ひとりよがり

ひとりよがり

ひとりよがり

 「元彼」とか、私はどちらかと言うと、気にしない方だと思う。

 それはもう過去のことだし、結局そのことを考えて辛くなるのなんて自分以外のなにものでもないのだから。

それに彼が今、私の傍にいることに間違いはなくて、彼は私を愛してくれている。だから、”今ある”その気持ちに狂いなんて1ミリもないと思うのだけど、それでもやっぱり私は、なんだか少し、心が痛い……。

 私が悪いんだ。

 昔知った痛手の教訓、「人のケータイを見てはいけない」。それを破った私がよくないことくらい十分に分かってる。

だからそんなつもりなんて全然なかったのに、……うん、本当に全然なかったのに、私の手は彼のケータイに吸い寄せられるように伸びた。気付けばフォトライブラリを開いて、最近の写真から昔の写真へと指は勝手に遡っていく。

 男友達との写真ばかりだった。それはいたって純粋で、バカみたいな写真ばかり。だけど、そんな中に埋もれるように、だけど、その埋もれていることがさも大切であるかのように、前に付き合っていた人との写真がある。

 だから私の指はそこで止まる。じっと見つめるその写真には、今よりも少しだけ若い彼と可愛い女の子がカメラ目線でピースをしていた。二人が抱き合っている写真もあれば、二人がキスをしている写真もあった。

そんな写真は、やっぱり心が穏やかではない。だけど、これは昔のこと。

 冷静になれば、私が勝手に携帯を見ていること自体が間違っているのだから、それを咎められても何も言えない。だけど今は、必死に”これは昔のことなんだから”と自分に言い聞かせるだけで精一杯だった。

ただそう思っていないと、自分の心にヒビが入ってしまうように思えた。

 一度、ケータイを私の視界から離す。

 そうしても、今見たばかりのその写真は私の脳裏にくっきりと焼き付いていて離れない。目を閉じてみても、その瞼の裏側には彼の笑っている顔と、その隣で笑う知らない女性の顔がくっきりと見える。

 ”私が悪いんだ、私が悪いんだ。”

 そう、勝手にケータイを見た私が悪いのだ。それなのに、私の気持ちはみるみる内に落ち込んでいって、気付けば彼への嫉妬心でいっぱいになる。

 ”昔の話、昔の話。”

 そう、それは紛れもなく過去のこと。昔がどうであれ、今目の前にあるそれこそが本当なんだ。今私の彼であるあの人は、私を真っ直ぐに見てくれるし、私が寂しい時に、私を抱きしめてくれる。それは間違いない。

私はその彼の愛情を、もう十分と言う程受け取っているというのに、……どうして、私の気持ちはどんどん沈んでいってしまうのだろう。

 「ごめん、携帯見ちゃった」

私は彼が帰ってくると、早々そのことを伝えた。一瞬彼の顔が曇る。だけどすぐにいつもの顔に戻って

「うん、そうなんだ」

と言った。「別に面白いもんなんてなかっただろ?」と付け足して。

「うん、面白くない」

私は、私が勝手に見たケータイで自爆行為をしたのに、やっぱりまだ気分は沈んだままだった。声の音量は上がらず、それでも、どうしても彼からその昔付き合っていた人の話を聞きたかった。

「なに?なんで元気ないの?」

「ううん」

「いや、あからさまに元気ないよ」

「だって……」

私は、彼からどうやって元カノの話を聞きだそうかと考えていたけど、それがまだまとまってはいなかった。

「なに?どうしたの?」

きっと彼は自分の携帯を見られて嫌に決まっているのに、とても優しい声をかけてくる。でも、今はそれもなんだか鬱陶しく感じられた。

「ごめん、ちょっと……、散歩行ってくる」

「え?散歩?なんで?」

「なんでもないよ……」

「いくら聞いても言わないつもり?その……、なんで元気ないのか?」

「元気なくないよ。……ちょっと疲れただけ」

「じゃあ、散歩なんかしてる場合じゃ……」

「それでもいいの」

彼は私の腕を掴み、結局は二人して外に出た。そして、ゆっくりと夜の道をあてもなしに歩いた。

 私は彼の腕に巻きついて、彼の温もりを密かに感じている。目を瞑ると、まださっき見た写真が瞼の裏に蘇る。忘れたいことほど、忘れられないのはなぜだろう。

そう思っていると、知らぬ間に涙が流れだして

「え、なんで?なんで泣いてるの?」

と彼が言うけど

「……ううん。本当になんでもないの」

と、私は言うだけだった。

 きっといずれ自然に忘れてしまうのだと思う。だけど今は、少しの距離も、彼との間に置いておきたくない。

 私は彼の温もりを感じながら、静かに涙を流すばかりだった。


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ひとりよがり

ひとりよがり

どうでもいい、、なんて嘘。

  • 小説
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更新日
登録日
2015-10-10

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