車窓に見ていた
あの日 私は
私 を 壊すために 電車に乗った
階段を降りた ホーム
白い靴下をはいた 制服の少女たち
エルメスのトートバッグをさげた女
寝不足です 疲れてます
でもそれなりに 幸せに暮らしてます
そんなスーツを着た 男
彼女ら 彼ら を見送って
午前7時3分発 下り 普通列車
がらがらの車内
廻る世界から 遠ざかるため
日常から はみ出すため
2人がけの隅を選んだ
私 を 壊すのだと
思い詰めていた 昨夜の私を
耳元で あの子が 歌って
肌にすり込んだ 香水が
私を 子どもじみた気持ちにさせた
悲しいことは ひとつも なかった
痛みも 絶望も 寂しさも
不安も 恐怖も
未来 も 全て 消えて
ただひたすら 従順に
教えられた通りに 電車を乗り継いで
知らない街を 目指していた
とても晴れた 美しい日だった
春だったのか 秋だったのか
寒かったのか 暑かったのか
少しも思い出せないけれど
空がとても 青かったこと
穏やかに 澄み切っていたこと
それだけが まだ 私に残っている
あの日 車窓から見た
通過していく 幸せ を
遠くから 描こうと している
壊れた私は 私だった
ただの 私だったのよ
車窓に見ていた
切り貼りしたあの日のこと。
駅の名前をもう思い出せません。