消えた清水能舞台(A探偵団5)

あらすじ

(シナリオ)再び変面から挑戦の手紙が来た。「水無月の長刀鉾に誘われて流れ去り行く清水能舞台」と書いてあった。まさか、あの清水が盗まれるのか?
いつ?どうやって?A探偵団と府警の刑事が密かに動く。

国際オークション

○梅雨時の京都
   鴨川

○同、嵐山

○シネマ村、正面

○同、内、屋敷町
   雨が降っている。
   待機中の撮影隊。
   原田を除く5人がパイプ椅子に座っている。

木村「いやな雨」
高田「ほんまやねえ。これからうっとうしい日が続くわア」
   亜紀と亮太、遊んでいる。

   原田が現れる。手に新聞を持っている。
原田「山本先輩、これ」
   皆、覗き込む。

○新聞の紙面
   金閣の写真。
   「カタールの国際オークションにおいて、特別出品『金張りの
    日本寺院』がアラブの国王より100億ドルで落札!!」

   驚くみんなの顔。

○京都府警本部、正面

○同、本部長室、内
   山本本部長と出羽、亀山がいる。
   本部長、新聞をかざしながら、

本部長「これは間違いなく盗まれた国宝だ」
出羽と亀山「どうもすいません」
本部長「謝ってもらってもしょうがない。大事な事は変面一味に大金が
 転がり込んでくると言うことだ。連中はもっと大胆に挑戦してくるぞ」

   出羽と亀山、顔を見合わせる。

航空母艦

○海
   航空母艦が浮んでいる。

○同
   航空母艦の近影。

○同、会議室、内
   司令官と変面が対面している。
   変面、テーブルに札束を積みあげていく。
   司令官、首を横に振る。

   変面、さらに札束を積み上げる。
   司令官、首を横に振る。
   変面、バッグを逆さにする。
   司令官、にっこり笑って握手する。

○艦の側面
   長いはしごで下りる変面一味。
   下にぼろいはしけが見える。

○ぼろいはしけの上
   立って手を振る変面。

○海
   航空母艦が水平線に消えていく。
   潜水艦の潜望鏡が見えている。

挑戦状

○タイトル
   「映画村探偵団ー消えた清水能舞台」

○タイトルバック
   京都嵐山の全景。

○映画村、内
   待機中の撮影隊と俳優達。
助監督「雨が止みました。撮影に入ります」
   皆、あわただしく動き始める。

○撮影所、17スタジオ脇
   6人がいる。
   後ろをスタッフが通る。
スタッフ「お疲れ様でした」
6人「おつかれさまでした!」

木村「あら、原田さん、これ?」
   原田の腰に手紙がはさまっている。
原田「あれ、いつのまに?」

高田「スパイがいるんやわ、この撮影所の中に」
   皆の不審な顔。

○フラッシュ
   監督、役者、スタッフの顔が次々と浮ぶ。

○もとのスタジオ脇
   6人がいる。
山本「誰かさっぱりわからん」
原田「全然気づかへん。プロや」
木村「プロと言えばアクションチーム」

山本「それはないだろう」
高田「剣戟会かなあ?」
原田「殺陣はやっても忍者はヤレン」

高田「そやなあ」
亜紀「それよりも」
太一「手紙の中身!」

原田「そや」
   原田、ゆっくりと手紙をめくる。

○手紙の文字
   「水無月の長刀鉾に誘われて
    流れ去り行く清水能舞台」
   

雨の参道

○京都府警本部、正面

○同、本部長室、内
   山本本部長がデスクに座って手紙を読んでいる。

本部長「『水無月の長刀鉾に誘われて流れ去り行く
 清水能舞台』か。水無月と言えば6月。長刀鉾は7月だ。
 清水寺が梅雨の終わりに消えてなくなると言うのか?」

   ノックの音。
   出羽と亀山が入ってくる。
出羽と亀山「失礼します!」

本部長「よし、ごくろうさま!」
   本部長、立ち上がる。

○清水道
   雨が降っている。
   出羽と亀山、傘をさして歩いている。
   清水にいたるかなりきつい坂。

   両側に土産品店が続く。
   かなりの観光客がいる。
出羽「きつい坂やなあ」

亀山「大雨の時には五条通まで川のようです」
出羽「大雨か。何で水無月と言うのやろな?」
亀山「・・・・・」

出羽「神無月と言うのは11月に神様が皆出雲に
 集まるから他は神がおらんようになるからやろ?」

亀山「出雲と言えば大昔の大神殿がちょうど清水の
 能舞台のような大木で造られていて、日本海には
 埋没した大神殿があるそうですよ」

出羽「埋没か・・・それはないやろう」

不老の滝

○清水寺、能舞台
   出羽と亀山、あちこちを見て周っている。
亀山「すごいですね」
出羽「すごいな。・・埋没はないやろう?」

亀山「そうですね。埋没はありませんね」
   二人、欄干から市内を見渡す。

○不老の滝
   観光客に混じって出羽と亀山がいる。
出羽「これを飲むと長生きをするらしい」
亀山「願いがかなうとか何とか。
 地下水ですかね、この水?」

出羽「そうや、地下水や。京都盆地の地下には琵琶湖
 と同じくらいの地下水脈が流れているそうや」
亀山「そうですか。ちょっと掘ればすぐ水?」

出羽「そうや」
亀山「きよみず?」
   二人、不審げに顔を見合す。

逢坂の関

○161バイパス
   皇子山付近。
   6人が乗っているワゴン車が見える。

○車内
   原田が運転している。
   琵琶湖が見えてくる。
皆「わあ、きれい!おおきい!」

山本「これは琵琶湖のほんの一部だ」
木村「勢田川から宇治に流れているのよね」
高田「そやそや」

山本「そのほんの一部が疎水として南禅寺へ
 トンネルを通って流れている」
高田「ああ、あの蹴上(けあげ)の疎水がそうなんやね」

山本「それまでは舟を琵琶湖まで上げとった」
木村「だから、けあげ?」
高田「そうや。その時の舟が残ってる」

原田「琵琶湖の水は五条通を通らんと、なんで
 宇治のほうを流れとるんやろ?」
山本「えらい、原田!それで疎水のトンネルやらを掘らはった
 んや、何とかいう人が。その人と同じくらいえらい!」

原田「答えになってへんですよ、先輩」
山本「比叡山や大文字山、音羽山は大昔同じ一つの山やったらしい。
 何回かの噴火で逢坂の関あたりが隆起して琵琶湖の元をせき止めて
 しもた。それ以降勢田川のほうに、そっちのほうが標高が低いから
 全部流れるようになったということらしい」

原田「ところが地下水は大量に京都盆地へ流れている」
山本「そういうことだ」
   皆、うなづく。
   車、トンネルに入る。

○大津、疎水の流入口
   疎水流入口にかかる橋の脇。
   6人のワゴンが止まる。
木村「割と小さいのね」

山本「ところがこの下に数倍の地下水があるとすれば」
木村「そうか」
   皆、流入口を覗いている。

山本「さあ行くぞ!この疎水の後を追って」
皆「はーい」
   皆、車に乗り込む。

○逢坂の関
   石碑が見える。
   6人の乗ったワゴンが来る。
   ワゴンが止まる。

木村「ここが逢坂の関?」
高田「そう、知るも知らぬも逢坂の関」
山本「この下を疎水のトンネルが流れている」

   皆、うなづく。
太一「トンネルが流れるん?」
亜紀「トンネルは流れへんやろ?」

原田「さあ、次へ行くぞ」
   皆、車に乗り込む。

浄水場

○五条バイパス
   ワゴン、五条バイパスから旧道へ入る。

○山科駅前
   ワゴン、旧道山科駅前の信号で止まる。

○車内
   ワゴン、信号で止まる。
山本「この山すそに沿って南禅寺まで」
木村「まっすぐ行けば清水寺じゃないの?」
高田「ほんまや。まっすぐ行けば清水や」
   車、動き出す。

○日ノ岡
   ワゴン、旧道を御陵から日ノ岡へ。

○車内
   日ノ岡の坂を上るワゴン。
山本「この峠の下に疎水のトンネルがある。清水の
 裏山に大きな浄水場があって、その手前から
 南禅寺で疎水は地上に出てくる」

高田「ここが浄水場。五月のつつじで有名な所や」
山本「さあ、清水へ行ってみよう」
原田「ここんとこずっと工事中や、ここら辺」

山本「京阪が地下にもぐったからや」
   皆、うなづく。

○道路
   工事中の標示と点滅ライトが続く。

○マンホール
   工事中の柵の向こうにマンホールが見える。
   マンホールのふたが動いて、
   忍者が出てくる。

清水の坂

○清水坂
   たくさんの土産品店が続いている。
   観光客に混じって6人が歩いている。
木村「いっぱいやねえ」

高田「ひさしぶりやわあ。京都におってもほとんど行かへん」
亜紀「ああしんど」
太一「もっとゆっくり歩こう」

原田「結構きつい坂や」
山本「大雨の時は店のシャッターが下りて鉄砲水のように
 一気に水が五条まで下るそうや」

原田「すごいな、そのまま鴨川へか。昔はよう氾濫しとった」
山本「そうや。鴨川もしょっちゅう氾濫しとった」
原田「今でも目一杯の鴨川、見たことあるで」

高田「鴨川て、結構あふれそうになるんよ」
   皆、うなづく。

○清水、能舞台
   観光客に混じって6人がいる。
木村「すごいわー」
高田「わあ、きれいやわあ」

原田「これが流れる?」
山本「地下水が関を破って寺ごと押し流すってか?」
原田「膨大な地下水をせき止めれば、ま、まさかとは思うが、
 やれんことはないか」

   皆、あちこち眺めてから集まる。
山本「それじゃ、男達は裏山へ。君たちは不老の滝
 付近を探ってくれ」
   皆、うなづく。

一枚岩

○山林
   山本、原田、太一が雑木林の中にいる。
山本「ここらへんが清水の真裏あたりだ」
   太一、何かを見つける。

太一「なにこれ?」
   原田と山本が駆け寄る。
   直径15cm高さ2m程の筒がある。
   ちょっと目には木の幹に見えて分からない。

山本「これはひょっとしたら?太一覗いてみろ」
   原田、太一を肩車する。
太一「ただの空洞です」

山本「これが日ノ岡までの間にいくつかあるはずだ。
 空気孔だ。出入り口もどこかにきっとある」
   太一、先のほうを歩いている。

原田「日ノ岡の方角は?」
山本「太一の方角だ」
太一「又あったよ」

山本「そうか分かった。出入り口は日ノ岡の工事現場だ」
原田「一直線にトンネルが掘られている」
山本「そうだ。まちがいない。一旦戻ろう」
   原田と太一、うなづく。

○不老の滝
   不老の滝の水のみ場に木村と高田がいる。
木村「この水のみ場の石とあの2枚の石以外にこの印は見つからないわ」
高田「なんやろ、あのマーク?あれ、亜紀ちゃんは?」
   亜紀、向こうで手を振っている。

○同、一枚岩
   不老の滝の頭上はるかに大きな一枚岩がある。
   その中央に苔むして分かりにくいが羽根マークがある。
   木村、高田、亜紀が見上げている。

高田「あった、あそこ」
木村「とにかく一旦戻りましょう」
   高田と亜紀、うなづく。

○清水、能舞台下
   6人が集まっている。
   地図を広げている。

山本「能舞台、不老の滝の一枚岩、空気口。これらは
 一直線に日ノ岡に向かっている」

   向こうから出羽と亀山が来る。
   6人、隠れる。
   出羽と亀山、能舞台を見上げながら、

亀山「この能舞台が流れ去るなんて事は」
出羽「それはないやろう」
   6人、声を押し殺して笑う。

トンネル

○道路、日ノ岡。夜
   雨が降っている。
   ワゴン車が近づきとまる。
   山本、原田太一が忍者姿で下りてくる。

○土手、夜
   土手の堤にトラックが止まっている。
   道路からは見えていない。
   3人の後ろすがた。

○トンネル入り口、外、夜
   トラックの荷台はすっぽりとトンネルに入っている。
   奥は暗くてよく見えない。
   3人、トラックの脇からトンネル内に入る。

○トンネル内
   3人奥へそろりと歩む。
   人影が出てくる。
   3人、身を隠す。
   人影、土をトラックの荷台に放り投げるとすぐ又奥へ戻る。
   トラックの荷台に土が盛り上がっている。
   3人、更に奥へ入る。

○同、坑道
   等間隔にランタンがつるされている。
   バケツリレーのように土が奥から運び出されている。
   皆で掛け声をかけながらリズミカルに作業が続いている。
掛け声「エッサーホイサーエッサーホイサーエッサーホイサー」

○同、坑道
   3人がゆっくりと忍び歩いていても誰も気付かない。
   ゆっくりと前進する3人。
   槌を手渡す一味たち。
一味「エッサーホイサーエッサーホイサーエッサーホイサー」

○同、坑道
   奥に行くほど広くなっている。
   下り坂である。

○同、突き当たり
   突き当たりに大きな岩盤がある。
   一味の何人かがドリルで岩盤に穴を開けている。
   何人かが上下左右を彫り広げている。
一味「エッサーホイサーエッサーホイサーエッサーホイサー」

○同、岩陰
   かなり広い空洞。
   3人の姿が岩陰に見える。
山本「わかった」
   原だと太一、山本を見つめる。
山本「わかったぞ!皆、大急ぎで退却」
   皆、大急ぎで退却する。

○ワゴンの中、夜
   忍者姿の3人がいる。
   ワゴン、雨の中を走る。
原田「で、何が分かったんだ?」

山本「よく聞けよ。まちがいない。一味は疎水が
 浄水場と分かれる手前からトンネルを掘って、
 流れを一気に清水方面へ向ける」

原田「なるほど」
   太一、目を輝かせ聞き入っている。


   

大岩

○シネマ村、オープンセット脇
   6人がいる。
木村「どうやって流れを変えるの?」
山本「それは分からん」

高田「何で岩に穴あけとるん?」
山本「それなんだが。坑道は奥に行くほど
 ずいぶんと広くなっている。もっと広げるつもりだ」

原田「で?」
山本「貯水場にするつもりだと思う」
木村「思いっきりたまったところで」

亜紀と太一「バーン!」
高田「ああ、びっくりした」
原田「貯水場が決壊する」

山本「そうだ」
木村「大量の水が一気に溢れ出し、清水の能舞台を
 水圧で押し壊し、清水坂を五条通へ流れ下る」

亜紀と太一「バーン!」
山本「そのとおり」
高田「相当の水が要るのとちゃう?」

山本「相当の水がめと水が要る」
木村「大雨洪水警報が出たとき」
原田「それは梅雨の終わりや、7月の中旬」

亜紀「祇園祭」
太一「長刀鉾」
山本「水無月の長刀鉾に誘われて、というのは?」

原田「7月祇園祭の後、大雨洪水警報が出たときや」
   6人、おおきくうなづく。

高田「ひょっとしてその水がめのふたてあの大きな岩とちゃう?」
   皆、高田の顔を見る。

○清水、不老の滝、大岩
   6人が大岩を見上げている。
   6人、顔を見合わせて、
6人「まちがいない!」
   そこに住職が通りかかる。

高田「ちょっとすみません」
住職「はい、なんでしょうか?」
高田「あの大きな岩の上のほうに鳥の羽根の
 ような形が見えますが、あれは?」

住職「よう気がつきなさったな。あれはこの清水を守る
 鉾の形、長刀鉾じゃよ」
   6人顔を見合わせ、
6人「えーッ!」

○ワゴン車
   ワゴン車、三条東山を右折。

○ワゴン車内
   6人がいる。
山本「まちがいない。変面はその水量を計算して貯水池を広げ
 岩盤に穴を開けてタイミングよく岩が崩れるように調整している」

原田「後はどうやって流れの方向を変えるかだな?」
木村「それは日ノ岡ね」
高田「うまいこと流れを変えんと自分も流されてまう」

山本「そのとおり。一番のポイントはそれだ」
   ワゴン車、蹴上の坂をあがる。

トンネル貯水池

○京都府警本部、正面

○同、本部長室
   山本本部長が電話をしている。
本部長「そうはいうてもなあ。それだけじゃあ府警は動けん。
 とにかく出羽と亀山に調査させるから、その結果次第だ」

   本部長、電話を切って窓の外を眺めながら、
本部長「まさかだとは思うがやりかねん。人的被害さえ出なければいいのだが」
   本部長、電話をとる。
本部長「出羽と亀山を呼んでくれ」

○日ノ岡
   出羽、亀山、堤の辺りを調べている。
亀山「別に変わった事はありませんねえ」
   二人、土手のトラックの所に来る。

   二人、トラックの脇からトンネルの中に入ろうとする。
   が、狭くては入れない。

出羽「潰れて入れん」
亀山「別に変わった事はありませんねえ」
   二人、諦めて通り過ぎる。

○同、山林
   雑木林の中に空気口がある。
   木々に隠れて見えにくい。
   時々ふたが開く。
   ふたには変面の絵が描いてある。

   出羽と亀山が歩いてくる。
   木々に混じっていくつかの空気口がある。
   時々ふたが開いてはしまっている。

   二人が見上げるとしまっている。
   二人が歩き始めるとふたが開く。
   全く気付かずに進む二人。

亀山「別に変わった事はありませんねえ」
出羽「・・・・」
亀山「清水寺が消失するなんて」

出羽「それはないやろうとは思うが・・・・・」
   二人去る後姿。

○日ノ岡
   疎水が流れている。
   6人がいる。
   疎水の先はトンネルである。

山本「ここから南禅寺の裏までがトンネルだ」
木村「結構京都より標高が高そうね?」

山本「そう、鴨川と琵琶湖までは百数十メートルの標高差
 だから、ここらへんが約半分。まだまだ京都より高い」
高田「という事は、トンネルは下ってるんやわ」

原田「一瞬にしてその流れを変えるには?」
木村「疎水の下にトンネルを」
山本「そうか、なだらかなトンネルでいいわけだ」

原田「底が抜けて南禅寺と蹴上の浄水場へいく水が
 全部清水の裏にたまる」
高田「どのくらいで岩が崩れるのやろ?」

山本「わからん。この間見た限りでは数分で貯水スペース
 は満杯だ。しかもあの程度では岩は崩れない」
原田「岩盤に穴を開けていたのは?」

木村「ダイナマイト?」
山本「そうか、そうかもしれん」

岩盤

高田「あれ?亜紀ちゃんと太一君は?」
   そこへ二人が現れる。
原田「どこへ行ってた?」

亜紀「大きな穴が」
太一「前よりものすごく大きくなってる」
亜紀「反対側にも」

山本「一味は?」
亜紀と太一「今日はお休みみたい」
山本「よし、行って見よう!」

   6人、うなづく。
太一「あ、それにもうひとつ」
原田「何だ?」

亜紀「あ、そうそう、あれ!」
   太一と亜紀、山林を指差す。
   木々にまみれて空気口が見える。

山本「あ、空気口か。なるほど」
木村「じゃあ、あななた達、向こうからトンネルに入って。
 私達ここで合図をするから」

原田「それはいい」
山本「よし、じゃ分かれよう!」
   山本、原田、太一行く。

○土手の堤
   トラックが洞に埋まっている。
   山本、原田、太一が来る。
原田「あれ、荷台の脇まで埋まっている。
 どうやって入ったんだ、太一?」

   太一、笑みトラックの下にもぐりこむ。
山本と原田「なるほど」
   二人、腹ばいになる。

○トンネル、内
   真っ暗である。
   3人の声だけが聞こえる。
原田「真っ暗じゃないか。どうやって分かったんだ?広いのが」

   そこでぱっとライトがつく。
   太一が大きな懐中電灯を持っている。
山本と原田「おおー!」
   ライト、奥を照らす。
原田「これは広い!」
山本「確かにあちら側にもトンネルがある」
   ライト、あっち側のトンネルを照らす。

○坑道
   3人、ライトの中をゆっくりと歩む。
   立って歩けるほど広い。
   突き当たりで左に曲がっている。

原田「ずいぶん大きいトンネルやなあ」
山本「シッ。耳を澄ましてみ。音が聞こえる」
太一「あっちだ」
   あっちでカチンカチンと音が聞こえる。

太一「空気口です」
山本「彼女達だ」
原田「叩いてみよう」

   原田、近くの石を拾い管を叩く。
   トントンと返事の音がある。

○別の坑道
   忍者がいる。
   音に気づく。

○もとの坑道
   3人がいる。
原田「よし。大急ぎで奥を確かめよう」
山本「その前に歩数をよく確かめておこう」
   山本、歩数を数えながら歩み、壁に突き当たる。

山本「ここは岩盤ではない」
原田「ちょうど10歩。空気口からちょうど10歩だ」
山本「ふむ。岩盤を大急ぎで確認しよう」
   3人、うなづく。

○別の坑道
   忍者、忍び足で歩み始める。

○もとの坑道
   かなり広い坑道を3人が歩む。
山本「これは広い、前よりはずいぶん広い」
原田「ゆったりとした下り坂」
   3人下っていく。

○別の坑道
   忍者が警戒しながらゆっくりと歩んでいる。
   忍者、3人と出くわす。
   忍者、逃げようとする。

   原田、頭突きを食らわす。
   近くで縄を拾ってきて忍者を縛る3人。
山本「急いで岩盤を確かめよう」
   3人、うなづく。

○岩盤の部屋
   突き当たり、大きな岩盤。
   3人、驚き見上げながら、
山本「これはすごい!」

太一「ここにずっと穴が」
原田「ダイナマイトの穴?」

山本「という事は。疎水の底が抜けて水がこちらに流れ
 たまる。目一杯たまって岩が崩れる。これだけ広ければ、
 間違いなく清水の能舞台は壊れる」

   3人、じっと岩盤を見上げる。

矢文

○日ノ岡、疎水
   疎水の入り口。
   木村、高田、亜紀、お弁当を食べている。
   そこに山本、原田、太一があらわれる。

亜紀「どうだった?」
太一「すげえ、大洞窟!」
木村「そんなに大きいの?」

   原田、空気口を見つめている。
山本「前より数倍堀広げられている。ほぼ完成だ。
 後は爆破の仕掛けだけだ」

原田「ちょうど10歩ぐらいだ。こっち向きの穴は、
 この疎水の真下に来ている」 
高田「もう間違いないね。そんでいつやの?
 爆破の時て?」

   皆が固唾を飲んで山本を見つめる。
山本「まず祇園祭がすんで梅雨明け時の集中豪雨の日」
木村「ここの疎水も増水してすごいやろね」

原田「それで爆破はいつ?」
山本「南禅寺の水が止まった時」
高田「それやったら分かるわ」
   皆、うなづく。

○変面の里、全景

○広場
   10周年記念の垂れ幕。
   変面一味が祝宴をしている。
   全員ジョッキを持っている。
   あいさつに立つ変面。

変面「というわけで全てはこれからだ以上!へんめーん!」
全員「へんめーん!」
   全員、乾杯をする。

○清水寺、本堂
   住職と出羽、亀山が話している。
   住職、手に手紙を持っている。
住職「こんなのが来とりました」

   出羽、手紙を手にして広げる。
文字『水無月の長刀鉾に誘われて流れ去り行く清水能舞台』

出羽「いつのことです?」
住職「けさ、枕もとの柱に矢文が」

出羽「矢文?」
住職「ええ、かぶら矢というのでしょうか?ヒューと大きな
 音がして、悪い夢を見てたもので飛び上がりました」

亀山、白手袋をして経机の上にある矢を取り上げる。
亀山「これですか?」
   亀山、矢をかざして羽根に変面のマークを見つける。

出羽「まちがいない。やつらは本気だ」
亀山「祇園祭が終わったら厳重警戒ですね」
出羽「本部長にこれを見せてお願いしてみよう」

住職「よろしくお願いいたします。能舞台が流失する
 なんて事は絶対にないとは思いまするが」
亀山「しかし、金閣寺や渡月橋のことがありますから」

出羽「そうや、油断はでけん」
   3人、うなづく。

○フラッシュ、祇園祭、宵山の風景

○フラッシュ、山鉾巡行の風景

○フラッシュ、雨に咲くアジサイ

大雨洪水警報

○シネマ村、オープンセット脇
   大雨である。
   待機中の木村、高田、亜紀、太一。
高田「よく降る雨やねえ」

木村「そろそろ警報が出るわよ」
   山本と原田が加わる。
原田「さっき大雨洪水警報が出た」

木村「ほんと?」
高田「いよいよやね」
山本「今回京都府警は全然動かんらしい」

原田「この雨の中危険やもんな」
山本「今回は非常に危険。だから我々も
 安全な場所で見守ろう」

高田「そやけど南禅寺の疎水が止まる所見届けたい」
原田「そやな」
山本「どっかいい場所探してみるか?」
皆「賛成!」
   皆、笑む。

○京都府警本部、正面
   大雨である。

○同、本部長室、内
   本部長と出羽、亀山がいる。
本部長「・・というわけで南禅寺の疎水が止まったら
 すぐに知らせてくれ」

出羽と亀山「は、かしこまりました」
   二人、敬礼して去る。

濁流

○疎水土手、下流
   大雨である。
   出羽と亀山が雨合羽を来て歩いてくる。
出羽「すごい水量やな。これが無くなるんかいな?水無月」

亀山「こんな警報が出てる時に。誰もいませんよ」
出羽「そんなこと分かってるワイ」
亀山「こんな所にあれ?だれか、テント?物好きがいますよ」

出羽「なに?」
   出羽、不審げにテントを見つめる。
出羽「消防団だろう?」

亀山「そうみたいですね。そんならこの辺で」
出羽「そやな。交替で休憩しよう。下に自販機あったやろ?」
亀山「行ってきて下さい。ここで見張ってます」

出羽「ふむ。水無月とはこのことか?」
   出羽、下流へ戻る。

○疏水土手、遠景
   雨の中上流と中流にテントが見える。
   疏水、すごい水量である。
   上流に忍者達が現れテントに入る。

   太一が知らせに行く。
   出羽が交替に来る。

   疏水の水が止まる。
   出羽と亀山、驚き携帯をかける。

   中流のテントから6人が出てきて驚く。
   ほどなく疏水に水が戻り始める。

○疏水土手中流
   雨。
   出羽と亀山が携帯中である。
   出羽、驚きの顔で、
出羽「ええっ!清水寺が!?」

○清水寺、能舞台、裏手
   大雨。
   大きな岩盤の周りから水があふれてくる。
   ボンと音がして岩盤がゆっくりと倒れてくる。

○同、正面
   大量の水があふれ出て、あっというまに
   清水の舞台を呑み込み、清水坂を流れ下る。

○清水商店街
   大雨。シャッターの閉まった商店街。
   突然濁流が押し寄せる。
   大量の材木が流れ下る。

○フラッシュ
   五条通から鴨川へと流れ下る濁流と材木。

タンカー

○海
   大きなタンカーが見える。

○タンカー
   変面のマークが見える。
   前半分に木材の山。
   後ろ半分で能舞台を再建中。

○同、操舵室
   変面と一味がいる。
変面「出発!面舵一杯!」
全員「おーっ!」
   全員右手を上げる。

○海
   大きなタンカーの後姿。

                  -完-

消えた清水能舞台(A探偵団5)

消えた清水能舞台(A探偵団5)

(シナリオ)再び変面から挑戦の手紙が来た。「水無月の長刀鉾に誘われて流れ去り行く清水能舞台」と書いてあった。まさか、あの清水が盗まれるのか? いつ?どうやって?A探偵団と府警の刑事が密かに動く。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-20

Copyrighted
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  1. あらすじ
  2. 国際オークション
  3. 航空母艦
  4. 挑戦状
  5. 雨の参道
  6. 不老の滝
  7. 逢坂の関
  8. 浄水場
  9. 清水の坂
  10. 一枚岩
  11. トンネル
  12. 大岩
  13. トンネル貯水池
  14. 岩盤
  15. 矢文
  16. 大雨洪水警報
  17. 濁流
  18. タンカー