赤い手帳と無彩の天使
ほんの少しのにおわせ不適切くらいはあるかもしれません。
1
中学3年生の2月の初週、私たちは美術の授業で判子を作っていた。専用の石に直接名前を彫っていくもので、実用性云々よりも卒業記念製作が意図だった。
そこかしこで様々な声が飛び交っていた。結構楽しい、難しい、ミスった、できた。それなりに没頭し、それなりに気を緩めていた私の耳に、自分の名前が飛び込んできたことに顔を上げたのが始まりだった。
「ねえ見てよ、綾崎さんのやつ。すっごいお洒落だよ!」
出席番号順に並んだ私の席の隣は、麻橋君だった。麻橋君はみんなに向けていた顔を戻し、心底感激したように私の手元を見つめていた。
麻橋君は芸能人だった。と言っても子役やアイドルの類ではなく、かつてとあるバラエティ番組が、一般の子どもをMCとして進める企画を起ち上げたのがきっかけだった。ほかにもデビューした子が何人かいるらしいけど、少なくとも私は、麻橋君以外の子がテレビに出ているのを見たことがなかった。
その麻橋君が同じ教室にいること自体不思議なのに、あろうことか私の名前を口にした。麻橋君は仕事の都合で欠席も多く、出席番号で隣り合っているのにほとんど話したこともなく、休み時間は休み時間でもちろん取り巻きが多いので、彼の目には私なんて見えていないのだと思っていた矢先のことだった。
麻橋君には、華奢な体躯と中性的な声、下の名前の読みに由縁する可愛い愛称があった。テレビでもそう呼ばれているので、クラスのみんなも、場合によっては先生も、私以外は気さくにそう呼んでいたように思う。私にはそう思えた。
「もっと見ていい?」
いきなり声をかけられて、私は戸惑っていた。でも私には、麻橋君へのはっきりとした憧れがあった。陰気で大人しく本ばかり読み、先生がいないと班活動さえままならない私と、日本中の誰もに愛され、ひとりのときがない人気者の麻橋君。その彼の目に私も入っていたことが、とてもこそばゆい思いだった。
判子を麻橋君に手渡すと、集まっていたクラスメイトたちが感嘆の息を漏らした。4文字の漢字の周りに、細かく花や葉っぱの模様が刻まれていたことに驚いたらしい。注目されたことがない私は、頭と胸の奥が同時にふわふわするような、でも決して悪い心地ではないその気持ちに、落ち着かず膝の上で手を丸くしていた。
「でも納得だよねー。綾崎さん、絵とか上手だし」
少しだけ顔を上げた。びっくりした。私はほんの少しだけ、みんなより綺麗に絵を描けるかもしれないということは思っていた。かもしれない、というのは、私より上手い子はこのクラスにも、ほかのクラスにもいることを知っているからだった。
せいぜい中の上止まりの私のことを、麻橋君が知っていたことが驚きだった。
「俺、こういうのってどうも苦手だな。なんか作るのって難しいよね。コツとかあるの?」
「え、あの」
判子を私に返しながら、麻橋君は無邪気に訊ねてきた。質問までされるとは思っていなかった私は、どもりながら答えた。
「お、思いついたままやってるだけだよ。その模様も、えっと、ちょっとスペースがあるなって思ったから」
「実践できるんだからすごいよ! 俺が上手くできないの、漢字の画数多いからかなーって思ってたけど、やっぱ違うよね。綾崎さんだって少なくはないし」
「……」
意外にも話が途切れないので、私は困っていた。麻橋君が話しかけてくれて、ほかのみんなも口々に褒めてくれているのは嬉しい。できれば話を弾ませたかった。でも、どうしたらいいのかわからなかった。
「綾崎さんって、いっぱい本読んでるよね。そういうお洒落なこと思いつくのも、やっぱり文学に触れてるからなのかな。もしよかったら、今度なにかおすすめしてよ」
知らず下がっていた視線が持ち上がった。せっかくの機会を無下にしたとばかり思っていた。麻橋君の目に、嘘や建前は含まれていなかった。麻橋君は、私が休み時間にずっと本を読んでいることも知っていた。
「俺も結構読書家なんだよ? 今日も何冊か借りたとこ」
悪戯っ子のように笑い、麻橋君は集まっている男子のひとりを示した。漫画じゃん、と別の男子が突っ込み、笑い声が連なった。女子も男子も、漫画なんて持ってくるなと注意しつつ、先生までも楽しそうにしていた。
あの番組企画から3年くらい経った今、麻橋君だけが前線で居続けられる理由が、少しわかった気がした。
2
それから何日か経った放課後、借りていた本と鞄を手に席を立ったときのことだった。一挙一動が注目を集める麻橋君は、その日は珍しく朝からずっと学校にいた。
「図書室行くの?」
本に貼っていた図書室のシールが見えたらしい。麻橋君が再び声をかけてきたことに、私はまたもや驚いていた。
返しに行くところだと告げると、麻橋君は私の手もとを覗き込んだ。私が持っていたのは、好きな作家のものだった。今度の新作刊行に備えて、前作を読み直していたのだ。
「それ面白かった?」
「え?」
「俺も読んでみようかなと思って。前におすすめしてって言ったじゃん」
つい私は本に視線を落とした。美術の時間のエピソードは、もちろんずっと覚えていた。本の話ができたらいいな、とは思っていた。同時に、実行されないことと諦めていた。あのときは、麻橋君が場の空気を保たせてくれただけだろうと。周りをよく観察している彼だから、私が読書好きで休み時間を潰してしまっているのではなく、それしかすることがないからしているだけ、ということも知っているはずと一方的に片付けていた。
「本……読むの?」
はっきり言って動揺していた。確かに本は好きだけど、その話題が続くとは。私が返した一言に、麻橋君は首を傾げた。
「結構読むんだって。前の、キャラだと思ってた?」
「いや、そんなことは」
私が言い終わる前に、麻橋君は本のタイトルと作者名を口に出した。覚えた、と言ってはにかんだ。可愛い笑顔だった。何故か私は彼を視界から追い出していた。が、唇を引き結んだ。
頑張って前を向いた。あの麻橋君が、私の言葉が出てくるのを待ってくれているのだ。頑張れ桃香。やれるぞ桃香。
「結構面白かったよ。なんだったら、名簿に名前書いてくるけど」
うちの学校では、図書室で本を借りるときは、クラスごとの名簿に名前と本のタイトル、貸出日と返却日を書き込むようになっていた。
ところが麻橋君の反応は、遠慮の一言だった。勇気を振り絞ったのにあっさり撒かれ、私は少しショックを受けた。
「作者と名前覚えたから。俺んちの図書館になかったら借りるね」
一瞬意味を掴みあぐね、はっとした。麻橋君は生まれたときから施設育ちだという。彼がそういうところで暮らしているということは、有名になる前から学年のみんなが知っていた。
麻橋君は、クラスメイトたちに手を振っていた。今日はこれからお仕事でも行くのだろうか。
「ねえ綾崎さん、帰り道どっち?」
「え?」
不意の質問になにも返せないでいると、麻橋君は、自分の鞄から青いチェック柄の手帳を取り出した。テレビでも言っていたけど、麻橋君は、今どきの若年層のようにスマホを駆使しないらしい。スケジュールは手帳に書き込み、ゲームは携帯ゲーム機派で、SNSはやっていないとか。
「今日はこれから帰るだけなんだー。子どもってだけでいろいろ調整してくれるんだから、ほんっと得だよねー」
ぱたりと手帳を閉じ、麻橋君はまたはにかんだ。単純に、年齢の低さからくる恩恵を喜んでいるようだった。
「一緒に帰らない? 途中まででも」
「え……どうして? さっき一緒に帰ればよかったのに」
「俺と歩くの嫌?」
「じゃないけど、なんで私なのかなって」
「あー、それね」
青い手帳を鞄にしまうと、今度は赤い手帳が出てきた。さらさらっとなにか書かれ、すぐにまた鞄の中へ戻された。なにをメモしたのだろう。
麻橋君は肩に鞄をかけ直し、教室がまだざわめいているのを見渡してから、私に向き直った。楽しげな高いトーンで言った。
「同い年の友達って、なんか苦手なんだよね。いいときもあるけど、すごくうるさくってさ。でも綾崎さんは静かだし、本の話でもできたらいいかなって思って」
「や、でも」
「まだなにかある?」
「ふたりで歩いてたりしたら……あの……」
美術の時間でのこともあるし、そんなふうに構ってくれるのはすごく嬉しかった。でも臆病な私は、いちいち気にすることがあった。だって相手は麻橋君である。気にしないほうがどうかしている。
私の心配事を察したらしく、麻橋君は無邪気に笑った。ころころと音がしそうなくらいの、愛らしくて眩しい笑顔だった。
3
卒業間近にして、麻橋君と仲良くなった。毎日が空を舞う羽根みたいだった。麻橋君は、私のつまらない話に相槌を打ってくれた。両親とも朝早くに出て夜遅くまで帰って来ず、ひとりっ子の私にできる話は、本当に小説の話くらいしかなかった。思えば、いつも私が話すばかりだった。
「お願いがあるんだ」
その日、麻橋君は午後から学校に来ていた。一度帰った後、少し間を置いてまた出かけるらしい。
珍しく口火を切られ、しかも改まられ、私は困惑した。けれど、もちろん頷いた。
「俺んち来てくれない? これから」
唐突な誘いに咳をしそうだった。どういう意味かと振り向くと、麻橋君は足元の小石を蹴っていた。
「今日の夜からしばらく帰って来ないからさ。でももうすぐ卒業式だし、それまでに部屋を片付けたいんだよね」
「ルームメイトがいるんでしょ」
一瞬焦ったものの、すぐに思い出した。施設では、カーテンで仕切れるふたり部屋を使っていると聞いていた。逆に言うとカーテンでしか仕切れない部屋だから、つい頭を擡げてしまったようなことはあり得ない。安心したような、ちょっと残念なような。自分でも驚くような変な気持ちになったことに、人の相部屋にいきなり部外者が入るのは非常識だ、という倫理観で蓋をした。
「そっちじゃなくて、マンションの部屋。なかなかまとまった時間が取れないから、ちょっとずつ片付けようと思って2月から借りてるんだけどね。読みたい漫画とかしたいゲームとかいろいろあって、後回しになっちゃって」
「一人暮らしするの?」
仰天した。私も家にひとりとは言え、ひとりで過ごすことが多いだけで、ご飯の準備も洗濯も母がきっちりこなしている。私がやるのは、せいぜい掃除機をかけたり使った食器を洗うくらいのことだ。麻橋君は、今後それらを自分で対処すると言っている。
「経営難だからねー。本当はもっと早くに出て行くべきだったんだけど、俺にとっては実家なわけだし」
当たり前のように、麻橋君は言った。
「まあ、ひとり出て行ったからって変わるものじゃないとは思うけどね。どっちにしろ高校卒業で出ないといけないから、ちょっとくらい早まったっていいかと思って。それに、寄付って形で協力しやすくなるし」
「寄付?」
「園長先生がね、頑固なおじいちゃんなんだ。でも俺がひとり立ちすれば、今すぐはダメでも、そのうち受け取ってくれるかもしれないじゃん」
つい足を止めてしまった。ひとりで何歩か歩いた麻橋君が、振り返って頭を傾げた。私は小走りで追いつき、再び並んで歩き始めた。
「なんか……すごいね」
「なんで?」
本当にわからない顔をしていた。私は少し顎を引いた。麻橋君が歩幅を合わせて歩いてくれていることがわかった。
「私と同じ年なのに、ちゃんと考えてるんだなと思って。お金のこととか」
「まあ、お金に関してはね。金額が大きいか小さいかはともかく、そういうのって人間にしかできないことでしょ」
意味がよくわからず、返事ができなかった。麻橋君は、気にした様子もなく私の前に出た。
「で、どう? やっぱ突然だから難しいかな。もちろんタダとは言わないからさ」
「え」
「お片付けのお手伝い」
マンションに入るときは、さすがにちょっと気が張った。まず麻橋君がエレベーターに乗り、部屋の前に行き、後に私が連絡を受けて追いかけた。両手を広げれば収まる小さな薄い機械で、大抵の人は顔か名前かに覚えがある麻橋君と繋がっていることが、今更ながら不思議だった。そんなことあるわけないのに、世界中で私だけが得た特権のようにさえ思えた。
一言で言うと幸せだった。けど、妙だとも感じていた。静かだからいいと言ってくれたけど、彼の隣にいる私はたぶん、雄弁と言って遜色なかった。でも、一度としてあしらわれなかった。
自問は私に夢を見せていた。本の中の展開みたいに、恋愛感情でも抱いてくれているんじゃないか。でも、なにがどうだからというのではなく、敢えて言うなら気配から、それはないと確信していた。安心と残念が半々ずつ、私の中で居座っていた。
ドアノブを捻った先には、ワンルームが拓けていた。淡い木の匂いが鼻をくすぐった。モノトーンで可愛いクローゼット、広いベッド、キッチンの傍の小洒落たテーブル。大きなテレビに、台の上のたたまれたノートパソコン。家賃の相場は知らないけど高そうだし、これ全部麻橋君の稼ぎで用意したんだよな、と呆然としつつ視線を巡らせていると、はたと気づいた。どこをどう見ても、引越したてでごちゃついているところなんてなかった。
目に留まるものと言えば、テレビの前に置かれた小さなテーブルだった。何冊か本を積んでいた。その本の横に、麻橋君は、冷蔵庫が空だからと、途中のコンビニで買ってきたお菓子とジュースを広げていた。
「どうしたの? 入りなよ」
やっぱり来るべきじゃなかったかな、と少し思った。けれど今更引き返すわけにもいかず、お邪魔しますとお辞儀してから靴を脱いだ。ちょっと屈んだ視界の端に、不意に飛び込むものがあった。
傘立ての淵に、可愛くデフォルト化された天使がちょこんと乗せられていた。目を閉じてふたりが寄り添い、ふたりで花束を持っていた。
「あ、それさりげなくて可愛いでしょ。この前、収録でお邪魔した手作り雑貨の店員さんにもらったんだ。買おうとしたらプレゼントされちゃった」
「これ手作りなの? すごいね」
「すごいけど、でも綾崎さんも、その気になったらそういうの作れるんじゃない? 自分でも知らなかったけど、俺、そういうの結構好きみたいなんだよね。綾崎さんが作ったらどんなのになるのか興味ある」
「え……」
さりげなくすごいことを言われた。脳内キャパオーバーな私を他所に、麻橋君は、なにか楽しそうに喋っていた。どうやらその収録のときの思い出を語っているらしいけど、耳に入らなかった。
「入らないの?」
その一言で、まだ片方靴を履いていることに気付いた。慌てて脱ぎ、きちんと揃えて、もう一度頭を低くして床を踏んだ。靴下と新しいフローリングがよく擦れた。
手招きされて座った。ペットボトルの開栓を促されたかと思うと、麻橋君のテンションで乾杯になった。意味がわからなかったけど、悪い気はしなかった。ずっと胸がばくばく言っていた。
テーブルに平積みされているのは漫画だった。背表紙になっているせいでタイトルはわからなかった。角度と光の加減のせいで、あらすじも読めなかった。
「麻橋君」
「んー?」
お菓子をつまみながら、麻橋君はジュースを飲んでいた。私も少しお菓子をもらって、ペットボトルに口をつけた。
「片付けのことだけど」
「なにを片付けるの?」
支離滅裂だった。それを理由に呼んだのに。
麻橋君はペットボトルの蓋を閉めると、ちょっと長い前髪を横に払った。
「でも、片付けを手伝って欲しいって言ってたよね」
「片付けるものなんかないじゃん。見てわかる通り」
「や、でも……じゃあ……」
意味ありそうな挙動で、麻橋君の指がテーブルを撫でた。イメージしていたより、ずっと綺麗で細い指だった。
「綾崎さん」
呼ばれて顔を上げた。麻橋君が、じっと私を見つめていた。いつになく冷静な声と、迷いのない目線だった。つい身が逸れたそのときだった。
「俺のこと、好きなんじゃない?」
驚いてまた顔を向けた。麻橋君は同じ表情だった。その変わらない瞳の奥が、急に大きく克明になった。
触れたのは一秒もなかったと思う。麻橋君は少し身を引き、ちょっと止まって、元の位置に戻った。微かに目を伏せて、唇に指を置いた。
私は、そんなふうに確かめることすらできなかった。ただ唖然として、やっと麻橋君がしているように手を動かした。いつもと違う湿度が残っている気がした。
麻橋君は、唇に置いた指を浮かせた。その一瞬、視界がのけ反った。背中で傷みが弾けた。走る熱と裏腹に、胃で氷が融け出したような冷気が浸透していく。フローリングに押しつけらた両手首に、骨が軋むような重みがかかった。
「否定しないのは肯定なんでしょ。だったら問題ないんだよね」
押しのけて跳ね起きようにも、力で負けていた。体内の冷気に吸い取られるみたいに、声が出てこない。もがいているのが、麻橋君にはまるで見えていないみたいだった。じっと私を、観察するように見ていた。お面みたいに動かない顔だった。
数拍あって、麻橋君が眉を潜めた。小さく首を傾げたその一瞬、隙があった。ありったけの体力を、片足に込めた。変な声を漏らして、麻橋君はテーブルごと吹っ飛んだ。蓋が閉まっていなかったペットボトルから飛び出したジュースが、四方に散っていた。
身をよじって立ち上がり、鞄を掴んだ。一気に視界がぐしゃぐしゃになった。袖で目元を拭い、鼻を啜り、一歩進んだ。そのときだった。
「待って。おかしいんだけど」
おかしいのはそっちじゃない――。その言葉は、膝立ちの麻橋君の手が、お腹に押しつけられていたのを見て消え去った。残った手は、私の手首を掴んでいた。吐息混ざりの声で、俯きがちに肩を動かしていた。
テーブルに積まれていたあの漫画が、お腹を押さえる手からぶら下がっていた。ちょっとジュースが散っていた。
苦しそうに息をつく麻橋君を、どうしてか放置できなかった。自分でも意味がわからなかった。けど、麻橋君はそれで手を放してくれた。ぱらぱらとページが捲られていた。彼の表情がまったく見えなかったことが、私にはなにより不気味に思えた。
「ほら、ここ」
見開きのページがこっちを向いた途端、なにか塊が喉を通過した。
あまり可愛くない、年齢のわからない顔の絵面の男女が、上に下にと絡み合っていた。
「好きだったらこれするんじゃないの」
踵を返した。溢れる涙を懸命に拭い取りながら、靴に足を突っ込んだ。無防備について来てしまったことを、ひたすら後悔した。本の話をしたことも、好きな作家を紹介したことも、一緒に帰ったことも、卒業制作の判子にこだわりを持ったことさえ悔やんだ。全部間違えた。涙が止まらなかった。
「綾崎さん」
「来ないで!」
叫ぶと同時に手が動いた。甲高い音が耳を突き抜けた。その音で一瞬冷静になった。漫画を持ったまま静止した麻橋君の斜め前に、いくつものなにかが散らばっていた。
傘立てに佇んでいた天使は、いなくなっていた。麻橋君は、黙って破片を見ていた。私はその麻橋君を見て、自分の右手を見て、また麻橋君を見ていた。
麻橋君は、つぶさに方向転換した。漫画を置いて自分の鞄を漁り、何度か見たことがある赤い手帳を取り出し、シャーペンの頭を押している。落ち着いたその動作に、言いようのない狂気染みたものを感じた。
私はエレベーターではなく、階段を駆け下りた。
4
一週間後の夜、卒業式はいよいよ目前となっていた。両親がようやく帰宅して落ち着いた夜更け頃、私は自室で石を彫っていた。石と言っても例の美術の時間に使っていたような柔らかいもので、素人が趣味でやる彫刻未満とでも言おうか、彫刻刀はもちろんのこと、ときに鋏やカッターを持ち替えながら私は作業に没頭していた。また石を触ってみたくなり、画材屋で調達したのだ。
宣言通り、麻橋君は登校していなかった。あの後麻橋君とは会っていないし、連絡もなかった。テレビで見かける分には、いつもの麻橋君だったように思えた。
じっと私を、揺らぐことなく見つめていた目。ショックを伴った記憶は、ときにはいきなり顔を出し、ときには胸に常駐した。思い出すごとに、その異常さは顕著になった。その度に、何事もなく済んだことを安堵した。
そうして日を跨ぐごとに、相手の胸中に意識を向けられるようになった。どうして麻橋君はあんなことをしたのか。答えは、まさにあの目にあったような気がした。
『好きだったらこれするんじゃないの』
あの疑問が呈する通り、彼は知ろうとしただけだったのかもしれない。どんな解答にもきちんと染まれるように、或いはより理解が深まるように、雑念を取り除いた結果があの空虚な瞳だったのだと考えれば。
カッターを持つ右手が少し滑った。小さく舌打ちしてしまった。彫りすぎてしまった部分は戻せないから、周囲を調節して上手く溶け込ませるしかない。
私が違っていただけで、ああいう疑問を抱くのは珍しくないことなのだろうか。親には当然訊けないし、込み入ったことを相談できる友達はいない。
手の中の石は、イメージとはちょっと違うけど、ほぼ不満のない小さな天使に変貌しつつあった。割れた天使の残骸が脳を掠めた。麻橋君と顔を合わせないままお別れになるかもしれないことが、心の端をひたりと湿らせた。
窓になにか当たったのはそのときだった。明かりに誘われた虫かと思い、気にしなかった。何秒と経たないうちに、また鳴った。次も鳴った。もしかして虫じゃないのかとカーテンを開け、窓から下を見下ろした。あ、とつい漏らした。期待を込めた顔で見上げている麻橋君と目が合った。
「これくらいの小さーい石を拾ってきて、ひとつずつ投げてたんだ。気付いてくれてよかった」
麻橋君は手首に小さな紙袋を提げていた。白地に黒の英字をデザインしてある、お洒落な紙袋だった。
暦上は春とは言え、夜はやっぱりまだ肌寒い。裏毛の上着を羽織った私に相反し、麻橋君は、薄手の所謂春コートに袖を通していただけだった。
「そんな古典的なことしなくても……。連絡くれたらよかったのに」
「あれ、そうなの? 酷いことしたから、てっきり無視されちゃうかと思ってさ」
「無視なんて……だって、私も……」
言い終わる前に、麻橋君が持っていた紙袋を差し出した。
「これ、お詫びの気持ち。酷いことしてごめんね」
受け取ってみると、紙袋の中身はハードカバーの小説だった。表紙を見て、驚いて取り出した。つい最近書店に並び始めた、好きな作家の最新作だった。促されて表紙を捲ってみると、お洒落なデザイン文字で作者の名前が書いてあった。「手に取ってくれてありがとう」の文字も。
胸が脈打っていた。信じられなかった。顔を上げると、得意げに歯を見せる麻橋君と目が合った。瞬時に身体が火照るのを感じた。思わず目を逸らしたのを誤魔化すために、私は再びデザイン文字に注目した。
「その作者さんに会う機会があったんだー。お願いしたら、快く書いてくれたよ。今どきの若い子はあんまり本を読まないから、自分の文章を読んでくれる子がいて嬉しいって言ってたよ。あ、もしかしてもう読んでた?」
「読んでない。まだ買ってなかったの。本当にもらっていいの?」
「うん。最初からそのつもりだったし。部屋を片付けたいって言ったの自体は嘘だったけど、タダとは言わないとも言ってたでしょ。お礼じゃなくてお詫びになっちゃったけど。あ、でもお礼も言わないといけないんだよね」
「お礼?」
そんな心当たりはひとつもなかった。飲み込めない私に、麻橋君は居住まいを正してみせた。
「酷いことされたって、誰にも言わないでいてくれてありがとう」
すぐには反応できなかった。テンポ遅れで首を横に振った。私がなにも喋らなかったのは、麻橋君を思っての選択ではなかった。それをすると、私を取り巻く環境が大きく変わると思った。その変化が怖かったし、呑気に部屋に上がり込んだ私にだって非があった。世間だってきっとそう判断する。麻橋君だけを悪者にすることは、どの道不可能だった。
「私のほうこそ、蹴ったりしてごめんなさい。天使の置物も壊しちゃって」
「いいよ、そんなの。正当防衛じゃん」
「でも……」
「いいんだって。また覚えたから」
赤い手帳が脳をよぎった。麻橋君の赤い手帳は、これまで何回か姿を見せた。その度に、数秒ペンが走った。お腹を蹴られ、お気に入りの天使の置物が破壊されたあの瞬間も。
肌で感じた狂気が蘇ってきた。身震いしそうになるのを必死に留め、どうにか平常を保ち、息を呑み込んだ。
「綾崎さん」
冷静な声で呼ばれた。麻橋君は、首を傾けて頬を掻いた。
「もしかして、あの赤い手帳のこと思い出してる?」
迷った。けど、頷いた。このタイミングで出してくるということは、やっぱりあの赤い手帳には特別な意味があるのだ。ちょっと怖いけど、興味はあった。
麻橋君は、顎を支えて考え込んだ。言っていいものかと悩んでいるみたいだった。やがて私と視線がぶつかった。
「俺ね、人間になりたいんだ」
「え?」
そうとしか声が出なかった。麻橋君は、どこからどう見ても人間の男の子だった。
「外見じゃなくて中身だよ。俺ってね、感情がない奴なんだ。知識とか認識としての感情はあるからそれっぽく振る舞うことはできるけど、直接込み上げるとか自然と思うみたいな。そういうのがない」
まあわかんない話だよね、とやや自嘲気味に言い、麻橋君は続けた。
「綾崎さんが俺を蹴ったときだって、本能的に拒んだって感じだったでしょ。あのときも、こういうときはそういうふうに思うんだって、後でちゃんと思い出せるようにメモってたんだ。円滑に生きてくために、思い出してちゃんと勉強できるように。人間メモって感じ」
「人間メモ……」
つい繰り返した。麻橋君が普段から笑顔を絶やさず、周りに人がたくさんいる光景が目に浮かんだ。次に、漫画のいかがわしいシーンを躊躇なく見せてきたあの記憶が色を持った。
麻橋君が言っていることは、言葉半分程度くらいにも理解できなかった。でも、思い出すことがあった。金額の大小はともかく、お金に関しては人間にしかできないと麻橋君は言っていた。
「じゃあ嘘なの? 謝ってくれたのも、さっきのお礼も」
麻橋君は無言だった。
「判子を褒めてくれたのも、本をすすめて欲しいって言ってたのも。一緒に帰ったりしてくれたのも、全部その人間メモに基づいてのことだったの? 私の友達になってくれたわけじゃなかったの?」
「嘘吐いちゃダメなら否定はできない。けど」
癒えかけた傷に指をかけられたみたいだった。直視するのが辛くなって俯いた。でも、続く言葉に好奇心が疼いた。俯くのをやめた。自分がこんなにも麻橋君に関心を抱いていることに、今更ながら驚いた。
「全部嘘ってわけでもないよ。謝りたかったのは本当だから。本当にそう思ったから来た」
今しがた、麻橋君が浮かべた自虐っぽい顔を思い浮かべた。感情がないなら、あのタイミングでそんな表情を繕う意味なんてない。
麻橋君は、右に左に視線をやった。つられて私も見渡した。時間が時間だからか、誰も歩いていなかった。明かりの消えている家も多かった。
「いろんなとこ行ってたんだ。いちいち帰ってたら余計に体力使うからって、泊まりがけであちこち。いろんな人に会ったよ」
唐突に麻橋君は話し始めた。私は頷くしかなかった。
「すごく嫌なことする人がいた」
「嫌なこと?」
「トイレに連れ込まれたんだ。誰とは言わないけど。あ、その作家さんじゃないから安心して」
思わず紙袋の中身を見た私に、麻橋君は言った。作ったような笑顔に、自分の心が軋むのを感じた。
「まあ、別にね、直接的なことがあったわけじゃないんだ。でも、すごく嫌だった。吐きそうだったよ」
「それ、誰かに言ったの?」
言ってないだろうなと思った。言っていたら、それなりの報道があるはずだ。テレビでは規制しても、インターネットの個人サイトですぐに記事になる。
麻橋君の反応は、案の定だった。
「だって動画撮られてたもん。誰かに言ったら日本中にばら撒くって言ってた。そういう手筈になってるんだって」
「脅しじゃない。大人に相談しようよ」
淡々とした口調で続く恐ろしい宣告に、私のほうが泣きそうになった。麻橋君はまたしても首を縦には振らなかった。
「そういうのはどうでもいいんだけど、俺、あの人にちょっと感謝もしてるから。俺のせいで逮捕とかになって欲しくない」
「なんでそんな結論になるの? 麻橋君、おかしいよ」
「おかしいのはわかってるよ。だから人間になろうとしてて、間違って綾崎さんを傷つけちゃったんじゃん」
私はなにか言おうとして、出てくる言葉がなくて口を閉じた。なにも考えつかなかった。
「嫌だとか怖いとか、足の先から一気に染まるような、たぶんあれが感情なんでしょ。あれが感情なんだってわかったんだよ。俺にもちゃんとあったんだって。めんどくさいとかじゃなくて、本当に拒みたいと思う気持ちがさ」
私が喋らないのではなく喋れないことを、麻橋君が理解しているかどうかわからなかった。麻橋君は更に続けた。
「だから、こんな嫌な気持ちにさせたんだから、絶対謝りたいと思ってた。俺って最低だったんだなって、やっとわかった」
ここで麻橋君は、少し顔を逸らした。目に一筋影が差したように思えた。
「でもね、それから変なんだ。ずっと嫌なんだよ。さすがに怖いとは思わないけど」
「なにが嫌なの?」
「なにもかも。過去に遡ってまで嫌に思える」
やっと言葉を捻り出せた私に、麻橋君はそっけなく答えた。
「司会も、笑顔も、学校も、シナリオ通りの生放送やバラエティも。妙な漫画も新作ゲームも、ひとりぼっちの部屋も全部」
「麻橋君」
話が途切れた瞬間、名前を呼んだ。麻橋君は、足先で玩んでいた石ころを踏むのをやめた。
なにを言おうかなんて決めてなかった。しんどそうな麻橋君を、これ以上見ていたくなかっただけだった。重く気まずい沈黙が流れた。街灯に集まる虫の羽音が聞こえていた。
ぱっと閃いたのはそのときだった。ちょっと待っててと言い残し、自室に戻った。紙袋を置いて作りかけの石の天使を掴み、再び玄関を出た。眠っている両親が物音に気付かなかったか、ちょっと不安になった。
「これ、作ってたの。色はこれからつけないといけないんだけど」
部屋に招かれたとき、例の天使の置物について、私が作ったらどういうものになるのか見たいと麻橋君は言ってくれた。種明かしされた今では、あれも嘘だったと思う。別によかった。このちゃちな天使が、全部嫌になっている麻橋君と私を絶縁させない唯一の回線のような気がした。
「もっと見ていい?」
あの美術の時間のときのように、麻橋君に手渡した。麻橋君はそれを目の高さまで持ち上げ、いろんな角度から眺めていた。
「すごいね、綾崎さん。やっぱ器用なんだね。高校どこだっけ」
「普通科だよ。勉強するなら自分でやりたいし、私より上手な子なんてたくさんいるから」
「自分でやりたい、か。じゃあ天使をチョイスしたのは、もしかして俺に見せたいと思ってくれたから? 綾崎さんって、やっぱ俺のこと好きなんでしょ」
早かった鼓動が、もっと早まった。でも私とは逆に、麻橋君に動じた様子は全然なかった。彼が異性の眼差しにある程度慣れているのは、考えてみれば当然だった。
「なんちって」
続く麻橋君の言葉は寂しいものだった。ありがとう、とだけ言って、小さな天使を私の手に返してくれた。
「完成したら」
「うん?」
「完成したら教えるから、見てくれる?」
やっとの思いでそれだけ言った。でもまだやめちゃダメだった。頑張れ桃香。やれるぞ桃香。自分で自分の背中を打つつもりで、やけっぱちに口を開いた。
「それで、ちゃんと友達になろうよ」
想定外の展開とばかりに、麻橋君は何度も目をぱちぱちした。首を斜めに向け、ちょっと考えるような動作をしていた。
受け入れられるか受け流されるかだと思っていた私は、口を閉じられなかった。そんなリアルなリアクションが飛び出すとは微塵も思わず、前者ならこう返そう、後者ならこう返そうとシミュレートしていた台詞が水泡に帰した。
ていうか、私と友達になるのは、そこまで考えないといけないことなのだろうか。いくら麻橋君が人気芸能人で、私が地味な一般人だとしても。それはそれで別個のショックがある。
「ごめん。無理だと思う」
やっと出てきた解答を、疑問に思う間なんてなかった。麻橋君は、私と目を合わせずに塀に両手をついた。そしていきなり、その身を引いた。
ぐしゃりと鈍い音がした。咄嗟に口を押さえた。声がつっかえた。瞼が広がって、非現実的な光景が焼き付いた。足が地面に貼りついたみたいに動かなかった。塀に触れた両手がずり下がった。すぐにずり上がった。手と手の間には、赤い筋が何本も通っていた。
躊躇も疑いもなく、麻橋君はまた頭を打ちつけた。低く奇怪な音が響いた。麻橋君の額から、滝みたいに血が滴っていた。前髪の隙間から覗く目には、おぞましいほど温度がなかった。
なにをどう叫んでいたのか、自分でもわからなかった。ただ麻橋君の背中に飛びついた。一瞬で視界が潤み、ほとんどなにも見えなくなっていた。麻橋君は私の拘束なんて最初からないかの如く、塀に頭を叩きつけていた。
周囲は騒ぎになっていた。連なる家々の電気が点き、ドアが開き、街灯があるのに懐中電灯で照らされたりした。物々しさの中、やがて救急車が到着し、麻橋君を連れていった。
崩れ落ちた麻橋君の傷を塞いでいた私の手は、真っ赤になっていた。袖や上着にも血が移っていた。私は座り込んだまま、救急車が走り去った方向を見つめていた。肩を叩かれて振り返ると、父が手を差し出していた。母が私の横に並んだ。一時止まっていた涙が再び溢れた。視界の端に、転がった天使が入った。天使は轢かれて潰れていた。
まあやだ。まあやだった。まあやが死のうとしてたんだって。集まった野次馬たちから聞こえるそんな声が、私の鼓膜に深く刻まれた。
5
それから1年と少し過ぎた4月の半ば、私はリビングでテレビを眺めていた。麻橋君は、つい最近、またなにかの会社のイメージキャラクターに抜擢されたらしい。雛段に座り、ほかの出演者たちと楽しそうに笑う麻橋君の前髪は、ちょうど額の傷痕を隠す形で下ろされていた。
あの事件については、テレビはノータッチだった。もちろん麻橋君がスケジュールをこなせなくなったことの調整はあったはずだけど、その点がクローズアップされることはなかった。インターネットと週刊誌のほうで取り沙汰され、居合わせた私もそれなりに大変な思いをした。両親にも迷惑をかけてしまった。
興味本位にクラスメイトに訊ねられることもあった。全部偶然だったと言い張った。中学生のときにちょっと仲よくしていたことを調べてくる子もいたけど、それも上手くちょろまかした。
連絡は一度だけ、他人行儀な文章で、迷惑をかけたことのお詫びを綴ったメッセージが届いた。友達になろう云々の一切には触れていなかったので、私も無難な文章を送信した。それきり返事はない。
ちょうど番組が終わったので、なにげなくリモコンを手に取った。番組表の詳細には、また麻橋君の名前が出ていた。リストを一周し、結局チャンネルを変えずにリモコンを置いた。
あのとき彼が及んだ行為について、本人が弁明することもなかった。麻橋君は未だにSNSの類に触っておらず、個人発信のブログもないのでメディアのほかに発言する場がないのである。彼がインターネットよりも知恵の輪や謎々といった頭を使う暇潰しを好むことは、結構有名だった。
でも、現場の前後を目の当たりにした私には、思うことがあった。彼は、嫌になっただけだったのではないか。頭を塀にぶつけ始める直前の空白に、答えが埋まっていたような気がしていた。
自室に引き上げ、学習机の隅を見た。あのとき轢かれた石の天使は、きちんと彩色してあった。別の石とくっつけたり粘土と合わせたりして、修復を図ったものだ。そんなに悪くない仕上がりになったと思う。
空白の後、無理だと思う、と麻橋君は言った。あれは私が友達に相応しくないし例の完成品も見たくないという意味ではなく、自分はもう死ぬことにしたので友達にはなれないし、完成品も見られないという意味だったら。そう考えると辻褄が合う。私には空白に見えたあの時間に、彼は算段したのだ。既に嫌なことだらけになっていたのだから、私と友達になったとしても、どうせ嫌になってしまうこと。それを私が知れば、またショックを与えること。嫌な気持ちにさせた自分自身が、またしても嫌になること。悪循環の嵐に見切りをつけたいなら、終わりにするしかないことまで。
私が妙なことを言わなければ、彼は死のうとしなかったのだろうか。その疑念はとうに決着していた。友達にもなれなかった私が影響するくらいなら、きっとこの先何度も、成功するまで彼は繰り返す。あのときはタイミングが被っただけ。その結論は私にとって救いでもあったし、残酷な結末でもあった。
欲しかった感情を得た彼が映す今の世界は、どんな色をしているのだろう。彼は人間になれたのだろうか。見切れした外に散らばっているであろう笑顔や仲間との掛け合いが、あの悲しい人間メモから形成した嘘や仮面ではないことを、修復した石の天使を見る度に私は願っている。
赤い手帳と無彩の天使
お付き合いありがとうございました。目を冷やしておいてね。
『芸能人M君』シリーズを今後ともよろしく。