恋水は夕立ちのように過ぎ去って

きっとそれは ありのままの姿なのだと

影響力を持った人が ただ

正義感の強い人だった

ただ それだけのこと


彼らは 私たちと何等変わりなかったのだ


恋のために流す涙__

それを 一般に恋水と呼ぶ

蝶々香る 春と夏の変わり目

きみの横髪が揺れて

僕の視界に入ったんだよ

なんて美しいのだろう

きみのことは以前から知っていた

ただ騒がしく 優しい人なのだと

それだけを思っていた

だけど違った

きみのその外見の美しさは

中身の程よい醜さからくるものであった

今思えば 完璧完全な

優しい 正義感だけを持った

平和に関する模範的人間なんているはずがなかったのだ

きみは "人間らしさ"を確立していた

きっとこんな難しい言葉ばかり並べたって

きみの硬さと美しさ そして何より醜さは

誰も語り尽くせない

人間が考えた言語なんかでは足りないほどだ

それは もう

きみの右頬に刺さったにきびでさえ

愛おしく感じてしまうのだから

狂おしい

胸が痛い

締め付けられながら愛でられながら

そういう感触が僕の心臓の近くを襲った

にきびとは若さの象徴であると

きみの右頬は やっぱり若々しいな

きみの横髪が揺れるたびに

そのにきびがちらちらと

顔を出してはまた引っ込んで

ああ なんて美しいのだろう

だけど 問題があるんだ



きみは若すぎるんだ



僕はもう随分歳を食ってしまった

自分が今正確に幾つなのかもわかりはしない

そんな僕をきみは

嘲笑うだろうか

こんな人が わたしのこと好きだなんて

笑わせないでよって

罵るだろうか

きみの人間らしさにはひどく感動する

あるべき姿をそのまま鏡に映したような

けれど その容姿の前では誰も逆らえるものなどいない

きっときみが僕を嘲笑ったとして 罵ったとして

僕はきみの醜さを知っているから 

傷ついてしまうなんてことはないのだろう

相手の弱さを知っていると

攻撃なんて正面から喰らうことはないのさ

そういうものだって 

きみの横顔を見て

今日も美しいだなんて



僕のような正義感だけの人間なんて

きみのような影響力だけの人間なんて

どちらもどちらでいけ好かないだろう

恋水は夕立ちのように過ぎ去って

恋水は夕立ちのように過ぎ去って

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-06-08

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