Ⅲ アヤタカ 「はじめての授業」

ふさふさ

Ⅲ アヤタカ 「はじめての授業」

はじめての授業

はじめての授業

模擬授業は物体浮遊術の授業であった。
先生は先程のかつらの教師。学生もかなり気まずかった。
「じゃあ…模擬授業を始めたいと思います。」
秘密を暴かれ、弱々しそうな声で話す先生に思わず同情を覚える学生達と、原因である我関せずのフレイヤ。
一方もう片方の原因であるアヤタカは、グループとグループの狭間という辛い席に座っていた。
「えー…私は物体浮遊術を基本とした教授です。種族に得意不得意はあるものの、君達自身も空を飛べるようになる。それが道具を使ってか体ひとつで飛べるのかは君達次第です。ただ、まずは目の前のものを浮かせるように。お手本を見せてあげましょう。」
そう言ってカツラの先生がパチンと指を鳴らす。 するとモビールで吊られていた蝶の標本がひらりと舞いだした。
そして星空が描かれた天井へくるくると弧を描くように旋回し、もう一度パチンと指を鳴らすと模型の天体達がゴトン、と重そうな音を立てて空へ舞い上がった。
それは幻想的な空間で、そこにいた学生達はその魔法に憧れを抱き、感嘆の声を漏らした。
「あぁ〜美しい…ビューリホ〜…」
カツラ先生は自分で自分の魔法に酔いしれ、学生達はその言葉で一瞬我に返った。
しかし掴みはバッチリで、皆これから始まる授業に熱心に取り組もうという姿勢になった。
「さっ、みんな二体で一組になって!交替で模型を操ってみてください。」
アヤタカは眉間に深いしわをよせた。
「ただ、自分だけでできる者はペアにならなくてもいいですよ。」
アヤタカの眉間からしわが去った。
案の定、周りの学生たちは自分を差し置いて隣同士でペアを作り出す。二体一組というシステムは残酷だった。
しかし一体でも良いという言葉はアヤタカに勇気を与えた。ぴっ!とおもむろに指をたてる。
すると、模型置き場から一際重そうなデネブの模型がふわりと浮かび、そのままくるくると上下に回りながらアヤタカの指先へと止まった。
周りからおぉ…!という声が上がり、先生も驚いて拍手をした。
アヤタカは太陽の光から生まれた子供。太陽系の中心である、 太陽の恩恵を受けているアヤタカにとって、重力を操ることは造作もないことだった。
指の上で模型をくるくると回し、得意げにしていたアヤタカに学生達が寄り集まっていった。
「すごいな!」「どうやるの!?」「コツ教えてよ!」
ふん、現金な奴らめと心の中でアヤタカは笑う。 しかし話しかけてもらえて、 彼は嬉しそうだ。犬のように尻尾があったら、千切れそうなほどぶんぶん振っていたと思う。アヤタカは照れながらもぽつぽつ返事をしていった。
すると唐突に、アヤタカの笑顔の前を、ふわふわと模型が横切る。
アヤタカほど見事ではないにしろ、正確な物体浮遊術である。それを学生達が目で追うと、後ろの席に座る操り手が頬杖をつきながら、静かに模型を手繰り寄せていた。
後ろで濃紺のリボンにゆるく結ばれた金色の髪。そして月のような瞳を見て、アヤタカが呟いた。
「月の精霊(ルナ)…。」
そのルナの女の子…見た限りで女の子は、模型の上に小さな手を乗せる。
月と太陽は古来より対の象徴である。夫婦に例えられることもあるのだ。
辺りが各々の練習に打ち込み出す中、アヤタカはルナの女の子に近づいた。ルナの女の子もアヤタカをじっと見ている。アヤタカの緑の目と、彼女の月色に輝く目がそれぞれを見つめ合った。昼と夜に交代で大地を照らし合う仲は、
「これだから自分の力を誇示したくて仕方ない太陽は 高慢で周りから面倒がられてるだけあるわ」
「月なんてこっちの光を反射してる分際で偉そうに できることなんて人を惑わす程度の低級種族が」
仲が悪かった。
太陽と月といえば同じや対に扱われるためライバル心が強く、同族嫌悪で有名だった。太陽はたかだか衛生と地上では同じ扱いを受けているのが気に入らないらしい。月は地上での事実を認めない太陽を、身の程知らずの勘違い種族だと言っている。
太陽と月が夫婦だという伝説も、結局は破綻してそれぞれ顔を合わせないように、昼と夜別々で出てきている、という話で伝説ですら仲違いをしていた。
アヤタカとルナの女の子は授業中なのも忘れて罵り合い、周りの生徒たちはそれを静観していた。ルナの子のネームプレートがちかっと光り、そこには「ラムーン」の文字が彫られていた。
先生は誰も聞いていないことを分かっていながらも、控えめに説明を続けている。
先生の操る蝶のモビールが、悲しそうに一つ落ちた。

Ⅲ アヤタカ 「はじめての授業」

Ⅲ アヤタカ 「はじめての授業」

やあ、ぼくはアヤタカだよ。本当の名前はサイオウだけど、なんだかもうどうでもよくなってきちゃったよ。 今回の話は魔法で物を浮かべる練習をやるんだ! ぼくの見せ場もあるから、ぜひ見てって欲しいな!

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