(2020年完)TOKIの庶民記『つくもドール・ワールド』

ごぼうかえる

(2020年完)TOKIの庶民記『つくもドール・ワールド』
  1. 一話
  2. 二話
  3. 三話
  4. 四話
  5. 五話
  6. 六話
  7. 七話
  8. 八話
  9. 九話
  10. 十話
  11. 十一話
  12. 最終話十二月だよ!クリスマスの夜

短編で12話で終わります。
お人形ランド!という盛り上がりがないレジャー施設があった。文字通り人形を展示しているだけの工夫もなにもない寂しい施設。そこで人間達は鳥居を建てて神様を祭りレジャー施設の活性化を試みた!縁結びの神、ブンバボンバだよ!という看板を建てたら本当に縁結びの神様が住みはじめた!その人間には見えない神様と九十九神化したドール達のドタバタなコメディ。
人間達の信仰を集め、お人形ランド!の活性化を頑張るよ。主にドールが。

他の短編や長編などで出てきた登場人物もいますがこの短編から読んでも大丈夫です。
関連性とか気になったら他の短編もどうぞ!

一話

『お人形ランド!』
そういう名前の少女向けエンタメ施設があった。
「くそ……経営不振だ!なにがいけない?イケイケでキラキラな女の子に寄り添ったお人形の国だぞ!」
この『お人形ランド!』を作った中年の男性社長は頭を悩ませていた。社員を社長室に集めて傾く会社をもとに戻そうと絶賛会議中だ。
「社長、もっと少女に寄り添ってください。ドールの展示だけだとオカルト人形館のようで少女は来ませんよ」
「少女の気持ちがわからない……」
女性社員に社長はうなだれながら答えた。ちなみに従業員は三人しかいない寂しいレジャー施設である。
頭を抱えているとなんとなくつけていたテレビからひときわ楽しそうな番組が流れた。
『ブンバボーレ・アミーという神様はこの民族にはとても大切な神様です。ブンバボーレ・アミーに感謝するためいつもお祭りを開催中!陽気な民族を取材!』
楽しい楽曲とともにどこかの民族が愉快に踊っている。
「あ……」
社長含め社員三人は同時に声をあげた。
「これだ!!!」


※※

「なーにが『これだ!!』だよ」
『お人形ランド!』の展示物を抜けた先で謎の鳥居が建っていた。ひとりの青年が鳥居に背を預けながら悪態をついた。
青年の風貌は明らかにゆめかわなこの施設とはかけ離れている。
「俺はこんなてきとーな人間の祈りから生まれてしまったのか!ちきしょー!!」
どこか南の島の神様にいそうな格好をしている青年はうなだれながら叫んだ。
鳥居横にかわいいポップな看板。
そこには『お人形ランド!の守り神!ブンバボンバだよ!皆よろしくね!ちなみに縁結びだよ!気になる子の恋愛を占っちゃお!おみくじはこちら!』
と書いてある。
「俺はロックな方面にいきたかった!なんだよ!ぶんばぼんばって意味わかんねーよ!鳥居のイメージとかけ離れてるし、もっとこう……大和な神の名前が良かったよ!うえーん」
ちなみにこんなに叫んでいるのにまばらにいるお客さんは見向きもしない。
彼は神だ。神は通常人間の目には映らない。
しかし、人間の祈りで神は簡単に出現する。つまり、彼は客を呼び込むために従業員、社長から祈られた欲まみれな神様なのだった。
「あーあ。なんでどっかの神様のパクりみたいな風貌なんだろね。しかも少女向けゆめかわ施設なら女神を想像しろよ。なんでたまたまテレビに映った民族の男のイメージなんだよ」
男の文句は終わらない。
神は人間のイメージのまま生まれる。ここに鳥居を建て人間達が神の風貌をイメージした時からそこに神は現れる。
そして知っている者がいなくなれば神は消えるのだ。
彼は従業員と社長の経営回復の祈りから造られ生まれた神様だった。かなり邪である。
だが、人間達に悪気はない。本当に助けてほしかったのだ。
ならば守り神としてやることはここに最強の神がいることを知らしめて信仰を増やすことなのだ。
それでお客さんを増やす。
「なんだけどなあー。変な効果がプラスされてやがる……。なんで突然縁結びにしたのかわからん。縁結びなんてやったことないぞ……」
「ブンバボンバ様、本日の書類でございます」
「あ……」
目線を声のした方に向けると手のひらサイズのかわいらしい三つあみの少女人形が大量のデータ情報を男、ブンバボンバの頭に流していた。
少女人形はメイドさんの格好をしており、名前を宮子さんと言う。
文字通り彼のメイドさんであった。
「というか秘書だな。あんたは」
「しっかり目を通しておいてくださいね。大量のデータを送りましたから」
宮子さんはブンバボンバの言葉を軽く流すと神社内の掃除を始めた。神社といっても従業員達がプラスチックやら段ボールやらで作った小屋があるだけだ。
後、木を組み合わせ従業員がショッキングピンクに塗った鳥居。
「はあー……意外におみくじ作戦は成功ってか?最近は女の子が増えた気がするな」
「増えてくれないと困ります。私達、人形も人間の心を映す鏡であり拠り所なのです」
宮子さんは雑巾かけをしながら鼻息荒く頷いた。
「しかし、こんなに叶えられるかよ……。俺は正当に生まれてないから神力はそんなにないし……。あ!そーだ!!おい、宮子さん、叶えられそうなやつはあんたらドール達がやってくれないか?」
ブンバボンバは手を合わせて宮子さんに頭を下げた。
「神様が人形に祈るとはどういう心境なんでしょうか……。花子さんに見られていたら笑われてましたよ」
宮子さんが呆れた声をあげた時、突然笑い声が聞こえた。
「あっはははー!おもしろいわ!さいっこう!!」
「見られていたな……はあ……」
ブンバボンバがため息をつくと宮子さんと同じくらいの大きさの金髪蒼眼の少女が大笑いしながら鳥居の影から顔を出した。
「花子さん、ブンバボンバ様がお困りのようですが……」
「もうそのブンバボンバがウケる!変な名前!ブンちゃんでいいよね?」
花子さんは勝手に彼をブンちゃんと命名した。
「なんでもいいが……お願いだからこの半分の処理をしてくれ。頼む!もうこの際だからお前らの他に雪子とか桜子とか友達のきぅ、りぅ、じぅだとか誰でもいい。ドールを総動員してなんとかするんだ!いいな!」
「他の神には頼らないの?縁結びなら他の縁結びの神に頼るとかは?」
花子さんの発言にブンバボンバ、ブンちゃんは頭を抱えた。
「プライドが許さない。絶対バカにされる……。ブンバボンバ之神とかカッコよく言ってもカッコ良くないもん……」
ブンちゃんはしゅんと顔を曇らせると膝小僧を抱えて隅っこに行ってしまった。
「あちゃー……こりゃけっこう重症だわね」
「わかりました。私達で解決を目指します。ブンバボンバ様は難しい信仰の処理をお願いします」
呆れた花子さんの声に被せるように宮子さんが了承した。
「おう。それでも俺、がんばる……」
ブンちゃんは半泣きで頷くと社内の霊的空間に帰っていった。
一応、社内は霊的空間が開けた。人間から見ると普通の小屋だが神が開くと生活居住区域になる。
ブンちゃんの部屋は畳のワンルーム、キッチン付きであった。
「ブンバボンバ様に代わり私達ドールがなんとかしましょう。皆を集めてください」
宮子さんは花子さんにため息混じりに命じた。
「はーい。じゃあとりあえず集めるね」
花子さんは楽しそうに返事をした。

霊的空間内、ブンちゃんの神社内。畳にちゃぶ台がちょこんとある部屋でブンちゃんは頭を抱えていた。
「ブン様、カムハカリには行きますかぁ?十月のやつー。縁結びじゃん?」
ちゃぶ台に手のひらサイズの銀髪のお人形がひとり。耳あたりから髪を伸ばしている。ちょうど連獅子の髪のようだ。着物を着ているため余計にそう見える。
きょとんとした男の子の人形だ。
「あー?行かねーよ。ありゃあ日本神話にガッツリ入り込んでる神が行くんだろ?俺達みたいな神は関係ないさ……たぶん」
「そんなこと言って行きたくないんでしょー?」
銀髪の人形はちゃぶ台で緑茶を飲むブンちゃんをイタズラっぽい顔で見据えた。
「喧嘩売ってんのか?ロク!だいたい今は冬だ!十月はとうに過ぎたんだよ。あれ?お前、兄貴のイチはどうした?」
ブンちゃんは緑茶を乱暴に飲み干した後、ロクの対になっていたドール、イチがいないことに気がついた。
「兄貴は宮子さんに召集されてたよ?」
「お前も行けよ……」
平然とちゃぶ台に座っているロクにブンちゃんはため息をついた。
「あー、ブン様、僕、お茶飲みたい。ミニチュア家具の茶器取ってきてよ」
「俺はこれから忙しいんだよ!自分でなんとかしてくれー!」
呑気なロクにブンちゃんは悲痛な叫びと共にちゃぶ台に突っ伏した。
ちなみにここに出入りしている動くドール達は『お人形ランド!』の展示品ではなく、どこかから勝手に遊びに来ている魂宿った九十九(つくも)神的なドール達である。
人間の心に深く作用し神格化したものだと思われる。
ブンちゃんにとっては助け船でもあり厄介者でもあった。

※※

一方社外では宮子さんがドール達を召集中であった。
「皆集まりましたか?」
「おーい!ロクがいねーぞ!」
宮子さんの言葉に真っ先に反応したのはロクの対になっているイチである。イチは短く切った銀髪と羽織袴が特徴的なドールでロクと並べると良い感じにまとまる。ただし口が悪い。
「え?弟さんいらっしゃらない?先ほど言葉を交わしましたけど」
「いねーよ。のんびり茶でも飲んでんじゃねーの?」
イチが頭を抱えた時、社内からブンちゃんが疲れた顔を出した。
「イチ、忘れてんぞ……こいつ」
ブンちゃんの指で着物の襟首を摘ままれているロクがニコニコ笑顔を向けながらぶら下がっていた。
「おー、兄貴ー、今茶を飲むとこでー」
「ほらな」
イチはロクの言葉を最後まで聞く前に宮子さんに得意気な顔を向けた。
「と、とにかくブンバボンバ様をお助けするために厄除けの方面のお手伝いを……」
「待て待て!縁結びじゃないのか!厄除けなんてあったか?」
ブンちゃんが焦った声で宮子さんに尋ねた。
「効果が従業員によって付け加えられたようです。こちらの書類を……」
「うわあ……もう見る気も失せる……」
宮子さんが差し出した大量のデータファイルにブンちゃんは自分の通信をOFFにした。神々達はテレパシーでデータ情報の交換をする事もある。
文字通り通信をOFFにしたのだ。
「ブンバボンバ様、これでは送れません」
「送るな!送らなくていいわっ!もうじゃあそっちなんとかして!!」
ブンちゃんは半泣きのまま社内に引っ込んで行った。
「と、いうことで、人々の厄を取っていきましょう!届いた情報の中で住所を教えてくれた人間から行くのが簡単かもしれません。夢や霊魂の世界『弐』に入り対象の人間の心に入り込む、そして厄の根本を叩いてください!」
「おお!なんか面白そー!!」
宮子さんの宣言にドール達は嬉々とした声をあげた。
「えーと……まずは……このお年玉の子供の厄を……」
宮子さんがもごもごとデータを見ながらつぶやく。データはパソコンもないのに目の前に写し出されている。
「お年玉の厄って何よ?」
花子さんが半分笑いながら尋ねた。
「お年玉がもらえなかったからお年玉くださいと願いに来た子供の気持ちが沈んで厄になったみたいですね」
「はあ?ちっさいわね。そんなんで厄になるわけ?」
「相当ショックだったみたいですね。夢の世界の方で、もやもやと大きくなってるみたいです」
宮子さんと花子さんが話していると黒い髪を短く切り揃えた少女人形桜子さんが話に入ってきた。
「宮子と花子ふたりで行くの?私も入れてよ!三人一組にしない?」
白いベレー帽を被り直して赤いドレスをなびかせた桜子さんは宮子さんと花子さんの間に入り込んできた。
「三人一組ですか。それはいいですね。他のドールも人数が合います」
「桜子!さっさと行きましょ!腕がなるわ!!」
花子さんはやる気満々で宮子さんと桜子さんを引っ張った。
「ああ!待ってください!では夢の世界へ行きましょう」
宮子さんは慌てて手を広げた。
手を広げた刹那、モヤモヤとモザイクがかかったような空間が出現した。
他のドールも同様にチームを作り同じ空間を作っている。
「あ!そうだわ!これ作らなきゃね!」
この空間は夢の世界や霊魂の世界とくくられる事が多い弐の世界である。
現世を壱の世界と呼ぶためこちらの世界を弐と呼ぶようになったのか。理由はわからないが想像物や妄想物なんかは楽々と弐の世界に入り込める。つまり、動く人形は弐の世界のものと言っても良い。
故に彼女達は弐の世界をこうも簡単に出せ、抵抗なく中に入れる。
「では、この子供の夢の中へ」
宮子さんが軽く息を吐くと花子さんと桜子さんも足を空間へ向けた。
「せーのっ!」
花子さんがふたりの手を掴み空間へ飛び込んだ。
世界が反転し、気がつくとロボットが沢山うごめいている機械的空間に宮子さん達は立っていた。
「おー!機械だ!かっこいー!男の子なの?その子は」
桜子さんが目を輝かせながらメタリックなドラゴンが羽ばたいていくのを見つめる。
「はい。男の子ですね。お姉さんと『お人形ランド!』に遊びに来た時にブン様の神社で手を合わせたようです」
宮子さんがデータでもう一度確認した。
「なんでお年玉もらえなかったのかしらね?」
花子さんがメタリックな建物を眺めながらため息をついた。
「それを解明しなければ厄を消せませんね……ん?」
宮子さんが辺りを見回していると巨大なドラゴンがこちらに飛んできていた。金属でできており、あちこちに歯車が見える。どこかのアニメの影響だろうかやたらとかっこいい。だが、敵意をむき出しにしているのでヒーローではなさそうだ。
「あいつ、襲ってくるよ!」
桜子さんの叫びに宮子さん、花子さんはすばやく手から魔法の杖を出現させた。この世界は弐の世界なのでなんでもありの夢の世界だ。
「あのドラゴンが少年のアバターだわよ。たぶん」
「では、聞き出しましょう!戦いつつですが……」
杖を構えた三人はドラゴンが吹いた炎を結界のようなシールドで防いだ。
「どうやるの!?」
「話しかけましょう!相手は当たり前ですが相当怒っています!」
桜子さんに宮子さんは必死に答えた。
『ウガー!!なんでお年玉ないんだよ!!じぃちゃん、ばぁちゃんちにいけないなんてありえねーし!』
少年の声のドラゴンがご丁寧に話してくれた。
「ああー……祖父母のお宅に行けなかったのですか……」
「おじいちゃん達はお年玉じゃないわよ!!」
花子さんがドラゴンに向かって怒鳴りつつ電撃の魔法を放ってみた。しかし、飛んでいった電撃の玉はドラゴンにさっと吸収されてしまった。
「あ……吸い込まれた!!じゃあ次は……」
「待ってください、まだなんか話してます」
杖を構えた花子さんを宮子さんが止め、ドラゴンを指差した。
ドラゴンはボソボソとなんか言っていた。
『わかってるよー!雪でじぃちゃんちに行けなかったんだ!じぃちゃん達に会いたかった!』
ドラゴンは暴れて再び火を吹き始めた。
「祖父母に会いたかっただけのようですが、大雪で行けなかったみたいですね」
宮子さんはシールドで炎を抑えながら残りのふたりに説明した。
「とにかく攻撃をやめてもらう!」
桜子さんは水流を杖から発してドラゴンに攻撃した。
「電気がダメで炎を使うなら水に弱いっしょ!少し大人しくさせたる!サビにも弱いはずだし」
水流はドラゴンの腹部を直撃した。機械ドラゴンの動きがゆっくりになった。
と同時に黒いモヤが水蒸気のようにのぼり、煙のように消えていった。
「あ!厄が出た!」
「あの厄は厄除けの神が処理するとして……少し怒りが飛んだでしょうか……」
三人が見守っていると少年と思われるドラゴンがゆっくりうなだれた。
『皆でワイワイする正月が良かったのに……最後にお年玉もらってじいちゃん、ばぁちゃんと一緒にオモチャ買いにいく予定だったのに……なんでかわりに人形見に行かなきゃならないんだ!』
少年の怒りに宮子さん達は「あれ?」となった。
「なんか怒りが私達に向いてません?」
「なんか違う怒りになったわね……」
「でもこれは好機!だってブンちゃんの神社は縁結び!お人形ランドに来たからお年玉も祖父母にも会えたってシナリオにしたらいいっしょ!」
桜子さんの言葉に宮子さん、花子さんも「おー!」と拍手をした。
「とりあえず怒りの根元と厄が出ていったので後は結びつけるだけですね。戻りましょうか」
宮子さんは軽く微笑むとモザイク空間を再び出し、さっさと空間に足を入れた。
あっけなく壱の世界、現世に戻り
なんにも変わっていない「お人形ランド!」の鳥居前に帰ってきた。
目の前に建つブンちゃんの社前に立った三人はブンちゃんを呼んだ。
「ブン様!」
「ブンちゃん!」
「なーんだよ!忙しいっての!」
ブンちゃんはすぐに返事をしてきた。
「ブン様!縁結びのお仕事です!この少年の厄を払いましたのでお年玉とおじいちゃん、おばあちゃんがこちらに来るように縁を結んどいてください」
宮子さんがやや雑にデータをブンちゃんに送る。
「……わかったよー……。頑張るよー……だから縁結びなんてやったことがないんだよ……」
ブンちゃんは渋々納得した。
「これでひとまず私達の仕事は終わりました。今回はちょろかったですね」
「まあ、なんか荒い気もするけど……」
宮子さんに花子さんがため息混じりに呟いた。
「まだまだ沢山あるんだからこんなもんで次に行こうよー!」
桜子さんはやる気満々でにんまり笑った。

※※

朝、変な夢を見た。人形が自分の話を聞いてる夢だ。
あんなわけわからない人形が展示されている施設なんて行ったからだ。実際に少し不気味で怖かった。歩いて行ける場所にあるのは知ってたけど小三じゃあ行かないよ。しかし、あの人形にねぇちゃんは喜んでたな。
変な神社まであったし、俺はなんであんなわけわからん神社にお参りしたんだろうか?
しかもあれが初詣になってしまった……。
そもそも、雪が降らないこの地方で雪が降ったことが問題だ。雪が降らなければいつも通りのお正月だったんだ!
まあ、パパとママが雪道の運転ができなかったから仕方ないんだけど……。
でも……なんか……。
「まさゆきー!って、え?なんで泣いてんのよ?」
「うるせー!!ノックしろよ!!」
なんか三つ上のねぇちゃんが部屋に入ってきた。最悪だ。見られた……。
「じぃじ、ばぁばがうちに来たよ?」
「うるせーよ!!」
って……
ん?
「ねぇちゃん……今何て言った?」
「はあ?だからじぃじ、ばぁばが来たよ。正月遅れちゃったけど雪が溶けたからタクシーでうちに来たんだってさ」
「え!マジ!!ぃやったー!!」
こんなことがあるのか!!
喜びの間でお年玉に掠れて縁結びという文字が浮かんできた。
あ……。
まさか、あの神社でお参りしたから……。
嘘だ!
なんか気持ち悪っ!
まあ、なんだかんだ言って最高のずれた正月になった。
とりあえずあそこの神様にお礼言っとく。
「ありがと」

二話

二月。
今年はあまり寒くないが乾燥が激しいと思う。風は冷たいがひなたは暖かいという不思議な季節である。
人気のないエンタメ施設『お人形ランド!』はいつも通り閑散としているがなんだかちまちまお客さんが入っているようだ。
けっこう高価なお人形が飾ってあるからかマニアはニヨニヨ微笑みながら写真を撮っている。
「……SNSにあげろー……イ○スタにあげろー……」
従業員がお客さんを呼び込むべく施設内に思い付きで建てた神社に住み始めた神、ブンちゃんは写真を撮っているメガネの男性のそばで呪文のようにささやいていた。
ちなみにブンちゃんがどんだけ叫んでも声も聞こえないし姿も見えない。神は通常、人間には見えないのだ。
「ねー、それでいいわけー?」
近くで着物を着た小さな人形がクスクス笑っていた。
「『りぅ』か……。だってよ、今はネットだろ?」
「だからってさー、ここ少女向けの施設じゃーん。夢の施設じゃーん。そっち取り込みなよー。あの人、人形分解したり改造したりする方の人じゃん……。ほら、関節みてるー。……ねー、広める人はそっちじゃないと思うんだけどぉー」
着物の少女人形りぅはやれやれと呆れた顔をブンちゃんに向けていた。
「もうなんでもいいぜ!いねーじゃん!少女!どこいんだよ!少女!いますぐ来いよー!少女!」
「……なんか変態みたくなってますけど……?」
叫ぶブンちゃんを心配そうに眺めていたのはりぅと同じく着物を着た少女人形だった。
「あ、『きぅ』おねぇさまだわ……めんどくさい……」
りぅはあからさまに嫌な顔をしていた。
「りぅ、なぜブンちゃんは変態みたいな発言をしてるのですか?」
りぅの姉、きぅは不思議そうにりぅを見ていた。
「なんか……まあ、このレジャー施設を見ればわかるでしょ?」
「なんでしょう?」
「だから、少女が全然いないでしょ?少女を呼び込みたいんだってさー」
「だから変態じゃないですか?」
「ま、まあ変態と言えばそうっぽいけど」
「うるせーな!変態じゃねーよ!!さっきからなんだ!お前ら!」
きぅとりぅの会話にブンちゃんが割り込んで叫んだ。
「ブンちゃん。そういえば寒くないのですか?そんなコシミノ一枚で」
きぅが上半身裸のブンちゃんを不思議そうに眺めた。ブンちゃんがこんな格好をしている理由は従業員にある。この『お人形ランド!』の守り神を設定する時に皆が一斉に想像した神が南の島あたりにいそうな民族の男だった。
施設活性化のための話し合い時にテレビで民族特集がやっており、一同の目に映ったものが今のブンちゃんを形作っている。
「不思議と寒くないんだ。……これ、俺の着物なんかな……。って、嘘だ!!嫌だ!!これが霊的着物なんて俺は嫌だ!!」
神々の着物は人々が着る着物より軽く、機能的な着物であり霊的着物と呼ばれている。日本神ならば和服になるようだがブンちゃんは別のようだ。
「傷に塩ぬったんじゃない?お姉様……」
「うう……それはしみますね」
「いや、あんたの発言だけどね?」
斜め上に天然なきぅにりぅはため息をついた。
「ああ!それより、ブンちゃん、こんなお便りが届いてますよ?」
きぅは唐突に自分が来た理由を思い出したようだ。紙切れを一枚ブンちゃんに渡した。
「あ?なんだぁ?こりゃ」
ブンちゃんは唸りながら紙を受け取った。紙を見ると汚いひらがなで『お願い』が書いてあった。
内容は、
「……おねがい。
そろそろ『せつぶん』です。
おにさんがきませんように。
それと、びしゃもんてんさまにあわせてください。」
節分の事で子供が神社に参拝し、置き手紙まで用意したようだ。
汚い字に悪戦苦闘しながらなんとか読み終えたブンちゃんは頭を抱えた。
「突然毘沙門天!?鬼が来ないようにだけでよくねぇか!?あんな格式高い神呼べねぇよ!ませたガキだな!オイ!……だいたい人間には見えねーし、どんな願いをこんなメルヘンな神社にしてんだよ……。困るぜ……」
ブンちゃんはブツブツ文句を言った後、きぅとりぅに目を向ける。
「なんですか?」
「なんとかしろとか言うつもり?」
きぅは首を傾げていたがりぅはなんとなくわかったようだ。
「ご名答!ありがとう!なんとかしてくれ!こいつの心の世界に行ってなんとかしてくれ」
「はーあ……めんどくさいなー……。節分で豆まきは確か鬼を追い出すために豆をまいて毘沙門天様を呼んで鬼を退治したというお話からきてるんでしょ?それを聞いてこの子は会いたくなったんじゃない?」
りぅが呆れた顔をきぅに向けた。
「しかし……毘沙門天様も沢山いらっしゃいますよね。末廣七福神とか日本橋七福神とか、仏神の四天王様とか……ほら多聞天様とか別名で存在している毘沙門天様もいらっしゃるでしょう?どなた様を言っているのでしょうか?」
きぅは首を傾げた。
「誰でもいいんじゃない?夢で毘沙門天様に会えればいいんでしょ?どうせ人間には元がわかってないんだからその子の心に鬼を出現させてそれをカッコよく私達が倒せばいいっしょ!そんで毘沙門天様だ!助けに来てくれた!ってストーリで」
りぅはどこぞの戦隊もののようにパンチを繰り出しポーズをとった。
「それはうまくいきそうですね!」
「なんでもいいからなんとかしといてくれ!てか、この願いは何に分類される?縁結びなのか?」
ブンちゃんは頭がショート寸前でプチパニックを起こしているようだ。
「ま、まあ……私達が頑張りますから……りぅ、行きましょう!あと、妹のじぅは……?」
「あー、めんどくさい。じぅはそこそこ強いからつれていきたいわね。じぅ!どこにいるの?」
きぅとりぅは妹のじぅを探した。
「キャハハハ!」
「うひぃ!?」
ふと甲高い少女の声が響いたと思ったらブンちゃんが軽い悲鳴をあげた。
声の方を見るとブンちゃんのコシミノから笑いながら手を振っている少女がいた。
ちりめん布でできているテンガロンハットを被り、きぅ、りぅとは髪の色がだいぶん明るく西洋風にも見える。しかし、きぅ、りぅと同じく着物を着ているため、三人でまとまっている日本の人形だ。
「じぅ!そんなとこにいないで行くわよ!」
「キャハハハ!」
りぅの言葉にじぅは心底楽しそうに笑うとブンちゃんのコシミノから華麗に飛び降りてこちらに来た。
「いつからコシミノ内部にいたんだ……こいつ。まあとにかく……よろしくな」
ブンちゃんは寒気を抑えつつ社内へ帰っていった。
「じゃあ、行くわよ!このレターの持ち主の心に!めんどくさいけど!」
「おー!」
りぅがなんとなくまとめた後、手を横に広げ弐の世界、精神、霊魂の世界を開いた。


「……で、ここがそうなの?メルヘンな感じだわねー」
「キャハハハ!」
りぅはじぅの笑い声を聞きつつ辺りを見回してため息をついた。まわりは花畑で蝶や鳥、小川が流れているきれいな世界だった。
「女の子でしたか。毘沙門天様に会いたいのは……」
きぅはピンクの花を触りながら微笑んだ。
「メルヘン少女?がなんで毘沙門天様?」
りぅは考えた。このきれいな世界に想像した「鬼」を出現させるのはなんだかかわいそうだ。きっと今は良い夢を見ているに違いない。
違う方法を考えていると隣にいたじぅが突然動き出した。
「え!?じぅ?どうしたの!?」
りぅが叫んだ刹那、重い金属音が響いた。
「ひぃい!?」
きぅは腰を抜かしている。
りぅはじぅが飛び上がった方向に目を向けた。
目の前に巨大な鬼がいた。誰もが想像する赤い鬼だ。
その鬼が振るった巨大金棒をじぅがつまようじで弾き返していた。
ドール達が使う物はなぜか硬度が増したり不思議な力を使えるようになったりとイレギュラーが起きるためつまようじが金棒を弾き返しても驚くことはない。
「てか、おにー!!」
りぅは反応遅く悲鳴を上げた。
「なんで鬼がこのきれいな世界に!?」
きぅは半泣きでりぅの後ろに隠れ、りぅはさらにきぅの後ろに回った。クルクル無限を描きながら徐々に鬼から遠ざかっている。
「てゆーか、じぅ!がんばりなさい!」
丸投げしたりぅは戦っているじぅを応援し始めた。
じぅは戦闘になると真顔で強力な技を軽く出す。かなり強いのだ。
「普段はずっと笑っているのにこの変わり様……妹ながら不思議ですね……」
きぅは震えながら形だけつまようじを構える。
「どうすんの?じぅにあれを倒させとく?」
りぅははじめから何もする気がないらしい。完全に傍観体勢だ。
じぅはつまようじを軽く振るっては鬼が持つ巨大金棒を弾いている。なぜ、拮抗しているか不思議だ。きれいな花の世界は鬼が暴れているせいで花が散ってしまい、鳥達は皆、世界から逃げてしまった。
「応援しましょう!がんばれー!じぅ!」
きぅが応援していると突然鬼が真っ二つになりホログラムのように消えていった。強烈な風がきぅ達を襲う。
「きゃああ!」
「ひいい!?今度は何!?じぅは倒してないわよ!」
りぅは目を丸くしてさらに顔を青くした。
「大丈夫か?人形……」
鬼が消えた場所から渋い男の声とともに甲冑姿の男が現れた。
手のひらサイズのきぅ達には巨人に見えたが人間の男性より少し大きい男だった。
「え……」
「弐の世界に落ちてしまい帰れなくて困っている。現世に返してくれ。『人の心に影響を与える』人形ならばできるだろう?」
「で、できます……けど?えーと……どちらさま?」
きぅは恐る恐る尋ねた。
「私はある地域の日本人が想像した毘沙門天だ」
「びしゃっ……」
男の発言にきぅ達は言葉を失った。
「ところで早く現世に帰してくれないか?かれこれ一週間近く神社に帰ってないのだよ。高天原の竜宮で七福神の会合後に弐の世界について調べていたら入り込んでしまい元に戻れなくなってしまった」
「そ、そうでしたか。こちらの世界は心毎に世界が違いますし、心に住み、生きた魂を導く霊魂達は姿形を変えて心を行き来して楽しんでますからね……。指標も目印も何もないです。私達のようにすでに想像物ならば感覚でこちらの世界のデータを読めますから対象の弐の世界、入りたい心に入れるのです」
きぅが自慢げに胸を張った。
「そういう機密をペラペラしゃべらない!お姉さま、なんだかわからないけどストーリー通りになったわ!さっさと帰りましょ」
りぅがきぅをピシッと叱り、手を横に広げた。すると世界を裂くように空間が割れ、『お人形ランド!』の床が奥に見えはじめた。
「キャハハハ!キャハハハ!」
じぅは戦闘が終わり、元の陽気に戻った。ケラケラ楽しそうに笑っている。
毘沙門天の男はりぅが出したホログラムのような空間を興味深そうに眺めていた。

「ブンちゃんー。終わったわよ」
りぅが疲れた声でブンちゃんを呼んだ。
『お人形ランド!』の神社前に戻ってきたきぅ達は鳥居前で居眠りしていたブンちゃんを叩き起こした。
「うぐっ!ねてねーよぉ……」
ブンちゃんは目を擦りながら目覚めた。完璧に寝ていたようだ。
「終わりましたよ。後の縁結びはよろしくお願いします」
「おう……って……ええ!?」
きぅにてきとうに答えたブンちゃんはきぅの横にいた男に目を向け、腰が抜けるほどに驚いていた。
「まさか……びびび……毘沙門天!?」
「そうだが?戻ってこれたか。ありがとう。人形達。では神社へ戻らせていただく」
腰を抜かしたブンちゃんに首を傾げた毘沙門天は一礼をすると去っていった。
「ちょっ!ちょっ!お前ら!マジで……マジで呼んだのか!?」
「呼んだっていうかたまたま?」
「そうですね」
「キャハハハ!キャハハハ!」
ブンちゃんの問いかけに三姉妹はそれぞれてきとうに答えた。

※※

「う、うーん……」
私は目を覚ました。朝日が窓から入ってきていた。
もう朝か。
隣ではお母さんとお父さんが寝ている。私は八歳なので川の字の真ん中が一番心地がいい。
実は一週間くらい前にお父さんに節分について詳しく聞いた。
それから私の夢に毎回鬼が出てくるようになった。夜になると怖くて鬼のことばかり考えてるからきっと夢に出るんだ。
そこで、お父さんから聞いた、『びしゃもんてんさまが守ってくれる』というのを思い出して夢の鬼をなんとかしてもらうことを思い付いた。
でも、『びしゃもんてんさま』にどうやって伝えたらいいかわからない。お父さんは『びしゃもんてんさま』は神様だと言っていた。
神社にお願いにいけば節分前だけど鬼を倒してくれるかも。
たまたま家族で行ったお人形さんがいっぱいいる施設で神社があったからうさんくさかったけど『お願い』をしてみた。色々不安だったのでメモにも残しておいた。
「……ホントに鬼を倒してくれた……」
私はぼうっとした頭でお父さんの寝顔を見る。しばらく頭を整理してたら目が覚めた。
「ほんとだ!ほんとに倒してくれたんだ!!」
私は思わず叫んだ。
「うわあっ!」
お父さんが悲鳴をあげて飛び起きた。
「お父さん!『びしゃもんてんさま』が来てくれた!」
「へ?なんだ?なんだ?いきなり大声をあげるな!びっくりした……。で?毘沙門天様が来てくれたって何?」
お父さんは不思議な顔をして戸惑っていた。
「寝ぼけているんでしょ?ふーちゃん、節分は明後日よ。明後日に豆まきと恵方巻食べようね?」
お母さんも起きてきて私にそう言った。
違うんだよ。お母さん!
寝ぼけてないよ!
と言おうと思ったがやめた。
八歳にもなって鬼を怖がったり急に叫んだりしてたらなんか自分が恥ずかしいことに気がついたからだ。
「なんか夢見てたみたい。びっくりさせてごめんね」
私は変な夢を見ていたことにした。
「ふーちゃん、今日はお父さんと豆買いにいくか!」
「ふーちゃん、恵方巻少し奮発しておいしいのにしようか」
なんだか気を使わせてしまったのかお父さんとお母さんは節分に話を持っていく。
私の考えは筒抜けみたいだ。
現実の鬼はお父さんとお母さんが節分の時に倒してくれるみたい。
よかった!
あれから少し日にちが経ったけど鬼が出てくることはなかったよ。
一応あの神社にお礼しとくね。
「ありがと」

三話

「ブンちゃん、三月だねー」
銀髪のきれいな長い髪を持つ、手のひらサイズのドールはーちゃんがほのぼのつぶやいた。
「あー、そうだな」
コシミノに下駄というアンバランスな格好の男、ブンちゃんははーちゃんを手のひらに乗せてつまんなそうに答えた。
このブンちゃんという男はここ、『お人形ランド!』というレジャー施設で人間に祈られてうまれた神である。一応、日本神で鳥居もあるがなぜかブンバボンバという名前で南の島にいそうな民族風の格好をしていた。
ちなみに目の前には雛人形の七段飾りが豪華に飾ってある。
『お人形ランド!』では三月になると雛人形を飾る。むしろ、これが『お人形ランド』のメインであり、お客さんは少女を中心になんとなく盛り上がるのだった。
「あかりをつけましょ、ぼんぼりにー、お花をあげましょ、ももの花ーってか?ん?これ、ももじゃなくて梅じゃね?」
ブンちゃんがひな祭りの歌を歌いながら七段飾りの下に飾られていた梅の花を指差した。
「花がきれいだったから従業員がこっちにしたらしいよー。気合い入れてたー」
はーちゃんはのんびり答えた。
「はあ……まあ、いいけどな。雛人形はいいが、問題はこれだ」
ブンちゃんははーちゃんを下に降ろすと空間を指でつつき、アンドロイド画面を出した。データファイルからは大量のお願い事が出てきた。
「俺は神だが……無理な要求が多過ぎて叶えられーん!!これ、見ろよ。十万体以上の雛人形がほしいだのひなあられを腹一杯食いたいだのあげくのはてには宇宙でひな祭りしたいとか……アホか……」
「あー……子供の要求ってたまに酷だねー」
画面に流れるデータを見ながらはーちゃんは軽く笑った。
「てきとーに賽銭入れやがってもうー!!」
「全部叶えるのは現実だと無理だけどー、夢にしといたらー?」
「あ!なるほど!夢で叶えてやりゃあいいか!後で人形達に頼んどこ。はい。これはぜーんぶ終わりっと。あと、これな」
ブンちゃんはさっさとファイルを更新すると新しいデータを表示した。
「初節句で雛人形買ったんだと。で、なぜか俺のとこで嫁入りまで妹を守ってくださいと。妹?よくわからんがまあ、なんにせよ、娘を守るのは雛人形だぜ……。厄を被ってくれんだから……放っておいていいか?これ?」
「はあー、初節句……かー。ドールの出番が多いですなあー。注目されてるー。わーいー!」
「あのな……お前らは雛人形からかけ離れた西洋ドールだぞ……」
のんきに喜ぶはーちゃんにブンちゃんがため息をついた。
「まあまあー。それよりこの子、母親じゃなさそうだよー?妹って言ってるからお姉さんー?」
「だよな……どういうこった?」
ふたりが頭を悩ませているとやたらと元気な少女の声がした。
「ん?」
「はーい!!はーい!!私!その人知ってまーす!!!」
「あー、メイちゃんかー」
やたらと元気な少女ドールはメイちゃんというらしい。
身長ははーちゃんと同じ手のひらサイズ。明るい茶色の髪とくりくりな目が特徴のかわいい感じのドールだ。
「ビックリマークだらけなハイだな……。で?謎を教えてくれ」
「はーい!!実は!ここ、父子家庭なのです!!お父様が一生懸命働いていますが二人の娘を養うのでやっと!上のお姉ちゃんは高校生!下の子は現在小学生みたいです!」
「ちょい待て!声がでかすぎてあんまり入ってこねーが……小学生なら初節句じゃねーだろ」
気分が上がっているメイちゃんにブンちゃんが突っ込んだ。
「初節句なのです!!はい!今まで雛人形買ってあげられなかったみたいです!!だから初節句なのです!!初の雛人形節句なのです!!わかりましたか!!」
「だー!うるせー!わかった!わかったつーの!」
無理やり押し通したメイちゃんにブンちゃんはとりあえず頷いた。
「お父様もこんなちっちゃいのでごめんねってうう……。お守りのパワーが足りないかなってうう……。なんて素敵な家族なんでしょう!!おーん!おーん!!!」
メイちゃんは今度は大声で泣きはじめた。
「う、うるせー!!泣くな!あー、なんかわかったぜ。お守りのパワーが足らないかなと親父が言ったから七段飾りあるうちで祈ったんだな」
「そぉなんですよ!!」
メイちゃんがつかみかかるようにブンちゃんに言った。
「わ、わかったから!……しかし、父子家庭か……大変だな……。上の姉が母親代わりか」
「じゃあさー、ちゃんと守れるお人形か見に行くー?まあー、どんなお人形でも想いがあれば守るしー、身代わりになるけどねー。夢でお姉ちゃんにお人形さんに会わせてあげるーとかー」
はーちゃんがほのぼの言った言葉にメイちゃんとブンちゃんは大きな声で叫んだ。
「それだぁ!!」

とりあえず、意気込んだがブンちゃんはメイちゃんとはーちゃんに丸投げした。
「ま、まあ……こういうのは人形のがいいだろ!……じゃ」
ブンちゃんは手を振り、社に帰っていった。
「おーいー」
はーちゃんはのんびり声をかけるがブンちゃんは手をあげただけだった。
「もー……」
「じゃあ!行きましょうか!!」
ため息をつくはーちゃんを置いといてメイちゃんは目を輝かせつつ、手を横に広げた。
ゆっくりと心の世界が現れる。
心の世界には個人個人の想像の世界とその内部に住む霊達がいる。まあ、想像物ならばなんでもこちらの世界に住める。
つまり、『話す人形』も簡単に入れるのだ。
現世を壱(いち)の世界と呼んでおり、心の世界は弐(に)の世界と呼ばれている。
別名は視界(しかい)だ。
なぜなのかはわからない。
もしかしたら死後世界、死界からきているのかもしれない。
メイちゃんが開いた心の世界、弐(に)はもやがかかっていた。
「高校生の心だからかクリアじゃないねー」
「素直に世界観が作れない子なんです!!部外者が入り込むのが恥ずかしいんでしょう!早く入りますよ!」
メイちゃんははーちゃんを引っ張り、もやがかかっている世界へ足を踏み入れた。
「あー、ほんとだー。ちゃんと世界あるー」
少女の心に入り込んだ後、すぐにはーちゃんがつぶやいた。
もやがかかっていた世界は入り込んだら鮮明になった。
高校生だが世界は幼子のような世界だった。アニメっぽい二次元なウサギが二本足で通りすぎ、お菓子の家やシャボン玉がなっている木などメルヘンな世界観が広がっている。
「意外にこっち系なんですね!!」
「どっち系かわかんないけどー。じゃあー、彼女の目に映ったはずの雛人形ちゃんをさがそーかー」
「一度見てなにか感じてれば!!たぶん!この心にいるでしょう!!想像物として!!」
はーちゃんにメイちゃんは人差し指を天に向け叫んだ。
「もし……」
誰かが意気込むふたりに声をかけてきた。
「誰でしょうか!!」
メイちゃんは勢いよく振り向いた。振り向いた先に戸惑いの表情を浮かべたドール達が立っていた。皆、着物を着ており頭に烏帽子を被っていたりなかなかお洒落だ。それよりも……
「ああ……もしかしてー」
はーちゃんは呑気に声を上げた。
「お雛さんですね!!」
メイちゃんはがっついて叫んだ。
「一体あなた達は何者ですか?『彼女』の心には呼ばれていないはずですが……はっ!侵入者!」
お雛様が薙刀を構えて突如攻撃体勢に入った。お内裏様も刀を抜き、三人官女も五人囃子も皆それぞれの道具やら楽器やらを構えてこちらを睨み付けていた。
「うわわ!!無断で入ったけど理由がありまして……!」
「よわそーだねー?ちっちゃいし有名なメーカーのじゃないねー。全部セットになってる置物みたいな雛人形でしょー?」
「ははははーちゃん!?」
はーちゃんの火に油な発言にメイちゃんは蒼白な顔をしていた。
「バカにしおって……曲者!」
雛人形達は恐ろしい形相で怒り襲ってきた。ふつうは優しそうな顔をしているのだが触れてはいけない部分に触れてしまったようだ。
「さっさとやっつけちゃおー」
「し、仕方ありません!」
はーちゃんは楽しそうにメイちゃんは怯えながら魔法のステッキ風な棒を取り出した。
はーちゃんはステッキから炎を放った。
「えーいー!えーいー!」
雛人形達は臆することなく炎の中を突っ込んできた。
メイちゃんにはお琴の攻撃が飛んできた。五人囃子のひとりが琴を弾くと不思議な事に五線譜が現れ音符が飛び出してきてメイちゃんを攻撃しはじめた。
「なにこれ!!こわいこわい!!四分音符が噛みついてきますよ!!」
メイちゃんはステッキでバリアを張ると悲鳴をあげながら防御した。
刀や薙刀を危なげにかわして謎のビームを放ったはーちゃんだったがあっけなく三人官女のボンボリと梅の花攻撃にやられ、その場に目を回して倒れた。
「つ、強すぎるー……うー」
「はぁーちゃあん!?ひとりにしないでくださいよ!!」
メイちゃんは半泣きでステッキから雷を出して応戦したがすぐに後ろから飛んできたひなあられ爆弾と菱餅にこっぴどくやられ悲鳴をあげたまま倒れた。
「う、うきゅー!!」
我ながら変な悲鳴だとメイちゃんは思った。
「さっさと出ていけ!我らの想いは強いのだ」
お内裏様は威圧感満載の声音でメイちゃんとはーちゃんを威嚇した。
「ひぃい!!ごめんなさぁい!!」
メイちゃんは震えながらあやまったがはーちゃんはなんだか満足そうだった。
「ほら!あやまりなさい!はーちゃん!」
「ごめんなさーいー」
メイちゃんに強要され、はーちゃんはひれ伏してあやまっておいた。
「と、とにかく帰りましょう!恐ろしい!すんごく強いし怖いじゃないですか!!」
「だーよーねー」
メイちゃんはさっさと元の世界の空間を出した。
「ばーいばーい!」
「バイバイじゃないです!変な刺激しない!」
「あれだねー。そんだけ強ければ大丈夫だねー」
「あっ!」
はーちゃんの意図にメイちゃんは気がつき、声をあげたところで『お人形ランド!』に戻ってきた。
「ちゃっかり目的達成しました!!お姉さんには見せられませんでしたがお姉さんの心なので伝わったはずです!!」
戻るなりメイちゃんは目を輝かせてはーちゃんに詰め寄った。
「ねー。今頃あのお雛様達は頭がハテナになってるよー。あいつら何しにきたんだろーみたいなー?まあ、ただの侵入者で終わってるかもだけどー」
「わざとふっかけたんですか!危ないじゃないですか!!」
のほほんとしているはーちゃんにメイちゃんは厳しい顔で声を荒げた。
「まあまあー」
「おい!うるせーぞ!こっちは昼寝してんだよー」
はーちゃんが苦笑いをしているとブンちゃんが不機嫌に社から現れた。
「あー、ブンちゃんー。雛人形なんだけどー」
「すっごい強かった!!!」
寝ぼけているブンちゃんにメイちゃんとはーちゃんは興奮ぎみに叫んだ。

※※

ころん……カン!
「はっ!」
私はシャープペンシルが落ちる音で目が覚めた。
ああ……最悪……授業中に寝ちゃった。今は確か数学だった。
数学で寝るなんて最悪……。さらについていけなくなるよ。
今日は起きてるつもりだったんだけどな。
しかし……なんか雛人形がいっぱい出て来て悪者をやっつけてる変な夢だったなあ。しかも妹の雛人形だったし。あれはお父さんとお金を出しあって買ったんだ。あの子喜んでたなー。
バイトしてきた甲斐があるわ。
今日はひな祭りだしちらし寿司とかでパァッとやるか!
でもなんで雛人形が出てきたんだろ?
ふと神社でお願いした事を思い出した。
まさか……『お人形ランド!』の神様があんたらが買った雛人形はこんなに守る力があるぞって教えてくれたとか……。
いやー……ないない。
なんか正規の神様じゃなさそうだし……想像力豊かだな……自分。
まあでも……そう信じてお礼言っとこう。
「ありがと」

四話

桜の開花発表がされて一週間。世間はお花見する人間達で溢れていた。レジャー施設、『お人形ランド!』では桜が咲いているわけではなく、しかも室内なためお客さんはほとんどいない。しかし、展示されているお人形のまわりは造花の桜で彩られていた。
本日も暖かく晴天なためお客さんはほぼいない。
この施設の職員から施設活性化のために祈られて現れた神、ブンちゃんは職員が建てた神社内でやたらと明るい声をあげていた。
「いえーい!リスナーの皆さんからのお便りを紹介するコーナー!」
相変わらずのコシミノ一枚でちゃぶ台に紙を並べてひとりで話している。
「えーと、東京都にお住まいのユカちゃん七歳から!友達百人作りたいですがクラスが百人いません。友達百人作らせてください……。なるほど、お兄さんはね、浅い付き合いの友達百人作るよりもほんとに仲良しな友達を二、三人作る方がいいと思うなあ!」
「……というか、なにしてんのよさ?」
ちゃぶ台にちょこんと座っていた桃色の髪をした学生服の少女人形があきれた顔でブンちゃんを見ていた。
「あー、雪子さんか。あんたは桜みたいな髪で春にピッタリだな!」
「春が待ち遠しくて作られた人形だからよねー。名前雪子だけんど。……で?なにしてんのよさ」
ピンクな少女人形雪子さんはやたらと明るいブンちゃんを気味悪そうに見据えながら尋ねた。
「みてわかるだろ?ラジオだ!少しは仕事が楽しくなるかなと……」
「ほんとにやってたわけじゃなかったのよね……」
「ほんともなにも人間に見えないし声も伝えられねーんだから……」
ブンちゃんは肩を落とした。
「じゃあ読み上げたやつはどうしてるのよさ?」
「ど、どうしよう!?」
ブンちゃんは突然に戸惑った顔に変わった。
「困ったよのさ……」
「とりあえず、ユカちゃんのは自力でなんとかしてもらって……」
「まあ、友達は作ろうと思わなきゃ作れないよのさ……他には……」
雪子さんはうんうんと頷くとちゃぶ台に散らかっている紙をめくり始めた。
「ああ、それ、ラジオのおたより感出すためにここの手作りパンフレットを散らしただけだ」
「……オイ!」
雪子さんは絶妙なタイミングで突っ込みを入れた。
「ああ、そういえば電子データの中におもしろい参拝客が……」
ブンちゃんはひらめいた顔をして頭の回線からあるデータを引き抜いてきた。
「ん?」
「谷地畑(やちはた)勘十郎(かんじゅうろう)さん五十二才からで……」
「ここはメルヘンな子供のための人形館なのよさ……」
「まあまあ、いいじゃないか。お客さんだから」
呆れる雪子さんをブンちゃんがなだめながら先を続けた。
「会社でお花見の席取り係になったらしいんだが朝が苦手で起きられる自信がないんだと。で、起きられますようにって……」
「……しょうもないのよさ……。大人なんだから目覚まし十個くらいいっきにかければ起きられるのよさ……。てかなんでこのマイナーな神社に……」
「そう思うだろ?なんでだって思うだろ?子供と一緒に来たんじゃねーかな?」
怪しむ雪子さんにブンちゃんは楽しそうに答えた。春だからかブンちゃんは陽気になっているようだ。
「まさかと思うけどユカちゃんの名字は……」
「谷地畑だな」
「……」
しばらく沈黙が訪れた後、ブンちゃんが派手に声を上げた。
「親子だ!!!」
「まあ、だからなんなのよさって感じよのさ……」
「じゃあ二人まとめて叶えてやるか!」
ブンちゃんは意気込んで拳を高く上げた。
「頑張るよのさ」
「ちょっ……なんとかしてよー!」
小さな雪子さんを強引にすくい上げてブンちゃんは頭を下げた。
「なんとかって何すりゃあいいのよさー……」
「なにすりゃあって……そ、そうだ!父親と娘の夢をつないで運動会とか!」
「相変わらず発想がぶっとんでるよのさ……。なぜ運動会?」
雪子さんはため息をつくとブンちゃんの手のひらに座った。
「早く起こすなら焦らせること、焦るといえば運動会!友達ができるのも運動会だ!!」
「わけわからないよのさ……」
雪子さんが頭を抱えているとひときわ元気な少女の声が響いた。
「うんどーかい!!やりたい!!あたし、うんどーかいする!!」
「ああ……この声は……」
さらに頭を抱えた雪子さんの横で金色の髪を肩先で切りそろえている元気そうな少女が顔を出した。
ブンちゃんの腕を知らぬ間によじ登ったらしい。
瞳に光が多く入っており目が大きく見える。
「うるこ……」
「うるちゃんか!ちょうどいい!ふたりで親子の願いを叶えてあげてくれ」
「あのねー、運動会してもユカちゃんのリアル友達はできないよのさー」
「俺がさっき言った内容がユカちゃんに伝わればいいなと……」
「ああ、浅い付き合いよりもーってやつよのね?」
「そうそう」
ブンちゃんはなんだかんだ言って優しい。なんでも叶えてあげようとする。
まあ、ほぼ動いているのは人形達だが。
「仕方ないよのさ……でも、最近九十九神化……意思を持ったらしいドールうること二人はまだ怖いよのさ……。私も最近意思を持ったし、新人コンビは危険よのさ」
雪子さんはやる気にはなったが不安のようだ。
「やってくれんならひとりベテランをつけよう!いつよしくん!」
ブンちゃんが人形の名前を呼ぶとシルクハットにスーツ姿の男性ドールが現れた。
「いつよしくんだ」
ブンちゃんは楽しそうに紹介した。
「……彼はモデル人形よのさ?」
男性ドールいつよしくんは観賞用ドールのような華やかさはない。
「モデル人形というか、マンガとかデッサン用のアクションドールのが近いかな」
ブンちゃんはいつよしくんに目を向けた。身長は二十七センチだ。一般的な男性のモデル人形のようだ。特にムキムキだったりということはない。
「いつよしです。なんかパパになったみたいですなあ」
いつよしくんは表情があまりないが照れているようだった。
「彼を保護者にするからよろしく!」
ブンちゃんは笑顔で頷いた。

※※

とりあえずブンちゃんの社から外に出た雪子さん、うるこ、いつよしくん。
「で?ぶっつけで行くよのさ?」
「うんどーかいってこと!?やりたいよー!!」
うるこは飛び上がって喜んでいた。
「では僕は保護者でございますねぇ!パパ!あーパパ!パパよしくんなんちゃって」
いつよしくんはなぜかノリノリだ。
「パパはどうでもいいよのさ。じゃあぶっつけで親子の夢にダイブだわよ!」
雪子さんはさっさと手を横に広げて世界への扉を開いた。
足を踏み入れるといつの間にか運動会になっていた。
運動場で子供が走っている光景だ。
「あら?なにもしなくても運動会じゃないのよさ」
「運動会というよりマラソンみたいですがね?」
走っている子供の距離は長い。
運動会ではなくマラソン大会のようだ。
おかしなことは人形である雪子さん達と子供達の身長が同じという事だ。
「私達が巨大化したか子供らが小さくなったのかわからないよのさー」
「走るぞー!おー!」
うるこは素早くスタートラインに立っていた。
「オーイ!待つよのさ!!やる気なのー!?」
雪子さんが止めようとした刹那、なぜか運動場を囲うネットについていた電工掲示板が『走らないと爆発します』と打ち出してきた。
「なにー!?なんで爆発するのよさ!?」
「夢だからわけわからんですね。とりあえず僕は保護者として参加しますよぉ!」
「オーイ!いつよしー!!」
去っていくいつよしくんを仕方なく見つめ、雪子さんはうるこを追っていった。
スタートの合図はかなり簡単に発せられた。皆がいっせいに走り出す。
いまの段階では誰かユカちゃんなのか勘十郎なのかわからない。
というより大人の男性はいつよしくんくらいしか見当たらない。
いつよしくんは保護者として観戦するのかと思いきや普通に楽しそうにスタートラインに立っていた。
「あんたも出るんかいな……」
雪子さんは呆れた声を上げながら走り出した。
「うるこ、まっけないぞー!一番だぞー!」
うるこは一気に先頭に躍り出た。
「はやい!」
雪子さんがそう思ったのもつかの間、うるこは何かに当たり雪子さんのところまですっ飛ばされてきた。
「うるこ!?どうしたのよさ!」
「わからないー!なんか強力なゴムみたいなのにバチーン!!痛くなかったけど」
「ゴム!?」
「あれみてください!」
いつよしくんが先頭を走る少女が持っているものを指差した。
少女はオモチャの魔法のステッキのようなものを持っていた。
「あ、あれは!少女に流行りのアニメ『まじょーんマジョールノ』のステッキよのさ!!」
「詳しいですねぇ。なんか魔法のようなものを使ったようですが」
「なるほど!やっていいならあたしも!!」
うるこは手から光の球体を出現させバレーボールのように一番前の女の子を狙って放った。
「ちょっ!」
雪子さんは叫んだが一番前の女の子は軽く避けた。
女の子はかわいく舌を出して挑発してきた。
「……んむぅ!」
うるこはだんだんむきになってきて声を荒げながらすごい速さで前の女の子に突進していった。
「うおおおー!」
「あー!うるこ!!あの子は意思を持ってから一年経ってないよのさ!!追いかけるよのさ!保護者!」
雪子さんはいつよしくんに早く前に行けと背中を叩いて促した。
「ええ!?あ、はい!では!」
いつよしくんがスピードを出そうとした刹那、辺りがなぜか桜並木に変わり頭にハチマキをまいた体操服の男の子がバトンを持って前を走っていた。
マラソン大会だったはずで世界観がよくわからないがまわりは変わらずに走っている。ただその男の子だけ異質だ。
桜が舞う中、赤いバトンを片手にかなりの速さで走っている。
「速い!まるで何かに追われて……はっ!」
いつよしくんが言い終わる前に男の子のバトンから強風が発せられた。
「うわわ!ち、近付けませーん!」
いつよしくんが戸惑っていると今度はバトンから空気砲が飛んできた。
なぜか重たい音がして気がつくと地面がえぐられていた。
「うわあっ!……あの子、勘十郎だわよ!!たぶん!夢だから子供の姿でもおかしくないよのさ!勘十郎の前を走ってるのはユカちゃんよのさ!!」
雪子さんが空気砲を危なげにかわしながら叫んだ。
「では、勘十郎さんを思い切り焦らせて早く起こしてあげましょ!」
「よーし!私もハチマキよのさ!」
「あ、雪子さんは頭に被るものによって能力が変わるんでした!すごいですね!」
ハチマキをした雪子さんは突然に身体能力が上がった。空気砲を軽々避け、空を舞うように走り始める。それを見た男の子は慌てて逃げはじめ、空気を矢のように鋭くさせ吹き矢のようにバトンから放った。
風をきって飛んできた実態のある空気の吹き矢を雪子さんは走りながら避け男の子のすぐ後ろ辺りまで迫った。
不思議とまわりを走っている子供はリアクションもなければ男の子の攻撃も当たらない。まるで風景のようだ。
「魔女っこ帽子よのさ!」
雪子さんはハチマキの上からツバの広い魔女帽子を被った。
「風のお返しよのさー!」
雪子さんは人差し指を男の子に向け竜巻のような風を発生させた。
男の子は冷や汗をかきながら目をつぶった。
「あぶなーい!バリア!」
その時、少女の声が響いた。おそらく先程の女の子、ユカちゃんだ。
ユカちゃんは少し前を走っていた。魔法のステッキをかざしている。
「嫌な予感が……」
雪子さんがつぶやいた刹那、男の子の前にオブラートのようなガラスのような透明な盾が現れ、雪子さんの竜巻を弾いた。
竜巻はそのまま跳ね返り雪子さんを襲った。
「やっぱりぃー!!」
「雪子さん!!」
吹っ飛ばされた雪子さんは涙目で回転しながら飛んでいったが咄嗟に飛び上がったいつよしくんに助けられた。
「いつよしー!ナイスよのさ!」
「それより、みてくださいよ」
いつよしくんは華麗に地面に着地するとユカちゃんと男の子を指差した。
「ん?」
よく見るとユカちゃんと男の子……たぶん『勘十郎』の横で腕を組んだ少女がふんぞり返っていた。
どことなく仲間の雰囲気を纏っている少女はうるこだった。
「あんた……なんで……仲間雰囲気……なんかやな予感が……」
「一位をとるのは『あたしたち』だ!!」
「おー!!」
うるこのかけ声にユカちゃんと勘十郎は同時に拳を上げる。
「ちょ、ちょっ……ええ!?」
「僕を見られてもぉ……」
戸惑った雪子さんに睨み付けられたいつよしくんは頬を赤くしてクネクネ動いていた。
「そらー!やっつけろー!」
うるこは満面の笑みで大量の桜吹雪を操り雪子さん達に飛ばしてきた。桜の花びらはまるで凶器のように強風で纏まり襲ってくる。
「なーにやってるよのさ!!うるこぉ!」
雪子さんは手を前にかざして風を巻き起こし桜吹雪を跳ね返した。
「ユカちゃん、勘十郎!すすめー!」
「わーっ!」
雪子さんが桜吹雪を跳ね返している間にユカちゃん、勘十郎、うるこは素早く走り出した。
辺りは桜並木の一本道に変わった。桜はどこまでも続いている。
うるこはなんだか爽快な気分になった。
「やっぱ春だよね!!ユカちゃん!」
「う、うん!お友達、いっぱい作ろうと思ったんだけど楽しい友達だけでいいのかも!」
「楽しい友達だったらいっぱい作ればいいじゃん!いなかったら探せばいいじゃん!一緒に遊べる友達は多くても少なくても関係ないよ!一緒にいて楽しければそれでいーよ!!あははは!」
うるこは豪快に笑っていた。
「じゃあ、私とうるちゃんは友達だね!あ、君も……」
ユカちゃんは隣を走る勘十郎をちらりと見た。
「ん?うん!お友達だね!僕は一番で桜並木を駆け抜けるよ!」
勘十郎がさらに足に力を込めた。
「あー!待って!!」
ユカちゃんもさらに足を前へと出しはじめた。
「うるこー!!やったよのねー!!なんでそっちについてるのよさー!!」
雪子さんが消防士の帽子をかぶり手から水流を飛ばしてきた。
「皆!水が襲ってくるよ!やっつけよう!」
うるこの掛け声でユカちゃんがステッキを勘十郎がバトンを構え、うるこが得たいの知れない光の球体を沢山出現させた。
爆音やら爆風やら色んなものが飛び交い白熱した戦いだったがうるこ達はゲラゲラと笑っていた。
子供は何が楽しいかわからない。
「これは一体保護者の僕はどうすれば……」
ひとりおどおどしながらついてきていたのはいつよしくんだった。
しばらくして突然に少年と少女は消えてしまった。
「あれ?消えちゃったね?なんでー?」
うるこは首を傾げて寂しそうな顔をしていた。
「夢から覚めたに決まってるよのさ……。はあ……長かったさぁ……」
雪子さんはヘニャヘニャとへたりこんだ。周りには先程まで使用していた帽子達が散乱している。
「そっかあ……夢だから……楽しかったのになあ」
「てか、うるこ!収集つかなくなっちゃったよのさ!!夢をかき混ぜただけになっちゃったのよさ!」
しんみりしているうるこを雪子さんがガミガミ叱った。
「まあまあ、そんな怒らずに……」
「一番なんもしてないいつよしに言われたくないのよさ!!」
「あれ?僕、いつから呼び捨て!?」
「最初からよのさ!だいたいあんたは……」
雪子さんのお叱りはいつよしくんに飛び火した。
「あーあ……楽しかったのになあ……」
うるこはいつの間にか終わったマラソン大会をしんみり思いながら桜と青空を仰いだ。

「……なんだかなあなあで戻っちゃったよのさ……」
雪子さんはなんだか落ち込んでいた。雪子さん、うるこ、いつよしくんはブンちゃんの社前に戻ってきていた。
「まあまあ……。なんだかわかんなくなっちゃいましたが刺激になったかもー……」
いつよしくんも収集のつかなかった今回の願いを自信なくつぶやいた。
「あー!私がうること争わなければ良かったよのさー!」
雪子さんは頭に手を当ててうなだれた。
すると、音を聞き付けたブンちゃんが上機嫌で社から出てきた。
「お?お前らー、なんかいい方向に進んでくれたなー!」
「えー?」
「うまくいかなかったよのさ……」
雪子さんは不機嫌そうにブンちゃんを仰ぐ。
しかしブンちゃんは興奮ぎみにこう話した。
「俺がなんもしなくてもふたりの夢がいい方向に行ったんだよ!」
「ん?」
雪子さん、いつよしくん、うるこは同時に首を傾げた。
それから
「なにかしたっけ?」
と三人で頭を抱えた。

※※

私は朝から晴れやかに目が覚めた。友達はいっぱいいた方がいいと思ったけど昨日の夢で少し変わった。なんだかすごく楽しい夢だった。不思議な女の子とパパに似た男の子と一緒に走っている夢。
なんだかわからないけどすごく笑ったの。
大人はなんでもかんでも友達友達って言うけど友達って誰でもいいわけじゃないんだ。
昨日みたいに一緒に笑いあえてまた明日も遊びたいなって思う気の合う人が友達なんだ。
無理に友達をつくる必要はないし、大人達に無理にくっつけられる必要もない。
もちろん、社会生活のために一緒に遊ぶことがあったとしても向こうもこちらも友達だと思わなければ付き合いになるよね。
私はパパやママを見てなんとなくは感じでたんだけど。
「おはよー!パパ!朝だよ!」
とりあえず私は隣のベッドで寝ているパパを起こした。

※※

娘に揺すられてやっと目覚めた。
「んあー……ユカちゃん。なんか今日は気分いい目覚めだなあ」
「パパ!お寝坊ー!」
と走り去っていったユカが昨夜夢に出てきた。不思議な夢だったが子供の頃を唐突に思い出した。会社の付き合いとかそんなこと考えずにバカみたいに友達と遊んで時間守らずに帰って怒られて……そんな時期はどれくらい前だっただろうか?
僕は昔から時間をキッチリ守るのが苦手だ。
花見の席取りなんて自分になんの利益もないし、会社の付き合いだって当たり前だけど友達じゃないからどうしても億劫なんだよなあ。
なーんて、社会に出て嘘で固められた接待を何度もやってる僕らには今更な話。
でも根本的には友達同士でばか騒ぎしていたあの頃に戻りたいって気持ちがあったりして。
ああ……そうか。
ふと気がついた。
接待だったとしても付き合いでもどうせやるなら楽しくやらないと本当に楽しくないじゃないか。
人が花見をするのはこれからもよろしく!という繋がりの気持ちもある。友達とはまた違うけど『縁を切りたくない関係』という微妙な部分も人間にはあるんだな。
そう思えたら花見の席取りも『僕は使われた』と思わなくていいのかもしれない。
全然出世しないダメダメな五十代会社員だけど少しやる気出てきた。
今日はユカと朝早くから外に出るか。気分いいし。
ちなみにユカは靴下をせっせと履いていた。
「ユカちゃん、昨日、ユカちゃんが夢に出てきたよ。花見の席取り、ちゃんとできるかなと心配してたらユカちゃんが一緒にお花見ポイントまで走ってくれたんだ。それでちゃんと起きられたよ」
「ふーん。あ、私もね、パパみたいな男の子が夢に出てきたよ。友達ってなにか教えてくれたの。友達はね、百人も作らなくていいのよ」
「……友達……」
勘十郎はユカの言葉に少し衝撃を受けた。
「そういえば……あの人形館で小さな願いを書いたね……。なんだか二人ともちゃんと解決したような……」
「あー!そうだね!」
勘十郎の言葉にユカも声をあげた。
「じゃあ、とりあえず」
「とりあえず?」
ユカはペコリと頭を下げた。
「ありがと!」
「ああ、そうだね。ありがと!」
二人はとりあえず感謝を述べた。

五話

五月になった。世の中はゴールデンウィークである。ちなみになんと十連休。人々は忙しなく遊びの計画をたてているようだ。
初夏の風が通りすぎるそんな中、レジャー施設『お人形ランド!』は閑散としていた。春の風ではなく木枯らしが吹いているような気もする。
「子供の日だぞ!五月人形もあるのになぜ!なぜガラガラ?」
コシミノ一枚の神様、ブンちゃんは頭をワシワシかき回していた。
「なぜだろーねー?あー、ブン様、オモチャのゆのみと柏餅よろしく」
ブンちゃんの社内のちゃぶ台にちょこんと座っているのは銀髪で連獅子のような髪型の少年ドールだった。手のひらサイズしかない彼はやたらと態度が大きかった。
「あー?自分で持ってこいよー……。俺は忙しい!!」
「……暇そうだから頼んだんだけど」
少年はため息をつくとちゃぶ台の上で大の字になり、お昼寝を始めた。
「おいおい……自由人形め!兄貴のイチはどうした?ロク!」
「さあ?どっかにいるんじゃないの?」
ロクと呼ばれた少年はほっこりしながらてきとうに答えた。
「てきとうすぎる……」
ブンちゃんはとりあえずやることがなかったのでゆのみと柏餅を持ってきてあげた。
「あー、どうも」
「どうもじゃねーよ……」
「ところでやることないの?」
ロクの無邪気な発言にブンちゃんはうなだれた。
「それがまるっきり……あ、いやいや、沢山やることある!忙しいんだ!俺は!」
「ふーん」
急に部屋の掃除を始めたブンちゃんをロクは興味がなさそうに見つめた。
「おーい!ロクー!仕事だぜぃ!」
そこへやたらと跳び跳ねながらちゃぶ台までやってきた銀髪の少年がもうひとり。
「あー、兄貴」
「おう!」
「イチか!良かった!さっさとロクを連れていってくれ」
「おー!ブンちゃん、忙しいそうだなー!!俺も手伝おうか?」
銀色短髪の少年イチは素直にブンちゃんの掃除を手伝い始めた。
「だー!!掃除はいい!!さっさとロクを連れてけー!!」
「えー!手伝うよー!」
「それより兄貴、仕事って何?」
収集のつかない会話をロクが軌道修正した。
「あ、ああ!ついさっき、お願いボックスにお願いが投げ込まれたんだよ!!」
「……賽銭箱な……。願いを投げ入れるんじゃなくてだな……。いつからお願いボックスに……」
ブンちゃんがため息混じりにつぶやくがイチに流されてしまった。
「願いは五月人形みたいに強そうな顔になりたい!とのことみたいだぜー!」
「……強そうな顔って……どうすりゃあいいんだよ……」
戸惑うブンちゃんにイチはさらに続ける。
「こう……がおー!!って顔すりゃあいいんじゃね?」
「じゃあ、そうやれって言ってこい」
「あははー、てきとー!」
ロクが手を叩いて笑っていた。
「……こんなてきとうじゃダメだ!よし!暇だから一個一個の願いをしっかりやろう!イチ、ロク!この願いの人間を夢でなんとかしてこい!終わったら俺がなんとか繋いどくから!」
「結局まるなーげー。よーし、遊びにいこー!」
ロクは楽しそうに立ち上がるとスキップで社外に去っていった。
「あー!待てよー!しきんな!俺がリーダーだ!!」
イチも負けずとロクを追って走り出した。
「……真面目はけっこうだが……うるさいなあ……」
ブンちゃんはため息をつきつつ、イチとロクを見送った。

イチとロクが社外に出ると『お人形ランド!』の展示ドール達を眺めている青い髪の少年ドールを見つけた。
羽織袴を着ている浪人風のドールだ。腰にはつまようじを差している。
「おー!あいつ、平次郎だろ!!つえードール連れていこーぜー!」
イチがさっさと平次郎に歩み寄るとフレンドリーに話しかけ始めた。
「よぅ!俺達の仲間になれ!強い男を見せるんだい!」
「な、なんだ……いきなり……」
平次郎はイチを迷惑そうに見据えていた。
「兄貴、それじゃあなんだかわかんないよ。てか、そういうでしゃばりタイプは洋画とかだと最初に死ぬ……」
「うるせー!!とりあえずレッツだゴー!だぜ!」
「……というわけで」
イチとロクは平次郎を仰いだ。
「結局、どういうわけだ……」
平次郎は戸惑っていたがなんとなくついてきた。イチは理由をつけて話すのが苦手でロクは理由を説明するのを面倒くさがるので平次郎はその辺を感じつつ、ついてきたのだろう。
「じゃあ、夢の世界、オープン!」
イチが手を横に広げて靄のかかる世界を出現させた。
「レッツだゴー!」
「あー、兄貴ー。僕が先ー!」
イチとロクは争いながら靄がかかる向こう側へとさっさと入っていった。平次郎は軽くため息をつくとゆっくり世界に入り込んだ。
「ほー!!すげー!!」
イチは世界に入り込んでから歓喜の声を上げた。
この世界はなんというか江戸時代だ。それにこの世界の持ち主のアレンジが加わっている。完璧な江戸ではなくどこか違う。
しかも歩いている人間はなぜかドールであるイチ達と同じ身長だ。
「どっちかと言えば……侍とか忍者とか多いね」
「……忍者が白昼堂々、黒ずくめで買い物するか……?」
平次郎は呉服屋さんで着物を選ぶ奇妙な忍者に頭を抱えた。
「うはー!忍者だってよ!!かっけー!!侍だ!かっけー!!光る刀じゃーん!!かっけー!」
イチは興奮ぎみに跳びはねていた。
「……なぜ、蛍光灯のような刀が……」
「有名なSF洋画に出てきそう……ぷっくく……」
さらに戸惑う平次郎と笑いが止まらないロク。
しばらく江戸風な町をのんびり興味津々に見ていると女性の悲鳴が聞こえた。
「む!」
「悲鳴だ!!行こうぜ!」
「どっかの時代劇みたいな悲鳴なんだけど。ま、いいか」
イチ達は悲鳴の方へと走り、路地を抜けた。
路地を抜けた先で浮世絵のようなのっぺりした世界が広がっていた。ちゃんと日本橋みたいな橋もある。大通りの方で人々がざわついていた。先には大きな呉服店があり、その呉服店の娘さんが悲鳴をあげたようだ。
「よーい!娘っ子!どうしたよ?」
なにかにかぶれているイチが変な抑揚で話しかけた。
「ものとりが!強盗が!!」
娘はパニックになりながら道の先を指差す。
「そちらに強盗が逃げたということらしいな」
平次郎は腕を組んで冷静に頷き、つぶやいた。
「てか、この店、『うにくろ』って書いてある!どっかの有名店にクリソツなんだけど!あはははー」
ロクは全く関係のない事でひとり盛り上がっていた。
「おい!とにかく追っかけて、ひっとらえるぞぃ!ごよーだぁい!!」
イチが楽しそうに道なりに走り出してしまったので平次郎はため息まじりに追って行った。
ロクは笑いながらついてきた。
しばらく走るとこれまた時代劇にありそうな山小屋が現れた。
小屋は大きな杉の木の裏側にあった。
平次郎は杉に身を隠して中をうかがったがイチが「へーい!!」と山小屋の扉を思い切り開け放った。
「何やってんだ……。あいつはバカなのか?」
「たまに……」
平次郎の困惑した顔にロクは呆れた声で返した。
「へーい!へーい!ごようなんだよ!!覚悟しやがれぃ!!」
イチが高らかに言い放つ。
山小屋にいたのは数名の人相悪い盗賊団達。
「あー?こちとらタダでお縄になるわけやぁないでしょお?おまいら火盗か?」
盗賊団のひとりが柄悪く叫んできた。
「ひとう?なんかあったまりそうだな! 秘湯はいいぞ!お前らはゴエモンブロ行きだ!!イエーイ!」
なんだかわからないイチは無理やり話に合わせた。会話が意味わからなくなってきている。
「火付け盗賊改方だバカやろう」
「いでっ!」
見かねた平次郎がイチの頭をつまようじで軽く叩いた。
「長谷川平蔵かよ……ぷっくく……」
ロクはまだ笑っている。先ほどから突っ込むところが多くて楽しいらしい。
「こちらには浪人さんがいるんでぇ!強之助(つわのすけ)さん!よろしくでさぁ!」
盗賊の内のひとりが少年に向かって頭をさげていた。
「ん?」
イチ達は目を疑った。
少年は幼くて小学生になりたてくらいの年齢に見えた。どうみても現代にいる男の子で申し訳ないが強そうには見えない。
目は丸くてかわいく、お母さんに切られたのかきれいなアーチを描いたおかっぱ頭、手足は細い。
「……弱そう……だな……」
「弱くないもーん!!」
平次郎の言葉に少年はすぐに反応した。
「こいつ、依頼主か?」
「みたいだね」
イチとロクは眉をひそめた。
「強い男とは!悪!悪役こそかっこいい男!ヒーローは飽きた!」
少年はビシッと指をさしてきた。
色々とかっこよさを求めすぎて迷宮入りしているようだ。
「はあ……」
抜けた返事をした一同に少年は刀を抜いてきた。
「おー!待ってましたぁ!!平次郎!いけー!」
イチは気合いだけすごくあったが平次郎に丸投げした。
「……仕方ない」
平次郎はため息混じりにつまようじを構えた。つまようじは手のひらサイズのドールが持っているため、大きさは人間が刀を持っているのと同じくらいだ。ただ、今はなぜかドールの大きさが人間に統一されているため、つまようじはデカイ。
少年はチャンバラをやる勢いで平次郎に襲いかかった。
それを見た盗賊団も猿のように飛びかかってきた。
「おーし!ロク!いっくぜー!」
「僕はやだよ」
イチが盗賊団と乱闘になった。飛び火してきた盗賊をロクはため息混じりに軽やかにかわすと五芒星を描き結界を張って盗賊を弾き飛ばし始めた。
「あー、楽。向こう終わるの待ってよっと」
「くそぅ!あんな楽な方に逃げやがって!かっこわりぃぞ!」
イチが盗賊を柔術で飛ばしながら叫ぶ。
「カッコ悪いな……あれ」
少年は小さくつぶやくと平次郎に刀を振りかぶった。
「カッコ悪いか?」
平次郎がつまようじで刀を軽やかに弾いた。
「だってかっこわりぃじゃん!親父みたいだもん!立ち向かわないで逃げるんだ!」
少年はなんだか怒っているようだ。チャンバラがかなり荒々しい。平次郎はうまく少年に合わせながらチャンバラを継続させていた。
「まあ確かにカッコ悪いかもしれんが……お前の父上はそうやって争いを避けて家族を守っているかもしれん」
「わかんないよ!!こないだ、親父……パパの会社のパーティーに出たんだよ。でもパパは重要そうな会社の会話に入らなかったんだ!!」
少年は叫びながら刀を凪ぎ払う。
平次郎は後ろに飛んでかわした。
少年の父親の会社は社員の家族を呼んでパーティーを開くことがあるらしい。最近の会社だと親睦を深めるためによくあることだそうだ。
「話に入れなかったのかもしれんぞ?父上はいくつだ?」
「二十四だよ!」
「ずいぶんと若い父上のようだ。まだ会社の序列からすると下の方だろう。上役の話には入れなかったのだ」
少年の刀を上手く受けつつ平次郎は諭すように言った。
「そんなのダサいじゃん!!」
「……皆そんなもんだ。お前だって小学六年と話せるか?」
「は、は、話せる!俺は強いから!」
少年は興奮ぎみに言うと刀をさらに激しく振った。
「強さとは……物理的な強さとおだやかな強さがある。あいつら二人を見ていればわかる」
平次郎は刀を避けながらイチとロクを指差した。
イチは「おりゃー!」と叫びながら盗賊を投げ飛ばしており、ロクは結界内から様子をうかがっていた。
「お前の父上はロク方面のようだがあれはあれで争いをせずにどうやって事が終わるか考える優しい強さのタイプ。イチの方は正義感が強くて悪は成敗する物理的な強さのタイプ。あれを改めて見てどう思うか?」
「……足したらすげー強い」
平次郎の質問に少年は小さくつぶやいた。
「その通り。反対に見えるが合わさると状況によって判断ができる新しい強さが生まれるわけだ。つまり、悪役の強さこそダサいのだ」
「なるほどー!!」
平次郎のよくわからない発言に少年は思うところがあったのか目を輝かせた。
「お前の父上は……出世するほど物理的な強さが増えてくると思うぞ」
「そっか!!パパはカッコよかったんだ!」
少年は先程とは変わり、満面の笑みで頷いた。
「おうりゃ!!」
イチがした背負い投げにより盗賊が涙目で飛ばされてきた。
それを見た少年は「こっちはやっぱダサいな」と盗賊を冷めた目で見ていた。
「ささえつりこみあしー!!」
イチは様々な柔術の技を楽しんでいるようだがあまり容赦はない。
少年はだんだん顔が曇ってきた。
「やい!!そこのお前!やりすぎだぞ!」
「おいおい!こいつは悪い奴らだろ!成敗!成敗!だろ?」
飛んで入ってきた少年にイチは眉を寄せた。
「もう戦意を失ってるじゃないか!もういいよ!」
少年がそう叫んだ時、ロクが目に入った。ロクはただ結界を張って座っているだけだと思っていたがよく見るとロクの後ろに動けない盗賊が何気なく入っており、守られていた。
「おお!」
少年はなんだか感動を覚えた。
「わかったようだな。おい、イチ、もう終わりだ」
「えー!こいつら悪い奴らなのに!」
「少年の心が変わった。もうよい」
「へーい」
イチはいそいそと攻撃を止めた。
「……二つの強さを持つこと……それが真の強さ!つまり……」
少年は平次郎を見据えた。
「ん?」
「お兄さん!『強そうな顔』を教えてください!」
少年は平次郎に早口で想いを伝えた。
「えー!?」
イチとロクは目を見開いて驚いていた。
「……強い顔……とは清く優しく生きていれば自ずと出てくる……いくぞ」
平次郎は羽織をなびかせると山小屋を出ていった。
「うー!かっくいー!」
「……かな?」
イチとロクも少年に手を振りつつ外へ出た。
ちょうど岡っ引きみたいな格好の男達が盗賊達をお縄にしている所だった。
「あー、忘れてた!おい!少年!お前の世界はなんで時代劇?」
イチが振り返り、少年に問いかけた。
「ああ、じっちゃんがよく時代劇見てて……かっこいい侍が出てくるから……」
「あ!なるほど!ありがと!じゃなー!」
ぽかんとしている少年に軽くお礼を言うとイチは平次郎を追って行った。
なんだかんだあって再びブンちゃんの社前に戻ってきた。
「……もう解決したんだよね?」
「したんじゃねーか?帰ってきちゃったぜ?」
ロクとイチは同時に首を傾げた。
当たり前だ。彼らは何もやっていない。
「では、俺はこれで」
平次郎は戻るなり羽織をなびかせて去っていった。
「おー!あいつかっけーなァ!!見たか!背中で語ったぞ!」
「真の強さは顔が強そうかじゃなくて背中からのオーラか」
イチは興奮ぎみにロクは静かに大きく頷いた。
「あー、おかえり。なんか上手くいったみたいだな?」
声を聞きつけブンちゃんが社から出てきた。
「上手くいった?マジか!なんかわかんねーけどやったー!!」
「……兄貴は盗賊をぶっ飛ばしていただけだけど」
喜ぶイチにロクは冷めた声でつぶやいた。
「なに言ってんだよ!お前なんか結界張ってぼーっとしやがって!」
「あー、はいはい。やめやめ!喧嘩はやめなさい」
ふたりが喧嘩を始めそうだったのでブンちゃんは慌てて止めた。
「ブン様!」
「ブンちゃん!」
「な、なんだよ……」
突然、ロクとイチから睨まれたブンちゃんは顔をひきつらせて後退りを始めた。
「どっちが強い?」
「はい?」
「だからどっちがつえーか聞いてんの!」
「し、しらねーよぉ……」
戸惑うブンちゃんをよそにイチとロクはお互いの強さを喧嘩腰に語り合い始めた。
「……どうでもいいから外でやれよ……うるせー……」
ブンちゃんは呆れた顔で頭をポリポリかくと社内へ引っ込んでいった。

※※

「強之助ー!ごはん!いつまで寝てるの!」
ママの声で俺は目覚めた。
おかしいな?目覚ましかけたのに。
俺は布団の端に置いておいた目覚まし時計を見る。朝の七時半。
昨日はかっこよさについて考えていたらそのまま寝たみたいだ。
なんかダサいな……。
そもそもかっこよさを考え始めたのは二週間前。友達から「お前、名前とは全然違うな。強そうな顔じゃねーし!あはは!」と冗談で笑われた時からだった。
強そうな感じイコールかっこいい!じっちゃんがみてる時代劇に出ている主人公は皆強かった。ひとりで何十人の悪党を倒していくんだ。かっこいいじゃないか!
ふと、五月になるといつも飾られる人形と兜を思い出した。
勇ましい顔の人形、かっこいい兜。前は変身したらおもしろいのに程度しか考えてなかったがかっこいいじゃん!ってなった。
同時に自分が強いイコールかっこいいになるためには顔から変えていかないとと思った。そもそも友達から顔が強くなさそうだと言われたのだ。顔から強くなろうじゃないかと決意した。
そんで……ねぇちゃんに連れられてあの人形ばかりの施設で退屈してた時に『お願いボックス』を見つけた。神社みたいだったけど賽銭箱じゃなくていいのかと眉を寄せて怪しんでいたがまわりに誰もいなかったからてきとうに願いを投げ入れてみたんだ。
そしたら……まさかの。
変な夢みたし。
心でモヤモヤしてたパパのことまでスッキリした。
あんまり覚えてないけどかっこよさは内面と外面をあわせ持つのがいいと。そんで内面、外面両方のかっこよさを磨けば強そうな顔になる!!
あー!スッキリだ!
俺も頑張ろう!
まず、剣術を……
「聞いてんのー!ごはん!!あんた今日学校でしょー!!!」
「はーい!」
ママの声が鋭くなってきたので怒らせない内に布団から出ることにした。
あの後、パパも寝ていたみたいでママに叩き起こされていた。
「ゴールデンウィークは終わったの!シャッキリしなさい!!!子供と同じ時間にあんたが起きてどうすんのよ!!!仕事でしょ!!!」
パパが本当に強くてかっこいいかはわからなくなったけど、もういいや。
とりあえず、神様が願いを叶えてくれたって事で?
「ありがと!」

六話

雨が降っている。
ジメジメとしているからアジサイがきれいに見える……そんな六月。
ここ、「お人形ランド!」でも湿気が深刻だった。
「あー!!鳥居にコケ!?」
神社前を掃除していたブンちゃんは悲鳴をあげた。
鳥居はしっかりしたものではなく、従業員の手作りである。
お人形が並んでいるエンタメ施設で湿気は一番の敵だ。
「どうしました? 鶏みたいな声出して……」
自称ブンちゃんの秘書である三つあみの少女人形、宮子さんが賽銭箱に投げ入れられていた「お願い事」の紙を拾い集めながら尋ねた。
「いや……コケって鶏じゃなくて……」
「それよりも厄介なお願いが来ています。転送しますね」
「……いや……聞いてよ!?」
ブンちゃんの叫びもむなしく宮子さんは話始めた。
「入院するものです。両親がなかなか来てくれません。愛されてないのかな?神様教えて!との事。小児病棟で現在入院している子供のようですが……なんでここに?」
宮子さんは首をひねったがブンちゃんは思い出したように手を叩いた。
「ああ!それな、手紙を同級生がここに入れたんだよ。近くの神社がわからなかったみたいでここに入れてった……」
「ああ、なるほど……。大雨の中、わざわざ……この子の願い、気になりますね。愛されてないわけないと思いますが……」
「いそがしーんだろ。親だって仕事してんかもしれないしな」
ブンちゃんは寂しそうにコケを布で擦っていた。
「子供はそれがわからないですからね」
宮子さんは無理やりブンちゃんにテレパシーで「お願い」のデータを送る。
「……宮子さん、なんとかしてくれないか?俺はちょっと忙しくて……」
コケをゴシゴシ強く擦りながらブンちゃんは宮子さんに頭を下げた。
「わかりました。花子さんと桜子さんと行きますね」
「あー、ブンちゃん!社にキノコ生えてるよ!めっちゃウケる!!」
金髪青い目の花子さんがかわいらしい顔をシワだらけにして笑っていた。
「キノコ!?」
ブンちゃんは慌てて社付近に近寄った。室内なのに雨が降っている。
「雨漏りしてんじゃん!!管理しろよー!もー!」
「キノコ……これは……シメジ?」
叫びっぱなしのブンちゃんの横にしゃがみこんでいたのは黒い短髪ドール、桜子さん。
「シメジメジメ……シメジメジメ……ぷっ……くくっ……」
ジメジメしているからシメジが生えたと言いたかったようだが何やらツボにハマったようだ。
「うるせーなあ……もー……早く行けよ……もー……」
「牛になった。鶏もいるし……牧場だ!キノコ栽培してる牧場」
桜子さんはとりあえず深く頷いていた。
「なんかブンちゃん忙しそーだから、うちらで行こ !」
花子さんがさっさと空間を出した。

空間にそそくさ入り込んだ花子さん、宮子さん、桜子さんはすぐさま辺りを確認する。
「ん?」
三人は固まった。空間を開き、夢の世界に入り込んだはずがどこにでもありそうな建物に到着した。
色々な医療器具があり、ベッドもある。窓の外は雨が降っていた。
「ここは……病院?依頼主の夢……ですよね??」
「想像に乏しい夢ねー。病院にいるのに夢でも病院にいるなんて……」
宮子さんと花子さんが話していると桜子さんの笑い声が聞こえた。
「ほぉー!見てよ!アジサイが病棟にふつーに咲いてるよ!!」
「あら……ほんと……じゃあ夢だわ。部屋にアジサイが咲いてるなんてみたことないもんね。しかもアジサイ祭りが開催されてるし病棟と外が合わさってるわ」
よく見るとアジサイが廊下に沢山咲いており、「アジサイ祭り開催!」との看板があった。
「しかし……人がいないですね……。鮮やかなアジサイと人のいない薄暗い病棟……不気味です……」
宮子さんが依頼主を探した。きっと何気なく当たり前のように部外者である自分達に話しかけてくるはずだからだ。
「……だいたいすぐに見つかるんですが……」
「……いないわね……」
三人は忍び足で薄暗い廊下を歩く。今回三人は大きくなったりせず、ドールのままだ。
壁に張り付きながら廊下を曲がるとやたらと明るい部屋があった。
「明るい部屋がある……」
「プレイルームって書いてあるわ……。病院内でオモチャとかあるとこじゃない?」
花子さんは桜子さんに答えつつ宮子さんに目配せをした。
「あそこに子供がいる可能性がありますね。行きましょうか」
宮子さんは頷くと再び忍び足で廊下を渡った。プレイルーム前のガラスのドアから中を眺めると案の定、小学生に満たない幼い女の子がおままごとセットを広げて遊んでいた。
友達はおらずひとりだ。
少女は中をうかがう宮子さん達を見つけると笑顔でドアを開けた。
「いらっしゃい。かわいいお客様ね。お人形さん?おままごとしましょ!」
やたらとませた言い方の少女はさっさと三人を中に入れた。
「……役に入り込んでる?」
「……みたいね」
桜子さんと花子さんがブツブツ言う中、少女は気にすることもなく三人に役柄を言い渡した。
「みつあみのあなたはメイドさん。メイドさんの格好してるから」
「……そのままですか」
宮子さんはふむふむと真面目に頷いた。
「あなたは……お父さんね」
「……!?」
少女は桜子さんに目を向けるとまさかの役柄を言ってきた。
「あ、あのー……お父さん?に見える??」
「黒い髪で短いから」
「……はあ……」
少女の思考回路でお父さんのイメージがそうらしい。
「で、あなたは……フランス人形みたいだけど……子供!」
「えーっ!お母さんがいいわ!」
「ダメ!お母さんは私!」
少女は渋る花子さんに無理やり役柄を言い渡した。
かなりアンバランスな劇になりそうだ。
メイドがいて両親が日本人風なのに子供がフランス風。
「パパ!いつまで寝てるの!今日は仕事でしょ!ママもう仕事行くわよ!」
「……あれ?これなんか始まっちゃってる??桜子!とりあえず寝なさい!」
花子さんは桜子さんを無理やり横にした。
オモチャの家具のうち、机で寝てしまっているが気にしない。
「あら!パパ!なんで机で寝てるの!寝相が悪すぎよ!」
的確に指摘をされてしまった。
「仕方ないなあ……ベッド……ベッド……あった」
桜子さんはオモチャ箱からオモチャのベッドを取り出し、とりあえず寝た。
「メイド!食事のよーいを!」
「え?あ、はい……」
子供の発言はいつも突然だ。宮子さんはいきなりの役で慌ててオモチャ箱から食材を取り出す。
「うう……食材しかない……。なんか料理になってるオモチャは……」
なんとなくてきとうに皿に置いたらがっつり叱られた。
「あなた!トマトは切って置きなさい!丸々レタスを置く人がいますか?ジョーシキでしょ!朝から鳥の丸焼きなんて食べられないわ!目玉焼きと味噌汁、フライドポテトもね!」
「……フライドポテトは朝からいいのですね……」
おそらく、今少女が食べたいものが口から出ているようだ。
「みぃちゃんも起きなさい!学校よ!朝ごはん食べて!」
「みぃちゃん?あ、あたしか……。は、はーい!」
花子さんは机にごっちゃに乗せられてる食材の前まで来た。
「なにやってるの、お着替えが先よ」
少女は突然に花子さんを掴むと服のマジックテープを剥がし始めた。
「ちょっ!!裸にすんの!!ま、待って!えー……お母さん!服はね、着替えたの!一瞬で!だから平気だわ!」
「あらそう?」
花子さんの叫びに少女は普通に頷いた。
そこは重要ではなかったらしい。
「メイドがごはんを作ってくれたわ。皆でいただきますよ」
「は、はーい……」
三人は少女に圧されて小さく頷いた。
「いただきま……」
花子さんと桜子さんは何かを感じ途中で止まった。
刹那、どこからか現れた点滴のパックが突然に襲ってきた。
わけがわからない。
「……っ!?」
「桜子さん!花子さん!戦闘の準備を!」
宮子さんが叫ぶ。
桜子さんと花子さんはなんだかわからないまま魔法のステッキを手から出現させた。
ここは夢の中。なんでも起きるしなんでも武器にできる。
「てか、なんで点滴が襲ってくるの!?」
花子さんが叫ぶ中、点滴は針を出して攻撃してきた。モンスターをイメージしたのかかわいらしい目が点滴についている。しかし、針を飛ばしてきたりとやることは激しい。
宮子さんはシールドを出して初回の攻撃は防いだ。
「……へぇ」
少女は宮子さんを見てなんだか納得したように頷いた。
そして二回目の点滴攻撃に自らぶつかった。同じようにシールドを出す。夢の世界なので何でもアリだ。
「できた!よーし!赤ちゃんは寝てて!ママが守る!」
「赤ちゃん!?あたし?」
少女は花子さんにそう言っていた。いつの間にか子供ではなく赤ちゃんになっていた。
「赤ちゃん……もしかして妹か弟がいたり?」
桜子さんは魔法のステッキから星の塊を出し、攻撃しながら少女に話しかけた。
「生まれたばっかりの妹がいるよ」
「……花子さん、思い切り赤ちゃんになって泣きわめいてみて」
「はあ!?」
桜子さんの言葉に花子さんは首を傾げた。
「いいからさ」
「……わ、わかったわよ。……うっわーん!!!こわーい!!!」
花子さんは桜子さんのごり押しに無理やり怖がった。
すると少女は顔を引き締めて頷いた。
「大丈夫!ママが守るから!……ハッ!」
少女は自分で言いながら何かに気がついた。
「……そっか……ママもパパもこういう気持ちだったのか……パパはお仕事でママは赤ちゃんのお世話……赤ちゃんを守らなきゃいけなかったんだ……。じゃあ、私は?」
少女は前とは違い悲しい顔に変わった。今にも泣きそうだ。
「そもそも……なんで入院に?」
宮子さんは番傘を出現させ、クルクル回して点滴の針を弾きながら尋ねた。
「……怪我したの。転んで骨折れてたの、黙ってたの。そしたらね、入院になっちゃって……点滴してるの」
少女は五歳くらいの女の子に戻った。小さくつぶやいている。
「点滴怖かったんですね……。だからあんな化け物が……」
宮子さんはなんだか笑ってしまった。ピンポイントで単語を言う子供はその単語を気にしている。
今回は点滴だ。
なんだかわからないが点滴という言葉を覚えたらしい。
「もー!泣き叫ぶ演技疲れるわ!戦うわよ!」
忘れられていた花子さんは気合いを入れると声を上げながら魔法のステッキを振るった。
「物理なら斧とか剣とかにすれば?」
「アックスにするわ!おりゃー!」
桜子さんに指摘され、花子さんは斧を出し点滴に攻撃を始めた。
「……あなたは愛されてますよ。そんな忙しい中でご両親はお見舞いに来たでしょう?産まれて間もない赤ちゃんはお母さんがいないと何もできません。忙しいお母さんを見て痛かったのを我慢したのでしょうが、お母さんも人間ですから言わないとわからないこともあります。寝不足でフラフラしていてあなたの状態に気がつかなかったことを後悔しているかもしれません」
宮子さんは少女に優しく語りかけた。少女は迷ったように頷く。
「気がつかなくてごめんねって泣きながら言われた……。私は気がついてほしかった。お見舞いになかなか来ないのも私は入院しちゃったから忘れられちゃったかなって……」
「そんなことはありませんよ。むしろ、お母さんが心配です。長女が入院して次女が乳児なんて狂いそうですが……、それでも何にも言わずに少なくても面会に来るんですからあなたが愛されてないなんて言ったらお母さんもお父さんも傷つきますよ!」
「……それはやだ」
「でしょう?」
少女の即答に宮子さんも即答した。
「じゃあどうすればいいの?お母さん達の気持ちを知りたい」
「……お母さん、大丈夫?って声をかけてみたらどうですか?あなたの心はお母さんを心配しています。そうしたらお母さんも何が大丈夫じゃないか言うと思いますよ」
「なるほどー」
少女は理解したのか何度も頷いた。
「ちょっとー!!この点滴野郎強いんだけど!」
花子さんが宮子さんに助けを求めていた。
「……とりあえず、あの点滴、やっつけますか?」
「うん!!」
宮子さんの問いかけに少女は元気に頷いた。飛びかかろうとした時、ぼんやりした声が聞こえた。
花子さんでも桜子さんでもない声だ。
「じゃーん……。わたくしが操作中だったのだ……。おもしろーいぞー。ほーら」
点滴野郎の裏側に宮子さん達と同じサイズの少女ドールが引っ付いていた。巫女さんの格好をした黒髪長髪の少女だ。
「……あ、みいこだ……」
桜子さんが呆れた顔で巫女さんドールを見上げた。
巫女さんドールは「みいこ」と言うらしい。
「あんた、なんでそっち側であたし達に襲いかかってくんのよ!」
花子さんが怒鳴るとみいこはぼんやりした顔をぺちゃんこな笑顔に変えた。
「まあー……わたくしも人助けで来たからー……神様の手伝いと言えば巫女さんでーさ」
「……たまたま同じ世界に入って違う方向から女の子の願いを聞いてあげようとしたようだよ」
桜子さんがみいこの言葉を代弁してつぶやいた。
「なるほど……」
「まー、なんだかこいつをやっつける的ーな話になってるみたいだーし、わたくしも四対一だが負けないよー。いけー!てんてきまん!!」
点滴はみいこを乗せて針を飛ばしてきた。
「うわああ!……そうかあ……あいつっ!入り込んだ心に作用して器用に召喚術が使えるやつだった!!」
「とりあえず防ぎます!」
宮子さんがすばやく番傘を回して針を弾いた。
「じゃあー、てんてきまんキャスターこーげきー」
弾かれたとわかったみいこは違う攻撃をしてきた。点滴のキャスターで回転しながら点滴チューブをしならせて鞭のように打ってきた。
「右だよ!」
少女が宮子さんに叫ぶ。宮子さんはすぐさま左に飛んだ。鞭は強く音を立てながら床をえぐった。
「なんだぁ!あの威力は!」
桜子さんが目を丸くしながら魔法のステッキからピンク色の謎光線をてんてきまんに当てた。
「むっふっふっ!そんなー光線はーきーかーなーいーぞー」
みいこはガラスのような四角い板をてんてきまんの前に出現させて光線を弾いた。
「うわわっ……」
「でやああ!花子スペシャル!アックスくるくる!!」
桜子さんが跳ね返った光線をシールドで弾いている中、花子さんが斧をくるくる回しながら振りかぶった。
「ネーミング……ダサいですね……。まあ、いいです。援護します」
宮子さんは番傘を閉じて飛んでくる針を叩き落としながら花子さんを援護した。
「私も……私も!」
少女もてんてきまんに果敢に攻め、指先から強力そうな光線を出した。
ここは彼女の心の中である。彼女が世界の中心であり、彼女が一番強い。
「うわー!こりゃーやーばーいー」
みいこは花子さんの攻撃と少女の攻撃で慌てて、てんてきまんから離れた。
「おりゃー!!」
少女と花子さんの気合いにより、てんてきまんは特撮のように火花を散らして消えていった。
「あわわー!たーいさーん」
みいこは頭を抱えつつ、そそくさと世界から出ていった。
「何よ……。あいつ、特撮のラスボスみたいじゃない。次週もありそうだわ……」
花子さんはため息混じりにつぶやいた。
「というか……巨大化はしないんだ……」
桜子さんはなんだか残念そうだった。
「いいですか?もうたぶん、大丈夫なので帰りますよ」
宮子さんが桜子さんと花子さんに伝えた刹那、辺りがプレイルームからアジサイがよく咲く有名なあのお寺に変わった。
「……あら?いつの間にか鎌倉になってるじゃないの」
「皆、遊んでくれてありがと。怪我する前にパパとママとみぃちゃんと私で日帰り旅行する予定だったんだ。アジサイがきれいだから見に行こうって話で……こんな感じだったの……パンフレット……」
花子さんの言葉に少女が半分涙目で語った。
「そうだったんですね。でも、今年はアジサイが咲くのが遅れたんですよ。だからまだ大丈夫です。退院はいつですか?」
「……明日」
「では問題ないでしょう。楽しんできてください。アジサイは土によって色が変わるそうですよ。赤と青、どちらも美しいですから」
「うん」
宮子さんの言葉に安心した少女は照れた笑顔で答えた。
「もう終わり……かな?」
世界が徐々に薄れていく……。
少女が夢から覚めるのだ。
「じゃあ、時間みたいだからあたし達は帰るわよ。じゃあね」
花子さんも笑顔で手を振り、慌ただしくブンちゃんの神社に繋がる空間を出した。
「ばいばい」
最後に少女の弾む声が聞こえた。

「ふー……」
宮子さん達は同時にため息をついた。
なんとかブンちゃんの社まで帰ってくることができた。
「今回は……うまくいったのでしょうか……」
「……みいこのあれ、いた??てんてきまん」
心配そうな顔の宮子さんに花子さんは首を傾げた。
「いらなかったかもしれないなあ」
桜子さんが苦笑いをしながら答えた。
「てか、みいこは?」
「どっかに行ったのではないですか?」
「けっこうザックリだね……」
三人がホッとしつつ、不安げに会話をしているとげっそりしたブンちゃんが社の脇から出てきた。
「あー、お前らかー。ま、なんとかなったみたいだぜ……」
「あー、そう……。それよりなんでそんなゲッソリ?」
桜子さんが疲れがたまった顔をしているブンちゃんに尋ねた。
「キノコの発生が止めらんねーんだよー!ちなみにこいつはシメジじゃなくてシメジみたいな毒キノコらしいし……」
ふと見ると雨漏り現場にはどっかのホテルで使われてそうな風呂桶が置いてあった。「なんとかヤ」とか書いてあるが古いものなのかかすれて読めない。
たぶん、鳥さんが関係するホテルだろう。
そんなものがなんでここにあるかわからないが雨漏りを必死で食い止めているようだ。
「これから大雨注意報だぜ!お前ら……俺を助けてくれ!俺のお願いを聞いてくれよー!」
「あー、ごめん。ムリ」
「私は秘書なので……」
「いやよ。食べられないキノコの世話なんて!」
ブンちゃんのお願いは三人にそれぞれ捨てられて終わった。
「雨漏りが滝になっちまうよぅ!!えーん!」
それぞれ去っていく三人にブンちゃんの目にも大雨注意報が出たのだった。

※※

「あゆちゃん、ごめんね……。遅くなった!」
「あゆみ、今日は退院だな!」
小児病棟の一室でぼんやりしていた私はママとパパの声に振り向いた。
今日退院なので点滴は外してもらった。元々、ちょっとヒビが入った左手を放置していたため念のための入院だった。
「ぱぱ……まま……」
「ごめんな、気がつかなくて……お姉ちゃんになろうとしたんだよな……。だから言わなかったんだろ?」
パパが私の頭を撫でてくれた。
私はちょっと泣きたかったけど我慢した。今日退院なのにお外と同じジメジメはやだったから。
「大事なことはちゃんと言っていいんだよ……。ごめんね。ママも悪かった」
ママに優しくそう言われたらなんだか我慢できなくなっちゃった。
大泣きにはならなかったけど、ママに抱きついて泣いちゃった。
ママはぎゅっと抱きしめてくれた。
なんだかホッとした。
あ……!聞かなきゃいけないことがあった!!
昨日の夢でお人形さんから言われた言葉。
「ねぇ、ママ……。ママは大丈夫?」
鼻水と涙で声がおかしかったけどママは軽く微笑んでくれた。
「なあに?ママは大丈夫。あゆちゃんが入院して心配で寝られなかったんだけどみぃちゃんが珍しく大人しかったから、面会に来ることができた。みぃちゃんもあゆちゃんを心配してたんだよ。でも、ほんとに無事で良かった。色々悪い方ばかり考えちゃって退院まで私、ごはんも食べられなかったよ。ほんとは毎日でも来たかったんだけど……」
「……そっか。私はやっぱり」
……愛されてたんだ……。
ママの答えに涙が止まらなくなった。
「おいおい、泣くなよ。退院なんだからジメジメした話はやめて皆でおうちに帰ろう」
パパがこっそり親指を上にあげた。
「うん!」
「明日はつかの間の晴れみたいだからアジサイ見に行こう!」
ママの言葉に私は「おー!」と病院だから小さい声でギプスをしていない方の腕を上に振り上げた。
そういえば昨日の夢は……とても大切だった気がする……。
神様へのお願いが届いたのかな?
きっとそうだ!
お礼を言おう!
「ありがとうございました!」

七話

ジメジメした暑さが襲う今年の七月。
お人形展示のレジャー施設『お人形ランド!』では七夕に追われていた。従業員達が大きな笹をブンちゃんの神社前に飾る。
従業員達がブンちゃんのために作った手作りの鳥居が笹により今にも倒れそうだ。
今は七月二日。
これから来場者に短冊を書いてこの笹にかけてもらうイベントが始まる。
しかし、隣で見ていたブンちゃんは不服そうだった。
ちなみに例え従業員から祈られてできた神様でも人間の目には映らないし声も聞こえない。
「あーあー、七夕は俺の祈りにならないんだよなあ……。アマノワカヒコサマとかアヂスキタカヒコネサマとかが関係するじゃんかー……。俺、よくわかんねーけど。俺は関係ないし……。暇になるか?どうしよ??」
「でっさー、賽銭箱の中に一枚お願いあるでござい?」
「ん?誰だ?」
さも当然のように誰かが話しかけてきた。
「ああ、こっち、こっち!失礼したでっさい!」
ブンちゃんが声の聞こえた方を向くと小さい少女人形がかわいらしく手を振っていた。手のひらサイズのお人形だ。
髪の毛はパーマがかかっているのかあちらこちら巻き毛のショートで目はおっとりしている。
市販品ではない手作りのスカートにシャツを着ていた。
持ち主が縫ってあげたのか?
「えー……と。誰よ?」
「ムーンでござい!」
「雰囲気に似合わずじじくさいな……」
「最近のブームでござい!」
少女人形ムーンは元気に答えた。
「ムーンって名前ってことは……」
「はいはーい!私、シャインよん!よろしくねん!」
いつの間にかもうひとり少女人形が増えていた。青いワンピースにカールのかかった長い金髪、青い瞳。日本でアレンジされたフランス人形という感じだ。
目はパッチリでムーンとは真逆だ。
「で……なに?」
ブンちゃんは毎回癖の強いドール達に戸惑ってばかりだ。
「えーと、もうひとり待っていいかしらん?」
シャインがアニメなどで出てくるどこぞのマダム的な話し方でブンちゃんに詰め寄った。
「ど、どうぞ……。てかこいつら、なにかぶれなんだよ……」
ブンちゃんが小さく突っ込んでいると「おまたせしましたでごじゃる」とまたも普段使いしなそうな言葉を発する少女人形が現れた。
今度は巻き髪の長い黒髪に赤い着物という和風な風貌でキリッと強い目をしたドールだった。
ムーン、シャインと同じシリーズのドールのようだ。
「えー……。太陽と月だから……真ん中はなんだ?曇り?クラウディ?レイン?スノーか?」
ブンちゃんが色々と候補を上げるが少女人形はにんまり笑ってこう答えた。
「リンネィ!でごじゃる!」
「全然違った……。ムーン、シャイン関係ねぇな……」
「月と太陽を結ぶ輪廻!でごじゃるよ」
「こじつけかよ……。まあ、いいや。で?」
ブンちゃんはため息をつきながら本題へ入った。
「一枚だけ賽銭箱にお願い、入ってたでござい!」
ムーンが一枚の紙をひらひら揺すった。ノートの切れ端のようだ。
「なんだ?」
「花火が観たいっぽいでござい」
「観に行けばいいじゃねぇか……」
「それが一歳の子供なのよん」
「はあ??」
シャインがブンちゃんに紙を渡した。紙には文字は書かれておらずクレヨンで線がぐちゃぐちゃに描かれていた。明らかに落書きだ。
いや、一歳の子供でこんなに描けるのはすごいかもしれない。
「ほー……」
ブンちゃんは花火には見えないそのグシャグシャ線を黙って見つめた。
神々は想いのデータを読むことができる。文字が書けなくても何かしら想いがあれば読み取れるのだ。
「ほんとだ。花火?どこで花火を知ったんだ?この子供。この絵は花火をイメージしているらしいことはわかったが花火という言葉は知らないようだな」
「こないだ大きな花火大会の中継をテレビでやってたでごじゃる。映像は去年のやつでこじゃったが」
リンネィの言葉にブンちゃんはまた「ふむ」と頷いた。
「……見ての通り、七夕の笹飾りで神社が潰れそうだ」
「だから?」
「お前ら、ちょいと願いを叶えてきてくれ。母親か父親の世界に入って花火大会に行きたいと思わせればいいだろ」
「了解でござい」
「お仕事だわん~」
「おつとめを果たすでごじゃる!」
ムーン達はなんだか楽しそうにスキップで去っていった。
「はあ……頑張れよ!……てか、笹がデカイ上に飾りつけすぎなんだよ!ジャングルみたいじゃねぇか……。しかもユラユラあぶねー!」
ブンちゃんは頭を抱えて神社にもたれかかる笹を困った顔で見据えた。

「さて、世界を開くでござーい!」
ムーンが手を前にかざし、障子扉を開けるパントマイムをした。
すると本当に障子扉が突然に現れ、扉の奥に不思議な世界が広がっていた。
「あれがお父様かお母様の心ねん!」
シャインはムーンとリンネィを促して世界へ入り込んだ。
「ほー……」
世界に入り込んだらリンネィが変な声を上げた。
「変な声をあげないでちょーだいっ!」
シャインが鼻息荒くリンネィに言う。
「まあまあ、でもほーって言いたくなるのわかるでございー」
ムーンは辺りを見回しながら呟いた。
幻想的な世界だった。
夜の世界だが暗いわけではなくホタルが飛んでいたり見たことのない光る花が自生していたり星が輝いていたりする明るい世界だ。
「きれいでごじゃる。住んじゃうのはいかが?」
リンネィはほのぼのと光る花を眺めていた。
「いやいや、世界の持ち主、探すわよん!」
シャインはパンパン手を叩き、座り込んだリンネィを立たせた。
現在、人形の彼らは人形の大きさのままである。世界によっては人間と同じ大きさになったりする。
「虫はホタルしかいないでござい!」
「そんな分析いらないわん!」
ムーンが茂みを掻き分けながら虫を探しているので虫が苦手なシャインは悲鳴を上げながら止めた。
しばらく茂みを歩くと川辺に出た。ここにもホタルが飛んでいる。
川辺には魚などはおらず、石も砂もキラキラ光っているだけだった。
「おお!ヒカリゴケでごじゃる!」
「あら、きれいだわねん」
リンネィとシャインは初めて見るヒカリゴケに感動の眼差しを向けた。
「いやー、なんかキラキラ光っててきれいでございー」
ムーンも幻想世界に癒され近くの光る石に腰かけた。
そしてだんだんと目的を忘れていった。
しばらくのんびりしているといつの間にか目の前に男女のカップルが座っていた。
そのカップルを眺めながらシャインは小さくつぶやいた。
「ねぇ、なーんか忘れてないかしらん……」
シャインに問われリンネィが慌てて答えた。
「忘れとる!忘れとる!なんでこの世界に入ったのか忘れとるでごじゃる!」
「ああー」
リンネィの言葉に一同は一斉に声を上げた。
「あつあつひゅーひゅーカップルがいるでござーい!」
ムーンがほがらかな顔で盛り上がりながら叫んだ。
「世界の持ち主じゃないかしらん?」
シャインが小声で様子をうかがった刹那、男女がこちらを向いた。
「あら、人形がいる」
女がシャイン達を見てそうつぶやいた。夢の中なので人形が動く事に抵抗がないらしい。
「ほんとだ。かわいい。まーちゃんのお人形?」
「いや、まーちゃんはまだ一歳だから人形は与えてないわ。食べちゃうでしょー」
男女は楽しそうにドール達を眺めていた。
まーちゃんというのが今回花火の絵を投げ入れた本人のようだ。
「まだ早いなんて……まあ、人形は早いかしらねん……。でも花火は早くないんじゃないかしらん?」
シャインは男女に微笑みながら尋ねた。
「そうかな。びっくりして大泣きだと思うんだけど」
女は苦笑いしながら答えた。
「一回見せに行ったらどうでごじゃるか?」
「人が多くてびっくりしちゃうし、音で泣いちゃうし、離乳食とか時間とかタイミング合わせるの大変だし、オムツ変えられるところとかも探さないと……正直、見ているどころじゃないわよ」
女は軽く笑った。
なかなか意見が固い。
まあ、気持ちはわからなくもない。しかし、彼女達はここで退けなかった。
「どう話したら納得いくかしらん……」
「一発小突いてみて頭を揺すってみるでごじゃるか?」
「なんで!?」
リンネィの言葉にシャインはすぐに突っ込みを入れた。
「まあ、そっちのが考え変わるかもでござい!古い考えがポーンって出てくかも……」
「じ、じゃあ……やってみるかしらん?」
ムーンもやる気満々だったのでシャインもあり得ない選択をした。
三人が小さいながらもそろそろと近づいていると上空に突然大きなイルカが現れた。
「ん!?」
「はあ!?」
シャイン達は戸惑いの声でそれぞれ叫んだ。
「ちょ……意味わかんないわよん!!」
「この幻想世界になぜ空飛ぶイルカ……」
ムーンが言葉を失いつつ気持ち良さそうに泳ぐイルカを眺めた。
イルカの上に誰かいる……。
「……あ、赤ちゃんがいるわよん!!」
シャインはイルカを指差しながら叫んだ。赤ちゃんはお座りして楽しそうに手を叩いていた。
「ちょ……もしかして……依頼主さんでごじゃるか……」
リンネィがつぶやいた刹那、光の玉が大量に弾けた。
「うぇあ!?」
その花火にも見える光の玉は火の粉となり上空から大量に落下してきた。
「やばーい!やばーい!でござい!!」
ムーンが悲鳴を上げながら水の弾を出現させ一つ一つ消化を試みた。
ここは夢の中、なんでもアリだ。
「はーいー、続きましてーぼーたーんー」
イルカから呑気な声が聞こえた。
赤ちゃんはきゃっきゃと笑っている。
「なんでごじゃる?今の声……」
疑問に思っている暇はなく、今度は赤い光の玉が無数に弾けた。
「あのイルカをなんとかしないとダメだわよん!!」
シャインが焦っている間にも花火によく似た光の玉は無数に落ちてくる。
「ぼーたーんのー連打ー!かーらーのー、千輪ー!かーらーのー菊ー、柳ー!いえーいー!」
イルカが声を発しているのかわからないが掛け声と共に大量の火の粉が降り注ぐ。
しかもちゃんと花火になってきている。
「あ!!赤ちゃんでもイルカでもないわよん!上にドールがいるわん!!」
シャインは水鉄砲で火の粉を打ち落としながら叫んだ。
「ドール!?」
ムーンとリンネィもそれぞれ火の粉を払いながらイルカを眺めた。
よく見るとイルカの口の先端に巫女の格好をした黒髪のドールがのんびり指揮者のように手を振って花火を操作していた。
「ほんとでごじゃる……。仕方ない!あの赤ちゃんはあの赤ちゃんの世界に転送するでごじゃる!」
「私たち三人の特殊能力、瞬間移動だわねん?」
「あれでござーい!」
三人は臨戦態勢になった。
「どーん!どーん!すたーまーいーん!!」
「うわああ!?」
巫女ドールが手をあげると地面から花火が吹き上がった。スターマインだ。
「あちち!!ほら!あんた達も水鉄砲だわよん!」
シャインの声かけでムーンとリンネィは慌てて水鉄砲を出現させた。シャインは普通な水鉄砲、ムーンは水がホースのように出るタイプ、リンネィはシャワータイプだ。
花火は途切れる事なく上から下から攻めてくる。
ちなみにあの男女はイルカの上にいる赤ちゃんに呑気にも手を振っていた。
「近づけないでございー!」
「てか対象を三角形に囲まないと瞬間移動させられないでごじゃる!」
「頑張って囲むわよん!きゃあー!」
一番意気込んでいたシャインが突然かわいらしい声を上げた。
「なんでごじゃる……今の黄色すぎな声は……」
「火の粉飛んできたわーん!服が燃えちゃう☆」
シャインはウィンクしつつスカートの端を少し持って謎のポーズを取った。
「そんな恥じらいのある燃えかたしないでごじゃる!」
「火だるまでござい……」
リンネィとムーンが乗り気ではなかったのでシャインは頬を膨らませて火の粉を水鉄砲で打ち始めた。
いくら沈下してもいくらでも花火を打ってくる。
「はあはあ……もう捨て身で三人同時に飛んで三角形作って飛ばすのが早いでごじゃる!」
リンネィの発言にムーンはため息混じりに頷いた。
「あー、燃えたくないでございー……」
「萌えたいけどねん……」
一同ため息をついたが覚悟を決めて飛び上がった。
「やーあ!!」
なんでだかわからないが自動追尾になっている花火を水鉄砲で沈下させながらイルカの前まで飛んだ。
「みんな!いったかしらん?」
「来たでござい!」
「ごじゃる!」
三角形になる部分でそれぞれ息を止めると掛け声を上げた。
「せーの!」
掛け声と同時に手を前にかざす。
イルカの下に魔方陣が現れ、イルカは赤ちゃんと共に赤ちゃんの心、元の世界へ転送された。
「うわー、やーらーれーたー」
巫女ドールは華麗にイルカから飛び降りると地面に足をつけた。
「はあはあ……」
同じく地面に足をつけたシャイン、ムーン、リンネィは肩で息をしながら膝をついた。
「ややこしくしないでよん!そこのあんたー!」
シャインが巫女さんドールを指差し叫んだ。
「いやあー……そんなつもりはー……。赤ちゃんの願いをー叶えたのー。あー、私はねー、みぃこだよー」
間延びした声で巫女さんドール、みぃこが一礼をしてきた。
「……願いを叶えたって……花火が観たいっていうあれでごじゃるか?」
リンネィは汗を拭いながら尋ねた。
「そうそうー」
「……今回……どう転ぶかわからんでござい……」
みぃこの返答にムーンは青い顔でつぶやいた。
なんというか皆で暴れただけだ。解決になったかどうか……。
人の心に触れなければ夢として処理されてしまうので記憶に残らないのだ。
一同が焦っていると男女がなにか話していた。
「あれ?まーちゃん、いなくなっちゃったねー」
「そうだねー。花火を楽しそうに観ていたわ。海辺でやる七夕の花火大会に行こうかな……。ちょうど土日だし、近くの宿に止まって一泊二日の海の旅もいいわね」
「家族サービスいいなー!頑張るよ!」
なんだかプラスの会話になっていた。
「だ、大丈夫そう……かしらん?」
シャインがうかがうように眺めた刹那、世界が崩れ始めた。
「あわわ……!世界がなくなるでござい!めざめちゃうでござーい!」
「帰るわよん!!」
「か、帰るでごじゃる!」
三人は慌てながらブンちゃんの社に続く道を繋いだ。

ブンちゃんの社に三人はため息混じりに帰宅した。
「あーあー……」
「こりゃ、終わったでござい……」
依頼主の親に直接話ができなかったことが三人を落ち込ませていた。
「あー、お前らか!おかえりー!なんとかしたみたいだなあ!ははは!」
その時、楽観的なブンちゃんの声が聞こえた。
「……え?」
落ち込んでいた三人が顔を上げた。
「なんとか……なったのかしらん?」
シャインが疑惑の目でブンちゃんを仰ぐ。
「なった。なった。それよりこの笹を支えてくれ!倒れる!」
「笹だけに……支えるでごじゃるな。態度が投げやりすぎて疲れたでごじゃる……」
リンネィはため息混じりに手を振って去っていった。
「あ、おーい!」
「じゃ、なんとかなったなら私達も行きましょうかしらん?」
「行くでござーい!」
「あー!ちょっ……」
シャイン、ムーンもなんだか安心しつつ、特に確認もせず、あっという間に去っていった。
「そっちはなんとかなったがこっちはなんとかなってなーい!!冷たいぞ!お前ら!ドライすぎるぞ!お前ら!」
ブンちゃんが慌てて叫んだ刹那、笹の中からみぃこが顔を出した。
「あー、ブンちゃんー、飾りの半分ー、おたきあげしといたーよー」
「なんで!?まだ七夕来てないじゃねーか!お前、みぃこだな!」
「うんー、ブンちゃん困ってたからー」
「……はあ、なんかナナメ上だよな……お前……」
みぃこの言葉にブンちゃんはため息をついた。
「いえーい!これで軽くなったーパチパチー」
ぼんやり棒読みなみぃこにブンちゃんはさらにため息を重ねた。

※※

「あー!!あー!!」
私は楽しかった夢から連れ戻されて大泣きしていた。
いつもの布団の上だったが朝ではなさそうだ。真っ暗。
暗いのはあまり好きじゃない。
とりあえず、また重ねるように「ぎゃー!ぎゃー!」
と泣いてみた。
隣で寝ていたパパとママが慌てて駆け寄って私を抱き上げてくれた。
二人とも私のせいでいつも寝不足だ。なんだか毎日眠りのバランスがわからなくて同じ時間に泣いてしまう。
私はまだ言葉を持たない。
ママもパパもなんで私が泣いているのかわからないみたいだ。
言葉で言わなきゃわからない。
わかってる。
だから言葉をしゃべる勉強をしてるんだ。
ママとパパはどうやって話せるようになったんだろう?
どうやればあのきれいなお花が見られるのか……。
伝えられない苦しみでまたイライラしてきた。
私には泣くことしかできない。
「なんで突然?夜泣き?」
パパが寝ぼけ眼でママを見ていた。
「怖い夢、みたのかな?なんか怒ってるし……」
「な、なあ、実はまーちゃんが花火を見て笑ってる夢をみたんだよ」
「……今、その話?とりあえず泣き止ませないと!」
ママは焦った顔でこちらを見ている。でも、泣き止まないよ。
パパ……。もう一回だよ。さっきの……もう一回言って!
「でも、すっごい印象的だったんだよ。あの夢。花火見に行きたいのかな……。うん!まーちゃん、花火見に行こうなー」
「もー!呑気に関係ない話しないで!泣き止まないじゃない!」
「泣き止んだけど……」
私はとっくに泣くのをやめていた。願いが叶いそうだからだ。
「ええ!?なんでまた突然に泣き止んだの?……やっぱり花火……」
ママも気がついたのでパチパチと拍手をしてみた。
これ、上手にできたときにするんでしょ?
「おー!上手!上手!ってやってるよ」
「ほんとかしら……。まあ、花火見るくらい何とかするわ……。わかった……いきましょ」
ママが私を抱っこしながら頭を撫でてくれた。
満足だ。
えーと……お礼はなんて言うんだったかな……。
ああ、そうそう……。
「あにあろ」
「ん!?」
「いま、しゃべった!?ありがとって言った!!!言ったよね??」
「言った!言った!まーちゃん、もう一回!」
パパがおねだりしてきた。
大丈夫。
これは覚えたんだから何回でも言えるよ。
「あにあろ!あにあろー!!」

八話

暑い暑い八月がすぐに来た。
澄んだ青空に白い大きな入道雲。
せっかくの夏休み期間だというのにレジャー施設『お人形ランド!』には子供がほとんどいない。
「だよなー……。皆、海とかキャンプとか行くもんなー……。人形展示の施設なんて来ないよなー……」
この『お人形ランド!』で従業員から祈られて生まれた男神、ブンちゃんは季節に合ったコシミノ一枚という格好で賽銭箱に腰をかけていた。
「ま、この賽銭箱も今じゃお願いボックスとかになっちまってるし、世知辛いなあ……」
賽銭箱はダンボールで作った従業員の手作りなので『さいせんばこ』とひらがなで書いてある。漢字で書けなかったようだ。
下の方に子供にわかりやすくするためか『お願いボックス』と付け加えられていた。
「……お願いボックス……じゃねーんだよ……もー……」
ブンちゃんは扇子で扇ぎながらため息をついた。
「なーんかさ、そーやってると超アンバランスー」
ふと下の方から声がした。
下から声が聞こえる時はだいたいドールだ。
ブンちゃんが足元を見ると案の定、ドールだった。銀髪の長い髪の少女ドールだ。
「あー、はーちゃんか。なにがアンバランス?」
「コシミノと扇子ー」
「ああ……俺、一応日本神だからな。忘れないでくれ……」
銀髪少女ドールはーちゃんはまったりとした笑みで少し傷ついたブンちゃんを見ていた。
「あー、暇だー」
「お前、いつも一緒のメイちゃんどうした?」
ブンちゃんがはーちゃんに声をかけた刹那、頭の上からワチャワチャした声が聞こえた。
「聞いてくださいよ!!今回もなかなかいい願いなんです!!」
「ひぃ!?」
ブンちゃんの悲鳴にはーちゃんは笑いながらブンちゃんの頭を指差した。
「そこー」
「なんだ!?なんだ!?」
ブンちゃんが慌てていると頭から茶色の長髪の少女ドールがひらりと舞い降りた。
「メイちゃんですぅ!!!今回のお願いはですね……」
「ま、待て待て!少し落ち着かせてくれ……。頭から急にデカイ声が聞こえたからビビりまくりでわけわかんねぇ!」
ブンちゃんはビビりながらもとりあえず深呼吸をした。
「メイちゃんー、元気だねー」
はーちゃんがメイちゃんにのんびり手を振った。
「もういいですか!!少し待ちました!!」
メイちゃんははーちゃんに軽く手を振るとブンちゃんに詰め寄ってきた。
「あ……ああ……す、少し待ってくれたな……。あ、ありがとう……」
ブンちゃんが口角をぴくつかせながらはにかんでいると話が勝手に進みはじめた。
「では!!一枚だけ入っていたお願いに移りましょう!!……八月の台風により海に行けなくなりそうな少年からのお願いです!!」
「……あー、もうわかるわ。あれだろ?晴れにしろとか海に行かせろとかそういうんだろ?」
ブンちゃんのてきとうな返答にメイちゃんは目を見開かせた。
「その通りです!当たり!!すごいですね!!」
「いや……すごいっていうか……」
「これー、どうやって叶えるー?雨風呼ぶ龍神さんにー交渉するー?」
はーちゃんの言葉にブンちゃんは首を激しく振った。
「ムリムリ!龍神怖いもん!!」
「えー……」
即答のブンちゃんにはーちゃんはため息をついた。
「では!!夢で結論をなんとかつけましょうか!!」
メイちゃんは腰に手を当てると鼻息荒く叫んだ。
「どうするつもりだよ……」
「……わかりません!!」
「……だと思ったぜ」
メイちゃんの反応でブンちゃんは再び深いため息をついた。
「まー、とりあえずーいくー?」
「行きます!!」
はーちゃんの呑気な発言にメイちゃんは自信満々に答えた。
「おいおい……計画性ねーな……」
ブンちゃんが呆れる中、なぜか自信満々な二人はすぐさま心の世界を開き、入っていった。
「おいおい!なんも決まってねーぞ!!マジで大丈夫か……あいつら……」
ブンちゃんはこのチームが一番心配であった。

世界に入り込んだはーちゃんとメイちゃんを襲ったのは水だった。
「がぽぽ!?」
「んがが!?」
二人は海の中にいた。
なぜ海かわかったかというと単純にタコやイカなどの海の生物がいたからだ。海草が下の方で揺れておりイソギンチャクの隙間から魚が顔を覗かせていた。
「がぽぽー!し、しぬぅー!!」
「ん?ま、待ってください!息ができます!!」
「あ……」
メイちゃんの言葉ではーちゃんは水中で息ができることに気がついた。
「てかー、なんで息できるのー?」
はーちゃんは落ち着きを取り戻し首をかしげた。
「依頼主の心の世界!夢だからでしょう!!」
メイちゃんは胸を張って自信満々に答えた。
「あー、そーかー」
納得したはーちゃんはうんうんと頷いた。
状況を確認するために二人は少し泳いでみることにした。
泳いでいるとなかなか心地よい。
「気持ちいーなあー。あー、黄色のお魚だー」
はーちゃんの横を素早く黄色い魚の群れが去っていく。
「……ちょっと待ってください!依頼主はどこでしょうか!?」
メイちゃんがどこまでも続きそうな海の中で叫んだ。
「まあー、こんな中で探すのは骨がおれますなー」
はーちゃんはとことん呑気に笑う。
「んむー!」
メイちゃんは通りすぎるタコを睨み付けながら唸った。
「あー、みてみてー!あれはアジだー!いっぱいー」
はーちゃんは後ろからついてきていたアジの群れを指差した。
「……ちょっと待ってください……」
メイちゃんは通りすぎるアジを見据えながらつぶやいた。
奥から黒い影が見える。
かなり大きそうな魚影だ。
だんだん近づくにつれてメイちゃんは悲鳴を上げた。
「ぎょえー!!」
「んー?魚影かー」
「違う!違う!はーちゃん!逃げますよ!!」
呑気なはーちゃんを引っ張りメイちゃんは必死で泳ぎ始めた。
後ろからギラリと牙が覗く。
「おー、サメだー」
はーちゃんはやっと追ってくるものに気がついた。
かなり大きなサメがはーちゃん達を飲み込もうと口を開けている。
「おー、じゃありません!!食べられちゃいますよ!!」
メイちゃんが半泣きで泳いでいると突然に笑い声が聞こえた。それも多数だ。
「……んー?人がいるー?」
はーちゃんは辺りを見回すが人のような影はない。
「……あ!アジ!!」
気がつくと前を泳いでいたアジに追い付いていた。
アジの群れに入った時、多数の笑い声が聞こえてきた。
「な、何!!どこから声が!?」
「メイちゃんー、アジがいっぱい笑ってるよー。おもしろいねー」
「へ?」
はーちゃんの呑気な発言にメイちゃんは口角をぴくつかせながら辺りをうかがった。
目を疑いたかったが魚の群れが笑っていた。
「な!?さ、魚が笑ってる!!怖い怖い怖い!!」
普通だったらかなりのホラーだ。
動揺と不安に襲われているメイちゃんがふと前を向いた時、男の子と目が合った。夢の中にいるのに夢なのかと思ってしまうほどの衝撃だ。
魚の中に人間の男の子がいる……。
「おー?新入りだ!!皆!鬼ごっこだ!!いぇー!」
なんだかアゲアゲな男の子は魚達を操り、メイちゃん達を視界に入れながらサメに話しかけていた。
「お前、ほんとにずっと鬼でいいのか?」
サメは男の子の言葉に楽しそうに頷いた。
「よーしっ!じゃー、いっくぜー!あー、お前らも追い付かれたら食われんぞー!」
男の子とアジはメイちゃん達に一言言うと楽しそうに泳いでいった。
「え!?ちょっ……」
「あれが依頼主かー。元気だなー。サメはあの子の友達だったのかー」
はーちゃんがぼんやりつぶやくとサメが動き出した。どうやら十数えていたらしい。
「どういうことですか!?」
「まー、とりあえずー逃げる?男の子を追いかけないとー」
「え、ええ……」
二人が逃げようとした刹那、サメの後ろからもっと大きな魚影が映った。
「ひぃやー!!で、で、デカイ!!」
「んー……なーんかおかしいなー」
怯えてひっつくメイちゃんをよそにはーちゃんは近づく魚影を見据えた。
今度の魚影はサメ型のロボットだった。
「ろぼー!?」
「メイちゃんー、あれのがやばいよー」
はーちゃんがつぶやいた刹那、サメ型ロボットのヒレがパカリと開きミサイルのようなものが勢いよく飛んできた。
「ひぃー!」
メイちゃんははーちゃんを引っ張り再び逃げる。
後ろにいるロボットじゃない方のサメも楽しそうに追いかけてきた。
「なんかサメも追いかけてくるぅ!!怖いー!!」
「まずー、ミサイルみたいの弾こうー」
はーちゃんは涙目のメイちゃんを他所に手から西洋の盾のようなものを出した。
「ちょっ……鉄は重いんじゃ……」
メイちゃんが言った側からはーちゃんは「あーれー」と底に沈んでいった。
「なんでこのタイミングでそんなの出すんですかー!」
メイちゃんは文句を言いつつ薄い強化ガラスのような結界を作り出しミサイルのようなものを弾いた。
ミサイルは弾かれて海面に出ていった。
「はあはあ……」
「おー、メイちゃんありがとー」
「お礼を言ってる場合ではありません!男の子、追いかけますよ!!」
メイちゃんは肩で息をしつつ、のんびりしているはーちゃんを引っ張った。
そんな事をしている内にロボットのサメは緑の光線を発してきた。
「うう……海の中だから上手く避けらんなーい!!」
メイちゃんが叫ぶ中、はーちゃんが結界で光線を弾く。
なぜか水の中でも地上と同じようにできるものもあるらしい。
「光線だ……かっくいー!!」
気がつくと側に男の子がいた。
なぜだか目を輝かせて興奮ぎみに見ている。
「鬼ごっこじゃなくてチャンバラにへんこーだ!!」
男の子は手から光線銃を取り出した。
「……チャンバラどこいったー……」
はーちゃんが呆れているとサメロボットがさらに光線を発してきた。
「おりゃ!おりゃ!」
男の子は光線銃を発射し飛んでくる光線を弾いた。
「すごい命中力だー」
はーちゃんが驚いているとサメやらアジやらが集まってきた。
サメが男の子やメイちゃん、はーちゃんに触れようとしてくる。
「まだ鬼ごっこ継続中でしたか!!」
「鬼にタッチされたら退場な!!」
男の子はいたずらな笑みでそんな事を言った。
つまりサメを避けながらサメロボットを倒すということらしい。
だんだんわけがわからなくなってきた。
「そんなことできません!!」
「じゃ退場な!」
「ま、待ってください!頑張ります!!」
メイちゃんは男の子に必死に食らいついた。
「じゃいくぜー!手からも光線だー!」
男の子は右手を開き、何かしらのエネルギー体を発した。
サメロボットはシールドを出し防いだ。サメははーちゃんとメイちゃんにタッチしようとオビレを動かしてくる。
わけがわからないごちゃごちゃな状態だ。
「サメがタッチしてくるのもほんとわからないー!!」
メイちゃんは半泣きで結界を張りつつ逃げる。
この夢の主が鬼である「サメは攻撃、防御ともにすり抜ける」としたようだ。
防ぐこともできない。
「いけーいけーサメちゃーん……」
ふと誰の声でもない声が小さく聞こえた。
「ん?」
はーちゃん、メイちゃんは耳をすませる。
「いけー、電撃光線ー」
またもサメロボットの方から小さく声が聞こえた。
「誰かサメロボットにいるー?」
はーちゃんは直線に飛んできた光線のようなものを結界で弾きながらロボットの方を凝視した。
「あ!あれはみぃこです!!」
メイちゃんはついにロボットの上にいる小さい人影を見つけた。
サメロボットの上にいたのは巫女衣装を着た黒髪の少女ドールだった。
「なんでみぃこがー?」
「彼女もこの少年の願いを聞いてあげるためにここに来たのでしょう!みぃこは個人の『世界』で想像物を使って好きに想像物を変形させて操れるんですよ!特殊な能力持ちです!!だからあんなわけわからないロボットが現れたんですね!」
「なるほどー」
はーちゃんはメイちゃんの説明に納得して頷いた。
「みぃこがロボットに乗ってるならみぃこが作ったものです!ぶち壊しても大丈夫!!」
「よしゃー」
メイちゃんとはーちゃんは突然強気になると手から大剣を出現させ、魔法のようなものを放ち始めた。
「プリチーハートぉ!」
「なんだそれー!?」
メイちゃんが謎の呪文を唱えた。
ハートのようななんだかわからない固い物が複数現れてロボットに向かって飛んでいった。
「全然プリチーじゃないねー」
苦笑いのはーちゃんは大剣を光らせつつロボットに斬り込んだ。
「光輝く美しき剣よ、雷鳴の如く轟け、我に力を与えたまえー!ブレイブサンダーあああ!!」
「ダッサ!!『ちゅうに』過ぎますよ!!」
メイちゃんの言葉をよそにはーちゃんの剣から横一線に雷が飛んだ。
変な石のような固いやつと謎の雷がロボットを容赦なく襲う。
「ぎゃあー……てったーいー」
みぃこは小さくまたつぶやくと爆発したロボットから慌てて逃げていった。
「ふー、倒したー」
はーちゃんが一息ついているところへ今度は鬼ごっこ途中のサメが乱入してきた。
「……しまっ……!!」
メイちゃんが叫んだものの、もうすでに遅く、はーちゃん、メイちゃん共にタッチされてしまった。
「あー、お前らタッチされてやんのー!じゃあ退場だ!約束だったしなー!!じゃーな!!あははは!」
男の子はゲラゲラ笑いながらサメやアジ達と共に高速で消えていった。
「げっ……」
二人が気がついた時には体が透けており、強制的に世界から追い出されていた。
「うそー!!まだ何にも解決してないのにー!!!」
メイちゃんの叫びを最後に二人は光の球となり弾けて消えていった。

はーちゃんとメイちゃんはため息混じりにうなだれながら帰って来た。
「はあ……あー……」
「こりゃあー今回は終わったー。はあ……」
ヨロヨロとブンちゃんの神社に戻った二人は鳥居の柱にもたれかかりながら座った。
頭を抱えていたら足音が聞こえてきた。
「よ!おかえり!なんとかしたみたいだな?」
ふと、顔をあげると微笑むブンちゃんがいた。
「なんともしてないです!!」
「失敗だったよー」
二人はブンちゃんとは正反対の顔でブンちゃんを仰いだ。
「ん?なに言ってんだ?なんとかなったぞ?」
ブンちゃんの一言で二人は目を見開いて驚いた。
「えー!?」
「嘘でしょ!!」
「嘘じゃねーって」
二人が驚く意味がわかっていないブンちゃんは逆に首を傾げた。
「そういやあ、なんでそんなに否定的で落ち込んでんだ?」
「なんでって……」
二人はお互いを見やり、全く同じ言葉を吐いた。
「何が解決に導いたの??」

※※

ふあー……
俺は大あくびをして起き上がった。いつの間にか寝ちまったらしい。
……ソファーで寝ると体がバキバキになんな……。
布団で寝りゃあよかった。
俺はとりあえず、壁掛けの時計を見る。
時間は……っと……五時!?
ちょ……!夕方かよ!
嘘だろ!七時から寝たから……えーと……。
計算できねぇ!
台風なんて来るからこんなに寝ちまったんだ!
クソ!
「ふて寝は終わったの?」
ふと母さんの声が聞こえた。
「うるせーな!ふて寝じゃねーよ!!」
俺は図星だったけどかっこわるいから否定した。
「だってアンタ、昨日喧嘩して台風の時に海に行きたいなんて駄々こねてたじゃないの」
「だって海に行く予定だったじゃん……」
「台風で危ないからってロボット王国に行くことにしたのに、アンタが行きたくない!とか言うから……」
母さんは呆れた顔をしていた。
ロボット王国はロボットがいる屋内遊園地、こっちも行きたかったんだよな……。でも、夏だし予定が海だったから反抗しちゃって……。
「……じゃあ、にーちゃん達はもうロボット王国行っちゃったの?」
俺はとびきり沈んだ声で母さんにこんな言葉を言ってしまった。
ほんとは行きたかったんだ……。
こっちも……。
夢で見たロボットはとってもかっこよかったんだ。
「なにバカなこと言ってんのよ。こんな時間から行くわけないでしょ。皆寝てるんだから。なーんだ、アンタ、やっぱり行きたかったんじゃないの。素直になりなさいよ」
「え?皆寝てる?」
どういうことだ……?
俺はまる一日寝てたんだろ?
「当たり前じゃないの!何時だと思ってるのよ。五時よ!五時!」
「……?」
あ……。
俺は気がついた。
昨日は喧嘩して晩御飯食べずに寝ちゃったんだ。
で……
「そーか!朝の五時!」
「そうよ……。そんなとこで寝ちゃうから皆心配したのよ。代表で私が隣で寝てたの」
母さんはソファーの下を指差した。床に布団が敷かれている。
「あ……わ、悪かったよ……。ごめん……。ねぇ!俺もロボット王国行きたい!」
「当たり前でしょ。あんたを置いていけないじゃない。ロボット好きなあんたを!」
母さんは勝ち誇ったかのような顔をこちらに向けてきた。
うー……なんかイライラするー!
でも、心を抑えて……。
「クソー!!」
抑えられなかった。
「うるさい!!皆寝てるって言ってるでしょー!!汚い言葉、使わない!」
朝から母さんとの鬼ごっこが始まった。
昨日のあのチビ女達が夢で素直になれって教えてくれたのかな……。
あの人形の神社に行ったのは無駄じゃなかったかもな。
お礼言っておこう。
「ありがと!」

九話

中秋の名月……。
「ほー。見事な月だな」
ブンちゃんは従業員の手作りである黄色い張りぼてボールを眺めた。
ちなみにブンちゃんは月に感動しているわけではなく「よくやるなあ」の意味でこの言葉を発している。
数少ない従業員達は一生懸命にお月見イベントの準備をしていた。
ここ『お人形ランド!』はドールの展示をしている施設だが展示だけでは人が来ない。
故に色々なイベントをやる。
ブンちゃんでさえ、ここの集客目的で作られた神様だ。
賽銭箱は子供向けになぜか「お願いボックス」なるものになっていた。
最近クチコミで「願い事が夢で叶うような気がする」のようなかなり曖昧な評価が多く寄せられるようになった。
ブンちゃんはおもしろいものでも見るようにショッキングピンクの鳥居に体を預け従業員達が忙しなく動いているのを見ていた。
「よっ!元気してるよのさ?」
ふと下から声が聞こえた。
「あー……」
ブンちゃんは目を下に向けた。
だいたい下から声をかけてくるのは九十九神のように動くドール達だ。
「雪子だわよ。おもしろいもん見せてあげるよのさ」
雪子と名乗ったピンクの髪をした手のひらサイズの少女ドールが従業員のスマホを一台引っ張り出してなにやら検索してブンちゃんにかざした。
「ぶっ……」
ブンちゃんはおやつで団子をモグモグ食べていたが思わず吹き出してしまった。
画面にはかわいい女の子のイラストが描かれており「ブンバボンバだよ!お人形ランド!の守り神!」とSNSで拡散されていた。
誰かがブンちゃんを妄想で描いたらしい。布が少な目で踊り子のような見た目だ。
「いーやーだぁあぁ!!」
ブンちゃんは悲鳴を上げて悶えた。
「私達に任せてばっかだとこうなるわよー」
「……ちっ。わーったよ……。今回は俺が動くよ……」
ブンちゃんはため息をつくと残りの団子を口に入れた。
ちなみに神様は人間の想像により姿形を変える。この妄想が形になってしまったらブンちゃんは突然女の子になったりするのだ。
「はいはーい!あたしが説明する!!」
突然元気な声が会話に割り込んできた。
「うぐ……」
ブンちゃんは喉に団子を詰まらせ胸付近を必死で叩いていた。
「……うるこ……」
雪子がめんどくさそうな顔で話しかけてきた本人を見た。
雪子と同じくらいの身長で金髪の少女だ。青いワンピースを着ている元気な雰囲気の少女、うるこだった。
「ねー、ねー、ちょっとー!せつめいー!!」
うるこは苦しんでるブンちゃんの背中をちょんちょん叩いていた。
「あ、お水どうぞー」
今度は呑気な男の声が響いた。
ブンちゃんは確認している余裕もなくコップに入った水を受けとる。
いっきに流し込んでから水をくれた者に目を向けた。
二十七センチの男性型アクションドール、いつよしくんだった。
シルクハットにスーツを着ている。
「あ、ありがとう……いつよしくん……」
ブンちゃんは青い顔でお礼を言った。
ちなみにどうでもいいのだが「いつの間にか良いシーンが描ける」でいつよしだ。
「ねー!ねー!せつめいー!」
またもうるこが大きな声で叫ぶ。
「だあ!うっせぇな!なんだよ……」
ブンちゃんは不機嫌そうにうるこを見た。
「説明!」
「さっきから説明ってなんだよ……」
「従業員の女性がお願い入れてった!ブンちゃんに関しそうな感じ!」
「へ?従業員の女が?」
ブンちゃんは首をかしげた。
うるこは紙切れ一枚をブンちゃんに渡す。
「ん?……ここの神様が和装のカッコいい感じになりますように……って余計なお世話だ!」
ブンちゃんは怒りに震えながら紙をお願いボックスに投げ入れた。
「待つよのさ……」
「ああ?」
雪子が投げ入れられた紙を再び拾ってニヤリと笑った。
「この女性の夢に出てイケメンアピールすれば何か変わるかもよのさ」
雪子の言葉にいつよしくんが笑いながら楽観的に手を叩いた。
「ああ、そりゃあいいですねー。やっぱり女の子の施設ですからイケメンかかわゆい少女じゃないとダメなんですかねー?」
「……イケメンか……」
ブンちゃんはコシミノ一枚の自分の格好を見つめながら決心したように頷いた。
「なに頷いてんのよさ?」
「俺、今回は動く!」
「お!ついにブンちゃんが!」
うるこが目を輝かせて飛び上がった。
「では、僕はブンちゃんになりきってここにいますー。一回やってみたかったんすよー」
いつよしくんはひらひらと手を振りながらブンちゃんの社内に入っていった。
「あ!おい!コラー!勝手に……」
ブンちゃんはため息をつくと雪子とうるこを眺める。
「なによのさ?」
雪子が視線に気がつきブンちゃんに尋ねた。
「あ、俺さ、人間の感情を映す鏡である人形とは違うから夢に入れなかったりすんじゃね?」
「そりゃあ、大丈夫よのさ。『願い事が夢で叶うような気がする』って思われてんでしょ?」
「んまあ……そうだが……」
ブンちゃんは不安げな顔をしていたがうるこに強引に引っ張られた。
「うお!?」
「いくよー!」
「ちょっ!心の準備があ!!」
うるこは小さいながらの怪力だ。手のひらサイズの人形にブンちゃんは抱えられて『女性の世界』へと入っていった。

女性従業員の心の世界へはブンちゃんはなんの障害もなく入れた。
「ほーら、入れたよのさ」
雪子がいたずらな笑みを浮かべ得意気にブンちゃんを見る。
「……ま、まあ入れたな……。普通の神は弐(夢幻霊魂の世界)には入れないんだが……。なんだ?人形に任せすぎて夢で救ってくれるって願われるようになったのはマジってことか?」
ブンちゃんは顔を曇らせた。
「つーことは……やっぱ俺は女になっちゃうかもしれねーの!?うわー!嫌だー!!」
「そんなことよりうるこを止めるだわよ!」
悶えるブンちゃんに雪子はうるこを指差して叫んだ。うるこは目を輝かせながら草原を走り回っている。
ここは青い空に気持ちのよい風が吹いてくる広い草原だった。
「うるこ!落ち着くよのさ!」
「ねー!誰もいなーい!!きもちぃー!!」
うるこははしゃぎながらどこまでも走って行ってしまった。
「ああ!オイ!勝手に行くなー!」
ブンちゃんはうるこを追い走る。この世界では人形は人形サイズのようだ。たまに人形が人間と同じ大きさだったりするが今回は違うらしい。
「全く!世界の主がいないよのさ!」
雪子はうるこを追いながら辺りを見回す。
どこまでも草原だ。
だがなんだか視線を感じるのだ。
見られているような……。
刹那、前を走るうるこが何かに撃たれ倒れた。
「え!?う、うるこ!」
「そっから撃たれたぞ!」
ブンちゃんが倒れたうるこを両手ですくい上げて近くの草むらを指差した。
「え……?……とりあえず……」
雪子はスナイパーの帽子を取り出し、すばやく被った。
雪子の特殊能力、それに関係のある帽子を被るとその能力が使えるという。
スナイパーの帽子を被ると近くの敵や遠くの敵が見やすくなるのだ。
「む!!よく見りゃあスナイパーだらけだわよ!!スナイパーがいっぱいいるよのさ!」
「なんだって!?」
雪子の言葉にブンちゃんは戸惑いの声を上げた。
その時、一瞬意識が飛んでいたうるこが目を覚ました。
「あ、うるこ、大丈夫か?」
「……はぅ♥️ブンちゃん、だいちゅき♥️ブンちゃんはカッコイイ♥️」
「……はあ??」
うるこの突然の告白にブンちゃんは頭がおかしくなりそうだった。
撃たれて気を失ってから目を覚ましたうるこの目はハートだった。
「……あのスナイパー……いや……弓!?つまり恋の矢を放ってくるよのさ!?」
雪子には遠くにいるスナイパーの男が持つハート型の弓が見えた。
「はあ??」
さらに頭がおかしくなりそうになっているブンちゃんは戸惑いすぎて頬を赤らめている。
「ちっ……スナイパーはそろいも揃ってイケメン揃い……乙女の世界だけど変な世界観だわね!!」
「ちょっと待った……弓矢に射たれたら俺もこうなんのか?」
ブンちゃんはうるこを気味悪そうに見つめながら尋ねた。うるこはクネクネ不気味に動きながらブンちゃんに愛の言葉を囁いている。正直気持ち悪い。
「私達人形に愛を囁くのはごめんよのさ」
「俺だってやだぜ」
「じゃあ避けるよのさ!右!」
雪子に突然言われ、ブンちゃんは慌てて右に避けた。ショッキングピンクなハート型の矢がブンちゃんの足すれすれに落ちた。
「ひ、ひぃ……」
ブンちゃんは涙目になりながら矢から離れた。
うるこはまだまだ愛の言葉を発し続ける。
「ブンちゃん……ちゅきよ……。ブンちゃん……」
「雪子さん!うるこが気持ち悪い!」
「いいから避けるよのさ!あんたが当たったらもっと気持ち悪い!」
雪子はブンちゃんに叫ぶと手からライフル銃を出現させた。
スナイパーの帽子を被っているためスナイパーに関連するものが出せる。
「雪子さん!そんなのぶっぱなしたら死んじゃうぞ!」
「大丈夫よのさ!当たるけど気絶するだけの夢ならではの銃だわよ。そんなことより、左!」
「うわっと……」
雪子の言葉通りに弓矢が飛んでくる。ブンちゃんは悲鳴をあげながら避けた。
「いくよのさ!スターフレッシュ!」
雪子が叫ぶと持っていた銃から黄金色に輝く星が大量にビームのように発せられた。
「うわ……なんじゃありゃ?しかも新鮮な星……」
ブンちゃんはスターフレッシュに苦笑いを浮かべながらも雪子の攻撃に目を見開いた。
黄金色に輝く星達が一直線にスナイパーに命中。
スナイパーは目に星を映して倒れた。
「ハートに対抗するは星だわよ!」
「ちょっとよくわからんが助かった!」
胸を張る雪子にブンちゃんは手を合わせた。
「まだまだ来るよのさ!」
沢山いるスナイパー達が一斉に恋の矢を放ってきた。
「ロケランバージョンのスターフレッシュ!!よのさァ!!」
なんだか激しい音をたてながら輝く星をぶっぱなしている雪子は全力でうるこのようにはなりたくないらしい。
「ひぃーん!来るんじゃなかったよー……」
ブンちゃんはあわあわと逃げ惑い隠れる場所を探していた。
「はっ!……あれれ?あたし……」
その時、うるこが我に返った。
ブンちゃんは唐突だったので戸惑ったがうるこに確認する。
「戻った?戻ったか!……あー!良かった……。それより敵襲だ!」
「てきしゅう?あ!敵!!よーし!」
うるこはブンちゃんを見て首を傾げたが敵襲と聞いて意気込んで雪子の所に走っていった。
うるこは単純である。
「す、すばやい……あのことは黙っておいた方がいいか……」
ブンちゃんはひとり取り残され呆然としていた。
とりあえず、恋の矢とやらは雪子達に任せてブンちゃんは安全そうな茂みに入った。
なぜか草原に一ヶ所だけ林があった。
「ったく……サバゲーかよ……」
頭を抱えたブンちゃんは林に隠れつつ、茂みを掻き分けて中の方へ進む。中に行けばとりあえず、弓矢に当たる確率が下がり安全だと思ったからだ。
茂みをかきわけていると何かとぶつかった。
「きゃっ!」
「ん?」
突然に女性の声が響き、ブンちゃんは足を止めた。
ブンちゃんの体に弾き飛ばされて尻餅をついたのはよく見る顔の女性だった。
「あ!お前はっ!従業員の神田(かんだ)!……とと、ぶつかっちまってたな。ごめん」
ブンちゃんは焦りながらぶつかったことを謝罪した。
「あ……えー……こちらこそごめんなさい……。えーと……部族の方ですか?日本語がお上手で……」
「ハァ!?」
神田とかいう女性に突然どこかの部族と間違われた。
まあ、無理もない。ブンちゃんはコシミノ一枚だ。
「俺は神だ!てめぇらがブンバボンバとかつけたあの神だよ!」
「!?……あのお人形ランドの!!」
神田は目を見開いて驚いている。驚くのは当然だ。自分達がてきとうに創った想像の神が目の前にいるのだから。
「ほんとにあの部族みたいな姿……」
「あ、元々こうじゃないぞ!お前らがこう想像したからこうなったんだぞ」
ブンちゃんは自分の体を指差しながら神田に必死に言い寄る。
もしかしたら着物を想像してくれるかもしれない。
ブンちゃんはこう見えて日本神なのである。
日本の神の正装である着物が着たい。
「へぇ……やっぱり男だったんだ……」
「ん??」
神田の発言にブンちゃんは固まった。
……待て……今確実に男かどうかを疑う言い回しじゃなかったか?
……まさか、従業員達からも女だと思われはじめて……
「まっ、待て!俺ははじめから男!ガチガチの男だ!男の子です!!」
ブンちゃんは必死に神田に再び言い寄る。
「あ、あの……」
あまりに必死すぎて神田に近寄り過ぎたらしい。神田は戸惑っていた。
「げ……ごめん。だいじょーぶだよー……俺は怖くないよー……。だからちゃんと紳士な男性を思い浮かべてくれよー……」
ブンちゃんは少し距離をとると神田に頭を下げた。
人間に祈る神とは……。
「は、はあ……でも着物じゃなかったんだ……少し残念」
「き、着物はっ!着物はあんたの想像が強ければ着物になれるんだよ!!着物着たいよ!俺、日本神だよ!!」
ブンちゃんはまたも必死に神田に言い寄る。
「は、はあ……じ、じゃあ私が考えたもので良ければ……」
「そ、それでいい!うん。文句ない!」
ブンちゃんがあまりに必死なので神田は苦笑いを浮かべつつ自分が思い描いた着物をブンちゃんと融合させて想像した。
「はっ!」
ブンちゃんが気がついた時には、なんか衣服を纏っている感じがあった。
よく見ると真っ赤な羽織に白の袴を着ていた。
「着物だ!!やったー!!着物……ん?」
ブンちゃんは赤色の羽織を脱いで裏側を見た。
『お人形ランド!』と金色の習字体でデカデカと描かれていた。
なんだか成人式などでヤンチャな人達が着ている袴のような感じだ。
「……いや……あの……これ、いらなくない?」
「いえ!お人形ランド!の守り神なんですからいります!!」
「あの……上は羽織だけ?」
「ええ!胸と腹が最強に萌えます!」
「……」
この神田というやつはまともな思考の持ち主ではなさそうだ。
そもそもサバゲーのような世界でなぜか恋の矢を放って襲ってくるイケメンがいる世界だ。
わけがわからない。
ブンちゃんに対しても不思議な思考回路で処理していたに違いない。
「……これはこれで恥ずかしいぞ……」
ブンちゃんは赤色生地の金色の習字体で『お人形ランド!』と書いてある羽織をとりあえず再度羽織った。
何はともあれ和風っぽくなれたのが嬉しかったのだった。
尻餅をつきっぱなしだった神田をかっこよくエスコートしながら立たせてブンちゃんはわざと『お人形ランド!』の羽織をなびかせる。
「はあ……やっぱりイイ!」
神田は頬を赤らめて感動した。
しばらくよくわからない余韻に浸っていたところ、雪子の声が響いた。
「あー!あっち飛んでったよのさ!!」
「ん?」
ブンちゃんが振り向こうとした刹那、恋の矢がブンちゃんにグサリと突き刺さった。
「げ……」
ブンちゃんは顔を青くした。
ふと神田が目に入った。いままでなんとも思わなかったが神田がやたらに魅力的に見える。
「ま、まずいっ……」
「あ!恋の矢が……」
やたらとスローモーションに見える中、ブンちゃんは神田を押し倒した。
「名札、神田しか書いてねぇ。名前が知りてぇな……」
男性特有の少し怖い色っぽい表情でブンちゃんは神田に床ドンらしきものをする。
「きゃー!!これ、イイ!!私ね、サクラ。神田サクラよ」
神田が顔を赤らめて目を輝かせているがブンちゃんはおかまいなしに指で神田の顎を撫でた。
「サクラか……いい名前だな……。かわいいお前にはピッタリの名前だ」
「……うげー……」
近くで雪子が気持ち悪そうに見ていたがブンちゃんは気にならなかった。
「あはは!雪子!ブンちゃんがおもしろい!」
「……さっき、あんたあんな感じだったよのさ……」
爆笑しているうるこに雪子はため息混じりに呟いた。
「……それよか、あれはちょっとまずいよのさ……。いますぐよからぬことをしそうだわよ……」
「さっきの戦いで矢を放った男を倒せば呪いが消えるってわかったよね!」
「誰が放ったかわからないから全員倒すしかないよのさー……」
雪子がため息をついた時、恋の矢が再び飛んできた。
「イエーイ!倒すぞぉ!」
うるこは手から電撃ビームを放ち男達を倒し始めた。
「ったく、行為に及ぶ前にかたをつけるよのさ!」
雪子は星が大量に出る謎のロケランを構えてぶっぱなし始めた。
爆発音や破裂音が響き、気がつくと草原は焼け野原になっていた。
雪子達の本気を前に次々と散っていく男達。目が星になった男と電撃により痙攣して気を失ってる男達が積み重なっていく。
なんだか倒れ方も二次元の男によくある儚い倒れ方で雪子をイライラさせた。
「神田の世界は夢だから二次元男と三次元のあたしらが同列にいられるのも不気味よのさ……」
雪子は倒れた男を視界に入れると残りの男を倒した。
「あはは!顔が苦渋の顔してる!これでもとことんイケメン!」
うるこは倒れている男の頬をブシブシと突っついた。男は声優のような低い透明感がある声音で「う……」と呻いている。
「さあて……まあ、大方片付いたよのさ」
雪子がふぅとため息をついていると林の奥で「ぎにゃあー!?」とブンちゃんの叫び声が響いた。
雪子とうるこは顔を見合わせて呆れたため息をついた。
「元に戻ったよのさ?」
「行ってみよ!」
二人が戻ってみるとブンちゃんが顔を真っ赤にしてしゃがみこんでいた。逆に神田は嬉々とした顔で目を輝かせている。
「あーあ……」
「キスったか??キスったのか!!」
頭を抱える雪子に興奮顔のうるこ。
「唇が触れた!!触れちまったよ!」
「なんだ、ソフトか」
ブンちゃんの言葉にうるこはそっけなく答えた。
「あんたは元気な少女人形じゃないのよさ??熟年の奥さんみたいな言い回し……」
「さ、帰ろっか!あー、楽しかった!」
うるこは飽きてしまったのか収集のつかなくなった現場で帰る宣言をした。
「てか、これ解決したわけ??願いも忘れちゃったよのさ……」
「確かー、ブンちゃんがこの人の中でかっこよくなってればいいんじゃなかった?」
うるこは神田を指差した。
神田はなんだか満足そうであった。
「あー、そうだったよのさ?まあ、いっか。ブンちゃんの問題だし。なんか変な羽織着てるし……」
雪子はため息をつきつつブンちゃんを見据えた。
「か、神田……、あの事は忘れてくれ!!恋の矢が……」
「刺さったんですね!わかります!!彼氏いない歴年齢の私に対した恋の矢が!!感動!今度は恋人で甘くてとろけるデートとか!きゃー!」
「いや……あのー……お前、そんなだからモテないんじゃ……」
神田とブンちゃんはなにやら盛り上がっていた。
「ブンちゃん、帰るー?」
「帰るって……これでいいのかよ??なんも解決してないような……」
つまらなくなったうるこは先程から帰りたがっている。
「でもほら、もう世界が……」
うるこは青空を指差した。
青い空はジグソーパズルが剥がれるように宇宙空間へと変わっていた。
「あわわ……」
「なんかわけわからなくなったけど、あんたの彼女が目覚めるよのさ。帰るよのさ」
「お、おう……まじか。彼女じゃねーんだけどな……」
ブンちゃんは雪子に連れられて彼女の世界から離脱した。

ヘロヘロで『お人形ランド!』に戻ってきたブンちゃん達を迎えたのは何も知らないいつよしくんだった。
「やあやあ、皆、ご苦労だったな!うまくいったぜ」
「……お前は上手くいったかどうか人形だからわからないだろうが……」
ブンちゃんはじろっといつよしくんを睨み付けた。
「ブンちゃんのモノマネですよぉ!で?なんか疲れてますけど大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない……」
抜けているいつよしくんにブンちゃんは頭を抱えた。
「まあ、うまくいったんじゃない?神田は喜んでた!」
うるこが隣で手を叩いて爆笑していた。
「ブンちゃん、上手くいったか確認するよのさ」
雪子は呆れた顔のまま大きく伸びをした。なんだかどうでもよくなったようだ。
「ああ……上手くいったみたいだな……。俺の醜態が良かったのか……?」
「それよかブンちゃん、なんか変な羽織着てますけど。袴はいいとして……」
いつよしくんはブンちゃんが羽織っているお人形ランド!の羽織を指差した。
「ま、まあ……一応和服はゲットしたんだ……神田から……」
「かんだ?」
ブンちゃんが眉をぴくつかせていつよしくんから目を離した。
「あ!」
突然、うるこが声を上げた。
「なんだよ……」
ブンちゃんが機嫌悪そうに振り向くと目の前に神田がいた。
「う、うげ!!神田!」
神田は人間なので現実世界ではブンちゃんは見えない。
無茶苦茶近くに神田はいた。
「ま、待て待て!もう従業員はいないはず……夜の十時過ぎだぞ!」
「はあ……明日のお月見イベントの準備してたら寝ちゃったわ……。帰ろー。っと、そういやあ、ここの神様が……」
「近い近い近い!」
神田はブンちゃんが見えない。
ブンちゃんと神田は肌がふれ合うギリギリだった。
「……あれ……なんか……あったかい……」
神田は不思議そうに目の前の空間を触っている。
「ちょっ……」
目の前にいるブンちゃんは顔を真っ赤にして神田から離れようとしていた。
「あーあ、お似合いよのさ……」
「ブンちゃん、お幸せに!!」
「あー!ちょっ……行かないでー!助けてー!」
雪子は呆れたまま、うるこは目を輝かせたまま去っていった。ブンちゃんは悲鳴をあげつつ二人に助けを求めたが二人が振り返ることはなかった。
「きっとここにあのイケメン神が!!」
神田は顔を赤らめてそこにいるであろう神様に身を寄せる。
「いや……あの……だ、誰か!」
「いーじゃないですか。もっふもふですよぉ」
焦るブンちゃんにいつよしくんはクネクネ不気味に動きながら興味津々にワケわからん言葉を発していた。
「ちくしょう……突き放すわけにもいかねーじゃねーか……」
ブンちゃんは神田を引き寄せ、神田の気が済むまでそのままでいた。
やがていつよしくんがイビキをかいて寝始めた頃、神田が我に返った。
「もう帰らなくちゃ!イケメン神を妄想してる場合じゃない!!」
「あ、神田……」
神田はブンちゃんから離れると近くに置いていたバッグを肩にかけて歩き出した。
「こんな夜遅くに女がひとりで……ちっ……送ってってやるか……」
ブンちゃんは羽織をなびかせて神田を追った。
お人形ランド!を出ると満天の星の中で大きな真ん丸のお月様が輝いていた。
「いい月夜だなー!いい月夜にイケメンの神様!最高じゃん!明日は休みだしリアル彼氏でも探すかあ……」
神田は微笑みながらスキップしていた。誰もいなかったからだ。
「……だよな……。俺は見えねぇからな」
神田の後ろには少しせつなげなブンちゃんが月夜に照らされながらユラユラと歩いていた。
……こんな羽織だったけど神田がいてくれて感謝するぜ。
ふと神田のバッグから一枚の紙が落ちた。ブンちゃんは慌てて拾う。
「……」
その紙にはこの羽織に袴を着た自分がそのままに描かれていた。
「はっ!」
ブンちゃんは軽く笑う。
神田……。
ありがとよ。

十話

十月。
秋の虫が鳴き始め、涼しいというよりも寒くなってきた。
ここ、お人形ランド!ではハロウィンの準備が行われ始めている。
「おー、カボチャ……」
なんだかおどろおどろしいカボチャを見上げながらブンちゃんは柿をかじる。
お人形達もハロウィンだからか魔女の帽子を被らされたりオレンジ色の服を着させられたりなどハロウィンの餌食になっていた。
従業員の努力なのかなんなのかわからないが最近、少女だけではなく夕方近くにはカップルもよく見かけるようになった。
カップルはブンちゃんの神社の横にある人通りがほとんどない従業員用の階段付近でなぜかだいたいイチャイチャする。
ここ最近のブンちゃんはカップルがキスやらの健全な行為に及んでいる目の前で柿を食うのがブームだ。ブンちゃんは人間に見えないので当たり前のようにこれを始めた。
悲しいブームではあるが。
ハロウィンからクリスマスにかけてカップルも多くなると予想されている。
もちろんブンちゃんの神社の賽銭箱……もといお願いボックスにもカップルからのお願いが投げ込まれることも多くなってきた。
ブンちゃんは柿を食いながら片手間でお願いを読む。
「……」
……あのこのピーにピーできますように。
……おにぎりひゃっこたべたい。ピーもなめたい。
……夢でもいいからピーしたい。
……ピーの世界でピーしまくりたい。
……ピーからピーへ受け流したい。
「……」
ブンちゃんは柿を食いながらそれらをそっとお願いボックスに戻す。
ほとんどがイタズラみたいなお願いだ。なんだか最近は卑猥なものも増えている。一部の心が汚れているカップルの仕業のようだ。
「ピーからピーへ受け流したいってどういうことだ??最近はませたガキのカップルもよくここに来やがるからそいつらか……?」
ここお人形ランド!は格安だ。少し高めなテーマパークに行けない子供のカップルが主に来るらしい。もちろん大人のカップルもいるが彼らは一通り流してきているためこんなヘンテコな願いは入れない。こんなことを書くのはまだ経験のない青臭い子供だ。
「それに比べてこっちは……」
ブンちゃんは違うお願いを取り出す。
……かなえとの第一子が授かりますように。
……たか君からプロポーズされますように。
……お受験合格!
……パティシエになる夢が叶いますように。
……田中先生と結ばれますように。
……世界が平和になりますように。
「……最後は重いな!!縁結びかもわからない曖昧な神に世界中の縁を結べと言うのかよ!……たく」
ブンちゃんはこちらのお願いは大事そうに手で包んだ。
「ブン様?カムハカリには行くのー?」
ふと下から声がかかった。
いままで何度もあったが下からの声かけはつくも神のように動くドール達だ。
案の定、ブンちゃんが下を向くと銀髪の男の子ドール、ロクが微笑みながら手を振っていた。
「ロクか……カムハカリにはいかねーよ。俺が行ってもわからん話になりそうだからな」
「ほー……行かないんだ?」
「行かない」
ブンちゃんの言葉にロクは再び「ふーん」とつぶやいた。
「それよかな、俺、いいこと思い付いたんだよ」
ブンちゃんは邪悪な笑みをロクに向けた。
「え?何々?」
「今、カムハカリに行ってる神が多いなら少々ハロウィンやっても平気だ」
「はい?」
「つまりだ……この酷いイタズラな願い事を書いたやつを懲らしめてやんだよ。神は祟る奴もいるってことをこいつらは知らない。なめてやがる。道を踏み外す前にちょいとお叱りをな」
「ブン様、でもそれさ、上から怒られるんじゃ……?ブン様のデータにはそっちの方面は皆無だから」
ロクは首を傾げた。
「……だから、カムハカリだろ。いねーじゃん?」
凶悪な笑みを浮かべるブンちゃんにロクはイタズラっぽく笑った。
「なるほど。おもしろそう!乗った!」
「なー!なー!なんか楽しそうだな!俺も混ぜろォ!!」
ふともうひとり銀髪の少年ドールが現れた。
「あ、兄貴……。兄貴も行くのかよ」
ロクはため息混じりにつぶやいた。もうひとりの銀髪の少年はロクと対になっているドールのイチだ。一応、ロクの兄である。
「仲間外れはよくないぜぃ!俺も行くー!!」
「行くって言っても特定のカップルがわからんとなあ……」
「あ?これ、全員同じやつじゃねーの?字が一緒じゃんよ」
イチはブンちゃんが捨てた卑猥なお願いを再び拾い上げた。
「ふむ。確かに同じだねー」
ロクもお願いの文字を照らし合わせて唸る。
「同じやつだったのかよ!!くっそー!!えー……誰だ?今日は来たかな……」
ブンちゃんは必死に思い出す。
印象に残らなければ神も思い出せない。
「思い出せねー……ガキのカップルはいた気もするが……って……そいつらか!!」
「そいつらだね」
思い出したブンちゃんにロクはすぐさま答えた。
「でもよー、ヤるにしても恐怖を与えすぎたらブンちゃんが祟り神っぽくなっちゃうんじゃね?」
「……ヤるとか言うなよ……。こえーよ……。じゃあ今回はお前らに任せるよ。上手くやってくれ」
ブンちゃんはイチとロクを交互に見て頷いた。
「今回はっていつもじゃねーか」
「まあ、そう言うなって……」
「それよりさ、宮子さんが言うには三人一組が理想なんでしょ?ブン様が入らないならもう一人スカウトしないとさ」
ロクが辺りを見回した。
「あー、それならそこにみぃこが……」
「ん?」
ブンちゃんが指を指した先で黒髪長髪の巫女さん衣装の少女ドールがこちらを向いてにたぁっと笑っていた。
「みぃこ……おい、このチームで大丈夫か?」
イチは顔色を青くしながらロクに目を向ける。
「ま、まあ……懲らしめる感じなら多少ヤンチャしても……」
「変な事はすんなよなー……」
ブンちゃんは不安げな顔を向けた。
「んじゃ、ちょっくら行ってくる」
不安げなブンちゃんをよそにイチは悪そうな笑みを浮かべ、例のカップルの世界を出した。


イチとロク、そしてみぃこは願いごとを書いたらしい男側の世界に入り込んだ。
「ほー……」
ロクはてきとうに息を吐いた。
世界はドクロやら変な模型やらが散らばってる墓場な世界だった。
空はイラストのような紫色、木も真っ黒な影のようだ。
この世界では人形は人形の大きさらしい。ドクロのオブジェと比べると人形達は小さい。
「んだ、このしんきくせーとこは!」
イチはドクロの真っ黒な目玉付近を覗き込みながらぼやいた。
「ねぇ、ちょっと兄貴!みぃこがいないんだけど」
「ああ?」
ロクの言葉にイチは辺りを見回した。確かにいない。
一緒に来たはずなのだが。
「あの女、どこいきやがった?」
「兄貴、なんかチンピラみたいだよ?そのセリフ」
いまいち緊迫感のない会話をしながら二人はダラダラと歩きだす。
どこまで行っても西洋風の墓場で真っ黒なコウモリと気味の悪い三日月とドクロのオブジェが続く。
「てか、ハロウィンだ!」
「どうみてもそうだね。ちょっと『ちゅーに』風だけど」
さらに進むと突然男性が飛んできた。魔女帽子に黒い外套、白いワイシャツに黒いズボンを履いた変な男だった。
「やあ、いらっしゃい。てめーらは誰だ?この墓場になんの用だよ?返答によっちゃあぶっとばすぜ」
男はなんだか大げさな動きで不気味に笑っていた。
「ていうか……」
ロクは呆れた顔でイチを見る。イチもため息交じりにロクを見た。
「かぶれてんな」
「かぶれてるね」
よく見ると彼は子供臭さが残る顔つきをしていた。大人の階段を上り始めたばかりの雰囲気だった。
「……ああ、こいつだ。世界の主」
イチはうんざりした顔でロクに目を向けた。
「だろうね。中学生かな」
「ぶつぶつ言ってんじゃねーよ!返答によっちゃあぶっとばすぜ……」
少年はなぜかこのセリフが好きみたいであった。
「おうおう、やってみやがれ!チビだからってナメんな!コラァ!」
イチはわかりやすく少年に絡んでいた。
「うわー……どっちもめんどくさい……」
ロクはやれやれと首を振る。
知らぬ間に戦闘になっていた。恐怖心を与えるのはどこにいったのか。
しかも魔女帽子は関係なく少年はイチとチャンバラを始めていた。
「……ただの不良の喧嘩じゃないか……これ」
ロクはため息をつきながら近くの墓石オブジェに腰かけた。
しばらく少年とイチのチャンバラを眺めていたが突然に大地が揺れたのでロクは立ち上がった。
「なんだ……?今の……夢の中なのに地震?」
ロクはイチに声をかけようとしたが二人の後ろにいる大きな「影」に口を開けたまま止まってしまった。
「チビのくせにやるな!人形め!……ってなんだありゃ!?」
「デカイのに俺も倒せないのか?……ってなんじゃありゃー!?」
少年とイチも異変に気がつき後ろを振り返った。二人のすぐ後ろに巨大なハロウィンカボチャが佇んでいた。くりぬかれた目の部分は赤く光っている。なぜか手足があり気持ち悪い感じだ。
「気持ち悪っ!」
少年がクネクネ動くカボチャを気味悪そうに見つめた。
「こいつがーどーなってもーいーのかー」
ふと一本調子な女の声が聞こえた。この声は聞いたことがある。
「……みぃこだ!!」
「待って!兄貴!あのカボチャ、手になんか持ってる……」
みぃこは置いておいてイチはカボチャの右手に握られているものを見た。
「あれは……」
「はるか!!」
イチが目を凝らしていると少年が先に叫んだ。
「はるか……?」
ロクが見たところ、カボチャが女の子を掴んでいるようだ。
「リュウセイ!なんかカボチャに拐われた!」
明るい茶色の髪をした少女はカボチャオバケから出ようとするが出られなかった。
「あの子!少年の彼女だ!なんで少年の世界に彼女が……」
「みぃこだろうよ……どうみても」
イチはうんざりした顔でカボチャを見上げた。
「……あー、あいつ、いないと思ったら夢を見ていた女の子の世界に入って女の子を拐ってきたんだね……。カボチャはみぃこの能力か」
ロクも呆れた顔でイチと同じくカボチャを仰いだ。
みぃこには特殊能力がある。
入り込んだ世界にちなんだ物を変形させて操れるという能力だ。
彼女は女の子を拐った後にカボチャのオブジェを気持ち悪く改造したようだ。
「リュウセイ!助けて!」
「はるか!!くそっ!なんだ、あれ!!」
叫ぶ少女に叫ぶ少年。
「この女の子、食べちゃおー」
それに呑気なみぃこの声が重なる。
「や、やめてくれー!!はるかは関係ないんだ!!」
何が関係ないのかわからないが少年はひどく戸惑いながら巨大なカボチャを蒼白な顔で見つめていた。
「ふふ、よーやくわかったよーだねー……。お前も罰をうけろー」
「いやああ!」
みぃこの声に少女の叫びが重なる。カボチャは少女を乱暴に振り回し凄まじい瞬発力で少年に突進してきた。
「はっ、はるか!うわっ!」
少年は震えながらカボチャから逃げている。それをイチとロクはぼんやり眺めていた。
「……あいつ……やりすぎだよな?」
「やりすぎだね」
あいつとはみぃこの事だ。みぃこはどこにいるかわからないが声のみが拡声器のように響いて聞こえる。
「おそらく少しだけ恐怖を与えるってのと恐怖を植え付けるってのを間違えてんな」
「だね……」
イチにロクはため息混じりな相槌を打った。
みぃこはさらに暴走している。
少女は半分気を失っており、少年は一方的に虐められていた。
「あいつ、なんで加減をしらねーんだろーな?そもそもあいつ、どこから来た人形なんだよ?」
「さあね……とりあえず、助ける?」
「だな……」
てきとうな会話を終わらせてイチとロクはみぃこを倒すべく動き出した。
少年はカボチャに踏まれる寸前で半泣きで震え上がっていた。
「ひぃいぃん!」
「なっさけねーな!!」
そこへイチが素早く割り込みカボチャの足をつまようじで弾いた。
「つ……つまようじでデカいカボチャの足をっ!?」
少年は目を白黒させながら叫んでいた。
「いいから早くこっちに」
ロクは少年をカボチャからいったん離した。
「お前も戦うか?それとも逃げる?」
イチが意地悪そうな顔を向けて少年に尋ねた。
「戦う!!」
少年はイチを睨み付けると震える声で叫んだ。
「よーし!じゃあカボチャ倒してカノジョ救うぜ!」
「おう!」
それから少年は自分の世界にある物を操りカボチャに攻撃を始めた。イチもロクもつまようじで斬り込む。
カボチャの足が辺りを凪ぎ払うが少年が素早く多数のハロウィンオブジェを操り防御した。
その間にイチ、ロクが足を狙ってカマイタチを起こす。
足を攻撃されたカボチャはバランスを崩し尻もちをついた。
「いまだ!くらえー!」
少年はやや情けない声で何やら呪文を唱えた。
「迷宮に潜みし闇の王よ、我に力を与えたまえ!闇魔法、ブラックハーベスト!!」
「……なんだよ、そりゃ……いみわかんねー……」
「臭いな……」
イチとロクは呆れた顔のまま謎の呪文を聞いていた。
少年が呪文を唱えると再び世界が揺れた。
カボチャの影の方から黒い手がいくつも出て来てカボチャを捕らえ、黒い手はカボチャをどんどん飲み込んでいく。途中で怖くなったみぃこはさっさとカボチャから去っていった。操縦者がいなくなったため、カボチャは握りしめていた少女を離した。
「きゃああ!!」
少女は叫び声を上げながら謎の闇魔法の方へ落ちていく。
「ヤバイ!」
少年は恐怖心を取り去り、ただ無我夢中で少女に向かい跳び跳ねた。
世界は少年に味方するように風を起こし少年を少女の元へ運ぶ。
「はるかぁ!!」
「リュウセイぃ!」
二人は闇に飲まれる寸前のところでお互いを抱きしめた。
そのままカボチャを飛び越え反対側に着地する。
「はるかぁ!」
「リュウセイぃ!」
二人は再び熱い抱擁を交わした。
「……てゆうかさ……これなに?」
「なんだろうな……戸惑いしかねぇよ……」
ロクとイチはお互いを見やり、眉を寄せながら首を傾げた。
そもそも何をしにきたんだか。
「なんか感動ものになってね?ホラーだったはずなんだけど」
イチがぼんやり言葉を発した時、カボチャは気色悪い声を発しながら黒い手に引きずられて消えていった。
「てか、ほんとなにしにきたんだっけ?」
ロクが頭を抱えていると世界が崩れ始めた。ジグソーパズルが剥がれるかのように世界が剥がれていき、剥がれた場所から宇宙空間が見える。
「終わりだな……」
「みぃこがいないんだけど……」
「あいつは大丈夫だろ」
イチはうんざりした顔でロクに目を向けた。
「じゃ、帰るかー……」
イチとロクは世界が消える前に元の世界へと帰っていった。

なあなあで戻ってきたイチとロクはブンちゃんの神社前でブンちゃんに叱られているみぃこを見つけた。
「お、ブンちゃん珍しく怒ってるぞ」
「ほんとだ」
イチとロクはそうっと鳥居付近に近づいた。
「みぃこ!やりすぎだ!!ちっとは考えろ!オカルトになったらどうすんだよ。ちょっと脅かしときゃあいいんだ!」
ブンちゃんはみぃこを正座させてわかりやすく叱っていた。
みぃこはしゅんと下を向いたままうなだれている。
「ま、まあまあブン様、落ち着いて」
あんまりにブンちゃんが声を荒げているのでロクが間に入った。
「ロク、イチ……帰ってきたか」
「そんなに怒んなよ。人形相手だろ?それにあいつら、あれくらいしないと効かなかったぜ。ほんとだ!特に男の方はな!」
イチが弁明に入る。
「……ふーむ……まあ、そんなに悪ガキなら仕方ないか……?高天原の連中がこんなくだらんことで俺を罪にするかって言ったらよく考えたらないか……」
ブンちゃんは自己解決するとみぃこをちらりと見た。
「うー……ちなみにー、そのイタズラをしたのは少年の方でー……少女は関係なかった……っていうー」
みぃこは涙目で小さく呟いた。
「で、お前は少女に乱暴したんだな!!」
ブンちゃんは再びみぃこを叱る体勢になった。
「ブンちゃん、ブンちゃん、でもよ、みぃこのおかげで二人の仲が縮まったんだぜ?」
イチはまた助け船を出す。
「うーん……じゃあ、そういう雰囲気なら……ま、いっか!」
ブンちゃんは面倒くさくなりすぐに考えるのをやめた。
これは彼の長所であり短所である。
「あー、そうそう、そういえばさ、ブンちゃん、みぃこなんだけどさ、ちょっと変わってんじゃん?」
「お前ら全員変わってるけどな。なんだよ?」
イチの言葉にブンちゃんは首を傾げた。
「みぃこ、『誰の所有物』の人形なんだよ」
「そんなこと聞いてどうすんだよ。お前達だってどこの人間の所有物か言わねーだろ?」
「……ま、まあ……そうだけどな」
ブンちゃんの言葉にイチは詰まった。
「メーカーとかシリーズとかもわからない人形だから不思議に思っただけだよ。行こう、兄貴」
ロクはブンちゃんが言いたくないのだと判断し、話を終わらせた。
「まあ、どうでもいいけどな」
イチも深く詮索はせずにロクの後を追いかけて去っていった。
二人がいなくなってからブンちゃんはみぃこを横目で見やり、気まずそうに口を開いた。
「……あー、なんだ……その……寒くなってきたな……。みぃこ……社であったかい茶でも飲むか?」
「飲むー」
みぃこは少しだけ元気を取り戻すとブンちゃんと社へ向かった。

※※

俺はぼんやりと窓の外を仰いだ。
窓には朝の太陽と青い空、鳥が「チチチ……」と鳴いて飛んでいく。恐ろしくのんびりとした朝だ。俺が早く目覚めちまっただけだが。
「朝か……」
よく思えば今朝は何をしたのか思い出せない。たぶん、いつも通りに朝飯を食べて歯を磨いて制服に着替えて登校したはずだ。
だから今、教室の自分の椅子に座っている。
だが、昨日の夢が衝撃的すぎて朝の事がすべて抜けてしまった。
……イタズラを神社にしたからか?
いやいや、あの神社はそんな厳かなヤツじゃない……。
……でも、もし……俺のせいではるかになんかあったら……。
……ほら、よくあるじゃないか。予言のようなものが……。
「おっはよー!」
俺が戸惑っているとやたらと気分が上がっているはるかが顔を赤く染めながら俺の机までやってきた。
「おっはよー!」
「あ、おはよ……」
俺は本当に情けない声で挨拶をした。
「あれ!?なんで?元気ないじゃん!?」
「てか、お前はなんで朝から元気なんだよ……」
「いやね、昨日の夢がすごく衝撃的だったからかなー!!」
「っ!!」
俺は夢という単語に顔を青ざめさせた。
……まさか……はるかにまで予言の夢が……。
「それがね、もー、超興奮で!ヤバイ状態のあたしをさ、リュウセイが超かっこよく助けたわけ!最高の目覚めだった!男だったなあ……リュウセイ……」
頬を赤く染めるはるかに青い顔の俺。
「カボチャのオバケがね、こうガーン!と現れてさ!そんで……」
俺は聞き流している内にさらに青くなった。
……そりゃあ、俺が見た夢じゃねーか……。
……やっぱりなんかのタタリ……。
そこまで思ってから俺は慌てて「お人形ランド!」に行くデートプランをはるかに伝える。
神社にあやまりに行きたいなんてはるかの前でカッコ悪くて言えねーじゃん。
それにはるかは人形好きだけど、俺はあんまり好きじゃない。
俺だけあそこに行くのもなんか気持ちわりぃし、デートのついでが一番バレないしかっこいい。
「わあ!やったー!じゃあまた行こうね!!いつにする?」
はるかは予想通り喜んでくれた。
……ふぅ……これであの神社にこっそり謝罪の紙を入れればオッケーだな……。
……くっそー!かっこわりぃ。俺。
もうやらねー!ぜってーこんなことやらねぇ!
……でも、はるかがさらに俺に惚れてくれたってのはいいな……。
じゃあ、言葉は二つだ。
「ごめんとありがとう……」

十一話

本格的な秋がやってきた十一月。ここ『お人形ランド!』では特にイベントはなく、展示されている人形が秋に似合う服装をしているだけだった。『お人形ランド!』の羽織を羽織った袴だけの男神ブンちゃんはハリボテな神社前で奇っ怪なダンスを踊っていた。
「ちょ、ちょ……ブンちゃん、なにしてるでごじゃる?」
「あー……この言い回しは……リンネィか?」
ブンちゃんは一時ダンスを中断すると床に目を向けた。長い黒髪がウェーブしている手のひらサイズの少女が着物姿でブンちゃんを見上げていた。
「そうでごじゃるが……そのヘンテコダンスは……」
少女ドール、リンネィは笑いを押し殺した顔でブンちゃんに尋ねた。
「ヘンテコだと!こっちは必死なんだぜ!」
「何が?」
「雪虫が入ってきちゃったんだ……」
ブンちゃんはため息混じりにそう言うと再び変なダンスを始めた。
「……雪虫ってすごいちっちゃな虫だった気がするでごじゃるが……」
「いっぱいいるんだよ!なぜか!」
ブンちゃんが嘆くのでリンネィも目を凝らせて見ると白い小さなボンボンのようなものが多数飛んでいた。雪が舞っているように見える。羽がある感じが虫なのだが。
この虫は雪虫という。寒くなるとよく飛んでいる虫だ。
「なんでこんなに……?」
「知らねー!!ここ、建物ん中だぞ!!」
ブンちゃんはどうやら一匹ずつ捕まえて外へ返す気でいるらしいが一匹たりとも捕まえてられていないらしい。その動作が変な踊りと勘違いされている。
「あれ?ブンちゃん、変な踊りだわねん」
「動きが斬新でござい!!」
リンネィが現れてからすぐに二つの少女の声がした。
「ああ、シャインにムーンでごじゃる」
リンネィがとりあえずブンちゃんに二人が来たことを伝える。
シャインは金髪のフランス系なドールだが量産されているシリーズもののドールで子供用玩具だ。ムーンも同じシリーズだ。ちなみにリンネィも「おともだち」シリーズとして売られている人形だ。
「で?ブンちゃん、なにダンスしてるのん?蟹ダンス?」
シャインが美しい金髪の巻き毛を払いながら尋ねた。
「蟹ダンスって……ダンスじゃねーの。雪虫が……」
「わあ……きれいでござーい!雪みたいでござーい!!」
ブンちゃんが最後まで言い終わる前にムーンが小さな手を伸ばして雪虫に触ろうとする。雪虫はムーンの手を避けていった。
「で……?なんでこんなにいっぱい……」
「知らねぇよ……俺が知りたい」
「冬が来ているでごじゃるねー……」
ムーンが尋ね、ブンちゃんが答え、リンネィがまとめた。まあ、とりあえず、雪虫は冬が近づいているのを知る秋の風物詩。つまり冬が来ているから雪虫は現れた。なぜ神社に大量発生しているかはわからないが。
「雪みたいできれいじゃないのよん。そのままでいいわよん。それより『お願い』入ってたわよん」
シャインがどうでも良さそうに『お願い』の紙を差し出す。『賽銭箱』が『お願いボックス』に変わってから全くデジタルではなくなった。前は願いをデータ化して転送したりしていたが今は紙にお願いが書かれる。神としてはなんだか寂しくもあるが仕方がない。
「『お願い』入ってたんだな……。十一月は閑散としてるから油断していた……」
ブンちゃんはシャインから紙を受けとると読み始めた。
「ふむふむ……初恋の人に告白したいと……すればいいじゃねぇか……」
ブンちゃんはため息混じりに呟く。
「できないんでしょ?勇気をくださいって書いてあるわん?ちなみにもう一枚同じ紙が……」
「え……がめついやつだな……」
シャインがもう一枚同じ内容が書いてある紙を差し出した。ブンちゃんは同じ人が二枚『お願い』を入れたのかと思ったがどうやら少し違うらしい。
「初恋の人に告白したいと言っている妹に勇気をください……か。微妙に違ったな。ははっ!勇気をくださいと言ってた方は妹で……じゃあこっちの紙は兄か姉か」
「ブンちゃん……ブンちゃん……」
ムーンが紙の下をトントン叩いて何かを気づかせようとしていた。
「あ?なんだ?」
ブンちゃんが目を紙の下に向けると名前が書いてあった。
『神田さくら』
「……なっ!?かんっ……かんだぁ!?」
ブンちゃんはすっとんきょうな声を上げる。
「従業員の神田さんの妹が告白の勇気をくれと言っているでござい!そして姉である神田さんは妹に勇気を与えてくださいと言っているでござい!」
呆然とするブンちゃんにムーンが丁寧に説明してくれた。
「よりによって神田……。そして神田の妹……。きっとまともじゃない……」
「失礼だわよん。妹さんはまともかもしれないじゃないのん!」
「どうだか……」
シャインの言葉にブンちゃんは頭を抱えた。
「とりあえず、勇気を出させればいいでごじゃるな?」
リンネィは少しだけやる気を出すとパンチをシュッシュッと繰り出した。
「勇気を出すならこっちは思いっきりぶつかるだけだわねん!」
「ちょっと待て……そんな感じで平気なのか……」
ブンちゃんが止めるもシャインはいたずらに笑いながら神田の妹の世界を出した。
「冒険でござーい!」
ムーンはいち早く世界に走り去っていった。
「お……おーい……大丈夫なのか……」
ブンちゃんが心配するが三人はお構いなしに世界に入り込んでいった。

世界に入り込んだシャイン、ムーン、リンネィの瞳には落ち葉と紅葉で埋まっている風景が浮かんでいた。
まわりは森みたいに木が多いが見通しが良くて広い。今回は人形である三人は体が大きい。人間の子供と同じくらいの大きさだ。まわりの木と比較するとなので木がミニチュアサイズならば彼女達は大きくないはずだが。
「まあ、どうでもいいから依頼主を探すわよん!」
シャインが落ち葉を踏み分けて辺りを見回す。見た感じ誰もいない。ただ、落ち葉が散っていくだけだ。
「うーん……人の気配がないでごじゃる……」
リンネィも落ち葉の上をてきとうに歩いてみるが木以外に何も確認できなかった。
「リンネィ!危ないでござい!」
リンネィの方を向いていたムーンが突然に叫んだ。
「うっ……!?」
リンネィの目の前に音もなく侍が現れ、刀で攻撃してきた。リンネィはすばやく後方に飛び、刀は横一文字にリンネィの前を通りすぎて行った。
「あ……危なかったでごじゃる……」
「待って!ムーンも危ないわん!」
シャインの声を聞いたムーンは横から突いてきた別の侍を間一髪で避ける。
「危ないでござい!!」
ムーンは冷や汗をかきながらリンネィの元に戻ってきた。気がつくと多数の侍が襲いかかってきていた。
「この侍はなんなのよん!皆二次元みたいなイケメン!?」
シャインも危なげに刀をかわしながらリンネィの元へやってきた。
「ゲームのキャラクターでござい?」
「そうみたいでごじゃる……」
三人が固まってそれぞれ不意討ちを逃れると武器を取り出した。ここは夢の世界。故になんでもできる。
「刀なら皆刀で行くでござい!」
ムーンは刀を振り回し侍達を倒していく。侍達は刀で斬られても靄のようになり死ぬことはないようだ。ただ、倒すと二次元のイケメンが苦悶の表情を浮かべるという乙女得な何かがあるようだ。
ちなみにこの謎な雰囲気は神田の世界にそっくりだが彼女達は神田の世界を知らない。
「なによん。思ったより弱いわねん?」
シャインも容赦なく侍を倒していく。人形達は人間にはない力を持った存在である。故に簡単には負けない。
「手応えないでごじゃるが……依頼主は剣術を知らぬでごじゃるなあ」
リンネィは苦笑いをした。襲いくる侍達の剣術はぐちゃぐちゃだ。時代劇の殺陣のようにあり得ない方向から斬りかかってくる。
「それより依頼主は?」
シャインがリンネィに目を向けた刹那、リンネィの後ろで人影が動いた。
「いたかもよん」
「どこでごじゃる?」
「あっちよん」
シャインが侍を蹴り飛ばしながら人影に向かって走る。リンネィも続き、ムーンは五人まとめて投げ飛ばしながら追った。
「林に入ったわよん!」
落ち葉を蹴散らして走り、林に三人は勢いよく飛び込んだ。
「あっ……」
「え……」
林に入ると女が男を押し倒していた。女は学生服で男は袴を着ている。男の着物ははだけて少しだけセクシーであった。
馬乗りになっている女は男に被さりささやく。
「もう好き好き!耳なめちゃおうかなー、キスしちゃおうかなー?それともぉ……」
「ま、待って!そこは……」
男は顔を真っ赤にしながら女を見上げていた。
「……えー、見ちゃいけないやつ?」
「見ちゃいけないやつでごじゃるな」
シャインとリンネィは後退りするがムーンが引き止めた。
「あの男の子、嫌がってるでござい。助けるでござーい!」
「嫌がってるかしらん……?」
ムーンがうるさいのでリンネィとシャインは堂々と邪魔に入った。
女を男から引き離す。
「あんたら!何すんのよ!」
女からドスの利いた声が発せられた。男はそそくさとムーンの影に隠れる。
「嫌がってるでござい!」
ムーンが女を睨み付けると女も睨み返してきた。
「あんたもゆう君が好きなのね!覚悟ォ!!」
なぜか女は恋敵のように言うと刀を振りかぶってきた。刀はどこにあったのか?
「上等!上等でござい」
ムーンは挑発すると刀を構えた。
「ちょ……ムーンさーん……」
「シャイン、見守るでごじゃる。あの女の子は依頼主。で、あの男の子は好きな子。好きな子を自分の世界で作り出して遊んでいただけでごじゃる」
「じゃあ止めないとダメなんじゃないのん?」
シャインの疑問にリンネィはあくびをしながら答えた。
「大丈夫。ガーン!と真っ直ぐにぶつかることに気がつけば上手くいくでごじゃるよ」
「ほぅー」
リンネィの言葉に頷いたシャインはムーンと女の子の戦いを黙って見始めた。ここは女の子の世界なのでおそらく彼女が一番強い。
刀を打ち合わせて右に左に凪いで袈裟に斬ってを繰り返している内にムーンが折れた。
「はー!強いでござーい……もう無理……」
「啖呵(たんか)切った割には大したことないわね。でも……わかった気がする。こうやって妄想してるだけじゃダメ」
女の子は倒れたムーンに決意の眼差しを向け、つぶやいた。リンネィとシャインが「そうそう!」と頷いていた刹那、男の子が唐突に分裂し増殖した。分裂、分裂、分裂……。
「……は?」
リンネィ達はわけがわからず目をパチクリさせている。
「なんか……増えて……」
「じゃーん……みぃこがたくさん増やしてみましたー。いかがぁ?紅葉狩りみたいにゆう君狩りをしてみようー!」
戸惑う三人の前に巫女の格好をしたドール、みぃこがくすくす笑いながら現れた。
「あー!みぃこでござい!」
「よけーなことしないでよん!!」
「増やしたら気持ち悪いでごじゃる……」
ムーンとシャイン、リンネィがそれぞれみぃこに文句を言う。
「えー……沢山ハントして自信になればさー、勇気も出ると思ったんだけどー」
ちなみに前々から記述しているがみぃこは個人の世界内のものなら自由に操れる特殊能力がある。今回も男の子の方を能力で増やしたようだ。
「みてみて!五人捕まえた!」
なんだか金魚すくいをやっているかのように嬉々とした声を上げる依頼主の女の子。女の子の傍らには縛られた男の子が多数転がっていた。皆めそめそと泣いている。
「まだまだいくよ!なんか自信出てきた!」
女の子の方向性は不明だが先程の襲ってきた侍が皆彼になっているのを彼女は疑問に思っていないようだ。
「よっしゃ!十五匹捕まえた!」
「……人の扱いじゃなくなっている!!現実世界でこれ見たら男の子は泣くでごじゃるな……」
リンネィはため息をつきながら駆け回っている女の子に目を向ける。なんだかすごく楽しそうだ。
「なんか……楽しそうだわねん……」
「私もやるでござーい!」
シャインは呆れていたがムーンは嬉々とした表情で男の子を捕まえに行った。
「収集つかなくなったでごじゃる……」
「ねぇー、紅葉狩りってさぁ、狩りみたいなもんさー。紅葉見ながら男をハンティングが正解ー!」
みぃこが呑気に言うのでリンネィは頭を抱えた。
「あれは確か『お花を摘みに行ってきます』が『トイレ』と同じ感覚だったはずでごじゃる……。平安貴族達のシャレでごじゃった……」
「なんとー……。違ったのかー。では……退散!」
みぃこは女の子の状態に満足すると笑顔で去っていった。
「あ……世界が……」
シャインが疲れた顔で空を見上げた。美しい秋晴れだったが黒い宇宙が見え隠れしている。
「……帰るでごじゃる……」
「ムーン!帰るわよん!」
シャインの呼びかけに五十人近くの男の子を捕まえていたムーンは満足そうに戻ってきた。
「帰るでござーい!」
「最後に……そこの少女!!現実でそれはやっちゃダメでごじゃる!!夢の中だけにせよ!」
リンネィは必死に叫んだ。
「……わかってる。ちゃんと告白するね」
女の子は笑顔でこちらに手を振った。

世界を後にし、帰るなり三人は雪虫と戦い中のブンちゃんに叫んだ。
「ねぇ!!邪魔されたんだけど!!いいとこだったのよん!!」
「みぃこでごじゃる」
「みぃこが男の子を増やしたでござい!」
それぞれ一斉にしゃべりだした三人をブンちゃんは慌てて止めた。
「ま、待て待て!わけわからん。みぃこがなんだって?」
「だーかーらー」
ブンちゃんの言葉に再び三人はそれぞれ話し始めた。
「あー!わかった!わかったから!……とりあえずうまくいったようだ!ありがとうよ!!」
ブンちゃんは三人よりも大声で叫んでおく。
「ところで……」
三人は落ち着き、声を下げて同じ言葉を発した。
「みぃこってどこの人形?」
「……あー、まあどこぞの人形なんじゃねーの?俺もわかんねぇよ……」
三人の問いかけにブンちゃんは目を泳がせた。
「なーんか怪しくないかしらん?」
シャインが横目でブンちゃんを見る。ブンちゃんはため息をつくと一言言った。
「知らねぇから……」
……知られちゃ……やだしな。
後半は口に出さなかった。
「ま、いいわん」
シャインがなんとなく納得したのでリンネィ、ムーンも頷く。
「じゃあ、また困った時に呼ぶでごじゃる」
「主のとこに帰るでござい!」
三人は特に気にもせず楽しそうに帰っていった。ブンちゃんは雪虫を追うのを諦め、従業員に丸投げすることにして、ため息をつくと社に入っていった。

※※※

「……ん……」
私は目覚ましの音で目を覚ました。手探りで目覚ましを止めてしばらく布団の中で温まる。
現在朝七時。お布団が恋しいくらいに寒い。だけど今日は学校だ。
「……おき……なきゃ……」
かけ布団を体に巻いてタンスから着替えを取り出す。ブラジャーと……ヒートテック。
パンツは……このまんまでいっか。
……でも昨日の夢で告白する勇気が出たんだから勝負下着にしても……。
私はそこまで考えたけど首を振った。だって体育あるじゃん。着替え中に友達から笑われる。
容易に想像できるよ。あんたなに?そのエロな下着ってさ。
普通でいい。普通で。
かけ布団にくるまったまま、服を持って再び布団の中に入る。あ、私の家は和風民家だからベッドにフローリングじゃないんだ。
畳に布団ね。
布団に再び横になったらまずはパジャマのズボンを脱ぐ。そんで靴下を履いて……器用に寝ながら上のパジャマを脱いでブラジャーをつけてヒートテックを着る。すべて布団の中でこなすの。これが寒い中でも着替えられるコツ。皆やってるかな?
「……なつみ?何してんの?もぞもぞと」
ふと声がした。私は潜っていた布団から顔を出す。
「あ、ねーちゃん。ねーちゃんが教えてくれた着替え試してんだけど制服も中で着るの?」
声をかけてきたのはさくらお姉ちゃんだった。お姉ちゃんが私にこの着替えを教えてくれた。おかげで遅刻しなくて済むようになったよ。寒いとなかなか布団から出られないでしょ?だからかけ布団ごと動いて服を持ったら再び布団に横になって着替える。グダグダしなくなったね。
「制服のスカート履く前に布団の中でパジャマのズボンなりジャージのズボンなりを履いてからスカートにした方が寒くなく出られる!」
お姉ちゃんはグッと親指を上げた。
「オッケー!……あ、ねぇちゃん!」
「ん?」
「私ね、今日告白してくる」
私は決意を一番最初にお姉ちゃんに言う。次はたぶん朝いつも一緒にいく友達のかえでちゃんになるかな?
「……ほう!頑張りたまえ!応援してる」
お姉ちゃんは軽く目を見開いて驚いていたけど満面の笑みを向けてくれた。
「うん!あ、お姉ちゃん、今日出勤でしょ?あの神様にお礼言っといてよ。夢で勇気をもらったんだ」
「夢で……うん。わかった。言っとくね」
私とお姉ちゃんはお互い見やってから微笑んで同じ言葉を発した。
「ありがとう」

最終話十二月だよ!クリスマスの夜

最終話十二月だよ!クリスマスの夜

ますます寒くなってきた十二月。ここ、『お人形ランド!』もクリスマスの準備でスタッフは大忙しだった。十一月に比べると格段にお客さんが増えており、やはりカップルが多い。そして雰囲気を味わうためかそこまで寒くもないのにマフラーをまく少女達と背伸びしたのか新しいダウンコートを着た男の子達が腕を組んで歩く姿が見える。
「はっ!ガキのくせにアツいぜ!!制服でデートでもしとけっての。……お!あれ知ってるぞ。萌え袖だなァ……」
ここ、『お人形ランド!』に住む神、ブンちゃんは雪に見立てた綿があちらこちらに置かれたショッキングピンクの鳥居の前でカップルを観察中だった。
「いいな……。萌え袖。セーターがたゆんたゆんだぜ……。手を口に持ってって息を吐いてから寒いね……みたいな、な!!で、袖から微妙に指が見えんの。ははは!!ど性癖だぜ……なあ!ははは!!なんかエロいぜ!なあ!ははは!」
ブンちゃんはひとりで笑っていた。
「ふーん……」
「っ!?」
ひとりで盛り上がっているはずだったブンちゃんは返事が聞こえたのでギョッとした。
「あー、わたしだよー。みぃこー」
「みぃこか……」
ブンちゃんの前に巫女さんの格好をした手のひらサイズのドールみぃこが現れた。
「あれだねー……、最初よりだいぶん人が増えてきたねー。こりゃ、わたしのおかげだねー」
「はあ……お前はいつも邪魔してるだけじゃないか……」
「酷いなあー……萌え袖!」
みぃこは巫女衣装の袖を口元に当ててブンちゃんを上目遣いで見た。
「……やっぱかわいいよな。お前。何を間違えたんだろうな?」
「失礼なー!間違えてないよー?わたしは巫女だしー。本来ならわたしに頼るべきだよねー。他のドールなんて人間が作って人間が持ってるドールじゃないかー」
みぃこはふんと鼻をならすがブンちゃんはため息をついた。
「あのなー……、人間の願いを叶えるんだから人間よりじゃないとダメだろ?」
「あー、そうかもー」
みぃこはふむふむと納得している。しばらくどうでもいい話をしていると従業員の女性の神田さくらが鳥居の前に何かを設置し始めていた。
「……ん?なーにやってんだ?神田は」
ブンちゃんは神田の作業を見るべく鳥居に近づいた。神田は何やら貼り紙をニコニコしながらつけていた。
「ふっふふーん!ふふふーん!」
下手な鼻唄を歌いながら何かを鳥居に貼り付けて神田は去っていった。
「なんだ?……お!」
ブンちゃんは貼り紙を見て思わず声を上げた。貼り紙には『お人形ランド!』の羽織を着たかなり美化されているブンちゃんのイラストがかっこよく立っていた。神田が描いたのだろうか?趣味がかなり入っているが乙女が集まりそうなデザインだ。
かわいい文字も入っておりそこには『お人形ランド!を守る神、ブンバボンバだ。君達の願いは俺が守る。願い、待っているぞ!』
とか書いてあった。
「ほー!乙女受けしそうだなあ!信仰が集まるぞぉ!……いいぞ!神田!もっとやれー!!」
気分が良くなったブンちゃんはムフフと気味悪く笑っていた。
「ブンちゃんー、よくわかんないけどー……暇そうだねぇー」
「暇じゃない!」
のほほんと笑うみぃこにブンちゃんは鋭く言った。
「だってー……暇そう……」
「あのな、今はクリスマスシーズンでドール達フル稼働で忙しいの!」
「それってさー、私とブンちゃんが暇なだけだねー?」
「……否定はしない……」
みぃこの言葉にブンちゃんはため息をついた。
「じゃあさー、ちょっとみぃこと神田ちゃんの世界に遊びにいかなーい?」
「はあ??」
みぃこが突然にわけがわからない事を言うのでブンちゃんは声を上げてしまった。
「ほらー、神田ちゃんー、今夜早く帰って早く寝るみたいだしー」
「だからなんだよ……。用もないのになんで……」
ブンちゃんが最後まで言い終わる前にみぃこがクスクス笑いながら衝撃的な一言を発した。
「だってブンちゃんさー、神田ちゃん好きでしょー?」
「!?……??……いやいや……好きって別に好きって別にさ……」
ブンちゃんがしどろもどろしている中、みぃこはさらに続ける。
「今夜、神田ちゃんにクリスマスプレゼントとしてさー、ブンちゃんがキスやらなんやらやっとけばー?こうさー、ガッと掴んで押し倒しとけばなんとかなるっしょ?」
「……雑だな!雑だ!!そんな強姦みたいなことできるかよ!コラ!!」
呑気なみぃこにブンちゃんはため息をついた。
「とりあえずー、いこーよー」
「用がないからいかない!」
「用ならあるじゃーん、ブンちゃんがー……」
「だーかーら!お前は発想が人間離れしてるんだよ!いかない!」
「かわいそうだよー?神田ちゃーん、襲ってあげなよー」
「俺が襲いかかった方がかわいそうだろうが!意味わからん!いかない!」
こんな会話を繰り返し、夜が更けていく。
今日はドールが集まらず、ブンちゃんはずっとみぃこと意見をぶつけ合っていた。本当にしょうもない。
「じゃあさー、人間を見せてよー」
「おう!人間の心ってやつを見せてやるよ!神田の世界に行くぞ!オラ!……ってなんで神田の世界に行くことになってんだよ!!」
ブンちゃんは頭を抱えた。
「今言ったねー?」
「……たく……そんなにいきてーなら行ってやるよ!」
みぃこにてきとうにのせられブンちゃんは渋々神田の世界に行くことにした。願いもないのにほぼやけくそな判断だった。

しばらく経ってからウキウキしてるみぃこが神田の世界を出した。雨が落ちる水たまりのような波紋が絶えずついている円形の謎空間が目の前にぼんやり現れた。
「本当に行くのかよ……」
「いこー!」
ブンちゃんは行く気満々なみぃこにため息をつくと神田の世界に入り込んでいった。
入り込んだ世界でまず最初に見えたのはクリスマスツリーだ。それからどこか西洋風なレンガの町並み。
「……?」
そして雪が積もっていてあちらこちらにイルミネーション。おまけに夜で澄んだ空に星が輝いていた。
「……星……。って……一回来た時と世界観違くねぇ!?」
「ちょうどいいねー。どっかの家のベッド探そうかー。雰囲気で求めるでしょ」
みぃこが勝手に民家のドアを開けて中をうかがっている。今回はドールはドールサイズだ。現実に近い価値観のようである。
「ベッドって……バカバカ!寝るんじゃねーだろ!それに民家の人が……」
「ありゃ。誰もいませんねー。外にも人がいませんねー。じゃあ野外でも……」
「ちょっ……なにをさせようとしてやがる!俺はとにかくすぐ帰るぞ!」
呑気なみぃこにブンちゃんは焦った。
「あ、てゆか、人がいない世界ならベッドでもつれあってもオケー!よし、ブンちゃん、頑張れー。応援してるからー。夢の中だから何しても大丈夫ー!足りないモノあったら出してあげるからね!お好みで!」
「コラ!ふざけんな!!」
ブンちゃんはわかりやすく怒鳴った。
「えー、なに怒ってんのー?」
「夢でもな、やっていいことと悪りぃことがあんの!……たく、人間離れしてやがるな……。こんなはずじゃなかったんだが……」
みぃこに罪悪感みたいなものはないようだ。過激な発言も素で言っている。
「……待てよ……。人形は人の心を映す鏡……。もしや、この危険な思想は俺にも……」
ブンちゃんが独り言を言っていると半袖短パンの女と目があった。
「……ん?人はいなかったはずだが……って神田!?」
薄着の女は神田だった。
「ちょっ……寒くねーのか?」
ブンちゃんは神田の格好を見て青い顔で呟いた。
「ああ、私の神様!こんちはーっす!寒くないかって?大丈夫、大丈夫!寒さ感じます?」
神田が話しかけてきてはじめて寒さを感じていないことに気がついた。雪が降っているが全く寒くない。
「……寒くねーな……」
「寒くないでしょ?クリスマスだからキレイな世界にしてみたくてね。キレイでしょ。ここ」
「あ、ああ……」
神田の笑顔を見てブンちゃんは知らずに顔が赤くなっていた。
幻想である神は夢という形でしか人間と出会えない。だから人間は神に入り込んではいけないし、神も人間に入り込んでもいけない。
現実で出会うことはないからだ。
ブンちゃんはそれがわかっていた。だから入り込みたくなかった。
だが、神田に出会って二回目、神田はブンちゃんを意識してしまい、ブンちゃんも神田を意識してしまった。
「みぃこ、帰るぞ!」
「はー?なんで?こっからベッドでしょー?ベッドインならツインがオススメでしょー?」
呑気なみぃこに頭が痛くなるブンちゃん。
「うるせーよ!ベッドベッドって女の前で!」
「ベッド?」
神田はきょとんとしていたがそのうちみるみる頬が火照っていった。
「あ……え……いや……えーと……ベッドに買い換えよう!とか思わなかったか?」
「あー!そっちかあ!思った!思った!今度、実家出るからベッドにしようと……」
「ベッドならツインがオススメだ。って……なに言ってんだよ!俺!」
ブンちゃんはみぃこを睨むがみぃこは笑っていた。
「ぎゃははは!自分で言ってるしー」
「……っち!帰るぞ!!」
「待って?なんで怒ってるわけ?私、なんかしました?」
神田が不安そうな顔になったのでブンちゃんは慌てて首を振った。
「してない。してない」
「じゃあ……ベッドをツインにした方がいいってお告げしにきたわけでしょうか?」
神田の頭にはハテナが回っている。
「おーい……どうすんだよ……みぃこー」
ブンちゃんはみぃこを睨みながら小声でささやいた。
「あー、さくらちゃん、ブンちゃんはさくらちゃんを抱きたいんだってー」
「はぁう!?」
ビックリ発言のみぃこにブンちゃんから変な声が漏れた。
「……え?なに?私、神様に抱かれちゃうわけっすか?それ、さいっこう!よし!じゃあさっさとベッドを……そっかあ!だからツインとか……」
「まーてぇ!!!」
なんかおかしな思考回路の神田に柔道の審判のような鋭い声をブンちゃんは上げた。
「あれ?なんですか?野外がいいとか?萌えるポイントってムズいっすよねー!」
大方みぃこと同じ事を言う神田。
「違う!ちがーう!!」
ブンちゃんは顔を真っ赤にしながら全力で否定した。
「じゃあなんなの?なんか特殊なプレイなの?口から魂抜くとか?尻子玉を抜くとか?」
「カッパか俺は!!……そんなんじゃねー!!どんなプレイなんだよそれ!こえーよ!」
「尻子玉プレイ?」
「ぎゃはは!!なんかエロいー!!」
神田の言葉に腹を抱えて笑っているみぃこ。クリスマスの夜なのに下品な内容で盛り上がっている。
「……もうやだ……」
ブンちゃんはしゅんと下を向いた。
「……で、結局何しに?」
神田が話を元に戻し首を傾げた。
「……何しに来たんだろうな……俺は……。心が折れそうだ」
「サンタさんにしちゃえばー?」
「また勝手なことをっ……!」
みぃこの呑気な発言にブンちゃんはプルプルと肩を震わせた。
「神田のプレゼントは……俺だ!待たせたな!みたいなー!みたいなー!」
「ナニソレ!かっこいい!」
みぃこと神田は馬が合うのかなぜか会話が成り立っている……。
「……サンタさんか……」
ブンちゃんは二人の様子を見て目を細めた。
……みぃこ……。
やっぱり人間の元にいないとまともにならない……。
「なあ……」
ブンちゃんが盛り上がっている二人を呼んだ。
「おー?ついにプレゼントに!?」
「ならない!!」
みぃこの言葉を押し退けブンちゃんは続ける。
「なあ、神田。人形は好きか?」
「……ん?好きですけど。かわいいから」
神田は先が見えず首を傾げる。
「そいつ……クリスマスプレゼントにもらってくれないか?」
ブンちゃんはみぃこを指差して神田を見据えた。柔らかい風が吹き、雪が舞い上がった。
「……え!?」
「そいつ……そいつな、みぃこは……俺が……『俺が作った』人形なんだ」
「ハア!?」
ブンちゃんの発言で近くのもみの木から一斉に多数の声が上がった。
「……って……」
ブンちゃんが目を見開いてもみの木を見るとブンちゃんをいままで手伝っていたドール達がわらわらと現れた。
「嘘だよねー?」
「マジで?」
「やべー!!」
「趣味全開でごじゃる?」
「信じられません!」
それぞれ声を上げて収集がつかなくなったがブンちゃんは慌てて声を上げた。
「なんでお前らがいんだよ!!しごっ……仕事は!?」
「あー、仕事よりもブンちゃんの恋愛事情のが心配でついてきちゃったの」
花子さんが代表で答えた。
「そうだわよ!神田ちゃんを抱くとこ皆で見よって来たんよのさ」
続いて雪子さんも呆れた顔で続けた。
「ちっ、なんでぇ!ちょっとエッチになるかと思ったら爆弾発言しやがってよ!」
イチがブンちゃんを睨みながら呟いた。
「抱かないしエッチにならない!!……くそっ……どいつもこいつも……。というか知られたー!恥ずかしすぎる……」
ブンちゃんは顔を真っ赤にし、涙目で顔を手で覆った。
「……まさか!ブンちゃんがみぃこを作っていたとは!!幼女人形でハアハアしてたんですか!?気持ち悪いです!!私は嫌いではありませんが!!」
めいちゃんが興奮ぎみに尋ねてきた。
「……う、うるせー!!展示されてる人形通りに作って俺のお手伝いを作りたかっただけだ!神の手伝いなら巫女だろって思っただけ!」
「ほー……どうやってお作りに?」
はーちゃんが興味津々にブンちゃんに詰め寄る。
「……俺が生まれた当初に手伝いがほしくて自分の髪を切って人形製作キットの無植毛ヘッドに俺の髪を植毛して目を描いて巫女の服を着せただけだ!いち早く九十九神になったのがみぃこだよ」
「……ほうー……人形の作り方が本格的ー」
はーちゃんが感心の声をあげた。
「もう!うるせー!お前ら!黙れ!黙れ!」
次々に声を発する人形達を黙らせてブンちゃんは再び神田に向き直る。
「神田、みぃこを……もらってくれないか?俺の神社前に置いておく……。俺はっ……俺は……お前が好きになっちまったみたいだが……お前は人間を好きになれよな」
「えー……と……もしや……サンタさんだったり?」
「ちがーう!!」
ロマンチックになりそうだったが神田が見事にぶち壊した。
だが無理もない。ブンちゃんは神田をずっと見てきたが神田はブンちゃんの姿を見たのは二回目。
幻想で処理されているので神田はまだブンちゃんが本当にいるとは思っていない。神と人間の関係はいつもこうなのだ。
「ま、まあ、とにかく……みぃこを……」
「そこの話すお人形、もらえばいいんですか?」
目が泳いでいるブンちゃんに神田はストレートに尋ねた。
「あ?あ、ああ……。人間の方に渡るのは出歩いてるのじゃなくて本体だ。出歩いてるのは霊体だから……」
「よくわかりませんがわかりました」
「みぃこ、お嫁さんにいくのかー?イエーイ!!」
みぃこはまだよくわかっていない神田ににんまりと笑みを浮かべた。
「……じゃあ、俺は……行くよ……」
ブンちゃんはどこか切な気に微笑むと神田に背を向け歩き出した。
「……待って!」
神田に呼び止められたブンちゃんは足を止め、振り返る。
「もうちょっと……一緒にいたい」
「……神田……」
神田は寂しそうにブンちゃんを見ていた。ブンちゃんの言葉に注目が集まる。
見守るドール達が固唾を飲む音が聞こえた。
「……俺……」
ごくり……。
「もうちょっとお前といたい……」
ささやくような声で言ったブンちゃんは顔を赤くしてうつむいた。
「ふぅー!!」
その時、どんちゃんどんちゃんと指笛やらマラカスやらタンバリンやらの音がやかましく響いた。
ドール達が祝福の音楽を奏でたようだった。とてもやかましい。
「だー!うっせー!!やかましい!!帰れ!もうお前ら全員帰れ!」
「では、祝福の鐘を鳴らさせていただきます」
「宮子さん!どんどんやれでございー!」
「やれやれー!」
「やめろー!!」
ブンちゃんを無視しドール達に頭を下げた宮子さんは手からハンドベルを取り出し鳴らした。澄んだ空気にハンドベルの美しい音色がこだまする。
「やめろっつーの!!結婚式か!!帰れー!!」
ブンちゃんは人形達を追い回しひとり残らず退散させた。人形達は腹が立つほどすんなり世界から出ていった。
「くそっ……興味だけで覗きにきやがってー!」
「あははは!」
ひとり残ったみぃこはただおかしそうに笑っていた。
「あのー……」
神田は戸惑いながらブンちゃんをうかがっていた。
「あ……神田……」
「さっきのはどこまで本気?」
「さ、さっき?」
ブンちゃんは早くなる心臓を抑えながら震える声で尋ねた。
「抱いてくれる……みたいな話」
神田はやたらと色っぽく頬を赤らめるとわずかにブンちゃんから目をそらす。
「えっ……あ……だ、抱けないよ……。俺、神だから……」
「……そっか」
なんだか寂しそうな顔をする神田にブンちゃんは我慢できなくなってきた。
「あ……こうすることなら……できるかな……」
ブンちゃんは神田を抱き寄せ、腕を神田の背中に回す。神田もブンちゃんに腕を回してきた。
「……はずかしー……」
「ねぇ、キスは?キスはできるでしょ?」
かわいい顔を向けられてブンちゃんは思わず唇を塞いでしまった。
「ん……」
二人の吐息が漏れる。
ここはどちらの世界なのだろう。
わからなくなってくる……。
ここは実はブンちゃんの世界でブンちゃんの妄想が神田を出現させたのかやっぱりここは神田の世界なのか……。
「……わかんなくてもいい……」
ブンちゃんは熱くなってくる身体を抑えずに今度は神田を強く引き寄せた。
「おーぅ!!いーねー!もっとやれー!」
みぃこが横やりをいちいち入れているがブンちゃんにはもうどうでも良かった。

※※

神田の世界から戻ったブンちゃんはぼうっとしていた。
「ブンちゃん?嫁入り前の私をもっと見てよー!」
「ああ……神田と仲良くな……」
ピンクの鳥居の前でブンちゃんは気のない返事をした。
「さみしーのかなー?」
「寂しくねーよ……いつでも会える」
「認知されないのにー?」
みぃこの言葉にブンちゃんはため息をついた。
「そういうもんだ……」
「そうかー」
みぃこの返事を聞き逃しながらブンちゃんは羽織の袖からみぃこの人形を取り出した。
こちらは今動いているみぃこではなく、ブンちゃんが作った巫女さんのドールである。姿が見えない神が持っているのでドールも見えない。世界が辻褄を合わせるために人に見えない神が持ったものは神々のデータに括られるので見えなくなるらしい。
「神田……そろそろ出勤だな……」
ブンちゃんはつぶやくとみぃこドールをそっと『お願いボックス』の上に置いた。神田はいつも朝一でお願いボックス周辺の掃除をする。見つけてくれるはずだ。
しばらくして神田がやってきた。
あの夢のような格好ではなく、コートにマフラー、ブーツなどで暖かくしている。
「ふんふーん……」
下手な鼻唄を歌いながら近くにある掃除用具入れからガシャガシャと箒などを出していた。
「さあ……気づけ……神田……お前の心をみぃこに映し出せ……」
ブンちゃんが小さくつぶやき、神田を観察する。神田は箒とちりとりで軽くゴミを取ると拭き掃除を始めた。
「……あれ?」
神田が『お願いボックス』周辺を掃除し始めてから人形に気がついた。
「……この人形……」
手のひらサイズの人形はニッコリ笑っていた。
「わあ……かわいい!……誰かの忘れ物?けっこう質のいい髪をしてるなあ……」
神田が人形を隅々まで見ていると『お願いボックス』に紙が一枚だけ入っているのに気がついた。
「……ん?」
拾い上げて読んでみると
……怪しくないからもらってやってください。
と書いてあった。
「……怪しくないからって……。まあ怪しいけど……じゃあもらおっと……。超かわいい!リカちゃん人形みたい。隠れドールコレクターの血が騒ぐわ!サンタさんからのプレゼントだ!!」
神田はみぃこを近くにいた従業員の男に自慢していた。男と神田はなんだか仲がとても良さそうだった。
「……ああ、そうかよ……」
ブンちゃんはひとりつぶやく。
「あいつにはもう男がいたのか……」
なんだか清々しい気分になった。これから神田はあの男に守られていく。これでいいんだ。
「みぃこ!神田を守れよ」
「もちー!」
みぃこはブンちゃんの肩によじ登ると元気に手を上げた。こちらのみぃこは霊体である。
ブンちゃんは去っていく神田を見据えながら
「ありがとう」
とつぶやいた。
「なーんだ!結局別れたんだ?」
ふとロクの声がした。嫌な予感がしたブンちゃんは後ろを振り向く。社前にドール達が集まっていた。
「……お前ら……」
「で?どこまでやったのよん!」
シャインが腕を組みながらイヤラシイ目を向けてきた。
「どこまでもやったんじゃないですかあ?」
いつよしくんが揶揄するように笑う。
「……あー!もううるせー!!また無駄に集まりやがって!」
真っ赤になったブンちゃんは鼻息荒く叫んだ。
「みぃこ、見てたんでしょ?どこまでやってた?」
花子さんがみぃこに期待の目を向ける。
「んー……途中で飽きちゃったからブラブラしてたー。だからわからんー」
みぃこの呑気な返答に花子さんはずっこけた。
「それより!クリスマスは終わりました!次はお正月です!またお願いが入ります!気合いを入れてください!」
宮子さんがブンちゃんに言い放つ。横にいたきぅも声を上げた。
「それより皆でクリパしましょうよ」
「ゲーム何やる?」
りぅが口説こうとするイチを払い除けながら尋ねた。
「マリパ!マリパでござい!」
「マリカのがいいでごじゃる!マリカ!」
ムーンとリンネィがどうでもいい内容で戦い始め、ブンちゃんは頭を抱えた。
「何の戦いだよ……それ」
「あのー……私は桃鉄のが……」
流された宮子さんまで会話に参加を始めた。だんだんと人形達はクリスマスパーティーに頭がいき、なんだかわからないがすごく盛り上がった。
「クリスマスは終わったんだよ!俺の神社で遊ぶな!!俺は『お人形ランド!』を守る神、ブンバボンバ之神だぞ!!仕事だ……仕事をしろ!!」
「……まあまあ、ブンちゃんもやるー?マリカ」
はーちゃんがブンちゃんのやる気を削ぎ、変な方に修正した。
「ほれ、これ着けるよのさ」
雪子さんが素早くサンタ帽子をブンちゃんに被せる。
「んなもん被らせんな!!……たく!やる!やってやるぜ!お前ら全員、カメとバナナの餌食にしてやるからな!!覚悟しろ!」
「かかってきなさい!溝走りでカッコ良く決めてやるわ!紙コップの水なんて一滴もこぼさないんだから!」
ブンちゃんとりぅはなぜかにらみ合いを始めた。
「……あのー、溝走りもコップも違うような……」
きぅの控えめな声を丸無視し、ブンちゃん達は社内に入っていった。子供達がサンタのプレゼントに気がつく時間にブンちゃん達のクリスマスパーティーという名のゲーム大会が始まった。
「……ほんとは騒いじゃいけない日なんだけどなあー……クリスマスなら」
みぃこは遠くで苦笑いをしていた。

……俺はこれからも『ここ』を守るよ。俺はここで生まれた……ブンバボンバ之神だから……。

おわり。

(2020年完)TOKIの庶民記『つくもドール・ワールド』

今年ももうあと僅か。
今年の短編はこれでおしまいです!
お読みくださりありがとうございました。
こちらの作品から短編②という括りに変わりました!
子供向けエンタメ施設などにいくとたまに手作りな神社っぽいのがあります。プラスチックの鳥居だったり、手作りすぎる社だったり笑。
それを見てからここにいる神さまってどんなだろ?と考えてしまい、この作品ができました。
でもきっと、一生懸命に願いを叶えて「ありがとう」って言われてるんだろうなと、そうだったらいいなと最後は「ありがとう」で終わるようにしました。
弐の世界(夢、霊魂の世界)は短編なので簡単に書きましたが他ではもっと重要で深くて怖いです。気になりましたら長編など読んでみてください笑。
今作品では初の試みとして毎回一人称視点を入れました。いかがだったでしょうか?汗
今年は感謝の一年でした。
来年はどうなるかな?
それでは改めて、
お読みいただきありがとうございました!!(σ≧▽≦)σ

(2020年完)TOKIの庶民記『つくもドール・ワールド』

短編で12話で終わります。 お人形ランド!という盛り上がりがないレジャー施設があった。文字通り人形を展示しているだけの工夫もなにもない寂しい施設。そこで人間達は鳥居を建てて神様を祭りレジャー施設の活性化を試みた!縁結びの神、ブンバボンバだよ!という看板を建てたら本当に縁結びの神様が住みはじめた!その人間には見えない神様と九十九神化したドール達のドタバタなコメディ。 人間達の信仰を集め、お人形ランド!の活性化を頑張るよ。主にドールが。 他の短編や長編などで出てきた登場人物もいますがこの短編から読んでも大丈夫です。 関連性とか気になったら他の短編もどうぞ!

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