She is .
「彼女」は 僕の 「女神」だった
柔らかすぎる程の 優しさで
僕の孤独を包んでくれた
いつも
白く 細く やわらかな体で
僕を包んでくれた
いつも
穏やかな笑みを たたえて
いつも
「大丈夫よ、あなたなら」
僕を照らす 「女神」 だった
いつも
「彼」も「あの人」も 「みんな」 が
帰って行った部屋で
薄い薄い水割りを飲みながら
電気をひとつも付けず カーテンを開け放って
街灯の灯りを頼りに 煙草に火をつけた
傷なんて ひとつもないのに
寂しさなんて 感じないのに
私はいつも 空っぽ
どこに居ても 空っぽ
守りたいものも ひとつもない
だから 何ひとつ 失くすことはない
欲しいもの
そうね アルコールと煙草さえあれば
それで いいわ
この部屋には
寂しい顔をした男たちが
孤独を抱えた男たちが
毎日 私を訪ねてくる
何がそんなに苦しいのだろう
私には 少しもわからないから
うんと 優しくしてあげられる
私には なにもわからないから
望まれるまま 彼らに抱かれる
そうして みんな帰って行った
ひとりの部屋で
空っぽな私 をまた 確認する
水割りの残りを シンクに捨てて
また 煙草に火をつける
何かが 足りないのね きっと
でも そうね 特に支障はないし
こうして生きていくわ
なにも なにも 怖くないもの
「彼女」は 僕の 「女神」だった
黒く艶やかな長い髪
白い服を さらりと着て
微笑んでいた いつも
「女神の部屋」は
僕だけの 「楽園」 だった
僕だけの
僕だけの
彼女は女神だった
She is .
ずいぶん前に聞いた「彼」の話から。
女神 という言葉を使ったのは彼。
そして、 誰にとっても女神 だったことも
彼から聞いたこと。
彼は私よりずいぶん歳上なので
昭和の大学生たち をなんとなくイメージして。
彼女について、私は何も知らないけれど
ただの尻軽でもないだろう
ましてや、ビッチと呼ばれる女性ではないだろう
と思った。