手を伸ばせばいつか
私、思うの。
幼い私に呟いた。
現実は、妄執に勝てないって。
思い出を反芻する
何気ないあの日の一コマを掘り起こしては、目の前で再現する。
あの日の一コマは再生され、擦り切れ、少しノイズが入りだしている。
他のコマは擦り切れてしまった。
彼らの笑顔に砂嵐がかかりはじめ、再生するのをやめた。
手を伸ばせば触れることができそうな距離で繰り返し再生する。
ノイズは容赦なくカラーをモノクロに、細かい画素は荒くなっていく。
待って。
まだ。
焼き付け直せてないの。
涙声の私に、幼い私は嘲笑する。
何を、言っているの。
もとからちゃんと焼き付けてないくせに。
昔からそう。
人の価値を軽んじて、別れてから尊ぶ。
あの時の、あの人の、あの表情と、あの言葉。
彼の、彼女の、先生の、弟の、母の、父の、友人の、あなたの。
今になって意味を理解しても遅いのよ。
言葉にも気持ちにも賞味期限があるのよ。思い出にも賞味期限があるの。
重要度は関係ないわ、懐かしさも関係ないわ。
あなたの、その、自己中心的な後悔が、賞味期限切れの、黒くなった、ノイズ混じりの思い出を反芻させているのよ。
砂嵐を払い除けて、何度見つめても意味はないわ。
自己嫌悪という自己陶酔で前に進めないかわいそうな子。
目を閉じて。
初めから。
あなたには何もなかったのよ。
母と離れてあなたは無防備なまま手探りで彷徨ってきた。
何かを手に入れることはできた?いつ手探りが終わるの?
周りを見て。
靴を履いて、髪を梳いて、はっきりと歩いているわ。
アリスは子供だから許されるの。
あなたはもう、夢見る子供じゃない年齢になってしまった。
幼い私は容赦ない。
吐き気がする。
もうやめて。
私は、私を、ガキと言い放ち去っていった。
また、再生を始めよう。
妄執にしがみつくことしかできなのだから。
手を伸ばせばいつか
反芻されすぎて、美化された思い出は自分を苦しめると思います。