君の文字は時じくに咲いているⅡ Re:build

プロットまとめ

【『君の文字Ⅱ』 Re:build】
〜時じくシリーズ〜

・本題
『君の文字は時じくに咲いている 再築』

・登場人物
室馬醒司←この物語の主人公。最大監視対象
八神萊羅←見守る女子。現実での室馬の恋人
雪解沙樹←室馬の恋人役。統一軍最高司令官
江堂駿←室馬の親友。解放隊の全部隊の参謀
瀬戸山海斗←現実とは矛盾する事を言う存在
科学者たち←統一夢の権力者。現実にて存在

・世界観
人ならざる者←室馬醒司。夢の理を変える者
解放軍←室馬率いるボダイ脱出を目指す軍隊
統一軍←解放隊絶滅と実験維持を目論む軍隊
力←室馬が覚醒夢となったことで起きた能力

・語り部
その時間を君が知らなくても、僕は知っている。君が何を信じて自らを捨てたかも。だから、今度こそ僕は諦めない。君の未来を取り戻すために。僕は僕を捨てる!

・キャッチコピー
立ち上がれ。未来の鍵を握りしめろ。

・主題歌
OP『Doubt&Trust』〜access〜
挿入歌『Datebase』〜Man with a Mission〜
挿入歌『朧月夜 Vocal』〜冨田麗香〜
ED『L.L.L.』〜MYTH&ROID〜

・あらすじのあらすじ
 統一夢(ボダイ)歴2955年11ヶ月。万能科学の権力において罪なき人間を無差別に人体実験へと巻き添い、ここボダイにおいて未だ解き明かされることのなかった人間の夢を科学者たちが支配する人々の脳の中の世界。その残酷な運命に誘われた多くの人々がその世界で新たな人生を送り始めて約三千年が経とうとしていた。絶望も一つの生き様だとすべての人間がループされる時間の中で諦めを持った頃、最大監視対象だった一人の青年の目覚めによってその概念は崩された。その名を室馬醒司(ムロバ セイジ)というこの男は、ボダイ以前による本来の現実において、ごく普通の高校生であったものの、卒業後かつて互いに好意の仲にあった二つ年上の雪解沙樹(ユキドケ サキ)が万能科学による理不尽な強制人体実験の中心核としてとらえられることとなったために、自らを犠牲に彼女の向かうはずだった地獄に自身が飛び込んだことで、数百万の脳が眠り続けるボダイにおける最大監視対象として科学の生贄となった…らしい。しかし、二千年を過ぎたあたりから突如として彼を支配する脳に異常が起きていた。室馬本人が消されたはずのこの世界の真実を掴み出すようになってきたのである。高校生活の三年間を幾百回も繰り返され、科学者たちの手でプログラムされていた時間の流れや役を演じ続ける人間たちにバグが起こり始めていたようである。だがひとえに、人々が役を永遠ともとれる時の中で演じ続けたことで彼を心から助けようとしたのは、プログラムによるバグでも、基本人格設計の誤算でもないだろう。夢という一瞬の永遠を共に生きる人々にとって室馬という人間はこの責め苦の世界から脱出できる唯一の存在であり、彼らにとっての室馬は憎めるような人間ではなかったからだ。そしていつしか室馬を救わんがために彼らは動き出した。だがその抵抗は虚しく、室馬の周りで守るボダイ側の人間たちによって多くの犠牲者を出していくこととなった。その圧制の配下において一人の少女が自らを犠牲に室馬へと真実を語った。生徒会において室馬と知り合っていた数少ない理解者であった八神萊羅(ヤガミ ライラ)は卒業式の日に騒然とする会場の中で彼に向かって言い放ったのだ。彼女の死を持って覚醒夢となる室馬は絶望のままに再ループを実行させられた。この事件を機に彼の目覚めは数多くのループの中で徐々に早く向かえるようになってきていたのである。はじめは卒業式の時期あたりにふとボダイにおける記憶を取り戻したりするなど、再ループを迎えさせるだけでよかった対処法が、彼の目覚めがループを重ねることに早くなり、その記憶力もはっきりとしてきたからだ。こうして強制的に再ループさせるために『統一軍』と名乗るボダイ側の人間が雪解沙樹を筆頭に室馬を覚醒前に抹殺し彼の思考回路を再リセットしてループさせる手段を取り出したのだ。だが強制再ループにはボダイデータに思わぬ負荷をかけていた。そして幾十周ものループを経たある日、時期を見計らって彼を抹殺しにきた恋人役の雪解沙樹は、彼への思わぬ告白により彼の覚醒を許してしまった。結果、ボダイでのみの記憶を全て取り戻した室馬によってバグ処理として処刑されてきたこれまでの室馬側の数多くの人間たちが復活したのである。これがのちの室馬が率いる『解放軍』となってゆくのであった。
 こうした室馬の覚醒は彼がリアリティーとして認識していた世界が崩壊したことにより、様々な人間と同様、不可思議な能力がその手に宿るようになっていったのである。つまり夢であることを認知できた室馬によって固定観念がこの世界では通用しない設計プログラムへ変換された証拠なのだった。現実での記憶を取り戻せていない室馬本人はそれでも人々とともに自分たちが本来生きている場所へ帰ることを誓い、願った。そして『統一軍』との全面戦争が、こうして引き起こされることとなったのである。武具を持つものは武具とともに、能力とともにあるものはその手を持って大きな戦いの幕開けとなったのである。

・あらすじ
 1・数多くの兵器や武力手段はこのような状態に備えて古くから着々と建造され科学者によるプログラミング当初からその用意はされていた。だがそれを放置することができないためにこの世界では不自然なほどに数多く自衛隊の駐屯地がなぜか設定されていた。室馬を監視とするのみの実験においてどうしてここまで無意味な設定を取り込んでいるのかと疑問であったものの開戦してみればことは容易に理解できた。科学者には予知できていたのだ。いずれ鳥かごの中で戦いが起こることを。
 枯渇することなく止まない爆風と能力者たちによる大規模な地形崩壊をも起こす戦いは時折しんみりと何もない日を作るときがある。そんな日に室馬は今後の作戦と現実世界への脱出ルートを探っていた。彼を常にループさせていたあの卒業式のときに見た巨大な科学装置は統一軍側によって占領されているため、どうにかしてそこまでたどり着けるような機会が必要だったのだ。室馬が目覚めてから約3年が経った。雪解沙樹の行方は知れずとも彼女があの全軍を率いてこの基地へやってくることは目に見えていた。密偵に遣わした能力者によると四人のうち一人しか帰還することができず生き残った密偵も統一軍の動きなどを語るうちに絶命していた。この3年だけでも多くの犠牲者が出ていることに変わりはなく、室馬当人も自身を奮い立たせる覚悟が必要だった。そうした中で時折静まり返る今日のような日は誰もが不思議と落ち着いていた。どれだけ足掻こうが踏みつぶされるだけだったかつての日々からしたらこれほどまでに反旗を翻して統一軍と互角に渡り合っていることそのものが彼らにとっては驚くべき進歩だったからだ。疲れ切っていた体を休めようと外の夜空を見上げながらベンチに寝転んでいた室馬はふと近くに人の気配を感じた。茂みから顔を出したのは自分を命を張って救い出してくれたあの八神萊羅だった。警備中だった彼女と二人ベンチに座って語る室馬は自然なほどに彼女への拒絶感がなかったのだ。あくまでこの世界からの脱出のために共に戦う者の中にはリーダーである室馬へ嫌悪感を抱いている者もいるからだ。左腕を失い、亡き人間を全て復活させた自分の能力はそれ以来効力を失っていた。現状は不利なものでしかないのだ。そんなことを話すうちに室馬は自分が誰よりも現実での自分を取り戻したいと語ったことで笑い泣きのような仕草を見せる八神萊羅の姿になぜか笑い返せなかった。現実とはどのような世界だったのだろうかと考えずにはいられなかった。これまで現実だと思い込んできた世界は実際は自分の身勝手な理想によって創造した夢の世界だったのだ。本来あるべき世界へ帰れど、どのようにその真実を受け入れられるのだろうか。そう悩まずにはいられなかったのだ。
 時同じくして夜空を眺める雪解沙樹はこの戦いによって悦に浸るわけでも愛する者への情熱に打ちひしがれるわけでもなかった。彼女はこの世界に存在すべき人間ではなかった。その役を自ら買って出たのはあの室馬醒司なのだから。だがそれでもここへ彼女はやってきた。だが当初の記憶などとうの数千年の時に揺られて消え去った。今は彼をこの世界でいつまでも幸せに過ごさせるために戦っている。室馬の作り出した満天の星空はどこまでも済んだ闇だった。きらめく星々の中で白き月は光など人類には不要かのごとく照り返し続けている。雪解沙樹が拠点とする場所はかつての丘の上にある高校とその周りにある高級住宅街だった。鍛錬を重ねる軍隊に所属する人々は年々体格や精神に一定の変化が見られるようになり、その成長速度は軍歴のない雪解からしてみれば恐ろしいことだった。だが絶対なる統率力を能力とする雪解にとっては当然の結果だった。彼女は自らの想いを胸に過去に失くした本当の自分を捨て去り新たな道へ前進することを決意したのであった。彼女には捨てたくとも捨てることのできない現実世界での記憶が未だに消されていなかったからである。

 2・誰がこの世界を望んだであろうか。八神萊羅は明日無き虚構の夢舞台で永遠のような時間、踊り続けさせられていた。どれほど己を消したかっただろうか、どれほど彼を救いたかっただろうか。自分が知りうるこれまでのことと現実でのことをいつでも語れたとしても、彼にとってはもはや記憶さえも存在しない出来事なのだ。信じてくださいとどの顔が言えるのだろうか。八神は基地への帰り道、ひとり歩きながらことのあらましを思い出していた。三千年の時に尽きるさらに前の物語。そう。彼女がボダイへやってくるまでの物語である。
 荒唐無稽な彼女の物語。
記憶は定かではない。それでも時経つうちに忘れられつつある自分の中の何かに、八神來羅は焦りを覚えていた。もう100年も前に彼女は政治的背景裏にいた国際規模の組織に万能科学の実験として捕らえれ、この世界へプログラムされた。体は未だに現実のどこかで隠され、今も長い昏睡状態にあるのだろう。この世界へ来て与えられた使命はもとより設定されたシナリオであり、それに背く者は誰彼構わず暗殺されていっていた。知りあいなど誰の顔を見ても思い出せるわけもなく、それでも監視対象とされた人間を中心とする世界構造の実験の端くれに自分が足されたということに変わりはないことくらい分かっていた。だが、彼女にとってその目まぐるしいほどに早く過ぎ去る奴隷生活は最大監視対象とされた男の姿を初めて見かけたことで大きく進展するようになった。…嫌だ。知りたくない。そんなわけがない。何度その人物を嘘だと言いたかっただろうか。…室馬、醒司。記憶は定かではない。むしろこの世界へ来る前の現実という世界の記憶は全て消されていたはずだった。けれど、それなのに。彼女の記憶には一部誤算があった。生きてきた時間、その背景、そんなものは覚えている。それでも科学者たちは自分たちの記憶から生きていたという実感を消し去った。そして最大監視対象の周りにいた関係ある人々の中で、ボダイへと連行された犠牲者の全てがその人間関係と関係ある最大監視対象の人物像の記録を抹消されていたはずだった。のだ…。
震える腕で彼女は立ちすくむことしかできなかった。室馬醒司。彼を見つめれば見つめるほど、その身に宿る記憶が巻き戻されてゆく。覚えているはずのない現実での彼の記憶。誰の記憶にもなく彼女にしか存在しない日々。嗚呼…何故そこにいるの。あなただけはこの世界でいてほしくなかった。貴方にはきっと幸せだとそう言える日々であって欲しかったのに。八神來羅は生きていた実感を思い出した。その場に立つ恋人の姿を、前にして、初めて思い出していた。
以前、校内外問わず荒れていた室馬醒司は、若くして人生を捨てようとしていた。そんなある日、彼女と出会った。生徒会で校内の取り締まりを強化していた頃に室馬という男は要注意人物として名前が挙がっていたからだった。荒々しい性格であった彼に対し、彼女は影ながら手紙を送ることで彼の気持ちを緩和させていくことにしたのである。これはただの家族からのアドバイスで始めたことであったが、この男の優しい面を見てしまっていたこともあり、どうしても他人事のように扱えなかったことも理由のひとつだった。物語の始まりはこうして紡がれてゆくのだった。いつしか古い漫画話のように結ばれるようになった2人は室馬が更生することで彼女との交際をはじめたのだった。だが1年ほど付き合ってからその事件は起きた。多くの人々が無差別に選び抜かれ過酷な人体実験に利用されているという噂だった。そこで室馬醒司は卒業後、八神萊羅と親友であった江堂駿(エドウ シュン)と共にその正体に迫る事となった。それは雪融沙樹が行方不明となり以後消息を絶っていたことも要因の一つだっただろう。彼女の親族関係から事は次第に判明していき多くの実験体がすでに生贄となって深層意識世界からの干渉実験が行われている事に辿り着いた彼らは彼女を救わんがためにスイスのジュネーヴ近郊に向かう。日本支部に侵入した彼らはそこで仲間となった囚われの人間たちと共に手を取り合い、実験の阻止に走り出した。全諸国支部でこの非人道的実験が行われている事を知った室馬醒司たちはハッカーオリンピックの事実上優勝候補だった友人たちやその仲間と共に多くの施設から人々を助け、各国の実験に中止とこの非人道的実験を政治的に公表する事を指摘し、ほぼ勝算は確実的だった。だが、支部の実験が一時的に終わるだけにすぎない事は分かりきっていた事だった。日本支部はその勧告を黙殺し、実験の続行に取り掛かった。その裏には政府さえも牛耳る巨大な組織がいたからだ。既に多くの日本人が幾年も前から取り込まれていて、その補助事業がプログラム内のボダイと呼ばれる、夢の統合されたひとつの世界で行われていたのだ。何年も前から先手を打っていた科学者たちとの抗争が室馬醒司たちと始まり、彼らは多くの犠牲者と共に実験室へとようやくたどり着いた。プログラム解析と設定された世界を取り壊し囚われた人々を助けられることを誓い、彼はその場にいた雪解の代わりに自分が入る事にしたのである。だが、ここからが隠された真実である。八神萊羅は見ていた。雪解を眠りから覚ました室馬は早急にプログラミングを友人である瀬戸山海斗(セトヤマ カイト)と共に行い始めた。そして、室馬自身をボダイにおける最大監視対象と設定(最大監視対象には記憶における全抹消が確定されているため昏睡人物を最大監視対象に設定するといことはバックアップが存在しないという事になる)し、科学者たちに気付かれないようにその記憶を消す事にしたのだが、雪解の妨害により彼女を道連れにする結果となる。だが雪解はそのために行動を起こしたのであった。わざとその世界へ向かうために、目の前にいるこの男が向かう場所へ自ら向かう事を決めたから。だが、彼自身が目を覚まさぬうちは誰も助ける事はできない。こうして彼を呼び覚ますために雪解と、その場にいた八神に瀬戸山に江堂が、室馬醒司の覚醒させるために共に入る事にしたのである。だがここでまたも妨害があった。科学者側の戦闘部隊が突入し、彼らの前に立ちはだかったのである。そこで仲間という意思に熱意を持った雪解によって室馬たちは先へ急ぐこととなった。囚われた雪解がこの後にどうなったかは承知の事であろう。どういう道であれここへ全員がたどり着いた事に変わりはなかった。こうしていよいよその瞬間が来た時、室馬醒司はプログラミングの設定に何かを付け加えたように八神萊羅からは見えた。だが、こうしてる間に彼らはやってくる。三人は共に昏睡機の中枢に入り込むと、共にボダイへの道へ向かった。科学者たちがやってきた頃にはもはや手遅れではあったが、実験になんら支障はないと分かり、反乱デモのひとつとして解決することとなったようだ。八神萊羅の記憶にそこから先はない。ボダイへの昏睡転送直前に窓の先から見えた科学者たちの様子からはそう見えた。結局的に自らが愛する男の行動は分からなかったが、彼が現在の彼では記憶といえどこのボダイでの出来事と仕組まれた科学者たちによる人体実験の成れの果てについて鵜呑みにした状態で戦っているにすぎないことに変わりはなかった。室馬醒司にこの世界の理と現実での本当の真実は瀬戸山も江堂も八神自身も言えなかった。答えを言ったことで彼がその記憶を思い出すわけでも、現実に帰れるわけでもなかったからだ。彼自身が自らの答えを真実を、導き出さない限り、本当の意味を理解することはできないのだ。彼らも後々知った事であるが、そうプログラムされていた。科学者たちによるものか、あるいは彼女のしわざか。

3・その後も多くの戦いが続いた。巨大な能力者たちの起こす嵐によって地域一帯が全滅しかけたこともあった。細菌型のウィルス放出が起こり、瀬戸山海斗の言動に時折不可説な内容があったが誰にも気にしなかった。彼が普通ではないことくらい誰もが認めていたからだ。だが
犠牲者は双方ともに後を絶たず、またある時はどちら側にもならなず、このボダイで半永久的に平穏に暮らすことを望んだ人々が徐々にボダイという世界の果てを探しに戦争の無い場所へ向かって行っていた。だがこの抗争は各地的に起こることも多くなり、室馬たち解放軍は既に整っていたそれぞれの各地を代表とする人たちを招集し大きな会議を開いていた。一方で人体改造にさえ手を出していた統一軍は徐々に近辺の地域を掌握し始め、その守りをバラバラなものからまとめてひとつの一大支配域としていった。時には抗争相手同士に他の自論を提示して大きく成り上がった集団もいたが2つの勢力の板挟みとなり崩壊した。これを『凱旋街の陥落』という。時には敵側の人間と恋に落ちた者もいた。その隙を伺い多くの疑惑が出て大きな問題となったこともあった。能力者たちによる発想の進歩により空にでさえ境界線を求めるようになり双方合意を待たずして統一軍側は結界を構築した。現実界となんら変わらぬ現状が彼らの前にはあった。醜すぎるヒトの欲望と恨みは何も生まず、無情なる惨状ばかりが頭を悩ますだけであった。八神萊羅らを含む総勢30名の女や子供が統一軍に捕らわれたこともあった。これが後の『奪還戦争』である。1週間の全面戦争は最終的に科学を駆使した統一軍の持つループ展開機『DOOM』の誘発により時の誤差を起こさせた。意図して仕組まれた何者かによる1週間の修正はこの戦争を起こさせる前の状態へ戻した。自身のプログラムを覚醒時に解いた室馬は1週間の記憶を保ったまま新しく2度目の1週間へ入ることができたため、誰もが認知した上で統一軍の再進撃が実行された。かつて捕らわれた人々を守り、解放軍選り抜きの前衛部隊が江堂を先頭に続いた。解放軍の人材を掴めていた統一軍は雪解と共に前衛部隊へ奇襲をかけた。だが双方共に本隊は仙石原の西と東に拠点を置いていたため、雪解が一部の護衛と共に本隊へ合流した時は大合戦となっていた。戦場から少し離れた古い神社にその男と女はいた。雪解と室馬は共に数年ぶりの再会だった。だがもはやその立場は全く別の場所にあった。今は恋人では無い。たとえそう知っていても2人の間に流れる不快な沈黙は何故か憎しみではなかった。2人は少し話すとそれぞれの隊へ踵を返して行った。それぞれの目指す道を背負い、己の想いに正直に答え、DOOMをシナリオ通りに奪還することを表明した。この戦は何度か同じ1週間を繰り返すこととなったが、より強固となり知識も増えた解放軍の手によってDOOMは勝ち取られた。そしていつしか解放軍の力はその有志により統一軍の武力を超えて秩序立てる力をボダイ全域に巡らせるようになっていった。
ボダイの果てへ旅立った人々を返還させ土地作りと街の復興を目指しながらも、解放軍は徐々に計画を進め、初となるDOOMの工学的研究に取り掛かった。知識のある者や瀬戸山たちの助力もあり、DOOMの現実への扉をネットワークに繋げることに成功したのだった。だが、ここでさらに問題が起こった。研究と共に自身を現実の対象としてテストを行った瀬戸山たちのプログラム関係者が次々と実際の事象とは少しずれた記憶を持ち始めていたのだった。この謎はゆくゆくボダイの本来の姿を解き明かす鍵となっていった。様々な統一軍残党からの妨害がありながらもその研究は続いていき、そして自らを覚悟して室馬本人がDOOMの個体接続テストを行った結果によりことは大きく変わったのだった。室馬自身が知る記憶が幾通りにも重なり続け大きな偏頭痛と共に多くの自分自身がそこにいた。不可思議な現象に誰もが困惑する中、室馬はそこに別の世界の自分や雪解、江堂や八神の姿を見つけてしまう。そこにいるはずの無い自分は誰の目にも止まらずただそこに立っていた。室馬は気づき始めていた。ここもまた別のボダイなのか、と。そして彼らにはまた別の人格や別の現実からの人間だということに。そんなことが…あっていいはずがない。憤りと驚愕の出来事に室馬は今自分がいたボダイでの記憶が薄くなりつつあることに気づき必死に抵抗する。そこに映る統一軍との抗争には統一軍を指揮する八神と自分と共に立ち向かう見たこともない人々や雪解たちの姿があった。接続されたその世界はボダイという広く幾通りにも存在する中のひとつの世界だった。科学者…実験…ボダイ…別の世界…万能科学…夢。全てが一つとなり、彼は気づいてしまった。何故…何故。ありとあらゆる人々がそれぞれの世界では実験の最大監視対象とされていたのだ。自分だけではない。別の世界では江堂がその場所にいた。名も知らない別の人がそこにいたこともあった。なんということだ。万能科学とはただ夢の解剖をして未だ解き明かされることのなかった人の持つ深層世界への干渉実験ではなかったのだ。これはその序盤。本来の目的は『人間が見る夢という世界がどこかで起きている平行世界のひとつであること』を権力者たちが長年の実験結果により解明し、それが人の持つ可能性という能力であることを前提として『無限に存在する世界の融合』という壮大なこのシナリオを描いた。これが答えだった。

4・人の成しえなかった、踏み入れることのできなかったこの大きな野望に、室馬醒司はそれを理解した上で本当の世界に還ることに覚悟を決めた。大きな決断だった。だからこそ彼は重なる多くの自分たちの生き抜く力をもう一度背負い、共に戦った仲間のいるボダイへと帰った。帰ってきた彼は自分の左腕が元に戻り、少し髪に銀色の毛がつくようになっていた。彼の姿を見た解放軍は彼が目覚めたことに気づいていただろう。もう時は満ちた。更に己を奮い立たせた室馬はかつて戦いによって亡くなった多くの友や仲間をもう一度取り戻した。そして本当の世界に向かってそのみなぎる全身の光がボダイの終結を呼び、己がこの夢の世界にとらわれることなく旅立つ時が来たことを知った、その瞬間だった。彼に闇のような星々が力強く打ちのめした。室馬醒司は光を失い吐血後、その目を閉じたまま倒れた。誰もが息をのむ中、混沌と深淵の深みに何者かの気配があることを知っていながら誰もが振り返ることができなかった。その愛という力を持つ者を知っていたから。この土壇場でそのシナリオを先読みしたかのように忽然とかの女が現れたからである。誰もが嘘だと信じたかった。だがこのボダイという世界においてそれは通用しなかった。そこには闇の霊気と共にやってきた統一軍の全軍とそこに君臨する雪解沙樹がいた。いよいよこの世界の終結はこの時に鐘を鳴らしたのだった。

5・侵入警報がけたたましく鳴る中、戦闘部隊の前に彼女は立ちすくんでいた。かつての男もその仲間もみんなを助けるとそう彼らに偽って…。彼女がどこからか取り出し差し出したその科学者たちの持つものと同じエンブレムを見た戦闘部隊は彼女に潔く敬礼をした。微笑んだ雪解沙樹の前に科学者たちが追いつく。
「上が待っている。任務はわかっているか?」
「はい、シナリオ通りです。彼らは自らボダイへ入ります。実験に問題はありません」
「君のボダイはこちらでプログラムを終えている。あとはボダイで彼らを全てこちら側へ還すな。君達の能力が現実界で発生した場合、上に君達の脳を干渉浸食され、長年の極秘案は闇夜に消えるだろう」
「はい。全てはDOOMのシナリオ通りへ」
彼女は己をボダイへと導いた。だがどれほど自分を忘れ抜こうと、想いが残り続けていることは誤算であっただろう。彼への愛は本物だったからだ。
万を超えるような大軍が解放軍の陣営のど真ん中にいきなり現れたことは解放軍からして大パニックだった。だが彼らに軽蔑の眼差しをするだけの雪解たちはそのままピクリとも動かない室馬の元へやってきた。立ちふさがる八神や江堂たちを能力でふっ飛ばし、彼女はその場に倒れた動かぬ男に何も語らぬままただ見つめていた。この何千年と続くボダイという世界での時間からしたら、本当に生きて過ごした互いの時間たちはたかだか数年にすぎない。それでもたった一瞬の実験の中であっても、一人一人と過ごしてきた時間は本物だった。誰もがそう感じていた。だから、あの日々には戻りたくなかった。そう願った者たちが統一軍そのものなのだったから。今は戦うべきときではないと悟ったらしい解放軍側の人間はその場で静まり返って事の行く末を見守ることにした。彼の半覚醒状態により崩壊し始めていたボダイは空を紅く染め地を持ち上げてうねりを上げた大地に変貌していた。
声が聞こえた。何もない世界に声が聞こえてきた。室馬はゆっくりと起き上がり、広大な虚無を見つめた。幻想だとしても、それは真実であり、誰にも変えることのできない自分そのものだった。この物語はいつまで続くのだろう。何が終わりを呼び何が始まりになりうるのだろうか。問いかけた。答えはいつもそうやって放っておかれるばかりだ。だが、ボダイは違う。そこにいるのはただの夢でできた人々でない。自分とは別の物語の主人公たち。こうして夢の囚われ人となった、それでも生きようと還ろうと共に決意をしてきた者たち。何者にも変えられない価値を信じてきた者たち。誰も振り返りはしない。雪解がそう語り室馬はそう応える。全てを取り戻したとしてこの世界へ帰る道を我々はもう持つことはできない。だからこそ、この対立は消えることがないのだ。室馬はここまで誰にも言わなかった自らの計画を語る。この世界と現実との扉を開け、どちらからもその扉の鍵を誰もが持つことのできる世界。そうすれば、争うに奪うに実験をさせはできないと。ここで2人は和解し、共に共なる道へ進み、いずれはこの物語を、振り返ることができるならば、その時こそ笑い合えるような世界を作ることを誓った。雪解はたとえ彼への愛が消えぬともそれを承知でまた会う事を室馬と約束した。わかっていた。この世界で生きる限り、彼への想いは消えない。たとえ自分の世界にいた彼でなくとも、たとえ彼に別の世界があり、別の愛する者がいたとしても、だった。だから室馬醒司という男は最後に彼女へ本当の想いを語る。たとえ自分の世界に別の物語があったとしてもここで起こりここで始まる気持ちに偽りはないと。世界が違うから真実も違うとは言い切れない。人はそこまで割り切れる生き物ではない。だから逃げはしないと彼は語る。誰もがもう一度この世界へ来ることも現実で何事もなく暮らせることも、その記憶を思い出しながら生きることも消すことも、自由に選ばせることができる未来を作るために。雪解は語る。自分の持つ本当の記憶と下された使命を。
社会的秩序がまだこの世にあった時代、およそ21世紀の世界に奴らは現れた。誰がその名前を言い出したかは知らない。幻のようで事実上存在する科学組織。ただの研究開発所と称しながらも各諸国にその政治体制を支配してまでも万能科学という名の力を取り込ませた恐ろしき権力者たち。様々な歴史で多くの現代の概念を覆す成功を収めながらおびただしい数の人間を犠牲にしてきた。そう多くの噂などで組織そのものの実態が未だ明らかにならなかった。だが結局は多くの話は迷信だった。彼らの持つ力に人は太刀打ちできなかった。それだけだ。故にいつしか権力がその身に集まるようになっていったのだ。それは科学者たちを自在に動かすだけのことはあった。そうして彼らは目をつけた人たちを動かしてはこの大規模なシナリオを書いたという。そうして雪解はその1人として家族にも売り飛ばされ巨額な資金と引き換えにその命を奴らのものにされたのであった。彼女は姿を誰にも見せない彼らの恐ろしさを知っていた。彼らが何者であるかなど幾分かは検討さえついている。どのような経緯であれ、彼女はそれでも自らの想いを守り抜いてこの世界へ使命の名のもとにやってきたことに変わりはなかった。雪解の語る真実を真摯に受け止め室馬は彼女がもう疑うことのない存在である事を信じた。たとえ彼女が何者かもわからぬ存在の配下に置かれていようとそれでもそこから守るためにこの世界へ踏みとどまらせようとしていたことは真実だった。だから尚一層に室馬醒司は彼女の名前を呼び、共に決意を固めた。室馬は雪解たち統一軍でさえも手を繋ぎ、現実界へ帰る事を決めたのである。いつかどこかで手にした文字が記憶を頼りにその意志を持った。
ふと目を覚ますと、誰もが片時も離れずその場で見守り続けていた。多くの光が体から放出され目覚めと同時に半覚醒状態がおおよその準備を終えようやく本覚醒への移行に入ったのであった。眩かんかぎりの世界変動が起こり、人々はボダイに終焉が来た事を悟ったのであった。統一軍はこの変化にたじろいでいたが雪解の念話によりすべてを知ったのち誰も抗う者はいなかった。浮き上がる室馬の体に1人の女性が抱きついてきた。八神だった。ああそうかと雪解は悟る。この子だってどこかの世界では彼の横にいた女性だったのだろう。そして自分だけではないこともわかっていたが身をもって感じたのだった。必ず俺たちは守るべき者を守り抜いて、新しい世界を切り開こう、そう室馬は彼女へ語りかけた。次に成すべきことはわかっている。ボダイ崩壊後は自分たちの昏睡状態が終わりを迎え、すべての人間が復活するのだ。そうすれば黒幕はおおよその目処をつけて向こうがわからやって来るだろう。その時に全てははっきりする。彼らを終わらせ、俺たちは俺たちが築いた物語を誰もが知ることのできる世を作り直すのだ。こうしてボダイは室馬醒司の本来の覚醒によって約三千年の時の流れを終わらせたのであった。
八神は本当の想いを伝えた。だから室馬に迷いはなかった。いつしかこの戦いを終えて全てが丸く収まったら、恋の続きがしたい、と。だから待っててくれ、と。彼女は涙ながらに頷くことをやめなかった。もう始まったのだ。室馬は思い出していた。別の自分たちがこれまでの記憶を振り返ったように、確かにある自分自身が生きた帰るべき世界での時間を。どうでもいいとさえ思っていた退屈な日々はそれでもやはり恋しかったのだ。その手にはいつかの一枚のカードがあった。
『誰かのためじゃない、君自身の物語がそこにある事を忘れないで』

中編・終

君の文字は時じくに咲いているⅡ Re:build

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  • 小説
  • 短編
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  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-08

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