石林(シーリン)三国志

あらすじ

高2の田村瞳はもうすぐ修学旅行だ。中国の雲南省の石林(シーリン)に行く。そこには世界最大のカストロ洞窟があって、仲間たちと瞳は三国志の時代にタイムスリップしてしまう。不思議な石を求めて瞳たちの旅は続く、三国志の名場面と共に・・・!

もうすぐ修学旅行

田村瞳たちのクラスはもうすぐ修学旅行だ。
大阪からフェリーで上海に上陸して雲南省
を周遊してくる中国の旅だ。

『何でアメリカじゃないんだろう?』
そう思いながら瞳は旅行の説明を聞いていた。

担任の諸星先生は今年結婚したばかりの
眉の太いちょっとイケメンの歴史の先生だ。

「雲南省の省都昆明から南のところにある大カストロ
地形、石の林と書いてシーリンと読む。OK?」

『松林、竹林、梅林、中林、平林、小林・・・?
でも石林はないよな。シーリン、かっこいいかも』

「数千万年かけて形成された巨大な石柱が見渡す限り
林立している。秋吉台の比ではない。その下には幾万
もの鍾乳洞が存在している。絶対に迷い込まないように」

『シーリンの洞窟かあ。なんかおもしろそう・・ZZZZ』
瞳はうとうとと眠くなってきていた。

うとうと

瞳のクラスは体育会系と文科系、
それと中間ナンパ系とに分かれていて、
いずれにも属さない5人がいた。

ニヒルな筑紫龍之介、関西弁の浅野匠。
パソコンオタクの六角一、それに
夢想壁の瞳としっかりものの友人坂の上愛。

この5人はどのグループからもはみ出して、
いつしか吹き溜まりのように集まった。

校長、教頭、教務主任はそれぞれ
劉備、孫権、曹操タイプで、教職員は
全てどれかの派閥に属していた。

その日家に帰ると瞳の母が、
「修学旅行の準備は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。石を見に行くだけだから」

瞳は2階に駆け上がる。部屋で着替えて
机に座ると母が、ご飯までまだ時間があるからと
チーズケーキとホットミルクを持ってきた。

置時計のねじを巻いてミルクを飲む。
「アツッ!」やけどしそう、そう思って
いるうちにうとうとと眠くなってきた。

ゆめ

チクタクチクタクの音。
これは夢だと思いつつうとうと
として目が覚めた。

「なにこれ?どこ?」
体が重い。よく見ると
瞳は鎧に兜をかぶっていた。

手には長刀槍を持っている。
誰かが床についている。
周りを数人の鎧武者が取り囲んでいる。

床の人が死に掛けているみたいだ。
そっと武人の股下から覗いてみる。
眉の太いやつれた将軍が死に掛けている。

周りの武人達は耐え切れずに泣き始めた。
薄目を開けた将軍は最後の力を振り絞って
右手を動かした。

「誰かこの石を」
そうつぶやいて床の端から右手のひらを開いた。
甲の下から青い石がすっと床に落ちる。

誰も気付かず、皆号泣している。
股下から這い進んだ瞳がその石を
さっと拾いうけた。そこで目が覚めた。

『え、うそ?右手に何かを握り締めている感じ。
まちがいない、あの石だわ』
そっと開けてみると、あの青く輝く石だった。

紫雲洞

石はどこに行っても瞳についてきた。
ところがこの石は瞳以外には見えないのだ。

仲間も誰も信じてはくれない。
修学旅行にも結局その石はついてきた。

石林(シーリン)だ。想像以上のスケールだ。
ここは太古の昔海の底だった。えーっ?

この大宇宙、何が起こるかわからない。
大カストロ大地石林の下には同規模の

大地下鍾乳洞がある。千人入る大空洞や
滝や温泉や天空が見える大竪穴や

未知の鍾乳洞が五万とある。ガイドなしで
この鍾乳洞に迷い込めば大変なことになる。

最大級の紫雲洞の入り口で仙人のような
不思議な老人のガイドに瞳は呼び止められた。

「今日はここに泊まるのかな?」
「ええ、石林賓館に泊まります」
「青い石の謎を知りたければ、夜8時に
正面玄関にいなさい」
「あ、はい。8時に」

そのまま列に押されて瞳は洞窟の中へ・・・。

ハイテク馬車

瞳は不安になって皆に相談した。

龍「皆で行こうよ」
匠「とにかくチャレンジしよう」
一「しかしここは謎の多いところだ」
愛「でも、とにかく」
瞳「チャレンジするか?」

5人で8時に正面玄関に立った。
ドアが開いて、あっ馬車が!という間に、
5人は馬車に乗せられていた。

御者はあの不思議な老人だった。
老「ははは、心配するでない」
愛「でも、消灯時間までに帰れるかしら?」

老「ははは、青い石があるから全く心配はいらん。見よ!」
ナビゲーターの画面に石林賓館が映る。
彼らの部屋にズームすると、なんと5人とも

すやすやと眠っているではないか。
他のものはまだわいわいと騒いでいるのに。
一「すごい。ハイテク馬車だ!」

取り付き石

老「ははは、青い石のパワーじゃよ。どうも
  その石に取り付かれて困っておるようじゃな?」
瞳「ほんと困ります。お風呂の中まで付いて来るんですよ」

老「じゃろうな。その石は紺碧金剛といわれておる取り付き石じゃ。
  元の持ち主に返さない限り死ぬまであなたの元を離れない」
瞳「ええっ!死ぬまで離れないんですか?」

老「そう、死ぬ時にその石は離れて又誰かに取り付く。しかし
   すごいパワーを秘めておるのじゃぞ」
瞳「私、パワーはいらないから早く返したい!」

老「分かった。わしもその持ち主が誰か分からんから一緒に
  捜すしかないな。前の持ち主の死の直前まで遡るか」
龍「遡る?」

匠「時空を超えて?」
一「超ハイテク馬車や」

ワープ

老「その石は三国志時代のものじゃ。
 いざ、魏呉蜀の時代へ!」

   ウイーンと音を立てて馬車はワープする。

老「できるだけ遡ってゆっくりと時代を下ろう。
 後漢の終わり今から1800年前の頃じゃ。
 日本では卑弥呼の時代かの?」

   軍馬のいななきが聞こえ軍勢が見えてきた。

老「国は乱れ黄巾の乱の鎮圧のために多くの義勇軍が立ち上がった。
 さらに首都洛陽を焼き払い歴代皇帝の墓を暴いた逆賊、董卓と呂布
 を討つべしとの曹操の檄文に各地から群雄が終結した。

 袁紹、袁術。曹操、典偉、夏候敦。孫堅、孫策、孫権。劉備、関羽、
 張飛。ふーむ、三国志のメインキャストが勢ぞろいじゃ。
 この中の誰かじゃろうて?前の持ち主は。もうしばらく
 時代を下ってみよう」

   水浸しの城が見えてくる。

かひ城

老「董卓を暗殺した大逆賊呂布はその破壊力も最大級なのじゃ。
 間羽、張飛でも全く歯がたたんほどじゃった。

 曹操と劉備の連合軍は水攻めでついにかひ城を陥落、呂布を
 生け捕りにするんじゃ。当時このような豪傑はなんとか

 味方につけて取り込もうとするのじゃが、劉備の一言で
 その場ですぐに処刑されたのじゃ。ひょっとしたらこの場かも?」

ウィーンと馬車は下降してかひ城が見えてきた。
いつのまにか5人は鎧と兜に身を固めている。

縄で縛られた呂府を取り囲んで曹操と劉備、脇に片目の夏候敦。
弁慶のような典偉。さらに関羽と張飛がいる。

曹操「こやつの戦闘能力はやはり捨てがたい。
 赤兎馬に乗れば何倍ものものぞ」

劉備「しかしながら曹操殿、こやつを部下として使った者の末路を
 よもやお忘れではありますまいな?」

曹操「そうじゃなこやつは皆、今までの主君を裏切ってきよった。
 よし、直ちに処刑せよ!」

呂布の首に巻かれた縄が数人の手によって
ぎりぎりと絞り上げられた。

呂布処刑の場

瞳「キャーッ!」
 その一瞬ワープして馬車は天空に舞い上がった。

匠「怖かったなあ」
愛「私目をつぶってて耳も塞いでいたわ」
一「いやー、すごい迫力。感激!」

龍「仙人、これは危険じゃないのか?」

老「いやいや冷や汗をかいた。超極限の現場では絶対に声を出して
 はならんのじゃ。これを言うのを忘れておった。それと死の瞬間に
 ワープして天空に戻るということも知っておいてくれ。その間に
 青い玉の持ち主を探してその一瞬に玉を戻すしか手はないのじゃ」

龍「しかしかひ城での呂布の処刑の場は瞳が夢で見た
 武将の死の床とはだいぶイメージが違うな」

瞳「そう、この呂布という人は青い石の持ち主じゃないわ」

老「わかった。それではもう少し時代を下ってみよう。
 その後中原を制した曹操は華北の雄袁紹と
 対立することになるのじゃ」

官渡の戦い

老「華北の雄袁紹が10万の大軍を率いて中原へ侵攻して来た。
  曹操軍はわずかに3万。曹操軍はゲリラ戦法によって
  こまめに袁紹軍を打ち破り、最後はわずか5千騎で

  兵站の拠点を壊滅させて袁紹軍を撃破している。2年後
  袁紹は病死するがどうもその場にはこの石は見当たらない。
  さらに少し時代を下がってみよう。」

老「その頃劉備は曹操軍とは敵対していて曹操軍の後方を撹乱していた。
  官渡の戦いで袁紹軍が敗退すると、劉備は作戦を中止して
  南方の親戚劉表の元に走る」

長坂の戦い

劉表は北の曹操の肥大化と東の孫権の興隆によって、
防備を固めるべくベテランの劉備を受け入れて、
要衝の新野城の防備を任せる。が、劉表の病死と共に

跡目争いがおき、これは好機とばかり曹操の大軍15万
が南下してきた。跡目は軟弱な弟の劉宋に決まり、
抗戦派の長男劉埼は下野した。この時劉備は

全くの蚊帳の外、気付いた時はもう劉埼が曹操に降伏を
決めた後だった。劉備側からすれば劉宋の裏切りもいいところだ。
孔明が進言をする。
「いま劉宋を討てば刑州は奪えます」

長坂橋

しかし信義に厚い劉備は大恩ある劉表の子を
攻めることなどできはしない。
放って置けば挟み撃ちだ。

三十六計逃げることに決定した。
ところがここでとんでもない誤算が起こる。
劉備を慕う旧臣や住民が大量に合流してきたのだ。

その数数十万荷駄数千両とも言う。
曹操の本隊並みの人数だ。老人と子供の合流で
撤退はすこぶる遅々として進まない。

対して曹操は精鋭5千の騎馬で追撃してくる。
「人民を見捨てるわけには行かない!」
劉備は頑として駆け抜けを拒否した。

しかしついに長坂で曹操は追いついた。
民を蹴散らし突撃してきた。
阿鼻叫喚の悲鳴が上がる。

近づいてくる抜刀した軍馬の響きと雄たけび。
さすがの劉備も数10騎で掛け逃げる。
妻子とも離れ離れになってしまう。

この時張飛は長坂橋の上に仁王立ちになって叫んだ。
「我こそは張飛なり!命の惜しくない奴は
かかってこい!」

敗走

この隙に趙雲は敵陣にただ一騎で引き返し、
劉備の妻子を救出した。

こうして劉備は曹操の追撃を振り切り
劉埼や関羽と合流して揚子江の要衝
夏口にいたるのである。

この戦いの間にも瞳の出くわした
ような場面は見当たらんのう」

「夏口で軍を立て直すも劉備軍は2万。
曹操軍は30万にも膨れ上がっていた。

これではとてもかなわない。残された道は
唯一つ孫権と共闘するしかない。

劉備の陣中には孫権の重臣魯粛が来ていた。
劉備と孔明は大義を熱く語り、

いかに強国たりともなりふりかまわぬ曹操を
討つべしと魯粛を説得して
同盟成立へと動く」

赤壁1

孫権は連合政権であり曹操とは恭順する方向が大勢だった。
ここに徹底抗戦を唱える名将周瑜を魯粛は説得した。

周瑜は呉軍随一の戦略家にして芸術や学問もある
美男子の最高司令官だった。

曹操はすでに数千隻にもなる大水軍を作り上げ、
長江上流の要衝江陵に集結を完了し、
宣戦布告状を孫権に送りつけてきた。

青目で赤毛の大男孫権は戦闘を好まない。
諸将と共に一時講和の方向でまとまりかけた。

その時大声で叫んだ一人の将軍、
「曹操恐るるに足らず!」
名将周瑜は諸将の前で大演説を放った。

「曹操の軍は水郷の戦いには不慣れだ。
雨もよく降るし食い物も口に合わない。

今や病がはやり体力は消耗し船酔いで
戦力は間違いなく低下している。

併合された刑州軍はもともと我らの味方だ。
5万の精鋭があれば絶対勝てる!」

孫権の顔色はみるみる変った。
周瑜は続ける。

「劉備の2万に我が直属の水軍3万を加うれば
総勢5万。全て精鋭中の精鋭である。

あとはいらん。残り10万は首都を防備せよ。
以上、いかが!」

孫権と諸将は防備の側と聞いて安堵した。
美男子最高司令官の大迫力に
孫権と諸将は声を合わせて、

「よし、戦おう!」
と劉備との同盟を決定した。

赤壁2

季節は冬。時折起こる南風が勝負だと
周瑜と孔明は一致した。

効果を挙げるべく二人は策を練った。
まず船酔い対策として舟を鎖で固定する。

スパイを使ってこのことを進言させた。
つぎに周瑜の部下の黄蓋を兵の面前で鞭打ちし

屈辱を与える。その情報が曹操に伝わるようにした。
黄蓋から曹操軍に投降の密使が行く。
後は時を待つばかり。

そしてついに北風が南風に変ったその日の夜、
暗闇の中を黄蓋は数隻の軍船を率いて
静かに曹操軍に投降してきた。

しかし中身は油まみれの枯れ草だ。
直前で一斉に火が放たれる。
そのまま曹操軍の船団にぶち当たる。

次から次へとぶち当たる。鎖につながれた
曹操の数千隻の軍船に風を得た猛火が燃え移る。
さらにあおられて陸地の陣地まで燃え移る。

大混乱の中で主力の5万が攻め寄せる。
ついに30万の大軍団は一夜にして壊滅した。

曹操は命からがら江陵に逃げ延びる。
何度も周瑜劉備連合軍は江陵を攻めるが、

流れ矢に当たって周瑜は負傷、瀕死の床
に着き36歳の若さで死んでしまった。

周瑜の兜の中央には今も大きな
ブルーサファイアが埋め込まれている」

瞳「この石じゃないよね?」
竜「この石じゃないよ」
愛「女の人はその場所にはいなかったの?」
老「絶世の美人の妻がその場に倒れ臥した」
一「当時の鎧兜剣には宝石が埋め込まれていた」
老「武人達は皆そのパワーを信じておったのじゃ」

定軍山の戦い

その後曹操は江陵に1年以上も立てこもり、
少しずつ力を回復して、北部に勢力を維持していた。

その間劉備は四川を制圧して、ここに三分の計は達せられた。
曹操は西の漢中で劉備と、東の合肥で孫権と、
何度も小競り合いの緊張が続いていた。

このはざまを縫って漢中に五斗米道という宗教国家建設集団が
力を拡大し、漢中を実効支配するようになってしまった。

劉備と孫権が領土分割でもめている時、
曹操は大軍を率いて漢中に入った。

漢中の五斗米道を制圧した曹操は夏候淵を残して
中原へ撤退した。孫権が揚州の合肥をまたまた攻撃してきたのだ。
この時を好機とばかり劉備は出陣する。

夏候淵は不落の要塞陽平関に立てこもり、諸将を渓谷沿いや
山上に配して迎え討つ。

対陣1年、劉備は成都の孔明を呼び寄せて作戦を
南の定軍山に変更する。

夏候淵もその作戦に気づき、要塞を出て二手に別れ、
一隊を率いて劉備の本陣へ突入しようとした。
夏候淵の得意の戦法だ。

だがしかしその手はベテランの老将黄忠に読まれていた。
伏兵黄忠の怒涛の攻撃によって夏候淵は討ち死。
軍勢は総崩れとなり関中は劉備のものとなった。

黄忠は60歳を過ぎた老将ではあったが、戦士としては
最強で、夏候淵を見事一騎打ちで倒している。
しかしこの場もちょっと死の床というイメージではないのう」

瞳「夢で見た場面とは程遠いわ」
老「三国志とはいうてもわずか40年ほどの間の出来事じゃ。
 もう少し時を下ってみよう。必ずやその場面に出くわすはずじゃ

項羽

荊州をめぐって劉備と孫権は和睦し荊州を二分する。
その要衝江陵に漢羽が配置された。

司馬懿の進言を受け入れて曹操は孫権と密約を交わした。
関羽が動けば孫権がその後方をつき挟み撃ちにしようとするものだ。

劉備の養子孟達が漢中東部へ侵攻して来た。
ここぞとばかり関羽は北上しようとする。

孫権軍司令官の呂蒙は病気で後方に退いていた。
後任の若い陸遜は関羽にへつらう手紙を出していた。

関羽は後顧の憂いなく、江陵にはわずかの
守備を残して北へ出撃した。

しかしこれが罠だった。長雨でいらだっていた関羽、
呂蒙は密かに水軍を江陵にさしむけ、

守備隊をそそのかして江陵を制圧してしまう。
関羽は孤立無援、撤退を決意するが、もう逃げ場はなかった。

ついに関羽は息子の関平とともに捕らえられ処刑された。

老「ふうむ。壮絶な関羽父子の最後じゃったが。
 この場もそれらしくないのう」
瞳「ちょっとちがいます」

白帝城1

関羽が死んで2ヵ月後曹操は病死する。
翌年曹丕が跡目をついで魏を建国する。

その翌年劉備は蜀を建国する。
いよいよ関羽の復讐戦。

その矢先張飛は部下に暗殺されてしまう。
孔明趙雲の説得虚しく、

劉備は10万の大軍で江陵めざして進軍を開始した。
この時趙雲は後方支援、孔明は劉備の息子
劉禅を補佐して成都にあった。

孫権はまさか?と思った。二人が争えば
魏を利するだけだとは自明の理。

彼には義兄弟の契りとはどんなものか理解できない。
孫権憎しと劉備は夷陵へと進軍する。

孫権はおおあわて、なりふりかまわず魏と講和して
全兵力で守備を固める。

最高司令官は陸遜。ここに両軍は対峙して持久戦に入る。
遠征軍には不利である。しかも大軍同士である。

陸遜はのらりくらりと決戦を避け、腰抜け!という
蜀軍の挑発にも乗らない。

味方からも弱腰とののしられながらも軟弱な態度をとり続け、
半年後、敵が油断したところを奇襲した。関羽の時と同じ策略だ。

陸遜は山中を迂回して焼き討ちの奇襲に出た。
蜀軍は浮き足立ち陸遜は総攻撃を開始して劉備軍は壊滅。
劉備は三峡の白帝城に撤退した。

白帝城2

白帝城で劉備は臨終の床に着く。

「孔明、後はよろしく頼む。
息子よ、孔明の意見によくしたがって、
漢王朝を中原に再興してくれ」

「父上、よくわかりました。孔明の指示に従い、
必ず漢王朝を中原に再興いたします」

劉禅は諸将の前で父に誓った。
「疲れた。わしは一眠りする。皆下がってよい」

皆がさがりかけたところで孔明を呼び止め劉備は、
最後に枕元でこう言った。

「趙雲とお前の言うことをよく聞いておくべきだった。
将も民も今や疲労困憊している。魏と呉が争っている
今こそ、防備を固め富国に専念してから後、
兵を建て直し余の天命を固めてくれ」

「わかっております。魏と呉の今の戦いぶりからして
全くの互角です。必ずや双方とも疲れ果て、
しばらくは戦どころではありますまい」

「三国鼎立し互いに国力を高める時か?」
「さようでございます」
「孔明、お前の言う三分の計がここに完成したな」

白帝城3

「いえいえ最後の戦は天命を成し遂げること。
まさに中原に漢帝国の再興を成し遂げること。
必ずやこの孔明、劉禅帝をお護りし帝の天命を
まっとういたしまする」

「ふむ」

劉備の瞳から一滴の涙が伝う。

「最後に孔明、馬謖(ばしょく)には気をつけよ。
お前は愛弟子として後継者に育てようとしておるようじゃが、
軍略にはいくら長けておろうともたたき上げの苦労人から見れば
危険じゃ。重要任務にはしばらくつけるべからず。
魏延もしかり。姜維王平をたててよく意見を聞くべし」

ここで劉備は事切れる。
「劉備殿!」
再び将軍達が駆けつける。

老「ふむふむ、劉備の臨終場面じゃ」
瞳「よく似ている感じだけど」
匠「兜に石がはめ込んである」
竜「ルビーのような赤い石だ」
愛「悲しい場面だわ」
一「わっ!」

諸将のまたぐらから皆が覗く。
床に伏した劉備の枕元に劉禅がいる。

「父上、父上ー!」
まだ幼い劉禅は周りをはばかることなく泣き叫ぶ。
趙雲が長坂の戦いで曹操の陣中を一騎で突破して
助けた劉備の子だ。

劉備の握り締めたこぶしがすっと開いたが、
何もそこから床には落ちなかった。

馬謖

蜀漢2代目皇帝が即位した。
劉備の遺言どうりに孔明は全力で富国策を行う。

まず憎き孫権と同盟を結び南部の異民族の平定に専念した。
鉄や馬などの豊富な資源を得て5年間、兵力強化を図り
ついに天命達成の時を迎える。

「臣亭申。先帝業を創めていまだ半ばならざるに、
中道にして崩御せらる。今天下三分にして益州
疲弊せり。是誠に危急存亡の時なり。云々」

孔明は20万の大軍を率いて漢中にはいった。

この時魏の指揮官司馬懿は即座に、
寝返りそうな最前線の将軍孟達を
先制攻撃して孔明の出鼻をくじいた。

ここで孔明は作戦を変更し一番西方の
侵攻ルートを選ぶ。
先鋒は愛弟子馬謖。

馬謖の任務は要衝街亭を制圧して
魏の軍勢を撃退することだった。

が、しかし魏の先陣は用兵わずか数千。
馬謖はこれを殲滅せんと功を焦って、

孔明の命に背き副官王兵の言うのも聞かず、
主力を山上に布陣した。

魏の用兵軍はその布陣を見てしめたと思った。
すぐに山麓を包囲して水を断つ。

馬謖軍は苦し紛れに突撃して
粉砕されてしまう。

馬謖はかろうじて王平に助け出されるが、
この敗戦によって孔明は作戦を中止、
撤退を余儀なくされた。

泣いて馬謖を切る。
孔明は馬謖の処刑に踏み切った。

天命

天命は達成されねばならぬ。
孔明は2次3次と北伐を繰り返すが、

どうしても兵站が続かず、
撤退を余儀なくされてしまう。

何を焦る孔明よ!
孔明はついに病に倒れる。
自らの寿命を感じていたのだ。

成都静養中、宿敵仲達(司馬懿)が
40万の大軍で攻めてきた。

病を押して孔明は立ち向かう。
幸い長雨のため魏軍は撤退。

体調を整えて翌年孔明は、
第4時北伐を開始する。

兵站は万全のはずだったが、
またもや長雨の持久戦となり
又も撤退するしかなかった。

4度の撤退、健康状態は益々思わしくない。
次が最後ぞ、もう負けられない。

3年かけて兵站、侵攻ルートを整備し、
国力の充実を図った。

呉が合肥で軍事行動を起こすと、
孔明は最後の力を振り絞って
全軍に叫んだ。

「第5時北伐、決行!」

五丈原

この第5次北伐は焦りのためか
今までの西ルートではなく
最短の東ルートを取った。

魏軍も直ちに対陣する。
孔明先鋒魏延の部隊が渡河に失敗、
南岸の五丈原に布陣したまま持久戦になった。

合肥で孫権が撤退。
魏はさらに兵力を増強してくる。
対陣はついに100日を越えた。

孔明は最悪の体調で陣中に臥す。
その命は風前の灯。

『天命、漢帝国の再興を中原の地に。
劉備との契りを果たさねばならぬ』

諸将を集め最後の力を振り絞って
孔明は叫んだ。

「わが天命の石(意思)を誰か、
必ず果たしてくれ!」

瞳「この場面だわ!」
老「急ぎ、その意思を彼の枕元へ」

瞳、諸将のまたぐらをくぐりぬけて、
孔明の枕元へ出る。

武人達は耐え切れずに泣きはじめた。
臨終の間際、孔明の右手が動く。

「だれかにこのいしを・・・・」
かすかにそうつぶやいた時、
瞳は手の石を孔明の手のひらに忍ばせた。

青い石がすっと落ちて消滅した。

さよなら石林

朝の起床で5人は同時に目を覚ました。
全く同じ夢を見ていた。

瞳「あらっ?石がない!」
竜「あれは何だったんだろう?」
匠「そうそう、この玄関から馬車に乗って」

一「空を飛んで三国志の戦乱の世にワープした」
愛「何かすごく怖かったわ」
瞳「仙人は?」
一「そう、仙人がいたよな」

集合の合図がなる。
バスが来て皆乗り込んだ。

大石林(シーリン)よさようなら。
昆明へ帰る道、紫雲洞への右折標示が見えた。
昆明へはここからまっすぐだ。

大きな絵看板がある、その下に、あの仙人が
うなづきながら立っていた。

「あれあの人?」
「仙人?」
「そう仙人」
「手を振ってる」
「笑ってるよ」
「何か不思議」

バスは遠ざかる。

     xxx

チクタクチクタク、大きな時計の音。
チーズケーキの匂い。
ミルクの香り。

目を開けてミルクを飲む。
「あーおいしい」
下から母の声!

「瞳!ごはんよー!」

          -完-

石林(シーリン)三国志

石林(シーリン)三国志

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-19

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. あらすじ
  2. もうすぐ修学旅行
  3. うとうと
  4. ゆめ
  5. 紫雲洞
  6. ハイテク馬車
  7. 取り付き石
  8. ワープ
  9. かひ城
  10. 呂布処刑の場
  11. 官渡の戦い
  12. 長坂の戦い
  13. 長坂橋
  14. 敗走
  15. 赤壁1
  16. 赤壁2
  17. 定軍山の戦い
  18. 項羽
  19. 白帝城1
  20. 白帝城2
  21. 白帝城3
  22. 馬謖
  23. 天命
  24. 五丈原
  25. さよなら石林