自然の中で起こりうる、ちなみと言う名の天災。

自然の中で起こりうる、ちなみと言う名の天災。

自然の中で起こりうる、ちなみと言う名の天災。


 不思議なことがある。
 ”天災”とは、「自然界の変動によって受ける災難」。ということだが、どうも僕にはそれが自然界の中で”自然”に起こりうるものとは思えなかったのだ。それはまるで意図して僕を目掛けてくるものと思えて仕方ならなかった。
「天災って言ったって、別に大きな災害がある訳じゃないだろ」
と言う友人もいたが、僕にとってはその純粋な不可思議さのせいで、”天災”という言葉がぴったりと当てはまるように思えた。

 重大なプレゼンがあった日、関東地方を襲った大型の台風のおかげでバッグはびしょ濡れになり、中に入っていたプレゼン資料が濡れた。そのせいで――いや、もしかしたらそのせいではないのかもしれないが――本番で僕の頭は真っ白になり、大したプレゼンが出来なかった。
 四万円もしたお気に入りのハットを買ったのは春前だった。そしてそれを初めて被ったその日に春一番が吹き、僕の被っていた帽子は風にさらわれて、見事に大通りに着陸。一瞬にしてトラックの下敷きになってしまった。(ちなみにその帽子はまだぺちゃんこのままうちに保存されている。表面に付いたタイヤの跡が痛々しい……)
 フットサルに誘われた夏、随分と久しぶりに体を動かせる機会に僕は喜び、二つ返事で参加した。今年一番の猛暑日に僕は熱中症で倒れ、気になっていた女の子とやっとデートの約束を取り付けた日には、地方で災害が出るほどの大雪が全国で降った。

 これを天災と言わずに何と言えるだろう。とにかく僕はそういった運がことごとくない。
 でもこれは昔からそうだった訳ではなく、本当にごく最近から感じ始めたことだ。そう、”ちなみ”と別れてから感じるようになったのだ。
「私のせいだって言いたいの?」
随分と久しぶりにたまたま街でに出くわし、お互いが暇な時間を持て余していたせいで僕たちは昼食を共にした。当たり障りのない会話をなんだか懐かしく思えたのは、きっと僕たちが付き合っていた頃からそういった会話しかなされていなかったからなのだと思う。だから、僕たちはうまくいかなかったのかもしれない。
 そうした話の流れの中で、その天災のことをちなみに伝えた。「君と別れてからなんだ」と。
 そう言うと、彼女はむすっとした顔を僕に向けて、「私のせい?」と言った。だからと言って別に君を責めるつもりはないんだ、そう言いたかったけど、そう伝える前に彼女は席を立ち上がって店から出て行ってしまった。「あなたのそういった考え方が気に食わなかったのよ、ずっと」という置き言葉を残して。

 大して気にしている訳でもないのだけど、やはり少し気がかりな部分もある。これが本当に彼女と別れてから起きている事象なら、僕はきっとちなみと別れるべきではなかったのかもしれない。
 でも、ちなみと別れることになった理由は、やっぱり僕にあったりするのだ。どうすることもできない。僕はただこの天災を”偶然”として受け入れていくしかないのかもしれない。

 ちなみが店を出ていった後も、僕はまだ残っているコーヒーを飲み、持っていた文庫本を読みながら店でだらだらとした時間を過ごしていた。
 しばらくすると、窓には水滴が付き、気づけば大ぶりの雨が降っている。
「今日雨が降るなんて言ってなかったじゃないか」と僕は独り言で、朝見た天気予報に文句を付けた。
 どんよりとした暗い空を見ると、すぐに止みそうにはない。僕はしょうがなく文庫本に視線を戻す。コーヒーの入っていたグラスはもう空だった。

 今日ちなみと会っていなければ、僕はもう既に家に帰っていたんじゃないだろうか。そう考えると、やはりちなみに何かしらの力があるんじゃないかって思わざるを得ない。まあ、いくら考えても仕方のないことだ。
 雨は止む気配がない。僕は今、傘なんか持っていなかった。

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自然の中で起こりうる、ちなみと言う名の天災。

自然の中で起こりうる、ちなみと言う名の天災。

僕はいつも巻き込まれている、彼女の影響下の中で。

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-27

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