センター試験を10年受け続けた、還暦のハゲおじさん
「センター試験を10年受け続けた、還暦のハゲおじさん」
私は高校2年の時に、理系はダメだと諦めて文系の「教育学部」を受けることにしました。数式を見ても、象形文字を見るような味気なさで「制限時間内に解かなくては!」と焦るばかり。
そうこうしているうちに、問題を見るだけで「どうしよう・・」とパニックになり、受験5日前に原因不明の痙攣が全身をおそい、そのまま近所の病院にかつぎ込まれて、入院となってしまった。
それは、受験5日前のことで、医者は受験を止めたけれど、強行受験をした。あれ以来、数学は私のトラウマになり、以後25年近く離れていた。その間、英語に専念し、アメリカにわたり、英検1級や通学ガイドの国家試験などに挑戦し、自分の塾を建てるため奔走した。
塾生(高校生)の中で、A子ちゃんという優秀な生徒が「数学の指導もお願いしたいです。先生の説明はとても分かりやすいんです」と言わなければ、一生「数学トラウマ」で終わっていたと思う。
45歳の頃だった。最初は、数学に対するリハビリから始めた(笑)。本当に書店で「オリジナル」を手に取るときは震えた。できるだけリラックスできる喫茶店で1題ずつ解き始めた。
その後、オリジナル、1対1、チェック&リピート、赤本を2周ずつやることになるなんて、想像もしていなかった。センター試験を10年連続して受け、京大の二次試験を7回も受けるなんて、予定に入っていなかった。
完全に、数学にハマった。
今は、京大の二次試験で7割をとれた実力で、四日市高校の理系の優秀な子に指導を依頼されても困らない。絶対に、「なんとかなる」という確信があるので、パニックにはならない。
大学卒業後、20年以上英語に専念していたことも、塾経営に没頭していたことも後悔はしていないが、「なんで、数学を避けていたのか」と残念には思う。今は、英語より数学が好きだからだ。
高校生の指導も、数学が8割で、英語は2割ほど。
19歳の時点で、模試が「文系」と判断したので、それに従ったけれど、もともと私は数学が嫌いではなかった。数学ができるようになったら、物理や化学にも興味がでてきて、独学をしている。
高校生くらいでは、「他人と比較するな」と言われても無理だろう。順位や偏差値を見て絶望的になるのも避けられないだろう。特に、私の隣に座っていたOくんは、全国でも5本の指に入る子だったし、今は京大の教授と聞いた。
高校生の私は、劣等感のかたまりだったのだ。
それでも、私は思うのだ。当時の自分に向かって言ってやりたい。「模試なんて信じる必要はない。教師の評価なんか信用するな」。自分が塾講師をして、生徒を評価しているのに矛盾していることは承知している。
私は、もう40年も少林寺拳法の練習をしている。もちろん、1人でだ。大学のクラブで基礎を教えてもらう必要はあった。しかし、いつも違和感があった。
持久力は全員ちがう。なのに、いつも全員で走る。私は背が高く、リーチが長い。だから、同じ蹴りや突きをだしても、相手より早く打つことができる。つまり、強い。でも、これは生まれつき。おかしいではないか。
中年をすぎると、特に実感する。他人のペースで運動させられたら倒れてしまう。食事も、睡眠も自分のペースでないと、病気になってしまう。日常生活が成り立たなくなってしまう。
勉強も同じだと、ずっと思っていた。だから、他人が「英語講師が(文系の人が)数Ⅲを独学なんてムリ!」とか「50代で高校生と混じって京大受けるの?」と言われても、全く気にならなかった。
ガリレオの湯川先生のような本物の学者ではないけれど、授業が終わった後で、白板を見ると感慨深い。「これ、ボクが書いたんだよね?」と自分に問いかける。
数式がビッシリ。
英語講師でいる時間が長かったから、ベクトルや数列の数式の羅列を見ると、一瞬だけ倒れそうになった高校時代の悪夢がフラッシュバックする。でも、同時に大きな快感に襲われる。
それは、大嫌いだと思っていた納豆を食べてみたら大好きになったような感じと言えば、分かってもらえるだろうか。
もちろん、集団主義の日本の学校では、自分のペースで勉強することは反逆児のような扱いを受けてしまう。宿題を拒否して、自分のやりたい問題集をやる。勝手にクラブを自主引退する。そんな嫌な生徒だった。
しかし、長い目で見たら「これで、よかった」と思っている。教師の指示どおりにしか勉強していなかった同級生は卒業とともに勉強をやめてしまった。私は、教師の指示で勉強していなかったので、卒業後も勝手に勉強を続けられた。
名古屋の大規模塾に勤務している頃は、他科目の講師の領分を荒してはいけないので、英語講師が数学を勉強するのは良くないことだった。ましてや、京大を受けて成績を実証するなんて“暴挙”をすると、「いらんことするな!おまえのせいで、俺たちにいらん圧力かかるだろう!」という雰囲気だった。
そういう人たちから距離を置いていないと、新しいことは出来ない。
センター試験を10年受け続けた、還暦のハゲおじさん