水面シズク
古いリビングに残された洗濯物の山を見て
僕の母は絶望していた
僕が君を嫌いな理由
それは多分ひとつしかない
いいや ひとつであって複数あるようなものだ
泣けると話題の感動作
読んで見たが 1ミリも泣けなかった
世間が感動するようなものに感情を委ねることのできない
僕に失望しながら今日を生きている
そうそう 話したかったのはこれじゃない
僕が君を嫌いな理由
さっきひとつだけだと言ったが
それは訂正したい
僕が君を嫌いな理由
それは日が暮れてしまうほど
ひとつ、君の名前が気に入らない
これは どうにもならないことなのだろうけれど
あまりにセンスを感じてしまうんだ
君の両親を褒めているわけではないよ 決して
ああ、ごめん。君には両親などなかったね
ひとつ、君の行動ひとつが気に入らない
何も君の存在を否定しているわけではないよ
名前まで否定しておいて 今更なんだと思うかもしれないけどね
ただ 常識もマナーも礼儀もなっていない君を見ていると
育ちが偶然にも良かった僕は腹立たしく思ってしまうよ
まあ この件に関してはこれから直していけばいいよ
ひとつ、君の笑い方が気に入らない
ここまでくると外見を否定しているようにも思えるね
外見は人の魅力の一つだから 僕は悪いとは思わないよ
君の笑い方は とにかく下品だ
豚の鳴くような そして洗濯機の中にタルトケーキを入れて混ぜたような
そんな笑い方さ
気に入らないというかいけ好かないんだ
僕は気になるけれど 君はそこまで気にする必要はない
今回はこれぐらいにしておこうか
これはあえてでも 君へ向けた不幸の手紙だということを忘れていたよ
人間らしさを忘れてしまった人間たちへ贈るね
これじゃあ ただの君の悪口リストなんだけど
それは僕が後ででも補正しておくよ
君は僕にとって気に入らない存在だというのに
周囲からの評価はとても高い
なぜだろうね
僕が一般的な『周囲』ではないだけかもしれない
きっとそうだ
だから 君に関する言葉はここまでにしておこう
でも ひとつだけ
君は僕に嫌われているということを自覚しているだけ
まだマシだよ
嫌われていることをわかっていない人間と関わるほど
面倒なものはないからね
人間らしく生きよう
綺麗に生きなくたっていい
あるがままに
身を委ねて
私は私だって
僕は僕だって
汚くたっていい
誰かを蹴落としたっていい
それが自分のためになるのなら
自分のためだけに
人間らしく
人生を歩もう
人生は一度きり
なんてことはない
何度だってやり直すことはできるさ
だって 明日には もう明日の自分が待っているのだから
人間らしく生きよう
水面シズク