【君の知らない愛の唄】 乱藤四郎+細川組+伊達組

【誇りの在処】の後日談的な何か。

細川組どうなった。→こうなった。
乱ちゃんは、本人の知らない所でも愛されているのですよ、というお話。
こういう守り方もある、という。

鯉料理 イズ ステイタス。

さまざまな歴史系資料で、何故に殊更『鯉』料理が云々されるのか。
今回調べて、初めてちゃんと知りました。
さすが細川・・・!!

あと、乱ちゃんの付き添いが鶴丸さんなのは、
三日月おじいちゃんや小狐丸さんだと甘やかしちゃうし甘えちゃうからです。

別に鶴丸兄さんが冷たいとかではなく、
『あくまで味方として』且つ客観的な助言をくれる、頼りになる五条お兄さんだからですのであしからず。

【君の知らない愛の唄】 乱藤四郎+細川組+伊達組


 鯉料理。

 天皇や将軍に対する、正式な饗応料理。武家にとっての至高の祝い膳。

 平成の世で言う、フランス料理のフルコース。

 一方で蓄養の容易さから、庶民の貴重なタンパク源ともなった。特に内陸部に行く程お節料理に加えられたり、女性や妊産婦の滋養に重宝されたり、大事にされた食材である。

 文化人がこぞって『鯉の』料理を嗜んだのには、そういった背景があるのだ。


「・・・どう? 歌仙さん。」


「ん、美味しいよ、燭台切。これぞ細川の味だ。」


「―――っ!! やった―――っ!♪♪♪

 歌仙さんも小夜君も、鯉料理になると目の色変わるんだもんっ!! 僕、鯉禁止になるかと思った・・・!!」


「鯉禁止って・・・僕らにそんな禁令を出す権利はないだろう。

 それに元々、料理の味は良かったんだよ。伊達風の味付けから細川風になるのに、少し手こずっていただけだ。別に伊達風を貶めるつもりなんてないけれど、やはり家風が違えば食の在り様も変わる。忠興さまと政宗公の、舌の好みが違う、その程度の事さ。

 君の料理はいつでも上等だよ、燭台切。」


「ありがとう、歌仙さん・・・!!」


 ヒシッと抱き合う、イイ年した料理好き2人。

 味見如きで何を大袈裟な、というツッコミは入らなかった。鯉料理に関しては小夜も拘る。鯉料理とは、そういうモノなのだ。蒼い髪の短刀は、黙々と煮付けの切れ端を口に運んでいる。その眼は真剣そのものだ。

 今日の夕餉は鯉のフルコースだった。他ならぬ、鯉の。


「乱ちゃんも喜んでくれるといいな・・・♪」


「・・・・・うん。感想が、直接訊けないのが残念だね。」


「・・・・・。」


 小夜の箸が、ピタリと止まる。

 先日『勝元公』の一件で、三条や粟田口、五条の鶴丸まで。地味に大勢を巻き込んでギクシャクしてしまった乱への、厨の番人たちからのせめてもの詫びなのだ。

 勝元公も料理を嗜み、鯉料理が得意だったという。

 ただ3人共、乱を『吾子』と呼び親しみ、『隠れ溺愛』している事が判明した三日月宗近から禁令を出されているのだ。此度の一件、何事もなかった事にせよと。

 『勝元公も鯉料理上手だったんだよね? 細川組監修で細川の鯉料理を再現してみたんだけど、口に合うかな? 勝元公の頃はどんな味だったの?』。

 などと、訊ける訳がない。

 最初の一言を発した時点で、三日月宗近にへし折られる。


「思い詰めるな、燭台切。

 ココは本丸、刀の付喪神が数多住まいする神域だ。言わば毎食神饌、毎食祝い膳。良い鯉が手に入ったのなら、鯉料理が出たって不思議ではないだろう?

 それが偶然、今夜は細川風だった、というだけさ。

 流石にそこまで三日月殿に咎められても困る。」


「っ、うん、そうだね歌仙さんっ。

 次は伊達風の鯉料理にしてみよう。細川風とはまた違うモノが色々あるから、感想を聞かせてくれると嬉しいな。他の皆の希望も聞いて、順番に作っていこうね。

 足利から豊臣、徳川、織田に黒田。天皇家の食卓は、どんな料理が並んだんだろうね。

 楽しみだな♪」


「美味しいお料理は、誰でも嬉しいものだよ、燭台切。」


 小夜の温かい手が光忠の、魚を何匹も捌いて、未だ少し冷たい手に触れる。

 乱の喜ぶ顔が見たくて頑張った手だ。


「よぅ、旨そうだな、お三方。」


「お鶴さん♪

 この間はありがとう、お鶴さん。折角来たんだし、味見してってよ。」


「鶴丸国永。今夜だけは摘まみ食いを許可しよう。」


「ありがたい申し出、涙が出るぜ。だが今夜だからこそ、その権利は俺より乱に相応しい。

 お客人だぜ、お三方。」


 おずおずと。

 常らしくもなく、鶴丸の背後からそっと顔を覗かせたのは乱藤四郎。彼の腰に引っ付き、細身をスライドさせるようにして引っ付き続け、上目がちに3人を見つめている。

 空色の瞳に在るのは『気遣い』と『申し訳なさ』だ。


「乱ちゃん?」


「どうしたんだい、乱。」


「・・・えっと、その・・・、」


 乱が三条部屋に逃げ込んだ夜以来、乱と3人が『ちゃんと』話すのは今が初だった。

 苦言も説教も呈さず、穏やかに笑んだ歌仙が土間に膝を突き、乱と目線を合わせる。

 その歌仙の首許に、乱は思い切ってギュッと抱き付いた。


「乱?」


「えっとね、ボク、言えない事が沢山あるの。歌仙さんにも、小夜にも、燭台切さんにも。怖くて、ボクが弱虫だから話せない事、沢山あるんだ。

 いつかは言えるようになるから。話せるように、頑張るから。

 だからそれまで、もう少しだけ・・・しばらく、待っててくれる?」


「あぁ・・・待つとも。いつまででも、待っているから。

 焦らなくていい。

 君の傍で、君を守りながら、ゆっくりと。のんびり、のんびり。待っているから。」


「良かった♪

 ありがとう、歌仙さん。」


 柔らかく抱き締め返した歌仙の、その首許にもう一度顔を埋めると、乱はスッと離れていく。真っ直ぐに歌仙と目を合わせると、恥ずかしそうにフフフッと笑う。歌仙も笑い返す。それで2人の仲は元通りだ。

 そのはにかんだ笑みのまま、乱は今度は、燭台切の隻眼を見上げた。


「ボク、燭台切さん好きだよ?

 燭台切さんも、燭台切さんの作るモノも、大好きだよ?」


「おぉっと?! 直球だね乱ちゃんっ。」


「鶴丸さんにね、教えてもらったの。『ごめんなさい』より『ありがとう』の方が、喜んでもらえるんだって。

 鯉料理、ありがとう。ボク好きなの。昔よく・・・作ってくれた人が居るんだ。」


「お鶴さんグッジョブッ!! しばらく鯉料理、色んなトコの家風の作るから。沢山食べてね乱ちゃん♪

 あ、お腹空いてない? どれでも好きなの摘まみ食いしてっていいんだよ乱ちゃん♪」


「ううん、今はやめとく。皆で一緒に食べるのが好きなんだ。

 それじゃ、小夜も。また後でね♪」


「ん、後で・・・。」


 無口な短刀に向けて、ヒラヒラと手を振る頃には既にいつもの『乱藤四郎』だ。

 彼の姿が消えた途端、厨中を大量の桜吹雪が席巻した。


「――――――っ、乱ちゃん天使ッ!!

 料理褒めてもらえた、褒めてもらえたよ歌仙さんっ!!!」


「小夜殿も可愛いが、乱も可愛い・・・ウチの短刀はみな可愛い・・・!!

 闇堕ちなんて全然気にしないのに・・・!!」


「ねっ、そうだよね、歌仙さ・・え? 闇堕ち?」


「? あぁ、そういえば話してなかったか。

 僕と小夜殿も途中から気付いたんだが、乱が勝元公の件で口を閉ざす理由。多分、闇堕ちの契機になったからではと思うんだ。推測の域を出ないし、口外はしないで欲しい。

 僕らは全然気にしないが、本人は気にしているのだろうからね。」


「うん僕も気にしないタイプ。

 それで、その推測の根拠は?」


「細川家は筆マメな家でね。外向け内向け、色々と文書が残ってるんだ。

 『乱藤四郎』という短刀についても然り。

 勝元公は病死が通説だが、家伝では暗殺と伝えられている。ご遺体の発見時、公は守るように短刀を懐に抱え込んでいたという。刀身は抜かれる事無く鞘に収められ、しかし家人が抜いてみると、返り血も浴びていないのに漆黒に染まり上がり、乱れ刃だけがギラギラと輝いていたと。揺れる水面のようにね。

 元々勝元公は『乱藤四郎』に異常な執心を見せていたから、主君を亡くした刀が荒ぶっているのだろうと、皆が恐れた。

 神社に奉納をという話になり、だが、手順を踏んでいるうちに、立て続けに20人近くが死んだ。暗殺に関係してると思しき者たちだ。

 すわ祟り刀よ、荒魂よと奉納を急いでいるうち、時の足利将軍がゆくたてを漏れ聞いて、献上せよと下命した。祟り刀に非ず、忠義の刀と。

 そうして『乱藤四郎』は、細川家から足利将軍家に渡りました・・・と、そこまでが家伝だ。」


「ただ祟り刀だったというだけなら、僕ら付喪にはよくある話・・・。

 乱が口を閉ざす程じゃない。祟り刀通り越して堕ちてしまったから。だから乱は、知られたくないんだと思う。僕にも、歌仙や燭台切にも。

 勝元公の話を始めれば、いずれ避けては通れなくなるからね。」


「僕は気にしないのに・・・。」


「僕も小夜殿も気にしない。だから家伝を知っていても知識に過ぎず、何も考えずに勝元公の話を振ったんだ。迂闊に。

 だが燭台切、よく考えて御覧。

 僕らが気にしないからって、乱が気にしないとは限らないだろう?

 一度完全に堕ちてから、どうやって戻って来たのかは判らない。僕らにとっては乱を喪わずに済んで、喜ばしい事だが。

 ただ、戻ってめでたしと単純な話でもなかったのだろう。心無い者の言霊も受けたのだろうし、主君の死自体もトラウマになっていた筈だ。乱自身、『2度目』を怖れているのかも知れない。

 正直『1度堕ちた者は堕ち易い』というのは俗説に過ぎないと、僕などは思うけれどね。堕ちたから堕ち易いのではない。周囲が追い詰めるから、支え方が下手だから、堕ちてしまった方が楽なだけさ。」


「詳しいね、歌仙さん・・・。」


「忠興さまの代にも、細川家には色々な付喪が居たからね。

 気性苛烈なるは細川家の血筋なのだろうと思うが、集まる付喪も、その血に影響されたのだろう。変わり者というか・・・まぁ、『ヘンなの』ばかりだった。」


「・・・・・・。」


「言っておくけど燭台切。僕と小夜殿は常識人だよ。」


「何も言ってないよ、僕は。」


「とにかく、だ。

 僕らが気にしないからといって、本人にも気にするなと強要するのは、僕らの傲慢でしかない。乱は『待っていろ。』と言ってくれたんだ。のんびり待てばいいのさ。

 念の為もう一度言うが、口外は厳禁だよ?

 僕らが気にしないからといって、他の者も気にしないともまた、限らない。ウチの本丸の他の連中は勿論、他の本丸の連中もね。乱を追い詰めたくない。

 だから、この件はこれにて忘れよう。三日月宗近の言う通りに。それが僕たちなりにこの件で出来る、乱の守り方だ。」


「オーケー、歌仙さん。」


「・・・少し、嬉しいんだ。」


「小夜君?」


「復讐にしか意味を持てなかった僕だけど・・・。

 今、乱を守りたいって、そう思えてる。黙っているだけではあるけど、仲間を守る一端を担えてる。それが・・・とても嬉しい。

 こんな事で胸が温かくなる僕は、おかしいのかな・・・?」


「おかしくなんてないよ、全然おかしくないよ!!

 小夜君天使・・・大天使小夜君・・・!!」


「燭台切は大袈裟だよ。」


「歴史を守るのが役目の僕らも、生きている以上、日々変わっていく。

 どうせなら、雅に格好よく変わりたいよね?」


「美味しい物と一緒にね♪」


 いそいそと料理を盛り付けていく光忠はご機嫌だ。

 折角舞った誉れ桜、鯉の化粧にでも使おうか。




             ―FIN―

【君の知らない愛の唄】 乱藤四郎+細川組+伊達組

【君の知らない愛の唄】 乱藤四郎+細川組+伊達組

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-06

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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