変身

狂うことの正常

死に物狂い、日常の違和感、孤立、徒手空拳

   変身

           作・三雲倫之助

 私は朝になると目覚め、同時に生きているのかと深い溜息を吐き失望の底なしの奈落に落ち込んでしまう、これはけして大袈裟ではない。
 私は朝になると歯を磨き顔を洗い作業服に着替える、更に気は重くなる。
 私は朝になると父母とともに朝食を取る、不味くも美味くもない朝食、味がしないが、家族での朝食が父のお気に入りでありこの家の決まりみたいなものだ。
 私は朝になると外に出て、考えるのが恐ろしくて堪らずに虚ろな気分で会社の迎えの車を肩を落として待つ。
 私は朝になると、会社の車の中に他の八名の従業員がいる。窮屈だ、精神は鮨詰め、ぎゅうぎゅう詰めになり、窒息しそうに、吐きそうになる。
 私は朝になると屠殺場に運ばれる家畜のように工場に運ばれる、罵りの真ん中で肉体労働をさせられる。
 私は朝になると、工場に着き、皆の顔を見ながら緊張の余りに欠伸が止まらない、それを皆の目から隠す、気が滅入る、生きた心地がしない、助けを呼ぼうにも誰を呼んでいいのか分からない、神様がいれば助けて欲しい、だがいない。

 私は昼になると、弁当を食べる、味は分からない、だが腹が空いては動けない、無理して食べる。
 私は昼になると、後四時間、五時まで作業が続く、いつまで経っても工場に、集団の人間に馴染めない、周りから蔑みの声が小さく大きく引っ切りなしに聞こえる、耳を手で塞ぎたいが、何を言われるのか分かったものではないのでそれもできない。
 私は昼になると、体が極端に重く感じられ、鈍くなり、早退しようかと考えるほど極度の緊張による眠気が襲ってくる。
 私は昼になると、とにかく終業時までなんとか目立たず、文句を言われないように作業を続ける、それしかない。

 私は夜になると部屋で一人になれる、横になれだけでも楽になる。
 私は夜になると更に気が重くなる。LEDランプをつけて、思いついたことをパソコンのワープロを打ち込む。
 私は夜になると一日の神経の衰弱で怯えが増してくる。
 私は夜になると憎しみが、怒りが、恨みが、頭のどこかから泡(あぶく)となって沸き上がり頭に体中に充満してくる、そしてそれらは一瞬にして全てが怯えに変わる。
 私は夜になると机から離れると命を奪われるかのように塊となってひたすら机にしがみつく。
 私は夜になるとこの夜も結局は明けて朝になるのだと思うと、心が沈み込む、どうしようもない毎日が続く。

 両親に反対されたが六年間勤めた仕事を清水の舞台から飛び降りるように辞めた、理由は忍耐の限界だった、もう他人と遭わずに済むから少しでも穏やかになるかと一瞬だけ期待した、当然だが両親との関係は以前にも増してぎくしゃくし始めた、以前のままではない変わってしまった現実の私を認めたくないのだ。 

 通りを歩いていると、すれ違う犬が私を睨み付けた。
「お前、そんなに俺が怖いのか、泥棒か、犯罪者か、それとも変質者、お前は皆とは毛色が違う、目立つんだよ」
 通りを歩いていると、よぼよぼで杖をついた婆さんが耳打ちをした。
「この穀潰し、よくお天道様の下を歩けるな、いい若いのが何もしないでぶらぶらして、もう世も末だ、お前のような奴を見ると胸糞が悪くなる、人を避けるように隅っこを歩きなさい、これが世間様への礼儀だよ」
 通りを歩いていると、猫が私の足を嗅いだ。
「救えない奴の腐臭がぷんぷんする、生きながら腐れている、その臭いでよく外を歩いていられるものだ、トイレの消臭剤でも付けてきな」
 通りを歩いていると、作業服にヘルメットを被った道路工事の五人が私に一斉に悪意を剥き出しにした。
「いい若いのが無職か、親が金持ちだといいもんだ、遊んで暮らせる、俺も金持ちの家に生まれたかったよ、こんな仕事はしてなかっただろうな、なのになんであんなに暗い顔しているんだ、笑顔だろうが」
 通りを歩いていると、ベビーカーの赤ちゃんが私とすれ違いざまに泣き出した。
「なんで泣くの、おむつは替えたばかりなのに、なんか今日のこの子はむずかってばかり、今日は厄日かな、胸騒ぎと悪い予感がする、自重しよう」
 通りを歩いていると、タクシーが私の横を横切った。
「何をぼけっとしている、いつか轢いてやるからな、道は注意して歩け、この馬鹿野郎、道路でふらふらしているんじゃないよ、ウォーキングでもしろ」
 通りを歩いていると、ダンプカーが私にクラクションを鳴らし、驚いて飛び退いた。
「臆病者め、これくらいでびびるから、いつもくよくよしているんだよ、その冴えない顔を晒すなよ、お前のその陰気な顔を見るといらいらするんだ、運転も荒くなるんだ、事故でも起こしたらどうするつもりだ」
 通りを歩いていると、私の目前のビルからバーゲンセールのアドバルーンが上がりそこから電波で情報を流していた。
「この男、変に付き要注意、各自見張りを怠りなく、隣の奥さんに興味あり、覗き、下着泥棒、空き巣、車上荒らしの疑い有り、現行犯逮捕せよ、以上」
 通りを歩いていると、女子高生が肩を並べて私のあちら側の道を歩いていたが一瞬だが動きが止まった。
「ナニ、アレ、笑える、あの格好、ダサい、あのズボン、あのシャツ、あのベルト、あのキャップ、あのスニーカー、あの目、あの鼻、あの口、全部あり得ないから、与那町のシーラカンス、マジマジ、あり得ない」
 通りを歩いていると、どこからともなく空き缶が私の前に転がってきた。
「拾ってゴミ箱へ入れろよ、これ常識、このぐらいの、小さな事もできずに、国会中継やニュースを見るなよ、お前にはどうこう言う権利はないからな、まずは家の前の道路の清掃からしろ、それは日本人の美徳だよ、それぐらいも知らないか、この西洋かぶれが」
 通りを歩いていると、三十前後の美人が私を追い抜いていった。
「色気づくんじゃないわよ、お前に惚れる奴はこの世にも、あの世にもいないよ、いるとすればお前の頭の中だけだ、一目でお前が女に飢えていると分かってしまう、バカ正直に顔に態度に出てしまうからだ、年がら年中発情しているんじゃない、何か打ち込めるのを探しなさい」
 通りを歩いていると、風が私に吹いてきた。
「私だけを目がけ吹いていた。異様で意味深で奇妙な温度だった。物が腐れるのに最も適した熱の加減だった。お前は歩きながら腐敗する、詰まり死んで行く」
 通りを歩いていると、カップルがすれ違うと同時に私にだけ聞こえるほどの音で舌打ちをした。
「いい天気だというのに、あんな人に会うなんてついてないわね、疫病神、貧乏神、嫌がらせのメール」
「あれだって、世の中のためにはなっているのさ、あそこまで育ったんだから、それってそれだけ金を使ったと言うことだろう、それなりの金は地元に落とした」
 通りを歩いていると、青空なのに突然雨が降り出し、私の進行の妨害した。
「臭いから、洗い流してやろう、お前も海に流せたらいいのにな、おまえ、生きている価値が全くない、皆無。風呂に入らないのなら、オーデコロンぐらいしろよ。お前は世の中の全世界の鼻つまみ者だよ、だから臭いのかな、世の中に全く必要とされない人間て、どんな感じなの、お前のような奴にはそうそう会えるものじゃないから、後学のために聞かせてくれないかな」
 通りを歩いていると、公園のベンチが私の目に入ったので坐ったら、誰かの坐った後だろうか、暖かかった。
「あなたも坐るんだ、疲れたから、そうじゃない、私があなたを呼んだのよ。あなた、ずっと一人、これからも、明日からも、明後日からも、未来永劫に。あなたも坐るんだ、疲れたから、そうじゃない、あなたはきっと死に場所を探しているのよ、もう気付いてもいい頃よ、そうでしょう、死に時というのも人間にはあるのよ」
 通りを歩いていると、ガジマルの木から鳥が私にこれ見よがしに飛んだ。
「カラスじゃない、椋(むく)鳥(どり)だよ、死を招く黒い鳥、カラス、お前は死なない、この様で生き続けるんだよ、百までは生きるな、安心しろ、誰がお前のような面白い人間を殺すものか、皆が息を潜めて道路の横の茂みから、アパートの屋上からわくわくしながら一挙手一投足を覗いているんだよ。お前は死なないよ、お前は町の見世物だよ、無形文化財なんだよ、町の宝だ」

 街灯と自動車のヘッドライトの明かりでできた部屋のカーテンの影が揺れる。そこから燻るように煙が出てきて揺れる。机の前の壁の模様がぬらりくらりと揺れる。天井の板が奇異にぐらりと揺れる。部屋の床が緩慢に波打ち、私が揺れる。けむりがゆらゆら、部屋がぬらりゆらり、ぐらり、ゆらゆらと動き出す。
 犬の形をした影が落雷の響きで呟いた。
「性器を切れ」
「それはできません、私の楽しみがなくなってしまいます、それだけはできません」
 唯一声を拒否した思ってもなかった出来事であった。
「腕立て伏せを百回」
 腕立て伏せをやった。
「直立不動」
 その姿勢を明け方まで続けた。
「屋上に憂国の志士、三島由紀夫が天から降りてくる、会ってこい、お前をこの地獄から救ってくれるだろう、待てば海路の日和ありだ、駆け足」
 私は屋上に行き三島を待った。
 満月だった。私は月に吠える狼男になった、町中の人々を一人残さず食い散らし、この与那町を壊滅状態に陥れた。しかし、食い千切られて行く人人人はなぜか大胆不敵に笑っている。しかし抵抗は全くしない。誰も彼も死にたいのだと胸が熱くなった。姉妹や両親を食い殺しただろうか、記憶になかった。家族全員を殺せば、明日から生活はどうなるのだろうか、生活費はどうする、家は持ち家だからいい。生活費、生活費、なんと無慈悲で乾いた響きだろうか。
 三島由紀夫はどうした、現れない、そうだよな、腹を切って、首を刎ねられ、死んだのだから、現れないのだろうか、いや現れる、現れて欲しい。
 向こうの空がきらりと光った。いよいよ現れるのか。赤いテイルランプを点滅させたペガサスが飛行していた。近づいてくるかと思った時、消え去った。瞬間移動か、SF小説で読んだことがある。暴走族の走り去って行くと同時にけたたましいクラクション、きっとどこかに潜む誰かに、私がここにいることを知らせた違いない、人物選別GPS、人体が発する微量の電磁波で人を特定できる、最新鋭の装置だ。なぜ私を付け狙う。そこがどうしても分からないが、どうしても私でなければならないのだ。
 きっと公安がやっている、彼らは誰にでも化け、息を潜めて私を見張っている。陰険な奴らである。それならなぜ私を拉致しアジトへ連れて行き、尋問し吐かせないのか。まだ証拠が揃ってはいないのだろう、「国家転覆」、テレビを見て、チェ・ゲバラを讃えたのが、テロ法に触れたのか。革命、もうそれは死語に近い、共産主義のソ連、東ドイツは崩壊し、マルクス主義は崩壊し、ただの物語、神話と見なされた。革命、今ではこれほど寂しい響きの言葉はない。毛沢東も嘗ては英雄だったが、文化大革命で人民を大量虐殺した独裁者となってしまった。なぜ共産主義にレーニン、スターリン、毛沢東とポル・ポトと独裁者が出る、階級のない世界の実現が共産主義だったのではないか。共産主義は潰れて、資本主義は生き延びた。貧富の格差増大中の資本主義、それでも独裁よりはいい。二十一世紀になって全てが行き詰まった中で、科学だけが進歩する、人文学はどうなってしまったのか。共産主義も、資本主義も、全てが悪いという叫ぶ評論家、知識層、ならば文句ばかり言わないで解決、打開案を考えろ、不平不満ばかり。腐っても鯛、腐っても話し合い、論議だ。建設的議論、これも手垢のついた言い草だ。何をしても無駄。
 公安、秘密警察、極秘任務、静かに密かに私を狙う、抗う術はない、見ざる、言わざる、聞かざるの私、無抵抗の抵抗、それでは丸い三角と言うのと同じで、矛盾している、あり得ない無用の表現だ。私は駆除されるのか、テロ支持者として、政治犯として、革命家として、アナキストとして監視されているのではなく、好奇心から覗かれている可能性もある。しかし、何の変哲もない、魅力もない、いい男でもない、私を覗いてわくわくどきどきする興奮が起きるのか、はなはだ疑問だ。だが相手は変態だ、ノーマルな私が別次元の変態を理解できるわけがない。きっと何もできない私が物珍しいのだと理解することにした。しかし、困った、変態から見るならば、私が変態なのではないか、非常に悩ましいことになってきた。変態にとってはノーマルが自分たちとは違っていて面白い。しかし、これは憶測だ、変態とノーマルは別次元だからである。だが実際は変態よりただの人間、一般市民が危険なのである。隣のババアが呆けたふりをして「お前は何をしているのだ」と念仏のように唱えてた。向かいのアパートのお姉さんは私を見る度に笑顔になるから、条件反射で私もにこっとする。実際は、お前ななど死んでも相手にしてやらないと暗に告げているのだ。路地奥の家のアメリカ婿は女っぽい抑揚で挨拶をしてくる。ホモかバイセクシュアルかストレートのいずれか、もしかしたらアメリカ婿は偽装結婚で、実は嫁、子供欲しさに籍を入れた。何が何だか分からない、こんがらがるだけだ、どちらでもいい、他人事だ。だがアメリカ婿は「独立しろ、独立しろ」とアメリカの個人主義を押しつける、後ろ姿が痛いほどそう訴えていた。ここは日本だと罵ってやりたかったが、言い換えされるのが怖いので瞬時に打ち消した。やはり異文化とのコミュニケーションは難しい、怖さも日本人の二、三倍はある。怖い物見たさより触らぬ神に祟りなしだ。耳をつんざく轟音はバイクだ、俺も見張っているよと警告と仲間への合図であり、私を俎上に載せて蔑んで楽しんでいる。夕方中学生がアパートの駐車場でクソ、クソと呟きながら素振りをしている、バットで誰かを殴りたいのか、いや、私の頭をかち割りたいと屈折した気持ちで思っている、死んでもどうって事のない人間の種類で標的にしても許されそうな気がするからだ。車が路地に入ってきた、運転しているのは四十ぐらいの女でちらっと私を見た、こんな狭い所に立つな、轢き殺すぞ、家で寝てろ、目障りなんだと捲し立てた。
 満月の横の雲を見上げると首なしの人体に見えてきた。それで首を介錯された三島だと気付いた。それが緩慢に変化して、首を右手に抱えた三島の姿になった。なぜか楯の会の制服ではなく、鎧(よろい)姿(すがた)の落ち武者と言った体(てい)であった。ああ、三島は日本国のアメリから自主防衛の独立を諦めきれずに今でも彷徨っているのだと思い、胸が熱くなった。愛国者、唯一の愛国者、憂国の士だ。その一方で、空が落ちてくると憂い、天が落ちて来る前に死んでしまう、杞(き)憂(ゆう)の人ではなかったのかと唐突に頭を過ぎった。嘗ては憧れていた三島に対して不遜だと自分を責めた。三島は影となって現れた、私は恐れ戦いた、恐怖がこみ上げた、見たことのない三島の首が飛ぶ場面が音となって聞こえた、鈍い鈍い音だった。
「君は高校生の時に、私に憧れ私の小説を読破し心酔した、ところが大学になると、共産主義にかぶれ、マルクス、レーニン、毛沢東、チェ・ゲバラ、カストロと浮かれ、そんな自分に嫌(いや)気(け)がさし、今では隠者か世捨て人か、まあ、西洋から東洋に走って、老子、荘子の中国の古典に填まり、仙人思想の巣籠もり部屋籠もりの隠遁生活か、それも格好だけだ。本当は皆と笑って話がしたい、それができないから今の様だ。お前には信念がない、信念という言葉さえ知らないのではないか、それを無知と言うのだ。共産主義は自滅し、君は性懲りもなく一斉を風靡したポストモダンの哲学に走り、その哲学は今までの全ての思想を貶しただけで、ビジョンのないまま尻切れトンボ、尻すぼみとなった。そして探し当てたのが《神は死んだ、誰が殺したのだ、我々が殺したのだ》と叫んだニーチェに魅せられて、大枚をはたいて十六巻と別巻の計十七冊もの全集を買った。無論、小説のようにはすらすら読めず、時間も潰せると思ったからだ。何しないで過ごすのは辛い、それに目標もなく生きるのも辛い、だから哲学書を読むという大義を、何かをしているいう大義、無職という世間に対する引け目がそうさせたのだろう。君の思考はその程度だ、仙人など君と対局の人間であることを、君自身が知ろうとしないだけだ。《この世に価値などない、力への意志があるだけだ》《歴史には解釈があるだけだ》しかし、君がニーチェを選んだ本当の理由を私は知っている。ニーチェが狂人として死んだからだ、啓示を受けて《ツァラトゥストラはかく語りき》一気に書き上げたこと、ついでに言うなら、ドストエフスキーも癲癇の持病持ちだったから、読み始めた。君は彼らに何を求めた、同病相憐れむか。人生のどのようなことにも全て然りと受け止める超人の強さに憧れた。憧れとは自分が持ってない物だ、無い物ねだり、欲張りだ、欲しい玩具を目の前にした駄々っ子と違わない。天の星を竹竿で取ろうとする大馬鹿者だ
 身の丈を知れ」
 三島は消え、満月が映えた。救うというのは嘘だった、ただ叱っただけ、怒鳴っただけだった。生きている人間ならいざ知らず、死人にまで期待する私がバカなのだ、身の丈を知れ、汝自身を知れか、隣の空き地で酔っ払いが調子外れの声で騒いでいる、それが私を凍らせた。
「何を偉そうに語っているのだ、俺たちみたいに自分の金で酒を飲めるようになってみろ、人生に理屈などいるか、働いて、家庭を作り、酒を飲む、それだけだ。それを偉そうに、それは違いますと悩んでへこんで、世の中を恨む、馬鹿たれ、馬鹿たれだ、それだけだ、文句があるのなら下に降りてこい、決着を付けてやる、」
 下から見えない私に毒突いている見知らぬ酔っ払いはなぜ私を知っているのかと不安に駆られた。どこかで会ったが、私が覚えてないだけだ。しかしどうしても思い出せない、だが聞き覚えのある声だ。
「お前、俺の顔が見えないからといって、軽く見るなよ。お前、いくつになる。俺は結婚して。もうすぐ孫が抱ける年だぞ。お前はだらだらした人生で未婚、お前、反省しろよ、いいか、結婚は経済力だ、金だ。子供も作らずに、子孫も残さずに、死ぬ、何のためにこの世に生まれた来たんだ。それでもぐずぐずしながら生きて、何の楽しみがある、お前に男の甲斐性はあるのか、馬鹿野郎が、お前の根性を見せてみろ」
 酔っ払いにまで罵られ、ホステスも笑っている。どこまでもこいつらは追い掛けてくる。無抵抗の者を罵倒して、何が面白い。こいつは実は素面(しらふ)だ、真綿で首を絞めるように苦しめて、自殺へ追い込む気だ。ひっそりと殺される。なぜ名もないごく普通の一般人の私を追い詰める。国家の機密も知らなければ、犯罪者を見かけたことのない私を絞って何を自白させようとするのか、あいつらの意図が全く見えない、それが恐れを増殖させる、体が震えだした。将来、私が犯罪者になるから、その前にその芽を摘んでおこうと公安が動き出した。爆弾魔、ISが私を自爆テロ、人間爆弾したて、嘉手納基地内で自爆させる。それとも遊びに基地の外に出た米兵の車にプラスティック爆弾を仕掛け、スマホの遠隔素さで爆破させる。私がISのスパイ、笑わせるな、私はけして人を殺さない。それにISに弱みを握られることはない、弱みなどないからだ。家族を殺すぞと脅される。でも僅差で殺さないだろう、済まないが死んでくれ、私に殺しはできない。なぜか家族になら、頼めそうな気がした。私を殺すと脅されたら、どうぞと殺されるだろう。ISは私の息を潜めて酷い日々を過ごしているのを知らない、殺されるなら不慮の事故死と同じ納得はする。生きていて笑えないことがどんなに辛いかをISなどは知らないだろう。戦争呆けで命など掃いて捨てるものと思っている彼らに人の痛みを分かってくれと望むのが間違っている。彼らの行為は全て神様がさせていると盲信しているからだ。しかし、テロは日本にも迫っているのか。まずは大都市圏で発生させなければ、世界のマスコミの注目を浴びないだろう。私の住んでいる与那町など一顧だにされないだろう、田舎なのだ。急ブレーキの音がして、「この馬鹿野郎、急に飛び出すな、死にたいのか」と怒鳴る声が響いた。死にたいよ、二十四時間、罵られ、揶揄され、蔑まれ、罵られ、楽しいと思うのか、就労がそんなに大切なのか、無職は死ぬのが当然か、人間社会も弱肉強食で、弱い無職を狙い撃ちか、陰険だ、税金の無駄遣い、大金持ちはそうは言わない、わずかな税金を払うのに四苦八苦している私に近い層が叩くのだ。親に食わせて貰っている穀潰しだ、能なしだ、パラサイト、金食い虫だ、無職だ、だが税金を使っているわけじゃない、使っているのは親父の金だ、しかし、よく考えると税金を使わせてどこが悪い、憲法にも、国民は健康で最低限度の文化的生活を有する権利が保障されるとかいてある。そうは言うものの、肩身が狭い、世間の目は冷たい、特に私のようなちょっと学問を囓った中途半端なインテリで無職、働く気がないほど偉いのかと言ってくる、もう雰囲気で言いたいのがびんびん耳に響いてくる。ちょっとした仕草で罵る術に彼らは長けている。私にだけ毒突く独特のボディランゲージなのだ。詰まり、私は迫害されていること誰にも訴えることができない、これが狙いなのである。もし迫害している世間を、警察に訴えれば、私は社会的に異常者の烙印を押され、完全に世間から排除される羽目になる。彼らは万事において用意周到で手抜かりがない、完全犯罪なのである。彼らの目的は達成される。要するに私を社会から隔離することだ、無論刑務所ではないことは明らかだ、世間から私の言動全てを抹殺させる、異常レッテルを貼ることだ。だが私だってそうはさせない、バカではないからだ。ひたすら聞こえない振りをして、黙り通し、静かにしていること、それが私の彼らに対する抵抗手段だ。《今夜は無理、勘弁してちょうだい、次に、次にね、明日用事があるから》ホステスの声がかすかに耳元で囁くように響いてきた。いいよな、お前は用事なんて、この二十数年ないだろう、自由気ままでいいご身分、私も金があればそうするわ、そしたら嫌いな客のご機嫌を取らずに済む、でも、あなた何をしているの、一日って何もしいなでいると退屈で退屈で、長いわよね。よく我慢できるわね、二十四時間、熟睡はできないわよ、そうなったら、どこか悪いのよ、病院に行った方がいい。もしかして不治の病だったりして、でもあなたは色艶もいいし、健康そのものでしょう。でもいい大人が駄々捏ねて何もしないでいるのは根性いるわよ。世間はどの面下げて昼間から歩けるのよと舌打ちするのが落ちよ。あなた、根性あるわよ、これだけ世間を敵にする奴はいない、お見逸れしました、失礼しました。まあ、脛齧りに謝るのも気が引ける。女は平気で人を刺すようなことを言ってのける。陰険だ。男に媚びを売らなければならない商売のホステスが男をこれほど馬鹿にするのも珍しい、だが女は私のことをよく知っている、絶対に客にならない男で、箸にも棒にもかからない男だと値踏みしてのことだ。そのような男には日頃の客の男が与えるストレスの発散の的だと決めている。楽な商売はないとは就労者の口癖だ、仕方ないことである、はけ口は誰にも必要なのだ、私にももちろん必要だが相手の人間がいないだけだ。犬が吠えた。誰かが犬の散歩をさせている。こんな時間に。よしよし、お前はいい子だから、ご褒美をあげよう。そうさ、私はいい子ではない、一日中部屋の中だ、だが食事の時は階下のダイニングキチンへゆく。どうしても両親とは顔を合わせることになる。落ち零れ、大学から落ち零れ、人生から落ち零れ、世間から落ち零れ、どう足掻いてもどうにもならない人生だ、落ち零れの落ち零れ、夢想だにしなかった言葉、それどころか嘗ては意気揚揚と何の憂いもなく過ごしていた。リンゴの実は熟す前に落ちた。手に職はない、資格もない。落ち零れた、同級生は大学を卒業し、それぞれ職に就いた。結婚した、家庭を持った。私は路線から外れたどころか、横転までしてしまった。零れた水は元には戻らない。何を感傷に浸っているんだよ、お前には救いなどない、これから死ぬまで、自分を責め続けるのさ、だからと言って、打つ手があるわけじゃない、ただどうすればいい、いい手はないか、誰か救いの手を差し伸べてくれないか、そして最後には今まで気付かなかった神様にお願いする、どうか助けて下さい、何でもしますから。本物のバカ、他力本願か、いつから浄土真宗になった、善人なおもて往生をとぐ、況んや悪人ををや。ところがお前は善人でもありません、人殺しの悪人でもありません、ただの就労できない社会からの落ち零れです。ただの爪弾き者です。お前は他力というものは一切の思いを捨て、お前の一切を阿弥陀仏にお任せすることだ、それができるわけがないだろう、私は何も悪くない、私は何も悪くないと心の底では思っているお前が。お前には雑念が多すぎる。ナニ、自力本願だって、《仏陀に会ったら、仏陀を殺せ、師に会ったら師を殺せ、親に会ったら親を殺せ》、ナニにも頼らず、自分は自分で救えのスローガンで、お前は既に親の脛齧りで殺すどころか頼り切りだ。もっともお前が言ってはならないフレーズだ、自力本願、ばかでどうしようもない奴でもそれぐらい気付け。右か左か、決めかねる、優柔不断、落ち零れだから仕方ないか。救えない、誰もお前を救えない。もうそろそろ死ぬしか道はないか、お前が死んでも誰も悲しまない、それどころか厄介払いができて大喜びするさ。そんな人間滅多にいないよ、少なくとも母親は悲しむものだが、おまえはうんざりするように生きてきた、それでいいそれでいいよ、もう潮時じゃない、首でも吊ってさ。自殺は嫌だ、漏らしてしまう、見た目が悪い、薬も、手首を切るのも、首の大動脈を切るのも、血を見るのは嫌だ、それて死ぬのが嫌だと言う意味でしょう、虫がよすぎる、死ねば誰も、お漏らしはするさ。私はオムツを付けて死ぬ。老衰か。それまで長い長い時間になるぞ、お前の両親とも長寿の家系だからな、両家の祖父母とも百才近くまで生きている。落ち零れで長寿か、皮肉だな、生きなくてもいい奴が長生きし、いい奴は短命だ。命に軽重はないち言いながら、実際はある、それは私が痛いほど身に染みている。落ち零れに対する、無職に対する、脛齧りにたいする世間の冷たく見下した態度が何よりの証だ。世間だけでなく、家族もだ、家族が一番きつい、言葉の端々に思わず出てしまうからだ。この打撃は必ずヒットして、唸りたくなるほど惨めにさせてくれる。もう部屋に戻ろう、三島は救いに来たわけではなかった、ただからかいたかっただけだ。
 小さなアームライトだけ点け、机に坐った。窓のカーテンが隙間風で揺れている、影も揺れる。動いているのは影だけだ。遠い昔毎日を笑って過ごしていた、心配事などなかった、大学三年の或る日から笑いが消えた。世間が世界中が全てが私を蔑み罵り始めた、青天の霹靂だった。それから世間はとてつもなく明るいのに私だけが耳を覆って落ち込んでいる。私はどうすればいいか、その言葉だけが頭の中でぐるぐる回り、落ち込んでしまう。晴天が続き、人々が普通に喋っていた。いい天気だね、雨の日が土砂降りが私にはお似合いだと告げている。女性の赤い靴も、私は赤だ、共産主義者だと言っていた。共産主義者のどこが悪い、思想信条の自由だろうが。とは思うものの、赤と言われびびってしまう、臆病者の私がいた。臆病者、なんという破廉恥で恥知らずな言葉だろう。臆病者、気が滅入ってしまう。私の前にレジ袋が飛んできた。拾えと告げていたので、拾ったが、何の変哲もない空っぽのレジ袋だった。ゴミ箱にきちっと捨てろよ、何も、人のことなど気にしてないように歩け、お前おどおどしているから目立つって、人目を引いてしまう、足も右左右左。人を意識するとそんなこともできなくなってしまい、ぎこちないロボットのような歩きになってしまう。きょろきょろしない、ゴミ箱まで十五メートルほどだ、どうしてすっと行けないんだ、お前はバカか、それだけのことに何分かけるつもりだ。電話も皆はどうして、うまく応答できるのだろう、お早うにしてもそうだ、簡単に会話が成立する、だが私には難しい。きっと社会化がうまくゆかなかったのだ、それを大学三年まで気付かず、幸福に過ごしていた。
 先週、大学の友人と高校の同級生二人が数年ぶりに訪ねてきて、居酒屋に飲みに連れて行かれた。久しぶりなので、嫌と言えなかった。断ったら、後で友人の罵る声が一晩中、数日と木霊することになるからだ。私は怯えながらも、居酒屋に入った。
 客の声が襲ってきた。四人で席に坐った。あいつ何しに来たんだ、よく酒が飲めるな、でも、いいんじゃない、金さえ払えば、何というか、目障りで、あいつの雰囲気が嫌なんだ。場が白ける。私の連れは楽しそうに飲むだけで、私に浴びせられる罵りを気にする様子もない、こんなに人を馬鹿にする飲み屋にいられるか、出ようとなぜ言わない、俺の友達を罵るのはよせとなぜ言ってくれない、なぜただ乾杯しようとだけ言うのだ、それも笑顔で。そうだ、友達もこの店の客と同様に私を許せないでいるのだろうか、それでわざわざ私を誘い出したのか。耐えるしかない、帰ろうという言う勇気は私にはない。何を言われるか分からないからだ。あいつ、居酒屋で、何を塞ぎ込んでいる、きっと庶民には崇高なお悩みがあるんだろう、世間知らずのお坊ちゃま、あの身なりで、あの顔見てよ、今にも死にそうな顔してさ、私悩んでいるの、だれか同情して下さい、助けて下さい、あいつこっちを見たよ、おい、目を合わせるな、犬と同じで噛みつかれるぞ、何をびくびくしているの、私が何かした、これおいしい、お前はそうでもないかもしれないが、ここいい店だな、お前がいなければな、あいつ、東京まで行って、バカになって帰ってきたんだって、恥だよな、お金使って、バカになる、よく酒が飲めるな、友達はなぜ私を援護しない、飲め、まあ飲めよ。それだけか、それだけだ、バカに付ける薬はないからな、もっと笑えよ、ずっとしかめ面してばかりにこりともしてないぞ、お前は変わったな、変わった、前は大らかでよく笑っていた、人間死ぬまで一緒じゃない、変わるものだ、笑いたいと思えないんだ、皆が罵倒する中で笑ったら、それこそいかれている、私は笑えない状況に皆に、社会に追い込まれているんだ、だから笑えない、物は言い様だな、追い込まれる、闇金から、暴力団から金を借りたのか、それを返金できずにきつい催促を受けている、部屋の中でどうして金を使うんだ、自分が楽しくないのは人のせいか、それはよくないよ、
 この刺身、おいしい、食ってみろよ、ビール、最高、乾杯、健康を祝して、赤ん坊が生まれたんだよ、祝儀、祝儀だ、おれ、支店長になった、おめでとう、はい、乾杯、乾杯、
 罵りを隠した客の声がが洪水のように押し寄せてきて、完全に押しつぶされて黙り込んだ。隣の客が箸を挙げた、きっと首に差し込んでやるとの脅しだ、見も知らない赤の他人になぜそこまで憎まれるか、怖くなった、悲しかった、
 飲め、飲もう、飲みましょう、
 私は泥酔させて真っ裸にして路上に捨てるつもりだ、
お客様タクシー来ました、
 お前は営業妨害だから帰れ、私は客だぞ、お客様らしく、楽しんで飲んで下さい、別の客がどん引きします、
 大きなくしゃみが聞こえた、私の思考回路を麻痺させようとした、その方向を見ると会社員らしきスーツ姿の中年がおしぼりで顔を拭いていた、お前がくしゃみをしたのは分かっているが、文句が言えない、声はすぐ消えてしまうので、現行犯逮捕に至らないのを百も承知の上だ、出て行く女性客がハイヒールを履いていた、サドマゾの世界だ、昨日本で読んでたな、何にでも首を突っ込むのが探究心だと思っているのか、それはただの好奇心、覗き趣味だ、この覗き魔め、無職の癖に、色気づくのか、性欲か、百年早いよ、親の顔がみたいものだ、プライベートなことまで、私は丸裸にされて、観察されている、それこそ好奇心だ、覗き趣味だ、だが壁に囲まれた部屋さえ透視してしまう機器を持っているからだろう、まあ、骨折り損の草臥れ儲けだと思う、大山鳴動して、ネズミ一匹、私はネズミ一匹の価値、農薬で殺してもいい害虫か、そこまで蔑む必要はない、私は人間だ、殺せば殺人罪になる、しかし彼らは私を殺さない、人間ではなく、一匹のネズミと見ているからだ、殺すに値しない、俺の酒飲めねえのか、馬鹿野郎、おめえははバカなんだよ、唖然とした、客で満席の居酒屋で喚き散らすとはバカも通り越して立派だと思ってしまった、しかし、態度に度肝を抜かれたせいで、真意はそんなに響かなかった、それにしても、友達は私がこんなに罵倒されているにもかかわらず、知らぬ存ぜぬの顔つきで、飲もう、飲もうと笑顔で言うだけだ、仲間とはそんなものか、何を言っている、お前は友達を助けたことがあるか、口先だけだろう、仲間がどうのこうの言えるお前か、聞いて呆れる、恥を知れ恥を、私が悪かった、確かに私が悪かった、子供がおしっこと母親に言いながら、いい気味だと笑っていた、子供は正直だ、見抜かれるのだ、私は裸の王様だ、居酒屋は満席で騒々しい、人の声だから堪らない、お前はお前はお前はと四方八方から耳に入ってくる、死ねと誰かが囁いた、後ろから首を絞められたような気分だった、死ね、死ね、死ね、すっと血の気が引いてぐらりときた、ジュースにする、酒など飲むなと当て付けだ、明日、仕事、十二時までは飲もう、無職の私は時間制限がなくて、いいご身分だと言っている、今度の日曜日、北部へドライブしよう、パーパードライバーの私を笑っている、免許は取ったが行くところがなかったから、車を運転する必要がなかった、小さな望みだが、免許を取れば、少しは外に出るようになるかなと思ったが、全く変わらなかった、奴らはどこまで知ってるんだ、危険人物は徹底的に調べ尽くす、そして弱みを握り、いびり倒す、店員さん、水と氷お願いします、店員さん、私は店員じゃない、服を見て分かるだろう、皆を前に私をからかっている、敵の思う壺だ、騒々しさと恥ずかしさで顔が火照った、顔が真っ赤になったのでは、又笑われるかと、消えてなくなりたい気分になると、客の顔がえびす顔にいっせいに変わった、集中砲火だ、ひっそりとひっそりと俯き酒を飲む振りをしてやり過ごす、皆の薄ら笑いで息をするのも躊躇(ためら)われた、お客様三人、刺客を送ってきた、注文していたハイボールを持ってきて、テーブルに置いた、店員は私の目を避けた、毒を盛ったのだ、だがね何を血迷ったのか、友達が乾杯をしてきた、死んでもいいと諦めて飲むと、拍手が起こった、どっきりだよ、バカ、簡単に殺すか、じわじわと苦しめて殺す、これが一番面白い、あいつ、文学オタクで閉じこもって、仕事もなし、三食昼寝付き、殿様か、刺身下さい、ここはビール二つ、ああ、枝豆、異風な声が飛び交って私の神経に付着し溶かし麻痺させる、金縛りにして公衆の面前で笑いものにする気だ、締め上げる気だ、なぜ、今流行の右翼じゃないから、反戦平和だから、お花畑の主張、ISの戦争お花畑がいいのか、戦争呆けより平和呆け、左寄り、大昔のことだ、それと三島由紀夫、武士道とは死ぬことと見つけたり、などて皇(すめろぎ)は人となりたまひし、大輪の花火のようにぱっと咲いて、ぱっと散る三島の美学、三島は日本の完全独立、アメリカからの脱却、この部分は悩ましい、沖縄祖国復帰運動のスローガン《反戦平和、核抜き基地撤去》これも悩ましい、ビール生、一つ、天下国家を語るな、何様だと思っているのだ、総理大臣か、県知事か、国会議員か、町会議員でもないお前がなにを偉そうに煽っているんだ、世も末だ、碌でなしが蔓延(はびこ)りやがって、なぜ友達なのに助け船を出さない、私は叩きのめされているのに、焼き肉、カルビー持ってきて、私を炙ろうというのか、それは拷問だ、ルール違反だ、国賊にルールなどいらない、痛めつけて、私が悪かった、真っ当な人間になります、今度ばかりはお許し下さい、お前、バカか、ただの文学オタクが国賊、誇大妄想か、吉田松陰じゃないんだぞ、何がお許し下さい、許す許さないも、お前は世間の外、社会の外のはぐれ者で誰もなんとも思っちゃいない、それをどう勘違いしたのか、国賊、コンビニでコーラでも盗んで捕まってみろ、それがお前の最大の国賊行為だ、笑える、誰もお前など眼中にないんだよ、それをアナキストか革命家と勘違いして、一人で追われていると思い込んでいるお前はバカの極みだ、前のテーブルの四人の男性客がお開きで席を立った、スーツ姿だった、ネクタイも締めたことがないんだ、肉体労働者だろう、頭がなければ、体で稼ぐ、当然だ、それ以外に働きようがない、それとも都合のいい引き籠もりだったりして、同級生の父親が亡くなった時ぐらいは葬式に出ろよ、何のかんの言って、怠け者のだけなんだ、誰でも楽したいんだ、それでも人間付き合いていうものがあるだろうが、これぐらいも分からないバカだから、誰もお前と付き合わないんだ、嫌われ者なんだよ、それぐらい察しろよ、誰かの携帯の呼び出し音がした、ぎくりとした、私への警告音だ、静かにしていろ、下手に騒ぐととんでもないことが起きるぞ、お前を潰すことぐらい、赤子の手を捻るより簡単なことだぞ、それともお前の正体を洗い浚いアナウンスして欲しいか、私はスパイ、国賊、一般市民、何ものだろか、のっぺらぼう、私は名前もなく人格もなく何も存在しない、だが現にここで吊し上げられている、詰まり何でもありが私という存在、人間、私は揺らいでいる、女性が立った、ハンドバッグを手にしている、あなたと付き合っていたら馬鹿を見るだけ、空っぽ、少しは期待したけど空っぽ、すっからかん、挙げ句の果てに、思春期でもあるまいし、私は誰、本当の私を見つけたい、あなた四十過ぎでしょう、のこのこここまで生きてきて、私は誰、死んだ方が増しじゃないの、バカと鋏は使いようと言うけれど、あなたの場合、バカも鋏も壊れて使い道がない、あなた、死ねと言ったから、すぐ死なないでよ、私が忘れた頃に死んでよ、すぐに死なれたら寝覚めが悪いから、あなた、糞真面目で堅物、独身でしょう、箸の使い方、食べ方が気になる、へんな所に拘って、知ったか振りしてご満悦、手が上がった、俺にも言わせろ、関係のない向こうの男が入り込んできた、何がそんなに気に入らない、私は待った窶お前を知らないぞ、何を勝手に喚きたいんだ、一人二人と離れた席の男と女が手を挙げた、何がしたいんだ、私は君たちを知らない、赤の他人だ、何を抗議するんだ、弾劾するんだ、公務員じゃないぞ、無職なだけだ、自分から白状したよ、こいつ、無職が居酒屋、無職が酒を飲んでいる、平和だな、社会福祉政策、赤い羽根共同募金、その金で飲み食いしている、この人はナニサマ、言いたくはないが、税金は使ってない、親の金だ、口答えかよ、パラサイトに違いはない、皆さん、脛齧りが威張っています、親の金で飲み食い、親の金で飲んだくれています、税金は使っていません、それでいいと勘違いしています、なぜ連れは私を弁護しない、それに全く聞いてないような素振り、私には一人の味方もいない、七転八倒する私をにやにやしながら見て、無言、必至に笑いを堪えている、お笑いのどっきりでも見ているような気分だろう、他人の苦しみがそんなに楽しいか、金持ちがバナナの皮で転んだら笑えるが、弱者が貧乏人がそれで転んだら笑えない、セオリーだろう、貧乏人がじゃない、お前だから腹が捩れるほど笑えるんだ、そこを間違えるな、そこが肝だからな、それにお前は貧乏人じゃないだろう、親の臑を囓れるんだから、じゃあ、又明日、明日君とは会わない、皮肉か、明日も生きていろよ、死んでたらこちらの楽しみが減る、お前は要注意人物だ、お前のような類(たぐ)いの人間が増えると社会が機能停止に陥る、誰も働かなければ、税金は取れないからな、できるなら、お前らのような厄介者から前線へ送って、名誉の戦死をして貰うのが一番の得策なんだが、これといった紛争もないし、自衛隊隊員も足りている、扱いに困っている、それに無職は罪ではないし、逮捕することもできない、それに間違って団体を作って結束して貰っても困る、目立って欲しくないんだ、社会のイメージというものがあるからな、あくまで日本は平和で安全で住みやすい国でなければならない、国の信用の問題だ、死ねとは言わないが家でじっとしていてくれればこちらも助かる、このような人が集まる場所にも出ないで欲しい、目立つんだよ、雰囲気が普通の人間と違って、じっとりしていて陰気、暗いんだよ、人の活力を削ぐ、他人のポジティブなエネルギーをネガティブなエネルギーにして、国民総生産を減少させてしまい、国力を傾かせかねないからな、人類にあなたのような人が増殖中なのだが、原因が分からない、世の中と向き合えない、どうして、世の中には弱い人でも普通に暮らしている、弱い人ほど賢明な暮らしをしているとも言える、視点が違うのか、働かなくともいいほど、裕福である、アメリカでは働かずに資産運用を専門の会社に委託して、その利潤だけで暮らす人々がいる、無論、落ち零れとしてではなく、成功者の一族として見られる、その家族は働かない、あなたもあなたを養える程度に裕福な家庭で、悠々自適でいる、世の中からあなたが穀潰しとみられる道理はない、たまたま裕福な家庭に生まれ幸福なだけだ、蔑まれる必要は全くない、だが現実には怠け者と嫌われている、中流でそうなるとダメなんでしょう、大金持ちだったら、ああ、あそこは金持ちだからで済んでしまうでしょうが、あなたの家族は攻めるにいい的なんですね、貧乏でも金持ちでもなく、そこに働き盛りの者が何もせずにのんべんだらりと暮らしている、つまり、似たもの同士の僻みですよ、あなたは遊んで、私は汗水垂らして働いている、そのギャップが許せないんです、そのぐらいなら、あなたも遊んで暮らせばいいではないかと言われても、世間体を気にしてできない、益々あなたが憎くなる、だから世間はあなたに飛びかかる、不満の捌け口でです、しかし、捌け口があるからこそ、世間も治まって、騒乱など起きないんですがね、あなたさえもその点では社会に貢献している縁の下の力持ちならぬ怠け者です、生活保護を受けてもいいんですよ、でもあなたのケースは親兄弟が中流ですからできません、家族で養えと言うことです、でも心配しないで下さい、両親が亡くなったならば、生活保護を受けられますから、役に立たない人間だからという理由で野垂れ死にさせることはありません、あなたが役場に行って、生活保護を受けますと手を挙げるだけでいいんです、後はお役所仕事でお役所に任せればいいだけです、でも殆どの人は恥ずかしくてそうならないようにしているんです、教育されているんです、よき働き手になるようにね、だから日本は工業立国でいられるんです、ですが、工業製品に僅かですが不良品は出ます、それと同じように教育にも落ち零れが出ます、それがあなたです、それはほんの僅かですが常に出てきます、無視したいのですが、弱者救済とかで無視もできません、それにあなた東京の大学出でしょう、教育費の無駄にもしたくない、教育にかけた分を取り戻したいんです、国家としてですね、あのバカを絞り上げて下さい、そうしないと納得できません、あのふてぶてしい態度、いかにも申し訳なさそうな態度、あの溜息、あの表情、あの息づかい、あの沈黙、あの俯き加減の姿勢、絵に描いたような済みませんの様子、吐き気がするんです、腹に据えかねるんですね、別世界にいるような済ました顔、それに痩せてないでしょう、少しくらい死なない程度にひもじい思いもするべきだ、服も私と同じ値段のを着けてる、少しくらいの違いは見えるべきだわ、そうしないと最低の文化的生活を維持するだけの金も稼がないわよ、だって引き籠もってばかりでしょう、時に顔を出したと思ったら居酒屋、日本の福祉政策は破綻している、腹立つ、ここに来る金があるなら、水道代、電気代に回しなさいよ、時代錯誤かもしれないけど身分相応の生活って絶対あるわよね、私が絶対和牛を食べないようにね、ホテルでの高級な食事も禁止、家計を見ながら自分で自分を管理しないとね、それをなに、あいつが居酒屋、コンビニでお握りが相応しいのに、のこのこ居酒屋、贅沢三昧、殴ってすかっとしたくなるわよね、世の中間違ってる、大いに矛盾している、ここで誰かが声を上げるべきなのよ、どんなに小さくとも、夜の蚊は五月蠅くて我慢ならい、眠れないのよ、あいつはその蚊よ、叩き潰してやりたいわ、野球はこの年ではきついわ、見る方がいいわ、お前は仕事をするより、見る方だから楽しいだろうな、世間は見てないようでよく見ているんだよ、どこの誰それが何だかんだとな、だがお前だけが世間を知らない、お前なんか全てお見通しだ、町立図書館で本を借りる、アマゾンで本を買う、優雅だね、詰まり何の役にも立たない、煙草と同じか、百害あって一利なし、お前には暇潰しなのが世間の毒になる、突然目覚めて、一人で反乱を起こして、革命、自由、平和、平等とか叫び出さないとも限らないからな、余分の知識が、無用の知識がそうさせるんだ、豚に真珠、猫に小判。

 そんなに憎いのなら車で轢き殺せばいいのにと思うが、そのような罪を起こすまでには至らない程度の目の上のたんこぶ、憎しみらしい、どうして憎いのかは知らない、教えてはくれずに罵るばかり、だから本を読む方がいい、だが呪いが込められている
「食事」父親の口癖で食事の度に宣う、食事は家族揃って食べると楽しい、だが私にとって一人で食べない食事はびくびくして最悪の食事となる、父はそれを知らない、一家団欒、これほど憎い言葉はない、
「人格」、私には人格がない、場外だ、他人を無視している、それを無視されていると勘違いしている、その反対だ、彼らは皆私を面白半分に覗いている、
「凛子」、小学校六年生の時のルームメイトだ、なぜそれを知っている、それに私は片思いをしていた、綺麗な子だった、今会ったらどう思うだろうか、いつもジャージ姿でだらしない格好で部屋に閉じ籠もっている、見られたもんじゃない、悲劇だ、あの頃は明るくて朗らかな○○さんだったのに、今では脱落者、人生は分からないものね、頭がいいから、成功するわけではないんだ、惨めね、悲惨ね、滑稽ね、笑えるね、もう死ねば、すかっとするわよ、分からないけど、きっとそうよ、海に飛び込んで溺死、それもいいかも、遺体は上がらないの、生死不明、格好いいわよ、最後ぐらい意地を見せなさいよ、少しでもプライドは持ちなさいよ、
「他人」、私以外、全員まともで君だけが変、変わり種、異常、外に出たら皆がじろじろ見ているだろう、気付いているよね、それは当然なんだよ、君は普通じゃない、欠陥品でリコールされる品物、そんな人間なんだ、人間のリコールは本体は健康そのものだが、プログラムが他人にとって危険そのもの、他害の恐れが非常に高い、だから警察か公安が回収し、それなりの施設に閉じ込める、そうしないと君が大災害を起こしてしまう、無差別殺人事件発生になりかねない、
「その角を曲がるとコンビニがある」、角を曲がると居酒屋がある、故意にコンビニと言い換えている、全てを知っているが知らぬ振りをしてどん底に突き落とす精神的ショックの増大を狙ってのことだ、そういえば、居酒屋の前で屯している中高生を見た、あの薄ら笑いは耐えられるものではなかった、俺たちあーはならないよな、惨めだぜ、あの年であーだぜ、いつまでぐーたらなんだ、絶対にあれはダメだ、やばいよ、あれは、死んだ方が増し、俺ならトラックにぶつかる、そうだね、そうだね、あいつを見るな、気付かれるとやばいことになる、薬でラリっているんじゃないの、目がとろんとしている、
「中国人の店員」、毛沢東に憧れていた、そうだろう、根性のない奴ほど英雄にいかれるんだよ、自分が弱ければ弱いほど熱烈に憧れる、大虐殺を行ったと言われる文化大革命も、思想的に素晴らしい、素晴らしいと万歳をした、私は政治的節操がない、お前は流行の政治家、思想家にただいかれる、自分の見栄えがよければいいのだ、虐殺の事実を知ったら、毛沢東の名前すら聞いたことがないようにすっと呆ける豹変ぶりで、変わり身の早さ、逃げるが勝ちで、いつも逃げている、せっかく人間として生まれたのだから信念ぐらい持てよ、流されて流されて、野垂れ死にだぞ、生きる自負を持て、大志を抱け、意志あるところに所に道はある、まあ、お前のレベルなら、犬も歩けばラッキーに出くわす、少しは歩け、肥満になったら早死にするし、見た目が悪い、あいつは喰っては寝るだけだから、ぶくぶく太るんだと言われるぞ、典型的な引き籠もり肥満、オタク肥満か、
「晴美はドーナツとコーラを買った」、お握りとアイスコーヒーがいつも注文をする奴である、晴美ではなく、美春だ、私が図書館で出会った妖艶な感じの熟女だ、名前は司書に出したカードで分かった。久しぶりに出会った生きている美人で私の好みだった、そのような私が秘密にしていることを本に印刷して知らせてくる、私には手に取るように読解できる、だが私以外の人間には普通の小説である、密かに私を窮地に追い込むのである、もし私が自死でもしたら、誰もその理由を見つけることはできないだろう、だからと言うわけではないだろうが、私は追い詰められてはけして自死しない、とにかく生き続ける、それは根拠のない期待のようなものだ、きっとないよりは増しだろうと思うが、
「いらっしゃいませ」、このバカに明るい声は、もう来るなと毒突いている、オタクの君が二度とこに来ないことは知っているが、いらっしゃいませ、それが仕事なのだ、猫が来ても、いらっしゃいませ、君の服装、それでよく外に出られるね、寝間着だろう、これって人間捨ててるわよね、野生動物よ、動物保護法で人間界隔離してよ、臭うわ、風呂には入っているの、少しはマナーを身につけなさ、シッシッ、あっちへ行きなさい、いらっしゃいませ、
「海は青かった」、空は青かったと言っている、誰にでも、青いが、お前には曇天だ、もう一つは外に出て、海でも見てこい、いつまでうじうじ本なんか読んで過ごすんだ、お前の人生、部屋での読書で死んで行くのか、そのようなバカな行為は社会的自殺ではないか、それでも生きたいか、何のために生きているのか、自分でも分からないだろう、分かるならとっくに外に出ている、お前は、他人の書いたことを一日中読んで何が面白い、一人の作家の物語を一日中見ているんだぞ、それも映像もなく音楽もない字面だけ眺めて悦に入る、中毒だよ、依存症と同じだよ、だが無益無害の活字では中毒死はしない、しかし新聞は読まない、とにかく現実に触れたくないお前の姑息な手段だ、
「晴美の母は」、母親が死ねばいいと思っているが、元気でぴんぴんしている、近親憎悪っていう奴か、同じ家で暮らして、死ねばいいと思っているのだから、どういう家族だ、君はそれで世の中の爪弾きされているのが、分からないのか、世の中は君を道徳の破壊者、社会倫理の破壊者だと思っている、だからリンチで縛り首もいいな、死体は漁船で遠洋に捨てる、それで一匹の蟻のようにひっそりと死ぬ、君の死など誰も気付かない、ただ与那町から姿を消す、それは君のロマン、願いだろう、だから部屋に籠もっているんだろう、いつかくる死を願って、心臓麻痺、脳卒中、だがバカだから健康なんだ、やはり君は死んだ方がいいと思うよ、生きる意味、価値、理由、意義がないもの、それに生きていて楽しくないだろう、君は無理して生きなくてもいい人なんだ、皆は死んでくれないかと内心では思っている、これだけ嫌われる人間も見かけない、憎まれっ子世に憚るでぴんぴんしている、こんなに情けない話があってほんとにいいのか、皆は手を合わせながら君がくたばるのを願っている、
「トンネル」、お前は抜けられない暗いトンネルの中にいる、前にも後ろにも光が見えない、光が見える頃には飢えと渇きで俯せで動けず、死ねない自分を恨む、天井のセメントが剥がれて押し潰してくれたら、どんなに楽かと思うようになる、死なずに罰を何度も何度も受ける、不死身だ、そうだ不死身だ、普通の神経の人なら何度も死んだことになるが、お前は死ななかった、生き返ったかだ、詰まり、お前は人間ではない、この世をさ迷うモンスターだ、永遠に死ねない醜悪な人間の形をした生き物だ、
「願い」、希望などない、とっくの昔に希望、期待することなど忘れた、するだけ無駄だ、神頼みも一年間続けたことがあるが、効果はなかった、困ってから、神に縋るのは自分勝手だ、死ねば楽になる、そいつは死んで生き返ったのか、死ねば地獄になるもありうる、半々だ、生きても地獄だ、なぜ世界は私を忌み嫌うのだ、

 ラジオもテレビも私に当て擦りばかりでうんざりする、もっといい番組を作るのに精を出せばいいのに、毎日私の特番ばかり、批判ばかり、誹謗中傷ばかり、一度だって褒められたことはない、格好のニュースの的だ、笑いものだ、
「殺人犯は逃走中です」、お前は国家反逆罪だ、世間を社会の規則、良風を無視して生息、モラルを破壊している、その小さな穴から社会秩序のダムは決壊する、モラル爆弾魔、モラルテロリスト、モラルアナキスト、窓も開けきれないだろう、外では公安が、私服警官が、お前を現行犯逮捕しようと見張っている、それだけでも罪だ、お前ごときに税金を投入しているのと同じだ、真っ裸で喚き散らしながら大通りを走れ、そうすれば猥褻罪か、異常者として隔離できる、お前は隔離されるべき人間だ、最低の人間だ、屑だ、ゴミだ、箒で掃いて捨てられない、一応人権があるからな、超法規的にそのような人間を始末する者がいればいいんだが、実際にはいない、だからお前に自主的に海に飛び込むか、ビルから身を投げるか、車に轢かれるか、して欲しいんだが、命が惜しくて巣籠もりで保身に走っている破廉恥、厚顔無恥にそんな期待をしても無理なことだ、無理を承知で頼んでも無駄か、お前は筋金入りのアナキストだからな、
「明日は」、そうだ、明日も今日と全く同じで一人で部屋で全く同じ、部屋に籠もり、本を読み、テレビを見て過ごす、明日に意味はない、死ぬまで今日だ、そんな人生を送って、嬉嬉とご満悦、一般人なら狂い死にするか、精神に支障をきたすかだ、そんな生活でもう何年なるの、十五年、二十年、三十年、発見のない日々、今日も明日も昨日と同じ、それでも年は食うから、天寿を全うする、それだけがお前の人生だ、これこそ人類の恥だ、犬畜生以下だ、
「列車」、移動手段だ、交通こそが人類を人間を発展させる、お前はその二本足さえ使わない、行くところもないからな、部屋とトイレ、たまに使う浴室、三度の飯に階下のキッチンへ、それが行動範囲、家の中で飼われているペットよりも移動しない、動かない、そのうち肥満になるぞ、だがなぜか太るのを気にして、一碗の飯で済ませている、そこが欠点だ、何も気にせずに自分を全うする、そのような気概が全く見受けられない、嘘でもいいから、我が道を行くとほざいてみろ、それもできない、何かにぶつかるようなことはけして口にしない、反射的に反論されるからだ、穏やかに恙(つつが)無(な)く、無事息災、日々是好日(にちにちこれこうにち)、人生を達観したかのような糞坊主、老人、二足尊、仏陀のことだが、お前は面壁八年の達磨大師の積もりか、過ごした年数はとうに達磨を抜いているが、悟りどころではない、自暴自棄、悶々不楽(もんもんふらく)、陰鬱、憂鬱、ネガティブ、フラストレーション、でも死なない、何を考えているの分からない、五里霧中、知らぬが仏、仏で死ねばいいのに、だが死なない、自死しない、投身、飛び込み、服毒、首つり、即断即決、遅延、サボタージュ、失望、望みがないから失望はしない、希望、とっくに捨てた、なぜ生きているのかは分からない、無責任、無気力、無感動、現実逃避、現実など有りはしない、お前はいつも部屋の中、自己洗脳、それでも救われない、その雰囲気は肌身に染みる、あなたは神を信じますか、自己放棄、帰依、夢想、夢・現実どっち、どちらでもいい、無力、無、ない、欠落、陥穽、同じ穴の狢(むじな)、前後不覚、
「事件現場」、誰も気付いてない、居酒屋で、公園で、通りすがりで、人は非難の集中砲火を浴びせる、加害者は他人、被害者は呆然と立ち尽くし、治まるのをひたすら待つ、三々五々立ち去るのを待つ、誰も気付くことのない被害者、騒ぎを起こしたのは私、騒乱罪、だが公安は乗り込んでは来ない、彼らも又待ち続ける、我慢比べ、他人に心を開いてはならない、開けば土足で入り込まれ、撹乱される、油断大敵、彼らはいつか焦れて必ず仕留めに来る、
「今朝(けさ)」、いつも最悪の気分、このままずっと寝たままで居たらいい、それなら餓死するだろう、それもできないで朝を呪う、自分を呪うのが一番だろう、身勝手な奴、お前が面白くないのは全て世の中のせいか、全部、他人が悪い、自分は清廉潔白、無罪放免、お咎めなし、それでいて、気が塞ぐ、それは良心がないはずのお前の罪の意識か、そうじゃないだろう、何が原因か言えよ、現実から逃れようとして分からないなどと言うなよ、法律に違反しないなら、何をしてもいいと思っているのか、法律に違反するから、何をしてもいいんだ、結果として法によって裁かれる、だが君は誰にも裁かれない、だから自由だと思っているのか、裁かれているよ、公安が一日中つけ回している、閉め切った部屋の中さえ、テレビで、電磁波で侵入し、世間を操作して、お前を罵倒させる、じゃあ、死なない程度に人でも刺して、監獄にでも入れよ、それなら公安も手出しはできない、お前は罪は犯してないが腐っている、腐ったミカンは取り除く、そうしないと全部腐ってくる、世の中にお前みたいなのが増殖したらどうなる、国が破綻する、当たり前だ、納税者がいなくなるのだから、排除が妥当である、世間一般の総意だ、お前は僻んで差別だのとほざくだろうが、誰も耳を貸しはしない、この世には死んでも悲しまれない人間ているんだよ、それがお前だ、
「観光客数」、どんどん増えている、あの人地元の人、変わってるわね、動作がぎくしゃくしている、こちらを意識していますってのが見え見え、お呼びじゃないのにのこのこ出てきて、有名人のつもりかしら、もしかして変態、気をつけないと何かの拍子で襲いかかってくるかもしれないから、挙動不審、何で紺のズボンに黄色の無地のTシャツかしら、センスないわね、あいつはね、大人とは話ができないで、子供を狙うのよ、幼児誘拐、監禁、飼育、奴隷、何て悍(おぞ)ましいのかしら、きっとアダルトビデオを繰り返し見ているのよ、その影響で拉致、警察はマークしているのかしら、起こってからでは遅いのに、事件になる前に逮捕することはできない、こういう人種が最近では増えている、どうすればいいいの、新しい法律を作って取り締まればいいのに、こういうのは手遅れになる前に駆逐するべきだ、魔女狩りが必要な時もあるのよ、今がその時よ、
「コミュニケーション」、文明が進みすぎた、今では電磁波で個人を攻撃する、そう私にしか聞こえないように耳元で囁く、誹謗中傷、脅し、訴えようにも録音もできない、私は盗聴されている、きっと家の近くのどこかの部屋に公安が隠れている、私は極力声を出さないようにしている、言葉など何とでも解釈できる、彼らの好き勝手に解釈され、いいように仕立てられて異端者にされて堪るか、見せしめのために磔(はりつけ)に、首は切り落とし晒し首にしようとしている、私は緘黙する、そう易々としっぽを掴まれてなるものか、世間は悪意を持って、私を解釈する、それが正義なのだ、所詮は多い者勝ちなのである、しかし、いつから、なぜ、誰が、私をターゲットにしたのだろうか、それが思い当たらない、国家がランダムに選んで生まれた時から追跡調査、実験室のモルモット、全てが記録されている、プライバシーは全くなく、丸裸にされている、卑猥だ、どう考えも卑猥だ、醜悪だ、これ以上の醜悪はない、従順な国民を作るためにか、それしかない、まずは国内を治め、国を強くし、軍事を強化し、世界の大国となる、その国の政治家となり、国を世界を牛耳る、野望は膨らむばかりだ、国家は私の敵だ、だが分かったところでどうなる、私は一人だ、良心さえ私を罵倒するのだ、況んや、世間は尚更私を罵倒する、孤立無援、そのような私に国家に刃向かうなど到底できるはずがない、考えれば考えるほど落ち込むばかり、だが考えずには一秒もいられない、余白が全くない、画面一杯に殴り書きされた文字の蝟集、
「水曜日」、仕事は今日も休み、いつするの、いいな、三食昼寝ばかり、よく眠れるね、皆そうしたいと思っているけど、稼がないと食えないから、お仕事をしているの、君、何のために生きているの、三食昼寝ばかりが楽しいから、君みたいな人間が一人ぐらいいてもいいのかな、こんな風になってはいけませんという反面教師としてね、憂さ晴らしの対象、憎しみの捌け口、人生の敗北者、落伍者、ドロップアウト、落ち零れ、敗者復活戦なし、すでに戦うことを自ら放棄している、無残である、悲惨である、目を覆うばかりである、見るに堪えない、言わないでも分かるでしょう、ここから脱出する道は一つ、君は死ぬしかないよ、生きていて楽しい、喜び、感動はあるの、あるのは蔑みばかり、それは辛いよ、海は近いから飛び込んで溺死したらいい、まともな人間だったら、それを勧めても誰も止めはしないよ、そしたら腐る心配もない、その前に魚が食って骨だけになる、綺麗なものだ、ふいっと消えて静かに死ぬ、君にうってつけの滅び方だ、世間はあっという間に君がいたことを忘れる、誰にも干渉されない世界に違いないよ、消えるんだからね、それに最後だけは皆から褒められよう、よく消えてくれた、死んでくれたとね、誰も君がどこかで生きているなどと露程も思わないから、今までの君がこの部屋の外で生きられるわけがないのは重々承知している、全てが整っている、後は君の決断次第だ、こんな生活をいつまで続ける気なの、見るに忍びない、このどうしようもない、救いようのない虚脱感が分かるかな、君に、とにかく君に早く死んで欲しい、お願いするよ、一生に一度のお願いだ、人間生きている間に一つぐらいいいことをしよう、それは君が死んで世界中がハッピーになるからだ、凄いことだよ、だから死のう、その気になったら、すぐ実行するのよ、それがポイントだから、
「どちらへ」、すぐそこまで、そのような受け答えができずに固まってしまう私を笑っている、あの世までと言えばいいのか、だが簡単に死ねない、なぜ嬉しいことの一つさえないこの世界にしがみついているのか分からない、世間もそう思っている、早く死ねばいいのに、生きてるだけで頭にくる奴っているよね、あいつよとあごで指す、うろちょろしない、部屋で寝ていろ、死ぬまで寝ていろ、いいご身分だ、まさか生活保護受けてないよな、あいつには税金の無駄遣いだ、この世に役立つ人、役に立たない人、役に立たないのがあいつ、こういう人を見ると皆はむかつくしかない、殴り殺したくなる、それを知らぬ振りして、表に出てくる、空気が濁る、あいつは大気汚染物質、放射能だ、だが殺しはしない、くだらない人間のために殺人なんてバカげている、殺すに値しない、生きるに値しない、残る道は一つ自死だ、しかし、あいつに生き死にを決めさせると生きるに決まっている、あの状態で生きるなんて普通の人じゃできない、あいつはね、普通じゃない、だから誰の言うことにも貸す耳を持たない、それであいつは今のようにのうのうと生きていられるんだ、死んで欲しい奴は長生きする、もしかしたら私たちより長生きする、いつからこんな世の中になったんだろう、こっちが死にたくなってきた、嫌だ、嫌だ、あいつのことを考えるとこちらの頭が変になる、世の中は簡単には放ってくれない、
「あれ」、あれやこれやで忙しいのに一人だけベッドの上で仮死状態、仮眠、浅い眠り、寝惚けている、惰眠を貪り、反省はなし、きっと前世で善行を積んだから、こうも楽にこの世を生きているんだろう、この世の春を謳歌しているんだろうが、はた迷惑だ、仕事に集中できない、あれあれ、もしかして盗み聞きしている、危険な目に遭うと擬死する虫のように死んだ真似をしているのか、それで私が消え去るとでも思っているのか、甘いでしょう、蓑虫のように毛布に包まってうんうん唸っているがいい、いい気味だ、気味が悪い、他人の会話をこっそり聞いて、弱みでも握って自己防衛しようと考えているの、他人の秘密は蜜の味、甘くてとろり、蕩ける、それなのに自分が嗅ぎ回れるのに過敏に反応、自業自得、全てあなたの捻れた歪な性格がもたらした、恨むなら自分を恨め、自分で撒いた種は自分で刈り取る、それぐらい責任を取れよ、お前、女々しい、男らしくない、お前のような奴は無視したいよ、腹が立つだけだし、けれど無視できない、このいらいらをどうにかしろよ、死ねばいいのに、
「相談」誰にも相談したことがない、話すのが怖いからだ、君は人を信用しない、哀れな奴だ、誰も信用しない、息苦しくないか、呼吸困難に陥って窒息、死ぬほどの苦しみを味わうぞ、水は飲みたいが、飲めば砂に変わる、人を信じたいが、信じれば鬼に変わる、人を愛したいが、愛すれば憎まれる、親切にしたいが、すれば偽善者と呼ばれる、いいことないね、ちょっと考えれば、分かることだ、考えろ、ここは悪魔の世界だ、逃げられはしない、君はどうする、どうしたいんだ、答えは既に出ているだろう、
「旅行」人は海外旅行に行楽地に出かけ、楽しくやっている、部屋で一人で蔑まれながら本を読んでいる、楽しくはない、だが読んでいる、なにもやることがないから、なにをやっても同じ、ここ二十数年君は一度も笑ったことがない、どうなる、どうする、味気ない本を読むだけか、それは人間がする生活か、
「ありがとうございました」、ありがた迷惑って知っていますか、あなたのように親切押し売りをして、一人だけご満悦の行為を指して言うのです、満足するのは自分だけではた迷惑なことに全く気付かない、迷惑をかけて、私はこんなにもいい人だと思い込んで、嬉しくて堪らないのです、この人が嬉しくなる度に、施された人は悲しくなるのです、なんでこんな奴に哀れみを施されるこの身になったのだと死にたくなるのです、いいですか、あなたはなにもするな、それで十分ですから、十分すぎるほどですから、

 絶え間なく続く罵りと蔑みで蛻(もぬけ)の殻となった私はパソコンのワープロを起動させ、蛮勇を奮い立たせて、万感の思いを込めて打ち込む。
「私は自死しない、生きる、生きる、私は私が生きる意味も分からない、私は私が生きる価値があるのかも分からない、しかしとにかく生きる、生きる、生きてみる、生きる生きる」







皆から監視され裁かれている。

変身

狂うことの日常、その生活の表情

変身

どんなに考えても、考えても狂いの手のひらの中

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-12

Copyrighted
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