旧作(2019年完)本編TOKIの世界書五部「変わり時…4」(現人神編)

旧作(2019年完)本編TOKIの世界書五部「変わり時…4」(現人神編)

長編最終部四話目です。
TOKIの世界。
壱‥‥現世。いま生きている世界。
弐‥‥夢、妄想、想像、霊魂の世界。
参‥‥過去の世界。
肆‥‥未来の世界。
伍‥‥すべての想像が消えた世界。
陸‥‥現世である壱と反転した世界。

狂う世界

ある田舎町。まわりは山に囲まれている。辺りはとても静かだ。その中、ひとりの少年の姿が目立った。

……そうか。そういう方向にいったか。やはり世界のシステムは崩壊の方へはいかない。はっきりした。
……だけど、壱の世界にいる神はマナの行動を許さない。壱の世界の日本を守っている剣王は特に……。

野球帽をかぶった少年、リョウは木の枝に座りながら海を眺めていた。寄せては返す波は不思議と止まっており、絵の中のように不気味だ。木の葉っぱも風に揺られた状態で止まっていた。満月が止まった状態のまま辺りを照らす。

「時間が止まった。僕も時を渡れない。ここからは黙ってみていよう」
リョウは目を満月に向けた。

※※

マナはスサノオに自分の思ったことをやれと言われ、とりあえずプラズマと健の安否確認をする事にした。ふたりの元へ行こうとした刹那、剣王が刀を構えて前に立った。

「待て。それがしは君を好きにはさせないよ」
マナが冷や汗をかきながら一瞬止まった刹那、ごうっと弓がうなる音がした。

「おっと」
剣王は軽やかにかわすと弓矢が放たれた方を見た。
目線の先でプラズマがボロボロになりながら弓矢を構えて目をすがめていた。

「君はスサノオのデータをなかったことにはしないんだな。辻褄があわなくなった子達は倒れてるのに。しかし、まだ立てたのかぁ。あの子は本気じゃなかったとはいえ、しぶといなぁ」

「あいつ、なんなんだよ!容赦ねぇなー。死ぬかと思ったぜ」
プラズマは今にも倒れそうだが気を失っている狼夜に悪態をついた。

「プラズマさん!」
マナがプラズマの元へ再度走ろうとしたらスサノオが声をあげた。

「未来神は一度、伍に入って俺を見ているからデータに誤りがないことになったんだな!あ、それから俺はもう壱にいるのが辛くなってきたようだ。マナ、眼鏡を取ったときに見える神社にこい。剣王を何とかしてな」

スサノオは足から徐々に電子数字に分解されていた。こちらの世界がスサノオを排除しようとしたようだ。

「え?スサノオ様!?眼鏡……」
「じゃ」
「ちょっと……」
困惑しているマナにスサノオは笑みを浮かべて消えていった。

「なんだかわからないけど厄介なやつが消えたみたいだねぇ」
剣王は再び刀を構えるとマナの眉間に合わせた。マナがどう動こうか迷っていると倒れているはずの健の声がした。

「とりあえず、剣王を抑えますか?」
健はプラズマの横でフラフラと立ち上がった。

「お前、大丈夫か?」
プラズマが心配そうに健を見据えた。

「はい。私も伍の世界に飛ばされてスサノオに会っているので気を失わずにすみました」
「いや、そっちじゃなくて怪我だ、怪我」
健もプラズマ同様にボロボロだったが元気そうだった。

「健さん……良かった」
マナはとりあえずふたりが無事でほっとした。

「私も無事のようだな。一瞬、気を失ったが」
驚くべき事にマイも平然と起き上がった。起き上がったマイに剣王は眉を寄せた。

「なんで君は目を覚ましたのかな?君は楔だがスサノオの記憶は抹消されたはずだよ」
「さあ?私にはなんにもわからんよ」
マイは剣王にケラケラと笑みを向けた。

それを横目で見つつ、健は仮説を口にした。

「マイさんは語括神、演劇の神です。そして主に人形を使ってシミュレーションをするんですよね?Kと同じ力を持っているのでどっかでリンクしたんじゃないですか?ほら、Kは改変後の記憶を持ってますから」

「だが私はスサノオを知らない」

「じゃああなたははじめから辻褄が合っていないのに世界が合わせようとしなかった不思議な神ということになりますね」

「とりあえず、剣王を黙らせようか……ククク……」
健の言葉を遮り、マイは剣王を見るように顎で合図した。

剣王はどことなく苛立っており、身体から神力があふれ出ている。

「仕方ありません。平次郎!」
健は先ほどと同じように五芒星を書き、人形を召喚した。
倒れていたえぃこ、びぃこは光の粒になり消えた。
入れ替わりで現れた人形はまたも手のひらサイズで青い短い髪をした少年の人形だった。

「君は平次郎殿か」
剣王はその人形を知っているようだった。

「剣王、今回は我が主の頼みだ。そちらにはつかない」
平次郎と呼ばれた人形は堅苦しく剣王に答えた。

「なるほどねぇ。それがしがKの使いを借りる時、知らなかったが君の使いだったのか。契約書だけで顔を見ていなかったからわからなかったよ」
剣王はにやりと健を見て笑った。

「はい。私のです。あなたがよく使う、きぅ、りぅ、じぅの三姉妹ドールは私の妻の使いです」
「ほぉ……」
健と剣王の間で解決され、マナ達にはよくわからない会話だった。

この三姉妹ドールと平次郎に関してはサキが関わった事件で登場するため、その事件を知らないマナ達がわかるはずもない。

「なんだかわからないけど、皆!剣王を倒すよ!」
マナは剣王を黙らせるという強行を取ることにした。

「身の程知らずだねぇ。それがしは今、余裕はないぞ」
剣王から恐ろしいまでの剣気と神力が溢れだした。

二話

健の使いのドール、平次郎はきりっとした瞳でつまようじを構えて剣王に飛びかかった。

剣王は平次郎を弾き飛ばそうと刀を振りかぶった。目を疑いたくなるような光景が目の前で起こった。平次郎がなんとつまようじで刀を弾いたのだ。

「つまようじで刀を!?」
マナは驚いて目を見開いたが弾かれた剣王は顔色を変えなかった。さも当然な事のように再び刀を振りかぶる。

「娘、俺の後ろに」
平次郎が剣王の斬撃を重たそうに何度も弾きながら静かに言った。

「あ、う、うん」
マナは戸惑いながら平次郎の後ろへ移動する。
移動してから健とプラズマの元へ走った。

「健さん!プラズマさん!」
「マナ、俺達より剣王だ!」
プラズマがマナを後ろに送ってから剣王を指差した。

「う、うん」
「私が人形を強化しよう」
マナが唾を飲んで頷いた刹那、マイがいつの間にか不気味に笑いながら隣にいた。

「え?」
マナがマイに目を向けるとマイのまわりに白い光が回っていた。マイの手から光の糸が飛び、平次郎に絡まって消えた。

「……っ!」
光が消えてからすぐに反応をしたのは健だった。

「ふふ」
マイが笑った時、平次郎の動きがさらに速くなった。
それでも剣王にはまだ余裕がありそうだった。

「強い……。これじゃあ時間の問題だよ」
マナが心配そうに声をあげた。

「俺も頑張らないとな」
プラズマは怪我を負いながらも正確に弓を放っている。
動きを予測して放っているが全く当たらない。

「早いな……。演劇殺陣強化の糸を使っても勝てそうにない。マナ、剣王を弐の世界へ送ってまごついている間にさっさと逃げるのはどうだ?」
マイが戦況を見ながらマナに提案をした。

「え!私があの中に入り込まないといけないの!?」
マナは光しか見えない戦場を指差し叫んだ。

衝撃と重い音、風が渦巻いているが速すぎて実体が見えない。先程斬られた経験をしたマナは震えていた。行かなければと思うが気持ちがついていかず、足を縛る。

「もうそれしかないでしょう……。私は平次郎のサポートで精一杯です」
健がマナに小さく頷いた。

健は何もしていないように見えるが平次郎に何かをしているらしい。そういえば、健の足元にはずっと五芒星が回っていた。

「弐の世界に送るにはさっきのを思い出すと手を剣王の前で振り下ろす……。その前に斬り殺される可能性もあって……」

「マナ、なるだけのサポートはするから頑張れ!」
マナがうじうじつぶやいているとプラズマが弓を構えながら必死に叫んでいた。

「いいから行け!あの平次郎とかいう人形も長くはもたないぞ!剣王と渡り合える奴はそうそういねぇんだよ!」
プラズマはさらに追加で声をあげた。

「う、うん!」
マナは冷や汗をかきながらとりあえず走り出した。

「平次郎!マナさんを守れ!」
健が平次郎に命令を飛ばした。

「承知した」
平次郎は短く静かに答えるとつまようじを振りかぶった。
「そんなうまくいかせないよ」
剣王はまだまだ本気ではなさそうだ。ますます化け物感が増している。

「すごい力……。こんなの動けないよ……。でも、行かないと!」
マナはカチカチ震える歯を抑えながらとりあえずがむしゃらに戦いの渦に飛び込んでいった。

「ひっ!」
一瞬だけきらりと光る刀が見えた。斬られたと思ったが目の前に飛び込んできた平次郎に助けられた。つまようじが刀を弾く音が響く。

「守れる保証はない。早く用を済ませろ」
平次郎が早口でまくし立てた。

「もうやるしかなーい!」
マナは奇声を発しながら剣王に突進し、刀が迫るのを感じながら手を一本犠牲にする覚悟で手を斜めに切った。

「ちっ!」
剣王が呻いた。足元が白く光り、剣王は弐の世界に吸い込まれていった。

「はあはあ……ど、どうだ!ど、どうかな?」
マナは肩で息をしながらまず手があるかを確認した。振りかぶった右手は問題なくついていた。
剣王は弐の世界に消えた。

マナは安心したように息をつくと腰が抜けてその場に座り込んでしまった。

「ふぅ……って、え!?」
マナが地面に目を落とした時、無惨に倒れている平次郎を見つけた。

「平次郎さん!?」
「平次郎はマナさんをかばって斬られたようですね。大丈夫です。人形は死にませんから」
健が困惑していたマナを落ち着かせようと声をかけた。

「へ、平次郎さん……ごめんなさい……ありがとう」
マナが震える声で倒れている平次郎をすくいあげた。

平次郎は人間ならかなりの深手だったが平然と立ち上がった。マナの手のひらにちょこんと乗っている平次郎は
「問題ない」
とひとこと言うと健に目配せをしてから白い光に包まれ消えていった。

「ありがとう。平次郎。なんとかなりました」
健が安堵のため息をつきながら平次郎を労った。

「平次郎さん、ありがとう。おかげで生きてたよ」
ともあれ、なんとか剣王を退ける事ができた。
しかし、剣王はまたすぐに戻ってくるはずだ。剣王がKからKの使いを借りられる技を持っているからだ。

「とりあえず、今のうちにスサノオ様が言っていた神社に行こ!腰を抜かしている場合じゃない!」
「はあー、死にかけたのにハイだな……。ふう、無事だったのが奇跡だ……」
マナの意気込みにプラズマはため息をついた。

「あ、そういえば……」
剣王がいなくなってからアヤ達が倒れていることを思い出した。

マナは少し離れた所で倒れていたアヤと残りふたりの場所まで行った。

「アヤさんと……歴史神さん?」
顔を覗き込んでみるが起きている雰囲気はない。

マナの問いかけにも答えないので完璧に意識を失っている。よくみると気を失っているだけではなく、何か違和感だ。
なんというか呼吸のようなものがない。

「時間が止まってるんだな。動いているのは俺達と未来だけだ」
プラズマがこちらに向かってきてアヤ達の状態を確認する。

「時間が止まっている?未来だけ動いているってどういう状況!?」
「だから、未来だけ動いてるって事だよ」
「わからないよ!」
平然と答えるプラズマにマナは頭を抱えた。

「不思議ですね。風を受けたまま止まってます」
健は木々を眺めながら興味津々につぶやいた。

「この男、いい男だな。この男に一度、殴られてみたい。紳士の男ほどそそる」
マイは同じく意識を失っている狼夜をうっとり見つめていた。マナとプラズマはマイの言葉に少しゾッとしていた。

「あの、とりあえず彼らはここに置いといて行きます?」
健の言葉にプラズマが顔をひきつらせながら頷いた。

「そ、そうだな。アヤ達は気を失っている上にさらに時間が止まってる。起きないから置いてこう」

「なんでアヤさんがここにいるかわからないけど……アヤさんは平気だよね?」
マナはプラズマに心配そうに尋ねた。

「たぶん、平気だろ。それよりもスサノオが言ってたとこに行くのが先だ。剣王はすぐに出てくるぞ」
プラズマはそわそわしながら答えた。

「わかった。じゃあ、アヤさん達は置いていこう」

マナはアヤを一瞥するとなんとなく天守閣を眺めた。剣王が作り上げた城……この世界を守るという強い決意を感じた。

……私はこっちの神々の意見も尊重する……

うまくいくかはわからないが今、両方を背負っているマナには退くという文字はなかった。

三話

スサノオが指定した神社に行くために高天原から現世に行く事にした。
「あ、時間が止まっているなら鶴が呼べないな」
「問題ない。私は上部の弐を出せるし渡れる。私が出した世界から現世に行けばいい」
残念そうにうつむいたプラズマを横目で見ながらマイが薄い笑みを浮かべて言った。

「あ、私も弐を出せますし、渡れますよ?」
健も付け加えて提案した。そういえば健はワイズに捕まった時、弐を出して皆を逃がしたのだった。

「ああ、そうか。それでも現世に行けるのか」
プラズマは渋い顔をして近くの木によりかかった。

「では、私より健とかいうなよなよした男に任せる方が安全だろう」
「な、なよなよ……。ま、まあ、わかりました!私が弐を出して現世に連れていきます」
マイの言葉に少し傷つきながら健はため息混じりに言葉を発した。

「じゃあ、さっさと行こうか」
プラズマのかけ声で健が頷き先程と同じように弐を出現させた。

「なんか嫌な予感がするんだけど、行くしかないし」
マナは何かを感じとり顔をしかめていたが何があるか検討がつかなかったので考えるのをやめて弐に足を踏み入れた。
またネガフィルムが沢山絡まったようなものがある宇宙空間に出た。

「マッシー、またよろしく。今度は現世に」
健は胸ポケットに潜んでいたマッシーに声をかけた。

「はー、めんどくさっ。またやるのー?じゃあ、ドライイチゴちょうだいね?」
「わ、わかったから……」
マッシーは相変わらず不機嫌そうにしていた。健はなだめてマッシーを進ませる。

「ひとついいか?そのハムスターは時間の干渉を受けてないのか?」
「あ、そういえば……」
プラズマの疑問に健は首を傾げた。

「Kの使いだからとか?」
「そのなよ男が時間停止を受けていないからなのでは?先程、平次郎とかいう人形も動いていたが?」
マナの言葉にマイが答えた。

「お!そうかもしれないな。仕組みはわからんが。君、頭がきれるんだな」
プラズマはマイの意見に納得し、頷いた。

とりあえず、一同はマッシーを操り現世を目指した。
時間停止の影響か弐の世界もおかしかった。現在進行で動いていた人の心が停止しているためネガフィルム内の映像も停止している。
奇妙で不気味だ。もっともこの弐の世界も元々普通ではないが。

「もう着きますね。また図書館から現世入りする感じになります」
健は一同が動き始めてからすぐに到着を知らせた。

「早いな……」
あまりの早さに不安を覚えたプラズマは冷や汗をかきながらつぶやいた。

「世界が停止しているため、動きやすいですね。まあ、一部は動いているみたいですが」
健がちらちら辺りを見回しながらつぶやいた時、足が地面についた。

「地面だ」
マナは毎回の事、不思議に思いながら健の後を追って歩く。
健はマッシーを労い、ポケットに入れると図書館方面を指差した。

「あっちに歩いていくと人間の図書館につながります」
「じゃあ、さっさと行こうか。なんだか嫌な予感がするんだよ」
プラズマの言う嫌な予感とは何かわからないがマナもこれから起こることに対して嫌な予感がしていた。

……なんだか敵がいそうなそんな予感……明確にはわからないけど悪寒みたいな……

マナは唾を飲み込むと気合いを入れた。

しばらく霧の中を歩き、気がつくと本棚が沢山ある空間に出た。

本棚には本が一冊しかない。真っ白い本だ。この本は天記神という書庫の神が運営している図書館に通じる本だ。本を開くと弐の世界にある図書館に行ける。今回マナ達は逆をやったのだ。天記神の図書館がある空間から現世の図書館に戻ってきた。マナ達がいるこの場所は現世にある霊的空間なので人間には認知できない。霊的空間を出ると人間が使う図書館に出る。

「よし、現世まで来れた」
霊的空間を出ると突然賑やかになった。子供が絵本を読んでいるキッズスペースはいっぱいでなにか調べものをしている学生達は図書館にある机に熱心に向かっている。しかし、奇妙なことに人々は蝋人形のように全く動かない。

「不気味……」
「時間が止まってるからおかしなことになってるが無事にこちらに来れたな」
人間が使う図書館に出た所でプラズマはまず一息ついた。

「人が多い図書館だな。どこの図書館だ?」
「あ、鶴を呼べないからあの神社から遠い図書館だったらどうしよう?」

マイの言葉にマナは大切な事に気がついた。弐の世界にある天記神の図書館から現世の図書館はランダムだ。どこに飛ばされるかわからない。

「ま、まあ、出てから考えよう」
盲点だったと頭を抱えるマナにプラズマは顔をひきつらせて頷いた。

とりあえず外に出たマナ達は場所の確認のため駅前の地図を眺めた。この図書館は駅近にある図書館だった。駅前はごちゃごちゃ人が行き交っているが皆オブジェのように固まっている。うるさい環境だが音がまるでない。

「あ!ここ、あの学校がある近くの図書館だ!良かった!奇跡だ!」
マナは月影藤高校の文字を見つけた。この学校はマナが壱の世界に来た時、はじめてアヤとサキに会った場所だ。

「近かったか!良かった」
「マナさん、どこら辺に神社があるかわかりますか?」
喜ぶプラズマの横で健が辺りを見回しながら尋ねた。

「わかるよ。学校の屋上で見たの」
「じゃあ、さっさと行くぜ。さっきから誰かに見られてるような変な感覚がするんだよ」
プラズマは顔をしかめ、気配をうかがったがよくわからなかった。

「私も感じる。とりあえず行こうか」
マナも気持ち悪さを感じながら神社へと歩き出した。

四話

駅前から神社に向かい走った。神社は例の高校を真ん中に三角を描くように三つ存在していた。マナは眼鏡を外して駅前にある地図パネルを眺めるうちに伍の世界にあった病院前の地図にそっくりなことを発見した。

と、いうよりやっぱりそうかと思った。

「この三角の真ん中にあるのが病院か学校かの違いなだけ。でもこの神社は眼鏡を外さないと現れない。やっぱり伍の世界とリンクしてたんだ!」
マナは走りながら興奮した口調でプラズマ達に言った。

「確かにこの周辺見てると同じな気もするな。ところで、こっちでいいのか?」
駅前を通りすぎ、商店街を抜けた先に小さな公園があった。その小さな公園から先は道がない。そのまま山に繋がっているようだ。

「ここから先は獣道みたいですね?道があるかもわかりません」
健が首を傾げた。

「でも……」
マナは眼鏡を外した。辺りの景色、それとプラズマ達は一瞬で電子数字に変わった。マナの目には電子数字に変わった公園の先で鳥居が揺れていた。

「あそこに鳥居がある」
「鳥居ねー、俺はわかんないが」
プラズマは目を凝らして鳥居を見ようとしたが存在そのものを確認できなかった。
眼鏡を再びしたマナは獣道の先を指差した。

「あそこ……」

フェンスがあるので子供は入れそうにないがよく見ると網のフェンスが破れている所があり、中に入れそうだ。

「ふむ。悪ガキが網をねじ曲げて中に入り込んで遊んでたみたいだな」
マイがクスクス笑いながら腰をかがめて網を通った。

「おい!勝手に行くなよー」
プラズマは呆れた顔でウキウキ顔のマイを眺めた。

「なんだかここから先、嫌な予感がするんですけど……」
健は顔色悪くマナを見た。

「もう引き返せないから行くしかないよ」
怯えている健にビシッと言い放ったマナはマイに続きフェンスを潜った。

「仕方ないですねー」
健も観念してフェンスを潜る。プラズマも潜った。
嫌な予感はだんだん強くなってきた。山を登っていき、鳥居の前まで来た。マナは眼鏡を外して鳥居を確認する。

「やっぱりここに鳥居が……」
「あぶねぇ!」
そこまで言った時、突然プラズマがマナを突き飛ばした。

「うっ!?」
「なんだ!?火の玉!?」
マナは尻もちをつきながらプラズマを見上げた。

「ひのたま?」
マナがいた所を見るとなぜか焼け焦げていた。

「なんだかわかりませんがまた来ました!」
健が叫びながらえぃこ、びぃこを出現させた。えぃこ、びぃこは完全回復して現れた。そのまま魔法使いスタイルに変身すると飛んできた火の玉を弾いた。

「なんだ?火の玉か。魔法使いみたいだな。おもしろい」
マイだけはひとりケラケラと笑っていた。
マナは火の玉が飛んできた方向を探した。神の仕業のはずだが姿を確認できない。

「どっから飛んできた!?」
プラズマも探した。
「ネコだわ!ネコがいるわ!白い猫!」
えぃこが魔法の杖を握りながら叫んだ。

「ネコ!?」
嫌な予感がした。白い猫……。

「まさか、レール国の……」
健が白猫を見つけてつぶやくと白猫は男性になりマナ達を睨み付けた。
知らない者だったが線路を模した独特なエスニックの服装だったのでレール国の者とすぐにわかった。

「なんでレール国のやつが攻撃してくんだよ!だいたいなんで動いてやがる!」
プラズマは苛立ちながらレール国の男神に叫んだ。

「気を失っている者もいるが、我々はこの世界の秘密を知っている。だから動けるのだ。ラジオールはお前達を敵と判断した。我々はこちらを守る。それがこの世界の意思」
男神は平然と言い放った。

「畜生!お前らは見てるだけじゃなかったのかよ!剣王がやられたから出てきやがったのか?」
プラズマが掴みかかる勢いで男神を睨み付けた。

「我が軍の総大将クラウゼの采配だ」
「クラウゼさんの!?クラウゼさんは協力的だったはずなのに」
男神の発言にマナは悲鳴をあげた。

「この世界のシステムがお前らを止めろと言っている。クラウゼもそれに従ったにすぎない。こちらのKが世界改変を望んでいない」
男神は再び火の玉を出現させるとマナ達に向かい放った。

「えぃこ、びぃこ!」
健が叫び、えぃこ、びぃこが火の玉をシールドで弾いた。

「我々レール国の神々は本来は存在しなかった国の神々。Kが作った神々だ。我々はKと同じなのだ」
男神はさらに火の玉を出現させた。

「Kはこちらの世界を守るためにいる。裏切っているのは向こうのKのひとりとお前だけだ」
男神は健を指差しハッキリとそう言った。

「レール国の奴らは神のシステムコードとKのシステムコード、両方で動くのか」
プラズマが霊的武器の弓を構えながら苦々しくつぶやいた。

「とりあえず、倒さないといけないみたいだな」
マイはマナに狂気的に笑いかけた。
「う、うん。倒すっていうか……弐の世界に飛ばそうか」
マナは戸惑いながらマイに答えた。

五話

レールの男神はやや本気で火の玉を飛ばしてきている。
火の神なのか?

「くそー、当たらないな……」
プラズマは男神の動きを鈍らせようと必死に弓を放つがなかなか当たらない。
男神は軽やかに飛んでくる矢を避けている。さすがは猫になれるレール神と言ったところか。

「あんまりレールの神々とは戦いたくないですけど、仕方ないですねー。えぃこ、びぃこ、プラズマさんに加勢です」
「はーい」
「仕方ないなー」
健の掛け声でえぃこ、びぃこが動き出した。

「では、私も」
飛び出したえぃこ、びぃこにマイが先程と同じように糸を飛ばした。

動きがさらに良くなったえぃこ、びぃこは拳法家スタイルに変身すると男神に拳を突き出した。
男神は火を扱うだけなのかえぃこ、びぃこの攻撃に上手く耐えられないようだった。小さい身体のどこにそんな力があるのか拳を繰り出す度に衝撃波が飛ぶ。

「ちっ」
男神は舌打ちするとえぃこ、びぃこに炎を飛ばし始めた。

「弐に飛ばさなくてもいけるかもしれないっ」
マナは男神の横を走り抜けた。

「ああ、そこの人形に任せとけばいけそうだな」
プラズマもマナに習って走った。

「私はここで彼を抑えますので先に行ってください!」
「私もここに残る」
健とマイは男神と対峙しながらマナとプラズマに叫んだ。

「わ、わかった!また、戻ってくるから!」
マナはそう叫び返すと鳥居に向かって走った。

「ほんとに神社があるのかよ!?」
プラズマが疑惑の目でマナを見る。
「ある!目の前に!」
マナの目にははっきりと鳥居が見えていた。鳥居は目の前に堂々とあった。伍の世界で見たものと同じだ。

マナは迷わず鳥居を潜った。生暖かい風がマナの横を唐突に通りすぎる。マナにははっきりとわかった。この生暖かい風はこちらの世界にある自然的で気持ちの良い風ではない。馴染みのある風。ここは伍の世界であると。

「うっ」
隣でプラズマが呻いていた。

「プラズマさん。ここは伍の世界みたい」
マナは目の前にある社を見上げながらつぶやいた。賽銭箱がなく、何も感じられない神社。
歴史的な建物としてかろうじて残っている神社。

「それでか……身体が鉛のように重い……動かねぇ……。しかし、ほんとにあったんだな」
プラズマは今にも意識を失いそうだった。そのプラズマの目にもやっと神社が映った。後ろには鳥居も見える。

「そういえば伍の世界でのスサノオ様の神社には行ってないよね」
「ああ、確かな」
立派な神社だったが悲しいことに威厳や雄大さは特にない。神様が普段からいないからだ。

「よう!やっと来たか!」
マナとプラズマの後ろから楽しそうなスサノオの声がした。

「!」
マナとプラズマは後ろを振り向いた。すぐ後ろにスサノオが笑みを浮かべて立っていた。

「楔がなくなったから伍の世界が一部繋がったんだ。神社だけこちらに食い込んだらしいな!で、これをやる」
スサノオがにやりと口角をあげるとマナの手に突然何かを乗せた。

「!?何?」
マナは手のひらをまじまじと見つめた。形容しがたいものが手に乗っていた。データの塊のようなものだ。沢山の電子数字が休むことなく違う数字を映し出している。

「これはこっちの世界のシステムに入れる鍵だ。常に変動している。こちらの世界に入れた時、俺は何故かこいつを持っていた。お前にやるよ。たぶんだが、ツクヨミも持っているはずだ。アマテラスは鍵穴を持っているだろう。日本だけのシステムデータだが世界を変えるなら全世界を改変する必要がある。日本だけを変えてもいいが、それは任せる」

スサノオは楽しそうに笑っていた。この深刻な状況を楽しんでいる顔だ。

「こ、これはどうやって持ってれば……」
マナがそう言いかけた時、電子数字のデータがマナの中にすうっと吸い込まれていった。

「入った!?」
「お前自身が鍵になるんだよ」
戸惑うマナにスサノオは笑いながら答えた。

「鍵?」
「ま、とにかくさっさとツクヨミんとこ行け。それからアマノミナヌシによろしく言ってくれ」
「え?」
マナが聞き返そうとしたがスサノオは早く行けと顎で合図した。

「用は終わったな。マナ、行くぞ。健達が心配だ」
プラズマがマナを引っ張ったのでマナはプラズマに従い神社をあとにした。プラズマは早く伍の世界から元の世界に戻りたかったらしい。マナも他に聞きたいことがあったが今はやめた。

六話

神社を出て鳥居を潜るとプラズマの身体がとたんに軽くなった。
そして鳥居も何も見えなくなった。

「あー、しんどかった……」
「そんなに変わる?」
「変わる……。とりあえず急ごうぜ!」
プラズマはマナを引っ張ると山道を駆け降りた。

フェンス付近に戻ると健が手を振っていた。隣で木に縛り付けられて気を失っているレールの男神がいた。どうやら勝ったらしい。マイの糸にグルグルに巻かれていた。

「勝ったのか!」
「勝ちました。えぃこ、びぃこは戻しています。またすぐ出せますよ」
健は安堵の息をもらしながら答えた。

「皆無事で良かった」
「で?スサノオとやらの神社に行ってなんかあったのか?」
顔が少しゆるんだマナにマイが楽しそうに尋ねた。この狂気にも似た笑みはどことなくスサノオに似ている気もする。

「えーと、世界のシステムに入れる鍵をもらったよ。今度はツクヨミ様の神社にいかないといけなくなったの」
「ツクヨミか。しかし、またレールのやつらは襲ってきそうだな。な?」
何が楽しいのかマイはケタケタ笑っていた。

「怖いけど行くしかないよね……」
マナはため息をつくと歩きだした。

「そっちなのか?」
「うん。こっち」
マナの進む方向に一同は素直に歩きだした。

「ツクヨミの神社には俺も一度行ったんだ」
プラズマが歩きながら健とマイにつぶやいた。

「伍の世界の神社か、気になるな」
「何にもなかった。本当に文字通りだ。何にもなかった」
プラズマは興味津々なマイにそう言うと足元の小石を蹴った。

公園を抜けて先程の道を戻る。

商店街を抜けて例の高校を通りすぎた。

「たぶん、もうすぐツクヨミ様の神社だよ」
学校を通りすぎると大きな遊歩道に出た。真ん中に水の流れる人口の川が流れており芝はきれいに刈られていた。しかし、楽しそうな親子連れは笑ったまま銅像のように止まっている。

「やっぱり不気味ですね……」
健が顔をしかめた時、また変な気配がした。

「もう少し先に鳥居が見えるけど……なんかまた嫌な予感」
マナがつぶやいた刹那、今度は水弾が勢いよく飛んできた。

「あぶねぇ!」
プラズマはマナに叫んだ。マナがハッと振り向いた時、顔すれすれに鉄砲玉のような水弾が通りすぎた。気がついた時にはマナの頬から血がたらたらと流れていた。
水弾は近くの建物に当たり壁を破壊した。

「ひっ!」

「恨みはないのよ。でもラジオールのクラウゼの指示だから。男達は女のあんたに本気でかかれないみたいだからあたしがやるわ」
近くの木の影から女神が飛び出した。エスニックな服装に線路をイメージしたデザイン。またもレール国の神だ。

「またか……」
プラズマがため息をついた。

「仕方ありません。えぃこ、びぃこ!またよろしくお願いします」
健は再びえぃこ、びぃこを出現させた。

「また、私達で食い止めるか。楽しいな!屍を越えて行け。一度やってみたかった」
マイは相変わらず楽しそうに戦闘力向上の糸を出すとえぃこ、びぃこに巻き付けた。

「いや、死にたくないですが……マナさん、プラズマさん、行ってください!」
「ありがとう!死なないで!」
マナは健に叫ぶと女神の横をすり抜けるタイミングをうかがった。

「あの子、強そうだ!」
「強いわねー」
びぃこ、えぃこは相手の強さに気合いをいれていた。

女神は水弾を大量に出現させると手を指揮者のように振り飛ばしてきた。水弾は生き物のように女神の手の動きに合わせて飛んできている。水の神なのか?

魔法使いスタイルに変わったえぃこ、びぃこはシールドを出すと水弾を弾いた。

それでも完全には弾ききれず、マナ達を襲った。先程の火の男神とは大違いだった。レール国の女神は手加減をしない。

「きゃっ!」
「ちっ!こいつは厄介だ」
当たったら蜂の巣になるほどの威力だ。
とてもじゃないが先には進めそうにない。

「どうしよう……」
マナは焦りを見せながらどうしようか考えた。

「私がなんとかしよう」
ふとマイが隣りでつぶやいた。

「まさか犠牲になるわけじゃないよね?マイさん」
マナは顔色悪く尋ねた。この神はやりかねない。

「問題ない。そんなことをする必要すらない。あの神は足元を見ていない……くくっ」
マイは不気味に笑うと地面に手を置いた。

「っ……!?」
マイが地面に手を置いてすぐに女神が驚いた顔をした。

「しっかり足元も見ないとな。くくく……」
マイが地面から手を放して上に思い切り振り上げると女神の身体が宙に浮いた。
よく見ると足首に糸が巻き付けられている。

「ひっ!」
女神は悲鳴をあげながら地面に叩きつけられた。

「いまだ!」
マナはプラズマに合図をすると一点を見つめて走り出した。一瞬の勝負だった。女神はすばやく立ち上がるとまた水弾を飛ばし始めた。マナめがけて打った弾はえぃこ、びぃこが素早く飛び上がりシールドを張って防いだ。

「逃がさないわっ!」
女神は追いかけようと足を踏み出したが足が全く動かなかった。

「隙がありすぎだな。自分の力を過信してるのか。足元をみるがいい。くくくっ」
マイに笑われ、女神は慌てて足元を見る。足首に沢山の糸が絡みついている。

「なんてこと!」
女神は怒りの声をあげるとマイ達を睨み付けた。
女神の強い気配を背中で感じながら無事を祈ってマナとプラズマは遊歩道を駆け抜けた。

七話

マナとプラズマは遊歩道を抜けてすぐの階段をのぼっていた。
「また、鳥居がこの先にあるのか?」
プラズマは半信半疑のままマナに先程と同じ質問をした。

「ある。眼鏡を外すと見えるよ」
「その眼鏡、やっぱ不思議だな」
前を見据えたままのマナにプラズマはため息混じりに答えた。
黙々と階段をのぼるとプラズマに再び重圧がかかった。

「うぐっ……」
あっという間に息が上がり、気を失いそうになる。
プラズマが肩で息をしながら振り向くとそこには伍の世界にあったあの鳥居があった。

「ほんとに見えないんだな。向こうの世界だと……」
目の前には伍の世界で行ったあのツクヨミ神の神社が堂々と建っていた。雄大だがどこかぽっかりと穴があいているあの神社。

「いらっしゃい。鍵を取りに来たのかな?」
ふと声がかかった。声がした方を向くと目の前でホログラムのように人影が現れ、紫の長い髪が揺れていた。

「ツクヨミ様!」
「お久しぶり?かな。鍵ならあげるよ。君を見守ってみることにしたんだ。アマノミナヌシによろしくね」
ツクヨミはスサノオと同じ言葉を発した。

「あ、あの、そのアマノミナヌシっていうのはなんですか?」
マナが不思議に思っていた事を尋ねてみた。
ツクヨミは軽く首をかしげると少し考えて答えた。

「この世界のシステムだよ。日本ではアマノミナヌシ神と呼んでいるけど、他の国ではたぶん違う。アマノミナヌシは世界を創ったとされる神で人型をとってなくて男女もなく、実態すらないってのは古典とか日本神話で習わなかったかな?」

「知らない……」
「まあ、つまりは世界のシステムだけど人間がそれを神だとしたから神という姿をとったってところかな。ほんとはデータの塊だよ」
ツクヨミはため息混じりにマナ達に答えた。

「そうなんだ……」
「まあ、とにかく頑張ってね」
ツクヨミは話を切り上げてマナ達の背中を押した。

ツクヨミが社から消えてしまったのでマナ達も神社を出るしかなかった。

マナとプラズマは健とマイの場所まで戻ることにした。あの女神はさっきの火の神と比べるとかなり厄介だ。場合によっては助太刀するつもりだった。
マナ達が戻るとマイが女神を縛り上げていた。健がへなへなとその場に座っている。

「だ、大丈夫!?」
マナは焦りながら健の元へ走った。

「も、問題ありません。強くて腰がぬけましたー」
健はのんきな声で答えた。

「ちぃっ!しくったわ!」
女神がマナ達を睨んでいたがここは仕方がない。そのまま縛っておくことにした。女神のわめく声を聞きながら健に肩を貸して一同は歩きだした。

「ああ、もう大丈夫です。ありがとうございます」
しばらくプラズマが肩を貸して歩いていたが健が自分で歩き出したため腕を離した。

「腰抜かしただけか、しっかりしろよー」
プラズマはため息をつくとマナを見た。マナは眼鏡を外しながらプラズマ達には見えない鳥居の位置を確認している。

「最後はアマテラス大神の神社か」
プラズマに問われマナが頷いた。

「この道の先に鳥居が見えるからもう少し」
「しかし、アマテラスは本当にいるのだな。概念に成り果てたのだとばかり思ったぞ」
マイが興味深そうにマナの見ている方向を見つめるがマイには何も見えない。

「いるよ。きれいな神様だよ」
「ほう」
「待て。おいおい今回の刺客はあんたかよ」
プラズマが突然会話を切り、道路に立ちふさがる神物を睨み付けた。

「えっ……クラウゼさん」
「ラジオールの意思で私達を攻撃してきたのなら最後に騎士神団長の彼が出てくるのもおかしくはないですね」
まるで鳥居を守るかのようにクラウゼが道路の真ん中に立っていた。

「お前達の手助けをするつもりが真逆の状態になってしまった。すまない」
クラウゼは申し訳なさそうな顔をしていたが先程までの神々のように攻撃的な雰囲気だった。

その神力は他の神とは比べ物にならないほど強く、先程の女神を遥かに超えていた。

「こりゃあ一筋縄じゃいかないよな……」
プラズマは冷や汗をかきながら弓を手から出現させた。マイ、健も戦う姿勢を見せ、クラウゼの出方をうかがっていた。

クラウゼは手に持った杖を空へかざした。五芳星がクラウゼの背中辺りから現れ、なぜか雷が集まってきていた。

「こりゃやべぇぞ!」
プラズマが叫んだ刹那、恐ろしいほどの閃光と大地を割るような雷が蛇のようにうねりながら襲ってきた。尋常ではない雷の量だ。

「きゃっ!」
「いったんどこかへっ……」
健がそう口を開こうとした時、雷がプラズマに直撃した。

「ぐあっ!」
「プラズマさん!」
マナはプラズマの元へ走った。プラズマは血を吐き苦しそうにもがいていた。焼け焦げた体を見てマナはクラウゼは本気だと思い震えた。

「えぃこ、びぃこ、平次郎!」
健は慌ててドールを召喚する。マイも戦闘力向上の糸をすばやく巻き付けた。
えぃこ、びぃこは魔法使いスタイルに変身し、平次郎はそのままクラウゼに向かっていく。

「マナさん!これは厳しいです!なんとかして先に行ってください!」
「そうだな。お前が行ったら我々は逃げるとしよう。くくく……」
健とマイはなんとかしてクラウゼを抑えることに決めた。

「プラズマさんがっ!!」
「彼は生きています!大丈夫!だいたいラジオールに時神を殺す事も私達を殺すこともできるわけないんですから、私達がいなくなったら大変ですし、まずやりません。しかし、あなたは違います。的はあなただけなんですよ!」
健に言われてマナは決意を固めた。

……そうだ。こうなるかもしれないことはわかっていた。むしろ、こうなるのは当然だ。皆を巻き込んで無理させたのは私。
クラウゼさんを私だけに向けさせてもう皆を解放してもいい。
私がアマテラス様のところまで行ければそれでいいんだ!
健さんの言うとおり、的は私だけだ。

「私は死ぬかもしれないけど、行くしかないんだ!プラズマさん、後で絶対戻ってくるから!」
マナは気を失ってしまっているプラズマにそう叫ぶと走り出した。

……クラウゼさんの横を絶対抜ける!

雷は先程よりも激しく襲ってきている。平次郎とえぃこ、びぃこは必死にマイや健、プラズマを守っていてマナまでは手がまわっていない。ここは自分が頼りになる。
決死の覚悟で走り抜け、クラウゼを押し倒す勢いで突進した。

「はあああ!!」
マナはクラウゼにぶつかっていったがクラウゼはきれいにマナをかわした。そのまま手を取りマナを地面に叩きつけた。

「んぐっ!!」
息の詰まる声が出て痛みに悶えているとクラウゼは指に小さな雷を発生させていた。
雷はやがて鋭利な針へ変わった。クラウゼはそれをマナの額すれすれにかざし、脅した。

「いますぐに世界の改変をやめなければ脳天を撃ち抜く。お前が消えることはラジオールが望む事だ」
「……っ」
マナはクラウゼの冷えた声を耳に入れながら逃げ道を必死で探した。

……もう少し、もう少しで神社なのに……

マナの目には彼女を待つように立っている鳥居が見えていた。

八話

「隙ありだな」
マナに目がいっていたクラウゼにマイが糸を飛ばした。クラウゼは糸を避けようとしたが突然横をすり抜けた矢に動くのを止め、糸が絡まった。
「湯瀬プラズマ……」
「さ、さっさと……行け……」
今にも倒れそうになっているプラズマが血が滴る弓矢を構えマナに走るように合図した。
「プラズマさん!ありがとう!」
マナはプラズマが意識を取り戻した事に一瞬だけほっとすると起き上がって走り出した。
「逃がさん」
クラウゼは的確に強烈な雷を飛ばすと糸、そしてマイ達を蹴散らした。
「ぐっ……やたらと強い……」
かろうじてかわしたマイが苦笑いをしながらクラウゼを見つめていた。
「あぐっ……」
マナは突然の激痛に呻いた。針のように物体化した雷が太腿を貫通していた。血が滲む。
幸い深くは入っていない。
「足が……行くしかない!」
マナは半分足を引きずりながら鳥居へ続く階段を登りはじめた。
「逃がさん」
クラウゼがマナを追って走り出した。まるで鬼ごっこのようにクラウゼがマナを追いかけ階段を登る。
「もっと、もっと早くっ!追い付かれるっ!」
マナは鳥居へ転がり込むように入った。クラウゼも躊躇いなく入り込んできた。
「もう何もするな!やめろ!さっきは致命傷にならないよう外してやったんだ。頼むからやめてくれ!」
「ご、ごめんなさい……はあはあ……もう退けないの……」
クラウゼの怒号にマナは痛みに耐えながら力なく言い放った。
クラウゼは伍の世界に入り込んでも苦しそうではなかった。
一度なんだかわからずに伍に取り残されていた時、普通にそういえば話していたのを思い出した。
「現人神、マナ。扉を開けにきたのですね 」
すぅっとマナの後ろに実態が浮かび上がった。
「アマテラス……大神……」
マナとクラウゼはほぼ同時に声をあげた。
ツクヨミ神、スサノオ尊と同じ紫色の長い髪、頭には太陽の王冠。
堂々とした美しい女性、アマテラス大神がいた。
「扉を開けなさい。あなたがアマノミナヌシを説得できるのか試してみたいです。この扉は弐の世界の深部、コアの部分付近に行く事ができる扉です。あなたに渡しましょう」
「アマテラス様、お待ち下さい!我々ラジオールはKの意思!こちらの世界の真髄でもある!それを無視なさるのか!」
クラウゼがアマテラス大神に必死に叫んだ。レール国はこちらと伍を結んでおり、Kである者達の想像の国。世界のK達はこの世界の統合を望んでいない。
こちらに来たいと望んでいるのは伍の世界の日本のK、ケイだけだ。
「わたくし、アマテラス大神、わたくしもKのデータを持っておりますわ。わたくしも伍の世界の干渉を望みます。元々すべての者を救うそういうデータを持つ神です」
「それでは矛盾が生じる!どの者達も境遇が違う!皆救うのは無理だ!」
クラウゼが珍しく感情を表に出し叫んだ。
「それはわかっております。しかし、わたくしはそういう神なのです。伍の世界の者が苦しんでいる、それを救おうとしてしまうのがわたくしの力。反対にこちらの世界を救おうとしてしまうのもわたくしの力。この矛盾は仕方なく、わたくしはわたくしの救済の気持ちを信じます」
アマテラス大神は迷いなくクラウゼを見据えた。これが上に立つ大物の神だ。迷いなど元からない神の目だ。
「俺は認めない。ラジオールからの命令は無視できない」
「ではわたくしとは相反します。しかし、あなたは元々マナの手助けをする予定ではなかったのですか?」
「状況が変わったんだ。こちらのKが向こうとの接触をよく思っていない。ルフィニが世界の終わりを予言したんだ」
悪い方向を予言する神、黒猫になれるルフィニールフェンルーナル神だ。マナ達も一度会っている。
「そうですか。いよいよですね。マナさん、扉を開きなさい」
「アマテラス様!」
アマテラス大神の言葉を遮るようにクラウゼが叫んだ。
「クラウゼさん、ではあなたも扉の向こうへ行きなさい。もし、あなたの判断がマナさんの行動を良しとしないのならマナさんを止めれば良いのです。それと……そこに隠れているあなた達も一緒に行かれては?」
アマテラス大神は鳥居の裏に隠れていたプラズマ達に目を向けた。
「バレてたか……残念だが俺は無理だ。そこの雷男にやられて動けない」
プラズマはクラウゼを睨み付けながら苦い顔で言った。
「私はここにいる。そんな大きな判断、私には到底無理だ」
隣にいたマイもアマテラス大神を珍しそうに眺めながらプラズマに頷いた。
「あ、私は行きますね。気になるので」
さらにマイの後ろから顔を出した健が呑気な顔で言った。
それを聞きながらクラウゼは軽く震えていた。世界改変という大きな事をやろうとしている少女を生かすか殺すかの判断の重みが自分の腕に乗っかったのだ。
ラジオールの、Kの判断を信じて動くべきか不思議と迷い出した。
しかし、ならば行くしかないと思い直した。
「わかった。マナの判断が気に入らなかった場合、俺は戦う」
「クラウゼさん……」
マナにも同じように重圧がかかるがマナは自分を信じるしかなかった。
「アマテラス大神は力がありすぎる。故に意見を押し通せない。それはよくわかった。意見を押し通したら独裁になり、アマテラス大神の力が皆を救うという力ではなくなってしまう。だからほぼ傍観しかできないのだ」
クラウゼがアマテラス大神を見上げそう言った。
「……」
アマテラス大神は何も言わなかった。
「まあいい。その扉とやらを開いてほしい」
クラウゼがマナを横目で見ながら命じた。
「では、わたくしが扉を出現させましょう」
アマテラス大神はにこりと微笑むと神社の社内をじっと見つめた。

九話

アマテラス大神の瞳が黄色に輝く。これはこちらの世界でエラーが出ていたマナが見せた瞳の色と同じだった。
それを確認したのは健だけだ。
「アマテラスさんの瞳が……」
そう言いかけた健はふと振り向いたアマテラス大神と目が合った。
「健さん……『あや』さんのお父様。あなたの娘さんはただいま重要なプログラムが作動しました」
「えっ!?」
アマテラス大神からの突然の発言に健は頭が真っ白になった。
「ああ、大丈夫ですわ。弐の世界のリョウの所にいらっしゃるだけです」
「なんでリョウさんの所に?」
「楔が時神アヤさん、歴史神ナオさん、ヒメさん、芸術神マイさんだけではないということですわ。日本のみの話ですが、改変のプログラムが入っているわたくし達アマテラス、スサノオ、ツクヨミの他、別の国で想像された時刻の神クロノスを日本人が独自の想像で創った日本のクロノス、リョウ。その他カオス時に出現したとされる神々を繋いでいるのが時神アヤさんの原型、あなたの娘のあやさんです。別れていた私達が集まったことにより裏の楔が抜けました。日本のワールドシステムが開いてしまったので他の国のワールドシステムが干渉してこないようにリョウとあやさんが日本のみの時間を止めても世界に辻褄が合うよう調節しています」
「私の娘にそんな力が……」
健はただ口をぽかんと開けたままアマテラス大神の話を聞いていた。以前マナが眼鏡を外して健の娘、あやの事を言っていたのを思い出した。
「では、社内へお入りください。扉はあります。マナさんが持っている鍵で開けてください」
アマテラス大神は健から目をそらすとマナに目を向けた。
「はい」
マナは素直に頷き、まわりを見ずに社に手をかざした。マナには社の前に鏡のような扉が見えていた。
「マナ、世界にやられるなよ」
ふとプラズマがマナに言葉を発した。マナは振り向くと一言「うん」と頷いた。
振り向かずに進もうと決意をしていたマナは冷たい、冷酷な顔をしていた。ここまでで覚悟は決まった。自分の信じたものを通すなら冷えた感情の方がいいとそう思った。
足を雷に貫かれても平気になった。
かざした手が鏡に吸い込まれていく。電子数字が飛び散り、ケイにすすめられてはじめてパソコンから入り込んだ時のような感覚に襲われた。
「とりあえず、リョウの世界に飛べますから」
アマテラス大神はそう言って微笑んだ。マナが吸い込まれて行ったので健とクラウゼも慌てて鏡に入り込んだ。プラズマとマイはアマテラス大神と社を眺めながらその場に佇んでいた。

マナ達はリョウの世界とやらに飛んだ。電子数字で分解された体がまた元の身体に戻る。分解されて戻ると雷でうけた傷がすっかり治っていた。もうその時点でマナは自分が本当に人間ではないことを実感した。体が電子数字で再構築され正常な元の状態に戻ったということだ。
おまけにこの世界に順応させるためのプログラムまで頭に入ってきた。正直、今は邪魔だ。こちらの世界は何がしたいのかマナを止めたり進めたりする。
リョウの世界とやらは満月がきれいな海辺の世界だった。
月が海に照らされて美しいが現世でみたような時間停止が行われている。海から寄せる波が中途半端で止まっていた。
「奇妙な世界だな」
クラウゼが辺りを不気味に眺めながらつぶやいた。
「不思議な世界ですね」
健も少し先にある海岸を首をかしげながら見ていた。
「ぱぱ!」
「?」
いつの間にか健の目の前に小さな女の子が立っていた。
その女の子は時神アヤにそっくりだったがアヤと比べるとかなり幼い。
「あやちゃん!」
健は急にデレた顔をすると女の子を抱きしめながら頬をグリグリこすりはじめた。
「アヤさんにそっくり……。健さんの娘さん?だよね」
「あなた達は……」
マナが尋ねると健の娘あやが聡明なまなざしで聞き返してきた。
「あ、私はマナ」
マナはとりあえず名前だけ言った。その後、クラウゼも名乗る。
「俺はクラウゼだ」
「あーっ!」
クラウゼはあやの手をとると甲にキスをした。レール国の女性に対する挨拶だったが健は悲鳴を上げた。
「あやちゃんにチュウを……。チュッチュするのは俺だけ……なのに」
健はビジネス言語であった丁寧語を簡単に捨てて肩を落とした。
「なんか賑やかだね。マナ、ここまで来るとは思わなかったよ。世界は君を生かしたいのか殺したいのかわからないね」
近くの木から少年の声が聞こえた。木を見上げると太い枝にリョウが座ってこちらを見ていた。
「リョウさん……私は私で進むよ」
もう何を言われても怖くなかった。
「そうか。でもね、そんな簡単じゃないよ。剣王が来る。世界は相変わらずどっちつかずだ」
「剣王……」
リョウの言葉にマナは軽く苛立ちを覚えた。
……どうして邪魔をするの?
私はこちらも向こうも救うと言っているのに!
よく考えるとどっちつかずの者とマナの敵になる者しかおらず、こちらの世界では味方が存在していないことに気がついた。
……でも、私はこちらの世界に入り込めた。おまけに向こうの神々は味方をしている。一体、なんなんだ。
私にどうしてほしいの?世界……。
アマノミナヌシ神。

十話

クロノス、リョウがゆっくり顔を海側に向けた。
「来たよ」
そして静かにつぶやいた。

マナ達は高い神力に押し潰されそうになったが先程のリョウの言葉を思い出し、顔をあげて現れた神を見据える。

「剣王……」
マナは現れた神の影を睨みつけながら小さく唸った。

「ついにここまで来るとはねぇ」
現れた剣王はひどく冷たい目をしていた。
彼は弐の世界に飛ばしたはずだが平然とここに現れた。

「ああ、そうでした。この世界も弐の世界でしたね。弐の世界を渡って来たんですか?」
神力をあまり感じていない健がのんきに尋ねた。

「弐に飛ばされた後、それがしに賛同したKから弐を渡れるKの使いを借りただけだ」
「なるほど、まあ、一般的なKはこちらを守ろうとしているんでしょうね」
剣王に健は頷きながら答えた。

「剣王、私を止めに来ても意味ないよ。私はもう決めたから」
マナは冷や汗をかきながら剣王を見据えた。剣王は恐ろしいほどに冷酷な表情で見下ろしていた。

「次は逃がさない。それがしはこちらを守る番神だからねぇ。脅威は取り払わないと」
「そ、そんな簡単に死ぬわけにはいかない」
マナがそう言い放った刹那、剣王が抜いた刀がマナをかすめた。
マナは偶然避けるとその場に尻餅をついた。

「うっ……」
マナは呻きながら剣王を見上げた。

「お前……」
驚く剣王の声が聞こえた。マナは剣王が自分の腹辺りを見つめていることに気がつき咄嗟に腹に目を向けた。

「なっ!!」
マナは目を見開いて自分の腹を触った。運良く避けられたと思ったのは間違いで剣王は外してなどいなかった。自分の腹は真っ二つに斬られていた。しかし、痛みはなく、なぜか斬れてもいない。

どういう状態なのかマナも判断がつきにくかったが電子数字の淡い緑の燐光が腹を繋いでいる。

「お前……血はどうした……」
動揺の色を見せた剣王はマナに小さく尋ねた。

「……なんで?これ、何?」
マナが説明できるわけもなく、困惑しながら剣王を見返した。
斬られたと思われる腹からは緑の燐光と同時に電子数字が血の代わりに下に静かに落ちている。

「マナさん!?」
健が世にも奇妙な現象に目を丸くしながらとりあえず名前を呼んでいた。その後、「あ、あの……傷が……」と怯えた表情で問うのでマナは恐る恐る腹を触る。

「塞がってる……」
気がついた時には電子数字は消えて元に戻っていた。

「ちっ……」
剣王は明らかな舌打ちをしてイラついていた。

「マナさん、あなたはアマノミナヌシ神のデータを……」
「え?何?」
黙って見ていた健の娘あやがマナをなめるように眺めはじめた。
「アマノミナヌシか。レール国だとラマァヤル神と言う。なぜ、お前がそのデータを持っている?」
あやの発言にクラウゼの目がゆっくり細められた。

「し、知らない!知らないよ」
マナは突然まくし立てられて戸惑いながら否定した。

「……なるほど、未来が変わったようだね。アマノミナヌシ神はマナちゃんに協力するようだ。逆にマナちゃんに協力しない神々もアマノミナヌシ神が力を貸している」
「!?」
ひとみが金色に輝き出したリョウがマナをじっと見据えて何かを見ていた。少し先の未来を見ているようだ。

「クラウゼ君。今すぐマナちゃんを守れ」
リョウが立ち尽くしていたクラウゼに突然言い放った。

「なんだと!」
クラウゼは当然ながら動揺の声をあげた。

「現在の彼女は人間の中に埋め込まれたアマノミナヌシ神だ。いつそのデータをもらったのかわからないけどマナちゃんは世界の行く道を示している。だが、世界は単純じゃあない。現段階で世界改変を望まない者がいる。まあ、それもアマノミナヌシ神のデータ。つまり、天秤だ。世界は真ん中だ。まだマナちゃんを消させるわけにはいかない。だから先にアマノミナヌシ神にコンタクトをとれた者の勝ちだ」

リョウはきっぱりとそう言った。

「ちょっと待て!俺はマナに加担するわけではないぞ」
クラウゼは慌てて声をあげた。
「それはわかっているけど、ここでマナちゃんが負けるのはよろしくないんだ。なぜかと言うとアマノミナヌシ神がマナちゃんにも力を貸しているからだよ。世界はまだ迷っているようだ。結論が出ていない」
リョウは少し先の未来を見据えて話をしているようだった。

「で、剣王の方はこのままを望むアマノミナヌシ神のデータがあるわけか」
「そういうこと。やっぱ簡単じゃない」
クラウゼの言葉にリョウは軽く頷いた。

十一話

剣王が神力を爆発させた。あまりの剣気にマナは動くどころか声も出なかった。
「クラウゼ君!来るよ!」
「ちっ!」
リョウに半ばごり押しされたクラウゼは舌打ちをしながらマナの前に入り込み、結界を張った。

「バーナス・エレクト!」
そのまま呪文を口にし、剣王に向かって直線的な雷を放った。
雷は地面を裂いて剣王に直撃するが剣王は神力を刀に乗せ雷を弾いた。耳を塞ぎたくなるような爆発音が響き、地鳴りまでした。

「なんで俺が剣王と戦わなくてはならない……」
ため息をついたクラウゼは飛びかかってきた剣王の刀を杖で流す。

「君は強いねぇ」
剣王が攻撃を加えながら不気味に笑っていた。
「一応武神でもあるからな」
「そうかぁ。武神かぁ」
のんきな会話をしているが実際は目に見えないくらいの早さで剣と杖が動いている。ぶつかる事はなく、お互いが流しあっていた。その衝撃と風がマナ達を襲い、リョウが結界を張ってかろうじて立っていられている。

「あ、あの……私は一体どうすればっ……」
マナが恐る恐るリョウに尋ねた。

「アマノミナヌシ神のデータに入りたいならおそらく時神が必要だ。日本の、しかもこのTOKIの世界にしかいない三人の時神だ。僕はアマノミナヌシ神のシステムを観察している神なだけで日本のシステムを開く権限はない。現在、それに気がついたワイズが過去神を拘束したようだ」

「待って!じゃあこの世界はなんだったの?扉を開いたのに!」
リョウの言葉にマナは必死に叫んだ。

「この世界は弐の世界内にあるアマノミナヌシ神のバックアップの世界だよ。僕と特殊なKであるあやちゃんがバックアップを一時止めている状態だ。この状況のバックアップをとられるとアマノミナヌシ神とバックアップがすれ違うからね」
リョウは頬から冷や汗がつたっていた。

「じ、じゃあ今から時神を連れてくる!元の世界に戻して!」
マナがそう言った刹那、クラウゼが押され始めた。

「くっ……」
「私が助けます。マナさんは早く時神を連れてきてください!」
隣で話を聞いていた健がえぃこ、びぃこ他、戦闘に長けた人形を召喚した。

健は集中力を高め、人形にテレパシーで動きを指示していた。大変だと言っていたのは人形は小さくて視野が狭いので力を発揮させるために指示を飛ばす必要があったからだ。
人形が的確に動き始めたのでクラウゼの戦いは少し楽になった。
健は抜けているように見えてやり手のようである。

「で、でも……どうやって戻ればっ!」
「私が戻すわ。私はKだから」
アヤにそっくりな言葉で話すあやが子供とは思えない冷静さでマナに言ってきた。

「あ、ありがとう」
「いいの。私はパパとママと一緒にいたいだけだから。パパを守りたいだけだから……」
あやは健を心配そうに見つめていた。

『パパとママと一緒にいたいだけだから……』

マナはあやが向こうにいたケイと同じ事を言っていた事を思い出した。両親と一緒にいたいという子供の純粋な感情はとてもきれいで尊い。
マナはケイとあやも似ていると思った。

あやはもしかしたらアヤの支えだけではなく、ケイの支えもしているのかもしれない。

「じゃあ、こっちはなんとかしておくからいってらっしゃい。長くは持たないから早めにね」
あやは軽く微笑むと指で五芒星を描きマナに向かって飛ばした。

五芒星は黄色の光を発しながらマナに当たり、マナは電子数字に分解されて消えていった。

十二話

「はっ!」
気がつくとアマテラス神の神社前に立っていた。先程となんら変わりはない。
プラズマとマイが突然現れたマナに目を見開いて驚いたがすぐに顔を戻した。

「終わったのか?にしては変化がないな?」
何も知らないプラズマがマナに笑みを向けた。怪我をおっていたはずのプラズマはやたらと元気だった。

「えっと、まだ終わってないの。プラズマさん怪我は……」
マナはまず、プラズマの怪我を心配した。

「あ、ああ。なんかアマテラスが治してくれた。癒しの神でもあるんだと」
「アマテラス様が治したの!すごいね……神様って……。で?アマテラス様は?」
マナの言葉にプラズマは首をかしげた。

「さあ?」
「わからん。すぅっと消えた」
マナに答えたのはマイだった。おどけた顔でマナを見ていた。

「消えた?ま、まあ今はいいや。それより、時神を集めなきゃいけなくなったの!世界を止めているKから言われて……」
「はあ?」
今度はプラズマが声をあげた。

「時神というと、アヤという小娘とお前と……」
マイは楽しそうにマナとプラズマに言った。
「侍がひとり……だな」
「それが過去神か」
「ああ。で?健は?クラウゼは?」
プラズマはマイから目を外すとマナに目を向けた。

「健さんとクラウゼさんはちょっと大変で今はアマノミナヌシ神の世界にいるの」

「なんだかわからんが無事なんだな?」
「うん……剣王に襲われてクラウゼさんと一緒に剣王を抑えてる。とにかく時神を急いで連れてこないと!」

マナは焦った表情でプラズマに言ったがプラズマは「しかし……」と首を傾げながら言葉を続けた。

「時間が止まっていてアヤを連れ出すのは無理だぞ……。今は風景と一緒だ」

「……じゃあどうすれば?って、そういえばワイズさんが時神過去神を連れ去ったと言っていたけどワイズさんと過去神さんは動けるの?」
マナが頭を抱えながらプラズマを見た。

「ワイズは世界を知っている。世界を知っているレール国神が動いてるんだからあいつが動けないわけがない。剣王も動いていただろ?栄次はたぶん、過去の管轄から連れてこられたんだ。つまり、現在とは関係ないから動けるのかもしれない。しかし、あいつはどうやって栄次を連れてきたんだ?」

「栄次って過去神?」
マナは過去神を知らない。プラズマやアヤのように神名だけでなく人名もあるようだ。

「そうだ。白金(はくきん)栄次(えいじ)って名前だ。しろがねじゃあなくてはくきん。変な名字だよな」

「そ、そうだね。じゃあまあ、とりあえずワイズのとこから過去神さんを奪うしかないのかな?アヤさんはどうしよう?」

「案外揺すれば起きるかもしれないな。クク……」
マナの言葉にマイが不気味な笑みを浮かべながら答えた。

「揺すって起きるの?」
「知らん。しかしだ、世界を操っているKとやらが連れてこいと言っているならアヤを動けるようにしてもおかしくない」
「なるほど……」
マイの意見でマナは納得した。

「まあ、とりあえず行ってみるしかない。アヤは高天原西でぶっ倒れているはずだしな」
プラズマがそこまで言ってから何かに気がついた。

「プラズマさん?」
「そういやあ、鶴を呼んでも来ないな。どうやって高天原に行く?現世から高天原に行くってのは弐の世界を通れないんだ」
「あ……そうなの?」
マナ達は固まった。

「行ける方法がないな。手詰まりだ。高天原に入れるお札があってもすべてが止まっているからいけないじゃないか」

「……作動すればだが……」
プラズマがため息をついてうなだれた時、マイが着物の袖からキーホルダーのようなものを取り出した。美しい黄緑色の勾玉がついている。

「なんだ?それは」

「高天原西のワープ装置だ。歴史神の……たしかナオだったか……が持っていたものをいただいてきた。なんか使えるかと思ってな」
マイの軽い発言にプラズマとマナは息を飲んだ。

「お前、それ、おもしろ半分で盗んだんだろ……」
「ふふ……見たことがなかったもんでな。試しに使ってみて使えたら飽きた時にでも返すぞ」
マイは相変わらず狂気的な笑みを浮かべ楽しそうに答えた。

「やれやれ。……それと、マナ。俺は一つの可能性の話をするが……」
プラズマはマナに目を向けると真剣な眼差しで口を開いた。

「何?」
「もし、高天原に飛べたとする。俺達時神がそろった時、不思議とリョウが言っていた未来がよぎる……。覚えているよな」
プラズマに問われマナはリョウに見させられた未来を思い出した。

あれはすべてが全滅する未来。あの時、マナと時神三神がすべて揃っていた。プラズマは揃うわけがない、未来へ行けるはずがないと首を傾げていた。どうやればこんなことになるのかリョウも不思議に思っていたはずだ。

今の状態を見てみると恐ろしいくらいにその通りだ。もしかすると現代がすべて停止しているため、未来にも行きやすくなっているのかもしれない。元々こちらには弐の世界で未来をシミュレーションできる能力があるマイがいるのだ。おまけに現在、どうやって連れてきたかわからないが過去にいるはずの過去神がワイズの元にいるという。

「簡単な話だよね……。世界が滅亡(りせっと)するか、私がいなくなって世界がそのままか、私が世界を変えてしまうのか。この三択しかない」
「まあ、おおまかに言えばな」
マナの言葉にプラズマが頷いた。

「アマノミナヌシ神は流れる方に流れる。だから私も行ける方に行く」
マナは少し考えてからそう言った。ここからのマナの判断で滅亡することもあるということだ。

「ま、いいけどな……」
プラズマはそれ以降この会話は続けなかった。

「だから私はアマノミナヌシ神に干渉しなくちゃ。マイさん、それ使ってみよう」
マナはマイの持っている勾玉に目を向けて言った。

「よし。ではやってみよう。たぶん、ここを……」
マイが笑みを浮かべて勾玉についていたスイッチを押した。

押した瞬間、電子数字が溢れマナ達はホログラムのように消えていった。ワープ装置がうまく作動したらしい……。

十三話

電子数字で分解され、再び元の体に戻った時に自分は高天原にいるということを瞬間的にわかった。
やはり、現世とは雰囲気が違う。
しかも鬱蒼とした森の中だった。

「無事つけたみたいだな……フフフ。これはいただきだ」
マイの悪い声を聞き流しマナはまばたきをした。

「あれ?ここ……」
マナは辺りを見回して気がついた。

「さっきのとこだな。偶然に」
プラズマも目を細めてつぶやいた。
少し先に剣王の居城がある。歴史神ナオが現世から剣王の城に帰る時に使用していたようだ。
ちなみにナオは剣王軍にいる神だ。

時間は完全に止まっているが気絶している神々がいる中、アヤがひとり辺りを不安げに見回していた。一緒に逃げた歴史神ナオとアヤの友達、歴史神のヒメは気絶したまま動いていない。
マナ達に攻撃を仕掛けてきた狼夜(ろうや)とかいう剣王に連れられてきた霊も先程と同じように動いていない。
頭を抱えてうずくまっているのはアヤだけだ。

「アヤさん!気がついた!!目を覚ましてる!ラッキーだね!」
マナが声をかけると怯えたようにアヤがこちらを向いた。
「マナ……とプラズマと……私は何をしていたの?覚えてないわ」
アヤの不安げな声にプラズマが苦笑いを浮かべた。

「そりゃあな。アヤは気絶してたから。いままで」
「気絶?」
「やっぱり、アヤの時間だけ解除されてやがる。これもアマノミナヌシとやらの……ま、まあそれより、なんだか俺もよくわからないんだがあんたが必要なんだとよ」

プラズマは「な?」とマナに確認してきた。マナは小さく頷く。

「うん。アヤさん、世界のために一緒に来てほしいの」
「来てほしいって……何があったのよ?時間が止まっているじゃないの。皆気絶してるみたいだけど、あなた達はなんで平気なのかしら?」
アヤは案の定、誰でも最初に言うであろう質問を投げかけてきた。

「近々世界を変えるためなの。今はとにかく一緒に来て」
「あなた、変わったわね。はじめて会った時とはだいぶ違うわ」

アヤが言うのもよくわかる。マナは肝がすわって今はすごく冷淡な顔をしている。自分が貫き通す事は貫く。そのためならばなんでもやる。

この時のマナはアヤに細かく説明する気はなかった。アヤに説明したら敵にまわるかもしれないからだ。

「なんだか冷たい感じだわね」
「そうかな?とりあえず一緒に来て。私にはアヤさんの力が必要だから」
マナは軽く微笑むとアヤの手をとった。アヤは訝しげではあったが素直にマナに従うことにした。

「説明する気はないのね?」
「ないよ。ごめんなさい。アヤさんはついてきてくれるだけでいいの」
マナはアヤの肩をポンポンと叩いて頷いた。

「そうなの……。わかったわ」
「ふむ。ずいぶんと強引だな。フフフ……」
マイが隣で笑っていたがマナは構わずにプラズマを仰ぐ。

「で、どうすればワイズさんのとこに行けるの?」
「どうやって行こうかね?鶴が使えないんじゃ歩くしかないか」
プラズマはマナにそう答えた。

十四話

歩いて行こうと思ったがどの神も鶴で移動していたため、どちらが高天原東なのかわからなかった。
「鶴が使えないのはまいったなー 」
プラズマはため息混じりにつぶやいた。
鶴に乗っていてもどうやって移動しているのかよくわからないのだ。辺りが霧に包まれたと思ったら目的地にいる。そんな感じだ。
「うーん。なんとかして過去神さんを連れ込まないと」
「え?栄次がいるの?」
アヤがマナの発言に慌てて尋ねた。
「ワイズさんのとこにいるみたい」
マナは短く答えた。今、アヤと会話をする気はない。
「……」
アヤはマナの態度で無駄な会話だったと悟り黙った。
「ふむ。ワイズが過去から奴を連れてきたのだとしたら他の世界にいる奴を連れてアマノミナヌシの世界に入ればいいのでは?」
考えてるマナにマイが怪しい笑みを浮かべながら提案した。
「他の世界って?」
「壱の反転した世界、陸(ろく)とかワイズが連れてきたよりも前の時代に存在していた奴とかな」
「なるほど。で?一番簡単なのは?」
「反転世界、陸から連れてくる」
マイの答えにマナは頷いた。
「それでいこう」
マナはプラズマを仰ぎ、逃げないか確かめた。こちらの世界の神々はいつ裏切るかわからない。
「……なんだよ」
プラズマはマナの冷たい瞳に眉を寄せた。
少し気持ちが揺らいでいた事は確かだが裏切ると思われている事が気持ちを苛立たせた。
「なんでもないけど、こっちの世界の神は信じられないから」
アマノミナヌシ神の世界に入ってからマナはどこか機械的に動いているところがあった。
「お前、戻ってきてからなんかおかしいぜ?アマノミナヌシ神のデータが入り込んでおかしくなってんじゃないか?」
「……私は私。やりたいことはこの世界の統合……」
マナの口は勝手に動いていた。
「統合じゃねぇだろ?お前が統合はしないと言ったんだぞ!滅ぶ未来を見させられて変わったんじゃないのかよ!」
プラズマは珍しく怒り、マナの肩を思い切り揺すった。
「ちょ、ちょっとプラズマ?」
アヤはなんだかわからず困惑した顔をしていた。
「ククク……アハハハ!」
全員が動揺の色を見せたところでマイが突然笑い出した。
「おい、なんもおもしろくねぇぞ……」
プラズマが睨み付けるとマイは涼しい顔で言い放った。
「シミュレーションだ。実はワイズに頼まれてな……。いや、笑ってすまなかった。ククク……」
「どういう事だ!」
「そんなに怒るな。あれだ、私はワイズ軍だからな。ワイズに頼まれた事をしたわけだ。こっちのが面白そうだったんで。私は演劇の神、語括神(かたりくくりのかみ)マイ。ワイズは演劇で未来をシミュレーションする私の力でマナを操ろうとしている。ちなみに私はいくらでも演技ができる。じわじわと演技にハマるにつれて全体的に劇にされていたことにマナは気がついていなかった。私が術をかけている間にワイズがKの力を使い、マナのデータを破壊に書き換えていったのだ」
マイは飄々と言い放つ。
「だからなんだ?」
「まだわからないか?あいつはリョウとやらが見せた未来を知っている。四面楚歌をやろうというわけだよ。マナが世界を滅ぼそうとすればこちらは全力でマナを叩き潰そうとするだろ?」
「……あんたはそれを俺らに伝えてどうするんだ」
「意味はない。どうする?プラズマ。マナを殺すか?私は計画をそこまで知らされてはいないがおそらくそうだ。そこまでワイズの計画を知っていてもワイズの仲間にはならない。だからお前達に伝えた。カオスだろ?おもしろいだろ?」
マイは心底楽しそうに言った。
「どっちの味方だよ……」
「さあ、プラズマ、君はどうする?ワイズはこちらの世界のKだ。こちらの世界を守ろうとするぞ。あいつの仲間が多いのはこういうことを平気でやるからだ。ま、おそらく私がお前達にこれを話すのも計画に入っているだろうがな」
マイはなんだか興奮を覚えているようだ。やはりこの神はまともではない。
マナはなんだか自分がわからなくなってきていた。
……あれ?私は世界の統合じゃなくて両方を守ろうとしたんじゃ……
だったらなんでこんな敵だとか味方だとか言ってるの?
そこまで考えた時、マナは目覚めた。
「は!?」
マナは寝ていた。
ワイズに入れられたあの牢屋で。
目の前でマイが不気味に笑って立っており、プラズマはまだ眠っていて、健がなぜかいた……。
「おはよう。やっと起きたか?シミュレーションは楽しかっただろう?」
マイは戸惑うマナに狂気的な笑みを浮かべながら言った。

十五話

いつからだ……。いつから……。
マナは考えて「はっ!」と気がついた。
……あの時からだ……。
気を失った時から……。
マナはマイを睨み付けた。
「睨むな。私はワイズの仲間でもないぞ。お前が染まる前に教えてやったのだ。本来ならこのまま悪者になって正夢で死ぬぞ。ククッ」
マイは楽しそうにマナを見ていた。
「ま、お前はそういうやつだYO。だがもういい」
マイの後ろからワイズが現れた。もちろん、檻についている結界の外からだ。
「どういうこと?」
マナはもうワイズに丁寧に話す気はなかった。丁寧に話すだけ馬鹿馬鹿しい。
「シミュレーションでスサノオ、ツクヨミが所持している鍵のデータ、さらにアマテラスが持っている扉の解析までできたYO。あのまま私が動かなかったらああいう未来になっていたのか。興味深いNE。あの剣王が……フフフ」
ワイズはクスクス笑っていた。マナはワイズの恐ろしさを今知った。他の神々がワイズは手強いと言っていた理由はこれだったのだ。思兼神……知恵の塊のような神。マナが転がせるような神ではない。
さらにワイズはマナを追い詰める言葉を発した。
「アマノミナヌシ神の内部に入るには時神が必要だったNE。ちょうど時神アヤが太陽神サキの親友、みーくん(天御柱神)と連絡がとれないことを心配して来てくれたから呼ぶ必要がなかったYO。あの時神はとってもお人好しでNE。お前が見たアヤは未来のアヤ。私が対策をしなかったら歴史神達に呼ばれ高天原西まで助けにノコノコ行っていたみたいだNE?夢だったからお前が殺されないようにマイに操作を頼んでいたが、運よく生き残った未来ということで覚えておくといいYO。剣王に斬られた段階でお前は死んでいるがお前が死んだ後、アヤは剣王に捕まり、時神を全員そろえてアマノミナヌシにアクセスし、お前をいなかったことにする。どちらにしてもお前はこちらの世界にいない」
ワイズが淡々と語る中でマナは背中から悪寒を感じていた。
この神はやばい……。敵にまわしてはいけない神……。剣王とは違う恐怖。
プラズマと健は寝ていて起きてこない。すべての鍵はワイズが持っていた。過去神もワイズの所にいる、時神アヤはサキと天御柱神(みーくん)を使って来させ、未来神プラズマは……ここにいる。
つまり、ワイズは今一番システムに近い。このままアクセスされ、マナはいなかったことにされる……。おまけにマナは捕まっている。
「ノコノコ現れたのが間違いだったNE」
ワイズは嘲笑すると青ざめるマナを背にその場を去っていった。
シミュレーションをされていたのでマナは現在鍵を持っていない。
……誰か……誰か助けて!
このままじゃワイズに消されるっ!
「落ち着け」
ふとプラズマの声が聞こえた。マナは涙を浮かべた顔を向けた。
「プラズマさん……私は……」
「全部聞いた。あんたは両方の世界を救うんだろ?だったら負けるな」
「でも……」
マナが戸惑いを浮かべているとプラズマがさらに言葉を続けた。
「大丈夫だ。過去神栄次はここにいない。ワイズが所持している神達じゃあ過去神をこちらに呼べない。西の剣王の配下、歴史神を使っても呼べる確率は低い。つまり、まだ連れてきてない。だろ?語括神マイ」
「……フフフ。その通りだ。あいつはまだ過去神を連れてきていない」
プラズマの言葉にマイは素直に答えた。マイはワイズを手伝ったものの、ある事件で罪を犯したため、いまだ牢に入っているようだ。ワイズはマイがおもしろい事に興味があることを知っており、使ったようだ。本神マイは使われていることを知った上で遊んだらしい。
「で、俺は考えたんだが……アヤについては置いといてまずはここを出る方法を思いついた」
「え?」
プラズマはマナをしっかり見据えて続けた。
「高天原北の権力者、冷林(れいりん)を使う。あいつは縁神(えにしのかみ)と言って人間の祈りに反応する。つまり、願いを叶える」
「でも……私は神なんでしょ?」
不安げなマナにプラズマはニカッと笑った。
「現人神だろ。半分人間じゃねーか」
プラズマは胸を張って答えた。
「なんとかなるの?」
「なるかもな。そこにいるマイはワイズを呼ばないだろう。こっちのが『おもしろいから』な」
「ふふっ」
プラズマの皮肉にマイは心底楽しそうに笑った。
「冷林を呼んだらここから出してもらう願いを言う。冷林は神格が高いからこの結界を取っ払ってくれるはず。そんで、外に出たらレール国に行く」
「レール国?なんで?」
自ら危険を犯すのかとマナは疑問に思った。
「シミュレーションしただろ。レール国のクラウゼは『文句があるなら何をするか確認してから言え』と言えば敵にならずについてくるはず。ただ、仲間にはならないだろうが」
プラズマは意外に色々と見ている。マナもクラウゼについて思い出した。ラジオールからの命令で襲って来たものの最終的にはラジオールの命令には従っていない。
むしろ、ごり押しだったが剣王と戦ってくれた。
……そうだ。やられたから焦るんじゃなくてチャンスに変えるんだ。
シミュレーションをした中で少なくとも健とプラズマは敵にはならない。信頼して良い仲間と言える。マイに関してはよくわからない。剣王とワイズは自分を消しに来る。
それだけわかっていればこちらが利用されたメリットはあるのだ。
マナはプラズマを信頼して尋ねた。
「冷林はどうやったらここに現れるの?」
「願え!ただそれだけだ。俺がここから出てあんたと動いていたら少なくとも時神の鍵は開かない」
「願う……」
プラズマの目をマナはしっかり見てつぶやいた。
「やってみる」
「おう」
マナの答えにプラズマは深く息を吐いて頷いた。
「やってみろ」
プラズマ自身も迷いを捨てマナに任せる決意をした。
未来はまだわからない。

十六話

さあやろう!としたところで健がのんきに目覚めた。
「あー!よく寝た。あれ?なんだか凄い長い夢を見ていた気が」
「お前な……」
健はプラズマを見、マイからマナを見て自分の状況を思い出した。

「ああ、そうでした。捕まっちゃったんでしたかね?」
「そうだ」
プラズマはため息混じりに答えた。

「あ、じゃあ私が弐の世界を出しますんで芸術神マイさんは……」
「待て待て!もうそのくだりはいい!」
プラズマは健を慌てて止めた。健は不思議そうな顔をして尋ねた。

「あの、夢を見ていた時にいい方法が浮かんだんですが……」
「知ってるよ。弐の世界から現世に逃げるんだろ?」
「あれ?話しましたっけ?」
健は『あれ』を夢だと思っているようだ。このまま健の通りにいくと健は「夢で見た光景と同じだ、正夢だったんだ!」となる。マイはその能力を持っている。恐ろしい事だ。

「あ、あのね、健さん。北の冷林を呼んで逃げる事にしたの」
マイが隣で不気味に笑っている中、マナは健に説得するように言った。

「ん?冷林ですか?」
「うん!だから大丈夫だから」
「わかりました」
健は不思議そうな顔をしていたが頷いて納得した。

「当然だが……私は連れてってはくれないのだろう?」
マイがクスクス笑いながらマナに尋ねてきた。

「あなたは怖い神。私の邪魔をするなら置いてく。味方をするなら連れてく。味方をした方が『おもしろい』と思うよ」
マナは感情が動かない静かな表情でマイを見た。
マイはまた不気味に笑うと「言うようになったな。小娘」と心底楽しそうだった。
「おい……連れてくのかよ……。めんどくさくなるぞー」
プラズマは乗り気ではなさそうだ。

「……大丈夫。彼女は裏切らない。シミュレーションと違う結末なら『おもしろい』からいいはず。逆にシミュレーションと同じならばマイさんは私を裏切る……でしょ?」
「ククッ。よくおわかりのようだ」
「違うようになるから問題ないよ」
「それならいいがな」
マイはマナの返答に満足そうに頷いた。

「ま、あんたがいいならいいけどな。それよりはやく冷林を呼べ」
プラズマはため息一つつくと冷林を呼ぶように指示をした。

「わかった!祈るだけね」
マナは目を閉じると見たこともない冷林に向かって願いをつぶやいた。

……お願い!私達をここから出して!大事な事なの!
半分必死に願うとマナの前に白い光が集まってきた。
光は徐々に人形クッキーのような形になっていく。大きさは乳児くらいだ。光がなくなってきた時、青い人形クッキーのようなものが現れた。おそらく顔だと思われる部分には目鼻はなく、かわりに渦巻きのような、ナルトのような模様が描かれていた。一番近い外見の例えはてるてるぼうずと人形クッキーだろう。

「イメージと違った……。人型じゃないの?」
……ネガイヲ……
マナが驚いているときに頭にワープロの文字のようなものが浮かんだ。

「え?」
「冷林が話しかけているんだ。そのまま話せばいい」
プラズマの言葉にマナは唾を飲み込むと口を開いた。

「こ、ここから出してほしいの」
……イイダロウ……
冷林は迷うことなくマナの願いを聞き入れた。ほとんど機械に近い。

「な、なんかうまくいった?のかな?」
マナは動揺しながらプラズマを仰いだ。プラズマは軽く頷いていた。

「読みが当たった。マナには人間のデータもある。冷林はあんたの人間部分に反応したらしい」
「不思議な神様……」
マナはこんな神もいるのかとこの世界にさらに関心を持った。

……デハ……ゼンインデ……イイノカ?

「うん。全員」
マナが答えた刹那、足元に魔方陣が現れた。マナはもう驚かない。こちらの世界でそういうことに慣れてしまった。

異変を感じたワイズが慌てて牢に入り込んできた。マナはワイズを視界に入れてにっこり微笑んだ。

「ワイズさん、じゃあね」
「くそっ!冷林!!!」
ワイズが強い神力を発して怒鳴ったがマナ達はホログラムのように消えていった。

十七話

マナは気がつくとワイズの城の前にいた。悪趣味な金色の城が後方で不気味に輝いている。
「出られた!?」
「そのようだ」
マナの言葉にプラズマが眉を寄せたまま答えた。

「あれ?冷林さんは?」
「もう願いを叶えたからいなくなったんだろ」
「というかプラズマさん、なんでそんなに不機嫌なんですか?」
プラズマの態度に健が首をかしげながら尋ねた。冷林は皆を外に出すとどこかへ消えたらしい。

「あいつが来る。さっさと逃げるぞ」
「あいつ?」
マナが首を傾げているとマイがクスクス笑っていた。

「ああ、そうか。ほら」
マイが指差した方向に目を向けると強力な神力に逃げる暇すらなかったあの恐ろしい神、天御柱神(みーくん)が飛んできていた。

「やばいっ!どうしよ!?」
「鶴を呼びましょう!それですぐに現世に飛びます」
「もう呼んだ。だが間に合うかはわからない」
健にプラズマは困った顔で答えた。
よく見ると天御柱神とは逆の方向から鶴が飛んでくるのが見えた。

「か、隠れておきましょうか?」
健が苦笑いを浮かべつつマナ達を見回した。
「もうその必要はねーよ」
ふと背後から天御柱神の声が聞こえた。マナ達は凍り、恐る恐る振り替える。

「お前、いつの間に……」
先ほどまで空を飛んでこちらに来ていたはずなのに本当に一瞬で背後にいた。

「俺は風だからな。スピードならいくらでもあげられるんだよ」
「ちっ……まだ鶴が来てねぇのに」
プラズマはちらりと空を仰いだ。鶴はまだ少し遠い位置にいる。
天御柱神、みーくんは堂々と冷ややかな目を向けて立っていた。その顔に表情はない。

「現人神マナ。お前の拘束命令が出ている。同行願う……と言いたいところだがあんたはそれに従わないだろうな。手足の一、二本は覚悟してもらうぞ」
天御柱神の瞳が赤く輝いた。
マナはごくんと息を飲んだ。

「ずいぶんなハッタリだな。天御柱。罪を犯した私でさえも何もできなかったくせにな」
マイが挑発ともとれる発言をした。
刹那、パァンと弾けた音がした。気がつくとマイが空を舞っていた。

「ま、マイさんっ!?」

マナが小さく悲鳴をあげた。マイはマナ達の横を勢いよくかすめ、近くの木に激突した。

「マイさん!」
マナが叫び、プラズマ、健は言葉を失った。

「驚くこたぁねぇ。少しひっぱたいただけだ。うるさかったからな」
みーくんは静かに言い放つとマナを睨み付けた。

「私に対して本気ってことだね」
マナも拳を握りしめ、みーくんを睨み付けた。

「はっはっは!痛い痛い。まだまだだな。やるならもっと徹底的にやれ」
土埃の中からマイが左頬を抑えて歩いてきた。唇が切れて血が出ていたがマイはなんともないのか平然と笑っていた。

「お前はこちら側のはずだ。俺は基本女には何にもしねぇが時と場合がある。今のは警告だ。語括神(かたりくくりのかみ)マイ。お前ならワイズの……こちらの考えがわかるだろう。今すぐ牢に戻れ」
みーくんはかなりの威圧を込めてマイに命令をした。

「やだね。痛い事は大歓迎だ。もっとやってくれ。特にお前のような男には……」
演技なのかなんなのかマイは頬を赤らめてうっとりとみーくんを見ていた。

「警告は無視か。いい度胸だな」
みーくんが頭を抱えた刹那、プラズマが叫んだ。

「今だ!乗れっ!」

プラズマに手を引かれたマナは箱形の何かに引き込まれた。
なんだかわからず目をパチパチさせていると健とマイも乗り込んできた。

「行けっ!」
プラズマが再び叫ぶとふわりと浮く感じがした。
そこではじめてマナは鶴が引く籠の中にいることに気がついた。

「いつの間に近くに……?」
マナは呆然としたままプラズマを仰いだ。

「ボケっとしてる暇はねぇ!あいつが追ってくる!」
プラズマは霊的武器の二つ目、威力の高い銃を取り出すと籠についていた窓を開けて銃をうち始めた。

マナにはわからなかったがみーくんがマナ達の籠に向かって攻撃を仕掛けているようだ。元々風であるみーくんは空も当然のように飛べるのだろう。このままだとどこまでも追ってくる。

「マイ、あんたをおとりにして鶴を近くまで呼んだ事はすまなかった」
プラズマは銃を打ちながらマイにあやまった。

「油断させるのが目的だったとしてもこれじゃあ失敗だな」
マイは相変わらず楽しそうに笑っていた。

頬を張られて体を打ち付けるほどまでいったというのに笑っているマイはやはりぶっ飛んだ思考の神のようだ。

「やっぱ逃げらんねぇか……。健、マイ!なんかしろ!マナも!」
プラズマに怒鳴られマナ達は慌てて窓から様子をうかがった。
そのうち、籠が大きく揺れ、鶴のうめき声が聞こえた。

「まずい!鶴が一羽やられた!」
ひとつの籠に鶴は三羽ほどいる。
そのうちの一羽が地面に叩きつけられていた。

「きゃあ!」
マナが悲鳴をあげた。竜巻があちらこちらにあがりはじめ、鶴の進行を邪魔する。

「あの鶴、死んではいないな。さすが天御柱。軽い怪我だけで済ませたか」
プラズマは下に落ちた鶴の様子を見たようだ。普通は遠すぎて見えないがプラズマは弓や銃などの飛び道具のプロだ。目がとにかく良い。

「よく見えましたね。うっ!」
健がプラズマに感心しているとまた籠が大きく揺れた。

「なんとかしないと鶴がいなくなるぞ。くくく……」
マイは楽しそうに笑っていた。

「じゃ、じゃあやっぱり私が弐の世界にあの神を飛ばすしかない!」
マナが冷や汗をかきながら一瞬の出来事になるだろう作戦を話し始めた。

十八話

籠が大きく揺れた。みーくんはマナ達を攻撃し続け、鶴達は一羽を除いて攻撃に耐えていた。
「私が彼を弐の世界に飛ばす!狙いは私だから私が籠から飛び出して彼が迫ってきたら手を動かして弐に飛ばす。援護はプラズマさんと健さん、マイさん!」
「そんなにうまくいくか?」
プラズマが疑惑の目でマナを仰いだ。
「いかせる!」
「待ってください。それは無謀ですよ」
マナの即答に健が口を出した。
「じゃあどうするの?」
今も籠が前後左右に揺れ、鶴の悲鳴が聞こえる。マナ達をよそにマイは籠が揺れる度に先程から不気味に笑っていた。
「一回下に降りて戦った方がいいかと。これは逃げられない上に全滅する可能性があります」
「確かに……」
健の言葉にマナが考えているとやたらと元気な女の声が聞こえた。
何かを話している。
「ん?」
窓から身を乗り出して銃を撃っていたプラズマが目をすがめながら声をあげた。
マナは何事かとプラズマに目を向けた。
「プラズマさん?」
「太陽の姫が現れた……」
「太陽の……サキさん!?」
マナが慌ててプラズマの横から顔を出した。
隣にいつの間にか鶴が引いた新たな籠が出現しており、その籠の上にサキが仁王立ちをして立っていた。
「え?なんで?」
マナはサキをまじまじと見つめる。サキは霊的着物に太陽の王冠を被り、炎が舞う剣を構えていた。
サキの出現によりみーくんの動きが止まった。
「お前、なんでここに!?」
みーくんの戸惑いの声がハッキリマナ達にも届く。
「なんでってみーくんがワイズに縛られっぱなしだから心配してきたんじゃないかい。見てみりゃあ鶴を一羽怪我させて友達になったばかりのマナを傷つけようとしてる。みーくんの心に反すると思って止めに入ったのさ。みーくんは女に暴力ふりたくないんだろう?」
サキはのんきにもそう尋ねた。
「それとこれとは違うんだよ!俺は現人神を捕まえなきゃならない。サキ、頼むからここは大人しく……」
「そうはいかないよ!みーくんは以前、暴走したじゃないかい。あたしはあんたを止めるよ!」
「ちぃっ……」
サキの言葉にみーくんは明らかな動揺を見せていた。
「サキさん!」
マナはそっとサキを呼んだ。
「マナ、大丈夫かい?ここはあたしがなんとかするよ!早く逃げな!」
サキはマナににんまりと笑うと戸惑うみーくんに突っ込んで行った。
「ええ!?ど、どうしよ?サキさん大丈夫かな?アヤさんの電話の時に余計な事を気にかけさせちゃったかな……」
みーくん以上に目を丸くしたのはマナの方だ。さも当然のようにみーくんにぶつかっていったがサキは平気なのか?
「おい、マナ!今のうちに逃げるぞ!」
プラズマがマナに叫んだ。
「え!?サキさんは平気なの?」
マナが焦りながら尋ねるとマイが笑いながらつぶやいた。
「ククッ。あの小娘の神力を侮っているのか?めでたい頭だ」
「どういう……」
「行け!」
マナが続きを言う前にプラズマが鶴に進むように指示をした。鶴達は戸惑いながらも再び進み始めた。遠くで炎の唸り音と風の鋭い音が響き合っていた。

最終話

しばらく進むと穏やかになった。
「いやー、太陽の姫が来てくれて助かった……。アマテラスの神力を持っているからどちらかと言えば俺達の味方だったのか?サキって小娘はああ見えてかなりの強さだ。大丈夫だろ」
プラズマが冷や汗を拭いながら籠内の椅子にもたれた。
「アマテラス大神さんの神力か。サキさんすごいんだね。とりあえず助かったよ……」
「で?現世に入ったようですが」
プラズマとマナの会話を丸無視した健が窓から外をうかがいつぶやいた。
「じゃあ一度籠から降りて隠れようか……」
プラズマはこのまま空を飛ぶ事を凶としたようだ。
「そうだね。落ち着いた所のが策を練りやすいかな?」
「奴らの神力をあなどるな。とはいえ行くしかないのならば気を付けろとしか言えんがな。ククク」
マイが不気味に笑いながらつぶやいた。
「まあとりあえず鶴!降ろしてくれ。後、俺達の事はきれいさっぱり忘れろ」
「わかったよい……」
プラズマの命令に鶴は疲れた声をあげた。
「プラズマさん、忘れろって無理じゃないのかな?」
「問題ない。鶴は先に言った神の命令を全力で守る。つまり、覚えていても忘れたふりをするから、しゃべらないだろう」
「そうなんだ……」
プラズマの言葉にマナは疑惑を抱きながら頷いた。
籠は気がつくと地面に着いていた。素早く籠から外に出たが場所はどこだかわからなかった。
鶴達はさっさと籠を引いて空の彼方へと消えていった。マナ達と長く関わりたくなかったのかもしれない。
森の中だと思われる場所に捨てられたように置き去りにされたマナ達はこれからどうするか相談することにした。
「どこだかわからん。アバウト過ぎたな……」
プラズマは頭を抱えた。
「これからレール国に行くんでしたっけ?クラウゼを仲間にするんでしたよね?だったら弐の世界のが安全ですね。私がいますし」
健が何気なく言った言葉にマナとプラズマは目を輝かせた。
「それだ!」
「ククク……弐の世界ならば無数の世界があって神力関係なしに迷う世界だからな。確かに追っては来られんな。Kの使いを使えば別だかね」
マイは健を面白そうに見つめるとつぶやいた。
「じゃあまず……ここから出て図書館を……ってしなくていいのか!」
プラズマが「そういえば」と思い出したように声をあげた。
「私と健坊やがいるからな」
「けんぼう……」
イタズラな笑みを浮かべながらマイは健を見た。健は坊やが引っ掛かったようだが突っ込まなかった。
「そうだね!健さんに弐を出してもらってと考えたけどそれはマイさんにやってもらおうかな。マイさんにはこちらの世界を伍の世界の人達に見せるという仕事があるんだけど、いい機会だからマイさんを信頼できるか見させてほしいの。マイさんを信じてお願いするけど上部の弐の世界を出してほしい。今度はちゃんと出してね」
マナはマイの反応を見ながらお願いをした。
「ククッ。生意気な小娘だ。まあいい。おもしろくなってきた。いいだろう。出す。シミュレーションではない上部の弐だが出してやろう。ククク」
マイは今にも裏切りそうな邪悪な笑みを浮かべていたが大きく頷いた。
「信じるよ。よろしくね」
「では開く。共に楽しもうではないか」
マナの言葉ににんまり笑ったマイは弐の世界を開き始めた。

旧作(2019年完)本編TOKIの世界書五部「変わり時…4」(現人神編)

旧作(2019年完)本編TOKIの世界書五部「変わり時…4」(現人神編)

長編最終部四話目です!

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-06-11

CC BY
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CC BY
  1. 狂う世界
  2. 二話
  3. 三話
  4. 四話
  5. 五話
  6. 六話
  7. 七話
  8. 八話
  9. 九話
  10. 十話
  11. 十一話
  12. 十二話
  13. 十三話
  14. 十四話
  15. 十五話
  16. 十六話
  17. 十七話
  18. 十八話
  19. 最終話