特急孤独線思い出行き

お腹痛い…

腹痛で目覚めた午前6時。最近、こればっかりだ。
空はとっくに目が覚めており、遮光カーテンの隙間から光がこぼれている。
気だるげに体を起こし、お手洗いへ向かう。部屋にこぼれた光の粒を足がかりにドアまで歩いた。
この時間帯の太陽光は一番輝いている気がする。ドアの向こうでは生ぬるい空気がわたしを待っていた。

夏休みに入って一週間。
部屋から出るのはアルバイトがあるときだけだ。友達と遊ぶとか、ショッピングするとか、外食するとか、大学生らしいことは何一つしていない。
高校生の時の私のほうが活発に行動していた気がする。最も、受験のストレスで休める時はハメを外そう、と強く思っていたからという理由もある。
基本的に、引きこもりがちで他人との接触は極力避ける性格なので仕方ないのかもしれない。
大学で話す友達は一応いるし、それなりに仲良くしていると思う。だが、後一歩を踏み出そうという気にならないのだ。
自分の悩みを打ち明けるだとか、打ち明けるために外に出てショッピングモールに行くだとか。
それは私の中学生、高校生の時にできた友達に報告するだけで十分だった。不特定多数に自分の心層をはぐって見せるものではない、と、思う。
私は県外の大学を受け、見事に合格した。正直、絶対合格はするだろう、と思っていた。
なにせ第三希望で、二次試験に出さえすれば合格したも同然の点数だったからだ。
別に、私の大学の友達を見下しているわけではない。みんなそれぞれ長所と特技があって、私には到底及ばないレベルのものばかりだ。
多分、私も何か秀でた長所と特技を持っているのだろう。本当に取り柄のない人など、実際はごくごく少数だ。そう感じる。

一人暮らしにしては少し広い1Kのアパート。特に女の子らしいとこはなく、シンプルに取り揃えられた家具。本棚から溢れ出ている本たち。自分が好きだから実家から持ってきた世界史の教科書やノート、関連した参考書や小説。収まりきるはずはない。
まだ開ききっていない目をこすり、ベッドに腰掛けた。ぬいぐるみが多く置かれたベッドで寝ると、多少は寂しさが紛れる気がする。
充電中の携帯を手に取り、友達から送られてきたメッセージを流し読んでまた元に戻した。まだ、返信しようという気分ではない。
ベッドに寝転び、ドレープカーテンをひらひらと開けたり閉めたりした。中のカーテンレースがつられてひらひらと左右する。
弄ぶたびに室内に入ってくる太陽光は痛いくらい眩しくて、つい顔をしかめてしまった。
全く焼けていない白い肌が、太陽の光で白すぎる白色になっている。ただ、美しい白さだと、自分で思ってしまった。生を感じさせない。
何分ぐらい、そうして無意味にひらひらと弄んでいただろう。よいしょ、と、やはり気だるそうに起き上がり、カーテンを開けた。部屋に今日が入ってくる。さようなら、昨日。
あの感情も思いも、感じたことも行動も、昨日という過去の箱の中。私の中に、また一つ箱が増えた。


冷蔵庫をあけて、飲むヨーグルトをコップに注いだ。便秘を治そうという、涙ぐましい努力の一つだ。
一向に治らないけれど。戸棚からスナックパンを取り出し、オーブンレンジに入れた。
表面がカリカリになるまで焼くと中から取り出し、コップとスナックパンを持って机に置いた。
パソコンを開き電源を入れる。慣れた手つきでパスワードを入れた後、立ち上がったデスクトップに散らかるアイコンから、ミュージックを選びクリックする。音楽をかけ、息を吐いた。朝にやることの一つだ。
なんというか、現代っ子。
パンと飲むヨーグルトを食すと、コップを台所へ置き、洗濯機へ向かった。洗濯機を回し、その間に部屋に掃除機をかけた。
ゴミ出しはまだしばらく良いだろう。来週の帰省までに片せば十分だ。狭い部屋の一人暮らしでは一時間もあれば、掃除や洗濯は優に終わる。

かかっている音楽を口ずさみながら洗面所に向かう。顔を洗い、歯磨きをした。これが朝の流れ。
毎日しなければ気がすまない。決められたことをしなければ落ち着かないのだ
クッションを抱いて机の前に座った。そろそろ給料日なので、今月の給料計算と携帯につけている家計簿をかかなければならない。
平均的な大学生と比べれば、バイトに入っている時間も多いし、給料も多くもらっていると思う。
特にお金に困っているわけではないし、旅行に行くとか、服を買うとか、そういう目標があるわけではない。
ただ、部屋から出てなにかしていなければ、誰かわからない誰かに咎められている気がするのだ。
クズのくせに、バイトもせず部屋で一日ゴロゴロ過ごすのか、と。

私の腹の底に沈んでいるこの黒く流動的な塊は何年も何年もわたしを苦しめる。捨てることはできない。
財布を開き、レシートを取り出した。思いのほか多くあったレシートの机に広げ、携帯のアプリを開いた。
一つ一つ入力していき、残高と収支確認する。今月は残高が多く、貯金額も多い。主婦か、と一人でほくそ笑んだ。
入力し終わり、伸びをした。肩がバキバキと鳴る。慢性的な肩こりで、常時肩も気持ちも重い。

立ち上がり、コーヒーを注ぎに行った。

特急孤独線思い出行き

特急孤独線思い出行き

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-11

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