君の未来は時じくに愛している
プロットまとめ
【君の未来は時じくに愛している】
〜時じくシリーズ 最終章〜
・原題
『君の未来は時じくに愛している』
・主題歌
op『Golden Life』〜AKINO...〜
挿入歌『overture』〜kalafina〜
挿入歌『Fallin'』〜ZHIEND ENG.ver〜
挿入歌『聖音波』
挿入歌『ARIA』〜kalafina〜
挿入歌『鳥になって』〜多田葵〜
挿入歌『エクストラ・マジック・アワー』
挿入歌『闇の唄』〜kalafina〜
挿入歌『時の歌』〜手嶌葵〜
特別覚醒歌『君の神話』〜AKINO...〜
ed『月光シンフォニア』〜AKINO&AIKI〜
lastED『Red Moon』〜kalafina〜
・キャッチコピー
『失う怖ささえ、輝いている』
・語り
『世界は永きにわたり、夢に囚われ続けている。人類よ、痛みをもって己の過ちを知れ。忘れてはならない物語があることを。』
※ネタバレ注意
・登場人物
【主な登場人物】
時覚 仁→施設を脱走した戦闘狂癖の高校生。サヴァン症を持つも常識的な社会生活を営む
刻立 継義→時覚を追う若き秘密公安官。
伊代乃 流華→セイジの意志を継ぐ女性。半永久的な眠りにあるセイジの代理としてその思念が彼女そのものとして誕生する。幼馴染
倉麻 夕希→時覚の住むマンションのお隣さん。時折お世話になる。クール元気美人。その実態は施設で時覚に救われた能力者、今は時覚を想い見守っている。
柊 結亜→神話を知る女性。本屋で時覚に初めて神話を教えたのも彼女。本来はかの施設破壊事件に仲の良かった時覚自身に救われ損ない死んでしまっていたが、迷宮の眠りの世界で光の選軍たる八神萊羅に呼び覚まされ、時覚仁がこの世界の過去と未来を救う存在である事を教えられた。こうしてその魂によって想いが能力によって具現化し時覚の前にいたわけである。言うまでもなくその実態は施設で時覚に救われた能力者、今は倉麻と共に陰ながら時覚を想い見守っている。ちなみに時覚は彼女を思い出していない。
霧矢 響一→知らないふりをしているが常に時覚にちょっかいをだす友人の位置にある。実質は秘密公安官である刻立の勅命で学校潜入捜査に至る存在。だが次第に友人のふりから時覚の友として裏切る事に罪悪感を覚えるようになる。
婆羅門→自称女子大生を名乗る大都会の美女放浪者。見た目はどこぞの泥棒美女の如く、20代後半から30代あたり?前作に変わり白い白衣を着ているも時覚に厨二病と一喝されて以来黒いコートにイメチェンしている。謎の多い女性だが執拗に時覚の前に現れては意味深な会話をもちかける。その実態は光の選軍たる八神萊羅の意志を継ぐ太古からの不老不死人間にして反干渉ループ能力者あった。おそらく誕生は室馬醒司が新人類界で最後の聖戦であるアンデジェルとの間に終止符を打ち、平和を取り戻した時に、その世界の守護者として5人の反干渉ループ能力を持つ不老不死人間を新人類界が作られた時へ戻り創造したことによる。過去の事象に干渉ができぬも新人類界を見守るために何度も生きた時間を繰り返す力を持つ彼らには室馬と共に生きあった強き仲間の意志が反映されていた。1人は江堂駿の意志を反映するヴォルタム、1人はニムロッド・ルージュの意志を反映する秀英欄、1人はルナ・レイオクォルツの意志を反映するリリシア・モローレ、1人は瀬戸山ユイの意志を反映するリンバウホウ、そして最後に八神萊羅の意志を反映する不老不死人間こそが婆羅門であった。彼らは時代には直接手を触れずともそれぞれの時代でそれぞれの宿命を果たし、それぞれの人生をそこで終えてきた。彼らには記憶の心底で前世の意識を保ちつつ己の役目を全うしたのである。だが反干渉ループ能力を自ら使わずに己の意志のままに未だ生き続ける存在がいた。彼女こそが今や光の選軍の先陣にたつ女と同じ意志を持ち地に立つ鏡、婆羅門である。柊の具現化後に彼女を育てたのも実は彼女であった。というか光の選軍であるオリジナルの自分八神に頼まれていた。セイジの魂を宿す伊代乃に少なかならぬ情を持つ。
秀英欄→時覚たちのクラス担任。教室でもタバコを吸う問題教師。だが生徒想いな過保護面もあり、すべての真実に気づいている。婆羅門とは犬猿の仲であるが、時折それぞれの守るべき子供達を見守る事を決意しあっている。記述の通り室馬醒司によって因果の傍観者として創造されたニムロッド・ルージュの意志の反映する不老不死人間。他の4人と同じく反干渉ループ能力を持つも今は未来に興味がある。
嘉山→ルナに仕える和風の女性。旧人類界の嘉山家系からの因果関係が疑われる。ルナにはリリィと呼ばれることから、リリシアの魂を引き継いでいるものとみられる。だが、リリシア・モローレはそもそもルナ・レイオクォルツの意志を反映してセイジに創造されているため、遠回しにルナ自身の魂を引き継ぐ者であることを示唆している。
ルナ→古からこの地で守り神として生きる幼女。かつて太古のガイアを征していた女君と嘉山から称されるも詳細は不明。旅の終着点としてやってきた時覚たちを出迎え、3人の調律者が時を超えて世界の始まりから暗躍する存在であることを語る。何者か室馬醒司にもわからぬ存在。その謎を3人と共に考える。
【フラッシュサイドウェイの登場人物】
3人の女性→後ろ姿しか映らないが、おそらく伊代乃流華と倉麻夕希と柊結亜であると思われる。
瀬戸山海斗→駿と共に人類科学の進歩を目指す会社に勤めている。科研都市の中枢にある神経生理学研究センターのオフィスで働いている。平行性記憶の誤差なし。
江堂駿→海斗と共に働く古くからの友人。平行性記憶の誤差なし。かなりやんちゃ者。
瀬戸山唯→ひょんな出会いから苗字を同じくする海斗と仲良くなる。ルナード・シュレディを上司に持ち、元気だが説教に弱い。割と知り合いには優秀な人材が多い。科研都市から東寄りにある外資系理研区画の一大物理学専攻ビル、ハドロニアで劉が全指揮権を有するコーガ・コーポレーションの下っ端として働いている。平行性記憶の誤差なし。
ルナード・シュレディ→おてんばな唯を部下に持つ。オフィス内での噂だが、素粒子学でも名高い江堂紫電とできているらしい。平行性記憶の誤差なし。
江堂紫電→名前と声のみ登場。ハドロン生成学や理論物理学の世界では有名人だとか。平行性記憶の誤差なし。
名も無き女性→記憶に無い桜舞春風を知っていた。唯についていくこととなる。平行性記憶の誤差あり。
倉麻夕希→科研都市郊外に位置する桜舞研究所の所員にして大脳生理学の医師。平行性記憶の誤差なし。
桜舞春風→桜舞研究所の創設者。不思議な言動をするも中身は純粋に青年のよう。研究所本体が目的とする脳構造の医学的解釈と、未解明部位の研究とは別に、時間と空間に関わる脳構造を、研究しているようだ。平行性記憶の誤差なし。
霧矢響一→このご時世となり絶滅危惧種と推定されるサイエンス系ルポライター。三百人委員会の末端組織たる日本に拠点を持つ灯台社の行方を追うも、委員会の1人である五十嵐と情報共通をしている。
五十嵐十蔵→三百人委員会、通称オリンピアンズの1人。荘厳な言動や、大柄な男であるため周りからは一目置かれてはいるもそれは妻子を養う1人の父親としての面も持つ。
【調律者】
臥翁羽(前作から変わりガロウと読む)→自らを世界の終わりから生まれた調律者と呼ぶ
もう1人→臥翁羽の横に立ったもう1人の者。
強者→時覚から瞬殺されようとした刹那に、臥翁羽たちを連れ去りに来た最後の調律者。
・あらすじ
【フラッシュサイドウェイ】
→名も無きネオン街を見渡す厳かな空間で、グラスを手にする3人の大人たちがいた。
→彼女たち3人は巨大な窓から淡い下界のネオンを見渡しながら言葉を交わし合う。
→顔を見せぬその3人は待ち合わせに遅れると言い合うと、グラスにワインを残し、テーブルに置くとそこをゆっくりと立ち去る。
→1人小柄な女性が後ろの夜景に振り返るも、何事もなく歩き出す。
→まばらにいたはずの人間は3人が消えると同時にまるで初めからいなかったかのように消えていた。
【フラッシュリアル】
→ごく平凡に生きる時覚 仁(ときさめ じん)にはかつてサヴァン症神童の収容施設から脱走した過去があった。
→そんな時覚は大都会の平凡社会に紛れて常識的な高校生活を送っていた。だが物質に干渉する特殊能力を発するサヴァン症を持つ特性故に戦闘狂癖があった。
→時覚は普段から親しみ持って話しかける伊代乃 流華(いよの るか)や倉麻 夕希(くらま ゆうき)や霧矢 響一(きりや きょういち)を無視しながら日々を過ごしていた。
→ある日、柄にもなく神話図書館という本屋に入り込んだ時覚は柊 結亜に出会い、ある神話について知る。
→教任である秀英欄(しゅうえいらん)の成績の説教や、誘いかけた伊代乃たちからも抜け出して街を歩いていた時覚はまた不思議な少女柊と出会う。
【フラッシュサイドウェイ】
→30歳を過ぎてから歳を数えるのも面倒になったある男はここ数年あたりの定まった記憶がない。1人の学者として研究を重ねてきたようにも思えれば、1人の青年として世界を旅したようにも感じる。いや時の旅というやつだろうか。
→車が止まるとドアマンが車のドアに手をかけた。外は騒々しく、シャッターがこちらを睨みつけるようにけたたましく鳴る。ドアが開くと同時にそれがカメラマンやメディアのそれだと実感し男は歳を感じる面持ちで足を出した。
→世界の最先端をゆく科学、この男はそれらを担う万能性科学の頂点を目指す特殊研究チームの責任者だ。拠点をおく科研都市においてはビル群に紛れて研究を進めている。男は反科学主義者から幾度となく暗殺を試みられるも用心棒である国際的に名高いアロウド民間傭兵会社によって固く守られ続けていた。
→人類は神を求めているのか、己が神になろうとしているのか。男は野蛮な研究学者だが、人として情の熱い男だった。だからこそ、人として人のあるべき姿を求めていた。
→今、人類は新たなる知恵にたどり着こうとしていた。この男たちによる研究により、人が産まれながらに単体ではなく、集合的無意識下による共通路があることを叩き出したのであった。
→この男はチームに所属するジュダ・レイオクォルツと全幅の信頼を分かち合っていた。そんなジュダとの研究成果は数知れず、なかでも今確信に迫ろうとしている水槽の脳という真相はこの世界の重要な思考実験だ。
→男はそれらを解明することで、これまで全宇宙で誰もが証明できなかった人が見うる世界の位置と、思念のみが生きる世界についてを暴くことを決意していた。
→自分のためでも世界のためでもない。ただ疑念に思った。それがこの研究の始まりだと言っても過言ではない。この世界に疑念を持った。ありふれたデジャヴ。ありもしない記憶。別でいきる意志ある自己。どこかに重なり合ってはすれ違う物語に彼は己が拠点とする科学の都市へ帰還することにした。
【フラッシュリアル】
→ある日から秘密公安官である刻立 継義(こくた つよし)に自身の過去を嗅ぎつけられている事を感づいていた時覚は婆羅門という謎めいた美女の助けもあってどうにか危うく発動しかけた力を抑えられることができる。
→自称女子大生を名乗る婆羅門は時折不思議な言動で時覚の前に現れるようになっていた。一つ一つの言葉にはどこか重責を感じた。
→柊から神話を知った時覚は、かつて遠い昔、人類が今の文明世界に至る以前の遥か太古の世界で起こった二つの物語に興味を持つようになる。
→そんな時覚に謎かけを持ち掛ける見知らぬ中年はどこか異世界じみたその名を臥翁羽という男がいた。婆羅門と同様に彼もまた神話について何かを知っている口調だった。
→いつも気にかけるマンションの隣の住人である倉麻や、この大都市にきて以来ずっと同じ学校にいつづける幼馴染の伊代乃からの言葉は時折、時覚の歪んだ心をほぐした。スイッチが切り替わると戦闘狂になる時覚にとっては、己が持つ人を超えた能力を抑え続けるには人並みの忍耐力じゃ耐えられなかったからである。
→だがある日夢の中伊代乃にこの世界が世界の始まりから存在する悪の存在のために今危機に瀕していることを告げられ、何故だか意識してしまうようになる。
→倉麻と共にいた伊代乃にその事を話すも、彼女はあのいつもの笑顔ではにかんでいた。が、そこに柊の話を持ち込んだ時覚に横にいた倉麻は驚愕の顔をみせる。
「そん…な、どうして…結亜はもう…」
→伊代乃の言動はどこか深みがかっていて、たまに時覚を困惑させた。そんな伊代乃に目をつけていた秘密公安官・刻立は彼女を先に捉えることを優先とし精鋭部隊を町に送り込む。
【フラッシュサイドウェイ】
→雨雲の去った真昼の都市街を傘を持った瀬戸山海斗が歩いていた。
→コーヒーと新聞を日頃親しむ売店で買い、喧騒としたビル群の風に揺られながら帆を進める。
→途中、バックから落とした栞を瀬戸山唯に拾われたことを機に、2人は近くのベンチで話す仲になる。
→時折2人の会話に意図せぬつじつまが合うもの2人は気づくこともなく会話を進める。
→仕事場が近くであることから2人は話題があうも、唯の仕事仲間であるルナード・シュレディに叱られ2人は別れる。
【フラッシュリアル】
→何もない高い山にそびえる廃墟で、3人と1人は立ち会った。普通に柊へ話す時覚に倉麻と伊代乃の2人は顔を見合わせる。
→『2人の目に柊という女の子はどこにもいなかった』
→時覚は驚きに満ちる。柊結亜、そしてその存在が今やこの世に存在しないものだということをようやく悟った瞬間だった。
→ここで4人は学校が燃えていることに気づく。時覚と彼にしか見えぬ柊と倉麻は伊代乃と共に学校へ走った。
→学校では武装した数多の黒い集団が残虐的にも多くの子供を捉えては反抗するものを処刑していた。
→ロゴスフィリアとガイアの神話を1人考えていた時覚は何か自分自身にやるべき何かがあることに気づこうとしていた。
→太古から繰り返される悲劇と終止符の輪廻。それらは時覚が己のうちに飲み込んだある結晶に関係があった。体のうちに芽生えるその光が彼に問いかけていた。その時胸の中で何かが痛く叫んでいた。時覚は伊代乃の叫び声を胸の内で聞いた。
→霧矢の姿はどこにもなかったが、荒れ狂う武装集団に伊代乃は時覚自身を探していることを告白する。
→多くの若者や時覚を能力で助け始めた倉麻の姿に時覚は気づく。彼女もまた自分と同じ施設で育った者だと。彼女はそれに呼応するかのように語る。かつて施設で力の結晶アクエリアを飲み込み、あの場所で苦しみにあった子供達を救った時覚という存在を。そして自身もまた彼に助けられ、今ここに彼を守り続けるためにいることを。
→伊代乃は覚悟を決めると時覚を守る倉麻と時覚と柊に言い放った。自身が誰の代理でこの世に生をもって生まれたかを。まさしく伊代乃流華という存在が太古より予言された3人目である時覚仁に目覚めの時を告げる為に室馬醒司なる神からその身を宿されたトリガーであることを。
→夢と同じく伊代乃の言葉は時覚の心に通じた。戦闘狂の深層心理が奥深くで沸き上り始めていた。ダメだとわかっていても時覚は己が持つ力をここで誰かを守らなければ始まらないことを知ったのである。
(エクストラマジックアワー挿入歌)
→国が誇る特殊部隊がいよいよ倉麻や伊代乃の異能な力に圧倒されるなか、不意に現れた刻立に伊代乃が気づく間もなく不意を突かれ拘束された。荒れ果てた惨劇がいつしか予知していた時覚は生まれて初めて何かを失うという価値に気づいた。捉えられた伊代乃の未来が瞬時に見えた。その瞬間、時覚の世界は変わった。
→爆風と轟音の渦の中で、彼らが目にしたのは、失うことを知ったことで、慈しむ者を奪うために蘇った時覚の覚醒した姿だった。
→大気変動が起こり地盤が揺れ動く中、時覚は刻立から伊代乃を奪い返すと刻立を瞬殺しようとした。が、それは臥翁羽の作り出した謎の壁によって阻まれた。
→事件はいったん収束する。学校は長期封鎖となり、倉麻や伊代乃や時覚は柊を連れてこっそりこの大都会から抜け出した。刻立は目を光らせるも何か自分の知らない世界の闇が動こうとしていることを悟り一度身を引く。臥翁羽は婆羅門と秀英欄にクズと捨て台詞を吐かれるもその場から去りネオン街の闇に消えていった。
【フラッシュバック】
→子供が泣き叫ぶ声が聞こえる。毎日のことだ。もはや子守唄でしかなくなったに違いない。日常の断片。うつむく子供達の手は得体の知れない大きな鎖の形状をした手錠にはめられ、身動きを制限されていた。
→番号で名前代わりに呼ばれる少年少女はまだ幼いものが大半で、人体実験の後遺症か、身体中に傷があるものもいればそうでないものも、髪の落ちたものもいれば片目だけ変色した瞳を持つものもいた。みな実験施設では奴隷扱いも当然のように、病人のように、小汚く扱われていた。けれど1人の少年だけは虚ろな瞳を持っていなかった。むしろ、今生きようとする熱い双眸をしていた。
→小さな少女が少年を心配そうに見ていた。わかっていた。けれど、少年は時折見かける施設内にある隔離キューブの中のアクエリアと呼ばれる青い鉱石のような物に力があることを知っていた。いやむしろこの世界から脱出する鍵と言っていいほどにそれを直感で信じていた。願望を力に現実に変える能力を少年は自分でも知らないうちに宿そうとする原点がここにあった。
→ある日、少年は仲間たちが考えた脱出作戦で、共に手を握り合った。だが事が研究者たちに見つかりその場で脱走に一足進んでいた親友たちやかの少女は少年の眼の前で惨殺されていった。
→怒りを宿し、初めて他者への愛に気づいた少年は己の無力さゆえに叫び声を上げた。慟哭の叫びは力を呼び、すべての施設を崩壊させ炎を燃え上がらせ地を割り破壊を誓った。崩れゆく科学の影で死んだ少女の体を抱きしめる。まだ守り切れた仲間たちを先に逃れされた少年は力を失い倒れた。
→目が開くと同時に炎の燃え盛る暗い部屋で、少年はあの隔離キューブから取り出されたアクエリアを持つ複数の人影がこちらへやってくることに気づいた。彼らは力を用いてこの世界の本当の価値を見極めよと言うと、その結晶を少年の口に持って行った。
→世界の闇を断ち切るように。
→絶対悪なる位置から世界を救うために。
【フラッシュリアル】
→箱根にある仙石原のススキに揺られながら若者4人が空を見上げていた。世界が進化を求めるほど視界が狭くなってゆくようだ。
→遥か太古より、人類はかつての人類と同様の過ちを繰り返していた。柊はそれを3人に告げた。柊の身体が具現化を保てなくなっていることに気づいた時覚は彼女を抱き留めた。
→彼女は語る。自分が死に、時のすべてを終えようとした時、自分にはまだあの人に感謝を言わなくちゃいけないと。言えるまでまだ死ぬわけにはいかなかった。そんな柊の魂に光り輝くライラという女性が声をかけていた。まだあの人に言い残していることがあるのでしょ?と。だからこそ、柊は死してなおこの地にその想いだけを力に彼の前に姿を現したのであった。
→自身が守り親しまれて今もなお心配されるその愛おしき男の姿に、柊は初めて涙を流した。それは地に堕ちるよりも早く手に弾けた。
→柊は施設で倉麻や時覚と共に生き残るはずだった1人であった。倉麻が覚悟を決めた顔でゆっくりとうなづく中、時覚は彼女を救えなかった自分を呪うと言った。だが柊はそれを否定し、彼に愛と感謝を捧げた。
→柊の瞳から溢れる雫が天に弾ける。彼女の身体は召されるかのように消えていった。
→溢れ散る雫を、4人はいつまでも見つめていた。
→セイジの身を宿す伊代乃の話から時覚と倉麻は3つの時代で暗躍する3人の調律者について知る。そしてセイジの心が語る通り3人は白神山地へ向かう。
→旅の道中、3人は度々婆羅門と行動を共にする。彼女はその正体を話すことはなかったが、柊のことを聞き、遠くを眺めていた。
【フラッシュサイドウェイ】
→海斗は立ち上がるとビル群の中枢にある仕事場である神経生理学研究センターへ戻る。
→オフィスでは同僚の江堂駿が待ちくたびれおり、今月中の山にケリをつける所だった。
→仕事議題は夢が与えるデジャヴと時間の枠外論。
→江堂駿はそれを世間に問いかけようものなら、社会の抑止力に負けかねないという。
→だが海斗は、抑止力というものの根源が己の自己暗示の関連性であると言い放つ。
→社会を一律にし、混沌たる秩序において、統制を図る万物のバランサー、抑止力。
→2人は窓から喧騒たる快晴の下で蠢くようにひしめくビル群に目をやる。
→世界に問いかけるべきことがあるはずだと誰かは言ったのだ。
→これが世界だと、誰が決めた?
→駿は早々にかたをつけるというと、議題のプロット作成に取り掛かる。
→海斗が、アイツは?と聞くが駿はそのアイツを察し、あえて無視を決める。
→納得した海斗は仕事に取り掛かった。
【フラッシュリアル】
→時覚に囁くかのように時折現れる臥翁羽は室馬醒司という神たる存在がどれほど悪なのかを語り続けた。思念映像でアンデジェル殺害の真実を目の当たりにした時覚はそれ以後、室馬を敵視していくようになり、伊代乃当人に対してもどこか疑念を抱くようになる。
→夜になると、時折時覚の胸の内にあるアクエリアの光が彼を苦しませた。
→明確な目的もないまま3人は白神山地へとたどり着く。そこで、神秘的な2人に出会う。幼い女はルナと言い、その横に付き従う和風な女性は嘉山と言った。
→2人はここ白神山地でかつて世界の干渉の力の地脈が働く場所として古くからここを守り続けてきたらしい。
→そして時覚たちら3人は3人の調律者たちが関与したとされる過去を彼女らから聞かされることとなる。
→反干渉の力を持ち、ガイアの時代に生きた天才学者 瀬戸山ユイの魂を持つリンバウホウと言う者からそのループ投影の力を授かっていたルナはそれを見せながら彼らに説明する。かつてかの時代にあった聖戦の物語と、1人の愛に囚われた女の魂の影を。
→伊代乃はそこで気づく。ルナと嘉山、そして聖戦後にセイジが創造した5人の観測者の正体を。
→嘉山もまたリリシアなる者の意志を反映する存在だった。
→1億年と2000年前、室馬醒司が人として共に戦い助け合った真の友である江堂駿。
→アンデジェルに実験として旧人類界へ送り込まれ、娘だけを新人類界へ向かわせ、妻と共に戦い死んだ聡明な父ニムロッド・ルージュ。
→新人類界で紀元より繁栄と秩序を形作った栄光の王家最後の女君ルナ・レイオクォルツ。
→ガイアを守る時の壁エリコヲールを建て新人類界の人々を守った室馬醒司の真の友である瀬戸山海斗直系代々の子孫、瀬戸山ユイ。
→セイジは聖戦後に世界の安定と時を繰り返し見守ることで賢い選択を委ねられた若者たちの魂を反映させて5人の観測者を創造した。
→そして彼らは1人は江堂駿の意志を反映するヴォルタム、1人はニムロッド・ルージュの意志を反映する秀英欄、1人はルナ・レイオクォルツの意志を反映するリリシア・モローレ、1人は瀬戸山ユイの意志を反映するリンバウホウ、そして最後に八神萊羅の意志を反映する不老不死人間こそが…。
→そう言いかけたルナと伊代乃たちの前に謎めいた美女婆羅門が現れた。
→彼女こそが八神萊羅の意志を反映し、現世においても生き続ける嘉山を含む観測者だったのだ。
→伊代乃は婆羅門と長く見つめ合う。
→わかっていても、現実のそれは虚しいものだった。数えるのも無意味に思えるほど遠い昔、彼らは互いを愛し合っていたのだから。
→婆羅門の口から、彼らはライラを含む光の選軍についに聞く。その歴史の数々にどれほどの犠牲があったのかも。
→こうして彼らの言葉で時覚が過去を知った時、彼は己が今何をすべきなのかを考えた。
→だがそれもつかの間で、都合よくキーパーソンが集まるこの森に唐突に奴は現れた。
→誰もが、ほとばしる闇に振り向いた。
【フラッシュサイドウェイ】
→海斗たちの働く西の科研都市から東寄りにある外資系理研区画の一大物理学専攻ビル、ハドロニア。そのとあるオフィスでは唯がルナードの説教の後、ルナード絡みで素粒子学の知り合いである江堂紫電につてを頼み、現代の科学においてようやく理解されようとしてきた机上の空論を徹底解剖し、世間に公表しようとしていた。
→ルナードは紫電との約束があるようで唯が今日の飲み会を誘ったものの彼女は断った。
→唯が医学会でも強者と称され若き大脳生理学者である唯の親友、倉麻夕希医師に脳と進む時間の平行移動との関係について意見を求めに行く道中、妙な人間と出会う。
→ボーと空を眺める不思議な女性には邪悪というよりかは、闇を消失させた影のような雰囲気があった。日本人と見受けるその女性は、自らの名前を忘れ唯に同行することとなった。
【フラッシュリアル】
→木々を焼き払って現れたのは臥翁羽だった。彼らは待ちかねたかのように一人一人を亜空間へ閉じ込め始める。
→何もできないまま我に返った時覚は周りから消え始めた婆羅門たちに手を伸ばすも、力が思うように発動できず、その場で何も出来ぬまま彼女たちが臥翁羽の闇に引きずり込まれ始めたのである。
→唐突に始まる闇の深淵で、臥翁羽が笑い続ける。
→奴は一体何者なのだろうか?なぜ我々を襲うのだろうか、否。それはわかっている。
→セイジとの関わりを持ち、今やその歴史の真実を求め始めた時覚たちは言わば臥翁羽にとって忌むべき存在になるということだ。
→嘉山が連れ去られ、残されたルナが怒りを覚えると全身を白銀に染め臥翁羽へ立ち向かった。
→圧倒的な力の差に、ルナが引きずりも込まれ、伊代乃の手を繋いだ時覚を嘲笑うかのように、闇は伊代乃さえも連れ去っていった。
→呆然と下にうつむき絶望する時覚。
→臥翁羽は言う。自分たちを世界終末の神々と。世界の始まりの日から今日に至るまで、この世に生まれる真の神から希望を捨て去り、その命を落とすために、未来の終わりからやってきたと。
→伊代乃の泣き叫ぶ声だけが、残響として森に響き渡る。
→伊代乃のうちにある別の魂に気づいている臥翁羽。それはつまり、奴の存在がここにあり、過去へやってきたというのならば、未来の世界には終わりがあるということになる。
→闇が天まで登り、静寂の森には木々の軋む音や動物の喚く鳴き声が残響となり響き渡っていた。
→世界を終わらせなければならない。臥翁羽はあのいつものニヤケ面を捨てて氷すらも割り切ろうとする冷たい眼をこちらに向けた。
→時覚は戦うことが好きだった。だが奴にはただならぬ殺気があった。それだけは嫌という程にわかっていた。
→臥翁羽がとどめを刺そうと闇の槍を手にした時、闇の光を宿し、別空間から巨大な扉が開き、背後から強靭な1人が現れてきた。臥翁羽のとどめを止めたその者はそこにたたずみうつむく時覚に我々こそが調律者であることを名乗る。
→それぞれに荘厳な風貌を持つ2人の調律者は無駄な戦いを避けてその場から離れようとした。
→手を出されることなくそこでうつむいたままの時覚を放り、2人の調律者は闇の扉を閉じ込めようとした。だがその時、闇の向こう側から声がした。
→時覚の体が少し動いた。前を向く。伊代乃の声だった。まだ生きている。君を救えないと思い込む俺が今ここで成し得るのは、なんだ?
→臥翁羽は異変に気付いた。
→そこにある己のそれとは違う強大な力に。
→刹那、全てにおいて、伊代乃を奪い返す想いを全身に満たした時覚はその瞬間怒涛の叫びを上げる。
(君の神話 挿入歌)
→神聖なる時の聖地の泉は、白神山地もろとも、時覚の覚醒によって燃え上がった。泉は蒸発し大地はうねりを上げる。
→闇の扉を無理やりこじ開け、時覚から放たれる光の円盤が、闇に閉じ込められた倉麻やルナ、そして嘉山や婆羅門の身体に向かった。その光が2人の調律者を一時的に失明させると、4人の彼女たちの体へ宿り鼓動を打ち始めた。1億と2000年前、これと同じことを1人の青年が行った。時覚と同様に、失われた悲しみを背負って、再び立ち上がるために。
→時覚の目はこの世の者では無いほどに世界を見つめていた。大いなる力によって世界に立つ者がまた1人ここに生まれたのであった。
→そこに気づかぬ想いを時覚は宿していた。
→伊代乃への想いを、時覚自身はまだ理解できていない。それでも、誰かの声に呼応し、自ら己を覚醒させたのは初めてだった。
→調律者の力を押さえ込み、時覚は闇に手を伸ばした。落ちていく伊代乃の手を自ら深手を負いながらもやっとの思いで掴み取る。と同時に彼女たちの鼓動を手に取り、伊代乃を抱きとめた。
→その時だった。伊代乃の心が時覚に語りかけた。それはセイジの意志を代理とするものではなく、彼女自身の言葉だった。
→臥翁羽の闇の手が深くから彼女の首を掴んでいた。彼女は限りなく時覚に叫ぶ。己が言わんとする想いの価値を。彼女は自身を犠牲として、セイジの意志を持つ己の体のみを時覚に託したのであった。故に、臥翁羽が掴み連れ去ったのは、伊代乃ではなく、伊代乃の心だった。
→伊代乃の涙と、時覚の温もりが、2人を包む。わかっていた。セイジの意志を持つ者としてではなく、1人の女として、時覚は伊代乃を見ていた。伊代乃もまた、自らの想いに今だけは正直になれるような気がした。だからこそ、2人は別れる決意を瞬時的に決められたのであった。
→全員が闇から救い出される。
→光の円盤の中で、時覚は伊代乃と見つめ合っていた。彼女は彼女にして彼女にあらず、それはセイジの意志を持つ自らを犠牲にした彼女のもうひとつの存在だった。力は増大し、光り輝くなか、山々すべてを巨大な円盤に変えた。
→その圧倒的な力を前に誰も手を出すことはできなかった。
→2人の調律者は、別空間から開けられた何者かによる闇の光でその場から去っていった。ここで推測されるのがもしかすると、彼らは時覚の覚醒を促してこれらに歴史を動かしたのではないか、ということである。
→焼け野原が不自然に降り出した雨によってかき消される。広大なる森林地帯でおきたかの新たな神話を誰も知ることは未だない。
→若者たちはゆっくりとその場を後にし、連絡を受けてはるばる駆けつけたクラス担任の秀英欄によって近くの病院で人知れず保護された。秀英欄は彼らの事情を知っており、不思議なことにそれを誰も違和感なく受け入れた。ことの事情を聴き、秀英欄は時覚に己が今出来ることは何かを問いただし、その場を去っていった。
→病院の1日がやけに長く感じる。
→あれから復活を果たし、己の力の意味をまだ知らぬ時覚は彼女たちが滞在する田舎町のとある病院で考えていた。柊のことを忘れていたくなかったのもある。
【フラッシュサイドウェイ】
→唯が名も無き女性と同行して向かった科研都市郊外にある大脳生理学を主とする桜舞研究所では倉麻夕希が待っていた。
→古くからの親友でもある夕希医師と唯は、ともにこの度の人類の研究成果を進めることを決意した。
→何時間もの話し合いの末に、人々が夢を見るソレには人間本体との時間の平行性が無いものであり、夢そのものがただの記憶や脳時間の総演算ではなく、人間本体が一生涯のうちに歩む時間すべてかつ、本体が本来持ちうる時間の壁を超えて他時間に干渉できる術である可能性を示唆することを理解できた。
→別れ際、研究所の創設者である桜舞春風所長が挨拶にきた時、唐突に彼を見た名も無き女性に異変が起きていた。
→彼女は自身の記憶に無い何かを今しがた知り、そして自身の感情にはない何かを初めて実感したようだった。
→もはや言いようもなく、名も無き女性には出会ったはずもない春風という男を知っていたのであった。
→因果的存在。
→いつか、遠いどこかで起きた真実。
→謎多くも、どこか道の開けてきた彼女の姿に唯は桜舞研究所で届け出が出る前に預けてもらうことにした。
→ありがとうと名も無き彼女の言葉を最後に唯は自身の一大物理学専攻ビル、ハドロニアのとある企業コーガ・コーポレーションへ、今回の事案を総長に報告しに帰ることとなった。
→だが帰り際にある人物に声をかけられる。
【フラッシュリアル】
→刻立の命令に背いて伊代乃を引き渡さなかった時覚たちの友である霧矢は政府の裏で監禁を受けていた。家族に国家的罪状がありその司法取引として公安直属のスパイとして働いていた。自分はもはや居場所などなかった。
→3人の調律者は地球を眺めながら世界の理の水辺でこの世界の終末にそれぞれが抱く世界輪廻の願いを語った。
→光の選軍は江堂や八神、そして瀬戸山たちが集い、過去に消えたかつての親しき愛しき女性を語った。決して許されぬ、それでもなお好きであることに変わりのなかったかつての存在を光の選軍の上に立ち今もなお眠り続ける室馬醒司は殺した。すべてを終わらすために、だが、まだ終わってなどいなかった。
→3人の調律者。彼らこそがこの世の終わりを演じ、実現させようと世界の歯車に関わり始めていることは誰もが気づいていた。だがその理由とは?彼らが世界の終わりからやってきたその存在そのものとは?伊代乃の行方は?まだ眠る室馬を除き、彼らは何も知らない。
→目を覚ます伊代乃と倉麻に時覚は涙を流す。戦闘狂でありながら、その心はまだ高校生のそれであった。伊代乃には男としての性格ではなく、伊代乃本人とはまた別の人格が現れていた。声も変わり性格も機械のようだったが、これもまた次第に時覚たちと共に歩み続けることで徐々に新たな人格をセイジの意志を持つ1人の女性としてのものになっていくことは、言うまでもなかった。
→婆羅門はいつしか病院から脱走しており彼女の姿を誰も見ることはなかった。またどこかで何かの機会に出会うこととなるであろう。
→婆羅門がとある政府系機関高層ビルの屋上で変装を解いて脱走を試みていた時に、時覚たちの教師である秀英欄から軽い説教を受ける。ニムロッドは自身の娘であったリエナを我が子として思いやるように、自らの生徒も、そして光の選軍として共にリエナと共闘した八神たちにも情念があったのだ。
→八神萊羅の意志を反映する存在 婆羅門は自らが慈しみ愛しむ男 室馬醒司に愛故の行動として、その存在を見守り続けるという選択を果たした。だが、彼女の想いが消えたわけではないことくらい、光の選軍を含めて誰もが理解していた。だが、実質世界を征し眠りについた男への愛はアンデジェルの件もあり、禁忌とした扱いを受けていることに変わりはなかった。だからこそ、というわけではない。ただ単純に純粋なまでに八神本人はかの男を愛していたのだ。アンデジェルが抱いた憎しみとも取れる愛情とはまた違い真の意味で。
→婆羅門はその遺志を反映し、光の選軍としてではなく、ボダイ生還者としてでもなく、八神萊羅という1人の女として、ループ能力を使うことなく、この地に生き続けていた。
→多くの苦しみや悲しみをこの目に焼き付けてきた。痛いほどにそれはこの世がなんども同じ過ちを繰り返すとこを暗示していた。わかっていても、かつて愛する男が言ったように、この世には少なかならぬ希望があることを、否定したくなかったのだった。
→遠い昔、ガイアで元老院の座に座っていた時代、人々はそれでも家族の幸せを願っていた。今はどうだろうか。何もかもが変わった。そんなこと、どこかに風化したように。
→婆羅門は世界に絶望し希望を捨てなかった。だからこそ、太古から影だけを残して暗躍し続けてきた3人の調律者がこの世にようやく姿を表したことは、すべての歴史の中でも特に重要な出来事だったのである。彼女は今こそ愛する男を目覚めさせる時だと確信していた。世界を終結させないために。調律者がこの世を牛耳らぬように。遠い未来まで愛する男を守り続けられるように。もう一度、会いたいために。
→秀英欄はそれを知っても、婆羅門の未来がアンデジェルと重なることを心配していたのである。
→夜の巨大ビル群に婆羅門は消えていった。
【フラッシュサイドウェイ】
→その名を霧矢響一という好青年は絶滅危惧種のルポライターだった。唯は彼からこの科研都市における灯台社という科学抑制を目論むとある組織について問われる。が、唯はこれを知らないと言い、科研都市においてそれを知りたいのならと科研都市2大主要人物の1人である高度医科研区画の新人類知能学専攻主任の時覚仁に聞けと言った。
→少々軽口だった霧矢もこれを聞くとしばしば納得し、予定があるからと言い残して名刺を渡し去っていった。
→コーガ・コーポレーションでは唯の同期にして組織総長である劉がその時間の遅さに怒りをあらわにしていた。
→ルポライター霧矢はビルの隙間から彼女の姿を見届けると、振り返りざまに後ろにいたとある人物の問いに答える。
→霧矢はこの世界にて、人類史を司り生きてきた演奏者たち三百人委員会、通称オリンピアンズの1人、五十嵐十蔵に今始まろうとしている人類の新たな進歩を問いた。
→荘厳で大柄な男、十蔵は人が今持つ力が質量であり、科学という具現化し証明しうるものではない別の力だと言った。それはどこかの天才が言ったように、物質へその価値だけ変換できると。
→人間が人生のうちに用いる脳の機能確率は約5%だと言う。かつて人類は遥か遠い先代文明時に夢という未知なる人の能力を用いた機能確率の上昇を図ったことがあった。だが、1%でも確率を上げたものは皆人知を超えた力を手にし、人類に敵対されたという。劇中では語られないがおそらくボダイの神話を取り上げている。
→人が人の身にて神と等しき域に立つことを、十蔵たちオリンピアンズは禁忌としている。だがこの世界の英知を結集せしめすこの研究要塞ひしめく地ではそれが正義のようにこの都市を形作っていた。十蔵はその監視役としてやってきた1人だった。
→科学をもって人の道を切り開く者。
→科学を抑えて人の道を守り抜く者。
→古に等しき人と人が己が願いを込めて今を生きていくとき、人はそれが本来の姿であり、千差万別の時の中にある唯一無二の自己であることを知ることになる。
→人が人として人の枠を超えたとき、彼らの先にある者とは何か。それぞれの思いが交差し、彼らは答えを見つける旅に終止符を打とうと、眼前を見据え始め出したのであった。
【フラッシュリアル】
→自らやってきた刻立と時覚は互いに相対した。彼らは無言のままその場で己の野望を胸に今一度本当の道を見据えた。
→隠された真実を知る者たち、古より彼らを追い続けてきた刻立という存在は執念深く、時覚に宣戦布告をした。
→時覚は己が今こそ立ち上がるときだということを認識していた。失われた伊代乃の本当の彼女を取り戻すための闘いに。そこに立ちふさがる者は何人たりとも許さない覚悟だった。神々というあの3人の調律者にも。自分を執念深く追うこの男にも。真に神としてこの世を支え眠りについた神話の男にも。誰からも奪わせる気は毛頭なかった。
→2人は互いの気持ちを再確認すると、それぞれの闇へ帰って行った。
→時覚は体調を取り戻した倉麻と回復したルナや嘉山、そして室馬醒司の意志を持ち、かつ1人の女として決意を固め自らを消した女、伊代乃と共に、5人によって、ルナの使わなくなったループを5人分に最大限まで引き延ばして、力を使用した。約1億年前、人々がそれぞれの想いを胸に生きたガイアの世界へ。
【フラッシュバック】
→少年にアクエリアを飲ませたのは、その場で起きたであろう闘いの末にそこに佇むボロボロな時覚と桜舞と伊代乃だった。そのうちの1人がゆっくりとそいつに名前を与える。
→光が眩く円盤を作り上げると、少年は光に包まれながら自らの身体から、1人の少女をその手に宿した。伊代乃がその生まれたての少女へ名前を与える。
→時覚仁は、伊代乃流華はこうしてこの地に新たに生まれた。この世界を根底から救うために。
前編・完
・世界観
主点→大都会に1人生きる青年の物語
立ち位置→始めは室馬側の人間が時覚たちの敵のような存在として現れる。
世界の始まり→3人の調律者と彼らを滅ぼすために未来からやってきた3人の若者が、たどり着く世界の原点。現歴から約千億年も昔とされる。これには世界はひとつの海であり、黄金の世界だった。これはいわば虚無を、表している。
世界→現代の日本。推定では、神話と称されるロゴスフィリアやガイアの聖戦から1億と2000年がたっていると思われる。つまりガイアでいう新人類界を指しており、滅んだ旧人類界とは別線上の位置に当たる。
叛意志像→真逆の絶対的存在。
反干渉ループ能力→干渉を許されない見守り続ける観察者としてのループ能力を持つ力。物語では覚醒しアンデジェルの手から新人類界を救ったセイジがこれらの歴史を自分たちの持つ恐ろしき力とは別に守護者として恩恵に値する人たちからその意志を反映させた人間を5人創造し新人類界の創生時に時を巻き戻して誕生させたと言われている。ルナを意志を反映するリリシアや江堂駿の意志を反映するヴォルダム、八神萊羅の意志を反映する婆羅門や瀬戸山ユイの意志を反映するリンバウホウ、ニムロッドの意志を反映する秀英欄がいる。リリシアの意志を反映する嘉山は後に旧人類界から新人類界へセイジによって救われた人類のうち、かつて室馬醒司の親戚だった嘉山家系の子孫がリリシアに付き従い旅を共にしていたことから、リリシアの死後(時覚のループを断ち切るためパラドックスの向こう側でルナの意志に背き自らの力を使い切り犠牲となる)その想いを託されたと推測される。リリシアの願いによりその力は嘉山にも伝えられていた。
施設→時覚仁が国家機密裏に収容されていた人体実験施設。本人は口にはしないが想像以上に悲惨な日々を多くの子供がそこで過ごしていた模様。目的は今や神話と称される二つの物語にまつわる大いなる力・ボダイエネルギーと人類の英知に辿り着いた病・サヴァン症を同調させ、人為的に能力者を生み出そうとするものであった。脱出するために時覚仁は施設に隔離されていた神話型結晶アクエリアと呼ばれる光の結晶を食べた。人を超えた力を手に覚醒した時覚仁は施設のすべての人間を滅ぼし、そこで苦しめられていた子供達を救う。その時に施設でアクエリアを食べさせたのは施設の者ではない数人の見知らぬ若者だった。彼らは能力を使い時覚仁を覚醒へ誘ったのであった。
神話型結晶アクエリア→人類史に残されなかった遥か古代においてこの世の英知を集結した文明から存在する結晶体。その正体は未だ謎が多いが、ようやく現代の研究においてかつて存在した超エネルギー体である予想が指摘されていた。その実態はボダイエネルギーの化石ともいうべき力の結晶だったわけである。だがこれは太古の昔に桜舞ハルカゼがリエナ・ルージュと共に生涯を過ごした時の中で、彼が光の選軍と呼ばれる大いなる力を持つ者たちに助けを求められたことで時の果てに旅立ってから数年が経ち、役目を終えてリエナの元へ帰ってからは彼女が先に死ぬまで共に生き続けたのである、その末に、その死体が同じ場所で埋められたことで彼らの想いが結晶となったのである。
世界終結のわけ→叛意志像となった時覚なる臥翁羽と、同じく桜舞なる桜時雨と、同じく室馬なる統一夢の手で、世界の基盤としてすべてを支える神たる室馬醒司が殺されたことで、室馬醒司が願わぬ滅びを憂いたことから因果に影響が及び、ありとあらゆる世界はその瞬間幕を終えた。本来あるべき姿の男たち3人と、そこから生まれた影の3人によって戦いがあったことを意味する。
※ちなみにこの調律者3人には光としてかつての自分たちに殺害され、記憶のない新たな生命として生まれているため、かつての3人たちの記憶を持っていない。アカシックレコードという世界基盤は室馬たちのロゴスフィリアやガイア大戦を、唯一無二の軸としているため、アカシックレコードに唯一干渉できる3人の男たちつまり室馬と桜舞と時覚の誰かがアカシックレコードに付け入らせるのを狙っていた。→時覚と接触している時点でアカシックレコードへの介入を許すウィルスが時覚に投入されている。本人は知らぬ。
結末→すべての者にある想いを消さない為、この世に再び最後の復活を遂げた室馬醒司と太古の昔からやってきた桜舞ハルカゼは覚醒を果たす時覚仁と共に己の命を絶つ。そうすることで彼らが生きようとする希望が世界の命となり、そう願い死ぬことで各々の想いが永遠に消えないことを証した。よって、世界は終結することもなく、終結が不滅故に叛意志像たる彼ら三人もその存在意義を無くし、すべての時間から彼らは消えて無くなっていった。結果として、ボダイという人体実験も、新人類界への逃避行も、力による悪への道も、無くなったのであった。すべての物語にすべての理由を消し去り、世界は今こそ新たな夢の終わりを迎えたのであった。アンデジェルの殲滅をセイジが果たした時、世界の時が止まり、アンデジェルのもとへ自らが死ぬことと胸の内にある想いを未来から来た室馬セイジが伝える。最終話では雪解らやハルカゼたち、そして時覚たちはともに同じクラスで卒業式を迎えていた。辿り着いた世界はクラスメイト(フラッシュフォワード)。
時覚にアクエリアを食べさせた数人の若者→描写は当初こそ影だけであったが、その実態は3人の調律者であったことがわかる。
影の調律者→ボダイ実験を提唱し、他世界干渉にボダイ生還者の力を用いることを強国家権力者たちに助力し、世界を絶えず室馬の敵に持っていた暗躍者。その実態は世界終末と共に誕生した室馬と桜舞と時覚の叛意志像たち三人である。彼らは世界誕生へ遡るとその日から今に至るまで様々な裏に潜んできた。だが、最後には彼らのオリジナルである本人たちが自らの意志で永遠の眠りへついたことにより、彼らの存在意義が必然的に消え、世界は終結することなく、新たな世界線へ突入したのであった。
フラッシュサイドウェイ→現実世界とは違った流れがあり、一見すると違うタイムラインかと思われるが、実は集う女性たちの会話から現実世界(フラッシュリアル)との相関関係が示されていて、調律者の存在の有無によって時間の流れが変わったわけではないということが、少しずつわかってくる。だが最終話によってついに明らかになるのは、フラッシュサイドウェイが物語全体の死後の世界であり、異なる時間に死んだ人々が、生前の未練を解消したり、つながりをもとめて寄り添う場所で、ボダイやガイアやリアルでの記憶を取り戻して次に進む準備をする場所なのであった。次の段階への移行地点というものであり、恐らくは輪廻途上期や天国への旅路や辺獄などを意味するものと想像される。海外ドラマLOSTより抽出。新ジャンル導入編。
フラッシュリアル→時覚たちが生きる現実。ボダイやガイアから区別しリアルともいう。
フラッシュバック→ボダイやガイアの世界。
フラッシュフォワード→リアルの先にある世界。サイドウェイとは別の物語であり、サイドウェイを経た後の遥か未来を指す可能性が有力視されている。
・最終章案
→世界構成は群像劇風
→敵は世界の始まりから存在する古の神々
→神々とは未来の終わりから来た調律者
→目的は神々からの解放
→神々は全てを未来の終わりまで繋げようとしている
→未来の終わりはこの世の終わり
→神々とは世界の因果が終結したからこそ誕生した時の結晶たる存在
→神々とは全知全能の存在ではない
→世界終結から生まれ、世界誕生へ向かった
→神々は人類がこの世に存在し、この世界で夢の真理が世界の真理であることを何者かが知ったからこそできた全世界史の副作用たる副産物、それが彼ら神々の実態だった
→夢の真理を知るのは人間の深層心理部位、つまり人は生まれながらに夢の価値に気づいている
→神々はその夢の本来の意味に気付き、人の身にして神たる存在となった張本人を殲滅しようと目論んでいる
→その張本人たる夢の理を知る者が神々の手によって殲滅されたことで世界を支える存在が消え世界は消滅した
→結果神々は世界の終結と共に虚無を蹂躙するために誕生できたのである
→だが因果はその神たる夢の理を知る者の力や願いの強さによって世界を救おうと、時と歴史に変化するよう働いている
→よって、世界の物語を変えないよう調律者として世界の誕生以来影からこの世を意のままに操ってたのであった
→夢の理を知る者は室馬醒司に他ならない
→調律者たる三人の存在
→その三人は室馬醒司であり桜舞ハルカゼであり、この度の主人公たる時覚仁だ
君の未来は時じくに愛している