刹那の中の永遠

 皆さんこんばんは。空由佳子と申します。
 あまりにも小説を更新していないので、存在を忘れられているような気もしないでは無いですが、忘れられているからこそ、書ける小説もあるかなぁと思い立ち、こうしてペンを取った次第です。
 相変わらず、ハヤブサさん×シュバルツさんの世界観を貫いている私の小説ですが、今回は、少し毛色が違います。

 今回の小説、実は、シュバルツさんが女性化しております。

 これは、漫画で描こうかなぁと思っていたネタでもありますが、これを描くにはあまりにも自分には画力が無いことに気づかされて、描くのを断念した物です。文章力もあるとは申しませんが、文章の方がまだましなのかなぁと思った次第で……すみません。

 なので、ハヤブサさん×シュバルツさんのBL小説なのですが、シュバルツさんが女性化しているため、表現はNLになるという、非常にややこしい事態になっております。このカップリングが嫌、女性化なんて許せない、BLじゃ無きゃ嫌、と言う方は、読まないことを強くおすすめいたします。読んでもたぶん、ろくな事にはなりませんので。
 それでもかまわない。読んで良いよ、楽しめる、という方だけ、どうかお進み下さい。私自身は、とても楽しんで書ける予感がしております。

 それでは、おつきあいできる方は続きよりどうぞ~。
 

序章

それはシュバルツにとっては唐突だった。
本当に────何もかもが唐突だった。
 朝起きたら、自分の胸が何故か膨らんでいる。
 慌てて股を覗いてみれば、付いていなければならない物が付いていない。
「!?」
 まさかと思って鏡を覗いてみれば─────いつもの自分よりも小柄な、可愛らしい『女性』の姿がそこにあったから────

「何じゃこりゃあああああああッ!?」

 彼はあり得ないほどの大声で、悲鳴を上げていた。

「第1章」

 キョウジ・カッシュはまどろみの中で、睡魔と戯れていた。ちらりと時計を見ると、起きなければならない時間まで、少し間がある。
(どうしようかな)
 珍しく、大学の講義の準備はもう出来ている。研究所の方も、急ぎの実験があるわけでもないし、誰かと会う約束が、あるわけでも無かった。
 久しぶりにゆっくり出来る朝────
 もう一眠りするのも悪くないと思い、キョウジはゆっくりと目を閉じる。その矢先、いきなり静寂は闖入者によって破られた。

「キョウジッ!! 起きてくれ!! キョウジ!!」

 部屋に響き渡る、甲高い『女性』の声。キョウジはびっくりして、飛び起きる羽目になった。振り返るとシュバルツとよく似た格好をした、少し小柄な女性が血相を変えて自分に呼びかけてきている。
「ど、どちら様ですか!?」
 かなり狼狽して問いかけるキョウジに、その女性は食ってかかるようにキョウジに詰め寄ってきた。
「馬鹿ッ!! キョウジ!! 私だ!! シュバルツ・ブルーダーだ!!」

「ゑっ!?」

 呆然とするキョウジに、シュバルツはさらに畳みかけてくる。
「だからっ!! 私はシュバルツだと言うに!!」
「えっ? でも、ほら────」
 ここでおもむろに、キョウジは目の前に突き出されるようになっている、シュバルツの胸に触れる。
「あっ!!」
「シュバルツにこんな胸………無かったと思うけど……」
 コート越しに胸に触られる感覚に、シュバルツは少し困惑してしまう。
「そ、そうなのだが……ッ! 今朝起きたら、いきなりこうなっていて………!」
「ふ~~~ん?」
 そう言いながら、キョウジはシュバルツの胸に触れ続ける。下側からその胸の大きさと弾力を確かめるように、揉み続けていた。
「でかいな………」
 素直な感想を述べる。その瞬間。

「いつまで揉んでいるんだっ!!」

 シュバルツの鉄拳制裁が、キョウジに飛んだのだった。

「ああ、間違いなくシュバルツだ」
 殴られたところをさすりながら、キョウジが独りごちている。
「どういう確認の仕方だ………」
 シュバルツが呆れたようにため息を吐いていると、キョウジがベッドから立ち上がった。
「シュバルツ、少し待っていてくれ。服を着替えてくるから────」
 パタパタと身支度を調え出すキョウジに、シュバルツもはっと気がついたかのように、その後を追いかけはじめた。
「キョウジ、朝食を作ろう」
「ああ、お願い」
 こうして、いつも通りとは少し違う、「いつも通り」の朝が、始まったのだった。


「それにしても……どうしていきなり『女性』になってしまったんだ……」
 朝食を食べているキョウジの傍で、はあ、と、ため息を吐いているシュバルツ。
「どうしちゃったんだろうねぇ……?」
 シュバルツの作った味噌汁をすすりながら、キョウジも原因について考えを巡らせていた。そして、ある可能性に行き当たる。
「もしかして、あれかな……?」
「────! 覚えがあるのか?」
 顔を上げるシュバルツに、キョウジは少し渋い顔をする。
「いや、確証があるわけじゃ無いんだけど………・」
「どんな可能性でも良い。話してくれキョウジ」
「や、実は………怒らないで聞いてくれる?」
 キョウジの言葉に、シュバルツの眉がぴくり、と、動く。
「………場合による」
 シュバルツの低い声に、キョウジも「ですよね」と、苦笑するしか無い。しかし、話さなければ、もっと怒られそうなので、キョウジは話すことを選択していた。

「実は……シュバルツが昨日ドモンとの組み手修行をしているときに、ここにハヤブサが来ていて……」
「ハヤブサが?」
 少し驚いたように顔を上げるシュバルツに、キョウジは頷いていた。
「『約束の日』は、まだ先の筈なのに……」
「そうなんだけど、ハヤブサは時間が出来れば、割とここに来ているよ。あれ? 気づいてなかった?」
「…………!」
 キョウジの言葉に、シュバルツはもう呆れかえるよりほかない。
 キョウジの話から察するに、ハヤブサは割と、頻回にここに来ているようだ。下手をしたら、自分に会うよりもキョウジと会っている時間の方が多いのではないかと、思ってしまうぐらいに。
「あいつ……! 何を考えているんだ……!」
「さあ……。たぶん、こちらの近況を探るのと、自分の愚痴を聞いてもらうのと、両方が目的かな?」
「愚痴………」
「そう、愚痴。主に、貴方に会いたいって言う」
「………!」
 少し驚くシュバルツに、キョウジはにこりと微笑みかけていた。


 キョウジが1人、地下の実験室にいるときに、龍の忍者はするりと入り込んできていた。シュバルツは留守だという旨をハヤブサに告げると、ハヤブサは「知っている」と、少し淋しそうに答えていた。
「本当は……もっとシュバルツに会いたいんだ……。だけど、『約束の日』以外に会いに行くと、あいつ怒るから……」
 そう言って膝を抱え込み、床に「の」の字を書くハヤブサ。
 そんな、小さく落ち込んでいる姿を見ると、彼がつい、『神』と呼ばれる存在の物をすら討滅してしまう、伝説の『龍の忍者』であることを、キョウジはうっかり忘れそうになってしまう。
 それほどまでに────キョウジにとってハヤブサという存在は、なじみの深い者になっていたのだ。
「あははは……でも、しょうが無いよ。一度、『約束の日だけに会う』って言う約束を無くして、自由に会いに行けるようにしたんだろう? そしたらシュバルツが、生活に支障を来すレベルでくっつかれたから怒ったって………」
「そうなんだよなぁ……」
 そう言いながらリュウ・ハヤブサは頭を抱えている。
 会いに行ったその日は、たまたまシュバルツはキョウジの代わりに大学の講師の仕事をしていた。
 白衣を着て、学生の前で講義をするシュバルツの姿にしばらく見惚れていたが、同じように学生たちがシュバルツの方を熱心に見つめているのに気がついたら、居てもたっても居られなくなってしまって────

「俺は単に、シュバルツは俺の物だと主張したかっただけなんだ……。ちょっと講義しているシュバルツの一番近い席を陣取って座ったり、休み時間のたびに、傍にくっついていただけなのに……!」

「それで、質問に来た学生まで追い払っちゃったら………怒られても仕方が無いでしょ」
「うぐっ……!」
 キョウジに諭されて、ぐうの音も出ないハヤブサ。彼は深いため息を吐くと、近くにあったパイプ椅子に、重たそうに腰を下ろした。
「はあ~~~~~………シュバルツに、会いたい………」
「仕方が無いよ。『約束の日』まで待てば────」

「昨日も、里の者からやんわりと言われたよ。『リュウ様は、血統をどうお考えなのか』って………」

「血統?」
 きょとんとするキョウジに、ハヤブサは苦笑する。
「龍剣を使える、『龍の忍者』の『血筋』を、次代に繋げって事なんだろう? 平たく言えば、『嫁をもらって子を作れ』って言うことだ」
「……………!」
「里の統制の安泰のためには、長である俺に子どもをもうけて欲しいと願う、長たちの気持ちも分かる……。『龍剣』と言う妖刀を封印しておくためにも、俺の中に流れる『龍の血』を絶やすわけにはいかない、と、思っても居るのだろう」
「ハヤブサ………」

「だから、俺はいずれ里の者が選んだ女性と結婚をして────なんとなく家庭を築く物だと思っていたよ………。シュバルツと会うまでは」

 その言葉にキョウジは、はっと息をのむ。ハヤブサは、少し切なそうに笑っていた。

「きっと俺は、シュバルツが男だろうと女だろうと、人間であろうが無かろうが関係なく惹かれて────恋に落ちてしまったのだろう。理屈じゃ無いんだ。俺は、シュバルツしか欲しくないんだ……」

「……………!」
「強いて言うなら………シュバルツが『女性』であったなら、それこそ最高だったのだが────」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ハヤブサ!」
 ハヤブサのその言葉には、さすがにキョウジも待ったをかけた。
「シュバルツが『女性』だったらって……! まさか、シュバルツとの間に子どもを持ちたいの!?」
 キョウジの言葉に、ハヤブサは真顔で頷く。
「ああ。シュバルツとの間に子が出来るのなら、それこそ何人でも持ちたい」
「いやだってシュバルツは────」

「『DG細胞』で出来たアンドロイドだよな? よく、分かっているさ」

 ハヤブサの言葉に、キョウジは瞬間絶句する。
 しかしすぐに気を取り直して、言葉を紡いだ。ハヤブサが危険すぎる物思いをしていると感じたからだ。
「じゃ、じゃあ、『DG細胞』の特性も………」

「言ったはずだキョウジ。シュバルツに惹かれるのは理屈じゃ無いのだと」
「……………!」
 キョウジの顔色が蒼白になる。それを見たハヤブサは、面に優しい笑みを浮かべた。
「だから、ある意味シュバルツが男でよかったと思っている」
「ど、どうして?」
 問いかけるキョウジに、ハヤブサは苦笑気味の笑顔を見せた。
「俺が、シュバルツとの子どもを欲しがっても、シュバルツの方が、それを拒絶するだろう? あいつは自分の身体を構成する『DG細胞』の歪さ、危険さをよく分かっているから────」
「あ………!」
「絶対に、俺をその闇に巻き込みたくないから、俺と関係を持つことを断固拒否するだろう。そんなの、俺が耐えられない。目の前にシュバルツが居るのに、それに触れられないなんて………」
 そう言いながらハヤブサは、膝を抱えてしくしくと泣き出してしまっている。キョウジはひたすら呆れかえるよりほかなかった。
「だから、シュバルツは男で良いんだ。今のままなら、一週間に1度でも、触れることを許してくれるから────」
「そ、そんな物なのかな………」
 苦笑するキョウジに、ハヤブサは涙目を向けながら頷く。そこで────この話題は終わった。少なくとも、キョウジはそう感じていたのだが。

 もしも、あの場所で、ハヤブサが『シュバルツが女性であれば良いのに』と、強く願い続けていたのだとしたら。

 あの場所にはシュバルツをメンテナンスするための道具がいっぱいあった。
 そして、シュバルツのDG細胞の検体を培養した物も。

 DG細胞は、『人のココロ』に感応する細胞だ。それが、ハヤブサの願いに強く感応してしまっていて。
 その状態の細胞の一部を、シュバルツに昨日定着させたりしちゃった物だから。
 DG細胞がハヤブサのココロに、応えてしまったのかもしれない。
 シュバルツを
 女性にと────


「な─────!」
「あくまでも仮説だけどね」
 肩をすくめるキョウジに、シュバルツは呆然とするしか無かった。
「お、おい! 私はいつまでこの状態なんだ!? まさかずっと────」
「いや、シュバルツに定着させたDG細胞は微量な物だし、その細胞がシュバルツの周りの細胞となじんで落ち着いてきたら、自然と元に戻ると思うよ」
「そ、そうなのか?」
 少しほっとしたような顔をするシュバルツに対して、キョウジは少し渋い顔をする。
「でもなぁ………」
「でも……何だ? キョウジ……」

「シュバルツがそのまま、『女性』として固定されてしまう可能性も、なきにしもあらずなんだ……」

「固定? それは……どういうことなんだ?」

 おそるおそる問い返してくるシュバルツに、キョウジは少し、困ったような笑みを見せた。

「たとえば、シュバルツが『子ども』を妊娠した場合」

「──────!!」

 絶句するシュバルツに向かって、キョウジはさらに言葉を続ける。
「お腹の子どもを育てるために、女でいる必要があるでしょ? そうなったら、生物の本能的に、シュバルツは『女性』になってしまう可能性も────」

「……キョウジ。私はしばらく身を隠すぞ」

 キョウジの言葉が終わらないうちに、シュバルツが手早く身支度を始める。
「えっ!? 身を隠すって、どうしたの!?」
「当然だ! こんな状態の私をハヤブサが見てしまったらどうなるか────分かるだろう!? ハヤブサとの間に子をもうけるわけにはいかん!!」
「そ、それはそうかもしれないけど………」
「分かったなら、しばらく私のことは探さないでくれ! 身体が元に戻れば帰ってくるから────」

 そう言って、部屋から出て行こうとするシュバルツ。
 だが、その足は、すぐに止まることとなってしまった。
 何故なら部屋の出入り口には────

 シュバルツが今最も会いたくなかった、『リュウ・ハヤブサ』の姿があったからだ。

「……………」
 無言でシュバルツを見つめているハヤブサ。シュバルツは、そんなハヤブサから、一歩、身を引こうとする。だがそれよりも早く、龍の忍者はシュバルツの腕を捕まえていた。
「あっ!!」
 酷く強い力で腕を掴まれ、引き寄せられる。シュバルツはそれを振りほどこうと足掻いたが、それは徒労に終わっていた。
「シュバルツ……? これは、シュバルツ、なのか………?」
 腕を頭上に一括りに捕らえながら、自分より少し小さくなったシュバルツの姿をまじまじと凝視する。いつものロングコートが明らかにぶかぶかで丈がだぶついているのに、胸の辺りが酷く窮屈そうだった。
 ぐ……と、捕らえる腕に力をこめると、「う……!」と、小さな声で呻くシュバルツ。眉をひそめるその横顔が美しくて、捕らえた腕があまりにも華奢だったから、ハヤブサは色々たまらなくなる。
「シュバルツ………」
 ハヤブサがふらふらと、シュバルツに触れようとした、刹那。

「ふざけるなっ!!」

 シュバルツの強烈な蹴りが、ハヤブサの手首を襲う。ハヤブサの手が離れた隙に、煙幕弾がいきなり炸裂した。
 瞬間、部屋は真っ白な煙に包まれる。
「わっ!?」
 キョウジが驚いている間に、忍者二人の気配が部屋から消える。シュバルツが部屋から脱出し、ハヤブサがその後を追っていったのだとしれた。

「ど、どうしよう………」

 煙が晴れた部屋で、キョウジはただ、呆然とするしかなかった。

(冗談ではない!)

 シュバルツは懸命に足を走らせていた。

 絶対に駄目だ。
 今の身体の状態で、ハヤブサに捕まってしまうことは。

 キョウジの話では、ハヤブサは私との間に子どもを望んでいる節があるという。

 それは駄目だ。
 それは絶対に─────許すわけにはいかない。

 自分が女性に定着するだけならば、まだ良い。
 だが、産まれてくる子どもは?
 私の腹から産まれてくる子どもは、どんな宿命を背負ってしまう事になる?

 DG細胞と、無縁でいられるはずがない。
 死ねない。
 暴走する危険性を孕む細胞で構成されているが故に、誰とも触れ合うことが出来ない。
 人外。
 人の世から、排斥されるべき物にすら、なってしまう可能性がある。

 DG細胞の闇。
 まさに、DG細胞の闇だ。

 駄目だ。
 そんな宿命を、ハヤブサとその子どもに背負わせるわけにはいかない。
 ハヤブサは、幸せになる権利がある。
 ハヤブサの子どもも、幸せになる権利がある。
 闇に、孤独に、汚泥に塗れるのは、私1人で十分なんだ。私の『闇』に、つきあう必要はないんだ。

 お願いだ、ハヤブサ。
 私を追ってこないでくれ。
 今の私を、求めないでくれ─────!


 ハヤブサは、そんなシュバルツの後ろを、つかず離れずの距離でぴったりと追い続けていた。
(理想が服着て走っている……)
 ハヤブサはシュバルツの後ろ姿を見ながら、そんなことを感じていた。

逃がさない。
絶対に捕まえてみせる。
俺の────愛おしい、ヒト。


(くそっ! 靴が……!)
 女性になってしまったが故に足が小さくなり、ロングブーツがぶかぶかになってしまっている。ズボンも、ウエストの辺りがだぶついて、油断したらずり落ちそうになってしまう。
 ブーツを脱ぎ捨てたいとシュバルツは願う。だが、今は駄目だ。脱ぐために足を止めたら、ハヤブサに追いつかれてしまう。
「チッ!」
 舌打ちしながらベルトを強引に結びつけ、ズボンがずり落ちることだけは防ぐ。
 他にも────走るたびに胸が揺れて、それが痛くて仕方がない。
 本気で、世の女性たちを尊敬する。
 胸にこんな邪魔な物を二つも抱えて、よく身軽に動けているものだ。
(そうか……。だから、さらしやブラジャーが要るんだな……)
 シュバルツはため息交じりに思う。とにかく、この揺れる胸を押さえたい。ハヤブサと戦うために、身支度を調えたい。今のままハヤブサと相対するには、自分があまりにも不利すぎた。
「──────!」
 ぶかぶかの靴が、シュバルツの足をもつれさせ、バランスを崩させる。
「シュバルツ!!」
 ハヤブサの腕が伸び、シュバルツを捕まえようとした、刹那。

 シャッ! と、音を立てて、白刃が煌めく。それは、伸ばしたハヤブサの手のひらを傷つけた。

「……………!」
 痛みに、思わず手を引っ込めるハヤブサの目の前で、短刀を構える愛おしいヒトが、険しい目つきでこちらを睨んでいた。
「シュバルツ………」
「ハヤブサ……何故、追ってくる?」
「何故って………」
 下手なごまかしは通用しないと感じたハヤブサは、自分の気持ちを正直に伝えることを選択していた。
「決まっている。お前に触れたいからだ」
「私は今『女』だぞ!? それでもか!?」
 その言葉にハヤブサは、フッと柔らかい笑みを、その面に浮かべる。
「愚問だ。俺は『お前』だから触れたいと思っている。お前が男だろうが女だろうが────それは関係ない」
 静かに紡がれるハヤブサの言葉に、シュバルツはぐっと歯を食いしばってしまう。

 理解不能。
 理解不能だ。

 どうして────こいつは私なんぞにそこまで惚れ込めるのだろうか。

「馬鹿ッ!! 冷静に考えろハヤブサ!! 私の身体が『女』であることの意味を考えろ!! 男の時みたいに、お前に容易く身体を許すわけにはいかん!!」

「何故だ?」
 静かに問い返してくるハヤブサに、シュバルツは知らず声を張り上げていた。

「子どもが出来るかもしれないんだ!!」

「──────!」
 驚き、息をのむハヤブサに、シュバルツはさらに訴えかけた。自分から産まれる子どもには、どんな宿命が降りかかってしまうのか────それをハヤブサに分かって欲しくて。
「知ってのとおり、私の身体はDG細胞で出来ている!! そんな『モノ』が子どもを身籠もってみろ! 産まれてくる子どもだって────!」

「お前、子を身籠もれるのか?」

 ハヤブサの酷く冷静な響きを持った声に、シュバルツの叫びは中断させられる。はっ、と、息をのむシュバルツに対して、龍の忍者はさらに、一歩踏み出した。

「シュバルツ、もう一度聞く。お前は、子を身籠もれるのか?」

 問いかけてくるハヤブサの雰囲気が、先程とはがらりと変わっている。シュバルツは悟らざるを得なかった。自分は、ハヤブサに最も渡してはいけない情報を、渡してしまったのだと。
(しまった────!)
 シュバルツは、自分のうかつさを悔やむ。だが、もう遅い。
「わ、分からないが……可能性は、零ではない」
 素直に、すべての情報を明け渡す。今更隠し立てしようとしても、無駄だと知れた。
「もしかしたら、外見だけが『女性』になっていて、生殖機能が備わっているわけではないかもしれない。だが、男の私には、生殖機能があったから………」
「お前の腹の中に、『子宮』や『卵子』が、あるかもしれないと言うことか?」
「キョウジに調べてもらわないと、断言は出来ないがな」
 ハヤブサに答えながら、シュバルツは油断なく身構えていた。
 とにかく、守らなければならないと、強く思った。
 ハヤブサとの交わりで子が出来てしまう可能性が零ではない以上、自分の『闇』に、ハヤブサとその子どもを、巻き込んでしまうわけにはいかないのだから。

 分かってくれ、ハヤブサ。
 お前の子を孕んで良いのは私ではない。
 私がお前の子を産んでも、お前もその子どもも、不幸になるだけだ。

「……………」
 ハヤブサは短刀を構え続けるシュバルツを、少し切なそうに見つめていたが、やがてその面に、フッと、小さな笑みを浮かべた。
「お前……俺を殺す気無いだろう」
「!!」
「良いか……? 俺は、本気でお前を奪いにいく。だから、お前もそれが嫌なら、本気で俺を殺しに来い」
「な─────!」
 あまりのハヤブサの言い分に、絶句するシュバルツ。
「そうしなければ、俺はお前を孕ませるぞ。俺はお前に産んでもらいたい。俺の子を────」
 その言葉が終わると同時に、一気に膨れあがっていく、ハヤブサの殺気。
「そんな………!」
 シュバルツはただ呆然とするしかなかった。
 自分は、ハヤブサには幸せになってもらいたいと願っている。決して、彼の死を願っているわけではないのだ。
 それなのに「殺せ」とは────本末転倒ではないか。

「ハヤブサ……!」
 シュバルツは短刀を構えながら、なんとかハヤブサと話し合う可能性を探る。だが、ハヤブサから放たれる鋭い殺気が、「話し合いの余地はない」と、シュバルツに冷酷に告げていた。
「か、考え直してくれ……! ハヤブサ……!」
「……………」
 シュバルツの訴えに、しかしハヤブサは答えない。そのまま無造作に、シュバルツに向かって歩き出した。
「…………!」

 何故だ?
 ハヤブサ
 どうして────

 シュバルツは歯を食いしばりながら、一歩、下がろうとする。しかし、それよりも早くハヤブサの方が、距離を詰めてきた。
「くっ!!」
 ハヤブサの手を、何とか身を捩ってかわす。そのままハヤブサの脇をすり抜け、シュバルツは一目散に走り出した。
「逃がさん!!」
 ハヤブサもまた、すぐさまシュバルツの後を追いだす。その距離はすぐに縮まり、すぐに忍者二人は、組み手のとっくみあいのような状態になった。
(くそっ!)
 シュバルツはすぐに、自分の身体の戦いにおける不利さを突きつけられる格好になった。
 まず、手足が短くなっているため、リーチが足りない。隙を見つけて徒手を打ち込んでも、今一歩届かず、それは空振りに終わってしまう。さらに、ハヤブサとの圧倒的な力の差。男の時は平気だった彼の膂力が、今は、受け止めきれない。捕まれば終わりだと悟る。
 おまけに────
(くそっ! 揺れる胸が痛い!!)
 こちらが動くたびに、いちいち揺れて存在を主張して来る胸。酷く邪魔だった。
 どうして自分は最初にさらしを用意しておかなかったのか。今更ながら、それが強く悔やまれた。
 それでも捕まるわけにはいかないと、シュバルツは必死に防戦する。だが、不利すぎる条件下での戦いは、やがて限界を迎えた。
「あっ!!」
 腕を掴まれ、そのまま強引に引き寄せられる。振りほどこうとしたもう片方の腕もあっさりと掴まり、そのまま両腕を頭上で一括りに拘束されるような格好になった。
「離せっ!!」
 叫びながらシュバルツは、ハヤブサに足技を繰り出そうとする。だがハヤブサの非情な拳が、シュバルツの膝の皿をたたき割っていた。

「うわああああああっ!!」

 激痛と共に、動きを封じられる足。シュバルツはたまらず悲鳴を上げる。彼の身体が、自分の目の前で大人しくなったのを確認してから、ハヤブサはあらためてシュバルツに声をかけた。
「下手な抵抗ならするな。怪我が増えるぞ」
 そう言いながら、ハヤブサはシュバルツのロングコートにぐっと、手をかける。そして、それをそのまま下のシャツごと、ビリビリッ! と、音を立てて引き裂いていた。
「あ………ッ!」
 ハヤブサの目の前で、シュバルツの大きな乳房が、揺れながら露わになる。ハヤブサはさらに、シュバルツのベルトを解き、ズボンと下着を下にずらして、その秘部を確認していた。

「ああ、間違いなく『女』だな」

 恥毛の下に、男ならば無ければならない物が無いことを確認して、ハヤブサはにやりと笑う。そのまま秘部に、そろそろと手を伸ばした。
「あ………! や……ッ!」
 ハヤブサの指が、そっと割れ目に滑り込んでくる。
「……ちゃんと、『穴』がある。分かるか? 『ここ』で、男を受け入れるんだ」
 そのまま入り口を、優しく指でつつかれる。シュバルツは初めて味わうその感触に、身悶えるよりほかなかった。
「嫌だ……! いやぁ……!」
「固いな……。処女だ。当たり前か」
 ハヤブサは一通り、シュバルツの性器の感触を指で味わうと、再びシュバルツに声をかけた。
「心配するな、シュバルツ……。里の座敷牢で、ゆっくりここをほぐしてやる。俺の物を受け入れて、子を孕んでもらうために」
「な─────!」
 シュバルツの顔色が蒼白になる。それを見たハヤブサは、何故か淋しそうに笑った。
「だから、シュバルツ………お前に、最後のチャンスをやる」
「チャンス……?」
 涙で瞳をぬらしながらも、怪訝そうにこちらを見つめるシュバルツが、ハヤブサは愛おしくてたまらない。
 だから─────

「もしも、これ以上俺とこの行為をするのが嫌だ、と、言うのなら、ここで俺を殺してくれ」

「──────!」

 思わず息をのむシュバルツの頬を、ハヤブサは優しくなでた。
「このまま……お前に触れられないのなら、俺はもう、生きていても仕方が無いから」
「ハヤブサ……!」
「拒絶するのなら、いっそここで俺を殺してくれ……。俺は、お前がもたらす『死』ならば、どんなものでもいい。喜んで受け入れられるから」
「そんな………!」
「シュバルツ……」
ハヤブサはシュバルツの顎を優しく捉えて────
「ん……………!」
そのまま唇を、優しく奪う。それをしながらハヤブサは、ゆっくりとシュバルツの手を解放して、彼の身体を優しく抱き締めた。
「んぅ…………」
自由になったシュバルツの手には、短刀が握り込まれている。
(さあ、俺を殺せ、シュバルツ)
ハヤブサはシュバルツとの口付けに没頭しながら、そう願い続けていた。

俺は教えた筈だ。これからお前が何をされるのか。どういう目に遭ってしまうのか────
俺はお前の膝の皿を容赦なく割った。それは、俺がお前を孕ませるためならば、手段を選ばないことを意味する。それほどまでに────シュバルツとの間に子を願う気持ちは、強烈な物だった。

 何故。
 どうして。
 自分の中に芽吹く、この凶悪ともいえる、衝動は何だ。

 愛おしい。
 何物にも代え難い、愛おしいヒト、なのに────

「ん……………! ふ……………」

ハヤブサに唇を奪われながらシュバルツは、己が手の内にある短刀を意識する。
ハヤブサからもたらされている優しい抱擁。それを振り払うのは、容易いことのように思われた。
だが逃げられない。割られた膝の皿は、まだ回復していなかった。足を奪われたこの現状では、ハヤブサから逃げ切るのは実質不可能だった。
何と言う事だ。今この状態から逃れるためには本当に、ハヤブサを殺すしかないなんて。その事実に気づいたシュバルツは、絶望的な気持ちになる。

自分は、ハヤブサを愛している。
愛する人には誰よりも幸せになってもらいたい。それは、譲れない願いだった。

 自分はいい。
 このままハヤブサにいいように弄ばれても、嬲られるように犯されても。
 それでハヤブサの気が晴れるのならば、喜んでつきあえた。

 だが今の女の身体でそれをした結果、子どもが出来てしまったら?

 そうなってしまったら、これはもう自分の問題だけではなくなってしまう。ハヤブサとその子どもを、文字通りDG細胞の闇の世界に引きずり込んでしまうことになるのだ。
(駄目だ!! それは駄目だ!!)
 シュバルツは強く思う。
 このままではハヤブサと、その子どもの人生を滅茶苦茶に狂わせてしまう。
 この行為を赦し続けては駄目だ。
 拒絶
 拒絶しないと─────

「シュバルツ……」

 ハヤブサの手が、無防備に晒されているシュバルツの胸に伸びてくる。そのまま下から、優しく包み込むように触れられた。
「んっ!!」
 ビクッ! と、反応してしまうシュバルツの身体。それに煽られてしまったのか、ハヤブサの身体がさらに密着してきた。口付けの深度も深くなり、胸を弄ぶ手の動きも、さらに大きな物になっていった。シュバルツの形のよい大きな乳房が、ハヤブサの手の動きに合わせて、様々な形に変えられてしまう。
「ん……ッ!! く……ん………ッ!」
(ハヤブサ……!)
 シュバルツの頬を涙が伝う。

 何故。
 どうして分かってくれないのだろう。
 人間の「パートナー」になるには、人の「親」となるには
 私ほど歪で危険な存在はないというのに────

 短絡的に、この行為に及んではいけない。
 シュバルツの短刀を持つ手が、ぴくりと動く。

「……殺すならば、一撃で殺せよ」

「ハヤブサ……あっ!!」
 シュバルツの乳首を指で嬲りながら、龍の忍者は言葉を続けた。
「俺が、お前の反撃を許すのは一度限りだ。それ以上は、抵抗したと見なして、俺はお前の抵抗能力を奪って里へと連れて行く」
「な…………!」
「後は………分かるよな?」
 そう言いながら、ハヤブサがチュッ、と、音を立てて耳に口づけてくる。胸への愛撫も執拗に続けられていた。
「それが嫌なら、ちゃんと殺せ。シュバルツ」
「あ………! あ………!」
「そうしなければ、俺はもう、止まれないから────」
 そう言いながら、ハヤブサはシュバルツの首筋に口付け、胸を揉みしだく。
冷たい殺気と言葉。
 なのに、人の『ココロ』に共鳴するDG細胞がシュバルツに聞かせてくるハヤブサの『心の言葉』は────

(愛シテイル)

 その一言しか無い。

「ハヤブサ……!」
 シュバルツは堪らなくなる。

 違う。
 ハヤブサを拒絶したいわけでも、傷つけたいわけでも無いんだ。
 ただ────分かって欲しいと思った。
 自分は、ハヤブサとの間に子をもうけるには、あまりにもふさわしくない存在なのだと。
 どうして────それを、理解してもらえないのだろう。

「………………」
 どんなに身体を嬲るように愛撫しても、短刀を振り上げる気配を見せないシュバルツ。少し身体を離して、ハヤブサがその顔を見やれば、シュバルツは声も立てずにはらはらと涙を落とし続けていた。
「シュバルツ………」
 あまりにも綺麗な涙だったから、ハヤブサは知らずその頬に手を伸ばしていた。そっとそれを掬うと、潤んだ瞳のシュバルツと、視線が合った。
「……無理だ……。私に、お前が殺せるわけがない………」
「ならば、俺に抱かれることに同意するのか?」
 ハヤブサの言葉に、しかしシュバルツは強く頭を振った。
「駄目だ……! それも出来ない……ッ!」
「シュバルツ……」
 少しうんざりしたような様子のハヤブサ。しかし、ハヤブサの手は、あくまでも優しくシュバルツの頬を撫で続けていた。
 それをしながらハヤブサは問いかける。何故なのかと。
「何故って………分かっているだろう!? 私のこの身体は、普通の成り立ちではないんだ!! ただでさえ、お前を感染の危険に曝しているのに────!」
 涙を散らしながら、シュバルツは叫ぶ。DG細胞の危険性を忘れたのかと。
「忘れては居ない。忘れるわけがない。キョウジに直接、話を聞いたのだから」
「ならば、分かるはずだ!! 私との間に子を持つことが、どんなに危険なことか!! お前とその子どもに、どんな宿命を背負わせてしまうのか!!」
「シュバルツ……」
「お願いだ……! 気づいてくれハヤブサ……! 私は、お前の『パートナー』としては、相応しくな─────ぐっ!!」
 龍の忍者の拳が、シュバルツの鳩尾に叩き込まれる。シュバルツは、気を失ってしまっていた。
 昏倒しようとするシュバルツの身体を、ハヤブサが支える。その頬には、一筋の涙が伝い落ちていた。
「シュバルツ……。やはりお前は、俺との間に子を成すことを、同意することは、無いのだな……」
 気を失ったシュバルツに、ぽつりと囁きかける。
 ハヤブサは酷く、淋しかった。
 結局彼こそ─────彼の方こそ、自分の気持ちを理解していない。そう感じられたからだ。
 だが、ある意味仕方が無いことだとも思う。
 シュバルツが抱えている事情を鑑みるならば、子を作ることを拒絶する彼の意思は酷く正しい物であると、言えたからだ。彼との間に子を望む自分こそが、狂気じみている、と、言える。

 だが、それらすべてを乗り越えても、自分は、シュバルツとの間に子が欲しい。
 子どもが欲しいのだ。

(シュバルツ……)
 ハヤブサは、シュバルツの額に優しくキスをすると、逃げられぬようにその手足を拘束する。そのままロングコートに彼の身体を包んで抱き上げると、そのまま走り出していた。


(シュバルツ……あれから、どうしたかな……)
 シュバルツとハヤブサが勢いよく部屋から飛び出した後、双方からの連絡が一切無い状態に、キョウジは少しため息を吐く。

 シュバルツのことだ。
 ハヤブサのことだ。
 間違いは─────

(無い……とは、言い切れないよなぁ。あの状態は……)
 女性化していたシュバルツ。
 シュバルツとの間に、子を欲しがっていたハヤブサ。
(いや、でも『DG細胞』の危険性を、ハヤブサはちゃんと理解しているはずだ……。だから、そんな大それた事は────)
 と、キョウジが考えていた矢先に、窓の外に龍の忍者の姿があることに気がつく。
「─────!」
 キョウジが慌てて窓を開けると、こちらを見つめていたハヤブサと、視線が合った。
 ハヤブサの腕の中にはシュバルツが居る。『手足を拘束された』シュバルツが────
「な─────!」
 驚き、息をのむキョウジに、ハヤブサは一瞬淋しげな笑みを見せる。彼はそのまま踵を返すと、シュバルツを抱きかかえたまま、走り去っていった。
「………………!」
 キョウジはずるずると、窓際の壁にもたれかかりながら座り込んでしまう。

 ハヤブサ……!
 まさか本当に
 そこまで、思いつめていただなんて………!

 ハヤブサの意図を正確に理解してしまったキョウジは、ただ、呆然とするほか無かった。
 この事態────自分は一体、どうすればいいというのだろう。
「……………」
 明確な答えが導き出せないまま、キョウジの周りの時間は、ただ過ぎていくだけであった。

「第2章」

 隼の里の座敷牢に入ったハヤブサは、すぐにシュバルツを、拘束する作業に入った。
 まず、シュバルツの着ている衣服を取り払い、産まれたままの姿にする。拘束した腕を頭上に持って行くと、そのまま鎖に繋ぎ、固定した。
 首に革の首輪を装着する。その首輪からは、2本の短い鎖が後ろ側に垂らされていた。
 その鎖は、シュバルツの太股に装着された革のベルトとつなぎ合わせる。その鎖の短さ故に、繋がれたシュバルツの足は膝を曲げて大きく割り開かれ、ハヤブサの視線の前に、秘肉の奥の奥まで、すべてを曝してしまう格好となった。
 何も隠し立てが出来ない、M字開脚の卑猥な姿。なのにハヤブサは何故かその格好にすら、高貴な美しさを感じていた。

 不思議だ。
 どんなに汚そうとしても、失われないこの美しさは、本当に、一体何なのだろう。
「……………」
 無防備に晒された秘所にそろり、と、指を這わせれば、そこには男の侵入を許していない『処女の証』があった。
 このまま意識のないシュバルツを蹂躙し、処女を散らしてもいい。だが、せっかく愛おしいヒトの『処女』を思いもかけぬ形で奪える機会を与えられたのだ。どうせなら、嫌と言うほど刻みつけてから奪いたかった。
「お前は、俺の物なのだ」と。
(起きないかな………)
 ハヤブサは、シュバルツの頬に口付けをしながら、乳首をこりこりと指で転がす。すると、腕の中の愛おしいヒトから反応があった。
「ん…………」
 わずかに眉をひそめ、ぴくぴくと身体が震えている。無意識のうちでも、感じているのだとしれた。
 もっと反応して欲しくて、ハヤブサは両方の乳首をつまんだりはじいたりして弄ぶ。
「ん………う………」
 嫌がるように身を捩りながら、身体を震わせる愛おしいヒト。
(起きろ!)
 色々と堪らなくなったハヤブサは、シュバルツの唇を奪い、その呼吸を奪っていた。
「んっ! う………? んんっ!?」
 突如として降り注いできた感触に、シュバルツの意識は一気に覚醒する。そしてすぐに、自分の手足が思い通りに動かないことに気がついた。
「な…………!」
 鎖を鳴らしながら、慌てて足掻こうとするシュバルツを、ハヤブサが押しとどめる。
「逃げるなよ、シュバルツ……。逃げるそぶりを見せたら、俺は容赦なくお前を傷つける」
「──────!」
「何なら、命を奪ってもいいな……。俺の目的の行為に、お前の生死はたいした問題にはならないから」
 低い声で冷徹に、自分の意思を伝えてくる目の前の龍の忍者の姿に、シュバルツは息をのむ。
「な……何故………」
 震える声で問いかけてくるシュバルツに、龍の忍者はにやりと冷たい笑みを見せた。
「『龍剣』で殺さなければ………お前は3時間以内には生き返るのだろう? シュバルツ。
人の精子は放たれてから膣内で一週間は生き延びるという。受精させるには、何も支障は無いな」
「!!」
 ここでシュバルツは、自分が服を着ていないこと。そして、どうしようもなくあられもない格好をさせられている事実に気づく。
「あ………! や……ッ!」
 せめて秘所を隠そうと足掻いているところに、ハヤブサが上から覆い被さってきた。
「本当は……手足を奪って、達磨のような状態にしてもいいのだがな……。そうすれば、普通ならばお前は永遠にここから逃げられない。文字通り、俺なしでは居られない身体になる。『ここ』さえあれば、子を孕むのに、何の問題も無いだろう?」
 そう言いながら、臍の下の辺りを優しく撫でてくるから、シュバルツの身体はビクッと硬く強張ってしまった。
「は、ハヤブサ………!」
「だが、残念ながらそうはならない。お前の手足は切り落としても『生えて』来てしまうから────」
「…………!」
「お前をここにつなぎ止めるために、手足は必要だ。だから、そのままにしておくことにしたよ」
 チュ、と、脇の下に口付けられ、胸を揉まれる。
「あっ!」
 可愛らしく身を捩るシュバルツを見て、ハヤブサは満足そうに微笑んだ。
「女になっても、感じやすいのは変わらないのだな……。ならば、『ここ』はどうだ?」
 ハヤブサの指が割れ目に滑り込んできて、そこで蠢きはじめる。

「ひっ!!」

 なんとも耐えがたい感触に、シュバルツの身体はびくびくと跳ね、口からは悲鳴が上がってしまった。
「嫌……! や、止めて……ッ! ハヤブサ……あ………ッ!」
「嫌なら────どうして、あのとき俺を殺さなかった?」
 指でシュバルツの性器を穢しながら、ハヤブサは問いかける。
「俺は忠告したはずだぞ? 俺を殺さなければ、『こう』なると」
 ズブ、と、音を立てて、指が内部に侵入してくる。
「んあっ!! や………ッ!」
「狭いな……。さすが『処女』と、言ったところか……」
「ハヤブサ……ッ!」
「なのにどうして────俺を殺さなかったんだ? シュバルツ。俺はチャンスも与えていたはずだぞ」
 そのまま、何度も指を出し入れされるから、シュバルツは堪らなくなる。
「ち、違う……! ハヤブサ……!」
「違う? 何が?」
 事務的に問いかけながら、ハヤブサは指を動かし続ける。シュバルツの性器は、2本目の指を、なかなか受け入れてはくれなかった。

「私、は………お前とこういうことをする、のを……嫌がっている、訳では、無い……!」

「……………!」
 シュバルツの言葉に少し驚いて、ハヤブサは指の動きを止める。シュバルツは、は、は、と、短く息をしながら、潤んだ瞳をこちらに向けてきた。
「信じてくれ、ハヤブサ……。お前が望むなら、私の身体など好きにしてくれてかまわない……。犯しても、切り刻んでも……。何なら、殺してくれてもいいんだ……。だけどお願いだ……! 避妊だけはしてくれ……!」
「──────!」
「分かるだろう……!? 私の身体はDG細胞の塊だ……! そんな私が子どもなど─────あうっ!!」
 ここでハヤブサの指が、シュバルツの痴肉を押し広げ、陰該を探り当てていた。そこを優しく指の腹で摺ってやると、シュバルツの腰がびくびくと跳ね出した。
「ああっ!! ああっ!! 止めて……!! 止めて……ッ!!」
「良い乱れっぷりだな、シュバルツ……。ここか女性の一番の性感帯だ。気持ちいいだろう?」
「わ、分からないっ!! そんな、の……ッ! ああっ!! あ……ッ!」
「可愛いな………。食べてしまいたい程に」
そう言いながら、ハヤブサが股間に顔を埋めて来る。
「え…………? あっ!!」
 指が蠢いていた場所に、冷たい物が押し当てられる。それがハヤブサの『舌』なのだとシュバルツが理解するまでに、そう時間はかからなかった。
「いや………!」
 ぺちゃぺちゃと卑猥な水音を立てて、ハヤブサの舌が、シュバルツの性器を蹂躙していく。普通ならあり得ない状況に、シュバルツは混乱し、頭を振った。
「駄目……! そんな、とこ……! 舐めるな……! ハヤブサ……ッ!」
 シュバルツは必死に身を捩り、その刺激から逃れようとする。しかし、大股を開かされて布団に縛り付けられている今の状態では、ハヤブサの愛撫を防ぐ手段など、あろう筈もなく。
「ああああ……! ううっ! ク……! ん……! うあああああっ!!」
 ただ腰を浮き上がらせながら、淫らな喘ぎ声を上げるより他に、道はなかった。舌は時折シュバルツの内側に入り、その内部を水音を立てながら穢していく。
「ああ……! ああ……! ああああ………!」
(そろそろ良いか……?)
 シュバルツの股の間から伝い落ちた液が、布団に染みを作っている。それを見たハヤブサはにやりと笑いながら、もう一度シュバルツの性器に、指を突っ込んだ。
「うぐっ!」
 ズブ……と、音を立てて、その穴は2本の指を容易く受け入れていく。そのまま指を動かすと、そこはクチュクチュと濡れた水音を立てながら、ハヤブサの指の侵入を許しはじめた。
「聞こえるか? シュバルツ。ずいぶん濡れている……。感じてくれたんだな……」
「ち、違う……! それはお前が舐めたから────!」
「俺の唾液ぐらいでは……ここまでにはならないぞ? 全く、素直じゃないヒトだな、お前は……」
 そう言いながら、ククク、と笑ったハヤブサが、シュバルツの胸の頂で熟れきっている乳首を軽く指で弾く。
「はぁんっ!!」
 意図せぬ刺激に、思わず上がる艶っぽい喘ぎ声。それに満足したハヤブサは、性器を指で犯しながら、その乳首も弄びはじめた。シュバルツの形の良い綺麗な乳首を指で摘まんだり転がしたりしていると、それに連動するかのように、性器の方も、ハヤブサの指をきゅんきゅんと締め付けてくる。
「ああっ!! ああん!!」
 あられもない声。身体の淫らな反応────
 それが自分をどれほど煽り立てているか、このヒトは気づいているのだろうか?
「も、もう、許して……! 許して……!」
 涙ながらに、消え入りそうな声で許しを請うてくるシュバルツ。下の穴は、もう3本目の指も、水音と共に受け入れはじめていた。
「そうだな……。もう、そろそろか……」
 ハヤブサはそう独りごちると、体勢を変える。ほぐれてきたシュバルツの性器に、己が肉棒をぴたりとあてがっていた。
「──────!!」
 何をされてしまうのかを悟ったシュバルツの、その顔色が蒼白に変わる。
「力を抜け。挿れるぞ」
 その言葉に、シュバルツは怯えたように首を横に振った。
「は、ハヤブサ………! せめて、避妊を……!」
「避妊具(そんなもの)がここにあるか」
 シュバルツの懇願を、一刀の元に切って捨てる。
「そんな………!」
 シュバルツの表情が絶望に染まるのを、ハヤブサはどこか嗜虐的な眼差しで見つめていた。

 俺はお前と一つになりたい。
 そして、お前との間に子が欲しい。
 それなのに何で─────避妊具なんかが必要なんだ。

「……………」
 ぐ、と、肉棒を性器に押し当てると、ほぐされてしまったそこは、素直に受け入れはじめた。限界まで足を広げさせられた格好で、手足を拘束されているシュバルツに、拒絶する余地などあろう筈もなく。
「嫌……! 嫌……!」
 それでも震えながら頭を振るシュバルツ。この行為に同意していないことは明白だった。
(シュバルツ……)
 愛おしいヒトを完全に陵辱するような形になってしまっていることに、ハヤブサは唇を噛みしめる。だが最初から分かっていたことだ。このヒトが、この行為に同意することは、絶対にあり得ないのだと。

 それでも
 それでも俺は────

「………行くぞ……」

 最後通牒をシュバルツに突きつけると、ハヤブサは強引に腰を押し進めはじめた。

「うあああっ!!」
 悲鳴と共に、ブチッ、と、何かが引きちぎれたような音がする。
(処女膜が裂けたな)
 『彼女』を、確かに自分のものにした証────その股からは、血がしたたり落ちていることだろう。 
「痛い……! 痛い……!」
 強引に身体をこじ開けられる痛みに、腹の下のシュバルツが悲鳴を上げている。
(シュバルツ……)
 痛々しいその姿に、ハヤブサの胸も締め付けられる。
 誰よりも大切な、愛おしいヒト。
 その処女ならば、もっと優しく散らしてやりたかった。

 だが、自分の「子どもが欲しい」という望みに、彼が永遠に頷く事は無いのならば。
 強引に、事を押し進めるしか無いと思う。
 例え、これでどんなにお前に恨まれても、憎まれても─────

 シュバルツ
 俺はずっと、お前を愛している。
 
「ほら……シュバルツ。全部入った……」
 ハヤブサは結合部を少し持ち上げ、わざとシュバルツに見せつけるようにする。
「ああ………!」
 頬を染め、震えながら顔をそらす愛おしいヒト。その泣き濡れた綺麗な横顔に、愛おしさと嗜虐心が募る。
「動くぞ………」
 その言葉と同時に、シュバルツの狭穴の中で、ハヤブサは強引に律動を開始した。
「ああっ!! 痛い……! 抜いてくれ……ッ!!」
 たちまち腹の下の愛おしいヒトから悲鳴が上がる。だがハヤブサは、それには耳を貸さずに事を進めた。彼のヒトの中に精を放ち、子種を孕んでもらうために。
「心配するな、シュバルツ……。これだけ締め付けてくれば、すぐに終わる」
「終わるって……?」
 震えながら問いかけてくるシュバルツに、ハヤブサはにやりと笑いかけた。
「たっぷり中に出してやるから……安心しろ」
「──────!」
 シュバルツが息をのむと同時に、ハヤブサを受け入れている秘所も、ハヤブサ自身をぎゅっと締め付けてくる。
「駄目だ!! お願いだ……! 抜いてくれッ!!」
 愛おしいヒトが、わずかに動く身体を震わせて足掻き出す。だがそれは、ハヤブサにとっては劣情を助長するだけの行為になってしまって居ることに、このヒトは気づかないのだろうか?
「ああっ!! やあっ!! あああっ!!」
「シュバルツ、そんなに動かすな……」
「お、お願いだ……! 出すのなら、外に……!」
「無理だ。もう遅い……!」
 そう言いながらハヤブサは、シュバルツの腰の動きに合わせて、なおいっそう、楔を激しく打ち込み続けた。パンパン、と、肉と肉がぶつかる音と、性器が擦れ合う淫らな水音が、部屋中に響き渡る。
「ああっ!! ああっ!! あ………!」
「──────ッ!」
 ハヤブサの腰が、ビクビクと震え、シュバルツの下腹部に、熱い液体が注ぎ込まれる感触を得る。
(い、いや……! 熱い………!)
 その独特な感触にシュバルツが震えていると、ハヤブサがそっと頬に手を添えてきた。そのまま優しく、顎を捉えられる。
「ハヤブサ………」
「シュバルツ……」
 ハヤブサの面に、満ち足りた、幸せそうな笑みが浮かんでいる。シュバルツがそれに少し驚いていると、ハヤブサにそのまま、キスをされた。
 ただただ優しいだけのキス────
 それを受け入れているうちに、シュバルツは堪らなくなってくる。

 何故────
 何故だ、ハヤブサ

 お前は、自分とその子どもを
『不幸』にしたいのか

「ハヤブサ………お前は………」
「ん?」
 だからシュバルツは、ハヤブサに問いかけずには居られなかった。
「どういうつもりだ? 何をやったか分かっているのか……?」
 それに対してハヤブサは、にっこりと微笑んだ。
「ああ……。子作りをしたな。うまく孕むと良いな」

「何故だ!? ハヤブサ!! 何故────!」

 堪らずシュバルツは、大声を張り上げていた。

「何故、私などの『子』を欲しがる!? 知っての通り、私はDG細胞の塊だ!! 産まれてくる子どもだって、それと無縁では居られなくなってしまう!! そうなるとハヤブサ……! お前だってDG細胞の『闇』に捕らえられてしまうことになるんだぞ!?」
 それでも良いのか────と、シュバルツが叫ぶより先に、ハヤブサが口を開いていた。

「『それこそが俺の望みだ』と、言ったら…………お前は、どうする?」

「な─────!」
 ハヤブサの言葉を咄嗟に理解することが出来ず、シュバルツは絶句してしまっていた。

「お前、絶対理解していないだろう。俺の気持ちを―───」
 ハヤブサはそう言いながら、シュバルツの頬を優しく撫でる。シュバルツの中からハヤブサの物はまだ引き抜かれてはおらず、二人は繋がったままだった。
「お前が訴えているとおり、お前の身体はDG細胞で出来ている……。普通ならば人の世からは遠ざかり、最悪、滅殺されるべき存在にもなりかねない……」
「……………!」
「人と触れ合うなど……ましてや子どもなんて、もってのほかだよな………」
 そう言ってハヤブサは、軽く笑う。その笑みが、少し淋しそうに見えたのは、気のせいだろうか。
「だから、お前がこの行為を拒絶する気持ちはよく分かる……。お前の意見こそが正しくて、子どもを欲しがる、俺の方が異常だ」
「ハヤブサ………」
 そこまで分かっているのなら─────そう動こうとしたシュバルツの唇を、ハヤブサの指が塞いだ。

「だがな、シュバルツ。お前が子を孕めるというのなら、これは俺にとってはチャンスだ」

「チャンス?」
 怪訝そうに眉をひそめるシュバルツに、ハヤブサはにこりと微笑みかけた。

「そう、チャンス……。お前に、永遠に俺を刻み込むための────」

「な─────!」
 何か、とんでもない言い分を聞いたような気がして、シュバルツは知らず息をのむ。そんなシュバルツを、ハヤブサは幸せそうに微笑みながら見つめていた。

「もしも、二人の間に子どもが出来たなら………それは確かな『形』を伴って、俺たちの間に絆が出来る。お前と俺の間に、切れない絆が────」
「……………」
「お前の横に、『俺の血を引いた子ども』が居れば、お前は俺を嫌でも忘れられなくなるだろう? 完全に、赤の他人ではなくなってしまうのだから」
 そう言って、少しいたずらっぽく笑う龍の忍者を、シュバルツは複雑な面持ちで見つめていた。
「しかし、ハヤブサ……。それでは………」
「何だ? シュバルツ……」
 問いかけるハヤブサに、シュバルツは少し躊躇ってから口を開いた。
「良いのか……? お前との間に出来る『絆』は、私の方もお前を捕らえてしまうことを意味する。お前は、本当にDG細胞の闇と、無縁では居られなくなってしまうのだぞ……?」

「言ったじゃないか、シュバルツ。それこそが『俺の望み』だと」

「……………!」
「いいか? お前と同じ『業』を背負った『俺の子ども』が出来たなら、俺は本当に、お前の背負う『闇』と無関係では居られなくなる。これで俺はようやく────」
 ハヤブサは、にこりと微笑んだ。
 本当に、幸せそうに────

「ようやく、お前の背負う『闇』を、少しでも分かち合うことが出来るんだ」

「ハヤブサ……!」
「お前はいつもそうだよな……。『闇』を背負い、『汚泥』に塗れているのに、独り毅然と立っていて。お前から溢れる光は、惜しみなく他人に与えて────」
 少し、淋しそうに笑いながら、頬を撫でてくる龍の忍者を、シュバルツはただ呆然と見守るしかなかった。

 闇の中から、他人の幸せを願える、希有な優しさと強さを持ったヒト。
 自分は、そのヒトと『共に生きたい』と願う。
 だから、いつでも手を伸ばしているのに、そのヒトに自分の手はいつも届かない。そのヒトの抱える闇が深すぎるから。塗れる汚泥が、重すぎるから────

 伸ばした手が届かずに、呆然としている自分に、そのヒトはいつも言う。
「ありがとう」
「私はもう十分幸せだ」
「だから今度は、お前が幸せになってくれ」

 こんな闇の中に何時までも居ないで
 今度こそ、『光』に向かって泳いでいけ
 ここに来てはいけない
 来ないでくれ、ハヤブサ────

 何故だ。
 どうしてだ、シュバルツ。
 俺にとっての『光』は
 もう、ここにあるのに────

「お前はいつも、俺に『来るな』と言う……。それが、どんなに淋しかったか………分かるか? シュバルツ………」
「ハヤブサ………」
「だが、子どもが出来ればそうはいかない。俺もようやく、お前と同じ『闇』を背負える。お前と同じ汚泥の中を、歩いて行くことが出来るんだ」
「……………!」
「それが、俺にとってどんなに幸せなことか……分かるか? シュバルツ……」
「ハヤブサ……! そんな………!」
 その瞳から、大粒の涙をこぼしはじめる愛おしいヒト。ハヤブサはその涙を、指や唇を使って掬い取っていた。
「シュバルツ……。俺は、お前とは喜びだけではない。苦しみも痛みも────共に分かち合いたいんだ。同じ闇を背負って、同じ汚泥の中を、歩いて行きたいんだ」
「ハヤブサ……!」

「『家族』になろう、シュバルツ」

「──────!」

「子を成し、父と母になって、その子の成長を見守ろう。その子の運命を、共に背負っていこう」
「そんな……! どうして………!」
 ぽろぽろと涙をこぼし続けるシュバルツ。
「ハヤブサ……! お前なら、もっと他の道も、幸せも………選べる筈なんだ。なのに、何故だ? どうして………子どもにまで、こんな深い業を、背負わせようとするんだ……? お前の幸せは………!」
「シュバルツ、大丈夫だ。『俺の血を引く』と言うだけで、俺の子どもの業は、もう十分深い。『龍の忍者』の使命も、龍剣を封印し続ける宿命も────決して軽い物ではないぞ」
「……………!」
「今更、その上に『業』の一つや二つ増えたって、たいした問題にはならない」
「いや、問題にはなるだろう。DG細胞だぞ……」
 呆れたように言うシュバルツに、ハヤブサは声を立てて笑った。
「とにかくだ、シュバルツ。俺の気持ちはもう決まっている。俺はお前以外は欲しくないし、お前との子どもならば、望む。俺の子どもを産んで欲しい」
「ハヤブサ……」
「シュバルツ……」
 ハヤブサの瞳が、熱を帯びる。目の前で鎖に繋がれ、涙を流し続けるヒトが、愛おしくて愛おしくて堪らない。

「あ…………!」

 シュバルツがぴくりと反応をした。自分の中にあるハヤブサの物が、堅さを取り戻してきたからだ。
「ん………! も、もう良いだろう……? そろそろ、抜い─────あっ!?」
「シュバルツ……!」
 腰を抱え込んで、深く穿つ。再び部屋に、肉のぶつかる音と、性器の擦れ合う水音が響き渡った。
「ああっ!! 待って……! 待ってくれ……ッ!」
「待てない」
 愛おしさが命じるままに、シュバルツに腰を打ち付ける。きゅんきゅんと締め付けてくるシュバルツの狭穴は、ハヤブサを溺れさせるには十分すぎて。
「や……! 駄目……! 待って……!」
 涙を散らしながら頭を振っている愛おしいヒトの、形の良い胸が、目の前で扇情的に揺れる。両方の手で揉んでやると「ああっ!!」と、悲鳴を上げながら、ビクビクと仰け反った。
(ああ、駄目だな)
 胸を弄びながら舌で吸ってやると、性器の締め付けがいっそう強くなる。まるで次の子種を要求しているかのようなその動きに、ハヤブサの方も早々に堪えられなくなってしまった。
(もっともっと………お前と繋がっていたいのに………)
「──────ッ!」
 ビクビクと身体を震わせながら、ハヤブサは二度目の精をシュバルツの中に放つ。
「あ………! ああ………!」
対してシュバルツは、カタカタと小さく震えながら涙を流していた。その様は、抱かれて嬉しいと、言うよりも、凌辱された、と言う色合いが濃い様に見受けられた。
(無理もないか)
ハヤブサは、そんなシュバルツを少し淋しい想いで見つめる。

分かっている。
シュバルツの立場からしてみれば、子を作ることに同意することなど出来ないだろう。

 お前はそれで良い。
 ただ俺は、そんなお前に寄り添い続けるから。

「シュバルツ……」

 ハヤブサはシュバルツにキスをしたくて、そっと頬に手を添える。

「ハヤブサ………」
 涙を流しながら、カタカタと震え続ける愛おしいヒト。唇を寄せると、「すまない……」と、小さな声で謝られた。
「何故謝る……?」
 そんなに怯える必要も、謝る必要も無いのに、と、思いながら、ハヤブサは腕の中の愛おしいヒトを見つめる。話の先を促すように額に口付けてやると、シュバルツが震えながらも話し始めた。
「すまない、ハヤブサ……。怖くて………」
「怖い?」
「お前は………子どもを望んでいるのに────」
 その言葉に、ハヤブサは微笑んだ。
「ああ、そうだな……。お前との子どもなら、俺は────」

「………私が、100%まともな『人間』の子どもを産む保証など、どこにある?」

「──────!」
 はっ、と息をのむハヤブサの目の前で、シュバルツは唇を噛みしめながら震えていた。

「知っての通り、私はまともな成り立ちのモノではない。妊娠したところで、腹の中に宿るモノが、まともな『人間』の形をしているとは限らないぞ」
 自分の『元』となった物は、人間の死体とDG細胞
 殺されても生き返る、自身に命が宿っているのかどうかも分からない、影のような存在。
 そんなモノが、腹に何かを宿したところで────

 それはすでに、『人間』と呼べるモノではないかもしれない。
 いや、それどころか、人間じゃない、何か異形の形をしたモノが出てきてしまうかもしれない。
 殺しても死なない
 命すら宿らない
『化け物』と呼ぶに、相応しい何かが────

「そうなってしまったときに………周りから『それ見たことか』と責められるのは、お前なんだ、ハヤブサ……!」
「シュバルツ……!」
「私のせいで、お前が────!」
「大丈夫だ。落ち着け、シュバルツ」
 ハヤブサはシュバルツを優しく抱きしめながら、宥めるように髪を撫でた。パニックを起こしかけている愛おしいヒト。とにかく、落ち着かせることが肝要だと思った。
「俺は、お前とすべてを分かち合いたいと、言っただろう。どんな子どもが産まれても、俺は─────」
「それだけじゃない……! ハヤブサ……!」
「シュバルツ……」
「すまない……! ハヤブサ……! 私は………!」
 シュバルツの瞳から次々と涙がこぼれ落ちている。身体の震えも、止まりそうになかった。
「結局の所………怖いんだ……!」
「…………?」
「自分から生まれ出たモノを見るのが……! まともじゃない物を産んでしまったと、自覚することが………!」
「シュバルツ……」

「『結局お前は化け物なのだ』と、突きつけられることが…………怖い……ッ!」

「──────!」

「軽蔑してくれて良いよ、ハヤブサ……! 結局こんな………! 自分勝手な恐怖がぬぐえずに、私は────んう!!」
 いきなりハヤブサに、深く唇を奪われるから、シュバルツはこれ以上言葉を紡げなくなってしまった。深く入り込んだハヤブサの舌は、シュバルツの舌を絡め取り、強く吸い上げ、その呼吸を奪う。
「ん………! く………! ふ………んぅ………」
 呼吸を奪われたが故に、シュバルツの秘所は甘く震えて、中に挿入っているハヤブサを刺激してしまう。劣情が煽られてしまったハヤブサのキスは、長く執拗な物になっていった。チュ、チュ、と、唾液が混じり合う水音と吸い合う音が、しばし辺りに響き渡る。
「は…………」
 長すぎるキスから解放されたシュバルツは、奪われ続けた酸素を求めて、しばし、喘がなくてはならなくなった。
「シュバルツ……」
「は………あ…………」
涙に濡れてトロンとした瞳が
唾液が伝う頬や唇が────堪らなく愛おしい。

「シュバルツ……。俺は、お前が産んでくれた子どもなら、どんな子どもだろうとも愛する自信があるぞ」

 シュバルツの頬を拭いながら、ハヤブサは優しく声をかける。
「ハヤブサ……」
「子どもに愛情を注いで、守り、導いていこう。大丈夫。俺たちは1人じゃないんだ。2人でなら────どんな試練だって、乗り越えていけるさ」
「し、しかし………私の身体が歪なせいで────」
「それに、お前は何も悪くない」
「えっ?」
 きょとん、とするシュバルツに、ハヤブサは少し淋しげな笑みを見せる。

「お前は、自分の身体の歪さ、危険さを、よく理解していた……。だから、子どもを作ることを懸命に拒絶しようとした。それを無理矢理捕まえて、鎖で繋いで────抵抗できないようにして、お前に子種を注ぎ込んでいるのは俺だ」

「──────!」

「だから、総ての咎は俺にある。この結実がどのようになろうとも、総ての責任は俺がとる」

「ハヤブサ……!」

「お前は、何も悪くないんだ、シュバルツ………」

 そのままそっと、シュバルツの頬に、ハヤブサは優しく口付けを落とす。

「お前は、何も悪くない」
 再びハヤブサが、律動をはじめる。鎖に繋がれ、開かされたシュバルツの足がゆらゆらと揺れ、鎖が、耳障りな金属音を立て始めた。
「ん………! あ………!」
 再び、喘ぐしか術がなくなるシュバルツを見つめながら、ハヤブサは、己を責め立てる。
(きっと、俺が悪い)
「あ…………! あ…………!」
(お前を傷つけても、踏みにじっても────お前との間に、子どもを欲しがる、俺が)
「あ………! ハヤブサ………ッ!」
 腕を拘束している鎖が、ガチャガチャと音を鳴らす。シュバルツの動きは、何か足掻いているようにも見えた。
(嫌だよな。すまない、シュバルツ……)
 シュバルツの同意を得られない、と言う現実が、ハヤブサの胸に重くのしかかる。

 分かっている。
 彼に酷いことを要求しているのは他ならぬ俺。

 歪な身体を自覚しろと
 自分は化け物なのだと思い知れと

 彼に突きつけているのは─────間違いなく、自分自身だった。

 だが、それでも
 それでも、俺は────

 お前との子どもが、
 切れない『絆』が、

 欲しくて堪らない の だ

 どうして
 どうして─────

 彼をこんなにも、傷つけているのに。

 何時しか、ハヤブサの頬を、涙が伝い落ちる。

 シュバルツ
 愛している
 想いは ただそれだけ
 それだけ、なのに

「ハヤブサ……! ハヤブサ……!」

 ガチャッ!! と、ひときわ大きな音で鎖を鳴らしたシュバルツが、縋るように叫んできた。

「お願いだ……! ハヤブサ……! 腕の鎖だけでいい! 解いてくれ……ッ!」

「シュバルツ……?」
 驚いたように見つめ返すハヤブサと、懇願するようなシュバルツの眼差しがぶつかる。
「お願いだ……! 決して逃げない……! 抵抗しないから────」
「──────!」
「鎖を解いてくれ……! お願いだ……!」
「何故だ………?」
 呆然と問いかけるハヤブサに、シュバルツから帰ってきた言葉は、意外な物だった。

「お前を………抱きしめたいんだ……!」

「え…………?」
「このままじゃ、抱きしめられない……! お願いだ、ハヤブサ……ッ!」
 そう言って、ガチャガチャと鎖を鳴らしながら足掻くシュバルツ。そんなシュバルツを、ハヤブサは半ば夢見心地で見つめていた。

 シュバルツ……!
 俺を、抱きしめたいだと?
 本当に────?

「ハヤブサ………」

 泣き濡れたシュバルツの瞳に見つめられ、ハヤブサの手が、シュバルツの腕の鎖にふらふらと伸びていく。解くために、腕を拘束している鎖に手が触れた刹那、ハヤブサの心に、何者かが囁きかけてきた。

 ────もしも、シュバルツに騙されていたら、お前は、どうするんだ……?

(………………!)
 それは、裏の世界で生き続けてきたハヤブサにとっては、生き抜いていくための本能とも言える囁きだった。
 騙すのも裏切られるのも当たり前な世界。
 目の前の出来事を素直に信じることは、即時の死に繋がってもおかしくはなかった。
 どんなに甘く、自分にとって都合の良い状況がお膳立てされていたのだとしても、それを鵜呑みにしてはいけなかった。そうしなければ、生きてはいけないのだから。

 だが、ハヤブサにとっての『シュバルツ』は違った。

(ああ、このまま騙されても良いな)

 ハヤブサの面に、恍惚とした笑みが浮かぶ。

 彼になら、殴られてもいい。
 殺されてもいい。
 自分は、それだけのことをシュバルツにしてしまったのだから。

 彼にはもう、二回も子種を注ぎ込んだ。
 思いは遂げたのだ。
 そして、「抱きしめたい」と、言ってくれた。
 これは嘘でも
 嘘でも良かった。
 その言葉を聞けただけで、自分は十分、幸せだった。
 だからもう、この後どうなろうとも────

 悔いは無い。

「……………」
 ハヤブサはそっと、シュバルツの中から己自身を引き抜く。
「は………! あ………ッ!」
 抜かれた刺激に、また感じてしまったのだろう。艶っぽい悲鳴と共に、びくびくっと、身を震わせるシュバルツ。彼の秘所からは、注ぎ込んだ子種が破瓜の血と共に、流れ落ちていた。
(綺麗だな……)
 これが人生最後の景色でも良い。そう思いながら、ハヤブサはシュバルツの腕を拘束している鎖を解く。愛おしいヒトは、ほっと、深い息を吐きながら、自由になった腕を確認するかのように動かしたり、さすったりしていた。
(拘束されていたんだ。無理も無い………)
 あらためて、彼に無体なことをしてしまったと、自覚するハヤブサ。
少し苦い顔をして彼を見下ろしていると、涙目のシュバルツと視線が合った。

「ハヤブサ……」

シュバルツから、手が伸びてくる。
その手は優しく、開かれていた。
そして、そのままハヤブサの肩に伸びてきて────

「………………!」

本当に優しく、抱き寄せられた。

「シュバルツ………!」
 驚くハヤブサを腕の中に包み込むように抱きしめると、シュバルツはそのままその背中をぽん、ぽん、と、優しく撫で始めた。…………いつものように。
(嘘だろう……!?)
 ハヤブサはただ呆然と、その抱擁を受けていた。何故ならこの抱擁は、情事が終わった後、シュバルツが必ずと言って良いほどしてきた物だからだ。
「今の総ての行為を、私は赦す」
 その明確な意思を、自分に伝えてくるために。

 シュバルツ、お前は
「赦す」というのか?
 無理矢理お前を、踏みにじった俺を
 妊娠する行為を、強要した俺を─────!

 嘘だ、そんなはずはない、と、ハヤブサはシュバルツの腕の中で混乱する。そうやってグルグルしているハヤブサに、シュバルツが声をかけてきた。

「ハヤブサ………。本当に…………」

「シュバルツ………?」

「本当に、お前は………私がどんな子どもを産んでも、責任とって、くれるのか………?」

 シュバルツの言葉に、ハヤブサははっと我に返る。慌てて大きく2度、3度と頷いた。
「当たり前だ! お前との子どもなら、俺は何人でも欲しい! それこそ、どんな子どもでも────!」
「まともな人間の形をしていないかもしれないぞ? それでもか?」
 シュバルツの言葉に、ハヤブサは言わずもがなと、大きく頷く。
「愚問だ。お前が、俺との間に産んでくれた子どもなら、それだけで愛おしい」
「……………!」
 真顔できっぱりと言い切るハヤブサを、シュバルツは半ば呆れるように見つめていたが、やがて、やれやれと小さくため息を吐いた。
「……もう、分かった……。ハヤブサ………」
「シュバルツ?」
「お前がそこまで言うのなら、もう私も、何も言わない……。ただ…………」
「ただ?」
 問い返すハヤブサに、シュバルツはにこりと微笑みかけた。

「私もこの行為に同意したことになるのだから、お前と同じ咎を、私も受けることになるのかな?」

「………………!」
 驚くハヤブサの背を、シュバルツの手がぽん、ぽん、となで続ける。
「何を言うんだ!? シュバルツ、俺が無理矢理────!」
 お前は、何も悪くない、と、言おうとしたハヤブサの唇を、シュバルツの指が優しく塞ぐ。
「良いんだ。それよりも、お前1人が責任を感じて、何もかもを背負おうとするのは嫌だ」
「シュバルツ………」
「せめて、罪を分かち合わせてくれ………。私たちは、『パートナー』だろう?」
「シュバルツ………!」

 ハヤブサは知らず、息が詰まりそうになる。

 知らなかった。

 こんなにも─────
 こんなにも幸せな景色が、この世にはあっただなんて────

「シュバルツ……ッ!」
 思わず、シュバルツの身体を、きつく抱きしめるハヤブサ。
「あ…………!」
 腕は自由になっても、シュバルツの足は拘束されたままだ。大股を開かされているが故に、二人の身体はぴたりと密着し、ハヤブサの男根がいきり立っているのをシュバルツは直接感じさせられてしまう。
 本能的に、シュバルツは股を閉じようとする。しかしそれを阻む鎖が、ギ、と、音を立てて鳴った。
「……………!」
 羞恥故に、シュバルツの頬がバラ色に染まる。瞳を伏せ、顔を逸らした横顔が、あまりにも愛おしくて可愛らしくて綺麗だったから─────

 軽く、嗜虐心が煽られてしまう。

「……………………」
 ハヤブサは、少し身体を離して、シュバルツの身体をしげしげと眺めた。彼の身体を隅々まで視姦し、その羞恥を更に煽り立てるために。
「ん…………!」
 秘肉の奥の奥までハヤブサの前に晒してしまっているシュバルツの、身体が小さく震えている。ただ、シュバルツの手は自由になっている。だから彼は、恥ずかしいところを隠そうと思えば隠せるのだが。
「う…………!」
 彼の手は、身体の横に置かれ、シーツを握りしめたままだった。
 彼は赦しているのだ。
 ハヤブサに総てを、視姦されることを。
「シュバルツ………」
 これは同意の上の行為なのだと改めて感じられて、ハヤブサは嬉しくて仕方が無い。そっと、足を拘束している鎖に手を伸ばす。シュバルツが望めばそれを外してやるつもりで、ハヤブサは声をかけていた。
「この鎖………どうする?」
 その問いに、シュバルツから返ってきた答えは、意外な物だった。

「そ、それは………好きにしろ。お前の望むままに────あっ!!」

 再びハヤブサの指が、秘肉の割れ目に侵入してくる。ハヤブサの残滓を垂れ流しているそこは、もうとろとろに蕩けて、クチュクチュと卑猥な水音を立てながら、ハヤブサの指を再び受け入れはじめていた。
「は………! あ……ッ! ん………! く……う………!」
 敏感な場所への愛撫に、ビクビクと身を震わせるしか出来なくなってしまうシュバルツ。だが彼の手は、シーツをきつく握りしめたまま身体の横に置かれて、そこから動こうとしない。
「シュバルツ……!」
『抵抗しない』と言ったその約束を、彼は律儀に守り続けてくれているのだと悟る。
 嬉しくて愛おしくて────嗜虐心が止まらない。もっともっと乱れて欲しくて、彼を弄ぶ手が止まらなくなってしまう。
「あああっ!! あああああっ!!」
 ハヤブサの愛撫に耐えきれなくなって、悲鳴のような嬌声を上げてしまうシュバルツ。彼を苛めるハヤブサの手に、シュバルツの手が触れてきた。だがその手は、あくまでも優しく、そっとハヤブサの手に添えられるだけ。全く払いのける気のない、赦しの意思を伝えるだけの手だった。
「そうだな……。このままにしておくか。子どもを孕ませるのが目的なんだ。股を閉じる必要は無い」
「あ………! ハヤブサ……!」
「それよりも……いけないヒトだな。俺の子種をこんなに零して……」
 ハヤブサはにやりと笑いながら、愛撫に反応してひくひくと蠢いている秘所から、たらたらと流れ落ち続ける自分の残滓を見つめる。シュバルツの頬が、更に紅に染まった。
「そ、そんな………! 意識して零しているわけじゃ────んあっ!!」
 ズブ、と、音を立てて、再びハヤブサがシュバルツの中に侵入してくる。
「もう一度、ちゃんと注ぎ込まないと─────」
 そのまま優しく、しかし、深く律動を開始するハヤブサ。
「ああっ!! ああっ!!」
 容赦の無い快感が、シュバルツを翻弄する。彼の最奥を深く抉ると、こつこつと、ハヤブサ自身の先に、何か当たる物があった。
(子宮かな………)
 そうであれば良いのにと、ハヤブサは願う。

 シュバルツ、俺の子を
 俺の子を、孕んで欲しい────

(ハヤブサ………)
 シュバルツはハヤブサの身体をそっと優しく抱きしめる。すると、ハヤブサの方も、シュバルツの唇を優しく塞いできた。
「ん……! んう………!」
 上と下の結合─────
 深すぎる、甘すぎる快感に、シュバルツは翻弄されるしか術はなく。

 分かる。
 こんなに深く自分を愛してくれる人は────

 きっと、他にはもういない。

(シュバルツ………)
 俺の、凶悪とも言えるこの想いを、優しく受け止めてくれるヒト。
 愛おしい────
 何よりも愛おしい、ヒトだった。

 このヒトの孤独に寄り添いたい。
 このヒトと共に、歩んでいきたい。
 だけどそれは、永遠には叶わない願いなのだと言うことを、ハヤブサはもう知ってしまっていた。

 キョウジと共に死ねなければ、彼は『不死』という宿命を背負ったアンドロイドになる。そうなれば、人間である自分は、彼を置いて先に逝かなければならなくなるのだ。

 だが、シュバルツと同じ宿命を背負う、俺たちの子どもがいれば────

 彼のヒトの孤独を、必ず癒してくれることだろう。


 だから、シュバルツとの間に子どもが欲しい。子どもがいれば────


 違う。
 違う、そうじゃない。

 本当は、俺が
 俺がシュバルツと共にその道を歩んでいきたい。
 シュバルツの孤独を癒す役目を
 子どもに譲りたくはないのだ。

 どうして、俺は普通の人間なんだ。
 どうして────俺の命には、限りがあるのだろう。

「あ………! あ………!」
 喘ぐシュバルツの最奥に、深く繋がる身体。
 ああ
 本当に、いっそこのまま

 時が止まってしまえば良いのに────

「ハヤブサ………!」

 シュバルツは、縋るようにハヤブサに手を伸ばす。………彼に、泣き止んで欲しくて。

 どうしてなのだろう。
 何故なのだろう。

 自分を抱きしめるとき、ハヤブサは、本当に幸せそうに笑うのに。

 時折見せる、その孤独に塗れた瞳は何故だ。
 その頬に伝う、哀しみに塗れた涙は何故だ。

 嫌だ。
 嫌だ。

 お前には────幸せになって欲しいと、願うのに。

「ハヤブサ……! あ………!」

 コツコツと、彼の物が、身体の中の何かに当たる。
(子宮だろうか……)
 そこを刺激されるたびに、彼の背中から脳天にかけて甘い電流のような物が走り抜ける。
 逃げたいのか、その刺激をもっと欲しがっているのか────シュバルツ自身も訳が分からなくなってしまう。
「ああっ!! ああん!!」
 思わず、上がる嬌声。その刹那、ハヤブサの瞳から孤独の影が消える。
(ハヤブサ……)
彼の孤独を癒せるのなら
彼を幸せに出来るのなら
自分の痴態などいくらでも曝せた。

愛している、ハヤブサ。
私には、お前だけだ。

「ああっ!! ああっ!! あああっ!!」

「シュバルツ……! シュバルツ……!」

ビュクビュクッと、ハヤブサの物がシュバルツの中に注ぎ込まれる。
「あ…………!」
(熱い…………!)
 独特な感触にシュバルツが震えていると、中にいるハヤブサの物が、再び硬度を増して、シュバルツを犯し始めた。後ろから彼を羽交い締めにして、何度も秘所を擦りつけられながら、胸を弄びはじめる。
「あっ!! 待って……! 待って……ッ!!」
 必死に刺激から逃れようとするが、抵抗する気のないシュバルツの軽い抵抗は、却ってハヤブサの嗜虐心を煽り立てる結果にしかならず。熱を帯びたハヤブサの指が、シュバルツの股座に伸びてきて、中の陰該を擦りはじめる。
「駄目ッ!! ああっ!! 駄目ぇっ!!」
 閉じれぬシュバルツの股は、ハヤブサの愛撫をただ赦すほかに道はなく。
 パチュッ! パチュッ! と、濡れた水音と性器の擦れ合う音が、シュバルツの耳を犯し、ハヤブサの熱を煽った。
 くいっと、背後から優しく顎を捉えられる。
「ん………!」
 優しく、だが、深いキス────
「ん………! んう…………!」
 喘ぎ声の総てが、ハヤブサに奪われた。その間にも、ハヤブサの手がシュバルツの身体を這い回り、そして、最奥を犯され続けていた。

「ん………ッ!」

 酷く卑猥な格好をさせられて
 嬲られるように、弄ばれているのに。

 それでも─────「大切にされている」と、感じられてしまうのは、本当に、何故なのだろう。

(シュバルツ………!)

 優しいヒト。
 尊いヒト。
 自分の総てを、赦し続けてくれるヒト────

 愛している。
 守りたい。
 俺の腕の中で────幸せになって欲しいと、願う。

「シュバルツ……!」

 もう何度吐精したか分からないぐらい、シュバルツの中に子種を放つ。
「あ…………!」
 ビクビクと震えながらも、それを受け止めるシュバルツを見ながら、ハヤブサはそのまま気を失うかのように眠りに落ちてしまった。頽れる身体を、誰かに優しく、受け止められたような気がした─────

「ハヤブサ………」

 眠りに落ちたハヤブサの下から、シュバルツはそっと這い出す。
 自身の首に巻かれていた首輪を外すと、足を拘束している鎖も外す。久しぶりに自由を取り戻した足を、シュバルツはそろそろとさすった。
 とろとろに濡れている秘所。紙で拭うと、白いどろりとした液体が、幾重にも絡みついてきた。
(あの馬鹿……! どれだけ私の中に出せば、気が済むんだ……!)
 羞恥を押さえながら、自身の秘所を紙で拭き取る。ハヤブサを受け入れ続けていた秘所は、まだ何か、ハヤブサの物を咥え込んでいるような感覚を、シュバルツに訴えかけ続けていた。
「ん………ッ!」
 過敏になってしまっている秘所は、紙の刺激ですら感じてしまう。
「は………あ…………」
 紙で拭き取りながら、シュバルツは少し、自分を慰めてしまっていた。紙と右手が、シュバルツの股座で暫し妖しく蠢く。
「あ…………!」
 酷く妖艶な景色────ハヤブサが起きていたら、きっとその痴態を「もっと」と、要求したことだろう。しかし残念なことに、龍の忍者はシュバルツの横で、規則正しい寝息を立てながら、昏々と眠り続けていた。
(何をやっているんだ私は。阿呆か)
 我に返り、軽く自己嫌悪に陥るシュバルツ。紙を手近にあったゴミ箱に捨てると、眠り続けるハヤブサに、そっと視線を落とした。
「……………」
 前髪に触れると、指の間からさらりと零れていく、絹のような琥珀色の髪。それを見つめながら、シュバルツは少し、幸せな気持ちになる。

 自分の横で穏やかに眠るハヤブサを見つめるのは好きだった。
 彼が自分のことを、完全に安心して信頼できる存在なのだと感じてくれていることが分かるから。

 彼の眠りを
 彼の心を、守れる存在でありたい。
 シュバルツはいつも、そう願っている。

(ハヤブサ………)

 シュバルツは、ハヤブサの横の布団に、そっとその身体を滑り込ませる。手を伸ばして彼の身体に触れると、ハヤブサの体温と鼓動を感じた。

 酷く幸せな瞬間なのに、何故、こんなにも切なさを感じてしまうのだろうか。

(もしも本当に、子どもがハヤブサにとって迷惑にしかならないようなら、私はすぐに子どもを連れて彼から身を引こう)

 そう決意して、シュバルツもまた瞳を閉じる。
 自分は、ハヤブサの幸せを願いこそすれ
 足手まといになりたくはないのだ。

 自分との間に子を望み、総てを受け止めるとハヤブサは言ってくれた。
 それだけでもう、自分は十分なのではないのか。

 本当に、子どもは出来るのだろうか。
 それでハヤブサは、本当に幸せになれるのだろうか。

 漠然とした不安を抱えながらも、シュバルツもまた、まどろみの中に意識を落としていった────






 

最終章

 グオオオオオオオ────!!

 異様な咆哮が、辺りに響き渡る。
 目の前には、巨大な歪な形をした、黒いモンスターのような塊と、その横に、哀しげな顔をしたシュバルツの姿があった。

「すまない、ハヤブサ……。結局、こんな………。お前の子どもが……」

「──────!」
 シュバルツの言葉に、ハヤブサははっと息を呑む。
 この目の前の物体が、自分たちの子どもなのだとハヤブサが認識するのに、そう時間はかからなかった。
(嘘だろう……!?)
 目の前の事象を、何とか否定しようとする。だが、目の前の景色は、ハヤブサに容赦なく現実を突きつけるばかりで。

 子どもなのか?
 本当に?
 これが、俺たちの────!?

「ハヤブサ………。お願いだ。私と子どもを斬ってくれ……」

 シュバルツから、静かに懇願される。
 斬れるわけがないから、ハヤブサは当然首を横に振る。お前を斬りたくない、と、手を伸ばすが、シュバルツは哀しげに笑いながら、彼もまた、首を横に振った。

「無理だ……。この子にもう、私は取り込まれかけている。もう少ししたら、『私』という存在は、完全に消えてしまうだろう」

「シュバルツ……!」
「そうなる前に……。この子が大量殺戮をはじめてしまう前に……。私はお前に、斬られて死にたい」
「──────ッ!」
 ぐっと、唇を噛みしめるハヤブサの目の前で、愛おしいヒトの頬には、一筋の綺麗な涙が、伝い落ちていた。

「すまないな……。結局私は、『化け物』だったみたいだ……」

 違う、と、ハヤブサは叫ぶ。しかし、この圧倒的な現実の前に、その言葉は無力だった。

 何故だ。
 何故、こうなってしまった?
 シュバルツは、何も悪くないのに────

「お願いだ……! もう……時間が無い……ッ!」

 シュバルツの叫びに、苦しみが色濃く混じる。子どもの暴走を押さえる事が、もう限界に達しているのだろう。
 確かに俺は言った。
 子どもが出来ることによる総ての咎は俺にあると。総ての責任は、俺が取ると。
 ならば────!

 すらりと、龍剣を抜き放つ。
 それを見たシュバルツは、本当に────驚くほど綺麗に、微笑んだ。

(嘘だ………!)
 こんなのは夢だ。悪夢だとハヤブサは何度も思った。

 嘘だ。
 信じられない。
 結局自分の『想い』は─────

 このヒトを、苦しめるだけの物だったなんて。

 だがシュバルツは、綺麗に微笑んでいる。
「ありがとう」
 その唇が動く。

 何故だ。
 何故だ、シュバルツ。

 俺がお前との間に子を望んだから─────
 こんなことになってしまったのに。

 嫌だ。
 斬りたくない。
 誰か助けてくれ。

 いや、斬らねばならぬ。
 お前が少しでも
 シュバルツに対して『愛情』があるのなら
 『責任』を感じているのなら

 だが嫌だ。
 これは夢だ。
 夢なら早く、覚めてくれ。

 シュバルツ
 シュバルツ────!

「ハヤブサ!!」

 自分のすぐ近くの耳元で、呼びかける愛おしいヒトの声。

「ハヤブサ!!」

(え…………?)

 振り返る自分に、この声はなおも呼びかけてきた。

「起きろ!!」

「──────ッ!」

(そうか……! これは、やはり夢────!!)

 そう悟ったハヤブサの意識が、一気に覚醒へと向かう。
「……………!」
 瞳を開けた龍の忍者の視界に飛び込んできたのは、見慣れた天井と、心配そうにのぞき込んでいるシュバルツの顔だった。
「うなされていたぞ……。大丈夫か?」
「シュバルツ……!」
 ハヤブサは、目の前の愛おしいヒトの身体に、縋り付くように抱きつく。
 広い胸板と抱きしめ馴れたその身体の感触に、ハヤブサはほっと息を吐いて────それからはたと気がついた。
(えっ? 胸がない?)
 先程までシュバルツの胸に確かにあった、形の良い乳房が消えている。代わりにあるのは、ギリシャ彫刻のように美しい、シュバルツの引き締まった『男の身体』がそこにはあった。
「………………!」
 驚いて顔を上げるハヤブサに、ばつの悪そうな笑みを見せるシュバルツ。

「す、すまないな、ハヤブサ………。男に、戻っちゃったみたいなんだ………」

 シュバルツのその言葉に、ハヤブサはただ呆然とするしかなかった。

「え………? え………? どういう、事、なんだ………?」
 ハヤブサは思わず、シュバルツに説明を求めてしまう。
「ええと……一応、キョウジには言われていたんだ……。女性になっているのはほんの一時で、しばらくしたら、男に戻るだろうって………」
「……………!」
「だが……妊娠したら、女として定着してしまうかもしれない、とも、言われていたから………」
(なるほど………)
 ハヤブサは納得して、一つため息を吐く。
 とにかく、不確定要素の多かったシュバルツの『女体化』という現象。シュバルツが自分にはっきりと色々言えなかったのも、逃げようとしたのも頷けた。
 それにしても─────

「お前が男に戻ったと言うことは………お前は、今回妊娠しなかった、と、言うことか……」

 残念だな、あれだけ出したのに、と、ハヤブサは少し名残惜しそうにシュバルツの頬を撫でる。シュバルツは軽く苦笑していた。
「それはそうだ。『生命』は、そんな簡単に授かるモノでもないのだろう」
 そう言って、シュバルツが身を起こす。その面には、優しい笑みが湛えられていた。
「ハヤブサ……。もし、お前が子を望むのならば、私ではなく、誰か他の─────あっ!?」
 ハヤブサの手が伸びてきて、シュバルツはまた押し倒されてしまう。布団の上で呆然としているシュバルツの上に、ハヤブサがのしかかってきた。
「分かっていないなぁ、シュバルツ」
 シュバルツの身体を押さえつけるハヤブサは、あくまでも爽やかに微笑んでいる。
「俺は、お前だから、『子が欲しい』と思った。お前以外は、欲しくない」
「し、しかし………! 抱くのなら、やはり女性の身体の方が…………あっ!!」
 ハヤブサの指が、シュバルツの乳首の周りに円を描き始める。
「止め………! あっ!!」
 抵抗しようとしたシュバルツの両手はハヤブサに捕らえられ、頭上に一括りにされて押さえ込まれてしまう。それからまた、ハヤブサの指はシュバルツの胸を、円を描くように乳首を避けながら触りはじめた。
 まるで、弄ぶかのような愛撫─────これは、馬鹿なことを口走った愛おしいヒトへのお仕置きの意味合いも、少し含んでいたりする。
「ん………! あ………あ…………ッ!」
 ぴくぴくっと、身を震わせながら、快感と羞恥に耐えるシュバルツが、堪らなく可愛らしくて愛おしい。
「そんなに乱れて…………誘っているのか?」
「ん………! ち、違う………!」
 潤んだ瞳で、大きく息を乱しているシュバルツ。酷く綺麗で、そそられる姿だった。
「ば……馬鹿……ッ! 男の身体なんか抱いても………ッ! うあっ!!」
 チュ、と、音を立てて、ハヤブサがシュバルツの乳首に吸い付く。
「ん………! く…………!」
 その乳首への愛撫は、長く執拗だった。チュ……、チュプ………と、濡れた水音を響かせながら、吸われ、甘噛みされ、時に舌先で転がされる。シュバルツの白い肌の上を、ハヤブサの唾液が、ツ………と、伝い落ちていった。
「うう……っ!」
 それでも唇を噛みしめ、必死にその刺激を耐えていたシュバルツであったが、蓄積されていく甘い快感は、やがて我慢の許容量を超え────彼に甘い喘ぎ声を上げさせてしまう。
「ああ……! はあ……! ああああ………!」
(良い感じに、出来上がってきたな……)
 ハヤブサは、そっと押さえつけていた腕を放す。案の定シュバルツは、もう抵抗する意思を放棄していた。解放された腕は、布団のシーツをきつく握りしめ、そこから動かないままだった。
「シュバルツ………」
 ハヤブサはにこりと笑いながらシュバルツの股間へと手を這わせる。そこには欲情させられて、はち切れんばかりに勃ち上がってしまっている、『男の証』があった。
「はぁんっ!!」
 優しく撫でてやると、嬌声を上げながら、愛おしいヒトの身体がビクビクと跳ねる。先端からあふれ出た愛液が、ハヤブサの指に絡みついてきた。
「こんなになって………辛いだろう?」
「ハヤブサ……!」
「今────お前を、満たしてやる………」
 そう言いながらハヤブサの手が、シュバルツの牡茎を慰め、入り口を愛し始める。
「んあ…………! や………!」
 ハヤブサの愛を受け入れ馴れているシュバルツの男の身体は素直だった。クチュクチュと濡れた水音を立てながら、ハヤブサの指をすんなりと飲み込んでいく。

「挿入(はい)るぞ………」

 通告と共に、ハヤブサが中に侵入してくる。
「──────ッ!」
 声にならない悲鳴を上げたシュバルツが、ピュピュ、と、達した証を吐き出したのが見えた。
「あ…………!」
 震えながら脱力していこうとするシュバルツを、ハヤブサが赦すはずも無い。達して、敏感になってしまっているであろう内側を、ハヤブサは容赦なく責めはじめた。
「ああっ!! ああっ!!」
 悲鳴のような嬌声を上げ、許しを請うように頭を振るシュバルツ。その身体を強く抱きしめると、想いをこめて最奥を穿った。

 ああ
 やはり俺は、この魂が良い。
 この腕の中で震える『光』が
 堪らなく愛おしい。

 その身体が男だろうと女だろうと、自分には、さして問題にはならなかった。
 このヒトだから
 このヒトであるから────自分は、惹かれてやまないのだ。

(ハヤブサ……! 何故………ッ!)
 シュバルツは快感に翻弄されながらも、ハヤブサに想いを馳せていた。

 ハヤブサは、子を欲しがっていた。
 『家族』を求めていた。
 ならば、私から離れても良いのに。
 今のままの私では、ハヤブサの願いを、叶えてはあげられないのだから────

「ああっ!! あ………ッ!」

 強い快感が、背中から脳天へと突き抜けていく。
 これは、男でも女でも、相違ない物なのだろうか。
 シュバルツは、よく分からなくなる。
 
 どうして、ハヤブサはこんなにも求めてくるのだろう。
 どうして
 どうして─────

 分からない。
 何故

 こんな機械の身体なんかに、愛を囁けるのだろうか。

「シュバルツ……」

 目の前のハヤブサが、幸せそうに微笑んでいる。

 ああ
 そんな表情を見せるな、ハヤブサ

 勘違い、してしまうではないか。
 ハヤブサを幸せに出来るのは、私なのだと。

 求めてしまうではないか。

 独リニシナイデ
 傍ニイテ

 彼の、これからの人生を、奪ってしまいそうになる。

 そんなことは赦されない。
 私は、人間界から一歩引いた、傍観者であらねばならないのに。

 なのに─────

「ハヤブサ……!」
 シュバルツがハヤブサの身体を抱きしめると、彼の喜びに震える心が、シュバルツにダイレクトに流れ込んでくる。
 あまりにも甘く、そして、幸せな感情。
 求めてしまう。
 欲しがってしまう。
 もっと
 もっと─────

 愛している。
 ハヤブサ。
 私には、お前だけだ。

 お前が私から離れていったとしても
 私はお前を愛し続けるから

 だから、もっと刻みつけてくれ
 もっと、奪ってくれ

 お前を永遠に、忘れられなくなるくらい

「シュバルツ……!」

 こちらを見つめてくる、潤んだ瞳が
 総ての赦しを伝えてくるような、甘く優しい抱擁が
 どれほどこちらを煽り立てているのか、シュバルツは気づいているのだろうか?

 欲しがる気持ちに歯止めがかけられない。
 愛おしさが暴走してしまう。
 俺の総てを受け止めてくれ
 もっと
 もっと────

 結局シュバルツは、男になった身体もハヤブサに散々求められて、彼が解放されたのは、次の日の朝も、すっかり明けた頃であった。


「お帰り、シュバルツ」
 出迎えるキョウジの声には応えず、シュバルツはよろよろとふらついた足取りでソファーへと足を進める。そのまま頽れるように、ソファーにうつぶせに倒れ込んでいた。
「大丈………夫………でも、ないみたいだね。その様子だと………」
 そう言って苦笑するキョウジを、シュバルツはじろり、と睨み付ける。
「無事なわけないだろう………。あいつ………本当に………」
 際限なく求められたダメージが、身体にまだ残っている。こんな事は、久しぶりだった。
「それでも、無事に男に戻れたんだね。良かったじゃない」
「まあな………」
 キョウジのその言葉には、シュバルツも素直に頷いた。自分が身籠もってしまうことで、キョウジやハヤブサに迷惑をかけることだけは、なんとしても避けたかったから。
(ハヤブサは、私が身籠もることを望んでいたがな……。理解に苦しむが……)
 やれやれ、と、シュバルツがため息を吐いている横で、キョウジもまた、椅子にもたれながら、一つため息を吐いていた。
「やっぱり……ハヤブサの子どもを身籠もるのは、難しかったか……」

「えっ?」

 少し驚いて振り向くシュバルツに、キョウジは苦笑気味の笑顔を見せた。

「実は……ハヤブサの遺伝子って、少し特殊なんだ。普通の人では考えられない塩基配列があって─────」
 キョウジの話によれば、その塩基配列は強烈な力を持っていて、下手をしたら、相手の卵子を破壊しかねないと言う。
「伝説によれば、『龍の忍者』というのは、龍神の力をその体内に宿す者であると聞く。その伝説も、あながち眉唾物でもないのかもしれないね……。よほど選び抜かれた母体でなければ、彼の子どもを身籠もるのも、おそらく難しいかもしれない……」
「そうか………」
 キョウジの話を聞きながら、シュバルツは複雑な気持ちになる。
 ハヤブサには、子を望む気持ちが、『家族』を望む気持ちが、確かにあった。愛情深い彼は、本当に、良い父親になるだろう。
 だが、その伴侶となる相手は、自分の意思だけでは選べない可能性がある、と言うことだ。

「龍の血を残せ」という使命を突きつけられたら、ハヤブサはどうするのだろう。
 そのとき、私が取るべき行動は────

「しかし、惜しかったなぁ。万が一シュバルツが身籠もったら、色々と貴重なデータが取れたかもしれないのに」

「へっ!?」

 何かとんでもない言葉を聞いたような気がして、シュバルツはがばっと、跳ね起きる。その言葉を吐いたキョウジは、椅子の背もたれにもたれかかりながら、手の内でボールペンを弄んでいた。
「DG細胞と、龍の遺伝子の結合────興味深い研究材料だと思わない?」
「おい」
 そう言いながらにっこりと微笑むキョウジに、シュバルツは激しい目眩を感じていた。

 確かに、興味深い研究材料というのは理解できる。
 理解できるが────

 いやいやいや、研究に進んじゃ駄目だろう。
 DG細胞だぞ!?
 それを、他人様の遺伝子を巻き添えに研究などと、道義的にも許されるはずが無い。
 それなのに、研究のことを話すキョウジの瞳が、とても生き生きとしていたから────

 シュバルツは、思わず叫んでしまっていた。

「この………マッドサイエンティストが─────!!」

 それに対してキョウジの「ゴメン、ゴメン~」と、軽すぎる謝罪が部屋に響く。
 二人のじゃれ合う様な声が、下町の空に、吸い込まれていくのだった。

                                  (了)

刹那の中の永遠

 何とかまた、書き上げることが出来ました~。
 男女のエロ描写は初めてだったので、うまくかけるかどうか心配していましたが…………やっぱり下手だったかなぁ、と、思いつつ。
 それでも私は、ものすごく楽しんで書けました。読んで下さった方、本当にありがとうございます。
 この二人の間に子どもは出来るのかどうなのかは、皆様のご想像にお任せいたします。なんにせよ、因果は重そうです。

 さてさて、次はどんなお話を書こうかな?
 またつきあえる方は、おつきあいいただければ幸いです。
 ここまで読んで下さり、どうもありがとうございました。

刹那の中の永遠

シュバルツの身体が唐突に女性化していた。 それを知ったハヤブサがとる行動とは───── ハヤブサさん×シュバルツさんのBL小説ですが、表現はNLになってしまいます。 そして、内容も実にけしからん物になると思います。 何でも許せる方だけ、どうぞお楽しみ下さい。

  • 小説
  • 中編
  • 恋愛
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2016-09-13

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 序章
  2. 「第1章」
  3. 「第2章」
  4. 最終章