【君の木陰で身を休め】 主清+鶴丸+鶯丸、別本丸主従

審神者会議襲撃ネタ×
自分の中の闇と向き合う鶯丸の話×
清光さんが異能使ってる話×
他の本丸の審神者との絡み。

・・・色々詰め込んだら、長くなりました・・・。

まず、前から異能、異能と言っていて、実際にアクティブに異能使ってる話が
全然ないなー書きたいなー、と。
まぁ、戦闘シーンの書けない未熟な猫、というだけなのですが。

審神者会議襲撃、という面白そうなネタも、前から一回書きたいなーと。

鶯丸さんの、『ふくれ』の話が個人的に好きで。
美術刀としては致命的らしき瑕疵があって、
金銭的には直せなくても気持ち的には大事に秘蔵されてて。
皇室に献上される時にやっと直してもらえたけど、綺麗になった時がお別れの時、
とかナニソレ超萌える・・・!!

刀剣男士として顕現したら、『ふくれ』の名残りで、
痣とか出る個体も居るんじゃないかな、と前から思っておりました、はい。

その『ふくれ』ネタでも書きたいなー、と。

更には、普段自分の本丸に籠もって活動してる審神者って職種ですが、
顔を合わせたら、どんな会話をするのかな、と。

漠然とそれも書きたいなー、と。

という訳で。
4つの『書きたいなー』が適度な感じにブレンドされて、
こんなモノが精製されました。

最後にほんの少しだけ、不憫属性な山伏さんが居ます。

あと、イチジクは日本ではフルーティーなイメージがありますが、
熱帯のイチジク科は素晴らしい腕力をお持ちです。

イチジク科にも様々な種類があり、フルーティーにタルトを飾るだけが
イチジクの魅力ではないのです。

絞め殺しの木、命名者はマジハイセンスだとリスペクト致します。

【君の木陰で身を休め】 主清+鶴丸+鶯丸、別本丸主従


「『藍色植物(インディゴ・プランツ)』。」


 清光の声に導かれ、藍色の草木が部屋いっぱいに満ちていく。

 深蒼色の木の枝が、部屋の内側を補強するように、内から外へと巻いていく。

 サワサワ・・・と静けさすら伴う葉擦れの音が、剣戟の立ち入りを制限していた。


「感謝してよね、四季仁(しきひと)。

 普段は実質『鬼子』扱いしてるクセに、こんな時ばっか、大勢の前で異能使わせるなんて・・・マジムカつく。

 ウチの主の為じゃなかったら、絶対使ってあげないんだから。」


「感謝してるさ、七草の初期刀。

 此度の襲撃、敵も本気なのは掴んでいた。それでも開催を強行したのは、君の異能を当て込んでの事だ。礼を言うよ、加州清光。」


「・・・いつも思うけど、1回くらい慎重を期して延期すべきじゃないの?

 毎回強気だから、向こうもムキになるんだと思うけど。」


 上位審神者のみが持つ、情報交換や連携の為の集い。ソレが『審神者会議』だ。

 検非違使に襲撃されるようになって、10回は軽く超える。

 主催は一国の審神者の総元締め・エリアマネージャーが担う。ここ薩摩国のエリアマネージャーは、本丸名『春夏秋冬(ひととせ)』・審神者名『四季仁』を名乗る、年齢不詳の男審神者だった。

 ちなみに清光の主は本丸名・審神者名共に『七草(さえぐさ)』。

 四季仁の腹心と目されている。

 審神者になる前から付き合いがある訳でも、位階が云々という訳でもなく。単純にエリアマネージャーとしての四季仁と、彼の振る舞いに賛同する事の多い七草、という図式だ。

 清光の主曰く『腐れ縁』と。


「戦争なんだ、一度でも弱気になれば、敵はソコに付け込んでくる。

 簡単に引く訳にはいかないよ。」


「・・・まぁいいさ、俺の主の為だからね。刀剣は刀剣らしく、割り当てられた役目を全うするよ。

 非戦闘系審神者が詰まった部屋の守護。それが、それだけが俺の役目だ。」


「詰まった部屋って・・・せめて『避難所』と言ってくれ。」


「うるさい黙れ。俺の主を入れてくれないクセに。」


「っ、ソレは毎回、悪いと思ってる。

 戦闘系の中でも、七草の武力は突出してる。彼に戦線を抜けられると困るんだよ。

 さりとて、君を避難所から外す訳にもいかない。君の異能『藍色植物(インディゴ・プランツ)』在ってこそ成立している『避難所』だからね。

 戦略上、君たち主従を引き離さざるを得ない事。本当に申し訳なく思っている。

 頼りにしている。大事に想っているよ、加州清光。」


「・・・お前に『大事』とか言われても、嬉しくない。

 まったく・・・俺にこの異能をくれたのも主なら、修練に付き合ってくれたのも主、強くなったのも全部主の為なのに。横から薄気味悪くチヤホヤして、安っぽいおだて文句並べて、西へ東へイイように使い回しやがって。

 どうせ都合が悪くなったら笑顔で捨てるクセに。俺は勿論、主の事だって・・・。

 主の傍で、主を守りたいのに。何でお前なんかと一緒なんだよ・・・。

 ウザい、だるい、早く帰りたい。」


「ホントにゴメンって。

 玉鋼5000、いや10000出そう。特別手当、弾むからさ。」


 四季仁がどれだけ言葉を尽くそうと、清光の機嫌は下降一直線だ。

 藍色植物(インディゴ・プランツ)。

 清光の霊力を糧に成長した植物は、茎も葉も、花以外の全てがインディゴ・ブルー一色に染まる。そして任意に巨大化した植物たちは、時に緻密に折り重なり、編まれて最強の盾となる・・・今のように。更には獰猛にうねり、暴れ回って敵を薙ぎ払ったりも出来る。他にも様々な使い道が無数にある、攻防一体の有益な能力だ。

 故に四季仁は七草に『頼んで』いた。審神者会議には必ず清光を連れて来てくれるようにと・・・『命令』ではない。あくまで『依頼』だ。

 反骨精神旺盛な清光の主は、必要以上に命令されるのが嫌いなのだ。エリアマネージャーはあくまで『地域のまとめ役』であり、他の審神者に対する指揮命令権を持たない。

 清光の従者である植物たちが、主たる刀を慰めるように、サラサラと葉擦れを鳴らす。

 彼の好きな真紅の花を咲かせた一枝が、スルスルと伸びてきて彼の髪に絡んでから、自ら折れていく。

 黒髪に残った一輪の花を、取って口づけた清光の表情は切ない。


「主・・・。」


 怜悧の内にも情熱を秘め、唯一の男を想って心を乱す、男装の『美女』。

 に見える。にしか、見えない。

 膝裏までの長い艶髪と、趣味の良いイヤーカフス。それが『七草本丸の初期刀』である証だ。


「他の『加州清光』と、同一個体だとはとても思えぬこの色気。

 眼福、眼福♪」


「他の本丸の刀剣男士に守られといて、考える事がそんな下ネタかよこのファッキンマネ。こんな奴の為に霊力消費するとかマジナイんですけど。

 ねぇ、アンタ敵に突き出して、主を守りに行っていい?

 俺居なくなったら『藍色植物(インディゴ・プランツ)』も解けるけど、いいよね? アンタら全員死んだら証拠残んないし、適当に刀傷でも自傷して息乱してけば『頑張って守りましたけど応戦し切れませんでした。』で通るよね?

 証拠なんて、敵が隠滅してくれるでしょ?」


「そうやって、七草以外にツンツンな所もまた堪らない・・・!

 本気で嫌がりつつ『七草の為だからこそ』結局守ってくれちゃう所、いじらしいやら可愛いやら・・・!!

 私以外の男に一途なコを、あの手この手を尽くして振り向かせたい・・・!!」


「そんでもって振り向いた途端に捨てるのが醍醐味なんだろっ?!

 ホンッッット最悪だなお前っ!! マジでやる気失せるから、もう黙ってろっ!!」


 春夏秋冬本丸の四季仁。

 彼は一人称『私』の、和服の似合う落ち着いた美丈夫だが・・・まぁ、『そういう』人間だった。清光としては、真性ショタという歪みはあるにしても誠実極まりない己が主と、何がどうして馬が合うのかよく判らないのだが。


「ほら、来るよっ!!

 くれぐれも前に出るなよ、四季仁! ホント、マジで殺しちゃいそうだから!!!」


「うわー、思いっ切り本気だねぇ。」


 外から破城槌のようなモノで叩かれたのだろう、出入り口を守っていた太い幹が派手に砕ける。

 狭い屋内にそんなモノまで持ち込むなんて、検非違使もご苦労な事だ。

 怯まない清光は、むしろ積極的かつ大量にプランツたちを呼び出した。

 戦闘になるのは判り切っていたので、数十種以上の種や、小さいながら苗も用意している。霊力を使って遠地からの召喚も出来るが、消耗が激しいので手許に置いておくに越した事は無いのだ。

 物量には常に余裕を持たせておけ、それが七草の教えである。


「藍色植物(インディゴ・プランツ)!!

 イチジク科は可能な限り、出入り口を補強しろ。敵の進入路をギリギリまで塞ぎ、隊列を乱させる。ツタ科は審神者と近侍の主従を、セットで囲め。近侍と一緒なら、肉薄されても近侍で止められる。

 林冠植物。お前たちは奴らの上から、ピンポイントで狙撃しろ。

 お前たちもまた、七草本丸の一角だ。

 敵を殺せ。『七草』の旗の前に立つ敵を、1体たりとも、討ち漏らすな・・・!!」


 防衛の為に残してある戦闘系は、審神者と近侍が数組だけだ。

 それ以外の戦闘系は、審神者も刀剣男士も全て前線に回している。回せている。主力には『七草本丸の初期刀』1振を残しておけば、問題なく乗り切れると信じればこそ。

 自分の本丸どころか、他の本丸からすら信を得ている、それが『彼』だった。

 怜悧な美女が、情熱的な戦士に早変わりする。

 抜刀した清光の檄に、闘気に呼応して、プランツたちが高揚しているのが判る。

 戦う植物学者。

 彼の背後で、彼の主ではない男は穏やかに微笑んでいた。


 ピクリと気を逸らした七草の、その脳天めがけて大太刀が得物を振り下ろす。

 棒術であっさりといなし、距離を取った彼の口許には抑え切れない笑みが浮かんでいた。微笑、などという可愛いモノではない。獣の笑みだ。


「相変わらず君の笑顔は物騒だな、主。」


「清光が戦闘に入ったのだろう? 楽しそうだな、主。」


 両脇に従うのは、鶴丸と鶯丸。鳥太刀コンビの茶々に、主の笑みが更に深まる。

 審神者と刀剣男士の間には、霊的な契約という絆が在る。

 その契約は心の距離が近付くほどに強くなり、強まれば強まる程、互いの状況が手に取るように判るようになる。出陣先と本丸とで会話したり、本丸内でも、何処で何をしているか判るようになったり。

 15年越しの主従ともなれば『戦闘開始』程度、感覚で解るのだ。


「ウチの初期刀が戦闘に入ったのは、そうなんだが・・・。

 もうひとつ。

 獅子王も戦闘に入った。ウチの本丸が今、検非違使の強襲を受けてる。」


「予想の範疇だな。驚くにも値しない。」


「彼らにしてみれば、同時進行で2つの戦場を展開している訳だ。

 どちらが裏でも表でもない、両方ともが主要な戦地。細かい事まで気を回さないと、喰われるのは自分たちだと。彼らは気付いているのだろうか。」


「獅子王からの報告じゃ、目新しい武器や戦術は見当たらねぇと。今の所はな。

 審神者会議の襲撃もウチへの襲撃も、まぁ、年中行事の一環みてぇなモンだからな。どこまで本気の殺気やら。」


「審神者会議と同列の殲滅目標に定められているのか、俺たちの本丸は。

 コレは中々・・・驚きには値しないが、武門として自慢には思っていいかも知れん。」


「我らの門番は手強いが、さて。前回の強襲は、ほとんど彼らの撤退戦だった。来てすぐ帰ったという印象しかない。

 獅子王率いる正門防衛隊と、隠密部隊3つ。抜刀する機を得たのは彼らくらいだったろう。今回は確か、隠密6部隊、どれも本丸を空けず控えている筈だが。

 他にカンスト組もほぼ全員、参陣可能だった筈。誰にどんな経験値をくれるのかな。

 夜警部隊は誰が起きるだろう。」


 ニヤニヤと含み笑う鶴丸に、顎に手を当ててじっくり考え始める鶯丸。

 部下たちの余裕ある姿に、主たる七草の方が苦笑してしまう。

 『来客』は須らく、一度は獅子王を通すのが七草本丸の習いだ。ただの客人だけではない、『強襲部隊』という名の来客も。

 それに大所帯である七草本丸では、常に誰かが起きて活動している。その最たる者たちが、夜警部隊。文字通り夜警専門部隊で、日中寝て夜に起き、本丸内のトラブルや、敵の侵入を警戒するのが仕事である。

 中には紫外線アレルギーで、昼日なかに戦えない者も居る・・・服薬で病状を抑えつつ、夜戦を舞台に暗視スコープという文明の利器を味方に付けて戦うので、レベリングに際して何も問題は無いのだが。えぇ、何も問題はありませんが何か。

 『病弱な初鍛刀』今剣を始め、普通にレベルが戦闘に及ばない者、病などのハンデ持ち、トラウマ持ち、等々。

 そういう者たちを内包してなお『審神者会議と同列の殲滅目標に定められている』本丸。ソレが彼ら七草本丸であり、頂点に立つのが七草という男である。


「まぁ向こうは向こうとして、だ。」


 帰る場所が襲撃されているのに、そしてあらかた片付いたとはいえ、白兵戦の真っ只中だというのに。

 冷静に周囲を見回せる審神者というのも珍しい。

 定例の審神者会議は、年に一度。この1年で戦績を挙げ、参加資格を得た審神者や刀剣の特性を見るには、戦闘中という状況はかえって都合が良いのだ。人間性や得意分野が如実に表れる。

 七草の表情を見る限り、お眼鏡に適った審神者は居るらしい。


「乱戦に躊躇いなくブッ込んで来やがる弓兵に・・・、」


 フワフワロングのフレアスカートに編み上げブーツの、10代女子。

 得物はスポーツ用アーチェリーだが、矢筋には淀みない殺気が迸っている。初期刀らしき山姥切国広との、息の合った連携が印象的だ。背中も横も、彼に絶対の信頼を置いているのが窺い知れる。


「ワイヤーワークで西洋魔術を遣う巫女か。」


 年の頃は10に満つまい、服こそ紅白の一般的な巫女服だが、霊力は量も清澄さも、共に非凡な大器だった。得物は白銀に輝くワイヤー。ソレで作り出した造形物を操って戦う、という少し変わったスタイルだ。

 初期刀は七草と同じ、加州清光。主の癖を知り尽くしているのだろう、戦い慣れていない主の、攻撃の薄くなる方へ巧く立ち回ってフォローしている。


「今年は女子勢が優秀そうだな。」


「また青田刈りか、七草の。このド変態め。」


「戦闘中に喧嘩売ってくんじゃねぇよ、雅チャン。」


「雅チャン言うな、この七草粥っ!!」


「へいへい、七草粥ですよ?

 ウチの可愛い清光が付けてくれた名だ。

 『7』は吉数、『草』は古来から繁栄の象徴。『七草』って字には悪い意味や印象が無い。奇抜過ぎず薄過ぎず、人にもすぐ覚えてもらえるってな。

 七草粥、健康祈願にもってこいだろう。」


「毎年の若菜摘みは、ウチの恒例行事だよな。

 アレは楽しい。」


「だろう、優鶴(ゆづる)、青蓮(しょうれん)。」


 優鶴は鶴丸国永に、青蓮は鶯丸に。主が付けた名だ。

 七草を終始、責めるような目で睨んでいる男は『雅』本丸の『無名』。『雅』は初期刀の歌仙が付け、『無名』は本人自ら名無しと定めた。上に出した就任書類の、名前欄を未記入で出した為、担当者の苦肉の策で『無名』とされたのだとか。

 武人ながら、同じ元軍人である筈の七草とは徹頭徹尾、気が合わない。

 その無名がやはり苦虫を噛み潰したまま、重々しく七草に告げる。


「嘉慶(かけい)が・・・やられた。

 虫の息で鶯丸を・・・お前が青蓮と呼ぶ刀を呼んでいる。現し世で最期の願いだ、会わせてやれ。」


「ふぅん? あのウザい正義漢がね。

 派手好きに相応しい派手な最期だなぁ? こんな大きな会議で死ねるなんてよ。」


「っ、聞いていたのかっ?! 仲間がっ! 今この瞬間に、死にそうなんだぞっ!

 もう死んだかも・・・聞いてやろうとは思わんのかっ!!」


「無名の旦那、そいつぁ命令かい?」


「っ、いや・・・俺に、そんな権限は・・ないが。」


「だよな、良かったぜ、勘違いしてンじゃなくてよ。

 青蓮。

 お前の旧主が、今際の際なんだとよ。会いてぇかい? もし会いたいなら、万難を排して会わせてやる。もう死んでンだとしても、反魂の術を使ってでも会わせてやる。

 お前さんの意思や如何に。」


「否。

 そのような手間を頂くには及ばない、我が主。

 俺には貴方の方が重要だ。遥かに。優鶴と共に、貴方を守る。

 嘉慶殿の従者として生きる使命は、疾うの昔に終わっている。嘉慶殿が終わらせた。刀剣としての能力には何の問題も無い、ただ顔に痣があるという、それだけで俺を捨てた。折ろうとした・・・正直、俺は今でもあの行為が赦せないでいる。

 姿を見れば、責め言葉のひとつやふたつ、簡単に溢れてくる。

 嘉慶殿が今際だからこそ。

 怒りや憎しみに溢れた言霊で旅立ちを穢さない事が、今の俺に出来る、せめてもの手向けと心得る。」


「七草、お前に任せると、刀剣は本当に我が侭に育つ・・・!!

 鍛刀してもらった恩ってのがあるだろう?!」


「無いな。

 正義という我欲の、塊のような人だった。鍛刀も我欲、顕現も我欲。本丸から逃げ出した俺を、追い掛けるあのヒトは鬼のような形相をしていたよ。

 城下町を彷徨っていた、ボロを纏った薄汚い刀剣。そんな俺にしたのは嘉慶殿で、我が主が拾ってくれたのは本当に偶然、通りすがり。

 嘉慶殿に与えてもらった機会ではない。

 いくら審神者とて、刀剣男士の心までは自由に出来ない事を忘れないで頂きたい。

 嘉慶殿を赦せない事、責められる謂れは無い。」


「だとよ。

 ま、人間、生きたようにしか死ねねぇってコトだ。

 嘉慶が何故、今になって青蓮を呼んでんのか知らねぇが。死に際に急に心細くなって会ってもらおうったって、そう都合良くはいかねぇのさ。

 アイツにはアイツの連れて来た、近侍なり刀剣なりが居るだろう?

 そいつらに看取ってもらいな。

 俺たちゃ刃物使いで、軍属だぜ。戦闘で死ぬ方が普通だろ。」


「君、あの本丸の刀剣たちを見たかい?

 色んな刀剣の分霊を無計画に錬結してて、驚いたぜ。遠くから霊気を視ただけでクラクラしたよ。ごった煮状態。

ありゃもう改造だね。錬結使った改造だよ。

 ちょっと怖かった。」


「安心しろ、優鶴。俺は錬結が嫌いだ。食人習慣みたいで薄気味が悪ぃ。」


「安心した☆ 俺たちは皆、主が大好きだ。

 愛してるぜ、主☆」


「愛してるぜ、優鶴、青蓮☆

 行くぞ、2人共。とっとと終わらせて、清光を迎えに行ってやらにゃならん。」


「おぅ♪ ほら、青蓮も。行こうぜ、兄弟☆」


「・・・あぁ。」


 殊更カルく言って、優鶴が青蓮の手を引き、主の後ろを歩きだす。

 七草の広い背中に、隠れて余人には見えなかった。主が隠してくれた。仲間の温もりが、震える手を引いて過ちから遠ざけてくれた。

 2人が居なかったら、青蓮は・・・鶯丸は、引き返して旧主の居所を質していたかも知れない。己が手で、殺す為に。恨みを晴らす・・・否、こんなに恨まれていたのだと、思い知らせる為に。

 青蓮の指先が、己の顔面に浮かんだ青痣を撫でる。その手は未だ震えていた。

 茶を愛し、近くの仲間と共に笑い、遠くの朋友を想う心穏やかな皇室御物。そんな自分で在りたかった。どんな仕打ちも『細かい事は気にするな。』と笑って赦せる、そんな鷹揚で優しい自分で居たかった。嘉慶が、歪ませた。あの男に、歪められた。あの男のせいで、今この瞬間も、この心にはこんなにも憎しみが溢れてくる。憎悪の泉のように。

 『青蓮』は、深く深く、息を吐いた。

 今の主は、旧主が厭った痣を蓮の花に準えた。顔中にランダムに散らばる青い楕円が、蓮の花びらのようだと。そう言って、仏教における至高の花の名を与えてくれた。

 しょうれん。

 この名は、守り名。鎮め名だ。『鶯丸』が憎悪に呑まれない為の。

 この名があるから『青蓮』は、ギリギリ『鶯丸』で居られる。


「僕たちも行こう、主。」


「・・・・・。」


 置き去りにされた無名の肩を、初期刀の歌仙が労わるように優しく叩いた。


「主、お帰りなさい、主・・・!」


「おぅ、今帰ったぜ、清光。

 苦労を掛けたな。四季仁にイジメられなかったかい?」


「それは平気・・・性格の悪さは、相変わらずだったけど。慣れてるし。

 俺より、青蓮は・・・? 嘉慶サン、戦死したって・・・。」


「案ずるには及ばない。俺なら大丈夫だ。」


「・・・・・・。」


 主に甘えるより先に、まず仲間の心中を思い遣る清光に。

 10cm以上下から、物言いたげにジッと見つめてくる紅の瞳に鶯丸は、フッと淡く微笑すると総隊長の手を取って、己が頬に触れさせた。

 憎悪に冷えた体温ではない事を、直で伝えるにはこの方が良い。


「聞いた時は、正直血の気が下がったがな。

 どんな死に様だったかも聞かなかったが・・・ラクに死なせてやるものかと。行ってこの手で、能う限り苦痛に満ちた、最低の死を与えてやりたいと。

 そう、思ったのは、正直に告解しよう。神にではなく、俺を救った主と仲間に。

 でも、行かなかった・・・行けなかった。

 傍を離れている間に、主と優鶴にもしもの事があったら。俺の刀剣としての矜持は、今度こそ粉々に折れてしまう。嘉慶が俺にした事を、今度は俺自身が俺にする事になる。

 辛うじて踏み止まれた。

 踏み止まれた俺の手を、優鶴がしっかり握っていてくれた。

 温かい手だったよ、優鶴の手は。

 あの時・・・行き倒れていた俺を、拾ってくれた主と清光の手も温かかったな。

 温かいな、人の体というものは。」


「青蓮の体も、あったかいよ。

 お帰り、青蓮。」


「あぁ。ただいま、清光。」


 清光は両腕を鶯丸の首に回して、ギュゥッと思いっ切り抱き締める。祈るように。

 鶯丸も、清光の小柄な体を抱き締め返す。縋るように。傷付いた小鳥が、安全な茂みに潜り込んで身を休める。そんな姿だ。


「君たち、随分と羨ましい事をしてるな。

 総隊長、俺にはハグしてくれないのか?」


「ふふふ、優鶴は甘えん坊だね。

 お帰り、優鶴。主を守ってくれてありがと。流石は第1部隊の隊長だ。」


「ただいま、清光。

 そっちも激戦だったようだ。無事で居てくれて実に嬉しい。」


「いいんだ、新品のイヤーカフスは、俺が主に愛されてる証拠だもんね。

 ね、主♪♪」


「心配させた分、たっぷり可愛がってやるよ。」


「わーい、主、男前~~♪♪♪」


 ゴロゴロと懐き、七草の逞しい腕に甘えかかる清光。戦闘中に弾かれでもしたのだろう、イヤーカフスの片方が消え失せていた。

 獅子王と乱に任せた本丸の無事は、確認出来ている。あとは当初の予定通りに会議をこなして、帰るだけだ。甘い土産を沢山買っていこう。


「皆様、お集まり下さい。

 会議を始めます。」


「うっわ、もう始めるのかよ。戦死者出てんだぜ? 何だこの塩対応。

 ウチの政府、ホント引くわー。こういうトコ、マジ引くわー。」


「まぁ戦死者っつっても嘉慶1人だし。怪我人も殆ど居ねぇって話だ。

 むしろおっ死んだ嘉慶が油断したのさ。」


「優鶴、主。俺の事なら気遣い無用だ。

 特に主、死人を悪く言うものじゃない。貴方の為にならないぞ。」


「流石俺の青蓮っ、可愛いなオイ♪」


 控えめに諫言した鶯丸に、破顔大笑した七草は肩を抱いてガシガシと頭を撫でた。

 鶯丸の頬が染まっているが、清光も清光で『俺とどっちが可愛いのっ?!』などと言わない辺りが、生温かい気遣いというヤツだ。

 本来の目的である会議に向け、歩き始めた主従にさりげなく近付いてきたのはあの弓兵だった。戦闘の最中、その戦いぶりに七草が目を留めた『乱戦に躊躇いなくブッ込んで来やがる弓兵』、『フワフワロングのフレアスカートに編み上げブーツの、10代女子』。

 相当緊張しているようで、柔らかそうな頬がバラ色に染まっている。


「あ、あのっ、突然のお声掛け、失礼しますっ。

 さっきの戦い、素敵でした。あと、えと・・・前からその、私淑というか、尊敬申し上げてて・・・っ、後でお暇な時にでも、5分程、お時間頂いても宜しいでしょうかっ?!」


 瞳が印象的な娘だった。

 165cmの清光より少し小柄だろうか。蜂蜜色の髪の奥から、ピンクが勝った青紫、という珍しい色の瞳が真っ直ぐ七草を見つめている。強い憧れを宿してはいるが、ソレに溺れていない、自立した良い眼だ。

 向けられる視線の8割方が『媚態』、『恐怖』、『打算』、『敵意』。そんな視線ばかりの中で、媚びも怖れもしない、真っ直ぐ七草を捉える桃青紫の瞳は彼にとって、久々に心地良い視線だった。

 加えて彼女の後ろに、守るように控える『山姥切国広』。

 自ら薄汚れた白布を引き被り、布の奥から死んだ魚のような目で審神者を睨んでくる。ソレがこの刀剣の顕現当初の姿で、その姿に自信喪失する新人審神者も多いと聞くが。

 彼女の『山姥切国広』の青緑の瞳は、凪いだ海のように穏やかだった。

 被っている布はよく見れば白一色ではなく、恐らく草木染めだろう、薄く優しい色合いのスカイブルー。模様のような色ムラのある淡青色だった。

 大量生産の既製品に出せる色ではないし、手染めなのはほぼ確実。172cmの成人男性が隠れる程に大きな布を、丁寧に手染めしている訳だ、この審神者は。多分毎回、布が新しくなる度に。

 七草が清光に、失う度にイヤーカフスを贈り続ける行為に、近いモノを感じる。

 本心から慈しみ、大切に想っているのだ。


「構わねぇが・・・名前は?」


「っっ、名乗りもせず、失礼しましたっ。

 わ、私、梓弓本丸の凛と申しますっ、初期刀は山姥切国広で、私は璧(へき)って呼んでます。私が知ってる中で、一番綺麗な漢字を贈りました。

 宜しくお願いしますっ。」


「梓弓本丸の凛。覚えとくよ。

 明日の昼休憩の時なら、多分時間がある。刀剣付きでいいから来るといい。部屋は、政府が用意したホテルから動いてねぇからよ。支給のパンフに載ってる通りだ。」


「明日のお昼休憩の時ですね、かしこまりました。

 お昼召し上がった後くらい目指して、12時半頃にお伺い致しますっ。」


「承知した。こちらもそのつもりで居よう。」


「ありがとうございます、七草公っ。」


 桃青紫の瞳をキラキラさせた、年若い審神者。清光たちにも会釈を残すと、ショートの髪をフワフワと揺らして走り去っていく。

 初期刀と共に戻った刀剣たちの許で、山伏国広の腕に抱きついて甘えていた。

 ハイテンションで頬を染め、しかし話しているのは『憧れの人に口をきいてもらえた♪』という健康的な話題だろう。山伏国広のカオを見れば判る。

 『片想いの』男のカオだ

 連れている刀剣には他に、堀川国広、和泉守兼定、それに陸奥守吉行が居た。見る限り、仲は良さそうだ。


「『七草公♪』だって。

 一生懸命で可愛いね。勘違い拗らせた変な崇拝者とは違う、まともそうな子だ。」


「あの子、君の目に留まった弓使いだろう? 切国との連携が中々見事だった。」


「愛らしい御方だな。

 霊力量自体は標準的な部類だろう。この手の優秀な審神者が集まる中では、むしろ下の方だ。だがその霊力量の制御が、半端でなく上手に感じる。一種の才能だな。

 礼儀も心得てるし、刀剣を大事にしてる。初期刀に名を与えている審神者は、そうは居ないだろう。

 復唱の癖がついている所といい、書類仕事のような実務能力も高そうだ。

 主、中々有能そうな子に懐いてもらえたじゃないか。」


「璧・・へき、か・・・。」


 清光、鶴丸、鶯丸。

 三者三様の評を傾聴していた七草は、清光の呟きに耳を留めてニヤリと笑った。

 激戦の後も切れ目ひとつ入っていない、綺麗な黒髪に指を絡める。


「どうした、清光。お前も個人名が欲しくなったかい?」


「別にぃ? 主の『清光』は、俺1人って決まってるもん。

 あんな御大層な名前は要らないよ。」


 璧。

 古代中国で神権の象徴として扱われていた、最も高貴な玉器である。天を表し、日月に献じる祭祀器として重要視された。ネフライトや翡翠を磨いて、中心に孔を開けた円盤の形に作る。その昔、北京オリンピックのメダルデザインにも使われた。

 美しい玉の、大事な祭器。

 かの刀剣は明快な褒め言葉が苦手だった。清光とは正反対に。

 『璧』の主は、名を呼ぶ度に、呼ぶだけで大切に愛でているようなものだ。

 年こそ若いが聡明で、刀剣男士をよく理解していると見える。


「ご褒美くれるっていうなら、久し振りに絵を描いてよ、主。

 主の藍色の絵、好きなんだ。俺たち3人、それに獅子王や乱や、一輪の絵も。

 皆の絵を描いて、俺たちに頂戴?♪」


「よぉし、その話乗ったぜ、清光。

 帰ったら1人一枚、肖像画でも風景画でも、好きなモン描いてやろう。藍色の水彩絵の具、沢山買って帰ろうな。」


「っ、うん♪」


 藍の濃淡一色で描く、七草の世界。本丸の皆、全員が居る世界だ。

 蕩けるように、紅の瞳が笑う。

 この瞳が七草の隣に在る限り、『彼らの本丸』は安泰だった。



                    ―FIN―

【君の木陰で身を休め】 主清+鶴丸+鶯丸、別本丸主従

【君の木陰で身を休め】 主清+鶴丸+鶯丸、別本丸主従

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-06

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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