内幕

今年の冬は妙に暖かい。これは私を取り巻く情緒がその様であるといった意味ではなく、現実問題として数々のスキー場が降雪量の少なさに苦しんでいる。
イランの経済制裁解除に伴い、原油価格はさらに下落し続けているが、肝心の需要が生まれないのだから当然の話だ。
OPECが市場への影響力を薄め、一バレル百ドル前後から六十ドル前後へと下落したのが一昨年の暮れあたり。
それから、先のサウジアラビアによるイエメン空爆を経て、一時的に値は回復したが、昨年の七月に合意された米国とイランの経済制裁解除を受けて今に至る。
そう、言い値なのだ。考えてみればバカらしい話である。平たく言えば、「百六十リットル弱の原油をいくらで押し売りするか」といった話の為に、大勢の人間が中東でゴミのように死んでいるのである。
九十九%の人間である私達を支配している一%の人間たちは、自分達以外の種族を『ゴイム』(ヘブライ語で豚という意味)と呼ぶらしいが、そのようなことがまかり通るのも、これから私が『証言』すること
に耳を傾けて、慎重に吟味して頂ければ、頷けるであろう。
私は、自分のことを賢い人間だとは思わない。自分の主張が百%正しいとも思わない。また、これが真実だとかそうでないとかいった高尚な議論を展開するつもりもない。
だが、『良識ある日本人』として言いたいことは言うと決めている。それが私の掟なのだ。それによってもたらされる何らかの利益を期待しているといった不埒な考えではない。
まるで線路の上を弾丸のように走り抜ける新幹線のように、私はいつもそのような方向へと全速力で進んで行ってしまう。
これは自分の力ではどうすることも出来ず、どんなに大きな力でブレーキをかけても、それを止められるまでの摩擦力には成り得ないのだ。

『証言』を始める前に、紹介をしておかなければならない人物たちがいる。私の中に存在する人々だ。
自分が多重人格者だと言う気はさらさらないが、私はパーソナリティを紹介できるほど自己を確立できていないので、彼らを紹介するのが妥当であろう。
何人かは容姿が分かるほどまでに形を成しているが、何人かは名前もはっきりせず、ただ暗闇の中から呼びかけてくる。
 
 『のどか』と名乗る彼女は、私にとって一番大切な存在だ。彼女が現れたのは十八歳のとき。
高校を卒業したが、行くあてもなく部屋に引き籠っていた私に「一緒にバンドを組もうよ」と声をかけてくれた。音楽が好きで、パンク・ロックバンド“ANTI-STATE”のギター/ボーカリスト。
薄い金髪に染めた髪はボブカットで、クリクリとした大きな目のある整った顔は、テレビに出演しているアイドルの何十倍も可愛い。どちらかというと、スラブ系の顔立ちをしているが、
背はあまり高くない。私の身長は百六十センチほどだが、彼女はそれよりも少し背が低い。明るいお転婆娘で、誰とでも気さくに話し、すぐに友人になってしまう。
その反面、繊細で涙もろい部分もあり、何かあるとすぐに私の胸に顔をうずめて「どうして?どうしてなの?」と子供のように泣きじゃくる。
彼女はとてもピュアだ。と言うことはできるが、その表現では収まりきらないほど無垢で、その辺にいる黄色い帽子を被った小学生と変わらない気さえする。
ただ、身体は発達しており、歳は私と同じだ。彼女は、プロのボーカリストになることを夢見ており、いつも練習に明け暮れている。その腕前は大したものだ。
いつも透き通った声で音を外さずに歌うので、誰が聴いても「上手いね」と言うのだが、彼女はとてもストイックで、自分の狙った音が出ないと、かんしゃくを起こし、子供のように泣いてしまう。
漫画やアニメ、小説、映画も好きで、私のようなタイプの人間に対しても抵抗を示さず、むしろ尻尾を振る子犬のようにすり寄って来る。
『のどか』は私のことを「ゆうくん」と呼ぶ。
彼女は未来のことよりも、過去のことについて尋ねたり、語り合ったりするのが好きだ。一度、「昔、ゆうくんはどんなのだったの?」と尋ねられたことがある。
人形のように整った顔に覗き込まれた私の顔は赤面したが、彼女には本音を話して甘えたいという思いから、「いじめられてたかなぁ」と答えた。
 私は女性に自分の過去を告白すると、いつも焦燥感に包まれた独特な表情をされる。どんなに美しい女性でも、その時は、私の鏡のように不細工になってしまい、能面のような顔で小首を傾げる。
だが、私のそれを告白したときの『のどか』の反応は驚くべきもので、この世で最も甘美なものになったのだ。彼女は優しく私の首筋に腕を回すと、「もうそれ以上言わないで」と言った。
その後、目を閉じると、甘い香水の匂いがして、『のどか』の柔らかいモノが私のモノに触れた........。
 彼女とは、一緒に映画を見たり、音楽を聞いたり、何かについて語り合ったりしている。私の人生において重要な局面には、常に彼女がいる。ただ、(彼女は)肉体を持つことができないので、
実際に肌が触れ合うことができないのが残念でならない。ネイティブ並の英語を話す。

 『きよか』と名乗る若い女。私と同い年。『のどか』と親しい友人であり、パンク・ロックバンド“ANTI-STATE”のベーシスト。
どういった経緯で彼女がバンドのメンバーになったのかは分からない。気が付いたらそこにいたのだ。セミロングの黒髪に、眼鏡をかけている小顔。大人しくて、恥ずかしがり屋。
生真面目過ぎる性格。どうやら私に想いを寄せているようだ。勤勉な彼女は、知識や人生経験も豊富で、よく人生相談をした。なぜか最近はあまり現れない。
英語が、かなり上手い。

『バイパー』
本名は分からない。航空自衛隊の戦闘機パイロット。冷静沈着な判断を下すクールな性格の反面、何かを成し遂げることに関しては熱いハートを持つ。
私は、夢や、やりたいことが見つかったときには、いつも彼に相談をする。非常に合理主義者。私という肉体や精神を外敵から守る為に、日夜、空中戦の訓練に明け暮れている。
何か非常事態が起きれば、彼がスクランブル発進をして、敵機を追い払ってくれるのだ。

『    』
名前は分からない。いつも暗闇から呼びかけてくる不気味な声たち。時には一人で、またある時には複数で、四方八方から呼びかけてくる。
彼らの主張は非常に合理的だが、時に残虐性をはらむ。野蛮な声が混じる時もある。ただ罵倒するだけの声もある。彼らは、私という肉体や精神を外敵から守る為には手段を選ばない。

内幕

内幕

公開するか迷いましたが、折角書いたので..... 少し古い時事ネタが混ざっています

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-28

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