トイレの借り方
店に訪れる男
「あい、いらっしゃい」
「いらしゃったよ、お前にとっては客だ、よかったな、俺の財布の中身をそのうち呉れてやる」
「なんでも揃ってるよ」
「同じものを前後に並べさせてるけどこれはお前の趣味かい、そういう妙な性癖は嫌われるぞ」
男は店の中を彷徨き回る。
「俺はこう見えてお前の店の常連なんだ、この前来た時は閑古鳥が鳴いていたけど、今日は鳴いてすらいないね、唐揚げにでもしたのか?」
男は商品を手に取る。
「それは千円だよ。とってもいいものなんだ」
「それは俺が決めることだ」
男は商品をためつすがめつ眺める。
「他ではお目には掛かれない、買い時だと思うがね」
「お前の目は節穴だな、後ろにも同じやつが並んでいる。おい、今これが俺の要望に応えてくれるか判断している最中だ、お前は大便の途中で誰かから今そこどこの腸を辿っているかなんて言われたら興が削がれはしまいか」
「トイレはあっちだよ」
「なるほど、トイレはそこだったか」
男は商品を棚に戻して、店の奥へ消えていった。しばらくすると水洗の流れる音が聞こえ、スッキリとした顔で店の中を横断していく。
「悪いな、今日は買おうという興趣がなくなってしまった。俺の財布の中身はもっとしかるべき時に必ずやお前のもとに下されるであろう」
「なんだよ、帰るのかよ」
男は店を出ると、左右に指差し呼称し、通りを歩いて行った。
トイレの借り方