思描世界(イメージワールド)

慧(ケイ)と華(はな)

モノローグ

風が気持ちよく薫曇る空の今日。

僕は一人いつもの公園のベンチでアコースティックギターをポロポロと爪弾いている。

休日の早朝だから、僕以外は誰もいない。

ギターを傍に置いてベンチに仰向けになり灰色掛る雲をぼんやりと見つめていたら
あんまりにも周りの音が無くて、いつの間にか寝てしまった。

よく見る夢を見た。夢というよりは昔あったことのフラッシュバック的なもので、好きだった人と別れてしまう光景だ。

「じゃあね」
彼女の最後の言葉に僕は何も返せなくて後悔ばかりが渦巻いている。
死にたがりの僕だけど、彼女のその言葉に生かされ、歩くことを選んだ。

別れらたなら別じゃない?って思うでしょ?そうじゃなくて、「じゃあね」の言葉に「またね」と返せなかったからだ。

ちょっとした昔話を。

2月2日

まだ冷たい風が吹いて、息も白くなる今日。
口から出て目に映る自分の白い息はまるで魂が徐々に排気されるみたいだ。
今日は大学の入試がある日で、電車で同じ方面に行くおそらく同い年の子たちはみんな目の焦点が合っていないみたいに見える。
本当に目の焦点が合ってないわけじゃなくて、自分の見据える先への焦点が無い。という意味で。
それは僕も同じで大学に入ることまでしか頭になくて、その先のことなんて見えちゃいない。やりたいなんて思ってることは一つくらいで、昔から趣味で触ってるギターくらいだと思う。
それぞれの降りる場所があり、行く道がある。大学の入試はまるで本当の人生の始まりのように思えた。電車の出口その入り口。そう思えるほど電車の出口は禍々しく見えた。そんな哲学的なことを考えてる余裕がある僕は余裕なんだろう。
普通の人なら学んだことの復習で頭がいっぱいなのだから。

僕も降りる駅が近づいて、少しくらいは勉強のことを考えることにした。
2駅過ぎて降りる駅が迫ってきた。僕のこれからの入り口がそこまで迫っている。不安に身も心も支配されながら少し震える手のひらを握りしめた。
「渋谷ー渋谷ー」
渋谷が僕の入り口なのは少しカッコいい。そこそこ難しい大学だからそれなりの努力はしてきたし、落ちるつもりも無い。
電車のドアをくぐりホームへ降りた。今すぐ戻りたい気持ちでいっぱいだけどそうすれば親に迷惑がかかる。
どうでもいいことは振りはらい階段を登る。周りにいる会社員の人たちは皆苦難を乗り越えたエリート達だ。それが一流大学じゃなくても、それが人の為にならない小さな仕事でもエリートなんだ。
僕もこの人たちの雑踏に肩を並べて歩けることを切に願う。
駅を出ると見知った顔が1人いた。
「おはよう!!」
「おはよう。」
彼女は華。僕の彼女だ。
「いけそうかなぁ?」
ニコニコしながら茶化してくる所が好きだけどそれは時と場合による。
「うっさいなぁ。余裕だよ余裕。」
「でも頑張ったよね慧は。私と同じ大学に行くために必死で勉強してくれて。」
「なんかそう言い直されると恥ずかしんだけど、、」
「あっはは。ありがとね。」
「うん。受かってみせるよ。」
それ以上は何も言わず彼女は微笑むだけだった。

大学の入り口が見えてきた。まるでラスボス前の大きい門みたいだ。その入り口に吸い込まれていく冒険者達の何人がラスボスに打ちひしがれるのだろう。
俺は勝ってみせると固く誓った。

学院内の広い部屋には受験生で溢れかえっていた。
「凄い人だねぇ。」
「なに当たり前のこと言ってんだか。」
全部敵だと思うと尚更燃える。
こともなくいつも通りで行きたいところだ。
「じゃあ私向こうの席だからまた終わったらね!」
「うん。また後で。」

席に着いてからはあっという間だった。
始まりの合図があり、問題を解き、答案を回収されるまでは刹那的に思えた。
こんな紙切れで人の優劣がつくなんてつくづく下らないシステムだ。

「おつかれ。」
「慧もお疲れ様!」
頭が比叡して元気なんて出ない僕と真逆に華は開放感でいっぱいなのかとても清々しそうだ。
「ご飯、行かない?」
「そうだね。せっかくここまで来たんだしうまいもんでも食いに行こう。」

渋谷の洒落たカフェでランチをすることになった。
僕と華は入試のあれこれを話して自ら不安に身を投げていた。
「ところでさ慧。大学入ったらどうするの?」
「んーまずはサークルとかじゃないかなぁ。」
「サークルかぁ。どうせバンドとかでしょ?」
「どうせとか言うなよ、まぁそうなんだけどさ。」
キダーを持ってるのに高校には軽音部もなければ地元にはスタジオもない。だから僕はバンドサークルに憧れが強かった。
「ねぇ、私もバンドサークル入ろうかな。」
「まじで?なにができるの?」
「歌えるよ?」
「ぷっ 誰でもできるよ。」
くだらないことで笑いあえる僕達は幸せ者なのかもしれない。
「でもそしたらいつか、2人で有名になれるかもね。」
「でかい夢だね。でもいいよ。目指してみよう!」
「珍しく乗り気だね。頑張っちゃおう!」
彼女と僕はリズム(夢)を取り始めた。焦点の合わない瞳がすこし合ってきた気がして安心できたんだ。

それからしばくして合格発表があった。
僕は受かることができた。正直めちゃくちゃに嬉しかった。でも


彼女は落ちた。
まさか彼女が。落ちるはずのないと思っていた彼女が。
電車のドアはやっぱり好きになれない。

爪弾く

あれから3年。

「おつかれ慧!」
「おつかれー。」
「お疲れ様ー」
「おつかれ皆。また明日。」
バンドサークルの仲間達と別れを交わした。
「また明日。」こんな風な言葉がでるのはごく当たり前だと思っていた僕には今は重い言葉だと実感している。

3年前の入学前の日のこと。
華が大学に落ちた時、華の親の転勤が重なって地方に引っ越すことになった。
それは僕等の離れ離れになる発射音のように響いた。
僕はどうしようもなく泣いていたのを覚えてる。
どうしてこうなってしまうんだろうか。人生で初めての苦難に僕は打ちひしがれるばかりだった。
「慧。ごめんね、、 落ちた上にパパが転勤することになるなんて、、」
「仕方ないだろ!それしか言えないよ。」
「そうだよね。じゃあ、私そろそろ時間だから。」
「そっか。」
「じゃあね。」
彼女の言葉に僕は泣くことしかできず、言葉を出すこともできずにいた。
彼女が車に乗る。
やがて車が無慈悲にエンジンを呻(うな)らせ走り始める。
君が後ろの窓から僕に手を振ってくれている。車が遠くなるにも関わらずきっと君は止むことなく手を振ってくれていたんだろう。
一番苦しい君が必死で呼びかけてくれてるのに、一番苦しいのは僕みたいに思えて、呼応すら出来なかった。
僕は君を目にずっと焼き付けていたくて、君も僕をずっと見て焼き付けていてくれたたのだろつか。
そうでなくても君の瞳にずっと映っていたかった。
とても心残りで仕方のない時間だった。いろんな心残りはあるけど、「またね」って言えなかった。


それからというもの音楽に打ち込んで、いつでも君を迎える準備をしている。
君が僕の作った曲を歌ってくれることを思い描いて、リズムを刻む。日々日々に。
でもそを歌ってくれているのは別の人で、少し嫌に思う。君に歌って貰えないし、他人に触られてるから。

暮れがかる


もうすぐサークルでライブがある。
毎日みんなで曲を合わせては精度を上げる。
夕暮れ時に解散する。
皆とは帰り道が間反対の僕はいつもの場所で別れる。
「じゃねー。」
皆が遠くになっても手を振ってくれる。最初は嬉しかったけど、最近ではそれも薄れてしまっている。僕は枯れ始めているのだろうか。
あの日から枯れたのかもしれないけど。

サークルのライブ当日。
皆は緊張した面持ちで裏にスタンバッていた。
「みんなリラックスしてこう!」
ムードメーカーがみんなを盛り上げてくれる。でも盛り上げなくてもみんな高ぶっている。浮かない顔なのはきっと僕だけだ。
「慧?どうかしたの?」
ボーカルの女が僕を気遣ってくれる。
「いや、なんでもないよ。ボーカル頼んだよ。」
一応僕が作った曲の心臓をやってくれるから大事な人材だ。
ステージでは前のバンドが最後の曲を終えてMCをしている。みんな今一度気を引き締めてステージに向かった。

「こんばんわ、庭華です。精一杯の思いを込めて歌います。」
ボーカルのMCとともに僕らは楽器をかき鳴らした。
全部じゃないけど大事なことだけ歌詞に詰めて描いた。本当は君に歌って欲しかった歌だ。別に泣けるような歌じゃないけど少し悲しくなって泣いてしまう。
コーラスの部分が迫るけどちゃんと歌えるかわからない。
思いの外通る声を出せた。コーラスだけど辺りを揺らせるだけの想いが溢れ出た。
客は乗ったりはしなかったけどメンバーはみんな嬉しそうにステージを去った。

僕だけが暮れた顔をしてた。

卒業式が近い。

なんだかんだで卒業を迎えようとしている。サークル活動もそこそこしなくなってみんな就活に身を投じていた。
僕だけが毎日サークルの活動場所に来てギターを弾いていた。
今日もほどほどに帰ろうと思った。
ギターケースにギターをしまい、背負って部屋を出た。校門を超えて最寄駅に向かって歩いていると懐かしい顔を見た。その子は駅前のよく見える場所にいて誰かを待っていたようだ。 その子がこちらを見て微笑みかけてきた。
涙が出そうになった。紛れもなく華がそこにいた。
「ひさしぶりだね。元気だった?」
彼女が僕へと歩み寄ってきて声をかけてくれた。
「どう、して?」
「私ね、今月からこっちに越してきたんだ。東京で仕事に就こうと思って。」
「そうだったんだ。久々に会えて嬉しいよ。」
「私も。前の約束守れなくてごめんなさい。もし許してくれるなら」
「許して欲しいのは僕の方だ。あの時、言葉がでなくて、、不安にさせちゃったから。」
「いいよ。いいんだよ。そんなことは。だから、もし慧がいいならもう一度私たちやり直したいの。」
あの時の僕と違って少しは大人になれた僕。また君に触れれことができるならそれ以上の幸せはない。
君のことを忘れずに歩いてきたことは身を結んでくれた。あの日の後悔が消えてくれるこの時を待っていた。
「うん。やり直そう。」
僕達は人目も気にせず涙を流し抱き合った。
「華に歌ってほしい歌があるんだ。」
「うん。歌うよ。私たちの夢だから。」
リズムが僕らを繋いでくれてこれからも紡いでくれる。
この歌の声は華だから。

イメージワールド


卒業を迎え僕は音楽業界に入ることになった。

毎日が苦難ばかりだけど充実している。
今ではこの雑踏に肩を並べて歩くことがてきている。

「慧?」
「ん?」
「どうしたの?そんな顔して。」
「いやー。なんでもない。そろそろ帰ろうか。」
「そうだね。じゃあまた明日。」
「またね。」

僕の思い描く世界に生きている。

思描世界(イメージワールド)

とあるバンドの曲を聞いてイメージで作ってみました。
あんまりクサイ台詞は書いてて恥ずかしい!

思描世界(イメージワールド)

、、、

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-06

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  1. モノローグ
  2. ちょっとした昔話を。
  3. 爪弾く
  4. 暮れがかる
  5. イメージワールド