【誇りの在処】肆

カウンセラー石切丸。

もう何が何やら。細川組どうなった。

【誇りの在処】肆


 小狐丸が顕現した日、地震があった。

 本丸に天候の揺らぎはあっても、自然災害は無い。審神者の霊力で構成されているが故に。だからその地震もプレートの撓み云々ではなく、主の霊力の揺らぎ。屈指の力を持つ刀剣を顕現させたが故に、一時的に揺らいだが為の地震。

 小難しい理屈はともかく、あの日、地震があった。


『大事ないか、欠月の兄上。』


『ははは、驚いたなぁ。コレが地震というモノか。』


 その地震から、小狐丸は『三日月を』守ってくれた。

 乱にとって誰よりも大切な、やっと会えた、大事な人を。

 解っている。小狐丸が三日月宗近を咄嗟に庇ったのは、同じ刀派の兄弟刀だからだ。別に乱の恩人だからではない。それはよく、解っていた。

 それでも、嬉しかった。


『兄上、その腕の中におるちみっこいのは短刀か?』


『応とも、よくぞ訊いてくれた弟よっ!! 愛いだろう? 可愛かろう?

 刀派は粟田口、号は乱藤四郎という。乱れ刃が美しい事からの命名でな、』


『私の名は小狐丸。稲荷明神の加護を持つ三条の太刀だ。兄共々、宜しく頼む。

 乱藤四郎。』


『よろしく、おねがいします・・・っ。』


 三日月の乱自慢を大半聞き流しながら、小狐丸が笑い、その大きな手が乱の頭を撫でる。

 その頃には既に、少年は自分の恋を自覚していた。


「つまり、乱にとって三日月は恩人である以上に『お父さん』だった訳だ。

 大事な『お父さん』を守ってくれて、且つ『お父さん』と似た霊気を持っている小狐丸に惹かれた、と。」


「そうそう、人間で言う所の、『父親に似た人を好きになる』っていう、アレ。

 判ってるんだけどね、ただのファザコンだって。可愛い言い方しても依存だよ。自立したつもりになってる今でも、心の何処かで今でも三日月おじいちゃんの事を絶対視してるの。勝元様の事も・・・。

 『助けてくれるに違いない。』って。暴力的なまでの、強い甘え。

 今だって、こんな、一目散に逃げ込んで・・・。

 情けないったら。」


 卓の上に突っ伏して、苦悶の表情を隠す乱。

 その髪を、石切丸は穏やかに笑んで優しく撫でた。軽い口調に見せてはいるが、真面目な話、実はかなり不安定だ。霊気ではなく、精神が。

 この子には『安全基地』が必要なのだ。

 何があっても絶対に突き放さない、優しく抱擁してくれる、絶対的な存在が。

 昨夜、真っ直ぐに三日月の部屋に来たのがその証拠。


「そう卑下するものではないよ、乱。

 君にはそうして、自分の弱さと正面から向き合う毅さがある。ソレはただ武力が高いだけより、余程尊い毅さだ。

 三日月の事は、守らせてあげればいいのさ。あの子はあの子で、自らの在り様に七転八倒したクチだからねぇ。」


「そうなの?!」


「そうだよ?

 武具として使われる事の無い、不殺の刀。天下五剣で最も美しい守り刀。そう言えば美名ではあるが、ではその名で何を為したかと事跡を振り返った時、残っている物は何もない。何を守れた、何を救えた。何も無いなら、己自身の存在意義は。

 まぁ色々と、グルグル考えたみたいだ。

 他の刀剣はあの子の事を、見目も中身も美しい刃徳者のように言うけれどね。

 その言い方をどうしても使うというなら、『努力の刃徳者』だろう。相手の美点を見付ける努力、欠点を受け入れる努力。自分の身勝手を受け入れる努力も。

 乱。

 三日月は有徳の刀だが、理想に酔っている訳ではないよ。

 だから、大丈夫。『こうでなければ』という理想像がある訳ではないから。この先どんな不測が起こっても、君がどんな選択をしても。

 君の手を離したりしない。共倒れになる事もね。

 それが判っているから、三条は皆、君たち2人を安心して見ていられるんだよ。」


「・・・石切丸さん。

 でもボク、怖いよ。いつかまた『闇堕ち』してしまったら・・・。

 多分、ボクは感情が強過ぎるんだ。付喪神なのに・・・最初の数十年、人として育てられてしまったのもあると思う。

 また誰かに、何かに執着して、喪った時、狂わずに居られるのか・・・。

 例えば小狐丸とか、それこそ三日月おじいちゃんとか。

 守ってくれた人たち全員の信頼を裏切って、堕ちてしまったら。

 『あの時』のいち兄の言葉が、本当になってしまったら。」


 スッと、石切丸の紫の瞳が細まる。


「今のボクは、ソレが一番怖いんだ。

 そうなるくらいなら、いっそ今の内に、」


「乱。」


 窘める石切丸の声は、あくまで優しい。

 優しいが、乱の心の奥底まで届く、強さを持っていた。


「・・・・・・。」


「他人の言葉に左右されて、自分の命を左右するのはお止し。それが例え、同じ刀派の長物からのモノでもね。」


「うん・・・ごめんなさい。」


「三条は神刀の集まりだ。

 不殺の守り刀・三日月に、神社に奉納されていた私、神刀の守り刀だった小狐丸。弁慶の得物だった岩融は寺院で僧兵が使っていた薙刀だし、義経公の守り刀だった今剣だって、寺に奉納してあった大太刀を擦り上げて、短刀にした。」


「ボク、その話好きだな。

 常盤御前のたっての願いだったんでしょ? 手放す息子に、特別な加護をって。お母さんが特別大事に想ってた息子に贈る、特別な贈り物に、今剣は選ばれたんだ。

 常盤御前の意思が、いつも義経公の誇りを守りますようにって。」


「そうだよ、乱。

 私たち三条は、『守護』の念が強い。

 君の事も私たちが守ろう。迷ったなら導いてあげる。瘴気を纏ったなら、祓ってあげる。刃を向けられたなら、叩き折ってあげる。

 そうして手を尽くした上で、それでも尚、荒魂と化すと言うのなら。

 この石切丸が、責任持って君を折ってあげる、乱。誰かを害する前にね。君に惚れている小狐丸にも、君を長年守ってきた三日月にもやらせない。

 だから安心しなさい、乱。」


「うん、」


「その後、私自身が悲嘆で闇堕ちしようが、闇堕ちした三日月や小狐丸に私がへし折られようが、ソコは全く気にしなくてイイから。

 ホント、気にしなくてイイから。」


「気にするよっ?! ダメだよ石切丸さんっ!!」


「そうそう、私の事は今後『石の兄上』と呼びなさい。君はもう三条の身内なんだからね。

 1回、呼ばれてみたかったんだよね~、君みたいな小さい子に、兄上って。

 今剣は年上だし、三日月や小狐丸みたいなイイ年した弟に『兄上』って呼ばれても、ね? あんまり嬉しくはないっていうか。

 試しに呼んでごらん、乱。『石の兄上』って。」


「・・・い、石の、兄上・・・。」


「っ!!!♪♪♪ もっかいっ!! もう一回、今度は通しでっ!!」


「石の兄上っ。」


「弟よ、ようこそ三条へ!!♪♪」


「何を浮かれておるか、『石の兄上』!!!

 夫のおらぬ間に、妻を好き勝手致すでないわ!!!」


「おや小狐丸、遠征お帰り。『末弟の為の』資材集めご苦労。

 もう一回行っておいで。」


「誰が行くかっ。」


「お帰りなさい、小狐丸・・・♪」


「応、今帰った、乱。

 遠征が入っていたとはいえ、傍に居てやれずに済まぬ事をした。留守中、大事なかったか。粟田口の誰ぞにイジメられはせなんだか?」


「いち兄・・・一期一振、さんたちは、平気・・・。

 歌仙さんたちのお願いで、鶴丸さんが来てくれたよ。でもボクは会ってないの。三日月おじいちゃんが『委細、任せておけ。』って。

 大丈夫かな・・・喧嘩してないといいけど・・・。」


「加持祈祷すらも必要ない天使発言・・・!!」


「案じるには及ばぬぞ、乱。

 五条の鶴は、昔から三条には頭が上がらぬのよ。」


「一期一振『さん』て・・・さんって・・・!!」


 謝る隙を伺っていて、乱の『一期一振さん』呼びをしっかり聞いてしまった粟田口の長兄は戦慄した。

 認識の甘さを思い知る。


「しょっくをうけるようなことなのですか、一期一振。

 さきに乱をつきはなしたのは、あなたでしょうに。」


「今剣殿っ。」


「乱はすでに、あしかがのむかしから三条のいちいんです。

 いままで『末弟』がせわになりましたね、一期一振。このれいは、いずれまたいたしましょう。今後一切、あのこへの構い立てはむようにねがいます。」


「ガッハッハ♪ 三条の長兄は手厳しいのぅ、粟田口の長兄よ♪

 何にせよ、乱は三条の『姫』ぞ。不自由などさせんから、安心して・・・忘れろ。」


「あなたのいいようもたいがいですよ、岩融。」


「――――っ!!!」


 この後メチャクチャ謝り倒して、粟田口に帰って来てもらいました。




                 ―FIN―

【誇りの在処】肆

【誇りの在処】肆

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-06

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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