ある日のボンゴレ総本部 【綱サイドオールキャラ】

モデム崩壊を契機にUSBを漁っていたら、大昔(10年近く前)に書き殴ったブツを発掘したので、
供養 兼 記念に、一気に上げてみます。
とうらぶ熱が収まった訳でもないのですが。

家庭教師ヒットマンリボーン。

一番好きなのはヴァリアーです。

ある日のボンゴレ総本部 【綱サイドオールキャラ】


 某年某月・秋の日射しに包まれるはイタリア・ボンゴレ総本部。


「いらっしゃい山本♪」


「久し振りだな、元気してたか、ツナ。」


「テメー、10代目に対する口の利き方がなってねぇ!!」


 今日は3ヶ月に一度、幹部たちが一堂に会して情報交換をする定例集会の日だ。9代目までは結構な人数でやっていたものだが、綱吉が10代目としてボスに着任してから儀式ばった事については大分整理したので、今は実質、ボンゴレリングの守護者たち・6人と綱吉だけの集まりだ。

 要するに・・・お茶会。

 少なくとも、本人たち的には。

 10年経とうがこの3人は相変わらずだ。ボスである大空のリング所持者・沢田綱吉、雨の守護者・山本武、嵐の守護者・獄寺隼人の3人は。


「獄寺、コレ土産な。ビアンキさんから。」


「うわっ、止せやめろ、近付けんじゃねぇ!!!」


 しばらく中国に行っていた武が、向こうでやはり仕事で行っていたビアンキと偶然出会い、託されたという土産はやはりポイズンクッキングと化していた。

 そして、もう一角。それこそ10年経とうが20年経とうが変わらない会話をする人物たちが居る。


「・・・クロームは?」


「おやおや、ご挨拶ですね。1年以上会わない間に、ますます礼儀を弁えなくなったようだ。」


「君に対しては言葉を掛ける気がしないな。またいつ牢屋に送られるか判らないんだからね。」


「失敬な・・・。ヴィンディチェの牢獄からだって余裕で脱獄出来たんです。他の牢獄の警備など、抜けられない僕ではありませんよ♪」


「僕に警備させたら絶対逃がさないのに。何せ、君のそのパイナッポー頭は目立つからね。尻尾が一本生えたくらいじゃあんまり変わらないよ。」


「誰がナッポー頭ですかっ、この苺頭!!」


「果樹園に埋めてあげるよ、手足の生えた変態南国果実。」


 威嚇の唸り声が聞こえてきそうな両者は、ボンゴレが誇る変態南国・・・もとい、霧の守護者・六道骸。そして表向きのみ一般人の皮を被った自動咬み殺苺頭・・・もとい、雲の守護者・雲雀恭弥。

 束縛を嫌う恭弥が、わざわざイタリアの総本部まで来るのは極めて珍しい・・・かと思いきや。実際、10年前は『集まりとか絶対来なさそうだよね~。』とか言われていたにも関わらず。

 彼は必ず出席していた。

 普段は日本に住まいする恭弥が、この、3ヶ月に一度のイタリア出張だけは、必ず。

 何故かといえば。


「で。クロームは? 来てないの?」


「来ていますよ。ただ、彼女は熱を出していましてね。部屋で休ませています。」


「・・・そう。」


 一瞬、戦い慣れた骸でさえ無意識に身構えるほど。それ程、物凄い濃さの殺気が吹きつけたが、一瞬で収まった。

 見れば恭弥は、既に骸に背を向けている。


「あ、雲雀さんっ、」


「頼まれてた調べ物は、コレで全部だから。」


「丁度お茶が、」


「それ以上近付いたら咬み殺すよ、草食動物。」


「は~い・・・。」


 薄いファイルを幾つかテーブルの上に置くと、ティーカップを手に固まる綱吉を残して、彼はサッサと部屋を出ていってしまった。

 クローム髑髏の許に行く事以外に、今の彼の頭を占める目的はないだろう。恭弥以上にボンゴレファミリーと距離を取る骸が、集会に顔を出すのは珍しい。だから骸一行が客間を使う事は滅多にないのだが、迷う事はあるまい。『あの』恭弥が。クロームの許へ行くのに迷う事など。

 というか、使う部屋決まってるし。

 まぁそれも、恭弥が綱吉を脅して・・・もとい、言って、一室に固定させたのだが。


「クフフフ、まったく、可愛いじゃありませんか。

 あれが並盛風紀委員長の成れの果てとはね。」


「骸っ。

 『成れの果て』とか言うなよな、格好いいじゃないか、『大人の恋愛』って感じで。俺は好きだけどな。」


「そう言う君も、今年で24。充分大人の筈なのですけどね。」


「え?」


「沢田綱吉、僕が君に『大人』の甘やかし方を教えてあげましょう。」


「ひぃ―――っっ!!!」


「10代目っ!

 っのヤロウ、10代目に触んな変ナッポーっっ!!!」


「おやおや、安心なさい、隼人。僕の本命は君なのですから。」


「今すぐ果てろ南国果実。」


 何の躊躇もなく銃火器をぶっ放す隼人。余裕綽々で三叉槍を出し、全弾受け流す骸。


「皆変わらず息災だな。俺は極限に安心したぞ。」


「この風景に安心するのもどうかと・・・。」


 了平の横で、苦笑の顔を見合わせる綱吉と武。だが確かに彼ら7人の日常風景なのは確かで、そして、他の幹部連中の前でこの『日常風景』をやってしまうと、大騒動になってしまうのも確かな話だった。

 ボス&守護者たちだけの定例集会、という形にした理由は、本質的には結局その一点に尽きるのだ。綱吉がこの形を提案した時、幹部連中は明らかにホッとした顔をしていた。

 15歳のランボは、たった一輪の花を贈り忘れたばかりにイーピンの機嫌を損ね、少し到着が遅れるらしい。

 わが身を顧みても『やっぱり女の子って難しいよなぁ・・・。』という結論に達し、綱吉は改めて、女性に手を焼いた所など見た事のない恭弥を尊敬した。

 まぁ・・・彼の場合、『女性』というより『クローム髑髏』ピンポイントだから、楽な面はあるのだが。


 その部屋は、客間というより既に私室と化していた。扉からして、固定した部屋の主が居る事、そして勿論、その部屋主の性格も表すネームプレートが掛かっている。

 そのプレートを眺め、軽く右手の指先で触れる。

 ノックの前のその仕草が、この10年以内に新たに加わった恭弥の癖だった。


「・・・・・・。」


 ノックは3回。軽く、小さな音で。

 自然な動作でドアノブに手を掛けた彼の目の前で、内開きの扉が静かに開かれていく。


「・・・おはよう、恭弥。」


「おはよう、クローム。

 熱を出したと聞いたよ。横になっていた方がいい。」


「大丈夫。恭弥に会えると思うと体が軽くなるの。」


「・・・・・。」


 穏やかな微笑みと内気な小声で、本心から、自然にそんな台詞が口をついて出て来る爆弾発言ド天然娘。

それが23歳のクローム髑髏だった。

 変わらない所もある。透明感のある、何処か浮世離れした雰囲気の美貌とか・・・昔から周囲に『可愛い』とは評判だったが、13歳の頃から更に磨きが掛かったようだ。

 体を締め付けるような服よりゆったりした服が好きな所とか・・・今も、シンプルな白いワンピース一枚きり。肩や胸の辺りが寒そうだ。

 人見知りで内向的・純粋無垢で素直な性格、声が小さい所、妙に大胆で、体調不良を押して戦場に舞い戻る無茶振りなど。

 変わったのは、明るく穏やかな笑顔を見せるようになった事くらいだろうか。


「・・・野良犬と植物は?」


「犬は、総本部を探検してくるって・・・あんまりココに来ないから、珍しいみたいで。千種は、犬が騒ぎを起こさないか見張っておくって、一緒に。」


「熱を出した君を置いて? 果物の部下は病人に対する接し方を知らないようだ。」


 クロームの背に右手を添え、ベッドに横たわるよう促しながら。

 普段あまり感情というモノを乗せない彼の声に、苦々しいものが混ざる。クロームとて『果物の部下』には違いないのだが、恭弥の中でクロームとそれ以外は完全に分断されているのだ。

 彼女は静かに微笑んでいた。

 何年か前自力で脱獄を果たしてから、己が肉体を取り戻した骸に『器』は必要なくなった。彼女が13時分に帯びていた『牢獄から出られない骸の精神の器として、契約行為を何も必要とせずに骸に憑依される事の出来る特異体質の体を提供する』という役目は、終了した。

 今の彼女は犬や千種と同じ、骸の一部下。

 憑依されるのが役目だった頃、骸の負担を少しでも軽くしたいという健気な思いから、クロームは幻術や槍術、体術などの勉強をしていた。器が精神に近付けば、その分精神の負担は軽くなる。

 その頃の努力の甲斐あって、クロームは犬や千種には使えない幻術を使う部下として、骸の下で能力を発揮していた。

 本人的にはまだまだ自信が足りず、『周りに付いていくのがやっとな自分』という感覚のようだが。

 周囲的には充分、『活躍』と言って良いレベルである。


「熱は何度?」


「さっき計ったら、37度8分だったの。」


「高熱だな。君、平熱は35度5分だろう。

 平熱より2度以上高ければ高熱だよ。」


 『高熱』という部分に力を込めてそう言うと、恭弥は自らのハンカチを取り出した。水差しを傾け、たっぷりと濡らす。固く絞ると更に絨毯が濡れたが、彼は気にしない。甘いジュースじゃあるまいし、放っておけば自然に乾くだろう。そういう所、恭弥は意外とアバウトだ。

 ベッドに横たわる彼女の身、その首許まで、しっかり掛け布団を引き上げて。

 濡らしたハンカチでクロームの汗を拭い、水を触って冷たくした指先を、彼女の額に当てる。クロームの前髪から滴った雫に気付けば、さりげなくハンカチで拭ったりなどする。

 いつの間にかベッドの端に腰掛けて、表情自体はあまり変わらないながら、真摯な瞳に彼女を映すその姿は。

 間違いなく『甲斐甲斐しい』としか言い表しようのないモノで。

 骸の前では勿論、他の守護者たちの前でも絶対にしない、見せない。『伝説の並盛中学風紀委員長』、財団を設立してからは、部下たちから『自動咬み殺苺頭』と恐れられる男の、恋人の前でだけ見せる姿である。


「恭弥・・・お仕事は?」


「大丈夫、終わったよ。」


「そう・・・。」


「あぁ。」


 語る言葉は少なくとも、恭弥の存在自体にクロームが安心しているのが判る。そして恭弥も、クロームが安心している事に喜びを見出してる事が。

 彼女は体が弱かった。

 最初、それは外的要因と思われていた。金銭的に裕福な家に生まれ、内向的な性格もあって外遊びや運動をしていなかった彼女が、いきなり戦いの世界に身を投じたのだ。憑依という体力的負担の計り知れない行為を短期間に繰り返された為に、回復が追いつかなくて、常にメディカルルームに居るのだと。

 だが骸に憑依されなくなっても、彼女とメディカルルームとの縁が切れる事はなく。

 結局は根本的に体が弱いんだよNE☆ という事で、周囲の見解は一致していた。綱吉が医療設備充実に注力するのには、クロームの事を心配して、という部分も大きいのだ。槍術や体術が、どんなに修練を積んでも『幻術士の自衛力』以上に伸びなかったのも、その辺りに理由がある。

 そんな彼女なら、むしろ骸のアジトでじっとしていればいいのでは、という提案も、彼女の身を案じるが故に出された事もあるのだが(ちなみにボンゴレサイドは骸のアジトを知らない。普段何処で何をしているのやら。)。

 『・・・・恭弥に確実に会える機会、あんまりないから・・・。』というクロームの一言と、『余計な口を出すな』という恭弥の無言の威嚇で却下された。

 ちなみに彼女の一言は爆弾発言だった。

 了平やランボなど、彼女のその一言と、彼の反応で初めて2人の関係に気付いたのだ。隼人や綱吉は流石に気付いていたが、恭弥が怖くてずっと話題に出来ずにいた。

 かくして、今日もクロームは、骸一派の中でクロームだけは、熱が出ようがイタリアのこの部屋に来る。そして10年前は集まりなど絶対来ないだろうと言われた恭弥も、殆ど『真っ直ぐに』と言って良い勢いでこの部屋に来る。


「これ、お土産。

 こっちは昨日スペインに行った時の。こっちは今日、日本から来たから日本の。」


「・・・ありがとう、恭弥。」


 掛け布団で口許を隠して、クスクスと笑うクローム。

 恭弥が彼女に選んだスペイン土産は、暖かそうなウールのストール。日本土産は金箔細工の美しい、黒漆塗りの手鏡だ。

 クローム曰く『恭弥に確実に会える機会、あんまりない』のには訳がある。

 彼女が骸との任務に忙しいからではない。彼が、ボックス兵器の謎を追う風紀財団長としての活動に忙しいからだ。自らの『知りたい』という欲求の為に自分で設立した財団だが、その活動は年々多岐に渡っていき、今では様々な用件で海外を飛び回っている恭弥がいる。

 充実はしている。確かに、仕事は充実はしている。

 が。


(僕に・・・!! 僕にもっとクロームを・・・!!!)


 などという事を、口に出すような恭弥では勿論ないが。

 そして、クロームから殊更何か要求や、束縛めいた事を口にした事はただの一度もないのだが。・・・束縛嫌いな彼の性格を知っているせいもあろうが、元々彼女は人に『おねだり』というものをしない性格なのだ。

 やはり恭弥にも、辛さや申し訳なさはあるのだろう。

 何処へ行っても必ず彼女へお土産を買ってきた。そして、手書きのメッセージカードと共に骸のアジトへ送ってきた(いつ会えるか判らないから。)。ご丁寧に出先からではなく、財団の手の者に届けさせて。且つ、『クローム以外は開けるべからず!!』という異例の張り紙まで荷物に付けて。

 彼を知る者には本当に異例だ。昔は、『そんな面倒な張り紙などするくらいならプレゼントなど贈らない』、そういうキャラだと思われていたものだが。

 それだけ、中々逢う時間を作れない事に関して思う所があるのだろう。プレゼント攻勢というより、『ちゃんと想っている』という恭弥なりのサインなのだ。

 ちなみに恭弥は、ボンゴレサイドで骸のアジトの場所を知る唯一の人物でもある。彼が知っている事を綱吉たちは知らないとはいえ。


「クローム。」


「平気。気分はいいの。」


 ゆっくりと上半身を起こしたクロームは、そう言ってニッコリと微笑んだ。

 その笑顔に恭弥はそれ以上留めようとはせず、代わりのように、今贈ったばかりのストールを彼女の肩に羽織らせる。

 そのままギュッと抱き締めた。


「恭弥?」


「君に触れるのも久し振りだ。」


「うん・・・久し振り。」


 少しの間、そうしてクロームの肩に額を乗せていた恭弥は、その鋭敏な耳に小鳥の羽音を聞きつけて顔を上げた。

 風通しの為に開けておいた窓。そのほんの少しの隙間から、黄色い物体が飛び込んでくる。恭弥の飼っている小鳥・ヒバードだ。


「あなたも、久し振り・・・。」


「・・・・・・。」


 手許に懐いてきたヒバードを、僅かな歓声と共に優しく撫でる。そんな彼女を、恭弥は窓を閉めながら横目で眺めていた。

 不思議な、感覚だった。

 群れてる奴らは大嫌いな筈なのに、骸たちと居る時でも、彼女の周りだけは色が違うのだ。特別カラフルになる訳でもないが、敢えて言うなら・・・くっきりと浮き上がって見える。視界が、吸い寄せられる。人物も景色も、視界の全てが彼女を中心に配置される。

 彼女の無事を確認すると、安心する。

 楽しく戦っている時とも違うこの感覚は、他のうるさい女共相手には呼び覚まされた事のない感覚で。

 もっと喜ぶ顔が見たくて、ボックス兵器まで出してしまう自分の行動も、恭弥は不思議な気がするのだ。

 まぁ、結局この感覚が『好き』という事なのだろうと。

 遥か昔に納得もしているのだが。


「こんにちは、ロール。」


 膝によじ登ってくるハリネズミを、クロームは左掌でそっと掬い上げて、右手の指先で鼻先を突っついた。クシュン、と顔を傾けてクシャミをする小さな生き物に、クスクスと優しく笑う。ヒバードは彼女の肩に止まって、その体温の高さにうつらうつらと舟を漕いでいる。

 とうとう肩から転落したのを、彼女は反射的に右手で受け止めた。

 一瞬、右手にヒバード、左手にロールを乗せて、瞳を丸くして固まってしまったクローム。恭弥はそんな彼女がおかしくて、珍しく声を上げて笑った。


「恭弥、笑わないで・・・。」


「ごめん、滅多に見られないから、面白くてね。」


「恭弥こそ、そんなに笑ったトコ、見るの久し振り。」


 淡い微笑みを浮かべ、再びベッドの端に戻って来た恭弥を見上げるクローム。

 恭弥は彼女の頬に触れ、そこにかかっていた黒髪をかき上げた。クロームも、その恭弥の手に自分の手を重ねる。嬉しそうな笑みと共に。

 穏やかな秋の日差しの下で紡がれる、一瞬の幸福の時―――。


「・・・誰が一瞬だい、誰が。変なナレーションしないでくれないかな。」


「イヤだなー、ミーじゃありませんよー。

 天の声ですってば。」


「しししっ、バリバリお前の声だったろーが。

 王子の耳ちゃんと聞いてたぜ。」


「それはきっとアレです、老化現象です。ベル先輩王子だから、もう老け込みが始まってんですよきっと。」


「それ王子とは関係ねーよな。ないよなオイ。」


「・・・ヴァリアーがこの部屋に何の用だい。漫才なら草食動物の前でやってくれないかな。目障りだよ。」


「ホントにもう、イヤだなー。

 この部屋の部外者は雲の人でしょ。こんなトコに居ないでお空をフヨフヨ漂ってなきゃダメじゃないですか。」


「部外者と言うなら、君が一番の部外者なんだけどね、カエル君。

 ボンゴレリングに一度も触った事ないだろ君。」


「あれー? もしかして同じリングしてるってトコに共通項見ちゃったりしてます?

 それなら同じ人に幻術習ったってトコで、ミーの方が繋がり強いと思うんですけど。」


「姉弟弟子、って言いたいのかい? それだってリングが発端の縁だろう。

 彼女の人生により深く関わってるのはボンゴレリング、それに同じリングの所持者だよ。」


「リングリングうるさいですこの不良。」


 雲雀恭弥、恋人との甘い時間を邪魔されて見るからにご立腹の様子。そして彼を故意に怒らせる、という恐怖技をやってのけたのは、独立暗殺部隊・ヴァリアー所属の幻術士・フラン。・・・彼にくっついてきたベルフェゴールは、とりあえず今は恭弥の視界に入っていないようだ。それだけ恭弥のフランに対する怒りが大きい、という事でもあるのだが。

 幻術士と雲の守護者。

 2人は顔を合わせる度に攻撃性を剥き出しにする天敵同士だった。

 その理由は。


「・・・やめて、フラン。」


「はーい。フランは良い子なので、クロームネーサンが言うならやめまーす。」


「このガキの何処が良い子だっつの。」


 自分が喧嘩していた訳でもないのに、額に青筋を浮かべながらケッとやさぐれてみせるベルフェゴール。表情を見る限り恭弥の心中も同じようだ。

 ヴァリアーの幻術士にして、『あの』六道骸の弟子、そして雲の守護者の天敵。

 フランが恭弥に突っかかるのは、つまる所彼女の気を惹きたいから。その一言に尽きる。


「クロームネーサン。

 ハイコレ、お土産です。昨日まで任務でロシアに行ってたんでー。アホのロン毛隊長に後ろから剣で突っつかれて、痛かったのなんのって。フランはブロークンハートです。

 辛いです苦しいです、慰めて下さいクロームネーサン。」


「え・・・。」


「それ以上クロームに近付いたら、咬み殺すよ。」


「イヤだなぁ、クロームネーサンに近付き過ぎなのはそっちでしょーがこのピンク雲。」


「それは自殺願望の表明と取らせてもらおう。」


「どんだけ死にたくてもピンク雲にだけは殺されません。」


 一瞬の内に室内に殺気が満ち溢れた。数秒前までの穏やかさはどこへ、だ。

 ベルフェゴールは考える。

 ヴィンディチェを騙くらかして牢獄から骸の体を取り戻す為。フランは、その為に骸が見出し、育てた幻術士である。ヴィンディチェを騙すには相当の才が必要だ。事実、いくら適性があってもクロームには無理だった。彼女の場合は、顔や気配が割れていた、というのもあったろうが。

 きっちり師から期待された働きをしてみせたフランだが、最初は当然、ド素人のド原石だった。

 では、誰が彼を育て上げたのか。

 それが骸であるのは当然としても、骸だけでは無理だった。何せ、行動に制限がある。それがフランを必要とする理由であったくらいだ。彼の精神がこちら側に出てこれるのは、ほんの僅かな時間だけ。当然、フランを指導できる時間も僅かだけ。

 そこで役立ったのが、クロームだ。

 修行の要点や、修行方法は骸が伝える。

彼女の役目は、それをより判り易く伝えたり、フランと一緒に考えたり、時には一緒に修行したりして実際に身に付けさせる事だった。


(ほとんど子守だよなぁ・・・。)


 骸の為になる行動は何でもする娘だ。『骸を牢獄から出してくれる可能性を秘めた子』の指導の手伝いなど、きっと大喜びでやった事だろう。

 恭弥曰く『野良犬』と『植物』は、子供の相手など出来る性格ではないし。修行以外の世話も含めて、恐らく彼女が一手に引き受けていたに違いない。

 では、フランから見た彼女はと言えば。


「だからー、思う訳です。ピンク雲って結局自営業でしょ? もしもの時の貯蓄とか資産運用とか考えてるんですか?

 ちなみに貯蓄が100億円ない人とは、クロームネーサンとのアレコレは認められません。」


「甲斐性を金額で測るなんて、南国果実は何を教えてるんだろうね。

 クロームに拝金主義を押し付けないで欲しいな。」


 フランから見た彼女、それは『憧れの年上のお姉さん』。

 あまり長時間居てくれない師匠の代わりに、傍に居て、様々な面倒を見、修行を見てくれる同門の姉弟子。師匠自身、彼女の体を借りて現れる。彼女の存在なくしては修行自体も覚束ない、フランにとって必須の存在。

 年齢的にも、丁度『跳ね馬』ディーノと沢田綱吉くらいの年齢差がある。それに、まぁこの世界に身を置く者なら大なり小なりだが、フランも血縁者には恵まれなかった。

 これでシスコンにならない筈がないのだ。


「クロームネーサンに付く悪い虫・須らくミーが排除すべし、です。」


「そういう場合、往々にして本人が一番の悪い虫なんだよ。」


「なぁ、アレ放っといてオッケーな訳・・・?」


「・・・平気・・・もうすぐ骸様とボスが来てくれるから・・・。」


「・・・・・。」


 トンファーVS幻術で本気の室内戦を展開しそうな両者の様子に、ベルフェゴールはクロームのベッドに寄って耳打ちした。

 返ってきた答えに沈黙する。

 時々、この娘には未来視能力があるのではないかと思う事がある。幻術士としての第6感というより、もっと確実で強固な。アルコバレーノのボス・ユニにもあった力だが、それよりもっと強力な。そして、年々その能力は強くなっているような。

 骸には既に、憑依されなくなって久しい筈だ。沢田綱吉とは、元よりその手の契約は交わしていない。

肉体を取り戻してからも、骸は引き続き、霧のボンゴレリングをクロームに持たせている。だが、同じ種類のリングを持っているからといって、気配まで感じ取れる訳ではない。そいう種類の『縁』ではないのだから。

 一体何を根拠に、どんな能力で、骸と沢田綱吉の来訪を告げたのか。


(ほ~ら来たよ・・・。)


「何をしているのですか、おチビさん。」


「あ、師匠ー。どっかに扇風機とか落ちてませんか? 雲まで吹き散らかすような。」


「何しに来たんだい、沢田綱吉。」


「ひぃ―――っ。その・・・ケーキの差し入れを・・・。

 ほら、クロームの様子も心配だったしっ、俺たちも食べて美味しかったし、えぇと、要するに・・・。」


 恭弥のフランに対する殺気を、100%丸ごとぶつけられてしどろもどろになっている綱吉。これが昔自分たちを負かした男なのかと、ベルフェゴールは失笑してしまう。

 やはり自分は、コイツの下には居られない。コイツの直属になどなろうものなら、きっと1秒と保たずに腐ってしまうだろう。それはイヤだ。御免被る。

 やはり自分に相応しいボスは、ザンザスだ。


「んじゃ、王子もう帰るから。またね、クロームちゃん♪」


「・・・また・・・。」


 ヨシヨシ、と彼女の頭をかき混ぜると、途端に仕込みトンファーの鉄鎖が飛んできた。

 それを余裕で躱すと、ベルフェゴールはすれ違い様にフランのカエル頭もどついていく。


「お前のスケジュール、夕方から任務入れといたから。

 18時にいつもの場所。しかもボスと一緒。遅刻してボスに消し炭にされねーようにな。」


「何て事しやがるんですかこのドS。」


「しししっ、目指せ貯蓄100オクエン♪」


 不可能ではない筈だ、マーモンレベルの強欲さがあれば。以前マーモンの通帳を盗み見した時、ベルフェゴールはそれを実感した。

 せいぜい『姉さん』に甘えるがいい、そんでもってボスに消し炭にされるがいい。

 ベルフェゴールは殺しという自分の快楽を追求すべく、秋空の美しいボンゴレ総本部を後にした。



                           ―FIN―

ある日のボンゴレ総本部 【綱サイドオールキャラ】

ある日のボンゴレ総本部 【綱サイドオールキャラ】

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-06

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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