【彼方の貴方】 三日月宗近+骨喰藤四郎、鶯丸+燭台切光忠

ハローハロー、漆黒猫でございます。

アテンション→漆黒猫は刀剣乱舞、未プレイ民。

前作までとは、全く別の本丸、全く別の審神者さん。
と言っても、審神者は出ませんが。

三日月さまと骨喰君の回想ネタ。
記憶についてのエトセトラ。

未プレイ民の救世主、ようつべの偉大さよ・・・。

寄進だの寄贈だのの、具体的な年数については一応、ちゃんと外部資料を当たりましたが、間違っておりましたら申し訳ない。
スライディング土下寝。

真贋疑惑だの盗難だの海中投棄だの、仄めかす程度にチラリと触れております。
一応、ご注意を。
兼さんにとっては目の前の国広が全てだと思います、うん。

こっからみかほねにはってんしかねないよちをのこしつつ、
全力でド健全。

でもジジイ、ロイヤル長兄とも夫婦刀扱いされてたし。
昼ドラ・・・? 昼ドラなのか・・・?
いちみかにおける『お前様』呼びも捨て難い・・・。

三日月さまの『貴方』は『現在の骨喰(に振り向いてもらいたい)』、骨喰のは『過去の自分』、
鶯丸のは『大包平』(実装してやれ運営・・・。)、光忠さんのは『太鼓鐘貞宗』(早く実装予定orz)なイメージで。

【彼方の貴方】 三日月宗近+骨喰藤四郎、鶯丸+燭台切光忠

 鶯丸の部屋は、ちょっとした茶館だ。

 緑茶が好きな男だった。友に会えずに、寂しさを抱えた男だった。仲間たちが気に掛けて寄れば、嬉しそうに茶を振る舞った。

 大包平の話を親身に聞かない者も居たが、それでも苦笑しながら、いつも旨い茶を供してくれた。

 光忠が顕現してからは、茶に菓子が付くようになった。

 主に頼んで、空いている部屋をもらって卓をひとつ運び込むと、瞬く間に仲間たちの談話室と化した。

 鶯丸自身の部屋は太刀組の一員としてその中にあって、だから厳密には『鶯丸の部屋』ではないのだけれど、彼が維持管理を引き受け、大抵は彼の手で茶を出してくれるものだから、皆の間では当然のように『鶯丸の部屋』で通じた。

 穏やかな空気の、居心地の良い部屋だった。


「三日月・・・俺はお前に、・・・寂しい思いを、させてはいないだろうか。」


「あなや、あなや。これは驚いた。そのような事、思うた事も無いものを。

 骨喰よ、急にどうした?」


 その穏やかな空気は、心の裡に張り詰めた糸を持った者の気を鎮め、口を軽くする。

 三日月宗近と、骨喰藤四郎。

 同じ本丸に顕現してからこちら、2人はよく、この『茶館』の縁側で茶を喫した。

 南向きの、日当たりの良い部屋だった。冬の景趣にしても寒風が和らぐよう、庭木は常緑の、枝葉の多い木を選んで配されていた。そういう細やかな気遣いを、刀剣男士たちに向けてくれる審神者だった。

 遠くで短刀たちの戯れ声が聞こえる。

 月を宿した群青の瞳が、優しく骨喰の瞳を覗き込む。

 綺麗な瞳だ。ほんのり紫みが入った、銀灰色の、透明感のある瞳色。


「堀川国広が言うんだ。

 たとえ玉鋼の一片まで本当に贋作だったとしても、和泉守の相棒だった事実は変わらないって。和泉守も、一緒に戦った記憶を持つ『この』堀川国広が真作だって。長曽祢は『いっそ本当に贋作だったら贋作仲間になれるのにな♪』って笑ってた。

 そして蜂須賀がキレてた。贋作なんて単語を自分の耳に入れるなと。」


「あやつら、何をじゃれているのやら。」


「ソレを聞いて、思ったんだ。

 じゃぁ俺は? 俺には記憶が無い。あったとしてもごく僅かで、残りカス程度の代物だ。兄弟たちの事すら朧げで、時に自分が『粟田口』である事すら危うくなる。

 見た筈の光景、出会った筈の人、交わした筈の会話、何も覚えていない。

 正直、拘る必要はないと思っていたんだ、俺は。拘る価値のある記憶かどうかすらも、今の俺には判じようがない。

 鯰尾たちは、こんな俺でも兄弟として扱ってくれたし・・・。

 でも・・・。

 ソレで、傷付くヤツが居るのなら。俺が『記憶』に構い立てしない事で、寂しさや悲しさを、三日月が感じるのなら。

 俺は、記憶を取り戻したい。」


「骨喰・・・。」


「再会した時、三日月は『改めて仲良くしよう。』と言ってくれた。

 三日月との記憶を惜しみもせず、あっさり『覚えていない。』で終わらせた俺に、お前は笑顔を向けてくれた。責めもせず。

 俺は・・・そんな三日月だからこそ、三日月が寂しいまま我慢しているのなら・・・ソレは、嫌だ。

 三日月宗近。

 お前なら、失った記憶を取り戻す呪法か何か、知っているのじゃないか? 知っているのなら、教えて欲しい。あるいは俺に掛けて欲しい。」


「骨喰よ、ほんにそなたは良い子よな。本当に・・・愛おしい。」


「三日月?」


 新選組との会話に、余程心が動いたのだろう。常は物静かな少年は、今日に限って懸命に言い募る。

 ふんわりと、煙るように微笑んだ宗近の笑顔は美しい。

 それはその微笑が、心底から他者を想って纏ったものだからだ。

 『こういう所』が彼の、天下五剣としての本領、真に持っている美なのだろうと、骨喰は優しく頭を撫でてくれる宗近の掌に思う。

 『天下五剣の中で最も美しい』と謳われる刀は、記憶と向き合う骨喰に、口調優しく語りかける。


「実はの、骨喰よ。

 俺の事、その他の事、そなたが覚えておらぬ事は、双方互いがこの本丸に顕現する前から薄々、知っておったのだ。

 俺たちが最後に共有した主は、徳川2代将軍・秀忠公だった。

 俺は高台院遺愛の品として形見分けされ、そなたは家康公から息子への進物として贈られ。そうして楽しく過ごして、数十年。

 あの忌まわしい大火が起こった。

 そなたが明暦の大火で記憶を喪ったのが、1657年だったろう。1868年に明治天皇が再興した豊国神社に寄進されるまで、211年間。

 多少形は違えど、互いに徳川所有の宝剣であり続けた。

 ただそなたはずっと、夢の中でな。たまさか瞳を開いても、ぼんやり庭を見るばかりで、言葉を発する姿は最後まで、見る事は叶わなんだ。

 だから、まぁ、それまで持っていた記憶自体も、恐らくは抜け落ちているか、酷く曖昧になっているのだろうと。そう当て推量はしていたのだ。

 俺が徳川家を出たのが、1933年。今の住まい、東京国立博物館に寄贈されたのが、1992年。

 今は京都の神社と、東京の博物館。思えば遠く離れてしまったものよ。

 現世では恐らく、共に並び置かれる事は二度と無いであろう。

 そなたが豊国神社に寄進される時、もう二度と会う事も、遠き地にて思いを馳せてもらう事すらないのだと、そう覚悟した。

 それを思えば、戦時とはいえ、こうして生身を得て茶を喫する事が出来る。この戦に参じた事も悪くないと思える。」


「再会した時のお前は、俺に記憶があると思っているようだった。」


「期待はするさ。

 覚えていてくれて、嬉しくない筈は無いだろう? 互いに付喪神となった身、よもや奇跡のひとつも起きて、足利時代の事、豊臣時代の事、徳川時代の事、何ぞひとつでも覚えていてくれはしまいかと。少しだけ、期待をしてみただけだ。」


「だが、俺は覚えていなかった。

 お前の期待を裏切った。

 やはり俺には、お前の隣に居る資格は無い。」


「おいおい、待っておくれ、骨喰や。

 期待はした。落胆も、少しはした。一抹の寂しさも、そりゃぁ感じたな。

 だが、それだけだ。本当にそれだけだぞ?

 よく考えて御覧、骨喰よ。」


「??」


「この世に1000年、永らえる器物が、どれだけあると思う?

 俺たちは戦支度の一部。人を斬れば刃毀れし、手入れをしてもらえなければそれまでよ。じき簡単に朽ち折れてしまう。天災を逃れる術はなく、持ち主を選べる訳でもない。時代によって刀狩りにも遭う。大戦中は鉄不足でな、随分と同胞たちが溶かされ、戦艦だの何だのに鋳直されたものよ。

 盗難に遭って行方も知れぬ者もあれば、潮満つ海に、沈められた者もある。

 ソレらを踏まえた上で、隣を見た時。

 そなたが居る。

 焼身とはいえ、本霊は現世で大切に保管され、記憶が無いとはいえ、俺の名を呼び、俺の姿を見て、俺に心を揺らしてくれる。

 これ以上の幸運があると思うか?」


「・・・それは、身の喪失に比べたら、記憶の喪失などどれ程の物か、という事か?

 その『隣に居る』俺は、お前との楽しかった・・・『であろう』記憶を、ひとつも持っていないんだぞ?」


「忘れて良い。」


「・・・・。」


「忘れて、良いのだ。

 俺とて互いの発した言葉、起こした行動、全てをひとつ漏らさず覚えている訳でもない。そういう意味では、俺も記憶喪失のようなものだろう。

 『忘却』と『無意味』は、意味合いを異にする言葉だぞ?

 表層は、忘れてくれていて良い。そなたの無意識に俺への親愛が残ってくれていた事は、誰より俺が一番知っているのだからな。」


「・・・俺、に・・・自覚は無いのだとしても?」


 コレは口にして良いものか、というカオで結局口にする骨喰に、宗近は楽しそうに笑って少年の銀髪を撫でた。

 彼の額と、自分の額をコツンと合わせる。


「無くても良い。

 そなた、己がどれ程に人見知りなのか、存知ないであろう? 初見の相手には、一期一振や鯰尾藤四郎の後ろに一歩引いてな、今の主も、まずそなたの顔をちゃんと見るまでが大変だったものよ。

 それを考えれば、な。

 忘れているというから、てっきり俺は主以上に相手にされんかと思うておったら。

 誰と内番を共にしたいか、2人挙げよと希望を訊かれて、そなた、鯰尾と俺の名を挙げたそうじゃないか。主が喜び勇んで俺に報告してきてな、選んだ名前が長兄のソレではないと知った時の、一期一振の引き攣った笑顔は見ものであった。

 その時、思ったのだ。

 あぁ、骨喰の奴、覚えているなと。表層なんぞ気にするには及ばない、阿頼耶識の内に『識って』いてくれれば、俺は満足なのだ、と。

 故に、骨喰藤四郎よ。

 今の俺の傍らに、今のそなたが居ておくれ。『隣り合う価値が無い。』などと、寂しい事を言わないでおくれ。俺自身が、そなたの傍に居たいのだ。」


「・・・思い出話に、何も付き合えない。」


「構わんよ。

 人の身を得て畑を耕したり、己自身で己を揮ったり。過去に一度も無かった事だ。思い出に浸る暇もないわ。どうしてもしたい時には、一期一振に蜻蛉切、物吉、三条の兄弟も居る事だしな。」


「・・・・・・一番怖いのは・・・過去の俺と、真逆の事を言ってしまう事だ。してしまう事だ。俺は・・・三日月。お前に失望されたくない。

 俺は、やはり悪い奴だ。お前がこんなに俺を想ってくれているのに・・・。

 それを伝えてもらってもまだ、自分を守る事に執心している。」


「構わんよ。

 狭量だの狡猾だのとは思わぬ。むしろそうして見栄を張ってしまう辺りに、俺はそなたの愛を感じるがな。

 同じ徳川時代の知己である筈の、蜻蛉切や物吉への淡白ぶりときたら。

 不愛想、冷淡、塩対応を通り越して、いっそ優しく見えるが、結局はどう思われてもどう傷つけても気にならん、という事なのだろう。」


「そう・・なのだろうか。あまり・・深く考えた事はないが。

 別に嫌いでもないが、好きでもない。好きでもないが、嫌いでもない。」


「そら、ソレよ♪

 『今の』そなたは、俺からの失望に怯え、俺を傷つける事を厭い、思い遣り、無意識の内に心を開いて、共に畑仕事や馬の世話をしたいと望み、こうして隣に座して、同じ急須から茶を汲み、世間話に興じてくれる。

 兄弟刀以外では、俺だけを、そうして甘やかしてくれる。

 充分だとも。

 粟田口の子らと遊ぶそなたも、主に褒められるそなたも、他の刀剣たちと出陣や遠征に出向くそなたも、俺は好きだが。

 そなたの『一番』は他ならぬ、この三日月宗近よ。誰の申し付けより確かに、そなたの無意識がそう信じさせてくれる。

 無論、俺の『一番』もそなただ。

 だから、骨喰よ。よもや、黙って何処ぞへ行ってしまう、などという事はしてくれるな。ジジイが1人、確実に狂うてしまうでな。」


「・・・解った。

 三日月宗近、俺はお前の傍に居る。何処にも、他の誰の傍にも行かない。」


「あな、嬉しや。その言霊、しかと忘れまいぞ♪」


「あぁ、忘れない。」


 ふわり、と。花びらが一枚、緩く綻ぶように微笑む骨喰藤四郎。

 幼げな指先で宗近の腕に寄り添い、側頭を彼の肩口に預ける。宗近の白い指先がサラサラの銀髪を撫で付け、骨喰の頬を優しく撫でていく。

 昔馴染みと称すには近過ぎるように見えるのは、目にする2人の瞳に邪心が宿るからなのか・・・。

 宗近と骨喰を何となく遠目に見守っていた光忠が半眼になり、鶯丸が下を向いて笑いを堪えている。


「ねぇ、鶯丸君・・・骨喰君に教えてあげた方がイイんじゃないの?

 当たり前みたいな呼吸で宣言してるけど、アレ、普通にヤンデレ宣言だからね?」


「・・・細かい事は気にするな、ピカチュウ。」


「ピカチュウ言うな、ホーホケキョッ!!」


「まぁまぁ、天下五剣に呪われたい訳でもないだろう?

 命は大事にしろよ、キャンドルカッター。

 それに俺は、三日月宗近が少し羨ましくもあるんだ。」


「キャンドルカッターでもないからね?

 ヤンデレの先達としてとか言わないだろうね。」


「・・・大包平。まだ来ないじゃないか。」


「?? うん。まぁ、実装自体まだされてないし・・・。

 主の力不足とは言えないだろう。」


「別に責めちゃいないさ。

 ただ・・・大包平が顕現した時、もし俺の事を覚えていなかったら。俺は、ちゃんと受け止めてやれるだろうか。

 大包平が焼けたという記録は無いんだが、刀身が欠ける機会なんてザラにある。あるいはもっと単純に、長く離れていた俺の事など、向こうは忘れてしまったかも。

 三日月が骨喰にしたように。

 俺も、大包平が俺を忘れていたとしても、視線ひとつでも責める事なく、言葉でも恨んでみせる事なく。大包平を安心させてやれるだろうか。新しい関係を築けるだろうか。

 そう考えると正直、自信が無くてな。」


「・・・『改めて仲良くしよう。』って言葉、格好良いよね。

 僕も貞ちゃんが実装されて、でも忘れ去られてたとして。ちゃんとクールに、貞ちゃんの前で笑えるかな。

 いつも大包平君の話ばっかりしてる鶯丸君に自信が無いと、僕はもっと自信無くなっちゃうよ。貞ちゃんには、いつも自信満々でビシッと決めた、格好良い僕を見てもらいたいんだけどな。」


「安心しろ、燭台切光忠。」


「??」


「失敗しても骨は拾ってやる。

 あるいは君を待たせた代償に、太鼓鐘貞宗の妬心を煽るのも一手だろう。何なら今から、『みっちゃん』とでも呼んでやろうか?」


「イヤだよ! ソレは貞ちゃん専用の呼び方なのっ!! 鶴丸さんにだって呼ばせてないんだからっ!

 大包平君が来たら、絶対僕の方が仲良くなってやる!!」


「ははは、大包平は来る前から人望があるんだなぁ♪」


「あちらは未だ待ち人来たらず、か。

 つくづく俺は、果報者よな。」


「??

 三日月が嬉しいのは、俺も嬉しい。」


 鷹揚に外野の声を黙殺する宗近の隣で、骨喰が微笑する。

 次の買い出しの時、宗近の好きな茶葉を買ってこよう。旨い茶が入れられるようになったら、彼は喜んでくれるだろうか。

 骨喰は改めて、宗近の腕を強く抱き締めた。



                          ―FIN―

【彼方の貴方】 三日月宗近+骨喰藤四郎、鶯丸+燭台切光忠

【彼方の貴方】 三日月宗近+骨喰藤四郎、鶯丸+燭台切光忠

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-05

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work