三題噺「イチョウ」「お寺」「クリーニング」(緑月物語―その10―)

緑月物語―その9―
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緑月物語―その11―
現在執筆中

「おい! 転校生、生きてるか!」
 ぼんやりとした頭で酒野が目を覚ますと、目の前に黒髪の美少女の顔が迫っていた。
「へ?」
 事態が飲み込めず呆然としている酒野だったが、
「起きろ! 敵が来るぞ!」
 と胸倉をつかまれ無理矢理に引き起こされる。
 そこでようやく自分たちが横転した送迎車の中にいることを思い出した。
「確かグリーンモスにいきなり正面から衝突されて、それから……」
「話は後だ、とにかく車外へ出るぞ」
 やや歪んだ送迎車の左側面のドアが、上に向かって開かれる。
 と、そこで酒野は神樹がスカートを穿いていることにふと気づいた。
 場所の順番的には神樹が先頭で出ることになるが、そうなるとやや気まずいことになる。
(……しかし見てはいけないから見たくなるのも人の心理なわけだし)
「そうだ酒野」
「うぉ! お、おう。なんだ?」
 心の声を読んだわけではないのだろうが、神樹に声をかけられて酒野は内心あせりながら言葉を返す。
「……その馬鹿を回収しておいてくれ」
 酒野が下を向くと、
「……ぐー」
 森本が未だに寝息を立てていた。
 ある意味尊敬するよ、と苦笑しながら酒野が視線を戻す。
 しかし、そこに神樹の姿はなかった。
「…………」
 酒野と、顔にいくつも靴跡をつけた森本が出てきたのは、それからしばらくしてのことだった。

「……あれがグリーンモス……」
 独特の流線型模様を持つ機体の表面は、今や魚の鱗のようなものに覆われていた。
 その鱗はいちょう切りで切ったような四分円状をしていて、そのどれもが半分融けた状態で固まっていた。
「どうやら機体がオーバーヒートを起こしてるみたいだね」
 機械に詳しい森本が語りだす。
「元々グリーンモスは熱暴走を起こしやすい機体なんだ。おそらく送迎車の装甲を貫くために外装を変化させたんだろうが、その分機体にかかる負荷が大きかったみたいだな」
「外装を変化って、なんだよそれ?」
「あれの外装は液体金属を使っているんだが、そこに電気信号を与えることでその場に適した外装を作り出せる代物なんだ」
「はは……腐っても軍事用機体ってわけね」
「ああ。おそらくしばらくしたらプログラムのクリーニングも終わって再起動するだろう」
「そいつは……ヤバいな」
 三人の間に重い沈黙が流れる。

「……森本。あれは『ドラゴンフライ』で切れるか?」

 その時、今まで無言だった神樹がおもむろに口を開いた。
「神樹、お前まさか……?」
「ドラゴンフライ?」
 驚きの表情を浮かべる森本の横で、話についていけていない酒野が首をかしげる。
「転校生。お前、武器は持ってるか?」
「え、いや、まあ、あるっちゃあるけど。その、今は使えないというか……」
 急に話を振られて酒野は思わずしどろもどろとなる。
「足がない今、奴から逃げ切るのは不可能。森本は非戦闘員だし、転校生は見ての通り役に立ちそうにない。なら私がやるしかないだろう」
 森本が無言で神樹を見つめる。その目は何かを問いかけているような目をしていた。
「……わかった。おい酒野、行くぞ」
「え、ちょっ、どういうことだよ? おい、説明しろって!」
 森本が酒野を引きずりながらクレーターの外側へと向かう。
 それを軽く見送ると、神樹は目の前の敵へと向きを変える。
 左手は無意識のうちに胸元のペンダントを握っていた。
 それはどこのお寺や神社や教会のお守りにも負けない、今はいない大事な親友がくれたお守りだった。

「もう二度と繰り返すものか」

 そして、お守りから手を離し神樹は右手を敵へと向ける。
 かつて親友へと向けた"兵器"とともに。

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「おい! 転校生、生きてるか!」 ぼんやりとした頭で酒野が目を覚ますと、目の前に黒髪の美少女の顔が迫っていた。 「へ?」 事態が飲み込めず呆然としている酒野だったが、 「起きろ! 敵が来るぞ!」 と胸倉をつかまれ無理矢理に引き起こされる。 そこでようやく自分たちが横転した送迎車の中にいることを思い出した。 「確かグリーンモスにいきなり正面から衝突されて、それから……」 「話は後だ、とにかく車外へ出るぞ」 やや歪んだ送迎車の左側面のドアが、上に向かって開かれる。 と、そこで酒野は神樹がスカートを穿いていることにふと気づいた。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-25

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