不思議の国のアリス 第一幕 ウサギの穴
LEWIS CARROLL 作
RANPO 編
本家そのままです。
こういうのを書いて良いのかどうか。ダメだったら誰かが「ダメ」と言うと思うのでとりあえず書いてみます。
ふと気が付いた時からこの作品の大ファンです。なのですが――なにせ難しい。
ので、もっと理解を深める意味もあっての……はて、これはなんて言うのでしょうかね。二次創作?書き写し?
本家の物語通りに進めますが、細かいセリフやこの作品の醍醐味であるところの「言葉遊び」は結構違ってくるかと思います。
本物が読みたい方は是非本物をどうぞ。
第一幕 ウサギの穴
その時、あたしは土手の上でお姉ちゃんの隣に座ってたの。何をしてたかっていうと特に何もしてなくて、お姉ちゃんは本を読んでいたんだけど……挿絵もセリフもないの。だからあたしはとっても退屈してたの。何が面白いのやら。
お花を摘んで冠でも作ろうかなぁとも思ったんだけど、その日はとっても暑くてね。「思う」だけで精一杯。頭がぼぅっとしてきて眠くもなってきちゃったそんな時――ふとあたしの傍を白いウサギが通り過ぎてったの。
ウサギなんて珍しくもないし、そのウサギが「遅刻する!」って呟いたのもまぁ、そんな事もあるかなって思ったの。
でもね、そのウサギがチョッキのポケットから時計を出して「やっぱり遅刻する!」って言った時にはさすがにビックリしちゃったの。だってチョッキを着てて、しかも時計を眺めるウサギなんて見た事なかったんだもの。
せかせか走ってっちゃったウサギをあたしは追いかけたの。原っぱをつっきったら、ちょうどウサギが生垣の下にある巣穴に飛び込むところが見えてね。あたしもそれに続いて飛び込んだの。
巣穴はトンネルみたいになってて、しばらくは真っ直ぐだったんだけど急にトンネルが真下に向いたの。あんまりに急だったから、落ちるかどうか悩む時間もなくってね。気づいたら落っこちてたの。
穴に落っこちたら地面にビターンってなるものだけど、なんでかあたしは落っこち続けたの。よっぽど深い井戸か何かに落っこちたのか、もしかしたらあたしの落ちるのが下手なのかわからなかったけど、次は何が起こるんだろうって思って穴の周りを見回したの。それくらいの余裕があったの。
下は相変わらず何にも見えないから壁を見たんだけど、よく見たら戸棚とか本棚だらけでね。地図とか絵がいっぱいあったから、あたしは棚にあったビンを一個とってみたの。オレンジ・マーマレードって書いてあったんだけど……空っぽでね。なぁんだと思ってそのまま捨てちゃおうとしたんだけど、下にいる人に当たったら悪いから、途中の棚にこっそり戻しておいたの。
「それにしても長いのね。でもまぁいいわ。これだけ落っこちたら、もしも階段から落ちたってあたし何とも思わないもの。」
誰かがいるわけじゃないけど、でもほら、しゃべりたくなる時ってあるもの。だからあたしは一人だったけどおしゃべりしたの。
「帰ったらみんなが褒めてくれるわ。屋根のてっぺんから落っこちたって声一つ上げないんだからね。」
落ちて落ちて落ちてまだまだ落ちて。あたしはずーっと落っこち続けた。
「でもこれ……いつになったら終わるのかしらね。そろそろ地球の真ん中くらいに来ちゃってるわ。えぇっと、半径がだいたい六千キロだから――」
誰も聞いてないから授業で教わった事を披露してもあんまり意味がないんだけど……おさらいって大事よね。
「距離は……うん、そんな感じね。だけどそう、イドとかケイドで言うとどうなのかしら。」
白状すると、イドとかケイドとかよくわかんないんだけど――ちょっとかっこいいでしょ?
「このまま地球を突き抜けちゃうのかしら? 頭を下にして歩いてる人たちの中にあたしが出てきたらきっと面白い事になるわ。でもそうね。やっぱりまずはどこかを聞かなくちゃいけないわ。ねぇ奥様? ここはニュージーランドかしら? それともオーストラリア?」
落っこちながらお辞儀の練習をしたんだけど……あれ、あたしどうやってお辞儀したのかしら。だって落っこちてるのに。
「あ、でもこんなこと聞いたら世間知らずのお嬢さんって思われちゃうかしら。決めた、絶対に聞かない。きっとどこかに書いてあるもの。」
穴の先の事を考えた後も落っこち続けるものだから、あたしはダイナの事を考えたの。え? ダイナはあたしのネコよ。
「今夜はあたしがいないから、ダイナは寂しがるわ。あぁ、お茶の時にダイナにミルクを……誰かあげてくれるかしら。かわいいダイナ……あなたも一緒に落っこちればよかったのに。空中にはネズミはいないけどコウモリはいるもの。ネズミとそっくりだからきっと捕まえられるわ。あ、でもネコってコウモリ食べるのかしら。あー待って待って、コウモリはネコを食べるのかしら? いやだわ、ねぇちょっとダイナ、正直に答えて? あなた、コウモリを食べた事は――」
そこでいきなりスッテンコロリン。あたしは小枝とか枯葉の上にしりもちついたの。
ふぅ。やっとビターンってなったのね。
ケガもなかったし、それにあのウサギが走ってるのが見えたものだから、あたしも急いで追いかけたの。ウサギが曲がり角を曲がる前にギリギリ間に合ってね。「どうするんだ、この遅刻!」って言ってるのが聞こえたんだけど――角を曲がったらウサギがいなくなっちゃってたの。
曲がった先には広い場所があって、低い天井からランプがぶら下がってるの。あっちこっちに扉があったんだけどどれも鍵がかかっててね。こっちからあっちまで全部試したけど全部開かないからガックリしちゃったの。
でも歩いてたら小っちゃい三本脚のガラスのテーブルを見つけて、その上に小っちゃな金色の鍵がのっかってたの。あれはどれかの扉の鍵だわ! って思ったんだけど……鍵穴が大きいのか、やっぱり鍵が小っちゃいのか、全然合わなかったの。だけどね、この鍵じゃダメかしらってまたガックリしそうになった時、さっきは気づかなかったんだけど低いカーテンを見つけたの。その向こうには四十センチくらいの小っちゃい扉があってね。金色の鍵を入れてみたらピッタリだったの。
扉の向こうはネズミの穴くらいの狭い通路だったんだけど、その向こうに見た事もないきれいなお庭が見えたの。あの花壇にあの噴水……こんな暗い所から早く出てあっちでお散歩したいって思ったんだけど、だって扉が小さいんだもの。頭は出られるけど、頭だけ出ても肩が出なくちゃ困っちゃうものね?
「あーあ。望遠鏡みたいに身体が伸びたり縮んだりすればあっちに行けるのに。やり方さえわかれば、あたしにもできると思うんだけど。」
今のままじゃどうしたって扉は通れないから、せめて別の扉の鍵か……それか身体を伸び縮みする方法が書いてある本でもあればいいなぁって暗い部屋に戻ったの。そしたらさっきのテーブルに今度はビンが乗っかってたの。
「あんなの、さっきは絶対なかったわ……あら? ラベルがついてるわね。『私を飲め』? 変わった名前の飲み物。」
飲めと言われたら飲みたくなるけどすぐにはダメね。ちゃんと『毒』って書いてないか調べないといけないの。
誰かから言われた決まり事を守らなかったばっかりにひどい目にあった子供の話、あたしたくさん知ってるもの。やけどしちゃったりけものに食べられちゃったりね。
それに、もしも『毒』って書いてあるの飲んじゃったらきっとひどい目にあうもの。
「うーん……『毒』って書いてはいないわ。とりあえず味見――あら、結構イケるじゃない。まるでチェリー・タルトとカスタードとパイナップルとロースト・ターキーとタフィーと焼きたてのバター・トーストを一緒にしたみたい。」
あんまりに美味しいからすぐに飲み干しちゃってね。そしたら不思議な気分になったの。まるで望遠鏡みたいに身体が縮んでくみたいな感じにね。
そしたらやっぱりそうで、気が付いたらあたしの背は三十センチくらいになってたの。これでさっきお庭に出られるわって思ったけどちょっと心配になってね。
「もしもまだまだ縮んでって、ロウソクみたいに消えちゃったら困るわ。ロウソクが消えた後の火ってどうなるのかしら?」
二、三分待ったけど何も起きなかったから、あたしはさっきの扉に行こうとしたんだけど「あ!」って気づいたの。
あたしったら、金色の鍵をテーブルの上に置いて来ちゃったの。テーブルはガラスでできてるから鍵は見えるんだけど、あたしは縮んでるからテーブルには届かなくてね。脚とかにしがみついて頑張ったんだけど全然ダメだったの。
ヘトヘトになったあたしは座り込んでわんわん泣いたの。そしたらあたしがあたしに言ったの。
「泣いたってどうにもならないわよ!」
あたしはあたしとあたしの役をするのが好きでね。よくお説教して、されもするわ。この前なんかあたしと遊んでる時にあたしがズルをしたからあたしはあたしの耳を引っ張ってやったの。
「! また、あんなのさっきは絶対なかったわ。」
ふとあたしはテーブルの下にガラスの箱が落ちてるのを見つけてね。開けてみたらそこにはケーキが入ってて、上にのってるホシブドウで『私を食べろ』って書いてあるの。
「食べたらどうなるかしら? もしも大きくなったら鍵がとれて、もっと小さくなったら――そうだわ! ドアの下をくぐれるわ! どっちにしたってさっきのお庭に行けるわね。」
とりあえず一口食べて頭とかお腹とかを触ってみたけど何も起きなかったの。
「足りないかしら?」
あたしはせっせとケーキを食べて――あっという間に食べちゃったの。
不思議の国のアリス 第一幕 ウサギの穴
やれやれ。物語はもうあるから簡単かと思いきやそうでもないんですね、これが。
アリスって確か十歳ですけど……こんなしゃべり方する十歳はいますかね。