花の名前

花の名前

夢の香りは花の匂い。

花の名前で呼ばれることを
自ら 選んだ
いくつかの街


夢を売るのだと 言い聞かされた

時間 を買うのだと あなたは言った

夢。

時間。


どちらも 持ち合わせていない私が

あの夜

売っていたものを 何と呼ぼうか



「セット料金、
お客さん初めて来ていただいたんで

サービスしますよ!

40分 ワンセット

◯千円 ポッキリ!

ご案内お願いします。」



「はじめまして

こんばんは。

なに 飲まれます?

あ、乾杯したいし

あたしも一杯だけ飲んでもええ?

ありがとう。いただきます。」


私が売ったものは

何だったのだろう


ミラーボールが回る2階で
花の名前になったあたし

赤い絨毯が敷かれた地下で
花の名前で呼ばれたあたし

積み上げたウソ

振りまいた
安い香り


「今度 デートしようよ。

名前、教えて?」



「この後 飲み行こうや。

名前、なんて言うん?」


夢から醒めたがる あなたたちを

あたしは 笑って 引き戻す

11桁の番号と 薄紫色の名刺
あたしはここよ ここにいる。


あなたが入れた V.S.O.P

内緒話をするように

氷が溶ける音がした


夜の色が消え始めて
一瞬だけ静かになる街に
夢を買った 男たちが帰って行く


ドレスを脱いで 煙草をくわえて
今夜
私が売った あたし を消していく

青い道路を走り抜ける
制限速度を無視した車の中

私は彼女と
今夜の夢を 少しだけ 笑う


交差点に立つ 信号が変わるのを待ちながら
夜と朝の間にいる
私とあたし を 誰が 見つけられるの
冷蔵庫の中を思いながら ヒールを鳴らす横断歩道


誰も居ない部屋 鍵を回して

花の名前のあたしに おやすみ

朝が始まる音

毛布に包まって 世界に背を向ける


花の名前で生きた街。

花の名前で呼ばれたあたし。

花の名前

夜の仕事をしていた頃。花の名前の源氏名。

花の名前

源氏名で笑っていた夜。 ピンヒールとドレスとグラス。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-30

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted