僕は悪くないよ

ハーイ、みんな。

僕はイケてるボーイだ。
髪は金髪で目は碧眼。
自分で言うのはなんだけど、顔は整ってて、おまけに足も長い。
きらりと光る笑顔が、その魅力の証明さ。
とは言っても、僕は人間じゃあない。
ドールなんだ。世界で一番ハンサムなドール。

そんな僕だけど、実はずっと世界を旅してる。
そうだな、人間の時間で言えば、数百年はこの世界にいる。
そんな中でも、戦争は嫌な出来事だったね。
少し前まで家にはテレビとかラジオがあったから、いつも情報が手に入ったんだ。
悲しい声とか、怒号とか、憎悪、嫌悪。そんなものが入り混じって、最悪だったね。
僕は、そういうの嫌いだから。
でも今は、世界を見渡すことができない。
だって、裏道にある鋼鉄で出来たダストボックスの暗闇から、どうやって世界のことを知る事が出来るのさ。

なんで僕がダストボックスにいるのかって?
それは、また捨てられたからだ。
初めてじゃない。数えるのなんて、嫌になってやめたぐらいだから。
何度も、どこにでも捨てられてきたから。
慣れっこって奴さ。
しかも最近は、僕をなんだか嫌な感じで見る人がいて、みんな同じことを言うんだ。
僕に関わったら酷い目に合うって。
これでも昔はすごかったんだよ? 高いところに僕は座らせられて、みんな僕に跪いて、炎と一緒に何かを唱えるんだ。
その時、僕は神様だったんだ、きっとね。
不気味だと思ったこともあったけど、嫌な感じでは無かったね。
人間だって同じ風に思うはずだよ。
それから、神父に拾われて、ずっと説教をされたこともあったし、由緒ある貴族の家の暖炉の火を見てたこともあった。

思えば、いろんなことがあったなあ。
長い人生、もとい、人形生だった。
なんでこんな事を言ってるのかと言えば、僕はもうすぐ最期だからだ。
だってこのダストボックスの中で過ごして、そろそろ1週間経つからね。
1週間で大体回収しに来るって、前の主が言ってたんだ。
さすがにこれだけ長生きしていてハンサムな僕でも、ダストボックスから回収されて、ゴミ収集車にぺちゃんこにされちゃったらおしまいだから。
……あ。なんだろう。急に明るくなった。
これが天使の迎えってやつなのかな。
「私の人形……ここにあるかなあ」
女の子の見た目をした天使が、僕を見つけたみたいだ。
「え!! ねえママ見て!! この人形かっこいい!! 前の人形じゃなくてこっちがいい!」
僕は暗闇から強引に外に出されて、眩しい世界へと飛び出した。
そのうち車に乗せられて、どこか知らない家に着く。
どうやら引越しをした家族みたいで、新しい家に荷物を運んでたみたい。
でも、懐かしい人形が見つからなくて探してたら、僕を見つけて気に入ったって訳さ。
全く、モテる男はつらいね。

僕は、四六時中その女の子と過ごした。
映画も見たし、一緒に寝たし、おままごともした。
なんだか今までで一番充実した日々だったように思えた。
でも、そんな日が永遠に続く訳じゃ無かった。
少女が大人に向かい始めて、僕は倉庫の中に仕舞われた。
それは僕にとって休暇期間で、暗闇でゆっくり過ごした。
でもやがて、また僕に出番が巡って来る。
「あー、あったあった!」
「えーこれが人を殺す呪いの人形?」
「マジで! 本物?? キャハハ」
僕は昔大事にしてもらった女の子とその友達に囲まれて、遊ばれた。
儀式と称して彼女たちに囲まれて、顔を掴まれた。
嫌な気持ちだった。
嫌な目を向けるから。
嫌だよ。そう叫ぶ。嫌だ。嫌なんだ。やめて。そんな目で見ないでくれ。
そうして気付けば、目の前は明るくなっていた。
炎だった。煙を吸った3人は倒れていた。
たぶん、一人も助からないな、なんて思った。

僕はイケてるボーイ。
呪いの人形じゃないよ。
僕は悪くない。僕を悪く言う奴が悪いんだ。

僕は悪くないよ

連続ネットショートショートです。(うそ)
ショートショート書くのにまたハマり出しました。

今作で書きたかったのは、誰にでもあることです。
自分を嫌う気持ちと、その気持ちを嫌う気持ち。
そしてそれを誰かになすりつけて、なんだかハッピーになったつもりでいるっていう。
そんな何かが伝わっていれば幸いです。

僕は悪くないよ

僕は悪くないよ。 そう言う長生きな人形は、ネガティブな感情を向ける人間が嫌いだった。 楽しく過ごした日々もあれば、そうじゃない時もある。 僕は、いつも楽しく過ごしていたいだけなんだ。 すぐ読めるショートショート。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-30

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