緑のリンゴ

太陽が沈む時

ああ、ほら。
1日が終わる。
みて、部屋が暗くなる。
夕日なんて想像すると赤い光しか思いつかないけれど、私の部屋は赤い光の届かない東の窓で、私はただ暗くなっていく部屋の中、終わりを感じる。
ああ、なんだろう。
こんな言葉しか出てこない。心が枯れてしまったようで、脳の中がいらないものでいっぱいだ。
頭も心も体も水の入った袋で出来ているようで、重くて重くてそして冷たい。
私の声は喉まで出かかっている。
何が言いたいのかは口が開かないのでわからない。
きっと、きっとみっともないことしか出てこないさ。
こんな今の私からは。
喉がつっかえてさながら泣くのを堪えている様子。
もしかしたらそれが正解かもしれない。
私は泣くのを、この暗い部屋で堪えているのかも。
そんなことさえも不確かで、私はただ、重く沈む体と向き合っている。

ラインがなった。びくりと体が震える。
暗い気持ちの中あまりにも場違い。静かな世界の中困り果てるほどの音量。
あの人だ。
また夜に誘われるのだ。
断るのは面倒だ。
誘われるままに行くともっともっと面倒なのを知っている。
私は音が止むのを耐える。
なんて面倒な世界。
なんて嫌な私。
嘘ばかりだ全部。
本当なんて何もない。
でもそれは、私が作った世界だ。
知り合えばいい人かもしれないとか、知らないうちから突き放すのはどうかとか。ちょっとしたプラス思考のいい子ちゃんが顔を出すけど。
私はそんな気持ちになれない。
悪い人間でいいので、私の中への立ち入りを制限したいのだ。
誰もいらない自分でいたい。
もうしばらく何も欲しくない。
だめかしら?
・・・だめかしら?
今はどんな言葉もいらない。
どんな人間も欲しくない。
無理して笑う自分も、本当は嫌いなので、どうにかしたくて、そして眠るんだ。
どうにもならないから。
偽者の自分から逃げるんだ。
本物がどこにいるのかは私だってわからないから。
ずっとずっと逃げている。
青いリンゴが頭をよぎった。爽やかな香りみずみずしくて美しい。くだらない散文に鼻をくすぐる甘い香りがした。
蜜が通っていて綺麗だ、美味しいであろう。
本物の私がこんなに素敵な存在だったらどんなにいいだろうか。
そっと考えた。
口の中でリンゴの香りとシャリリとした感覚と甘い汁を感じる。
もっと味わおう想像の中で。
青いリンゴは本物の私がよこした空想の果実なのだと、なぜか思った。
少し見えた気がした、小さくて弱い純粋なそして少し可愛そうな女の子。
探してはだめだと言われる気がしたので、私はそっとリンゴの想像に戻った。
リンゴの艶やかな皮が弾ける音も聞こえる。
歯ざわりが心地よい。
私は嘘が好きだ。作り笑いも得意だし、自分の笑う声はたとえ嘘であっても上手なので、本人も本当に楽しくなってしまう。
だからだから嘘をついて、それを本当にして、ちょっとずつちょっとずつ自分を作り出していく。
それでいいのだと、そう思った。

空想のリンゴは甘く、そしてどこまでも私を魅了した。

緑のリンゴ

緑のリンゴ

夕方の気持ち。 リンゴ食べたい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-08

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