変えたいでしょ?」
「……」
リョウはちらりとマナを仰いだ。
「答えたくなくてもわかるよ」
「さっさと行きなよ」
リョウは鬱陶しそうにマナ達を凪ぎ払った。
「まあ、いいや……。皆、行こう」
「お前は動ける怪我じゃない!」
マナが歩き出そうとしたので慌ててアヤ、栄次、プラズマが肩を貸した。
「ありがとう……」
マナは優しい時神達に心から感謝をした。
リョウは丘の上の神社から去っていくマナ達を黙って見送っていた。

二十三話

丘を降りて結界を越えてからアヤがマナに余った桃を渡した。
「あなた、食べていないでしょう?」
「ああ……そうだったわ。私には桃のデータがなかったんだった」
マナはアヤから桃を受けとるとかじった。
「……まずいね……。あ、マイさんも食べて!女性にはデータがあるみたいなこと言ってたけど、一応……。リョウさんから奪わずに取ってこれたから」
「なんだ?まあ、いい。いただこう」
マナが大事な内容を取っ払った説明をしたがマイは戸惑いつつ素直に桃、筍、葡萄を食べた。
「あっははは!なんだこれは!まずいぞ!あっははは!」
「……なんで笑ってんだよ……お前……」
プラズマは呆れた顔でマイを見据えた。美味しくないものを無理やり食べさせられたマイだがなぜか愉快に笑っていた。
しばらくしてデータを入れたマナ達は再び海が近いイザナギの場所へ戻ってきた。
「さ、さあ……後は……あなただけ……。矛を渡してください……」
佇むイザナギにマナは肩で息をしながら声を上げた。
海を眺めていたイザナギはちらりとマナを見た。
「では……日本のワールドシステムに入れるか試す」
機械的にイザナギはそう答えた。
マナ達はとりあえずかまえて、感情が全く読めないこの神の気迫を読み取ろうとしたがまるでわからなかった。冷や汗がつたう感じはあるが、先程よりも得たいのしれない感じはない。
おそらく、桃、筍、葡萄のデータを体に取り込んだからだ。
これが得たいのしれない力の原因だったようだ。わけのわからないデータから理解できるデータになったということだろう。
「アメノオハバリ……」
イザナギがつぶやくと手から光輝いている光そのものな剣が現れた。
「……!イツノオハバリ!?」
「いや……私のはアメノオハバリだ……。人間が古事記に書いたイツノオハバリとは別物として分かれたのだ」
マナの言葉にイザナギは静かに答えた。
「確か想像によって同じものでも違うように弐の世界には現れるのよね……。歴史上の人物も伝記を書く人や小説などによってその分の同一人物が出現するらしいわ。織田信長なんて何人いるのかしら……」
アヤはため息混じりにマナにささやいた。
「じゃあ一緒じゃないの?私が持っているイツノオハバリと……」
「たぶん、違うわ。本物よ……あっちは……。本神が持っているのだから」
「……」
マナは黙り込んだ。
異様な力を感じる。自分が持っているイツノオハバリを出してみた。同じような感じだが力が桁違いだ。
「まずい……この剣とは違いすぎる……」
「似た感じにできるぞ」
マイが心底楽しそうに笑いながらなんかしらの糸をイツノオハバリに巻いた。
「なにこれ?」
「武装データの入る糸だ。精巧なレプリカになっただろう?」
「レプリカ作ってどうする……」
プラズマが呆れた声を上げるがマナは目を見開いた。
「……別物だけどパワーが違う……。エネルギーの大きさを感じる」
マナがイツノオハバリを眺めているとイザナギが、
「……準備はできたか?」
とアメノオハバリを構えて静かに尋ねてきた。ご丁寧に会話が終わるのを待っていたらしい。
「……いいですよ……」
マナは警戒を最大に強めて答えた。
刹那、何かが激しく破裂する音が響いた。風が勢いよく通りすぎる。
「えっ……」
「栄次!」
プラズマがなぜか栄次の名を呼んでいた。
何が起きたかわからぬまま振り向くと血を流した栄次が刀を地面に刺して肩で息をしていた。
「なっ……」
マナが絶句した時、遠くの木々が真っ二つに斬れて音を立てながら地面に転がった。
イザナギは動いていない。
「全く……見えなかった……」
栄次がそうつぶやいた。辛うじて刀で斬撃を防いだようだがあまりの衝撃に髪ヒモがすっ飛び額を斬られた。
遅れて栄次の総髪がとかれ、肩先にかかる。
「嘘……」
アヤは言葉を失った。
「こりゃあ……ヤバイな……」
プラズマも顔面蒼白でつぶやいた。
「あははは!なんだ?こいつ!おもしろいな!!」
大爆笑していたのはマイだけだ。
「桁違い……」
「……イツノオハバリを持っているのはマナ……マナをあのスピードまで持ってこないといけない……だが……」
プラズマはマナの怪我の具合をみて頭を抱える。
「あいつは光のように速いぞ……」
栄次が刀を構えながら戻ってきた。
イザナギはこちらを見下す冷たい目をしていた。力の差を見せつけているようにも見える。
「……栄次、マナを抱えて動けるよな……。リョウがやった戦法と同じ事をやるぞ……。そうしなければあいつには追い付かない」
「……時神三人でアヤの力を補助するのか……」
「そうだ。そんで俺とマイがマナと栄次をサポートする。速さをとにかく上げて隙を狙う」
「……わかった」
プラズマの作戦に考えている暇はなく栄次はマナをすばやく抱えた。
「……栄次さん……私……」
「重くはない。むしろ軽い」
マナの言葉に被せるように栄次はささやいた。以前、アヤが同じようなことを言ったからだろう。
栄次はマナを片手で抱くとイザナギに向かい走り出した。
「栄次さん……恐怖心は……」
「ある」
栄次は短く答えるとプラズマを一瞥した。
イザナギの手がわずかに動いたタイミングでプラズマは叫んだ。
「今だ!」
アヤが神力を高めプラズマも同時に高めて栄次とマナを消した。
すぐに遠くの木々が再び切り刻まれる。
「来るぞ!」
プラズマがすばやく叫び、マイがてきとうにスピードアップの糸を放つ。刹那、栄次とマナがイザナギの懐に現れた。マイの糸が二人に巻きつき、さらに速度を上げた。しかし、マナが振りかぶるより早くイザナギがアメノオハバリを振るった。栄次がもう片方の手で無理やり刀を構え、イザナギの攻撃を受け流す。
だが、衝撃に耐えられず吹っ飛ばされ、バラバラになった木々の間に倒れた。
「……振り遅れたな……」
「栄次さん!私をかばって……」
「こういうもんだ」
栄次は肩先を深く斬られていた。
「……どうしよう……血が止まらない……」
マナが慌てていたが栄次は普通に起き上がった。顔に痛みを出さない強い精神力だ。戦闘になると弱い部分が消えるらしい。
「……もう一度やるぞ……。プラズマ、次はもっと考えろ……」
「栄次……大丈夫なのか……?」
「問題ない」
プラズマの心配も栄次ははねのけた。
栄次はマナをもう一度抱えるとまた走り出した。
「ちょっと!」
「アヤ!やれ!!」
戸惑うアヤにプラズマが鋭く叫んだ。これでアヤが遅れていたら向こうの方が攻撃が速くなってしまう。アヤはびくっと肩を震わせると時間操作をプラズマと共にもう一度おこなった。
マナと栄次は再び消え、すぐにイザナギの懐に現れた。今度は反対側からだ。マイが糸を飛ばし、二人の動きを速める。
プラズマはイザナギの腕を狙って弓を放った。
しかし、イザナギは矢を弾き返してマナのイツノオハバリをかわした。完全に見切られている。
「またかわされたっ!」
栄次が刀を構えるが斬撃は静かにマイに飛んだ。
「しまった!!」
栄次が引き返しマイを突き飛ばした。栄次は再び肩先を斬られた。
「くそっ!!見えないんだよ!」
プラズマにはイザナギの攻撃が見えない。故に動けなかった。栄次は強い時間操作とマイの速度の糸のおかげで辛うじて見えるが受け流すまでの余裕がない。
「どうすればっ!」
マナは顔色の変わらない栄次を心配そうに見つめながら必死で打開策を考えた。
「そうだっ!イザナギ様は黄泉に居続けるために桃と筍と葡萄のデータを物理的に持った……。そのデータを奪えればっ!リョウさんだって三つのデータを出し入れしていたんだ。食べたからといって物体がなくなるわけじゃない。データだから……。元々プログラミングされていたわけじゃなくて追加したわけだから……」
「どうやって奪う?」
栄次の問いかけにマナは考えた。
栄次は再び走り出す。イザナギに攻撃の動作が見られたからだ。同じ事を繰り返さないとイザナギの攻撃は防げない。
「……」
マナは抱えられながら考えた。
「お前達は……」
ふとイザナギが口を開いた。栄次は咄嗟に飛び退きイザナギと距離を取る。イザナギは攻撃を一時やめた。
「お前達はなぜこの世界が二つに分かれ、我々が情報を集めているか知っているか?」
「……?」
マナ達の顔を見てイザナギはさらに言葉を続けた。
「人間が不完全な生き物だからだ。動物に神がいないのは動物が完全な生き物だからだ。不完全な生き物のよりどころとして不完全な人間により産み出されたのが我々神。神は常に人間の幸せを願っている。……しかし……」
イザナギはさらに言葉を続ける。
「人間が作った宗教により人間が不幸になっていることがある。お前達は改変前の世界でどんなことがおこなわれていたか知っているか?ある地域では宗教により女児の女性器を切り取る、もしくは縫うと言った動物では考えられない風習があった。痛みを消しての処置ではなくそのまま鋭利な石などで切り裂くようだ。大人の通過儀礼としておこなわれるそれは全く意味をなさず、むしろ子を産むはずの女が無惨にも死んでいる。遺伝子を残すことが生物の本能であるがこの無駄で拷問のような処置で女は子を産むのが困難になっていた。子を大切に育てる動物とは比にならないくらいの悪行だ。ある地域では神などを信じると処刑された。崇拝しなければならないものは国のトップで信じる自由はない。またある地域では宗教により男が男らしくなくてはいけない、女を大切にしなければいけないなど宗教により縛られる人間がいた。逆に……」
イザナギは再び言葉を切り、また口を開く。
「神のような偶像を大切にし、生きる人間もいた。神に守ってもらえるよう、子が産まれるとお祝いをしたり祈りを捧げたりする。幸せを願うために宗教を信じる人間もいた……」
「……だから何ですか……?」
イザナギの長々語る言葉にマナは油断せず尋ねた。
「……だから両方のデータを収集しているのだ。神がいない伍は宗教的な人道的、非人道的という言葉がなくなり、すべては国の保持のために戦争を繰り返す。人を縛るのは法律である。神が存在する壱の世界は宗教が法律になっている国がある。壱と伍が同一だった時、宗教のために戦争をしたり、国の保持のために戦争をするといったことが混ざっていた。我々神は不完全な人間から産まれた偶像物。データを取らなければ平和になる解決策が見つけられなかった。現に分けてデータを取り始めたところ、壱の世界では悪習な宗教を改変したり、信じる部分は消さずに意味をなさない呪術をなくし科学を取り入れるなど人間が対策に動いた。伍は人権団体が悪習な宗教をなくし、人間は神に縛られず自由に生きようと動いた。どちらもうまくいっていた。このうまくいっているデータをお前が壊そうとしている。神々がお前を許せないのはそういうことだ」
イザナギはマナに冷酷な顔で淡々と言った。これらのことは感情がこもるはずだがイザナギからは何も感じない。
「教えてくれてありがとうございました。それはシステムに干渉してから決めます。やはり矛はいただけませんか?」
マナもなるべく感情を出さずに静かに尋ねた。ここで流されていたら今までの苦労が水の泡だ。
「渡せない。これだけ説明しても理解しないか」
「……やっぱりやるしかないね。理解できなかったから。ここまで来て引き下がれないんです」
マナの返答でイザナギは肩を軽く落とした。

二十四話

再び戦闘になったがマナ達の動きが変わるわけではない。
時間操作でイザナギの攻撃をかわし、隙をみてイツノオハバリで凪ぎ払うが避けられ攻撃を加えられる。
マナはイザナギが持つデータを奪う方法を考えるが解決策は思い付かない。
「相手が……強すぎる……」
栄次が疲弊してきた。早く勝たなければ全滅してしまう。
プラズマ、アヤ、マイはタイミングを合わせるので精一杯で打開策を考える余裕はない。
「どうすれば……」
考えていると頭にアマテラス大神の声が聞こえてきた。
「え!?」
「どうした?マナ……」
「アマテラス様の声がする……」
マナは栄次にそう答えて声に集中した。
『……聞こえますでしょうか?今、黄泉にいますね?わたくしはアマテラス。わたくしはいまだ思兼(おもいかね)をデータでおさえております。
スサノオはタケミカヅチと戦闘中。黄泉はわたくし達は入れませんわ。
……ただ、ツクヨミは侵入できますので応援を要請しておきました。
では』
アマテラス大神は一方的に話すと突然に声が聞こえなくなった。
「頭に声が……」
「それは通信だ。神々はこうやって離れた者と会話ができる。テレパシーというらしいが」
栄次はイザナギのアメノオハバリを間一髪で避けると冷や汗をかきながらマナに答えた。
「……ツクヨミ様が来てくれるらしいの……」
マナがつぶやいた時、ホログラムのようにツクヨミが現れた。
「やあ、『さっきから見ていた』けどなんだかイザナミが逆の事を言ってたよ。イザナギ」
「……」
ツクヨミは表情なくイザナギの前に現れた。イザナギは少しだけ動揺を見せた。
「逆……とは?」
「あなたが言った言葉、『千五百人を産む』という言葉をイザナミは逆にしていたよ。あなたがまるで人殺しかのような言い分だ。本当はイザナミが『千人殺す』と言ったのに。……彼女は改変でデータの一部を損傷したようだ。これはKによるものと考える」
「……もういいのだ。私は人間の男性のモデルデータではない。妻は……私を当時の人間達の男性感で立てようとしたのだろう。私はその発言に対し、なんら怒りはない。妻を今でも愛している」
「そう?でも、男性が破壊の対象なんてなんだか疲れない?あなたは僕達を産んだじゃないか。男だってなにかを産み出せる。黄泉に連れ込む破壊をしているのはイザナミ、千人殺すと言ったのもイザナミ、むしろ狂暴なのは女じゃないか」
ツクヨミは呆れた顔でイザナギを見た。
「私達は……一般的な人間の男女のモデルデータの逆をバックアップする神でもある。だからこれでいい」
「……じゃあさ、マナに自由にしてもらえば?」
「別によい」
イザナギの言葉にツクヨミは目を細めた。
「……僕はあなたの右目だ。姉は左目、弟は鼻。僕達は世界改変を支援する。あなたもそうなのでは?」
ツクヨミが言葉を発した刹那、イザナギが苦しみ始めた。
なんの変化もなく突然だ。
「な、なに……」
マナ達は少し距離を置いてイザナギを見据えた。
「姉の神力と弟の神力をもらった。僕達はあなたから産まれた。故にあなたから産まれた部分とリンクできる……」
「……くっ……」
イザナギは目や鼻を押さえていた。
「僕達があなたの目と鼻を封じた。獣のように、においで敵を把握することも目に頼って敵を把握することもできない。耳のみだ。ハンデにはいいでしょ?」
ツクヨミはイザナギに声をかけながらマナを一瞥した。
マナに早く動けと目で言っているようだ。
「栄次さん……」
マナは小さく栄次にささやいた。
栄次は深く頷き、走り出した。
察したアヤがプラズマと目配せをして時間操作をおこなった。
イザナギは栄次の姿を探している。栄次はまたもイザナギの懐付近に現れた。
マイが糸を飛ばす。わずかな音に反応しイザナギがアメノオハバリを振るう。
マナは決死の覚悟でイツノオハバリを凪ぎ払った。アメノオハバリとイツノオハバリはぶつかり合ったがイツノオハバリが力負けをした。イツノオハバリはパックリ折れて遠くにすっ飛んでいった。
「……くぅ!!あきらめない!!」
マナは眼鏡を咄嗟に外した。
……このままデータをとってみるしかない!!
桃、葡萄、筍のデータはすぐにわかった。自分が持っているデータをなぜか即座に解析できた。
無理に手を伸ばす。
本当に瞬間の出来事だった。
同じデータだったからかマナの手に桃、葡萄、筍のデータがそれぞれ磁石のように吸い込まれてくる。
「……!!」
イザナギはアメノオハバリを乱暴に振るった。栄次は反応できなかったが飛んできたツクヨミに抱えられて助けられた。
「もういいよ。彼は負けた。データを取れたんだね。これでイザナギは黄泉の神々に再び追われて穢れを纏う。もういいから彼にデータを返してあげて」
「もういいって……」
「彼には戦う意志はもうないよ。僕らはイザナギに目と鼻を返した。だから君も」
ツクヨミが栄次とマナを抱えて地面に降り立った時、イザナギがこちらをじっと見つめていた。目が見えているようだ。
イザナギは戦闘の意志がないのか動かない。
「……負けを認めたんですよね?」
マナはツクヨミにもう一度確認を取った。
「大丈夫。返してあげて」
ツクヨミの言葉にマナは先程の余りの桃、筍、葡萄を差し出し地面に置いた。
三つの品物はデータとなりイザナギに自動的に吸い込まれていった。
「……これも世界の定めか……」
イザナギは呆然としていたがマナに向き直り、手から長い矛を出現させた。
「……ついに……」
「アマノミナヌシ……日本のワールドシステムに入れる。アマノミナヌシはデータだ。どう改変しようとしているかわからんが……そう簡単ではない」
「ありがとう……ございます」
マナは栄次に支えられながら矛を手に持った。不思議と重くはなくマナでも持つことができる。
「……その矛が持てるか……ならば……本当にワールドシステムを持った者か」
イザナギは目を閉じると何事もなかったかのように去っていった。
「あ、あの……」
「矛が手に入ってよかったね。僕はもういくよ。アマテラスとスサノオに成功した事を言っておくね。じゃあ」
あまり感情が出ないツクヨミはすぐにその場から消えてしまった。
「自由すぎるわね……」
アヤが体を震わせながらマナの所へやってきた。
「自由だな……」
プラズマとマイも近づいてきた。
「これからどうする?」
栄次の言葉にマナは少し考えてから
「……皆でワールドシステムに入る!」
と答えた。
これを聞いた時神達は目を見開いて驚いていた。
「え?私達も行くの!?」
「なんだか嫌な予感が……」
アヤやプラズマの困惑の声にマナは頷いた。
「皆で行くの」
譲りそうもないマナに一同は仕方なく頷いた。マイだけはひとりで笑っていた。

二十五話

「行こう!と決意したはいいけど……どうするの?」
「さあ?」
マナはとりあえず皆に尋ねたが時神達、マイは同じように首を傾げた。
改めてまじまじと矛を見つめる。どこにでもありそうな矛だ。
「見た目は普通……」
マナがつぶやいた刹那、瞳にデータが流れた。数字がマナの瞳を流れていく。
「あ……」
マナは何かに取りつかれたかのように突然歩きだし、ある一点の地面を抵抗なく矛で刺した。
「マナ?」
アヤ達は不気味にマナを見据えた。
「ここ……」
マナがつぶやくと地面がガラスのように音を立てて割れた。
「……っ!?」
割れた地面に時神、マイ、マナは何もできずに落ちてしまった。
「しっ!死ぬ!!」
プラズマが落下しながら悲鳴をあげた。
「……大丈夫。アマノミナヌシのデータに入ったんだ」
マナは落ちながら冷静に言葉を発していた。
次第に落ちるスピードが緩やかになり、やがて電子数字が縦に流れていくのみとなった。
さらに電子数字が流れていくと今度は解読不能な文字列が流れる。
「……数字は人間が作ったもの……。この解読不能なデータも『存在する』ものを見分けるために人間が作ったもの……私達が見ているものは……」
気がつくと何にもない空間になった。表現はできない。ただなにもない。色もない。匂いも、音もない。
おそらくここは『存在しない』ものであるため、人間の言葉で言い表すことはできない。
次元が違うのだ。
「……なに……ここ……」
アヤの不安そうな声が静かに響き渡る。声は得たいの知れない文字列になり消えた。
「声が文字に……」
プラズマと栄次は呆然と立ち尽くしていた。
「……ここからどうすれば……」
マナがつぶやくと誰かの声がした。男でもなく、女でもなく、子供でもお年寄りでも機械でもない声。存在がない声だ。
そして何を言ったのかまるでわからない。
声は不思議なことにマナをすうっと通りすぎていった。
「……なに……いまの……」
アヤが不気味に思いながらつぶやいた時、マナは頭を抑えて何かを考え始めた。
「マナ?」
時神達が心配そうに見つめる中、マナは頷いた。
ちなみにマイだけは微笑している。
「文字が解析できた。アマノミナヌシが会話してきたんだ」
「え!?」
アヤ達が驚くとマナはとても冷静な声で続けた。
「アマノミナヌシは……この世界が産まれる前にいた……その前の世界の住人のひとり。つまり、存在しない存在」
「存在しない存在……」
「……好きに変えてみろと言っている」
「世界をか!そんなてきとうでいいのかよ!」
プラズマが叫ぶとマナが当たり前のように口を開いた。
「いままで私の意見だけでここまできたわけじゃない」
「まあ……そうだが……」
「……アマノミナヌシはこの世界が産まれる前にあった世界の者、日本ではアマノミナヌシだけど他の国では名称が違うみたい。世界改変と世界が滅ぶとは違う。世界改変は今『存在する』世界を変えるということ。世界が滅ぶとは……『存在がなくなる』こと。自分が生きた世界のように。……と言っているみたい」
マナはなぜかアマノミナヌシと会話ができているようだ。いや、一方的に聞いているのか。
「じゃあなんで『存在しない』世界の住人がいるんだよ?『存在する』じゃないか」
プラズマはマナに首を傾げた。
「……いずれ……『存在する』世界になる。今の世界が滅べば……存在しない世界……『漆(なな)の世界』が存在するようになる。そして新しい世界を作り、この世界にはない生き物、物達で繁栄していく。今の世界は誰かひとりをバックアップに残し『存在しない世界』として今の自分のようになるだろう。むしろ、そうなるかどうかもわからんが。自分はそうやって新しい世界にかかわった……と言っているよ」
「……次元が違いすぎるわね……」
「……今の話だと誰かがアマノミナヌシのように残るかもしれないと言っているが……」
アヤは呆然としていたが栄次は不安げにマナに尋ねた。
「……あなたが……世界改変をするならば……この世界がいつか滅ぶ時、自分と同じように残り、世界創成のモデルデータになる可能性がある……」
「……!」
アヤ達は驚きの顔でマナを見た。
「それでも世界改変をするか?ここまで入り込んで来たものはあなたがはじめてだ。前回の改変は自分の所まで来ていない。色々な者達が最優先の選択をした結果なのだ。……と言っているよ。……さっき、改変してもいいって言ってたでしょ?どうやればいいの?」
「そこより気になることはないのかよ!」
プラズマが叫ぶ中、マナはそろそろ本題に入った。
ここですんなり話を戻せるマナはやはりまともではない。
「……勝手にやれ……って……仕方がない!マイさん、壱の世界を夢にして伍の世界の人達に見せて!」
マナはやけくそにマイにそう言った。マイは不気味に笑うと頷いた。
「何が始まるんだ?ふふっ」
「お前はよく笑えるな……」
マイの嬉しそうな顔をみてプラズマはため息をついた。
「時神がいるなら過去と未来と現在の調整もできるよね」
「……簡単に言うのね……」
イメージ通りに進めるマナをアヤは恐ろしく思いながらつぶやいた。
こうして世界改変が始まった。
マナが自由に動かせる世界……だが、一歩間違えれば滅亡だ。
異次元のプレッシャーをマナは抱え込むことになった。
前回の世界改変は重かったに違いない。
うまくいかなければ
「存在がなくなるんだ……」
マナは口に出し、繰り返し言葉を頭に刻み込む。
……存在がなくなる……。
「よし……」
やがて覚悟を決めたマナは目を見開き、取り返しのつかない場所へ足を踏み入れた。時神達はデータの塊になり、マナの瞳は紅に光った。

最終話

マイが壱の世界のデータを夢を見ている伍の世界の人たちに割り込ませる。
突然に混乱を産んだ伍。
世界はおかしな方向へと向かった。
未来神プラズマのデータにより未来が飛ばされ20年後。伍はもうひとつの世界があることを突き止める。
妄想症の人がいけるという世界へ。
そちらの方が楽しそうだと皆妄想をはじめる。それが50年後のこと。
世界は繋がり始め……滅亡の未来へと向かい始める。
「これじゃあ一緒じゃない!」
リョウが予想した通りになり、焦るマナ。
「え……?」
その時アマノミナヌシが過去を消し去るかとデータで訴えかけてきた。
つまり、真っ白にするかと問いかけてきたのだ。
「……なくさない」
マナは過去を残す選択をし、人々に善意を植えつける事にした。
……私は……現人神だ!私は神としてやらなければならないことがある!
そうして神のお告げとしてこう言った。
「現人神として言う。人を傷つけたりルールを破ると神はあなたをみている」と。
この一言だけ言った。
現在、神に近いケイに神からのお告げとしてそれを言わせ、世界は徐々に妄想の世界(壱)のデータをさぐるのをやめ、いい行いをして死ぬと神が連れていってくれるものという認識を産んだ。
さらに500年が経ち、人々の考えは改変前の精神に戻る。
暗い夜道で物音がしたら怪異かもしれない、悪いことをしていると怪異に連れ去られる、天災は怪異かもしれないなど。
人々の精神は一周回ったのだ。
結局、マナも古いデータを参考にするしかできなかった。やはりこの世界は同じように回るのが一番良いらしい。『怪異を信じる』から『怪異を信じない』に変わり、再び『信じる』に戻ってくる。
このサイクルが一番滅びから遠い。マナはそう結論付けた。
伍の世界は日本を中心に目に見えないものも信じ始めた。
そして知らぬ間に妖怪という言葉ができていた。
様々な妖怪の想像が産まれ、様々な妖怪のデータが出現した。
ものを信じていなかった時代はマイが割り込ませたデータにより、表向きはなかったことになった。
過去のデータ自体は残っているが。
「これが自分がやりたかった理想……だけど……これでいいのかな……」
自分がやったことに自信を持てなくなったマナは世界を変えた重圧に押し潰されそうになった。
よく考えれば神だって完全ではない。それは人間が想像したものだから。でも、やはり自分がしたことは信じなければならない。
そう言い聞かせているとケイが弐の世界がつながったことによりホログラムのように現れた。
現在、機械化の体が残ったケイは人間の理を外れた怪異になっている。
何百年後のケイかわからないが顔は微笑んでいた。
「おねぇちゃん、ありがとう。人間は想像する能力がある。だから想像はなくしちゃいけない。私は半端者だけど、これがいいよ。ありがとう。お姉ちゃんを信じて良かった……」
「ケイちゃん……私が……私がやったことは……合っていたのかな?」
「……わかんない……でも……お姉ちゃんも世界に動かされていたのならこれは必然なことだったんじゃないかな?」
「……元々、私がこのような判断を下すと世界から運命付けられていたってことかな?」
「……それは私よりも世界に近いお姉ちゃんのがわかるんじゃないの?とりあえず、ありがとう。私だけでも救ってくれた」
ケイは優しく微笑む。
「ケイちゃん。私はたぶん、世界改変のシステムだけで動いていたんだよ……。世界の滅亡を避けたいと考えている世界のデータが集まったのが私。ケイちゃんのためじゃなかったんだって気がついた……」
「なんとなく……感じていたよ。アマノミナヌシのデータを持っていた時点で、もしかしたらって……はっきりとわかったんだね」
「……うん」
マナは素直に頷いた。
「……あなたはたぶん消えてしまう。世界を改変するというデータしかないから……でももし……また会えたら……私を覚えていたら……また遊びたいな」
「そうだね……」
マナは悲しげに去っていくケイを黙って見つめていた。
ケイとはもう会えないだろう。
なんとなくわかった。
未来を結び、過去を消さず、再びアヤのデータが現代へ導いた。
「私はどうなる?」
マナがアマノミナヌシに問う。
「あなたのシステムはこれで終わりだ。世界は徐々に溶け込むだろう。妖怪が生きる世の中と神が生きる世の中で正反対のバックアップをとりはじめる。あなたは消滅し一から人の子として生きる。世界改変したものが世界にいたらデータに支障が出るからだ。人として産まれる前の記憶はアマノミナヌシと同化する」
「一から……記憶もなにもなくなるんだ……」
「そういうことだ。世界は改変される。そろそろあなたも……」
マナのデータは分解された。
「さ、最後に!……最後にデータになっている時神さん、マイさんを実体化させて!」
マナは最後に時神達、マイに一言言いたかった。アマノミナヌシは何にも言わずに時神、マイをデータから実体に戻した。
「な?なに……」
「いま……なんか……」
アヤ達はデータになってからの記憶がないようだ。マナを見て不安そうにしている。
「皆、ありがとう。時間が止まっている健さん達にもお礼をするね。ありがとう!そして……プラズマさん……」
「……?」
呆然としているプラズマにマナは笑顔で手を振った。
「ずっとついてきてくれてありがとう!また会えたら会おうね……。さようなら……」
「お、おい!?」
プラズマにお礼をした後すぐ、マナは消えた。
不思議となんの違和感もなかった。自分の使命を果たした達成感もあった。
……私は世界の人々のデータを代弁したんだ……。
……後悔はない。
マナがいなくなると時神達の瞳が黄色に変わり、データが書き換えられ、また緑に戻った。
「なんだ?ここは?」
戸惑うプラズマは辺りを見回した。
「待って!なんかすごい風がっ!」
「愉快だな?」
アヤが叫んだ刹那、プラズマ達は強風に吹っ飛ばされた。ひとり楽しんでいたのはマイだけだった。
アマノミナヌシはなにも言わずに時神達、マイを世界から出したのだ。
「うわああ!」
プラズマ達が悲鳴をあげていると知らずのうちにネガフィルムが絡まる弐の世界に出ていた。
「あ、あれ?」
「時神にマイ……?」
途中でリョウが時神の前に現れた。Kの使いのドールを連れている。
「日本の時神が弐の世界に落ちたと聞いて探していたんだよ」
リョウは記憶を失っており、そう言っていた。
「……なんでかここにいたんだ……なんでだ?」
「弐の世界は怖いわ……」
プラズマとアヤは青い顔でリョウを見ていたが、栄次は「何かがおかしい……」とずっとつぶやきながら頭を抱えていた。
「ほら!現世に帰るよ……高天原も心配していたんだからね……。過去神は過去に帰る!現代神は現代に帰る!未来神は未来に帰る!高天原の面々が移動の手伝いしてくれるって!ほら!早く行くよ!」
「……は、はい……」
なんだか納得できなかったがKの使いと共に現世に戻った。
いままで通りのふつうの生活が始まった。
アヤはアパートの自室のベッドで目覚め、頭を抱えながら歯を磨いていた。
「……なんかおかしいのよね……うーん……」
「もしもーし!ごめんくださーい!」
ふと外から聞き覚えのある男の声が聞こえた。
「インターホンあるのに直に……天然?それよりもこの声……どっかで……はーい!」
アヤは険しい顔のまま玄関のドアを開けた。春の日差しの中に青年と小さな女の子、後ろに女性が立っていた。
「あ、あれ?あなたはっ……えーと……」
「お姉ちゃん、こんにちは」
小さな女の子が頭を下げて丁寧に挨拶してきた。
「……健と……あや……ちゃん?」
アヤはなぜだか彼らの名前は覚えていた。他は何にも覚えていない。彼らとどこであったかもわからない。
「アヤさん、私達と一緒に暮らしませんか?ああ、自分の家族です。嫁と娘」
「は、はあ……」
健がまぶしい顔で言うのでアヤは顔をひきつらせながらなんとなく頷いた。
「アヤさん、世界改変は覚えている?」
小さな女の子、あやが無邪気な顔で尋ねてきた。しかし、なにかをうかがっている顔だ。
「世界改変?なんのことかしら?突然変な事ばかり起きるからそれと関係するの?」
「ううん。なんでもない」
あやはアヤの返答に満足そうに頷くとアヤの手を引いた。
「もっと広いマンションで一緒に住もう!」
「……そんないきなり!?」
「あやとアヤ……どっちもあやちゃん。呼び間違いしそうです。あー、私はパパでいいですから」
「……はあ!?」
戸惑うアヤを健とあやは強引に連れ出した。
「全然わからないわよ!!ちょっとー!!」
朝日が昇る静かな玄関先でアヤの悲鳴が響き渡っていた。
世界はほとんど変わっていない。

※※

何年後か何百年後か何千年後かわからないいつか。
朝起きたマナは母と会話し学校へ向かった。
途中友達に出会い、友達と会話しながら学校への道を走る。
「この路地は猫又いそうだわ……」
友達の女の子が暗い路地を気味悪そうに一瞥しつつマナにそんなことを言った。
「確かに気味悪いね……。あ、帰りに神社巡りしよ?アマテラス様とツクヨミ様とスサノオ様の神社でパワーをもらうの!」
「あんた、好きねぇ……。いいけど昨日も参拝していたじゃない」
呆れる友達の声を聞き流し、マナはつぶやく。
「こっちの世界にも……神様がもっと現れるかな?アマテラス様、ツクヨミ様、スサノオ様の他に……」
「なーに?こっちの世界って?」
友達に突っ込まれてマナは微笑んだ。
「私が書いている小説にはね、色んな神様が皆それぞれの役割を持っているの。現実もそうなったら楽しいのになあとか」
「ああ、あんた、小説投稿サイトで大ヒットしたもんね。なんだっけ?『TOKIの世界書』シリーズだっけ?知らない人、いないかも?神々がデータになっているなんておもしろい発想力だわ」
「ありがと!」
二人は笑いながら学校の校門をギリギリで駆け抜けた。
そして学校での古典の授業中。
「昔は妖怪や神が何かすると言われていました。ゲームとかで見る姿よりほんとは怖い存在だ。そこを踏まえてもう一度、ここの文を……」
先生の話を聞き流し、マナは一生懸命に考え事をしていた。
……妖怪とか神様って友達とかになれるのかな?
いるかわかんないけど……いたらいいなー。次出すのは赤い髪の未来っぽい時神で未来神で……ちょっとイケメンで……。
マナは授業をそっちのけてノートに小説に出すキャラクターを描いていた。
……おお!かっこよく描けたわ。それでー……現代神のアヤと過去神の栄次が語括神マイと出会ってワールドシステムに……。
……楽しくなってきたわ!それでー。
マナは窓から青い空を見上げた。


その頃、マナが描いていた赤い髪の青年プラズマは元の肆の世界でのんびりと昼寝をしていた。
ミリオンセラーの『TOKIの世界書』を脇に抱えて……。

そして「物語」の終わりに……ひとつ。

マナが想像した通りに世界が動いているのか、世界を巡り経験した事をマナが想像しているのか……。

さあ、どちらでしょう?

わかったことは……
どちらも
「存在」している
ということである……。

そしてまた「あなた」は最初に戻るのだ……。
どちらが正しいのか確かめるために……。

おわり。

本編TOKIの世界書五部「変わり時…最終話」(現人神編)H29執筆

10年続いた大作も終わりをむかえました!
あとは短編を進めていく予定です。
世界情勢のニュースやら人間の感情やらをテーマに自分なりにまとめた作品になりました。
最後の作品は世界がどのように回っているのかを自分なりに想像してみた感じでしょうか?
SFが好きでこんなことばかり考えていたりします。最後はマナがアヤ達を想像し、それを形にすることでにわとりが先かたまごが先かになってくる。最後が実は最初かもしれません。アヤ達はマナが想像した神達かもしれないし、マナはアヤ達に会ってからデータの辻褄合わせに小説という形で想像物にしたかもしれない。
どちらでもかまいません。
「存在」していればどちらでも関係ないですから。
私はこれからもTOKIの世界を描きます。
存在していない者を存在させてあげるために。

本編TOKIの世界書五部「変わり時…最終話」(現人神編)H29執筆

長編シリーズ最終話です!!

  • 小説
  • 長編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-12-09

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原著作者の表示の条件で、作品の改変や二次創作などの自由な利用を許可します。

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