三題噺「浮き輪」「スプーン」「残骸」(緑月物語―その9―)

緑月物語―その8―
http://slib.net/6002

緑月物語―その10―
http://slib.net/8591

 何かがおかしい。
 永田麗美が異変に気付いたのは宮都中心部にある広場に着いた時だった。
 警察官が慌ただしく連絡を取りながら、落ち着きもなく何かを探しているようだった。
「おい、どうかしたのか?」
 突然話しかけてきた相手に童顔で幼さの残る警察官は一瞬警戒する気配を見せたものの、永田の胸のバッジを見てヤマトの関係者と悟ったようだ。
「いえ……実は宮都に爆弾が仕掛けられたらしくて。今、宮都の警察官を総動員して捜索にあたっているところです」
 なんともキナ臭い話だ。確かに見渡せば普段の倍以上の警察官の姿が見える。彼もその一人なのだろう。
「爆弾の形状と大きさは? うちの学生たちにも探させるよ」
「え、あ、は、はいっ! えーっと、形状とサイズですが……」
 するとそこで童顔警察官は押し黙った。視点は永田の後ろを見ている。心なしか顔が真っ青に見える。
「あ」
「あ?」
 おもむろに振り返った永田の目に映ったのは――、
「あれです! グリーンモスです!」
 緑色のボディに流線型の独特な模様。昼間に捕縛したはずのグリーンモスだった。

 光学迷彩を解除したのだろう。グリーンモスの機体下部は風景と同化していて、まるで街の広場に浮かんでいるように見えた。
 と、次の瞬間――

 照準が、合ったような、気がした。

 反射的に腰の空気銃を構え永田が広場の石畳を打ち抜くのと、グリーンモスがワイヤーケーブルを発射するのは同時だった。
 迫りくるワイヤーケーブルに、砕けたメロンソーダライトの石畳が散弾銃の弾のごとく放たれる。
 同時に永田は発砲の反動でそのまま後ろへと飛んだ。童顔警察官も襟を掴まれ後ろに引き倒される。
 さきほどまで永田たちのいた場所にワイヤーケーブルが突き刺さる。
「伏せろ!」
 永田が伏せながら叫んだ瞬間、グリーンモスの機体がまるで一つの弾のように飛んでくる。
 それは永田の頭上スレスレを通り過ぎ、広場にあるさびれた海鮮レストランに突っ込んだ。
「くそったれ……私の行きつけを」
 永田は苦々しく呟いた。

 昼過ぎだったのが幸いしたのか客はいないようだ。永田はガラスが散乱する店内をざっと確認する。
 店のスタッフは全員無事。床に転がっているのは数脚のテーブルと椅子、そして一体の人形だけのようだ。
 店の看板に描かれているように、小太りのカモメがスプーンを片手に持って無邪気に笑っている。
 永田は鼻で軽くため息をつくと、すぐに店を離れようとした。
 とその時、支えていた紐が切れたのか天井から吊るされた小さな浮き輪が落下する。
 そして浮き輪は、店の残骸の上に鎮座していたグリーンモスの機体に、ズブリとめりこんだ――。

「――流体金属。それは緑月で新たに開発された合成金属で、特定の電気信号を流すことにより形状を自由に変化することができる代物だ」
 騒ぎから30分経ち、広場は閑散としていた。
 永田が今いるのは広場の中央に設けられたバリケードの中だ。
 グリーンモスは未だに店の中で沈黙している。しかしそれがかえって不気味な雰囲気を出していた。
「はい。聞いたことがあります。数年前に事故が起きて使用を制限された物質ですよね?」
「ああ、電気を過剰に消費するために熱暴走を起こしやすいって話だ」
 そして、その熱暴走を起こす機体が爆発物を積んでいるとしたら。
「そ、それってまさか……」
 童顔警察官の顔が再び真っ青になる。
「ああ、まったくふざけた話だ」
 街の人々はすでに避難を始めている。ヤマトの生徒たちも他の教官の指示に従って街から退避し始めた。
 だから、あとヤマトの関係者で残っているのは
「あんな不良品のガラクタに、行きつけの街まで潰されてたまるか」
 昼食を食べ損ねた、怒れる一人の不良女教師だけだった。

三題噺「浮き輪」「スプーン」「残骸」(緑月物語―その9―)

緑月物語―その8―
http://slib.net/6002

緑月物語―その10―
http://slib.net/8591

三題噺「浮き輪」「スプーン」「残骸」(緑月物語―その9―)

何かがおかしい。 永田麗美が異変に気付いたのは宮都中心部にある広場に着いた時だった。 警察官が慌ただしく連絡を取りながら、落ち着きもなく何かを探しているようだった。 「おい、どうかしたのか?」 突然話しかけてきた相手に童顔で幼さの残る警察官は一瞬警戒する気配を見せたものの、永田の胸のバッジを見てヤマトの関係者と悟ったようだ。 「いえ……実は宮都に爆弾が仕掛けられたらしくて。今、宮都の警察官を総動員して捜索にあたっているところです」 なんともキナ臭い話だ。確かに見渡せば普段の倍以上の警察官の姿が見える。彼もその一人なのだろう。 「爆弾の形状と大きさは? うちの学生たちにも探させるよ」 「え、あ、は、はいっ! えーっと、形状とサイズですが……」 するとそこで童顔警察官は押し黙った。視点は永田の後ろを見ている。心なしか顔が真っ青に見える。 「あ」 「あ?」

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted