(2018年完)本編TOKIの世界書四部「明し時…最終話」(歴史神編)

ごぼうかえる

(2018年完)本編TOKIの世界書四部「明し時…最終話」(歴史神編)

神々の歴史を管理する神、霊史直神(れいしなおのかみ)ナオは改ざんされた神々の歴史の一部を見つけた。
その歴史を追及するために暦結神(こよみむすびのかみ)ムスビとこの世界に隠された謎の究明をしていく。
データ化された神々の歴史のほころびを見つける事ができるのか?
これで四部はおしまいです!!

次はついに最終部です。

TOKIの世界(陸の世界バージョン)
壱…陸と反転している世界
弐…夢幻の世界、霊魂の世界
参…過去
肆…未来
伍…想像が消えた世界?
陸…現世

リグレット・エンド・ヒストリー

 図書館を出たナオ達は霧深い道を歩いていた。木は生えているが真っ白な霧のせいでほぼ見えない。はじめは足元が見えていたがそのうち見えなくなった。ナオは足を止めることなく前だけを向いて歩いた。
 どこから道がなくなるかもわからない。突然崖になっているかもしれない。
 それでもナオは関係なしに歩いた。
 「な、ナオさん……。」
 ふとムスビの手がナオの肩に触れた。ナオはムスビをちらりと見た。
 「どうしました?ムスビ。」
 「ここから先はなんだかヤバい気がするんだけど。」
 ムスビは何かを感じていたようだった。怯えた顔でナオを見ていた。
 「……そろそろ、弐の世界への入り口なのでしょうか?」
 ナオが隣にいた侍、過去神栄次にも目を向ける。
 「……確かにまずい気配は漂っている。人間でも神でもここから先は異様な不安を覚えるだろう。そして間違いなく引き返す。」
 一番人間に近い栄次は落ち着いているようだが内心は警戒していた。
 「……そうですか。私はなぜだか悲しいような懐かしいような気がするのですよ。」
 ナオは不思議と導かれているような気がした。
 ムスビの制止は意味もなく、ナオはどんどん中へと進んだ。そのうち、歩いているのかすらもわからなくなってきた。
 辺りは真っ白で地面もない。地に足がついている感じがしなかった。
 「な、ナオさん!ほ、本当に足がついてない!」
 「え?」
 ムスビが再び上げた声にナオは慌てて自分の足元を見た。気がつくと辺りは宇宙空間のようになっており、足下にはネガフィルムのように様々な世界がまじりあっていた。ロボットが徘徊する近未来な世界の横で魔法のファンタジー世界もある。これは一つ一つが人間や夢を見る動物の世界である。眠っている人間が行く魂の世界。個人個人の心の世界だ。
 「こ、ここが弐の世界……。」
 ナオがそうつぶやいたのも束の間で三人に突然重力がかかり、ネガフィルムの方へと落下を始めた。
 「……まずいよ。弐の世界で個人の世界に落ちると出られなくなるそうだぜ。」
 ムスビが真っ青になりながらナオと涼しげな顔をしている栄次を見つめた。
 「いきなりですが……この本を使いますか。」
 ナオはため息交じりに懐から先程天記神からもらった本を取り出した。
 向こうの世界の時神アヤが書いたとされる弐の世界に住む時神の書籍。
 「役にたってください。」
 ナオは願う気持ちで書籍を開いた。中の内容は文字化けしていて読めなかったが本は光を発して反応した。その光は近くにいた栄次に向かい、やがてまばゆく辺りを包んだ。


 気がつくと白い花畑の真ん中に立っていた。
 「……?」
 ナオ、ムスビ、栄次は突然の事に瞬きをしながらゆっくりと辺りを確認した。
 「ここは……。」
 白い花は柔らかな風に触れ、優しく揺れていた。
 空はぬけるような青空で青々とした森林が白い花畑を囲うように生えていた。
 「ここが弐の世界の時神の世界なのかい?」
 ムスビが先程と変わらぬ青い顔でナオを見据えた。
 「……おそらくそうでしょう。私もよくわかりませんが……。時神の本が反応してわざわざ誰か個人の世界へと飛ばされるなんてことは考えにくいと思います。」
 ナオは唸りながらさらに辺りを見回す。
 注意深く見ているとナオ達がいる場所よりも少し離れた所に日本家屋が一軒建っているのが見えた。
 「ムスビ、栄次……家屋があります。」
 ナオはムスビと栄次を小さな声で呼び、家屋を指差した。
 「……こ……ここはっ……俺の世界……か?」
 栄次が家屋に目を向けた刹那、驚いたように声を上げた。
 「栄次?え?ここ……栄次の世界なの?」
 ムスビが栄次よりもさらに目を見開き、訝しげに栄次を仰いだ。
 「……いや……わからん。だが……咄嗟にそうだと今思った……。理由はわからん。」
 「なんだそれ?」
 栄次の曖昧な反応にムスビはさらに首を傾げた。
 「……あの家……誰も人が住んでいないように思います。」
 ナオはもうすでに家屋の近くまで行っており、中を窺ったりしていた。
 「ナオさん!勝手な事したら住人に怒られるんじゃない?」
 ムスビも慌ててナオを追うように家屋付近までやってきた。
 その後を戸惑うように栄次が続く。
 「ムスビ、栄次、この家屋、人も神も住んでおりません。」
 ナオの言葉にムスビと栄次は目を細めた。
 「弐の世界の時神とやらもいないのか?」
 栄次も軽く気配を探してみたが何かが存在している雰囲気はあるものの気配は全くわからなかった。
 三神が首を傾げていた時、地面からふと女の子の声が聞こえた。
 「……あなた達は陸(ろく)の世界の神々?」
 「……っ!?」
 突然の声にナオとムスビは飛ぶように驚き、栄次は刀の柄に手を置いた。
 「ここは壱の世界の方の弐の世界。あなた達が来るところではない。」
 声は白い花畑の一点から聞こえてきていた。
 ナオ達は驚きつつも恐る恐る白い花の間を覗いた。
 「……え?か、かわいい……。」
 即座にムスビが反応した。白い花達の間から手のひらサイズの身長しかない魔女帽子を被った小さな少女が無表情でこちらを見上げていた。
 「ち……小さいですね……あなたがこの世界の時神なのですか?」
 目を見開きつつもナオは辛うじて言葉を発し、少女に問いかけた。
 「いいえ。」
 少女は首を横に振った。
 「違うのですか……。」
 「私の名はセカイ。世界を保たせるKの使いの人形。この世界はあなた達がいる世界ではない。あなた達が『反転する世界壱(いち)』の世界の住神ならば弐の世界を守る時神に出会えたことだろう。次元は違うが彼らは今、この家屋で幸せに生活をしている。でもそれはあなた達には見えない。」
 セカイと名乗り、人形だと宣言した少女はナオ達の疑問に即座に答えてくれた。まるで心を読まれているようだった。
 「Kの使い……。K……。K!」
 ナオは何かを思い出そうとしていたが突然に声を上げた。
 「そうです!Kの使い!あなた、Kの元へと行く事ができますか?」
 ナオはセカイを穴があくほど真剣に見つめた。
 セカイは一つ息をつくと小さく頷いた。
 「……あなたにはエラーが出ている。Kの元へ案内するのはいいが消去したはずのプログラムが動き始めている。このままKに会わずに時間を置き、データの処理をすることをすすめる。」
 セカイは意味深な言葉を吐くと一つ頷いた。

 「エラーとは何かはよくわかりませんがそれはできません。もうここまで来てしまいましたから。」
 ナオは一呼吸おいてから落ち着いて答えた。
 「……わかった。あなたのプログラムがそちらに動いている。Kの世界へ案内する。」
 セカイはすんなりと了解した。ためらいも迷いもなかった。
 「ちびっこ、あんたさっき、ナオさんをとめたじゃないか。案内しちゃっていいのかよ?」
 あまりにあっさりしていたセカイにムスビが疑いの声を上げた。
 「構わない。もう未来がそちらに向かっているようだから。」
 「……。」
 セカイの思わせぶりな言葉にナオ達は一瞬言葉を失った。
 「あいにく、私は仕事がある。代わりの使いをよこす。……しろきちさん。」
 セカイは表情なく、しろきちという名前を呼んだ。
 「は、はい……。」
 セカイが呼びかけた後、間髪を入れずに少年の声が聞こえた。
 「……っ!」
 声が聞こえたと思ったら突然にその場に白髪の男の子が着物姿で現れた。
 「ひっ!いきなり白い頭の男児がっ!」
 ムスビが驚いて飛び上がった。栄次も反応が遅れるくらいに唐突に少年は現れた。
 短い白髪の着物姿の少年は不思議な雰囲気で頭には獣の耳がついており、顔には動物のヒゲがついていた。目はぱっちりとしていてとても可愛らしい少年だ。
 「……あなたは人間ではありませんね……。」
 ナオも突然現れた少年に戸惑いながらも彼の風貌や手先を見てそう発言した。
 よく見ると手先も足も人間の手のようではなく、どちらかというとネズミのようだった。
 『しろきち』というらしい少年は声をかけられて怯えたように肩をあげた。
 「は、はい!僕はハムスターです。ええ……たしか……そうだったかと。」
 しろきちは忘れっぽいのか唸りながら頷いた。
 「ハムスター?」
 ナオ達はその不思議な生き物を前に眉を寄せた。
 「そう。彼はハムスター。Kの使い。彼はずっと私のとなりにいたが、さっきまでジャンガリアンハムスターの姿だった。あなた達は気がついていなかった。突然、人間の姿になったからあなた達は驚いたという事。」
 セカイはしろきちの肩に飛び乗るとナオ達を見据え、謎を解くように語った。
 「な、なるほど……。いや、よくわからんが……。」
 栄次は困惑した声を出しながらしろきちを見つめた。
 「そもそもKの使いとはなんなのですか?人形だったりハムスターだったり……。」
 ナオの質問にセカイは無機質な瞳を向けると口を開いた。
 「……それは平和を願ったのが夢を見る少女達だったから。諦めずに願った少女達の祈りが私達を作った。私もKのうちの一人が所有している人形のひとつ。女の子が好きそうな世界媒介物が心をもらい、弐の世界でそれぞれの役割を果たしている。……後はしろきちに聞くといい。では。」
 セカイはほぼ一方的に話すとこちらが何か言う前に軽く頭を下げてそのまま消えていなくなった。
 「え?おい!突然かよ!」
 ムスビが跡形もなく消えたセカイにむなしくつっこみを入れたがセカイからの返事はなかった。
 「そ、それで?僕になんの用事でしょうか?」
 セカイが突然消えても反応も示さなかったしろきちが怯えながらナオ達に声をかけてきた。ハムスターという生き物は周りの事はどうでもいいという考えの持ち主である。
 「え……ええ、実はKの元へと連れて行ってほしいのです。」
 ナオは何度か息を飲みつつ、しろきちに要求を伝えた。
 「は、はい。こっちにいるKですね。い、いいですよ。」
 しろきちは何も考えていないようだった。きょとんとした顔でひとつ頷いた。
 「あなた達はKの使いなのですよね?」
 ナオはとりあえず、知っていることを増やそうと質問をしてみた。
 「……え?あ、はい。たしかそうだったと思います……。すみません。すぐに忘れてしまう性格ですので……。」
 しろきちは軽く頭をかくとすまなそうに肩を落とした。
 ナオはしろきちから情報が取れないだろうと踏み、会話をやめた。
 「わかりました。では、Kの元へと連れて行ってください。」
 「は、はい。それはわかりました。」
 しろきちは激しく頷き、ナオ達を見ていた。
 どうやって連れて行ってくれるのかとしろきちを気にしていた三神は知らぬ間に浮いていることに気がついた。
 「ん!?……う、浮いてる!?」
 最初に声を上げたのはムスビだった。
 「浮いてますね……。足が地面についておりません……。」
 「弐の世界の仕組みがよくわからんな……。」
 動揺しているムスビに戸惑っているナオと栄次。それをしろきちは不思議そうに眺めながらうんうんとまた頷いた。
 「あ、あの……僕達ハムスターは……えーと……人形さん達とは違って……その……現世の神々をまとめて運べるっていうんですか……その……そんな感じで……。」
 小さな声でしろきちがささやいた。その後、腕を振り上げてナオ達を自由に動かし始めた。
 「うわわっ!なんだか、魔法を使われているみたいだね……。」
 ムスビは青い顔のまま地についていない足を動かしている。
 「は、はい……。では行きましょうか……。」
 しろきちはおどおどと怯えながら空を飛び始めた。飛ぶと言っても空間を歩いているようなものだ。ナオ達は歩く歩かず関係なく強制的にしろきちの後をつけて進まされた。
 ゆっくりと上昇していき、知らぬ間に時神の世界を出ていた。
 また、ネガフィルムが沢山絡まったような空間に出たが今度は落ちずに魔法のように空間を浮いている状態だった。
 「Kの使いとは……魂に近い存在なのでしょうか……。」
 ナオが小さくつぶやいたがしろきちは聞こえていないようだった。
 「あ、もうすぐでKの世界につきそうです……。」
 しばらく浮遊しながらただ歩いていたナオ達はしろきちの発言で顔を引き締めた。
 「もう着くのですか?まだ出てそんなに時間が経っていませんが。」
 「えー……いつもはどこにあるかわかんないんですけど……今日は近くにありましたね。」
 ナオの言葉にしろきちは曖昧に答えた。
 「じゃ、行きましょうか。」
 しろきちがネガフィルムではなくてそこら辺の宇宙空間に手をかざした。
 刹那、ブラックホールのような宇宙空間よりもさらに暗い空間がわずかに現れた。
 身体が吸い込まれそうになる感覚がナオ達を包む。とても不気味な空間で入るのが躊躇われた。
 「な、なんかヤバめだけど……。」
 ムスビは完全に怯えていた。
 「うむ。入ってはいかんように思うな。不思議と。」
 栄次の顔色も悪かった。
 「では……入っ……」
 しろきちが最後まで言い終わる前にブラックホールからアヤとミノさんが飛び出してきた。
 「……っ!?え?」
 ナオとムスビが同時に声を上げたがアヤはこちらを見向きもしないでそのままネガフィルムへと落下していった。後から飛び出してきたミノさんはどこか必死の顔でアヤを見つめ、アヤに手を伸ばしつつ、落下していった。
 一瞬の事だった。
 「あ……アヤさんとミノさん!?」
 ナオはアヤ達が弐の世界へ入っただろう事は予想がついていたがKの世界であるブラックホールから突然出てくるとは思わなかった。
 「そうか……彼女もKに会おうとしていたのだったな。しかし、あの子の状態が……。」
 栄次はアヤの様子を見て眉を寄せた。
 それはナオも同じだった。
 ……アヤさんは……狂気的な笑みを浮かべていた……。
 「……とても正気ではなかったね……。」
 ムスビもアヤの一瞬の顔が異常だった事に気がついていた。
 「あ、……あれはまずいです……。……Kと接触して真実を知ったのは間違いないですが……。」
 しろきちがそわそわとアヤ達が消えていった下方を見据えた。
 「……Kと接触……アヤさんはどうやってKに会ったのですか?弐に一度いたらしい私ですらどうすればいいかわからなかったというのに……。」
 「ああ!お、思い出しました……。先程、僕が連れて行ったのでした……。」
「それくらい覚えてろよ……。」
 ポンと手を叩いたしろきちにムスビは呆れた声を上げた。
 しろきちは本当に忘れっぽいようだ。ナオ達の前にアヤ達をKの元へと運んだらしい。
 「あ、アヤさんは……大丈夫なのでしょうか?」
 「えーと……その……けっこうまずいです。あなた達の用事は後回しでもいいですか?」
 「かまいませんが……後でKの元へ連れて行ってくださいね。」
 ナオもアヤの事が気になったため、自分の事はとりあえず後回しにすることに決めた。
 

二話

 ナオ達はアヤとミノさんを追うしろきちに黙ってついていった。というよりも勝手について行かされた。
 弐の世界を自由に動けないナオ達はある意味仕方がない。
 しろきちがどう進んだかわからないが遠くの方で浮遊しながら戸惑っているミノさんを見つけた。
 ネガフィルムのような沢山の世界が帯状に連なっていたがしろきちはナオ達を連れて何の障害もなくミノさんの元へとたどり着いた。
 「あの……そこの……方……。」
 しろきちは怯えるようにミノさんにそっと声をかけた。
 「アヤが……アヤがどっかの世界に入り込んじまった!俺どうしよう!?」
 ミノさんは顔面蒼白でしろきちに掴みかかった。
 しろきちは「ひぃ!」と怯えた声を上げ、いそいそとナオの影に隠れる。
 ナオはしろきちにため息をつきながらミノさんを落ち着かせようと口を開いた。
 「あの……このしろきちさんがいればアヤさんが入り込んだ世界に行く事ができますよ。」
 「本当か!じゃあ、いますぐ行こう!おたくらも行くだろ?」
 ミノさんは必死な顔でナオ達に詰め寄った。ナオも若干顔を引きつらせながら何度もうなずいた。
 「ミノさんはアヤに惚れているな……あれは。」
 ムスビはミノさんに聞こえないように小さくほほ笑んだ後、顔を引き締めた。
 「しろきちさん、アヤさんが入り込んでしまった世界に行く事ができますね?」
 ナオはほぼ強制的な言動でしろきちに尋ねた。しろきちは頭を縦に振った。
 「は、はい……。行けますが……えーと……その彼女は自分の世界に入り込んで閉じこもっているようですよ……。」
 「閉じこもっている……世界に入る事はできるのですか?」
 ナオの質問にしろきちは顔を曇らせた。
 「む、難しいと思います……。あなた達があの方とどこまで親密なのかわからないので……え、えっと……親密ならばその方の心は抵抗なく入れてくれると思うのですが……。」
 「親密ではないと心には入れない……か。」
 しろきちの言葉にムスビは考えるようにつぶやいた。
 「そ、それは……そうですよ……。僕だっておいしいひまわりの種を沢山食べている夢に誰か介入してきたらビビりますし……。」
 しろきちは大きく頷いていた。
 「……俺は時神だが……それも関係ないのか?」
 栄次が頷いているしろきちを呆れた目で見つめながら尋ねた。
 「うーん……ま、とりあえず……行ってみます?」
 「飽きたのだな……。」
 しろきちは考える事が面倒くさくなったようだ。先程からそわそわしている。
 「まあ、行ってみないとわかりませんし……。」
 ナオは不安が残っていたがアヤの世界の前まで行ってみる事にした。
 一同はしろきちに連れられてアヤの世界を目指し進んだ。ネガフィルムのように流れる世界を何の抵抗もなくしろきちは進む。しかし、ゆっくり歩くように動いているのにどうやって進んでいるのかわからない。
 ナオ達はしろきちにすべてを託しつつ、緊張した面持ちでついていった。
 しばらく進んだしろきちはピタリと足を止めた。
 「この世界……です。」
 しろきちはネガフィルムの一部でなんの変哲もない世界を指差していた。
 「……見た感じは他の世界と区別つかないな……。あんたらは一体どこで判断してるの?」
 ムスビが再び顔色悪くしろきちに疑問をぶつけた。
 「……よくわかりませんが……わかるんです。」
 しろきちはまた曖昧に流し、首を傾げた。
 「それで……入れそうですか?」
 ナオはアヤの世界という部分を眺めながらしろきちに尋ねた。
 「……入れそうですが……な、なんか……どす黒い何かが……。」
 「?」
 しろきちの言葉にナオ達が今度は首を傾げた。
 「ぼ、僕は……ちょっと入らないでもいいですか?」
 「ええ!?あんたが入ってくれないと俺達どうなるの?」
 ムスビが必死にしろきちの肩を掴んだ。
 「うわあっ……!あ、あの……大丈夫……です。中にセカイがいる……みたいなので……。」
 「セカイ?」
 しろきちの発言でナオ達は眉をひそめた。
 先程まで一緒にいた手のひらサイズの人形の女の子を思い出した。
 「なんか嫌な予感がしますね……。」
 ナオは何かを考えるそぶりをするとやがて頷いた。
 「行きましょう。しろきちさんはまた呼んだときにいてくれればいいですから。」
 「ちょっ!ナオさん!」
 ナオの言葉にムスビが真っ先に反応した。そのムスビの肩を栄次がポンポンと叩きつつ、「ムスビ、いつもの事だろう……。」と半ばあきらめの言葉をかけていた。
 「じゃあ……ぼ、僕は待っていまーす!」
 しろきちはナオ達の背中を突然押し、アヤの世界に放り込むとさっさとどこかへ去って行った。
 「おーい!」
 ムスビの叫び声とナオと栄次のため息が同時に静かな世界に響いた。

 ハッと気がつくとナオ達は草原のど真ん中で倒れていた。柔らかな風が吹いているようだが風の音はない。青々とした緑が優しく揺れているが葉がこすれる音はしない。
 とても不思議な空間だった。
 「うっ……あの野郎……。」
 ムスビが呻きつつ体を起こした。
 「ムスビ、落ち着いてください。しかし、ここはなんだか不思議な感じですね……ここがアヤさんの世界なのでしょうか?不思議とアヤさんの心はもっと下にあるように思いますが……。」
 ナオも起き上がり、栄次も辺りを警戒しつつ起き上がった。
 「そういえば……あの狐耳がいないぞ。一緒にここに来たのではないのか?」
 栄次に問われナオとムスビは目を見開いて驚いた。
 「ほんとだ!いない!はぐれたのか?」
 「……ムスビ、落ち着いてください。おそらく一緒にこの世界に入ったと思います……。私達がいる場所とは違う……もっとアヤさんの心の深部に行けたのかもしれません……。彼だけはアヤさんにとって別の存在という事になるかも……しれません。勘ですが。……とりあえず今はそう思いましょう。」
 「な、なるほど……ま、まあ、後でしろきちに探させればいいのか……。」
 ナオ達が落ち着こうと息を深く吐いた時、近くで強い爆風が突然吹き荒れた。
 「え?」
 爆風が吹いたのと同時にアヤの世界は一変し、きれいな緑色をしていた草原はなぜか赤に染まり、風景も赤と黒のみの風景へと様変わりした。
 その真ん中にはこちらを睨んでいるアヤが立っており、アヤの後ろにはオレンジ色の髪の、ユニフォームのような服を着ている少年が、感情なく機械のように佇んでいた。
 無機質な目からは何も読み取れず、彼の辺りには電子数字が回っている。
 アヤはその少年を軽く横目で見ると、叫んだ。
 「もう嫌だわ!この世界を……弐の世界を壊してっ!」
 「……。」
 少年は頷くでもなく声を発するわけでもなかったがアヤの言葉に従っているようだった。
 すぐに動き出し、感情も表情もなく機械のようにあたりを破壊し始めた。
 少年が何もない空間を蹴るとアヤの世界がガラスのように割れていく。
 「なんだかまずい気がするんだけど……。あの男、誰だよ?」
 ムスビが壊されていく世界に怯えながらなぜか栄次の影に隠れた。
 「わからんが……時神のような雰囲気を纏っている。」 
 栄次は刀の柄に手を置いたまま少年をじっと見ていた。
 「時神……ですか?では……未来神でしょうか?」
 「……いや。未来神、湯瀬プラズマは赤目赤髪の身長の高い男だ。あの少年は標準身長の俺よりも低い。」
 ナオの言葉を栄次は即座に否定した。
 「では……あの子は……。」
 ナオが無機質な顔の少年に目を向けた刹那、突風が吹き荒れて少年は横にふっ飛ばされた。
 「……邪魔しないでよ……。Kの使いセカイ!」
 アヤが憎しみを込めた目で目の前を睨みつけた。目線はやや下。草の中だ。
 草がかさかさと揺れ手のひらサイズの人形、セカイが飛び上がった。セカイは手に爪楊枝を持っていた。セカイはそのままふわりと浮いた状態で爪楊枝を静かに構えた。
 「落ち着きなさい。時神現代神。私はトケイを破壊せざる得なくなる。」
 セカイはちらっと倒れている少年に目を向けた。
 「あなた達Kがいけないのよ!それなのに……こんなんじゃ……私はあなた達を恨めないじゃない!」
 アヤは頭を抱えて苦しそうに叫んだ。その声に反応し、少年……トケイが再び動き出し、破壊活動を始めた。
 「それではトケイも時神現代神も破壊せざる得なくなる。あなたはシステムエラーが出てしまっている……システムの改変をしないといけない。」
 セカイは静かに言い放つとトケイをあしらいながらアヤへ攻撃を始めた。
 時神現代神でもアヤは普通の女の子と変わらない。セカイの攻撃が避けられない。
 わき腹を狙った攻撃がアヤを襲う。
 「……やめろ。」
 アヤが身を引いた刹那、攻撃を刀で栄次が防いでいた。
 小さな普通の爪楊枝であるのに鉄のように重く、だいの男である栄次が刀で防ぐので精一杯だった。小さな人形であるはずのセカイは剣術の達人である栄次に負ける事はなく、大きく振りぬき栄次を退けると少し遠くに華麗に着地した。
 「すごい力だ……。俺が力負けするとはな……。そんな攻撃を彼女にしたらケガじゃすまないぞ……。」
 栄次は脂汗をかきながらセカイを睨みつけた。
 セカイは表情なく首を横に傾げた。
 「あなたが入って来る前までは力を極限まで抑えていた。軽く気絶させるつもりだったがあなたが入ってきたことにより、私がせり合って負ける可能性があったため、少し力を入れた。」
 セカイは静かに無表情で言い放った。
 「瞬時にそこまで考えたと言うのか……。人形はわからんな。」
 「人形は感情を表す鏡。私は感情ある者の心がすべてわかる。元々人形は人の感情を移しやすくするために無表情でいる事が多い。人が悲しんでいる時には私達の顔は一緒に悲しんでいるように見える……という事。」
 セカイは栄次が発した「人形はわからんな」に答えたようだった。
 栄次はセカイの言葉に一つため息をつくと後ろにいるアヤに目を向けた。
 アヤは目を見開いたまま、こちらをじっと見つめていた。
 よく見ると足が震えている。
 「……アヤ、その破壊衝動は半分が嘘だな?」
 栄次はアヤの心を見透かし静かに尋ねた。
 アヤは震える足で一歩、二歩と栄次から遠ざかる。
 「アヤ……。」
 栄次が切なげな目で何か言おうとした刹那、アヤの頭上から勢いよくトケイが飛び込んできた。どうやらこのトケイという少年はアヤの心に反応をしているようだ。
 今のアヤの心は拒絶だった。
 トケイは今度、栄次を攻撃しはじめた。
 

三話

 
トケイは乱暴に拳や蹴りを栄次にぶつける。栄次は刀を構えたまま、反射的に避け始めた。目で追えないほどの速さの攻撃に栄次は反射的に避けるしかなかった。
 トケイは電子数字を纏わせながら太ももについていたウィングで空を飛行し栄次に攻撃を仕掛けている。栄次は反撃はせずにただひたすら避けた。
 そんな様子を遠くでナオとムスビは見ていた。
 「栄次のやつ、あんなのと渡り合えるのかよ。」
 ムスビがナオを若干庇いながら小さくつぶやいた。
 「……彼は武神ではないはずですが……いままでの戦の経験が彼の反射能力を高めたようですね……。戦……。」
 ナオは何か引っかかるのかそこから口を閉ざした。
 「どうしたの?ナオさん。」
 「……。そういえば……栄次とアヤさんの歴史を覗いたことがありません……。彼らは時神ですからもしかすると隠された歴史を持っているかもしれません。」
 ナオは反射的に顔を歪めた。理由はわからない。
 奥底で消去されたはずの記憶が関係するのかもしれない。
 「一度見て……」
 「その必要はない。」
 ナオが茫然と立つアヤに目を向けていた時、ふと足元からセカイの声が聞こえた。
 「セカイさん?」
 「あなたはわかっていない。知らないとならない真実と知らない方がいい真実。あなたは今のままでいい。知らない真実は知らないままがあなたのため。必ずしも知っていた方がいいわけではない。」
 セカイはナオを諭すように無機質に告げた。しかし、ナオがそれで納得するわけがなかった。
 「それでも私は真実を知りたいのです。それはあなたにとやかく言われる筋合いはないですよ。」
 ナオはセカイの言葉を半ば無視し、手から素早く時神の巻物を取り出した。
 「……私は……あなたが壊れない事を願っている……。」
 セカイは忠告だけはしたが止めようとはしなかった。止める権限はないと言っているようだった。

 ナオは言われもない嫌悪感をいだきつつ時神の歴史が記されている巻物を手から出現させた。
 「ナオさん……顔色が悪いぞ。止めた方が……。」
 「問題ありません。真実は絶対に表に出ないといけないのですよ。」
 ムスビの制止も振り切りナオは巻物をトケイと戦っている栄次に向かって投げた。
 いつものように目の前が真っ白に染まった。
 気がつくとナオは荒野のど真ん中に立っていた。辺りの草は焼け焦げ木造の民家の燃えかすがあちらこちらに落ちている。戦が起こったのか、大規模な火事が起こったのかはわからないがここは日本であるという事だけはわかった。近くではモンペを来た幼女がうずくまって泣いている。
 「お母ちゃん……お母ちゃん!」
 幼女は泣きながら黒いものに話しかけていた。その黒いものが人間であったことはナオにはすぐにわかった。思わず目をそらしてしまった。しかし、映像は頭の中に入り込んで来る。
 「あ、あれは私だね。」
 ふとナオの後ろから落ち着いた女の子の声が聞こえた。ナオが驚いて振り返ると目の前にツインテールでモンペ姿の幼女が立っていた。
 この女の子は映像の女の子と同じ女の子のようだが映像ではないようだ。
 「あなた……どうやってこの映像に入り込んだのですか?」
 ナオは不気味に思いつつ、尋ねた。女の子はさばさばとした声で軽く笑うと
 「私は平和を願ったKの内の一人だよ。もうデータだもん。入るのは容易いさ。」
 と言い放った。
 「K!?」
 「……の内の一人ね。」
 「これは一体何の記憶なのですか?」
 ナオは動揺を見せたが冷静に尋ねようと息を深く吐いた。
 「私達、Kの一部の記憶だよ。あんたが以前会ったKの記憶さ。」
 「……?」
 少女の言葉にナオが首を傾げていると映像ががらりと変わった。
 今度は同じツインテールの少女だが目の前に立っている少女とは違う少女だった。場所は曖昧でよくわからない。
 少女は
 「世界が平和に動きますように……。」
 と祈っているようだった。
 「ああ、あの子はその内また会えると思うよ。」
 先程のモンペ姿の少女が無邪気に笑い、ナオにそう伝えた。
 「……私と以前会っている……ですか……。」
 ナオは茫然と動いていく映像を見ていた。
 映像が次に切り替わった。
 今度はナオが目の前にいた。場所は白くてよくわからない。ただ、記憶内のナオの前にはこばるとがいた。
 「……こばると……さん?元時神現代神……。」
 ナオが首を傾げているとすぐに記憶内に栄次が現れた。突然現れたのでナオは記憶内であることを忘れ叫んでしまった。
 「栄次!どうしてここに……。」
 「歴史神さん、ここは歴史の中だよ?さっき、あんたが巻物開いたじゃないか。」
 モンペ姿の少女に言われ、ナオは我に返り心を落ち着かせた。
 「私……栄次に以前会っているのですか?」
 「そうだよ。」
 ナオの不安げな顔を見つつ、Kの少女はにこりと笑って頷いた。
 歴史内の栄次はナオに深刻そうに話しかけていた。
 「本当にいいのか?辛い選択だぞ。」
 栄次は歴史内のナオにそう言っているようだ。
 「仕方がありません。時神現代神は今を生きているアヤさんがふさわしいです。世界を改変するにあたってはこばるとさんでは不十分です。こばるとさんは以前から存在しており、戦争を体験しています。戦争は過去の事です。未来を作るには戦争の歴史は時神過去神であるあなたが請け負うのが正しい。あなたが忘れてはいけない記憶として存在しているかぎり人々は悲惨な戦争はもうしないでしょう。」
 歴史内のナオは静かにそう言い放っていた。
 「それではそのこばるととやらは使い捨てか。」
 「……使い捨てにはしたくはありませんが……こればかりは仕方ありません。今現在、アヤという名前になっているあの少女は『時神のバックアップとして存在していることを知らず』に人間として古くから転生を続けている方ですから世界改変時に時神現代神になるのは一番今の現代に近づくのではないでしょうか。深い事は言いませんが……私が時神の歴史を少しいじりますからあなた達はその通りに動いていただければそれでよいです。」
 ナオの言葉に栄次は沈んだ顔をしていた。いままで時神として生きていたこばるとに残酷な言葉をかけてやらなければならないのは栄次としてもとても辛かったようだ。
 「具体的には……?」
 「時神に転生システムを設けます。あなた達にそれを信じて疑わなくなる記憶を植え付けます。時神は昔から神力の強い時神が現れると元いた時神は衰退し消滅する……。こばるとさんは力の強いアヤさんに負けて力を失う衰退の一途をたどる。そしてバックアップとして生きていた個体……アヤさんを時神現代神として迎え入れる。いままで彼女は転生を繰り返していますから過去の記憶を何も持っていません。性格もバラバラです。転生しているため名前も育ちも時代ごとに彼女は違いますから今の現実にも溶け込みやすいでしょう。記憶がないのをうまく利用するのです。」
 ナオの説明に栄次はさらに顔を曇らせた。
 「……お前には……心がないのか……。」
 栄次は静かにつぶやいた。
 「心……とは?心はあります。」
 「違う……。こんな計画はこばるとを追い詰める。俺は協力したくない。アヤもかわいそうだ。」
 「……どちらにしろ……世界改変で私達は記憶もなく新規に再建されるのですから結局のところ良いではありませんか。」
 「……っ!」
 ナオの発言に栄次は怒りをあらわにしたが何もしなかった。
 ……どうせ世界は改変され私達は記憶を失うのだから……私が恨まれることはない。
 映像のナオの心の声がナオの耳に届いた。ナオは震えていた。
 自分が以前、こんな考えを持って動いていたのかとまるで自分ではないように感じた。
 ……恨まれることはない……。
 ナオは以前の自分が考えていた言葉を反芻した。
 「確かに恨まれることはないね。だけどさ、あ、その後の記憶は見るの?」
 ふとモンペ姿の少女が声をかけてきた。ナオはハッと我に返ると怯えた表情で少女を見た。
 「恨まれることはないけどあんたがしたことは残る。ここまででやめるのがいいと思うけどね。」
 モンペ少女は先程のセカイ同様に選択肢を与えてきた。
 ……恨まれることはないけどあんたがしたことは残る……。
 ナオは少女の言葉も反芻した。茫然としており、何も頭に入ってこない。
 自分の奥底で知らない自分がいる事に気がついた。その自分は紛れもなく自分であり、自分のした残酷な行いを否定したがっていた。
 「あんたが時神にシステムを与えた張本人だよ。陸(ろく)の世界ではまあ、なんとなくまとまったけど壱(いち)の世界ではそうはいかなかった。見る?壱(いち)の世界のあんたもまったく同じことをしたんだけどね。向こうのあんたは何も知らずに普通に存在しているよ。こちらの世界のあんたは過去を知ろうとしてしまったからここにいるけどね。」
 モンペ少女は自失しているナオに静かに尋ねた。
 ナオは震える体を抑えながら首を横に振った。
 「見なくていいの?」
 少女に問われたがナオは首を横に振る以外にできなかった。
 なんとなく壱の世界の時神達がどうなったのかはわかっていた。こばるとが存在を残すために大きな禁忌を犯し、栄次と未来神プラズマを巻き込み人間達の歴史の改変をしてしまい、そして……ナオが世界改変と同時に作った偽りの歴史によりこばるとはロスト・クロッカーとして処理された。アヤがこばるとをやむを得なく殺し、その後、酷く傷つき時神のシステムを呪った。
 「……全部……私のせい……。」
 「そう気に病むことはないよ。以前のあんたの事だし、もう終わった事は仕方ないし。他に何か選択があったのかって言ったらキリがないしね。」
 モンペ少女は先程からナオの行いについて肯定も否定もしていない。客観的にすべてを見ているような気がした。
 「でも時神現代神の交代とそれのための偽の歴史は良い選択だったとは思えません。私はどうせ記憶を失うから何をしてもいいと考えていたようです……。私は……。」
 「だから知らない方が良かったんじゃないのって言ったんだけどね。」
 「私はそれからどうなったのですか……。」
 ナオはその場に崩れ落ち、頭を抱えながら少女に尋ねた。
 「見たいんだね……。いいよ。」
 モンペ少女はうなだれているナオの頭に手を置くと暦結神(こよみむすびかみ)の巻物を取り出した。
 「……それは……ムスビの……。」
 「そう。これですべて見れるよ。」
 少女は優しくほほ笑むと巻物を宙に放った。
 また目の前が白く染まった。

四話

 ナオとムスビは恋仲だった。
 ナオはすべてを思い出した……。
 世界改変前……ナオとムスビは公園のベンチに手を繋いで座っていた。
 「世界改変しても俺達は重大な記憶は失うけど後は普通みたいだよ。ナオさんの事も忘れないってさ。」
 ムスビはナオの肩に手を回してほほ笑んだ。
 「そうですね。これでよりよい世界が来るでしょう。平和で我々神々が人々を守り、自然は守られて笑顔の絶えない世界が来ます。私ができる事はしておきました。後はこれからの世界を人々と神々が努力しあえば良いと思います。」
 「なるほどね。ナオさんも大変だなあ。」
 ムスビはクスクスと楽しそうに笑っていた。
 そんなムスビを見つめながらナオは幸せな気分に浸っていた。
 ……私はこの世界がよりよくなるためにいいことをしたのです。あの事は良くするために仕方がなかったのです。改変ならば現代神は適応できる者に変える必要があったのです。
 私に罪はない。
 「ムスビ、私はこれから弐の世界に行きます。これは私だけの秘密の任務なのであなたには教えられませんがすぐに戻ってきますから……。」
 「うん。待っているよ。」
 ナオはほほ笑むとムスビに軽くキスをし、立ち上がった。
 ナオはこの時、Kの使い達から神々の歴史の消去を頼まれていた。世界改変に伴い、沢山いるKの内のあるKの世界に来るように言われた。
 ナオはKの使いに連れられて弐の世界内のKの世界へと入った。
 Kの世界は何もない真っ白な空間だった。その中に沢山のKの少女がいた。
 Kの少女達の中の一人、水色のワンピースに身を包んだツインテールの内気な少女がナオに小さく一言言った。
 「……あなたのシステムが作動しはじめました。歴史を結んでいた暦結神は一旦、消滅します。」
 「え……?と、突然なんなのですか?」
 少女の言葉にナオは目を見開いた。
 「消滅ってどういう事ですか?ムスビがどうして?」
 ナオは半分冗談だと思い、苦笑いをしていた。
 「あなたが時神の歴史改変をしたからです。暦結神は神々の歴史を結んでいる神です。あなたが改変した偽の歴史により暦結神は存在が危うくなっております。データにエラーが出てしまったようです。でも大丈夫です。彼は改変後、新しく生まれ変わります。」
 ナオには少女の言葉がほとんど聞こえてこなかった。
 ……新しく……生まれ変わる?
 そうしたら私の事は忘れてしまうのですか……?
 少女が冗談で言ったわけではないと知るとナオの顔がさっと青くなった。
 「残念ですがあなたの事はきれいさっぱりなくなるでしょう。」
 「そんな……なんとかならないのですか?」
 ナオは必死に少女に詰め寄った。しかし、少女は首を横に振ったままだった。
 「……そうですか……。私が時神を改変してしまったからムスビが……消えてしまう……のですか……。私は取り返しのつかない事をしてしまったのですね……。」
 ナオはなんとも言えない顔で下を向いた。
 「あなたの判断です。私達は否定しません。肯定もしません。」
 少女はまっすぐにナオを見つめていた。
 ……ムスビが消えてしまう……私を忘れてしまう……でも……私はすべてを覚えている……。世界改変部分だけ記憶が消去される……。ムスビは違う神に生まれ変わってしまうかもしれない……。
 ナオは動揺していた。
 動揺していたが故にナオは責任逃れとすべてを忘れてしまいたいと願った。
 「……では世界改変を始めましょう。三貴神を呼びます。」
 少女は静かに辺りを見回してそう言った。
 「ま、待ってください!」
 少女が話を先に進めようとした刹那、ナオが慌てて声を上げた。
 「……どうしましたか?」
 「ムスビが私を忘れてしまうなんて悲しすぎます。その事象を私が覚えているなんてもっとつらいです。……私もすべて忘れます。なかったことにしたいです!」
 ナオはすべての忘却を望んだ。それに少女は特に否定も肯定もしなかったがナオの意見をすぐに受け入れた。
 「わかりました。ではご自分で消去なされてください。」
 ただ一言だけそう言った。
 そこから先の歴史は曖昧で映像も鮮明ではなかった。三貴神のような影が映り、何か言葉を交わしているナオの姿……。剣王やワイズも現れ、ナオと短く言葉を交わしていく。
 その後、映像は大きく歪み、徐々に暗くなり見えなくなった。そして先程の白い空間に戻り、モンペ姿の少女の影がゆらりと現れた。空間は元の空間に戻ったようだがアヤ達がいないところを見るとまた別なのかもしれない。
以前のナオはここで歴史を消去したようだ。その後、ナオは自室の布団の上で目覚め、何か変な夢を見たとぼんやりと流し、ムスビの事も忘れ、いつもの一日をスタートさせたのだった。
その日はなぜか見知らぬ男が隣の布団で眠っていてとても驚いた。彼もとても驚いていた。彼は果たす役割と名前以外何も覚えていなかった。
ナオはたった今生まれたばかりの神だと思い、助ける面で歴史書店に住まわせたのだ。
当時は不思議な事もあるものだと思っただけだった。人に願われれば神は誕生する。彼はたまたまナオの自室に誕生してしまっただけだと。
しかし、それはこの記憶を見ると納得する。彼、暦結神ムスビはナオと恋仲であり、いままで一緒に暮らしていた。隣に眠っているのは当然の事で彼は全く見ず知らずの神ではなかったのだ。愛していたナオの大切な男神だったのだ。
 ……ムスビは私の……大切な想い神だった……。私はもう……ムスビを想っていた気持ちはない……。愛していた……大好きだったはず……なのに……。
 ……知らない方がいい記憶……。
 今を生きる方のナオは先程Kの少女から言われた事を思いだした。
 皮肉だと思った。自分は思い出そうと……記憶を消されるのはおかしいのではないかと歴史の改変は異常なのではないかとそう思っていたのに以前の自分がそれを望んでいたのだ。
 すべて自分が招いたことですべて自分が納得いくようにしてきて、さらに不満があるというのか。
 ナオはなんだか恥ずかしくもあり、悲しくもなった。
 ……私はいつも突発的だ。
 突発的で愚かだ。
 結局、責任逃れがしたかったのと思い通りにいかなかったからすべてを忘れて逃げただけ。
 ……こんな歴史……知らなければ良かった……。
 ナオは勝手にあふれてくる涙を止めることができなかった。
 これは改変前のナオの感情なのか自分でもよくわからない。今の自分は何も知らない。
 しかし、いくら消去したとしても奥底に残っていた感情だけは消せなかった。
 よくわからない嫌悪感と後悔。
 おそらく以前のナオが持っていた感情なのだろう。
 茫然としていた時、ふとある考えが浮かんだ。
 ……そういえば……Kは私達にやらせてなんの責任も負っていない……。
 肯定も否定もしないなんて無責任ではないか……。
 そう考えるとなんだかKに腹が立ってきた。
 「これはKにも責任があります。私達にすべて押し付けて自分達は高みの見物ですか?」
 ナオはモンペ姿の方のKの少女を睨みつけ吐き捨てるように言い放った。Kの少女は首を傾げた後、そっと目を伏せ、口を開いた。
 「……まあ、私達に罪はないわけはないと思うけど後悔もしないし、良かったとも思わない。世界が平和ならばそれでいい。私達は平和を願った少女達の心からできた存在だから、平和を願う気持ちしかない。あんた達神々を創ったのは私達も含めてだけど人間であり自然。神々は世界各地で感情のある生物に願われることで生まれる。オスとメスが性交をして子が生まれるように神々はそういう自然的システムで繁栄をしている。世界改変は神々全般が種の存続のために伍の世界と切り離した結果だ。神々は願うものがいないと消滅してしまうからね。そんなシステムを知らない元私達が平和だけを願った。それに神々が乗ってきたんだ。」
 「だから神が悪いって言うのですか?」
 ナオはモンペ姿の少女を睨みつけながら冷たい声で言った。
 「誰が悪いじゃないよ。神々は神々で意見を出し合って世界改変を決めたんだろうし私達は私達で一人の人間として平和を願っただけ。皆、よりよいと思った方向に一生懸命考えた結果だ。悪いとはどういう事なのだろう?」
 Kの少女は本当に何も思っていないようだ。人間や自然、神々によって創られていく世界をただ眺めているだけであった。
 「あなた達は選択をしない!傍観しているだけなんて無責任すぎるのです!」
 「……じゃあ、あんたは私達Kが悪いって思っているんだね?」
 Kの少女は静かに言い放った。ナオとは違いKの少女はとても落ち着いていた。
 「そっ……そんなことは言っていません!」
 「じゃあ、あんたは何が言いたいのかな?私にはわからない。私達Kは私達で少女達の祈りが消えないようこの世界に繋ぎとめていく任を担っている。私達は私達で責任のある仕事をしているよ。突発的に動いてうまくいかなかったから世界改変時に自分の都合ですべてを消したあんたの方が無責任な気がするんだけど。」
 冷静な少女の声音にナオは詰まった。
 そっちがいい、あっちがいいと自分が良いと思った方向に動かしておいてその責任を負っていないのは自分で……無責任……。Kは間違っていない。
Kの少女は世界改変後の責任をしっかりと負っている。そしてトラブルの処理もしている。だから彼女達は妬みや恨みで来るものを拒んでいない。
彼女達が肯定も否定もしなかったのは神々が行っていることに口を出さなかっただけだ。意見をしない……それも選択の一つなのだ。
……そうか……。
ナオは暴れていたアヤを思い出し、涙を拭った。
……アヤさんはこの世界を恨んでいましたが……真実を知って恨む者がいない事に気がついてしまった……Kを恨むのもお門違いであることに気がついてしまった……。
……だからぶつけるところがなくて世界を壊そうと暴れているのですね……。
「私の……せいで……。」
「必ずしもあんたのせいじゃない。神々は感情を持っているし責任感もある。あの壊れてしまった時神は自らの意思で私達Kを恨み、世界を破壊している。だからあんたのせいだけじゃない。」
Kの少女は崩れ落ちそうなナオの肩をそっと叩いた。
「……どうしたらいいと思いますか?」
ナオはKの少女に助けを求めるように尋ねた。Kの少女は厳しい顔つきになると鋭い声で言った。
「バックアップシステムが時神には備わっているからそれを使って状態を以前に巻き戻そうかと思っているよ。」
「そうしたらアヤさんが持っている大切な今の感情がなくなってしまいます。ミノさんを想う気持ちとか行き場のない怒りの感情とか……。」
ナオはKの少女の肩を乱暴に掴んだ。
「でもそうしないと彼女のシステムを正常化できない。」
Kの少女は首を傾げてナオを見ていた。そうする事にためらいもないらしい。
「……私は……また突発的に動いてしまうかもしれませんが……アヤさんの心を変えて見せます。私と同じ道には進ませません。私が起こした責任は私が負います。なかったことにすることが必ずしも正しいとはかぎりません。」
瞳に光が宿ったナオは拳を握りしめ前を向いた。
刹那、空間が歪み、モンペ姿の少女は消え去った。

五話


気がつくとナオは元の場所に戻っていた。
「……ナオさん!」
ふと隣でムスビの声が上がった。ナオはビクッと体を震わせると声が聞こえた方を向いた。
すぐ目の前に心配そうにこちらを見ているムスビが映った。
「む、ムスビ!」
ナオは咄嗟にムスビに抱き着いた。ムスビはなんだかわからずにただ戸惑っていた。
「うひゃあ!ナオさん、どうしたの?ていうか、どこ行ってたんだよ!突然目の前から消えちまってさ……。」
ムスビの話からするとナオは記憶を見るにあたって別の場所へ移動したようだった。
「私はこの場で歴史を見ていたのではなかったのですか?」
「いや、巻物云々の時に突然消えたんだよ!」
「そうですか……。ムスビが無事でよかったです。」
ナオの発言にムスビは困惑した顔を向けていた。
「いや、俺じゃなくてナオさんのが無事で良かったよ。突然消えるし……。なんか雰囲気が変だけど歴史で何かあったの?」
ムスビが訝しげにナオに尋ねた。ナオは何も言えなかった。
「……ま、まあ、それなりにまだわからない事も沢山ありますが……ある程度はわかりましたよ。それよりもアヤさんです。」
ナオは話を大きく変えて未だ暴れているアヤに目を向けた。アヤは頭を押さえながら世界を拒絶し、トケイはそれに応じて暴れ、栄次を傷つけている。
先程と何も変わっていない状況の中、人形であるセカイはナオのすぐ足元で無表情のままナオの様子を窺っていた。
「あなたは新しい策を思いついたのか?あなたの心は前方に向かっている。」
セカイは魔女帽子をはためかせながらナオを見上げた。
「あなた達のためではありませんがアヤさんは放っておけません。私のように……愛する方の歴史を消去してしまうようなことにはならないようにするのです。……それからアヤさんを戻すときに一つ、お願いがあります。」
ナオはセカイを見据えた。
「何?私ができる範囲ならばどうぞ。」
「私にはまだわからない事があります。神々の存続のため、感情ある生き物を守るため、平和を願った少女達のために世界改変をしたことはわかりました。なぜ、記憶を消去しなければならなかったのか……それを教えていただきたいです。」
「私達とは別に世界のシステムが世界改変への条件を提示してきた。それだけ。そのデータにはつじつま合わせをし、世界が壊れない方法で改変をするために改変時の歴史を消去する必要があるということだった。この改変以前に世界が行った改変はずっと昔、この地球に人間という生き物が現れたとき。世界は改変を行い、存在している動物達とは全く違う生き物、人間を世界になじませた。人間のDNAを『存在している動物達』に合わせ、地球に住まわせた。人間が想像することで私達人形も神も裏で種の繁栄ができた。私達がこの世界の中にいる限り、世界を変えるのならば世界内のデータを知る事だ。データに沿って行ったため、ここまで自然に世界が回るようになった。」
「世界は目に見えないデータという事ですか?」
ナオは栄次達の戦闘の音を聞きながら心を落ち着かせてセカイに尋ねた。
すぐに栄次を助けに行きたいが今は冷静に知りたい情報を手に入れるのが先だ。
「あなたの気持ちはよくわかる。だが今は時神アヤさんをあなたの方法で抑えてほしい。後は直接Kの元へと案内しよう。世界のシステムの名は私達日本出身者の言葉だとアマノミナヌシノ神。日本の神話だと人間はこの神を『宇宙を創った根源神』だと言っている。他の国ではまた名前が違う……このデータは実態がなく、世界各国の人々は自由に想像している。後はKが直接お話しするだろう。」
セカイは包み隠さず語った。
「Kに会えるのですね?」
「Kがあなたを呼んでいる。この件が解決したら案内する。」
ナオはセカイの言葉に深く頷くとアヤを元に戻す方向へ考えを持って行った。
……ここまで来てしまったら私が以前消した過去だけではなく……すべての過去を知りましょう。
……そしてアヤさんに私がしてしまった事をしっかり話しましょう。
「ナオさん……どうするつもりなんだい?」
ムスビの不安げな声がしたがナオは深呼吸をし、そのまま答えずに歩き出した。


 ナオはまっすぐにアヤを見据えてアヤの元へ歩いた。それに気がついたトケイは攻撃対象を栄次からナオへと変えた。栄次はいち早くそれに気がつき、刀を構えたままナオの元へと走った。
 栄次はトケイの攻撃がナオに届く前に刀でトケイのウィングを弾いた。
 「栄次……ありがとうございます。私のためにここまで……。」
 ナオは言葉を詰まらせた。
 「一体どうした?先程と雰囲気が違うではないか。」
 栄次にそう問われてもナオは答えなかった。
 答えてはいけないと思った。これは間違いなく知らない方がいい歴史だ。
 ナオと栄次の関係を保つためにあえて改変以前の歴史は伝えない方がいい。
 戸惑うだけだ。ナオは何でも知ればいいわけではない事を先程の記憶で思い知らされた。
 「なんでもないのです。それよりもアヤさんの所へ行きたいのです。アヤさんには伝えなければならない事があります……。」
 ナオは今にも泣きそうな顔で栄次を見ていた。
 「それは……本当にアヤに伝えなければならない事……なのか?」
 栄次の言葉にナオは驚いた。栄次は記憶を失っているはずだ。何かを過去見で見たのか直感でそう尋ねたのかはわからないがナオはとても戸惑った。
 「え、ええ……つ、伝えなければならないと思います……。」
 「お前の伝えなければならぬことは……おそらく……アヤに恨まれる事……なのではないか?お前が恨まれることでアヤが助かるような……そういう事なのではないか?一度言ったら取り返しがつかない……よく考えなくていいのか?」
 栄次はどこか雰囲気が違った。記憶を見たナオに感化され改変以前の栄次の感情が一部戻ってきてしまったのか……。
 「う……うう……。」
 ナオは知らぬ間に涙をこぼしていた。
 自分は以前の自分をまるで覚えていない。だが時神のシステムを独断で動かしてしまったのは事実だ。
 覚えていないが胸にくすぶる後悔に気丈に振る舞っていたナオはついに耐えられなかった。
 ……わからない!私は知らない!知らないのに……。
 「……アヤさん!」
 ナオは嗚咽を漏らしながらアヤに向かって叫んだ。
 アヤが顔を上げ、ナオを見つめた。アヤの心に反応してかトケイの動きもピタリと止まった。

六話

 「私が以前あなたの事を考えずにただ目的と存続のためにこばるとさんを太陽神にする発言をしました。この件も非常に軽率な判断でした……。」
 ナオはアヤと初めて会った時の事を思い出しながら涙ながらに言葉を発した。
 「……あなたはこばると君を救ってくれたんじゃないの。完全に消えてしまう所を救ってくれたんじゃないの。悪いのは時神の仕組みよ。……でも変える事はできないの!Kは話はできるけどただのシステムだった……。その上にいる者は存在すらなかった!世界はただの数字の塊だったのよ……。それを見て……もうどうでもよくなっちゃったの。この世界を全部壊して再起不能にしてやれば私も消えるし、皆消える。世界はなくなるんじゃないかしら?そうすれば恨む恨まないとか感情とかそういうのが全部なくなるでしょ。世界なんて存在しなければいいのよ。」
 アヤは本心かどうかわからないが吐き捨てるように言い放った。
 「アヤさん……き、聞いてください!と……時神の……システムを変えたのは……。」
 ナオは自身の声が異様に小さいことに気がついた。真実を伝える事がこんなにもつらい事であったなんてナオは気がつきもしなかった。
 ……自分だ……。
 その言葉が鉛のように重く、最後は声にならなかった。
 「アヤさん……ひっ……時神のシステムを変えたのは……うう……。」
 ナオは泣きじゃくりながら必死に言葉を紡ごうとするが最後の言葉だけが言えない。
 ……自分……だ……。
 言わなければ……。
 「あっ……アヤさん……時神のっ……システムを……かっ……変えたのは……」
 ナオがもう一度、嗚咽交じりに口を開いた時、栄次がせつなげな表情でこちらを見ていた。
 「もう言わなくていい。それはアヤの気持ちとは関係ない歴史だ。それを言ったとてアヤの気持ちが晴れるわけではないだろう。」
 「……栄次っ……やはりあなたは……。」
 ナオは涙で濡れた瞳で栄次を仰いだ。栄次の瞳はまっすぐにナオを射抜いていた。
 「ある程度はわかった。過去見で見えてしまった。……お前だけのせいではない。俺も黙認したようだからな。」
 栄次は遠くを見るような目でナオの瞳の中を見据えていた。
 「やはり……そうでしたか……。」
 ナオがうなだれた時、ナオの後ろから突然腕が入ってきた。
 「ナオさん……。泣かないで……。俺はよくわかんないんだけど……ナオさんが泣いていると胸が締め付けられるんだ。」
 背後からムスビがナオを抱きしめていた。声を震わせ、不安げにムスビはナオに体を寄せた。
 「ムスビ……。」
 ムスビはナオの肩に手を置いていた。ナオはその手の上に自分の手を重ねた。
 「俺にはなんにも見えなかったけど……俺はナオさんに泣いてほしくないんだ。」
 「……ありがとうございます。ムスビ。もう……大丈夫です。」
 ナオはムスビのやさしさに触れ、アヤが想いを寄せているだろうミノさんの事を考えた。
 「ナオさん?」
 ナオはムスビの手をそっと肩からはずした。
 ……私は以前のムスビとの感情を何一つ覚えていませんが……アヤさんのミノさんを想う気持ちはまだ失っていません……。
 「アヤさん!ミノさんはどうでもよいのですか?」
 ナオは想いを込めながらアヤに尋ねた。アヤはぴくんと体を震わせて止まった。
 「……っ。」
 「どうでもいいわけがないですよね?あなたはミノさんの事が……。」
 ナオがそこまで言った時、アヤの顔が真っ赤に染まった。先程からトケイは糸が切れたように止まっていた。
 「あなたにっ……そんな事……関係ないでしょ……。」
 アヤは戸惑いながらナオに目を向けた。
 「関係あります!あなたがこのまま世界を壊してしまいましたら……あなたは後に後悔するでしょう。人に近いあなたがこんな気持ちに耐えられるはずがないのです!神である私ですらこんなもの悲しい気持ちになるのですから!この気持ち……相手を想う気持ちは大切です。神々の信仰心もこの感情で主にできているようなものではないですか!あなたはこの尊い感情を失くしてはいけないのです!恥ずべき感情でもない!」
 ナオは感情的に泣きながら叫んだ。涙は止まる事はなかった。おそらくもう知らない昔のナオの形のない感情が溢れてきているのだろう。
 「うう……。でも……私は……。」
 アヤはナオの言葉に戸惑い、目に涙を浮かべた。
 「ミノさんをよく思い出しておそらくあなたの心の奥底にいるであろう彼に会いに行きなさい。ひとりと全体……世界はつながりがあるようでありません。個神は個神なのですよ!世界の事など関係ありません。それぞれの個体が集まって世界ができるのです。あなたはあなたを大切に想っている者達を守りなさい。それが今の世界を変える手助けになるのだと思いなさい。世界を壊すのはそんなに簡単な事ではありません。他の者達もそれぞれ想いを持っています。今の世界を楽しく生きている者もいます。あなたがその者達をすべて説得したのであれば世界を壊してもよいでしょう。しかし、あなたの感情だけで動くのは色々とお門違いです。わかりますか?」
 世界を変える力を持つ歴史神ナオの……世界を変えてしまった歴史神ナオの悲痛の叫びをアヤは震えながら聞いていた。
 もちろん、アヤはナオが何をしてしまったかは知らない。だが、その言葉に鉛のような重さがあった。
 アヤは的を突かれて反撃の言葉もなかった。
 苦しくて悲しかった。アヤはミノさんに会いたいと強く思った。締め付けられる心の抜け道がほしくなった。
 「ミノに……逢いたい……。」
 アヤは小さくそうつぶやいた。
 ナオは大きく頷いて「逢いに行きなさい。」とアヤの背中を押した。
 刹那、アヤはその場から跡形もなく消えた。おそらく心の深部、ミノさんがいる場所へと行ったのだろう。
 「……これで良かったのですよね……。」
 ナオはアヤが消えてしまった部分を茫然と見つめていた。
 「説得ができたようだ。あの子の感情はまだ子供に近い。あなたのおかげで改変をせずに済んだ。感謝する。」
 ふと足元から声が聞こえた。草むらからセカイがこちらを見上げていた。
 「セカイさん……。あと……トケイ……さんの方は……。」
 ナオはトケイの方に目を向けた。トケイは動くのを止めており、まるで停止した機械のように微動だにしない。
 「彼は時神現代神が作った想像上のシステム。元現代神、立花こばるとをイメージしているよう。時神現代神アヤはこの弐の世界内で時神を壊すシステムを想像していた。故に彼は時神を壊すシステムだった。しかし、それがまた想像によって世界を壊すシステムに変わったようだ。今の時神現代神アヤの心がそちらの方向へ動くのをやめたため、彼は目的を失い止まっている。」
 セカイは丁寧に質問に答えた。
 「そういう事なのですか……。彼にも生命があります……。なんとかならないのでしょうか?」
 ナオは糸の切れた操り人形のようなトケイを悲しげに見つめた。
 「……わからないが……何とかすることはできる。」
 「どうすればよいのですか?」
 「彼に役割を与える事。壱の世界の弐では彼は弐の世界の時を守る時神だった。弐の世界では誰かのイメージでその者の外見ががらりと変わる。不確定だが一応安定はする。彼に意思を与えるという事。」
 セカイは再び無機質に語った。
 ナオは迷った。トケイをなんとかしてあげたいがこれは非常に重たい選択だ。
 いままでの猪突猛進なナオとは違い、弱々しい瞳で後ろに立っていた栄次とムスビを振り返った。
 「ナオ……どうするのかは俺達が決める事ではない。トケイを生んだアヤが何とかする事だろう。お前が責任を背負えないというのならば何もしない方がいい。」
 栄次は迷っているナオにはっきりとそう伝えた。
 「ナオさん、俺はナオさんがどういう選択をしてもついて行くよ。俺はナオさんが好きに動いたらいいと思う。無責任かもしれないけど。」
 ムスビはほぼ即答でそう言った。栄次とムスビはお互いに全く逆の発言をしていた。
 歴史内のシステムを変えることができるナオは再び重い選択を迫られることになった。
 ……アヤさんが対処するのを待つか……今彼の歴史を変えてしまうか……。
 「……。」
 ナオはしばらく悩んだ末、一つの選択をした。
 その選択は考えている選択肢とは違う選択だった。
 ……その当時のよりよい方法がよくわからないときは関わっている者に意見を聞いた方がいい。アヤさんにトケイさんの事を話そう。そしてどうするべきか私達で話し合う……おそらくこれが最適……なはず。
 ナオはアヤの心の深部へと入り込むことを決意した。

七話

 「ムスビ、栄次……私はこれからアヤさんの心の深部へと行くつもりです。アヤさんにトケイさんの事を話してからすべてを決めます。」
 ナオは栄次とムスビをまっすぐ見据えながらはっきりと言葉にした。
 「アヤに相談しに行くのか?」
 「はい。私ひとりでは決めかねます。これから私は深部へ入る努力をしてみようかと思います。栄次とムスビは少しここでお待ちください。」
 栄次の質問にナオは小さく頷いた。
 「ナオさん、ひとりで大丈夫なの?」
 ムスビが心配そうな顔でナオを見ていた。ナオはムスビにも力強く頷くと地面に目を落とした。ナオの足元にはセカイが様子を窺っていた。
 「セカイさん。私はアヤさんの心の深部に行きます。」
 「そう簡単にはいかないが……。現代神との共通なものはあるのか?」
 セカイは感情の動きを眺めながら無機質に尋ねてきた。
 「……ええ。誰かを想う気持ちです。」
 「あなたにはもうその気持ちはない。」
 「……いいえ。あります。私の奥底に……。」
 ナオの言葉にセカイはしばらくナオの目を覗き込んでいた。しばらくするとセカイは何か見えたのか小さく頷くと「強く念じること。それから……現代神の心と自分を繋げること。」とつぶやいた。
 
 ナオは栄次とムスビが見守る中、静かに目を閉じた。
 「アヤさん……私に気がついてください……。」
 ナオが小さくつぶやいた刹那、ナオの体が白い光に包まれその場から忽然と消えた。

 気がつくと時神アヤは柔らかな風が吹く草原の真ん中に立っていた。
 「あれ……?私……。」
 アヤは辺りを見回した。空は抜けるような青空でとても心地よく、ここから出て行きたくなくなるような気がした。
 「おい、アヤ。なに辛気臭い顔してんだよ。」
 ふと聞こえたミノさんの声にアヤはハッと我に返った。
 「……?ミノ?なんでここに?」
 「知らねぇよ。おたくがここに呼んだんだろうが。」
 「よ、呼んでないわよ。」
 「いや、呼んだ。」
 「呼んでない。」
 「呼んだ!」
 アヤとミノさんの押し問答がしばらく続いたがアヤが諦めたので会話が終わった。
 「私は覚えていないのだけれど……ミノ……私が呼んだかもしれないって事は……私はあなたを必要としていたのね……。」
 「あ?え?ああ……あ、いや……お、おう。」
 急にしおらしくなったアヤにミノさんは動揺しながら辛うじて声を上げた。
 「そういえば……あの赤髪の歴史神ナオが……何か私に叫んでいたような……。なんだかふわふわしてよく思い出せない……。」
 アヤは頭を抱え、ナオを思い出そうとした。
 その時、突然にナオの顔が浮かんだ。ナオの顔は酷く歪み、目に涙を浮かべながら叫んでいた。
 ……思い出した……。

 ……ひとりと全体……世界はつながりがあるようでありません。個神は個神なのですよ!世界の事など関係ありません。それぞれの個体が集まって世界ができるのです。

……あなたはあなたを大切に想っている者達を守りなさい。それが今の世界を変える手助けになるのだと思いなさい。

……世界を壊すのはそんなに簡単な事ではありません。他の者達もそれぞれ想いを持っています。今の世界を楽しく生きている者もいます。

……私の判断で壊してはいけないものもある……。ナオは一体何をしてしまったのかしら……。

……ミノに逢いたい……。

「はっ!」
アヤはふと我に返った。
……私……ミノに逢いたがっていたじゃない!彼の想いの深さを知ってしまったから……。
「あ、あの……ねえ、ミノ……。」
アヤはなんとなく口を開いた。
「あ?なんだ?さっきからぼーっとして大丈夫かよ。」
一応心配しているらしいミノさんの声を聞き、アヤは自分の中から何か熱いものがこみあげてくるのを感じた。
「ねえ……あなたはこの世界……好き?いままで生きてきた日常を壊したくない?」
「あ?そりゃあな。俺は平和が一番だと思うからな。今が一番平和なんじゃねぇか?なあ?平和ってよ、当たり前の生活が当たり前にできる事なんじゃねぇかなって最近思うわけよ。」
「そう……。」
きょとんとしているミノさんにアヤは小さくつぶやいた。アヤの瞳からは涙がつたい、感情が抑えられなくなってしまったのかアヤはミノさんに抱き着いた。
「うおっ?なんだ?なんだ?」
ミノさんは真っ赤になって戸惑っていたが少し時間が経った後にアヤを優しく抱きしめていた。
「どうしたんだ?」
「ミノ……私……なんか……泣きたくて……。」
嗚咽交じりに小さく口を動かしているアヤにミノさんはいつもの笑顔を見せると
「泣きたいときゃあ泣きゃあいいさ。どうせくだらねぇこと考えてんだろ。」
とそっけなく見えるように吐いた。
しばらく泣いたアヤはどこかすっきりした顔でミノさんから離れた。
「もう大丈夫なのかよ?」
「……うん。ありがとう。……あのナオって歴史神の言う事を信じてみる事にしたの。
よく考えたら私自身は酷い目にあっているわけではなかった。むしろ……幸せだったのかもしれない。あなたに会えたことで……。」
自分の世界の深部なのでアヤは心の底から本心を言っていた。
「お、おう!わ、わかった!もうわかったからそれ以上言うな!恥ずかしくて死んじまう!」
ミノさんは真っ赤になりなりながらアヤの言葉を途中で遮った。
「ミノさんは意外にウブなのですね……。」
ふと女の声が聞こえ、アヤとミノさんは目を丸くしながら振り返った。
目の前には軽くほほ笑んでいるナオが立っていた。
「おっ……おたくは!なんで俺を置いて行ったんだよ!ていうか、どこ行ってたんだよ!」
ミノさんはナオを見て必死な顔で叫んだ。
「私達はアヤさんの心の上辺にしか行けず、あなたを置いて行ったわけではございません。あなたはアヤさんに呼ばれて心の深部へとひとり、入り込めたのです。アヤさんとの信頼関係がなければできません。私がここに入れたのもかなり苦労したのですよ。」
「あ、だからさっきからあなたの事ばかり頭に出て来てたのね。」
アヤが冷静を取り戻して答えた。
「はい。あなたが私の事を思い出せるようにずっと念じていましたから。」
ナオは一つ息をつくとアヤとミノさんが何か言う前に本題へと入った。
「それで……あなたに言わなければならない事があります……。相談したいことも。」
「相談したい事?」
ナオの思いつめた言葉にアヤはきょとんとした顔で首を傾げた。

八話

「それはこばるとさんの事です。」
「こばると君の事って……?もうあやまってもらったし、彼もデータを書き換えられたとはいえ、今は平和に生きているみたいだし……もういいわ。」
ナオの言葉にアヤはため息交じりに答えた。
「あ、いや、そうではなくて……大変申し上げにくい事なのですが……先程、オレンジ色の髪の青年がいましたが……あの方はトケイさんと言ってあなたが創った神なのです。」
「……?」
アヤは首を傾げたまま話を理解しようとしていた。
「……あの方は……あなたが時神を壊すシステムとして作ったこばるとさんなのです。」
「時神を壊すシステムとして作った……こばると君?私が創ったって……なにそれ。」
アヤは震えた声でナオに問いかけた。
「あなたは先程まで世界を壊そうとしていました。それの影響により、こばるとさんはあなたに想像されて弐の世界でトケイとして新しく存在を始めました。もちろん、オリジナルのこばるとさんは現在太陽神として存在していますが、トケイさんはあなたの記憶の中で生成されたこばるとさんという事です。」
「私が自分の心の中でこばると君を創ったっていうの?」
「そういう事です。そのトケイさんはあなたの心に合わせて動いております。感情もなく、意思もありません。」
ナオはなるべく刺激しないようにアヤに淡々と言った。
「……感情も……意思もない……。」
アヤはナオの言葉を反芻しながら戸惑っていた。
先程までアヤが行っていたことは彼を肯定する行為だった。
……感情も何もなくなれば恨む恨まないなんて感情もすべてなくなる……。
アヤはそう言っていた。
……やっぱり感情はなくてはならないものだ。何かを思って世界を変えようとする感情も前に進もうとする意志もないのは確かに何も変わらないが感情がもうすでにある者としてはこの気持ちはなくしてはいけない。そう思う。今は……特に。
「ねえ、そのトケイって子、感情とかを創ってあげる事はできないの?」
アヤはふとこんな事をナオに言っていた。
「これは簡単な話ではありませんが……感情を創る方法は教えてもらいました。しかし、感情を創る事で創った者を恨んだり、創ったこちらが悲しい思いをする……なんてことも視野に入れなければなりません。その覚悟があなたにありますか……?」
ナオはまっすぐアヤを見据えた。アヤは目を伏せるとしばらく考え始めた。
「そうよね……。そういうものよね……。でも……私は彼に感情を与える事が彼を救う事になると思うの。たぶん、私だけの感情で私だけが救った気持ちになっているのかもしれないけど……やっぱり心って大事だと思うの。」
アヤは意見を求めるようにナオに声を上げた。
「……ならば自分の心に従いなさい。……私もそれを背負いますから。」
ナオも同意見だったため、どこかホッとした顔でアヤにそう言った。
「あ、じゃあ、そのなんかよくわかんねぇけど、俺も背負ってやるよ。おたくが決めた事なら俺も応援するぜ。」
途中でなんだかよくわからなくなっていたミノさんもアヤに向かって大きく頷いていた。
 「……覚悟ね……。」
 アヤはまだ若年なため、その感覚がよくわかっていなかった。ただ、あの時こうしていれば良かったと後悔するのは嫌だった。
 「色々あると思うけど……後悔するよりはいいわ。で、どうすればいいの?」
 「……Kの使いによると、彼に役割を与える事が一番だそうで。壱の世界の弐では彼は弐の世界の時を守る時神だったそうです。向こうのあなたがそうしたようですね。まあ、とりあえずは彼に役割を与える事で意思を持たせる方法のようです。すべてはあなたの想像次第というわけですね。」
 ナオはアヤの様子を窺った。アヤは小さく唸ると頷いた。
 「世界に従うのは賛成しないけど……でも向こうの私と同じことをしたい。なんだかそう思うの。私もしょせん……人間から造られたプログラムって事よね。きっと。」
 「アヤさん……。」
 アヤはどこかせつなげに笑っていた。
 「……じゃあ、ちょっと私、願ってみるわね。トケイだっけ?その子の事について。」
 「お願いします。」
 アヤがそう判断したならナオもそれでいいと思った。トケイはアヤが作ったこばるとだ。真実を伝えた上でアヤが行う判断はどんなことでも正しくてナオには口出しできない事だ。
 だが関わってしまったからにはナオも責任を負うつもりだ。
 ……私も良かれと思ってやった事だ。後悔はせず、自信を持たないと……。
 アヤよりもナオの方が覚悟を決めていた。
 アヤがトケイの事を考え始めた時、ナオの体は透け始めた。
 「……なるほど……私はアヤさんの意識が別に移ると簡単に世界に入れなくなる程度の神というわけですか……。まあ、いいでしょう。」
 ナオはなんの変化もないミノさんを見つめ、軽くほほ笑んだ。ミノさんはナオが突然消えたことで戸惑いながら何かを言っていたがナオには何を話しているのかも聞こえなかった。

 ナオは再び上辺の世界へと戻ってきた。アヤの意識がナオから外れたため、そこまで親しくなかったナオは心の深部にいる事ができなかったようだ。
 帰ってきたナオははじめにムスビと栄次の声を聞いた。
 「ナオさん!トケイがっ!」
 「ナオ!トケイが!」
 同時に同じ言葉を発した男二神にナオはビクッと肩を震わせたがムスビと栄次だとわかると安心し、ひと息をついた。
 「大丈夫です。アヤさんがトケイさんの改変をしているのですよ。おそらく。」
 ナオはトケイに目を向けた。トケイは力なく座ったまま上を見つめており、辺りに電子数字が回っている状態だった。足元には魔法陣のような五芒星が緑の輝きを放っている。
 「これで改変は完了する。」
 ふと足元から声が聞こえた。足元に目を落とすとセカイが無表情のままこちらを仰いでいた。
 「現代神がそう判断した事でこちらの弐の世界で時神が生まれる。やはり世界のプログラムは変わらず、壱(いち)の世界のバックアップとして陸(ろく)の世界も動くというわけか。後に……時神過去神。」
 セカイは突然栄次に目を向けた。
 「なんだ?」
 栄次は訝しげにセカイに尋ねた。
 「軽く予言をしておこう。近いうちにあなたが過去で関わった者達が現れる。幼い少女と銀髪の青年だ。その者達にあなたはかなり揺さぶられるだろう。」
 「なぜそれを言う?予言などしたら道が変わる可能性があり、世界の不変を望んでいるお前達に不利ではないのか?」
 栄次は相変わらず表情のないセカイを鋭い目で見つめた。
 「不利ではない。どうせ道は変わらない。あなたは過去を生きている参(さん)の世界の過去神。過去に戻れば記憶は辻褄合わせのためになくなるだろう。ただ……望みは薄いがあなたが忘れていなければどうなるのだろうかと世界を少し変えてみたくなっただけ。『近いうちに』と言ったが近いと言っても現代にいるあなたが『近いうちに』なのであって過去を生きるあなたは後、二百年後くらいの事だろうか。」
 「……?」
 セカイが言っている事は栄次にはほとんどよくわからなかった。
 「二百年くらい前に存在している今のあなたは霊史直神(れいしなおのかみ)がデータだけ現代に持ってきた過去神。現代には現代神がいるがこの今の時代、平成の時代を過去だと思っている世界もある。過去、現代、未来はそれぞれ並行していて現代を平成だと認識している世界もあれば過去を平成だと認識している世界もある。あなたは過去である参(さん)の世界から来たので陸(ろく)の世界、この平成の時代は未来に当たる。つまりあなたから見るとこの世界は肆(よん)の世界。……あなたは過去神なので、この現代を過去だと認識している世界で近いうちにあなたはその者達と関わるだろうという事。」
 「まあ、よくわからんが……今の俺はその後、二百年後にも世界に存在している……という事だな。そして、俺にゆかりのある者が平成の時代に入った時に現れると。」
 「そういう事。」
 セカイの無表情の顔にはすべてが映っているようだった。
 「……もし、栄次が困っている時は……私達が助けられるといいですね……。」
 「そうだね。」
 ナオとムスビはセカイの話を聞き、これから栄次に起こるだろう事をなんとなく想像していた。
 「それに関わるのはあなた達ではない。時神である。過去の世界での平成ではあなた達はこの事を知らない。助ける事は不可能。栄次が事件に巻き込まれることによって一時的に時空が歪み、現代を平成と考える世界、過去を平成と考える世界、未来を平成と考える世界、それぞれの平成の世に存在する時神がそろってしまうがあなた達には関係のない事。」
 「そう……なのですか……。でも、できる事があれば……栄次には散々ここまで助けてもらいましたし……。」
 ナオは心配そうな顔で栄次を仰いだ。ムスビも横で深く頷いている。
 それを見ながら栄次は軽くほほ笑んだ。
 「問題ないだろう。これは俺の問題のようだ。……ただ……お前達の考えはしっかりと持って行こうと思う。ナオ……お前が言った、この世界は『自分だけの都合ではない』という言葉……その通りだと感じた。それはどんなに時間が経っても忘れずにいようと思う。俺は俺の判断で勝手に事を進めぬようにすることを覚えておこう。」
 「……栄次……。」
 栄次の言葉にナオは悲しげな声を上げた。
 刹那、ナオの頭に一つの歴史が流れた。
 血にまみれた栄次が桜が舞う泉のような所で苦しそうに喘いでいた。その栄次の目の前には無機質な表情をしているトケイがいた。
ぼろ雑巾のようになっている栄次を感情のない瞳でトケイが蹂躙していた。栄次の体からは血が飛び散り、もう立ち上がる余力さえなさそうだった。
 ……ああ、俺はこういう死に方をするのか……。
 栄次の心の声が聞こえる。
 栄次は次第に暗くなっていく視界を受け入れながらそっと目を閉じだ。
 「……!」
 刹那、一瞬だけ栄次は同じ時神であるアヤと未来神プラズマを脳裏に思い浮かべた。
 ……そうだ……。俺が死んだら、俺と同じ境遇にいる彼らはどうなるのだ……?
 ……今もきっと……迷惑をかけている。俺が勝手な行動をしているがために彼らに迷惑をかけている……。
 ……俺は勝手に死んではいけない。この思いは……忘れてはいけない気がするのだ。
 ……誰かが……言っていたような……。
記憶はそこまでだった。
 「……?」
 ナオは今の一瞬の記憶がなんだったのかしばらく考えていた。
 「あなたには見えたのか。」
 不思議そうにしているナオにセカイが小さく尋ねた。
 「栄次が血まみれで……トケイさんに壊されている?」
 「そう。あれはこことは反転している世界、壱(いち)で少し前に起こった事件。過去神が精神的に壊れ、狂った時神を壊すシステムであったトケイに破壊されている歴史だ。壱の世界の方では過去神がその後、時神のために生きると誓い、時神達と力を合わせてトケイを改変した。……壱の世界の過去神がああやって立ち上がれたのはもしかするとあなたのおかげかもしれない。」
 セカイは一瞬だけ柔らかなほほ笑みをナオに向けた。
 「……よくわかりませんが……そうだといいですね。」
 ナオはこの件について深く見ないようにしようと決めた。これは壱の世界で解決した事例であって陸(ろく)の世界では関係がないからだ。
 関係がないとは思ったが陸の世界のナオが言った言葉を壱の世界の栄次が忘れずに覚えていてくれた事にやはり世界はつながっているのだと感じた。
 「だが……トケイが改変された今、陸の世界では少し歴史が変わるかもしれない。今も霊史直神のエラーによって筋は同じだが細やかな歴史が壱とは変わってしまった。」
 セカイは別段、何か感情があって言ったわけではないようだ。ただ、事が速やかに済むように世界を案じているだけだった。
 「あ、あの……僕を置いてけぼりにしないでよ……。」
 ふと聞いた事のない男の子の声が小さくナオ達の耳に入った。
 「誰だよ!」
 ムスビが突然の声に怯えながら尋ねた。声はオレンジ色の髪の少年、トケイから発せられるものであった。
 「トケイさん!?」
 ナオ達は驚いてわずかに身を引いた。表情は無表情だがトケイの目には光が灯り、言葉には感情がこもっている。
 「改変が終わったのか?」
 栄次はセカイに目を向けた。セカイは小さく頷いた。
 「感情ができたのですか……?」
 「感情?何の事?あれ?僕はいままで何をしていたの?何にも思い出せないんだけど。」
 ナオの言葉にトケイは不思議そうに声を上げた。
 「……あなたはこれから時神として生まれ変わったのです。この弐の世界を守る時神として。」
 「時神?……んっ!?」
 ナオが咄嗟に説明した内容はトケイにはほぼわかっていなかった。しかし、トケイの目に電子数字が沢山流れた刹那、トケイは落ち着いた声に戻った。
 「ああ、僕はここの時間を守ればいいんだね。了解。」
 「……今のでわかったのですか?」
 ナオが慌てて尋ねたがトケイは首を傾げていた。
 「わかったって何が?」
 「え?先程私が言った……。」
 「霊史直神。」
 ナオの様子を見たセカイがナオの肩に飛び乗るとそっと耳元でささやいた。
 「霊史直神、先程、電子数字が流れただろう?あれはデータ。あのデータにすべてのものが含まれている。彼はこの世界に順応し、役目を当たり前だとして存在することになる。」
 「……え?それでは……『わかる、わからないではなくてもうそれが当たり前になった』という事ですか?」
 ナオの質問にセカイは大きく頷いた。
 「それから、改変に伴い、つじつま合わせのために時神現代神はこの事を夢として処理し、現在は陸の世界の自室で眠っているよう。日穀信智神(ミノさん)も陸の世界へ帰り、神社で眠っている。そしてこの世界の主が元の世界へ戻ったのでこの世界は後々に消える。今のうちにこの世界から出る事をおすすめする。あなた達を弐の世界でさまよわせるわけにはいかない故、約束通りKの内の一人の元へ案内しよう。」
 セカイが静かに言い放った刹那、アヤの世界は波にさらわれる砂のように徐々に消えていった。
 「ちょっ……いきなりかよ!ナオさん!本当に世界が消えてる!」
 ムスビが崩れ去る世界を見つめながら慌てた声を上げた。
 「……ムスビ、落ち着いてください。……セカイさん、アヤさんとミノさんは大丈夫なのですね?」
 ムスビをなだめたナオは世界の崩壊を眺めているセカイに早口で尋ねた。
 「問題ない。これはいつもの事。眠っている時は魂という名のエネルギー、ダークマターが自由になるので、こちらの世界、弐に来る。目が覚めると魂という名のエネルギーは肉体から発せられるタンパク質を元としたエネルギーに引っ張られ、元の持ち主に帰る。イメージは分子、電子の移動に似ている。人間には魂というエネルギー体が入る分子量が、それぞれ個々で違うようで、それぞれの魂はそれを目安に元の体に帰るという。まれに違う者の魂が戻る個体を間違えて別の体に入り、エラーが出てしまう人間もいるが、基本的にはそういう仕組み。余談だが、死ぬと肉体内にあるエネルギーが放出され魂はこちらの世界、弐に留まる。魂という名のエネルギーを引っ張る肉体がもうない故、魂は向こうの世界へは行けないので、ここに留まるというシステムである。ちなみに年を取ると肉体は劣化をはじめ、魂を肉体が引っ張りにくくなり、記憶がちぐはぐになったりなどの症状が出るのだ。」
 「なるほど……。認知症ですか」
 「ナオさん!そんなことはいいから俺達どうするの?」
 セカイの長い説明に納得していたナオはムスビの言葉で我に返った。世界はもう立っていられる場所もなくなってきた。青空はガラスが割れるようになくなっていき、空から宇宙空間が覗いている。
 「セカイさん、ではすぐに私達をKの元へ。」
 「おい、ナオ、その前にトケイとかいう少年はどうするのだ?」
 栄次がナオに目配せをしながら尋ねていた。トケイはただこちらをぼうっと眺めていた。
 「トケイさんは……。」
 「ああ、僕は平気だよ。空、飛べるから。あんまり状況はよくわからないけど、アヤによろしく言っといてね。」
 トケイはすぐさま、返答すると腿についていたウィングを広げた。
 「……本当に……こばるとさんのようですね。」
 「こばるとって誰?」
 「ああ、いいのです。なんでもありません。」
 トケイが首を傾げたのでナオはあえて教えなかった。
 「そう?じゃあ、僕はもう行くけど。」
 トケイはあっさりとナオ達に言った。
 「ええ。また会えましたら会いましょう。」
 ナオもとりあえずドライに会話をした。
 「うん。じゃあね?」
 トケイはナオ達の事がよくわからないまま、ウィングで空を飛び、この世界からいなくなった。
 「知らなくて良い事があの子にはたくさんあります。彼が私達やアヤさんに気がついたら……彼が自ら知りたいと願ったらすべてをお話しましょう。」
 「その判断でいいんだな?」
 栄次がナオをまっすぐ見ていた。ナオは栄次に力強く頷いた。
 「ナオさん!それよりも!」
 ムスビは辺りを見回しながら消えていく世界に怯えて叫んでいた。
 「わかりました。ムスビ、落ち着いてください。……セカイさん。よろしくお願いします。」
 ナオは再びムスビをなだめると今度こそセカイに頼んだ。
 「わかった。ではいっきに運べるKの使いハムスターを呼ぶ。しろきち。」
 セカイは先程、ナオ達を突き飛ばして逃げていったしろきちを再び呼び戻した。
 「うう……なんですか……?」
 しろきちはすぐに現れた。顔に若干怯えが浮かんでいる。
 「あー!お前、さっきはよくも突き飛ばしたな!」
 「ムスビ、話が終わりません。」
 ムスビが飛びかかる勢いだったのでナオは再びムスビを大人しくさせた。
 ムスビの反応にしろきちはビクッと肩を震わせた。
 「ももももう……なんですかぁ……?呼んだときにいてくれればいいって言ってたじゃないですかぁ……。」
 「確かに言いました。ですのでそれはもういいです。それよりも私達をKの元へ連れて行ってください。」
 涙目のしろきちに単刀直入でナオは言い放った。
 「わ、わかりましたよ。」
 しろきちは怯えながら先程と同じように腕を振り上げた。
 「これで……やっとKに会えます。」
 ナオは崩れゆく世界から覗く宇宙空間を満足げに見上げていた。

九話

 しろきちはナオ達をアヤの世界から弐の世界の空間へと出した。再び世界はネガフィルムのような感じに戻った。
 ナオ達はしろきちにすべてを任せて後を追った。
 「あ、あれ?そういえばあのちっこい人形は……。」
 ふとムスビはセカイがいないことに気がついた。
 「そういえばおらんな……。」
 栄次も彼女を探すがもうアヤの世界はなく、セカイがどこへ行ってしまったかもわからなくなっていた。
 「ああ、えーと……彼女はKの使いなので他の任務に当たっているかと思いますけど……。」
 しろきちが前を歩きながらひかえめに答えた。
 「他にも抱えている任務があるという事ですか。」
 ナオは他の情報を引き出そうと期待せずに尋ねた。
 「……よくわかりませんけど……壱だか陸だかの世界で伍の世界とのトラブル?みたいな。」
 しろきちはかなりあいまいに言葉を発していた。
 「伍の世界とのトラブルですか……。嫌な予感がしますね。」
 「まあ、あなた達には関係ないので……。僕にも関係ないし……。」
 しろきちはそこから先、何も知らないようだった。
 それに気がついたナオはそれ以上聞くのをやめた。
 「それで?Kの世界は……。」
 「……せっかちですね……。もうすぐですよ。」
 先程からしろきちはどうやって動いているのかわからない。目印が何もないのに曲がったり先へ進んだり、同じ場所を戻ったりしている。
 同じ場所へ引き返すのは同じところに戻ってしまうのではないかと思っていたが弐の世界では違うようだ。
 と、言っても辺りは宇宙空間であり、戻ったのか進んだのかもよくわからない。
 しばらくしてしろきちは一つの空間の前で止まった。
 「あ、今はここが日本を担当しているK達が住む世界のようです……。」
 「日本を担当している?」
 「ええ……Kは世界中にいるので……。人間でも神でもない別の生き物と考えてもいいかと……。」
 「へえ……。」
 しろきちの言葉にムスビは複雑な顔をした。
 「じゃあ、僕はここで……。」
 しろきちは恐る恐るそう言うと先程と同じようにナオ達を空間へ突き飛ばした。
 「あ、てめぇ!また突き飛ばしたな!」
 「ムスビ、静かになさい。」
 ムスビとナオと栄次は下に落ちているが会話をする余裕があるくらいだった。不思議と心が穏やかだ。
 しばらく落ちると辺りに電子数字が沢山回る空間へと出た。
 「いらっしゃい。」
 ナオ達が落ちている間に電子数字から頭巾を被った袴姿の幼女が現れた。
 「うわっ!なんだ!びっくりした……。」
 「……?」
 ムスビがいち早く声を上げ、ナオと栄次も彼女の存在に気がついた。
 「私はKの内の一人。あなたが知りたいことはわかるので……伍の世界との結界部分まで行くと良いです。このまま落ちていきなさい。」
 頭巾の幼女は小さく言葉を発すると突然電子数字になり消えた。
 「……っ。あの子はデータなのですか……?」
 「あれがデータというのか……。」
 ナオが疑問をどことなくぶつけると栄次が小さくつぶやいた。
 実のところ、彼女はKの世界に誤って入り込んでしまった魂を元の世界に戻す役目をしているKなのであるが今回はそれを知らなくてもよいだろう。ライという名の少女が関わった事件では彼女はそう説明している。今のナオ達には知りえない事だ。
 「あ、ナオさん、なんか急に青空が……。」
 ムスビの声でナオと栄次は我に返った。知らない内に青空と草原の世界へ来ていた。草原に足をつけたナオ達は辺りを見回した。
 「ここがKの……?」
 ナオが言いかけた時、ナオ達の前を沢山の少女が走り抜けていった。国籍は皆バラバラだ。肌の黒い子もいれば肌の白い子もいる。もちろん、アジア系の子もいた。
 その女の子達は皆楽しそうに笑っていた。
 「やあ。ここはKの世界だけどあなた達が来るのはここじゃないよ。」
 また誰かに話しかけられた。誰が話しているのか探していると草むらからカエルのかわいらしいぬいぐるみが立っていた。
 「うわっ!ぬいぐるみがしゃべった!」
 ムスビの驚きの声がKの世界に反響した。
 ナオ達は訝しげにカエルのぬいぐるみを見ていたがなんとか世界に順応しようと心を落ち着けた。
 「え、えーと……あの、ここからどうすれば……。」
 ナオは辛うじて言葉を発した。
 「じゃ、目を閉じなよ。」
 カエルはナオ達に優しく言った。表情のある、ぬいぐるみ特有のカエルがそっと手を伸ばしてきた。
 ナオ達が何か反応をする前にカエルが「いってらっしゃい。」と声をかけた。
 刹那、ナオ達の体は光にまみれてその場から忽然と消えた。
 「なんだかいきなりが多いな……。」
 ムスビがぼやいているのが聞こえた。ナオ達はそっと目を開く。
 声を発する間もなく、目の前にツインテールの少女が映った。辺りは古い民家っぽいところだった。ナオ達は玄関に立っていてその少女は囲炉裏がある部屋で座布団を敷いて座っていた。
 「ああ、やっと来たのか。いらっしゃい。」
 少女はモンペ姿だった。見た感じ戦前か戦後辺りの少女のようだ。笑顔でナオ達を手招いていた。
 「あなたは……先程の……?」
 ナオの問いかけに少女はいたずらっぽく笑った。
 「うん。ナオさん、あんたにはさっき会っているね。だけどあたしはあんたが世界改変した時にいたKじゃない。あの時にいたのはあんたも歴史を見たと思うけど水色のワンピースを着ている少女だ。」
 「……はい。」
 「これからその子を呼ぶから。いやー、しかしこの世界に来た客神は壱の世界の芸術神ライさん達以来だよ。こう立て続けに誰か来るなんておもしろいね。」
 「誰かこの世界に現世から来たのですか?」
 モンペ姿の少女の言葉にナオはすかさず尋ねた。
 「まあね。ついこないだ忍者の霊とかが来たけど……あれは壱の世界でのことだから、こっちだと来てないかな。あ、じゃあ伍の結界部分まで案内するよ。」
 モンペ姿の少女は軽い感じでほほ笑むと指をパチンと鳴らした。すると古民家はホログラムのように消え、モンペ姿の少女も消えた。
 代わりに現れたのは真っ白な空間で、不思議と足がつかず、ふわふわと浮いている状態だった。
 「浮いていて足がつかない……。」
 ムスビが不思議な感覚を感じながら気味悪そうに声を上げた。
 「ここ……私が……。」
 「そうだ。あなたは一度ここへ来た。」
 ナオがつぶやいた刹那、またも誰かの声が聞こえた。今度は人間味のない機械のような声だった。
 電子数字が回り現れたのは髪も体もすべて色のない少女だった。目にも瞳はない。真っ白な少女だ。ただ、頭に刺さっているツノのようなものだけ機器によくついている電源のマークが緑色で描かれていた。
 「今度はなんだ?」
 栄次が戸惑った声を上げた。
 「私はこっちの世界と伍の世界を結んでいる結界。この世界のKでもある。立て続けに神が来た。少し前には芸術神ライと壱の世界のトケイがここに現れたばかり。ここから先へ行く事はおすすめしない。伍の世界ではあなた達は間違いなく消滅するだろう。」
 白い少女は無機質な声音で淡々と言葉を発していた。
 「……ここが……こちらの世界と伍を結ぶ結界……。三貴神はここから先へ行ったというわけですか。」
 「ええ。そういう事です。」
 ナオの発言に答えたのは白い少女ではなくまた別の少女だった。現れたのは水色のワンピース姿の少女だ。
 次から次へと違う少女が現れる。Kというのは本当にたくさん存在しているらしい。
 「あなたは……。」
 「お久ぶりですね。改変時はお世話になりました。」
 水色のワンピースの少女は丁寧にナオにお辞儀をした。彼女はナオが見た歴史の中で度々登場していた少女だった。

 水色のワンピース姿の少女が現れてすぐに白い少女はホログラムとなり消えた。
 「あの白い少女は……?」
 ナオはワンピースの少女に戸惑いながら尋ねた。
 「ああ、彼女はこの結界と同化しているので姿を消しただけです。それで……私に会いたい理由とは?」
 ワンピース姿のKは幼い顔をナオに向け、首を傾げた。
 「三貴神の行方を教えてください。」
 ナオはKにそっと頭を下げた。
 「……それは……私達もわからないです。彼らは世界改変時にこの境界を越えていきました。そして電子数字で分解され、そのままいなくなりました。状況的にはこの世界の管轄ではなくなり、データもすべて消えました。ただ、日本ではとても影響力のあった神々なので完全な消去は望ましくなく、伝説上の神々として、又は神々が生きるための概念として、それから尊敬する神々として描かれるようになりました。故に私も彼らの今後を知りません。いたという事実は持っていますが。」
 Kは丁寧に答えた。ナオは消えてしまった三貴神をまったく覚えていない。伍の世界とはそれほどまでに異質な世界なのか。
 「……三貴神は……世界改変時に伍の世界も守ろうとこちらを出て行かれたようですが、他にこの境界を越えたものは……?」
 ナオははやる気持ちを抑えながら尋ねた。ナオにはもう一つ確認したいことがあった。
 それは、神々の会話にも出てこないイザナギ神、イザナミ神についてだった。彼らの子供である三貴神は概念としても残っているのだがイザナミ神、イザナギ神には会った事も噂もない。
 こちらに残っているイザナミ神、イザナギ神の子供として三貴神の他、天御柱神(みーくん)が残っているが彼は自分がイザナミ神から生まれた事を知っているようだった。
 「あなたが知りたいことはイザナミとイザナギの事ですか?ナキサワメさんとカグツチさんには会われていないようですね?あなたが出会ったのは……天御柱神さんだけ。まあ、彼らに会ってもイザナミ、イザナギの子供であるとしか言わないと思いますけど。……イザナギさんとイザナミさんはそれぞれ認識はしています。イザナミさんは弐の世界全体を正常に回すプログラムとして伍の世界の人々が死んだ後も弐の世界へ入れるように動いています。彼女は結界の先へは行っていませんが限りなく伍に近い場所におり、一般のプログラムが動いている者達はそこへ行く事はできません。私達Kは彼女がいる場所を黄泉と呼んでおります。イザナギさんに関しては神話上、人間に繋がるよう描かれておりますので伍の世界も含めた『感情を明確に持っている』者達の世界を守っております。つまり……彼らは主に『伍の世界も含まれる』弐の世界でプログラムとして存在しているという事です。彼らは改変以前からずっと同じ任についていました。新しく伍の世界ができても彼らのやる事は変わりませんでした。」
 「そういう事ですか……。伍の世界も含まれるという事は……弐の世界は伍の世界の人々の魂が行き着く場所でもあるというわけですね……?」
 ナオは身震いをしながら尋ねた。Kはあまり感情を表に出さずに小さく頷いた。
 「三貴神は『伍の世界も含めた弐の世界』を守っているイザナミさんとイザナギさんに影響を受けたのかもしれません。伍の世界を守ろうとしたのでしょう。こちらの世界では彼らはそれぞれ高天原、夜、海原を守っていたという記述が残っておりましたのでそれの任に別の者を立てて向こうへ向かわれたのだと思われます。しかし、もう確認のしようがありません。彼らはイザナミ神、イザナギ神とは違い、こちらとの境界を越え、肉体ある者達を守りに行ってしまいました。私達こちらのKは三貴神の行方も安否も確認できていません。」
 Kはどこか寂しそうにそう言っていた。
 「そうなのですか……。では彼らの他にこの境界を越えたものはいないのですね?」
 「他のKなら見ているかもしれませんが私は見ておりません。」
 「では……向こうからこちらへ来た者は?」
 ナオは挑むようにKに尋ねた。彼女はなんでも答えてくれそうだったからだ。
 「いません。来ることができるはずがありません。伍の世界の者達は神々を『人が生きていくために必要なルールであり、道しるべだった』と人間が昔創った遺物だと歴史的に考えてしまっています。脳の構造上、もうこちらとは違うので入ってくることは不可能です。運よく電子分解されずに入って来れたとしても辻褄合わせのために体を改変されてエラー状態のままこちらで生きるか記憶をすべてなくしてしまうかのどちらかでしょう。まあ、だいたいが入る前に消滅してしまっているのか、こちらの世界を信じていないかだと思いますのでいままでこちらに入ってきた者はいませんね。」
 「そうなのですか。」
 ナオはそこで言葉を切ると白い空間がなくなっている先を見つめた。空間の先は宇宙空間になっており、そこから先は闇だ。どことなく風が吹いている気がする。
 ナオはフラフラと結界まで歩いて行った。
 「ナオさん!危ないよ!」
 ムスビが必死でナオを止めた。ナオは何かに導かれるように遠くの常闇を見ていた。
 「向こうの世界……伍の世界……私は一度行ってみたい……。」
 「ナオさん!ダメだよ!」
 足を踏み出そうとするナオをムスビが強引に元の場所へ連れ帰った。
 「ナオ、向こうへ行ってしまったらトケイの責任を放棄してしまう事になるのではないか?」
 栄次にそう問われ、ナオはハッと我に返り、うつむいた。
 「そうですね……。私は何を考えていたのでしょうか。あの結界に近づくと自分の意識がなくなっていってしまうような気がするのです……。」
 ナオが小さく言った言葉にKが感情なく答えた。
 「それはそうですよ。あちらでは神々は意識を持たないことになっている世界なのですから。こないだ来た壱の世界の神々はそれの防衛システムでこの結界に恐怖心が沸いて近づかなかったみたいですがあなたは違うようですね。あなたはひょっとすると伍の世界の歴史にも関与しているのかもしれません。」
 「……伍の歴史にも関与している……では……この結界の先に私の巻物を投げたら……何が見えるのでしょうか。」
 ナオは震えながら自分の歴史が描かれている巻物を取り出した。
 「ナオさん!それは危ないよ!向こうの世界にそれを投げたって消えちまうだけだよ!ナオさんが消えちまうかもしれない!ナオさんが消えたら俺……。」
 ムスビがナオに向かって叫んでいた。ムスビはよくわからない胸の痛みを抱え、なぜか涙を流していた。
 「ムスビ……。」
 「あ、あれ?俺……なんで泣いて……。なんで……泣いているんだ?わかんねぇ……。悲しい……。」
 言いようのない胸の苦しみをムスビは感じていた。
 それを見てナオも胸が苦しくなった。
 ……私達が記憶を失う前の……大切な心が……。
 「……ムスビ……。ごめんなさい。私は……。」
 「……そこまででしたら……せめてこの歴史だけお持ちください。」
 ナオとムスビの様子を見たKはある一つの巻物を取り出した。
 「それは?」
 ナオとムスビの代わりに栄次がKに尋ねた。
 「ここには過去神栄次さんもいる。歴史を結ぶ暦結神さんもいる。歴史神さんもいる。ならばこの空間で以前どういう会話がされていたのか……それをお見せすることができます。どうか泣かないでください。」
 Kはせつなげに言葉を発すると巻物を上に向かって投げた。
 刹那、ナオ達は真っ白な世界に包まれた。

十話

 「父上と母上のためだ。俺は行くぜ。このままじゃ伍との均衡がとれねぇしな。黄泉も伍が出現したことによっていままでよりも管理が難しくなっているようだ。」
 目の前に紫色の髪の青年、スサノオが現れ、何かを話している。ここはナオ達がいる伍の世界とこちらを結ぶ結界前のようだ。
 「へえ……それは大変だね。じゃあ、僕も行こうかな。また母上が暴れ出すと大変だし。日本だけじゃなくて世界各地にいる神々も向こうへ行っているんでしょ?」
 スサノオの隣にいたのは紫の長髪をなびかせているツクヨミだった。
 「しかし、向こうへ行くとどうなるかわかりませんわよ。もう戦争はうんざり。伍を創ってしまった宇宙のエネルギーは恐ろしいわ。」
 ツクヨミのさらに隣に同じ紫の髪をしているアマテラスが現れた。アマテラスを見ながらスサノオはうんざりした顔をしていた。
 「世界には必ず転換期が来る。それが世界大戦が終わった今なんだろ。もう久しく世界は転換してなかったからな。世界のシステムもよく考えたよな。今の人類を同じところに集めていたらまた戦争が起きる。今度は神を信じない人間と神を信じている人間の戦争だ。ばかばかしい。わけて正解だぜ。世界のシステムはまだ人間を生かしたいようだ。」
 スサノオは結界前の白い空間から伍の世界を眺めた。
 「確かに、人間ってちょっと異質な生き物だよね。僕達を想像したのも人間だし。想像から生まれるエネルギーの強さってすごいや。で、伍の世界って今どうなってんの?」
 ツクヨミが美しい長髪をいじりながらアマテラスに目を向けた。
 「伍の世界の人々も逞しく生きているようですわ。まだ、世界が完全に離れてはいないので私は太陽から伍を見る事ができます。そのうちできなくなるでしょうけど。」
 「そっか。じゃあ、早めに行こう。完全に切り離されたら僕達も行けなくなっちゃうかもしれないし。せめて、僕らでこっちと伍を繋ごうよ。」
 ツクヨミも結界の外をじっと見つめた。
 「万が一のため、蛭子お兄様にはこちらに残っていただきましょう。私達の子供もいるわけですし。完全に状態が切れてしまっては私達が伍とこちらを結べなくなってしまうでしょう。神々も人間も縁を大切にしますからね。黄泉にいる母上とこれから伍の世界の弐も守らなければならない父上とも縁を切ってしまってはシステムにエラーが出る可能性がありますし。」
 「じゃあ、そうしよう。」
 アマテラスの言葉にツクヨミは深く頷いた。
 「じゃ、後は身の回りの準備と消える準備とこちらの世界を保たせる準備と俺達の歴史を管理している歴史神を呼んでもう点でしか繋げていない伍を切り離せばいいんだな。」
 スサノオは全くぶれずにケラケラと笑いながら言った。
 「切り離したらこちらは一応安泰。向こうはどうなるかわからないけど……。」
 「問題ねぇよ。いずれ伍の改変を望む人間が現れるはずだぜ。それがどれくらい先になるのかわからねぇけどな。もしかすると神々に代わるものを人間が新たに想像するかもしれない。面白れぇじゃねぇか。お互いの世界が幻想の世界だと認識する。桃源郷や天界なんてお互い言い合うのかもしれねぇな。住んでいるのも環境も同じ人間なのにな。」
 スサノオはとても楽しそうだった。
 「考えたってしかたありませんわ。伍に行ったら消えてしまうかもしれないのですから。」
 アマテラスはため息交じりにスサノオを諭した。
 「俺は消えねぇ。絶対に伍で意思を持ってやる。」
 「ま、とりあえず、頑張ろうか。」
 アマテラスとスサノオの正反対な反応を見ながらツクヨミは軽くほほ笑んだ。
 記憶はそこまでで砂の様に流れて消えた。

 ナオは茫然とその歴史を見ていた。
 「……彼らはそうやって向こうへ行ったのですか。……向こうへ行ってみたいですが……私では叶わなそうですね。こちらと伍の世界はもしかすると三貴神の縁でかろうじてつながっているのかもしれません。切り離されているが繋がっているのでしょう。その状態で私がデータとしてもし、介入してしまったら縁が切れてしまう恐れがあり、再び世界を壊してしまうかもしれませんね。」
 「……そういう事です。」
 ナオの言葉にKは静かに言った。
 「……もうわかりました。なんだか晴れやかな気分です。私はあちらへ行っていい神ではない。もちろん、ムスビを悲しませたくもない。だからもういいです。」
 ナオはどこかすっきりした顔で結界の外を見ていた。
 「ナオさん……いつか三貴神に会ってみたいね。」
 ムスビはナオの言葉に安堵し、柔らかな笑みを向けた。
 「そうですね……。ですが……私はもう罪神です。現世に戻ったら罪を償わなければ。」
 ナオはせつなげな表情でじっと宇宙空間を見据えていた。
 「罪か……。確かに色々やらかしたからね。……俺も背負うから。」
 ムスビはナオの手をそっと握った。
 ナオは抵抗せずムスビの手を強く握り返した。
 「ナオさん、お話が終わりましたら速やかに過去から持ってきたデータである栄次を元に戻してあげてください。もう探索はお済でしょう?このまま放置されますといずれエラーが出てしまいます。」
 ナオの心が晴れたタイミングでKが栄次に対しての処置について話した。
 「……そうでしたね。もう……概念になってしまった経緯は知ることができました。目標は達成です。栄次には感謝しきれないほどの感謝をしなければなりません。私達に協力し私達を守り……この長い歳月を共に過ごしてくれました。私達が勝手に連れてきたというのに……。申し訳ありませんでした。」
 ナオは栄次のそばまで寄るとそっと頭を下げた。
 「……俺は俺の判断をした。お前がエラーを見つけると言った時、俺は世界の事を考えて動こうとしているお前を立派だと思った。覚えているか?はじめは概念になった神々の歴史が存在しない事をお前は不思議に思って世界のために原因究明をしていたのだぞ。俺は今回の件に関われて見ているものがすべて正しいわけではないという事を知った。俺はお前のおかげだと思っている。」
 栄次はぶっきらぼうにそう言った。
 「栄次……。ありがとうございます。……もうあなたに手伝ってもらうことはないと思いますが……私達が生きているこの時代でまた会えることを祈っています。」
 「ああ。また会えるだろう。その前に俺は一つ壁を越えねばならぬようだが……。お前の言葉……心にしまっておくぞ。」
 「ええ。」
 ナオは栄次に軽くほほ笑んだ。
 「栄次、散々守られたけどあんた、過去に戻っても生き残れよ。それから俺達の事、忘れないでくれよな。」
 ムスビはどこか寂しそうに栄次に叫んだ。
 「叫ばんでも聞こえる。お前達が元気に存在していることを祈って俺は未来へ歩くぞ。さあ、もう用が済んだなら元へ戻してくれ。」
 「栄次……また会いましょう。」
 ナオはそっと目を閉じると表情の変わらない栄次に向かい、巻物を投げた。
 巻物は栄次を取り巻き、そこから電子数字が飛び出した。風が舞い、栄次の足元に五芒星ができる。巻物は栄次をまわると今度はムスビに向かって放たれた。
 「うわっ!」
 「ムスビ、栄次を連れてきた時と同じです。大人しくしていてください。」
 ナオの言葉にムスビはとりあえず動くのをやめた。
 そのうち、栄次の体が徐々に電子数字となって分解され始めた。
 「栄次……これでさよならです。今のあなたはデータの一部なので……おそらくいままであった事を忘れてしまうと思います……。ですが……っ!」
 ナオの必死の声に栄次が鋭い目をナオに向け、頷いた。
 「俺は忘れない。お前達がいた事だけは忘れずに元の時代へ戻る。」
 栄次は静かにそう言い放つと軽くほほ笑みながら消えていった。
 「じゃあな。」
 「栄次……ありがとう……お元気で。」
 ナオとムスビは電子数字が舞う空間をただずっと見つめていた。

十一話

 「では、あなた達もここから離れた方がいいでしょう。弐に入り込みすぎるとおかしくなりますよ。」
 栄次が消えてからKはどこかせつなげな顔をこちらに向け、そう言った。
 「……そうですか。わかりました。もうここにいる意味もありません。私達も元の世界へ行きます。」
 ナオは覚悟を決めた顔で大きく頷いた。
 「ではあなた達は私が元に戻します。」
 Kの少女はそう一言言うと素早く手を上げた。
 刹那、ナオとムスビの意識がぷっつりとなくなった。突然に目の前が真っ暗になり自分達は本当にデータだったのだと再認識した。
 Kの少女はナオとムスビが電子数字へと変わり消えていくのをただじっと見つめていた。
 ……こちらの世界は世界が長い年月をかけてプログラム化させた電子に近い世界。本当は向こうの世界よりもこちらの方が神も感情も何もないの。皆プログラムでデータだから……。
 ……まあ、だからこちらは常に平和なんだけど。大きな争いもないし、自然破壊もない。人間が起こしたエラー、戦争や破壊で世界に備わっていた防御システムが作動してしまった。そもそも異常なのだ。生物は元々、自分の命を軽く見たりしないし、生物を大量に殺傷しようなどとも思わないようにできている。食べるため、自分の命を守るためにやむを得なく生物を殺すの。人間のように大量に殺すための兵器を作る事もないし、相手を差別したりもしないし、自殺……だってしない。
 本能に逆らって生きている人間はこの世界にとって一番の失敗作かもしれない。
 ……私達Kは世界から利用されているのだ。平和を願うだけの心で世界のバランスをとるために……。
 Kの少女はそっと目を閉じると静かにその場所から消えていった。


 気がつくとナオはナオの歴史書店の自室で眠っていた。隣ではムスビも眠っていた。
 ナオはゆっくり体を起こす。
 「……ん……えーと……私は……。」
 ナオは寝ぼけた頭で考えつつ、とりあえず隣で寝ていたムスビを揺すった。
 「むう?」
 ムスビは揺すられて薄く目を開いた。
 「ムスビ……なんで私達、ここで眠っていたのでしょうか?」
 「んむ……?なんでだかはわかんないけど……弐の世界にいたからじゃない?」
 ムスビは目をこすりながら大きく伸びをした。
 「あ!そうでした!私達はKに会って世界のシステムを知り、そして栄次と別れました!」
 ナオはふと色々な記憶を思い出し、勢いよく飛び上がった。
 「うわっ!ナオさん?いきなり飛ばないでよ。びっくりするじゃないか。」
 あくびをしていたムスビは思わずあくびを飲み込むぐらい驚いていた。
 「ムスビ!こうしちゃいられません!高天原に今見てきたことをお話しましょう!」
 「うわあ!ちょ、ナオさん!」
 ナオは素早くムスビの腕を掴むと歴史書を避けて外へ出た。歴史書店の外は青い空がどこまでも続く心地よい世界だった。春のやわらかな風が桜の花びらをのせてナオ達の頬を撫でる。
 「……っ!?もう春なのですか?知らぬ間に一年が……。」
 「弐の世界はほんと不確定だね。一日や二日だと思っていたのに平気で二、三か月過ぎているじゃないか……。」
 目を丸くしているナオにムスビは呆れたため息をついた。
 しばらく春の陽気を感じていたナオ達だったがその平穏も束の間だった。
 「ああ、やーっと見つけたか。」
 ふと強い風が吹き、ナオ達の目の前に高天原西のトップ、剣王が不気味な笑みを浮かべながら立っていた。
 「……っ!」
 ナオ達は突然に現れた剣王に声も出なくなるほどに驚いた。
 「ほんと、困ったもんだNE。」
 剣王の影から袴姿にサングラスの奇抜な少女、高天原東のトップ、ワイズも顔を出した。
 「け、剣王とワイズ……。」
 ムスビとナオの顔はいままでにないくらいに青かった。
 「お前達がやった数々の罪、忘れたわけじゃないよNE?」
 「あ~、悪いけど厳しい処罰を受けてもらうよ。」
 ワイズと剣王は同時に神力を解放した。言葉が神力に乗り、雨の様に落ちてくる言雨(ことさめ)がナオとムスビの自由を奪った。
 「うっ……。」
 上から神力に押さえつけられ、体は自然と土下座の体勢に動かされる。ナオとムスビは言葉を発することもできず、冷や汗だけが地面を濡らした。
 「色々知ってしまったねぇ……。まあ、それは最終的にいいとして……。」
 剣王は動けないナオの腹を蹴とばした。
 「あぐっ……。」
 「ナオさんっ!」
 ナオは無残にも地面に転がった。ムスビは青い顔のまま剣王を睨みつけた。
 「あんたにも罪があるが……あんたの罪は軽い。……だが、霊史直神は許される罪じゃあない。」
 剣王は倒れているナオの腕を潰すように踏みつけた。
 「いっ……!」
 ナオの顔に恐怖の色が浮かび、腕の痛みに喘いだ。
 「残念だな……。それがしの部下であったことを悔いるといいよ。それがしは……それほど女に容赦はしない。……何度も言っているけどね。」
 剣王は再びナオの背中を強く踏みつけた。
 「ああうっ!」
 「やめてくれ!あんたの暴力は俺達がくらう罰とは関係ねぇんだろ!」
 叫ぶナオを庇うべく、ムスビは力の限り剣王の足にしがみついた。
 「何言ってんの?散々かき回しといてそれはないよねぇ?お前らは平穏に生きている神々をことごとく混乱させ、重要なポジションを守っている蛭子や天津を不安定にさせたんだ。お前らは自分の行いがわかってねぇ。それがしが許すとでも思ったか?許すわけねぇだろ!」
 剣王は珍しく怒鳴ると足にしがみついていたムスビを強靭な脚力で蹴り飛ばした。ムスビは近くの住居の壁に激突し、血を吐きながら倒れた。壁は勢いよく崩れていた。
 「あぐっ……がふっ……。」
 ムスビは苦しそうに呻いていた。
 「ムスビっ……。」
 「あー……やりすぎた。軽く蹴ったつもりだったんだけどなあ。男相手だと手加減がわからないもんだねぇ。あ、ていう事はそれがしは意外に女に手加減してるって事か。なるほどなあ。」
 剣王は恐怖で涙を流しているナオをちらりと見つめながら飄々とそうつぶやいた。
 「剣王、やりすぎだYO。アツくなるな。ここは現世だYO?破壊された壁を見て人間達がまた騒ぐだろうがYO。」
 ワイズは呆れた声で忠告はしたが別に何かするわけではなかった。
 「ま、もうあの男は動けないだろうね。まだなんか吐いているし。もう罪神だから別に同情はしないけど、死なれると困るからもうやめとくよ。」
 剣王が冷酷な表情でナオの髪を掴んだ。
 「ひっ……。」
 「さてと……高天原に行く前にそれがしのお仕置きをしっかり受けてから……。」
 「剣王、あんたね……いっとくけどそれ、変態のセリフだからね。」
 「ん?」
 すぐ近くで女の声が聞こえた。
 剣王は声のした方を向き、歩いてくる黒髪の女を視界に入れると大きなため息をついた。
 「はあ~……君か。ことごとくめんどくさいなあ。あれは恐怖心をあおるためであって、実際にはそんな酷い事はしないって~。」
 剣王は女にも飄々と答えるとナオの髪から手を放した。
 「あ、あなたは……。」
 ナオもそっと前を向き、女を視界に入れた。猫のような目で愛嬌がある少しパーマかかった黒髪をなびかせている少女。頭には太陽の冠、仙女のような赤い着物を着ている。
 「久しぶりだね。あたしは太陽神のトップ、輝照姫大神(こうしょうきおおみかみ)、サキだよ。覚えているかい?」
 サキは猫のような目を細めると軽くほほ笑んだ。
 「サキ……さん。」
 「全く……壱の世界でやっとイクサメと剣王とKの人形の件が終わったばかりなのに……。またKの関係云々でこっちの世界も騒がしくなっているとはね。」
 サキは誰にも聞こえないようにぼそりと小さくつぶやいた。
 太陽と月の神は、霊的空間の壱と陸を交互に動いているため、壱と陸に同じ神が二神おらず、太陽神と月神は壱と陸の世界両方の状態を常に把握している。
 サキは再び口を開いた。
 「ああ、実は時神のアヤもいるんだ。なんとなく意気投合して友達になったんだよ。」
 ……まあ、壱の世界ではもうとっくに友達だけど……。
 サキは最後の言葉を飲み込み、アヤを紹介した。
 サキの影からそっとアヤが顔を出した。
 「で?そんな友達報告を聞いているほどそれがしは暇じゃないんだけどなあ。」
 しびれを切らした剣王が呆れながらサキに口を挟んだ。
 「ああ、そうそう。ナオを許してやってほしいんだよ。前にも言ったっけ?あたしは別になんとかなったし。」
 サキは腰に手を当てて剣王をまっすぐ見つめていた。
 「あのねぇ……。君も散々太陽をおかしくされていたじゃないの。それに……ナオがやった事は大罪なんだよ。それがしだけの意見で許してあげる事は不可能でね。」
 剣王はサキを眺めながら不敵に笑った。サキはそれを余裕に受け止めた。
 ……こちらの世界ではみー君はいない。だけど……あたしは交渉でこいつに勝ってみせるよ。ナオは大切なことに気がついた。それを知ったうえでこの世界を生きるのもきっと悪くない。
 サキは陸では敵であった天御柱神(あめのみはしらのかみ)、みー君とは壱の世界ではかなり親密な関係にある。
 壱ではみー君に頼りきりだったサキも陸の世界ではひとりで戦わねばならない。
 サキは剣王相手に軽く笑った。
 「そういうと思ったんだよ。だからね……。」
 サキは懐から高天原南の権力者、オーナー天津と天界通信本部の蛭子、北のトップ冷林の署名を取り出した。
 「……彼らはナオに軽い罰だけで許すと言っている。ナオは竜宮を救い、冷林の封印を解いた。世界にもたいして損害はなく、気づかされたことは胸に秘めて今後は動揺の色を見せないと誓う。そして西の剣王軍、流史記姫神(りゅうしきひめのかみ)と東のワイズ軍の龍雷水天神(りゅういかづちすいてんのかみ)の暴走を止めたのもナオである。剣王とワイズにもそこのところをよく理解するべきだ……とね。そうだよねえ。ヒメちゃんとイドさんの事を解決したのもそういやあナオだったような……。」
 サキは剣王とワイズをちらりと横目で見た。
 「まあ……確かにそうだYO。じゃ、私も許す方に署名するNE。」
 ワイズはなぜかとても素直にナオを許す方に走った。彼女は一度、Kと融合したことがある、これはKの意思なのかもしれなかった。それか単純に自分が不利にならないように動いているのか。
 「ワイズまで……はああ……。これじゃあそれがしの過失だけ残っちゃうじゃない。まあ、いいけど。」
 剣王は深くため息をついた。
 「ふふん、歴史神は私の部下じゃないから実際は関係ないんだがYO。龍雷(りゅういかづち)の事をだされちゃあ仕方ねぇってもんだYO。」
 ワイズは剣王が困っている所を楽しそうに見ていた。
 「んで、とどめにこれ。」
 サキはまた懐から一つの署名を取り出した。
 「……んげ……月照明神(げっしょうみょうじん)の署名まであるのっ!今回関係ないじゃない。月は……。」
 剣王が弱り切った顔で頭を抱えた。
 「ふふん。あたしの神脈(じんみゃく)をナメるんじゃないよ!剣王。」
 サキは自慢げに胸を張った。月神とは壱の世界で月神トップの月照明神の妹月子をサキが救った事で交流があった。
 「流石アマテラスの後継……。天津はアマテラスの子だし、冷林は部下に狐耳の太陽神の穀物の神がいる……おまけに蛭子はアマテラスの兄……月照明神はツクヨミだからか。」
 剣王はどこか悔しそうだったが、やがてため息交じりにナオ達を許した。
 「よし。ナオ良かったね。アヤにもだいぶん協力してもらったけど、次にこういう事があったら庇えないからもう無茶はしちゃダメだよ。」
 「……サキさん……。ありがとうございます。」
 サキの眩しさに、ナオは目に涙を浮かべながらそっと頭を下げた。
 「な、ナオさん……大丈夫?」
 ふと横でムスビの声が聞こえた。ナオは慌てて声のした方を振り向いた。
 ムスビはアヤに肩を貸してもらいながら、フラフラと立っていた。
 「わ、私よりもムスビの方がっ……。」
 「俺は大丈夫……ごほっ……ナオさんが心配だよ……。」
 「あー……もう、わかったから。仕方ないから治療してやるよ。」
 ナオがムスビを見て震えているので、剣王がバツが悪そうにムスビを引っ張った。
 「あなた、乱暴にしてはダメよ。彼はケガをしているのだから!」
 時神アヤにも怒られ剣王はさらにつまらなそうな顔でムスビのケガの具合を見始めた。
 

最終話

 剣王がムスビのケガを見ている間、ナオはゆっくりと立ち上がりアヤとサキに再び頭を下げた。
 「本当にありがとうございました。太陽をあんなにしてしまったのに私達を許すと……。」
 「まあ、本当はあまり許せないんだけど、下心があるからね。今度、あたしが困ってたら助けてよ。ね?お願い。」
 サキはナオにいたずらっぽい笑みを向けた。
 「サキってけっこう現金な女よね。」
 アヤの言葉にサキは「まあね」と再び笑った。
 「ええ……何かありましたらお助けいたします。」
 ナオは生真面目にまた頭を下げた。
 「あーあー、そういうのじゃなくてね。ほら、お友達になっとこうよって話で。」
 「出た。サキのお友達になろうよってやつだわ。」
 サキは愛嬌を振りまいてナオを窺った。アヤはそれに呆れたため息をついた。
 「友達……ですか?」
 「うん。あんたもまだ若そうだし、悪い話じゃないっしょ?ね?」
 「え、ええ……まあ、そうですね。」
 「じゃあ、友達ね!あ、今度お花見やろうじゃないかい!」
 「え、ええ……おは……お花見ですね……。」
 サキの気分にナオは戸惑いながら頷いた。
 「あー、青臭いNE。これだからガキは……。じゃ、私はもう行くYO。要件は済んだだろがYO?私も業務で忙しいんでNE。」
 ワイズはこの場の空気にうんざりしながら一方的に話すとさっさと鶴を呼んで帰ってしまった。
 「あの神は幼女の外見なのにじじ臭いわね。」
 アヤの言葉にサキは笑った。
 「あの神は長く生きているからねぇ。なんでじじ臭いのかは知らないけど。」
 アヤとサキの会話で、ナオはワイズの歴史を話そうと思ったがやめた。話したからと言って何も変わらないからだ。
 「ま、とりあえず、今度花見ね?」
 「そうそう花見だよ!楽しもうじゃないかい!連絡は今度するよ。」
 「わかったわ。付き合ってあげる。ナオも来なさいよ。」
 「……は、はい。」
 サキとアヤの勢いに押され、ナオは小さく返事をした。
 すぐ近くでムスビの「いててて!」という声と剣王の「我慢してねぇ~男の子でしょ~」という謎のやりとりがやたらに大きく聞こえた。


 それから三日が経った。ナオとムスビは始末書と今から一週間後に一か月の封印の罰を受ける事を言い渡された。
 ムスビのケガはもう治ったようだった。
 「ムスビ、痛みはどうですか?」
 「んん……まあ、痛いけど平気だよ。それよりもナオさんこそ、あの剣王に何度も蹴られていたよね。大丈夫?ほんと、女の子相手に酷いよね。」
 「私も大してひどくはありません。剣王はかなり手加減をしたようですね。あの方は言っている事とやっていることがたまに違う時がありますから……。」
 ナオとムスビは現在、天記神の図書館前まで来ていた。
 一週間後に一か月の封印を受けなければならないため、その前に借りた本を返しに来たのだった。
 弐の世界の時神の本。最初から文字化けしていて読めなかった本。壱の世界の時神アヤが書いたとされる本。
 壱の世界に行けばこの本は読めたのだろうか。
 そんなことを思いながらナオ達は重たい図書館の扉を開いた。
 「こんにちは。」
 ナオとムスビがそうっと中に入ると天記神ともう一神、中にいた。
 茶色の髪を総髪にして、侍のような格好をしている若い男……。
 「え、栄次!」
 「ん!?なんだ?……えーと……ナオとムスビか?」
 栄次は驚いているナオとムスビに軽く手を振った。
 「な、なんでここにっ……?」
 ムスビが動揺しながらもかろうじて声を上げた。
 「いや、二百年ぶりくらいか?久しいな。」
 「……?」
 栄次の言葉にナオとムスビは完全に固まった。
 「いらっしゃい。あら……あなた達、無事だったのね。」
 固まっている時に呑気な天記神がナオとムスビに気がつき、ほほ笑んだ。
 「あ、あの……どうして栄次が?」
 「え?ああ、彼は参(さん)の世界の平成から来たのよ。つまり、平成が過去になってしまった世界からここに来たの。この図書館は同じ一本の時間軸はダメだけど別の世界ならばリンクしているのよ。参(過去)の世界の平成、肆(未来)の世界の平成ならば今とリンクしてその時代の神がここへ来る事ができるの。言ってなかったかしら?」
 天記神が丁寧に説明してくれた。
 「そんな事……言ってたかなあ?」
 「まあ、それはいいです……。とりあえず理解はできました。不思議な事もあるものです……。また会えましたね。栄次。」
 動揺しているムスビを落ち着かせながらナオは栄次にほほ笑んだ。
 「ああ。約束通りお前達の事は忘れなかった。その他の記憶はほとんど覚えていないのだが。」
 「そうですか……。それでも私達を覚えていてくれた事、とてもうれしいです。」
 「忘れないと誓った事だけは覚えている。でも俺はそれでいいと思っている。」
 「そうですね……。ここに来ればまたあなたに会えますから。」
 ナオと栄次がいい感じに話しているとムスビが不機嫌そうに咳払いをした。
 「ムスビ?」
 「な、なんでもないよ。それよか、ほら!本を返しなよ。」
 「……え、ええ。あ、あの……本をお返ししますね。」
 ナオはムスビの変貌に戸惑いながら天記神に本を返した。
 「あら、ありがとうございました。ふふっ……。」
 天記神は本を受け取ると意味深に笑っていた。
 「ナオさん、今日は花見だろ!本返したらさっさと行くよ!」
 「ええ?ムスビ……何を焦っているのですか?」
 「焦ってないよ。栄次、いいか。ナオさんがお前に振り向くことはないからな!」
 ムスビはナオに優しく対応してから栄次に念を押すように言った。
 「何を言っているのだ。お前は……。」
 栄次は呆れながらため息をついた。
 「栄次、あなたにはこれから試練が訪れるでしょう。ですが……心に従って進んで下さい。そしてまた……私達を思い出してくださいね。」
 ナオはこれから栄次に起こるだろう事を心配した。
 「栄次、ぶっ壊れたら承知しねぇからな。絶対にまた会うぞ。」
 なぜかムスビは荒々しくそう言い放ち、ナオを連れて図書館から出て行ってしまった。
 遠くからナオの「ムスビ!どうしたのですか!」と叫ぶ声が風に乗って聞こえてきたがムスビの声はそれきり聞こえなかった。
 隣で天記神はクスクス面白おかしく笑っている。
 ……花見か……。桜……。
 栄次は閉じられた図書館の扉を眺めながら、これから会うであろう、更夜とスズがいる、桜が舞うあの門を頭に思い描いていた。


 世界は回る。一定を保って。
 この世界は狂わずに回る。何があっても。
 それがTOKIの世界を生きる者達の願い……。
 

(2018年完)本編TOKIの世界書四部「明し時…最終話」(歴史神編)

(2018年完)本編TOKIの世界書四部「明し時…最終話」(歴史神編)

神々の歴史を管理する神、霊史直神(れいしなおのかみ)ナオは改ざんされた神々の歴史の一部を見つけた。 その歴史を追及するために暦結神(こよみむすびのかみ)ムスビとこの世界に隠された謎の究明をしていく。 データ化された神々の歴史のほころびを見つける事ができるのか? これで四部はおしまいです!! 次はついに最終部です。

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登録日
2017-04-19

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  1. リグレット・エンド・ヒストリー
  2. 二話
  3. 三話
  4. 四話
  5. 五話
  6. 六話
  7. 七話
  8. 八話
  9. 九話
  10. 十話
  11. 十一話
  12. 最終話