例え、共に死ねずとも

お久しぶりです。漫画も描きたい、小説も書きたい、絵も描きたい、空由佳子という者です。絵や漫画を書いていたら、小説がなかなかに書き辛い……。難しい物ですね。
さて、久々になんとなくまとめられそうなネタが頭に浮かんだので、書いていきたいと思います。
と言っても、超々短編小説になる予定です。本当に思いついた、呟き程度の物ですので。
そして相変わらず、ハヤブサさん×シュバルツさんでごめんなさい。
この世界観、楽しめる方だけどうかお楽しみ下さい。

暗闇の中、人が倒れているのをシュバルツは見つけた。
(誰だろう?)
近づいて行って絶句する。それは、シュバルツの最愛の人である、リュウ・ハヤブサその人であったからだ。

「ハヤブサ!!」

叫びながら駆け寄ると、足元でビシャッと水滴が跳ねる音がする。
雨も降っていないのに、この水溜まりは何だろうと思いながらも、シュバルツはハヤブサの傍に屈み込んで声をかけた。
「ハヤブサ!!」

「シュ………バルツ………」

やけに覇気の無い瞳をこちらに向けてくる龍の忍者。シュバルツは思わずハヤブサの身体を抱き起こしていた。
「ハヤブサ!? どうした!! しっかりしろ!!」
シュバルツの呼び掛けに、腕の中のハヤブサはふわりと笑う。

「良かった……。最期………に、お前と………会えて………」

「最期?」
シュバルツは瞬間、何を言われたのか理解出来なかった。ふと、ハヤブサを抱き支えている手に、ぬるりとした感触を得る。
「?」
疑問に思ったシュバルツは己が手を見て────絶句した。何故ならそこは、血で真っ赤に染め上げられていたのだから。
ピチャ………ピチャ………と、音を立てて滴り落ちている血が、辺り一面を紅の水溜まりを作り上げている。
(嘘だろう……!?)
明らかに血を流しすぎているハヤブサ。彼が重篤な状態に陥っていると否が応でも突きつけられた。
「ハヤブサ! しっかりしろ! 直ぐに手当てを───!」
そう言って立ち上がろうとするシュバルツを、ハヤブサが押し止めた。
「良い………。シュバルツ………。俺はもう、助からない………」
「ハヤブサ………!」

「俺は………もういい………。もう、充分生きた………」

そう言って、ハヤブサはふわりと微笑む。

「もう………良いんだよ、シュバルツ………」

「そんな………!」
それに対してシュバルツは、ただ否定するように頭を振るしかもう出来なかった。

分かっていた。
アンドロイドである自分と、生身の人間であるハヤブサ。こういう別離は、いずれ来るのだと。

だけど
だけどまだ────早すぎる。

こんなのは
もっと先なのだと───信じて居たのに………!

「シュバルツ………今まで、ありがとう………」
「ハヤブサ………」

「愛……して…………」

パタン、と、ハヤブサの手が地に落ちる。
「ハヤブサ………!」
呼び掛けても、もう動く事の無い、愛すべき人。
(嘘だ………!)
シュバルツが何度も目の前の出来事を否定しようとしても、ハヤブサが死んだ事実は絶望的なほどに動かせなくて。

嫌だ。
嫌………
帰ってきてくれ、ハヤブサ───!

(DG細胞を使えば………)

不意に、誰かが囁きかけてきた言葉に、シュバルツはピクリと反応する。

そうだ。DG細胞。
これを使えば────

「………………」

ふらり、と、シュバルツの手が動く。だがそれに、待ったをかける声があった。

(何をやっている!?)

 何って……DG細胞をハヤブサに移植するんだ。そうすれば、ハヤブサは生き返────

(違う! そんなことをしても、ハヤブサは生き返らない! 冷静になって考えてみろ! お前の目の前には今、何がある!?)

「………………」

(『DG細胞』と『死体』だ!!)

「─────!」

(それを使って、出来上がるのは『何』だ!?)

「………『自分』だ………!」

 そこに思い至ったシュバルツは、目の前が真っ暗になるのを感じた。
 そうだ。これをしても、ハヤブサが『ハヤブサ』として生き返る術はない。ハヤブサの全人格と記憶を奪い、まさに『自分』を、もう一体作るだけだった。
 まして、キョウジの時のように、『弟を守るため』という祈りにも似た『ココロ』はここには存在していない。ただただ『ハヤブサを失うのは嫌だ』という、自分勝手な弱い心の叫びだけだった。

(駄目だ………)

 そんな気持ちで
 そんな『ココロ』で
 ハヤブサの眠りを、妨げてはいけない。
 龍の忍者は、その『生』を全うしたのだ。ならば丁重に────その魂は彼岸へと送り届けられるべきで。
 死して尚、その身体を使役し、弄ぶようなことがあってはならないのだ。

 でも、辛い。受け入れられない。
 ハヤブサの『死』は、シュバルツに己が半身をもぎ取られたような、耐えがたい痛みと孤独をもたらしていた。

 嫌だ。
 淋しい。

 独りにしないで
 傍にいて

 置いて逝かないでくれハヤブサ────!

「ハヤブサ……!」

 縋るようにその名を呼ぶ。
 それは誰にも届かず、地に落ちるはずの声。
 だがその時、それに応える者がいた。

(シュバルツ!)

「え…………?」

 それは、聞こえるはずのない、ハヤブサの声だと感じたから、シュバルツは思わず辺りを見回していた。
 すると、光の中から手が伸びてくる。
 その手はシュバルツの腕を掴むとと光の中へと導くように引っ張って─────

「シュバルツ! シュバルツ!!」

 パシ、パシ、と、自分の頬を叩かれる感覚に、シュバルツは目を覚ます。すると視界に飛び込んできたのは、自分を心配そうにのぞき込む、リュウ・ハヤブサの顔だったから─────

「あ……………?」

 シュバルツは何が起こったのか、咄嗟に判断できずに混乱する。瞳から涙がこぼれ落ち、呼吸が勝手に乱れた。
「シュバルツ……大丈夫か?」
 ハヤブサの手がそっと頬に伸びてきて、優しく涙を掬い取る。二人は産まれたままの姿で、同じ褥の中にいた。
「すまないな……。きつく抱きすぎたかもしれない。本当なら、もう少し、寝かせてやりたかったのだが………」
「あ…………」
 ハヤブサの言葉に、シュバルツはようやく今の状況を思い出す。
 自分はつい先程まで、ハヤブサに激しく抱かれていた、と言うことを。


 キョウジのアパートの傍にある大きな木の上でくつろいでいたシュバルツのところに、ハヤブサは突然押しかけてきた。
「シュバルツ……!」
 いきなり、唇を深く奪われる。
「んっ! ………ッ! な、何を────!」
 咄嗟に振り払おうとして、視界に飛び込んできたのは、ハヤブサの切羽詰まった切なそうな眼差し。
「!?」
 どうした、と、聞く間もなく、また唇を深く奪われる。身体を強く抱きしめられる。

 その唇が
 抱きしめてくる腕が
 身体が

 小さく震えていることに気づいてしまった、から。

「ん……………」
 シュバルツは抵抗することあきらめ、身を委ねた。すると龍の忍者は、シュバルツの身体を強引に抱き上げる。
 そしてそのまま、傾れ込むように旅館へと連れ込まれて─────

 褥の中で、激しく抱かれた。
 貪るような愛撫に、強引にこじ開けられる身体。
 時に強く組み敷かれ、シュバルツは身体のあちこちに痣を刻まねばならなくなった。

「あ………! ハヤブサ……ッ! き、つ………い………ッ!」

 こちらをあられもない格好に押さえつけて、最奥をかき回してくる龍の忍者に、シュバルツは何度も限界を訴える。しかし、こちらを切羽詰まった眼差しで見つめながら蹂躙してくるハヤブサに、自分の声は届かないようで。
「シュバルツ……! シュバルツ……!」
 ガリッ、と、強く乳首を噛まれ、歯形が刻まれる。身体を強く押さえ込まれながら、肌をきつく吸われる。
「あ………! うあ………ッ!」
 身体のあちこちに、容赦なく痣の花を散らされる。
 まるでこちらを痛めつけるのが目的なのかと錯覚してしまいそうになる程に。

 だが。 

 縋るような眼差しが。
 震えている身体が。
 こぼれ落ちる涙が─────

 ハヤブサの切羽詰まった心情をシュバルツにダイレクトに伝えてくるから、シュバルツももう、ハヤブサに何も言えなくなってしまう。

(これは………任務で何かあったか……?)

 ハヤブサに身を任せながら、シュバルツは何となくそう感じていた。ハヤブサはこちらを痛めつけながら、まるで、自分を責めているようにも見える。
「ハヤブサ………」
 だからシュバルツは、ハヤブサの身体にそっと優しく触れた。彼に、自分の『赦し』の意思を伝えるために。

 私は構わない。
 どのように抱かれても、蹂躙されても─────
 存分に引き裂け。
 存分に切り刻め。
 お前が明日を生きていくために、必要な行為であるというのなら。

「ハヤブサ……! あっ!!」

 腰から脳天にかけて突き抜けるような快感に、シュバルツは思わずハヤブサに縋り付く。その時、シュバルツの右手に、ぬるりとした生暖かい感触の物が絡みついてきた。

「?」

 何に触れたのか確認しようと、シュバルツは己が右手を見る。そして────絶句した。
 何故なら自分の右手が、『血』らしき物で真っ赤に染まっていたからだ。
「な─────!」
 自分の右手がこんなに血だらけになるほど切れているはずがない。ハヤブサが傷を負っている可能性があった。
「ハヤブサ………!」
 このままではいけない。彼の傷を確かめなければ、と、シュバルツはもう一度、ハヤブサの背に手を伸ばそうとする。しかし、その右手は寸前のところでハヤブサに絡め取られ、ダンッ!! と、布団にたたきつけられるように押さえ込まれてしまった。
「あっ!!」
 そのまま後ろから、羽交い締めにされるように押さえ込まれる。なおいっそう、楔を深く打ち込まれた。
「駄目……だッ! ハヤブサ………ッ!」
 シュバルツは必死に、その体勢から逃れようとする。彼の傷の手当てをする方が先だと思ったからだ。
 しかし、ハヤブサの腕が、足が、楔が────それを許してくれない。犯される深度は深まっていくばかりで。
「ハヤブサ………! ああっ!!」
 ハヤブサの傷を確かめることも出来ないままに、シュバルツは何度も高みへと追い込まれてしまうのだった。


「シュバルツ……!」

 木の上で黄昏れていた愛おしいヒトを見た瞬間、ハヤブサはどうしようもない焦燥感に駆られた。

 会いたかった
 会いたかったんだ
 シュバルツ……!

 有無も言わさず、唇を奪う。

「ん………!」

 一瞬シュバルツから抵抗されたが、すぐに彼は身を委ねてきてくれたから。
 そのまま、彼を強引に拉致る様に、旅館へと連れ込んでいた。
 褥に入り、すぐに彼を暴き立てる。

「あ…………!」

 愛おしいヒトは身を捩りながら、すぐにしどけなく乱れてくれた、から。
 その肌に。
 その甘さに。
 美しさに。
 際限なく溺れたいと、願った。

 なのに、目を閉じると浮かんでくるのは、先程までいた戦場の映像。

 請け負ったミッションは、無事に成し遂げた。
 報償も手に入れ、『龍の忍者』としての栄誉も、また、自分は積み上げたらしい。

 だが─────それが何だというのだろう。

 ならば、あそこで転がっていた骸は。
 救えなかった命は。
 見捨てた命の数は─────

 動かぬ娘を抱きかかえて、泣き叫ぶ父親の慟哭が耳朶を打つ。
 親を求めて叫ぶ子どもの声が、後を追いかけてくる。

 自分は、何が出来た?
 何が出来た?
 何も─────出来なかったではないか。

「あ………! あ…………!」

(シュバルツ………)
 腹の下で身をのたうたせる愛おしいヒトを見つめながら想う。
 この優しいヒトを、あの悲惨な戦場に連れて行かなくて良かったと。
 このヒトがあんな光景を見たら、酷く傷ついてしまうだろう。総てを投げ出して、総てを救おうと、してしまうだろう。

 そんなことはするのは愚かだ。愚の骨頂だ。
 自分が生き延びるためには、絶対にしてはならないことだった。
 命は、選択されてしまうのだ。
 もうすでに世界は─────『平等』ではなかった。

 だが、俺の腹の下にいるこのヒトは
 総てに手を差し伸べようとするのだろうか。
 俺が思いも付かないような方法で、総てを救おうと、するのだろうか。

 答えてくれ、シュバルツ。
 お前は本当に─────そこに、居るのか?
 そんな愚かなことをする奴が、今、本当に俺の腕の中に、いるのだろうか。

 肌に吸い付き、キスマークをつける。
 だが、その白い肌は、すぐにその跡を消してしまう。
 彼のヒトを形作る『DG細胞』は、その再生力故に、少しの傷も、その肌にとどめ置くことを許さなかった。

 嫌だ。
 嫌だ。

 俺はお前に─────自分の存在を、刻みつけておきたいのに。

 ガリッ、と、強く噛みついて、歯形を肌に刻みつける。更に強く吸い付いて、身体のあちこちに、青い痣の花を咲かせた。
「あ…………! うあ………ッ!」
 悲鳴をあげる愛おしいヒト。それとは裏腹に、俺を受け入れている秘所が、甘く震えて締め付けてくる。

 ああ─────気持ちいい。
 それを、もっとよこせ。
 もっと。
 もっとだ。

 深く深く彼のヒトを抉ると、その刺激が耐えられないのか、シュバルツが縋る様に抱きついてきた。その時、彼のヒトの右手が、自分の背中の傷に触れる。
「─────ッ」
 痛みに顔をしかめている間に、愛おしいヒトも、俺の血によって染め上げられた右手を見て、顔面を蒼白にしていた。
「ハヤブサ……! 怪我を─────あっ!!」
 手を絡め取って、強く押さえつける。

 俺のことなどどうでもいい。
 今は、お前に溺れさせてくれ。
 お前と一つになりたい。
 もっと。
 もっと深く。

「ハヤブサ……!」

 だが、愛おしいヒトは嫌がるように頭を振る。
 必死に、こちらに手を伸ばしてこようとしているのが見える。
 それを、押さえつけて蹂躙した。

 俺のことなど案ずるな、シュバルツ。
 何も出来なかった。
誰1人として救えなかった、無力な俺など─────どうなってしまっても良いのだ。
 このまま、お前を抱きしめながら死ねたら

 最高に、幸せだ。

「ハヤブサ……! 怪我────んぅっ!!」

 自分を案じる言葉を聞きたくなくて、シュバルツの口に指を突っ込む。そのまま口腔を指で犯しながら、下から激しく突き上げた。
「んんっ!! んんぅっ!!」
 涙を飛び散らせながら足掻くシュバルツが、綺麗で愛おしくて堪らない。
「シュバルツ……! シュバルツ………!」
 夢中で縋り付く。
 貪る。

 ああ─────
 もっとだ。
 もっと、お前を寄越せ。

「ハヤブサ………!」

 口が自由になったシュバルツが振り向く。

「背中………! 怪我を………んんっ!!」

 唇を奪い、言葉を奪う。
「ん………! ん…………く…………!」
 腹の下で総てを受け入れながら、なおもシュバルツが足掻こうとしているのが分かる。

 いい。
 足掻くな、シュバルツ。
 このまま、お前に溺れさせて。
 例え、それで俺が死んでしまったのだとしても

 俺は、幸せに死ねるから。

「いや………! いや………だ…………!」

 シュバルツから発せられる、否定の言葉が胸に刺さる。
 飛び散る涙が切ない。
(嫌われたかもしれない)
 ちらりと思うが、今はこの行為を止められない。

 踏みにじってしまう。
 蹂躙してしまう。

 このまま─────お前の中に溶けてしまえれば良いのに。

「ハヤブサッ!! ああっ!! ああああっ!!」

 グチュグチュと、濡れた肉の擦れ合う音が響く。

「ああ………! あ─────…………!」

 羽交い締めにされた身体をわずかに震わせながら、腕の中の愛おしいヒトが絶頂を迎えた。
 ふわりと傾ぐ身体。
 飛び散った涙が、酷く綺麗だった。

「いや………だ………。ハヤブサ………。死なないで、く、れ…………」

 シュバルツは意識を手放してしまった。儚い、その言葉を残して─────

「──────!」
 シュバルツのその言葉に、ハヤブサもまた、はっと我に返っていた。
「シュバルツ………!」
 倒れているシュバルツに声をかけるが、完全に気を失ってしまっている愛おしいヒトは、ぴくりとも動かない。腹の下の姿は全身に青い痣の花を咲かせて、ぼろぼろに傷つけられていた。
 まるで、暴力や強姦の痕─────ハヤブサは、強烈な自己嫌悪に襲われた。
(何をやっているんだ、俺は………! また、酷くやり過ぎてしまった…………! シュバルツが総てを許してくれるのを良いことに………ッ!)

 自分の弱さが嫌で。
 自分の非力さが嫌で。
 半ば、八つ当たりのように蹂躙したのに。

 シュバルツはひたすらそれを受け止めてくれていた。
 それどころか、こちらに向かって必死に手を伸ばそうとしてくれていた。

 ─────死なないでくれ……。ハヤブサ………。

俺をただただ案じ続けてくれた、健気な花。
 そのいじましさに、愛しさばかりが募った。
「シュバルツ………ウッ………!」
その髪を撫でようとして、背に受けた傷にズキリ、と、鈍い痛みが走る。ハヤブサは、苦々しい気持ちになった。
こんな傷、受けたこと自体が恥だ。シュバルツに、心配させる気もなかったのに。
 背中から臀部に、ぬるりと生暖かい物が伝い落ちているのが分かる。目眩にも襲われる。消耗している自分を自覚した。
(布団を汚してしまったな……。止血もしなければ………)
 理性は、そう訴え、身を起こせとハヤブサに要求してくる。
 だが今は─────愛おしいヒトから離れがたく感じていた。
(すまない、シュバルツ………。少しだけ、隣で休ませてくれ………)
 彼のヒトの隣に、そろりと身を横たえる。
 その白い肌が暴力の痕を直していくのを感じながら、ハヤブサは何時しか、まどろみの中に、その身を預けていった─────

しかし、直ぐにその眠りは覚まされる事になる。
隣で寝ていたシュバルツが、うなされ始めたからだ。

「う……………う……………」

「シュバルツ!?」
シュバルツは、複雑な出自を持つアンドロイドだ。
しかも、制作者であるキョウジと共に死にかけた経験があるが故に、悪夢にうなされる事が頻回にあった。
「いや…………! 嫌だ…………!」
涙を散らしながら頭を振る愛しいヒト。
(覚まさなければ)
ハヤブサは身を起こし、シュバルツに呼び掛けようとする。すると。
「嫌だ…………! ハヤブサ………!」
「……………!」
自分の名を呼びながら頭を振るシュバルツの言葉に、ハヤブサは少なからずショックを受ける。
(もしかしたら、先程の行為を夢に見てしまっているのかもしれない)
 あの行為は「愛し合っている」と言うよりも、暴力と陵辱で、一方的に屈従を要求するような物だった。もしかしたらそれに、うなされてしまっている可能性があった。
 ならば、自分は傍に居ない方が。
 そう考えたハヤブサであるが、次のシュバルツの発した言葉に、また、衝撃を受けることになった。

「死なないでくれ……! ハヤブサ………!」

「……………!」

「独りにしないでくれ………! 置いて逝かないでくれ………!」

「シュバルツ………!」

「ハヤブサ……! ハヤブサ……ッ!」

「シュバルツ……! シュバルツッ!!」
 ハヤブサは、慌ててシュバルツを起こしにかかった。どうやら彼は、自分を喪って嘆き悲しむ夢を見てしまっていると気づいたからだ。
 冗談ではない。
 俺は今、ここにこうして生きているんだ。
 シュバルツをこれ以上そんな風に哀しませてたまるか────!
「シュバルツ!!」
 頬を軽く叩き、身を揺すって呼びかける。二、三度それをするうちに、愛おしいヒトは、はっと目を覚ましていた。

「あ…………!」

 そして、現在に至る。

 愛おしいヒトは、は、は、と、短く息をしながら、小さく身を震わせてこちらを見ている。その瞳からは、大粒の涙が、次から次へと零れ落ちていた。
「シュバルツ………」
 ハヤブサがシュバルツの涙を優しく拭っていると、彼のヒトから問いかけられた。
「ハヤブサ……! こっちが現実か……? じゃあ、さっきまでの光景は……夢か………?」
 シュバルツの肌には、まだ少し暴力の爪痕が残っている。それにツキリと胸を痛ませながらも、ハヤブサは頷いた。
「ああそうだ……。ここが現実だ………。先程まで、お前は俺に────」
「ハヤブサ……!」
 その言葉が終わらぬうちに、シュバルツが縋り付くように抱きついてきたから、ハヤブサも言葉を失ってしまった。呆然としているハヤブサに、また腕の中のシュバルツから問いかけられた。
「ハヤブサ……! 本当に、お前はここに居るんだな……? 『生きて』居るんだな……?」
「あ、ああ………」
 ハヤブサも、戸惑いながらも頷いた。
「そうだ……。俺は生きている。お前の目の前に、ちゃんと居る………」
「………良かった………」
 腕の中の愛おしいヒトがほっと安堵のため息を漏らしながら、また、ぎゅっと抱きしめてきた。
「生きていてくれて良かった……。お前が死ぬなんて、耐えられなかった………」
「シュバルツ……!」

「独りにしないでくれ………! 置いて逝かないでくれ、ハヤブサ………!」

「…………!」
 シュバルツの言葉に、はっと、息を呑むハヤブサ。そのハヤブサの気配に、シュバルツもまた、瞬間的に我に返った。
(な……! 何をやっているんだ、私は………! ハヤブサにとんでもない我が儘を……! 無茶な要求を────!)
 そう、シュバルツはその身体を『DC細胞』で作り上げられた『アンドロイド』
 それは、半永久的に活動が行える可能性を秘めていた。
 だからシュバルツは、自分はハヤブサの生涯のパートナーにはなり得ない存在であると自覚していた。ハヤブサが自分を必要としなくなれば、いつでも身を引けるようにしておかねばならないのに。
 さっきの一連の、自分の言動は何だ。
 ハヤブサに置いて逝くなとか、独りにしないでとか────

 私はハヤブサに『不死の人外になってくれ』とでも要求するつもりなのか。

「す、すまないハヤブサ……! 変なことを言った……!」
そう言って、顔を真っ赤にしながらシュバルツはハヤブサから離れようとする。
「シュバルツ………」
「わ、忘れてくれ………! 今のは本当に、混乱、していただけ─────あっ!?」
その時ハヤブサに、身体を強く抱きしめられるから────シュバルツは驚いて、そのまま固まってしまった。
「シュバルツ………!」
抱きしめてくるハヤブサの身体が震えている。小さな嗚咽が耳元に響いてくるから。シュバルツは、ハヤブサを酷く困らせてしまっていると感じた。
「ハヤブサ……? その………本当に、すまな────」
だからシュバルツは、懸命にハヤブサに謝ろうとする。だがその言葉は、途中で遮られてしまった。ハヤブサからのキスによって────
「ん…………!」
そのキスは、優しいが深かった。甘さを伴っていた。
「ん……………ふ……………」
頬に水滴が落ちてくる。ハヤブサの涙だと知れた。
(ハヤブサ………!)
泣いているハヤブサからの優しすぎるキスに、シュバルツは動揺してしまう。
泣き止んで欲しい。
自分の言葉に困らないで欲しい。
そう伝えたいのに、自分の思考と言葉が奪われ続けてしまうから────
「あ……………」
長い長いキスから解放去れた時には、シュバルツ自身もまた涙を流しながら、酸素を求めてぜいぜいと、息を喘がせなくてはならなくなった。
「シュバルツ………」
呼び掛けられるままに、シュバルツはハヤブサの方を見る。
そしてまた、彼は驚かされてしまった。

何故ならハヤブサは
本当に、幸せそうな顔をして、微笑んでいたからだ。

「ハヤブサ……!」
驚きに目を見開くシュバルツに、ハヤブサは少し苦笑する。

(ああ、絶対にこいつは、分かっていないんだろうな)

今のシュバルツの言葉に、自分がどれだけ勇気づけられたか
幸せな心持ちになれたか────

(分からさなければ)
そう感じてハヤブサは口を開いた。

愛おしいヒトに向かって祈る。
 どうか、愛することを躊躇わないで欲しい、と────

「シュバルツ、一つ聞かせてくれ………」
「な、何だ………?」
「お前は本当に────『俺が生きていてくれて嬉しい』と………思ってくれているのか………?」
「当たり前だ!」
 この問いには、シュバルツは、真っ直ぐハヤブサを見つめながら答えた。
「お前が生きていてくれるだけで、私は────!」
「では、シュバルツ………」
 ハヤブサはふわりと微笑みながら、次の問いを出す。
「お前にとって俺の死は─────『耐えられない程の痛み』に、なるのか?」
「─────!」
 瞬間シュバルツは息を飲む。
「あ……………!」
 必死にハヤブサから顔を反らし、その下から逃げ出そうとした。しかし、ハヤブサの腕が、それを許さない。
「隠すな、逃げるな、シュバルツ………!」
 腕を捉えられ、布団にくくりつけられるように押さえ込まれる。
「あ!!」
「答えてくれ、シュバルツ」
 身動きが取れなくなったシュバルツに、ハヤブサはもう一度問いかけた。心を込めて────
「お前にとって俺の死は─────耐えられない、物なのか………?」
「……………!」
「シュバルツ………」
 優しいが、その声音には懇願するような色が混じる。
(ああ、もう嘘がつけない)
 シュバルツは、唇を噛み締めながら覚悟を決めた。
 いくら混乱していたとは言え────どうして、自分はこんな、ハヤブサに迷惑をかけるような事を言ってしまったのだろう。彼に、余計な気遣いをさせることになるのに。
 自分が味わう孤独や苦しみならば、自分だけが耐えれば良い話なのに。
 シュバルツは、自分の迂闊さを悔やむ。
 だが、もう遅い。

「ハヤブサ……。確かに、私は…………」

 意を決して唇を開いた。
 だが、声が震える事を止めることが出来ない。
 溢れる涙を、止めることが出来ない。

「お前が死ぬのは嫌だ…………! 耐えられない………!」

「シュバルツ………!」

「だが、ハヤブサ……! 聞いてくれ……! 私はアンドロイドだから────んぅ!!」 
 いきなりハヤブサに唇を奪われるから、シュバルツはこれ以上言葉を紡げなくなってしまう。
「ん……………!」
 深く激しい、さらに先程よりも甘いキス────シュバルツは簡単に酔わされてしまった。チュ、チュ、と、甘い水音がしばらく辺りに響き渡る。
「ふ……………」
 ハヤブサに唇を解放された時には、シュバルツは完全に抵抗する意思を手放してしまっていた。トロン、と、脱力してしまっているシュバルツを、ハヤブサがそっと抱きしめてくる。
「シュバルツ………!」
「ハヤブサ………?」
 腕の中で戸惑うシュバルツに、ハヤブサはそっと語りかけた。
「嬉しい……! シュバルツ、ありがとう………!」
「え…………?」
「知らなかった……! 大切なヒトに『死んでほしくない』と、願われるだけで────こんなにも、『生きよう』と、思える物なんだな…………」
「─────!」
 ハッと、息を飲むシュバルツに、ハヤブサは微笑みかけた。本当に、幸せそうに────
「ありがとう、シュバルツ………。お前は俺に、生きる『希望』を『力』を、与えてくれたんだ」
「ハヤブサ……」
 呆然とするシュバルツを、ハヤブサは更に強く抱きしめてきた。
「シュバルツ……! シュバルツ………!」
 小刻みに震える身体。ハヤブサの小さな嗚咽が聞こえてくる。
「ハヤブサ………」
 シュバルツもまた、ハヤブサをそっと抱きしめ返していた。

(嬉しい……)
 素直に、そう思えた。
 確かに自分の言葉と行動が
 好きな人の支えになれたのだと気づけたから────

「……………」

 シュバルツはハヤブサを抱きしめながら、そっと、背中の傷に触れる。ぬるりとした感触と、深く抉られている傷の様がシュバルツの手に伝えられてきた。
「……………!」
 ハヤブサは、傷の痛み故に眉をひそめ、シュバルツは、その痛みを思いやって唇を噛みしめた。

「ハヤブサ………」

 シュバルツは、ハヤブサに改めて声をかける。

「傷の手当てを……して、良いか………?」

 その言葉に、はっと顔を上げるハヤブサ。シュバルツの静かな瞳と視線が合った。
(シュバルツ………!)
 ずっとこの愛おしいヒトは、自分の手当てをしようと手を伸ばしてくれていた。それを自分は、ずっと踏みにじり続けて居たのに。 
 まだ、諦めずに手を伸ばしてくれるシュバルツ。その優しさに、涙が出そうになる。
「ああ………頼む」
 ハヤブサは、素直に頷いていた。


「酷くやられたな……」
背中の傷の手当てをしながら、シュバルツがポツリと呟く。ハヤブサは軽く苦笑した。
「何、少し罠に嵌まっただけだよ」
「…………!」
 さらっと、酷い目にあった事を告げるハヤブサに、シュバルツは絶句していた。


 今回ハヤブサが請け負ったミッション。
 しかし、それ自体が罠だった。
 その組織の『裏切り者』をいぶりだすための。

 後ろから斬られた瞬間、それを悟った。
 自分は『裏切り』を誘発するための
『餌』にされたのだと──────

 自分を斬って来た男から芋づる式に、その黒幕まで暴きたてる事に成功していた。
 これは、ミッションを依頼してきた者たちからしても、意想外の成果だったらしい。
報奨は水増しされ、『流石龍の忍者よ』と賛辞された。
 だがその過程で、余りにも一般市民を巻き込み、そして犠牲を出していた。

「必要な犠牲だ」

 報奨を渡して来た者たちは言った。

「これで、平和が約束されるなら、安い『犠牲』では無いか」

 ハヤブサは、その言葉を冷めた思いで聞いていた。
(どうせこいつらも、人を後ろから撃つのだろう)
 そんなどす黒い思いが、胸の奥で蟠った。

 空港までの道行きは、市民の怨嗟の声で溢れかえっていた。自分の姿を見て、逃げ出す者もいた。

「人殺し!」

 老女の声が、背中から斬りつけて来た。

 裏切りは『当たり前』だ。
 弱者が踏みにじられるのも『当たり前』だ。
 この真っ黒に汚れた『報償』────自分は何故、受け取ってきた。

 生きていくためか。
 里の者たちを、養っていかねばならないからか。

 ここに立つまでに何人斬った? どれほど斬った? 何人─────犠牲にしてきたんだ。

 分かっている。
 世界は汚い。
 人は醜い。
 この世は悪意に満ちている。

 信じられる物など、何一つ無─────

(………ハヤブサ………)

「……………!」
 優しい声が、胸の内に響き渡る。木漏れ日の中、優しく微笑む愛おしいヒトの姿が脳裏に浮かんだ。

 違う。
 世界は、優しく美しい。
 子は親を慕い、親は子を護る。
 人は、人を愛していく。
 あの明かりの下には、お前が信じて良い優しい世界が、ちゃんとあるんだ。

 そう言って、そのヒトは手を差し伸べてきた。

 自身が裏切りに遭い
 目の前で母が殺されて
 自身の身体さえももう─────『人間でないモノ』に貶められているのに。

 それでもそのヒトは、『人を信じろ』と言った。
 『世界は優しく、美しいのだ』と言った。
 弱者に手を差し伸べることを、彼は躊躇わなかった。
 闇を纏ったその『光』は、優しく、そして力強い輝きを放っていた。

 ああ──────
 会いたい。
 シュバルツに会いたい………!

 狂おしいほどに願った。
 今すぐあの『光』に触れたい。
 抱きしめたい。
 包まれたいのだと。

 まるで傷つけられた幼子が、母親を求めるが如くに
 ハヤブサはシュバルツを─────求めていた。

 だからハヤブサは、日本に帰って直ぐに、シュバルツの元へと足を運んだ。
 里への報告もせず、己の怪我の手当すらせずに─────彼を求めたのだ。


「………………」

 勿論、ハヤブサは『罠に嵌められた』という以外は、シュバルツに伝えることはしなかった。
 この優しいヒトは、知らなくて良いと思った。
 あの悲惨な戦場も
 罠に嵌められた瞬間、自分はその男とその地区の住民ごと、殺されそうになったことも。
 誰1人として、救えなかったことも
『人殺し』と罵られたことも─────

 人が人を食い物にする暗黒の世界。そこに自分は身を置いている。これは謂わば、自分の宿業だった。
 覚悟を決めて─────自分が背負うべきなのだとハヤブサは思った。

「………………」

 『罠に嵌められた』と言って、その後は、押し黙ってしまったハヤブサ。こちらに、余計なことを言う気も無いのだろう。
 それでもシュバルツは、眉をひそめる。唇を噛みしめる。
 痛々しい背中の大きな傷。いや、それ以上に─────身体のあちこちに、無数の小さな傷が刻まれていた。

 一体、どれほど過酷な戦場にいたのだろう。
 どれほどの哀しみを辛さを─────その身に受けてきたのだろう。

 それなのに、どうして─────

 この人はその身に宿す優しさを、失わないのだろうか。

 知っている。
 世界は醜い。
 人は、裏切る。
 この世にはびこる悪意に、歯止めがかけられることはない。

 信じれば、踏みにじられる。
 弱者は、食い物にされる。

 その最たる世界に、この人は生きているのに。

 自分を蹂躙するように抱いてきたとき、この人は泣いていた。
 まるで、縋り付くように、暴かれた。

 きっと、傷ついたのだ。
 その優しさ故に、苦しんだのだ。

 ────俺ノコトナドドウデモイイ…………

 嵐のように抱かれている最中、シュバルツのDG細胞の共鳴は、ハヤブサの己を呪うような心の声を、何度もシュバルツに聞かせていた。

 哀しかった。
 暴力的に奪われる身体よりも、ハヤブサのその心が痛くて、シュバルツは泣いた。

 それだけ苦しむのならば、自身の持つ優しさなど、最早呪いでしかないだろうに。
 それでもその優しさを手放さず、その世界を歩み続ける覚悟を持った『リュウ・ハヤブサ』という人は、とても強くて─────希有な存在だとシュバルツは思った。

 大切な人。
 愛しい人。
 その心を護りたい、と、シュバルツは願った。
 それが適うのなら、自分はどう扱われようとも構いはしなかった。

「……………」

 だから、手当が終わった後、シュバルツはハヤブサの背を、そっと抱きしめた。
 治療をしている間中、ずっと彼の背中が、泣いているように感じられたから────

「……………!」

 愛おしいヒトの思いもかけない行動に、ハヤブサは少し硬直し、息を呑む。優しく身を寄せてきたそのヒトは、小さな声をかけてきた。

「よく………帰ってきて、くれたな………」

 傷つけられても
 踏みにじられても
 生きることをあきらめず
 何度でも、立ち上がって─────

 よく、帰ってきてくれた。
 よくぞ、私のところに、帰ってきてくれた─────

(シュバルツ………!)

 その寄り添ってきた優しさに、ハヤブサは色々とたまらなくなる。
「シュバルツ……ッ!」
 気がつけばハヤブサは、再び愛おしいヒトを、布団の上に押し倒していた。

「あ……………」
 押し倒されたシュバルツの上に、熱い眼差しのハヤブサが覆い被さって来る。
(抱かれる………?)
 漠然と思った。
 だが、抱かれるなら抱かれるで、シュバルツは全然構わないと思った。自分は、ハヤブサにならどのようにされても良いと思っているから。
 ただ、彼は怪我をしている上に、疲れても居る。
 今無茶をしたら、傷口も開いてしまうだろう。
 シュバルツはただ、それだけを案じた。

「………傷が開くぞ?」

 だからシュバルツは、ハヤブサの頬を優しく撫でながら忠告をする。それに対してハヤブサは、にこりとその面に笑みを浮かべた。

「心配するな。優しく抱いてやるよ」

「─────!」

「とろけさせてやる………」

「あ……………!」

 シュバルツは少し身を強張らせた。
 ハヤブサがそう言うときは、徹底的に乱れさせられてしまうから本当に困る。自分が、たまらなく淫乱で、淫らな身体をしていると突きつけられてしまうから、恥ずかしくてたまらなかった。
「や…………!」
 必死に、逃れようとするが、それをハヤブサが許すはずもなく。
「俺の身を案じてくれているのなら、動くな………」
「あ……………!」
 ハヤブサのその言葉に、シュバルツは完全に抵抗する術を失ってしまった。動けなくなったシュバルツの胸に、ハヤブサの指が伸びてくる。
「あ…………ッ!」
 指が、こりこりとシュバルツの乳首を弄び始めた。弾いたり、潰したり、時に円を描くようになぞられたりしながら、優しい愛撫が続く。
「ん……………! く…………ん……………!」
 シュバルツは口を噛み締めながら、必死にその刺激に耐える。だが、芯を伴って熟れて来る乳首は、ハヤブサの愛撫をより過敏にシュバルツに伝えてきてしまって。
「ううっ! はぁ…………っ!」
 快感を受け流す事が出来なくなって、熱い吐息がその唇から漏れる。それを見たハヤブサは、熟れてきた乳首には舌を、そして、もう片方の乳首にも指を、そろそろと這わせた。
「あっ………! 両方は………ッ!」
 ピチャピチャと舌先で乳首を弄ばれ、もう片方は、指で丹念に愛される。時にチュ、と優しく吸い付かれ、熟れてきた芯を確かめるように、クニクニと指で擦られ続かれてしまえば、シュバルツはもう、声を上げる以外、快感に抗う術を失ってしまって。
「ああ………! ああ………! はあ…………!」
 乳首を濡らした唾液が、シュバルツの身体をツ…………と、伝い落ちてもハヤブサはそこの愛撫を止めてくれない。
「ゆ、許して………! もう………!」
 涙ながらに懇願しても、その愛撫は執拗に続けられた。
「うあっ!?」
 唐突にハヤブサの手がシュバルツの牡茎に伸びてくる。キュッ、と、そこを握られてしまったから、シュバルツは思わず悲鳴を上げてしまっていた。
「いけないヒトだな………。こんなに濡らして………」
 鬼頭の割れ目に指を這わされ、愛液を絡め取られる。
「ああっ!!」
 たまらずシュバルツの腰が跳ね、動く。クチュッ、と、音を立てて、ハヤブサの手に、牡茎が擦りつけられてしまった。
「んっ!」
 胸を散々弄られて、快感に抗えなくなっているシュバルツの身体は、勝手に刺激を求めてしまう。いけない、と、思っていても、腰が独りでに動いてしまっていた。
「気持ちいいか……? シュバルツ……」
 思いもかけぬ愛おしいヒトの痴態に、ハヤブサの面に笑みが浮かぶ。それに対してシュバルツは必死に首をフルフルと振るが、腰の動きを止められずにいた。
「あっ! あっ! ううっ! あ………ッ!」
「フフ………」
 クチュッ、クチュッ、と、濡れた水音が、シュバルツの耳を犯す。もう片方の手は、相変わらずシュバルツの乳首を弄んでいる。「助けて、許して」と、懇願しても、その願いは聞き入れられるはずもなく。
「あ……………っ!」
 ピュク、と、音を立ててシュバルツはついに達してしまう。しかし、それでハヤブサの責め手が緩むはずもない。シュバルツに更なる痴態を要求して来た。
「股を開いて………。自分でそこをほぐしてごらん………」
「そ、そんな………!」
「ほら…………もっと開いて………」
 胸と達したばかりの牡茎を優しく愛しながら、ハヤブサが要求してくる。淫らな熱に犯されている身体は、それに素直に陥落してしまう。
「あ……………あ……………」
 股を開き、己の秘所に自分で指を突っ込んだ。そこからゆっくりと、自分で自分を犯し始める。秘部で蠢く指の動きに合わせて、ハヤブサの胸と牡茎への愛撫も、丁寧に続けられていた。
「あ……………! やぁ……………!」
 クチュクチュと濡れた水音をたてながら、シュバルツの指が秘所で淫靡に蠢く。
「シュバルツ………」
 その痴態をもっときちんと見たいハヤブサは、シュバルツの身体を強引にひっくり返した。四つん這いにさせ、腰をわざと高く持ち上げさせる。
「ほら………もう一度、挿れて………」
「…………ッ」
 淫ら過ぎるハヤブサの要求に、しかしシュバルツはもう抗う事ができない。ハヤブサの目の前で、彼の視線を感じながら────シュバルツは己の秘部を広げ、そこに指を突き入れた。
「ううッ…………!」
 気持ちよさを求めて、指は勝手に蠢く。そこにハヤブサが後ろから牡茎と乳首への愛撫を再開させたから────もうシュバルツには、乱れるしか術がなくなってしまう。
「ああっ! ハヤブサ……! ハヤブサ……!」
 自身を犯しながら、懸命にその名を呼んだ。この恥ずかしい状態から一刻も早く抜け出すためには、ハヤブサに挿れてもらう以外に、もう道はなかったからだ。
(でもダメだ………! ハヤブサは怪我をしているから………!)
「挿れて」と、言いたくなるのを懸命に堪える。ハヤブサは、先程から自身は余り動かず、こちらばかりに痴態を要求してきている。つまりは───まだ身体の無理が利かないと言うことなのだろう。
「ん……………!」
 でも足りない。自分の指では全然満たされない。欲しい場所に届かないのだ。
「あ……………! ん……………!」
 焦れた身体は勝手に動く。ハヤブサの手に、牡茎や乳首を擦り付けてしまう。
「あ……! ダメ………!」
 淫らな熱に抗えない。彼を求める気持ちに、歯止めをかけようとして、失敗していた。
「ハヤブサ……! ハヤブサ……!」
(シュバルツ………!)
 自分の名を呼びながら乳首や牡茎をこちらの手に擦り付け、自分を犯しながらあられもなく身を震わすシュバルツが、たまらなく淫らで、可愛らしくて愛おしい。劣情が酷く刺激されてしまう。
「どうした? シュバルツ……」
 舌なめずりをしながらハヤブサは聞いた。この淫らな獲物を、早く捕食したくて仕方がなかった。
「んあ………! ハヤブサぁ………ッ!」
「どうしたんだ? 俺に、どうして欲しいんだ……?」
「んんっ! あ…………!」
 チュプン、と、音を立てて、秘部からシュバルツの指が引き抜かれる。ハヤブサの目の前に突き出されているそこは、指の名残を惜しむかのように、ひくひくと妖しく蠢いていた。
「ハヤブサ………!」
 愛おしいヒトが振り向く。その瞳は、涙と熱で艶っぽく潤んでいた。
「す……すまない……。もう……我慢、出来なくて………」
 そう言いながら、彼は自分の手を使って、突き出している秘所をぐいっと広げる。

「い………挿れ……て………」

(……………!)
 自分の期待以上に淫らで可愛らしい懇願をしてきた愛おしいヒトに、ハヤブサは内心ガッツポーズをしながら小躍りをしてしまう。
 本当に、可愛らしいヒトだ。乱れるときは、徹底的に淫らになってくれるから。
「しょうがないな………」
 やれやれ、と言う風を装いながらも、その腰をぐいっと捕まえ、限界までいきり立った男根を、ぴたりとあてがう。
「で、でもダメだ……! ハヤブサ、お前は怪我を────あああああっ!!」
 ここに来て、馬鹿なことを言って遠慮しようとした愛おしいヒトを、一気に貫く。ピュピュ、と、白い液がシュバルツの前方に飛び散るのが見えた。内側はもう────トロトロに蕩けきってしまっていた。
「馬鹿だな……お前は………。我慢しすぎだ……」
 ハヤブサはゆっくりと、柔らかくも甘く、ひくひくと痙攣しながら締め付けてくるその場所を味わう。一突きをするごとに、彼がどうしようも無いほどの快感に襲われているのはもう明白だった。
「ああっ!! ハヤブサッ!! ああああっ!!」
「シュバルツ………」
「ああ……! ああ……! あ……ッ!」
 優しく揺すられていたシュバルツの身体が、ビクッ! と、跳ねる。ハヤブサの手が、再びシュバルツの牡茎に、添えられてきたからだ。
「あ…………!」
 刺激を求めるそこは、ハヤブサの手を素直に求めてしまう。
「ダメ……! ダメ……!」
 必死に頭を振るが、自ら腰を動かし、そこに自身を擦りつけてしまっていることは、もう隠しようがなかった。ハヤブサが与える律動よりも激しく、シュバルツは腰を動かしてしまっていた。
「良いぞ……シュバルツ………」
 ハヤブサは、そんなシュバルツを優しく、後ろから抱きしめる。
「あ………! ハヤブサ……!」
「もっともっと………乱れてくれ………」
「ああ………!」
 結局シュバルツは、ハヤブサに丹念に愛され、そのまま際限なく乱されていって、しまうのだった。


 前髪を優しく撫でられる感触に、シュバルツはフッと目を覚ます。目の前には、ハヤブサの優しく微笑む顔があった。
「ハヤブサ……」
「シュバルツ……大丈夫か?」
「う…………!」
 ハヤブサの問いかけに、シュバルツは顔を真っ赤にする。散々乱されて、あられもない姿を曝して、快感に耐えきれずに意識を手放してしまった過程を思い出してしまったからだ。
(ああ、可愛いな)
 耳まで真っ赤に染め上げて顔を逸らすシュバルツが、愛おしくて堪らないから、ハヤブサは、シュバルツの身体を強引に抱き寄せていた。
「あ……………!」
 そのまま唇を、優しく奪う。
「ん……………!」
 瞬間身を強張らせたシュバルツであるが、優しくキスをし続けていると、彼の方も身体の力を抜き、大人しく身を委ねて来てくれた。暫くチュ、チュ、と、甘く優しい水音が響く。
「……………」
 キスを終え、トロンと脱力しているシュバルツをじっと見つめる。
「ハヤブサ……?」
 そんな自分を、シュバルツはキョトンとしながらも、優しく見つめ返している。愛おしさが溢れた。
 分かる。
 このままもう一度身体を求めても、お前は優しく赦してくれるのだろう。
「シュバルツ………」

 愛おしいヒト。
 大切なヒト。

 だからこそ─────

「もし…………俺が死ぬときに、お前が、どうしても独りになるのが耐えられない、と、言うのなら────」

「ハヤブサ………」

「殺してやろうか?」

「─────!」

 瞬間、愛おしいヒトの瞳がハッと見開かれる。
 確かに、ハヤブサの『龍剣』と、龍の忍者の力はDG細胞を討滅する事が可能だった。
 ハヤブサは、自分で死ぬことの出来ないシュバルツを、死へと導くことが出来る数少ない存在でもあったのだ。

「お前が望むなら………お前を殺して…………それから俺も、死んでやる………」

「ハヤブサ………」

 淡々と、言葉を紡ぐハヤブサの瞳は、とても優しい色を帯びていた。そこにはただ、相手を思いやる、慈悲の色しかない。
(ああ、綺麗だな)
 そう感じながら、シュバルツはたまらなくなる。とめどなく、涙か勝手に溢れた。
「シュバルツ………?」
 突如として目の前で大粒の涙をぽろぽろと零しだした愛おしいヒトに、ハヤブサは少し焦る。いきなり「殺す」はまずかったか、と、思いながらその涙を拭い続ければ、愛おしいヒトはフルフル、と首を振りながら、その面に笑みを浮かべていた。

「すまない………ハヤブサ………。嬉しくて………」

「嬉しい?」
 きょとん、とするハヤブサに対して、シュバルツは頷いていた。
「私の『気持ち』に応えようとしてくれる………お前の『ココロ』が、嬉しい……」
「……………!」

『独りにしないで』と泣いた自分の気持ちを受け止めてくれた。
 そのために、自分が出来る最善の努力をしようとしてくれる─────その『ココロ』が嬉しかった。

「嬉しい………! ハヤブサ………! ありがとう………!」
 シュバルツはそう言いながら、ぎゅっと、ハヤブサに抱きついていた。

「う…………!」

 何もその身に纏っていない愛おしいヒトが、涙を流しながら、優しくこちらの身体を抱きしめてきているこの状況。先程これでもかと言うほど堪能したシュバルツの痴態が頭の中によみがえってきて、自分の中でも割と邪な類いの想いが、鎌首をもたげてきてしまう。
「シュバルツ……!」
 だからハヤブサは、シュバルツの身体を、ぎゅっ、と、抱きしめ返したのだが。
「……………!」
 ぐらり、と、感じる目眩。さすがに、体力の限界を感じた。
「シュバルツ………」
 唇を求めると、愛おしいヒトも甘やかに応じてくれる。至福のひとときだった。
「……………」
 だが、キスを終えると、自分の身体は勝手に脱力してしまう。腹の下の愛おしいヒトの身体に、己の身を預けるように倒れ込んでしまった。
「ハヤブサ……? 大丈夫か……?」
 案ずるような愛おしいヒトの声に、ハヤブサは苦笑するしかない。
「平気だ………と、言いたいところだが…………」
「……そうだろうな。唾液の中の『疲れ』の成分が濃くなっている」
 そう言いながら、シュバルツはハヤブサの身体を、優しく布団の上に寝かしつけた。
「少し寝ろ、ハヤブサ……。朝が来たら、起こしてやるから」
「シュバルツ……」
 シュバルツの言葉に、ハヤブサは嬉しそうに微笑む。
 朝まで自分の傍にいてくれる──────と、愛おしいヒトが約束をしてくれたから。
(安心して、眠って良いのだ)
 素直に、そう思えた。

「シュバルツ……。手を、握っていてくれるか………?」

 少し、甘えてみる。すると、愛おしいヒトは、苦笑しながらも手を差し出してくれた。
 それを、両手で包み込むと、しっかりと自分の方に抱え込んで眠る体勢に入った。
(この手………一生、離したくない……)
 それほどまでに、自分には、シュバルツという存在が必要だったから。
(愛している……)
 背中の痛みは取れない。疲れてもいる。
 だが、任務を終えたときよりも遙かに幸せな心持ちで────ハヤブサは、眠りに落ちていたのだった。


(ハヤブサ………)
 ハヤブサの穏やかな寝顔を見つめながら、シュバルツは想いを馳せる。ハヤブサの深すぎる愛情を。

 ─────俺が死ぬときに、お前が、どうしても独りになるのが耐えられない、と、言うのなら────殺してやろうか?

 そう。
 確かにハヤブサは、自分の特殊な身体を『討滅』させることが可能だった。『神』をも凌駕する龍の忍者の力は、ほぼ、半永久的に活動できる『DG細胞』をも破壊してしまう。
 ただ、DG細胞を討滅しようと言うのであれば、龍の忍者の全力で以て、斬ってもらわねばならなくなる。生半可な『神力』では、自分の再生力を止めることは不可能なのだ。

 ────独りになるのが耐えられないのなら、殺してやろうか?

 死ぬ間際に、私を斬ろうと言うのなら、かなりの神力と気力を必要とする。それをしようと言うのか、ハヤブサ。私の「孤独に耐えられない」と言うどうしようもなく弱い心の叫びを受け止めるために。

(ハヤブサ……)
 死ぬ間際に、そんな力を私に使うくらいなら、生きるために使って欲しい。前に進むために使ってほしい。
 本当は、お前は願っているのではないのか。「私を斬りたくない」と。
 それらを全て飲み込んで、あの慈悲深い眼差しがあると言うのなら────

(覚悟を決めよう)

 シュバルツは、静かにそう決意をする。
 人間と、不死のアンドロイドの恋。それは、どう足掻いても、何れは永遠の別離が来てしまうものだと悟ってしまう。自分は、愛すべき人々を、見送らなければならなくなるのだ。

 ならば、自分は受け止めよう。
 愛する人々を喪う痛みを恐れてはならない。その痛みごと受け止めるつもりで、愛していこう。
 喪う時は、半身をもぎ取られる様な苦しみを味わうかもしれない。哀しみが、胸を覆うかもしれない。
 それでも、愛することを躊躇ってしまった後悔の方が、きっと大きい気がする。苦しめられる気がする。

 だから、悔いなく愛そう。
 いつか、2人を分かつ、その日まで。


 例え、共に死ねずとも。


             (了)



 

例え、共に死ねずとも

こんばんは。いかがでしたか? 楽しかったですか?
 拙い私の文章ですが、読みに来ていただいて、ありがとうございました。
 私は楽しんで作らせて頂きました。やっぱり小説書くのは楽しいですね。私にとっては癒しの時間になってます。
 これからも、こんな風に思い付いたときに、こっそり書きにこさせていただきます。
 思い出したときで良いので、また読みに来てくださいね~
 ではでは~

例え、共に死ねずとも

超々短編のBL小説です。ハヤブサさんの死を目の前にした、シュバルツさんのお話。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2016-12-14

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work