透明な声に色をつけて

リザリカ

ディズニー・ピクサー作品「ファインディングニモ」より、ブロート×ガーグルの二次創作BL小説です。
拙宅ブロガグの馴れ初め&お初のお話。

以下の注意書きを必ず読んでください。
登場人物:メインはブロートとガーグル。タンクギャングは全員出ます
◇擬人化前提です(重要)。擬人化してるので、魚だけど普通に人間の食べ物を食したりお風呂に入ったり歯磨きしたりしていますがそこは二次創作ドリームフィーバーということで多めに見てください……。
◇CP要素を含んでいます。100%ブロガグ。糖度は高め……だと思います。
◇全体的に盛大なねつ造とキャラ崩壊があります。
◇時系列としてはニモがさらわれてくる前の話。
◇後半に性的描写があります。割とがっつりめの予定です。

注意書きから少しでも嫌な予感がした方はそっとこのページを閉じましょう。
「何でも来い‼」な心優しいお方はどうぞゆっくりしていってくださいませ。

 【1.”大嫌い”の行方】

 この「声」は今までずっと透明だったから、きっと僕は気が付いてなかったんだ。
 いや、聞こえない振りを、気が付かない振りをしていただけかもしれない。
 きっと、恐かったんだ。
 自分の胸に沈んだ、ガラスのように脆くて、透き通るように素直なこの「声」に気づくことも、気が付かれることも。
 でも、もう、それもおしまい。
 僕は向き合わなきゃいけない。色づき始めた、透明なこの「声」と。



 「――――ほんっとお前って他人(ひと)の話聞かないよね!」
 水槽(いえ)にややヒステリックな声が響き渡ったのは、とある午後のこと。シャーマン氏が午後何人目かの患者の治療を始めた矢先のことだった。
 いつものように治療の様子を、まるでスポーツ観戦でもするように見ていたギルとピーチは、一瞬何事かと振り向いた。しかし声の主と、その主が対峙している相手を見ると、すぐに二人は合点がいったような顔を見合わせる。
 声を上げていたのは、水槽軍団(タンク・ギャング)一の潔癖症、ガーグル。生来ナーバスで汚れることを何よりも嫌う彼は、しょっちゅう水槽(いえ)の汚れについて神経を尖らせている。しかも、それは自分の身辺だけでなく、他の仲間の事情に対しても例外は無いようで。
 「はあ?聞いてるっつうの。お前こそ、何度も同じこと言ってくんなよ!こちとら耳にタコだっての!」
 だからこそ、彼と対峙している大柄なこの男は、その小言を一身に受ける羽目になっていたのだ。
 辟易したように眉を寄せ、しかめっ面で言い返した彼はブロート。普段はとてもさばさばしていて大らかだが、一方で血の気が多く興奮しやすい一面がある。そのため、感情が昂ると髪が大きく逆立ったり血圧が上がって千鳥足になったりするという、ハリセンボンゆえの特性が表に出るのだ。今日もガーグルと喧嘩腰に会話しているせいだろう、その針のようなシャギーカットの髪は今にも逆立ちそうだ。
 「何度も言わないと改善しやしないじゃないか!一度で聞き入れないとか、お前耳まで筋肉で詰まってんじゃないの!?」
 「っんだとぉ!?」
 小柄なガーグルは、自分より頭一つ分は背の高いブロートを見上げて喚くように言った。一方ブロートは、自分より小さなガーグルを威圧するように上から睨み、濃い眉を吊り上げている。
 「……また始まったわね」
 やれやれと言いたげにピーチが肩を竦める。例のごとく彼女の定位置である水槽(いえ)の広間の大窓に寄りかかり、ぎゃんぎゃんと言い争う二人に呆れた眼差しを向けている。
 「……しばらくしたら落ち着くだろうさ」
 隣にいる、水槽軍団(タンク・ギャング)のリーダー、ギルが答えた。その聡明そうな赤茶色の瞳は、揺らぐことなく至って冷静に仲間の様子を見つめていた。

 仲間内でいさかいが起きているというのに、何故ピーチもギルも全く慌てないのか。それにはきちんとした理由がある。喧嘩をしているのが、ブロートとガーグルというお決まりの二人だからだ。
 この二人は、水槽軍団(タンク・ギャング)の仲間で一番頻繁に言い争っている。神経質で細かいことを気にするデリケートなガーグル。大らかゆえに些事を気にしない、良くも悪くもアバウトなブロート。絵に描いたように正反対な性格と感性のせいだろう、二人は出会った当初から何かにつけては口論をしていた。例えばシャーマン氏がこれからどういう治療をするかの意見が割れた時のように、実に小さなきっかけでこの凸凹コンビはたちまち言い争いを始める。
 しかし、水槽軍団(タンク・ギャング)の仲間を一番傍で長く見てきているギルとピーチは、二人のその喧嘩が大したことではないと知っていた。
 二人の口論は、本気で相手を傷つけ貶めようとする鋭利な応酬とは程遠い。そもそも、二人が同じ力加減で言い争っているかというとそうでもない。大抵の場合、いつも全力投球でものを言っているのはガーグルで、ブロートはそれに本気で応じているようでいてどこかで加減をしているのだ。その絶妙な距離感は、まるで歳の離れた兄と弟のやり取りにも似ていた。

 そんなわけで、幸いにもこれまで二人の口論が深刻化したことはない。二人の間にあるその距離感を心得ているギルとピーチだからこそ、慌てることなく遠目で見守るに留めたのだ。
 今回も、お互いが言いたいことを言い終われば自然に収束していくだろう。ギルは少なくともそう踏んでいた。しかしギルは、その読みが少々外れていることにすぐ気が付いて表情を曇らせた。
 しばらく様子を見守っていても、一向に二人の応酬は収まらない。それどころか、二人の語気は段々と荒くなっていき、双方ヒートアップしているようだった。
 「大体お前、いつも何かにつけて俺に突っかかってくるけどな、そんなに俺が嫌いか!?」
 うんざりした様子でブロートがきつく問いかけた。普段ののんびりと穏やかな彼からは想像できないほど刺々しい聞き方。今回はかなり頭に血が上っているようだ。
 鋭い言葉に、一瞬ガーグルは表情と体を強張らせた。ブロートの剣幕が恐かったのか、質問に答えかねてたじろいだのか、いずれにせよ明らかにひるんだ様子だった。しかしすぐに目に角を立てると、負けじと言い返す。
 「……ッ!き、嫌いに……嫌いに決まってるだろ!お前みたいな、他人の話も聞かないデリカシーの欠片も無い奴!大っ嫌いだよ!」
 ガーグルの口から飛び出したのは、今までに無いくらい尖った言葉だった。ヒステリックなところはあれど根は心優しい彼にらしくない物言い。傍で聞いていたギルは驚愕の顔をピーチと見合わせた。
 言葉をぶつけられたブロートも、最初は驚きが強かったのか呆気に取られた様子だった。
 「……ああそうかよ!俺もお前みたいな神経質野郎なんざお断りだ!顔も見たかねえな!」
 けれどすぐに目の色を変え、売り言葉に買い言葉と言わんばかりに声を荒げた。荒々しい言葉と声音に、今度は目にも明らかにガーグルの小さな肩がびくっと跳ねる。苛立ちで歪んでいたその顔に、"それ"がほんの一瞬、しかし確かに滲んだその時だった。
 「……ブロート、ガーグル、それくらいにしろ」
 険悪な空気にピリオドを打ったのは、低く静かな声だった。二人が振り向くと、声の主……ギルはいつの間にか近くに来ていて、腕組みしてブロートとガーグルを交互に見やる。それ以上の言葉は発しなかったものの、見つめてくるその双眸は二人を沈黙させるには充分なほど厳しい光をたたえていた。
 自分が友人として、リーダーとして慕う男に咎めるような視線を送られては仕方がない。ブロートは奥歯を噛みしめ、湧き起こった感情の奔流を抑えることに努めた。
 一方ガーグルは、ブロートからもギルからも目を逸らすと、俯いて拳を握った。何か言いたげに何度か口を開閉して、しかしすぐにくるりと踵を返すと、まるでそこから逃げるように足早に立ち去ってしまった。
 それでも、ギルはガーグルを呼び止めようとはしなかった。今は二人ともひどく気が立っている。少し距離を置いて互いに頭を冷やした方がいいだろう、と判断してのことだった。
 一連の様子を、ピーチは大窓にもたれたままで静かに見守っていた。その眼差しは先程の呆れたものから、どこか心配そうな陰りを帯びていたことは言うまでもない。


◇◇◇


 自分の部屋へ、逃げ込むかのように体を滑り込ませて後ろ手にドアを閉める。ようやく一人きりになると、ぴんと張り詰めていた胸の内がふっと緩んで、思わず息を吐いた。知らない間に気持ちがひどく緊張していたのだろう。鼓動がばくばく速まっていたことに気が付くのに少し時間がかかってしまった。
 「…………」
 意識して二度か三度深く呼吸をすると、早鐘を鳴らしていた胸は穏やかに治まっていった。速く浅くなっていた呼吸が整うと、興奮でくらくらしていた頭も、逆立って尖っていた神経も、少しずつ落ち着いてきた。
 「……はあ……」
 けれど、そうして気持ちが静まって冷静さが戻ってくると、今度は重たるく暗い感情が頭をもたげるのが分かった。ドアにもたれたまま、ずるずると滑り落ちるようにその場にへたり込む。
 (……どうしよう)さっきの一連の出来事を思い返して、僕はうなだれた。言うまでもない、ついさっきの喧嘩のことだ。

 思い返すと実にくだらないことでしょっちゅう口喧嘩をしている僕とブロート。今回も冷静に考えれば、本当に些細なことからいさかいが起きた。
 午後、自分の部屋でくつろぐのも飽きた頃。リビングで歯医者の治療の賭けにでも参加しようと、自室を出てブロートの部屋の前を通りかかった時だった。開けっ放しのドアが気になって閉めようとした瞬間、目に映った光景が僕の神経を逆撫でした。ブロートの部屋ときたら、物が乱雑に積んであったり、床に放置されていたり、服が畳まれもせず脱ぎっぱなしになっていたり、とにかく清潔感の欠片も無い有り様だった。見ただけなので雰囲気しか分からなかったけれど、何となく埃っぽかった気もする。
 別に、この光景は今に始まったことではない。彼は(少なくとも僕からしてみれば)ルーズでズボラで、出会った当初から部屋はこんな調子だ。それでもその時の僕は、その雑然とした様子にひどく嫌悪感を覚えて、胸がざわついた。
 自分でもよく分かっているけれど、僕は潔癖症だ。自分の周りが汚れていたり散らかっていたりするのはとても耐えられない。だからだろう、他人のプライベートや事情に首を突っ込むのはお節介だし野暮なことだと分かっていても、そのことだけはどうしても口を挟んでしまうのが僕の癖だった。
 今回のブロートの部屋に関してもそれは例外ではない。僕は反射的な嫌悪感を胸に、リビングでくつろいでいた部屋の主を見つけるや否や開口一番に文句をぶつけた。
 実はこの件で僕が彼に文句を言うのは、これも今に始まったことではない。出会った当初から変わらないルーズさが気に食わなくて、僕は以前から何度も同じことを同じように言及している。と言っても、相手は大らかが過ぎるブロート。細かいことは気にしない主義の彼に文句を垂れたところであまり効果がないことは分かっていたけれど、それでも言わずにはいられなかった。
 僕に食ってかかられて、ブロートは相変わらず煩そうに顔をしかめて「またそれかよ」と面倒臭そうに返事をした。そのぶっきらぼうで真摯でない態度に、僕はイライラも露わにさらに小言を連ねた。すると、ブロートも気に障ったのか、それとも偶然虫の居所が悪かったのか、珍しく怒気を帯びた口調で言い返してきた。
 僕が知る限り、ブロートはかっとなりやすいけれど争いに積極的なタイプではない。こうして僕がしつこく小言を言っても、そこまで激しい剣幕になることは無かった。だから僕も、正直に言うと最初はびびった。けれどその時の僕は頭に血が上っていたのだろう、そこで引かずにさらに尖った言葉でブロートに食い下がった。そうやってお互いに刺々しい気持ちで言い合っているうちに、あんなことになってしまったのだ。

 ブロートと喧嘩した回数は数え切れない。でも今回のように、お互い頭に血が上ったまま言い争って、険悪な空気のまま終わるパターンは初めてのことだった。だからこそ、僕はひどく狼狽していた。
 (あんなこと……"大嫌い"なんて言うつもり、無かったのに……)
 勢い余って「大嫌い」だなんて口走ってしまったけれど、それは断じて本心ではない。
 生来の性質が正反対だから、気に食わないところも気が合わないところも多少あるとは感じている。むかつく、と感じる場面もあるし、理解できないところもある。でも、それでも、あの言葉の通りに「嫌い」と思ったことは無い。それなのに、言い争いの中でかっとなって、我ながらひどいことを言ってしまった。そんな事実に、後悔で胸が満たされるのを感じた。
 (いや、今回だけじゃない。僕はいつもそうだ。言い合ってるうちに、ブロートにきつく当たって、言いたい放題言って……)
 さっきも言ったように、ブロートのことは決して嫌いではない。けれどそれとは裏腹に、僕はいつも彼に辛く当たってばかりいる。何故そんな態度になってしまうのか、自分でも分からない。でも、彼と対峙すると、どうしてか素直に話すことができない。つい強い言葉をぶつけては、そのたびに喧嘩になってしまっている。
 この現状に僕の胸はしくしくと静かに痛んだ。今回の一件だって、本当は言い争うつもりなんて無かったのに。少し小言を言ったら引くつもりですらいたのに。それどころかいつも以上に激しい口論になってしまった。
 (何で、ブロートの前でだけあんなにきつくなっちゃうんだろう……)
 他の水槽軍団(タンク・ギャング)のメンバーとは普通に話せるのに。あいつと……ブロートと話そうとするとどうしてもきつい言い方や皮肉めいた言い方になってしまう。嫌いなわけではないのに。喧嘩したいわけでもないのに。
 どんよりと、雨雲のように重たく、僕の気持ちは沈んでいた。……本当は、ブロートとも普通に話がしたいのだ。それなのにいつも、その気持ちは空回りして、結局いつもの繰り返しで。
 今日なんて最悪の事態だ。きっとブロートを冗談抜きで怒らせたに違いない。そう思うと、お腹の底がすうっと冷えていくような感覚がして、体が小さく震えた。また頭がくらくらしてきて、胃の辺りが気持ち悪くなってきた。思わず、膝を抱えて顔をうずめる。

 ――――謝りたい。きちんと、彼の顔を見て。そして、またいつものように話したい。

 けれど、こんな時どうすればいいか、まるで見当がつかない。あんな喧嘩別れに等しい形で立ち去った手前、どんな顔で彼に会えばいいのだろう。普通に謝ればいいのかもしれないけれど、この時の僕にはとてもそうは思えなかった。
 (……そういえば、僕、ブロートと喧嘩になっても、しばらくしたらほとんど元通りに話してたな……。仲直りらしい何かをし
 なくても、時間が経ったらあいつはけろっとした顔と態度で、何事もなかったように僕に話しかけてた……)
 最初はそんなブロートの切り替えの早さに戸惑ったし、すぐには理解できなかった。でも、よく考えたら、むしろブロートがそうしてくれていたおかげで、僕も喧嘩のほとぼりを引きずることなく彼と話せていたように思える。喧嘩ばかりの僕らが今まで絶妙な距離感でいられたのは、ある意味彼のおかげだったのかもしれない。
 でも、今回は訳が違う。今回はそのブロートすら険悪な空気をまとっていたのだ。いつものような自然解決は難しいだろう。
 何か、しなくちゃ。そう思うのに、くらくらした頭ではまるで思考が回らない。体も動こうとしない。
 「…………」
 唇を噛みしめ、目を強くつぶった。先刻のブロートの逆上振りを思い出すと、謝る勇気が出なかった。謝っても、もしもそれが拒まれたら。冷たく突き放されたら。ひょっとしたら、今回でとうとう嫌われてしまったかもしれない……。そう考えると、実に単純なその一言すら口にするのも何だかとても恐かった。
 この水槽(いえ)に来て初めてのしかかる、重たるい不安と恐れ。それらからこの身を守るように、僕は自分の肩を抱き、さらに小さくうずくまった。

透明な声に色をつけて

透明な声に色をつけて

ある日、いつものように喧嘩が勃発したブロートとガーグル。しかし今回は、お互い心にもないことを言い放ち険悪なムードになってしまう。 ブロートは仲直りしようと心に決めるも、その中で改めてガーグルの胸の内が見えないことを自覚し溜息をつく。 一方ガーグルは、仲直りのきっかけも、いつもブロートに突っかかり喧嘩になってしまう理由も分からず、膝を抱えていた。 互いが内に秘めた透明な声には、確かに色が付き始めている。 淡い淡い色のかすかな声に、二人はやがてそっと耳を澄ませる。

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